説明

化合物、電荷輸送材料、有機電界発光素子用組成物、有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明

【課題】駆動電圧が低く、十分な発光寿命を有する有機電界発光素子を作製し得る化合物及び有機電界発光素子用組成物と有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】下記化合物及び有機溶剤を含む有機電界発光素子用組成物を用いて、有機電界発光素子の発光層を湿式成膜法により形成する。


(フェニル基A及びBは各々独立に任意の置換基を有していてもよく、当該置換基を含め、互いに異なる構造を示す。但し、当該フェニル基A及びBはいずれも、他の任意の環と縮合して縮合環基の一部を形成することはない。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子に好適に用いられる化合物及びその用途に関する。より具体的には、電荷輸送材料として使用することにより、発光効率が高く、駆動寿命に優れる有機電界発光素子が得られる化合物、該化合物を含む有機電界発光素子用組成物、該有機電界発光素子用組成物を用いた有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高効率の薄膜型有機電界発光素子の開発が盛んに行われるようになっている。有機電界発光素子は、通常、陽極と陰極との間に、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層などを設けて形成され、各層に適した材料が開発されつつある。また、有機電界発光素子の発光色も赤、緑、青と、それぞれに開発が進んでいる。
【0003】
しかしながら、青色有機電界発光素子については、効率、寿命、耐熱性の観点で満足できるものが未だに実現されておらず、フルカラーディスプレイ用途ならびに有機EL照明用途への適用には制約があるという課題があった。
【0004】
有機電界発光素子の各構成層の形成方法としては、真空蒸着法と湿式成膜法がある。真空蒸着法は、一般に蒸着材料の使用効率が低いこと、また成膜1工程に要する時間が長いこと、さらには製品の歩留まりが低いことなどの課題がある。そのため、工業的には湿式成膜法が有利であると考えられる。
【0005】
しかし、湿式成膜法により有機電界発光素子の有機層を形成するためには、有機層を形成する材料が溶剤に十分溶解し、かつ湿式成膜後にも素子の構成層として要求される高い性能を有することが望まれる。
【0006】
特に近年、有機電界発光素子を用いたフルカラーディスプレイを湿式成膜法により作製するに当たっては、発光素子の小型化・高精細化が進み、1画素への発光材料溶液の塗布量や塗布厚みのばらつき抑制など塗布条件を精密に制御できるような材料であることが要求されるようになってきた。
【0007】
これらは塗布液についてはその粘度や極性、揮発速度や他の材料との親和性などを調整することによって行われる。そのため、ここで用いられる有機電界発光素子用有機材料には、基本的な性質として、各種の有機溶剤とりわけ湿式成膜法に好適な種類の溶剤に対する極めて高い溶解性が要求されるようになりつつある。
一方で、駆動電圧や発光寿命などの性能も同時に十分なものでなければならない。
【0008】
しかし、従来開発されている湿式成膜法用材料、とりわけ青色発光材料においては、以上に述べた近年の湿式成膜法に要求される諸条件を満たさないものが多い。
【0009】
従来、有機電界発光素子の発光層に使用される化合物として、例えば特許文献1には下記式で示される材料が開示されている。
【0010】
【化1】

【0011】
また、特許文献2には、下記式で示される材料が開示されている。
【0012】
【化2】

【0013】
特許文献3及び4には、各々下記式で示されるアントラセン化合物が開示されている。
【0014】
【化3】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2006/070712号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/054162号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2002/038524号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0089715号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、これらの材料は、有機溶剤に対する高い溶解性や耐熱性といった湿式成膜のプロセス上の要求物性を満足していない上に、素子に用いても駆動電圧が高かったり、十分な寿命が得られないなどの問題があった。
また、これらの文献に具体的に記載されている化合物はいずれも真空蒸着法に好適なものであり、有機溶剤に対する溶解性が低いかあるいはほとんど溶解しないため、湿式成膜法にそのまま適用することは困難である。
【0017】
本発明は、有機電界発光素子の有機層を湿式成膜法により形成することが可能であり、かつ、駆動電圧が低く、十分な発光寿命を有する有機電界発光素子を作製し得る有機化合物及び有機電界発光素子用組成物と、この有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成された有機層を有する有機電界発光素子と、この有機電界発光素子を含む有機EL表示装置及び有機EL照明を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らが鋭意検討した結果、ある特定の化学構造を有するアントラセン化合物が、有機溶剤への溶解性が十分高く、かつ、有機電界発光素子を用いた場合に、駆動電圧が低く、十分長い発光寿命を示すという上記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
【0019】
即ち、本発明は、
下記一般式(I)で表される化合物、
この化合物からなる、電荷輸送材料、
この化合物及び溶剤を含む、有機電界発光素子用組成物、
陽極及び陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、当該有機層が発光層を含み、かつ上記有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法にて形成された層を含む有機電界発光素子、
この有機電界発光素子を含む有機EL表示装置及び有機EL照明、
に存する。
【0020】
【化4】

【0021】
(上記一般式(I)において、フェニル基A及びBは各々独立に任意の置換基を有していてもよく、当該置換基を含め、互いに異なる構造を示す。但し、当該フェニル基A及びBはいずれも、他の任意の環と縮合して縮合環基の一部を形成することはない。)
【0022】
以下において、上記一般式(I)で表される本発明の化合物を「化合物(I)」と称す場合がある。
【発明の効果】
【0023】
本発明の化合物(I)は、アントラセン環の9位及び10位に、m−フェニレン基を介して各々異なる特定の(置換)フェニル基を有することにより、アントラセン骨格に対して非対称な構造となり、溶剤に対して高い溶解性を示すと共に、有機電界発光素子に適用した場合に長い発光寿命、その他良好な性能を両立させることができる。
【0024】
従って、この化合物(I)を用いることにより、有機電界発光素子の有機層を湿式成膜法により形成することが可能となり、かつ、駆動電圧が低く、十分な発光寿命を有する有機電界発光素子を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】合成例1にて合成された本発明化合物H−1のH−NMRスペクトルチャートである。
【図3】合成例2にて合成された本発明化合物H−2のH−NMRスペクトルチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0027】
[語句の説明]
本発明において、単に「芳香環」と称した場合には、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環のいずれも含むものとする。
本発明において、「(ヘテロ)アリール」と称した場合には、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環のいずれも含むものとする。
本発明において、「置換基を有していてもよい」とは、置換基を1又は2以上有していてもよいことを意味するものとする。
【0028】
また、本発明における湿式成膜法とは、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法等の溶剤を含有するインクを用いて成膜する方法をいう。パターニングのし易さという点で、これらのうちダイコート法、ロールコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルジェット法、フレキソ印刷法が好ましい。
【0029】
[化合物(I)]
本発明の化合物(化合物(I))は、下記一般式(I)で表されるものである。
【0030】
【化5】

【0031】
(上記一般式(I)において、フェニル基A及びBは各々独立に任意の置換基を有していてもよく、当該置換基を含め、互いに異なる構造を示す。但し、当該フェニル基A及びBはいずれも、他の任意の環と縮合して縮合環基の一部を形成することはない。)
【0032】
<アントラセン環とフェニル基A,Bとを結合するフェニレン基がm−フェニレン基であることの利点>
化合物(I)において、アントラセン環の9−位及び10−位に結合しているフェニレン基がm−フェニレン基であることにより、溶剤に対して高い溶解性を示すと共に、有機電界発光素子に用いた場合に長い発光寿命を達成することができる。
【0033】
これに対して、このアントラセン環の9−位及び10−位に結合しているフェニレン基がp−フェニレン基である化合物は、下式の部分が同一平面上に存在することになり、溶剤に対する溶解性が不十分となる。
【0034】
【化6】

【0035】
また、アントラセン環の9−位及び10−位に結合しているフェニレン基がo−フェニレン基である化合物は、溶剤に対する溶解性は確保できるが、立体的にひずんだ構造の化合物となるため、これを用いた有機電界発光素子の発光寿命が悪化する。
【0036】
<フェニル基A,Bが縮環していないことの利点>
化合物(I)において、フェニル基A及びBはいずれも、他の任意の環と縮合して縮合環基の一部を形成することはないことにより、溶剤に対する溶解性が良好なものとなると共に、有機電界発光素子に用いた場合、駆動電圧を下げることができる。
【0037】
これに対して、平面で剛直なアントラセン骨格に近い部位(アントラセンに直結かフェニレン基一つを介した部位)に、やはり剛直な縮環構造を導入してしまうと、分子全体の剛直性が増し、結果として十分な溶剤溶解性が得られず、また、このような化合物を含む有機電界発光素子の駆動電圧も高くなる。
【0038】
<フェニル基A及びBが、これらが有する置換基も含めて互いに異なる構造であることの利点>
化合物(I)において、フェニル基A及びBは各々独立に任意の置換基を有していてもよく、当該置換基を含め、互いに異なる構造を示す、即ち、化合物(I)がアントラセン骨格に対し非対称な化合物であることにより、以下のような効果が奏される。
【0039】
即ち、酸化還元耐久能及び電荷移動能を有するアントラセン環の9−,10−位を非対称な構造とすることにより、有機溶剤への溶解性と、湿式成膜法により層形成するときに有機溶剤を蒸発させる際の化合物(I)の微結晶化を抑制し、アモルファス膜の形成を促し、結果として長い発光寿命など、有機電界発光素子に適用した場合の素子性能の向上を実現する。
【0040】
<アントラセン骨格及びこれに結合するm−フェニレン基がいずれも無置換であることの利点>
化合物(I)は、一般式(I)に示されるように、アントラセン骨格及びこれに結合するm−フェニレン基がいずれも無置換であることにより、次のような効果が奏される。
【0041】
アントラセン化合物において、電荷を輸送する部分はアントラセン環部分であるので、この近傍に置換基を導入してしまうと、HOMOやLUMOの値が大きく変化し、電荷輸送性能が低下してしまう。さらに、電荷輸送時には、この部位に導入された置換基との結合が切断されやすい。それらのために結果として素子の発光寿命が短くなり、あるいは駆動電圧が上昇するなど素子性能が悪化する。
これに対して化合物(I)は、アントラセン骨格及びこれに結合するm−フェニレン基がいずれも無置換であるため、上記のような問題がない。
【0042】
<フェニル基AやBが有する、ベンゼン環やナフタレン環が連結してなる基において、該基に含まれるフェニレン基やナフチレン基がm−位で連結していることの利点>
化合物(I)において、フェニル基A及びBは、各々独立に、ベンゼン環及び/又はナフタレン環が1〜3個連結してなる1価の基で置換されていてもよく、ベンゼン環及び/又はナフタレン環が1〜3個結合してなる1価の基において、該基に含まれるフェニレン基及びナフチレン基はいずれもp−位やo−位ではなく、m−位で連結していることが好ましい。
また、このベンゼン環及び/又はナフタレン環が1〜3個結合してなる1価の基も、フェニル基A及びBのm−位に連結していることが好ましい。
【0043】
このことにより、以下のような利点がある。
即ち、このベンゼン環及び/又はナフタレン環が1〜3個結合してなる1価の基のフェニレン基やナフチレン基がp−位連結では当該部位の剛直性が増加し、化合物の溶剤溶解性が不十分となる。また、o−位連結では連結部付近で下式のような酸化分解が起こると考えられ、結果として素子の発光寿命が短くなる。これに対してm−位連結であることにより、上記の問題が解消される。
【0044】
【化7】

【0045】
<フェニル基A及びBが有しうる置換基について>
化合物(I)において、フェニル基A及びBが有しうる置換基は、フェニル基A及びBが当該置換基を含め、互いに異なる構造を示し、かつ、ベンゼン環及び/又はナフタレン環が1〜3個連結してなる1価の基である場合、好ましくは、この基に含まれるフェニレン基がいずれもm−フェニレン基であり、ナフチレン基が1,3−位、1,6−位、1,7−位又は2,7−位で連結する基である限りにおいて特に制限は無いが、該置換基の末端を制御し、片側(例えばフェニル基Aが有する置換基)をフェニル基末端として溶剤への親和性を高めつつ、他方(例えばフェニル基Bが有する置換基)を炭素数10以上の縮環式芳香環基(例えばナフチル基)とすると、素子化した場合に形成される膜の物性、特にガラス転移温度を上昇させることができ、化合物(I)の有機溶剤への極めて高い溶解性と、得られる素子の性能向上の両立を達成でき、好ましい。
【0046】
なお、フェニル基A及びBはいずれか一方が置換基を有し、他方が置換基を有さないことにより、互いに異なる構造となっていてもよい。
従って、例えばフェニル基Aを、無置換か、或いは、ベンゼン環の1〜3個がm−位で連結した基が、m−位に連結したものとし、フェニル基Bを、炭素数10以上の縮環式芳香環基(例えばナフチル基)が直接又は1〜2個のm−フェニレン基を介して、そのm−位に連結したものとすることが好ましい。
なお、ここで、末端の炭素数10以上の縮環式芳香環基としては、ナフタレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環等の2〜4縮環式芳香族炭化水素環由来の基が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0047】
また、化合物(I)は、一般式(I)に示されるように、アントラセン環、アントラセン環とフェニル基A及びBとを連結するフェニレン基は無置換であるが、フェニル基A,Bに連結する置換基としての上記フェニレン基や炭素数10以上の縮環式芳香環基は、任意の置換基を有していてもよく、その置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、ハロゲン原子、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0048】
化合物(I)は、アントラセン骨格に、フェニル基A、B及びこれらが有する置換基として、適切な数のフェニレン基を含む基を導入することによって、近傍の分子とのアントラセン環−アントラセン環の分子間距離を離し、電子移動度を調整することが可能となる。そして、電子移動度が調整された結果、発光層中で、正孔と電子との再結合確率を高めることができるようになり、得られる素子の発光効率が高まり、また駆動寿命が長いなどの効果を奏する。
【0049】
<分子量>
化合物(I)の分子量は、通常2000以下であり、化合物の精製の容易さを考えた場合、好ましくは分子量1500以下であり、溶剤に対する溶解性を考慮した場合、特に好ましくは1200以下、昇華精製による高純度化を考えた場合、最も好ましくは1000以下である。また、通常、化合物(I)の分子量は、500以上であり、化合物の熱的安定性を考えた場合、好ましくは分子量550以上である。
【0050】
<溶剤に対する溶解性>
本発明の化合物(I)は、後述の本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる有機溶剤への溶解度が高いため好ましい。
本発明の化合物(I)は、より好ましくは、例えばシクロヘキシルベンゼンに対する溶解度が、大気圧(1013hPa)下、25℃において通常8重量%以上、好ましくは9重量%以上、より好ましくは10重量%以上である化合物である。なお、シクロヘキシルベンゼンは、化合物の溶解度を示す指標として挙げたものであり、後述の本発明の有機電界発光素子用組成物が含む溶剤は、これに限定されるものではない。
なお、化合物(I)のシクロヘキシルベンゼンに対する溶解度は、後述の実施例の項に記載される方法で求められる。
【0051】
<ガラス転移温度>
化合物(I)は、ガラス転移温度Tgが100℃以上であることが好ましい。
【0052】
<具体例>
以下に化合物(I)の具体例を挙げるが、以下の例示化合物に限定されるものではない。
【0053】
【化8】

【0054】
【化9】

【0055】
【化10】

【0056】
<有機化合物の合成方法>
本発明の化合物(I)は、目的とする化合物の構造に応じて原料を選択し、公知の手法を用いて合成することができる。
例えば、下図に示すようにボロン酸あるいはボロン酸エステルとハロゲン化合物の鈴木カップリング、芳香族環のハロゲン化、ハロゲン部位をボロン酸あるいはボロン酸エステルへの変換の反応を組み合わせて実施することにより、芳香族−芳香族結合を生成する方法などが好ましく用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0057】
【化11】

【0058】
<用途>
化合物(I)の用途は特に限定されるものではないが、その優れた溶剤溶解性と、有機電界発光素子に適用した場合の駆動電圧、発光寿命における効果から、有機電界発光素子の有機層、特に発光層を湿式成膜法で形成するための電荷輸送材料として好適である。
【0059】
[有機電界発光素子用組成物]
本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の化合物(I)と溶剤とを含むものである。
この有機電界発光素子用組成物は、特に、溶剤として、炭素原子及び水素原子、或いは炭素原子、水素原子及び酸素原子からなる有機溶剤であって、25℃における粘度が0.0001〜0.01Pasで、1013hPaにおける沸点が50〜300℃のものを含むことが好ましい。
【0060】
<溶剤>
本発明の化合物(I)を含む有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤は、湿式成膜により有機電界発光素子材料を含む層を形成するために用いる、揮発性を有する液体成分である。
【0061】
該溶剤は、溶質である本発明の化合物(I)や後述の発光材料等が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されないが、好ましい溶剤としては以下のものが挙げられる。
【0062】
例えば、n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジ
フェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0063】
溶剤の沸点は、通常50℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上である。この範囲を下回ると、湿式成膜時において、有機電界発光素子用組成物からの溶剤蒸発により、成膜安定性が低下する可能性がある。
【0064】
また、より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、溶剤の沸点は、通常300℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは沸点250℃以下である。
【0065】
これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0066】
<好ましい溶剤>
本発明において、有機電界発光素子用組成物に含まれる溶剤は、炭素原子及び水素原子、或いは炭素原子、水素原子及び酸素原子からなる有機溶剤であることが好ましい。この理由は、上記以外の原子が存在する場合には、成膜後にわずかに膜中に残留する溶媒分子が熱運動したり、素子駆動の際に電荷をトラップするため、素子特性を低下させる可能性があるからである。
【0067】
また、有機電界発光素子用組成物に含まれる溶剤は、中でも25℃における粘度が0.0005〜0.005Pasであり、1013hPaにおける沸点が100〜250℃である溶剤であることが好ましい。この理由は、公知の成膜プロセスにより容易に成膜でき、かつ得られた膜の状態が均一かつ平坦になるためである。
【0068】
このような有機溶剤として、好ましくは具体的には、トルエン(粘度0.00059Pas、沸点110.8℃)、キシレン(粘度0.00058Pas、沸点139℃)、シクロヘキシルベンゼン(粘度0.0037Pas、沸点240℃)、シクロヘキサノン(粘度0.0022Pas、沸点155.6℃)、トリメチルシクロヘキサノン(粘度0.0025Pas、沸点約190℃)、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(粘度0.0011Pas、沸点146℃)などが挙げられる。
【0069】
これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0070】
<発光材料>
本発明の有機電界発光素子用組成物は、さらに発光材料を含有していてもよい。
この場合、この有機電界発光素子用組成物は、本発明の化合物(I)をホスト材料とし、発光材料をドーパント材料として含んでいてもよいし、本発明の化合物(I)をドーパント材料とし、発光材料をホスト材料として含んでいてもよい。また、ドーパント材料、ホスト材料ともに、本発明の化合物(I)であってもよい。
【0071】
発光材料としては、芳香族アミン化合物が挙げられる。より具体的には、2以上のベンゼン環が縮合してなる芳香族炭化水素環に、アミノ基が直接結合してなる構造を有する化合物であり、好ましくは、クリセン環にアミノ基が2個結合してなるクリセンジアミン化合物が好ましい。
【0072】
クリセンジアミン化合物としては、例えば下記一般式(II)で表される化合物(以下「化合物(II)」と称す場合がある。)が挙げられる。
【0073】
【化12】

【0074】
(一般式(II)中、R1〜R8は、任意の置換基を示し、n1,n2,n4,n5,n6,n8は、各々独立に0〜5の整数を示し、n,nは、各々独立に、0〜4の整数を示す。
但し、R1〜R8の少なくとも2つ以上は、直鎖又は分岐の、炭素数6以上のアルキル基、あるいは炭素数7以上のアラルキル基である。
尚、一分子中に複数のR1〜R8を含む場合は、複数含まれるR1〜R8は、同じでもよく、また異なっていてもよい。)
【0075】
(化合物(II)の特長)
化合物(II)は、クリセン骨格の2つのアミノ基に結合する芳香環の少なくとも1つをビフェニル骨格とし、さらに分子内に炭素数6以上のアルキル基、又は炭素数7以上のアラルキル基を導入した化合物である。
ビフェニル骨格の導入は、アミノ基と共役する部分が拡張されることとなり、アミノ基を中心とする部分に荷電した際に、電荷が非局在化して、化合物が安定化すると推測される。
また、炭素数6以上のアルキル基又は炭素数7以上のアラルキル基を導入することにより、立体障害を生じさせやすくなったり、アミノ基のN原子周辺を保護することで、N原子上に荷電した状態からの劣化を防ぐ効果がもたらされると推測される。
また、炭素数6以上のアルキル基又は炭素数7以上のアラルキル基を導入することで、溶剤に対する溶解性や分散性の向上が得られる。
従って、化合物(II)を湿式成膜法で形成する有機電界発光素子の有機層に用いることにより、有機電界発光素子の耐久性向上及び駆動寿命の向上につながる。
【0076】
以下に上記一般式(II)における各構成要素について詳細に説明する。
【0077】
(R1〜R8について)
1〜R8は、任意の置換基を表す。
但し、R1〜R8の少なくとも2つ以上は、直鎖又は分岐の、炭素数6以上のアルキル基、あるいは炭素数7以上のアラルキル基である。
1〜R8の、任意の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数6〜25の芳香族炭化水素基、炭素数3〜20の芳香族複素環基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールチオ基、シアノ基などが挙げられる。これらの具体例は、下記置換基群Zのものと同一である。
【0078】
これらのうち、化合物の安定性の面から、置換基ではなく水素原子であること、或いは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜25の芳香族炭化水素基が好ましく、水素原子、炭素数6〜25の芳香族炭化水素基が特に好ましい。
尚、一分子中に複数のR1〜R8を含む場合は、複数含まれるR1〜R8は、同じでもよく、また異なっていてもよい。
複数あるR1〜R8は、互いに結合して環を形成していてもよく、環を形成している場合、色調の制御や耐久性向上の点で、R2〜R4及びR6〜R8が環を形成しているのが好ましい。
【0079】
式中のR1〜R3及びR5〜R7は、一般式(II)の窒素原子に対してo−位に置換しないことが、化合物の耐久性に優れる点から好ましい。従って、これらの置換基は、一般式(II)の窒素原子に対してm−位又はp−位に置換していることが好ましい。
【0080】
1〜R8の少なくとも2つ以上は、直鎖又は分岐の、炭素数6以上のアルキル基、あるいは炭素数7以上のアラルキル基である。ここで、炭素数6以上の直鎖又は分岐のアルキル基としては、炭素数6〜20の直鎖又は分岐のアルキル基が好ましく、さらに炭素数6〜12の直鎖又は分岐のアルキル基が好ましく、特にn−ヘキシル基、n−オクチル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、オクタデシル基が好ましい。炭素数7以上のアラルキル基としては、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく、さらに炭素数7〜20のフェニルアルキル基が好ましく、さらに炭素数7〜12のフェニルアルキル基が好ましく、さらにアルキル部分が分岐アルキル基である炭素数8〜12のフェニルアルキル基が好ましく、特にベンジル基、フェニルエチル基、フェニルジメチルメチル基、フェニルイソプロピルメチル基が好ましい。
【0081】
また、これらの2つ以上の特定の炭素数を有するアルキル基又はアラルキル基は、R2、R4、R6及びR8のうちの2つ以上であることが好ましく、特にR2、R4、R6及びR8のうちの2〜4つであることが好ましい。さらに、これらのアルキル基又はアラルキル基は、一般式(II)中の窒素原子に対して、m−位又はp−位に置換していることが好ましく、特にp−位に置換していることが好ましい。ここでR4及びR8はビフェニル部分のp−位に置換していることが好ましい。
【0082】
1〜R8は、本発明の効果を損わない限り、さらに置換基を有していてもよい。
本発明の効果を損わない置換基としては、イオン性の基以外であればよいが、R1〜R8が有していてもよい置換基のより好適な具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0083】
<置換基群Z>
ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
炭素数1〜20のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基、オクタデシル基等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基であり、メチル基、エチル基が、原料が入手しやすく、また安価であるなどの点から好ましく、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基は非極性溶剤に高い溶解性を持つために好ましい。
【0084】
炭素数6〜25の芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などのナフチル基、9−フェナンチル基、3−フェナンチル基などのフェナンチル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基などのアントリル基、1−ナフタセニル基、2−ナフタセニル基などのナフタセニル基、1−クリセニル基、2−クリセニル基、3−クリセニル基、4−クリセニル基、5−クリセニル基、6−クリセニル基などのクリセニル基、1−ピレニル基などのピレニル基、1−トリフェニレニル基などのトリフェニレニル基、1−コロネニル基などのコロネニル基、4−ビフェニル基、3−ビフェニル基などのビフェニル基等が挙げられ、化合物の安定性の面からフェニル基、2−ナフチル基、1−アントラニル基、9−フェナントリル基、9−アントラニル基、4−ビフェニル基、3−ビフェニル基が好ましく、フェニル基、2−ナフチル基、3−ビフェニル基が化合物の精製のし易さから特に好ましい。
【0085】
炭素数3〜20の芳香族複素環基の例としては、2−チエニル基などのチエニル基、2−フリル基などのフリル基、2−イミダゾリル基などのイミダゾリル基、9−カルバゾリル基などのカルバゾリル基、2−ピリジル基などのピリジル基、1,3,5−トリアジン−2−イル基などのトリアジン−イル基等が挙げられる。中でも9−カルバゾリル基が化合物の安定性の面から好ましい。
【0086】
炭素数1〜20のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。
【0087】
炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、9−アントラニルオキシ基、2−チエニルオキシ基等が挙げられる。
【0088】
炭素数1〜20のアルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。
【0089】
炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールチオ基の例としては、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、9−アントラニルチオ基、2−チエニルチオ基等が挙げられる。
ハロゲンとしては、フッ素などが挙げられる。
【0090】
(n1〜n8について)
1,n2,n4,n5,n6,n8は、各々独立に、0〜5の整数を示し、n3,n7は、各々独立に、0〜4の整数を示す。
1〜n8のうち少なくとも2つは、有機溶剤に対する溶解性が向上する点で、1以上であることが好ましく、また耐久性の観点から3以下であることが好ましい。
【0091】
(分子量について)
化合物(II)の分子量は、通常7000以下であり、化合物の精製の容易さを考えた場合、好ましくは分子量5000以下であり、溶剤に対する溶解性を考慮した場合、特に好ましくは3000以下、昇華精製による高純度化を考えた場合、最も好ましくは1500以下である。また、通常、一般式(II)で表される有機化合物の分子量は、500以上であり、化合物の熱的安定性を考えた場合、好ましくは分子量600以上である。
【0092】
(具体例)
以下に、化合物(II)の好ましい具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0093】
【化13】

【0094】
(溶剤に対する溶解性について)
化合物(II)は、通常トルエンに対して、室温(25℃)で、0.5重量%以上溶解するものが好ましく、塗布時に均一な膜を形成させ易いことから、1.0重量%以上溶解するものが好ましく、さらに塗布膜の膜厚制御がしやすいことから、1.5重量%以上溶解するものがより好ましく、さらに長時間の保存安定性の点から、2.0重量%以上溶解するものが特に好ましく、2.5重量%以上溶解するものが最も好ましい。
【0095】
(化合物(II)の合成方法)
化合物(II)は、目的とする化合物の構造に応じて原料を選択し、公知の手法を用いて合成することができる。
例えば、以下に示すようにクリセンを原料とし、クリセン環のハロゲン化、別途既知の方法により合成された、あるいは市販の2級アリールアミンとのカップリング反応を組み合わせて実施することにより合成することができるが、これに限定されるものではない。
【0096】
【化14】

【0097】
(上記式中、A〜Aは、アリール基を示す。)
【0098】
<組成>
本発明の化合物(I)を含む有機電界発光素子用組成物について、化合物(I)の含有量は、全固形分中、通常50重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、通常99重量%以下、好ましくは98重量%以下、より好ましくは95重量%以下である。組成物中の化合物(I)の含有量をこの範囲とすることにより、隣接する層(例えば、正孔輸送層や正孔阻止層)から発光層へ効率よく、正孔や電子の注入が行われ、駆動電圧を低減することができる。また、ドーパント材料又はホスト材料を効率よく均一に分散させることで、濃度消光の抑制と、これに伴う発光効率の向上、低電圧化、長寿命化の効果が得られる。尚、本発明の化合物(I)は本発明の有機電界発光素子用組成物中に、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0099】
また、有機電界発光素子用組成物中の溶剤の含有量は、有機電界発光素子用組成物100重量部に対して、好ましくは10重量部以上、より好ましくは50重量部以上、特に好ましくは80重量部以上、また、好ましくは99.95重量部以下、より好ましくは99.9重量部以下、特に好ましくは99.8重量部以下である。溶剤の含有量がこの下限を下回ると、有機電界発光素子用組成物の粘性が高くなりすぎ、成膜作業性が低下する可能性がある。一方、この上限を上回ると、成膜後、溶剤を除去して得られる膜の厚みが稼げなくなるため、成膜が困難となる傾向がある。
【0100】
有機電界発光素子用組成物が化合物(II)等の発光材料を含む場合、有機電界発光素子用組成物における化合物(II)等の発光材料の含有量は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは10重量%以下である。この範囲とすることにより、発光効率の向上及び素子の低電圧化の効果が得られる。尚、化合物(II)等の発光材料は組成物中に、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が組み合わせて含まれていてもよい。
【0101】
<その他の成分>
本発明の有機電界発光素子用組成物には、本発明の化合物(I)や溶剤、発光材料の他、有機電界発光素子、特に発光層に用いられる電荷輸送性化合物を含有することができる。
【0102】
本発明の有機電界発光素子用組成物が含有し得る他の電荷輸送性化合物としては、従来有機電界発光素子用材料として用いられているものを使用することができる。例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、ナフタセン、フェナントレン、コロネン、フルオランテン、ベンゾフェナントレン、フルオレン、アセトナフトフルオランテン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体、キナクリドン誘導体、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン、アリールアミノ基が置換された縮合芳香族環化合物、アリールアミノ基が置換されたスチリル誘導体等が挙げられる。
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0103】
本発明の有機電界発光素子用組成物中の他の電荷輸送性化合物の含有量は、該組成物を100重量部とすると、通常1重量部以上、また、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下である。
また、有機電界発光素子用組成物中の他の電荷輸送性化合物の含有量は、有機電界発光素子用組成物中の本発明の化合物(I)に対して、通常50重量%以下、特に30重量%以下で、通常0.01重量%以上、特に0.1重量%以上であることが好ましい。
【0104】
本発明の有機電界発光素子用組成物には、必要に応じて、上記の成分等の他に、更に他の成分を含有していてもよい。例えば、上記の溶剤の他に、別の溶剤を含有していてもよい。そのような溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
【0105】
また、本発明の有機電界発光素子材料は成膜性の向上を目的として、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0106】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、陽極及び陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、当該有機層が発光層を含み、上述の本発明の化合物(I)を含む有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法にて形成された層を含むものである。特に、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法にて形成された層は発光層であることが好ましく、また、発光層に接して正孔輸送層が設けられ、この正孔輸送層も湿式成膜法で形成された層であることが好ましい。これは以下の理由による。
即ち、湿式成膜法により形成された膜は表面の平坦性が良好であり、この上に本発明の有機電界発光素子用組成物を湿式成膜する際になじみが良いため、良好な界面を形成する。そのため、駆動電圧が下がるなど、結果として良好な性能を示す素子とすることができる。
【0107】
以下に本発明の有機電界発光素子の構造例を示す図1の素子構成に従って、本発明の有機電界発光素子の構成を説明するが、本発明の有機電界発光素子は発光層を有し、かつ、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成された層、好ましくは発光層を陽極及び陰極の間に有していればよく、他の層は有していても、有していなくてもよい。
【0108】
{基板}
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0109】
{陽極}
基板1上には陽極2が設けられる。陽極2は発光層側の層(正孔注入層3など)への正孔注入の役割を果たすものである。
【0110】
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。
【0111】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などを用いて陽極を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0112】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
【0113】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましい。この場合、陽極の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0114】
陽極に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
【0115】
{正孔注入層}
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0116】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0117】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物及び溶剤を含有する。
【0118】
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0119】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0120】
尚、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのもの及び芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
【0121】
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用することが好ましい。
【0122】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0123】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(III)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0124】
【化15】

【0125】
(式(III)中、Ar1及びAr2は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示す。Ar3〜Ar5は、各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を示す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を示す。また、Ar1〜Ar5のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0126】
【化16】

【0127】
(上記各式中、Ar6〜Ar16は、各々独立して、置換基を有していてもよい1価もしくは2価の芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい1価もしくは2価の芳香族複素環基を示す。R11及びR12は、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を示す。))
【0128】
Ar1〜Ar16の1価又は2価の芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。
【0129】
Ar1〜Ar16の1価又は2価の芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。
【0130】
11及びR12が任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0131】
式(III)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
また、正孔輸送性化合物としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4-ethylenedioxythiophene(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)もまた好ましい。また、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
【0132】
さらに、正孔輸送性化合物としては、後述の{正孔輸送層}の項に記載の架橋性化合物を用いてもよい。架橋性化合物を用いる場合、成膜方法なども同様である。
【0133】
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0134】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0135】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4'−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開2005/089024号パンフレット);塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0136】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
【0137】
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0138】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0139】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があし、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
溶剤として例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
【0140】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
【0141】
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0142】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0143】
塗布工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましくい。
【0144】
塗布工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
【0145】
塗布後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
【0146】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0147】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0148】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0149】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10-6Torr(0.13×10-4Pa)以上、通常9.0×10-6Torr(12.0×10-4Pa)以下である。
蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0150】
{正孔輸送層}
正孔輸送層4は、正孔注入層がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。
また、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0151】
本発明に係る正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0152】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0153】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0154】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
【0155】
ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(IV)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。特に、下記式(IV)で表される繰り返し単位からなる重合体であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、Ara又はArbが異なっているものであってもよい。
【0156】
【化17】

【0157】
(式(IV)中、Ara及びArbは、各々独立して、置換基を有していてもよい、1価もしくは2価の芳香族炭化水素基又は1価もしくは2価の芳香族複素環基を表す。)
【0158】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0159】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0160】
有機溶剤に対して溶解性、耐熱性の点から、Ara及びArbは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基(ビフェニレン基)やターフェニル基(ターフェニレン基))が好ましい。
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)及びフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
【0161】
Ara及びArbにおける芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0162】
ポリアリーレン誘導体としては、前記式(IV)におけるAraやArbとして例示した置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する重合体が挙げられる。
【0163】
ポリアリーレン誘導体としては、下記式(V−1)及び/又は下記式(V−2)からなる繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【0164】
【化18】

【0165】
(式(V−1)中、Ra、Rb、Rc及びRdは、各々独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシ基を表す。t及びsは、各々独立に、0〜3の整数を表す。t又はsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRa又はRbは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRa又はRb同士で環を形成していてもよい。)
【0166】
【化19】

【0167】
(式(V−2)中、Re及びRfは、各々独立に、上記式(V−1)におけるRa、Rb、Rc又はRdと同義である。r及びuは、各々独立に、0〜3の整数を表す。r又はuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRe及びRfは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRe又はRf同士で環を形成していてもよい。Xは、5員環又は6員環を構成する原子又は原子群を表す。)
【0168】
Xの具体例としては、―O―、―BR―、―NR―、―SiR2―、―PR―、―SR―、―CR2―又はこれらが結合してなる基である。尚、Rは、水素原子又は任意の有機基を表す。本発明における有機基とは、少なくとも一つの炭素原子を含む基である。
【0169】
また、ポリアリーレン誘導体としては、前記式(V−1)及び/又は前記式(V−2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(V−3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0170】
【化20】

【0171】
(式(V−3)中、Arc〜Arjは、各々独立に、置換基を有していてもよい、1価もしくは2価の芳香族炭化水素基又は1価もしくは2価の芳香族複素環基を表す。v及びwは、各々独立に0又は1を表す。)
【0172】
Arc〜Arjの具体例としては、前記式(IV)における、Ara及びArbと同様である。
【0173】
上記式(V−1)〜(V−3)の具体例及びポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008−98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
【0174】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
【0175】
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0176】
真空蒸着法により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0177】
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
【0178】
正孔輸送層4はまた、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を有する化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
【0179】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン由来の基などが挙げられる。
【0180】
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で有していてもよい。
【0181】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物としては、上記の例示したものが挙げられ、これら正孔輸送性化合物に対して、架橋性基が主鎖又は側鎖に結合しているものが挙げられる。特に架橋性基は、アルキレン基等の連結基を介して、主鎖に結合していることが好ましい。また、特に正孔輸送性化合物としては、架橋性基を有する繰り返し単位を含む重合体であることが好ましく、上記式(IV)や式(V−1)〜(V−3)に架橋性基が直接又は連結基を介して結合した繰り返し単位を有する重合体であることが好ましい。
【0182】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
【0183】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解又は分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により成膜して架橋させる。
【0184】
正孔輸送層形成用組成物には、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤及び重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。
【0185】
また、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤;電子受容性化合物;バインダー樹脂;などを含有していてもよい。
【0186】
正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。
【0187】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱及び/又は光などの活性エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させて網目状高分子化合物を形成する。
【0188】
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層3の湿式成膜時と同様である。
【0189】
成膜後の加熱の手法は特に限定されない。加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、塗布膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0190】
光などの活性エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の活性エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0191】
加熱及び光などの活性エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
【0192】
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0193】
{発光層}
本発明の有機電界発光素子における発光層5は、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法で形成されることが好ましい。
【0194】
成膜時の成膜温度は限定されないが、組成物中に結晶や凝集が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、13℃以上がより好ましく、16℃以上がさらに好ましく、また、50℃以下が好ましく、40℃以下がさらに好ましい。
【0195】
成膜時の相対湿度は限定されないが、通常0.01ppm以上、好ましくは0.05ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上、通常80%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは15%以下、更に好ましくは1%以下、特に好ましくは100ppm以下である。相対湿度が小さすぎると、成膜条件の制御が困難となり、安定した環境を維持できない。また、大きすぎると発光層への水分吸着が影響する可能性がある。
【0196】
成膜後は、通常は加熱乾燥させる。加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
【0197】
加熱工程における加熱方向は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されない。加熱方向の例を挙げると、例えば、ホットプレート上に成膜基板を搭載し、そのホットプレートを介して塗布膜を加熱させることで、塗布膜を基板の下面(有機層が塗布されていない基板側)から加熱していく方法、クリーンオーブン内に成膜基板を投入することで、前後左右すべての方向から塗布膜を加熱する方法等が挙げられる。
【0198】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限はないが、通常90℃以上、好ましくは100℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは140℃以下で加熱することが好ましい。加熱温度が高すぎると他の層に成分が拡散する可能性があり、また、低すぎると十分に残存溶剤を取り除けない可能性がある。また、有機電界発光素子用組成物中に溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤である場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。
【0199】
加熱工程における加熱時間は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは15分以上、より好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上、また、好ましくは6時間以下、より好ましくは3時間以下、さらに好ましくは2時間以下である。この加熱により、塗布膜を十分に不溶化させることが可能となる。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、また、短すぎると十分な均質性が得られない。
【0200】
発光層5の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層5の膜厚が、薄すぎると発光層5に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると素子の駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0201】
本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて発光層を形成しない場合、発光層としては従来有機電界発光素子の発光層として使用されている材料や方法により形成することができる。
【0202】
{正孔阻止層}
発光層5上に正孔阻止層6を設けてもよい。この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
【0203】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト),(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0204】
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、真空蒸着法や、その他の方法で形成できる。好ましくは真空蒸着法である。
【0205】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0206】
{電子輸送層}
陰極8と発光層5との間には電子輸送層7を設けてもよい。電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0207】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9又は後述の電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0208】
電子輸送層7の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、真空蒸着法や、その他の方法で形成することができる。好ましくは真空蒸着法である。
【0209】
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0210】
{電子注入層}
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。
【0211】
電子注入層8の形成材料としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が挙げられる。この場合の電子注入層8の膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0212】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。また、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸セシウム(II)(CsCO3)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0213】
この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0214】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0215】
電子注入層8の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、真空蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0216】
{陰極}
陰極9は、発光層5側の層に電子を注入する役割を果たすものである。
【0217】
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0218】
陰極9の膜厚は、通常、陽極と同様である。
【0219】
さらに、低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0220】
{その他の層}
本発明の有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層、例えば、以下に記載する電子阻止層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0221】
電子阻止層は、発光層5に接して、発光層5の陽極側に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔輸送層4、正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔輸送層4、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は効果的である。
【0222】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層を本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層8に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号公報記載)等が挙げられる。なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0223】
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、真空蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0224】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極から順に設けることになる。
【0225】
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0226】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V25)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0227】
更には、本発明の有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
【0228】
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、各々の層構成材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0229】
[有機EL表示装置]
本発明の有機EL表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0230】
[有機EL照明]
本発明の有機EL照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例】
【0231】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の
実施例に限定されるものではなく、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変更して実
施できる。
【0232】
〔化合物の合成〕
[合成例1:本発明化合物H−1の合成]
<化合物2の合成>
【0233】
【化21】

【0234】
化合物1(3−ブロモ−ヨードベンゼン)(25g、88mmol)及び1−ナフチルボロン酸(13.8g、80mmol)をトルエン240ml/エタノール120ml混合溶剤に溶解し、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム1g、2Mリン酸三カリウム水溶液125mlを加え、窒素気流下、4時間還流攪拌しながら反応させた。ここへトルエンと水を加え、分液し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。この操作を2回行い、化合物2(1−ブロモ−3−ナフチルベンゼン)を合計で37g得た。
【0235】
<化合物3の合成>
【化22】

【0236】
化合物2(1−ブロモ−3−ナフチルベンゼン)(20g、71mmol)を250mlの脱水テトラヒドロフラン(THF)に溶解した。−78℃に溶液を保持し、1.2Mのn−BuLiのヘキサン溶液50mlを添加した。1時間攪拌後、ホウ酸トリメチル25mlを添加し、2時間攪拌後、徐々に昇温させた。更に1N塩酸を加え、塩化メチレン50mlを入れて抽出し、濃縮乾燥した。この操作を2回繰り返し、37gの化合物3(m−ナフチルフェニルボロン酸)を得た。
【0237】
<化合物4の合成>
【化23】

【0238】
化合物1(3−ブロモ−ヨードベンゼン)(17.6g、62mmol)及び化合物3(m−ナフチルフェニルボロン酸)(14.0g、62.1mmol)をトルエン170ml/エタノール85ml混合溶剤に溶解し、2M炭酸ナトリウム水溶液85mlと、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム2gを加え、窒素気流下、6時間還流攪拌しながら反応させた。ここへトルエンと水を加え、分液し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、13.0gの化合物4(3’−ブロモフェニル−3−(1−ナフチル)ベンゼン)を得た。
【0239】
<化合物5の合成>
【化24】

【0240】
化合物4(3’−ブロモフェニル−3−(1−ナフチル)ベンゼン)(13.0g、36mmol)を200mlの脱水THFに溶解した。−78℃に溶液を保持し、1.05Mのn−BuLiのヘキサン溶液24mlを添加した。更に1時間攪拌後、ホウ酸トリメチル12mlを添加し、2.5時間攪拌後、徐々に昇温させた。さらに1N塩酸200mlを加え、酢酸エチル400mlを入れて抽出し、濃縮乾燥した後、ヘキサンで洗浄して13.6gの化合物5を得た。
【0241】
<化合物6の合成>
【化25】

【0242】
3−ビフェニルボロン酸(12.39g、62.6mmol)及び9−ブロモアントラセン(12.37g、48.1mmol)をトルエン80ml/エタノール40ml混合溶剤に溶解し、2Mリン酸三カリウム水溶液60mLを加え、更にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム2.2gを加え、窒素気流下、80℃で6.5時間攪拌しながら反応させた。ここへトルエンと水を加え、分液し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、15.6gの化合物6(ビフェニルアントラセン)を得た。
【0243】
<化合物7の合成>
【化26】

【0244】
化合物6(ビフェニルアントラセン)(31.0g、93.8mmol)を室温下、N,N−ジメチルホルムアミド550mlに加え攪拌し、N−ブロモスクシンイミド(16.2g、93.8mmol)を固体のまま分割して加え、さらに5時間攪拌した。ここへ水及びジクロロメタンを加え、油層に硫酸マグネシウムを加え濾過後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ、35.1gの化合物7を得た。
【0245】
<化合物H−1の合成>
【化27】

【0246】
化合物7(12.10g、29.6mmol)及び化合物5(12.0g、37.0mmol)をトルエン(80ml)/エタノール(40ml)混合溶剤に溶解し、2Mリン酸三カリウム水溶液40mLを加え、更にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(1.33g)を加え、窒素気流下、9時間攪拌還流しながら反応させた。ここへトルエンと水を加え、分液し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、昇華精製し、10.3gの化合物H−1を得た。得られた化合物H−1のH−NMRチャート(400MHz、CDCl、25℃)を図2に示す。
【0247】
[合成例2:本発明の化合物H−2の合成例]
<化合物8の合成>
【化28】

【0248】
化合物5(5.89g、18.2mmol)及び9−ブロモアントラセン(3.59g、14.0mmol)をトルエン30ml/エタノール15ml混合溶剤に溶解し、2Mリン酸三カリウム水溶液17mLを加え、更にテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.7gを加え、窒素気流下、4時間還流攪拌しながら反応させた。ここへトルエンと水を加え、分液し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、5.78gの化合物8を得た。
【0249】
<化合物9の合成>
【化29】

【0250】
化合物8(4.4g、9.36mmol)を室温下、N,N−ジメチルホルムアミド160mlに加えて攪拌し、N−ブロモスクシンイミド(1.8g、10.1mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(40ml)溶液を0℃で滴下して加え、1時間撹拌した後、さらに室温で2時間攪拌した。ここへ水を加えて析出物を濾過後、乾燥したところ、5.0gの化合物9を得た。
【0251】
<化合物10の合成>
【化30】

【0252】
化合物1(3−ブロモ−ヨードベンゼン)(13.7g、48.5mmol)及びビフェニル−3−ボロン酸(8.0g、40.4mmol)をトルエン120ml/エタノール60ml混合溶剤に溶解し、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム1gと、2M炭酸ナトリウム水溶液30mlを加え、窒素気流下、6時間還流攪拌しながら反応させた。ここへ酢酸エチルと水を加え、分液し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。この操作を2回行い、化合物10を合計で10.5g得た。
【0253】
<化合物11の合成>
【化31】

【0254】
化合物10(10.5g、34mmol)を100mlの脱水THFに溶解した。−78℃に溶液を保持し、1.05Mのn−BuLiのヘキサン溶液25mlを添加した。3時間攪拌後、ホウ酸トリメチル12mlを添加し、徐々に室温まで昇温させながら1時間攪拌した。ここへ1N塩酸100mlを加え、酢酸エチルを入れて抽出し、濃縮乾燥し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して8.0gの化合物11を得た。
【0255】
<化合物H−2の合成>
【化32】

【0256】
化合物9(5.0g、9.3mmol)及び化合物11(3.8g、14.0mmol)をトルエン(160ml)/エタノール(80ml)混合溶剤に溶解し、2Mリン酸三カリウム水溶液40mLを加え、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.33g)を加え、窒素気流下、6時間攪拌還流しながら反応させた。ここへ酢酸エチルと水を加えて分液し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、昇華精製し、2gの化合物H−2を得た。得られた化合物H−2のH−NMRチャート(400MHz、CDCl、25℃)を図3に示す。
【0257】
[合成例3,4:比較化合物C−1,C−2の合成]
合成例1,2と同様の手法によって、比較化合物C−1及びC−2を合成した。
【0258】
<比較化合物C−1>
【化33】

【0259】
<比較化合物C−2>
【化34】

【0260】
[溶剤溶解性]
本発明化合物H−1,H−2及び比較化合物C−1,C−2について、以下の方法で1013hPa、25℃におけるシクロヘキシルベンゼンに対する溶解度を測定し、結果を表1に示した。
【0261】
<溶解度測定方法>
25℃に調温された室内において、本発明化合物又は比較化合物をガラス製バイアル中に10mg秤量し、バイアルを振とうしながら完全に溶解するまでシクロヘキシルベンゼンを少量ずつ滴下した後、25℃で12時間以上静置して、均一溶液状態を保持することを確認した。シクロヘキシルベンゼンの滴下重量から溶解度を算出した。
【0262】
【表1】

【0263】
〔有機電界発光素子の作成〕
[実施例1]
図1に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。ガラス基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したもの(スパッター成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0264】
次いで、正孔注入層3を以下のように湿式成膜法によって形成した。正孔注入層3の材料として、下記式に示す芳香族アミノ基を有する高分子化合物PB−1(重量平均分子量:52000,数平均分子量:32500))と下記に示す構造式の電子受容性化合物A−2とを用い、下記組成の正孔注入層形成用組成物を用いて以下の成膜条件でスピンコートした。
【0265】
【化35】

【0266】
<正孔注入層形成用組成物>
溶剤:安息香酸エチル
PB−1濃度:2.0重量%
A−2濃度:0.4重量%
【0267】
<成膜条件>
スピナ回転数:2250rpm
スピナ回転時間:30秒
スピンコート雰囲気:大気下,25℃
乾燥条件:230℃×60分
【0268】
上記のスピンコートにより膜厚30nmの均一な薄膜が形成された。
【0269】
続いて、正孔輸送層4を以下のように湿式成膜法によって形成した。正孔輸送層4の材料として、下記に示す構造式の電荷輸送材料PB−2を、溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを用い、下記組成の正孔輸送層形成用組成物を調製し、この正孔輸送層形成用組成物を用いて以下の成膜条件でスピンコートした。
【0270】
【化36】

【0271】
<正孔輸送層形成用組成物>
溶剤:シクロヘキシルベンゼン
PB−2濃度:1.4重量%
【0272】
<成膜条件>
スピナ回転数:1500rpm
スピナ回転時間:120秒
スピンコート雰囲気:乾燥窒素中,25℃
乾燥条件:230℃×60分(乾燥窒素下)
【0273】
上記のスピンコートにより膜厚20nmの均一な薄膜が形成された。
【0274】
次に、発光層5を形成するにあたり、電荷輸送材料として、合成例1で合成された本発明化合物H−1を用い、発光材料として下記構造の有機化合物D−1を用いて下記に示す発光層形成用組成物(本発明の有機電界発光素子用組成物)を調製し、以下に示す成膜条件で正孔輸送層4上にスピンコートして膜厚45nmで発光層5を得た。
【0275】
【化37】

【0276】
<発光層形成用組成物>
溶剤:シクロヘキシルベンゼン
H−1濃度:5重量%
D−1濃度:0.5重量%
【0277】
<成膜条件>
スピナ回転数:2000rpm
スピナ回転時間:120秒
スピンコート雰囲気:乾燥窒素中、25℃
乾燥条件:130℃×60分(減圧下)
【0278】
上記のスピンコートにより膜厚50nmの均一な薄膜が形成された。
【0279】
次に、正孔阻止層6として下記に示すピリジン誘導体HB−1をるつぼ温度251〜252℃として、蒸着速度0.08〜0.12nm/秒で10nmの膜厚で積層した。蒸着時の真空度は2.1〜2.4×10−4Pa(約1.6〜1.8×10−6Torr)であった。
【0280】
【化38】

【0281】
次に、正孔阻止層6の上に、電子輸送層7として下記に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体ET−1を同様にして蒸着した。この時のアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体ET−1のるつぼ温度は222〜239℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は1.7〜2.0×10−4Pa(約1.3〜1.5×10−6Torr)、蒸着速度は0.1nm/秒で膜厚は30nmとした。
【0282】
【化39】

【0283】
上記の正孔阻止層6及び電子輸送層7を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が2.3×10−6Torr(約3.0×10−4Pa)以下になるまで排気した。
【0284】
次に、電子輸送層7の上に、電子注入層8として、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.015nm/秒、真空度2.5×10−6Torr(約3.3×10−4Pa)で、0.5nmの膜厚で電子輸送層7の上に成膜した。次に、電子注入層8の上に、陰極9として、アルミニウムをモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5〜3.0nm/秒、真空度3.3〜7.5×10−6Torr(約4.4〜10.0×10−4Pa)で成膜して膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極9を完成させた。
【0285】
以上の電子注入層8、陰極9の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0286】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性は以下の通りである。
輝度/電流:5.4[cd/A](@1000cd/m
電圧:5.8[V](@1000cd/m
発光効率:3.0[1m/W](@1000cd/m
素子の発光スペクトルの極大波長は465nmであり、色度はCIE(x,y)=(0.13,0.17)であった。
【0287】
[実施例2]
本発明化合物H−1のかわりに本発明化合物H−2を用いる以外、実施例1と同様に素子を作成した。
この素子の発光特性は以下の通りである。
輝度/電流:5.6[cd/A](@1000cd/m
電圧:6.0[V](@1000cd/m
発光効率:3.0[1m/W](@1000cd/m
素子の発光スペクトルの極大波長は461nmであり、色度はCIE(x,y)=(0.14,0.18)であった。
【0288】
[比較例1]
本発明化合物H−1のかわりに比較化合物C−1を用いる以外、実施例1と同様に素子の作製を試みたが、比較化合物C−1の溶剤に対する溶解性が不足し、素子を作製できなかった。
【0289】
[比較例2]
本発明化合物H−1のかわりに比較化合物C−2を用いる以外、実施例1と同様に素子を作成した。
この素子の発光特性は以下の通りである。
輝度/電流:5.2[cd/A](@1000cd/m
電圧:7.0[V](@1000cd/m
発光効率:2.4[1m/W](@1000cd/m
素子の発光スペクトルの極大波長は461nmであり、色度はCIE(x,y)=(0.14,0.17)であった。
【0290】
実施例1,2及び比較例1,2について、有機電界発光素子の評価結果を、用いた電荷輸送材料のシクロヘキシルベンゼンに対する溶解度と共に下記表2にまとめる。
駆動寿命については、比較例2の素子を3000cd/mで駆動したときの5%減衰寿命(LT95)を1とした相対値で表す。
【0291】
【表2】

【0292】
表2より、本発明の化合物(I)を含む有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜することにより、駆動電圧が低く、長寿命の有機電界発光素子を作製することができることが分かる。
【符号の説明】
【0293】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物。
【化1】

(上記一般式(I)において、フェニル基A及びBは各々独立に任意の置換基を有していてもよく、当該置換基を含め、互いに異なる構造を示す。但し、当該フェニル基A及びBはいずれも、他の任意の環と縮合して縮合環基の一部を形成することはない。)
【請求項2】
前記一般式(I)において、フェニル基A及びBは、各々独立に、そのm−位がベンゼン環及び/又はナフタレン環が1〜3個連結してなる1価の基で置換されていてもよい、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記ベンゼン環及び/又はナフタレン環が1〜3個結合してなる1価の基において、該基に含まれるフェニレン基はいずれもm−フェニレン基であり、ナフチレン基は1,3−、1,6−、1,7−又は2,7−ナフチレン基である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記一般式(I)で表される化合物の、1013hPaで25℃における、シクロへキシルベンゼンに対する溶解度が8重量%以上である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の化合物からなる、電荷輸送材料。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の化合物及び溶剤を含む、有機電界発光素子用組成物。
【請求項7】
前記溶剤が、炭素原子及び水素原子、或いは炭素原子、水素原子及び酸素原子からなる有機溶剤であり、当該有機溶剤の25℃における粘度が0.0001〜0.01Pasで、1013hPaにおける沸点が50〜300℃である、請求項6に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項8】
前記有機溶剤が、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、シクロヘキサノン、トリメチルシクロヘキサノン、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれた少なくとも1種を含む、請求項7に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項9】
さらに発光材料として、芳香族アミン化合物を含有する、請求項6ないし8のいずれか1項に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項10】
前記芳香族アミン化合物が、2以上のベンゼン環が縮合してなる芳香族炭化水素環に、アミノ基が直接結合してなる構造を有する化合物である、請求項9に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項11】
前記芳香族アミン化合物が、クリセン環にアミノ基が2個結合してなるクリセンジアミン化合物である、請求項10に記載の有機電界発光素子用組成物。
【請求項12】
陽極及び陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、当該有機層が発光層を含み、かつ請求項6ないし11のいずれか一項に記載の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法にて形成された層を含む、有機電界発光素子。
【請求項13】
前記有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法にて形成された層が発光層である、請求項12に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
前記有機層が、前記発光層に接して設けられた正孔輸送層を含み、当該正孔輸送層が湿式成膜法にて形成された層である、請求項12又は13に記載の有機電界発光素子。
【請求項15】
前記正孔輸送層が、架橋性化合物を架橋させて形成された層である、請求項14に記載の有機電界発光素子。
【請求項16】
請求項12ないし15のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を含む、有機EL表示装置。
【請求項17】
請求項12ないし15のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を含む、有機EL照明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−1449(P2012−1449A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135114(P2010−135114)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】