説明

化学的エンジニアリング工程を制御する明確なスイッチを有する二自由度制御方法

本発明は、プロセスエンジニアリング工程の閉ループ制御を実行する方法に関し、目標値の軌跡が閉ループ制御変数に提供され、プロセスの閉ループ制御変数及び更なる状態変数が検出され、制御誤差及びこれに基づく閉ループ制御操作変数が制御アルゴリズムによって算出され、加えてパイロット制御操作変数が決定され、生成操作変数が、閉ループ制御操作変数及びパイロット制御操作変数から算出され、プロセス中に設定される。制御アルゴリズム及びまたはパイロット制御の構造は、閉ループ制御変数、更なる状態変数及び/または目標値の軌跡の関数として変更される。更に、本発明は、閉ループ制御装置及び本方法を実行するコンピュータプログラムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセスエンジニアリング工程の閉ループ制御を実行する方法に関し、目標値の軌跡は閉ループ制御操作変数に用いられ、閉ループ制御変数及びプロセスの更なる状態変数が検出され、制御誤差が算出されこれに基づく閉ループ制御操作変数が制御アルゴリズムによって算出され、加えてパイロット制御操作変数が決定され、生成操作変数が閉ループ制御操作変数及びパイロット制御操作変数から算出され、これらがプロセス中で設定される方法に関する。更に、本発明は、上記方法を実行する閉ループ制御装置及びコンピュータプログラムに関する。
【0002】
工業規模におけるプロセスエンジニアリング工程では、ここ数年、オートメーション化に向かう傾向が増加している。その主な理由としては、装置の再現性の向上及び信頼性に対する要求にある。特に、化学及び製薬工業では、連続的なプロセスに加えて、不連続的なプロセスもまた、プロセス制御を用いることについての要求が高まっている製品の製造、製品の洗浄または調整にしばしば用いられる。
【0003】
バッチ操作モードまたは半バッチ操作モードで運転され、かつ製品の品質を例えばバッチ時間以外の圧力や温度といったプロセス条件に依存する決定的な手法で運転される反応器が、広く用いられている。特に、温度の大幅な増大または低下を伴う反応の場合、または高発熱あるいは高吸熱の反応の場合に、古典的な閉ループ制御処理では実行できない、あるいは実行できたとしても十分な処理をなしえない閉ループ制御処理がしばしば要求される。ここ数年、閉ループ制御処理は、反応器がより大きくなる傾向につれて、用いることが困難になってきている。これは、このような反応器において熱交換領域に対して反応量の割合がより好ましくなくなるからである。
【0004】
しかし、閉ループ制御処理の実行の困難性は、反応器の運転中のみならず、例えば、晶析装置、クロマトグラフィカラム、蒸留カラム、精留カラムまたは吸収カラムといった場合に、材料の転換または材料の分離のための更なるプロセスエンジニアリング装置または設備の運転中にも生じる。
【0005】
PIまたはPID制御システムといった古典的な閉ループ制御手法では、目標値からの閉ループ制御変数の偏差のみが、制御誤差を打ち消すための操作変数を決定するために考慮される。
【0006】
例えば、反応におけるこの種のプロセスの場合は、プロセス条件の変化に過剰に反応し、簡易PID閉ループ制御システムは、要求目標を充分に達成することができない。多くの場合、改善の可能性は、主な閉ループ制御が、副閉ループ制御用の目標値を生成するカスケード閉ループ制御によって提示される。
【0007】
加えて、複数の更なる閉ループ制御の概念は、ある種の閉ループ制御の問題を解決してきた。この閉ループ制御としては、例えば、適応閉ループ制御、ニューラルネットワークといった学習閉ループ制御、または、モデル予測閉ループ制御システムといったモデルベース及び最適化ベース閉ループ制御が挙げられる。
【0008】
米国特許第6144897号公報には、化学反応プロセス用のモデル予測閉ループ制御が開示されている。予測に基づくモデル及び閉ループ制御それ自体のいずれも、それぞれの設定状況に適合させることができる。他のモデル予測閉ループ制御方法と比較すると、この方法は、解法が容易な数学的モデルが特徴であり、これにより、反応混合物中の成分の迅速な予測を可能としている。
【0009】
出願公開されたDE10226670A1号公報では、他のアプローチが試みられている。この公報には、非線形、時間変化プロセスの特徴を考慮した閉ループ制御が開示されている。用いられる例は、反応内容物に、加熱時間中におけるある程度の温度が最初にもたらされ、反応段階においてこの温度が一定に保持されるプロセスエンジニアリングバッチ工程である。閉ループ制御方法は、閉ループ制御変数のプロセスに適しており、閉ループ制御操作変数は、例えば、同じ出発材料及び同じ配合で繰り返し実行されるバッチプロセスのベースとして、最初から原理的に知られている。これらの変数として予め設定された概形は軌跡として蓄積され、プロセスシーケンス中に呼び戻され、かつ閉ループ制御及びプロセスに付加される。プロセスの実際の閉ループ制御は、例えば、PIまたはPID閉ループ制御といった予め設定された軌跡に沿って発生する。
【0010】
バージョンに依存したパイロット制御を有する閉ループ制御方法を含む有望な考え方は、二自由度を伴った閉ループ制御として言及されている。例えば、EP1267229B1号公報には、閉ループ制御が実行されるプロセス用に予め設定された操作変数をモデルベースパイロット制御として用いる発電所において用いられる、プロセスエンジニアリング工程をオンオフする閉ループ制御方法が開示されている。このため、蓄積された最適な目標値の軌跡を得るために、オフラインシミュレーションが予め実行され、プロセスシーケンスの間に読みだされ、操作変数に影響を及ぼすべく用いられる。モデルは、現在のプロセス状態に追従しうるように設計されており、これに基づく最適化計算が繰り返し実行される。
【0011】
K.Graichen、V.Hagenmeyer及びM.Zeitz著「Feedforward control with online parameter estimation applied to the Chylla−Haase reactor benchmark」(Journal of Process Control、16、2006、pp 733−745)では、パイロット制御を備えた閉ループ制御のパフォーマンス性能は、専門書では知られた模範的な半バッチ式プロセス(Chylla−Haaseポリマー化反応器)で実証されている。拡張カルマンフィルタは、パイロット制御に適合させるために用いられる測定できない状態変数の評価に用いられる。
【0012】
同様の方法が、V.Hagenmeyer及びM.Nohr著の論文“Flatness−based two−degree−of−freedom control of industrial semi−batch reactors using a new observation model for an extended Kalman filter approach”(International Journal of Control, Vol.81, No.3,2008,pp428−438)に開示されている。この論文では、パイロット制御を備えた閉ループ制御方法は、反応器内における出発材料の化学的変換の間の温度を閉ループ制御するために、工業用半バッチ式反応器に適用される。反応器は、熱キャリア媒体が流れる冷却ジャケットを備える。熱キャリア媒体の入力温度は、閉ループ制御操作変数として機能する。拡張カルマンフィルタが反応熱の変化量及び熱伝導係数の決定のために用いられる。これらは、閉ループ制御のためには必須であり、プロセス中では直接的に測定することはできない。
【0013】
しかし、このアプローチでも、閉ループ制御の全ての処理を充分に実行することができない。特に、このアプローチは、実際の閉ループ制御が制限されるプロセスに適用される。例えば、反応器の温度は、閉ループがバッチ式反応器または半バッチ式反応器の制御に用いられるときには、典型的な閉ループ制御変数である。この意味では、反応器の冷却能力または圧力の最小及び最大許容値といった制限が伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6144897号公報
【特許文献2】DE10226670A1号公報
【特許文献3】EP1267229B1号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】“Feedforward control with online parameter estimation applied to the Chylla−Haase reactor benchmark”(Journal of Process Control、16、2006、pp 733−745)
【非特許文献2】“Flatness−based two−degree−of−freedom control of industrial semi−batch reactors using a new observation model for an extended Kalman filter approach”(International Journal of Control, Vol.81, No.3,2008,pp428−438)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以下開示される本発明は、所定の制限に確実に従いつつ最適なプロセス制御を行うことができるプロセスエンジニアリング工程の閉ループ制御を実行する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、請求項1に係る閉ループ制御方法及び請求項14に係る閉ループ制御装置が提案されている。本発明の有利な点は、従属項2〜13において提案されている。加えて、請求項15においてコンピュータプログラムが提案されている。
【0018】
適用可能な本発明に係る閉ループ制御方法のプロセスエンジニアリング工程は、一般的に状態変数に特徴づけられる。これらの状態変数を用いることによって、任意の所望の時にプロセス状態に関する結論を得ることが可能となる。状態変数のいくつかは直接的にまたはプロセス中に測定され、これらは例えば、体積流量または質量流量、圧力、温度、密度、粘度またはその他の材料の混合物の個々の成分、あるいは物質の等級である。他の状態変数は、高いコストをかけてようやく測定できるか、あるいは全く測定できないものである。これらは、例えば、材料の混合物の完全な成分、粒度分布、鎖長分布、メルトフローインデックスまたは冷却能力である。
【0019】
測定できない状態変数は、数学的モデルに用いられる他の測定可能なまたは測定できない状態変数によって決定される。この簡易な例は、相平衡関係の手法によって測定される圧力値及び温度値から明白な手法で算出可能な2つの物質から構成される材料系である。測定できない状態変数は、状態変数の以前の概形に関する電流測定値及び情報の双方に基づいて決定される。
【0020】
以下では、閉ループ制御変数は、本発明に係る方法により選択的に影響される変数であるプロセスエンジニアリング工程の状態変数として記載している。これらは、典型的には到達目標に大きな影響を及ぼす状態変数である。例えば、蒸留カラムの生成物排出における成分の濃度、または生成物の品質に決定的な影響を及ぼす反応器の温度値である。選択された閉ループ制御変数は、しばしば、最大圧力またはコンテナの充填容量といった、制限値を超えたり下回ったりしてはならない予め設定された状態変数である。閉ループ制御変数は、測定可能な状態変数または測定できない状態変数である。複数の閉ループ制御変数が存在する場合は、一の閉ループ制御変数を直接的に測定する一方で、他の閉ループ制御変数は他の状態変数から間接的に決定することが可能であることは当然である。
【0021】
本発明に係る閉ループ制御方法は、閉ループ制御変数のみならず、更なる状態変数に用いることもできる。例えば、直接的に測定できない閉ループ制御変数を測定する場合にも測定することができる。これらの変数は、本明細書において後述する“更なる状態変数”として記載されている。これらはまた、プロセス中またはプロセスにおいて、あるいは他の更なる状態変数に基づいて決定される。
【0022】
本発明によれば、目標値の形式の規定が、閉ループ制御変数のために行われる。これらの値は、プロセスプロフィールの時間に亘って一定に保持される一方で、時間可変である。ある時間に亘る目標値の規定は、目標値の軌跡で示されている。これらの目標値の軌跡は、例えば、時間、傾斜している、折れ線または目標値の他の一定の連続あるいは不連続の曲線を越えるものである。プロセスシーケンスの全時間に亘って一定した例外的な目標値もまた、目標値の語の中に含まれるものである。
【0023】
閉ループ制御変数または更なる状態変数の検出は、異なった手法によって実行される。検出される変数及び特定のプロセスエンジニアリング工程に依存して、このような変数が決定される。例えば、公知の物理的な測定原理の装置を用いることができる。この例としては、典型的なスローフロー測定装置、圧力検知器または温度センサが挙げられる。種々の物質の濃度は、例えば、ガスクロマトグラフィ、またはNMR(核磁気共鳴)あるいはNIR(近赤外分光分析)といった分光手段によって測定される。
【0024】
直接的に測定できない閉ループ制御変数及び更なる状態変数の検出はしばしば、極めて簡易なつながりと複雑なつながりとの間にある数学的関係の手法によって実行される。例えば、それ自体直接的に測定できない混合物中において、測定された全体の質量流量率及び測定されたそれぞれの成分の濃度から、個々の成分の質量流量率が容易に測定できる。
【0025】
測定可能な状態変数と測定不能な状態変数との間における関係が比較的複雑な場合は、状態評価手段が、重要な変数を検出するために有利に用いられる。このような状態評価手段の例としては、ルーエンバーガー観測器や、例えば、Graichen/Hagenmeyer/Zeitz及びHagenmeyer/Nohrのそれぞれによって著された論文に開示されたカルマンフィルタまたは拡張カルマンフィルタが挙げられる。このような手法と同様に、閉ループ制御がそれぞれ実行されるプロセスに適合するための可能性もまた公知である。好適な一の実施の形態では、拡張カルマンフィルタが、閉ループ制御変数(y)を検出し、及び/または更なる状態変数
【0026】
【数1】

を検出するために、プロセス中で直接的に測定できる状態変数(y)に基づく状態評価手段として用いられている。
【0027】
制御誤差は、閉ループ制御変数とこれらの直近のそれぞれの目標値とを対比することによって算出される。続いて、閉ループ制御操作変数が、制御アルゴリズムによるこれらの制御誤差に基づいて決定される。プロセスにおける変更が閉ループ制御変数に対する影響を可能な限り大きくする変数は、通常、制御誤差を打ち消すための操作変数として選択される。例えば、充填容量が、コンテナ内の閉ループ制御に用いられる場合は、流入量または流出量は操作変数として適している。本発明に係る閉ループ制御方法の操作変数は、それ自体が、副閉ループ制御システムの目標値となり得る。充填容量の閉ループ制御の例では、これにより、流入量を副閉ループ制御システム用の目標値とすることが可能である。一方で、目標値は、操作変数としてのコンテナに関する流入量におけるバルブのバルブ位置等を含む。
【0028】
本明細書では、以下、“生成操作変数”の語は、プロセス中に設定された操作変数の値として用いる。生成操作変数は、操作アルゴリズムによって決定された閉ループ制御操作変数と一致しうる。しかし、本発明によれば、少なくとも一の生成操作変数は、閉ループ制御操作変数及び更なる成分である、パイロット制御操作変数から算出される。加えて、外部の規定によって値に影響を与えることも可能である。この外部の規定は、例えば、手動の入力によって、または情報生成システムにより利用可能となった信号である。
【0029】
本明細書では、パイロット制御とは、パイロット制御操作変数、目標値、閉ループ制御変数または更なる状態変数に基づいたアルゴリズムによって決定することを意味する。この意味では、処理知識は、プロセスの閉ループ制御を緩和し、かつ改善するために用いられる。本発明に係るパイロット制御は、目標値、閉ループ制御変数、更なる状態変数または他の閉ループ制御操作変数、一方、これらの数から生成されるパイロット操作変数、あるいは例えば、数学的モデルの形式の間の関係を規定する状態依存算出方法を含み得る。
【0030】
開ループ制御に従属するプロセスエンジニアリング工程の挙動を考慮に入れた状態依存算出方法が、好適に用いられる。特に、定常状態または動特性を逆転させるパイロット制御が用いられる。これは、パイロット制御操作変数が適用されかつプロセスがいかなる誤りにも属さない場合に、プロセスエンジニアリング工程が一の目標値の軌跡に正確に追従するようにパイロット制御操作変数が算出されることを意味する。システムの逆転と呼ばれるこの算出は、差動フラットシステムと呼ばれるものに適用することが容易であり、上記算出は、専門書において公知である。
【0031】
加えて、算出基準は、予め設定された時間依存及び/または状態依存軌跡、例えば、概形、傾斜、または、他の予め設定された一定形状の軌跡であってもよい。この軌跡は、例えば、時間をかけて少しずつ一定となり、状態依存パラメータを有する。算出基準として、オフラインで予め最適化された軌跡を与えることも可能である。
【0032】
パイロット制御の構造は、例えば、パイロット制御操作変数用の算出基準の基本構造、あるいは算出に用いられる変数の論理結合といった種々の要素に基づいて決定される。加えて、算出基準は、パイロット制御操作変数が決定される手法による1以上のパラメータによって決定される。用いられるパラメータは、算出基準のそれぞれの構造に依存している。例えば、算出基準がある区間では一定の関数である場合、区間を定義する時間及びそれぞれの区間の関数の値は、パイロット制御のパラメータと考えられる。他のタイプの算出基準では、他のパラメータ、例えば、値域または時間の定義域における係数が、相応して得られる。
【0033】
専門書において公知となっているような異なったアプローチを、制御アルゴリズムとして用いることも可能である。例えば、PIまたはPIDアルゴリズムまたはスイッチング閉ループ制御(スライディングモード)である。入力及び出力を有し、SISO閉ループ制御と称される閉ループ制御や、複数の入力及び出力を有し、MIMO閉ループ制御と称される閉ループ制御とすることも可能である。制御アルゴリズムの構造は、アルゴリズムの基本設計または閉ループ制御変数及び操作変数の割当といった異なる特徴によって決定される。PIまたはPID閉ループ制御の場合は、例えば、更なる構造的な特徴として、制御アルゴリズムの増幅、すなわちP要素が固定または可変方式、例えばゲインスケジューリングの形式で構成されているか否かが考慮される。パイロット制御も同様に、制御アルゴリズムは閉ループ制御操作変数の決定に作用する異なったパラメータを有する。これらの例としては、増幅、PIDアルゴリズムの場合における微分時間及び積分時間が挙げられる。
【0034】
本発明に係る閉ループ制御方法は、カスケード接続もなし得る。本明細書では、プロセスエンジニアリング工程は、情報技術及び閉ループ制御技術の点から2以上のサブプロセスに分けられている。これらのサブプロセスはそれぞれ、上記の制御アルゴリズムを基にした少なくとも1つの閉ループ制御が割り当てられている。カスケード接続は、サブプロセスの少なくとも1つは、主な閉ループ制御から1以上の目標値を受け取ることを意味する。パイロット制御操作変数は、1以上の目標値の上に重ねられる。主閉ループ制御は、マスタ制御と称せられ、副制御はスレーブ制御と称せられる。図4は、本発明に係るカスケード接続の方法の基本概略を示す図である。複数のスレーブ制御は、1のマスタ制御に割り当てられる。同様に、スレーブ制御それ自身も、更に下位のスレーブ制御用のマスタ制御となり得る。かかる構成は、複合カスケードと称される。本発明によれば、少なくとも1のサブプロセスにおける少なくとも1の生成操作変数が、閉ループ制御操作変数及びパイロット制御操作変数から算出される。
【0035】
1の好適な実施の形態では、プロセスエンジニアリング工程は2以上のサブプロセスに分けられ、少なくとも1のマスタ制御及びこれの下位のスレーブ制御が、それぞれの閉ループ制御操作変数及びこれに割り当てられるパイロット制御操作変数から算出される。加えて、更なる主または副閉ループ制御が、パイロット制御を具備してまたは具備しないで存在する。
【0036】
プロセスエンジニアリングの閉ループ制御を実行する本発明に係る方法は、異なった情報を処理し得るスイッチング論理も有している。この情報は、例えば、目標値及びその軌跡、ある他の方法で測定または検出された状態変数、及び制御アルゴリズムまたはパイロット制御の構造及びパラメータである。例えば、目標値の形態においてこれらの時系列グラフを制限する外部の規定は、スイッチング論理によって外的に処理される。この情報及び予め定義されたこの情報の関係に基づいて、スイッチング論理は、制御アルゴリズムまたはパイロット制御のいずれを変更するかを決定する。この意味では、関連するパラメータにも変更を加えることができる。
【0037】
“制御アルゴリズム”及び“パイロット制御”の語は、本発明に係る方法の全体に関連し、単一で厳密に理解されるべき語ではない。カスケード接続の方法の場合は、情報技術の点から、閉ループ制御の制御アルゴリズム及びパイロット制御がどこでどのように実行されるかに関わらず、これらの制御アルゴリズム及びパイロット制御が含まれるものであると理解されるべきである。
【0038】
1の好適な実施の形態では、本発明に係る閉ループ制御方法はカスケード接続され、少なくとも1のマスタ制御及びこれの下位の少なくとも1のスレーブ制御の生成操作変数は、それぞれの閉ループ制御操作変数及びこれに割り当てられたパイロット制御操作変数に基づいて算出される。そして、少なくとも1のスレーブ制御の制御アルゴリズム及び/またはパイロット制御の構造は、スイッチング論理によって変更される。
【0039】
制御アルゴリズム及びパイロット制御の構造及びパラメータの設定は、以下では“スイッチングモード”と記載している。変更が実行されたことがスイッチング論理における情報の評価から明らかになると、一のスイッチングモードから他のスイッチングモードへの切り替えが行われる。この意味において、制御アルゴリズムのみ、またはパイロット制御のみあるいはその両方において構造的な変更が生じ得る。この意味において、関連するパラメータもまた変更され得る。
【0040】
制御アルゴリズムの好適な構造的な変更は、閉ループ制御変数及び閉ループ制御操作変数の割当における変更に関するものである。他の有利な構造的な変更は、他の制御アルゴリズムの選択を構成する。
【0041】
パイロット制御の構造的な変更は、好適には、種々の状態依存算出基準の間の変更である。構造的な変更は、算出に用いられる他の変数も好適に構成し得る。パイロット制御の更なる好適な構造的変更は、1以上の更なるまたは異なるパイロット制御操作変数の選択である。
【0042】
更に、1以上の目標値はスイッチングモードに割り当てられる。本発明に係る閉ループ制御方法の好適な実施の形態では、スイッチングモードから新たなスイッチングモードに変更する場合に、1以上の目標値の軌跡が再度算出される。スイッチングモードの間、スイッチング論理は、目標値の軌跡の再算出を行う。再算出を行う場合とは、例えば、閉ループ制御変数または更なる状態変数が限界値に近づく場合、及び制御誤差の閾値を越えたまたは下回った場合、あるいは外部の規定による場合である。1以上の目標値の軌跡の再算出の後、制御アルゴリズムまたはパイロット制御のパラメータが変更される。
【0043】
本発明の1の有利な改良点は、種々の、時系列的に連続したスイッチングモードが、スイッチング論理及びそれぞれのプロセス条件の関数として発生することである。1のスイッチングモードから次のスイッチングモードへの変更は、パイロット制御、制御アルゴリズム、目標値の軌跡の再算出またはこれらを組み合わせたものに影響を及ぼす。
【0044】
好適な実施の形態では、本発明に係る閉ループ制御方法は、1以上の状態変数の限界を監視し、それに従うために用いられる。対応する限界値は、スイッチング論理に用いられ、これにより、新たなスイッチングモードへの変更のための条件を決定し、かつ目標値の再算出をもたらすことができる。更に好適な実施の形態では、本発明に係る閉ループ制御方法は、目標様式における1以上の状態変数の限界に近づくために用いられる。このようなプロセス制御は、例えば、品質要求や、空時収量に関して、プロセスをより経済的に実行することができる。
【0045】
閉ループ制御方法を実行するためには、閉ループ制御変数のための目標値の軌跡を利用するための少なくとも1の信号発生器をそれぞれの場合に含む閉ループ制御装置を備えることが好適である。この装置は、閉ループ制御変数及びプロセスの更なる状態変数の検出のために用いられ、パイロット制御操作変数を決定するためのパイロット制御の制御アルゴリズムによって制御誤差に基づく閉ループ制御操作変数を決定する閉ループ制御を備え、閉ループ制御操作変数及びパイロット制御操作変数から生成操作変数を算出する手段であり、かつプロセスに生成操作変数を適合するための手段である。更に、閉ループ制御装置は、閉ループ制御変数の機能としての制御アルゴリズム及び/またはパイロット制御の構造、更なる状態変数及び/または目標値の軌跡の変更に適した少なくとも1のスイッチング論理を有する。閉ループ制御変数及び更なる状態変数を検出し、かつプロセス中で操作変数を算出しかつ設定するための手段を有する装置は、信号発生器、閉ループ制御、制御アルゴリズム、パイロット制御及びハードウェアとソフトウェアとを用いてこれらの装備を備えうるものとして、当業者にとって公知となっている。
【0046】
本発明の1の好適な実施の形態では、パイロット制御、制御アルゴリズム及びスイッチング論理の算出基準は、例えば、プログラミング言語またはプロセスエンジニアリングの閉ループ制御を用いるために好適な商業的に入手可能なソフトウェアを用いて作られたプログラムのプログラムコード手段を具備する。
【0047】
特に好適な実施の形態では、コンピュータプログラムはコンピュータ上で稼働し得るように構成され、かつプロセスエンジニアリング工程と連携するためのインターフェースを具備する。この連携は、例えば、プロセスエンジニアリング工程を制御するために現在多用されている手法によるプロセス制御システムで実行される。プロセス制御システムを具備しないプロセスでは、連携は、測定装置及びプロセス中の閉ループ制御とデータ交換することができるインターフェースを介して行われる。このようなインターフェース及びこれらのハードウェア及びソフトウェアの実装は、当業者に公知の技術である。この意味におけるコンピュータは、プロセスエンジニアリング工程に近接して、例えば、測定ステーションに配置される。しかし、空間的に離間して配置して通常のネットワーク接続を介して連携させることも可能である。
【0048】
更に好適な実施の形態では、パイロット制御、制御アルゴリズム及びスイッチング論理の算出基準は、プロセス制御システム中のソフトウェアモジュールとして少なくとも一部が装備されている。本発明の更に有利な改良点では、制御アルゴリズム及びスイッチング論理の算出基準が装備され、またはプロセス制御システム中に完全に統合化されている。
【0049】
プロセスエンジニアリング工程の閉ループ制御を実行する本発明に係る方法は、効率的なプロセス制御をもたらす。一般的に、プロセスは限界値に近づくように操作され、その結果として、空時収量は通常、増大する。本発明に係る方法は、プロセスエンジニアリング工程の大部分に好適に適用することができる。特に、バッチプロセスまたは半バッチプロセスといった断続的なプロセスにおいて、その有利な効果は顕著である。この意味では、バッチ時間を短縮し、バッチの再生産性を向上させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、パイロット制御及び状態評価装置を具備した閉ループの先行技術である。
【図2】図2は、パイロット制御及び状態評価装置を具備した、マスタスレーブ制御に構成された閉ループの先行技術である。
【図3】図3は、パイロット制御、状態評価装置及びスイッチング論理を具備した本発明の実施の形態に係る閉ループ制御方法の概略図である。
【図4】図4は、マスタスレーブ制御に構成されたパイロット制御、状態評価装置及びスイッチング論理を具備した本発明の実施の形態に係る閉ループ制御方法の概略図である。
【図5】図5は、パイロット制御、状態評価装置、スイッチング論理及び選択ブロックを具備した本発明の実施の形態に係る閉ループ制御方法の概略図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態に係る、冷却ジャケット及び閉ループ制御装置を具備した半バッチ式反応器の基本概略を説明する図である。
【図7】図7は、本発明の実施例に係る半バッチ式プロセスにおける特徴的変数の時間分布を説明する図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態に係る、冷却ジャケット及び閉ループ制御装置を具備した他の半バッチ式反応器の基本概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、図を参照して本発明を更に説明する。図は、本発明の基本概念を説明するものである。図は、例えば、構造的特徴または装備に関して、本発明の内容を限定するものではない。
【0052】
図1は、従来技術として公知の、パイロット制御40及び状態評価装置50を具備した閉ループを説明する図である。信号発生器10は、それぞれの閉ループ制御変数yと対比される目標値Wを利用可能としている。この意味で、外部目標値Wextは信号発生器用に予め設定される。例えば、プロセスオートメーションまたは施設運営者による手動入力の重畳システムによって設定される。目標値Wとそれぞれの制御誤差と呼ばれる閉ループ制御変数yの差が、当該差から閉ループ制御操作変数uCMを算出する閉ループ制御20に送信される。これと並行して、パイロット制御40は、目標値W及び更なる状態変数
【0053】
【数2】

からパイロット制御操作変数uFを決定する。プロセス30に設定されている生成操作変数uは、上記パイロット制御操作変数及び閉ループ制御操作変数uCMから算出される。閉ループ制御変数yが得られかつこれは制御誤差を算出するために交互に用いられる。全ての更なる状態変数
【0054】
【数3】

をプロセス30において直接的に得ることができない場合には、測定された状態変数yからの要求された変数を決定する状態評価装置50を設ける。
【0055】
図2で示される制御ループは、図1で示した、マスタ−スレーブ制御構成として上述したカスケード接続型で用いられる上述の2つの閉ループ制御から、制御ループの拡張を形成する。閉ループ制御に供されるプロセスは、第1サブプロセス31及び第2サブプロセス32に分けられる。第1サブプロセス31の閉ループ制御変数y1は、予め設定された目標値Wによるマスタ制御21用の制御誤差を測定するためにフィードバックされる。マスタ制御21によって決定された閉ループ制御操作変数uCMは、パイロット制御操作変数uFと数学的に結合され、かつマスタ制御uMの生成操作変数を生成する。これらの操作変数は、スレーブ制御22用のセットポイント値として機能する。スレーブ制御22用の制御誤差は、第2サブプロセス32の閉ループ制御変数y2と対比した上記目標値から形成され、上記スレーブ制御は、上記制御誤差の閉ループ制御操作変数uCSを決定する。これらの閉ループ制御操作変数uCSは、第2サブプロセス32に設定される。状態評価装置50は、閉ループに備えられ、第1サブプロセスy1及び第2サブプロセスy2の測定された状態変数から、パイロット制御操作変数uFを算出するためにパイロット制御40で用いられる更なる状態変数
【0056】
【数4】

を決定する。
【0057】
図3は、図1に類似した簡易制御ループを用いた本発明に係る制御ループを説明する図である。目標値発生器10、閉ループ制御20、プロセス30、パイロット制御40及び任意の状態評価器50は、図1で示したものと同様の機能を有する。本発明によれば、制御ループは、例えば目標値W、閉ループ制御変数y、測定された状態変数y、更なる状態変数
【0058】
【数5】

、または閉ループ制御SCあるいはパイロット制御SFからの信号といった入力信号としての異なる情報を処理するスイッチング論理60を有する。この情報をもとに、信号SLC及びSLFが、状態依存算出基準によってスイッチング論理60において発生せしめられ、閉ループ制御20及びパイロット制御40に伝送される。制御アルゴリズムまたはパイロット制御40の構造またはパラメータは、これらの信号の関数として変更される。更に、スイッチング論理60は、目標値軌跡用信号発生器10に作用し得る。
【0059】
図4は、本発明に係るカスケード制御ループの例を示すものであり、その基本構造は、図2の制御ループと一致する。目標値発生器10、マスタ制御21、スレーブ制御22、サブプロセス31及び32、パイロット制御40及び任意の状態評価器50は、図2のそれぞれと同様の機能を有する。本発明によれば、プロセスの全体または個別のサブプロセスから、例えば、目標値W、閉ループ制御変数y1及びy2、測定された状態変数y1及びy2、更なる状態変数
【0060】
【数6】

及び信号SCM及び閉ループ制御からの信号SCS、またはパイロット制御の信号SFから、異なった情報にアクセスできるスイッチング論理60を備える。情報に基づいて、信号SLCM、SLCS及びSLFが、状態依存算定ルールによるスイッチング論理60中に発生せしめられ、マスタ制御21、スレーブ制御22及びパイロット制御40に伝達される。更に、スイッチング論理60は、目標値軌跡用信号発生器10に作用し得る。
【0061】
閉ループ制御21、22及びパイロット制御40に伝達されるスイッチング論理60の信号は、制御アルゴリズムまたはパイロット制御40の構造またはパラメータを変更せしめる。この意味では、構造及びパラメータは、閉ループ制御やパイロット制御のみならず、複数の閉ループ制御及び/またはパイロット制御との組み合わせに変更せしめられる。変更は、閉ループ制御及び割り当てられたパイロット制御と同時に実行される。
【0062】
図4は、マスタ制御21及びスレーブ制御22を具備するカスケード制御ループを明確にするための図である。しかし、本発明に係る閉ループ制御の作動は、この構成に限定されるものではなく、マスタ制御及びスレーブ制御の任意の所望の組み合わせに好適に用いられる。これにより、例えば、閉ループ制御が複数のカスケード接続の場合、スレーブ制御22自体を順次、更なる閉ループ制御用のマスタ制御とすることが可能である。スイッチング論理は、SISOシステム、及び複数の閉ループ制御変数及び操作変数を有するMIMOシステムとよばれる単一の閉ループ制御変数及び1の操作変数を具備した制御ループの双方において用いられる。SISO及びMIMOシステムの双方は、カスケード接続せしめられ、この組み合わせもまた本発明によって保護される。例えば、下位のSISO閉ループ制御を有する上位のMIMO閉ループ制御の場合も含まれる。
【実施例】
【0063】
本発明に係る方法の好適な実施例は、工業的半バッチ式プロセスに適用されている。これは、高い発熱を伴う付加重合反応である。第1の出発物質は、図6で概略的に示されるように、撹拌タンク反応器に配置される。第2の出発物質の反応器への入力は、ラインを介して継続的に実行される。第2の出発物質の流量Finは、通過流量測定装置及び制御バルブを用いたセットによって検出される。反応器の下部は、熱キャリア媒体として流下する冷却水が通過するジャケットによって囲まれている。流入する冷却水FJの流量を、更なる制御バルブによって制御することが可能である。流入する冷却水FJ、及び流入する冷却水TJinと流出する冷却水TJoutの温度は、測定装置によって測定される。更に、反応器Pの圧力及び反応混合物TRの温度は、測定技術によって検出される。本発明に係る閉ループ制御装置CMに接続される全ての測定装置、及び測定値の結果は、測定された状態変数yとして本発明に係る閉ループ制御方法に用いることが可能である。
【0064】
反応プロセスは、高い空時収量が達成可能なように制御される。一方、閉ループ制御方法により、外部の規定Wextとして、高い反応変換率を確保するために、可能な限り迅速に反応温度TRSに到達することができる。他方、反応器内において超えてはならない圧力PSは、プロセスの現在の状態関数として予め設定されている。この限界値は、特に反応器の充填レベル及び反応温度TRSの関数として、公知のプロセスエンジニアリング限界値に基づいて、接続されたプロセス制御システムで測定される。
【0065】
本発明に係る閉ループ制御方法は、プログラムパッケージとしてMATLAB(The MathWorks Inc.,Natick,MA,USA)を用い、かつ標準的なインターフェースであるOPC(OLE for Process Control)を介してプロセス制御システムに接続される、商業的に利用可能なワークステーションコンピュータに装備される。閉ループ制御方法の具体例は、図5に概略的に示されており、図6には、対応する閉ループ制御ブロックCMが示されている。
【0066】
高い空時収量を達成するために、1以上の所与の限界値に可能な限り近づいてプロセス30を操作する必要がある。圧力の限界値に加えて、第2の出発材料Finの最大流量及び流入する冷却水FJの流量も制限される。これら2つの流量は、操作変数uとして選択される。反応器の圧力P及び反応混合物TRの温度は、閉ループ制御変数yとして選択される。制御アルゴリズムの基礎は、操作変数及び閉ループ制御変数の二次的な割当に対応するパイロット制御40を備えた3つのSISO閉ループ制御20を形成する。
【0067】
流入する出発物質Fin−圧力P
流入する出発物質Fin−反応温度TR
流入する冷却水FJ−反応温度TR
【0068】
これら3つの個別の閉ループ制御のうち最大2つは、選択ブロック61及び62に伝送されるスイッチング論理60の信号SLSを基礎として選択されたそれぞれの閉ループ制御変数y及び操作変数uCによって同時に起動される。同様の方式によって、対応するパイロット制御操作変数uFが、選択ブロック63に伝送されるスイッチング論理60の信号SLSを基礎として選択される。それぞれの場合において、フラットネスベースのパイロット制御(40、63)が、アクティブ閉ループ制御(61、20、62)に割り当てられる。目標値における所望の変更の観点から最適な操作変数を示し、かつ現在起動しているモデルシステムの干渉変数を考慮に入れたパイロット制御操作変数uFは、閉ループ制御変数y、測定された状態変数y及びオブザーバ50によって決定された状態変数
【0069】
【数7】

に基づいた数学的モデルのシステム的反転によるパイロット制御40で決定される。
【0070】
以下、本明細書では、本発明に係る閉ループ制御方法を、典型的なバッチ運転をもとにより詳細に説明する。図7は、標準化された値におけるプロセスの選択変数の数を示す時間グラフである。一番上のグラフは、反応器の温度の概形である。直線状の破線は、可及的速やかに到達すべき外部で予め設定された反応温度TRSを示すものであり、細い連続的な曲線は、反応器のための目標値軌跡用信号発生器10によって利用可能となった目標値の軌跡を示す。一方、太い連続的な曲線は、実際に測定された反応器の温度TRを示す。中央のグラフは、連続的な曲線が出発物質の流入Finの操作変数、一点鎖線による曲線が冷却水の流入FJの操作変数の実際の概形である。一番下のグラフでは、破線による曲線は、時間内の全ての地点における外部で予め設定された圧力PSを示す。上のグラフと類似する点は、細い連続的な曲線が圧力用の測定された目標値の軌跡を示し、太い連続的な曲線が実際に測定された圧力Pを示す。
【0071】
本発明に係る閉ループ制御方法が操作される場合、閉ループ制御変数用の目標値の軌跡、反応器温度TRは、現在のプロセス情報を基にして最初に発生せしめられる。この最初のスイッチングモード(I)では、冷却水の流入FJは、反応器の温度TRに作用を及ぼすために操作変数として選択される。出発物質Finの流入は、このモードにおける閉ループ制御に用いられるのみならず、プロセスにおいて前に測定された曲線に沿って設定することにも用いられる。圧力Pは、予め設定された状態依存圧力PSを超えないように監視される。反応器の温度TRの目標値の軌跡は、現在値と目標値との間の偏差が大きくなりすぎていたことから、時間t=0.022のときに再度算出される。この再度の算出は、図7の上のグラフにおいて、細い連続的な曲線が垂直に落下することから理解し得る。
【0072】
本発明に係る反応システムでは、基本的に、反応なしに出発物質が蓄積することが懸念される。突然の出発反応の場合、圧力及び温度が極めて急激に増加し、その結果、プロセスは制御不能となる。このため、現在の変換率の算出基準が、オブザーバ50に装備され、かつ関連する限界値がスイッチング論理60に予め設定される。時間t=0.031のときに、この限界値に到達した。スイッチング論理60に格納される基準に基づいて、システムは、出発物質の流入Finの固定された曲線から状態依存曲線に切り替えられ、パイロット制御40の構造の切り替えを構成する。閉ループ制御変数に対する冷却水の流入FJの操作変数の割当は、新たなスイッチングモード(II)においてもそのまま保持される。
【0073】
図7の一番下の図から明らかなように、圧力Pの目標値の軌跡が、スイッチングモード(II)の間で再度算出される。このプロセスは、予め設定された圧力PSと実際の圧力Pとの間の差異が最小値を下回った後に、スイッチング論理60のルールによって起動される。しかし、この再度の算出は、制御アルゴリズムの構造もパイロット制御の構造のどちらをも変更することなく、その結果、新たなスイッチングモードに変換することはなかった。
【0074】
時間t=0.062において、出発物質の蓄積は、スイッチング論理60の対応する算出基準が新たなスイッチングモード(III)に切り換えられる程度に減少された。このスイッチングモードでは、反応器の温度は、もはや冷却水の流入FJのみならず、操作変数としての出発物質の流入Finによっても調整されなかった。パイロット制御操作変数の算出は、類似の方式によって変更される。結果として、制御アルゴリズム及びパイロット制御の構造の変更が発生する。反応器の温度TR用の目標値の軌跡は、操作変数としてのスイッチング用の目標値から出発物質の流入Finへの偏差が大きすぎたことから、このときに再度算出される。冷却水の流入FJのために軌跡が算出され、かつプロセス中に設定される。圧力Pは、継続的に監視される。
【0075】
時間t=0.089において、蓄積限界値に再度近接し、その結果として、新たなスイッチングモード(IV)への切り替えが発生する。このスイッチングモードは、上述したスイッチングモード(II)と構造の点において対応し、制御アルゴリズム及びパイロット制御の構造の変更が再び発生する。反応器の温度TR用の目標値は、目標値と実際の値との間の偏差がこの時点では低いことから、再度の算出はなされない。
【0076】
冷却水の流入FJは、時間t=0.136において最大値に到達する。冷却水による反応器の温度TRの閉ループ制御はこれによって制限され、スイッチング論理60は、スイッチングモード(III)と構造において対応するスイッチングモード(V)に変更しはじめる。しかし、スイッチングモード(V)における冷却水の流入FJの軌跡は、一定値、その最大値からなる。このモードは、バッチ運転時間の大部分を越えて維持される。運転時間の終了に向かうに従って、圧力Pのための目標値の軌跡は、現在の圧力Pは、外部の予め設定された圧力PSに対して差分値を下回ることから、再び算出される。
【0077】
現在の圧力Pが時間t=0.970において目標値を超えた場合、スイッチングモード(VI)はスイッチング論理60によって起動される。制御アルゴリズム及びパイロット制御の構造的な変更により、圧力Pが出発物質の流入Finによって調整され、反応器の温度TRが、冷却水の流入FJによって再び調整される。このモードが、バッチ運転時間の終了まで維持される。バッチ運転の終了は、測定された出発物質の量を基礎としたプロセス制御システムの配合制御によって決定され、本発明に係る閉ループ制御手段に伝達される。
【0078】
スイッチの切り替え後、アクティブになっていた閉ループ制御のパラメータは、閉ループ制御構造の全ての変更のために再び初期化される。
【0079】
図8は、本発明に係る閉ループ制御方法において好適に用いられる更なる反応器の構成を示す図である。上記の実施例と異なる点は、反応器周辺のジャケットの冷却能力が冷却水の流入によって影響されないばかりでなく、スプリットレンジ閉ループ制御システムによる冷却水の流入温度TJinの設定によっても影響されない。
【0080】
制御アルゴリズムまたはパイロット制御を切り替えるスイッチを具備しない従前のプロセス制御概念と対比すると、本発明に係る2の反応器の構成では、バッチ方式に依存して10%〜30%の測定時間の短縮が達成できる。更に、同じタイプのバッチ式の再生産性を増大させることが可能となる。
【0081】
上記実施例では、プロセスエンジニアリング工程は、熱キャリア媒体としての冷却水が流れるジャケットに囲まれた半バッチ式反応器で本質的に発生する。しかし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。例えば、反応器の更なる熱交換装置は、例えば、熱キャリア媒体が外側または内側を流れる半コイル状の反応器や、流路が形成されたパイプ状のコイルといった反応器、または電気ヒータといった当業者に知られた技術を用いることができる。熱を放出する慣習的な更なる手法は、特に、反応により気相が存在しまたは生成されるポリマー化プロセスの場合の気化冷却である。反応器内の内部気化冷却と外部気化冷却との間の区別がつけられ、ガス状の反応器内容物の一部が反応器に接続された熱交換器内に導入され、そこで濃縮される。液相は、外部の熱交換器で冷却または加熱される。熱交換器は、公知の構成のものであれば全て用いることができる。特に、熱キャリア側の気化冷却の法則を用いることができる。
【0082】
本発明に係る閉ループ制御方法は、上記した実施例にも好適に用いることができる。設備の点でそれぞれの状況に応じて、特に1以上の出発物質の流量、供給される熱キャリア媒体の流量、供給される熱キャリア媒体の温度、反応器にまたは反応器の上に配置されるヒータの出力、反応器内の圧力または反応器に接続された熱交換器内の圧力及び外部の熱交換器に関する熱キャリア媒体の流量または温度は、操作変数として好適である。
【0083】
同様に、本発明は、反応によって放出される熱が取り去られなければならないプロセスに限定されることはない。加熱を要求するプロセスでさえ、本発明に係る方法を好適に用いることが可能である。上記したように、熱キャリア媒体は水のみならず、油、他の液体または蒸気、例えば水蒸気を用いることも可能である。
【0084】
本発明に係る方法は、半バッチ式反応器及びバッチ式反応器の場合のプロセス制御のみならず、例えば晶析装置、クロマトグラフィカラム、蒸留カラム、精留カラムまたは吸収カラムといった、物質を変換または分離する他のプロセス技術装備及び設備におけるプロセスを改善することも可能である。
【符号の説明】
【0085】
10 目標値軌跡跡用信号発生器
20 閉ループ制御
21 マスタ制御
22 スレーブ制御
30 プロセス
31 第1サブプロセス
32 第2サブプロセス
40 パイロット制御
50 状態評価装置
60 スイッチング論理
61 閉ループ制御入力の選択ブロック
62 閉ループ制御出力の選択ブロック
63 パイロット制御出力の選択ブロック
M 閉ループ制御装置
in 出発材料の流入
J クーラントの流入
P 圧力
S 予め設定された圧力
C 閉ループ制御からスイッチング論理への信号
CM 閉ループ制御からスイッチング論理への信号(マスタ制御)
CS 閉ループ制御からスイッチング論理への信号(スレーブ制御)
F パイロット制御からスイッチング論理への信号
LC スイッチング論理から閉ループ制御への信号
LCM スイッチング論理から閉ループ制御への信号(マスタ制御)
LCS スイッチング論理から閉ループ制御への信号(スレーブ制御)
LF スイッチング論理からパイロット制御への信号
LS スイッチング論理から選択ブロックへの信号
J、in クーラント流入の温度
J、out クーラント流出の温度
R 反応混合物中の温度
RS 予め設定された反応温度
u 生成操作変数
C 閉ループ制御操作変数
CM 閉ループ制御操作変数(マスタ制御)
CS 閉ループ制御操作変数(スレーブ制御)
F パイロット制御操作変数
FM パイロット制御操作変数(マスタ制御)
FS パイロット制御操作変数(スレーブ制御)
M 生成操作変数(マスタ制御)
S 生成操作変数(スレーブ制御)
W 目標値
ext 外部目標値
t 目標値の軌跡
y 閉ループ制御変数
1 閉ループ制御変数(マスタ制御)
2 閉ループ制御変数(スレーブ制御)
【数8】

更なる状態変数
測定された状態変数
1 第1サブプロセスの測定された状態変数
2 第2サブプロセスの測定された状態変数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセスエンジニアリング工程の閉ループ制御を実行する方法であって、
閉ループ制御変数(y)用の目標値の軌跡(Wt)を提供するステップと、
プロセスの閉ループ制御変数(y)及び更なる状態変数
【数1】

を検出するステップと、
閉ループ制御変数(y)とこれらの目標値との対比から制御誤差を検出するステップと、
制御誤差に基づく閉ループ制御操作変数(uC)を制御アルゴリズムによって決定するステップと、
パイロット制御操作変数(uF)を決定するステップと、
閉ループ制御操作変数(uC)及びパイロット制御操作変数(uF)から生成操作変数(u)を算出するステップと、
プロセス中に生成操作変数(u)を設定するステップと、を備え、
制御アルゴリズム及び/またはパイロット制御の構造が、閉ループ制御変数(y)、更なる状態変数
【数2】

及び/または目標値の軌跡(Wt)の関数として変更されることを特徴とする方法。
【請求項2】
カスケード接続され、少なくとも1のマスタ制御及びこれに従属する少なくとも1のスレーブ制御の生成操作変数が、それぞれの閉ループ制御操作変数及びこれらに割り当てられたパイロット制御操作変数を基にして算出されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1のスレーブ制御の制御アルゴリズム及び/またはパイロット制御の構造が変更されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
制御アルゴリズム及び/またはパイロット制御の構造の変更は、連続的なスイッチングモードの発生によって設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
新たなスイッチングモードへの切り替えの際またはスイッチングモードの間に、1以上の目標値の軌跡(Wt)が再度算出されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
制御アルゴリズムの構造の変更は、閉ループ制御変数(y)及び閉ループ制御操作変数(uC)の論理的組合せの変更を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
パイロット制御の構造の変更は、種々の状態依存算出基準または予め設定されたパイロット制御操作変数(uF)の変更を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
1以上のパイロット制御操作変数(uF)が、少なくとも1のスイッチングモードの間のシステム反転によって生成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
閉ループ制御変数(y)及び/または更なる状態変数
【数3】

を検出するためにプロセス中で直接的に測定できる状態変数(y)に基づく状態評価方法が用いられることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
状態評価方法は拡張カルマンフィルタを有することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
プロセスエンジニアリング工程は、バッチ式操作モードまたは半バッチ式操作モードで実行されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
閉ループ制御として用いられるプロセスは、熱交換設備を備えたバッチ式反応器または半バッチ式反応器を有することを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
供給される出発物質の流量、
供給される熱キャリア媒体の流量、
供給される熱キャリア媒体の温度、
反応器内にまたは反応器上に配置されるヒータの出力、
反応器内または反応器に接続される熱交換器内の圧力、
外部の熱交換器に関する熱キャリア媒体の流量または温度、
のうちから少なくとも1の操作変数が選択されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
プロセスエンジニアリング工程の閉ループ制御を実行する閉ループ制御装置であって、
閉ループ制御変数(y)用の目標値の軌跡(Wt)を利用可能とする1の信号発生器(10)と、
閉ループ制御変数(y)及びプロセスの更なる状態変数
【数4】

を検出する装置と、
制御アルゴリズムによって制御誤差に基づく閉ループ制御操作変数(uC)を決定する閉ループ制御(20、21、22)と、
パイロット制御操作変数(uF)を決定するパイロット制御(40)と、
閉ループ制御操作変数(uC)及びパイロット制御操作変数(uF)から生成操作変数(u)を算出する手段と、
プロセスに生成操作変数(u)を適合させる手段と、を備え、
制御アルゴリズム及び/または閉ループ制御変数(y)の関数としてのパイロット制御の構造、更なる状態変数(y)(数1)及び/または目標値の軌跡(Wt)の変更に適した少なくとも1のスイッチング論理(60)を具備することを特徴とする閉ループ制御装置。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか1項に係る方法の全てのステップを実行するプログラムコード手段を有するコンピュータプログラムであって、
コンピュータ、プロセス制御システムまたは対応するコンピュータユニットで作動することを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−505489(P2013−505489A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529230(P2012−529230)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063395
【国際公開番号】WO2011/032918
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】