説明

動物用飼料添加剤

【課題】動物の消化活動を補助し、飼料効率を高めたり、炎症性腸管障害などの動物の腸内感染症を予防・改善したりするための菌の安全かつ簡便な利用手段を提供する。具体的には、動物の消化器官内において増殖が可能な菌を利用して、動物の体重増加や腸内感染症を予防・改善する手段を提供する。
【解決手段】アスペルギルス・オリゼー及び該菌が産生する酸性酵素を組み合わせて動物に投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性酵素を産生する能力を有するアスペルギルス・オリゼーを含む動物用飼料添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜やペット(以下、動物という。)などの飼料は、粉砕などの加工は行われるものの、一般的に加熱処理等は行われないため、消化吸収率が低くなり、飼料効率が悪いという問題がある。また、最近ではヒトの病気として知られる潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸管障害が動物にも報告されており、下痢などの症状を引き起こすという問題がある。また、このような炎症性腸管障害は、飼料の吸収低下や健全肥育を妨げることも知られている。動物の腸内感染症を引き起こす病原菌としては、病原性大腸菌、サルモネラ属細菌、クロストリジウム属細菌、カンピロバクター属細菌などが知られている。このような病原菌は、異常増殖すると毒素(エンテロトキシン、サイトトキシン)を産生し、腸管粘膜に障害を起こし、軟便や激しい下痢等を引き起こすことが知られている。また、コクシジウムは、鶏、豚、牛などの腸管内に寄生する原虫であり、感染すると下痢、食欲不振などを引き起こす。このような炎症性腸管障害を予防・治療するために抗生物質を用いることが行われているが、薬剤耐性菌の出現などの問題がある。
【0003】
近年、腸内フローラのバランスを改善し、腸内の病原菌の増殖を抑制するために、プロバイオティクスを用いる技術が注目されている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、乳酸菌やビフィズス菌は、0.3%デオキシコール酸の濃度で死滅するものやpH4以下で死滅するものが多く、大腸菌群と総称される細菌以外は、胆汁酸のうち微生物に対して強い抗菌性を持つデオキシコール酸の存在下で生存できない菌種が多い。そこで、動物の消化管内でも死滅せず、宿主に有利な効果をもたらす菌種が探し求められている。
【0004】
一方、動物用の飼料をその加工段階で酵素や酵素生産菌で処理して、ある程度分解しておくことにより動物の胃腸の負担を軽減する技術などが、消化器系の疾病の予防や改善に有用であることが報告されている(特許文献3)。また、麹菌を用いて魚粉を低水分で発酵させてプロテアーゼ、リパーゼ等を高濃度に含有する魚用の魚粉発酵飼料を得る方法が知られている(特許文献4)。しかしながら、このような技術においては、飼料中の水分含量を高め飼料の成分分解を行った後、乾燥して製品化するという煩雑な工程が必要であるという問題があった。さらに、成分分解のために水分の含量を高めた飼料は、腐敗菌やカビなどが発生しやすく、品質の維持が困難であるなどの問題もあった。
また、麹菌の胞子を動物に経口投与することにより動物の糞を改質する方法が報告されているが、動物の体重増加を促進するという用途については検討されておらず、麹菌に酸性酵素を産生させた形態で動物に投与することも知られていない(特許文献5)。
また、甲殻類の甲殻粉砕物に発酵栄養源を加えて混合し、これにアスペルギルス・オリゼーを接種してキチン又はキトサンを分解させて発酵物を得て、動物に与えることが記載されている(特許文献6)。しかしながら、アスペルギルス・オリゼーに酸性酵素を産生させた形態で動物に投与することについては知られていない。
【0005】
一方で、アスペルギルス・オリゼーは麹酸を産生することが報告されている(非特許文献1)。また、麹酸はAerobacter、Alcaligenes、Bacillus、Brucella、Chromobacterium、Clostridium、Corynebacterium、Diplococcus、Eberthella、Escherichia、Klebsiella、Leptospira、Micrococcus、Neisseria、Pasteurella、Proteus、Pseudomonas、Salmonella、Sarcina、Shigella、Serratia、Spirillum、Staphylococcus、Streptococcus、Vibrioに対して抗菌活性を有することが報告されている(非特許文献2)。しかしながら、麹
酸を投与したマウスで肝細胞腫瘍の発生が認められ、ラットにおいても麹酸の肝発ガン性の可能性が示唆されている。また、遺伝毒性の有無については明らかにはなっていないが、遺伝毒性を有する可能性についても否定はできない。すなわち、飼料において麹酸を含有させることについては注意が必要である。
【0006】
【特許文献1】特表2005−507670号公報
【特許文献2】特表2004−523241号公報
【特許文献3】特開2004−141147号公報
【特許文献4】特表平6−319464号公報
【特許文献5】特開平11−171674号公報
【特許文献6】特開2002−238466号公報
【非特許文献1】George A. Burdock, Madhusudan G. Soni, and Ioana G. Carabin (2001) Regulatory Toxicology and Pharmacology 33, 80-101
【非特許文献2】Harry E. Morton, Walter Kocholaty, Renate Junowicz-Kocholaty, and Albert Kelner (1945) J. Bacteriol 50, 579-584
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、動物の消化活動を補助し、飼料効率を高めるための安全かつ簡便な手段を提供することを課題とする。具体的には、動物の消化器官内において増殖が可能な菌を利用して、動物の腸内の病原菌やコクシジウムの増殖を抑えることにより感染症を予防・治療し、動物の体重増加を実現する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アスペルギルス・オリゼーが酸性酵素、とりわけ酸性アミラーゼの産生能力に優れること、アルペルギルス・オリゼーが、腸内感染症を引き起こす病原菌に対する抗菌活性及びコクシジウムに対する殺原虫活性を有すること、及びこれらがプロバイオティクスとして機能することを見出した。また、これらの菌の酸性酵素産生能は、玄米を栄養源として培養した場合に極めて優れることを見出した。そして、これらの菌体と菌体により産生された酸性酵素を組み合わせて飼料と共に動物に摂取させることにより、消化を促進し、腸内感染症を予防・改善し、動物の体重増加に寄与することを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)及び該菌が産生する酸性酵素を含む培養物を含む、動物用飼料添加剤。
(2)前記酸性酵素が、酸性アミラーゼである、(1)に記載の動物用飼料添加剤。
(3)前記アスペルギルス・オリゼーが、アスペルギルス・オリゼー IK−05074株 (FERM BP−10622)又はこれと同じ酸性酵素を産生する能力を有する該菌株の変異株である(1)又は(2)に記載の動物用飼料添加剤。
(4) 前記菌が、動物の腸内感染症を引き起こす病原菌に対する抗菌活性及び/又はコクシジウムに対する殺原虫活性を有することを特徴とする、(1)〜(3)の何れか一に記載の動物用飼料添加剤。
(5)前記培養物が、植物性栄養源を含む(1)〜(4)の何れか一に記載の動物用飼料添加剤。
(6)前記植物性栄養源が、玄米である(5)に記載の動物用飼料添加剤。
(7)(1)〜(6)の何れか一に記載の動物用飼料添加剤を含む飼料。
(8)菌の増殖のための栄養源を含む固体培地で、アスペルギルス・オリゼーを培養し、得られた培養物を飼料に含有させることを特徴とする、飼料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアスペルギルス・オリゼー及び該菌が産生する酸性酵素を含む培養物を含む動物用飼料添加剤を飼料に混合し、動物に摂取させることにより、栄養吸収が促進され、飼料効率が上がる。また、動物の腸内においてアスペルギルス・オリゼーの菌体濃度が増加することにより、腸内フローラのバランスが改善される。さらに、病原菌やコクシジウムの増殖を抑制し、動物の腸内感染症を予防・改善する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の動物用飼料添加剤は、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)及び酸性酵素を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の動物用飼料添加剤に含有するアスペルギルス・オリゼーは、当該技術分野において、麹菌の種の同定に一般的に用いられる方法により分類した場合に、当該種に分類される菌である。菌種の同定には、例えば、「H. Murakami, The Journal of General and Applied Microbiology, 17, p.281-309, (1971)」、「Nikkuni, S., et al, The Journal
of General and Applied Microbiology, 44, p.225-230, (1998)」なども参照することができる。
【0013】
アスペルギルス・オリゼーは、土壌、麹などに見出される糸状不完全菌類の一種で醤油、味噌の醸造に用いられる菌である。本発明の動物用飼料添加剤においては、下記に詳述する酸性酵素のうち少なくとも一種、好ましくは酸性アミラーゼを産生する能力を有していて、動物に摂食させる上で安全なものであれば、特に制限なく用いることができる。本発明の動物用飼料添加剤においては、市販されている菌株を用いてもよく、このような菌としてアスペルギルス・オリゼーIK−05074株を好ましく用いることができる。IK−05074株は、各種発酵食品から分離された株で、平成18年2月15日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に受託番号FERM P−20798として寄託され、平成18年6月20日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−10622が付与されている。
【0014】
IK−05074株の菌学的性質は以下のとおりである。
(1)コロニーの性状(Czapek−Dox寒天培地(25℃で7日間培養))
大きさは直径50〜60mm、色は黄から緑、時間の経過により褐色がかった色に変化する。菌糸体は目立たず、裏面は無色である。
(2)形態
分生子柄:薄壁〜厚壁、滑面〜わずかに粗面であり、直径は20μm以下、長さは2mm以下、頂のうは直径40〜50μm、80μm以下の球形。
基底梗子:大きな分生子柄のほとんどにおいて存在し、長さは12μm以下。
フィアライド:アンプル型、長さは8〜12μm、短い頸部を有する。
分生子:直径5〜6μmの球形、色は黄から緑、表面は滑面〜微細な粗面。
【0015】
以上より、IK−05074株は、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)に帰属すると推定された。
【0016】
また、本発明の動物用飼料添加剤においては、IK−05074株の変異株を用いることもできる。IK−05074株の変異株は、IK−05074株を自然変異させたり、化学的変異剤や紫外線等で変異処理したりして得られた菌株からIK−05074株と同じ酸性酵素を産生する能力を有する菌株を選抜して得ることができる。また、酸性酵素を産生する能力に加え、IK−05074株と同じ抗菌活性、殺原虫活性、胆汁酸耐性、耐酸性の少なくとも一つをさらに有するIK−05074株の変異株を用いることも好まし
い。また、さらに上記以外の菌学的性質もIK−05074株と同様である変異株を用いることも好ましい。
【0017】
また、本発明の動物用飼料添加剤においては、例えば土壌、麹などから単離したアスペルギルス・オリゼーのうち、酸性酵素を産生する能力を有している菌株を単離して用いてもよい。
【0018】
酸性酵素を産生する能力とは、菌を通常の培養条件で培養して得られた培養物中に、酸性酵素活性を検出することができる程度に酸性酵素を産生することをいう。酸性酵素については後述する。培養物の酸性酵素活性の検出は、常法に従って行うことができる。例えば、国税庁所定分析法(改正第3回税庁訓令第1号)の固体こうじの分析法のグルコアミラーゼ活性測定法、α−アミラーゼ活性測定法、耐酸性α−アミラーゼ活性測定法、酸性プロテアーゼ活性測定法及び酸性カルボキシペプチダーゼ活性測定法に準拠して測定することができる。
【0019】
また、本発明に用いる上記アスペルギルス・オリゼーは、動物の腸内感染症を引き起こす病原菌に対して抗菌活性を有していることが好ましい。
上記病原菌は、通常腸内細菌科に属する。グラム陰性細菌に属する病原菌としては、病原性大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ属(Salmonella)、カンピロバクター属(Campylobacter)に属する細菌が挙げられる。グラム陽性細菌に属する病原菌としてはクロストリジウム属(Clostridium)、バチルス属(Bacillus)、リステリア属(Listeria)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)に属する細菌が挙げられる。
病原性大腸菌としては、例えば、腸管侵入性大腸菌(Enteroinvasive E. coli: EIEC)、腸管毒素原性大腸菌(Enterotoxigenic E. coli: ETEC)、腸管病原性大腸菌(Enteropathogenic E. coli: EPEC)、志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin producing E. coli: STEC)、腸管凝集接着性大腸菌(Enteroaggregative E. coli: EAEC)などが挙げられる。サルモネラ属に属する細菌としては、S. pullorum、S. gallinarum、S. typhi、S. typhimurium、S. enteritidis、S. choleraesuis、S. derby、S. dublinなどが挙げられる。カンピロバクター属に属する細菌としては、C. jejuni、C. coli、C. fetus、C. fetus subsp. intestinalisなどが挙げられる。
クロストリジウム属に属する細菌としては、C. perfringens、C. botulinum、C. difficileなどが挙げられる。バチルス属に属する細菌としては、B. cereusなどが挙げられる。リステリア属に属する細菌としては、L. monocytogenesなどが挙げられる。スタフィロコッカス属に属する細菌としては、黄色ブドウ球菌(S. aureus)などが挙げられる。ストレプトコッカス属に属する細菌としては、S. suis、S. pyogenesなどが挙げられる。本発明の動物用飼料添加剤に含まれるアスペルギルス・オリゼーは特にサルモネラ属細菌、中でもS. enteritidis及びクロストリジウム属細菌、中でもC. perfringens、浮腫病菌などの大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して高い抗菌活性を有する。
【0020】
病原菌に対して抗菌活性を有するとは、病原菌と同一の培地に接種した場合に、病原菌の増殖を抑制する能力を有していることをいう。抗菌活性を有するアスペルギルス・オリゼーは、例えば、土壌、麹などの分離源をSalmonella enteritidis(SE)、Clostridium perfringens(CP)、Escherichia coli(EC)、Staphylococcus aureus(SA)などの病原菌を接種した寒天培地に添加し、培養を行った後、阻止円を形成した菌体を分離することにより得ることができる。このようにして得た菌は、上述した病原菌の増殖を抑制する能力を有しているため、動物に投与することにより、動物の腸内感染症を予防・治療することができる。
また、動物の腸内感染症を引き起こす病原菌の増殖が抑制されていることは、例えば動物の盲腸内容物や糞中の病原菌の菌体濃度(生菌数)を測定することなどにより確認する
ことができる。
【0021】
また、本発明に用いる上記アスペルギルス・オリゼーは、動物の腸内感染症を引き起こすコクシジウムに対して殺原虫活性を有していることが好ましい。
コクシジウムとは、胞子虫類(Sporozoasida亜綱)に属する原虫をいう。具体的にはEimeria属、Isospora属、Toxoplasma属、Cryptosporidium属などが挙げられる。Eimeria属に属する原虫としては、E. tenella、E. necatrix、E. acervulina、E. maxima、E. mitis、E. zuernii、E. bovisなどが挙げられる。Isospora属に属する原虫としては、I. suis、I. belli、I. hominisなどが挙げられる。Toxoplasma属に属する原虫としては、T. gondiiなどが挙げられる。Cryptosporidium属に属する原虫としては、C. parvumなどが挙げられる。本発明の動物用飼料添加剤は、特に、E. tenella、E. zuerniiによる感染症に対して好適に用いることができる。
【0022】
コクシジウムに対して殺原虫活性を有するとは、コクシジウムのオーシストと菌の培養物を共存させた場合に、オーシストの発芽・増殖を抑制し、好ましくはオーシストを減少させる能力を有していることをいう。具体的には、オーシストの細胞壁を変形、溶解し、オーシストを崩壊させる能力を有していることをいう。オーシストの崩壊や細胞壁の状態は、顕微鏡を用いて観察すればよい。
コクシジウムに対する殺原虫活性を有するアスペルギルス・オリゼーは、例えば、以下の方法により得ることができる。土壌、麹などの分離源をE. tenellaやE. zuerniiのオーシストを懸濁させた滅菌水を入れたシャーレに加え、37℃で培養を行い、1〜7日間観察を行う。オーシストの変形もしくは溶解が認められたシャーレから菌体を分離し、これを再度、E. tenella やE. zuerniiのオーシストを懸濁させた滅菌水を入れたシャーレに加え、37℃で培養を行い、オーシストの変形もしくは溶解を確認する。このようにしてシャーレに含まれる菌を培養し、それぞれアスペルギルス・オリゼーの菌学的性質を有する菌を選ぶことにより、本発明に用いるアスペルギルス・オリゼーを得ることができる。このようにして得た菌を動物に投与することにより、動物の腸内コクシジウム感染症を予防・治療することができる。
【0023】
また、本発明の動物用飼料添加剤に含まれるアスペルギルス・オリゼーを投与することにより、コクシジウムの増殖が抑制されているかについては、例えば動物の盲腸内容物や糞中のコクシジウムのオーシストを顕微鏡下で観察することなどにより確認することができる。
【0024】
本発明の動物用飼料添加剤に含まれるアスペルギルス・オリゼーは、胃酸や胆汁酸に対する耐性を有しているものが好ましい。これにより、動物の腸内でも菌体が酸性酵素を産生し、後述する酸性酵素の機能が持続すると考えられる。また、菌体が腸内で増殖することにより、腸内フローラのバランス改善にも寄与する。胃酸や胆汁酸に対して耐性を有するとは、通常の消化器官内の条件において菌が死滅することなく、腸まで到達することをいう。通常、ヒトや動物の胃内部は空腹時にはpH2あるいはそれ以下に達することがあるが、食物を摂取した状態では、胃内部のpHは3.5〜6の範囲で空腹時よりも高い。従って、本発明の飼料添加剤に用いることができる耐酸性を有する菌株は、例えば、分離源をpH3.5で2時間程度処理した場合に、生存する能力を有する菌株を選抜して得ることができる。さらに、このようにして選抜した菌をデオキシコール酸濃度10g/lの存在下で24時間程度処理して、生存する能力を有する菌株を選抜することにより、さらに胆汁酸耐性である菌株を得ることができる。また、菌が死滅せず腸まで到達していることは、例えば、動物の排泄物中の菌体の濃度を測定することにより確認することができる。
【0025】
本発明の動物用飼料添加剤に含有するアスペルギルス・オリゼーの菌体濃度は、飼料添
加剤を動物に投与した際に、菌体が消化器官内で死滅しない範囲であればよく、通常は、後述するような酸性酵素活性を有する飼料添加剤を製造するために適当な濃度の菌体を培養し、飼料添加物中の酸性酵素活性を調節すればよい。
【0026】
本発明の動物用飼料添加剤に含まれる酸性酵素は消化器官内の酸性条件下において失活せずに活性を有するものであれば特に制限されないが、アスペルギルス・オリゼーが産生する消化酵素であることが好ましい。この中でも最適pHを2.5〜5.5に有する酵素が好ましい。例えば、酸性のα−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、タカジアスターゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、リボヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ、リパーゼなどを挙げることができ、本発明の動物用飼料添加剤は、これらのうち少なくとも一種を含有する。この中でも特に、家畜の飼料成分のうち主な成分の一つであるデンプンを分解する酸性アミラーゼを含むことが好ましい。本発明の動物用飼料添加剤に含まれる酸性アミラーゼは、デンプンを加水分解する酸性酵素であれば特に制限されず、例えば、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼなどが挙げられる。この中でも最適pHを3付近に有する耐酸性α−アミラーゼを好ましく挙げることができる。
本発明の動物用飼料添加剤は、アスペルギルス・オリゼーが産生する酸性酵素のみを含んでいてもよいが、さらに他の菌種や他の生物種由来の酵素を含んでいてもよい。
【0027】
本発明の動物用飼料添加剤における酸性酵素の含有量は、動物の種類、体重などに応じて適宜調節することができる。通常は、国税庁所定分析法(改正第3回税庁訓令第1号)の固体こうじの分析法に準拠して酸性酵素の活性を測定した場合、動物用飼料添加剤1g当たりの酸性酵素活性の総和が、12,000U以上であることが好ましく、20,000U以上であることがさらに好ましい。特に、動物用飼料添加剤1g当たりの酸性アミラーゼ活性が、100U以上であることが好ましく、300U以上であることがさらに好ましい。また、酸性プロテアーゼ活性と酸性カルボキシペプチダーゼ活性の総和が、10,000U以上であることが好ましく、15,000U以上であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の動物用飼料添加剤は、アスペルギルス・オリゼーを培養し、該菌に酸性酵素を産生させることによって得ることができる。本発明の動物用飼料添加剤に用いることができるアスペルギルス・オリゼーは、通常の培養条件で培養することにより酸性酵素を産生する。例えば、培養温度は25℃〜40℃で行うことができるが、通常は28〜32℃で培養することが好ましい。また、培養方法は、往復動式振とう培養、ジャーファーメンター培養などによる液体培養法や固体培養法を用いることができるが、アスペルギルス・オリゼーの酸性酵素産生遺伝子の中には、固体培地においてのみ発現する遺伝子も存在するため、本発明においては固体培養法を用いることが好ましい。
【0029】
培養に用いる培地成分は、動物性又は植物性の何れを用いてもよいが、植物性の栄養源を含有することが好ましく、例えば、玄米、フスマ、コメヌカ、大豆、大麦などを含有することが好ましい。この中でも、特に玄米を栄養源とすることが好ましい。これにより、酸性アミラーゼなどの酸性酵素の産生効率を高めることができる。
また、その他の炭素源としてグルコース、スクロース、糖蜜などの糖類、また窒素源としてアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩や硝酸塩等を添加することもできる。
【0030】
本発明の動物用飼料添加剤においては、このようにして得た培養物をそのまま動物用飼料添加剤とすることもできるし、得られた培養物から、菌体及び酸性酵素を含む一部を分離して、動物用飼料添加剤に含有させることもできる。例えば、固体培地を用いて菌体の培養を行う場合は、菌体を培地と共に粉砕したものを動物用飼料添加剤に含有させることが簡便性の面から好ましい。さらに、培養物を乾燥させたり、保存性を高めるための任意成分をさらに添加したりするなどの加工をして、製品の品質安定性を高めることも好まし
い。
【0031】
乾燥方法は、特に制限されるものではなく、例えば、通風乾燥、自然乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥などにより行うことができるが、この中でも通風乾燥が好ましく用いられる。また、凍結乾燥を用いることもできるが、その際には、保護剤を添加してもよい。保護剤の種類は、特に制限されないが、スキムミルク、グルタミン酸ナトリウム及び糖類から一種又は二種以上を選択して用いるのが好ましい。また、糖類を用いる場合にその種類は特に制限されないが、グルコースやトレハロースを用いるのが好ましい。
さらに、乾燥後は、得られた乾燥物に、脱酸素剤、脱水剤を加えて、ガスバリアー性のアルミ袋に入れて密封し、室温から低温で貯蔵することが好ましい。これにより、菌体を長期間生きたままで保存することが可能となる。
【0032】
また、本発明の動物用飼料添加剤は、麹酸の含有濃度が低いことが好ましい。通常は、麹酸の含有濃度が0.1mg/l以下であることが好ましく、0.01mg/l以下であることがさらに好ましい。
【0033】
また、本発明の動物用飼料添加剤は、通常用いられている動物用飼料の成分と混合して、動物の成長促進のための飼料とすることができる。また、上述したアスペルギルス・オリゼーがさらに動物の腸内感染症を引き起こす病原菌に対する抗菌活性及び/又はコクシジウムに対する殺原虫活性を有している場合には、病原菌及び/又はコクシジウムによる動物の腸内感染症を予防・治療するための飼料とすることができる。
飼料の種類や成分は、本発明の動物用飼料添加剤に含まれる菌体が死滅せず、かつ酸性酵素が失活しない限りにおいて特に制限されず、通常、家畜の飼料やペットフード、動物用サプリメントなど、動物の飼料として用いられているものに添加することができる。
【0034】
本発明の飼料は、本発明の動物用飼料添加剤を飼料の成分に添加することにより製造することができる。本発明の飼料に含まれる動物用飼料添加剤の含有量は、与える動物の種類、体重、年齢、性別、使用目的、健康状態、飼料の成分などにより適宜調節することができ特に制限されないが、通常は飼料全量に対して、乾燥状態で10〜5000ppm、好ましくは50〜1000ppmとするのがよい。
【0035】
また、本発明の動物用飼料添加剤は、そのまま飼料成分に添加し、混合してもよいが、粉末状、固形状の動物用飼料添加剤を添加、混合する場合は、飼料への混合を容易にするために液状又はゲル状の形態にして使用することもできる。この場合は、水、大豆油、菜種油、コーン油などの植物油、液体動物油、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物を液体担体として用いることができる。また、飼料中における菌体濃度の均一性を保つために、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、カゼインナトリウム、アラビアゴム、グアーガム、タマリンド種子多糖類などの水溶性多糖類を配合することも好ましい。また、雑菌の繁殖を防ぐために有機酸を配合し、液体生菌剤を酸性にすることもできる。
【0036】
本発明の飼料を摂取させる動物の種類は、特に制限されず、例えば、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類などが挙げられる。この中でも、特に家禽、家畜に対して好適に用いることができる。動物に摂取させる飼料の量は、動物の種類、体重、年齢、性別、使用目的、健康状態、飼料の成分などにより適宜調節することができる。
【実施例】
【0037】
(1)耐酸性、胆汁酸耐性アスペルギルス属菌の選抜
ポテトデキストロース寒天培地のpHを5に調整し、121℃で15分間殺菌した。この寒天培地の温度が60℃まで低下したところでデオキシコール酸ナトリウムを培地1l
当たり10gの濃度で添加し、各種発酵食品を分離源として多くのアスペルギルス属菌を接種し、培地に生育してきた菌株のうち、最も生育の良好な株を選抜した。この株をアスペルギルス・オリゼーIK−05074株とし、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託した。IK−05074株の菌学的性質は、上述したとおりである。
【0038】
(2)菌種の比較実験
(a)菌体の培養及び酸性酵素活性の測定
玄米を固体培地として、(1)で選抜したアスペルギルス・オリゼーIK−05074株の培養を行った。すなわち、玄米100gを一昼夜水に浸けて膨潤させた後、蓋に無菌フィルターの付いた直径14センチ、深さ10センチのポリカーボネート製容器に2センチの厚さに入れ、オートクレーブにて121℃で15分間殺菌した。この容器に上記の各菌体を接種して28℃で10日間培養し、種菌を製造した。
次いで、上記と同様に膨潤させた玄米を30×40×10センチのステンレスバットに厚さ1.5センチに積層し、20×25センチのフィルターで覆った通気口を有する蓋をかけ、大型オートクレーブに入れて121℃で25分間殺菌した。このバットを冷却した後、あらかじめ培養しておいた上記種菌を全量接種した。このバットを28℃の孵卵器に入れ、10日間培養した。
培養後、35℃で通風乾燥し、ジェットミルで粉砕し、IK−05074株の固体培養物を得た。また、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)AOK 1006s株(株式会社秋田今野商店)を用いて上記と同様にして固体培養物を得た。
【0039】
次に、IK−05074株をポテトデキストロース液体培地を121℃、15分殺菌した後、60℃まで低下したところでデオキシコール酸ナトリウムを培地1l当たり5gの濃度で添加した培地に接種し、28℃で6日間培養した。この培養物を0.4μmのフィルターでろ過し、菌体を集めた。集めた菌体に培養前の培地を流して3回洗浄し、菌体外酵素を除去した。次いで、菌体に培地成分を添加し、36℃で24時間通風乾燥し、酸性酵素を含まないIK−05074株の固体培養物を得た。
【0040】
それぞれの固体培養物1g当たりの耐酸性α−アミラーゼ活性、及び酸性プロテアーゼ活性と酸性カルボキペプチダーゼ活性の総和を測定した。結果を表1に示す。なお、上記酸性酵素の測定は、国税庁所定分析法(改正第3回税庁訓令第1号)の固体こうじの分析法の耐酸性α−アミラーゼ活性測定法、酸性プロテアーゼ活性測定法及び酸性カルボキシペプチダーゼ活性測定法に準拠して行った。
【0041】
(b)投与試験
上記で得られた固体培養物の鶏雛への投与試験を行った。上記で得たIK−05074株の固体培養物を飼料(SDブロイラー前後期用、日本配合飼料株式会社製)全質量に対して、100ppm、150ppmの濃度で飼料に混合し、それぞれ実施例1及び2とした。また、アスペルギルス・カワチの固体培養物を同様に飼料に混合したものを比較例1及び2とし、酸性酵素を除去したIK−05074株の固体培養物を150ppmの濃度で飼料に混合したものを比較例3とした。また、オートクレーブ殺菌をして菌を添加せずに乾燥した玄米を150ppmの濃度で飼料に混合し、対照区とした。投与試験は10羽を一群として、孵化後1週間目の鶏雛に上記飼料を48日間自由に摂取させて肥育した。孵化後55日目の各群の鶏雛の平均体重を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
アスペルギルス・オリゼーIK−05074株を培養して得られた培養物の耐酸性α−アミラーゼ活性は、アスペルギルス・カワチを培養して得られた培養物の耐酸性α−アミラーゼ活性の約57倍であった。また、酸性プロテアーゼ活性及び酸性カルボキシペプチダーゼ活性の総和も約6倍であった。これより、IK−05074株は、酸性アミラーゼ、酸性プロテアーゼ及び酸性カルボキシペプチダーゼの産生能力に優れており、特に酸性アミラーゼの産生能力に優れていることが分かる。
【0044】
本発明の動物用飼料添加剤を含む飼料を投与した実施例1、2の群の鶏雛の体重は、比較例1〜3の群の鶏雛の体重に比して増加していた。これにより、本発明のアスペルギルス・オリゼー及びこれが産生する酸性酵素を含有する動物用飼料添加剤を含む飼料は、動物の成長を促進する効果を有することが分かる。
【0045】
(3)アスペルギルス・オリゼーの培養物の抗菌活性の測定
IK−05074株と病原菌を共培養することによってこれらの菌の病原菌に対する抗菌活性を試験した。
【0046】
Salmonella enteritidis(SE)については、標準寒天培地にて37℃、24時間好気培養を行った。平板上に発育したコロニーをかきとり滅菌生理食塩水に浮遊させた。1L容の三角フラスコにブレインハートインフュージョンブイヨン「日水」500mlを作製し、オートクレーブ殺菌後、SEの最終濃度が約1.0×104〜1.0×105CFU/mlとなるよう無菌的に投入した。三角フラスコに、(2)(a)で得たIK−05074株の粉砕固体培養物5gを無菌的に投入し、実施例3とした。AOK 1006s株の粉砕固体培養物5gを無菌的に投入した三角フラスコを比較例4とし、麹菌培養物を加えない三角フラスコを対照区とした。おのおのの三角フラスコを37℃の恒温器で、好気条件下で緩攪拌培養した。
【0047】
Clostridium perfringens(CP)については、アネロパックケンキ(三菱ガス化学(株)製)を用い、卵黄加CW寒天培地(日水製薬(株)製)にて37℃、24時間嫌気培養を行った。平板上に発育したコロニーをかきとり滅菌生理食塩水に浮遊させた。1L容の三角フラスコにブレインハートインフュージョンブイヨン「日水」500mlを作製し、オートクレーブ殺菌後、CPの最終濃度が約1.0×104〜1.0×105CFU/mlとなるよう無菌的に投入した。三角フラスコに、(2)(a)で得たIK−05074株の粉砕固体培養物5gを無菌的に投入し、実施例4とした。AOK 1006s株の粉砕固体培養物5gを無菌的に投入した三角フラスコを比較例5とし、麹菌培養物を加えない三角フラスコを対照区とした。おのおのの三角フラスコを37℃の恒温器で、アネロパックケンキを用いて嫌気条件下で緩攪拌培養した。
【0048】
試験開始後、0日、3日、7日目においてSEおよびCPの生菌数測定を実施した。SEの生菌数測定方法は、採取した培養液を、滅菌生理食塩水で10倍段階希釈後、希釈段階液の0.1mlをX−SAL寒天培地「日水」に塗布し、37℃、24時間好気培養を行い、発育した特徴的なコロニーを計数した。CPの生菌数測定方法は、採取した培養液を、滅菌生理食塩水で10倍段階希釈後、希釈段階液の0.1mlを卵黄加CW寒天培地(日水製薬(株)製)に塗布し、アネロパックケンキを用いて37℃、24時間嫌気培養を行い、発育した特徴的なコロニーを計数した。
【0049】
また、同時に麹酸濃度を定量するため、培養液を8,000rpmで10分間遠心分離し、その上清をセルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター(孔径0.45μm、アドバンテック東洋(株)製)で濾過した。HPLC装置は、Waters600(Multisolvent
Delivery system)及びwaters 490E(Programmable multiwavelength Detector)を用いた。カラムは、YMC-Pack ODS-AM 6.0mm×150mm(ワイエムシイ社製)を用いた。移動相は0.1mol/lリン酸二水素ナトリウム溶液(pH3.0)−メタノール(97:3)、流速は1.0ml/min、カラム温度は40℃、測定波長は270nmで麹酸の検出を行った。検量線は麹酸(試薬特級、和光純薬工業(株)製品)を用いて作製した。
表2にSEの生菌数を、表3にSEの共培養試験の培養物の麹酸濃度を、表4にCPの生菌数を、表5にCPの共培養試験の培養物の麹酸濃度を示す。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
実施例3に示すように、IK−05074株と共培養した場合には、SEの生菌数が試験3日目以降から検出限界以下となり、比較例4に示すAOK 1006s株の固体培養物に比べ明らかに高いSEに対する抗菌活性を示した。なお、対照区においては試験後、菌数の上昇が認められ、3日目に3.3×108CFU/mlを示した。
また、何れの懸濁液においても麹酸含量は検出限界以下であった。
【0055】
実施例4に示すように、IK−05074株と共培養した場合には、CPの生菌数が試験3日目以降から検出限界以下となり、比較例5に示すAOK 1006s株の固体培養物に比べ明らかに高いCPに対する抗菌活性を示した。対照区については試験7日目まで菌数の上昇が認められ、7日目に1.3×106CFU/mlを示した。
また、何れの懸濁液においても麹酸含量は検出限界以下であった。
【0056】
Escherichia coli(EC)については、標準寒天培地(日水製薬(株)製)にて37℃で24時間好気培養した。平板上に発育したコロニーをかき取り、滅菌生理食塩水に浮遊させた。1L容の三角フラスコにブレインハートインフュージョンブイヨン「ニッスイ」(日水製薬(株)製)500mlを作製し、オートクレーブ殺菌後、ECの最終濃度が約1.0×105〜1.0×106CFU/mlとなるよう無菌的に投入した。三角フラスコに(2)(a)で得たIK−05074株の粉砕固体培養物5gを無菌的に投入し、実施例5とした。AOK 1006s株の粉砕固体培養物5gを無菌的に投入した三角フラスコを比較例6とし、麹菌培養物を加えない三角フラスコを対照区とした。おのおのの三角フラスコを37℃の恒温器で、好気条件下で緩攪拌培養した。
【0057】
Staphylococcus aureus(SA)については、標準寒天培地にて37℃で24時間好気培養した。平板上に発育したコロニーをかき取り、滅菌生理食塩水に浮遊させた。1L容
の三角フラスコにブレインハートインフュージョンブイヨン「ニッスイ」(日水製薬(株)製)500mlを作製し、オートクレーブ殺菌後、SAの最終濃度が約1.0×105〜1.0×106CFU/mlとなるよう無菌的に投入した。三角フラスコに、(2)(a)で得たIK−05074株の粉砕固体培養物5gを無菌的に投入し、実施例6とした。AOK 1006s株の粉砕固体培養物5gを無菌的に投入した三角フラスコを比較例7とし、麹菌培養物を加えない三角フラスコを対照区とした。おのおのの三角フラスコを37℃の恒温器で、好気条件下で緩攪拌培養した。
【0058】
試験開始後、0日、3日、7日目においてECおよびSAの生菌数測定を実施した。ECの生菌数測定方法は、採取した培養液を、滅菌生理食塩水で10倍段階希釈後、希釈段階液の0.1mlをクロモカルトコリフォームアガー「Merck」(Merck製)に塗布後、37℃、24時間好気培養を行い、発育した特徴的なコロニーを計数した。SAの生菌数測定方法は、採取した培養液を、滅菌生理食塩水で10倍段階希釈後、希釈段階液の0.1mlを卵黄加マンニット食塩培地「栄研」(栄研器材(株)製)に塗布後、37℃、48時間好気培養を行い、発育した特徴的なコロニーを計数した。
表6にECの生菌数を、表7にSAの生菌数を示す。
【0059】
【表6】

【0060】
【表7】

【0061】
実施例5に示すように、IK−05074と共培養した場合はECの生菌数が試験3日目以降から検出限界以下となり、比較例6に示すAOK 1006s株の固体培養物に比べ明らかに高いECに対する抗菌活性を示した。なお、対照区においては試験後菌数の上昇が認められ、3日目に4.0×108CFU/mlを示した。
【0062】
実施例6に示すように、IK−05074と共培養した場合はSAの生菌数が試験3日目以降から検出限界以下となり、比較例7に示すAOK 1006s株の固体培養物に比
べ明らかに高いSAに対する抗菌活性を示した。対照区については試験後菌数の上昇が認められ、3日目に3.7×108CFU/mlを示した。
【0063】
(4)鶏ヒナに対するSalmonella enteritidis攻撃試験
鶏ヒナの飼料(SDブロイラー前期用、日本配合飼料(株)製、抗菌性物質無添加飼料)全質量に対して、(2)(a)で得たIK−05074株の粉砕固体培養物を100ppmとなるように混合した飼料を実施例7とした。ブロイラー種鶏(銘柄:チャンキー)由来の種卵より孵化した鶏ヒナ12羽を一群として、実施例7の飼料を14日間与えた。一方、AOK 1006s株の粉砕固体培養物を100ppmとなるように混合した飼料を、比較例8とした。麹菌培養物の代わりに乳糖を100ppm混合した飼料を対照区とし、同様に試験を行った。7日齢で1羽当たり2.0×105CFUのSalmonella enteritidis(SE)を経口投与した。SEは、群馬県の養鶏業者の農場で死亡した鶏の盲腸内容物より分離した菌株を用いた。14日齢で盲腸内容物と、総排泄腔を綿棒で拭うことにより糞を採取した。
【0064】
盲腸内容物のSE生菌数を以下の方法により測定し、感染指数及び防御指数を算出した。
盲腸内容物1gを滅菌リン酸緩衝生理食塩水を加えて10倍に希釈し、十分混合して試料原液とした。ついで、試料原液を滅菌生理食塩水を用いて10倍で段階希釈し、段階希釈液とした。試料原液及び段階希釈液をそれぞれSS寒天平板培地「ニッスイ」(日水製薬(株)製)およびブリリアントグリーン寒天平板培地(Difco Laboratories製)に0.1mlずつ塗沫し、37℃で24時間培養し、各平板培地に生育した典型的なSEのコロニー数を測定した。さらに、コロニーより釣菌してリジン脱炭酸試験用、SIM寒天培地「ニッスイ」(日水製薬(株)製)およびTSI寒天培地「ニッスイ」(日水製薬(株)製)に接種して37℃で24時間培養して性状の確認を行った。
この中からSEと認められたコロニー数に希釈液の希釈倍率を乗じて盲腸内容物1g当たりのSE生菌数を算出した。この結果を元に、以下のようにして感染指数及び防御指数を算出した。感染指数とは、病原菌の感染率の高さを示す値であり、防御指数とは、麹菌を含まない飼料を投与した場合と比較した場合のそれぞれの飼料が病原菌の感染を防御する能力を示す値である。
感染指数:各個体の盲腸内容物中のSE生菌数の対数の平均値(log CFU/gの平均値)
防御指数:対照群の感染指数/各試験群の感染指数
【0065】
総排泄腔より採取した糞に関しては、以下の方法により個体別に定性培養を行うことによりSEの性状を確認した。すなわち、綿棒に付着した糞を10mlの滅菌リン酸緩衝生理食塩水に懸濁し、試料原液とした後、これをSS寒天平板培地およびブリリアントグリーン寒天平板培地に0.1mlずつ塗まつし、37℃で24時間培養し、各平板培地に生育した典型的なSEのコロニー形成の有無を判定した。さらに、コロニーより釣菌してLIM寒天培地「ニッスイ」(日水製薬(株)製)、SIM寒天培地およびTSI寒天培地に接種して37℃で24時間培養して性状の確認を行った。
結果を表8に示す。
【0066】
【表8】

【0067】
実施例7のIK−05074株を含む飼料を投与した鶏ヒナは、盲腸内容物のSEの菌体濃度が極めて低く、SEの感染指数はきわめて低かった。比較例8のAOK 1006s株を含む飼料を投与したヒナは、対照区と比較してSEの生菌数にほとんど変化がなかった。これより、本発明のアスペルギルス・オリゼーが産生する酸性酵素を含む培養物にはSEによる感染症を予防する効果がある事が示された。
【0068】
(5)鶏ヒナに対するClostridium perfringens攻撃試験
鶏ヒナの飼料(SDブロイラー前期用、日本配合飼料(株)製、抗菌性物質無添加飼料)全質量に対して、(2)(a)で得たIK−05074株の粉砕固体培養物を100ppmとなるように混合した飼料を実施例8とした。ブロイラー種鶏(銘柄:チャンキー)由来の種卵より孵化した鶏ヒナ12羽を一群として、実施例8の飼料を14日間与えた。一方、AOK 1006s株の粉砕固体培養物を100ppmとなるように混合した飼料を比較例9とした。麹菌培養物の代わりに乳糖を100ppm混合した飼料を対照区とし、同様に試験を行った。7日齢で1羽当たり1.5×109CFUのClostridium perfringens
(CP)を経口投与した。CPは、群馬県の養鶏業者の農場で死亡した鶏の盲腸内容物より分離した菌株を用いた。14日齢で盲腸内容物と、総排泄腔を綿棒で拭うことにより糞を採取した。
【0069】
盲腸内容物のCP生菌数を以下の方法により測定し、感染指数及び防御指数を算出した。
盲腸内容物1gを滅菌リン酸緩衝生理食塩水を加えて10倍に希釈し、十分混合して試料原液とした。ついで、試料原液を滅菌生理食塩水を用いて10倍で段階希釈し、段階希釈液とした。試料原液および段階希釈液をそれぞれクロストリジア測定用培地(日水製薬(株)製)に0.1mlずつ塗まつし、アネロパックケンキを用いて35℃で24時間嫌気培養し、各平板培地に生育した黒色集落数を測定した。さらに、コロニーより釣菌して卵黄加CW寒天培地(日水製薬(株)製)に接種して、35℃で24〜48時間好気および嫌気培養して性状の確認を行った。
この中からCPと認められたコロニー数に希釈液の希釈倍率を乗じて盲腸内容物1g当たりのCP生菌数を算出した。この結果を元に、上記と同様にして感染指数及び防御指数を算出した。
【0070】
総排泄腔より採取した糞に関しては、以下の方法により個体別に定性培養を行うことによりCPの性状を確認した。すなわち、綿棒に付着した糞を10mlの滅菌リン酸緩衝生理食塩水に懸濁し、試料原液とした後、これをクロストリジア測定用培地(日水製薬(株)製)に0.1mlずつ塗まつし、アネロパックケンキを用いて35℃で24時間嫌気培養し、各平板培地に生育した黒色集落形成の有無を判定した。さらに、コロニーより釣菌して卵黄加CW寒天培地(日水製薬(株)製)に接種して、35℃で24〜48時間好気およ
び嫌気培養して性状の確認を行った。
結果を表9に示す。
【0071】
【表9】

【0072】
実施例8のIK−05074株を含む飼料を投与した鶏ヒナは、盲腸内容物のCPの菌体濃度が極めて低く、CPの感染指数はきわめて低かった。比較例9のAOK 1006s株を含む飼料を投与したヒナは、対照区と比較してCPの生菌数はほとんど変化しなかった。これより、本発明のアスペルギルス・オリゼーが産生する酸性酵素を含む培養物にはCPによる感染症を予防する効果がある事が示された。
【0073】
(6)子牛に対するEscherichia coli攻撃試験
生後1週齢の雄子牛(ホルスタイン種)を8頭を一群として飼育した。子牛用混合飼料(ミラクルメイト(株)科学飼料研究所製)全質量に対し、(2)(a)で得たIK−05074株の粉砕固体培養物を100ppmとなるように混合した飼料を実施例9とした。これらの子牛用混合飼料を4週齢まで給餌した。一方、AOK1006s株の粉砕固体培養物を100ppm混合した飼料を比較例10とした。麹菌培養物の代わりに乳糖を100ppm混合した飼料を対照区とし、同様に試験を行った。2週齢で1頭当たり1.5×106CFUのEscherichia coli(EC)を全頭に経口投与した。4週齢まで飼育し、各群の子牛の死亡率を算出した。
【0074】
また、小腸内容物を採取し、小腸内容物のECの生菌数を以下の方法で測定した。小腸内容物1gを滅菌リン酸緩衝生理食塩水を加えて10倍に希釈し、充分混合して試料原液とした。ついで、試料原液を滅菌生理食塩水を用いて10倍で段階希釈し、段階希釈液とした。試料原液および段階希釈液をそれぞれクロモカルトコリフォームアガー「Merk」に0.1mlずつ塗沫し、37℃で24時間培養し、各平板培地に生育した典型的なECのコロニー数を測定した。ECと認められたコロニー数に希釈液の希釈倍率を乗じて小腸内容物1g当たりのEC生菌数を算出した。この結果を元に、上記と同様にして感染指数及び防御指数を算出した。
結果を表10に示す
【0075】
【表10】

【0076】
実施例9のIK−05074株を含む飼料を投与した子牛は、死亡率は0%であった。また、小腸内容物のECの感染指数は低かった。比較例10のAOK 1006s株を含む飼料を投与した子牛は、死亡率が13%であった。また、対照区と比較してECの生菌数はあまり変化しなかった。これより、本発明のアスペルギルス・オリゼーが産生する酸性酵素を含む培養物にはECによる感染症を予防する効果がある事が示された。
【0077】
(7)子豚に対する浮腫病菌攻撃試験
子豚用飼料(SD子豚人工乳前期用、日本配合飼料(株)製、抗菌性物質無添加飼料)全質量に対し、(2)(a)で得たIK−05074株の粉砕固体培養物を100ppmとなるように混合した飼料を実施例10とした。35日齢の子豚(大ヨークシャー種)30頭を一群として19日間給餌した。一方、AOK1006s株の粉砕固体培養物を100ppm混合した飼料を、比較例11とした。麹菌培養物の代わりに乳糖を100ppm混合した飼料を対照区とし、同様に試験を行った。40日齢で1頭当たり1.8×105CFUの浮腫病菌(Escherichia coli)を経口的に感染させた。54日齢まで飼育し、各群の子豚の死亡率を算出した。
また、上記と同様にして、小腸内容物を採取し、小腸内容物のECの生菌数を測定し、感染指数及び防御指数を算出した。
結果を表11に示す。
【0078】
【表11】

【0079】
実施例10のIK−05074株を含む飼料を投与した子豚は、死亡率は約20%程度であり、比較例11の飼料を投与した群の死亡率に比較して小さかった。また、小腸内容物のECの感染指数は低かった。また、対照区と比較して浮腫病菌の生菌数はほとんど変化しなかった。これより、本発明のアスペルギルス・オリゼーが産生する酸性酵素を含む培養物には浮腫病を予防する効果がある事が示された。
【0080】
(8)コクシジウム防除試験
(a)Eimeria tenella防除試験
Eimeria tenellaに自然感染した鶏の糞を集め、オーシストを実体顕微鏡下で分離し、生理食塩水で洗浄した。直径9cmのシャーレに生理食塩水5mlを加え、洗浄したオーシストを約4000個/mlとなるように投入した。(2)(a)で得たIK−05074株の粉砕固体培養物を、シャーレ当たり50mgずつ投入し、実施例11とした。AOK1006s株の粉砕固体培養物50mgを投入したシャーレを比較例12とし、麹菌培養物を加えないシャーレを対照区とした。おのおののシャーレを37℃において振とう(150rpm)した。7日後に、実体顕微鏡下で、オーシストの個数の測定、細胞壁の変形や溶解の状態の観察を行い、オーシストの減少率及び溶解変性率を算出した。
結果を表12に示す。
【0081】
【表12】

【0082】
実施例11に示すように、IK−05074株の固体培養物は、比較例12に示すAOK 1006s株の固体培養物に比べ、明らかにE. tenellaのオーシスト数を減少させ、また高いオーシスト溶解変性活性を示した。
【0083】
(b)Eimeria zuernii防除試験
Eimeria zuerniiに自然感染した牛下痢便を集め、オーシストを実体顕微鏡下で分離し、生理食塩水で洗浄した。直径9cmのシャーレに生理食塩水5mlを加え、洗浄したオーシストを約2000個/mlとなるように投入した。(2)(a)で得たIK−05074株の粉砕固体培養物を、シャーレ当たり50mgずつ投入し、実施例12とした。AOK1006s株の粉砕固体培養物50mgを投入したシャーレを比較例13とし、麹菌培養物を加えないシャーレを対照区とした。おのおののシャーレを37℃において振とう(150rpm)した。7日後に、実体顕微鏡下で、オーシストの個数の測定、細胞壁の変形や溶解の状態の観察を行い、オーシストの減少率及び溶解変性率を算出した。
結果を表13に示す。
【0084】
【表13】

【0085】
実施例12に示すように、IK−05074株の固体培養物は、比較例13に示すAOK 1006s株の固体培養物に比べ、明らかにE. zuerniiのオーシスト数を減少させ、また高いオーシスト溶解変性活性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)及び該菌が産生する酸性酵素を含む培養物を含む、動物用飼料添加剤。
【請求項2】
前記酸性酵素が、酸性アミラーゼである、請求項1に記載の動物用飼料添加剤。
【請求項3】
前記アスペルギルス・オリゼーが、アスペルギルス・オリゼー IK−05074株 (FERM BP−10622)又はこれと同じ酸性酵素を産生する能力を有する該菌株の変異株である請求項1又は2に記載の動物用飼料添加剤。
【請求項4】
前記菌が、動物の腸内感染症を引き起こす病原菌に対する抗菌活性及び/又はコクシジウムに対する殺原虫活性を有することを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の動物用飼料添加剤。
【請求項5】
前記培養物が、植物性栄養源を含む請求項1〜4の何れか一項に記載の動物用飼料添加剤。
【請求項6】
前記植物性栄養源が、玄米である請求項5に記載の動物用飼料添加剤。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の動物用飼料添加剤を含む飼料。
【請求項8】
菌の増殖のための栄養源を含む固体培地で、アスペルギルス・オリゼーを培養し、得られた培養物を飼料に含有させることを特徴とする、飼料の製造方法。

【公開番号】特開2007−325580(P2007−325580A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193915(P2006−193915)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】