説明

動力伝達装置

【課題】簡単な構造でオイルの攪拌抵抗を抑制可能な動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置は、車両に設けられる動力伝達装置であって、底部にオイルが貯留されたハウジング10と、ハウジング10内に収納され、動力を伝達するとともにハウジング10の底部に貯留されたオイル100を掻き上げるリングギヤ22とを備える。ハウジング10は、内部空間13を有する第1部材11と、第1部材11に対して車両の前後方向に並ぶように設けられた第2部材12とを含む。第2部材12は、内部空間13に向けて延出し、第1部材11とリングギヤ22の外周との間の距離の段差を縮小するように形成された延出部12Bを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、車両に設けられる動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003−254414号公報(特許文献1)には、キャリヤとカバーとからなるギヤボックスを有する終減速装置が示されている。ここで、カバーにはキャリヤに向けて突出する仕切り壁が一体に設けられ、仕切り壁の間には2つのエアブリーザ室が形成されている。そして、仕切り壁にはギヤ収納室をエアブリーザ室に連通させる開口部が形成されている。
【0003】
特開2002−257214号公報(特許文献2)には、差動装置のカバー内部を2分割する仕切壁を設けることが示されている。
【0004】
特開2000−247103号公報(特許文献3)および実開平5−71526号公報(特許文献4)には、ディファレンシャルのリングギヤによりケースの底部に貯留されたオイルを掻き上げることが示されている。
【特許文献1】特開2003−254414号公報
【特許文献2】特開2002−257214号公報
【特許文献3】特開2000−247103号公報
【特許文献4】実開平5−71526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の終減速装置のように、車両の前後方向でケースを分割する場合、その分割位置でオイルの流れが乱されて、攪拌抵抗が増大することが懸念される。また、オイルの流れが乱されることにより、ブリーザからのオイルの噴出が生じる場合がある。特許文献2〜4においても、上記の問題を十分に解決可能な構成は記載されていない。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、簡単な構造でオイルの攪拌抵抗を抑制可能な動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る動力伝達装置は、車両に設けられる動力伝達装置であって、底部にオイルが貯留されたハウジングと、ハウジング内に収納され、動力を伝達するとともにハウジングの底部に貯留されたオイルを掻き上げるギヤとを備え、ハウジングは、内部空間を有する第1部材と、該第1部材に対して車両の前後方向に並ぶように設けられた第2部材とを含み、第2部材は、内部空間に向けて延出し、第1部材とギヤの外周との間の距離の段差を縮小するように形成された延出部を有する。
【0008】
上記構成によれば、ハウジングの第1部材とギヤの外周との間の距離の段差を縮小するように形成された延出部が設けられることにより、ギヤにより掻き上げられるオイルの流れの乱れを抑制し、オイルの攪拌抵抗を抑制することができる。
【0009】
1つの実施態様では、上記動力伝達装置において、第2部材は、第1部材に対して車両の後方側に位置する。
【0010】
1つの実施態様では、上記動力伝達装置において、延出部は、ギヤの外周に沿うように形成される。
【0011】
1つの実施態様では、上記動力伝達装置において、延出部は、ギヤの中心に対して車両の上下両側に位置するように設けられる。
【0012】
1つの実施態様では、上記動力伝達装置は、ハウジングの内部と外気とを連通させるブリーザ機構をさらに備え、ブリーザ機構におけるハウジング内部への開口部は、延出部に関してギヤの反対側に設けられる。
【0013】
1つの実施態様では、上記動力伝達装置において、延出部は、ハウジングにおける車両の左右方向の中心を含む領域に形成され、開口部は、車両の左右方向の中心の近傍に位置する。
【0014】
1つの実施態様では、上記動力伝達装置において、ギヤは、ディファレンシャルギヤにおけるリングギヤである。
【0015】
1つの実施態様では、上記動力伝達装置は、リングギヤに対して車両の前方側に位置し、該リングギヤと歯合するピニオンギヤと、ピニオンギヤを支持する軸受とをさらに備え、リングギヤにより掻き上げられたオイルが軸受に供給される。
【0016】
1つの実施態様では、上記動力伝達装置において、延出部は、ハウジングにおける第2部材と一体に形成される。
【0017】
1つの実施態様では、上記動力伝達装置において、ハウジングにおける第1部材は、有底筒状の部材であり、ハウジングにおける第2部材は、蓋状の部材である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ギヤにより掻き上げられるオイルの流れの乱れを抑制し、オイルの攪拌抵抗を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0020】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下に複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の構成を適宜組合わせることは、当初から予定されている。
【0021】
図1は、本発明の1つの実施の形態に係る動力伝達装置の内部構造を示す平面図である。図1を参照して、本実施の形態に係る動力伝達装置1は、車両に搭載されるディファレンシャルであって、左右のドライブシャフト31,32の間に設けられている。動力伝達装置1は、ハウジング10と、ディファレンシャル機構20とを含む。
【0022】
ハウジング10は、車両本体に対して固定されている。ハウジング10は、有底筒状の第1部材11(ディファレンシャルキャリヤ)と、蓋状の第2部材12(ディファレンシャルキャリヤカバー)とを含む。第2部材12は、第1部材11に対して車両の後方側に位置する。主として第1部材11により形成される内部空間13に、ディファレンシャル機構20が収納される。
【0023】
図2は、ディファレンシャル機構について説明するためのスケルトン図である。図1,図2を参照しながら、ディファレンシャル機構20について説明する。
【0024】
ディファレンシャル機構20は、ドライブピニオンギヤ21と、リングギヤ22と、ディファレンシャルピニオンギヤ23と、サイドギヤ24と、ディファレンシャルケース25とを含む。
【0025】
ドライブピニオンギヤ21は、車両前後方向に延びて形成され、その前端が図示しないプロペラシャフトに連結されている。ドライブピニオンギヤ21は、リングギヤ22に対して車両の前方側に位置する。リングギヤ22は、ボルトなどの締結部材を用いてディファレンシャルケース25に締結されている。リングギヤ22は、ドライブピニオンギヤ21と噛み合うように配置されている。ドライブピニオンギヤ21は、軸受21Aによってハウジング10に支持されている。ドライブピニオンギヤ21の回転がリングギヤ22に伝わることにより、リングギヤ22およびディファレンシャルケース25が一体となってドライブシャフト31,32の中心軸を中心に回転運動する。
【0026】
ディファレンシャルケース25およびドライブシャフト31,32には、それぞれピニオンギヤ23およびサイドギヤ24が設けられている。ディファレンシャルケース25は、ピニオンギヤ23とサイドギヤ24との噛み合いによって、車両旋回時の左右のドライブシャフト31,32の回転速度を変えながら両輪に均等な回転トルクを伝達する。
【0027】
図3は、図1に示す動力伝達装置を矢印IIIの方向から見た状態を模式的に示す図である。
【0028】
図3を参照して、たとえば車両の前進時には、リングギヤ22は矢印DR22方向に回転する。これにより、ハウジング10の底部に貯留されたオイル100が矢印DR22方向に掻き上げられる。ドライブピニオンギヤ21は、軸受21Aにより支持されている。リングギヤ22により矢印DR22方向に掻き上げられたオイル100は、ドライブピニオンギヤ21を支持する軸受21Aに供給される。
【0029】
第2部材12は、第1部材11の内部空間13に向けて突出するように形成された延出部12Bを有する。延出部12Bは、第2部材12と一体に形成される。また、延出部12Bは、第1部材11とリングギヤ22の外周との間の距離の段差を縮小するように形成される。より具体的には、延出部12Bは、リングギヤ22の外周に沿うように形成される。そして、延出部12Bは、リングギヤ22の中心に対して車両の上下両側に位置するように設けられる。
【0030】
図3の例のように、ハウジング10を車両の前後方向に分割(第1部材11および第2部材12)する場合、一般的に、その分割位置においてハウジング100の内面に段差が形成され、その結果、リングギヤ22の外周とハウジング10の内面との距離が一定にならず、リングギヤ22の回転によるオイル100の攪拌流れが乱れやすい傾向にある。オイル100の流れが乱れた結果、オイル100の攪拌抵抗が増大する。また、オイル100の流れが乱れた結果、ドライブピニオンギヤ21側へのオイル100の供給量が不足することも懸念される。
【0031】
これに対し、本実施の形態に係る動力伝達装置では、ハウジング10の第1部材11とリングギヤ22の外周との間の距離の段差を縮小するように形成された延出部12Bをケース12に設けることにより、リングギヤ22により掻き上げられるオイル100の流れの乱れを抑制し、オイル100の攪拌抵抗を抑制することができる。さらに、延出部12Bを第2部材12と一体に設けることにより、第1部材11と第2部材12との組付性に影響が無く、簡単な構造でオイルの攪拌抵抗を抑制することができる。
【0032】
図4は、第2部材12を示す斜視図である。図4を参照して、第2部材12は、フランジ部12Aと、延出部12Bと、ブリーザ室12Cとを含む。フランジ部12Aは、たとえばボルトなどの締結部材により第1部材11と締結される部分である。オイルの流れを矢印DR12方向に導く延出部12Bは、フランジ部12Aの径方向内方に設けられ、フランジ部12Aよりも第1部材11側に突出するように設けられている。延出部12Bの一部に空洞が形成される。該空洞はブリーザ室12Cとして用いられる。ブリーザ室12Cは、後述するブリーザ機構40における開口部40Bと連通する。なお、ブリーザ室12Cは、リングギヤ22の中心に対して上側に位置するように設けられる。
【0033】
次に、図5を用いて、ブリーザ機構について説明する。図5を参照して、ブリーザ機構40は、ハウジング10内の圧力を調整するために、ハウジング10の内部と外気とを連通させる機構である。ブリーザ機構40は、ブリーザプラグ40Aと、ハウジング10の内部空間13への開口部40Bとを含む。開口部40Bは、第2部材12における延出部12Bの裏側に形成されたブリーザ室12Cと連通する。すなわち、開口部40Bは、延出部12Bに関してリングギヤ22の反対側に設けられる。
【0034】
図6は、図4に示す第2部材12を矢印VIの方向から見た状態を示す図である。図6を参照して、ブリーザプラグ40Aおよび開口部40Bは、車両の左右方向の中心の近傍に位置する。このようにすることで、車両に横方向(左右方向)の力が作用した場合にも、ブリーザプラグ40Aおよび開口部40Bが位置する部分における液面高さが過度に高くなることを抑制することができるので、ブリーザ機構40からのオイル漏れを効果的に抑制することができる。
【0035】
なお、本実施の形態に係る動力伝達装置では、ハウジング10の第2部材12に延出部12Bを形成し、延出部12Bの裏側に空洞を形成し、該空洞をブリーザ室12Cとすることにより、ブリーザ室12Cをハウジング10における車両の左右方向の中心付近に形成しながらも、ブリーザ室12Cへのオイルの浸入を抑制することができる。したがって、車両に横方向の力が作用した場合のオイル漏れの防止機能が最も高い位置(すなわち、車両の左右方向の中心の近傍)にブリーザプラグ40Aおよび開口部40Bを配置しながら、ブリーザ室12Cへのオイルの浸入を抑制することができる。この相乗効果により、ハウジング100からのオイル漏れを効果的に抑制することができる。
【0036】
上述したように、本実施の形態によれば、第2部材12に一体に設けた演出部12Bという簡単な構造により、オイル100の流れの乱れを抑制するとともに、ブリーザ機構40からのオイル漏れを抑制することができる。また、第2部材12に延出部12Bを設けても、第1部材11に対する第2部材12の組付け性には影響がない。
【0037】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態に係る動力伝達装置は、車両に設けられる動力伝達装置であって、底部にオイルが貯留されたハウジング10と、ハウジング10内に収納され、動力を伝達するとともにハウジング10の底部に貯留されたオイル100を掻き上げるリングギヤ22とを備える。ハウジング10は、内部空間13を有する第1部材11と、第1部材11に対して車両の前後方向に並ぶように設けられた第2部材12とを含む。第2部材12は、内部空間13に向けて延出し、第1部材11とリングギヤ22の外周との間の距離の段差を縮小するように形成された延出部12Bを有する。
【0038】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の1つの実施の形態に係る動力伝達装置の内部構造を示す平面図である。
【図2】ディファレンシャル機構について説明するためのスケルトン図である。
【図3】図1に示す動力伝達装置を矢印IIIの方向から見た状態を模式的に示す図である。
【図4】本発明の1つの実施の形態に係る動力伝達装置のハウジングを構成する第2部材を示す斜視図である。
【図5】本発明の1つの実施の形態に係る動力伝達装置におけるブリーザ機構の構造について説明する図である。
【図6】図4に示すカバー部材を矢印VIの方向から見た状態を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 動力伝達装置、10 ハウジング、11 第1部材、12 第2部材、12A フランジ部、12B 延出部、12C ブリーザ室、13 内部空間、20 ディファレンシャル機構、21 ドライブピニオンギヤ、21A 軸受、22 リングギヤ、23 ディファレンシャルピニオンギヤ、24 サイドギヤ、31,32 ドライブシャフト、40 ブリーザ機構、40A ブリーザプラグ、40B 開口部、100 オイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられる動力伝達装置であって、
底部にオイルが貯留されたハウジングと、
前記ハウジング内に収納され、動力を伝達するとともに前記ハウジングの底部に貯留されたオイルを掻き上げるギヤとを備え、
前記ハウジングは、内部空間を有する第1部材と、該第1部材に対して前記車両の前後方向に並ぶように設けられた第2部材とを含み、
前記第2部材は、前記内部空間に向けて延出し、前記第1部材と前記ギヤの外周との間の距離の段差を縮小するように形成された延出部を有する、動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2部材は、前記第1部材に対して前記車両の後方側に位置する、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記延出部は、前記ギヤの外周に沿うように形成される、請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記延出部は、前記ギヤの中心に対して前記車両の上下両側に位置するように設けられる、請求項1から請求項3のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記ハウジングの内部と外気とを連通させるブリーザ機構をさらに備え、
前記ブリーザ機構における前記ハウジング内部への開口部は、前記延出部に関して前記ギヤの反対側に設けられる、請求項1から請求項4のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記延出部は、前記ハウジングにおける前記車両の左右方向の中心を含む領域に形成され、
前記開口部は、前記車両の左右方向の中心の近傍に位置する、請求項1から請求項5のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記ギヤは、ディファレンシャルギヤにおけるリングギヤである、請求項1から請求項6のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記リングギヤに対して車両の前方側に位置し、該リングギヤと歯合するピニオンギヤと、
前記ピニオンギヤを支持する軸受とをさらに備え、
前記リングギヤにより掻き上げられた前記オイルが前記軸受に供給される、請求項7に記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記延出部は、前記ハウジングにおける前記第2部材と一体に形成される、請求項1から請求項8のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項10】
前記ハウジングにおける前記第1部材は、有底筒状の部材であり、
前記ハウジングにおける前記第2部材は、蓋状の部材である、請求項1から請求項9のいずれかに記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−71387(P2010−71387A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239500(P2008−239500)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】