説明

動力伝達装置

【課題】動力源から変速機までの間に入力装置と並列にワンウェイクラッチを配置したことにより、燃費の向上をはかることの可能な動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力源2が出力したトルクを変速機5に伝達する入力装置4,12を備えた動力伝達装置において、前記入力装置4,12に対して並列に配置されるとともに前記変速機5から動力源2へのトルクの伝達が可能でかつ前記動力源2から変速機5へのトルクの伝達を行わないワンウェイクラッチ15が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力伝達装置に関し、特に動力源から変速機までの間に入力装置を備えている動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達装置は車両用の動力伝達装置として多用されており、車両用の動力伝達装置では可及的に燃料消費が少ないことが望まれる。その一例が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された動力伝達装置は、エンジンがストールする可能性が高くない場合は、より低車速領域までフューエルカットを行うことを目的とするものであって、フューエルカット領域が必要以上に狭くなって燃費が悪化することを抑制する構成が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、車両の減速時において、エンジン回転数を直ぐには低下させないようにして、燃料カット期間を長くして、燃費の向上をはかれるようにした減速時直結制御を行えるようにするとともに、更にはこの減速時直結制御を駆動系のショックやエンスト等を発生させないようにしながら行えるようにした、自動変速機のトルクコンバータ・ダンパクラッチ制御装置が記載されている。
【0004】
さらに特許文献3には、フューエルカット領域がエンジン回転速度が低回転速度側に応じた低回転速度側に変更されるので、エンジンへの燃料供給の停止時間がより長くなって燃費が向上する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−146965号公報
【特許文献2】特開平7−42825号公報
【特許文献3】特開2004−263646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載されている動力伝達装置は、エンジンがストールする可能性が高くない場合は、より低車速領域までフューエルカットを行うこととしているが、ロックアップクラッチの解放を伴ってフューエルカットからの復帰を行うので、ロックアップクラッチの解放制御に要する時間の間にエンジン回転数が低下してエンジンストールに到らないようにするために、ロックアップクラッチの解放制御に要する時間に応じて高い回転数をフューエルカット復帰回転数とすることになり、その分、フューエルカットの時間が短くなる可能性がある。
【0007】
また、特許文献2に記載されている動力伝達装置は、燃料カット期間を長くして燃費の向上をはかれるように構成されている。さらに、上述した特許文献3に記載されている動力伝達装置は、燃料供給の停止時間がより長くなって燃費は向上する。しかし、これら特許文献2および3に記載された構成では、低回転数領域までロックアップクラッチを係合させて燃料供給停止の時間を長くするとした場合、ロックアップクラッチの解放の遅れによってエンジンの回転が不安定になったり、ストールする可能性がある。
【0008】
この発明は、上述した技術的課題に着目してなされたものであって、動力源から変速機までの間に入力装置と並列にワンウェイクラッチを配置したことにより、変速機から遮断する制御の遅れによってエンジンが引き摺られてその回転数が低下するなどの事態を未然に回避し、燃費の向上を図ることの可能な動力伝達装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、動力源が出力したトルクを変速機に伝達する入力装置を備えた動力伝達装置において、前記入力装置に対して並列に配置されるとともに前記変速機から動力源へのトルクの伝達が可能でかつ前記動力源から変速機へのトルクの伝達を行わないワンウェイクラッチが設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、動力源から変速機へのトルクの伝達は入力装置によって行うことができ、これとは反対に変速機から動力源には、入力装置によらずにワンウェイクラッチによってトルクを伝達することができる。したがって、動力源への燃料もしくはエネルギの供給を停止している状態では、変速機が回転していれば、そのトルクによって動力源が強制的に回転させられ、その回転を維持することができ、こうして変速機および動力源の回転数が所定の回転数まで低下した時点で、動力源に燃料もしくはエネルギを供給すると動力源が自律回転し始める。その場合、動力源がトルクを出力するが、ワンウェイクラッチはそのトルクを変速機に伝達することがないから、動力源は変速機に引き摺られずに回転する。このようなワンウェイクラッチによるトルクの遮断は、トルクの作用方向が変化することにより自動的に生じるから、トルクの遮断に遅れがなく、その結果、例えば内燃機関を動力源とし、そのフューエルカットを行っている場合、復帰回転数を可及的に低回転数とし、フューエルカット時間を長くして燃費効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明にかかる動力伝達装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】エンジンの回転数と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を具体例に基づいて説明する。図1は、この発明にかかる動力伝達装置の一例を示す概略構成図である。同図において、動力伝達装置1は、動力源である例えばエンジン2のトルクを伝達するように構成されており、クランクシャフト3に連結された入力装置であるトルクコンバータ4を備え、そのトルクコンバータ4を介して変速機としてのギヤ部5にトルクを伝達するように構成されている。
【0013】
そのトルクコンバータ4は、従来知られているものと同様の構成であって、クランクシャフト3に連結されたポンプインペラー6とこれに対向して配置されているタービンランナー7とを有しており、そのタービンランナー7はシャフト8を介してギヤ部5に連結されている。そして、タービンランナー7からポンプインペラー6に向かうオイルの流れを制御するステーター9がこれにタービンランナー7とポンプインペラー6との間に配置されており、そのステーター9はワンウェイクラッチ10によって所定の固定部11に連結されている。
【0014】
また、トルクコンバータ4はロックアップクラッチ12を備えている。このロックアップクラッチ12は、タービンランナー7側にピストン13が取り付けてあり、油圧によってこのピストン13をフロントカバー14に押し付け、このとき発生する摩擦力によりフロントカバー14とタービンランナー7とを締結させるものである。
【0015】
上記のロックアップクラッチ12を備えた入力装置であるトルクコンバータ4と並列にワンウェイクラッチ15が配置されている。このワンウェイクラッチ15は、エンジン2がギヤ部5から入力されるトルクで回転されられる被駆動時にロックするように構成されている。
【0016】
つまり、ワンウェイクラッチ15は、所定の方向に回転数差がある2つの回転部材で係合してトルクを伝達し、またこれとは反対方向に回転数差がある場合には解放状態となってトルクの伝達を行わないクラッチ機構である。具体的には、ワンウェイクラッチ15は、その入力側にエンジン2が連結され、かつ出力側にギヤ部5が連結されていて、エンジン2が駆動されてトルクを出力することによりその回転数が出力側のギヤ部5の回転数以上になろうとする場合には解放状態となってエンジン2とギヤ部5との間を遮断し、これとは反対にギヤ部5の回転数がエンジン2の回転数以上となろうとする場合にはロック状態となってギヤ部5からエンジン2にトルクを伝達するように構成されている。
【0017】
この構成の動力伝達装置1の作用について説明すると、まずエンジン2がトルクを出力する駆動状態の場合、エンジン2からクランクシャフト3を介してトルクコンバータ4へトルクが伝達される。そして、トルクコンバータ4はその速度比に応じてトルクを増幅し、そのトルクをシャフト8を介してギヤ部5に伝達する。なお、トルクコンバータ4と並列に構成されているロックアップクラッチ12が係合している場合には、ロックアップクラッチ12を介してエンジン2からギヤ部5にトルクが伝達される。このような駆動状態では、エンジン2からギヤ部5に向けたトルクの伝達が生じ、またエンジン2の回転数がギヤ部5の回転数より高回転数であるから、トルクコンバータ12と並列に配置されているワンウェイクラッチ15は解放状態になる。
【0018】
そして、減速時に燃料の供給を停止するなどのことによりエンジン2が被駆動状態である場合では、ギヤ部5からエンジン2に向けたトルクの伝達が生じ、前記ワンウェイクラッチ15がロック状態(係合状態)になり、ギヤ部5のトルクがエンジン2に伝達される。したがって、ロックアップクラッチ12を解放状態に制御したとしても、エンジン2がギヤ部5からのトルクで強制的に回転させられるから、その回転数がいわゆるフューエルカット復帰回転数以上であれば、エンジン2に対する燃料の供給を停止し続けることができる。
【0019】
上記のエンジン2や動力伝達装置を搭載している車両の車速が低下するなどのことによってギヤ部5の回転数およびワンウェイクラッチ15によってギヤ部5に繋がっているエンジン2の回転数が低下し、エンジン2の回転数が予め定められているアイドル回転数もしくはフューエルカット復帰回転数にまで低下すると、エンジン2に対する燃料の供給が再開される。その結果、エンジン2はアイドル回転数などの所定の回転数が自律回転する。その場合、ギヤ部5の回転数はさらに低下しようとし、その回転数がエンジン回転数以下であれば、ワンウェイクラッチ15は解放状態になり、エンジン2とギヤ部5とのワンウェイクラッチ15を介した連結が解除される。したがって、ギヤ部5がエンジン2の回転数を引き下げる事態は生じない。これを図2に線図で示してある。このように、この発明に係る上記の装置によれば、エンジン2が自律回転し始めれば、その回転数がギヤ部5などの変速機によって引き下げられたり、それが要因となってエンジンストールに到ることがない。つまり、アイドル回転数などの低回転まで燃料カットを継続してもストールしないから燃料カットの継続時間が長くなり、燃費が向上する。
【0020】
したがって、ロックアップクラッチ12の解放のいかんにかかわらずにワンウェイクラッチ15の係合および解放によりエンジン2の低回転数領域まで燃料カットの時間を長くすることが可能となる。このため、図2に示すように、エンジン2はロックアップクラッチ12の応答性に関係なくエンジン2の回転数を再点火可能なアイドル回転数に低下するまで燃料カットが可能となる。このため燃料の消費が抑制され、燃費効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0021】
1…動力伝達装置、 2…エンジン、 3…クランクシャフト、 4…トルクコンバータ、 5…ギヤ部、 6…ポンプインペラー、 7…タービンランナー、 8…シャフト、 9…ステーター、 11…固定部、 15…ワンウェイクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源が出力したトルクを変速機に伝達する入力装置を備えた動力伝達装置において、
前記入力装置に対して並列に配置されるとともに前記変速機から動力源へのトルクの伝達が可能でかつ前記動力源から変速機へのトルクの伝達を行わないワンウェイクラッチが設けられていることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−223244(P2010−223244A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68009(P2009−68009)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】