化学試薬を利用したアスパラギン酸位置で蛋白質開裂
本発明は質量分析法で特定試料に含まれているポリペプチドの同定方法に関するものである。さらに詳しく、本発明はプロテオミック分析のための試料の製造法に関するものである:特定開裂規則(N-末端、またはC-末端のアスパラギン酸での開裂)で蛋白質をペプチドに断片化する方法を提供し、前記ペプチドは質量分析器で分析するのに適している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛋白質の同定及び定量化のための蛋白質加工法に関するものである。さらに詳しく、本発明は化学試薬を使用して蛋白質をペプチドに加工する方法及びキットに関するものと、前記加工法及びキットを広範囲のプロテオミクス研究に利用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特定生物種において遺伝子の予測のための有用な情報を完全なゲノム序列分析法が提供してはいるが、前記ゲノム序列のみでは生物学的及び病理学的過程の底辺にある機作を説明することはできない。その理由は、翻訳された蛋白質産物の具体的な定量的または分子的情報、例えば、構造、機能的活性、翻訳後変形状態などに対しては正確に予測できないためである。プロテオミクス(proteomics)の新たな分野は分子的水準の生化学的情報を解決することを目標とする。したがって、与えられた状況でプロテオム(proteom)の理解は細胞または生命体の生理的状態を評価するのに必須である。
現在、質量精度を高める方法、例えば、質量分析法(Mass Spectrometry)により、蛋白質をさらに速く正確に同定するために、増加する需要に応じて、多くの技術が開発されてきた。プロテオミック分析に使用されるプラットホームは、試料に含まれる各種蛋白質の分離と同定を含む2種類の広範囲な実務過程の統合を含む。質量分析法を適用する前に、1種類か複数種類の2−DE(2次元ゲル電気泳動:Two-dimensional gel electrophoresis)または液体クロマトグラフィ(LC)を使用して蛋白質を分離する。2-DEでは、前記蛋白質はゲル中にあって、主に分子量と等電点に依存して移動するので、特徴的なゲルパターンを形成する。質量分析法が一般に蛋白質同定に使用される。質量分析法では、蛋白質またはペプチドがイオン化され、イオン化された種は真空中で電磁界の影響を受けやすい。これらの分子量はイオンの移動経路から推測できる。蛋白質やペプチドの同定は、質量分析(MS)またはタンデム質量分析(MS/MS)により、ペプチド指紋追跡(fingerprinting)法またはデノボ序列分析(de novo sequencing)で明らかにできる。
【0003】
プロテオミクス研究で幅広く使用する試料準備法において、少なくともいくつかの蛋白質が十分にイオン化されて特定範囲の質量を分析する一般的な質量分析器にも適用可能なペプチドを生成することによって探知の可能性を向上させるために、MS分析を行う前に蛋白質を酵素開裂して構成ペプチドにする。蛋白質の酵素消化後、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行って蛋白質を分離し、前記分離された蛋白質のペプチド質量マッピングを行うことは蛋白質特性分析で一般に行われる手続きである。最もよく使用されるプロテアーゼはトリプシンであり、その理由としてはトリプシンを処理して得られたペプチドはよく調査された特異性と正確な大きさを持っていて質量分析法に有用であるためである。市販のいくつかの他のプロテアーゼとしてはある気質に対してはLys-C、Glu-C及びAsp-Nを区別する。トリプシン消化は複数の分解活性の強い地点があるために疎水性蛋白質または塩基性の非常に高い蛋白質に対しては適用することが難しい。また、プロテアーゼ自家消化産物(例えば、トリプシンの場合には、261.14、514.32、841.50、905.50、1005.48、1044.56、1468.72、1735.84、1767.79、2157.02、2210.10、2282.17、3012.32、4474.09、4488.11Da)が度々スペクトル解釈に妨害になる。さらに、効率的で特異な蛋白質消化過程のために必要ないくつかの緩衝液は化学的ノイズを生成することもあって、質量分析を行う前に追加的な精製過程が必要である。
【0004】
酵素消化の代案として、酸加水分解を使用する新たな蛋白質分析法が最近開発された。蛋白質を効果的に開裂するための他の多様な進め方が報告されている。バーク(Bark)等はサーモリシン(thermolysin)を利用する高温蛋白質消化法を開発した。ゴボム(Gobom)等はペンタフルオロプロピオン酸(PFPA)を使用して気相酸化加水分解法を提案した。しかし、序列はしご(ladder)を含む3つの異なる開裂類型が観察され、これはスペクトル複雑性増加という新たな短所を招いた。アイクンリ(AiqunLi)などは2(v/v)%蟻酸を使用してアスパラギン酸の位置で蛋白質を化学的に開裂する方法を提案したが、予測しなかったホルミル化断片が生じ、これによってペプチド-質量指紋追跡法(PMF)を使用して蛋白質を同定することが難しい問題であった。追加的に、前記蟻酸を利用する方法は序列分析データが明確な開裂規則を示さなかった。
【0005】
また、他の観点で、蛋白質の相対的な定量分析を行うために、ボトム-アップ(bottom-up)プロテオミクスと安定な同位元素標識を使用する多様な分析法が報告された。このような方法は次のように大別することができる:(1)蛋白質合成過程に同位元素標識が含まれる代謝的方法(metabolic)、(2)安定な同位元素標識がICATTM法である場合、システインのような特異のアミノ酸を含有するペプチドにのみ適用されるアミノ酸特異な方法(amino acid-specific)及び(3)プロテオムのすべてのペプチドに同位元素標識を付けるグローバル標識法。本明細書において、“同位元素タグ”(isotope tag)は同位元素を挿入するのに適した化学的性質を有する化学的残基で、2種類のサンプルで異なって標識されたポリペプチドを生成させる。前記同位元素タグは安定な同位元素が1つ以上の原子に併合可能にする適した組成物を含む。特に、有用で安定な同位元素対は水素と重水素であり、これらは質量分析法で容易に区別することができ、例えば、13C、15N、17O、18Oまたは34Sである。ICATTMのようなアミノ酸特異的方法はサンプル複雑性を減少させるという長所はあるが、少ない数のシステインに対して区別する短所がある。また、蛋白質をトリプシン性ペプチドのC-末端で同位元素で標識することもできる。グローバル標識法は酵素でアミド骨格を開裂する過程で水分子を経由してペプチドで同位元素標識を挿入させる。キモトリプシンとAsp-Nは1つの18O原子のみを併合させ、トリプシン、Glu-CまたはLys-Cは得られたペプチドのC-末端に2つの18O原子を挿入させる。
【0006】
さらに、ペプチドとアミノ酸のカルボン酸基に存在する18O標識は逆交換に抵抗性を有する。したがって、液体クロマトグラフィ、電気噴霧イオン化(ESI)及びマトリックス支援レーザー脱着/イオン化(matrix-assisted laser desorption/ionization、MALDI)を行う一般的な条件下で、C-末端でのカルボン酸基と酸素原子間の共有結合は安定である。高い同位元素標識に対する好ましい方法として知られたいくつかの適用例18O-標識方法はますます注目されており、そのいくつかの適用例が公開されている。プロテオームの定量的分析用として各断片の最大標識化を達成するために、できるだけ最大に濃縮されたH218Oを使用することが有利である。
【0007】
本発明は米国特許庁に2004年9月15日付で出願された仮出願第60/610,306号を優先権として主張して出願し、前記仮出願明細書全体を参考文献として本明細書に併合する。
【0008】
【非特許文献1】Aiqun Li et al. Anal Chem. 2001, 73, 5395-5402, Chemical Cleavage at Aspartyl Residues for Protein Identification
【非特許文献2】Peter Roepstorff et al. Anal Chem. 1999, 71, 919-927, Use of Vapor-Phase Acid Hydrolysis for Mass Spectrometric Peptide Mapping and Protein Identification
【非特許文献3】Zee-Yong Park et al. Anal Chem. 2000, 72, 2667-2670, Thermal Denaturation: A useful Technique in Peptide Mass Mapping
【非特許文献4】Steven L. Cohen et al. Anal. Chem. 1996, 68, 31-37, Influence of Matrix Solution Conditions on the MALDI-MS Analysis of Peptides and Proteins
【非特許文献5】Bart A. van Montfort et al. J. Mass Spectrom. 2002, 37, 322-330, Improved in-gel approaches to generate peptide maps of integral membrane proteins with matrix-assisted laser desorption/ionization time-of fanlight mass spectrometry
【非特許文献6】J.otte et al, J. Agric. Food Chem. 2000, 48, 2443-2447, Identification of Peptides in Aggregates Formed during Hydrolysis of b-Lactoglobulin B with a Glu and Asp Specific Microbial Protease
【非特許文献7】Adrianne Kishiyama et al, Anal. Chem. 2000, 5431-5436, Cleavage and identification of Proteins: A Modified Aspartyl-Prolyl Cleavage
【非特許文献8】Cornelia Koy et al. Proteomics 2003, 3, 851-858, Matrix-assisted laser desorption/ionization-quadrupole ion trap-time of flight mass spectrometry sequencing resolves structures of unidentified peptides obtained by in-gel tryptic digestion of haptoglobin deribatives from human plasma proteomes.
【非特許文献9】Melanie Lin et al. Rapid Commun. Mass Spectrum. 2003, 17, 1809-1814, Intact protein analysis by matrix-assisted laser desorption/ionization tandem time-of-flight mass spectrometry.
【非特許文献10】Xudong Yao et al. Anal. Chem. 2001, 73, 2836-2842, Proteolytic 18O Labeling for Comparative Proteomics: Model Studies with Two Serotypes of Adenovirus
【非特許文献11】Marcus Bantscheff et al, Rapid Commun. Mass Spectrum. 2004, 18, 869-876, Femtomol sensitivity post-digest 18O labeling for relative quantification of differential protein complex composition.
【非特許文献12】Kenneth L. Johnson et al. J Am Soc Mass Spectrom 2004, 15, 437-445, A Method for Calculating 16O/18O Peptide Ion Ratios for the Relative Quantification of Proteomes.
【非特許文献13】Y.Karen Wang et al, Anal. Chem. 2001, 73, 3742-3750, Inverse 18O Labeling Mass Spectrometry for the Rapid Identification of Marker/Target Proteins.
【非特許文献14】Schnolze,M.;Jedrzejewski,P.;Lehmann,W.D. Electrophoresis 1996, 17, 945-953,
【非特許文献15】Methods in ENZYMOLOGY Vol 91, Enzyme Structure Part 1, 324-332, Cleavage at Aspartic Acid
【非特許文献16】Methods in ENZYMOLOGY Vol 4, Enzyme Structure, 255-263, Cleavage at Aspartic Acid
【非特許文献17】Gargi Choudhary et al. Jounal of Proteome Research 2003, 2, 59-67
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的はペプチドの予想できない変形を起こさず、アスパルチル残基で開裂する厳しい特異性を示す蛋白質酸加水分解法、キット及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は蛋白質の同定及び定量分析のために、蛋白質の酸加水分解(本明細書でアスパラギン酸残基で蛋白質開裂(PCA))のための最適組成の化学試薬を提供する。本発明による切片化方法を適用して生成されたペプチドをデノボ序列分析または質量分析結果のペプチド-質量指紋追跡法で試料に含まれる蛋白質の同定を行うことができる。
【0011】
本発明は水槽だけでなく、キャップを同一な温度で加熱することによって蒸気圧の損失を最少化し、95°C以上で溶液を反応させるために開発されたPCA装置を提供する。本発明による方法は質量分析の前に、単に数時間試料の準備と反応を行うことを含む便利で簡単な蛋白質加工法を提供する。さらに、PCAはトリプシン消化と組み合わせて、 蛋白質の詳しい構造的分析を行うのに十分な程度にタンデム質量分析に適したペプチドを得ることができる。
【0012】
また、本発明は比較プロテオミクスのために加水分解過程でH218Oを使用して蛋白質の18O-標識概念を採択した蛋白質の定量分析方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は酸成分、水と混合可能な有機溶媒及び還元剤を含むポリペプチド加水分解用組成物に関するものである。前記酸成分はトリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl、o-ヨード安息香酸、氷酢酸またはpH2付近の緩衝力を有する酸である。好ましくは、前記酸成分はトリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl及びo-ヨード安息香酸の混合物であってもよい。
【0014】
反応過程で加水分解溶液のpHは1.5ないし2.5である。前記加水分解溶液は少なくとも2乃至30(v/v)%の氷酢酸を含む。前記加水分解溶液は15(v/v)%の氷酢酸(pH2.0)を含む。
【0015】
前記水と混合可能な有機溶媒はアセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)またはアルコールである。例えば、前記水と混合可能な有機溶媒は少なくとも5-70(v/v)%のアセトニトリル、好ましくは30(v/v)%のアセトニトリルであってもよい。
【0016】
前記還元剤はトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオトレイトール(DTT)、またはベータ-メルカプトエタノールである。前記還元剤はTCEPのようなpH1.5乃至2.5の酸性pH範囲を有するホスフィン化合物であってもよい。前記還元剤は少なくとも1mM乃至1MのTCEPまたはDTTであってもよい。前記還元剤は少なくとも10mMのTCEPまたはDTTであってもよい。
【0017】
例えば、前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸2-30(v/v)%、アセトニトリル、5-70(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含む組成物であってもよい。前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル5-70(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含む組成物であってもよい。前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル30(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含む組成物であってもよい。前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル30(v/v)%及び10mMのTCEPを含む組成物であってもよい。
【0018】
前記組成物は水と混合可能な有機溶媒及び還元剤を含まなくてもよい。
【0019】
本発明による組成物は界面活性剤を追加的に含むことができ、前記界面活性剤はオクチル-β-グルコピラノシド(OBG)または硫酸ドデシルナトリウム(SDS)であってもよい。
【0020】
追加的に、本発明は前記加水分解用組成物とポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、選択的に前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を決める段階を含むアスパラギン酸残基でポリペプチドを加水分解する方法を提供する。
【0021】
本発明の具体的一例で、前記ポリペプチドのアミノ酸序列を決める方法は下記の段階を含む:
(i)前記加水分解用組成物をポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(ii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iii)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結して前記ポリペプチドの全アミノ酸序列を得る段階。
【0022】
前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列は質量分析法で決めることができる。水を重水素または三重水素で示したり、或いは17Oまたは18Oで表示することができる。前記ポリペプチドの加水分解は約75乃至150°Cの反応温度で加熱して行ううことができる。前記加水分解反応容器の材質はプラスチックであってもよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、高密度ポリエチレンまたは低密度ポリエチレンであってもよい。前記反応熱加熱法はマイクロ波または超音波であってもよい。
【0023】
前記N-末端、C-末端またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド断片を含む変形された開裂規則を使用したデータベース検索でポリペプチドの序列を決めることができる。前記データベース検索はN-末端、C-末端またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド断片を含む開裂規則と変形規則を有するPCAデータベースメニューで行うことができる。
【0024】
本発明の具体的な例で、本発明は下記の段階を含むポリペプチドのアミノ酸序列を決める方法を提供する:
(i)ポリペプチドをプロテアーゼで加水分解してポリペプチド切片を得て、
(ii)前記段階(i)の結果物を前記加水分解組成物で加水分解して切片のN-末端またはC-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(iii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iv)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結してポリペプチドのアミノ酸序列を決めることによってポリペプチドの全アミノ酸序列を得る段階。
【0025】
前記方法はN-末端、C-末端またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド断片を含む変形された開裂規則を使用したデータベース検索でポリペプチドの序列を決めることができる。データベース検索はN-末端、C-末端またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を含む開裂規則と変形規則を有するPCAデータベースメニューで行うことができる。
【0026】
本発明の具体的な例で、本発明は(i)酸容液と水を含有する第1容器;そして(ii)物と混合可能な有機溶媒を含む第2容器を含むポリペプチド加水分解キットを提供する。前記第2容器は還元剤を追加的に含むことができる。
【0027】
本発明は下記の実施例を参照してさらに詳しく説明するが、下記の実施例は本発明の保護範囲を制限する意図で解釈されない。
【実施例1】
【0028】
1.化学試薬を使用したアスパラギン酸残基(PCA)で蛋白質消化
本発明は従来の他の分解法に比べて優れたプロテオム分析法を提供する。図1に示したように、PCA溶液を使用して溶液またはゲルに含まれる蛋白質は効果的に開裂されてペプチドを生成し、前記得られたペプチドの質量パターン及びアミノ酸序列を質量分析器で分析することができる。PCA溶液の存在の下で溶媒またはゲルに存在する蛋白質を95°C(99.9°Cで反応することがさらに好ましい)以上の温度で10分以上反応させた。
【0029】
1-1.PCA溶液の組成
1.酸成分:トリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl、o-ヨード安息香酸、氷酢酸、蟻酸
(酢酸のような酸はpH2近くの緩衝力を有し、反応する間に予測できない変形を招かないことが好ましい)
2.水と混合可能な有機溶媒:アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)またはメタノールまたはエタノールのような全ての種類のアルコール
(アセトニトリルの含量は30(v/v)%が好ましい。)
3.二硫化結合の還元剤:TCEP、DTT
(酸性pH条件で作用するTCEPのような還元剤が好ましい)
収率、効率及び特異性面で反応は15%酢酸(2.62mM)、30(v/v)%アセトニトリル及びTCEP(10mM)を含むことがアスパラギン酸残基で蛋白質開裂及び蛋白質の二硫化結合の還元に最適であり得る。
【0030】
その後、前記試料を室温に冷却させて迅速な真空乾燥のために反応溶液を新たなチューブに移動させず、同一な反応チューブで乾燥した。前記乾燥されたペプチド抽出物を適切な容量の0.1(v/v)%TFAで希薄にさせた。TCEPオキシド(TCEPO)及び質量分析に妨害になり得る他の塩を除去するための脱塩過程をμ-C18ZipTipに通過させて行った。前記得られたペプチドを質量分析器で分析した。
【0031】
1-2.BSA及びユビキチンを利用したサンプルテスト
1-2-1.BSA
牛胎児血清(Bovine Serum Albumin、BSA、Calbiochem Catalog No.126609)を使用して試料製造のためのPCA法の有用性を検証した。15(v/v)%酢酸(pH2.0)、30(v/v)%のアセトニトリル及び10mMのTCEPを含むPCA溶液で99.9°C温度で2時間反応した。得られた質量分析結果でpyro-gluE(N-末端)及びpyro-gluQ(N-末端)を除いてはいかなる任意的変形も観察されなかった。これら任意の変形はMASCOTTMによる蛋白質同定を妨害しない。前記反応過程で、ノイズ-対信号を満足する57個ピークを観察し、これはアスパルチル残基でBSAが開裂されることによって生成された予想された産物である。BSA序列の中で、PCA法の適用で43%を直接回収した(図2)。システインをさらに多く含むペプチドをPCA溶液の中でDTTの代わりに還元剤としてTCEPを含んで回収する。DTTを還元させるための最適のpHは弱塩基性であるので、酸加水分解条件でペプチド間二硫化結合を開裂するためには多量のDTTが必要である。TCEPは蛋白質の酸加水分解に最適pH範囲で作用できる還元剤として選択される。
【0032】
1-2-2.ユビキチン
PCA法の適用の可能性を検証するために、小さい大きさの蛋白質の例としてユビキチン(Sigma Catalog No.U6253)を使用した。15(v/v)%酢酸(pH2.0)、30(v/v)%のアセトニトリル及び10mMのTCEPを含むPCA溶液で99.9°C温度で2時間反応させた。ユビキチンに対して実験する場合に、ユビキチンは二硫化結合が存在しないためにTCEPを反応混合液に含めなかった。PCA法でユビキチンを開裂して100%完全な結果が得られた(図3)。トリプシン消化ではユビキチンの約82%アミノ酸序列のみが分かり、ユビキチンの他の変形体をMASCOTTMで分析した。
【実施例2】
【0033】
2.PCAと酵素消化の併行遂行
酵素分解とPCA法を併行して随行することができるかどうかについて調べた。トリプシンは蛋白質消化で幅広く使用される酵素である。アスパルチル残基(D)で起こる開裂は酵素蛋白質消化に対する接近性が良くないかアミノ酸開裂が殆どない試料を取り扱う場合に有用である。
【0034】
2-1.多様な分解のためのBSAを利用するサンプルテスト
BSA(10pmole)を50mMの重炭酸アムモニウム溶液に溶解して1-5μM濃度の溶液を製造した。蛋白質溶液を等分して、90°Cで20分間暖めて熱変成させた。次いで、変成過程を終了するために前記蛋白質を氷水水槽に移動させた。熱変性された蛋白質試料を序列分析用等級の変性トリプシンで37°Cで12時間反応させて酵素的に分解させた。50mMの重炭酸アムモニウム溶液中に分解された試料を反応チューブに移動させた後、99.9°Cで30分間加熱して重炭酸アムモニウムを蒸発させて除去した。加熱した後、PCA溶液に溶解された乾燥試料を15(v/v)%酢酸(pH2.0)、30(v/v)%のアセトニトリル及び10mMのTCEPを含むPCA溶液で99.9°Cで2時間加熱した。前記試料を室温に冷却させて反応溶液を同一な反応チューブで99.9°Cで乾燥した。前記乾燥ペプチド抽出物を5μLの0.1(v/v)%TFAで希釈し、μ-C18ZipTipsを使用して脱塩処理を行った。ZipTipに結合されたペプチドを0.1(v/v)%のHAc(酢酸)溶液または50(v/v)%ACN/0.1(v/v)%HAcに溶解された5μLそれぞれ20(v/v)%、50(v/v)%及び80(v/v)%CANを使用して段階的に溶出させた。前記得られたペプチド溶液を乾燥して体積を約5μLに減少させ、MALDI-TOFのためにマトリックス溶液を添加した。ZipTip使用の目的はMS分析を行う前に塩を除去することである。このような進め方はBSAのような蛋白質の特性分析に適用され、その結果、PCA法及びトリプシン消化法によって得られた40%及び32%に比べて高い水準の同定率(87%)を得ることができる。図4参照。
【0035】
2-2.化学的及び酵素的方法で膜蛋白質を順次に分解
膜蛋白質のプロテオミック分析は多様な信号ネットワークの理解と特定疾患に対する標的発見のために必須で魅力的な主題である。大部分の研究者は酵素分解及び質量分析を行う前に蛋白質の分離のために二次元電気泳動からなる伝統的なプロテオミック方法に依存し、僅か数個の研究だけでゲル-フリーLC-MS/MSに対して好意的に報告された。しかし、ゲル-フリーLC-MS/MS技術が膜断片から膜貫通蛋白質を分離するために界面活性剤またはカオトロピック試薬に依存的であった。本発明者らは膜蛋白質を分析するために新たなゲル-フリー界面活性剤も不要なショットガンプロテオミック法(shotgun proteomic method)を開発した。本発明による技術によって(CCPA法、Chemical Cleavage of Proteins at Aspartic acid)、マウスの脂質ラフト蛋白質の脱脂質化(de-lipidated)結合体を成功的にペプチドで開裂した。
【0036】
2-2-1.マウス脳から脂質ラフトの準備
脂質ラフトに存在する蛋白質の組成を糾明するための多様なプロテオミック研究が行われてきたので、化学的開裂の有用性を立証するために脂質ラフトを選択した。プロテオミクス2004、4、3536-3548に記載された方法によって脂質ラフトを準備した。(1(v/v)%TritonX-100、25mMのHEPES、pH6.5、150mMのNaCl、1mMのEDTA、1mMのPMSF及びプロテアーゼカクテル(Roche Molecular Biochemicals、Indianapolis、IN、USA)を含む分解緩衝液でタイトドンスホモゲナイゼ(tight Dounce homogenizer(Kontes、Vinel及びNJ、USA))を使用してマウス脳を20回均質化し、4℃で20分間反応させた。前記抽出物を2.5Mのサッカロース溶液と混合し、SW41遠心分離チューブに移動させて25mMのHEPES、pH6.5及び150mMのNaClを含有する30(w/v)%のサッカロース溶液及び5(w/v)%のサッカロース溶液で覆った。不連続的なサッカロース濃度勾配で4℃、SW41ローターで39000rpmで18時間遠心分離した。前記濃度勾配は底から 上端まで12分画に区分した。脂質ラフト画分を洗浄緩衝液(25mMのHEPES、pH7.4、150mMのNaCl)を使用して超遠心分離(20000rpm、30min、47C)を行って洗浄し、50mMの重炭酸ナトリウムに懸濁させた。アセトン処理及び後続的な洗浄段階を行うことによって膜蛋白質の沈殿物を得た。得られた蛋白質沈殿物を乾燥させた。
【0037】
2-2-2.脱脂質化された膜蛋白質のPCA反応
15(v/v)%の酢酸(pH2.0)、30(v/v)%アセトニトリル及びTCEP(10mM)を含有するPCA溶液に前記建造物質を溶解し、PCR装置で99°Cで4時間反応させた。図5に示したように、膜蛋白質を開裂して得られたペプチドをトリス-トリシン(Tris-Tricine)電気泳動に次いで蛋白質またはペプチド可視化方法を行って確認した。
【0038】
2-2-3.PCA-開裂された膜蛋白質の分離
図6に示したように、化学的に分解された膜蛋白質を逆相カラムクロマトグラフ(Chromolith-C18、Merck)を行って分離した。カラムで得られた分画は約9種類分画で、それぞれ分離して乾燥させた。
【0039】
2-2-4.PCA-開裂された膜蛋白質のトリプシン消化
前記9個の乾燥分画物を、50mMの重炭酸アムモニウムの中で1/50のトリプシンと共に37℃で12時間暖めた。これで得られたペプチドをLC-MS/MSで分析した。
【実施例3】
【0040】
3.PCA-DMT(Differential Mass Tagging)
試料の定量的分析のために16Oまたは18Oを含む水で化学的に同一であるが、放射線同位元素に区別されるように2種類の試料を標識した。反応過程中で1つまたは2つの酸素原子交換が起こることがあり、これによって質量分析法で区別される程度の2または4Daの分子量の差をもたらす。PCA-DMT方法で、18O-水を含むPCA溶液の場合に得られる値に比べて、16O-水を含むPCA溶液で行った化学的開裂で得られた単一放射線同位元素の質量信号の強度を比較することで蛋白質の相対的定量分析を行う。
【0041】
3-1.ユビキチンを使用するサンプルテスト
15(v/v)%の酢酸(pH2.0)、30(v/v)%アセトニトリル及びTCEP(10mM)を含有するPCA溶液の存在下で水に溶解されたまたは乾燥したゲルバンドにある蛋白質を99.9°Cで2時間加熱した。差分質量タグを行うために、16O-水を18O-水で置換した。その後、前記試料を室温に冷却させ、反応溶液を反応チューブで99.9°Cで乾燥し、5μLの0.1(v/v)%TFAに溶解させ、μ-C18ZipTipsを使用して脱塩過程を行った。ZipTipに結合されたペプチドを0.1(v/v)%のHAc(酢酸)溶液または50(v/v)%ACN/0.1(v/v)%HAcに溶解された5μLそれぞれ20(v/v)%、50(v/v)%及び80(v/v)%CANを使用して段階的に溶出させた。前記得られたペプチド溶液を乾燥して体積を約5μLに減少させ、MALDI-TOFのためにマトリックス溶液を添加した。前記実験例のうちの1つは図7に示した。前記ペプチドに対して単一放射線同位元素ピークの正確な質量測定を行ってQQRLIFAGKQLED(Pyro-glu(N-末端))で示し、2または4Daの分子量変化もまた観察され、C-末端のカルボン酸基で1つまたは2つの18O原子が含まれたことを示す。MALDI-TOF(ABI4700analyzerTM)を使用して10ppmの質量正確度で質量スペクトルを得た。
【0042】
m/z値(質量スペクトルのx-軸に記載された数値)をM0で記載し、一連の放射線同位元素質量を分子量差による昇順としてM1、M2、M3、M4で示した。m/zの信号大きさ(質量スペクトルのy-軸に記載された数値)はS16(M0)、S16(M1)、S16(M2)、S16(M3)及びS16(M4)で示した。ここで、数字16は化学的開裂に使用された水の酸素原子の質量を示す。したがって、18O-水を用いた場合には、化学的開裂を通じて単一放射線同位元素質量の信号大きさはS18(M0)で示し、それぞれ16O-水または18O-水の存在下で行われた個別的な化学的開裂反応で得られた産物を混合して得られた信号強さはS16+18(M0)で示す。K1は18O-水の存在下で行われた化学的開裂反応で酸素原子1つが含まれる場合の係数であり、K2は酸素原子2つが含まれる場合の係数である。K1及びK2の合計を計算することによって2種類の異なる試料に存在する蛋白質量の相対的な比較が可能である。数学的意味で、K1及びK2は下記式から得られる。
【0043】
S16+18(Mx)=S16(Mx)+K1*S16(Mx-2)+K2*S16(Mx-4)
[m/z数値は0以上]
S16+18(M2)=S16(M2)+K1*S16(M0)+K2*S16(M-2)=S16(M2)+K1*S16(M0)
K1=(S16+18(M2)-S16(M2))/S16(M0)
S16+18(M4)=S16(M4)+K1*S16(M2)+K2*S16(M0)
K2=(S16+18(M4)-S16(M4)-K1*S16(M2))/S16(M0)
図7に示した質量スペクトルから、16O-水及び18O-水が存在する場合に、ユビキチンの化学的開裂で得られたペプチドの混合比率は上記式から計算することができる。
【0044】
K1=(5963.09−0.49389*8251.56)/8251.56=0.2287
K2=(4966.49-(0.06472*8251.56+0.49389*1887.73))/8251.56=0.4242
K1+K2=0.6529
16O-水及び18O-水が存在する場合に、ユビキチンの化学的開裂で得られたペプチドの混合比率は1:0.65である。理論的に計算された数値との差は5%の16O-水を含む18O-水を使用したためであり、TCEP及び試料(ユビキチン)のような他の試薬に存在する16O-水の汚染可能性、そして反応過程で空気から16O-水の混入可能性のためである。
【実施例4】
【0045】
4.MALDI MS分析用サンプル準備
5μLの0.1(v/v)%TFAに前記乾燥ペプチド抽出物を溶解し、μ-C18ZipTipsを使用して脱塩処理した。ZipTipに結合されたペプチドを0.1(v/v)%のHAc(酢酸)溶液または50(v/v)%のACN/0.1(v/v)%のHAcに溶解された5μLそれぞれ20(v/v)%、50(v/v)%及び80(v/v)%CANを使用して段階的に溶出させた。前記得られたペプチド溶液を乾燥して体積を約5μLに減少させ、MALDI-TOFのためにマトリックス溶液を添加した。ZipTipを使用する目的はMS分析を行う前に試料から塩を除去するためであるが、非イオン性界面活性剤のn-OGを完全に除去することはできない。マトリックスとしてα-CHCAを使用する2層サンプル蒸着法(two-layer sample deposition method)をMALDI-MS分析法で使用した。最初の層は20(v/v)%メタノール/アセトンα-CHCAに溶解された20mg/mLのα-CHCA溶液とし、第2層は30(v/v)%のメタノール/水に溶解されたマトリックス飽和溶液とした。第2層をZip-Tippedペプチド混合物に添加して分析対象物に対するマトリックスの比率が4:1にし、ボルテックスで混合した。0.5μLの最初層を前記サンプルプローブに置き、乾燥して0.5μLの第2層を前記最初層の上端に置き、乾燥して1μLの水で2回洗浄した。
【実施例5】
【0046】
5.MALDI-質量分析法
質量スペクトルを得るためにMALDI-TOF質量分析、4700Proteomics AnalyzerTM(Applied Biosystems)を使用した。マトリックス溶液は水と50(v/v)%のアセトニトリルに溶解された10mgのα-CHCAであった。前記ペプチド混合物0.5μLの一定割合として及び0.5μLマトリックス溶液をサンプルプレート上で混合して分析する前に空気で乾燥した。
【実施例6】
【0047】
6.MALDIタンデム質量分析法(MS/MS)
TOF/TOF(4700Proteomics AnalyzerTM)を利用し製造者の指示によって基本1kvのMS/MSを使用して全てのMS/MSデータを得た。ProbotTMで点滴したLC溶出液のあるプレート(LC-MALDIプレート)からMS/MSデータを得ることは4段階で行われる。第一に、6個目盛り点それぞれからMSスペクトルを記録し、装置の基本目盛り変数とプレートモデルの適したモデルを更新する。第二に、前記プレート上の全ての144個試料点に対してMSスペクトルを記録する。最近更新した目盛り調整を使用して750レーザーシュートからデータを蓄積して各スペクトルを得る。第三に、前記装置に供給されたピークピッカーソフトウェア(Peak Picker software)を利用して144MSスペクトルを分析する。臨界基準を満足して除外リストに現れないスペクトルlピークが実験のMS/MS部分に対する結果リストに含まれる。前記臨界基準は次のように合わせる:質量範囲:650乃至4000Da;最小クラスタ領域:500;最小信号-対-ノイズ(S/N):10;ピーク/スポット:30;最大前駆体ギャップ:200ppm;最大分画ギャップ:4.マトリックスクラスタイオンを排除する質量フィルターが適用された。MS/MSに対する前駆体質量のリスト及びこれらの対応スポット数値を含むXMLファイルを得た。最後に、前記リストを4700Explorer soft ware batch editorに出力して1kVの衝突エネルギーを有する衝突ガスとして空気を使用してMS/MSスペクトルを記録した。MS/MSデータを得る過程で、終了条件のある方法を使用した。このような方法で、最小750シュート(それぞれ125レーザーシュートから得られた6サブ-スペクトル)及び最大2000シュートを各スペクトルに許容した。前駆体質量がm/z400乃至90%の範囲で、10以上のS/Nを有する10以上のイオンが蓄積されたMS/MSスペクトルに存在する場合には、追加的なレーザーシュートの蓄積を中断させた。
【実施例7】
【0048】
7.二重で分解された脂質ラフトプロテオムのLC-MS/MS分析
PCA/トリプシンで分解されたペプチドをナノLCシステム(Agilent1100)から溶出し、イオンをQSTAR-XL quadrupole TOF hybrid MS(PE-Sciex、Thornhill、Ontario、Canada)のオリフィスに直接噴射した。マウス脳の脂質ラフトをPCA/トリプシンで順次分解して得られた加水分解物に対するLC-MS/MS実験結果を図8に示した。MASCOT(Matrix Science、London)を使用する国際人間蛋白質指数データベース(Human International Protein Index database、ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/IPI/current/MOUSE)に対して検索して多重電荷を帯びたペプチドに対して断片スペクトルの情報-依存した方式でLC/MS/MSを使用して蛋白質を同定した。次のような検索変数を全てのMASCOT検索で使用した:最大CCPA-トリプシン開裂(two missed CCPA-trypsin cleasvage)、システインカーバミドメチレイション、メチオニン酸化及びMSで最大0.2-Da誤差範囲及びMS/MSデータで0.1-Da誤差範囲、最高MOWSE点数を有する有意のマッチ(match)を可能な同定と見なした。四重極-TOF混成MS(quadrupole-TOF hybrid MS)でペプチド断片化に対して受容される規則を利用して他のマッチは手動で検証した。マウス脳の脂質ラフトの選択したサブセットを図11に羅列した。得られたペプチドのLC-MS/MS分析で複数の膜蛋白質、例えばG-蛋白質、付着分子、チャンネル/移送者(transporter)、信号蛋白質(CAM-キナーゼ及びフォスフォジエステラーゼ)及びフロチリン(一種のラフトマーカ蛋白質)を同定した。
【実施例8】
【0049】
8.質量分析の解釈及びデータベース検索
蛋白質からペプチドが生成する規則はMASCOTTMの使用者マニュアルに従う指示で変形し、その結果Asp-X及びX-Asp2つの残基でPCA開裂規則はMASCOTTMプログラムに反映された。トリプシン消化過程で生じるペプチド変形、例えばメチオニンの酸化、Pyro-gluE(N-末端)、Pyro-gluQ(N-末端)がデータ検索で考慮された。本発明で開発されたアルゴリズムは質量分析用として開発された全ての種類のプログラムに適用することができる。
【実施例9】
【0050】
9.PCAプロテオミクスキット
PCAキットは溶液(溶液A及び溶液B)と、化学開裂過程で最適熱伝達及び試料損失を最少化するように設計された容器で構成された1つのセットで提供することができる。PCR反応のための薄い壁チューブが好ましく薦められる。前記反応は効果的なPCA法を行うためにPCR装置のように同一な温度で同時に容器とキャップを共に加熱することによって蒸気圧損失を最少化できるように考案された加熱装置で行われるのが好ましい。
【0051】
全反応混合物(150μL);溶液A(45μL)+溶液B(105μL)
A.溶液A;アセトンに溶解された10mMのTCEP
B.溶液B;水に溶解された21.4(v/v)%氷酢酸
ペプチド混合物を内部質量標準で使用することができる。差分質量タグには、18O-水に溶解された21.4(v/v)%酢酸を使用することができる。
【0052】
本明細書に記述された方法は基本的な知識を理解する専門家が多様な方法で変更することができる。したがって、本発明は前記実施例に限られるわけではない。データベース検索アルゴリズムに基づいて特異な開裂規則と変形規則を有する蛋白質及びペプチドの同定及び定量に他の類型の質量分析器を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1はアスパラギン酸位置での蛋白質開裂(PCA)法を使うプロテオミック分析による蛋白質同定のフローチャートである。
【図2a】図2aは、PCA法による、牛血清アルブミン(BSA)のMALDI-MS分析の結果(質量範囲800-4300 Da)を示している。スペクトルはApplied Biosystems 4700 Proteomics AnalyzerTMを用いて得られた。
【図2b】図2bは、PCA法による牛血清アルブミン(BSA)について、MASCOTTMを用いて行ったPMFによるデータベース検索の結果を示している。
【図2c】図2cは、PCA法による牛血清アルブミン(BSA)について、単一同位元素ピークを有する1723.86 DaのMS/MS(MALDI-TOF/TOF)分析を行った結果を示している。スペクトルは、衝突ガスとして機能する空気を用いて、1kVの衝突エネルギーで連続5000回のレーザーショットの蓄積によって得られた。
【図3a】図3aは、PCA法による、ユビキチンをMALDI-MS分析した結果(質量範囲:400-4300 Da)を示している。スペクトルはApplied Biosystems 4700 Proteomics AnalyzerTMを用いて得られた。
【図3b】図3bは、PCA法によるユビキチンについて、MASCOTTMを用いて行ったPMF(ペプチドフィンガープリント)によるデータベース検索の結果を示している。
【図4a】図4aは、(BSA)牛血清アルブミンを蛋白試料としてMASCOTTMを用いて行ったデータベース検索の結果を示しており、PCA法によって消化されたBSAのMALDI-TOF質量リスト(S/Nが10より大きいもの)についてのデータベース検索結果である序列適用範囲:40%)。
【図4b】図4bは、(BSA)牛血清アルブミンを蛋白試料としてMASCOTTMを用いて行ったデータベース検索の結果を示しており、トリプシンよって消化されたBSAのMALDI-TOF質量リスト(S/Nが10より大きいもの)についてのデータベース検索結果である(序列適用範囲:32%)。
【図4c】図4cは、(BSA)牛血清アルブミンを蛋白試料としてMASCOTTMを用いて行ったデータベース検索の結果を示しており、PCA法とトリプシン消化法とを併用して得られたMALDI-TOF質量リスト(S/Nが10より大きいもの)についてのデータベース検索結果である。PCA/トリプシン法のデータベース検索結果は高い序列適用範囲を示す(87%)。
【図5】図5は界面活性剤及びカオトロピック試薬のない条件で膜蛋白質を化学的に消化したものを示す。マウス脳脂質ラフトから得られた脂質を除去した(De-lipidated)膜蛋白質結合体は、酢酸(pH2.0)15(v/v)%、アセトニトリル30(v/v)%、及びTCEP(10mM)を含むPCA溶液で消化され、99°Cに暖めて4時間、PCR装置で反応させた。化学的に消化された膜蛋白質をSDS-PAGEで分析し、CBB-染色法で可視化した。
【図6】図6は脂質が除去された膜蛋白質結合体のPCA反応液から得られた加水分解物の逆相HPLC分離のUVクロマトグラフィを示す。約1mgの蛋白質加水分解物を注入した。分離された分率を円文字で示した。
【図7a】図7aはPCA法で分解されたユビキチンのペプチド断片をMALDI-TOF/TOFで分析した結果であり、PCA法で処理したユビキチンの質量分析スペクトルを示している。
【図7b】図7bはPCA法で分解されたユビキチンのペプチド断片をMALDI-TOF/TOFで分析した結果であり、PCA-DMT(差分質量タグ、Differential Mass Tagging)法で得られたユビキチンの質量分析スペクトルを示している。
【図7c】図7cはPCA法で分解されたユビキチンのペプチド断片をMALDI-TOF/TOFで分析した結果であり、PCA/PCA-DMTの1:1混合物で開裂したユビキチンの質量分析スペクトルである。図7DはPCA法で分解されたユビキチンのペプチド断片をMALDI-TOF/TOFで分析した結果であり、PCA/PCA-DMTの1:2混合物で開裂したユビキチンの質量分析スペクトルである。
【図8】図8はマウス脳の脂質ラフト蛋白質をPCAとトリプシンが連続的に消化して得られた加水分解物をLC-MS/MSで分析した実験結果を示す:パネルA;図4の各断片のトリプシン加水分解物を全イオンクロマトグラフィを行った結果であり、各断片は円文字で示した;パネルB;パネルAに示した時間に行った抽出イオンクロマトグラフィを行った結果;パネルC;パネルBで円形に示したイオンのタンデムMS/MS結果。
【図9】図9はPCA法で得られたユビキチンのペプチド断片の質量を示す[序列分析適用範囲100%]。
【図10a】図10aはPCA法で処理されたBSAのペプチド断片の質量を示し、前記MALDI-TOFで得られたペプチド質量リストと、いくつかのペプチドの同定とが、タンデム質量分析によるデノボ配列によって確認された。
【図10b】図10bはPCA法で処理されたBSAのペプチド断片の質量を示し、前記MALDI-TOFで得られたペプチド質量リストと、いくつかのペプチドの同定とが、タンデム質量分析によるデノボ配列によって確認された。
【図11a】図11aはPCAとトリプシンとによる連続消化から得られた加水分解物をLC-MS/MSで分析したマウス脳の脂質ラフト蛋白質を選択したリストである。
【図11b】図11bはPCAとトリプシンとによる連続消化から得られた加水分解物をLC-MS/MSで分析したマウス脳の脂質ラフト蛋白質を選択したリストである。
【技術分野】
【0001】
本発明は蛋白質の同定及び定量化のための蛋白質加工法に関するものである。さらに詳しく、本発明は化学試薬を使用して蛋白質をペプチドに加工する方法及びキットに関するものと、前記加工法及びキットを広範囲のプロテオミクス研究に利用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特定生物種において遺伝子の予測のための有用な情報を完全なゲノム序列分析法が提供してはいるが、前記ゲノム序列のみでは生物学的及び病理学的過程の底辺にある機作を説明することはできない。その理由は、翻訳された蛋白質産物の具体的な定量的または分子的情報、例えば、構造、機能的活性、翻訳後変形状態などに対しては正確に予測できないためである。プロテオミクス(proteomics)の新たな分野は分子的水準の生化学的情報を解決することを目標とする。したがって、与えられた状況でプロテオム(proteom)の理解は細胞または生命体の生理的状態を評価するのに必須である。
現在、質量精度を高める方法、例えば、質量分析法(Mass Spectrometry)により、蛋白質をさらに速く正確に同定するために、増加する需要に応じて、多くの技術が開発されてきた。プロテオミック分析に使用されるプラットホームは、試料に含まれる各種蛋白質の分離と同定を含む2種類の広範囲な実務過程の統合を含む。質量分析法を適用する前に、1種類か複数種類の2−DE(2次元ゲル電気泳動:Two-dimensional gel electrophoresis)または液体クロマトグラフィ(LC)を使用して蛋白質を分離する。2-DEでは、前記蛋白質はゲル中にあって、主に分子量と等電点に依存して移動するので、特徴的なゲルパターンを形成する。質量分析法が一般に蛋白質同定に使用される。質量分析法では、蛋白質またはペプチドがイオン化され、イオン化された種は真空中で電磁界の影響を受けやすい。これらの分子量はイオンの移動経路から推測できる。蛋白質やペプチドの同定は、質量分析(MS)またはタンデム質量分析(MS/MS)により、ペプチド指紋追跡(fingerprinting)法またはデノボ序列分析(de novo sequencing)で明らかにできる。
【0003】
プロテオミクス研究で幅広く使用する試料準備法において、少なくともいくつかの蛋白質が十分にイオン化されて特定範囲の質量を分析する一般的な質量分析器にも適用可能なペプチドを生成することによって探知の可能性を向上させるために、MS分析を行う前に蛋白質を酵素開裂して構成ペプチドにする。蛋白質の酵素消化後、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行って蛋白質を分離し、前記分離された蛋白質のペプチド質量マッピングを行うことは蛋白質特性分析で一般に行われる手続きである。最もよく使用されるプロテアーゼはトリプシンであり、その理由としてはトリプシンを処理して得られたペプチドはよく調査された特異性と正確な大きさを持っていて質量分析法に有用であるためである。市販のいくつかの他のプロテアーゼとしてはある気質に対してはLys-C、Glu-C及びAsp-Nを区別する。トリプシン消化は複数の分解活性の強い地点があるために疎水性蛋白質または塩基性の非常に高い蛋白質に対しては適用することが難しい。また、プロテアーゼ自家消化産物(例えば、トリプシンの場合には、261.14、514.32、841.50、905.50、1005.48、1044.56、1468.72、1735.84、1767.79、2157.02、2210.10、2282.17、3012.32、4474.09、4488.11Da)が度々スペクトル解釈に妨害になる。さらに、効率的で特異な蛋白質消化過程のために必要ないくつかの緩衝液は化学的ノイズを生成することもあって、質量分析を行う前に追加的な精製過程が必要である。
【0004】
酵素消化の代案として、酸加水分解を使用する新たな蛋白質分析法が最近開発された。蛋白質を効果的に開裂するための他の多様な進め方が報告されている。バーク(Bark)等はサーモリシン(thermolysin)を利用する高温蛋白質消化法を開発した。ゴボム(Gobom)等はペンタフルオロプロピオン酸(PFPA)を使用して気相酸化加水分解法を提案した。しかし、序列はしご(ladder)を含む3つの異なる開裂類型が観察され、これはスペクトル複雑性増加という新たな短所を招いた。アイクンリ(AiqunLi)などは2(v/v)%蟻酸を使用してアスパラギン酸の位置で蛋白質を化学的に開裂する方法を提案したが、予測しなかったホルミル化断片が生じ、これによってペプチド-質量指紋追跡法(PMF)を使用して蛋白質を同定することが難しい問題であった。追加的に、前記蟻酸を利用する方法は序列分析データが明確な開裂規則を示さなかった。
【0005】
また、他の観点で、蛋白質の相対的な定量分析を行うために、ボトム-アップ(bottom-up)プロテオミクスと安定な同位元素標識を使用する多様な分析法が報告された。このような方法は次のように大別することができる:(1)蛋白質合成過程に同位元素標識が含まれる代謝的方法(metabolic)、(2)安定な同位元素標識がICATTM法である場合、システインのような特異のアミノ酸を含有するペプチドにのみ適用されるアミノ酸特異な方法(amino acid-specific)及び(3)プロテオムのすべてのペプチドに同位元素標識を付けるグローバル標識法。本明細書において、“同位元素タグ”(isotope tag)は同位元素を挿入するのに適した化学的性質を有する化学的残基で、2種類のサンプルで異なって標識されたポリペプチドを生成させる。前記同位元素タグは安定な同位元素が1つ以上の原子に併合可能にする適した組成物を含む。特に、有用で安定な同位元素対は水素と重水素であり、これらは質量分析法で容易に区別することができ、例えば、13C、15N、17O、18Oまたは34Sである。ICATTMのようなアミノ酸特異的方法はサンプル複雑性を減少させるという長所はあるが、少ない数のシステインに対して区別する短所がある。また、蛋白質をトリプシン性ペプチドのC-末端で同位元素で標識することもできる。グローバル標識法は酵素でアミド骨格を開裂する過程で水分子を経由してペプチドで同位元素標識を挿入させる。キモトリプシンとAsp-Nは1つの18O原子のみを併合させ、トリプシン、Glu-CまたはLys-Cは得られたペプチドのC-末端に2つの18O原子を挿入させる。
【0006】
さらに、ペプチドとアミノ酸のカルボン酸基に存在する18O標識は逆交換に抵抗性を有する。したがって、液体クロマトグラフィ、電気噴霧イオン化(ESI)及びマトリックス支援レーザー脱着/イオン化(matrix-assisted laser desorption/ionization、MALDI)を行う一般的な条件下で、C-末端でのカルボン酸基と酸素原子間の共有結合は安定である。高い同位元素標識に対する好ましい方法として知られたいくつかの適用例18O-標識方法はますます注目されており、そのいくつかの適用例が公開されている。プロテオームの定量的分析用として各断片の最大標識化を達成するために、できるだけ最大に濃縮されたH218Oを使用することが有利である。
【0007】
本発明は米国特許庁に2004年9月15日付で出願された仮出願第60/610,306号を優先権として主張して出願し、前記仮出願明細書全体を参考文献として本明細書に併合する。
【0008】
【非特許文献1】Aiqun Li et al. Anal Chem. 2001, 73, 5395-5402, Chemical Cleavage at Aspartyl Residues for Protein Identification
【非特許文献2】Peter Roepstorff et al. Anal Chem. 1999, 71, 919-927, Use of Vapor-Phase Acid Hydrolysis for Mass Spectrometric Peptide Mapping and Protein Identification
【非特許文献3】Zee-Yong Park et al. Anal Chem. 2000, 72, 2667-2670, Thermal Denaturation: A useful Technique in Peptide Mass Mapping
【非特許文献4】Steven L. Cohen et al. Anal. Chem. 1996, 68, 31-37, Influence of Matrix Solution Conditions on the MALDI-MS Analysis of Peptides and Proteins
【非特許文献5】Bart A. van Montfort et al. J. Mass Spectrom. 2002, 37, 322-330, Improved in-gel approaches to generate peptide maps of integral membrane proteins with matrix-assisted laser desorption/ionization time-of fanlight mass spectrometry
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【非特許文献8】Cornelia Koy et al. Proteomics 2003, 3, 851-858, Matrix-assisted laser desorption/ionization-quadrupole ion trap-time of flight mass spectrometry sequencing resolves structures of unidentified peptides obtained by in-gel tryptic digestion of haptoglobin deribatives from human plasma proteomes.
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【非特許文献16】Methods in ENZYMOLOGY Vol 4, Enzyme Structure, 255-263, Cleavage at Aspartic Acid
【非特許文献17】Gargi Choudhary et al. Jounal of Proteome Research 2003, 2, 59-67
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的はペプチドの予想できない変形を起こさず、アスパルチル残基で開裂する厳しい特異性を示す蛋白質酸加水分解法、キット及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は蛋白質の同定及び定量分析のために、蛋白質の酸加水分解(本明細書でアスパラギン酸残基で蛋白質開裂(PCA))のための最適組成の化学試薬を提供する。本発明による切片化方法を適用して生成されたペプチドをデノボ序列分析または質量分析結果のペプチド-質量指紋追跡法で試料に含まれる蛋白質の同定を行うことができる。
【0011】
本発明は水槽だけでなく、キャップを同一な温度で加熱することによって蒸気圧の損失を最少化し、95°C以上で溶液を反応させるために開発されたPCA装置を提供する。本発明による方法は質量分析の前に、単に数時間試料の準備と反応を行うことを含む便利で簡単な蛋白質加工法を提供する。さらに、PCAはトリプシン消化と組み合わせて、 蛋白質の詳しい構造的分析を行うのに十分な程度にタンデム質量分析に適したペプチドを得ることができる。
【0012】
また、本発明は比較プロテオミクスのために加水分解過程でH218Oを使用して蛋白質の18O-標識概念を採択した蛋白質の定量分析方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は酸成分、水と混合可能な有機溶媒及び還元剤を含むポリペプチド加水分解用組成物に関するものである。前記酸成分はトリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl、o-ヨード安息香酸、氷酢酸またはpH2付近の緩衝力を有する酸である。好ましくは、前記酸成分はトリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl及びo-ヨード安息香酸の混合物であってもよい。
【0014】
反応過程で加水分解溶液のpHは1.5ないし2.5である。前記加水分解溶液は少なくとも2乃至30(v/v)%の氷酢酸を含む。前記加水分解溶液は15(v/v)%の氷酢酸(pH2.0)を含む。
【0015】
前記水と混合可能な有機溶媒はアセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)またはアルコールである。例えば、前記水と混合可能な有機溶媒は少なくとも5-70(v/v)%のアセトニトリル、好ましくは30(v/v)%のアセトニトリルであってもよい。
【0016】
前記還元剤はトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオトレイトール(DTT)、またはベータ-メルカプトエタノールである。前記還元剤はTCEPのようなpH1.5乃至2.5の酸性pH範囲を有するホスフィン化合物であってもよい。前記還元剤は少なくとも1mM乃至1MのTCEPまたはDTTであってもよい。前記還元剤は少なくとも10mMのTCEPまたはDTTであってもよい。
【0017】
例えば、前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸2-30(v/v)%、アセトニトリル、5-70(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含む組成物であってもよい。前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル5-70(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含む組成物であってもよい。前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル30(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含む組成物であってもよい。前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル30(v/v)%及び10mMのTCEPを含む組成物であってもよい。
【0018】
前記組成物は水と混合可能な有機溶媒及び還元剤を含まなくてもよい。
【0019】
本発明による組成物は界面活性剤を追加的に含むことができ、前記界面活性剤はオクチル-β-グルコピラノシド(OBG)または硫酸ドデシルナトリウム(SDS)であってもよい。
【0020】
追加的に、本発明は前記加水分解用組成物とポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、選択的に前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を決める段階を含むアスパラギン酸残基でポリペプチドを加水分解する方法を提供する。
【0021】
本発明の具体的一例で、前記ポリペプチドのアミノ酸序列を決める方法は下記の段階を含む:
(i)前記加水分解用組成物をポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(ii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iii)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結して前記ポリペプチドの全アミノ酸序列を得る段階。
【0022】
前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列は質量分析法で決めることができる。水を重水素または三重水素で示したり、或いは17Oまたは18Oで表示することができる。前記ポリペプチドの加水分解は約75乃至150°Cの反応温度で加熱して行ううことができる。前記加水分解反応容器の材質はプラスチックであってもよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、高密度ポリエチレンまたは低密度ポリエチレンであってもよい。前記反応熱加熱法はマイクロ波または超音波であってもよい。
【0023】
前記N-末端、C-末端またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド断片を含む変形された開裂規則を使用したデータベース検索でポリペプチドの序列を決めることができる。前記データベース検索はN-末端、C-末端またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド断片を含む開裂規則と変形規則を有するPCAデータベースメニューで行うことができる。
【0024】
本発明の具体的な例で、本発明は下記の段階を含むポリペプチドのアミノ酸序列を決める方法を提供する:
(i)ポリペプチドをプロテアーゼで加水分解してポリペプチド切片を得て、
(ii)前記段階(i)の結果物を前記加水分解組成物で加水分解して切片のN-末端またはC-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(iii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iv)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結してポリペプチドのアミノ酸序列を決めることによってポリペプチドの全アミノ酸序列を得る段階。
【0025】
前記方法はN-末端、C-末端またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド断片を含む変形された開裂規則を使用したデータベース検索でポリペプチドの序列を決めることができる。データベース検索はN-末端、C-末端またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を含む開裂規則と変形規則を有するPCAデータベースメニューで行うことができる。
【0026】
本発明の具体的な例で、本発明は(i)酸容液と水を含有する第1容器;そして(ii)物と混合可能な有機溶媒を含む第2容器を含むポリペプチド加水分解キットを提供する。前記第2容器は還元剤を追加的に含むことができる。
【0027】
本発明は下記の実施例を参照してさらに詳しく説明するが、下記の実施例は本発明の保護範囲を制限する意図で解釈されない。
【実施例1】
【0028】
1.化学試薬を使用したアスパラギン酸残基(PCA)で蛋白質消化
本発明は従来の他の分解法に比べて優れたプロテオム分析法を提供する。図1に示したように、PCA溶液を使用して溶液またはゲルに含まれる蛋白質は効果的に開裂されてペプチドを生成し、前記得られたペプチドの質量パターン及びアミノ酸序列を質量分析器で分析することができる。PCA溶液の存在の下で溶媒またはゲルに存在する蛋白質を95°C(99.9°Cで反応することがさらに好ましい)以上の温度で10分以上反応させた。
【0029】
1-1.PCA溶液の組成
1.酸成分:トリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl、o-ヨード安息香酸、氷酢酸、蟻酸
(酢酸のような酸はpH2近くの緩衝力を有し、反応する間に予測できない変形を招かないことが好ましい)
2.水と混合可能な有機溶媒:アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)またはメタノールまたはエタノールのような全ての種類のアルコール
(アセトニトリルの含量は30(v/v)%が好ましい。)
3.二硫化結合の還元剤:TCEP、DTT
(酸性pH条件で作用するTCEPのような還元剤が好ましい)
収率、効率及び特異性面で反応は15%酢酸(2.62mM)、30(v/v)%アセトニトリル及びTCEP(10mM)を含むことがアスパラギン酸残基で蛋白質開裂及び蛋白質の二硫化結合の還元に最適であり得る。
【0030】
その後、前記試料を室温に冷却させて迅速な真空乾燥のために反応溶液を新たなチューブに移動させず、同一な反応チューブで乾燥した。前記乾燥されたペプチド抽出物を適切な容量の0.1(v/v)%TFAで希薄にさせた。TCEPオキシド(TCEPO)及び質量分析に妨害になり得る他の塩を除去するための脱塩過程をμ-C18ZipTipに通過させて行った。前記得られたペプチドを質量分析器で分析した。
【0031】
1-2.BSA及びユビキチンを利用したサンプルテスト
1-2-1.BSA
牛胎児血清(Bovine Serum Albumin、BSA、Calbiochem Catalog No.126609)を使用して試料製造のためのPCA法の有用性を検証した。15(v/v)%酢酸(pH2.0)、30(v/v)%のアセトニトリル及び10mMのTCEPを含むPCA溶液で99.9°C温度で2時間反応した。得られた質量分析結果でpyro-gluE(N-末端)及びpyro-gluQ(N-末端)を除いてはいかなる任意的変形も観察されなかった。これら任意の変形はMASCOTTMによる蛋白質同定を妨害しない。前記反応過程で、ノイズ-対信号を満足する57個ピークを観察し、これはアスパルチル残基でBSAが開裂されることによって生成された予想された産物である。BSA序列の中で、PCA法の適用で43%を直接回収した(図2)。システインをさらに多く含むペプチドをPCA溶液の中でDTTの代わりに還元剤としてTCEPを含んで回収する。DTTを還元させるための最適のpHは弱塩基性であるので、酸加水分解条件でペプチド間二硫化結合を開裂するためには多量のDTTが必要である。TCEPは蛋白質の酸加水分解に最適pH範囲で作用できる還元剤として選択される。
【0032】
1-2-2.ユビキチン
PCA法の適用の可能性を検証するために、小さい大きさの蛋白質の例としてユビキチン(Sigma Catalog No.U6253)を使用した。15(v/v)%酢酸(pH2.0)、30(v/v)%のアセトニトリル及び10mMのTCEPを含むPCA溶液で99.9°C温度で2時間反応させた。ユビキチンに対して実験する場合に、ユビキチンは二硫化結合が存在しないためにTCEPを反応混合液に含めなかった。PCA法でユビキチンを開裂して100%完全な結果が得られた(図3)。トリプシン消化ではユビキチンの約82%アミノ酸序列のみが分かり、ユビキチンの他の変形体をMASCOTTMで分析した。
【実施例2】
【0033】
2.PCAと酵素消化の併行遂行
酵素分解とPCA法を併行して随行することができるかどうかについて調べた。トリプシンは蛋白質消化で幅広く使用される酵素である。アスパルチル残基(D)で起こる開裂は酵素蛋白質消化に対する接近性が良くないかアミノ酸開裂が殆どない試料を取り扱う場合に有用である。
【0034】
2-1.多様な分解のためのBSAを利用するサンプルテスト
BSA(10pmole)を50mMの重炭酸アムモニウム溶液に溶解して1-5μM濃度の溶液を製造した。蛋白質溶液を等分して、90°Cで20分間暖めて熱変成させた。次いで、変成過程を終了するために前記蛋白質を氷水水槽に移動させた。熱変性された蛋白質試料を序列分析用等級の変性トリプシンで37°Cで12時間反応させて酵素的に分解させた。50mMの重炭酸アムモニウム溶液中に分解された試料を反応チューブに移動させた後、99.9°Cで30分間加熱して重炭酸アムモニウムを蒸発させて除去した。加熱した後、PCA溶液に溶解された乾燥試料を15(v/v)%酢酸(pH2.0)、30(v/v)%のアセトニトリル及び10mMのTCEPを含むPCA溶液で99.9°Cで2時間加熱した。前記試料を室温に冷却させて反応溶液を同一な反応チューブで99.9°Cで乾燥した。前記乾燥ペプチド抽出物を5μLの0.1(v/v)%TFAで希釈し、μ-C18ZipTipsを使用して脱塩処理を行った。ZipTipに結合されたペプチドを0.1(v/v)%のHAc(酢酸)溶液または50(v/v)%ACN/0.1(v/v)%HAcに溶解された5μLそれぞれ20(v/v)%、50(v/v)%及び80(v/v)%CANを使用して段階的に溶出させた。前記得られたペプチド溶液を乾燥して体積を約5μLに減少させ、MALDI-TOFのためにマトリックス溶液を添加した。ZipTip使用の目的はMS分析を行う前に塩を除去することである。このような進め方はBSAのような蛋白質の特性分析に適用され、その結果、PCA法及びトリプシン消化法によって得られた40%及び32%に比べて高い水準の同定率(87%)を得ることができる。図4参照。
【0035】
2-2.化学的及び酵素的方法で膜蛋白質を順次に分解
膜蛋白質のプロテオミック分析は多様な信号ネットワークの理解と特定疾患に対する標的発見のために必須で魅力的な主題である。大部分の研究者は酵素分解及び質量分析を行う前に蛋白質の分離のために二次元電気泳動からなる伝統的なプロテオミック方法に依存し、僅か数個の研究だけでゲル-フリーLC-MS/MSに対して好意的に報告された。しかし、ゲル-フリーLC-MS/MS技術が膜断片から膜貫通蛋白質を分離するために界面活性剤またはカオトロピック試薬に依存的であった。本発明者らは膜蛋白質を分析するために新たなゲル-フリー界面活性剤も不要なショットガンプロテオミック法(shotgun proteomic method)を開発した。本発明による技術によって(CCPA法、Chemical Cleavage of Proteins at Aspartic acid)、マウスの脂質ラフト蛋白質の脱脂質化(de-lipidated)結合体を成功的にペプチドで開裂した。
【0036】
2-2-1.マウス脳から脂質ラフトの準備
脂質ラフトに存在する蛋白質の組成を糾明するための多様なプロテオミック研究が行われてきたので、化学的開裂の有用性を立証するために脂質ラフトを選択した。プロテオミクス2004、4、3536-3548に記載された方法によって脂質ラフトを準備した。(1(v/v)%TritonX-100、25mMのHEPES、pH6.5、150mMのNaCl、1mMのEDTA、1mMのPMSF及びプロテアーゼカクテル(Roche Molecular Biochemicals、Indianapolis、IN、USA)を含む分解緩衝液でタイトドンスホモゲナイゼ(tight Dounce homogenizer(Kontes、Vinel及びNJ、USA))を使用してマウス脳を20回均質化し、4℃で20分間反応させた。前記抽出物を2.5Mのサッカロース溶液と混合し、SW41遠心分離チューブに移動させて25mMのHEPES、pH6.5及び150mMのNaClを含有する30(w/v)%のサッカロース溶液及び5(w/v)%のサッカロース溶液で覆った。不連続的なサッカロース濃度勾配で4℃、SW41ローターで39000rpmで18時間遠心分離した。前記濃度勾配は底から 上端まで12分画に区分した。脂質ラフト画分を洗浄緩衝液(25mMのHEPES、pH7.4、150mMのNaCl)を使用して超遠心分離(20000rpm、30min、47C)を行って洗浄し、50mMの重炭酸ナトリウムに懸濁させた。アセトン処理及び後続的な洗浄段階を行うことによって膜蛋白質の沈殿物を得た。得られた蛋白質沈殿物を乾燥させた。
【0037】
2-2-2.脱脂質化された膜蛋白質のPCA反応
15(v/v)%の酢酸(pH2.0)、30(v/v)%アセトニトリル及びTCEP(10mM)を含有するPCA溶液に前記建造物質を溶解し、PCR装置で99°Cで4時間反応させた。図5に示したように、膜蛋白質を開裂して得られたペプチドをトリス-トリシン(Tris-Tricine)電気泳動に次いで蛋白質またはペプチド可視化方法を行って確認した。
【0038】
2-2-3.PCA-開裂された膜蛋白質の分離
図6に示したように、化学的に分解された膜蛋白質を逆相カラムクロマトグラフ(Chromolith-C18、Merck)を行って分離した。カラムで得られた分画は約9種類分画で、それぞれ分離して乾燥させた。
【0039】
2-2-4.PCA-開裂された膜蛋白質のトリプシン消化
前記9個の乾燥分画物を、50mMの重炭酸アムモニウムの中で1/50のトリプシンと共に37℃で12時間暖めた。これで得られたペプチドをLC-MS/MSで分析した。
【実施例3】
【0040】
3.PCA-DMT(Differential Mass Tagging)
試料の定量的分析のために16Oまたは18Oを含む水で化学的に同一であるが、放射線同位元素に区別されるように2種類の試料を標識した。反応過程中で1つまたは2つの酸素原子交換が起こることがあり、これによって質量分析法で区別される程度の2または4Daの分子量の差をもたらす。PCA-DMT方法で、18O-水を含むPCA溶液の場合に得られる値に比べて、16O-水を含むPCA溶液で行った化学的開裂で得られた単一放射線同位元素の質量信号の強度を比較することで蛋白質の相対的定量分析を行う。
【0041】
3-1.ユビキチンを使用するサンプルテスト
15(v/v)%の酢酸(pH2.0)、30(v/v)%アセトニトリル及びTCEP(10mM)を含有するPCA溶液の存在下で水に溶解されたまたは乾燥したゲルバンドにある蛋白質を99.9°Cで2時間加熱した。差分質量タグを行うために、16O-水を18O-水で置換した。その後、前記試料を室温に冷却させ、反応溶液を反応チューブで99.9°Cで乾燥し、5μLの0.1(v/v)%TFAに溶解させ、μ-C18ZipTipsを使用して脱塩過程を行った。ZipTipに結合されたペプチドを0.1(v/v)%のHAc(酢酸)溶液または50(v/v)%ACN/0.1(v/v)%HAcに溶解された5μLそれぞれ20(v/v)%、50(v/v)%及び80(v/v)%CANを使用して段階的に溶出させた。前記得られたペプチド溶液を乾燥して体積を約5μLに減少させ、MALDI-TOFのためにマトリックス溶液を添加した。前記実験例のうちの1つは図7に示した。前記ペプチドに対して単一放射線同位元素ピークの正確な質量測定を行ってQQRLIFAGKQLED(Pyro-glu(N-末端))で示し、2または4Daの分子量変化もまた観察され、C-末端のカルボン酸基で1つまたは2つの18O原子が含まれたことを示す。MALDI-TOF(ABI4700analyzerTM)を使用して10ppmの質量正確度で質量スペクトルを得た。
【0042】
m/z値(質量スペクトルのx-軸に記載された数値)をM0で記載し、一連の放射線同位元素質量を分子量差による昇順としてM1、M2、M3、M4で示した。m/zの信号大きさ(質量スペクトルのy-軸に記載された数値)はS16(M0)、S16(M1)、S16(M2)、S16(M3)及びS16(M4)で示した。ここで、数字16は化学的開裂に使用された水の酸素原子の質量を示す。したがって、18O-水を用いた場合には、化学的開裂を通じて単一放射線同位元素質量の信号大きさはS18(M0)で示し、それぞれ16O-水または18O-水の存在下で行われた個別的な化学的開裂反応で得られた産物を混合して得られた信号強さはS16+18(M0)で示す。K1は18O-水の存在下で行われた化学的開裂反応で酸素原子1つが含まれる場合の係数であり、K2は酸素原子2つが含まれる場合の係数である。K1及びK2の合計を計算することによって2種類の異なる試料に存在する蛋白質量の相対的な比較が可能である。数学的意味で、K1及びK2は下記式から得られる。
【0043】
S16+18(Mx)=S16(Mx)+K1*S16(Mx-2)+K2*S16(Mx-4)
[m/z数値は0以上]
S16+18(M2)=S16(M2)+K1*S16(M0)+K2*S16(M-2)=S16(M2)+K1*S16(M0)
K1=(S16+18(M2)-S16(M2))/S16(M0)
S16+18(M4)=S16(M4)+K1*S16(M2)+K2*S16(M0)
K2=(S16+18(M4)-S16(M4)-K1*S16(M2))/S16(M0)
図7に示した質量スペクトルから、16O-水及び18O-水が存在する場合に、ユビキチンの化学的開裂で得られたペプチドの混合比率は上記式から計算することができる。
【0044】
K1=(5963.09−0.49389*8251.56)/8251.56=0.2287
K2=(4966.49-(0.06472*8251.56+0.49389*1887.73))/8251.56=0.4242
K1+K2=0.6529
16O-水及び18O-水が存在する場合に、ユビキチンの化学的開裂で得られたペプチドの混合比率は1:0.65である。理論的に計算された数値との差は5%の16O-水を含む18O-水を使用したためであり、TCEP及び試料(ユビキチン)のような他の試薬に存在する16O-水の汚染可能性、そして反応過程で空気から16O-水の混入可能性のためである。
【実施例4】
【0045】
4.MALDI MS分析用サンプル準備
5μLの0.1(v/v)%TFAに前記乾燥ペプチド抽出物を溶解し、μ-C18ZipTipsを使用して脱塩処理した。ZipTipに結合されたペプチドを0.1(v/v)%のHAc(酢酸)溶液または50(v/v)%のACN/0.1(v/v)%のHAcに溶解された5μLそれぞれ20(v/v)%、50(v/v)%及び80(v/v)%CANを使用して段階的に溶出させた。前記得られたペプチド溶液を乾燥して体積を約5μLに減少させ、MALDI-TOFのためにマトリックス溶液を添加した。ZipTipを使用する目的はMS分析を行う前に試料から塩を除去するためであるが、非イオン性界面活性剤のn-OGを完全に除去することはできない。マトリックスとしてα-CHCAを使用する2層サンプル蒸着法(two-layer sample deposition method)をMALDI-MS分析法で使用した。最初の層は20(v/v)%メタノール/アセトンα-CHCAに溶解された20mg/mLのα-CHCA溶液とし、第2層は30(v/v)%のメタノール/水に溶解されたマトリックス飽和溶液とした。第2層をZip-Tippedペプチド混合物に添加して分析対象物に対するマトリックスの比率が4:1にし、ボルテックスで混合した。0.5μLの最初層を前記サンプルプローブに置き、乾燥して0.5μLの第2層を前記最初層の上端に置き、乾燥して1μLの水で2回洗浄した。
【実施例5】
【0046】
5.MALDI-質量分析法
質量スペクトルを得るためにMALDI-TOF質量分析、4700Proteomics AnalyzerTM(Applied Biosystems)を使用した。マトリックス溶液は水と50(v/v)%のアセトニトリルに溶解された10mgのα-CHCAであった。前記ペプチド混合物0.5μLの一定割合として及び0.5μLマトリックス溶液をサンプルプレート上で混合して分析する前に空気で乾燥した。
【実施例6】
【0047】
6.MALDIタンデム質量分析法(MS/MS)
TOF/TOF(4700Proteomics AnalyzerTM)を利用し製造者の指示によって基本1kvのMS/MSを使用して全てのMS/MSデータを得た。ProbotTMで点滴したLC溶出液のあるプレート(LC-MALDIプレート)からMS/MSデータを得ることは4段階で行われる。第一に、6個目盛り点それぞれからMSスペクトルを記録し、装置の基本目盛り変数とプレートモデルの適したモデルを更新する。第二に、前記プレート上の全ての144個試料点に対してMSスペクトルを記録する。最近更新した目盛り調整を使用して750レーザーシュートからデータを蓄積して各スペクトルを得る。第三に、前記装置に供給されたピークピッカーソフトウェア(Peak Picker software)を利用して144MSスペクトルを分析する。臨界基準を満足して除外リストに現れないスペクトルlピークが実験のMS/MS部分に対する結果リストに含まれる。前記臨界基準は次のように合わせる:質量範囲:650乃至4000Da;最小クラスタ領域:500;最小信号-対-ノイズ(S/N):10;ピーク/スポット:30;最大前駆体ギャップ:200ppm;最大分画ギャップ:4.マトリックスクラスタイオンを排除する質量フィルターが適用された。MS/MSに対する前駆体質量のリスト及びこれらの対応スポット数値を含むXMLファイルを得た。最後に、前記リストを4700Explorer soft ware batch editorに出力して1kVの衝突エネルギーを有する衝突ガスとして空気を使用してMS/MSスペクトルを記録した。MS/MSデータを得る過程で、終了条件のある方法を使用した。このような方法で、最小750シュート(それぞれ125レーザーシュートから得られた6サブ-スペクトル)及び最大2000シュートを各スペクトルに許容した。前駆体質量がm/z400乃至90%の範囲で、10以上のS/Nを有する10以上のイオンが蓄積されたMS/MSスペクトルに存在する場合には、追加的なレーザーシュートの蓄積を中断させた。
【実施例7】
【0048】
7.二重で分解された脂質ラフトプロテオムのLC-MS/MS分析
PCA/トリプシンで分解されたペプチドをナノLCシステム(Agilent1100)から溶出し、イオンをQSTAR-XL quadrupole TOF hybrid MS(PE-Sciex、Thornhill、Ontario、Canada)のオリフィスに直接噴射した。マウス脳の脂質ラフトをPCA/トリプシンで順次分解して得られた加水分解物に対するLC-MS/MS実験結果を図8に示した。MASCOT(Matrix Science、London)を使用する国際人間蛋白質指数データベース(Human International Protein Index database、ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/IPI/current/MOUSE)に対して検索して多重電荷を帯びたペプチドに対して断片スペクトルの情報-依存した方式でLC/MS/MSを使用して蛋白質を同定した。次のような検索変数を全てのMASCOT検索で使用した:最大CCPA-トリプシン開裂(two missed CCPA-trypsin cleasvage)、システインカーバミドメチレイション、メチオニン酸化及びMSで最大0.2-Da誤差範囲及びMS/MSデータで0.1-Da誤差範囲、最高MOWSE点数を有する有意のマッチ(match)を可能な同定と見なした。四重極-TOF混成MS(quadrupole-TOF hybrid MS)でペプチド断片化に対して受容される規則を利用して他のマッチは手動で検証した。マウス脳の脂質ラフトの選択したサブセットを図11に羅列した。得られたペプチドのLC-MS/MS分析で複数の膜蛋白質、例えばG-蛋白質、付着分子、チャンネル/移送者(transporter)、信号蛋白質(CAM-キナーゼ及びフォスフォジエステラーゼ)及びフロチリン(一種のラフトマーカ蛋白質)を同定した。
【実施例8】
【0049】
8.質量分析の解釈及びデータベース検索
蛋白質からペプチドが生成する規則はMASCOTTMの使用者マニュアルに従う指示で変形し、その結果Asp-X及びX-Asp2つの残基でPCA開裂規則はMASCOTTMプログラムに反映された。トリプシン消化過程で生じるペプチド変形、例えばメチオニンの酸化、Pyro-gluE(N-末端)、Pyro-gluQ(N-末端)がデータ検索で考慮された。本発明で開発されたアルゴリズムは質量分析用として開発された全ての種類のプログラムに適用することができる。
【実施例9】
【0050】
9.PCAプロテオミクスキット
PCAキットは溶液(溶液A及び溶液B)と、化学開裂過程で最適熱伝達及び試料損失を最少化するように設計された容器で構成された1つのセットで提供することができる。PCR反応のための薄い壁チューブが好ましく薦められる。前記反応は効果的なPCA法を行うためにPCR装置のように同一な温度で同時に容器とキャップを共に加熱することによって蒸気圧損失を最少化できるように考案された加熱装置で行われるのが好ましい。
【0051】
全反応混合物(150μL);溶液A(45μL)+溶液B(105μL)
A.溶液A;アセトンに溶解された10mMのTCEP
B.溶液B;水に溶解された21.4(v/v)%氷酢酸
ペプチド混合物を内部質量標準で使用することができる。差分質量タグには、18O-水に溶解された21.4(v/v)%酢酸を使用することができる。
【0052】
本明細書に記述された方法は基本的な知識を理解する専門家が多様な方法で変更することができる。したがって、本発明は前記実施例に限られるわけではない。データベース検索アルゴリズムに基づいて特異な開裂規則と変形規則を有する蛋白質及びペプチドの同定及び定量に他の類型の質量分析器を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1はアスパラギン酸位置での蛋白質開裂(PCA)法を使うプロテオミック分析による蛋白質同定のフローチャートである。
【図2a】図2aは、PCA法による、牛血清アルブミン(BSA)のMALDI-MS分析の結果(質量範囲800-4300 Da)を示している。スペクトルはApplied Biosystems 4700 Proteomics AnalyzerTMを用いて得られた。
【図2b】図2bは、PCA法による牛血清アルブミン(BSA)について、MASCOTTMを用いて行ったPMFによるデータベース検索の結果を示している。
【図2c】図2cは、PCA法による牛血清アルブミン(BSA)について、単一同位元素ピークを有する1723.86 DaのMS/MS(MALDI-TOF/TOF)分析を行った結果を示している。スペクトルは、衝突ガスとして機能する空気を用いて、1kVの衝突エネルギーで連続5000回のレーザーショットの蓄積によって得られた。
【図3a】図3aは、PCA法による、ユビキチンをMALDI-MS分析した結果(質量範囲:400-4300 Da)を示している。スペクトルはApplied Biosystems 4700 Proteomics AnalyzerTMを用いて得られた。
【図3b】図3bは、PCA法によるユビキチンについて、MASCOTTMを用いて行ったPMF(ペプチドフィンガープリント)によるデータベース検索の結果を示している。
【図4a】図4aは、(BSA)牛血清アルブミンを蛋白試料としてMASCOTTMを用いて行ったデータベース検索の結果を示しており、PCA法によって消化されたBSAのMALDI-TOF質量リスト(S/Nが10より大きいもの)についてのデータベース検索結果である序列適用範囲:40%)。
【図4b】図4bは、(BSA)牛血清アルブミンを蛋白試料としてMASCOTTMを用いて行ったデータベース検索の結果を示しており、トリプシンよって消化されたBSAのMALDI-TOF質量リスト(S/Nが10より大きいもの)についてのデータベース検索結果である(序列適用範囲:32%)。
【図4c】図4cは、(BSA)牛血清アルブミンを蛋白試料としてMASCOTTMを用いて行ったデータベース検索の結果を示しており、PCA法とトリプシン消化法とを併用して得られたMALDI-TOF質量リスト(S/Nが10より大きいもの)についてのデータベース検索結果である。PCA/トリプシン法のデータベース検索結果は高い序列適用範囲を示す(87%)。
【図5】図5は界面活性剤及びカオトロピック試薬のない条件で膜蛋白質を化学的に消化したものを示す。マウス脳脂質ラフトから得られた脂質を除去した(De-lipidated)膜蛋白質結合体は、酢酸(pH2.0)15(v/v)%、アセトニトリル30(v/v)%、及びTCEP(10mM)を含むPCA溶液で消化され、99°Cに暖めて4時間、PCR装置で反応させた。化学的に消化された膜蛋白質をSDS-PAGEで分析し、CBB-染色法で可視化した。
【図6】図6は脂質が除去された膜蛋白質結合体のPCA反応液から得られた加水分解物の逆相HPLC分離のUVクロマトグラフィを示す。約1mgの蛋白質加水分解物を注入した。分離された分率を円文字で示した。
【図7a】図7aはPCA法で分解されたユビキチンのペプチド断片をMALDI-TOF/TOFで分析した結果であり、PCA法で処理したユビキチンの質量分析スペクトルを示している。
【図7b】図7bはPCA法で分解されたユビキチンのペプチド断片をMALDI-TOF/TOFで分析した結果であり、PCA-DMT(差分質量タグ、Differential Mass Tagging)法で得られたユビキチンの質量分析スペクトルを示している。
【図7c】図7cはPCA法で分解されたユビキチンのペプチド断片をMALDI-TOF/TOFで分析した結果であり、PCA/PCA-DMTの1:1混合物で開裂したユビキチンの質量分析スペクトルである。図7DはPCA法で分解されたユビキチンのペプチド断片をMALDI-TOF/TOFで分析した結果であり、PCA/PCA-DMTの1:2混合物で開裂したユビキチンの質量分析スペクトルである。
【図8】図8はマウス脳の脂質ラフト蛋白質をPCAとトリプシンが連続的に消化して得られた加水分解物をLC-MS/MSで分析した実験結果を示す:パネルA;図4の各断片のトリプシン加水分解物を全イオンクロマトグラフィを行った結果であり、各断片は円文字で示した;パネルB;パネルAに示した時間に行った抽出イオンクロマトグラフィを行った結果;パネルC;パネルBで円形に示したイオンのタンデムMS/MS結果。
【図9】図9はPCA法で得られたユビキチンのペプチド断片の質量を示す[序列分析適用範囲100%]。
【図10a】図10aはPCA法で処理されたBSAのペプチド断片の質量を示し、前記MALDI-TOFで得られたペプチド質量リストと、いくつかのペプチドの同定とが、タンデム質量分析によるデノボ配列によって確認された。
【図10b】図10bはPCA法で処理されたBSAのペプチド断片の質量を示し、前記MALDI-TOFで得られたペプチド質量リストと、いくつかのペプチドの同定とが、タンデム質量分析によるデノボ配列によって確認された。
【図11a】図11aはPCAとトリプシンとによる連続消化から得られた加水分解物をLC-MS/MSで分析したマウス脳の脂質ラフト蛋白質を選択したリストである。
【図11b】図11bはPCAとトリプシンとによる連続消化から得られた加水分解物をLC-MS/MSで分析したマウス脳の脂質ラフト蛋白質を選択したリストである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl、o-ヨード安息香酸、氷酢酸、及びpH2付近の緩衝力を有する酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸成分;及び
水を含むことを特徴とするポリペプチド加水分解用組成物
【請求項2】
前記組成物は水と混合可能な有機溶媒及び還元剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記酸成分はトリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl及びo-ヨード安息香酸の混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
反応の時に前記ポリペプチド加水分解用組成物のpHが1.5乃至2.5であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリペプチド加水分解用組成物が少なくとも2乃至30(v/v)%であることを特徴とする、請求項1に記載の氷酢酸を含む組成物。
【請求項6】
前記ポリペプチド加水分解用組成物はpH2の氷酢酸を15(v/v)%で含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記水と混合可能な有機溶媒はアセトニトリル、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、THF(テトラヒドロフラン)またはアルコールであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記アルコールはメタノールまたはエタノールであることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記水と混合可能な有機溶媒はアセトニトリルであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
前記水と混合可能な有機溶媒は少なくとも5-70(v/v)%のアセトニトリルであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
前記水と混合可能な有機溶媒は30(v/v)%のアセトニトリルであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項12】
前記還元剤はTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)、DTT(ジチオトレイトール)、またはベータ-メルカプトエタノールであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項13】
前記還元剤はTCEPのようなpH1,5乃至2.5の酸性pH範囲を有するホスフィン化合物であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項14】
前記還元剤は少なくとも1mM乃至1MのTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)またはDTT(ジチオトレイトール)であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項15】
前記還元剤は少なくとも10mMのTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)またはDTT(ジチオトレイトール)であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸2-30(v/v)%、アセトニトリル、5-70(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル5-70(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル30(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル30(v/v)%及び10mMのTCEPを含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物は界面活性剤を追加的に含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項21】
前記界面活性剤はOBG(オクチル-ベータ-グルコピラノシド)またはSDS(ソジウムドデシルスルフェート)であることを特徴とする、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
請求項1乃至19のいずれかによる加水分解用組成物をポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
選択的に、前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を分析する段階を含むアスパラギン酸残基でポリペプチドを加水分解する方法。
【請求項23】
請求項20に記載の加水分解用組成物をポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
選択的に、前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を分析する段階を含むアスパラギン酸残基でポリペプチドを加水分解する方法。
【請求項24】
(i)請求項1乃至19のいずれかによる加水分解用組成物をポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(ii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iii)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結して前記ポリペプチドの全アミノ酸序列を得る段階を含むポリペプチドのアミノ酸序列を決定する方法。
【請求項25】
(i)請求項20による加水分解用組成物をポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(ii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iii)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結して前記ポリペプチドの全アミノ酸序列を得る段階を含むポリペプチドのアミノ酸序列を決める方法。
【請求項26】
前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を質量分析法で決めることを特徴とする、請求項22乃至25に記載の方法。
【請求項27】
前記水を重水素、三重水素、17Oまたは18Oで標識したことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ポリペプチドの加水分解は約75乃至150°Cの反応温度で加熱して行うことを特徴とする、請求項22乃至25のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記加熱法はマイクロ波または超音波で行うことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ポリペプチドの加水分解は重合酵素連鎖反応(PCR)装置で約95乃至105°C反応温度で行うことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記ポリペプチドの加水分解は前記加水分解用組成物とポリペプチドを含む水槽及びPCR装置のキャップをを約95乃至105°C温度で加熱して行うことを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記加水分解反応容器の材質はプラスチックであることを特徴とする、請求項25乃至29のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記プラスチックはポリエチレン、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、または低密度ポリエチレンであることを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記方法はN-末端、C-末端、またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド断片を含む変形された開裂規則を使用したデータベース検索でポリペプチドの序列を決定することを追加的に含むことを特徴とする、請求項25乃至29のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記データベース検索はN-末端、C-末端、またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を含む開裂規則と変形規則を有するPCAデータベースメニューで行われることを特徴とする、請求項25乃至29のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
(i)ポリペプチドをプロテアーゼで加水分解してポリペプチド切片を得て、
(ii)前記段階(i)の結果物を請求項1乃至19のいずれかによる加水分解組成物で加水分解し、切片のN-末端またはC-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(iii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iv)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結し、ポリペプチドのアミノ酸序列を決定することによってポリペプチドの全アミノ酸序列を得ることを特徴とするポリペプチドのアミノ酸序列を決定する方法。
【請求項37】
(i)プロテアーゼを加水分解してポリペプチド切片を得て、
(ii)前記段階(i)の結果物を請求項20による加水分解組成物で加水分解し、切片のN-末端またはC-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(iii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iv)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結し、ポリペプチドのアミノ酸序列を決めることによってポリペプチドの全アミノ酸序列を得ることを特徴とするポリペプチドのアミノ酸序列を決定する方法。
【請求項38】
前記方法はN-末端、C-末端、またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド断片を含む変形された開裂規則を使用したデータベース検索でポリペプチドの序列を決めることを追加的に含むことを特徴とする、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
前記データベース検索はN-末端、C-末端またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を含む開裂規則と変形規則を有するPCAデータベースメニューで行われることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
(i)酸容液と水を含有する第1容器;そして(ii)水と混合可能な有機溶媒を含む第2容器を含み、
前記酸容液はトリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl、o-ヨード安息香酸、氷酢酸及びpH2付近の緩衝力を有する酸からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とするポリペプチド加水分解用キット。
【請求項41】
前記第2容器は還元剤を追加的に含むことを特徴とする、請求項40に記載のポリペプチド加水分解用キット。
【請求項1】
トリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl、o-ヨード安息香酸、氷酢酸、及びpH2付近の緩衝力を有する酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸成分;及び
水を含むことを特徴とするポリペプチド加水分解用組成物
【請求項2】
前記組成物は水と混合可能な有機溶媒及び還元剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記酸成分はトリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl及びo-ヨード安息香酸の混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
反応の時に前記ポリペプチド加水分解用組成物のpHが1.5乃至2.5であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリペプチド加水分解用組成物が少なくとも2乃至30(v/v)%であることを特徴とする、請求項1に記載の氷酢酸を含む組成物。
【請求項6】
前記ポリペプチド加水分解用組成物はpH2の氷酢酸を15(v/v)%で含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記水と混合可能な有機溶媒はアセトニトリル、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、THF(テトラヒドロフラン)またはアルコールであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記アルコールはメタノールまたはエタノールであることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記水と混合可能な有機溶媒はアセトニトリルであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
前記水と混合可能な有機溶媒は少なくとも5-70(v/v)%のアセトニトリルであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
前記水と混合可能な有機溶媒は30(v/v)%のアセトニトリルであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項12】
前記還元剤はTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)、DTT(ジチオトレイトール)、またはベータ-メルカプトエタノールであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項13】
前記還元剤はTCEPのようなpH1,5乃至2.5の酸性pH範囲を有するホスフィン化合物であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項14】
前記還元剤は少なくとも1mM乃至1MのTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)またはDTT(ジチオトレイトール)であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項15】
前記還元剤は少なくとも10mMのTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)またはDTT(ジチオトレイトール)であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸2-30(v/v)%、アセトニトリル、5-70(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル5-70(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル30(v/v)%及び約1mM-1MのTCEPを含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物は組成物の全量を基準に酢酸15(v/v)%、アセトニトリル30(v/v)%及び10mMのTCEPを含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物は界面活性剤を追加的に含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項21】
前記界面活性剤はOBG(オクチル-ベータ-グルコピラノシド)またはSDS(ソジウムドデシルスルフェート)であることを特徴とする、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
請求項1乃至19のいずれかによる加水分解用組成物をポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
選択的に、前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を分析する段階を含むアスパラギン酸残基でポリペプチドを加水分解する方法。
【請求項23】
請求項20に記載の加水分解用組成物をポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
選択的に、前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を分析する段階を含むアスパラギン酸残基でポリペプチドを加水分解する方法。
【請求項24】
(i)請求項1乃至19のいずれかによる加水分解用組成物をポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(ii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iii)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結して前記ポリペプチドの全アミノ酸序列を得る段階を含むポリペプチドのアミノ酸序列を決定する方法。
【請求項25】
(i)請求項20による加水分解用組成物をポリペプチドと接触させてC-末端またはN-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(ii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iii)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結して前記ポリペプチドの全アミノ酸序列を得る段階を含むポリペプチドのアミノ酸序列を決める方法。
【請求項26】
前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を質量分析法で決めることを特徴とする、請求項22乃至25に記載の方法。
【請求項27】
前記水を重水素、三重水素、17Oまたは18Oで標識したことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ポリペプチドの加水分解は約75乃至150°Cの反応温度で加熱して行うことを特徴とする、請求項22乃至25のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記加熱法はマイクロ波または超音波で行うことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ポリペプチドの加水分解は重合酵素連鎖反応(PCR)装置で約95乃至105°C反応温度で行うことを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記ポリペプチドの加水分解は前記加水分解用組成物とポリペプチドを含む水槽及びPCR装置のキャップをを約95乃至105°C温度で加熱して行うことを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記加水分解反応容器の材質はプラスチックであることを特徴とする、請求項25乃至29のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記プラスチックはポリエチレン、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、または低密度ポリエチレンであることを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記方法はN-末端、C-末端、またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド断片を含む変形された開裂規則を使用したデータベース検索でポリペプチドの序列を決定することを追加的に含むことを特徴とする、請求項25乃至29のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
前記データベース検索はN-末端、C-末端、またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を含む開裂規則と変形規則を有するPCAデータベースメニューで行われることを特徴とする、請求項25乃至29のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
(i)ポリペプチドをプロテアーゼで加水分解してポリペプチド切片を得て、
(ii)前記段階(i)の結果物を請求項1乃至19のいずれかによる加水分解組成物で加水分解し、切片のN-末端またはC-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(iii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iv)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結し、ポリペプチドのアミノ酸序列を決定することによってポリペプチドの全アミノ酸序列を得ることを特徴とするポリペプチドのアミノ酸序列を決定する方法。
【請求項37】
(i)プロテアーゼを加水分解してポリペプチド切片を得て、
(ii)前記段階(i)の結果物を請求項20による加水分解組成物で加水分解し、切片のN-末端またはC-末端にアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を得て、
(iii)前記得られたポリペプチド切片のアミノ酸序列を決め、
(iv)前記ポリペプチド切片のアミノ酸序列を合わせて連結し、ポリペプチドのアミノ酸序列を決めることによってポリペプチドの全アミノ酸序列を得ることを特徴とするポリペプチドのアミノ酸序列を決定する方法。
【請求項38】
前記方法はN-末端、C-末端、またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド断片を含む変形された開裂規則を使用したデータベース検索でポリペプチドの序列を決めることを追加的に含むことを特徴とする、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
前記データベース検索はN-末端、C-末端またはN-末端とC-末端全てにアスパラギン酸残基を有するポリペプチド切片を含む開裂規則と変形規則を有するPCAデータベースメニューで行われることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
(i)酸容液と水を含有する第1容器;そして(ii)水と混合可能な有機溶媒を含む第2容器を含み、
前記酸容液はトリフルオロ酢酸、燐酸、プロピオン酸、HCl、o-ヨード安息香酸、氷酢酸及びpH2付近の緩衝力を有する酸からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とするポリペプチド加水分解用キット。
【請求項41】
前記第2容器は還元剤を追加的に含むことを特徴とする、請求項40に記載のポリペプチド加水分解用キット。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【公表番号】特表2008−513769(P2008−513769A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532237(P2007−532237)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【国際出願番号】PCT/KR2005/003042
【国際公開番号】WO2006/031063
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(507083146)シグモル,インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】SIGMOL,Inc.
【住所又は居所原語表記】Dept.Life Science,116,Pohang Univ.of Sci & Tech.,San 31,Hyoja−Dong,Nam−Gu,Pohang,Kyungbuk 790−784,Republic of Korea
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【国際出願番号】PCT/KR2005/003042
【国際公開番号】WO2006/031063
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(507083146)シグモル,インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】SIGMOL,Inc.
【住所又は居所原語表記】Dept.Life Science,116,Pohang Univ.of Sci & Tech.,San 31,Hyoja−Dong,Nam−Gu,Pohang,Kyungbuk 790−784,Republic of Korea
【Fターム(参考)】
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