説明

化合物の製造のための組成物および方法

本発明は、化合物の製造のために有用な組成物および方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願についての相互参照
本願は、2008年12月22日に出願された米国仮出願第61/140,053号の利益を主張する。米国仮出願第61/140,053号の全内容は、本明細書に参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
工業発酵の進歩およびバイオテクノロジーにおける前進にかかわらず、現行の方法では、ある種の化合物の大規模(たとえば工業的または商業的規模)の量の製造は可能でない。例えば、殆どの直鎖状および芳香族の炭化水素(例えばバイオ燃料の製造において生成されるもの)は、細胞増殖の強力な阻害剤である。結果として、生化学的合成は、天然生成物(例えば、ビタミン、酵素、抗体)および高価な少量の合成物に限定される。しかし、工業発酵により生成することができないカーボンニュートラルな合成生成物および細胞傷害性生成物に対する大きな市場が存在する。したがって、バイオサイド、抗体および抗がん化合物などの治療上有益な化合物を含む、合成することが困難な化合物の大規模製造をもたらす代替的合成方法の必要性が存在する。
【0003】
疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は、毎年米国人の5%〜20%がインフルエンザを発症すると概算している。CDCによれば、約200,000人の人々がインフルエンザの合併症のために入院し、36,000人もの人々が疾患の結果として死亡する。インフルエンザからのリスクが最も高いのは、高齢者、小児、および慢性的な健康状態を有する人々である。通常は鶏を含む鳥類に感染する鳥インフルエンザは、より大きくより具体的な問題を提起する。これらのウイルスは一般的にはヒトに感染しないので、ヒト集団においてはそれらに対して殆どまたは全く免疫的保護が存在しない。2003年後期および2004年初期におけるアジアにおける鳥インフルエンザ、すなわちインフルエンザA(H5N1)の発生の後で、2004年1月から、130を超える症例が世界保健機関により報告されており、これまでに70人の人々が鳥インフルエンザによる感染の結果として死亡している。
【0004】
オセルタミビルは、インフルエンザAおよびインフルエンザBの両方の処置および予防において用いられるノイラミニダーゼ阻害剤であり、鳥インフルエンザに対する最も有用な処置であると広く考えられている。最初の経口で活性な商業的に開発されたノイラミニダーゼ阻害剤であるリン酸オセルタミビルは、Gilead Sciencesにより開発され、Hoffman-La Roche(Roche)によりTAMIFLUの商品名で現在市販されている。インフルエンザウイルスの複製のために必須であるノイラミニダーゼの阻害剤として、TAMIFLUはH5N1およびH7N7ウイルス株に対して効果がある。TAMIFLUは、東南アジアにおける2005年におけるH5N1鳥インフルエンザの流行の間に広く用いられた。しかし、現在のTAMIFLUの供給は、世界人口のわずか2%しかカバーしないと概算されている。TAMIFLU製造の主要なボトルネックは、植物由来の天然化合物であるシキミ酸の入手可能性である。シキミ酸を合成するための化学反応は知られているが、シキミ酸を合成する現在の方法は、爆発の可能性があるアジド化学を含み、シキミ酸を大量に商業規模で合成することは困難である。
【0005】
各国の政府および世界的な医学会は、起こり得る世界的な大流行に対応して、TAMIFLUなどの治療剤の大量製造および備蓄の緊急の必要性を認識している。例えば、インフルエンザの治療の進歩にもかかわらず、インフルエンザを処置するための現在の方法は、世界規模の、または国家規模の緊急事態にすら不適当である。したがって、感染性疾患の処置において有用な化合物の製造の緊急の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
発明の要旨
以下に記載するとおり、本発明は、治療上有用な化合物またはその前駆体などの、目的の化合物の製造をもたらす組成物およびシステムを特徴とする。
【0007】
一局面において、本発明は、化合物の形成を触媒する酵素およびアデノシン三リン酸(ATP)再生システムを含む単離された組成物を提供し、ここで、酵素およびATP再生システムは、同じソースまたは別々のソースから得られ、ここで少なくとも一方は、無細胞抽出物である。
【0008】
別の局面において、本発明は、化合物の合成のためのin vitroの無細胞システムを提供し、該システムは、炭素ソース、リン酸ソース、水、化合物の形成を触媒する酵素、エネルギーソース、アデノシン二リン酸(ADP)およびアデノシン三リン酸(ATP)再生システムを含む。
【0009】
さらに別の局面において、本発明は、化合物を合成するための方法を提供し、該方法は、in vitroの無細胞反応を形成するための、炭素のソース、リン酸のソース、水、化合物の形成を触媒する酵素、エネルギーソース、アデノシン二リン酸(ADP)およびアデノシン三リン酸(ATP)再生システムを含む成分を提供すること、ならびに、化合物を合成するために、in vitroの無細胞反応をインキュベートすることを含む。
【0010】
さらなる局面において、本発明は、シキミ酸の合成のための方法を提供し、該方法は、in vitroの無細胞反応を形成するための、シキミ酸の前駆体、ATPのソースおよびシキミ酸の形成を触媒する酵素を含む成分を提供すること、ならびに、in vitroの無細胞反応をインキュベートし、それによりシキミ酸を合成することを含む。
【0011】
別の局面において、本発明は、3−デオキシ−D−αアラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)シンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、デヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼまたはそれらの組み合わせからなる群より選択される酵素ならびにアデノシン三リン酸ATP再生システムを含む単離された組成物を提供し、ここで、前記酵素および前記ATP再生システムは、同じソースまたは別々のソースから得られ、ここで少なくとも一方は、無細胞抽出物である。
【0012】
なお別の局面において、本発明は、化合物の合成のための、炭素ソース、リン酸ソース、水、エネルギーソース、アデノシン二リン酸(ADP)、光合成的アデノシン三リン酸(ATP)再生システム、および3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)シンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、デヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼ、またはそれらの組み合わせを含む酵素を含む、in vitroの無細胞システムを提供する。
【0013】
さらに別の局面において、本発明は、化合物を合成するための方法を提供し、該方法は、in vitroの無細胞反応を形成するための、炭素のソース、リン酸のソース、水、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)再生システム、および3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)シンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、デヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼまたはそれらの組み合わせからなる群より選択される酵素を含む成分を提供すること、ならびに、化合物を合成するためのin vitroの無細胞反応をインキュベートすることを含む。
【0014】
上記の局面の任意のものの多様な態様において、酵素およびATP再生システムは、別々のソースから得られる。ソースは、独立して、無細胞抽出物、in vitroの反応またはそれらの組み合わせから選択される。上記の局面の任意のものの多様な態様において、in vitroの無細胞システムは、さらに、in vitroで合成される化合物を含む(例えば、多様な態様においてシキミ酸がin vitroで合成される)。上記の局面の任意のものの多様な態様において、ATP再生システムは、光合成的ATP再生システムである。上記の局面の任意のものの多様な態様において、ATP再生システムは、植物、藻類またはシアノバクテリアから単離される。上記の局面の任意のものの多様な態様において、ATP再生システムは、チラコイド膜を含む。上記の局面の任意のものの多様な態様において、ATP再生システムは、葉緑体を含む。
【0015】
上記の局面の任意のものの多様な態様において、ATP再生システムは、ATPシンターゼ、チトクロムb−f複合体、プラストシアニンおよび光化学系1(PS1)複合体を含む。特定の態様において、PS1複合体は、ポリペプチドであるPsaA−PsaSならびに分子であるクロロフィル700、フィロキノン、Feおよびカロテノイドを含み、チトクロムb−f複合体は、チトクロムb、チトクロムf、鉄硫黄タンパク質、チトクロムb−fサブユニットIVおよび分子であるヘムb、ヘムb、ヘムcおよびFeを含む。
【0016】
上記の局面の任意のものの多様な態様において、ATP再生システムは、光化学系2(PS2)複合体およびプラストキノンを含む。上記の局面の任意のものの多様な態様において、ATP再生システムは、ATPシンターゼ、光化学系2(PS2)複合体、プラストキノンおよびチトクロムb−f複合体を含む。特定の態様において、PS2複合体は、ポリペプチドであるCp43、Cp47、PsbO、PsbP、PsbQ、PsbE、PsbF、マンガン安定化タンパク質、および分子であるクロロフィル680、フェオフィチン、キノン、ベータカロテンおよびヘムb559を含む。
【0017】
上記の局面の任意のものの多様な態様において、酵素は、細胞溶解物から得られるか、またはin vitro翻訳により合成される。上記の局面の任意のものの多様な態様において、化合物は、治療用化合物、治療用化合物の前駆体、または色素である。特定の態様において、治療用化合物は、インフルエンザの処置のためのものである。特定の態様において、化合物は、シキミ酸またはシキミ酸前駆体である。上記の局面の任意のものの多様な態様において、単離された組成物は、酵素3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)シンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、デヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼ、またはそれらの組み合わせを含む。
【0018】
多様な態様において、in vitroの無細胞システムは、プロテアーゼ阻害剤、アミノ酸、リボソーム、化合物の形成を触媒する酵素のアミノ酸配列をコードするRNA、RNAポリメラーゼ、化合物の形成を触媒する酵素のヌクレオチド配列をコードするDNA、またはそれらの組み合わせをさらに含む。
多様な態様において、炭素ソースは、化合物の前駆体である。多様な態様において、成分は1より多い工程において添加される。多様な態様において、方法は、合成された化合物を精製するための工程をさらに含む。
【0019】
多様な態様において、シキミ酸の前駆体は、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、エリトロース−4−リン酸(E4P)、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)、デヒドロキナ酸、デヒドロシキミ酸、またはそれらの組み合わせである。
【0020】
多様な態様において、in vitroの無細胞反応は、プロテアーゼ阻害剤、アミノ酸、リボソーム、化合物の形成を触媒する酵素のアミノ酸配列をコードするRNA、RNAポリメラーゼ、化合物の形成を触媒する酵素のヌクレオチド配列をコードするDNA、またはそれらの組み合わせを含む成分を提供することをさらに含む。
【0021】
多様な態様において、ATP再生システムまたはin vitroの無細胞システムは、ピルビン酸キナーゼ(PK)を含む。多様な態様において、ATP再生システムまたはin vitroの無細胞システムは、ホスホグルコースイソメラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ(PKK−I)、フルクトース二リン酸アルドラーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、ホスホグリセリン酸ムターゼ(PGM)およびエノラーゼをさらに含む。多様な態様において、ATP再生システムまたはin vitroの無細胞システムは、ヘキソキナーゼ(HK)をさらに含む。多様な態様において、エネルギーソースは、グルコース、グルコース−6−リン酸、ホスホエノールピルビン酸、またはそれらの組み合わせを含む。
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明から、および請求の範囲から、明らかであるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、ATP再生システムが、目的の化合物を合成するための酵素経路の成分と組み合わされる、化合物の製造のためのシステムを表す模式図である。
【0023】
【図2】図2は、光合成の経路およびアデノシン三リン酸(ATP)の生成および還元されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を表す模式図である。
【0024】
【図3】図3は、シキミ酸の生合成経路を表す模式図である。
【図4】図4は、光合成的ATP再生システムにより生成されるATPを含む、シキミ酸の製造のためのシステムを表す模式図である。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、大規模、例えば工業的または商業的規模で合成することが困難である化合物の製造のために有用である組成物および方法を特徴とする。かかる化合物の製造は、莫大な費用がかかるか、または製造方法に不適合である(例えば細胞ベースの製造方法において細胞傷害性である)場合がある。本発明は、無細胞システムにおいて、目的の化合物を合成するために、アデノシン三リン酸(ATP)再生システムを、ATPを必要とする酵素または酵素の経路に組み合わせることができるという知見に基づく。特定の態様において、ATP再生システムは、循環型の無細胞光リン酸化システム、例えば光合成的ATP再生システムである。光エネルギーの形態において提供されるエネルギー、例えば太陽エネルギーは、ATPを生成するための無細胞光リン酸化システムを提供する。システムは、複雑な治療用化合物またはこれらの化合物、例えばシキミ酸の製造のために特に有益である。
【0026】
定義
他に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術および科学用語は、本発明が属する分野における当業者により一般的に理解される意味を有する。以下の参考文献は、当業者に、本発明において用いられる用語の多くの一般的定義を提供する:Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版、1994年)、The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker編、1988年)、The Glossary of Genetics、第5版、R. Riegerら(編)、Springer Verlag(1991年)、およびHale & Marham、The Harper Collins Dictionary of Biology(1991年)。本明細書において用いられる場合、以下の用語は、他に特定されない限り、当該用語のものとみなす以下の意味を有する。
【0027】
本明細書において用いられる場合、「アデノシン三リン酸再生システム」または「ATP再生システム」とは、アデノシン三リン酸を生成するためのシステムを指す。一態様において、アデノシン三リン酸(ATP)は、アデノシン二リン酸(ADP)と無機リン酸とから生成される。特定の態様において、ATP再生システムは、ATPシンターゼ、チトクロムb−f複合体、プラストシアニンおよび光化学系1(PS1)複合体を含む。別の特定の態様において、ATP再生システムは、ATPシンターゼ、光化学系2(PS2)複合体、プラストキノンおよびチトクロムb−f複合体を含む。ポリペプチドおよびそのコファクターを含む光合成的ATP再生システムの成分は、当該分野において既知である(例えば、Alberts et al., Molecular Biology of the Cell, 2002、Berg et al., Biochemistry, 2002、Lodish et al., Molecular Cell Biology, 1999を参照)。
【0028】
本明細書において用いられる場合、「葉緑体」とは、植物細胞および真核生物藻類において見出される細胞小器官であって光合成を行うものを指す。葉緑体は、光を吸収し、それを水および二酸化炭素と組み合わせて用いて炭水化物を生成する(例えば、緑色植物におけるエネルギーおよびバイオマスの生成)。葉緑体は、藻類および緑色植物、例えば緑色植物亜界(Viridiplantae、ViridiphytaまたはChlorobionta)において存在する。葉緑体は、光エネルギーを、ATPの形態における強力な化学エネルギーに変換し、光合成を介してNADPをNADPHへ還元する。
【0029】
本明細書において用いられる場合、「in vitroの反応」とは、制御された環境(例えば、実験的環境または生体外の環境)において行われる反応を指す。
本明細書において用いられる場合、「無細胞」とは、非生存(non-living)システム、例えば、細胞成分を含むin vitroまたはex vivoシステムを指す。無細胞システムの成分のためのソースとして、細胞の抽出物またはライセートがあげられる。無細胞システムは、細胞の反応、例えば酵素および代謝経路を再構成することができる。
【0030】
本明細書において用いられる場合、請求される発明に関して「同じソース」とは、成分のソースであって、2または3以上のソースからの成分が共通の起源を有するものを指す。本明細書において用いられる場合、請求される発明に関して「別々のソース」とは、成分のソースであって、2または3以上のソースからの成分が異なる起源を有するものを指す(例えば外部のソース)。請求される発明に関して、成分は、外因的に(例えば別々のソースから)、または外部のソース(例えばシステムまたは反応の外部のソース)から提供することができる。
【0031】
本明細書において用いられる場合、「ファインケミカル」とは、純粋な、単一の化学物質であって、商業的に化学反応により高度に専門化した用途へと製造されたものを指す。製造されたファインケミカルは、活性な薬学的成分およびその中間体、バイオサイド、ならびに技術的用途のための特殊化学物質へと分類することができる。ファインケミカルの製造は、一般に、標準的な反応により大量に製造されるバルク化学物質の製造と比較して、より高価であり(重量当たり)、より多くの廃棄物を生成する。ファインケミカルは、研究室においてのみ製造される研究用化学物質と異なり、工業的な量で製造することができる。
【0032】
本明細書において用いられる場合、用語「単離された」、「精製された」または「生物学的に純粋な」とは、それがネイティブな状態において見出される場合に通常伴う成分を、多様な程度で含まない材料を指す。本明細書において記載される種々の方法論における本発明による必要に応じて、多様なレベルの純度を適用することができる。標準値が他に特定されない場合、当該分野において既知の通例の純度の標準値を用いることができる。
【0033】
本明細書において用いられる場合、「光リン酸化」とは、アデノシン三リン酸(ATP)の生成をもたらす光依存性の反応、例えば光エネルギーを用いるものを指す。光リン酸化において、光エネルギーが、高エネルギー電子供与体および低エネルギー電子受容体を作出するために用いられる。電子が、次いで、供与体から受容体へと電子伝達系を介して移動する。酸化還元反応は、ATPの生成のためのシステムと組み合わされる。
【0034】
本明細書において用いられる場合、「光合成」は、光エネルギーを化学エネルギーに変換する代謝経路を指す。「光依存性反応」または「光合成的反応」は、光リン酸化により、アデノシン三リン酸(ATP)を生成し、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を還元する。光依存性反応において、光エネルギーは、電子を励起させるために用いられ、これが、電子伝達系における一連の酸化還元反応を発生させ、これが、膜の電気化学的な電位勾配を、例えばチラコイド膜を跨いで、もたらす。ATPシンターゼポリペプチド複合体は、膜の電気化学的な電位勾配により、プロトン勾配の形態において動力を供給される。ATPシンターゼ複合体は、ADPおよび無機リン酸からATPを生成する。光依存性反応に関与する光合成経路の成分として、ATPシンターゼ、チトクロムb−f複合体、プラストシアニン、プラストキノン、光化学系1(PS1)複合体および光化学系2(PS2)複合体が挙げられる。「光非依存性反応」または「暗反応」の化学反応は、二酸化炭素と他の化合物とをグルコースに変換する、例えばカルビン・ベンソン回路である。光合成経路は、例えば、植物、藻類、細菌、例えばシアノバクテリアにおいて見出すことができる。
【0035】
本明細書において用いられる場合、「光化学系(photosystem)」とは、光合成に関与するポリペプチドの複合体およびコファクターを指す。光化学系は、光エネルギーを輸送し、電子伝達系を通して電子を輸送する。「光化学系1」または「PS1」とは、ポリペプチドであるPsaA、PsaB、PsaC、Ps−PsaS、および分子であるクロロフィル700、フィロキノン、Fe、およびカロテノイドを含む、ポリペプチドとコファクターとの複合体を指し、チトクロムb−f複合体は、チトクロムb、チトクロムf、鉄硫黄タンパク質、チトクロムb−fサブユニットIV、および分子であるヘムb、ヘムb、ヘムcおよびFeを含む。「光化学系2」または「PS2」とは、ポリペプチドのCp43、Cp47、PsbO、PsbP、PsbQ、PsbE、PsbF、マンガン安定化タンパク質、ならびに分子であるクロロフィル680、フェオフィチン、キノン、ベータカロテン、およびヘムb559を含む、ポリペプチドとコファクターとの複合体を指す。
【0036】
本明細書において用いられる場合、「チラコイド」とは、葉緑体およびシアノバクテリアの内部の、光合成に関与する膜結合コンパートメントを指す。
本明細書において用いられる場合、「チラコイド膜」とは、PS1およびPS2複合体ならびに電子伝達経路を含むポリペプチドを含む光合成経路の成分を含むかまたはそれと物理的に相互作用する、チラコイドの膜を指す。
【0037】
本発明の方法において有用な核酸分子は、本発明のポリペプチドまたはそのフラグメントをコードする任意の核酸分子を含む。かかる核酸分子は、内因性核酸配列と100%同一である必要はないが、典型的には、実質的な同一性を示す。内因性配列と「実質的な同一性」を有するポリヌクレオチドは、典型的には、二本鎖核酸分子の少なくとも一方の鎖とハイブリダイズすることができる。「ハイブリダイズ」とは、相補的なポリヌクレオチド配列(例えば本明細書において記載される遺伝子)またはその一部の間で、多様なストリンジェンシーの条件下において(例えばWahl, G. M. and S. L. Berger (1987) Methods Enzymol. 152:399、Kimmel, A. R. (1987) Methods Enzymol. 152:507を参照)、二本鎖分子を形成するペアを意味する。
【0038】
例えば、ストリンジェントな塩濃度は、通常は、約750mMのNaClおよび75mMのクエン酸三ナトリウムより低いもの、好ましくは約500mMのNaClおよび50mMのクエン酸三ナトリウムより低いもの、より好ましくは約250mMのNaClおよび25mMのクエン酸三ナトリウムより低いものである。低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーションは、有機溶媒、例えばホルムアミドの不在下において得ることができ、一方、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーションは、少なくとも35%のホルムアミド、より好ましくは少なくとも約50%のホルムアミドの存在下において得ることができる。ストリンジェントな温度条件は、通常、少なくとも約30℃、より好ましくは少なくとも約37℃、および最も好ましくは少なくとも約42℃の温度を含む。ハイブリダイゼーション時間、界面活性剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の濃度、およびキャリアDNAの含有または除外などのさらなるパラメーターを変化させることは、当業者に周知である。多様なレベルのストリンジェンシーは、これらの多様な条件を必要に応じて組み合わせることにより達成される。好ましい態様において、ハイブリダイゼーションは、30℃で、750mMのNaCl、75mMのクエン酸三ナトリウムおよび1%のSDS中で行われる。より好ましい態様において、ハイブリダイゼーションは、37℃で、500mMのNaCl、50mMのクエン酸三ナトリウム、1%のSDS、35%のホルムアミドおよび100μg/mlの変性サケ精子DNA(ssDNA)中で行われる。最も好ましい態様において、ハイブリダイゼーションは、42℃で、250mMのNaCl、25mMのクエン酸三ナトリウム、1%のSDS、50%のホルムアミドおよび200μg/mlのssDNA中で行われる。これらの条件の有用なバリエーションは、当業者に容易に理解される。
【0039】
ほとんどの適用において、ハイブリダイゼーションに続く洗浄の工程もまた、ストリンジェンシーが異なる。洗浄のストリンジェンシー条件は、塩濃度により、および温度により規定することができる。上記のとおり、洗浄のストリンジェンシーは、塩濃度を低下させることにより、または温度を上昇させることにより、増大させることができる。例えば、洗浄工程のためのストリンジェントな塩濃度は、好ましくは、約30mMのNaClおよび3mMのクエン酸三ナトリウムより低いもの、および最も好ましくは約15mMのNaClおよび1.5mMのクエン酸三ナトリウムより低いものである。洗浄工程のためのストリンジェントな温度は、少なくとも約25℃、より好ましくは少なくとも約42℃、およびさらにより好ましくは少なくとも約68℃の温度を含む。好ましい態様において、洗浄工程は、25℃で、30mMのNaCl、3mMのクエン酸三ナトリウムおよび0.1%のSDS中で行われる。より好ましい態様において、洗浄工程は、42℃で、15mMのNaCl、1.5mMのクエン酸三ナトリウムおよび0.1%のSDS中で行われる。より好ましい態様において、洗浄工程は、68℃で、15mMのNaCl、1.5mMのクエン酸三ナトリウムおよび0.1%のSDS中で行われる。これらの条件の有用なバリエーションは、当業者に容易に理解される。ハイブリダイゼーション技術は当業者に周知であり、例えばBentonおよびDavis(Science 196:180, 1977)、GrunsteinおよびHogness(Proc. Natl. Acad. Sci., USA 72:3961, 1975)、Ausubelら(Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience, New York, 2001)、BergerおよびKimmel(Guide to Molecular Cloning Techniques, 1987, Academic Press, New York)、ならびにSambrookら(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)に記載されている。
【0040】
「実質的に同一」とは、基準アミノ酸配列(例えば、本明細書において記載されるアミノ酸配列のいずれか一つ)または基準核酸配列(例えば、本明細書において記載される核酸酸配列のいずれか一つ)に対して少なくとも50%の同一性を示すポリペプチドまたは核酸分子を意味する。好ましくは、かかる配列は、アミノ酸レベルまたは核酸において、比較のために用いられる配列に対して、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%または85%、およびより好ましくは90%、95%、または99%までも同一である。本明細書において記載されるポリペプチドのアミノ酸配列、および本明細書において記載されるポリペプチド配列をコードする核酸配列は、当該分野において既知であり、公共の配列データベース(例えばNCBI Genbank)において見出すことができる。
【0041】
配列同一性は、典型的には、配列分析ソフトウェア(例えば、ウィスコンシン大学バイオテクノロジーセンター遺伝学コンピューターグループ(Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705)の配列分析ソフトウェアパッケージ(Sequence Analysis Software Package)、BLAST、BESTFIT、GAPまたはPILEUP/PRETTYBOXプログラム)を用いて測定する。かかるソフトウェアは、多様な置換、欠失および/または他の修飾に対して、相同性の程度を割り当てらることにより、同一または類似の配列をマッチングする。保存的置換は、典型的には、以下の群の中の置換を含む:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。同一性の程度を決定するための例示的なアプローチにおいて、BLASTプログラムを用いることができ、ここでe−3とe−100との間の確率スコアは緊密に関連した配列を示す。
【0042】
無細胞システムにおけるアデノシン三リン酸(ATP)の生成
多様な態様において、本発明は、無細胞反応システムにおけるアデノシン三リン酸(ATP)の生成のための組成物および方法を提供する。生物学的システムにおいて、ATPは、アデノシン二リン酸および無機リン酸(Pi)から生成される。特に、本発明は、植物、藻類および細菌、例えばシアノバクテリアを含む光合成反応を行う生物から得られる、光合成的ATP再生システムを提供する。本発明は、自己調節型の持続的ATP再生システムを有利に提供する。さらに、還元されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)が、光化学反応を介して生成される。無細胞技術を植物のシステムへ拡張することは、本発明の目的である。
【0043】
細胞抽出物の調製
本発明の一態様において、光合成生物の光合成経路の成分を含む細胞抽出物を提供する。典型的には、光合成経路の成分は、チラコイド膜または光合成細菌の膜、例えばシアノバクテリアからのものに存在する。チラコイド膜は、任意の植物、藻類または光合成細菌から得ることができる。典型的には、光合成生物は、チラコイド膜の抽出に先だって、それらの生育に有利な条件下において生育させられる。大量の光合成生物の細胞を、発酵槽またはバイオリアクター内で、細胞の生育のための当該分野において既知の方法に従って生育することができる。好ましくは、チラコイド膜を抽出するための方法および条件は、光化学系の膜関連成分を無傷のまま残す。フェレドキシン光活性化およびNADP+還元を通したATP生成を触媒するために用いられる植物細胞の循環的または非循環的な光合成機構は、ex vivoで無細胞システムにおいて保存される(Dani et al., Biochim. Biophys. Acta (2005) 1669: 43-52、 Ono et al., Biochim. Biophys. Acta (1978) 502: 477-485)。チラコイド膜はまた、葉緑体全体として単離してもよい。
【0044】
ATP再生のための細胞抽出物を得るために、チラコイド膜を含むシアノバクテリア、例えばAnacystis nidulansを溶解する。この細胞抽出物は、一般に、例えばフレンチプレスにより、タンパク質成分を可溶化するための塩を含む緩衝液中で細胞を破壊することにより得ることができる。ホモジェネートは、さらに、膜結合小器官および細胞膜を細胞壁から分離させるために、例えばライセートを濾過することおよび/または低速(例えば3K〜5Krpm)で遠心分離し、濾液または上清を用いることにより、処理することができる。抽出物はまた、緑色植物(Viridiplantae、ViridiphytaまたはChlorobionta)から調製することもできる。植物細胞を含む細胞からライセートを得るための方法および条件は、当該分野において既知である。植物から光合成的ATP再生システムを含む抽出物を単離するために、葉緑体を含む植物組織を収集し、細胞溶解をもたらす条件下においてホモジェネートする。植物抽出物はまた、濾過の工程または低速遠心分離の工程により清澄にすることができる。抽出物の調製の後で、透析の工程を用いて緩衝化組成物または条件、例えばイオン、pHなどを調整してもよい。抽出物をさらに、液体窒素を用いて急速冷凍し、ATP合成のために必要となるまで‐80℃で保存してもよい。ATPを再生するために用いられる細胞抽出物は、粗ライセートであっても、部分的にまたは実質的に精製されたチラコイド膜を含む画分であってもよい。画分がチラコイド膜を含むか否かを決定する方法は、当該分野において既知であり、当該画分の密度、またはマーカー、例えば光合成経路中のタンパク質、光合成色素または光合成コファクターの濃縮を決定することを含み得る。かかる方法は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、ウェスタンブロット分析、分光学的分析およびクロマトグラフィーを含む、慣用的な実験手法を含み得る。ATP再生のための抽出物は、新鮮な(fresh)または凍結された形態において提供しても、さらにポリペプチド合成による使用のために好適な反応混合物に調製してもよい。かかる抽出物は、無細胞タンパク質合成の目的のために当該分野において既知の方法のいずれかにより得られる。
【0045】
細胞抽出物を得るための植物または微生物株に対してさらなる遺伝子修飾をまた行ってもよい。シアノバクテリアのトランスフェクションおよび形質転換は、当該分野において既知である(例えばDaniell et al., Proc. Natl. Acad Sci, USA (1986) 83:2546-2550)。当業者により、例えば組み換えDNA分子の導入により、所望の特性を有するトランスジェニック植物を作製することができる。典型的には、植物の発現ベクターとして、(1)5’および3’調節配列の転写制御下にあるクローニングされた植物遺伝子、ならびに(2)優性選択マーカーが挙げられる。かかる植物の発現ベクターはまた、所望の場合、プロモーター調節領域(例えば、誘導的もしくは構成的であるか、病原体もしくは創傷により誘導されるか、環境によりもしくは発達により調節されるか、または細胞もしくは組織特異的である、発現をもたらすもの)、転写開始点、リボソーム結合部位、RNAプロセッシングシグナル、転写終結点、ならびに/あるいはポリアデニル化シグナルを含んでもよい。
【0046】
ベクターを植物宿主中へ導入し、それによりトランスジェニック植物を作製するためのいくつかの標準的な方法が利用可能である。これらの方法として、(1)アグロバクテリウム媒介性形質転換(A. tumefaciensまたはA.rlzizogenes)(例えば、LichtensteinおよびFuller(Genetic Engineering、第6巻、PWJ Rigby編、London, Academic Press、1987年、中)、ならびにLichtenstein, C. P. およびDraper, J(DNA Cloning,第2巻、D. M. Glover編、Oxford, IRI Press、1985年、中)を参照)、(2)粒子送達システム(例えばGordon-Kamm et al., Plant Cell 2 : 603 (1990)、またはBioRad Technical Bulletin 1687(上記)を参照)、(3)マイクロインジェクションプロトコル(例えば、Greenら(上記)を参照)、(4)ポリエチレングリコール(PEG)手法(例えばDraper et al., PlantCell Physiol. 23: 451, 1982、または例えばZhang and Wu, Theor. Appl. Genet. 76: 835,1988を参照)、(5)リポソーム媒介性DNA取り込み(例えば、Freeman al., Plant Cell Physiol. 25: 1353, 1984を参照)、(6)エレクトロポレーションプロトコル(例えばGelvinら(上記)、Dekeyserら(上記)、Fromm et al., Nature 319: 791,1986、Sheen Plant Cell 2 : 1027,1990、またはJang and Sheen Plant Cell 6 : 1665,1994を参照)、ならびに(7)ボルテックス法(例えばKindle(上記)を参照)が挙げられる。
【0047】
ATP生成
光エネルギー、すなわち光子が、ATPをADPと無機リン酸から生成するために、ATP再生システムに供給される。いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、光合成の明反応において、一分子の色素(例えば緑色植物におけるクロロフィル)が、1個の光子を吸収し、1個の電子を失う。電子は、フェオフィチンと称されるクロロフィルの修飾形態へと輸送され、フェオフィチンは、電子をキノン分子へと輸送し、電子の電子伝達系に沿った流れを可能にし、これが最終的なNADPのNADPHへの還元をもたらす。電子伝達系における電子の流れは、葉緑体膜を横断するプロトン勾配を作出する。プロトン勾配を作出するために、非循環型の電子輸送および循環型の電子輸送のいずれかを用いることができる。非循環型の電子輸送は、光化学系1および2を含み、ここで光化学系1は、プラストシアニンから電子を受容してNADPを還元する。光化学系2複合体は、光子が色素により吸収され水分子が酸化された場合に、チラコイドの内腔においてプロトンを生成する。さらに、光化学系2複合体からプラストキノンへ、bf複合体への電子の輸送により、チラコイド内腔においてプロトンが生成される。循環型の電子輸送は、光化学系1における電子の励起、およびチトクロムb−f複合体へのそれらの輸送を伴う。プロトン勾配の散逸は、ATPシンターゼにより、ATPの同時合成のために用いられる。クロロフィル分子は、失われた電子を水分子から光分解と称されるプロセスを通して再取得し、これは二原子酸素(O)分子を放出する。
【0048】
細胞抽出物からATPを生成するために用いられる光の波長は、作用スペクトルに基づいており、これは、存在する補助色素の型に依存する。たとえば、緑色植物においては、作用スペクトルは、クロロフィル類およびカロテノイド類についてのスペクトルに類似し、紫色〜青色および赤色光に対してピークを有する。紅藻類においては、作用スペクトルは、青色〜緑色光に対するフィコビリン類の吸収スペクトルと重複し、これは、緑色植物により用いられるより長い波長をフィルターで取り除いた条件においても藻類が生育することを可能にする。光スペクトルの非吸収部分は、光合成生物にそれらの色(例えば緑色植物、紅藻類、紅色細菌(purple bacteria))をもたらし、少なくとも、それぞれの生物において光合成のために有効である。作用スペクトル吸収スペクトルに基づいて、光合成的ATP再生システムにおける光の適切な波長を選択することは当業者にとって自明である。
【0049】
ATP再生システムの作動範囲は、4〜60℃およびpH2〜12の範囲を含む。好ましくは、反応は、pH5〜10および20〜50℃の温度の範囲、より好ましくはpH6〜9および20〜35℃の温度の範囲に維持される。条件を変化させても、例えば反応条件における変化を許容するこの範囲内において循環させてもよい。細胞の生育のための典型的な条件(30〜37℃、4<pH<9、CO<1%)もまた用いることができるが、細胞のバイアビリティーを維持するための条件により拘束されないことは、システムの利点である。生成されたATPを、単離して、ATP依存性反応、例えば無細胞システムにおけるカップリングにエネルギーを提供するために、貯蔵または使用することができる。本発明の細胞抽出物はまた、プロテアーゼ阻害剤を含んでもよい。抽出物においてポリペプチドのin vitro合成が所望される場合、アミノ酸、リボソーム、ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするRNA、RNAポリメラーゼ、ポリペプチドのヌクレオチド配列をコードするDNA、またはこれらの因子の任意の組み合わせを細胞抽出物に添加してもよい。ATP再生システムは、拡大/縮小(scale)され得る、および/または動態学的限定要因により影響を受ける場合があることが予測される。システムを作動させるためのこれらのパラメーターを決定するための実験は、ルーチンのものであり、過度のものではない。
【0050】
炭素隔離
本発明の別の態様において、ATP再生システムにおいて二酸化炭素を有機化合物へ固定することができる。炭素隔離は、独立栄養生物(自己の食物を産生する生物)において見出されるプロセスであり、通常は光合成により駆動され、それにより二酸化炭素が有機材料、例えばグリセルアルデヒド−3−リン酸へ変化する。植物における炭素固定は、一般に、暗/明非依存性反応、例えばカルビン回路を含む。暗/明非依存性反応の酵素もまた、ATP再生システムにおいて用いられる抽出物中に存在することができる。したがって、ATP再生システムの一利点は、それが、さらなる反応のための出発材料として単離または使用することができる有機材料を生成することができることである。
【0051】
グリセルアルデヒド−3−リン酸(G3P)はまた、無細胞システムにおいて、炭素固定反応、例えばカルビン回路経路によっても生成することができる。カルビン回路の酵素成分として、リブロース−1,5−二リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(RuBisCO)、ホスホグリセリン酸キナーゼおよびグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼが挙げられる。G3Pの生成は、リブロース−1,5−二リン酸、ATP、およびNADPHを必要とし、これは炭素固定のための電子供与体として用いられる。グリセルアルデヒド−3−リン酸は、全ての生物の、グルコースなどの六炭糖の組み立てを含むいくつかの中心的代謝経路の中間体である。無細胞システムの一利点は、高価な六炭糖エネルギーソースの必要性の排除である。さらに、六炭糖の生成は、六炭糖が目的の化合物の生成のための出発反応物質(reactant)である場合において、無細胞システムの一つの利点である。
【0052】
ATP再生システムに組み合わせることによる化合物の生成
一態様において、本発明は、光合成システムと、目的の化合物の無細胞合成との統合を提供する。組成物および方法は、ATP再生システムにより提供されるATPを用いる無細胞反応系において化合物を酵素により合成するために提供される。化合物を合成するために有用な酵素または酵素経路として、細胞の生化学または代謝反応に関与するものが挙げられる。無細胞システムの一利点は、化合物を合成するための酵素を、外因的に(すなわち、in vitro翻訳反応、細胞ライセートを含む別のソースから)添加し得ることである。酵素のためのソースとして、微生物および真核生物のソース、ならびに/または天然に存在するソースおよび組み換えソース、ならびに/または粗製のもしくは精製されたソースが挙げられる。組み換えソースは、酵素に所望の活性または機能の変更をもたらすことを含む、有用な遺伝子の変更を提供し得る。
【0053】
本発明は、ATPをin situで非閉鎖ループシステムにおいて生成するための外来エネルギースキームに対する必要性、ATPシンターゼの制限(例えば、遊離のリン酸の平衡が合成を停止させる)、および炭素ソース(例えば六炭糖)を直接的に導入する必要性を含む、既存の無細胞反応に関連するいくつかの問題に対応する。細胞ベースのバイオテクノロジー手法が有用であることは実証されているが、かかる方法は、細胞のバイアビリティーの条件、例えば細胞の生育のために必要とされる作動範囲の狭さ(30〜37℃、4<pH<9、CO<1%)により制限される。無細胞システムにおいては、広範囲の濃度、温度、pHを用いることができる。全細胞または完全な細胞を用いる場合、全てのエネルギーを合成に向けることはできず、エネルギーは、細胞の生育および維持(例えば細胞骨格の維持)ならびに細胞の複製(例えばDNA複製)を含む、必須の細胞の機能に用いられる。細胞膜に囲まれている細胞に対する本発明の利点は、合成のための外因性因子(例えば、酵素、コファクター、非天然分子の合成を指揮するためのDNAコンストラクト)を導入する能力、およびin vitroの合成速度が細胞膜/細胞壁の透過性に制限されないことである。細胞ベースの方法と比較しての本発明の無細胞システムのさらなる利点は、細胞の生育およびATP産生を支持するための高価な六炭糖エネルギーソースの必要性の排除である。さらに、無細胞システムの特徴は、炭素固定反応、例えばカルビン回路反応を通して、エネルギーおよび/または酵素の前駆体のための炭素ソースを生成する能力である。
【0054】
本発明において合成することができる目的の化合物として、治療用化合物および/またはそれらの前駆体、ファインケミカル、モノマー、工業用化学物質、燃料代替生成物があげられる。細胞ベースの方法と比較して、本発明の無細胞システムは、バイオサイド、抗がん化合物および抗生物質を含む、高度に細胞傷害性の化合物(すなわち細胞システムに対して毒性のもの)を生成することができる。さらに、細胞フリーであることは、燃料代替生成物(例えば、ブタノール、ブタンジオール)、消費材製品(例えばプラスチック)、および炭化水素ベースのファインケミカルおよび薬物の前駆体を含む、カーボンニュートラル合成生成物の生成のために利点を提供する。炭化水素は、高濃度で細胞の生育を阻害し、細胞ベースの方法によっては大量に生成することができない(表1)。
【0055】
【表1】

【0056】
本発明の無細胞システムは、炭化水素鎖を合成する能力、および、例えば細菌のライセート中での酵素を用いてのC−C炭化水素の合成を提供する。長鎖炭化水素の合成のために、ピルビン酸を出発材料として用いてもよい。長い炭化水素の合成のためのエネルギーソースは、ピルビン酸のアセチル補酵素Aへの脱炭酸により提供される。高級アルコールは、糖新生と、その後の嫌気発酵およびさらなる反応(例えば、アミノトランスフェラーゼ反応、乳酸への還元)を介して合成することができる。さらに、燃料の生成において、無細胞システムの動態学および熱力学的分析は、油ベースのプロセスに対して顕著な経済学的利益を示した(〜$100/バレル)。
【0057】
化合物の合成のための酵素のソース
酵素を含む細胞抽出物
本発明の一態様において、少なくとも1つのタンパク質をコードする遺伝子配列を発現する細菌株の細胞抽出物を提供する。E. coliの使用は特に重要であり、ここで、補助タンパク質は宿主に対して外因性であり、任意の好適なタンパク質を生成する宿主、例えばシュワネラ属、クラミドモナス属、クロストリジウム属などから得られた、シキミ酸の生成のためのポリペプチドのうちの1、2または全てを含むことができる。微生物株に対して、さらなる遺伝子修飾、例えば、バクテリオファージ感染に対する保護およびシステム内におけるDNA安定化のためのtonAおよびendA遺伝子の欠失、アミノ酸変性に関与する遺伝子の欠失などを行ってもよい。
【0058】
ポリペプチドをまた、組み換え合成の従来の方法に従って、単離および精製してもよい。反応混合物を、HPLC、排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィーまたは他の精製技術を用いて精製してもよい。ポリペプチドは、ATP再生システムへ添加される。
【0059】
目的の化合物の生成のための1または2以上のポリペプチドのためのコード配列が、ソース生物中に存在するか、またはそれへ導入され、複製可能ベクター上に存在するか、当業者に周知の方法を用いてソース生物のゲノム中に導入してもよい。かかるベクターの配列は、多様な細菌について周知である。発現ベクターはさらに、選択可能マーカー、転写の誘導などを提供する配列を含んでもよい。
【0060】
コード配列は、ソース生物において活性なプロモーター配列に作動的に連結される。プロモーターは、構造遺伝子の開始コドンの上流(5’)(一般的に約100〜1000bp内)に位置する非翻訳配列であって、特定の核酸配列の転写および翻訳を制御するものである。プロモーターは、構成的であっても誘導性であってもよく、ここで誘導プロモーターは、それらの制御下において、何らかの培養条件の変化、例えば栄養の存在もしくは欠如、または温度の変化に応答して、DNAからの転写のレベルの増大を引き起こす。現時点において、多様な潜在的宿主細胞により認識される多数のプロモーターが周知である。これらのプロモーターは、例えば配列のPCR増幅などによりソースDNAからプロモーターを取り除き、単離した配列をベクター中に挿入することにより、タンパク質をコードするDNAと作動的に連結される。発現のために、ネイティブなプロモーター配列および多数の異種プロモーターのいずれを用いてもよいが、一般により高い転写およびより高い収率を可能にするため、T7などの異種プロモーターが好ましい。原核生物宿主と共に用いるために好適なプロモーターとして、β−ラクタマーゼおよびラクトースプロモーターシステム、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーターシステム、アラビノースプロモーターシステム、およびtacプロモーターなどのハイブリッドプロモーターが挙げられる。しかし、他の既知の細菌およびバクテリオファージプロモーターが好適である。それらのヌクレオチド配列は公開されており、それにより、当業者はそれらをタンパク質をコードするDNAに作動的にライゲーションすることができる。
【0061】
この目的のために好適な原核生物として、グラム陰性またはグラム陽性生物などの真正細菌、例えば、エシェリキア、例えばE. coli、エンテロバクター、エルウィニア、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばSalmonella typhimurium、セラチア、例えばSerratia marcescans、およびシゲラなどの腸内細菌科、ならびに、B. subtilisおよびB. licheniformisなどのバチルス、P. aeruginosaなどのシュードモナス、ならびにストレプトマイセスが挙げられる。
【0062】
宿主細胞は、上記の発現またはクローニングベクターによりトランスフェクトされ、好ましくは形質転換され、そして、必要に応じて、例において記載されるように、プロモーターを誘導するため、形質転換体を選択するため、および抽出物を調製するために、従来の栄養培地中で培養される。
【0063】
無細胞タンパク質合成
本明細書において用いられる場合、「無細胞タンパク質合成」とは、生物学的抽出物および/または既定の(defined)試薬を含む反応混合物中での、ポリペプチドの無細胞合成を指す。反応混合物は、少なくともATP再生システム(ADPおよび無機リン酸を含む)、ATP、および/またはエネルギーソース、マクロ分子の生成のための鋳型、例えばDNA、mRNAなど、アミノ酸、ならびに、かかるコファクター、酵素および合成に必要である他の試薬、例えば、リボソーム、tRNA、ポリメラーゼ、転写因子などを含む。本発明の一態様において、エネルギーソースは恒常的エネルギーソースである。光合成的ATP再生システムに加えて、高エネルギーリン酸結合からATPの再生を触媒する酵素、例えば酢酸キナーゼ、クレアチンキナーゼなどが、無細胞抽出物として含まれてもよい。かかる酵素は、翻訳のために用いられる抽出物中に存在しても、反応混合物に添加してもよい。かかる合成反応システムは、当該分野において周知であり、文献に記載されている。無細胞合成反応は、当該分野において既知であるように、バッチ、連続フロー、または半連続フローとして行うことができる。
【0064】
本明細書において用いられる場合、「反応混合物」とは、核酸の鋳型からのポリペプチドの合成を触媒することができる反応混合物を指す。反応混合物は、上記のとおり、細胞の細胞抽出物、例えば細菌または植物の抽出物を含み、合成は嫌気条件下において行われる。反応混合物中の抽出物の容積パーセンテージは変化し得、ここで抽出物は、通常には全容積の少なくとも約10%、より通常には少なくとも約20%、および一部の場合においては、少なくとも約50%、または少なくとも約60%で提供される場合にさらなる利点をもたらす場合があり、および通常には全容積の約75%以下である。
【0065】
他の塩、特にマンガンなどの生物学的に関連するものもまた添加してもよい。カリウムは一般に50〜250mMで、アンモニウムは0〜100mMで添加する。反応のpHは、一般にpH6〜9である。反応の温度は、一般に約20℃〜40℃である。これらの範囲は拡大されてもよい。タンパク質の合成には、低められた反応温度が有利であることが見出されており、ここで合成は、少なくとも約20℃、通常では少なくとも約23℃の温度で行われる。これは約25℃であってもよい。しかし合成のための従来の温度は除外されない。
【0066】
合成は、反応がバッチであるか連続フィードであるかに部分的に依存して、多様な長さの時間にわたり行うことができる。バッチ反応について、反応は、タンパク質を蓄積するために少なくとも約1時間、通常には少なくとも約3時間、より通常には少なくとも約6時間の間継続することができ、合成が約25℃未満の温度で行われる場合には特に、少なくとも約12時間、少なくとも約18時間、少なくとも約24時間、またはそれより長い反応時間が有利である場合がある。
【0067】
タンパク質を生成するためのDNA鋳型からのmRNAのin vitro合成と組み合わされたmRNAの翻訳を行う場合、無細胞システムは、mRNAの翻訳のために必要とされる全ての因子、例えば、リボソーム、アミノ酸、tRNA、アミノアシルシンセターゼ、伸長因子および開始因子を含む。当該分野において既知の無細胞システムとして、E. coli抽出物などが挙げられ、これは、活性な内因性mRNAを除去するために、好適なヌクレアーゼにより処理することができる。
【0068】
無細胞抽出物、遺伝子鋳型およびアミノ酸などの上記の成分に加えて、タンパク質合成のために特に必要な材料を反応に添加してもよい。これらの材料として、塩、ポリマー化合物、サイクリックAMP、タンパク質または核酸分解酵素に対する阻害剤、タンパク質合成の阻害剤または制御因子、酸化/還元調整因子(adjuster)、非変性性界面活性剤、緩衝成分、スペルミン、スペルミジンなどが挙げられる。
【0069】
塩は、好ましくは、酢酸、グルタミン酸または硫酸の、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩およびマンガン塩を含み、これらの一部は、他のアミノ酸をカウンター陰イオンとして有してもよい。ポリマー化合物は、ポリエチレングリコール、デキストラン、ジエチルアミノエチルデキストラン、4級アミノエチルおよびアミノエチルデキストランなどであってよい。酸化/還元調整因子は、ジチオスレイトール、アスコルビン酸、グルタチオンおよび/またはそれらのオキシドであってよい。また、Triton X-100などの非変性性界面活性剤を、0〜0.5Mの濃度で用いてもよい。タンパク質合成能を改善するためにスペルミンおよびスペルミジンおよび/またはプトレシンを用いてもよく、遺伝子発現制御因子としてcAMPを用いてもよい。
【0070】
翻訳反応において生成されるタンパク質の量は、多様な方法で測定することができる。1つの方法は、翻訳される特定のタンパク質の活性を測定するアッセイの利用可能性に依存する。タンパク質活性を測定するためのアッセイの例は、例において記載されるメチルビオロゲンアッセイである。これらのアッセイは、翻訳反応から生成された機能的に活性なタンパク質の量を測定する。活性アッセイは、不正確なタンパク質フォールディングまたはタンパク質活性に必要な他の翻訳後修飾の欠落に起因する不活性な全長タンパク質を測定しない。
【0071】
in vitroでの転写および翻訳反応の組み合わせにおいて生成される化合物の量を測定する方法は、既知の量の35S−メチオニンまたは14C−ロイシンなどの放射標識アミノ酸を用いる反応を行い、その後に、新たに翻訳されたタンパク質中に組み込まれた放射標識アミノ酸の量を測定することである。組み込みアッセイは、in vitro翻訳反応において生成された、切断(truncate)されたタンパク質生成物を含む全タンパク質中の放射標識アミノ酸の量を測定する。放射標識タンパク質を、タンパク質ゲルにおいてさらに分離して、オートラジオグラフィーにより生成物が正しいサイズであることおよび二次タンパク質生成物が生成されていないことを確認してもよい。
【0072】
シキミ酸合成
シキミ酸の生合成は、例えば図3に示すように、当該分野において既知である。細胞抽出物は、シキミ酸の生合成に関与する酵素を産生する細菌または他の細胞から調製することができる。シキミ酸合成経路において、酵素DAHPシンターゼにより触媒される反応において、ホスホエノールピルビン酸とエリトロース−4−リン酸とが反応して3−デオキシ−D−アラビノヘプツロソン酸−7−リン酸(DAHP)を形成する。DAHPは、次いで、DHQシンターゼにより触媒される反応において、3−デヒドロキナ酸(DHQ)に変換される。この反応はNADをコファクターとして必要とするが、酵素の機構がそれを再生し、結果として正味のNADの不使用をもたらす。DHQは、酵素デヒドロキナーゼ(dehydroquinase)により3−デヒドロシキミ酸へと脱水され、これが酵素シキミ酸デヒドロゲナーゼによりシキミ酸へ還元され、これがNADPHをコファクターとして用いる。さらに、シキミ酸は、経路中に存在する中間体のいずれかおよび主導する酵素から生成され得る。さらに、当業者には、経路中の化合物の生成に利するために、または経路中のほかの中間体の生成を減少させるために、酵素のレベルおよび活性を調製することは自明である。
【0073】
好ましくは、反応は、pH5〜10および20〜50℃の温度の範囲で、より好ましくはpH6〜9および20〜35℃の温度の範囲で維持される。光合成的ATP再生システムが記載されるが、任意のATP再生システム、例えばPCT特許公開番号WO2000055353A1に記載のATP再生システムを使用することができる。
【0074】
無細胞システムにおいて生成される化合物の量を測定する一方法(in vitroでのATP再生と化合物合成反応を組み合わせるもの)は、既知量の放射標識前駆体(例えば、35S、14C、Hを含むもの)を用いる反応を行い、放射標識の組み込みに基づいて化合物の生成を測定する。
【0075】
反応培地の特定の成分の濃度を変化させる場合、別の成分の濃度をそれに従って変化させてもよい。例えば、ヌクレオチドおよびエネルギーソース化合物などのいくつかの成分の濃度を、他の成分の濃度の変化に従って同時に制御してもよい。また、リアクター中の成分の濃度レベルを経時的に変化させてもよい。
【0076】
リアクターの設計
一態様において、本発明は、フォトリアクター中の藻類/植物由来のチラコイド膜の集合(assembly)を提供する。別の態様において、本発明は、光合成反応が目的の化合物の合成のための反応と組み合わされるリアクターの集合を提供する。反応は、大規模、小規模、または、複数の同時合成を行うためのマルチプレックスなものであってもよい。ATP再生反応および目的の分子を生成するための反応は、拡大/縮小(scale)され得る、および/または動態学的限定要因により影響を受ける場合があることが予測される。例えば、in vitroでの方法を拡大/縮小させるための方法は、米国特許第7341852B2号に記載される。しかし、プロセスのスケールアップおよびプロセスの最適化を決定するための実験は、ルーチン的であり、過度のものではない。大規模発酵は、抽出物のための細胞の培養のために用いてもよい。リアクターが作動する条件を、特定の工程(例えばATP再生、無細胞タンパク質)に合わせるために時間的に変化させてもよい。活性な合成の期間を延長するためにさらなる試薬を導入してもよい。合成された生成物は、通常ではリアクター中に蓄積され、次いで、システム作動の完了の後で、タンパク質精製のための通常の方法に従って単離され精製される。一部の場合においては、酵素活性を決定し、精製することなく用いてもよい。
【0077】
本発明の実施は、他に示さない限りにおいて、分子生物学(組み換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来の技術を用い、これらは当業者の技術範囲内である。かかる技術は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第二版(Sambrook、1989年)、「Oligonucleotide Synthesis」(Gait、1984年)、「Animal Cell Culture」(Freshney、1987年)、「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir、1996年)、「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(MillerおよびCalos、1987年)、「Current Protocols in Molecular Biology」(Ausubel、1987年)、「PCR: The Polymerase Chain Reaction」(Mullis、1994年)、「Current Protocols in Immunology」(Coligan、1991年)などの文献において完全に説明されている。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの生成に適用され、したがって、本発明を作製および実施する上で考慮することができる。
【0078】
他に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。本発明を実施または試験する上で、本明細書において記載されるものと類似または等価の任意の方法、デバイスおよび材料を用いることができるが、好ましい方法、デバイスおよび材料はここに記載される。
【0079】
他の態様
前述の記載から、それを多様な用途および条件に適応させるために、本明細書において記載される発明に対するバリエーションおよび改変を行ってもよいことは明らかである。かかる態様はまた、以下の請求の範囲の範囲内である。
【0080】
本明細書における変数の任意の定義における要素の列記の記載は、列記された要素のうちの任意の単一の要素または組み合わせ(もしくはサブコンビネーション(subcombination))としてもその変数の定義を含む。本明細書における態様の記載は、その態様を、任意の単一の態様として、または任意の他の態様もしくはその一部との組み合わせにおけるものとして含む。
【0081】
本発明は、記載される特定の方法論、プロトコル、細胞株、動物の種または属、コンストラクトおよび試薬に限定されず、したがって当然変化し得ることが理解されるべきである。本明細書において使用される用語は、特定の態様のみを記載することを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図しないこともまた理解されるべきである。本発明の範囲は、添付の請求の範囲によってのみ限定される。
【0082】
本明細書において言及される全ての特許および刊行物は、各々の独立した特許および刊行物が特におよび個別に参照により組み込まれることを示した場合と同じ程度まで、本明細書において参照により組み込まれる。以下の特許および特許出願は、関連する主題を開示し得、各々は本明細書にその全体が参照により組み込まれる:US7312049、US7341852、US6168931、US20070154983、US20060281 148、US20050054044、US20040209321、US20030113778、US20020058303、WO2008088884、WO2008066583、WO2008002661、WO2008002673、WO2008002663、WO2007053655、WO2005098048。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が支配する。さらに、材料、方法および例は、単に説明のためのものであり、限定することを意図しない。上でおよび本文全体にわたり議論された刊行物は、本発明の出願日より前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書におけるいかなるものも、先行する発明のために発明者らがかかる開示に先立つ権利を与えられないことの承認として解釈されるべきではない。
【0083】
以下の例は、当業者に完全な開示および対象発明を作製し使用する方法の説明を提供するために記載されるものであり、本発明としてみなされるものの範囲を限定することを意図するものではない。使用された数(例えば、量、温度、濃度など)に関して正確性を確実にするために努力が行われたが、いくらかの実験的誤差および偏差は許容されるべきである。他に示されない限りにおいて、部(part)は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏におけるものであり、圧力は大気圧におけるものまたは大気圧に近いものである。
【0084】

本発明は、以下の例を参照することにより説明され、それらは説明を目的として提供されるものであり、決して本発明を限定することを意図しない。当該分野において周知の標準的な技術または以下に具体的に記載する技術を利用した。
【0085】
例1.光合成的ATP再生システムと組み合わせることによるシキミ酸の生成
本発明は、無細胞システムにおけるアデノシン三リン酸(ATP)の生成のための、および無細胞システムにおける酵素または酵素の経路による化合物の生成のための、組成物および方法を提供する。一般的な無細胞システムの例は、図1に示す。ATPは、アデノシン二リン酸(ADP)および無機リン酸からのATPの形成を触媒するATP再生システムにより生成される。ATP再生システムは、植物および他の光合成生物の光合成的ATP再生システムを含む。目的の化合物、例えばシキミ酸を生成するために、ATPを要求する酵素または酵素の経路をATP再生システムと組み合わせることができる。本研究は、単離されたチラコイドの画分がin vitroでATPを生成する能力を評価する。本研究は、無細胞システムにおけるATPの生成およびシキミ酸の生成の速度を評価する。無細胞技術を光合成システムに拡張することは、本発明の一目的である。
【0086】
光合成的ATP再生システムは、シアノバクテリア、例えばAnacystis nidulansから単離される。好ましくは、シアノバクテリアは、細胞ライセートの抽出に先立ち、生育に有利な条件下で培養される。細胞ライセートを抽出されたまま用いても、溶解していない細胞および細胞骨格の細片をライセートから除去する工程、例えば濾過工程を用いてもよい。シアノバクテリアの細胞ライセートは、チラコイド膜を含む。チラコイド膜を、その後の使用の前に、当業者に既知の方法によりさらに精製してもよい。
【0087】
ATPおよびNADPHは、無細胞システムにおいて光化学反応を介して生成される(図2)。ADPおよび無機リン酸は、無細胞システム中に存在する。ADPおよび無機リン酸は、例えば精製されたソースまたは別の生物学的ソースから、無細胞システムに外因的に添加してもよい。NADPもまた、無細胞システム中に存在し、さらなるNADPを無細胞システムに外因的に添加してもよい。システムは、約530〜720nmの波長の光に暴露される。好ましくは、太陽エネルギーが用いられるが、光合成色素により吸収される波長を有する任意の光のソースを用いることができる。光合成色素により吸収される光は、水分子を還元するために用いられ、電子の生成をもたらし、これはチラコイド膜中に存在する電子伝達系を通して輸送される。電子伝達系の成分は、ポリペプチド、タンパク質複合体およびコファクター(例えば、チトクロムb−f複合体、プラストシアニン、ならびに光化学系1複合体、光化学系2(PS2)複合体およびプラストキノン)を含み、これらは、1セットの生化学的反応において、電子供与体および電子受容体として作用し、プロトンを膜を横断して輸送する。電子輸送経路は、プロトン勾配の形態における膜の電子化学的電位勾配を生み出す。プロトン勾配は、ATPシンターゼにエネルギーを提供し、これがADPおよびリン酸からのATPの形成を触媒する。生成されたATPの量は、当該分野において既知の方法、例えば、HPLCまたは生化学的アッセイにより、in vitroで培養された植物細胞によるものと比較される。したがって、ATPの生成は、無細胞システムにおいて、in vivoに近い速度であることを示すことができる。
【0088】
グリセルアルデヒド−3−リン酸(G3P)もまた、無細胞システムにおいて、炭素固定反応、例えばカルビン回路の経路により生成することができる。カルビン回路の酵素成分として、リブロース−1,5−二リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(RuBisCO)、ホスホグリセリン酸キナーゼおよびグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼが挙げられる。G3Pの生成には、リブロース−1,5−二リン酸、ATP、および炭素固定のための電子供与体として用いられるNADPHが必要である。グリセルアルデヒド−3−リン酸は、グルコースなどの六炭糖の組み立てを含む全ての生物のいくつかの中心的代謝経路における中間体である。無細胞システムの利点は、高価な六炭糖エネルギーソースの必要性の排除である。
【0089】
光合成的な無細胞システムは、シキミ酸経路と組み合わせ、それによりATP依存性反応のためのエネルギーソースを提供することができる(図3)。シキミ酸の生合成は、図4に示すとおり、当該分野において既知である。シキミ酸の生合成に関与する酵素を含む細胞抽出物は、細菌から提供される。ホスホエノールピルビン酸およびエリトロース−4−リン酸は、酵素DAHPシンターゼにより触媒される反応において、反応して3−デオキシ−D−アラビノヘプツロソン酸−7−リン酸(DAHP)を形成する無細胞システムのさらなる利点は、炭素固定反応、およびその後の反応、例えば解糖を介しての炭素化合物の生成が、シキミ酸合成のための化合物、例えばホスホエノールピルビン酸(PEP)をもたらし得ることである。DAHPは、次いで、DHQシンターゼにより触媒される反応において、3−デヒドロキナ酸(DHQ)へと変換される。この反応はNADをコファクターとして必要とするが、酵素の機構がそれを再生し、結果として正味のNADの不使用をもたらす。DHQは、酵素デヒドロキナーゼにより3−デヒドロシキミ酸へと脱水され、これが酵素シキミ酸デヒドロゲナーゼによりシキミ酸へ還元され、これがNADPHをコファクターとして用いる。
【0090】
酵素は、典型的には、シキミ酸の生合成のための酵素を含む細菌から得られる無細胞ライセートで提供される。細菌は、細菌の生育のために有利な条件下、例えば対数期において、および/またはシキミ酸の生合成に関与する酵素の産生に有利な条件下で培養される。酵素またはシキミ酸の生合成のための酵素の修飾バリアントを含む組み換え細菌を用いてもよい。さらに、シキミ酸は、in vitro翻訳または転写/翻訳反応により生成される酵素により提供することができる。提供される前駆体に依存して、全ての酵素がシキミ酸の生成のために提供される必要があるわけではないこと、および、無細胞システムにおける酵素のレベルは他の中間体および生成物の生成に対して有利であるように調整することができることは、当業者には自明である。したがって、シキミ酸合成のための反応スキームは、無細胞システムにおいて実証される。
【0091】
無細胞システムにおいて生成されるシキミ酸の量を測定する一方法は、既知量の放射標識された前駆体(例えば35S、14C、Hを含むもの)を用いる反応を行い、放射標識の組み込みに基づいて化合物の生成を測定することにより示すことができる。シキミ酸などの化合物の存在を決定する方法は、当該分野において既知であり、分光学的アッセイおよびクロマトグラフィー、例えば高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む、ルーチン的な実験手法を伴う。
【0092】
生成されたシキミ酸を、単離して保存してもよい。シキミ酸は、治療用の抗ウイルス化合物、例えばTAMIFLUの製造において用いることができる。シキミ酸が治療剤の製造のためのものである場合、それは少なくともファインケミカルの等級まで精製される。シキミ酸の精製のための方法は、当該分野において既知であり、化合物の精製のためのルーチン的な実験手法、例えば沈殿、化学抽出、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、HPLCなどを伴う。
【0093】
本明細書において言及される全ての特許および刊行物は、本発明が属する分野の当業者の技術のレベルの指標である。本発明開示中に引用される全ての参考文献は、各々の参考文献が、その全体において個々に参照により組み込まれていた場合と同じ程度に、本明細書において参照により組み込まれる。
【0094】
当業者は、本発明が、目的を遂行し、言及された、ならびにそれに本質的に備わった目標および利点を得るために、十分に適応されることを、容易に理解する。本明細書において、現時点の好ましい態様の代表として記載される方法および組成物は、例示的なものであって、本発明の範囲に対する限定として意図されるものではない。それらにおける変更および他の用途は当業者により想起され、それらは本発明の精神の内に包含され、請求の範囲により定義される。
【0095】
本明細書において適宜説明的に記載される本発明は、本明細書において具体的に記載されない任意の要素または限定の不在下において実施することができる。したがって、例えば、本明細書における各々の例において、用語「含む(comprising)」、「から本質的になる(consisting essentially of)」および「からなる(consisting of)」のうちのいずれかは、他の2つの用語のいずれかにより置き換えることができる。使用されてきた用語および表現は、説明の手段として用いられ、限定の手段ではなく、かかる用語および表現の使用において、示されるおよび記載される特徴のいかなる等価物またはその一部をも除外することは意図されないが、本発明の範囲内において多様な改変が可能であることが理解される。したがって、本発明は好ましい態様により具体的に開示されてきたが、本明細書において開示される概念の任意の特徴、改変およびバリエーションが、当業者により用いられ得、かかる改変およびバリエーションは、明細書および添付の請求の範囲により定義される本発明の範囲内であるものとみなされる。
【0096】
さらに、本発明の特徴および局面が、マーカッシュ式のグループまたは他の代替的なグループ分けにより記載される場合、当業者は、本発明がまた、それによって、マーカッシュ式のグループまたは他のグループのメンバーのうちの個々のメンバーまたはサブグループにより記載されることを理解する。
【0097】
本発明を記載することに関連して(特に以下の請求の範囲に関して)、用語「a」および「an」および「the」および類似の指示は、本明細書において他に示されない限りにおいて、または明らかに文脈上矛盾しない限りにおいて、単数または複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」および「含む(containing)」は、他に記されない限りにおいて、オープンエンドの用語(すなわち、「を含むがそれに限定されない(including, but not limited to)」を意味するもの)として解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の記述は、本明細書において他に示されない限りにおいて、単にその範囲内に該当する各個別の値に個々に言及することを短縮する方法として役立つことが意図したものであり、各個別の値は、それが本明細書において個々に記述されたものとして明細書に組み込まれる。本明細書において記載される全ての方法は、本明細書において他に示されない限りにおいて、または明らかに文脈上矛盾しない限りにおいて、任意の好適な順序で行うことができる。本明細書において提供される任意のおよびすべての例または例示的用語(例えば「など(such as)」)の使用は、単に本発明の理解をより良好にすることを意図するものであり、他に示されない限りにおいて、本発明の範囲に対して限定をもたらすものではない。本明細書におけるいかなる用語も、請求の範囲に記載されない本発明の実施に必須の要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0098】
本発明の態様は、本明細書において記載され、本発明者らが知る本発明を実行するための最良の形態を含む。これらの態様のバリエーションは、上述の記載を読むことにより、当業者に明らかとなり得る。本発明者らは、当業者がかかるバリエーションを適宜使用することを予測し、本発明者らは、本発明が本明細書において具体的に記載されたものと異なって実施されることを意図する。したがって、本発明は、本明細書に添付される請求の範囲において記述される主題の全ての改変およびバリエーションを、適用可能な法律により許容されるものとして含む。さらに、その全ての可能なバリエーションにおける上記の要素の任意の組み合わせが、本明細書において他に示されない限りにおいて、または明らかに文脈上矛盾しない限りにおいて、本発明により包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物の形成を触媒する酵素と、アデノシン三リン酸(ATP)再生システムとを含む単離された組成物であって、前記酵素および前記ATP再生システムは同じソースまたは別々のソースからのものであり、少なくとも一方のソースは無細胞抽出物である、前記単離された組成物。
【請求項2】
別々のソースが、無細胞抽出物、in vitroの反応、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の単離された組成物。
【請求項3】
ATP再生システムが光合成的ATP再生システムである、請求項1または2に記載の単離された組成物。
【請求項4】
ATP再生システムが、植物、藻類またはシアノバクテリアから単離される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単離された組成物。
【請求項5】
ATP再生システムがチラコイド膜を含む、請求項4に記載の単離された組成物。
【請求項6】
ATP再生システムが葉緑体を含む、請求項4または5に記載の単離された組成物。
【請求項7】
ATP再生システムが、ATPシンターゼ、チトクロムb−f複合体、プラストシアニンおよび光化学系1(PS1)複合体を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単離された組成物。
【請求項8】
PS1複合体が、ポリペプチドであるPsaA−PsaSならびに分子であるクロロフィル700、フィロキノン、Fe、およびカロテノイドを含み、チトクロムb−f複合体が、チトクロムb、チトクロムf、鉄硫黄タンパク質、チトクロムb−fサブユニットIV、ならびに分子であるヘムb、ヘムb、ヘムcおよびFeを含む、請求項7に記載の単離された組成物。
【請求項9】
光化学系2(PS2)複合体およびプラストキノンをさらに含む、請求項7に記載の単離された組成物。
【請求項10】
ATP再生システムが、ATPシンターゼ、光化学系2(PS2)複合体、プラストキノンおよびチトクロムb−f複合体を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単離された組成物。
【請求項11】
PS2複合体が、ポリペプチドCp43、Cp47、PsbO、PsbP、PsbQ、PsbE、PsbF、マンガン安定化タンパク質、ならびに分子であるクロロフィル680、フェオフィチン、キノン、ベータカロテンおよびヘムb559を含む、請求項9または10に記載の単離された組成物。
【請求項12】
酵素が、ライセートから得られたかまたはin vitro翻訳により合成されたポリペプチドを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の単離された組成物。
【請求項13】
化合物が、治療用化合物、治療用化合物のための前駆体または色素である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の単離された組成物。
【請求項14】
化合物がシキミ酸である、請求項13に記載の単離された組成物。
【請求項15】
3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)シンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、デヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される酵素を含む、請求項13または14に記載の単離された組成物。
【請求項16】
炭素ソース、リン酸ソース、水、化合物の形成を触媒する酵素、エネルギーソース、アデノシン二リン酸(ADP)およびアデノシン三リン酸(ATP)再生システムを含む、化合物の合成のためのin vitro無細胞システム。
【請求項17】
in vitroで合成される化合物をさらに含む、請求項16に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項18】
ATP再生システムが光合成的ATP再生システムである、請求項16または17に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項19】
ATP再生システムが植物、藻類またはシアノバクテリアから単離される、請求項16〜18のいずれか一項に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項20】
ATP再生システムがチラコイド膜を含む、請求項19に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項21】
ATP再生システムが葉緑体を含む、請求項19または20に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項22】
ATP再生システムが、ATPシンターゼ、チトクロムb−f複合体、プラストシアニンおよび光化学系1(PS1)複合体を含む、請求項16〜21のいずれか一項に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項23】
PS1複合体が、ポリペプチドであるPsaA−PsaSならびに分子であるクロロフィル700、フィロキノン、Feおよびカロテノイドを含み、チトクロムb−f複合体が、チトクロムb、チトクロムf、鉄硫黄タンパク質、チトクロムb−fサブユニットIVならびに分子であるヘムb、ヘムb、ヘムcおよびFeを含む、請求項22に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項24】
光化学系2(PS2)複合体およびプラストキノンをさらに含む、請求項22に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項25】
ATP再生システムが、ATPシンターゼ、光化学系2(PS2)複合体、プラストキノンおよびチトクロムb−f複合体を含む、請求項16〜21のいずれか一項に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項26】
PS2複合体が、ポリペプチドであるCp43、Cp47、PsbO、PsbP、PsbQ、PsbE、PsbF、マンガン安定化タンパク質、ならびに分子であるクロロフィル680、フェオフィチン、キノン、ベータカロテンおよびヘムb559を含む、請求項24または25に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項27】
酵素が、ライセートから得られたかまたはin vitro翻訳により合成されたポリペプチドを含む、請求項16〜26のいずれか一項に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項28】
エネルギーソースが、光エネルギー、グルコース、ATPまたはそれらの組み合わせを含む、請求項16〜27のいずれか一項に記載のin vitro無細胞システム
【請求項29】
化合物が、治療用化合物、治療用化合物のための前駆体または色素である、請求項16〜28のいずれか一項に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項30】
化合物がシキミ酸である、請求項29に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項31】
3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)シンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、デヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される酵素を含む、請求項29または30に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項32】
プロテアーゼ阻害剤、アミノ酸、リボソーム、化合物の形成を触媒する酵素のアミノ酸配列をコードするRNA、RNAポリメラーゼ、化合物の形成を触媒する酵素のヌクレオチド配列をコードするDNAまたはそれらの組み合わせをさらに含む、請求項16〜31のいずれか一項に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項33】
in vitroの無細胞反応を形成するために、炭素のソース、リン酸のソース、水、化合物の形成を触媒する酵素、エネルギーソース、アデノシン二リン酸(ADP)およびアデノシン三リン酸(ATP)再生システムを含む成分を提供すること、ならびに
化合物を合成するためにin vitroの無細胞反応をインキュベートすること
を含む、化合物を合成するための方法。
【請求項34】
ATP再生システムが光合成的ATP再生システムである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ATP再生システムが植物、藻類またはシアノバクテリアから単離される、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
ATP再生システムがチラコイド膜を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
ATP再生システムが葉緑体を含む、請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
ATP再生システムが、ATPシンターゼ、チトクロムb−f複合体、プラストシアニンおよび光化学系1(PS1)複合体を含む、請求項33〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
PS1複合体が、ポリペプチドであるPsaA−PsaSならびに分子であるクロロフィル700、フィロキノン、Feおよびカロテノイドを含み、チトクロムb−f複合体が、チトクロムb、チトクロムf、鉄硫黄タンパク質、チトクロムb−fサブユニットIV、ならびに分子であるヘムb、ヘムb、ヘムcおよびFeを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
光化学系2(PS2)複合体およびプラストキノンをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
ATP再生システムが、ATPシンターゼ、光化学系2(PS2)複合体、プラストキノンおよびチトクロムb−f複合体を含む、請求項33〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
PS2複合体が、ポリペプチドであるCp43、Cp47、PsbO、PsbP、PsbQ、PsbE、PsbF、マンガン安定化タンパク質、ならびに分子であるクロロフィル680、フェオフィチン、キノン、ベータカロテンおよびヘムb559を含む、請求項40または41に記載の方法。
【請求項43】
酵素が、ライセートから得られたかまたはin vitro翻訳により合成されたポリペプチドを含む、請求項33〜42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
エネルギーソースが、光エネルギー、グルコース、ATPまたはそれらの組み合わせを含む、請求項33〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
化合物が、治療用化合物、治療用化合物のための前駆体または色素である、請求項33〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
化合物がシキミ酸である、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
in vitroの無細胞反応が、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)シンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、デヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される酵素を含む、請求項46または47に記載の方法。
【請求項49】
in vitroの無細胞反応が、プロテアーゼ阻害剤、アミノ酸、リボソーム、化合物の形成を触媒する酵素のアミノ酸配列をコードするRNA、RNAポリメラーゼ、化合物の形成を触媒する酵素のヌクレオチド配列をコードするDNA、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される成分を提供することをさらに含む、請求項33〜48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
炭素ソースが化合物のための前駆体である、請求項33〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
成分が1より多い工程において添加される、請求項33〜50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
合成された化合物を精製するための工程をさらに含む、請求項33〜51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
in vitroの無細胞反応を形成するために、シキミ酸の前駆体、ATPのソースおよびシキミ酸の形成を触媒する酵素を含む成分を提供すること、ならびに
in vitroの無細胞反応をインキュベートして、それによりシキミ酸を合成すること
を含む、シキミ酸の合成のための方法。
【請求項54】
ATPのソースがATP再生システムを用いてADPから生成される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
ATP再生システムが光合成的ATP再生システムである、請求項53または54に記載の方法。
【請求項56】
光合成的ATP再生システムを用いてADPからATPを生成するために光エネルギーを提供することをさらに含む、請求項53〜55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
光合成的ATP再生システムが、植物、藻類またはシアノバクテリアから単離される、請求項55または56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
光合成的ATP再生システムがチラコイド膜を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
光合成的ATP再生システムが葉緑体を含む、請求項57または58に記載の方法。
【請求項60】
光合成的ATP再生システムが、ATPシンターゼ、チトクロムb−f複合体、プラストシアニンおよび光化学系1(PS1)複合体を含む、請求項55〜59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
PS1複合体が、ポリペプチドであるPsaA−PsaSならびに分子であるクロロフィル700、フィロキノン、Feおよびカロテノイドを含み、チトクロムb−f複合体が、チトクロムb、チトクロムf、鉄硫黄タンパク質、チトクロムb−fサブユニットIV、ならびに分子であるヘムb、ヘムb、ヘムcおよびFeを含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
光化学系2(PS2)複合体およびプラストキノンをさらに含む、請求項60に記載の方法。
【請求項63】
光合成的ATP再生システムが、ATPシンターゼ、光化学系2(PS2)複合体、プラストキノンおよびチトクロムb−f複合体を含む、請求項55〜59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
PS2複合体が、ポリペプチドであるCp43、Cp47、PsbO、PsbP、PsbQ、PsbE、PsbF、マンガン安定化タンパク質、ならびに分子であるクロロフィル680、フェオフィチン、キノン、ベータカロテンおよびヘムb559を含む、請求項62または63に記載の方法。
【請求項65】
酵素が、ライセートから得られたかまたはin vitro翻訳により合成されたポリペプチドを含む、請求項53〜64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
in vitroの無細胞反応が、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)シンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、デヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される酵素を含む、請求項53〜65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
シキミ酸の前駆体が、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、エリトロース−4−リン酸(E4P)、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)、デヒドロキナ酸、デヒドロシキミ酸またはそれらの組み合わせである、請求項53〜66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
in vitroの無細胞反応が、プロテアーゼ阻害剤、アミノ酸、リボソーム、化合物の形成を触媒する酵素のアミノ酸配列をコードするRNA、RNAポリメラーゼ、化合物の形成を触媒する酵素のヌクレオチド配列をコードするDNAおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される成分を提供することをさらに含む、請求項53〜67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
成分が1より多い工程において添加される、請求項53〜68のいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
シキミ酸を精製するための工程をさらに含む、請求項53〜69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)シンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、デヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される酵素、ならびにアデノシン三リン酸ATP再生システムを含む、単離された組成物であって、ここで、前記酵素および前記ATP再生システムは、同じソースまたは別々のソースから得られ、ここで少なくとも一方のソースは、無細胞抽出物である、前記単離された組成物。
【請求項72】
別々のソースが、無細胞抽出物、in vitroの反応、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項71に記載の単離された組成物。
【請求項73】
ATP再生システムがピルビン酸キナーゼ(PK)を含む、請求項71または72に記載の単離された組成物。
【請求項74】
ATP再生システムが、ホスホグルコースイソメラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ(PKK−I)、フルクトース二リン酸アルドラーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、ホスホグリセリン酸ムターゼ(PGM)およびエノラーゼをさらに含む、請求項73に記載の単離された組成物。
【請求項75】
ATP再生システムがヘキソキナーゼ(HK)をさらに含む、請求項74に記載の単離された組成物。
【請求項76】
炭素ソース、リン酸ソース、水、エネルギーソース、アデノシン二リン酸(ADP)、光合成的アデノシン三リン酸(ATP)再生システム、ならびに3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)シンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、デヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される酵素を含む、化合物の合成のためのin vitro無細胞システム。
【請求項77】
in vitroで合成される化合物をさらに含む、請求項76に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項78】
ATP再生システムがピルビン酸キナーゼ(PK)を含む、請求項76または77に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項79】
ATP再生システムが、ホスホグルコースイソメラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ(PKK−I)、フルクトース二リン酸アルドラーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、ホスホグリセリン酸ムターゼ(PGM)およびエノラーゼをさらに含む、請求項78に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項80】
ATP再生システムがヘキソキナーゼ(HK)をさらに含む、請求項79に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項81】
エネルギーソースが、グルコース、グルコース−6−リン酸、ホスホエノールピルビン酸またはそれらの組み合わせを含む、請求項76〜80のいずれか一項に記載のin vitro無細胞システム。
【請求項82】
in vitroの無細胞反応を形成するために、炭素のソース、リン酸のソース、水、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)再生システム、ならびに3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸(DAHP)シンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、デヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される酵素を含む成分を提供すること、ならびに
化合物を合成するために、in vitroの無細胞反応をインキュベートすること
を含む、化合物を合成するための方法。
【請求項83】
ATP再生システムがピルビン酸キナーゼ(PK)を含む、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
ATP再生システムが、ホスホグルコースイソメラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ(PKK−I)、フルクトース二リン酸アルドラーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、ホスホグリセリン酸ムターゼ(PGM)およびエノラーゼをさらに含む、請求項82に記載の方法。
【請求項85】
ATP再生システムがヘキソキナーゼ(HK)をさらに含む、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
エネルギーソースが、グルコース、グルコース−6−リン酸、ホスホエノールピルビン酸またはそれらの組み合わせを含む、請求項82〜85のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−513213(P2012−513213A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543501(P2011−543501)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/006704
【国際公開番号】WO2010/074760
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(511152991)グレーンライト バイオサイエンシーズ インコーポレーテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】GREENLIGHT BIOSCIENCES,INC.
【住所又は居所原語表記】200 Boston Avenue,Suite 1400,Medford,Massachusetts 02155,United States of America
【出願人】(500429147)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (13)
【Fターム(参考)】