説明

包丁

【課題】 衛生上好ましいアルミニウムなどのように加工が困難な材質を用いた柄を備えた包丁を、簡単かつ安価に製造する。
【解決手段】 刃身11と中子12を備えた刃体20と、筒状をしたアルミニウム製の柄カバー25と、前記柄カバー25が取り付けられる柄本体21と、前記柄カバー25の脱落を防止する脱落防止部材26を備え、前記柄本体21は、前記柄カバー25の内面がほぼ密着して取り付けられる装着部23と、当該装着部23の一端に前記柄カバー25の脱落を防止する口金部22と、前記装着部23の他端に前記脱落防止部材26が取り付けられる取付部24が樹脂材料から一体成型され、前記脱落防止部材26は前記取付部24を挿入する凹所27を有し、当該凹所を形成する壁26bが前記取付部24の周面と前記柄カバー25の内面の間隙に挿入されると共に前記中子12が前記柄本体21にインサート成型される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包丁、より具体的には包丁の柄の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
包丁の多くは、刃身と中子が一体となった刃体と柄とからなり、柄が中子に取り付けられた構造を有する。刃体は鋼から作製され、柄は木から作製されることが一般的である。しかしながら、木製の柄は腐食することが多く、衛生上の問題や耐久性の問題から、ステンレス鋼などの金属製の柄やプラスチック製の柄を用いた包丁が各種提案されている。
【0003】
このような材質の柄を中子に取り付ける方法として、中子を柄となる板状の部材で挟み込む方法、柄に中子を挿入する挿入孔を設け、中子に挿入した中子を柄に樹脂等で固定する方法、柄に中子を挿通させる貫通孔を設け、挿通した中子をネジ止めなどにより固定する方法、柄の端面に刃身の端面を溶接などにより接合する方法などがある。
【0004】
例えば、実開昭62−159855号公報(特許文献1)には、刃身と位置決め用凹部を備えた口金と端部にネジを有する中子軸が一体に作製された刃体と、中子軸を挿通させる貫通孔と一方端に前記凹部に嵌め込むことができる凸部と他方端に中子軸をナットでネジ止め可能にする凹所を有する柄を備え、中子軸を凹所内にてネジ止めした後、凹所の開口部がキャップ部材で塞がれた包丁が記載されている。
【0005】
実開平6−17666号公報(特許文献2)には、ネジ部を連結材で接続した中子が一体に作製された刃体と、連結材を挿通させる貫通孔を設けた柄と、ネジ部に螺合させて柄を固定するパッドを有する包丁が記載されている。
【0006】
特開平4−285579号公報(特許文献3)には、中子にプラスチック製のスペーサを取り付けたインサート部を形成し、当該インサート部の周囲にプラスチック製の柄を形成した包丁が記載されている。
【0007】
ところで、刃身は切れ味や手入れの観点から鋼から製造するのが好ましく、衛生上の問題からはステンレス鋼やアルミニウム製の柄を用いるのが好ましい。さらに、操作性の観点からは手で握りやすい形状の柄を用いるのが望まれる。しかしながら、中子の両側面で柄となる部材を挟み込む方法では、異種の素材からなる中子と柄との溶接が困難である、リベット止めやネジ止めという工程を採用すれば工程数が増えるなど、その製造が非常に面倒である。また、柄の端面に刃身を接合する方法では、高度な溶接技術が必要であり、場合によっては強度不足のために接合で折れる場合があるという問題があった。それだけでなく、金属塊の切削加工により柄を製造しなければならず、その加工にも高度な技術を要する。特にアルミニウム素材を用いる場合にはその加工には困難を伴うことが多かった。
【0008】
この点、特許文献1や特許文献2に記載の方法は刃身を柄の端面に接合する方法ではないが、手になじむ太い形状の柄全体をアルミニウムなどの金属塊から製造する点にかわりはなく、手で握りやすい形状に加工するのが困難であるという問題がある。それに加え、特許文献1に記載の方法では、柄の凹所内でのネジ止めが困難であるといった問題や、特許文献2に記載の方法では、雄ネジ、雌ネジの切り方を十分に調整しないと、締め付け後のパッドの位置がずれてしまい、柄とパッドがうまく一体化しない場合という問題もあった。特許文献3に記載の方法は、中子に取り付けられたスペーサ部を中子と共にいわゆるインサート成型する方法であって、この方法ではプラスチック製以外の柄を製造できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開昭62−159855号公報
【特許文献2】実開平6−17666号公報
【特許文献3】特開平4−285579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、アルミニウムのように衛生上好ましいが加工が困難な材質を用いた柄を備えた包丁を、簡単かつ安価に製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の包丁は、刃身と中子を備えた刃体と、筒状をした金属製の柄カバーと、前記柄カバーが取り付けられる柄本体と、前記柄カバーの脱落を防止する脱落防止部材を備え、前記柄本体は、前記柄カバーの内面がほぼ密着して取り付けられる装着部と、当該装着部の一端に前記柄カバーの脱落を防止する口金部と、前記装着部の他端に前記脱落防止部材が取り付けられる取付部が樹脂材料から一体成型されてなり、前記脱落防止部材は、前記取付部を挿入する凹所を有し、当該凹所を形成する壁が前記取付部の周面と前記柄カバーの内面の間隙に挿入され、前記中子が前記柄本体にインサート成型されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、アルミニウム製の柄のように衛生的な柄を備えた包丁でありながら、安価かつ簡便な方法で作製できる包丁が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の一実施例に係る包丁の一部を省略した斜視図である。
【図2】図2は同包丁の一部を省略した側面図である。
【図3】図3は同包丁の柄の構造を示す分解斜視図である。
【図4】図4は図2におけるA−A断面図である。
【図5】図5は同包丁の柄尻の構造を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の包丁は、刃身と中子を備えた刃体と、筒状をした金属製の柄カバーと、前記柄カバーが取り付けられる柄本体と、前記柄カバーの脱落を防止する脱落防止部材を備え、前記柄本体は、前記柄カバーの内面がほぼ密着して取り付けられる装着部と、当該装着部の一端に前記柄カバーの脱落を防止する口金部と、前記装着部の他端に前記脱落防止部材が取り付けられる取付部が樹脂材料から一体成型されてなり、前記脱落防止部材は、前記取付部を挿入する凹所を有し、当該凹所を形成する壁が前記取付部の周面と前記柄カバーの内面の間隙に挿入され、前記中子の一部が前記柄本体にインサート成型されている。
【0015】
すなわち、包丁の柄の部分が、中子をインサート成型した樹脂製の柄本体と、当該柄本体に取り付けられる筒状の金属製からなる柄カバーと、柄カバーの脱落を防止する脱落防止手段とから構成されている。以下、下記の実施例に基づき本発明について詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の一実施例である包丁の一部を省略した斜視図、図2は当該包丁の一部を省略した側面図、図3は当該包丁の柄の構造を示す分解斜視図、図4は図2のA−A線断面図、図5は当該包丁の柄尻の構造を示す分解斜視図である。
【0017】
本発明の包丁1は、刃身11と中子12とからなる刃体10と柄20を備える。図1に示す包丁1は、刃体10は刃身11と中子12が一体として製造され、刃身11の一部が省略されて描かれている。出刃包丁、刺身包丁などの和包丁、洋包丁など刃身11の形状は問われない。刃体10の材質も問われないが、鋼製やステンレス鋼製の刃体10が好ましく用いられる。鋼製の刃体10は、切れ味や手入れなど、従来から慣れ親しまれてきた包丁と同様な取り扱いができるからであり、ステンレス鋼製の刃体10を用いた場合には、包丁を煮沸消毒したり、食器洗浄機による洗浄が可能になるからである。
【0018】
柄20は樹脂製の柄本体21と当該柄本体21に装着される柄カバー25と当該柄カバー25の脱落を防止する脱落防止部材26とからなる。柄カバー25は金属製の筒状部材からなり、均一の太さを有する。図示する柄カバー25は断面7角形に描かれているが、柄カバー25の断面は楕円、円など任意の形状に設計できる。把持のしやすさ、滑りにくさを考慮すると、柄カバー25の断面は多角形状の枠であるのが好ましい。この柄カバー25の断面形状として、5角形、6角形、7角形、8角形が例示されるが、このとき、断面は刃身11の背を上にした際に上辺が水平となる形状であるのが好ましい。柄カバー25は手で握られる部分であり、その上面が水平面となる方が安定に握れるからである。また、柄カバー25の断面は図4に示すように左右対称の形状となるのが好ましい。左右対称の断面形状とすることにより、左きき用、右きき用の両者兼用とできるからである。もっとも必ずしも左右対称にする必要はなく、左右何れかの側面を膨らまし、右手で握りやすい形状(右きき用)、左手で握りやすい形状(左きき用)としてもよい。柄カバー25は衛生上の観点からはステンレス鋼やアルミニウム、特に柄20の軽量化の観点からアルミニウムから作製するのが好ましい。
【0019】
柄本体21は、柄カバー25が装着される装着部23と、装着部23の一端に柄カバー25の脱落を防止する口金部22と、装着部23の他端に脱落防止部材26が取り付けられる取付部24を有し、樹脂材料から一体成型される。装着部23は、柄カバー25が安定に取り付けられるべく、その外径の大きさと柄カバー25の内径がほぼ同じ大きさとなるように作製され、柄カバー25は装着部23にほぼ密着して取り付けられる。
【0020】
取付部24は装着部23の柄尻側に備えられ、その全部が装着部23に取り付けられた柄カバー25の内部に位置する。取付部24の断面は装着部23の断面よりも小さく、取付部24は脱落防止部材26の凹所に挿入される。また、図示はしないが、取付部24の一部が装着部23に取り付けられた柄カバー25に位置して、その後端面が当該柄カバー25からはみ出ていても差し支えない。脱落防止部材26によって固定できればよいからである。
【0021】
口金部22の断面は装着部23の断面よりも大きく、口金部22は装着部23との境界において柄カバー25の刃身側の端面が当接する当接面(図示せず)を有する。口金部22の当接面と柄カバー25の端面は同一形状に作製され、口金部22から柄カバー25との間に段差がほとんどなく、口金部22から柄かバー均一な太さとなっている。
【0022】
脱落防止部材26は柄本体21に取り付けられた柄カバー25が柄本体21から脱落するのを防ぐ、いわゆるキャップとしての機能を果たす。脱落防止部材26は、取り付け後に柄カバー25から柄尻側に位置して柄尻となる柄尻部26aと取付部24を嵌める凹所27を有する。凹所27を形成する壁26bが柄カバー25の内面と取付部24の周面との間隙に挿入されることにより、脱落防止部材26が柄本体21に取り付けられる。脱落防止部材26は柄尻部26aに柄カバー25の柄尻側端面が当接する当接面26cを有する。柄尻部26aの断面と柄カバー25の端面は同一形状に作製され、柄カバー25と柄尻部26aとの間に段差がほとんどなく、均一な太さとなっている。この結果、口金部22から柄カバー25を経て柄尻部26aに掛けて、柄20全体として均一な太さとなっている。
【0023】
本発明の包丁1においては、刃体10がインサート成形により柄本体21と一体になっており、中子12が柄本体21に埋設されている。図2には中子12が装着部23の中程まで挿入された状態が示されているが、中子12が柄本体21にしっかりと固定される限り、その挿入長さは問われるものではなく、刃身11の長さや重さ、柄20の長さなど全体のバランスを考慮して決められる。また、中子12と刃身11が継ぎ目なく一体に作製された刃体10が好ましく用いられるが、溶接などにより刃身11を中子12に接合した刃体10を用いることもできる。
【0024】
本発明の包丁1は次の工程により作製される。まず、刃体10の中子12を金型のキャビティ内に挿入してインサート成型を行い、刃体10が備えられた柄本体21を作製する。次に、柄本体21に柄カバー25を取り付ける。このとき装着部23を柄カバー25に挿入すればよく、装着部23と柄カバー25の接着は必ずしも必要ではない。もっとも、装着部23と柄カバー25の間でいわゆる遊びが多くなった場合などには両者を接着固定しても差し支えない。そして柄本体21の取付部24に脱落防止部材26の凹所27をはめ込み、凹所27を形成する壁26bと取付部24を接着固定して、脱落防止部材26の脱落を防ぎ、柄カバー25の動きを抑える。
【0025】
本発明の包丁1は上記のように、中子12をインサートした柄本体21を樹脂材料で形成し、当該柄本体21に金属製の柄カバー25を取り付ける構造を有している。従って、手が触れる部分である柄カバー25を筒状部材から製造すればよく、衛生的に好ましいアルミニウムなどを用いても簡単に製造できる。また、柄カバー25は筒状であるので、断面が多角形である柄カバー25の製造も容易である。特に刃体10はインサート成形により柄本体21と一体成形されるので接合部の強度不足が懸念されることがなく、刃体10とそれと異なる材質からなる柄20の組み合わせによる包丁1が提供される。これにより、柄20にアルミニウムが用いられた包丁1であっても、鋼製の包丁と同様な切れ味が担保される。また、少量の鋼材で柄カバー25を製造できるので材料コストが安くなり、安価に製造できる。そして、本発明の包丁1は、インサート成型により刃体10が一体となった柄本体21に柄カバー25を取り付け、柄本体21と柄カバー25の間隙に脱落防止部材26を挿入して柄カバー25の脱落を防ぐ構造を有しているので、ネジ止めによることなく組み立てることができ、製造工程も極めて簡単である。このように、本発明の包丁1は、手で把持される部分に衛生的なアルミニウムを用いた包丁1であっても簡便かつ安価に製造でき、さらに手に持ちやすい多角形状の断面を有する柄20を困難なく製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によると衛生的かつ操作性に優れた包丁が簡単な製造工程によって安価に提供される。
【符号の説明】
【0027】
1 包丁
10 刃体
11 刃身
12 中子
20 柄
21 柄本体
22 口金部
23 装着部
24 取付部
25 柄カバー
26 脱落防止部材
26a 柄尻部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃身と中子を備えた刃体と、筒状をした金属製の柄カバーと、前記柄カバーが取り付けられる柄本体と、前記柄カバーの脱落を防止する脱落防止部材を備え、
前記柄本体は、前記柄カバーの内面がほぼ密着して取り付けられる装着部と、当該装着部の一端に前記柄カバーの脱落を防止する口金部と、前記装着部の他端に前記脱落防止部材が取り付けられる取付部が樹脂材料から一体成型されてなり、
前記脱落防止部材は前記取付部を挿入する凹所を有し、当該凹所を形成する壁が前記取付部の周面と前記柄カバーの内面の間隙に挿入され、
前記中子が前記柄本体にインサート成型された包丁。
【請求項2】
前記脱落防止部材が前記取付部に接着固定された請求項1に記載の包丁。
【請求項3】
前記柄カバーがアルミニウム製である請求項1又は2に記載の包丁。
【請求項4】
前記柄カバーは上辺が水平である多角形の枠を断面に有する請求項1〜3の何れか1項に記載の包丁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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