説明

動力伝達装置

【課題】アクチュエータの配置スペースを確保することができると共に、剛性を向上することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】車両に搭載されたエンジン501(駆動源)の駆動力が伝達される前側出力軸3(一方の車軸)と、前側出力軸3に伝達された駆動力を後側出力軸5(他方の車軸)に伝達する方向変換ギヤ組7(変換機構)と、フロントデフ507の差動を制限する差動制限機構9(制御機構)と、方向変換ギヤ組7と差動制限機構9とを収容し前側出力軸3が挿通されるハウジング11と、差動制限機構9を可動させハウジング11の外部に配置されるモータ13(アクチュエータ)とを備え、エンジン501の車両前後方向の後方に配置されたトランスファ1において、モータ13をハウジング11の車幅方向の投影面内において前側出力軸3に対してエンジン501と反対側である後方側に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータを有する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の動力伝達装置としては、特許文献1に前後輪の差動を許容するセンターデファレンシャルの差動を制限する摩擦クラッチ(制御機構)を可動させるモータを備えた摩擦係合装置用アクチュエータが記載されている。このアクチュエータでは、モータを起動することにより摩擦クラッチを締結させ、センターデファレンシャルの差動を制限し、同一速度の回転を前後輪に伝達している。
【特許文献1】特開昭63−203958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のようなアクチュエータでは、モータがフロントアクスル(車軸)に対して前方側のエンジンと同じ側に配置されている。そして、このようなアクチュエータが搭載される車両では、アクチュエータの前方側にエンジン(駆動源)等の干渉物が配置されていることが多い。このため、モータの前方側に余裕がなく、アクチュエータの配置スペースが限られていた。また、モータがエンジンに接近して空間への空気の流動が悪く、発熱のこもりの伝播の影響を受けていた。
【0004】
また、上記のようなアクチュエータでは、フロントアクスルが挿通されるハウジングにフロントアクスルに対して前方側にモータが取り付けられ、フロントアクスルに対して後方側に、後輪側に駆動力を伝達する方向変換ギヤ等が収容されている。このため、フロントアクスルに対するハウジングの重量バランスが悪く、動力伝達装置全体の剛性が低下していた。
【0005】
そこで、この発明は、外部に配置されるアクチュエータのスペースを確保することができると共に、動力伝達装置の剛性を向上することができる動力伝達装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、車両に搭載された駆動源の駆動力が伝達される一方の車軸と、前記一方の車軸に伝達された駆動力を他方の車軸に伝達する変換機構と、前記駆動力の伝達を制御する制御機構と、前記変換機構と前記制御機構とを収容し前記一方の車軸が挿通されるハウジングと、前記制御機構を可動させ前記ハウジングの外部に配置されるアクチュエータとを備え、前記駆動源の車両前後方向に配置された動力伝達装置であって、前記アクチュエータは、前記ハウジングの車幅方向の投影面内において前記一方の車軸に対して前記駆動源と反対側に配置されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1記載の動力伝達装置であって、前記一方の車軸は、左右の車輪の差動を許容する差動機構に接続され、前記制御機構は、前記差動機構の差動を制限する差動制限機構であることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1記載の動力伝達装置であって、前記制御機構は、前記一方の車軸と前記他方の車軸とを断続する断続機構であることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の動力伝達装置であって、前記変換機構は、前記一方の車軸と前記他方の車軸との差動を許容する差動機構を有することを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項4記載の動力伝達装置であって、前記制御機構は、前記変換機構の差動を制限する差動制限機構であることを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の動力伝達装置であって、前記アクチュエータは、モータであることを特徴とする。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の動力伝達装置であって、前記アクチュエータは、油圧制御機構であることを特徴とする。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1記載の動力伝達装置であって、前記アクチュエータは、前記一方の車軸に対して鉛直方向上方側に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の動力伝達装置は、アクチュエータはハウジングの車幅方向の投影面内において一方の車軸に対して駆動源と反対側に配置されているので、動力伝達装置の一方の車軸に対する外部に配置されるアクチュエータのスペースを確保することができる。
【0015】
このため、動力伝達装置と駆動源の間のレイアウトを変更することができ、車両のレイアウトの自由度が向上する。また、アクチュエータと駆動源が接近しておらず、駆動源の熱がアクチュエータに影響を及ぼしにくいので、アクチュエータの制御特性が安定する。
【0016】
また、一方の車軸に対して駆動源と反対側にアクチュエータが配置され、動力伝達装置のハウジングの重量バランスが安定すると共に、動力伝達装置全体の剛性を向上することができる。
【0017】
請求項2の動力伝達装置は、左右の車輪の差動を制限する差動制限機構を有する動力伝達装置においても、アクチュエータの配置スペースを確保することができ、動力伝達装置全体の剛性を向上することができる。
【0018】
請求項3の動力伝達装置は、一方の車軸と他方の車軸を断続する断続機構を有する動力伝達装置においても、アクチュエータの配置スペースを確保することができ、動力伝達装置全体の剛性を向上することができる。
【0019】
請求項4の動力伝達装置は、変換機構が一方の車軸と他方の車軸との差動を許容する差動機構を有する動力伝達装置においても同様に、動力伝達装置全体の剛性を向上することができる。
【0020】
請求項5の動力伝達装置は、変換機構の差動を制限する差動制限機構を有する動力伝達装置においても、アクチュエータの配置スペースを確保することができ、動力伝達装置全体の剛性を向上することができる。
【0021】
請求項6の動力伝達装置は、アクチュエータがモータである動力伝達装置においても、アクチュエータの配置スペースを確保することができ、動力伝達装置全体の剛性を向上することができる。
【0022】
請求項7の動力伝達装置は、アクチュエータが油圧ピストンである動力伝達装置においても、アクチュエータの配置スペースを確保することができ、動力伝達装置全体の剛性を向上することができる。
【0023】
請求項8の動力伝達装置は、アクチュエータを上方に配置することで、路面側との干渉を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1実施形態)
図1〜図3を用いて第1実施形態について説明する。なお、図1〜図3において上側が車両前方側であり、下側が車両後方側である。
【0025】
まず、第1実施形態の動力伝達装置であるトランスファ1が適用される車両の動力系について説明する。
【0026】
図1に示すように、車両の動力系は、横置きのエンジン(駆動源)501及びトランスミッション503と、減速ギヤ組505と、フロントデフ507(差動機構)と、前車軸509,511と、前輪513,515と、トランスファ1(動力伝達装置)と、後輪側プロペラシャフト517と、カップリング519と、方向変換ギヤ組521と、リヤデフ523と、後車軸525,527と、後輪529,531などから構成されている。
【0027】
エンジン501の駆動力はトランスミッション503から減速ギヤ組505とデフケース533とを介してフロントデフ507に伝達され、前車軸509,511から前輪513,515に配分されると共に、デフケース533からトランスファ1と後輪側プロペラシャフト517とを介してカップリング519に伝達され、カップリング519が連結されている方向変換ギヤ組521からリヤデフ523に伝達され、後車軸525,527から後輪529,531に配分されて4輪駆動状態になる。また、カップリング519の連結が解除されると、車両は前輪駆動の2輪駆動状態になる。
【0028】
そして、フロントデフ507の差動制限は、トランスファ1の差動制限機構9(制御機構)によって行われている。以下、トランスファ1について説明する。
【0029】
本実施形態のトランスファ1は、車両に搭載されたエンジン501(駆動源)の駆動力が伝達される前側出力軸3(一方の車軸)と、前側出力軸3に伝達された駆動力を後側出力軸5(他方の車軸)に伝達する方向変換ギヤ組7(変換機構)と、フロントデフ507の差動を制限する差動制限機構9(制御機構)と、方向変換ギヤ組7と差動制限機構9とを収容し前側出力軸3が挿通されるハウジング11と、差動制限機構9を可動させハウジング11の外部に配置される電動モータ13(アクチュエータ)とを備え、エンジン501の車両前後方向としての後方に配置されている。そして、モータ13は、ハウジング11の車幅方向の投影面内において前側出力軸3に対して後方側に配置されている。また、ハウジング11は、ハウジング本体12、中間壁部14、カバー16、出力部20とから成る。さらに、モータ13は、カバー16に対してボルトで取り付けられている。
【0030】
図1〜図3に示すように、ハウジング11は、エンジン501に対して車両前後方向としての後方に配置されている。また、ハウジング11の内部には、前側出力軸3が挿通されている。前側出力軸3は、前車軸511と、左右の前輪513,515の差動を許容するフロントデフ507のサイドギヤ535に連結されている。また、前側出力軸3は、フロントデフ507のデフケース533にスプライン部539にスプライン連結された中空軸537に挿通されている。中空軸537は、ハウジング11内にベアリング541、543によって回転自在に支承されている。また、中空軸537には、方向変換ギヤ組7が設けられている。方向変換ギヤ組7は、ハウジング11に収容され、中空軸537に固定されたギヤ15と後輪側プロペラシャフト517に連結された被駆動軸18に形成されたギヤ17とから構成されている。この方向変換ギヤ組7により、前側出力軸3に伝達された駆動力が後側出力軸5に伝達される。また、フロントデフ507での差動は、ハウジング11の一部材であるカバー16内に収容された差動制限機構9によって制限される。
【0031】
差動制限機構9は、多板クラッチ19と、カム機構21と、減速ギヤ組23とから構成されている。多板クラッチ19は、クラッチハブ25と、クラッチハウジング27と、複数のアウタクラッチ板29と、複数のインナクラッチ板31とから構成されている。クラッチハブ25は、中空軸537にスプライン連結されており、フロントデフ507のデフケース533と一体回転される。クラッチハウジング27は、前側出力軸3にスプライン連結され、ベアリング33で回転自在に支承されており、フロントデフ507のサイドギヤ535と一体回転される。アウタクラッチ板29は、クラッチハウジング27の内周にスプライン連結されている。インナクラッチ板31は、クラッチハブ25の外周にスプライン連結されている。そして、多板クラッチ19が締結されると、クラッチハブ25とクラッチハウジング27とが接続、すなわち、フロントデフ507(図1参照)のデフケース533とサイドギヤ535とが接続され、フロントデフ507での差動が制限される。この多板クラッチ19は、カム機構21でカムスラスト力が発生することにより締結される。
【0032】
カム機構21は、一対の環状のカムリング35,37と、カムボール39と、プレッシャプレート41とから構成されている。カムリング35,37は、中空軸537の外周に軸方向移動自在に支持されている。カムボール39は、カムリング35,37間に配置され、カムリング35,37間に差回転が生じるとカムリング35,37を軸方向に移動させる。なお、カムリング35のスラスト力をハウジング11の当接部43で受け、カムリング37のスラスト力をベアリング45で受けている。また、ベアリング45は、カムリング37側の回転とプレッシャプレート41側の回転を遮断している。プレッシャプレート41は、カムリング37の内周に軸方向移動自在に支持されている。また、プレッシャプレート41とクラッチハブ25との間には、リターンスプリング47が設けられ、プレッシャプレート41を多板クラッチ19の締結解除方向に押圧している。そして、カムスラスト力によりカムリング37が多板クラッチ19の締結方向に移動されるとカムリング37がプレッシャプレート41を押圧し、プレッシャプレート41が多板クラッチ19を押圧して多板クラッチ19を締結させる。このカム機構21のカムスラスト力は、モータ13の回転が減速ギヤ組23で減速され、カムリング35,37に差回転を生じさせることによって発生される。
【0033】
減速ギヤ組23は、第1ギヤ組49と、第2ギヤ組51とから構成されている。第1ギヤ組49は、小径ギヤ53と大径ギヤ55とから構成されている。小径ギヤ53は、モータ13の出力軸57の外周に形成され、大径ギヤ55と噛み合っている。大径ギヤ55は、回転軸59の大径部の外周に形成されている。回転軸59は、ハウジング11に支持されたピン61によって回転自在に支持されている。第2ギヤ組51は、小径ギヤ63と大径ギヤ65とから構成されている。小径ギヤ63は、回転軸59の小径部の外周に形成され、大径ギヤ65と噛み合っている。大径ギヤ65は、カムリング37の外周に形成されている。この減速ギヤ組23は、モータ13の起動により回転される。なお、大径ギヤ55と小径ギヤ63とを有するギヤ部材をハウジング11に取り付けるための孔を塞ぐカバー50は、ボルトでハウジング11に一体に固着され、カバー50には、ハウジング11内部空間と外部とを連通させるブリーザ52が取り付けられている。
【0034】
モータ13は、図3に示すように、ハウジング11の外部でハウジング11の車幅方向の投影面内において前側出力軸3に対してエンジン501と反対側である後方側に配置されている。また、ハウジング11の内部では、方向変換ギヤ組7が前側出力軸3に対して駆動源としてのエンジン501と反対側である後方側に配置されている。このため、トランスファ1全体の重量は、前側出力軸3に対して後方側が大きくなっている。これにより、重量の大きい部材がハウジング11の車幅方向の投影面内において、前側出力軸3に対して前方側と後方側に分かれることがなく、前側出力軸3の回転によるトランスファ1全体のぶれを抑えることができ、トランスファ1全体の剛性が向上している。
【0035】
このようなトランスファ1では、モータ13はハウジング11の車幅方向の投影面内において前側出力軸3に対してエンジン501と反対側である後方側に配置されているので、トランスファ1の前側出力軸3に対する前方側のスペースを確保すると共に、アクチュエータとしてのモータ13の配置スペースを確保することができる。
【0036】
このため、トランスファ1とエンジン501の間のレイアウトを変更することができ、車両のレイアウトの自由度が向上する。また、モータ13が後方側に配置されているので、モータ13とエンジン501が接近しておらず、エンジン501の熱がモータ13に伝達することを低減することができ、アクチュエータの作動安定性、すなわち、制御機構の制御安定性が向上する。
【0037】
また、モータ13はハウジング11の車幅方向の投影面内において前側出力軸3に対してエンジン501と反対側の後方側に配置されているので、前側出力軸3に対して被駆動軸18と同じ側で車幅方向に被駆動軸18と隣接するようにモータ13が配置されるので、モータ13、方向変換ギヤ組7等の重量の大きい部材が配置され、前側出力軸3に対するハウジング11の重量バランスが安定し、トランスファ1全体の剛性を向上することができる。
【0038】
さらに、アクチュエータとしてのモータ13は、前側出力軸3に対して鉛直方向上方側に配置されるので、路面側の配置物との干渉を防止できる。
【0039】
(第2実施形態)
図4、図5を用いて第2実施形態について説明する。なお、図4、図5において上側が車両前方側であり、下側が車両後方側である。
【0040】
まず、第2実施形態の動力伝達装置であるトランスファ101が適用される車両の動力系について説明する。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
【0041】
図4に示すように、車両の動力系は、横置きのエンジン(駆動源)501及びトランスミッション503と、減速ギヤ組505と、センターデフ601(差動機構)と、フロントデフ603と、前車軸509,511と、前輪513,515と、トランスファ101(動力伝達装置)と、後輪側プロペラシャフト517と、方向変換ギヤ組521と、リヤデフ523と、後車軸525,527と、後輪529,531などから構成されている。
【0042】
エンジン501の駆動力はトランスミッション503から減速ギヤ組505とセンターデフケース605とを介してセンターデフ601に伝達され、一対のサイドギヤ607,609からインナケース611、アウタケース613を介してフロントデフ603に伝達され、インナケース611に伝達された駆動力が前車軸509,511から前輪513,515に配分されると共に、アウタケース613に伝達された駆動力が被駆動軸18から後輪側プロペラシャフト517を介して方向変換ギヤ組521に伝達され、リヤデフ523を介して後車軸525,527から後輪529,531に配分される。
【0043】
そして、センターデフ601の前輪側と後輪側の差動制限は、トランスファ101の差動制限機構9(制御機構)によって行われている。以下、トランスファ101について説明する。
【0044】
本実施形態のトランスファ101は、車両に搭載されたエンジン501(駆動源)の駆動力が伝達される前側出力軸103(一方の車軸)と、前側出力軸103に伝達された駆動力を後側出力軸105(他方の車軸)に伝達する方向変換ギヤ組7(変換機構)と、センターデフ601の差動を制限する差動制限機構9(制御機構)と、方向変換ギヤ組7と差動制限機構9とを収容し前側出力軸103が挿通されるハウジング107と、差動制限機構9を可動させハウジング107の外部に配置されるモータ13(アクチュエータ)とを備え、エンジン501の車両前後方向の後方に配置されている。そして、モータ13は、ハウジング107の車幅方向の投影面内において前側出力軸103に対して駆動源としてのエンジン501の反対側である後方側に配置されている。なお、モータ13の車幅方向の投影面内における配置位置については、第1実施形態の図3を参照して略同様な配置位置である。
【0045】
図4、図5に示すように、ハウジング107は、エンジン501に対して車両前後方向の後方に配置されている。また、ハウジング107の内部には、前側出力軸103が挿通されている。前側出力軸103は、前車軸511と、左右の前輪513,515の差動を許容するフロントデフ603のサイドギヤ615に連結されている。また、前側出力軸103は、フロントデフ603のインナケース611に挿通されている。また、ハウジング107は、ハウジング本体112、中間壁部114、カバー116及び出力部120とから成り、モータ13は、カバー116に対してボルトで一体的に固定されている。
【0046】
本実施形態におけるフロントデフ603は、いわゆる平行軸型のデファレンシャル装置を適用したものであり、第1ヘリカルピニオンギヤ617と、第2ヘリカルピニオンギヤ619と、一対のサイドギヤ615,621と、インナケース611とから構成されている。第1ヘリカルピニオンギヤ617は、インナケース611に収容され、第2ヘリカルピニオンギヤ619とサイドギヤ615と噛み合っている。第2ヘリカルピニオンギヤ619は、インナケース611に収容され、第1ヘリカルピニオンギヤ617より長く形成され、噛み合い歯を2つ有しており、噛み合い歯間にサイドギヤ615の噛み合い歯が配置されている。この第2ヘリカルピニオンギヤ619は、第1ヘリカルピニオンギヤ617とサイドギヤ621と噛み合っている。サイドギヤ615は、インナケース611に収容され、前側出力軸103と連結されている。サイドギヤ621は、インナケース611に収容され、前車軸509側に出力する出力軸と連結される。このフロントデフ603により、左右の前輪513,515側にエンジン501の駆動力を分配すると共に、左右の前輪513,515の差動を許容している。また、インナケース611は、センターデフ601に連結されたアウタケース613に収容されている。なお、左右車輪間のデファレンシャルとしてのフロントデフ603は、既存の他の形式の差動機構を備えたデファレンシャルであっても良い。
【0047】
センターデフ601は、センターデフケース605に収容された一対のサイドギヤ607,609を有している。サイドギヤ607は、インナケース611に連結され、サイドギヤ609は、アウタケース613に連結されている。アウタケース613は、ハウジング107内にベアリング623、625により回転自在に支承されている。また、アウタケース613には、方向変換ギヤ組7のギヤ15が固定されており、エンジン501の駆動力を後側出力軸105側に伝達している。そして、インナケース611とアウタケース613の間の差動、すなわち、前側出力軸103と後側出力軸105の間の差動がハウジング107に収容された差動制限機構9によって制限される。
【0048】
差動制限機構9の多板クラッチ19において、クラッチハブ25はアウタケース613にスプライン連結され、クラッチハウジング27はインナケース611にスプライン連結されている。そして、モータ13を起動すると減速ギヤ組23で回転が減速されてカム機構21でカムスラスト力を発生させ、多板クラッチ19を締結し、センターデフ601の差動が制限される。このように、差動制限機構9は、モータ13を起動することによって可動される。
【0049】
モータ13は、図3で示すトランスファ1と同様に、ハウジング107の外部でハウジング107の車幅方向の投影面内において前側出力軸103に対してエンジン501と反対側である後方側に配置されている。また、ハウジング107の内部では、方向変換ギヤ組7が前側出力軸103に対して駆動源としてのエンジン501と反対側である後方側に配置されている。このため、トランスファ101全体の重量は、前側出力軸103に対して後方側が大きくなっている。これにより、重量の大きい部材がハウジング107の車幅方向の投影面内において、前側出力軸103に対して前方側と後方側に分かれることがなく、前側出力軸103の回転によるトランスファ101全体のぶれを抑えることができ、トランスファ101全体の剛性が向上している。
【0050】
このようなトランスファ101では、モータ13はハウジング107の車幅方向の投影面内において前側出力軸103に対してエンジン501と反対側である後方側に配置されているので、トランスファ101の前側出力軸103に対する前方側のスペースを確保すると共に、アクチュエータとしてのモータ13の配置スペースを確保することができる。
【0051】
このため、トランスファ101とエンジン501の間のレイアウトを変更することができ、車両のレイアウトの自由度が向上する。また、モータ13が後方側に配置されているので、モータ13とエンジン501が接近しておらず、エンジン501の熱がモータ13に伝達することを低減することができ、アクチュエータの作動安定性、すなわち、制御機構の制御安定性が向上する。
【0052】
また、モータ13はハウジング107の車幅方向の投影面内において前側出力軸103に対してエンジン501と反対側の後方側に配置されているので、前側出力軸103に対して被駆動軸18と同じ側で車幅方向に被駆動軸18と隣接するようにモータ13が配置されるので、モータ13、方向変換ギヤ組7等の重量の大きい部材が配置され、前側出力軸103に対するハウジング107の重量バランスが安定し、トランスファ101全体の剛性を向上することができる。
【0053】
さらに、アクチュエータとしてのモータ13は、前側出力軸103に対して鉛直方向上方側に配置されるので、路面側の配置物との干渉を防止できる。
【0054】
従って、センターデフ601の差動を制限する差動制限機構9を有するトランスファ101においても、アクチュエータとしてのモータ13の配置スペースを確保することができ、トランスファ101全体の剛性を向上することができる。
【0055】
(第3実施形態)
図6を用いて第3実施形態について説明する。なお、図6において上側が車両前方側であり、下側が車両後方側である。
【0056】
まず、第3実施形態の動力伝達装置であるトランスファ201が適用される車両の動力系について説明する。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
【0057】
図6に示すように、車両の動力系は、横置きのエンジン(駆動源)501及びトランスミッション503と、減速ギヤ組505と、フロントデフ507(差動機構)と、前車軸509,511と、前輪513,515と、トランスファ201(動力伝達装置)と、断続装置701と、後輪側プロペラシャフト517と、方向変換ギヤ組521と、リヤデフ523と、後車軸525,527と、後輪529,531などから構成されている。
【0058】
エンジン501の駆動力はトランスミッション503から減速ギヤ組505とデフケース533とを介してフロントデフ507に伝達され、前車軸509,511から前輪513,515に配分されると共に、デフケース533が連結されている断続装置701から被駆動軸18より後輪側プロペラシャフト517を介して方向変換ギヤ組521に伝達され、方向変換ギヤ組521からリヤデフ523に伝達され、後車軸525,527から後輪529,531に配分されて4輪駆動状態になる。また、断続装置701の連結が解除されると、車両は前輪駆動の2輪駆動状態になる。
【0059】
そして、断続装置701の断続は、トランスファ201の断続機構203(制御機構)によって行われている。以下、トランスファ201について説明する。
【0060】
本実施形態のトランスファ201は、車両に搭載されたエンジン501(駆動源)の駆動力が伝達される前側出力軸3(一方の車軸)と、前側出力軸3に伝達された駆動力を後側出力軸5(他方の車軸)に伝達する方向変換ギヤ組7(変換機構)と、前側出力軸3と後側出力軸5とを断続する断続装置701を断続する断続機構203(制御機構)と、方向変換ギヤ組7と断続機構203とを収容し前側出力軸3が挿通されるハウジング205と、断続機構203を可動させハウジング205の外部に配置されるモータ13(アクチュエータ)とを備え、エンジン501の車両前後方向の後方に配置されている。そして、モータ13は、ハウジング205の車幅方向の投影面内において前側出力軸3に対して後方側に配置されている。なお、モータ13の車幅方向投影面内における配置位置については、第1実施形態の図3を参照して略同様な配置位置になっている。
【0061】
図6に示すように、ハウジング205は、エンジン501に対して車両前後方向の後方に配置されている。また、ハウジング205の内部には、前側出力軸3が挿通されている。前側出力軸3は、前車軸511と、左右の前輪513,515の差動を許容するフロントデフ507のサイドギヤ535に連結されている。また、前側出力軸3は、断続装置701のインナ軸703に挿通されている。また、ハウジング205は、ハウジング本体212、中間壁部214、カバー216、出力部220から成り、モータ13は、カバー216にボルトで固定されている。
【0062】
断続装置701は、インナ軸703とアウタ軸705とで構成されている。インナ軸703は、フロントデフ507のデフケース533に連結され、アウタ軸705に挿通されている。アウタ軸705には、方向変換ギヤ組7のギヤ15が固定されている。そして、断続機構203によってインナ軸703とアウタ軸705が接続されるとエンジン501の駆動力を後側出力軸105側に伝達する。
【0063】
断続機構203の多板クラッチ19は、インナ軸703とアウタ軸705に連結されている。そして、モータ13を起動すると減速ギヤ組23で回転が減速されてカム機構21でカムスラスト力を発生させ、多板クラッチ19を締結し、インナ軸703とアウタ軸705とが接続、すなわち、前側出力軸3と後側出力軸5とが接続される。このように、断続機構203は、モータ13を起動することによって可動される。
【0064】
モータ13は、図3で示すトランスファ1と同様に、ハウジング205の外部でハウジング205の車幅方向の投影面内において前側出力軸3に対してエンジン501と反対側である後方側に配置されている。また、ハウジング205の内部では、方向変換ギヤ組7が前側出力軸3に対して駆動源としてのエンジン501と反対側である後方側に配置されている。このため、トランスファ201全体の重量は、前側出力軸3に対して後方側が大きくなっている。これにより、重量の大きい部材がハウジング205の車幅方向の投影面内において、前側出力軸3に対して前方側と後方側に分かれることがなく、前側出力軸3の回転によるトランスファ201全体のぶれを抑えることができ、トランスファ201全体の剛性が向上している。
【0065】
このようなトランスファ201では、モータ13はハウジング205の車幅方向の投影面内において前側出力軸3に対してエンジン501と反対側である後方側に配置されているので、トランスファ201の前側出力軸3に対する前方側のスペースを確保すると共に、アクチュエータとしてのモータ13の配置スペースを確保することができる。
【0066】
このため、トランスファ201とエンジン501の間のレイアウトを変更することができ、車両のレイアウトの自由度が向上する。また、モータ13が後方側に配置されているので、モータ13とエンジン501が接近しておらず、エンジン501の熱がモータ13に伝達することを低減することができ、アクチュエータの作動安定性、すなわち、制御機構の制御安定性が向上する。
【0067】
また、モータ13はハウジング205の車幅方向の投影面内において前側出力軸3に対してエンジン501と反対側の後方側に配置されているので、前側出力軸3に対して被駆動軸18と同じ側で車幅方向に被駆動軸18と隣接するようにモータ13が配置されるので、モータ13、方向変換ギヤ組7等の重量の大きい部材が配置され、前側出力軸3に対するハウジング205の重量バランスが安定し、トランスファ201全体の剛性を向上することができる。
【0068】
さらに、アクチュエータとしてのモータ13は、前側出力軸3に対して鉛直方向上方側に配置されるので、路面側の配置物との干渉を防止できる。
【0069】
従って、前側出力軸3と後側出力軸5とを断続する断続機構203を有するトランスファ201においても、アクチュエータとしてのモータ13の配置スペースを確保することができ、トランスファ201全体の剛性を向上することができる。
【0070】
(第4実施形態)
図7、図8を用いて第4実施形態について説明する。なお、本実施形態の動力伝達装置であるトランスファ301は、図4、図5に示す第2実施形態のトランスファ101のアクチュエータが異なるものであり、第1実施形態及び第2実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態及び第2実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。また、図7、図8において上側が車両前方側であり、下側が車両後方側である。
【0071】
本実施形態のトランスファ301は、差動制限機構303を可動させるアクチュエータが油圧制御機構305であり、油圧制御機構305によって押圧制御される。油圧制御機構305は、ハウジング307の車幅方向の投影面内において前側出力軸103に対して駆動源としてのエンジン501の後方側に配置されている。また、ハウジング307は、ハウジング本体312、中間壁部314、カバー316及び出力部320とから成る。
【0072】
図7、図8に示すように、油圧制御機構305は、オイルポンプ309とアキュームレータ311と電磁ソレノイドバルブ313とピストン315など後述するシリンダ317内のピストン315を作動させるために必要となる構成物から構成されカバー316に対して取り付けられている。また、ピストン315は、シリンダ317に配置されている。ハウジング307内には、オイル319が封入されており、このオイル319が電動オイルポンプ309によって加圧され吸入路321と電磁ソレノイドバルブ313とを介して吸入され、アキュームレータ311にオイル319(圧力)が蓄積される。この蓄積されたオイル319が電磁ソレノイドバルブ313と吐出路323とを介して吐出される。そして、ピストン315が多板クラッチ19の締結方向に移動して多板クラッチ19を締結させ、センターデフ601での差動が制限される。なお、オイルポンプ309とアキュームレータ311の制御は、電磁ソレノイドバルブ313によって行われている。また、オイルポンプ309は、取付自由度の高い電動ポンプであるが、駆動源の駆動力の一部を用いて駆動されるオイルポンプであっても良い。この場合には、油圧制御機構はアキュームレータ又は電磁ソレノイドバルブなどが該当される。
【0073】
このようなトランスファ301では、油圧制御機構305はハウジング307の車幅方向の投影面内において前側出力軸103に対してエンジン501と反対側である後方側に配置されているので、トランスファ301の前側出力軸103に対する前方側のスペースを確保すると共に、アクチュエータとしての油圧制御機構305の配置スペースを確保することができる。
【0074】
このため、トランスファ301とエンジン501の間のレイアウトを変更することができ、車両のレイアウトの自由度が向上する。また、油圧制御機構305が後方側に配置されているので、油圧制御機構305とエンジン501が接近しておらず、エンジン501の熱が油圧制御機構305に伝達することを低減することができ、アクチュエータの作動安定性、すなわち、制御機構の制御安定性が向上する。
【0075】
また、油圧制御機構305はハウジング107の車幅方向の投影面内において前側出力軸103に対してエンジン501と反対側の後方側に配置されているので、前側出力軸103に対して被駆動軸18と同じ側で車幅方向に被駆動軸18と隣接するように油圧制御機構305が配置されるので、油圧制御機構305、方向変換ギヤ組7等の重量の大きい部材が配置され、前側出力軸103に対するハウジング307の重量バランスが安定し、トランスファ301全体の剛性を向上することができる。
【0076】
さらに、アクチュエータとしての油圧制御機構305は、前側出力軸103に対して鉛直方向上方側に配置されるので、路面側の配置物との干渉を防止できる。
【0077】
従って、アクチュエータが油圧制御機構305であるトランスファ301においても、油圧制御機構305の配置スペースを確保することができ、トランスファ301全体の剛性を向上することができる。
【0078】
なお、第1乃至第3実施形態のモータ13とカム機構21を第4実施形態の油圧制御機構305としても良い。
【0079】
〔本発明に含まれる他の態様〕
1.電動モータは、車幅方向と同方向にその出力軸の向きが設定配置されているが、これに限らず、周囲部材との非干渉や減速ギヤ機構との組合せに応じてトランスファに面して車幅方向逆向き、車両前後方向、或いは傾向方向をとることができる。
【0080】
2.制御機構は、摩擦クラッチに限らず、粘性流体、磁性流体の中間制御型又は単なる断続型でも良い。
【0081】
3.アクチュエータは、カバーに対してだけ取り付けられるものではなく、ハウジングの一部であれば他の分割部に取り付けても良い。
【0082】
4.アクチュエータは、エアダイヤフラム、操作ロッド、或いは可逆性スプリングを用いたものでも良い。
【0083】
5.FFベースの車両レイアウトに限らず、MRやRRなどの他の車両レイアウトに対して本願発明の動力伝達装置を適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】第1実施形態のトランスファを搭載した車両の動力系の概略図である。
【図2】第1実施形態のトランスファの断面図である。
【図3】第1実施形態のトランスファの側面図である。
【図4】第2実施形態のトランスファを搭載した車両の動力系の概略図である。
【図5】第2実施形態のトランスファの断面図である。
【図6】第3実施形態のトランスファを搭載した車両の動力系の概略図である。
【図7】第4実施形態のトランスファを搭載した車両の動力系の概略図である。
【図8】第4実施形態のトランスファの断面概略図である。
【符号の説明】
【0085】
1,101,201,301…トランスファ
3,103…前側出力軸
5,105…後側出力軸
7…方向変換ギヤ組
9,303…差動制限機構
11,107,205,307…ハウジング
13…モータ
19…多板クラッチ
21…カム機構
23…減速ギヤ組
301…トランスファ
305…油圧制御機構
309…オイルポンプ
311…アキュームレータ
313…電磁ソレノイドバルブ
315…ピストン
501…エンジン
507,603…フロントデフ
601…センターデフ
701…断続装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された駆動源の駆動力が伝達される一方の車軸と、前記一方の車軸に伝達された駆動力を他方の車軸に伝達する変換機構と、前記駆動力の伝達を制御する制御機構と、前記変換機構と前記制御機構とを収容し前記一方の車軸が挿通されるハウジングと、前記制御機構を可動させ前記ハウジングの外部に配置されるアクチュエータとを備え、前記駆動源の車両前後方向に配置された動力伝達装置であって、
前記アクチュエータは、前記ハウジングの車幅方向の投影面内において前記一方の車軸に対して前記駆動源と反対側に配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記一方の車軸は、左右の車輪の差動を許容する差動機構に接続され、前記制御機構は、前記差動機構の差動を制限する差動制限機構であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記制御機構は、前記一方の車軸と前記他方の車軸とを断続する断続機構であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の動力伝達装置であって、
前記変換機構は、前記一方の車軸と前記他方の車軸との差動を許容する差動機構を有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4記載の動力伝達装置であって、
前記制御機構は、前記変換機構の差動を制限する差動制限機構であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の動力伝達装置であって、
前記アクチュエータは、モータであることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の動力伝達装置であって、
前記アクチュエータは、油圧制御機構であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項8】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記アクチュエータは、前記一方の車軸に対して鉛直方向上方側に配置されていることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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