説明

動力伝達制御装置

【課題】エンジンとモータとの間に設けられたクラッチ機構の発熱による耐久性の低下を抑制することができる動力伝達制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関と、該内燃機関の出力側の部材に連結された電動機と、前記内燃機関と前記電動機との間に配置され、前記内燃機関と前記電動機とを連結もしくは遮断することができるように構成されたクラッチ機構と、そのクラッチ機構と電動機との間に設けられた変速機とを備えた動力伝達制御装置において、クラッチ機構の温度が高い場合(ステップS11)に、内燃機関の動力により変速機の出力軸を駆動させるときに選択される変速比に変速機の変速比を定めた状態(ステップS14)で、クラッチ機構を遮断して、そのクラッチ機構を電動機によって駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関と電動機とを備えた動力伝達制御装置に関し、特に、その内燃機関と電動機との間に摩擦係合部材が設けられた動力伝達制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の動力源としてガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関(以下、単にエンジンと記す。)とモータやモータ・ジェネレータなどの電動機(以下、単にモータと記す。)とを利用した、いわゆるハイブリッド車両が知られている。このハイブリッド車両に搭載された電動機は、エンジンを最適な燃費で運転させるために利用されている。すなわち、車両に要求される駆動力を出力するためにエンジンを最適な燃費で運転させて、そのエンジンの出力の不足分をモータで補って出力するように構成されている。つまり、モータは、トルクアシストモータとして機能するように構成されている。また、車両に要求される駆動力が小さい場合などには、エンジンを停止してモータのみの動力で走行するように構成されている。具体的には、エンジンとモータとを連結する状態と遮断する状態とを選択的に切り替えることができるクラッチ機構を設け、モータのみの動力で駆動する場合には、エンジンを停止するとともに、クラッチ機構によってエンジンとモータとを遮断して走行するように構成されている。これは、モータのみの動力で駆動する場合には、エンジンの連れ回りによる動力損失を低下させるためである。
【0003】
特許文献1には、上述したように構成されたハイブリッド車両において、車両走行開始時もしくはモータのみの動力によって走行している状態からエンジンとモータとの動力によって走行する状態に変更する場合、すなわち、エンジンの運転開始時に、エンジンとモータとをクラッチ機構によって連結して、クランクシャフトを回転させてからエンジンを運転させ始めるように構成された装置が記載されている。また、特許文献1に記載された装置は、そのクラッチ機構によってエンジンとモータとを連結する場合に、エンジンの連れ回りによる負荷によって駆動力が低下してショックが生じることを抑制するために、モータの出力トルクを増大させるように構成されている。
【0004】
上記のように構成されたクラッチ機構は、摩擦係合して動力を伝達するように構成されているので、動力を伝達する駆動側の回転軸と、その動力が伝達されて駆動する従動側の回転軸との回転数に差があると、滑りが生じて発熱してしまう。そのため、特許文献2には、エンジンとモータと変速機とを直列に配置し、エンジンとモータとの間に第1クラッチを設け、モータと変速機との間に第2クラッチを設けた動力伝達装置において、第2クラッチの発熱負荷が大きい場合に、第2クラッチを連結側に移動させてスリップ量を低減させることにより、第2クラッチの過剰な温度上昇を抑制するように構成された装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−241330号公報
【特許文献2】特開2010−144851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載されたように、車両の動力源として利用するモータを、従来、エンジンの始動時に利用していたスタータモータに代替して利用することによって、エンジンを始動させることができる。一方、車両の動力源として利用されるモータをスタータモータとして機能させるためには、エンジンとモータとの間にクラッチ機構を設けることとなり、そのため、エンジンの始動時には、エンジン側の回転軸の回転数とモータ側の回転軸の回転数とに差があるために、摩擦熱が生じてしまいクラッチ機構の摩耗量が増大して耐久性が低下してしまう可能性がある。
【0007】
また、そのクラッチ機構をエンジンと変速機との間もしくは変速機とモータとの間に設けた場合には、変速比を変更する場合には、クラッチ機構を解放して変速するため、特許文献2に記載されたようにクラッチ機構の締結量を変更してスリップ量を減少したとしても、少なからずスリップしてしまうので、スリップによる発熱によってクラッチ機構の摩耗量が増大して耐久性が低下してしまう可能性がある。
【0008】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、エンジンとモータとの間に設けられたクラッチ機構の発熱による耐久性の低下を抑制することができる動力伝達制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、内燃機関と、該内燃機関の出力側の部材に連結された電動機と、前記内燃機関と前記電動機との間に配置され、前記内燃機関と前記電動機とを連結もしくは遮断することができるように構成されたクラッチ機構と、前記電動機と前記クラッチ機構との間に、前記クラッチ機構と連結された入力軸と前記電動機と連結された出力軸とを有し、変速比を変化させて出力することができるように構成された変速機とを備えた動力伝達制御装置において、前記クラッチ機構の温度を取得するクラッチ温度取得手段と、該クラッチ温度取得手段によって取得された前記クラッチ機構の温度が高い場合に、前記クラッチ機構を遮断する遮断手段と、前記クラッチ機構を遮断した状態で、該クラッチ機構の出力側の部材から伝達された動力によって該クラッチ機構を回転させる手段とを備え、前記遮断手段によって前記クラッチ機構を遮断する場合に、前記内燃機関の動力により前記出力軸を駆動させるときに選択される変速比に前記変速機の変速比を定めて、前記変速機の出力側から伝達された動力によって該変速機を駆動させて前記クラッチ機構を回転させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2の発明は、内燃機関と、該内燃機関の出力側の部材に連結された電動機と、前記内燃機関と前記電動機との間に配置され、前記内燃機関と前記電動機とを連結もしくは遮断することができるように構成されたクラッチ機構と、前記電動機と前記クラッチ機構との間に、前記クラッチ機構と連結された入力軸と前記電動機と連結された出力軸とを有し、変速比を変化させて出力することができるように構成された変速機とを備えた動力伝達制御装置において、前記クラッチ機構の温度を取得するクラッチ温度取得手段と、該クラッチ温度取得手段によって取得された前記クラッチ機構の温度が高い場合に、前記クラッチ機構を遮断する遮断手段と、前記クラッチ機構を遮断した状態で、該クラッチ機構の出力側の部材から伝達された動力によって該クラッチ機構を回転させる手段とを備え、前記遮断手段によって前記クラッチ機構を遮断する場合に、前記クラッチ温度取得手段によって取得された温度に応じて前記変速機の変速比を変化させて前記変速機の出力側から伝達された動力によって該変速機を駆動させて前記クラッチ機構を回転させるように構成されていることを特徴とする動力伝達制御装置である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、内燃機関と、その内燃機関の出力側の部材に連結された電動機と、内燃機関と電動機との間に配置され、内燃機関と電動機とを連結もしくは遮断することができるように構成されたクラッチ機構とを備えているので、内燃機関を停止した状態であっても電動機によって動力を出力することができるとともに、電動機によって動力を出力する際に、クラッチ機構により内燃機関と電動機とを遮断することによって、内燃機関の連れ回りによる動力損失を低下させることができる。また、クラッチ機構の温度を取得するクラッチ温度取得手段によって取得されたクラッチ機構の温度が高い場合に、クラッチ機構を遮断し、クラッチ機構の出力側の部材から伝達された動力によってそのクラッチ機構を回転させるので、その回転に基づいてクラッチ機構を冷却することができる。
【0012】
また、請求項1の発明によれば、電動機とクラッチ機構との間に、クラッチ機構と連結された入力軸と電動機と連結された出力軸とを有し、変速比を変化させて出力することができるように構成された変速機を備え、クラッチ機構を遮断する場合に、内燃機関の動力を駆動するときに選択される変速比に変速機の変速比を定めて、変速機の出力側から伝達された動力によってその変速機を駆動させてクラッチ機構を回転させるように構成されているので、変速機の出力側の部材から伝達された動力によって変速機を介してクラッチ機構を回転させて冷却することができるとともに、再度、内燃機関の動力を出力側の部材に伝達する際に、内燃機関の回転数が過剰に変化することを抑制もしくは防止することができる。
【0013】
さらに、請求項2の発明によれば、電動機とクラッチ機構との間に、クラッチ機構と連結された入力軸と電動機と連結された出力軸とを有し、変速比を変化させて出力することができるように構成された変速機を備え、クラッチ機構を遮断する場合に、クラッチ温度取得手段によって取得された温度に応じて変速機の変速比を変化させて、変速機の出力側から伝達された動力によってその変速機を駆動させてクラッチ機構を回転させるように構成されているので、クラッチ機構の温度に応じてそのクラッチ機構を冷却する度合いを変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る動力伝達制御装置の制御の一例を説明するためのフローチャートであって、クラッチ機構の冷却制御を示したものである。
【図2】この発明に係る動力伝達制御装置の構成の一例を示す模式図である。
【図3】この発明に係る動力伝達制御装置の制御の一例を説明するためのフローチャートであって、クラッチ機構の冷却制御の実施を判定する制御を示したものである。
【図4】この発明に係る動力伝達制御装置の制御の一例を説明するためのフローチャートであって、クラッチ機構の冷却制御から復帰させる制御を示したものである。
【図5】その制御を説明するためのタイムチャートであり、車両がエンジン走行している状態でクラッチ機構の冷却制御を実施した例を示したものである。
【図6】その制御を説明するためのタイムチャートであり、車両がエンジン走行している状態からクラッチ機構の冷却制御を実施して、モータ走行に変更する例を示したものである。
【図7】この発明に係る動力伝達制御装置の制御の他の例を説明するためのフローチャートであって、クラッチ機構の冷却制御を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎにこの発明に係る動力伝達制御装置の構成の一例について説明する。図2は、この発明に係る動力伝達制御装置を車両に搭載した例を模式的に示したものである。図に示す車両は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関(以下、単にエンジン1と記す。)と、モータやモータジェネレータなどの電動機(以下、単にモータ2と記す。)とを動力源としたいわゆるハイブリッド車両である。
【0016】
まず、エンジン1から出力された動力を車輪3に伝達する構成について説明する。図に示す例では、従来知られたマニュアル式の変速機を利用した動力伝達装置と同様の構成であって、エンジン1の出力軸4には、クラッチ機構5を介して有段変速機6が設けられている。このクラッチ機構5は、互いに対向した摩擦板5a,5bを図示しない油圧アクチュエータの油圧により押圧することによって、摩擦板5a,5b同士が接触して動力を伝達するものであって、その伝達するトルクは、油圧アクチュエータに供給された油圧に基づいて定めることができる。また、そのクラッチ機構は、潤滑もしくは冷却のためにオイルが供給されるように構成された従来知られた湿式クラッチである。そして、そのクラッチ機構5を介して有段変速機6の入力軸7に動力が伝達される。なお、有段変速機6の入力軸7には、その入力軸7の駆動力を利用して駆動する図示しないオイルポンプが連結されており、そのオイルポンプによって上記油圧アクチュエータや他の部材の油圧を変化させるため、もしくはそれらの部材の潤滑性を向上させるため、あるいはクラッチ機構5を冷却するためにオイルが供給されるように構成されている。
【0017】
この有段変速機6は、入力軸7と平行に配置された出力軸8と、その入力軸7もしくは出力軸8と選択的に連結および遮断されて動力を伝達する複数のギヤ対9とによって構成されている。具体的には、それぞれ変速比が異なるように構成された複数のギヤ対9および入力された動力を反転させて伝達する後進用ギヤ対10が並列に配置されている。なお、図に示す有段変速機5は、第1速から第5速までの五つのギヤ対9a,9b,9c,9d,9eと後進用ギヤ対10とが並列に配置されている。そして、隣り合ったギヤ対の一方のギヤ対と入力軸7もしくは出力軸8とを連結させた状態と遮断した状態とに選択的に切り替えること、あるいは双方のギヤ対を遮断したいわゆるニュートラル状態にすることができる図示しないシンクロナイザーなどの切替装置が複数設けられている。すなわち、後進用ギヤ対10と第1速ギヤ対9aとの間と、第2速ギヤ対9bと第3速ギヤ対9cとの間と、第4速ギヤ対9dと第5速ギヤ対9eとの間とのそれぞれに切替装置が設けられている。
【0018】
また、その有段変速機6の出力軸8における一方の端部には、連結ギヤ対11が連結されており、連結ギヤ対11とその連結ギヤ対11に連結されたデファレンシャルギヤ12とを介して車輪3に動力が伝達されるように構成されている。
【0019】
さらに、図に示す例では、有段変速機6の出力軸8の他方の端部にモータ2が連結されている。このモータ2は、同期モータや誘導モータなどの交流モータであって、モータに通電する電力およびその周波数を制御することによって、出力するトルクおよび回転数を独立して制御することができるように構成されている。
【0020】
また、各回転軸の回転数を検出するセンサやクラッチ機構5の温度を検出するセンサ、モータ2に電気的に連結された図示しない蓄電池の充電量を検出するセンサ、アクセル操作を検出するアクセル開度センサなどの種々の信号が入力され、それらの信号に基づいてクラッチ機構5に設けられた油圧アクチュエータに供給する油圧やエンジン1およびモータ2の出力あるいは有段変速機6の入力軸7もしくは出力軸8と連結するギヤ対を選択する切替装置などを制御する図示しない電子制御装置が連結されている。
【0021】
上述したように動力伝達制御装置を構成することによって、エンジン1の動力のみによって車両を駆動させる(以下、単にエンジン走行と記す。)ことができるとともに、モータ2から出力するトルクを増大させて有段変速機6の出力軸8にトルクを増加させて車両を駆動させる(以下、ハイブリッド走行と記す。)ことができる。また、クラッチ機構5を遮断することによって、もしくは全ての切替装置をニュートラル状態とすることによってエンジン1を停止させてモータ2の動力のみで車両を駆動させる(以下、モータ走行と記す。)ことができる。さらに、車両が停止している状態や車両が惰性走行している場合には、エンジン1を停止しておき、車両に要求されるトルクが増大した場合などに、クラッチ機構5および切替装置を連結状態としてモータ2の動力をエンジン1に伝達することによって、エンジン1のクランクシャフトを回転させてエンジン1を始動させることができる。つまり、モータ2をスタータモータとして機能させることができる。
【0022】
一方、エンジン走行時に変速比を変化させる場合には、クラッチ機構5を一旦遮断して有段変速機6の入力軸7もしくは出力軸8と連結しているギヤ対を切り替えるため、エンジン1の出力軸4と有段変速機6の入力軸7との回転数の差により摩擦板5a,5bには滑りが生じて発熱する。また、モータ2をスタータモータとして機能させる場合には、モータ走行時にエンジン1の連れ回りによる動力損失を低下させるために、有段変速機6の切替装置およびクラッチ機構5を遮断状態としているので、その状態からエンジン1を始動させるためにクラッチ機構5を連結させると、有段変速機6の入力軸7の回転数がエンジン1の出力軸4の回転より速いので、摩擦板5a,5bが滑り発熱する。上記のように摩擦板5a,5bが発熱すると、その摩擦面の摩耗量が増大して耐久性が低下してしまう可能性があるので、この発明に係る動力伝達制御装置は、駆動力を維持しつつクラッチ機構5を冷却することができるように構成されている。具体的には、モータ2の動力によって駆動力を得るとともに、クラッチ機構5を遮断した状態でそのクラッチ機構5をモータ2の動力によって回転させることにより、クラッチ機構5の放熱性を向上させて、もしくはクラッチ機構5に供給されているオイルの潤滑性を向上させあるいは流動抵抗を低下させてオイルの対流を向上させて、冷却するように構成されている。
【0023】
つぎに上述したように構成された動力伝達制御装置の制御の一例について説明する。図1および図3ならびに図4は、その制御の一例を説明するためのフローチャートである。なお、図に示すフローチャートは、極短時間に繰り返し実行されている。まず、図3に示すようにクラッチ機構5の温度を取得する(ステップS31)。なお、ステップS31でのクラッチ機構5の温度は、例えば、クラッチ機構5に熱電対や非接触式センサなどを設けて直接温度を検出した温度であってもよく、摩擦板5a,5b同士の回転数の差から算出される発熱量とその放熱などを考慮して推定される温度であってもよい。ついで、ステップS31で取得されたクラッチ機構5の温度が第1しきい値以上か否かを判断する(ステップS32)。ここでの第1しきい値とは、例えば、クラッチ機構5が発熱していると判断できる程度の温度などである。
【0024】
そして、ステップS32で否定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5の温度が第1しきい値より低い場合には、そのままこの制御を一旦終了する。それとは反対に、ステップS32で肯定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5の温度が第1しきい値以上の場合には、クラッチ機構5の冷却制御を実施する(ステップS33)。
【0025】
図1は、クラッチ機構5の冷却制御を説明するためのフローチャートである。まず、ステップS31で取得されたクラッチ機構5の温度が第2しきい値以下か否かおよびドライバから出力トルクを増大させる要求があるか否かが判断される(ステップS11)。ここでの第2しきい値とは、クラッチ機構5を冷却する必要があると判断することができる程度の温度であって、例えば、実験やその材料特性などによって予め定めた温度である。また、ドライバから出力トルクを増大させる要求は、アクセル開度センサによって運転者によってアクセルペダルが踏み込まれたことを検出して判断することができる。
【0026】
ステップS11で否定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5の温度が第2しきい値より高く、もしくはドライバから出力トルクを増大させる要求がない場合は、クラッチ機構5が遮断された状態か否かを判断する(ステップS12)。ステップS12の判断は、油圧アクチュエータに供給している油圧を検出すること、モータ走行状態であるか、惰性走行状態であるか、あるいはエンジン走行状態やハイブリッド走行状態であるかなどによって判断することができる。そして、ステップS12で肯定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5が遮断されている場合は、現在の変速段が要求の変速段と一致しているか否かを判断する(ステップS13)。なお、ステップS13での要求の変速段とは、エンジン走行もしくはハイブリッド走行をする場合に現状の車速およびアクセル開度に応じて判断される変速段である。現在の変速段と要求変速段とを一致させることにより、アクセルが踏み込まれて加速要求がありクラッチ機構5を連結する場合に、各クラッチ板5a,5bの回転数や出力トルクの差によってショックが生じてしまうことを抑制するためである。また、アクセルが踏み込まれたときの加速要求に素早く応答することができる。ステップS13で肯定的に判断された場合、すなわち現在の変速段が要求の変速段と一致している場合には、そのままこの制御を一旦終了する。それとは反対に、ステップS13で否定的に判断された場合、すなわち現在の変速段が要求の変速段と一致していない場合は、有段変速機6の入力軸7もしくは出力軸8と連結するギヤ対を変更して、要求の変速段と一致させて(ステップS14)、この制御を一旦終了する。
【0027】
一方、ステップS12で否定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5が連結状態である場合には、クラッチ機構5を遮断することができるか否かを判断する(ステップS15)。具体的には、車両に要求される出力トルクをモータのみで出力することができるか否か、モータ2に電気的に連結された蓄電池の充電量が所定量あるか否かなどを判断する。そして、ステップS15で肯定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5を遮断することができる場合には、クラッチ機構5を遮断して(ステップS16)、この制御を一旦終了する。それとは反対に、ステップS15で否定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5を遮断することができない場合は、そのままこの制御を一旦終了する。
【0028】
また、ステップS11で肯定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5の温度が第2しきい値以下もしくはドライバから出力トルクを増大させる要求がある場合には、終了処理を実施して(ステップS17)、この制御を一旦終了する。図4は、その終了処理を示すフローチャートであって、通常走行状態へ復帰させる(ステップS41)ものである。具体的には、車両の走行状態がエンジン走行している場合には、そのままクラッチ機構5を連結した状態を維持し、モータ走行している場合には、走行状態に応じてエンジン1の動力で走行させるためにクラッチ機構5を連結状態に変更する。
【0029】
上述したように制御することによって、車両の駆動力を維持しつつ、クラッチ機構5を遮断するとともに、そのクラッチ機構5をモータ2の動力によって回転させることにより、クラッチ機構5の放熱性を向上させて、もしくはクラッチ機構5に供給されているオイルの潤滑性を向上させあるいは流動抵抗を低下させることによりオイルの対流を向上させて、クラッチ機構5の冷却性能を向上させることができる。そのため、クラッチ機構5の過剰な温度上昇を抑制もしくは防止することができるので、クラッチ機構5の摩耗量を低下させることができ、その結果、クラッチ機構5の耐久性の低下を抑制もしくは防止することができる。
【0030】
ついで、上述した制御の一例を図5に示すタイムチャートに基づいて説明する。図5は、エンジン走行している状態から、クラッチ機構5を冷却するように制御された場合のタイムチャートを示している。まず、常時クラッチ機構5の温度が取得され、そのクラッチ機構5の温度が第1しきい値以上か否かを判断し、そのクラッチ機構5の温度が第1しきい値以上である場合には、そのクラッチ機構5の温度が第2しきい値以下か否かおよびドライバから出力トルクを増大させる要求があるか否かを判断している。そして、クラッチ機構4の温度が第2しきい値以上であって、アクセル開度が小さくなったとき、すなわち図に示すt1の時点で、上述したステップS11で否定的に判断される。すると、図に示す例では、クラッチトルクが高く維持されクラッチ機構5が連結されているので、ステップS12で否定的に判断される。また、アクセル開度が低下して車両の駆動力が要求されていない状態、もしくは惰性走行状態であるので、ステップS15の判断で肯定的に判断されて、図に示すt2の時点でクラッチ機構5が遮断される。
【0031】
さらに、クラッチ機構5が遮断されるとほぼ同時にエンジントルクおよびエンジン回転数が低下し始める。つまり、エンジン1を停止させ始める。また、車両が要求される走行状態を維持することができる程度のトルクをモータ2が出力し始める。さらに、クラッチ機構5が遮断されることによりクラッチ機構5が冷却され始めるので、クラッチ機構5の温度が低下し始める。なお、t2時点に到る以前にクラッチ機構5の温度が微少量ずつ低下しているが、これはクラッチ機構5から他の部材もしくは空気中に放熱されたことによるものである。
【0032】
そして、クラッチ機構5が冷却されて温度が第2しきい値以下になる(t3時点)と、上記ステップS17および図4に示す終了処理が実施される(t4時点)。具体的には、エンジン1を運転させ始めてからクラッチ機構5を連結させ始める。そして、エンジン1の出力軸4の回転数が有段変速機6の入力軸7の回転数と一致した(t5時点)後に、クラッチ機構5が完全に連結させられる。
【0033】
つぎにエンジン走行時からクラッチ機構5を冷却して、モータ走行に変更する場合の制御について説明する。図6は、のタイムチャートを示したものである。なお、図におけるt1時点からt3時点までは、図5に示すタイムチャートと同様である。そして、クラッチ機構5が冷却されてクラッチ機構5の温度が第2しきい値以下となると、終了処理が実施される。図6に示す例では、モータ走行に変更するように制御されるので、有段変速機6における各切替装置をニュートラル状態にする(t4時点)。有段変速機6における各切替装置をニュートラル状態にすることに伴って、有段変速機6の入力軸7に動力が伝達されずに入力軸7が回転しなくなる。
【0034】
このようにモータ走行する場合に、有段変速機6における各切替装置をニュートラル状態とすることによって、モータ2から出力された動力が有段変速機6によって損失してしまうことを防止することができる。
【0035】
さらに、この発明に係る動力伝達制御装置の制御の他の例を説明する。図7は、他の制御例を説明するためのフローチャートであって、図1に示す制御例に相当するものである。まず、ステップS11と同様にクラッチ機構5の温度が第2しきい値以下か否かおよびドライバから出力トルクを増大させる要求があるか否かが判断される(ステップS11)。
【0036】
ステップS11で否定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5の温度が第2しきい値より高く、もしくはドライバから出力トルクを増大させる要求がない場合は、クラッチ機構5が遮断された状態か否かを判断する(ステップS12)。ステップS12の判断は、油圧アクチュエータに供給している油圧を検出すること、もしくはモータ走行であるかもしくは惰性走行かあるいはエンジン走行やハイブリッド走行であるかなどによって判断することができる。そして、ステップS12で肯定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5が遮断されている場合は、クラッチ機構5の温度が第3しきい値以上か否かが判断される(ステップS71)。ここでの第3しきい値とは、クラッチ機構5を冷却するための度合いを選択するための温度であって、設計もしくは実験によって予め用意したものである。ついで、ステップS71で肯定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5の温度が第3しきい値以上の場合は、エンジン走行もしくはハイブリッド走行をする場合に現状の車速およびアクセル開度に応じて判断される変速段より大きい変速比の変速段を要求する(ステップS72)。つまり、クラッチ機構5の回転数が速くなる変速段を要求する。それとは反対に、ステップS71で否定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5の温度が第3しきい値より低い場合には、エンジン走行もしくはハイブリッド走行をする場合に現状の車速に応じて判断される変速段を要求する(ステップS73)。
【0037】
そして、現在の変速段が要求の変速段と一致しているか否かを判断する(ステップS13)。ステップS13で肯定的に判断された場合、すなわち現在の変速段が要求の変速段と一致している場合には、そのままこの制御を一旦終了する。それとは反対に、ステップS13で否定的に判断された場合、すなわち現在の変速段が要求の変速段と一致していない場合は、有段変速機6の入力軸7もしくは出力軸8と連結するギヤ対を変更して、要求の変速段と一致させて(ステップS14)、この制御を一旦終了する。
【0038】
一方、ステップS12で否定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5が連結状態である場合には、クラッチ機構5を遮断することができるか否かを判断する(ステップS15)。具体的には、車両に要求される出力トルクをモータのみで出力することができるか否か、モータ2に電気的に連結された蓄電池の充電量があるか否かなどを判断する。そして、ステップS15で肯定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5を遮断することができる場合には、クラッチ機構5を遮断して(ステップS16)、この制御を一旦終了する。それとは反対に、ステップS15で否定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5を遮断することができない場合は、そのままこの制御を一旦終了する。
【0039】
また、ステップS11で肯定的に判断された場合、すなわちクラッチ機構5の温度が第2しきい値以下もしくはドライバから出力トルクを増大させる要求がある場合には、終了処理を実施して(ステップS17)、この制御を一旦終了する。図4は、その終了処理を示すフローチャートであって、通常走行状態へ復帰させる(ステップS41)ものである。具体的には、車両の走行状態がエンジン走行あるいはハイブリッド走行である場合には、そのままクラッチ機構5を連結した状態を維持し、モータ走行の場合には、走行状態に応じてエンジン1の動力で走行させるためにクラッチ機構5を連結状態に変更するなどである。
【0040】
このように制御することによって、入力軸7の回転数を変化させることができ、その結果、クラッチ機構5の回転数を変化させることができるので、クラッチ機構5を冷却する度合いを変化させることができる。したがって、クラッチ機構5の温度が高い場合であっても、その温度に応じて冷却性能を向上させることができる。なお、上記ステップS72において、変速比が大きい変速比を要求するようにしているが、アクセルが踏み増された際の応答性を考慮して、過剰に大きい変速比を要求しないようにしている。つまり、アクセルが踏み増されてクラッチ機構5を連結したときに、エンジン1がオーバーレブとならないようにする。
【0041】
なお、上述した変速機は、複数のギヤ対を並列に配置した有段変速機6を例に挙げたが、例えば、奇数の変速段と偶数の変速段との二系統のクラッチ機構を備えたデュアルクラッチトランスミッション(以下、DCTと記す。)としてもよく、さらに、そのDCTに設けられたクラッチ機構を冷却の対象とすることができる。具体的には、奇数の変速段を利用して走行している場合には、偶数の変速段のクラッチ機構を冷却することができる。さらにまた、DCTの場合には、走行時に連結されている側のクラッチ機構が温度上昇したときに、他方のクラッチ機構を利用した変速段に変更して、温度上昇した方のクラッチ機構を冷却するように構成してもよい。そして、DCTの場合には、連結されていない側のクラッチ機構を使用する変速段をクラッチ機構の温度に基づいて、オーバーレブしない範囲内での変速比が大きい側のギヤ(ローギヤ)に変更することも可能である。そして、上述した構成では、モータ2の動力によってクラッチ機構5を回転させるように構成されているが、例えば、車両が惰性走行している場合には、モータ2を停止あるいはモータ2で回生した状態で、車輪3から伝達された動力によってクラッチ機構5を回転させることもできる。また、上述したクラッチ機構5は、乾式クラッチであってもよく、乾式クラッチの場合には、空気への対流で均等に冷却することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…エンジン、 2…モータ、 5…クラッチ機構、 6…有段変速機、 7…有段変速機の入力軸、 8…有段変速機の出力軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、該内燃機関の出力側の部材に連結された電動機と、前記内燃機関と前記電動機との間に配置され、前記内燃機関と前記電動機とを連結もしくは遮断することができるように構成されたクラッチ機構と、前記電動機と前記クラッチ機構との間に、前記クラッチ機構と連結された入力軸と前記電動機と連結された出力軸とを有し、変速比を変化させて出力することができるように構成された変速機とを備えた動力伝達制御装置において、
前記クラッチ機構の温度を取得するクラッチ温度取得手段と、
該クラッチ温度取得手段によって取得された前記クラッチ機構の温度が高い場合に、前記クラッチ機構を遮断する遮断手段と、
前記クラッチ機構を遮断した状態で、該クラッチ機構の出力側の部材から伝達された動力によって該クラッチ機構を回転させる手段と
を備え、
前記遮断手段によって前記クラッチ機構を遮断する場合に、前記内燃機関の動力により前記出力軸を駆動させるときに選択される変速比に前記変速機の変速比を定めて、前記変速機の出力側から伝達された動力によって該変速機を駆動させて前記クラッチ機構を回転させるように構成されていることを特徴とする動力伝達制御装置。
【請求項2】
内燃機関と、該内燃機関の出力側の部材に連結された電動機と、前記内燃機関と前記電動機との間に配置され、前記内燃機関と前記電動機とを連結もしくは遮断することができるように構成されたクラッチ機構と、前記電動機と前記クラッチ機構との間に、前記クラッチ機構と連結された入力軸と前記電動機と連結された出力軸とを有し、変速比を変化させて出力することができるように構成された変速機とを備えた動力伝達制御装置において、
前記クラッチ機構の温度を取得するクラッチ温度取得手段と、
該クラッチ温度取得手段によって取得された前記クラッチ機構の温度が高い場合に、前記クラッチ機構を遮断する遮断手段と、
前記クラッチ機構を遮断した状態で、該クラッチ機構の出力側の部材から伝達された動力によって該クラッチ機構を回転させる手段と
を備え、
前記遮断手段によって前記クラッチ機構を遮断する場合に、前記クラッチ温度取得手段によって取得された温度に応じて前記変速機の変速比を変化させて前記変速機の出力側から伝達された動力によって該変速機を駆動させて前記クラッチ機構を回転させるように構成されていることを特徴とする動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−1262(P2013−1262A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134919(P2011−134919)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】