説明

化学的に合成された殺虫活性化合物の施用量を削減可能とする施設栽培ハウス内での害虫防除体系を提案するための方法

【課題】
害虫防除体系の提案方法等を汎用技術化することを課題とする。
【解決手段】
化学合成殺虫化合物の施用量削減可能な施設栽培ハウス内での害虫防除体系の提案法で、下記害虫防除体系が害虫と、栽培全期間と、化学・生物的防除の組合せに基づく害虫防除法とから構成される害虫防除体系であり、かつ、
(1)当該ハウス内での害虫防除体系内で害虫防除用化合物を特定する工程、
(2)特定された化合物のうち、害虫に対する天敵に実質的な効力を有する殺虫化合物を選択する工程、
(3)選択された化合物を用いる化学的防除法のうち、少なくとも一つ以上の化学的防除法を、当該害虫に対する天敵であり、かつ、一年中休眠しない天敵又は冬期に活性を有する天敵のいずれかの天敵を用いる生物的防除法に交換する工程、
(4)交換された生物的防除法を含む害虫防除体系を提案する工程
を含むことを特徴とする方法等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的に合成された殺虫活性化合物の施用量を削減可能とする施設栽培ハウス内での害虫防除体系を提案するための方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の害虫防除法等を合理的に組み合わせ、経済的な視点から、害虫の密度や作物被害の変動等を見きわめながら防除の要否を判断する技術として、「Integrated Pest Management」(略してIPMと呼ばれている。)が注目されている。当該技術では、環境への負荷の増大が懸念される化学的に合成された殺虫活性化合物の使用を必要最小限に抑えることにより、安全・良質な農産物を安定生産することを基本としており、従来の生産性を維持しながら、持続的な農業の確立を目指すことが目標である。
【0003】
【特許文献1】有機・減農薬農産物の生産・流通技術−総合防除における生物農薬の可能性を探る−、(株)エス・ティ・エス発行、発行日:1999年3月2日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術は多様でかつ複雑な要素の上に成り立つ技術であるために、当該技術を熟知した専門家の指導無く当該技術が導入された場合には、単に生産現場に減収のリスクを負わせることになり兼ねない状況が存在していた。
特に害虫防除においては、害虫の密度を見てから天敵を放飼するという従来の考え方では到底満足できるような害虫被害を回避することは容易なことではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下で、本発明者らは鋭意検討を行った結果、施設栽培ハウス内での害虫防除技術において、農家が受け入れ易く、かつ、化学的に合成された殺虫活性化合物の使用を必要最小限に抑えることによって安全・良質な農産物を安定生産させるために、極めて重要な要因になり得る事項を見出し、当該事項を汎用技術化するための害虫防除体系の提案方法を確立し、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は、
1.化学的に合成された殺虫活性化合物の施用量を削減可能とする施設栽培ハウス内での害虫防除体系を提案するための方法において、下記の害虫防除体系が防除対象である害虫と、農作物の栽培全期間と、化学的防除方法と生物的防除方法との組合せに基づく害虫防除方法との3種の基本要素から構成される害虫防除体系であり、かつ、
(1)施設栽培ハウス内での害虫防除体系内において害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を特定する工程、
(2)特定された殺虫活性化合物のうち、防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有する殺虫活性化合物を選択する工程、
(3)選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法のうち、少なくとも一つ以上の化学的防除方法を、当該防除対象である害虫に対する天敵であり、かつ、一年中休眠しない天敵又は冬期に活性を有する天敵のいずれかの天敵を用いる生物的防除方法に交換する工程、
(4)交換された生物的防除方法を含む害虫防除体系を提案する工程
を含むことを特徴とする方法(以下、本発明方法と記すこともある。);
2.前記生物的防除方法が、当該生物的防除方法において用いられる天敵の成長速度が前記害虫の成長速度を上回る環境条件を有する生物的防除方法であることを特徴とする前項1記載の方法;
3.前記生物的防除方法において用いられる天敵が、タイリクヒメハナカメムシ、アブラバチ類、寄生蜂類、ツヤコバチ類及びバチルス・チューリンゲンスの中から選ばれる少なくとも一つ以上の天敵であり、かつ、当該天敵の放飼量が0.01〜100頭/m(天敵微生物を除く場合)又は1〜5kg/ha(天敵微生物の場合)であり、かつ、前記生物的防除方法に交換される化学的防除方法において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計が、生物的防除方法に交換される前の害虫防除体系において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計に対して50%以上であることを特徴とする前項1乃至2のいずれかの前項記載の方法;
4.化学的防除方法を生物的防除方法に交換する工程において、当該生物的防除方法において用いられる天敵が土着生物相に対して与える影響に係るリスクを予測・評価する工程をさらに含むことを特徴とする前項1乃至3のいずれかの前項記載の方法;
5.提案される害虫防除体系が、害虫防除効果を補強するために、前記防除対象である害虫に対して効力を有し、かつ、当該防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有さない殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法が前記生物的防除方法を行う時期に追加されてなる害虫防除体系であることを特徴とする前項1乃至4のいずれかの前項記載の方法;
6.前記防除対象である害虫に対して効力を有し、かつ、当該防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有さない殺虫活性化合物が、ネオニコチノイド系殺虫活性化合物、ピリプロキシフェン(商品名ラノー)、ピリダリル(商品名プレオ)、スピノサド(商品名スピノエース)、クロフェナセル(商品名コテツ)、ピメトロジン(商品名チェス)及びルフェヌロン(商品名マッチ)の中から選ばれる少なくとも一つ以上の殺虫活性化合物であることを特徴とする前項5記載の方法;
7.当該防除対象である害虫の発生量と、前記生物的防除方法による当該防除対象である害虫の防除効果とを予測又は評価する工程、及び、
前記発生量に対して前記防除効果が不足であると評価される場合、当該防除対象である害虫に対して効力を有し、かつ、前記防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有さない殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法が前記生物的防除方法を用いる時期に追加されてなる害虫防除体系を再提案する工程
をさらに含むことを特徴とする前項1乃至6のいずれかの前項記載の方法;
8.提案される害虫防除体系が、物理的防除方法が追加されてなる害虫防除体系であることを特徴とする前項1乃至7のいずれかの前項記載の方法;
9.物理的防除方法が、害虫遮断方法及び/又は害虫誘引方法であることを特徴とする前項8記載の方法;
10.害虫遮断方法が、防虫ネットであることを特徴とする前項9記載の方法;
11.害虫誘引方法が、害虫誘引色付き粘着シートであることを特徴とする前項9記載の方法;
12.前項1乃至11記載のいずれかの方法により提案された施設栽培ハウス内での害虫防除体系に基づき害虫防除を実施することを特徴とする施設栽培ハウス内での害虫防除方法;
13.施設栽培ハウス内での害虫防除方法において用いられる、化学的に合成された殺虫活性化合物の施用量を削減する方法であって、下記の害虫防除体系が防除対象である害虫と、農作物の栽培全期間と、化学的防除方法と生物的防除方法との組合せに基づく害虫防除方法との3種の基本要素から構成される害虫防除体系であり、かつ、
(1)施設栽培ハウス内での害虫防除体系内において害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を特定する工程、
(2)特定された殺虫活性化合物のうち、防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有する殺虫活性化合物を選択する工程、及び
(3)選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法のうち、少なくとも一つ以上の化学的防除方法を、当該防除対象である害虫に対する天敵であり、かつ、一年中休眠しない天敵又は冬期に活性を有する天敵のいずれかの天敵を用いる生物的防除方法に交換する工程
を含むことを特徴とする方法;
14.施設栽培ハウス内での害虫防除方法において用いられる、化学的に合成された殺虫活性化合物に対する害虫における薬剤抵抗性の発達を抑制する方法であって、下記の害虫防除体系が防除対象である害虫と、農作物の栽培全期間と、化学的防除方法と生物的防除方法との組合せに基づく害虫防除方法との3種の基本要素から構成される害虫防除体系であり、かつ、
(1)施設栽培ハウス内での害虫防除体系内において害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を特定する工程、
(2)特定された殺虫活性化合物のうち、防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有する殺虫活性化合物を選択する工程、及び
(3)選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法のうち、少なくとも一つ以上の化学的防除方法を、当該防除対象である害虫に対する天敵であり、かつ、一年中休眠しない天敵又は冬期に活性を有する天敵のいずれかの天敵を用いる生物的防除方法に交換する工程
を含むことを特徴とする方法;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、施設栽培ハウス内での害虫防除技術において、農家が受け入れ易く、かつ、化学的に合成された殺虫活性化合物の使用を必要最小限に抑えることによって安全・良質な農産物を安定生産させるために極めて有用である害虫防除体系の提案方法等を汎用技術化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、化学的に合成された殺虫活性化合物の施用量を削減可能とする施設栽培ハウス内での害虫防除体系を提案するための方法、当該方法により提案された施設栽培ハウス内での害虫防除体系に基づき害虫防除を実施することを特徴とする施設栽培ハウス内での害虫防除方法、施設栽培ハウス内での害虫防除方法において用いられる、化学的に合成された殺虫活性化合物の施用量を削減する方法、施設栽培ハウス内での害虫防除方法において用いられる、化学的に合成された殺虫活性化合物に対する害虫における薬剤抵抗性の発達を抑制する方法等を含む。そして当該発明は、IPMと呼ばれている総合防除技術のうちの一部分を構成する技術である。
【0009】
まず、化学的に合成された殺虫活性化合物の施用量を削減可能とする施設栽培ハウス内での害虫防除体系を提案するための方法について説明する。
当該方法において提案される害虫防除体系は、防除対象である害虫(好ましい基本害虫としては、例えば、アブラムシ類、並びに、ハスモンヨトウ及び/又はオオタバコガ、並びに、ハダニ類、並びに、その他類(アザミウマ類及び/又はコナジラミ類及び/又はスリップス類)等を挙げることができる。)と、農作物の栽培全期間と、化学的防除方法と生物的防除方法との組合せに基づく害虫防除方法との3種の基本要素から構成される害虫防除体系である。このような構成は、例えば、図1〜図4に示されるような具体的なイメージとして理解し易く、また概念的にも把握し易いために、本発明方法における各工程からなる組合せを汎用技術化して提案するために極めて有益なものである。
第一の工程は、施設栽培ハウス内での害虫防除体系内において害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を特定する工程である。
ここで「施設栽培ハウス」とは、植物体を降雨から守り温度を安定的に確保すること等により安定して作物を栽培可能とするハウスであり、例えば、(1)被覆栽培用の中型トンネル、大型無加温トンネル又は大型加温トンネル、(2)ビニル被覆園芸用のビニルハウス、(3)放花昆虫の授粉活動を活発化させたり、夜間の電照(長日処理)を行うことによって開花を促進させたり、コンピュータ等の自動制御機能によって栽培環境を自動調節したりすることが可能なガラス温室等を挙げることができる。
また「害虫防除体系」とは、例えば、耕種的、生物的、化学的、物理的な各種の害虫防除方法をうまく組み合わせ、経済的被害を生じるレベル以下に害虫個体群を減少させ、かつ、その低いレベルを持続させるための害虫個体群管理のシステムの一つであり、害虫による被害軽減にとどまらず、付加価値を持った農産物の提供、化学的に合成された殺虫活性化合物に対する薬剤抵抗性問題軽減、農業環境の保全等を農家や消費者にもたらします統一的な組み合わせ全体を意味するものである。
【0010】
次いで、第二の工程は、特定された殺虫活性化合物のうち、防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有する殺虫活性化合物を選択する工程である。
ここで「防除対象である害虫に対する天敵」としては、例えば、下記のようなものを具体的に挙げることができる。
【0011】
<資材名、主な防除対象である害虫、当該害虫に対する天敵、登録会社>
1.エンストリップ、オンシツコナジラミ、オンシツツヤコバチ羽化雌成虫、アリスタ
2.ツヤトップ、オンシツコナジラミ、オンシツツヤコバチ羽化雌成虫、キャッツ・アグリシステムズ
3.エルカード、コナジラミ類、サバクツヤコバチ成虫、アリスタ
4.スパイデックス、ハダニ類、チリカブリダニ、アリスタ
5.トモノチリカブリダニパック、ハダニ類、チリカブリダニ、トモノアグリカ
6.チリトップ、ハダニ類、チリカブリダニ、キャッツ・アグリシステムズ
7.スパイカル、ハダニ類、ニヤコカブリダニ、アリスタ
8.スリパンス、ミナミキイロアザミウマ、デジェネランスカブリダニ、アリスタ
9.バイオセーフ、ネコブセンチュウ、スタイナーネマ感染態3期幼虫、エス・ディ・エス
10.アフィデント、アブラムシ類、ショクガタマバエ羽化成虫、アリスタ
11.アフィパール、アブラムシ類、コレマンアブラバチ羽化成虫、アリスタ
12.ククメリス、アザミウマ類、ククメリスカブリダニ、日本化薬・アリスタ
13.メリトップ、アザミウマ類、ククメリスカブリダニ、キャッツ・アグリシステムズ
14.アブラバチAC、アブラムシ類、コレマンアブラバチ羽化成虫、シンジェンタ
15.コレトップ、アブラムシ類、コレマンアブラバチ羽化成虫、キャッツ・アグリシステムズ
16.オリスター、アブラムシ類、ナミヒメハナカメムシ、住友化学工業
17.コマユバチDS、マメハモグリバエ、ハモグリコマユバチ羽化成虫、シンジェンタ
18.ヒメコバチDI、マメハモグリバエ、イサエアヒメコバチ羽化成虫、シンジェンタ
19.ヒメトップ、マメハモグリバエ、イサエアヒメコバチ羽化成虫、キャッツ・アグリシステムズ
20.パストリア、ネコブセンチュウ、パスツーリアペネトランス胞子、ネマテック
21.エスマルクDF、コナガ・オオタバコガ他、BT菌生芽胞及び結晶毒素、住友化学工業
22.ガードジェット、コナガ・オオタバコガ他、BT菌結晶毒素、トモノアグリカ他
23.セレクトジン、コナガ・ヨトウ他、BT菌生芽胞及び結晶毒素、協和発酵工業
24.ターフル、コナガ・ヨトウ他、BT菌結晶毒素、住友化学工業
25.ダイポール、コナガ・ヨトウ他、BT菌芽胞及び結晶毒素、日本農薬他
26.チューリサイド、コナガ・ヨトウ他、BT菌生芽胞及び結晶毒素、エス・ディ・エス
27.デルフィン、コナガ・ヨトウ他、BT菌生芽胞及び結晶毒素、エス・ディ・エス
28.トアローCT、コナガ・ヨトウ他、BT菌結晶毒素、東亜合成
29.トアローフロアブルCT、コナガ・ヨトウ他、BT菌結晶毒素、東亜合成
30.バシレックス、コナガ・ヨトウ他、BT菌生芽胞及び結晶毒素、塩野義製薬
31.ゼンターリ、コナガ・ヨトウ他、BT菌生芽胞及び結晶毒素、アリスタ
32.ファイブスター、コナガ・ヨトウ他、BT菌生芽胞及び結晶毒素、アグロカネショウ
33.バイオッシュフロアブル、コナガ・ヨトウ他、BT菌生芽胞及び結晶毒素、日産化学工業
34.レピタームフロアブル、コナガ・ヨトウ他、BT菌結晶毒素、住友化学工業
35.クオークフロアブル、コナガ・ヨトウ他、BT菌生芽胞及び結晶毒素、アリスタ
36.マイコタール、コナジラミ類、天敵糸状菌バ−ティシリウム・レカニ胞子、アリスタ
37.バータレック、アブラムシ類、アザミウマ類、天敵糸状菌バ−ティシリウム・レカニ胞子、アリスタ
38.ボタニガードES、コナジラミ類、アザミウマ類、コナガ、天敵糸状菌ボーベリア・バシアーナ分生子、アリスタ
39.プリファード、コナジラミ類、天敵糸状菌ペキロマイセス・フモソロセウス胞子、東海物産
40.オリスターA、アザミウマ類、タイリクヒメハナカメムシ、住友化学工業
41.タイリク、 アザミウマ類、タイリクヒメハナカメムシ、アリスタ
42.カゲタロウ、アブラムシ類、ヤマトクサカゲロウ、アリスタ
43.アリガタ、アザミウアマ類、アリガタシマアザミウマ、アリスタ
44.ナミトップ、アブラムシ類、ナミテントウ、キャッツ・アグリシステムズ
【0012】
また「実質的な効力」とは、上記のような天敵が有する害虫に対する防除効力を、殺虫活性化合物が害虫に対して防除効力を示す有効量において、統計学上有意に消失させてしまう能力を意味している。
【0013】
次いで、第三の工程は、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法のうち、少なくとも一つ以上の化学的防除方法を、当該防除対象である害虫に対する天敵であり、かつ、一年中休眠しない天敵又は冬期に活性を有する天敵のいずれかの天敵を用いる生物的防除方法に交換する工程である。
当該工程において、選択された殺虫活性化合物が防除暦上における同時期に複数存在する場合には、通常当該選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを、当該防除対象である害虫に対する天敵であり、かつ、一年中休眠しない天敵又は冬期に活性を有する天敵のいずれかの天敵を用いる生物的防除方法に交換すればよい。一方、選択された殺虫活性化合物が防除暦上における非同時期に複数存在する場合には、通常当該選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全て又は一部を、当該防除対象である害虫に対する天敵であり、かつ、一年中休眠しない天敵又は冬期に活性を有する天敵のいずれかの天敵を用いる生物的防除方法に交換すればよい。
【0014】
次いで、第四の工程は、交換された生物的防除方法を含む害虫防除体系を提案する工程である。
【0015】
本発明方法において、前記生物的防除方法が、当該生物的防除方法において用いられる天敵の成長速度が前記害虫の成長速度を上回る環境条件を有する生物的防除方法であることがよい。
このような環境条件として、例えば、天敵の発育適温域に含まれる温度条件に適応する農作物の栽培型を選択することや、当該温度条件(具体的には例えば、発育零点以上の温度条件、好ましくは飛翔可能限界温度以上、より好ましくは産卵限界温度以上の温度条件)に施設栽培ハウス内の温度を設定すること等により、前記害虫の個体数よりも前記天敵の個体数の自然増加率が上回るようにすればよい。尚、予め前記天敵及び前記害虫の発育零点、飛翔可能限界温度、産卵限界温度等に係る情報を収集、蓄積しておき、蓄積された各種の情報に基づき前記害虫の発育よりも前記天敵の発育により適切するような温度条件を有する環境条件を提供できる生物的防除方法としてもよい。
生物的防除方法が天敵の成長速度が前記害虫の成長速度を上回る環境条件を有するか否かを確認するには、経験則に基づくものであってもよく、また定量的な手段だけでなく定性的な手段であってもよく、例えば、上述のような環境条件を有するか否かを確認したり、また農作物当たりに見出される天敵の頭数(例えば、10−20花に1頭以上)等の存在を調査・観察したり、天敵の放飼後に自然発生した土着天敵の増加を観察・確認してもよい。
当該生物的防除方法では、天敵の放飼に際しては、前記害虫の発生初期段階から1週間間隔で、例えば2〜3回程度等の複数回放飼して天敵を定着させることも好ましい。
【0016】
本発明方法において、前記生物的防除方法において用いられる天敵が、タイリクヒメハナカメムシ、アブラバチ類、寄生蜂類、ツヤコバチ類及びバチルス・チューリンゲンス(BT)の中から選ばれる少なくとも一つ以上の天敵であり、かつ、当該天敵の放飼量が0.01〜100頭/m(天敵微生物を除く場合)又は1〜5kg/ha(天敵微生物の場合)であり、かつ、前記生物的防除方法に交換される化学的防除方法において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計が、生物的防除方法に交換される前の害虫防除体系において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計に対して50%以上が好ましい。他の天敵としては、例えば、チリカブリダニ等を挙げることができる。
【0017】
前記生物的防除方法において用いられる天敵としては、例えば、アザミウマ類・スリップス類に対する天敵であるタイリクヒメハナカメムシ、アブラムシ類に対する天敵であるコレマンアブラバチ等のアブラバチ類、ハモグリバエ類に対する天敵である寄生蜂類、コナジラミ類に対する天敵であるツヤコバチ類及びハスモンヨトウ・オオタバコガに対する天敵であるバチルス・チューリンゲンス(BT)の中から選ばれる少なくとも一つ以上の天敵を挙げることができる。他の天敵としては、例えば、ハダニ類に対する天敵であるチリカブリダニ等を挙げることができる。
これらの天敵は、前述の如く、すでに市販されているものを用いてもよいし、天然に存在し採取されたものや自製されたものを用いてもよい。
上記のような天敵の放飼量が0.01〜100頭/m(天敵微生物を除く場合)又は1〜5kg/ha(天敵微生物の場合)、好ましくは0.5〜30頭/m(天敵微生物を除く場合)又は1〜5kg/ha(天敵微生物の場合)であることがよい。
生物的防除方法に交換される化学的防除方法において用いられる全ての殺虫活性化合物には、第三の工程に基づき生じる各種の組み合わせが存在しており、当該組み合わせにおける殺虫活性化合物の施用量の合計を求めることにより、生物的防除方法に交換される前の害虫防除体系において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計に対する交換比率を算出することができる。
【0018】
本発明方法において、化学的防除方法を生物的防除方法に交換する工程において、当該生物的防除方法において用いられる天敵が土着生物相に対して与える影響に係るリスクを予測・評価する工程をさらに含むことが好ましい。当該工程により、当該生物的防除方法の将来の安全性をさらに高めるために有益である。例えば、天敵の寄主特異性試験によって生理学的な寄主範囲を調査したり、さらには生態学的な寄主範囲を調査することにより、土着生物相に対して与える影響に係るリスクを予測・評価すればよい。当該予測・評価の結果から、必要に応じて、寄主範囲の広い天敵の利用を避けること等の対応を実施すればよい。
【0019】
本発明方法において、害虫防除効果を補強するために、提案される害虫防除体系が、前記防除対象である害虫に対して効力を有し、かつ、当該防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有さない殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法が前記生物的防除方法を行う時期又はその直前に追加されてなる害虫防除体系であってもよい。
一般的に、生物的防除方法は、複雑な条件の組み合わせによっては、化学的防除方法に対して即効性や鮮明な効力性に劣る場合があるために、そのような場合には、害虫防除効果を補強するために、殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法をスポット的に併用してもよい。但し、この場合に用いられる化学的防除方法では、前記生物的防除方法による効果を消失させないために、前記防除対象である害虫に対して効力を有しかつ当該防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有さない殺虫活性化合物を用いる必要がある。
【0020】
ここで「前記防除対象である害虫に対して効力を有し、かつ、当該防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有さない殺虫活性化合物」が、
(a)クロチアニジン(商品名:ダントツ、販売会社:住化武田農薬)等のネオニコチノイド系殺虫活性化合物(防除対象である害虫がアザミウマ類、アブラムシ類、コナジラミ類、ハモグリバエ類等の各種害虫である場合に適する殺虫活性化合物)
(b)ピリプロキシフェン(商品名:ラノー、販売会社:住友化学工業)(防除対象である害虫がアザミウマ類、コナジラミ類、スリップス類である場合に適する殺虫活性化合物)
(c)ピリダリル(商品名:プレオ、販売会社:住友化学工業)(防除対象である害虫がハスモンヨトウ、オオタバコガ、アザミウマ類、ハモグリバエ類である場合に適する殺虫活性化合物)
(d)スピノサド(商品名:スピノエース、販売会社:日本曹達)(防除対象である害虫がアザミウマ類、スリップス類である場合に適する殺虫活性化合物)
(e)クロフェナピル(商品名:コテツ、販売会社:日本農薬)(防除対象である害虫がハダニ類、アザミウマ類である場合に適する殺虫活性化合物)
(f)ピメトロジン(商品名:チェス、販売会社:シンジェンタ)(防除対象である害虫がアブラムシ類、ハモグリバエ類、コナジラミ類である場合に適する殺虫活性化合物)
(g)ルフェヌロン(商品名:マッチ、販売会社:シンジェンタ)(防除対象である害虫がコナジラミ類である場合に適する殺虫活性化合物)
の中から選ばれる少なくとも一つ以上の殺虫活性化合物であることが好ましい。
【0021】
同様に、本発明方法において、当該防除対象である害虫の発生量と、前記生物的防除方法による当該防除対象である害虫の防除効果とを予測又は評価する工程、及び、
前記発生量に対して前記防除効果が不足であると評価される場合、当該防除対象である害虫に対して効力を有し、かつ、前記防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有さない殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法が前記生物的防除方法を用いる時期又はその直前に追加されてなる害虫防除体系を再提案する工程
をさらに含んでもよい。
ここで「当該防除対象である害虫の発生量と、前記生物的防除方法による当該防除対象である害虫の防除効果とを予測又は評価する工程」は、過去の経験則を利用するものであってもよい。また、「前記防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有さない殺虫活性化合物」は、例えば前述の(a)〜(g)の中から選ばれる少なくとも一つ以上の殺虫活性化合物であることが好ましい。
【0022】
本発明において、提案される害虫防除体系が、物理的防除方法が追加されてなる害虫防除体系であることが好ましい。
物理的防除方法は、当該物理的防除方法の種類によって適正な実施時期が異なるが、例えば、害虫防除体系の開始当初から終了までの全期間において実施されてもよいし、また必要な期間に限定して実施してもよい。
【0023】
本発明において、物理的防除方法としては、例えば、害虫遮断方法及び/又は害虫誘引方法等を挙げることができる。
ここで「害虫遮断方法」とは、害虫の進入経路を断つことによって害虫の被害が無くす方法であって、例えば、害虫の侵入口をネット等で塞いでしまう方法である。また「害虫誘引方法」とは、色、昆虫フェロモン等で害虫を誘引し、粘着剤で捕殺する方法である。
特に、施設栽培ハウスが有する窓等の開放部分にネットを取り付けることによって外部からの害虫の進入を遮断し、さらには内部からの天敵の流出を抑制することが極めて効果的であり、好ましく挙げることができる。
【0024】
上記の「害虫遮断方法」としては、例えば、防除対象である害虫がハスモンヨトウ、オオタバコガのような大型害虫である場合には、3〜6mmの目合いを有する防虫ネット等を挙げることができ、また防除対象である害虫がアブラムシ類、コナジラミ類、スリップス類又はハモグリバエ類のような微小害虫である場合には、0.2〜4mm目合いを有する防虫ネット等を挙げることができる。
【0025】
また上記の「害虫誘引方法」としては、例えば、防除対象である害虫がアブラムシ類である場合には黄色の害虫誘引色付き粘着シート・テープ、防除対象である害虫がオンシツコナジラミ、タバココナジラミ等のコナジラミ類である場合には黄色の害虫誘引色付き粘着シート・テープ、防除対象である害虫がチャノキイロアザミウマ、ミカンキイロアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ等のアザミウマである場合には青色の害虫誘引色付き粘着シート・テープ、防除対象である害虫がマメハモグリバエ等のハモグリバエである場合には黄色の害虫誘引色付き粘着シート・テープ等を挙げることができる。
尚、黄色の害虫誘引色付き粘着シート・テープは、ミツバチ及び天敵の寄生蜂類を誘引することがあるので、当該粘着シート・テープを設置した施設栽培ハウスではミツバチ及び天敵の寄生蜂類の放飼は避けることが好ましい。
【0026】
上記のような粘着シート・テープは、例えば、下記のように用いればよい。
粘着シート・テープを施設栽培ハウスの両サイド及び当該ハウス支柱の場所に設置する。粘着シート・テープを長さ1.5〜2mに切り、高さ0.5〜1mの支柱に固定し、2〜3mの間隔に設置する。
【0027】
次に、本発明方法により提案された施設栽培ハウス内での害虫防除体系に基づき害虫防除を実施することを特徴とする施設栽培ハウス内での害虫防除方法について述べるが、当該害虫防除体系が防除対象である害虫と、農作物の栽培全期間と、化学的防除方法と生物的防除方法との組合せに基づく害虫防除方法との3種の基本要素から構成される害虫防除体系であり、基本的には前述の本発明方法における第一の工程〜第三の工程に準ずるものであって、詳細な説明は前述の本発明方法における説明と基本的には同じである。
【0028】
次に、施設栽培ハウス内での害虫防除方法において用いられる、化学的に合成された殺虫活性化合物の施用量を削減する方法について述べるが、当該害虫防除体系が防除対象である害虫と、農作物の栽培全期間と、化学的防除方法と生物的防除方法との組合せに基づく害虫防除方法との3種の基本要素から構成される害虫防除体系であり、基本的には前述の本発明方法における第一の工程〜第三の工程に準ずるものであって、詳細な説明は前述の本発明方法における説明と基本的には同じである。
【0029】
次に、施設栽培ハウス内での害虫防除方法において用いられる、化学的に合成された殺虫活性化合物に対する害虫における薬剤抵抗性の発達を抑制する方法について述べるが、当該害虫防除体系が防除対象である害虫と、農作物の栽培全期間と、化学的防除方法と生物的防除方法との組合せに基づく害虫防除方法との3種の基本要素から構成される害虫防除体系であり、基本的には前述の本発明方法における第一の工程〜第三の工程に準ずるものであって、詳細な説明は前述の本発明方法における説明と基本的には同じである。
【0030】
本発明では、副次的に、自然発生の土着天敵の力を引き出すことが重要であり、多くの場合において天敵の放飼後に自然発生した土着天敵が増加する。さらにまた、下記のような状況下において極めて有効である。
即ち、現在よりも労力を伴う作業を追加することは難しく、細かく複雑なモニタリングを経た上での天敵利用は現在のところ容易ではない(モニタリングに費やした労力以上のメリットが必要である)。よって、農家が受け入れやすい天敵利用の条件を纏めて列記すると、
(1)モニタリングが不要である、
(2)害虫防除暦に従って天敵を投入する、
(3)栽培初期から天敵を継続的に導入する方法もあるが、害虫の未発生下での天敵の放飼による経費の増加や天敵の効果が判然としない等の点から、天敵に期待する害虫防除期間を短する、
となる。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明方法を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明方法はこれらに限定されるものではない。
【0032】
実施例1 (本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるナス栽培)
2001-2002年度(本発明方法未導入)、2002-2003年度及び2003-2004年度(本発明方法導入)において、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるナス栽培での事例を表1及び表2に示した。
【0033】
2001-2002年度において、
8月初旬にナスを定植した後、害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を含有する薬剤としてブプロフェジン(商品名アプロード)・テフルベンズロン(商品名ノーモルト)、シロマジン(商品名トリガード)・フェンプロパトリン(商品名ロディー)を全部で4回散布していた。
9月には害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を含有する薬剤としてベンゾエピン(商品名マリックス)・テブフェンピラド(商品名ピラニカ)、エマメクチンベンゾエート(商品名アファーム)・シロマジン(商品名トリガード)、ジペルメトリン(商品名アグロスリン)・ホサロン(商品名ルビトックス)、クロルフェナピル(商品名コテツ)・フルフェノクスロン(商品名カスケード)、クロルフェナピル(商品名コテツ)・フルフェノクスロン(商品名カスケード)、スピノサド(商品名スピノエース)・DDVP(商品名ホスビット)を全部で12回散布していた。10月には害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を含有する薬剤としてアクリナトリン(商品名アーデント)・クロルフルアズロン(商品名アタブロン)、ニテンピラム(商品名ベストガード)・メチダチオン(商品名スプラサイド)、トルフェンピラド(商品名ハチハチ)・ホサロン(商品名ルビトックス)、エマメクチンベンゾエート(商品名アファーム)・テブフェンピラド(商品名ピラニカ)を全部で8回散布していた。
11月には害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を含有する薬剤としてチアメトキサム(商品名アクタラ)・アクリナトリン(商品名アーデント)、アセフェート(商品名オルトラン)、ベンゾエピン(商品名マリックス)・クロルフルアズロン(商品名アタブロン)、クロルフェナピル(商品名コテツ)・フェンブタチンオキシド(商品名オサダン)、クロルフェナピル(商品名コテツ)・フェンブタチンオキシド(商品名オサダン)、クロルフェナピル(商品名コテツ)、トルフェンピラド(商品名ハチハチ)を全部で12回散布していた。
12月には害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を含有する薬剤としてスピノサド(商品名スピノエース)・ピリプロキシフェン(商品名ラノー)、スピノサド(商品名スピノエース)・ピリプロキシフェン(商品名ラノー)、アセフェート(商品名オルトラン)・ピリプロキシフェン(商品名ラノー)を全部で1回散布していた。
1月には害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を含有する薬剤としてチアメトキサム(商品名アクタラ)・テブフェンピラド(商品名ピラニカ)を全部で2回散布していた。
2月には害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を含有する薬剤としてアセフェート(商品名オルトラン)、エマメクチンベンゾエート(商品名アファーム)を全部で2回散布していた。
3月には害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を含有する薬剤としてアセフェート(商品名オルトラン)、アセフェート(商品名オルトラン)のように全部で2回散布していた。
4月には害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を含有する薬剤としてDDVP、ミルベマイシンA(商品名コロマイト)、アセフェート(商品名オルトラン)・テブフェンピラド(商品名ピラニカ)を全部で4回散布していた。
5月には害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を含有する薬剤としてアセフェート(商品名オルトラン)、ピリプロキシフェン(商品名ラノー)・ニテンピラム(商品名ベストガード)、トルフェンピラド(商品名ハチハチ)・ルフェヌロン(商品名マッチ)、アクリナトリン(商品名アーデント)・テフルベンズロン(商品名ノーモルト)を全部で7回散布していた。
6月には害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を含有する薬剤としてクロルフェナピル(商品名コテツ)を全部で1回散布していた。
【0034】
次いで、2002-2003年度における害虫防除体系を計画するために、上記のように特定された殺虫活性化合物のうち、
8月においては、アザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを、一年中休眠しない天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA:放飼量1頭/m)を用いる生物的防除方法に交換してなる害虫防除体系を基本にして、さらに、当該害虫防除体系における害虫防除効果(アブラムシ類防除のため)を補強するために、上記天敵に効力を有さない殺虫活性化合物であるピメトロジン(商品名チェス)を用いる化学的防除方法を追加してなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
9月においては、ハモグリバエ防除のための天敵である寄生蜂(ハモグリミドリヒメコバチ)及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを、一年中休眠しない天敵である寄生蜂(ハモグリミドリヒメコバチ)を用いる生物的防除方法に交換してなる害虫防除体系を基本にして、さらに、当該害虫防除体系における害虫防除効果(ハスモンヨトウ・オオタバコガ防除、ハモグリバエ防除のため)を補強するために、上記天敵に効力を有さない殺虫活性化合物であるインドキサカルブ(商品名トルネード)、シロマジン(商品名トリガード)を用いる化学的防除方法を追加してなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
10月においては、アザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)及びハモグリバエ防除のための天敵である寄生蜂(ハモグリミドリヒメコバチ)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
11月においては、ハモグリバエ防除のための天敵である寄生蜂(ハモグリミドリヒメコバチ)及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系を基本にして、さらに、当該害虫防除体系における害虫防除効果(アザミウマ類防除のため)を補強するために、上記天敵に効力を有さない殺虫活性化合物であるピリプロキシフェン(商品名ラノー)を用いる化学的防除方法を追加してなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
12月においては、ハダニ類防除のための天敵であるククメリスカブリダニ及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを、一年中休眠しない天敵であるククメリスカブリダニを用いる生物的防除方法に交換してなる害虫防除体系を基本にして、さらに、当該害虫防除体系における害虫防除効果(アブラムシ類・ハダニ類防除のため)を補強するために、上記天敵に効力を有さない害虫防除剤である粘着くん(有効成分:デンプン)を用いる化学的防除方法を追加してなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
1月においては、ハダニ類防除のための天敵であるククメリスカブリダニ及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
2月においては、ハダニ類防除のための天敵であるククメリスカブリダニ及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系を基本にして、さらに、当該害虫防除体系における害虫防除効果(アブラムシ類防除のため)を補強するために、上記天敵に効力を有さない殺虫活性化合物であるピメトロジン(商品名チェス)を用いる化学的防除方法を追加してなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
3月においては、ハダニ類防除のための天敵であるククメリスカブリダニ及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
4月においては、アザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系(但し、必要に応じて、一年中休眠しない天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA:放飼量1頭/m)を用いる生物的防除方法に交換してなる害虫防除体系)を基本にして、さらに、当該害虫防除体系における害虫防除効果(アザミウマ類防除のため)を補強するために、上記天敵に効力を有さない殺虫活性化合物であるピリプロキシフェン(商品名ラノー)、クロルフェナピル(商品名コテツ)を用いる化学的防除方法を追加してなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
5月においては、アザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
6月においては、アザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤が存在しないため、そのままの害虫防除体系を基本にして、さらに、当該害虫防除体系における害虫防除効果(アザミウマ類防除のため)を補強するために、上記天敵に効力を有さない殺虫活性化合物であるクロルフェナピル(商品名コテツ)を用いる化学的防除方法を追加してなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
さらに物理的防除方法として全期間を通じて「防虫ネット」及び一部期間(2月〜6月)について「ムシとれ太」が追加された。
【0035】
以上のようにして、8月から翌年6月までの害虫防除体系を設定し、当該害虫防除体系に従い2002-2003年度に害虫防除を実施した。その結果、前年度と同等な生産性を維持しながら、(1)化学的に合成された殺虫活性化合物の使用数を60から12に削減し、(2)化学的に合成された殺虫活性化合物の散布回数を35から17に削減し、(3)化学的に合成された殺虫活性化合物の散布作業時間を35時間から17.5時間に削減することにより重大な害虫被害を回避することに成功した。
【0036】
次いで、2003-2004年度における害虫防除体系を計画するために、上記のように特定された殺虫活性化合物のうち、
8月においては、アザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA:放飼量1頭/m)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法を、一年中休眠しない天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)を用いる生物的防除方法に交換してなる害虫防除体系を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
9月においては、アザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法を中止してなる害虫防除体系を基本にして、さらに、当該害虫防除体系における害虫防除効果(アザミウマ類、ハスモンヨトウ・オオタバコガ防除のため)を補強するために、上記天敵に効力を有さない殺虫活性化合物であるインドキサカルブ(商品名トルネード)、ピリプロキシフェン(商品名ラノー)を用いる化学的防除方法を追加してなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
10月においては、アザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)及び受粉昆虫であるマルハナバチに効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止して、さらに、当該害虫防除体系における害虫防除効果(ハダニ類、チャノホコリダニ防除のため)を補強するために、上記天敵に効力を有さない殺虫活性化合物であるミルベマイシンA(商品名コロマイト)を用いる化学的防除方法を追加してなる害虫防除体系を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
11月においては、受粉昆虫であるマルハナバチ及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系を基本にして、さらに、当該害虫防除体系における害虫防除効果(ハダニ類、チャノホコリダニ、アザミウマ類防除のため)を補強するために、上記天敵に効力を有さない殺虫活性化合物であるフェンピロキシメート(ダニトロン)、ピリプロキシフェン(商品名ラノー)、フェンブタチンオキシド(商品名オサダン)を用いる化学的防除方法を追加してなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
12月においては、受粉昆虫であるマルハナバチ及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系を基本にして、さらに、当該害虫防除体系における害虫防除効果(アザミウマ類防除のため)を補強するために、上記天敵に効力を有さない殺虫活性化合物であるピリプロキシフェン(商品名ラノー)、クロルフェナピル(商品名コテツ)を用いる化学的防除方法を追加してなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
1月においては、アザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
2月においては、コナジラミ防除のための天敵である天敵糸状菌(商品名ボタニガード)及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを、一年中休眠しない天敵である天敵糸状菌(商品名ボタニガード)を用いる生物的防除方法に交換してなる害虫防除体系を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
3月においては、コナジラミ防除のための天敵である天敵糸状菌(商品名ボタニガード)及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを、一年中休眠しない天敵である天敵糸状菌(商品名ボタニガード)を用いる生物的防除方法に交換してなる害虫防除体系を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
4月においては、コナジラミ防除のための天敵である天敵糸状菌(商品名ボタニガード)及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系(但し、必要に応じて、一年中休眠しない天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA:放飼量1頭/m)を用いる生物的防除方法に交換してなる害虫防除体系)を基本にして、を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
5月においては、コナジラミ防除のための天敵である天敵糸状菌(商品名ボタニガード)及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
6月においては、コナジラミ防除のための天敵である天敵糸状菌(商品名ボタニガード)及びアザミウマ類防除のための天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA)に効力を有する殺虫活性化合物を含有する薬剤を選択し、選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法の全てを中止してなる害虫防除体系を基本にしてなる1ヶ月間の害虫防除計画を設定した。
さらに物理的防除方法として全期間を通じて「防虫ネット」及び一部期間(2月〜6月)について「ムシとれ太」が追加された。
【0037】
以上のようにして、翌年8月から翌々6月までの害虫防除体系を設定し、当該害虫防除体系に従い2003-2004年度に害虫防除を実施した。その結果、前々年度及び前年度と同等な生産性を維持しながら、(1)化学的に合成された殺虫活性化合物の使用数を60から9に削減し、(2)化学的に合成された殺虫活性化合物の散布回数を35から11に削減し、(3)化学的に合成された殺虫活性化合物の散布作業時間を35時間から11時間に削減することにより重大な害虫被害を回避することに成功した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
実施例2 (本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるナス栽培)
実施例1に記載された、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるナス栽培での事例と同様にして、他の本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるナス栽培でのモデル事例を図1に示した。
本発明方法等の第三の工程において交換して使用された生物学的防除方法は、一年中休眠しない天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA:放飼量1頭/m×2回)、ハスモンヨトウ・オオタバコガ防除のための天敵であるBT(商品名フローバック)及びハモグリバエ防除のための天敵である寄生蜂(ハモグリミドリヒメコバチ:放飼量0.2頭/m×4回)であって、かつ、当該天敵の放飼量が0.01〜100頭/m(天敵微生物を除く場合)又は1〜5kg/ha(天敵微生物の場合)である。
前記生物的防除方法に交換される化学的防除方法において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計が、生物的防除方法に交換される前の害虫防除体系において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計に対して50%を超えている。
またここでの本発明方法には、物理的防除方法として「ムシとれ太」、「防虫ネット」が追加されている。
【0041】
実施例3 (本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるトマト栽培)
実施例1に記載された、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるナス栽培での事例と同様にして、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるトマト(冬春トマト)栽培でのモデル事例を図2に示した。
本発明方法等の第三の工程において交換して使用された生物学的防除方法は、ハスモンヨトウ・オオタバコガ防除のための天敵であるBT(商品名フローバック・エスマルクDF)及びハモグリバエ防除のための天敵である寄生蜂(ハモグリミドリヒメコバチ)及び
コナジラミ防除のための天敵糸状菌類(商品名マイコタール、プリファード、ボタニガード)であって、かつ、当該天敵の放飼量が0.01〜100頭/m(天敵微生物を除く場合)又は1〜5kg/ha(天敵微生物の場合)である。
前記生物的防除方法に交換される化学的防除方法において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計が、生物的防除方法に交換される前の害虫防除体系において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計に対して50%を超えている。
またここでの本発明方法には、物理的防除方法として「ムシとれ太」、「黄色蛍光灯」、「防虫ネット」が追加されている。
【0042】
実施例4 (本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるピーマン栽培)
実施例1に記載された、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるナス栽培での事例と同様にして、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるピーマン栽培でのモデル事例を図3に示した。
本発明方法等の第三の工程において交換して使用された生物学的防除方法は、一年中休眠しない天敵であるタイリクヒメハナムシ(商品名オリスターA:放飼量0・5頭/m×2回)、アブラムシ類防除のための天敵であるコレマンアブラバチ(商品名アブラバチAC)及びハスモンヨトウ・オオタバコガ防除のための天敵であるBT(商品名フローバック・エスマルクDF)及びコナジラミ防除のための天敵糸状菌類(商品名マイコタール、プリファード、ボタニガード)であって、かつ、当該天敵の放飼量が0.01〜100頭/m(天敵微生物を除く場合)又は1〜5kg/ha(天敵微生物の場合)である。
前記生物的防除方法に交換される化学的防除方法において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計が、生物的防除方法に交換される前の害虫防除体系において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計に対して50%を超えている。
またここでの本発明方法には、物理的防除方法として「ムシとれ太」、「黄色蛍光灯」、「防虫ネット」が追加されている。
【0043】
実施例5 (本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるイチゴ栽培)
実施例1に記載された、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるナス栽培での事例と同様にして、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるイチゴ栽培でのモデル事例を図4に示した。
本発明方法等の第三の工程において交換して使用された生物学的防除方法は、アブラムシ類防除のための天敵であるコレマンアブラバチ(商品名アフィパール)、ハスモンヨトウ防除のための天敵であるBT(商品名フローバック)及びハダニ類防除のための天敵であるククメスカブリダニチリカブリダニ(放飼量4頭/m)であって、かつ、当該天敵の放飼量が0.01〜100頭/m(天敵微生物を除く場合)又は1〜5kg/ha(天敵微生物の場合)である。
前記生物的防除方法に交換される化学的防除方法において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計が、生物的防除方法に交換される前の害虫防除体系において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計に対して50%を超えている。
またここでの本発明方法には、物理的防除方法として「ムシとれ太」、「防虫ネット」が追加されている。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、施設栽培ハウス内での害虫防除技術において、農家が受け入れ易く、かつ、化学的に合成された殺虫活性化合物の使用を必要最小限に抑えることによって安全・良質な農産物を安定生産させるために極めて有用である害虫防除体系の提案方法等を汎用技術化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるナス栽培でのモデル事例を示す図である。
【図2】図2は、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるトマト栽培でのモデル事例を示す図である。
【図3】図3は、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるピーマン栽培でのモデル事例を示す図である。
【図4】図4は、本発明を利用した施設栽培ハウスにおけるイチゴ栽培でのモデル事例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的に合成された殺虫活性化合物の施用量を削減可能とする施設栽培ハウス内での害虫防除体系を提案するための方法において、下記の害虫防除体系が防除対象である害虫と、農作物の栽培全期間と、化学的防除方法と生物的防除方法との組合せに基づく害虫防除方法との3種の基本要素から構成される害虫防除体系であり、かつ、
(1)施設栽培ハウス内での害虫防除体系内において害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を特定する工程、
(2)特定された殺虫活性化合物のうち、防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有する殺虫活性化合物を選択する工程、
(3)選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法のうち、少なくとも一つ以上の化学的防除方法を、当該防除対象である害虫に対する天敵であり、かつ、一年中休眠しない天敵又は冬期に活性を有する天敵のいずれかの天敵を用いる生物的防除方法に交換する工程、
(4)交換された生物的防除方法を含む害虫防除体系を提案する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記生物的防除方法が、当該生物的防除方法において用いられる天敵の成長速度が前記害虫の成長速度を上回る環境条件を有する生物的防除方法であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記生物的防除方法において用いられる天敵が、タイリクヒメハナカメムシ、アブラバチ類、寄生蜂類、ツヤコバチ類及びバチルス・チューリンゲンスの中から選ばれる少なくとも一つ以上の天敵であり、かつ、当該天敵の放飼量が0.01〜100頭/m(天敵微生物を除く場合)又は1〜5kg/ha(天敵微生物の場合)であり、かつ、前記生物的防除方法に交換される化学的防除方法において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計が、生物的防除方法に交換される前の害虫防除体系において用いられる全ての殺虫活性化合物の施用量の合計に対して50%以上であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかの請求項記載の方法。
【請求項4】
化学的防除方法を生物的防除方法に交換する工程において、当該生物的防除方法において用いられる天敵が土着生物相に対して与える影響に係るリスクを予測・評価する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの請求項記載の方法。
【請求項5】
提案される害虫防除体系が、害虫防除効果を補強するために、前記防除対象である害虫に対して効力を有し、かつ、当該防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有さない殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法が前記生物的防除方法を行う時期に追加されてなる害虫防除体系であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの請求項記載の方法。
【請求項6】
前記防除対象である害虫に対して効力を有し、かつ、当該防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有さない殺虫活性化合物が、ネオニコチノイド系殺虫活性化合物、ピリプロキシフェン、ピリダリル、スピノサド、クロフェナセル、ピメトロジン及びルフェヌロンの中から選ばれる少なくとも一つ以上の殺虫活性化合物であることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
当該防除対象である害虫の発生量と、前記生物的防除方法による当該防除対象である害虫の防除効果とを予測又は評価する工程、及び、
前記発生量に対して前記防除効果が不足であると評価される場合、当該防除対象である害虫に対して効力を有し、かつ、前記防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有さない殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法が前記生物的防除方法を用いる時期に追加されてなる害虫防除体系を再提案する工程
をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの請求項記載の方法。
【請求項8】
提案される害虫防除体系が、物理的防除方法が追加されてなる害虫防除体系であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの請求項記載の方法。
【請求項9】
物理的防除方法が、害虫遮断方法及び/又は害虫誘引方法であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
害虫遮断方法が、防虫ネットであることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
害虫誘引方法が、害虫誘引色付き粘着シートであることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至11記載のいずれかの方法により提案された施設栽培ハウス内での害虫防除体系に基づき害虫防除を実施することを特徴とする施設栽培ハウス内での害虫防除方法。
【請求項13】
施設栽培ハウス内での害虫防除方法において用いられる、化学的に合成された殺虫活性化合物の施用量を削減する方法であって、下記の害虫防除体系が防除対象である害虫と、農作物の栽培全期間と、化学的防除方法と生物的防除方法との組合せに基づく害虫防除方法との3種の基本要素から構成される害虫防除体系であり、かつ、
(1)施設栽培ハウス内での害虫防除体系内において害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を特定する工程、
(2)特定された殺虫活性化合物のうち、防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有する殺虫活性化合物を選択する工程、及び
(3)選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法のうち、少なくとも一つ以上の化学的防除方法を、当該防除対象である害虫に対する天敵であり、かつ、一年中休眠しない天敵又は冬期に活性を有する天敵のいずれかの天敵を用いる生物的防除方法に交換する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
施設栽培ハウス内での害虫防除方法において用いられる、化学的に合成された殺虫活性化合物に対する害虫における薬剤抵抗性の発達を抑制する方法であって、下記の害虫防除体系が防除対象である害虫と、農作物の栽培全期間と、化学的防除方法と生物的防除方法との組合せに基づく害虫防除方法との3種の基本要素から構成される害虫防除体系であり、かつ、
(1)施設栽培ハウス内での害虫防除体系内において害虫防除のために使用されている殺虫活性化合物を特定する工程、
(2)特定された殺虫活性化合物のうち、防除対象である害虫に対する天敵に実質的な効力を有する殺虫活性化合物を選択する工程、及び
(3)選択された殺虫活性化合物を用いる化学的防除方法のうち、少なくとも一つ以上の化学的防除方法を、当該防除対象である害虫に対する天敵であり、かつ、一年中休眠しない天敵又は冬期に活性を有する天敵のいずれかの天敵を用いる生物的防除方法に交換する工程
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−50961(P2006−50961A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235145(P2004−235145)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】