説明

化学材料および/または生物学的材料を固定化するための制御可能な放出または遅延放出を伴うマイクロカプセルならびにその製造方法

本発明は、濃厚な媒質中では安定であるが、媒質を希釈すると比較的小さな機械的応力によってでさえ破壊され、その結果、被封入材料が放出されるマイクロカプセル(特に化学材料および/または生物学的材料を固定化するためのもの)ならびにその製造方法に関する。本発明によれば、この材料は、化学物質(例えば活性物質または酵素など)であってもよいし、生物学的材料(例えば微生物、細胞またはその混合物)であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃厚な媒質中では安定であるが、媒質を希釈すると比較的小さな機械的応力によってでさえ破壊され、その結果、被封入材料が放出されるマイクロカプセル、特に化学材料および/または生物学的材料を固定化するためのもの、ならびにその製造方法に関する。本発明によれば、この材料は、化学物質、例えば活性物質または酵素など、であってもよいし、生物学的材料、例えば微生物、細胞またはその混合物、であってもよい。そのようなカプセルは、好ましくは、被固定化材料を含有する球状の芯から形成され、これは、その芯を完全に包む外被によって取り囲まれていてもよい。
【背景技術】
【0002】
さらに本発明は、酵素工程および/または他の化学的もしくは物理的工程を用いて比較的小さな機械的応力で遅延的に破壊され、その結果、被封入材料が放出されるマイクロカプセル(特に化学材料および/または生物学的材料を固定化するためのもの)ならびにその製造方法に関する。本発明によれば、この材料は例えば活性物質などの化学物質であってもよいし、例えば微生物、細胞またはその混合物などの生物学的材料であってもよい。このカプセルは、例えばカプセルの貯蔵中は不活性であるが外部因子によって活性化されうる酵素などを、その内部に含有する。この活性化の結果として、酵素はカプセルを形成している一つ以上の構成要素を分解する。これにより、本来安定なカプセルが機械的に不安定になり、被封入材料は比較的小さな機械的応力によってでさえ放出されうる。
【0003】
実際の技術においては、湿った環境下で互いに相互作用することによって互いを破壊する異なる物質または生物を混合物に統合することが、しばしば必要になる。通常、構成要素は個別に乾燥状態で統合され、その混合物は乾燥状態で貯蔵される。
【0004】
類似の混合物を液体濃縮物として製造することが望ましい場合、取りうる選択肢は極めて限られる。少数の決定的構成要素を差し控えるか、比較的短い保存性しかなくても我慢することになる。
【0005】
この不都合は、決定的構成要素を封入することによって補うことができる。なぜなら、これらはもはや周囲の媒質と相互作用しないことが保証されるからである。しかし、適用される封入技術は、混合物がその有効性を完全に発揮することができるように、必要な場合には被封入材料が再び放出されることを、保証しなければならない。
【0006】
「封入」という用語は技術文献では広く用いられている。従来の技術基準では、主に、まず担体粒子を製造し、次にその担体粒子に活性物質を供給するという方法が、採用されてきた。例えば薬物または砂糖菓子の製造に用いられるいわゆる浸漬工程や、化学産業または医薬産業においてしばしば用いられる吹付けコーティングも、封入と呼ばれることが多く、この場合は、浸漬または吹付けコーティングを用いて、固体が膜で被覆される。特殊な応用例では、物質がさらに化学沈殿によってゲル粒子中に封入されることも多い。
【0007】
また、その対象がマイクロカプセルに関係している保護権または保護権を求める出願も数多く存在する。例えば、未審査の公開特許出願DE 196 44 343 A1には、エマルション工程によって製造される直径数μmのマイクロカプセルが記載されている。このエマルション工程では、油またはその油に可溶な物質が基材、例えばアルギン酸塩、中に乳化され、そこからさらにもう一つのエマルション工程で0.5〜20μmのサイズを持つカプセルが形成され、次いでそれらを食品産業または医薬産業で使用することができる。しかしこれらの小球は、より大きな固体粒子や、さらには生細胞を固定化するのには適さない。また、これらは本発明の目的に使用することもできない。
【0008】
米国特許出願第4,389,419号には、油または油可溶性物質を封入するための同様の方法が記載されている。上述の保護権と同様に、第1ステップでは油と基材物質(アルギン酸塩)とのエマルションが形成される。しかし、この場合はアルギン酸塩にいくつかの充填剤が混合され、カプセルは追加の乳化ステップによって形成されるのではなく、ノズルからの押出および沈殿槽における沈殿によって形成される。これらのカプセルは第1の保護権に記載されているものよりも大きい。これらのカプセルは、より高い機械的応力下で油含浸スポンジのように滲出するが、この点も、本発明で述べるカプセルとの相違点である。
【0009】
それ自体で一つの種類を成しているものに、いわゆる皮膜カプセルがある。F.LimおよびA.Sunは、雑誌「Science」の第210巻、908〜910頁(1980)に、生きた細胞を固定化するための半透膜を持つカプセルを記載している。この場合、カプセルの芯は単層のPly-L-リジン/アルギン酸塩複合体によって取り囲まれる。これらのカプセルでは、細胞はカプセルの芯から脱出することが妨げられる。しかし、この膜は酵素以下のサイズを持つ分子に対して透過性を持つので、酵素以下のサイズを持つ分子をそこに封入することは不可能である。さらにまた、この皮膜カプセルは機械的安定性が比較的小さいので、工業的工程における使用には適さない。
【0010】
特許出願DE 43 12 970.6には、やはり酵素およびタンパク質の固定化に適した皮膜カプセルが記載されている。被固定化材料を含有する芯は多層の外被によって取り囲まれ、これらの層のそれぞれは、外被全体にある一定の性質を付与している。外被ポリマーを都合よく選択することにより、酵素はカプセル内に留まるが、はるかに小さな基質および生成物は膜を通過することができるように、膜の透過性を低下させることができる。これらのカプセルは、周囲の媒質の濃度が著しく異なっても安定である。これらの膜は永続的に調節された所定の透過性を持つので、被封入材料の放出を妨げる。
【0011】
特許文書EP 0 782 853 B1には、特殊な数層から形成される外被を持つマイクロカプセルが記載されている。これらの層の少なくとも一つは、内部濃度および/または他の物理量の関数として、その構造およびその外被の孔径を変化させる材料でできている。このカプセルでは芯は常に保たれたままである。外被はその透過性を変化させるに過ぎず、それによって被封入材料の部分的な放出は起こりうるが、完全な放出は起こらない。
【0012】
洗剤または化粧品の分野でも、活性物質が封入されている製品を記載した刊行物がいくつかある。しかし、これらの刊行物はいずれも、生物学的生材料には全く不適であるか、比較的高い応力でしか被封入物質を放出しないカプセルを記載している。
【0013】
したがって例えば、カラギーナン、ポリビニルアルコールまたはセルロースエーテルというポリマーでできたカプセルを含む水性食器洗い液が、未審査公開特許出願DE 22 15 441から知られている。ポリマーおよび電解質は、媒質におけるカプセルの安定性および希釈した際のその溶解が保証されるように選択される。しかし、使用されるポリマーは生材料の封入には適さない。
【0014】
英国特許文書1 471 406は0.1〜5mmの直径を持つカプセルを含む液体水性洗剤に関する。これらのカプセルは、感受性成分を、温度、貯蔵および輸送に関して、より安定にし、適用直前または適用中にのみそれらを放出させるためのものである。成分はカプセルにより完全にまたは部分的に封入されるが、これらのカプセルは、それ以上詳細には限定されていない。
【0015】
ドイツ出願DE 199 18 267にも、被封入成分を含む液体洗剤が記載されている。この発明によるカプセルは、市販されている界面活性剤安定性球体に封入されたあらゆる材料と定義されている。しかしそのカプセルを製造する方法は記載されていない。
【0016】
さらにまた、一定の活性物質または微生物がその有効性を遅延的に発揮すべきであることも、実際には多い。例えば、ある混合物の特定構成要素が、混合物の貯蔵中は不活性でなければならないが、使用時にはその有効性を完全に発揮する必要がある場合などが、これに当てはまりうる。
【0017】
希釈された場合(すなわち水が添加された場合)にのみ活性化されるべきである活性物質を、ゲルとして貯蔵されている時に含有する果汁濃縮物が、その一例だろう。
【0018】
ベーキング用混合物の場合は、貯蔵中に一定の構成要素を付加的に保護することが、しばしば必要になる。しかしこの保護は、諸成分がそれらの有効性を完全に発揮することができるように、その使用時には不活化されなければならない。
【0019】
化学農薬または生物農薬の場合は、それらが、その適用時に、長期間にわたって、または遅延的な形でのみ、その有効性を発揮することが、しばしば望まれる。
【0020】
これは、個々の構成要素を上述のように封入することによって、達成することができる。しかし使用される封入技術は、物質または生物がその有効性を完全に発揮することができるように、必要な場合には被封入材料が再び放出されることを、保証する必要がある。この放出は、水分、希釈または特定物質の添加などといった外部因子によって制御することが可能でなければならない。
【発明の開示】
【0021】
このことに基づき、本発明の目的は、生命のない物質も生きている生物も含有することができるカプセルを提供することである。同時に、工業的工程で使用することができるように、その機械的安定性を調節することができ、それにより、濃厚な媒質中では安定であるが、媒質を変えるか希釈すると、比較的小さな機械的応力で破壊され、その結果、被封入材料が放出される。本カプセルは、複数の媒質中で使用可能であるべきであり、滲出による影響を受けないべきであり、それと同時に、その乾燥は、その機能の喪失を起こすことなく、可能であるべきである。
【0022】
本発明によればこの目的は第1の態様によって達成される。この場合、第1ステップでは、封入されるべき材料を完全に包むカプセルが、液相で製造される。第2ステップでは、そのカプセルを乾燥させる。次に、それを濃縮物(例えばゲル)中に、数時間貯蔵する。カプセル-濃縮物懸濁液を希釈すると、小さな機械的応力でその破壊および被封入材料の放出が起こる程度に、高い張力がカプセル内に発生する。
【0023】
したがって、第1の態様によれば、本発明の中心的思想は、カプセルを形成しているマトリックスがまず乾燥され、次に濃厚な媒質が含浸されることにより、周囲の媒質が希釈された時に、カプセルがその内部に発生した張力の結果として破壊される点にある。カプセルマトリックス中に封入された材料は、これにより、放出される。カプセル内に配置された材料がカプセルの貯蔵中に滲出するのを防ぐために、カプセルを外被膜で取り囲むことができる。
【0024】
材料および製造方法のパラメータを適切に選択すれば、例えば
・水溶性または水不溶性材料、
・グリース、油、エマルションまたは懸濁液、
・固体、
・生細胞または死細胞、
・生きている微生物または死んでいる微生物、
・上述した種類の一つ以上から得られる混合物
など、数多くのさまざまな材料を、そのようなカプセル中に封入することができる。
【0025】
このカプセルは以下のように構築される。カプセルの芯は、マトリックスを形成する基材でできており、固定化すべき材料はそのマトリックス中に包埋される。この基材物質は、そこから、イオンまたは温度勾配の影響による沈殿を用いて、好ましくは球状の多孔性粒子を形成させることができる、滴下可能な物質でなければならない。そのような物質として例えばアルギン酸Naを挙げることができるが、アガロースまたはセファデックスなどであってもよい。
【0026】
例えば、酵素もしくは油、エマルションなど、または生きている細胞もしくは微生物を、カプセルに封入すべき場合や、カプセルが特定の機械的安定性を持つように調節されるべきであるような他のあらゆる場合には、カプセルの芯をさらなる膜で覆うことが有利である。この膜は、数層を成すように適用しうる高分子電解質複合体製であることができる。そのような高分子電解質複合体はポリアニオンおよびポリカチオンの相互作用によって形成される。ポリアニオンとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、硫酸セルロースなどの水溶性セルロース誘導体、またはペクチン、アルギン酸塩を使用することができるが、ポリアクリル酸もしくはポリメタクリル酸などの合成ポリマーも使用することができる。ポリカチオンとしては、とりわけ、キトサンなどの天然物質が考えられるが、ポリエチレンイミンまたはポリジエチルジアリルアンモニウムクロリドのような合成ポリマーも考えられる。
【0027】
しかし上述の膜は、異なる物質の直接コーティングによって製造することもできる。このコーティングは、考えうるカプセルの乾燥時に遂行するか、またはそれ以降のコーティング工程で適用することができる。カプセルを食品加工産業または医薬産業で応用する場合、このコーティング物質は、例えばシェラックであるか、またはそれぞれの分野で承認された別の物質であることができる。化学分野では、例えばニトロセルロース誘導体またはポリビニルアセテートなどといった他の被膜形成化合物も、この目的に使用することができる。
【0028】
場合によっては、上述した両アプローチの組合せによってカプセルを製造することも有利になりうる。そのようなカプセルの場合は、貯蔵性に影響を及ぼし、貯蔵中に起こる被封入材料の滲出および/または周囲の媒質との相互作用を防止するためのパラメータが追加され、それによってその信頼性が向上するだろう。
【0029】
第1の態様による本発明のマイクロカプセルを製造する方法は、以下のとおりである。
【0030】
第1ステップでは、封入すべき材料を1〜2%の基材溶液、例えばアルギン酸Na、に加えて撹拌する。次に、珪砂またはシリカなどの充填剤を加えることによって、混合物が例えば約20〜40%の乾物含量を持つようにする。次にこの混合物を沈殿槽に滴下する。この滴下は、均一な液滴径を与える任意の市販システムを使って遂行することができる。最善の結果はいわゆる二媒質ノズルで得られた。これらは、混合物が押し込まれる毛細管における液滴のはぎ取りが、圧縮気流によって達成されるノズルである。
【0031】
沈殿槽は、一つ以上の多価金属イオン、例えばCa++、Ba++などを含有する1〜2%食塩水であることができる。沈殿槽に例えばポリエチレンイミン、キトサンなどのポリカチオンの希薄溶液を加えると、沈殿と同時に薄膜が形成され、それがカプセルから被封入材料が滲出するのを防ぐ。異なる電荷を持つ高分子電解質溶液をこのカプセルの周りに繰り返し流すことによって膜を構築させることができ、それがその適用に応じて機械的安定性をカプセルに与える。この工程では、この回流を流動層で遂行することが有利である。この目的を達成するには、適切な容器中で、小球を旋回させるだけでなく、それらを懸濁状態に保つのにも十分であるような高速度で、カプセルをコーティング溶液によって回流させる。
【0032】
次に、小球を洗浄し、乾燥させる。乾燥は市販の乾燥機を使って遂行することができ、最善の結果は、流動層乾燥機またはバイブレーションチャージ乾燥機で達成された。乾燥後の水分含量は3〜7%を超えないべきである。
【0033】
乾燥後に、カプセルを濃厚な媒質、例えばゲル、中に数時間貯蔵する。最善の結果は24時間より長く貯蔵することによって達成された。ここで、この濃厚な媒質(ゲル)を5倍、10倍またはそれ以上に希釈すると、小球は破壊されて、被封入材料を放出する。
【0034】
目的は第2の態様でも達成される。この場合、第1ステップでは、封入されるべき材料を完全に包むカプセルが、液相で製造される。第2ステップでは、そのカプセルを乾燥させる。カプセルのマトリックス物質または外被は、カプセル全体の機械的安定性がもはや提供されないように、酵素的に変化させるか、他の物理的および/または化学的工程によって変化させることができる少なくとも一つの材料を含有する。
【0035】
この変化は、例えばカプセル中に含有され、乾燥カプセル中では、またはカプセルを貯蔵する際の条件下では、不活性であるような酵素によって、引き起こすことができる。カプセルを湿らせることにより、または周囲の媒質の物理的/化学的パラメータの変化により、酵素は活性になる。これにより、酵素はカプセルの一つ以上の構成要素を分解する。カプセルは機械的に不安定になり、被封入材料を放出する。
【0036】
しかしこの効果は酵素的にしか達成することができないわけではない。なぜなら、カプセルが、特殊な試薬を添加することによって逆転させることができる可逆過程で硬化される場合は、後にカプセルを溶解させることができ、その結果、被封入材料が放出されるからである。
【0037】
したがって、第2の態様によれば、本発明の中心的思想は、カプセルを形作るマトリックスおよび/または考えうる外被を、それが物理的および/または化学的な外部パラメータの変化によって破壊されうるように、選択する点にある。これは例えば、カプセル材料の必須構成要素を分解する酵素の、カプセルの内部における活性化によって達成することができる。しかし、このカプセルの破壊は、異なる方法でも遂行することができる。カプセルマトリックスに封入された材料は、これにより、放出される。カプセル内に配置された材料がカプセルの貯蔵中に滲出するのを防ぐために、カプセルを外被膜で取り囲むことができる。
【0038】
材料および製造方法のパラメータを適切に選択すれば、例えば
・水溶性または水不溶性材料、
・グリース、油、エマルションまたは懸濁液、
・固体、
・生細胞または死細胞、
・生きている微生物または死んでいる微生物、
・上述した種類の一つ以上から得られる混合物
など、数多くのさまざまな材料を、そのようなカプセル中に封入することができる。
【0039】
このカプセルは以下のように構築される。カプセルの芯は、マトリックスを形成する基材でできており、固定化すべき材料はそのマトリックス中に包埋される。この基材物質は、そこから、イオンまたは温度勾配の影響による沈殿を用いて、好ましくは球状の多孔性粒子を形成させることができる、滴下可能な物質でなければならない。そのような物質として例えばアルギン酸Naを挙げることができるが、アガロースまたはセファデックスなどであってもよい。
【0040】
例えば、酵素もしくは油、エマルションなど、または生きている細胞もしくは微生物を、カプセルに封入すべき場合や、カプセルが特定の機械的安定性を持つように調節されるべきであるような他のあらゆる場合には、カプセルの芯をさらなる膜で覆うことが有利である。この膜は、数層を成すように適用しうる高分子電解質複合体製であることができる。そのような高分子電解質複合体はポリアニオンおよびポリカチオンの相互作用によって形成される。ポリアニオンとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、硫酸セルロースなどの水溶性セルロース誘導体、またはペクチン、アルギン酸塩を使用することができるが、ポリアクリル酸もしくはポリメタクリル酸などの合成ポリマーも使用することができる。ポリカチオンとしては、とりわけ、キトサンなどの天然物質が考えられるが、ポリエチレンイミンまたはポリジエチルジアリルアンモニウムクロリドのような合成ポリマーも考えられる。
【0041】
しかし上述の膜は、異なる物質の直接コーティングによって製造することもできる。このコーティングは、考えうるカプセルの乾燥時に遂行するか、またはそれ以降のコーティング工程で適用することができる。カプセルを食品加工産業または医薬産業で応用する場合、このコーティング物質は、例えばシェラックであるか、またはそれぞれの分野で承認された別の物質であることができる。化学分野では、例えばニトロセルロース誘導体またはポリビニルアセテートなどといった他の被膜形成化合物も、この目的に使用することができる。
【0042】
場合によっては、上述した両アプローチの組合せによってカプセルを製造することも有利になりうる。そのようなカプセルの場合は、貯蔵性に影響を及ぼし、貯蔵中に起こる被封入材料の滲出および/または周囲の媒質との相互作用を防止するためのパラメータが追加され、それによってその信頼性が向上するだろう。
【0043】
第2の態様による本発明のマイクロカプセルを製造する方法は、以下のとおりである。
【実施例1】
【0044】
酵素による放出を伴うカプセル
第1ステップでは、封入すべき材料を1〜2%の基材溶液(例えばアルギン酸Na)に加えて撹拌する。この基材溶液はこのアルギン酸塩に似た濃度のペクチンを含有してもよい。次に、必要であれば、珪砂またはシリカなどの充填剤を加えて、混合物が例えば約20〜40%の乾物含量を持つようにすることができる。さらに、10.000U/kg-混合物の濃度でペクチナーゼを混合物に加える。次に、この混合物をpH約4に緩衝化し、沈殿槽に滴下する。この滴下は、均一な液滴径を与える任意の市販システムを使って遂行することができる。最善の結果はいわゆる二媒質ノズルで得られた。これらは、混合物が押し込まれる毛細管における液滴のはぎ取りが、圧縮気流によって達成されるノズルである。
【0045】
沈殿槽は、一つ以上の多価金属イオン、例えばCa++、Ba++などを含有する1〜2%食塩水であることができる。沈殿槽に例えばポリエチレンイミン、キトサンなどのポリカチオンの希薄溶液を加えると、沈殿と同時に薄膜が形成され、それがカプセルから被封入材料が滲出するのを防ぐ。異なる電荷を持つ高分子電解質溶液をこのカプセルの周りに繰り返し流すことによって膜を構築させることができ、それがその適用に応じて機械的安定性をカプセルに与える。この目的を達成するには、キトサン、ポリエチレンイミンなどの希薄溶液を、ポリカチオンとして使用することができる。ポリアニオンとしてはペクチン、アルギン酸塩などの希薄溶液を使用することができる。この工程では、この回流を流動層で遂行することが有利である。この目的を達成するには、適切な容器中で、小球を旋回させるだけでなく、それらを懸濁状態に保つのにも十分であるような高速度で、カプセルをコーティング溶液によって回流させる。
【0046】
次に、小球を洗浄し、乾燥させる。乾燥は市販の乾燥機を使って遂行することができ、最善の結果は、流動層乾燥機またはバイブレーションチャージ乾燥機で達成された。乾燥後の水分含量は3〜7%を超えないべきである。
【0047】
乾燥後は、カプセルを乾燥状態および低温で貯蔵する。カプセルを後に湿らせると、酵素が活性化され、芯と外被の両方で、ペクチン部分のポリグルロン酸鎖およびカプセルの他の対応する構成要素(例えばアルギン酸塩)を分解する。このようにして、カプセルは、小さな機械的応力でも十分にカプセルが破壊され、被封入材料が放出される程度にまで、不安定化される。
【実施例2】
【0048】
物理的/化学的放出を伴うカプセル
実施例1と同様に、ここでも、第1ステップでは、封入すべき材料を1〜2%の基材溶液(例えばアルギン酸Na)に加えて撹拌する。しかしペクチンまたはペクチナーゼの添加は差し控えることができる。次に、実施例1と同様に、珪砂またはシリカなどの充填剤を加えて、混合物が例えば約20〜40%の乾物含量を持つようにすることができる。しかしこの充填剤も省くことができる。次にこの混合物を沈殿槽に滴下する。この滴下は、均一な液滴径を与える任意の市販システムを使って遂行することができる。最善の結果はいわゆる二媒質ノズルで得られた。これらは、混合物が押し込まれる毛細管における液滴のはぎ取りが、圧縮気流によって達成されるノズルである。
【0049】
必要であれば、得られた粒子を実施例1の説明に従って被覆することができる。これらの小球は湿潤状態でも直ぐに使える状態にあるが、それらを乾燥することが好ましい。
【0050】
乾燥は市販の乾燥機を使って遂行することができ、最善の結果は、流動層乾燥機またはバイブレーションチャージ乾燥機で達成された。乾燥後の水分含量は3〜7%を超えないべきである。
【0051】
このようにして得たカプセルを再び破壊する媒質は、例えばクエン酸Naの1〜2%水性溶液である。あるいは、強いアルカリ性pH値を持つアルカリ液を適用することもできる。
【0052】
カプセルをそのような媒質と接触させると、沈殿槽における可逆的ゲル化過程が逆転して、カプセルが溶解される。
【0053】
乾燥したカプセルを、例えばクエン酸Naも含有する乾燥ベーキング混合物に加えて、その混合物を湿らせると、小球は破壊されて、被封入材料を放出する。
【0054】
カプセルの破壊は、カプセルマトリックスを取り囲む媒質中の錯化剤がカプセルマトリックスからイオンを抽出し、それによってカプセルマトリックスを不安定化する場合にも、達成することができる。そのような錯化剤はしばしば洗剤中に用いられる。これらが例えばアルギン酸Caから形成されるカプセルマトリックスからCa++を抽出する場合、それはゲル中ではその球形を保つが、周囲のゲルを希釈するとその安定性が低いために、小さな機械的応力によってでさえ完全に破壊されるだろう。したがって、カプセルに封入された材料が放出される。そのようなカプセルが外被膜を含む場合は、錯化剤の影響を使って、ゲル内での安定性を制御することができる。そのような作用機序の場合は、湿潤条件下でも乾燥条件下でもカプセルを適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定化すべき材料を含有する好ましくは球状の芯、および好ましくはそれを包む外被を含む、特に化学、食品技術および/または薬学用の固体物質、液体物質、細胞、微生物および/またはそれらの材料から得られる混合物を固定化するためのマイクロカプセルであって、
濃厚な媒質中で貯蔵している時は安定であり、それを希釈すると、小さな機械的応力によってでさえ破壊されること、
固定化すべき材料がマトリックス(カプセルの芯)によって完全に包まれること、
カプセルの芯がそれを完全に包む多層外被によって取り囲まれていてもよいこと、
外被が、その下および/または上にある隣接層に共有結合および/または静電結合している少なくとも一層を含有すること、
外被の少なくとも一層が固体をコーティングすることによってカプセルの芯に適用されること、
外被の少なくとも一層が膜形成性液体によってカプセルの芯上に形成されること、
外被の少なくとも一層が複合体形成およびコーティングの両方によって形成されること
を特徴とするマイクロカプセル。
【請求項2】
芯マトリックスを形成する物質が、該物質から、イオンまたは温度勾配の影響による沈殿を用いて、好ましくは球状の粒子を形成させることができる、滴下可能な物質であること
を特徴とする、請求項1に記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
芯マトリックスの内部で固定化すべき材料を取り囲んでいる物質が、マトリックス物質とは混和しない油または他の液体、例えば炭化水素、炭化水素混合物であり得ること
を特徴とする、請求項1または2に記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
固定化すべき材料が、マトリックス物質との相界を形成する、カプセルの内部に配置された第2物質との懸濁液を形成すること
を特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項5】
固定化すべき材料が、マトリックス物質との相界を形成する、カプセルの内部に配置された第2物質との液/液エマルションを形成すること
を特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項6】
芯マトリックスまたはカプセルの芯内の少なくとも一相が固体を含有すること
を特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項7】
カプセルの芯内の少なくとも一相が液体を含有すること
を特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項8】
カプセルの芯内の少なくとも一相が細胞を含有すること
を特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項9】
カプセルの芯内の少なくとも一相が微生物を含有すること
を特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項10】
カプセルのコーティングが流動相工程で遂行されること
を特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項11】
機能の著しい喪失を起こさずに乾燥させることができること
を特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項12】
カプセルの乾燥が流動層工程で遂行されること
を特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項13】
流動層工程におけるその乾燥時に、カプセル表面上に膜を形成する固体が、カラム内に付加的に吹き込まれること
を特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項14】
それを形成する全ての材料が食品として承認されうること
を特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項15】
その製造時に、以下のステップの一部、数個または全てが行なわれ、そのうち一部のステップは数回繰り返されてもよい、請求項1〜14のいずれか1項に記載のマイクロカプセル:
・封入すべき材料を基材に溶解または懸濁するステップ、
・その基材懸濁液または基材溶液を滴下するステップ、
・液滴を沈殿させるステップ、
・沈殿試薬の他にイオン性ポリマー溶液も含有する沈殿槽で小球を回流させることにより、沈殿と同時に液滴を密封するステップ、
・沈殿によって形成された小球を洗浄液中ですすぎ、懸濁するステップ、
・小球をカチオン性またはアニオン性ポリマー溶液と共に回流させて、球の表面上にカチオン電荷またはアニオン電荷を形成させるステップ、
・小球を洗浄液で洗浄するステップ、
・小球をアニオン性またはカチオン性ポリマー溶液と共に回流させるステップ、および
・球の表面上にイオン電荷またはカチオン電荷を形成させるステップ、
・沈殿によって形成された小球を洗浄液中ですすぎ、懸濁するステップ、
・小球を乾燥するステップ、
・乾燥した小球をゲルなどの濃厚な媒質に入れる(懸濁する)ステップ、
・その濃厚な媒質中で一定期間にわたって小球を貯蔵するステップ。
【請求項16】
カプセルマトリックスを取り囲む媒質中の錯化剤がそこからイオンを抽出して、カプセルを不安定化すると、カプセルの意図的な破壊が達成されること
を特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項17】
固定化すべき材料を含有する好ましくは球状の芯、および好ましくはそれを包む外被を含む、特に化学、食品技術および/または薬学用の固体物質、液体物質、細胞、微生物および/またはそれらの材料から得られる混合物を固定化するためのマイクロカプセルであって、
貯蔵時は安定であり、周囲の媒質の物理的および/または化学的パラメータを後に変化させることによってカプセルの破壊および被封入材料の放出をもたらす少なくとも一つの構成要素を含有すること、
カプセルに含有される構成要素であって、周囲の媒質の物理的および/または化学的パラメータを後に変化させることによってカプセルの破壊および被封入材料の放出をもたらすものが、カプセルマトリックスおよび/またはカプセル膜の特定物質を分解する能力を持つ酵素であること、
カプセルに含有される構成要素であって、周囲の媒質の物理的および/または化学的パラメータを後に変化させることによってカプセルの破壊および被封入材料の放出をもたらすものが、カプセルに含有される酵素によって分解されうる物質であること、
カプセルに含有される構成要素であって、周囲の媒質の物理的および/または化学的パラメータを後に変化させることによってカプセルの破壊および被封入材料の放出をもたらすものが、イオンの影響により可逆過程で沈殿させることができる物質であること、
固定化すべき材料がマトリックス(カプセルの芯)によって完全に包まれること、
カプセルの芯がそれを完全に包む多層外被によって取り囲まれていてもよいこと、
外被が、その下および/または上にある隣接層に共有結合および/または静電結合している少なくとも一層を含有すること、
外被の少なくとも一層が固体をコーティングすることによってカプセルの芯に適用されること、
外被の少なくとも一層が膜形成性液体によってカプセルの芯上に形成されること、および/または、
外被の少なくとも一層が複合体形成およびコーティングの両方によって形成されること
を特徴とするマイクロカプセル。
【請求項18】
芯マトリックスを形成する物質が、そこから、イオンまたは温度勾配の影響による沈殿を用いて、好ましくは球状の粒子を形成させることができる、滴下可能な物質であること
を特徴とする、請求項17に記載のマイクロカプセル。
【請求項19】
芯マトリックスの内部で固定化すべき材料を取り囲んでいる物質が、マトリックス物質とは混和しない油または他の液体、例えば炭化水素、炭化水素混合物であることができること
を特徴とする、請求項17または18に記載のマイクロカプセル。
【請求項20】
固定化すべき材料が、マトリックス物質との相界を形成する、カプセルの内部に配置された第2物質との懸濁液を形成すること
を特徴とする、請求項17〜19のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項21】
固定化すべき材料が、マトリックス物質との相界を形成する、カプセルの内部に配置された第2物質との液/液エマルションを形成すること
を特徴とする、請求項17〜20のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項22】
芯マトリックスまたはカプセルの芯内の少なくとも一相が固体を含有すること
を特徴とする、請求項17〜21のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項23】
カプセルの芯内の少なくとも一相が液体を含有すること
を特徴とする、請求項17〜22のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項24】
カプセルの芯内の少なくとも一相が細胞を含有すること
を特徴とする、請求項17〜23のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項25】
カプセルの芯内の少なくとも一相が微生物を含有すること
を特徴とする、請求項17〜24のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項26】
カプセルのコーティングが流動相工程で遂行されること
を特徴とする、請求項17〜25のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項27】
機能の著しい喪失を起こさずに乾燥させることができること
を特徴とする、請求項17〜26のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項28】
カプセルの乾燥が流動層工程で遂行されること
を特徴とする、請求項17〜27のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項29】
流動層工程におけるその乾燥時に、カプセル表面上に膜を形成する固体が、カラム内に付加的に吹き込まれること
を特徴とする、請求項17〜28のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項30】
それを形成する全ての材料が食品として承認されうること
を特徴とする、請求項17〜29のいずれか1項に記載のマイクロカプセル。
【請求項31】
その製造時に、以下のステップの一部、数個または全てが行なわれ、そのうち一部のステップは数回繰り返されてもよい、請求項17〜30のいずれか1項に記載のマイクロカプセル:
・封入すべき材料を基材に溶解または懸濁するステップ、
・その混合物および/またはカプセルコーティングの特定構成要素を分解する能力を持つ酵素を加えるステップ、
・その基材懸濁液または基材溶液を滴下するステップ、
・液滴を沈殿させるステップ、
・沈殿試薬の他にイオン性ポリマー溶液も含有する沈殿槽で小球を回流させることにより、沈殿と同時に液滴を密封するステップ、
・沈殿によって形成された小球を洗浄液中ですすぎ、懸濁するステップ、
・小球をカチオン性またはアニオン性ポリマー溶液と共に回流させて、球の表面上にカチオン電荷またはアニオン電荷を形成させるステップ、
・小球を洗浄液で洗浄するステップ、
・小球をアニオン性またはカチオン性ポリマー溶液と共に回流させて、球の表面上にイオン電荷またはカチオン電荷を形成させるステップ、
・沈殿によって形成された小球を洗浄液中ですすぎ、懸濁するステップ、
・小球を乾燥するステップ、
・乾燥した小球をゲルなどの濃厚な媒質に入れる(懸濁する)ステップ、
・その濃厚な媒質中で一定期間にわたって小球を貯蔵するステップ。

【公表番号】特表2007−534466(P2007−534466A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550129(P2006−550129)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000927
【国際公開番号】WO2005/072708
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(506259380)カヴィス マイクロカプス ゲーエムベーハー (6)
【Fターム(参考)】