説明

化学物質放散抑止集合住宅の構造

【課題】 室内の天井、壁、床の構造材を、化学物質の放散がない素材で構成すると共に、床衝撃音遮断性能を満足させる床構造の化学物質放散抑止集合住宅の構造を提供する。
【解決手段】 壁、天井の表面仕上げには漆喰41、乾式2重床10の仕上げ材は無垢フローリング1、下地材はセメントと木片からなる下地パネル2を用いて室内への化学物質の放散を抑止すると共に、床構造は床衝撃音遮断構造として木製根太4とそれを支持する防振ゴム脚部5を有する不陸調整部材20から構成され、前記乾式2重床10は、壁面から一定寸法離した隙間3を設置し、前記室内の空気がその隙間3から床下に吸い込まれ、床下壁面に設けられ常時運転されている換気装置6により屋外に排出されることにより、防振ゴム脚部5から放散される化学物質を室内に放散させないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床衝撃音遮断性能を満たす集合住宅の化学物質放散防止構造に関し、具体的には放散化学物質の低減構成と化学物質の排出を可能とする床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
国立公衆衛生院の調査2000年7月からの推計によれば、化学物質過敏症の疑いのある人が成人だけで全国に約70万人は存在するとされ、未成年まで含めると100万人近くが化学物質過敏症である可能性がある。一方で、日本建築学会室内化学物質空気汚染調査研究会による調査結果では日本人の5〜6%がシックハウス症候群の患者である可能性が高いとされている。
【0003】
また、昨今の健康志向、スローライフ志向などにより、より一層「健康に暮らせる住空間」が求められている。
【0004】
マンション室内における在来の材料は、ビニールクロス、ウレタン発泡系断熱材料、有機塗料、有機系接着剤等々の化学物質からなる材料が用いられていた。特に、住宅の中で専有面積が大きい床材については化学物質の使用割合が大きかった。
【0005】
集合住宅における床材の大きな役割は、歩行等に伴う床衝撃音を低減することにあった。従来の床においてはこれを実現するため、衝撃を緩衝するための有機系化合物からなる制振材料や、木繊維を有機系接着剤をバインダーとして成形したパーティクルボードなどが使用されていた。これらの材料から放散される化学物質がシックハウス症候群の原因の一つとなっていた。
【0006】
図6は、従来の乾式2重床10の構成を示す断面図である。床下地材12は、通常パーティクルボード、床仕上げ材11には、合板フローリングが用いられることから、それらの材料および接着剤からの化学物質の室内放散を避けることができなかった。
【0007】
また、コンクリートスラブ30と床下地材12の間には床衝撃音を遮断するための防振ゴム脚部5が配設された不陸調整部材20が用いられているが、この防振ゴム脚部5からは化学物質の放散が避けることができず、床下空間に化学物質が蓄積され、隙間から室内に漏れ出る問題があった。
【0008】
特許文献1は、このような化学物質過敏症やシックハウス症候群、酸欠、湿害を克服するために、コンクリートマンション等の上方部から外気を強制給気し、下方部で、強制排気を行う換気構造の発明である。しかしながら、換気回数を大きくするのみでは、シックハウス症候群を軽減することはできても、その防止を図ることは難しかった。
【0009】
また、特許文献2の防音床下構造によれば、不陸調整ボルトを装着したゴムによって、面材との共振周波数を30Hz以下としてその共振による防振効果により重量衝撃を階下に伝えない発明が開示されている。しかし、床下地材のパーティクルボードや、表面仕上げ材の合板からの化学物質の放散と、不陸調整ボルトの下面に設けられたゴムから放散する化学物質は、居室内に流れてしまう問題があった。
【0010】
【特許文献1】特開2002−98380号公報(第2、3頁、第1図)
【特許文献2】特開平7−150740号公報(第2、3頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
室内の天井、壁、床の構造材を、化学物質の放散がない素材で構成すると共に、床衝撃音遮断性能を満足させる床構造の化学物質放散抑止集合住宅の構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の化学物質放散抑止集合住宅の構造は、集合住宅構造であって、室内には通常換気により新鮮空気が補充され、少なくともコンクリート躯体の断熱材には炭化コルク、壁、天井の表面仕上げには漆喰、乾式2重床の仕上げ材は無垢フローリング、その下地材はセメントと木片からなる下地パネルを用いて室内への化学物質の放散を抑止すると共に、床構造は床衝撃音遮断構造として木製根太とそれを支持する防振ゴム脚部を有する不陸調整部材から構成され、
前記乾式2重床は、壁面から一定寸法離した隙間または壁面近傍に床下に貫通する床下通気口を設置し、前記室内の空気がその隙間または床下通気口から床下に吸い込まれ、床下壁面に設けられ常時運転されている換気装置により屋外に排出されることにより、防振ゴム脚部から放散される化学物質を室内に放散させないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来、化学物質の放散が著しかった床材を、化学物質の放散がほとんどない材料で構成されるため化学物質過敏症及びシックハウス症候群を防止することができる。また、2重床と壁との隙間または床下通気口が設けられ、室内空気が常に床下に吸い込まれているため、床不陸調整部材に用いられるゴムからの化学物質は、床下の排気装置により外部に排出され、室内に化学物質が漏れ出すことがない。
【0014】
さらに、コンクリート躯体の断熱材には炭化コルク、壁、天井の表面仕上げに漆喰を用いることによれば、床以外の材料からの室内への化学物質放散をなくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の化学物質放散抑止集合住宅の構造の乾式2重床を示す断面図である。
【0016】
図1において30は集合住宅の床のコンクリートスラブ、40はコンクリート壁である。本発明の乾式2重床10は、壁40との境に一定寸法離した隙間3または壁面近傍に床下に貫通する床下通気口を設け、室内の空気を床下に吸い込む構造としてある。
【0017】
この断面図では、2重床と壁の間に隙間を設けている。また、壁40は漆喰41で仕上げられている。
【0018】
床下地は、化学物質の放散がないセメントと木片からなる下地パネル2を用い、仕上げ材も同様に化学物質の放散がない無垢フローリング1を用いる。
【0019】
さらに、床下地の下地パネル2を支えると共に床断面剛性を確保するため木製根太を@455配して用い、その下部を防振ゴム脚部5を備えた不陸調整部材20で支持する構造とする。
【0020】
不陸調整部材20は、床仕上げ構造の固有振動数を床衝撃音遮断性能の評価周波数より十分小さくする構造とするもので、床支持脚に防振ゴム脚部5を備える。不陸調整には高さ調整可能な木製根太の受け金具を用いるが、特許文献2に示された構造その他公知の構造を用いることができる。
【0021】
集合住宅においては、床衝撃音遮断が非常に重要な性能となるが、これを満足させるためにはどうしても化学物質の放散が避けられない防振ゴム脚部5を用いなければならない。
【0022】
本発明では、防振ゴム脚部5からの化学物質を室内に放散させずに、室外に排出させる構造を備えることが特徴である。
【0023】
図2は、本発明の床下の放散化学物質排出構造の説明図である。図2に示すように、本発明の集合住宅においては、室内50には天井に吸気口7を設け、2重床の床下壁面には換気装置6を設けて常に床下から排気を行う。
【0024】
このため、室内に対して床下が負圧となり、室内の空気が壁面から一定寸法離した隙間3または壁面近傍に床下に貫通する床下通気口(図示せず)から床下に吸引され、床下の防振ゴム脚部5から放散される化学物質が屋外に排出される。
【0025】
図2においては、吸気口7から吸い込まれた新鮮な吸気Aは隙間3から床下に排気B1として吸い込まれ換気装置6により屋外に排気Bとして排出される。
【0026】
なお、室内換気としては室内天井の換気口8あるいは台所、浴室などの換気扇によっても排出されるが、床下の換気装置6は常時稼動させておき、室内圧より床下を負圧としておく。
【0027】
図3は、本発明の集合住宅における実施例を示す平面図である。
【0028】
図3において、左右の壁40と、床10の間には隙間3が設けられ、ベランダ側および通路側の外部との境の床下壁には換気装置6がそれぞれ設けられている。
【0029】
図4は、本発明の床構造と床下換気における室内及び床下化学物質の除去性能を測定した結果である。図示したグラフは測定結果の一つ、施工1日後と、床下換気を稼動させた7日後のアセトアルデヒド濃度の測定結果である。なお、測定に当たっては実験室の窓、扉は閉じた状態とし、空気の移動は床下換気のみで行なった。
【0030】
図でわかるように、施工直後に防振ゴム脚及びこれを床スラブに接着するコーキング材による化学物質の放散が確認されたが、床下換気システムを稼動させることで、室内濃度が施工前の水準に戻っていることが確認された。
【0031】
図5は、本発明の床衝撃音遮断構造の床衝撃音レベルの測定結果を示す図である。
【0032】
実験床は、置き床の固有振動数を35Hzに設計し、本発明の壁面隙間と同様に、際根太を使用せず本願発明のように隙間を設けて脚部以外からの振動伝搬を排除し、さらに重量衝撃時の空気層共振を排除した。また、下地パネル2としては高圧木毛セメント板(1820×910×20)を用い、仕上げ材は無垢フローリング1(750×90×18)、根太は72*36を@455配として実験した。
【0033】
図5のグラフの縦軸は基準化床衝撃音レベル(dB)、横軸は中心周波数(Hz)を示す。黒丸は実験床の重量衝撃、白丸は実験床の軽量衝撃の測定値を示し、黒三角、白三角は、素面での測定値を示す。
【0034】
グラフから、本発明の床衝撃音遮断構造は、二重床によってもスラブ単体の性能(L−55)を著しく悪化させることなく、軽量床衝撃音L−45(日本建築学会推奨等級1級)をほぼ満足することが確かめられた。
【0035】
なお、軽量床衝撃音に対しより高い性能要求に対しては、無垢フローリング1と下地パネル2の間に緩衝材(ココヤシ繊維などの化学物質放散のないもの)を挿入することで対応することができる。
【0036】
以上の実験から、本発明の構造によれば、集合住宅としての防音性能を満足した上で、化学物質過敏症及びシックハウス症候群の発症を防止する課題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の化学物質放散抑止集合住宅の構造の乾式2重床を示す断面図である。
【図2】本発明の床下の放散化学物質排出構造の説明図である。
【図3】本発明の集合住宅における実施例を示す平面図である。
【図4】本発明の床構造と床下換気における室内及び床下化学物質の除去性能を測定結果を示す図である。
【図5】本発明の床衝撃音遮断構造の床衝撃音レベルの測定結果を示す図である。
【図6】従来の乾式2重床10の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 無垢フローリング
2 下地パネル
3 隙間(床下通気口)
4 木製根太
5 防振ゴム脚部
6 換気装置
7 吸気口
8 換気口
10 乾式2重床
11 床仕上げ材(合板フローリング)
12 床下地材(パーティクルボード)
20 不陸調整部材
30 コンクリートスラブ
40 壁
50 室内
A 吸気
B、B1 排気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集合住宅構造であって、室内には通常換気により新鮮空気が補充され、少なくともコンクリート躯体の断熱材には炭化コルク、壁、天井の表面仕上げには漆喰、乾式2重床の仕上げ材は無垢フローリング、その下地材はセメントと木片からなる下地パネルを用いて室内への化学物質の放散を抑止すると共に、床構造は床衝撃音遮断構造として木製根太とそれを支持する防振ゴム脚部を有する不陸調整部材から構成され、
前記乾式2重床は、壁面から一定寸法離した隙間または壁面近傍に床下に貫通する床下通気口を設置し、前記室内の空気がその隙間または床下通気口から床下に吸い込まれ、床下壁面に設けられ常時運転されている換気装置により屋外に排出されることにより、防振ゴム脚部から放散される化学物質を室内に放散させないことを特徴とする化学物質放散抑止集合住宅の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−231834(P2008−231834A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74912(P2007−74912)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】