説明

化合物半導体単結晶の製造方法

【課題】量産性に優れるとともに結晶中の転位が少なく均質な単結晶を低コストで得ることができる化合物半導体単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】結晶成長容器1内に投入した化合物半導体原料6の表面と結晶成長容器1の内面との間に液体封止剤2を介在させた状態で、結晶成長容器1を、化合物半導体原料6の融点を含む範囲で温度勾配を設けた加熱炉7内で徐々に移動させて、加熱炉7における化合物半導体原料6の融点以上の温度部分で化合物半導体原料6を溶融させた後、融点以下の温度部分で化合物半導体単結晶5を成長させ、化合物半導体単結晶5の成長終了後、液体封止剤2及び化合物半導体単結晶5を200℃から化合物半導体単結晶5の融点までの温度で加熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、化合物半導体単結晶の製造方法に関し、特に、量産性に優れるとともに結晶中の転位が少なく均質な単結晶を低コストで得ることができる化合物半導体単結晶の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、直径75mmを超える大口径のGaAs、InP等の化合物半導体の単結晶を製造する方法として、垂直ブリッジマン法(Vertical Bridgman Method)が用いられている。
【0003】この垂直ブリッジマン法は、化合物半導体原料を投入した結晶成長容器を、化合物半導体原料の融点を含む範囲で温度勾配を設けた加熱炉内で徐々に移動させて、加熱炉における前記化合物半導体原料の融点以上の温度部分で化合物半導体原料を溶融させた後、融点以下の温度部分で化合物半導体単結晶を成長させるものである。
【0004】一方、この化合物半導体単結晶の製造方法においては、結晶成長容器として窒化硼素製又は石英ガラス製のるつぼが使用されている。これらの結晶成長容器は、その内面に微細な凹凸を有するため、化合物半導体単結晶を成長させる際に原料融液とるつぼ内面とが接触すると、結晶の核が発生して得られる化合物半導体結晶が多結晶化してしまうという問題があった。このため、酸化ホウ素(B23)を液体封止剤として化合物半導体原料の表面と結晶成長容器の内面との間に介在させた状態で、化合物半導体単結晶を成長させる製造方法が開示されている(特開平1−278490号公報、特開平2−188485号公報等)。
【0005】しかし、この製造方法では、化合物半導体単結晶の成長終了後、結晶成長容器を室温まで冷却すると液状封止剤も固化するため、液状封止剤を介して形成された化合物半導体単結晶が結晶成長容器に固着し、その取り出しが非常に困難であった。このため、図8に示すように、従来は化合物半導体単結晶25の入った結晶成長容器21をメタノール等の有機溶剤17中に浸漬して、液状封止剤222である酸化ホウ素(B23)を溶解して化合物半導体単結晶25を取り出していた。
【0006】しかし、液状封止剤22である酸化ホウ素(B23)の溶解時間は、1〜20日と極めて長いため、従来の製造方法では、化合物半導体単結25の取り出しに時間を要し、量産性という点で必ずしも十分ではなかった。また、液状封止剤22である酸化ホウ素(B23)の溶解が不十分な場合には、化合物半導体単結25を取り出す際に、結晶成長容器21の内壁が剥離されてしまうことがあるため、結晶成長容器21の寿命を短くし、延いては、化合物半導体単結晶25のコストを増大させるという問題もあった。
【0007】これに対して、化合物半導体単結晶の成長終了後、液体封止剤を軟化点温度以上の温度で加熱、軟化して、結晶成長容器から化合物半導体単結晶を解離する製造方法が提案されている(特開平5−70288号公報)。
【0008】この製造方法では、結晶成長容器から化合物半導体単結晶を迅速に取り出すことができるため、量産性を向上させることができるとともに、化合物半導体単結晶を取り出す際に結晶成長容器の内壁を剥離することがないため、結晶成長容器の寿命を伸ばし、延いては化合物半導体単結晶のコストを低減することができる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この製造方法では、化合物半導体単結晶の品質については特に考慮されていないため、結晶の転位密度が大きくなり、電気的特性にバラツキを生じる場合があった。従って、本発明の目的は、量産性に優れるとともに結晶中の転位が少なく均質な単結晶を低コストで得ることができる化合物半導体単結晶の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するため、以下の化合物半導体単結晶の製造方法を提供する。
【0011】[1]結晶成長容器内に投入した化合物半導体原料の表面と前記結晶成長容器の内面との間に液体封止剤を介在させた状態で、前記結晶成長容器を、前記化合物半導体原料の融点を含む範囲で温度勾配を設けた加熱炉内で徐々に移動させて、前記加熱炉における前記化合物半導体原料の融点以上の温度部分で前記化合物半導体原料を溶融させた後、融点以下の温度部分で化合物半導体単結晶を成長させ、前記化合物半導体単結晶の成長終了後、前記液体封止剤及び前記化合物半導体単結晶を200℃から前記化合物半導体単結晶の融点までの温度で加熱処理することを特徴とする化合物半導体単結晶の製造方法。
【0012】[2]前記液体封止剤及び前記化合物半導体単結晶の加熱処理を、500℃から前記化合物半導体単結晶の融点までの温度で行う前記[1]に記載の化合物半導体単結晶の製造方法。
【0013】[3]前記液体封止剤及び前記化合物半導体単結晶の加熱処理を、1100℃から前記化合物半導体単結晶の融点までの温度で1時間以上加熱し、80〜120℃/時間の冷却速度で500℃まで冷却し、500〜600℃で3時間以上加熱し、40〜60℃/時間の加熱速度で800℃まで加熱し、800℃〜950℃で3時間以上加熱し、90〜110℃/時間の冷却速度で室温まで冷却して行う前記[1]又は[2]に記載の化合物半導体単結晶の製造方法。
【0014】[4]前記液体封止剤及び前記化合物半導体単結晶の加熱処理を、前記結晶成長容器をその開口部が横向き又は下向きになるように設置して行う前記[1]〜[3]のいずれかに記載の化合物半導体単結晶の製造方法。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ具体的に説明する。図1(a)に示すように、本発明の化合物半導体単結晶の製造方法では、まず、結晶成長容器1内に投入した化合物半導体原料6の表面と結晶成長容器1の内面との間に液体封止剤2を介在させた状態で、結晶成長容器1を、化合物半導体原料6の融点を含む範囲で温度勾配を設けた加熱炉7内で徐々に移動させて、加熱炉7における化合物半導体原料6の融点以上の温度部分で化合物半導体原料6を溶融した後、融点以下の温度部分で化合物半導体単結晶5を成長させる。
【0016】本発明に用いられる結晶成長容器1としては、例えば、窒化硼素製又は石英ガラス製のものを挙げることができる。
【0017】本発明に用いられる化合物半導体原料6としては、GaAs、InP、GaP等を挙げることができる。また、本発明においては、種結晶6aを予め化合物半導体原料6と一緒に投入することが好ましい。
【0018】本発明に用いられる液体封止剤2としては、例えば、酸化硼素(B23)等を挙げることができる。液体封止剤2は、溶融した化合物半導体原料6の表面と結晶成長容器1の内面との間に介在させるものであればよく、化合物半導体原料6とともに結晶成長容器1内に投入してもよく、結晶成長容器1内面に予め塗布しておいてもよい。
【0019】本発明に用いられる加熱炉7は、化合物半導体原料6の融点を含む範囲で温度勾配を設けたものであり、この温度勾配は、熱歪みによる結晶の転位密度の増加を抑制するため、1〜10℃/cmが好ましい。また、加熱炉7内での結晶成長容器1の移動速度は、大口径の結晶を形成させるため4mm/時間以下が好ましい。
【0020】本発明の化合物半導体単結晶の製造方法では、化合物半導体単結晶の成長終了後、液体封止剤及び化合物半導体単結晶を200℃から化合物半導体単結晶の融点までの温度で1時間以上加熱処理する。200℃未満であると、化合物半導体単結晶の取り出しが困難になる。一方、融点温度を超えると結晶としての取り出しが不可能になる。
【0021】なお、この加熱処理の際には、結晶成長容器1の温度分布を±20℃以内に制御して行うことが好ましい。また、加熱処理後は、−50℃/cm以下の冷却速度でゆっくり室温まで冷却するのが好ましい。
【0022】図2に示すように、本発明の化合物半導体単結晶の製造方法では、液体封止剤及び単結晶の加熱処理を、以下に述べる工程で行うことにより、電気的特性が均一な半絶縁性化合物半導体単結晶を得ることもできる。
【0023】この加熱処理工程では、まず、As等の化合物半導体単結晶成分を均一に固溶するため、1100℃から化合物半導体単結晶の融点までの温度で1時間以上加熱する。次いで、As等の化合物半導体単結晶成分の析出を防止するため、−100℃/時間以上の冷却速度で500℃〜600℃まで冷却する。次いで、As等の化合物半導体単結晶成分を過飽和状態で均一に分散させるため、500℃〜600℃で3時間以上加熱する。次いで、As等の化合物半導体単結晶成分の均一な分散を阻害せずにEL2を形成させるため、50℃/時間以上の加熱速度で500℃〜600℃まで加熱する。最後に、EL2を形成させて半絶縁性の化合物半導体単結晶とするため、900℃〜950℃で3時間以上加熱し、90〜110℃/時間の冷却速度で室温まで冷却する。なお、この加熱処理の際には、結晶成長容器1の温度分布を±20℃以内に制御して行うことが好ましい。
【0024】図1(b)及び(c)に示すように、本発明における液体封止剤及び単結晶の加熱処理は、化合物半導体単結晶5が入った結晶成長容器1を、例えば、石英アンプル等に入れてその開口部1aが横向き又は下向きになるように加熱炉7に設置して行うことが好ましい。
【0025】液体封止剤(B23)が、軟化点温度以上で加熱されて化合物半導体単結晶5が結晶成長容器1の内壁から解離すると、化合物半導体単結晶5が重力により結晶成長容器1の開口部1aに自然に落下するため、化合物半導体単結晶5の取り出しを簡単に行うことができる。また、液体封止剤(B23)が加熱により溶解すると結晶成長容器1の開口部1aから自然に流出するため、例えば、液体封止剤受け8等により簡単に回収することができる。
【0026】なお、加熱処理は、結晶中への不純物の混入を防止するためガス導入部11から不活性ガス等を導入して不活性ガス雰囲気下等で行うのが好ましい。また、結晶落下の際の損傷等を防ぐため結晶成長容器1の開口部1aの下に、例えば、ガラス繊維等からなる緩衝材4を設置しておくとよい。
【0027】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何等限定されるものではない。
【0028】実施例1まず、石英ガラス製の結晶成長容器中にGaAs種結晶とGaAs6500gとSi(ドーパント)2.0gとを順に投入後、結晶成長容器内を真空雰囲気とした。次いで、石英ガラス製の結晶成長容器を加熱炉内に設置後、加熱炉を昇温した。加熱炉の温度は、種結晶のある下部を約1200℃とし、GaAs及びSiのある上部を約1245℃とした。また、固液界面部の温度勾配は、約10℃/cmに調整した。石英ガラス結晶成長容器を、上部から3mm/時間の速度で下降させ、上部で溶融したGaAs及びSiを順次結晶成長させた。GaAs及びSiの融液がすべて固化して結晶成長が終了した後、石英ガラス結晶成長容器1を約−30℃/時間の速度で室温まで冷却した。
【0029】次ぎに、結晶が入った石英ガラス結晶成長容器を加熱炉から取り出して石英アンプル内に挿入し、この石英アンプルを結晶成長容器の開口部が下方向となるようにして加熱炉に設置し、窒素ガスを1リットル/分の流量で流して加熱処理を行った。加熱処理は、炉内全体の温度を±5℃以内となるように制御しながら100℃/時間の加熱速度で結晶成長容器が、600℃となるまで加熱し、600℃で2時間加熱後、−50℃/時間の冷却速度で室温まで冷却して行った。加熱処理後に、結晶を結晶成長容器の開口部から取り外し、直径約80mm、長さ約200mmの円筒状のGaAs単結晶を得た。得られたGaAs単結晶の転位密度を透過型電子顕微鏡で測定したところ極めて低密度であった。
【0030】実施例2まず、窒化硼素製の結晶成長容器中に、GaAs種結晶とGaAs6500gとSi(ドーパント)2.0gとを順に投入後、結晶成長容器内にArガスを導入して、結晶成長容器内を不活性ガス雰囲気とした。
【0031】次いで、窒化硼素製の結晶成長容器を加熱炉内に設置後、加熱炉を昇温した。加熱炉の温度は、種結晶のある下部を約1200℃とし、GaAs及びSiがある上部を約1245℃とした。また、固液界面部の温度勾配は、約10℃/cmに調整した。石英ガラス結晶成長容器を、上部から3mm/時間の速度で下降させ、上部で溶融したGaAs及びSiを順次結晶成長させた。GaAs及びSiの融液がすべて固化して結晶成長が終了した後、石英ガラス結晶成長容器を約−30℃/時間の冷却速度で室温まで冷却した。
【0032】次ぎに、GaAs結晶が入った窒化硼素製の結晶成長容器を加熱炉から取り出して、結晶成長容器の開口部が下方向となるようにして再び加熱炉に設置し、アルゴン(Ar)を加熱炉に導入して不活性ガス雰囲気で、加熱処理を行った。
【0033】加熱処理は、90℃/時間の加熱速度で1100℃まで加熱し、1100℃で6時間加熱し、−300℃/時間の冷却速度で500℃まで冷却し、500℃で4時間加熱し、110℃/時間の加熱速度で950℃まで加熱し、950℃で6時間加熱し、−110℃/時間の冷却速度で室温まで冷却して行った。この際、結晶全体は±5℃以内に均熱された温度分布を取るように温度制御した。
【0034】加熱処理後に、GaAs結晶を結晶成長容器の開口部から取り外し、直径約100mm、長さ約150mmの円筒状のGaAs単結晶を得た。得られたGaAs単結晶の転位密度を透過型電子顕微鏡で測定したところ極めて低密度であった。また、この得られたGaAs単結晶をウエハ状に切断し、ウエハ面内のPL強度分布を光度計で測定したところ、図3(b)に示すように、バラツキが5%以下と非常に小さかった。また、比抵抗を測定したところ、1E7Ω・cm以上と半絶縁性であった。
【0035】比較例1実施例2においてGaAs結晶成長終了後に加熱処理をしなかったこと以外は、実施例2と同様にしてGaAsの単結晶を製造した。
【0036】GaAs結晶をウエハ状に切断し、比抵抗を測定したところ、1E7Ω・cm以上と半絶縁性であったが、PL強度分布を光度計で測定したところ、図3(a)に示すように、PL強度のバラツキが約20%と大きなバラツキが認められた。また、転位密度を透過型電子顕微鏡で測定したところ高密度であった。
【0037】
【発明の効果】以上説明した通り、本発明の化合物半導体単結晶の製造方法によると、量産性に優れるとともに結晶中の転位が少なく均質な単結晶を低コストで得ることができる化合物半導体単結晶の製造方法を提供することができる。
【0038】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の化合物半導体単結晶の製造方法を実施するための装置の一例を模式的に示す説明図であり、(a)は、結晶成長時の状態を示す断面図であり、(b)は、結晶成長終了後の加熱処理時の状態を示す断面図であり、(c)は、結晶が結晶成長容器内壁から解離した状態を示す断面図である。
【図2】本発明の一の実施の形態における単結晶成長終了後の加熱処理条件の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の実施例により得られた化合物半導体単結晶のPL強度分布を示す説明図である。
【図4】従来の化合物半導体単結晶の製造方法の一例において、単結晶成長終了後に化合物半導体単結晶を結晶成長容器内壁から解離する工程を模式的に示す断面図である
【符号の説明】
1:結晶成長容器
1a:開口部
2:液体封止剤(B23
4:緩衝材
5:化合物半導体単結晶
6:化合物半導体原料
7:加熱炉
8:液体封止剤受け
9:結晶受け台
11:ガス導入部
12:チャンバ
17:有機溶剤(メタノール)
18:有機溶剤入れ
21:結晶成長容器
22:液体封止剤(B23
25:化合物半導体単結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】結晶成長容器内に投入した化合物半導体原料の表面と前記結晶成長容器の内面との間に液体封止剤を介在させた状態で、前記結晶成長容器を、前記化合物半導体原料の融点を含む範囲で温度勾配を設けた加熱炉内で徐々に移動させて、前記加熱炉における前記化合物半導体原料の融点以上の温度部分で前記化合物半導体原料を溶融させた後、融点以下の温度部分で化合物半導体単結晶を成長させ、前記化合物半導体単結晶の成長終了後、前記液体封止剤及び前記化合物半導体単結晶を200℃から前記化合物半導体単結晶の融点までの温度で加熱処理することを特徴とする化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項2】前記液体封止剤及び前記化合物半導体単結晶の加熱処理を、500℃から前記化合物半導体単結晶の融点までの温度で行う請求項1に記載の化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項3】前記液体封止剤及び前記化合物半導体単結晶の加熱処理を、1100℃から前記化合物半導体単結晶の融点までの温度で1時間以上加熱し、80〜120℃/時間の冷却速度で500℃まで冷却し、500〜600℃で3時間以上加熱し、40〜60℃/時間の加熱速度で800℃まで加熱し、800℃〜950℃で3時間以上加熱し、90〜110℃/時間の冷却速度で室温まで冷却して行う請求項1又は2に記載の化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項4】前記液体封止剤及び前記化合物半導体単結晶の加熱処理を、前記結晶成長容器をその開口部が横向き又は下向きになるように設置して行う請求項1〜3のいずれかに記載の化合物半導体単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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