説明

動力伝達装置

【課題】第1の断続部の断続特性に影響を与えることがなく、第1の断続部に対する第2の断続部での引きずりトルクの影響を抑制することができる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】外側回転部材3と、内側回転部材5と、複数のクラッチ板11,13からなる第1の断続部15と、第1の断続部15を押圧する押圧部17が形成された環状の押圧部材19を有する断続操作部21と、断続操作部21を作動させる第2の断続部23と、第2の断続部23を断続操作する電磁石25を有したアクチュエータ27とを備えた動力伝達装置1において、押圧部材19の押圧部17の内周側に凹部29を形成し、凹部29内に押圧部材19を第1の断続部15の接続解除方向に付勢する付勢部材31を第1の断続部15のクラッチ板11,13の軸方向の投影面内に臨んで配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外側回転部材と内側回転部材とを断続する第1の断続部と、第1の断続部を押圧する押圧部材を有する断続操作部と、押圧部材を作動させる第2の断続部と、第2の断続部を断続操作する操作源を有したアクチュエータとを備えた動力伝達装置としては、ハウジングとインナシャフトとを断続するメインクラッチと、第2カム部材を有したカム式増幅機構と、パイロットクラッチと、電磁コイルとを備えた電磁パイロット式クラッチ装置が記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この電磁パイロット式クラッチ装置では、第2カム部材に形成された段部とインナシャフトに形成されたバネ支持部との間に皿バネが配置されており、この皿バネが第2カム部材をメインクラッチから離脱する方向に付勢して、メインクラッチが非締結状態であるときにメインクラッチの複数のクラッチプレート同士を離間させて所定の隙間を保持している。これにより、パイロットクラッチで引きずりトルクが発生してもメインクラッチが締結することを防止している。また、皿バネのたわみ量を調整することにより、メインクラッチでクラッチプレートが磨耗して第2カム部材の移動量が変化したとしても伝達トルク特性に変化を生じさせないようにしている。
【特許文献1】特開2002−364676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の電磁パイロット式クラッチ装置では、皿バネが第2カム部材の段部とインナシャフトのバネ支持部との間に形成された空隙に配置されているが、この空隙は軸方向の間が狭く、皿バネの軸方向のストロークを十分に得ることができない。そこで、この皿バネの軸方向ストロークを大きくするために空隙の軸方向間を大きく設定させる、もしくは空隙の半径方向の間を大きく設定させて半径方向に大きく形成させた皿バネを配置させ、軸方向ストロークの大きな皿バネのバネ力と同等のバネ力を得ることが考えられる。
【0005】
しかしながら、空隙の軸方向間を大きく設定してしまうと、第2カム部材の段部が薄肉となって第2カム部材の強度が低下する、又はインナシャフトのバネ支持部がクラッチプレートとの連結部の内周側に入り込み連結部の強度が低下するなどしてメインクラッチの断続特性に影響を与えてしまう。
【0006】
また、空隙の半径方向間を大きく設定してしまうと、インナシャフトのバネ支持部が半径方向に厚肉となり、クラッチプレートとの連結部が半径方向外側に位置してしまうことになる。これにより、インナシャフトの重量が増大してしまったり、さらにはクラッチプレートの内径を大きく形成しなければならなくなり、メインクラッチを潤滑するオイルが流通することが難しく、メインクラッチの潤滑・冷却が困難となり、この場合でもメインクラッチの断続特性に影響を与えてしまう。
【0007】
そこで、この発明は、第1の断続部の断続特性に影響を与えることがなく、第1の断続部に対する第2の断続部での引きずりトルクの影響を抑制することができる動力伝達装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、外側回転部材と、該外側回転部材と相対回転可能に配置された内側回転部材と、前記外側回転部材と前記内側回転部材とにそれぞれ連結部を介して連結されると共に軸方向に交互に配列された複数の外側クラッチ板と複数の内側クラッチ板とからなる第1の断続部と、該第1の断続部のクラッチ板を押圧する押圧部が外周側に形成された環状の押圧部材を有する断続操作部と、該断続操作部を作動させる第2の断続部と、該第2の断続部を断続操作する操作源を有したアクチュエータとを備えた動力伝達装置であって、前記押圧部材の押圧部の内周側には凹部が形成され、該凹部内には前記押圧部材を前記第1の断続部の接続解除方向に付勢する付勢部材が前記第1の断続部のクラッチ板の軸方向の投影面内に臨んで配置されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置であって、前記押圧部材は、前記内側回転部材に一体回転可能で軸方向移動可能に係合部を介して係合され、前記付勢部材は、前記係合部の外周側に配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の動力伝達装置であって、前記押圧部材は、前記内側回転部材に一体回転可能で軸方向移動可能に前記付勢部材を介して連結されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、前記内側回転部材と前記付勢部材との間には、前記付勢部材が前記第1の断続部の締結方向へ移動するのを規制する移動規制部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の動力伝達装置であって、前記凹部は前記押圧部の内周側に環状に形成されており、前記第1の断続部を収容する前記外側回転部材の内部には、前記第1の断続部を潤滑する潤滑オイルが収容され、前記複数の内側クラッチ板の各々には前記複数の外側クラッチ板との摺動部の内周側に開口が形成されており、前記開口を介して前記環状の凹部に連通されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の動力伝達装置であって、前記付勢部材は、周方向に複数形成された切欠き部を備えていることを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の動力伝達装置であって、前記押圧部材には表裏面を連通する孔が形成されており、潤滑オイルが前記開口と前記切欠き部及び前記孔を介して流通されていることを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項5乃至7のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、前記移動規制部は軸方向に向けて環状面を有しており、前記付勢部材は前記環状面に対して当接して前記第1の断続部の締結方向へ移動を規制されていることを特徴とする。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項5乃至7のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、前記付勢部材及び前記移動規制部は、前記凹部内に収容配置されていることを特徴とする。
【0017】
請求項10記載の発明は、請求項5乃至9のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、前記移動規制部は径方向に向けて支持面を有しており、前記付勢部材は前記支持面に対して当接して径方向に支持されていることを特徴とする。
【0018】
請求項11記載の発明は、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、前記断続操作部は前記押圧部材を前記第1の断続部の接続方向に押圧するカム機構を備え、前記押圧部材における前記付勢部材の作動位置は前記カム機構の作動位置に比べ外周側に位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の動力伝達装置は、押圧部材の凹部内には押圧部材を第1の断続部の接続解除方向に付勢する付勢部材が第1の断続部のクラッチ板の軸方向の投影面内に臨んで配置されているので、内側回転部材とクラッチ板との連結部の設計変更を極力抑制したうえで、十分な荷重、たわみ特性を有した付勢部材を配置することができる。
【0020】
また、押圧部材の凹部の半径方向を大きく設定することにより、半径方向に大きく形成された付勢部材を配置させることができ、付勢部材の付勢力を十分に確保することができる。
【0021】
従って、第1の断続部の断続特性に影響を与えることがなく、第1の断続部に対する第2の断続部での引きずりトルクの影響を抑制することができる。
【0022】
請求項2記載の動力伝達装置は、押圧部材は内側回転部材に一体回転可能で軸方向移動可能に係合部を介して係合され、付勢部材は係合部の外周側に配置されているので、第1の断続部の断続特性に影響を与えることなく、押圧部材と内側回転部材とを係合させることができる。
【0023】
請求項3記載の動力伝達装置は、押圧部材は内側回転部材に一体回転可能で軸方向移動可能に付勢部材を介して連結されているので、押圧部材と内側回転部材とに係合部を設ける必要がなく、付勢部材を配置することにより容易に押圧部材と内側回転部材とを係合させることができる。
【0024】
請求項4記載の動力伝達装置は、内側回転部材と付勢部材との間には付勢部材の軸方向への移動を規制する移動規制部が設けられているので、付勢部材が配置位置から移動することがなく、押圧部材に対して安定した付勢力を与えることができる。また、付勢部材の組付けにおいて、付勢部材を容易に位置決めすることができ、組付け性を向上することができる。
【0025】
なお、移動規制部は、内側回転部材自体、又は付勢部材自体に直接一体的に設けることが可能であるが、内側回転部材と付勢部材との間にいずれかの部材に固定される別部材を係合して両部材の軸方向移動を規制してもよい。
【0026】
請求項5記載の動力伝達装置は、複数の内側クラッチ板の表裏面側の空間が開口を介して環状の凹部と連通することで、断続部の断続作用によって縮小する空間から環状の凹部へオイルが放出され、周方向均等に断続作用が得られる。
【0027】
請求項6記載の動力伝達装置は、切欠き部により付勢部材の剛性を落としてバネ定数を低下させることで、凹部の軸方向高さの省スペース化を図りながら、付勢部材のストローク量を十分に確保することが出来る。
【0028】
請求項7記載の動力伝達装置は、オイルの流通を促進し、潤滑・冷却性を向上させることができる。
【0029】
請求項8記載の動力伝達装置は、付勢部材を環状面に当接させることで、付勢部材の変形時においても周方向で均等な荷重を生じさせることができ、第1の断続部の締結機能及び解除機能が安定する。
【0030】
請求項9記載の動力伝達装置は、凹部内に付勢部材及び移動規制部を収容することで第1の断続部との干渉を防止して、コンパクトな配置が可能になる。
【0031】
請求項10記載の動力伝達装置は、付勢部材を支持面に当接させることで、付勢部材と移動規制部を挟んで径方向に対向配置された部材との間の干渉を防止することができ、第1の断続部の締結機能及び解除機能が安定する。
【0032】
請求項11記載の動力伝達装置は、押圧部材における付勢部材の作動位置がカム機構の作動位置に比べて外周側に位置しているので、押圧部材の押圧部と付勢部材の作動位置とカム機構の作動位置を外周側から順に内周側に配置することができる。従って、各機能部を軸方向に並列して配置することがないので、押圧部材の軸方向肉厚の増大を抑制して、装置が軸方向に大型化することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1〜図5を用いて本発明の実施の形態に係る動力伝達装置について説明する。
【0034】
(第1実施形態)
図1を用いて第1実施形態について説明する。
【0035】
本実施形態の動力伝達装置1は、外側回転部材3と、外側回転部材3と相対回転可能に配置された内側回転部材5と、外側回転部材3と内側回転部材5とにそれぞれ連結部7,9を介して連結された複数のクラッチ板11,13からなる第1の断続部としてのメインクラッチ15と、メインクラッチ15のクラッチ板11,13を押圧する環状の押圧面を有する押圧部17が外周側に形成された環状の押圧部材としてのプレッシャリング19を有する断続操作部としてカム機構21を備え、カム機構21を作動させる第2の断続部としてのパイロットクラッチ23と、パイロットクラッチ23を断続操作する操作源として電磁石25を有したアクチュエータ27とを備えている。そして、プレッシャリング19の押圧部17の内周側で押圧部17の径方向内側(内周側)で連結部9の径方向外側(外周側)には環状に形成された凹部29が形成され、凹部29内にはプレッシャリング19をメインクラッチ15の接続解除方向に付勢する付勢部材としての皿バネ31がメインクラッチ15のクラッチ板11,13の軸方向の投影面内に臨んで配置されている。より詳細には、クラッチ板13の軸方向の投影面内に臨んでおり、クラッチ板11の内径部側に対しても軸方向の投影面内に臨んでいる。
【0036】
また、皿バネ31はクラッチ板15と軸方向に対向する凹部29の半径方向壁面32の外径部に当接して、プレッシャリング19をメインクラッチ15の解除方向に付勢するように作動位置が設けられている。さらに、凹部29の半径方向壁面32の内径部の裏面側には、カム機構21の押圧力を受ける作動位置が設けられている。つまり、プレッシャリング19における皿バネ31の作動位置は、カム機構21の作動位置に比べ外周側に位置している。
【0037】
また、プレッシャリング19は、内側回転部材5に一体回転可能で軸方向移動可能に係合部としての連結部9の端部に係合する雌スプライン形状を有する係合凹部30を介して係合され、皿バネ31は、連結部9の外周側に配置されている。また、凹部29は、係合凹部30の外周側で軸方向位置がずれて隣接して形成されている。
【0038】
図1に示すように、外側回転部材3は、一端壁が一体固定されたフロントハウジング33とクラッチハウジング35と他端壁としてのロータハウジング37とを備えている。フロントハウジング33の一端壁と連続して軸状に形成された部分の外周には、スプライン形状の連結部39が形成され、入出力部材の一方(不図示)に連結される。一端壁には、外側回転部材3内部に潤滑オイルを封入する孔部41が形成され、蓋部材43によって閉塞されている。このフロントハウジング33は、一端壁の外径側を溶接などによってクラッチハウジング35と一体的に固定されている。
【0039】
クラッチハウジング35は、筒状に形成され、内周側にメインクラッチ15のアウタクラッチ板11が連結されるスプライン形状の連結部7が形成されている。また、クラッチハウジング35は、端部の内周に形成されたネジ部45でロータハウジング37にネジ止めされると共に、ナット47で固定されるロックナット機能によってロータハウジング37に固定されている。なお、他端壁としてのロータハウジング37は、クラッチハウジング35と一体形成してもよく、或いは溶接により固着させてもよい。
【0040】
ロータハウジング37は、磁性材料で形成され、フロントハウジング33及びクラッチハウジング35と一体回転される。また、ロータハウジング37とクラッチハウジング35との間には、外側回転部材3内部と外部とを区画するシール部材としてのOリング49が配置されている。この外側回転部材3の内周側には、内側回転部材5が配置されている。
【0041】
内側回転部材5は、フロントハウジング33とロータハウジング37に対して軸方向両端側をベアリング51と銅やアルミニウムなどの非磁性材の摺動ブッシュ53を介して外側回転部材3と相対回転可能に半径方向に支持されている。また、内側回転部材5の内周側には、スプライン形状の連結部55が形成され、入出力部材の他方(不図示)に連結される。また、内側回転部材5の外周側には、メインクラッチ15のインナクラッチ板13が連結されるスプライン形状の連結部9が形成されている。また、内側回転部材5とロータハウジング37との間にはシール部材としてのXリング57が配置されると共に、内側回転部材5の内部には隔壁59が設けられ、外側回転部材3内部と外部とを区画している。この内側回転部材5は、メインクラッチ15によって外側回転部材3と断続される。
【0042】
メインクラッチ15は、クラッチハウジング35の連結部7に軸方向移動可能でクラッチハウジング35と一体回転可能に連結する複数のアウタクラッチ板11と、内側回転部材5の連結部9に軸方向移動可能で内側回転部材5と一体回転可能に連結する複数のインナクラッチ板13とで構成されている。また、各々のインナクラッチ板13には、摺動摩擦面の内周側に孔61が形成されている。この孔61には、潤滑オイルが流通され、メインクラッチ15を潤滑・冷却している。また、プレッシャリング19にも孔20が設けられ、孔61を流通するオイルが凹部29を介して孔20を流通するようにされている。このメインクラッチ15は、カム機構21で生じたカムスラスト力によって移動されたプレッシャリング19に押圧されて接続され、外側回転部材3と内側回転部材5とを接続する。
【0043】
カム機構21は、プレッシャリング19とカムリング63とに周方向に6ヶ所形成されたカム面を対向させ、この間に介在させたカムボール65とを備えている。プレッシャリング19は、内周側が内側回転部材5の係合部としての連結部9に係合凹部30を介して軸方向移動可能で内側回転部材5と一体回転可能に連結されている。また、プレッシャリング19の外周側には、メインクラッチ15の複数のクラッチ板11,13を押圧する押圧部17が形成されている。この押圧部17の内周側には、皿バネ31を配置させる凹部29が形成されている。
【0044】
前述したように皿バネ31は、凹部29内でメインクラッチ15のクラッチ板11,13の軸方向の投影面内に臨んで配置されていると共に、孔61に対しても軸方向の投影面内に臨んで配置され連結部9の外周側に配置されている。この皿バネ31は、プレッシャリング19をメインクラッチ15の接続解除方向に付勢している。また、皿バネ31は、後述する第6実施形態に示される皿バネ503と同様の形状を備えており、環状に形成されると共に、周方向複数箇所に切欠き部504が形成され、プレッシャリング19の軸方向の作動ストロークを確保している。また、この切欠き部504は前述した孔61と連通し、凹部29内の油を流通させ、また孔20と連通してさらにオイルを装置内で広く流通させることができる。なお、皿バネの形状は各実施形態とも同様の構造をなすもので隣接する各部材との配置及び機能も同様であるので以降の実施形態において記載を省略する。
【0045】
カムリング63は、内側回転部材5の外周に軸方向移動可能に配置されている。このカムリング63とロータハウジング37との間には、カム機構21で生じるスラスト反力を受けるスラストベアリング67が配置されている。カムボール65は、プレッシャリング19とカムリング63との間に配置されている。このカムボール65は、パイロットクラッチ23の接続によってプレッシャリング19とカムリング63との間に差回転が生じることにより、パイロットクラッチ23に生じる摩擦トルクに応じた強さでプレッシャリング19を皿バネ31の付勢力に抗してメインクラッチ15側へ軸方向押圧移動させるカムスラスト力を発生させる。なお、スラストベアリング67に変えて、所定摩擦係数を有する摺動ワッシャ(1枚〜複数枚)を配置することで、パイロットクラッチ23の摩擦トルクをカム機構21に作用させたときにカムリング63が得るスラスト反力を用いてカム機構21のスラスト力を増大させることができる。
【0046】
パイロットクラッチ23は、クラッチハウジング35の連結部7に軸方向移動可能でクラッチハウジング35と一体回転可能に連結する複数のアウタクラッチ板と、カムリング63の外周に軸方向移動可能でカムリング63と一体回転可能に連結する複数のインナクラッチ板とで構成されている。このパイロットクラッチ23は、アクチュエータ27によって断続操作される。
【0047】
アクチュエータ27は、クラッチハウジング35内に配置されたアーマチャ69と電磁石25とを備えている。アーマチャ69は、磁性材で形成され、軸方向一側でパイロットクラッチ23を挟んでロータハウジング37と対向配置され、クラッチハウジング35の連結部7に軸方向移動可能に連結されている。このアーマチャ69は、電磁石25への通電により電磁石25側に吸引されてパイロットクラッチ23を接続させる。また、アーマチャ69は、軸方向他側でプレッシャリング19に対向配置されており、プレッシャリング19はカム機構21により生じるスラスト力を伝達可能な軸方向肉厚をアーマチャ69と皿バネ31の作動位置となる凹部29の半径方向壁面32の外径部の当接部位との間に確保している。
【0048】
電磁石25は、電磁コイル71とコア73とで構成され、ベアリング75を介してロータハウジング37に支持されている。コア73には、通電を制御するコントローラ(不図示)側に接続されるコネクタ77に接続されたリード線79が設けられており、コントローラの制御によって電磁コイル71に通電される。この電磁石25への通電により、コア73、ロータハウジング37、パイロットクラッチ23、アーマチャ69を介した磁力線が循環されて磁束ループが形成され、アーマチャ69が電磁石25側に吸引移動される。
【0049】
なお、アーマチャ69を外側回転部材3のクラッチハウジング35とロータハウジング37との外側に配置して電磁石25により直接吸引する構成とすることも可能である。この場合には、アーマチャとパイロットクラッチ23との間はロータハウジングに形成した開口を通じて、例えばロッドなどを介して連結する構成となる。
【0050】
ここで、ロータハウジング37と内側回転部材5の外周との径方向の間と、非磁性材の摺動ブッシュ53とXリング57との軸方向の間とで摺動ブッシュ53と同等のすき間寸法を有する環状のエアギャップ81を形成している。このエアギャップ81は、非磁性材の摺動ブッシュ53と共にロータハウジング37を透過する磁束が内側回転部材5側に漏れることを防止している。また、Xリング57は、電磁石25の電磁コイル71に対して軸方向外側に設けられており、ロータハウジング37の電磁コイル71と対向する部分の磁路面積を減少させることなく、磁束が透過する磁路断面積を大きく得られるようにしている。なお、ロータハウジング37の摺動ブッシュ53の端部が配置される部分には段部83が設けられており、ロータハウジング37を内側回転部材5に対して位置決めし、エアギャップ81を確保できるようにしている。
【0051】
このように構成された動力伝達装置1は、電磁石25への通電によってアーマチャ69が電磁石25側に吸引移動され、パイロットクラッチ23が接続される。パイロットクラッチ23が接続されるとカム機構21でカムスラスト力が発生してプレッシャリング19がメインクラッチ15側に押圧移動される。このプレッシャリング19の移動により押圧部17でメインクラッチ15のクラッチ板11,13を押圧してメインクラッチ15が接続され、外側回転部材3と内側回転部材5とが接続される。
【0052】
また、電磁石25への通電を停止することにより、皿バネ31によってプレッシャリング19がメインクラッチ15の接続解除方向に移動され、メインクラッチ15の接続が解除されて外側回転部材3と内側回転部材5との接続が解除されると共に、メインクラッチ15には各々のクラッチ板11,13の摺動部位に所定のすき間を与え、外側回転部材3と内側回転部材3が相対回転した場合にオイルの粘性による引きずりトルクが伝達されるのを防止している。また、皿バネ31によってプレッシャリング19の押圧部17とメインクラッチ15のインナクラッチ板13とが離間され、アウタクラッチ板11とインナクラッチ板13とが離間されるので、潤滑オイルの粘性や電磁石25の停止によって発生する残留磁気によってパイロットクラッチ23で引きずりトルクが発生したとしても、メインクラッチ15に引きずりトルクが伝達されることがなく、メインクラッチ15が接続されるのを防止することができる。
【0053】
このメインクラッチ15の接続解除状態での皿バネ31の付勢力を増加させたい場合には、プレッシャリング19の凹部29を径方向外側に延設させ、径方向に大きく形成させた皿バネ31を凹部29に配置させるか、凹部29の軸方向高さを増し皿バネ31の肉厚を厚くして配置させればよい。このように凹部29の設計を変更させることにより、例えば、連結部9を径方向外側に配置させ、メインクラッチ15のインナクラッチ板13の内周径を拡大させるなどのメインクラッチ15の設計変更を極力抑制しつつ、十分な荷重設定で、十分なたわみ特性を有した付勢部材を配置することができ、皿バネ31の付勢力を十分に調整することができる。
【0054】
このような動力伝達装置1では、プレッシャリング19の凹部29内にはプレッシャリング19をメインクラッチ15の接続解除方向に付勢する皿バネ31がメインクラッチ15のクラッチ板11,13の軸方向の投影面内に臨んで配置されているので、内側回転部材5とインナクラッチ板13との連結部9の設計変更を伴わずに皿バネ31を配置することができる。
【0055】
また、プレッシャリング19の凹部29の半径方向を大きく設定することにより、半径方向に大きく形成された皿バネ31を配置させることができ、皿バネ31の付勢力を十分に確保することができると共に、カム機構21のスラスト力伝達強度を低下させるようなプレッシャリング19の肉厚設定をしないで済み、各部材の強度バランスを高く保った形状設定と配置を可能にするものである。
【0056】
従って、メインクラッチ15の断続特性に影響を与えることがなく、メインクラッチ15に対するパイロットクラッチ23での引きずりトルクの影響を抑制することができる。
【0057】
また、プレッシャリング19は内側回転部材5に一体回転可能で軸方向移動可能に連結部9と連結する係合凹部30を介して係合され、皿バネ31は連結部9の外周側に配置されているので、メインクラッチ15の断続特性に影響を与えることなく、プレッシャリング19と内側回転部材5とを係合させることができる。
【0058】
さらに、プレッシャリング19における皿バネ31の作動位置がカム機構21の作動位置に比べて外周側に位置しているので、プレッシャリング19の押圧部17と皿バネ31の作動位置とカム機構21の作動位置を外周側から順に内周側に配置することができる。従って、各機能部を軸方向に並列して配置することがないので、プレッシャリング19の軸方向肉厚の増大を抑制して、装置が軸方向に大型化することを防止できる。
【0059】
(第2実施形態)
図2を用いて第2実施形態について説明する。
【0060】
本実施形態の動力伝達装置101は、係合部としての連結部9には皿バネ31の軸方向への移動を規制する移動規制部としてのスナップリング103(別部材を設けた構成)が設けられている。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、構成及び機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、得られる効果は同一である。
【0061】
図2に示すように、連結部9には係合する環状凹部が形成され、皿バネ31の内周側と当接するスナップリング103が固定されている。スナップリング103は、皿バネ31の軸方向への移動を規制すると共に、皿バネ31の内周側がメインクラッチ15のインナクラッチ板13の内周側と当接してインナクラッチ板13に倒れが生じることを防止している。
【0062】
このような動力伝達装置101では、連結部9には皿バネ31の軸方向への移動を規制するスナップリング103が設けられているので、皿バネ31が配置位置から移動することがなく、押圧部材に対して安定した付勢力を与えることができる。また、皿バネ31の組付けにおいて、皿バネ31を容易に位置決めすることができ、組付け性を向上することができる。
【0063】
また、皿バネ31とスナップリング103は、押圧部17におけるメインクラッチ15の押圧面より軸方向カム機構21側に後退して凹部29内に収容配置されており、皿バネ31の変形時においても周方向で均等な荷重を生じさせることができ、メインクラッチ15の締結機能及び解除機能が安定する。また、凹部29内に皿バネ31及びスナップリング103を収容することでメインクラッチ15との干渉を防止して、コンパクトな配置が可能になる。
【0064】
(第3実施形態)
図3を用いて第3実施形態について説明する。
【0065】
本実施形態の動力伝達装置201は、係合部としての連結部203には皿バネ31の軸方向への移動を規制する移動規制部としての段部205が設けられている。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
【0066】
図3に示すように、連結部203には、皿バネ31の内周側と当接するように連結部203のスプライン外径より小径に形成された段部205が形成されている(内側回転部材5自体に直接一体的に設ける構成)。段部205は、連結部203の皿バネ31が配置された部分をメインクラッチ15のインナクラッチ板13が連結された部分よりも小径とすることによって皿バネの軸方向位置決めがなされている。この段部205によって、皿バネ31の軸方向への移動を規制することができると共に、皿バネ31の軸方向の位置決めを別部材を追加することなく容易に行うことができる。
【0067】
このような動力伝達装置201では、連結部203に段部205を設けることによって、スナップリングのような別部材を用いずに皿バネ31の軸方向移動の規制及び位置決めをすることができ、部品点数を削減することができる。
【0068】
また、皿バネ31と段部205は、押圧部17におけるメインクラッチ15の押圧面より軸方向カム機構21側に後退して凹部29内に収容配置されており、皿バネ31の変形時においても周方向で均等な荷重を生じさせることができ、メインクラッチ15の締結機能及び解除機能が安定する。また、凹部29内に皿バネ31及び段部205を収容することでメインクラッチ15との干渉を防止して、コンパクトな配置が可能になる。
【0069】
(第4実施形態)
図4を用いて第4実施形態について説明する。
【0070】
本実施形態の動力伝達装置301は、プレッシャリング19が内側回転部材5に一体回転可能で軸方向移動可能に係合部として内側回転部材5の連結部9の端に隣接して形成された小径の回り止め部303を介して係合凹部30が係合され、皿バネ31が連結部9の端に当接し回り止め部303の外周側に配置されている(内側回転部材5自体に直接一体的に設けられた構成)。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
【0071】
図4に示すように、プレッシャリング19の係合凹部30は、内側回転部材5に設けられた回り止め部303を介して係合している。回り止め部303は、連結部9の端に隣接し軸方向外側で連結部9よりも内径側に設けられている。この回り止め部303の外周側には、皿バネ31が配置されている。皿バネ31の内周側は、連結部9の端部と当接することで、皿バネ31の軸方向移動の規制と位置決めとがなされている。また、回り止め部303が連結部9よりも内径側に設けられているので、皿バネ31の内径側の寸法に自由度を持たせることができる。
【0072】
このような動力伝達装置301では、回り止め部303が連結部9の軸方向外側に設けられ、回り止め部303の外周側に皿バネ31が配置されているので、皿バネ31を配置させるために連結部9の設計変更を極力抑制することができ、メインクラッチ15の断続特性に影響を与えることがない。
【0073】
また、回り止め部303が連結部9よりも内径側に設けられているので、皿バネ31の内径側の寸法に自由度を持たせることができ、皿バネ31の形状設定を容易にすることができる。
【0074】
さらに、本実施形態の動力伝達装置301は、係合部としての連結部9の端面10が皿バネ31の軸方向への移動を規制する移動規制部をなしている。また、皿バネ31と端面10は、押圧部17におけるメインクラッチ15の押圧面より軸方向カム機構21側に後退して凹部29内に収容配置されており、皿バネ31の変形時においても周方向で均等な荷重を生じさせることができ、メインクラッチ15の締結機能及び解除機能が安定する。また、凹部29内に皿バネ31及び端面10を収容することでメインクラッチ15との干渉を防止して、コンパクトな配置が可能になる。
【0075】
(第5実施形態)
図5を用いて第5実施形態について説明する。
【0076】
本実施形態の動力伝達装置401は、プレッシャリング19が内側回転部材5に一体回転可能で軸方向移動可能に皿バネ403を介して連結されている。なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
【0077】
図5に示すように、皿バネ403の外径と内径には、複数の回り止め部405,407が形成されている。回り止め部405は、皿バネ403の外径に周方向等間隔に複数形成され、プレッシャリング19の凹部29内に形成された係合部409に係合される。回り止め部407は、皿バネ403の内径に周方向等間隔に複数形成され、内側回転部材5のスプライン形状の連結部411の数箇所に係合される。なお、この連結部411は、皿バネ403が配置された部分がメインクラッチ15のインナクラッチ板13が連結された部分よりも小径に形成されて段部413が形成され、この段部413が皿バネ403の内周側と当接し、皿バネ403の軸方向移動の規制と位置決めをしている。この皿バネ403をプレッシャリング19と内側回転部材5とに係合させることにより、プレッシャリング19が内側回転部材5に一体回転可能で軸方向移動可能に皿バネ403を介して連結される。
【0078】
このような動力伝達装置401では、プレッシャリング19は内側回転部材5に一体回転可能で軸方向移動可能に皿バネ403を介して連結されているので、プレッシャリング19と内側回転部材5とに係合部を設ける必要がなく、皿バネ403を配置することにより容易にプレッシャリング19と内側回転部材5とを係合させることができる。
【0079】
また、皿バネ31と段部413は、押圧部17におけるメインクラッチ15の押圧面より軸方向カム機構21側に後退して凹部29内に収容配置されており、皿バネ31の変形時においても周方向で均等な荷重を生じさせることができ、メインクラッチ15の締結機能及び解除機能が安定する。また、凹部29内に皿バネ31及び段部413を収容することでメインクラッチ15との干渉を防止して、コンパクトな配置が可能になる。
【0080】
(第6実施形態)
図6を用いて第6実施形態について説明する。
【0081】
本実施形態の動力伝達装置501は、皿バネ503は、周方向に複数形成された切欠き部504を備えている。なお、他の実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、他の実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
【0082】
図6に示すように、皿バネ503は、環状に形成され、内周側の周方向に複数の切欠き部504が形成されている。切欠き部504は、周方向等間隔に内径側に複数切り取られている。この切欠き部504の周方向間には凸部505が設けられ、この凸部505は、スナップリング103に軸方向に当接されている。
【0083】
スナップリング103は、両端部が対向配置されたC型状に形成され、内側回転部材5の外周に形成されたスプライン状の連結部9の外周に装着されている。このスナップリング103は、軸方向の面が皿バネ503の凸部505と当接され、皿バネ503がメインクラッチ15の締結方向へ移動することを規制されている。
【0084】
このような動力伝達装置501では、切欠き部504により皿バネ503の剛性を落としてバネ定数を低下させることで、凹部29の軸方向高さの省スペース化を図りながら、皿バネ503のストローク量を十分に確保することが出来る。
【0085】
(第7実施形態)
図7,図8を用いて第7実施形態について説明する。
【0086】
本実施形態の動力伝達装置601は、内側回転部材5と皿バネ503との間には、皿バネ503がメインクラッチ15の締結方向へ移動するのを規制する移動規制部としてのカラー603(別部材を設けた構成)が設けられている。
【0087】
また、凹部29は押圧部17の内周側に環状に形成されており、メインクラッチ15を収容する外側回転部材3の内部には、メインクラッチ15を潤滑するオイルが収容され、複数の内側クラッチ板としてのインナクラッチ板13の各々には複数の外側クラッチ板としてのアウタクラッチ板11との摺動部の内周側に開口としての孔61が形成されており、孔61を介して環状の凹部29に連通されている。
【0088】
さらに、プレッシャリング19には表裏面を連通する孔20が形成されており、潤滑オイルが孔61と切欠き部504及び孔20を介して流通されている。
【0089】
また、カラー603は軸方向に向けて環状面605を有しており、皿バネ503は環状面605に対して当接してメインクラッチ15の締結方向へ移動を規制されている。
【0090】
さらに、皿バネ503及びカラー603は、凹部29内に収容配置されている。
【0091】
また、カラー603は径方向に向けて支持面607を有しており、皿バネ503は支持面607に対して当接して径方向に支持されている。なお、他の実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、他の実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
【0092】
図7,図8に示すように、カラー603は、内側回転部材5の外周に挿入され、内側回転部材5のスプライン外径より小径に形成された段部609に当接されて軸方向への移動が規制されている。このカラー603は、環状面605と支持面607とが連続する一部材で形成されている。環状面605は、皿バネ503に対して軸方向に向けて周方向の全域に形成され、皿バネ503の凸部505が環状面605に対して当接することにより皿バネ503がメインクラッチ15の締結方向へ移動することを規制されている。支持面607は、皿バネ503に対して径方向に向けて周方向の全域に形成され、皿バネ503の凸部505の内周側が支持面607に対して当接することにより皿バネ503が径方向に支持、すなわちセンタリングされている。
【0093】
このような皿バネ503とカラー603は、プレッシャリング19において押圧部17の内周側に環状に形成された凹部29内に収容配置されている。また、メインクラッチ15を収容する外側回転部材3の内部には、メインクラッチ15を潤滑する潤滑オイルが収容されている。この潤滑オイルは、インナクラッチ板13の各々にアウタクラッチ板11との摺動部の内周側に形成された孔61を介して環状の凹部29に流通されている。また、潤滑オイルは、インナクラッチ板13の孔61と皿バネ503の切欠き部504及びプレッシャリング19に表裏面を連通するように形成された孔20を介して流通されている。
【0094】
ここで、内側回転部材5の外周に形成されたスプライン状の連結部9には、潤滑オイルの流通を促進させるために複数(ここでは2つ)の欠歯部611が形成されている。また、皿バネ503は、メインクラッチ15の締結時に撓まされ、皿バネ503の内周側に形成された凸部505が欠歯部611に入り込んでしまい、トルク伝達時のトルクが安定しない可能性があった。加えて、スナップリング103のように完全に環状に形成されずに切り欠きを有している場合、皿バネ503が撓まされたときに、この切り欠きに皿バネ503の凸部505が入り込んでしまう可能性があった。そこで、環状面605と支持面607とを有するカラー603を移動規制部として用いることにより、皿バネ503が撓んでも、軸方向においては皿バネ503の凸部505が入り込む切り欠きがなく、径方向においては内側回転部材5の欠歯部611に入り込むことがなく、トルク伝達時のトルクを安定させることができる。
【0095】
このような動力伝達装置601では、内側回転部材5と皿バネ503との間には皿バネ503がメインクラッチ15の締結方向へ移動するのを規制するカラー603が設けられているので、皿バネ503が配置位置から移動することがなく、プレッシャリング19に対して安定した付勢力を与えることができる。また、皿バネ503の組付けにおいて、皿バネ503を容易に位置決めすることができ、組付け性を向上することができる。
【0096】
また、複数のインナクラッチ板13の表裏面側の空間が孔61を介して環状の凹部29と連通することで、メインクラッチ15の断続作用によって縮小する空間から環状の凹部29へオイルが放出され、周方向均等に断続作用が得られる。
【0097】
さらに、プレッシャリング19には表裏面を連通する孔20が形成されており、潤滑オイルが孔61と切欠き部504及び孔20を介して流通されているので、オイルの流通を促進し、潤滑・冷却性を向上させることができる。
【0098】
また、皿バネ503をカラー603の環状面605に当接させることで、皿バネ503の変形時においても周方向で均等な荷重を生じさせることができ、メインクラッチ15の締結機能及び解除機能が安定する。
【0099】
さらに、皿バネ503とカラー603は、押圧部17におけるメインクラッチ15の押圧面より軸方向カム機構21側に後退して凹部29内に収容配置されており、プレッシャリング19の凹部29内に皿バネ503及びカラー603を収容することでメインクラッチ15との干渉を防止して、コンパクトな配置が可能になる。
【0100】
また、皿バネ503の内周面としての凸部505の内周面をカラー603の支持面607に当接させることで、皿バネ503とカラー603を挟んで径方向に対向配置された内側回転部材5との間の干渉、詳細には内側回転部材5の外周に形成されたスプライン状の連結部9の欠歯部611との干渉を防止することができ、メインクラッチ15の締結機能及び解除機能が安定する。
【0101】
(第8実施形態)
図9を用いて第8実施形態について説明する。
【0102】
本実施形態の動力伝達装置701は、内側回転部材5と皿バネ503との間には、皿バネ503がメインクラッチ15の締結方向へ移動するのを規制する移動規制部としての巻き部材703(別部材を設けた構成)が設けられている。
【0103】
また、巻き部材703は軸方向に向けて環状面705を有しており、皿バネ503は環状面705に対して当接してメインクラッチ15の締結方向へ移動を規制されている。なお、他の実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、他の実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
【0104】
図9に示すように、巻き部材703は、両端部が少なくとも1回交差するように2重に巻かれ、拡径可能に環状に形成されている。この巻き部材703は、拡径されて内側回転部材5の外周に挿入され、巻き部材703自体が縮径することにより内側回転部材5の外周上に装着される。また、巻き部材703には、皿バネ503に対して軸方向に向けて周方向の全域に環状面705が形成され、皿バネ503の凸部505が環状面705に対して当接することにより皿バネ503がメインクラッチ15の締結方向へ移動することを規制されている。
【0105】
このような動力伝達装置701では、移動規制部として少なくとも2重に巻かれた巻き部材703を用いているので、複雑な構成を用いずに皿バネ503がメインクラッチ15の締結方向へ移動するのを規制することができる。
【0106】
また、皿バネ503を巻き部材703の環状面705に当接させることで、皿バネ503の変形時においても周方向で均等な荷重を生じさせることができ、メインクラッチ15の締結機能及び解除機能が安定する。
【0107】
さらに、皿バネ503と巻き部材703は、押圧部17におけるメインクラッチ15の押圧面より軸方向カム機構21側に後退して凹部29内に収容配置されており、皿バネ503の変形時においても周方向で均等な荷重を生じさせることができ、メインクラッチ15の締結機能及び解除機能が安定する。また、凹部29内に皿バネ503及び巻き部材703を収容することでメインクラッチ15との干渉を防止して、コンパクトな配置が可能になる。
【0108】
(第9実施形態)
図10を用いて第9実施形態について説明する。
【0109】
本実施形態の動力伝達装置801は、内側回転部材5と皿バネ503との間には、皿バネ503がメインクラッチ15の締結方向へ移動するのを規制する移動規制部としてのスナップリング103とワッシャ803(別部材を設けた構成)とが設けられている。
【0110】
また、ワッシャ803は軸方向に向けて環状面805を有しており、皿バネ503は環状面805に対して当接してメインクラッチ15の締結方向へ移動を規制されている。なお、他の実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して説明を省略するが、他の実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
【0111】
図10に示すように、ワッシャ803は、環状に形成されて内側回転部材5の外周に挿入され、スナップリング103によって軸方向への移動が規制されている。このワッシャ803には、皿バネ503に対して軸方向に向けて周方向の全域に環状面805が形成され、皿バネ503の凸部505が環状面805に対して当接することにより皿バネ503がメインクラッチ15の締結方向へ移動することを規制されている。
【0112】
このような動力伝達装置801では、移動規制部としてスナップリング103に加えてワッシャ803を用いているので、皿バネ503をワッシャ803の環状面805に当接させることで、皿バネ503の変形時においても周方向で均等な荷重を生じさせることができ、メインクラッチ15の締結機能及び解除機能が安定する。
【0113】
また、皿バネ503とワッシャ803は、押圧部17におけるメインクラッチ15の押圧面より軸方向カム機構21側に後退して凹部29内に収容配置されており、皿バネ503の変形時においても周方向で均等な荷重を生じさせることができ、メインクラッチ15の締結機能及び解除機能が安定する。また、凹部29内に皿バネ503及びワッシャ803を収容することでメインクラッチ15との干渉を防止して、コンパクトな配置が可能になる。
【0114】
なお、本発明の各実施形態では、付勢部材として皿バネを用いているが、これに限らず、押圧部材を第1の断続部の接続解除方向に付勢する付勢力を有するものであればどのような形態の付勢部材を用いてもよい。
【0115】
また、付勢部材に周方向に複数形成された切欠き部が付勢部材の内径側に突設されているが、これに限らず、付勢部材の外径側に突設させる、又は付勢部材の周方向の面に複数形成させるなど付勢部材の剛性を落としてバネ定数を低下させるものであれば、どのような形態であってもよい。
【0116】
さらに、操作源として電磁石を用いているが、これに限らず、電動モータ、油圧などの流体圧を用いたシリンダー、ピストンなどを操作源として適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】第1実施形態の動力伝達装置の断面図である。
【図2】第2実施形態の動力伝達装置の断面図である。
【図3】第3実施形態の動力伝達装置の断面図である。
【図4】第4実施形態の動力伝達装置の断面図である。
【図5】第5実施形態の動力伝達装置の断面図である。
【図6】第6実施形態の動力伝達装置の拡大側面図である。
【図7】(a)第7実施形態の動力伝達装置の断面図である。(b)第7実施形態のカラーの斜視図である。
【図8】第7実施形態の動力伝達装置の拡大側面図である。
【図9】(a)第8実施形態の動力伝達装置の断面図である。(b)第8実施形態の巻き部材の斜視図である。
【図10】第9実施形態の動力伝達装置の断面図である。(b)第9実施形態のスナップリングとワッシャの斜視図である。
【符号の説明】
【0118】
1,101,201,301,401,501,601,701,801…動力伝達装置
3…外側回転部材
5…内側回転部材
7,9,203,411…連結部(係合部)
11,13…クラッチ板
15…メインクラッチ(第1の断続部)
17…押圧部
19…プレッシャリング(押圧部材)
20…孔
21…カム機構(断続操作部)
23…パイロットクラッチ(第2の断続部)
25…電磁石
27…アクチュエータ
29…凹部
31,403,503…皿バネ(付勢部材)
61…孔(開口)
103…スナップリング(移動規制部)
205,413…段部(移動規制部)
303…回り止め部(係合部)
504…切欠き部
603…カラー(移動規制部)
605,705,805…環状面
607…支持面
703…巻き部材703
803…ワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側回転部材と、該外側回転部材と相対回転可能に配置された内側回転部材と、前記外側回転部材と前記内側回転部材とにそれぞれ連結部を介して連結されると共に軸方向に交互に配列された複数の外側クラッチ板と複数の内側クラッチ板とからなる第1の断続部と、該第1の断続部のクラッチ板を押圧する押圧部が外周側に形成された環状の押圧部材を有する断続操作部と、該断続操作部を作動させる第2の断続部と、該第2の断続部を断続操作する操作源を有したアクチュエータとを備えた動力伝達装置であって、
前記押圧部材の押圧部の内周側には凹部が形成され、該凹部内には前記押圧部材を前記第1の断続部の接続解除方向に付勢する付勢部材が前記第1の断続部のクラッチ板の軸方向の投影面内に臨んで配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記押圧部材は、前記内側回転部材に一体回転可能で軸方向移動可能に係合部を介して係合され、前記付勢部材は、前記係合部の外周側に配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記押圧部材は、前記内側回転部材に一体回転可能で軸方向移動可能に前記付勢部材を介して連結されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記内側回転部材と前記付勢部材との間には、前記付勢部材が前記第1の断続部の締結方向へ移動するのを規制する移動規制部が設けられていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4記載の動力伝達装置であって、
前記凹部は前記押圧部の内周側に環状に形成されており、前記第1の断続部を収容する前記外側回転部材の内部には、前記第1の断続部を潤滑する潤滑オイルが収容され、前記複数の内側クラッチ板の各々には前記複数の外側クラッチ板との摺動部の内周側に開口が形成されており、前記開口を介して前記環状の凹部に連通されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項5記載の動力伝達装置であって、
前記付勢部材は、周方向に複数形成された切欠き部を備えていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項6記載の動力伝達装置であって、
前記押圧部材には表裏面を連通する孔が形成されており、潤滑オイルが前記開口と前記切欠き部及び前記孔を介して流通されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記移動規制部は軸方向に向けて環状面を有しており、前記付勢部材は前記環状面に対して当接して前記第1の断続部の締結方向へ移動を規制されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記付勢部材及び前記移動規制部は、前記凹部内に収容配置されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項10】
請求項5乃至9のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記移動規制部は径方向に向けて支持面を有しており、前記付勢部材は前記支持面に対して当接して径方向に支持されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記断続操作部は前記押圧部材を前記第1の断続部の接続方向に押圧するカム機構を備え、前記押圧部材における前記付勢部材の作動位置は前記カム機構の作動位置に比べ外周側に位置していることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−257558(P2009−257558A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115952(P2008−115952)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000225050)GKN ドライブライン トルクテクノロジー株式会社 (409)
【Fターム(参考)】