説明

化学誘引物質の改善又は化学誘引物質に関する改善

本発明は、ポリマー及び化学誘引物質を含む粘膜付着性医薬組成物であって、当該組成物のpHは6を上回る粘膜付着性医薬組成物に関し、当該組成物は、肛門性器疾患又は口腔疾患、特にヒトパピローマウイルスにより引き起こされる肛門性器疾患又は口腔疾患の治療において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肛門性器疾患又は口腔疾患、特にヒトパピローマウイルスにより引き起こされるかかる疾患の治療のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、良性性器いぼから浸潤癌に及ぶ一連の疾患を誘発する一般的な性感染病原体である。幾つかのタイプのHPVは、子宮頸癌及びその前駆体(鱗状上皮内病巣(SIL))の発達に直接関与することが知られている(Bosch他, 1995)。鱗状上皮内病巣は、浸潤癌の発病に先立つ子宮頸部の上皮における前悪性変化の一群を指す。
【0003】
子宮癌を発症する少数の感染個体及び癌発生までの比較的長い潜伏期間により示唆されるように、さらなる環境要因及び/又は宿主要因が悪性進行に関与する可能性が高い。HPV感染及びSILの続く発達を制御する際の固有免疫の役割は、細胞媒介性免疫が低下された患者におけるHPV関連病巣の頻度の増大により間接的に示される(Petry他, 1994; Ellerbrock他, 2000)。HPVに対する有効な免疫応答の性質は、十分理解されていないが、細胞媒介性免疫が、体液性免疫よりも重要であると考えられる(Thivolet他, 1982; Wu他, 1994)。幾つかの研究は、頸部HPV感染及び関連頸部病巣に付随する限局性免疫機能障害について記載している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる状態の治療を改善する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、ポリマー及び化学誘引物質を含む粘膜付着性医薬組成物であって、上記組成物のpHは6を上回る、粘膜付着性医薬組成物が提供される。
【0006】
驚くべきことに、化学誘引物質は、抗原提示細胞の走化性を著しく増強すること、及び6を上回るpHを有する粘膜付着性組成物において化学誘引物質を含むことは、HPV形質転換上皮への抗原提示細胞の浸潤を刺激することが見出された。したがって、本発明による組成物は、肛門性器疾患又は口腔疾患、特にヒトパピローマウイルスにより引き起こされる肛門性器疾患又は口腔疾患の治療において有用である。本発明のさらなる有用な特徴は、化学誘引物質が、抗原提示細胞の抗原提示能力を妨げなかったことである。
【0007】
化学誘引物質は概して、樹状細胞及び/又はランゲルハンス細胞のような細胞の漸増を調節する薬理学的作用物質であると理解されている。本発明で使用する化学誘引物質は好ましくは、MIP3α(マクロファージ炎症性タンパク質3α)、HβD2(ヒトβデフェンシン2)、MCP−1(単球走化性タンパク質−1)及びモルグラモスチムから成る群から選択される。好ましくは、2つ又はそれ以上の化学誘引物質、例えばMIP3α及びHβD2が使用される。
【0008】
本発明による組成物は好ましくは、顆粒球マクロファージコロニー漸増因子(GM−CSF)及びHNP2(ヒト好中球デフェンシン2)から成る群から選択される補助化学遊走因子を含有する。本発明による組成物における使用のための化学誘引物質及び補助化学誘引物質の好ましい組合せは、MCP−1及びHNP2である。
【0009】
本発明による組成物は、好ましくは固体様特性を有する連続構造の形態であることが好ましい。組成物は任意に、透明又は不透明のいずれかである。本発明による最も簡素な組成物では、ポリマーは、天然ゴム(例えば、キサンタン)、半合成材料(例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロース)或いは合成材料(例えば、カルボマー、ポリカルボフィル及び/又はカルボキシビニルポリマー)である。
【0010】
ポリマーは好ましくは、アクリル酸含有ポリマーであり、より好ましくはポリマーは、ポリカルボフィルである。本発明による組成物は好ましくは、ヒドロゲルの形態である。
【0011】
組成物のpHは、好ましくは6〜8である。より好ましくは、組成物のpHは約6.9である。
【0012】
本発明による組成物は任意に、防腐剤、緩衝液(特に等張性緩衝液)及び/又は安定剤(例えば、メチルパラヒドロキシベンゾエート、パラベン、EDTA、ソルビン酸カリウム及び/又はプロピルパラヒドロキシベンゾエート)をさらに含む。適切なキャリア、賦形剤及び/又は他の作用物質は、例えば改善された移動及び/又は送達を提供するために本発明による組成物中に含まれてもよい。
【0013】
また、本発明によれば、鱗状粘膜の治療における、好ましくは肛門性器疾患又は経口疾患、特にヒトパピローマウイルスの治療における使用のための本発明による組成物が提供される。
【0014】
肛門性器疾患とは、外陰部疾患、膣疾患、頸部疾患及び/又は陰茎疾患及び/又は肛門直腸疾患を意味する。
【0015】
さらに、本発明によれば、鱗状粘膜の治療における、好ましくは肛門性器疾患又は経口疾患、特にヒトパピローマウイルスの治療における使用のための薬剤の製造における本発明による組成物の使用が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、肛門性器疾患及び/又は口腔疾患を治療する方法であって、治療上有効な量の本発明による組成物を、かかる治療を必要とする患者へ投与することを含む肛門性器疾患及び/又は口腔疾患を治療する方法が提供される。通常、直接的な投与による治療は、1つ又はそれ以上の症状を低減、防止或いは改善するのに十分な期間、毎日、週1回又は月1回行われる。
【0017】
容量約100mlを有する典型的な組成物に関して、組成物中で使用される化学誘引物質の量は、使用する化学誘引物質に応じて、10ng〜500μg、好ましくは100ng〜100μgである。当業者は、適切な量を確定することが可能である。
【0018】
本発明は、添付の図面の図を参照して説明される。
【実施例】
【0019】
ここで、本発明は、以下の実施例を参照して説明され、以下の実施例は、本明細書中で規定される本発明の範囲を限定すると意図されない。
【0020】
(実施例1)
本発明によるゲル配合物は、治療上有効な量のMCP−1、MIP3α又はHβD2、3重量%のヒドロキシエチルセルロース(TYLOSE(登録商標) H4000)、0.3重量%のソルビン酸カリウム、0.3重量%のNaHPO及び精製水(100%となるように適量)から常法で調製された。
【0021】
(実施例2)
経口送達又は肛門送達に適した本発明によるゲル配合物は、ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel GF)7g及び等張性緩衝液(100gになるように)とともに、治療上有効な量のMCP−1、MIP3α又はHβD2から常法で調製された。等張性緩衝液は、KHPO 1.36g、精製水200ml及び4N NaOHを含有して、pH6.9を付与する。
【0022】
(実施例3)
経口送達又は肛門送達に適した本発明によるゲル配合物は、ポリエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(Lutrol F127)20g及び実施例2で規定されるような等張性緩衝液(100gになるように)とともに、治療上有効な量のMCP−1、MIP3α又はHβD2から常法で調製された。
【0023】
(実施例4)
経口送達又は肛門送達に適した本発明によるゲル配合物は、ポリアクリル酸(Carbopol 974P)1.5g、EDTA 0.5g、トロメタモール(pH6.9になるように)及び精製水(100gになるように)とともに、治療上有効な量のMCP−1、MIP3α又はHβD2から常法で調製された。
【0024】
(実施例5)
経口送達又は肛門送達に適した本発明によるゲル配合物は、以下の:
ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel GF) 7g
パラベン 適量
等張性緩衝液(実施例2と同様) 100gになるように
とともに、治療上有効な量のMCP−1、MIP3α又はHβD2から常法で調製された。
【0025】
(実施例6)
経口送達又は肛門送達に適した本発明によるゲル配合物は、以下の:
ポリエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(Lutrol F127) 20g
パラベン 適量
等張性緩衝液(実施例2と同様) 100gになるように
とともに、治療上有効な量のMCP−1、MIP3α又はHβD2から常法で調製された。
【0026】
(実施例7)
経口送達又は肛門送達に適した本発明によるゲル配合物は、以下の:
ポリアクリル酸(Carbopol 974P) 1.5g
EDTA 0.5g
パラベン 適量
精製水 100gになるように
トロメタモール pH6.9になるように
とともに、治療上有効な量のMCP−1、MIP3α又はHβD2から常法で調製された。
【0027】
(実施例8)
材料及び方法
頸部HPV形質転換ケラチノサイト細胞系の培養
SiHa及びCasKiは、腫瘍原性子宮頸癌由来ケラチノサイト細胞系である(Friedl他, 1970; Pater他, 1985; Auersperg他, 1962)。SiHa細胞系は、1個のコピーを含有し、CasKiは、組み込まれたHPV−16 DNAのおよそ600個のコピーを含有する。これらのHPV形質転換ケラチノサイト細胞系は、0.4μg/mlのヒドロコルチゾン(Sigma Chemical Co.,ミズーリ州セントルイス)、2ng/mlの上皮成長因子(Sigma)、10%ウシ胎児血清(Life Sciences International,ベルギー、ゼリック)、2mmol/L L−グルタミン(GIBCO BRL)、10mmol/Lのヘペス(GIBCO MRL)、1μg/ml ファンギゾン(GIBCO BRL)、1mmol/Lのピルビン酸ナトリウム(GIBCO BRL)、3000U/mlのペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO BRL)、10−10mol/Lのコレラ毒素、5μg/mlのインスリン(Sigma)、20μg/mlのアデノシン(SIgma)、5μg/mlのヒトトランスフェリン(Sigma)及び15.10−4μg/mlの3,3’、5−トリヨード−L−サイロニン(Sigma)を補充したHAM F12(GIBCO MRL,米国ニューヨーク州グランドアイランド)/ダルベッコ変法イーグル培地(GIBCO BRL)の1/3混合物から構成される成長培地中で培養した。
【0028】
樹状細胞培養物
樹状細胞(DC)は、これまでに記載されたようにヒトPBMCの接着分画を培養することにより生成させた(Hubert他, 1998; Sallusto及びLanzavecchia, 1994)。簡潔に述べると、末梢血単核球(PBMC)は、フィコール−ハイパークにおける遠心分離により白血球に富んだバフィーコートから単離された。最大の血小板を廃棄するための低い遠心分離速度での洗浄後に、PBMCは、6ウェル皿(Nunclon Multidishes,デンマーク、NUNC)中で、FCSを有さない培地3ml中でウェル1つ当たり10×10個のPBMCの密度で平板培養した。37℃で18時間後、非接着細胞は、2回の穏やかな洗浄により廃棄して、プラスチック接着分画は、RPMI(10%FCS−50μMメルカプトエタノール)3ml中で、800U/mlのヒト組換えGM−CSF(Amoytop Biotech,中国、アモイ)及び40U/mlのIL4(ImmunoTools,ドイツ、フリゾイテ)とともに培養した。3日毎に、サイトカインを含有する新鮮な培地を培養物へ供給して、7日目にPBS−EDTA 1mMとともに収集した。
【0029】
ランゲルハンス細胞培養物
臍帯血単核球(CB MNC)は、収集後24時間以内にLymphoprep(商標)(Nycomed Oharma As,ノルウェー、オスロ)を使用した不連続密度勾配遠心分離後に回収された。CD34細胞は、製造業者のプロトコルに従ってMACS Direct CD34前駆細胞単離キット(Miltenyi Biotec GmBH,ドイツ、ベルキッシュグラッドバッハ)及びMiniMACS分離カラム(Miltenyi Biotech)を使用してCB MNCから単離された。15 10個のCD34細胞は、T25フラスコ(Sarstedt, Inc,ノースカロライナ州ニュートン)において10%FCS、抗生物質及び50μMのメルカプトエタノール(全てGIBCO-BRLから)を補充したRPMI 1640培地10ml中に播種した。予め最適化した濃度の以下のヒト分子を培養物に補充した:SCF(20μg/ml、比活性(SA)>5 10U/mg)、TPO(10U/ml、SA>1 10U/mg)、FIT3−L(25ng/ml、SA>2 10U/mg)、GM−CSF(200U/ml、SA:11,1 10U/mg)、TNFα(50U/ml、SA>2 10U/mg)、IL4(100U/ml、SA>2 10U/ml)及びTGF−β1(5ng/ml又は12.5ng/ml、SA>2 10U/mg)。これらの作用物質は全て、PeproTech(ニュージャージー州ロッキーヒル)から購入した。但し、それぞれAmoytop(Amoytop Biotech, 中国、アモイ)及びBiosource (ベルギー、ニヴェル)から入手したGM−CSF及びIL4を除く。細胞は、加湿雰囲気中で、且つ5% COの存在下で37℃にて培養した。7日目に、細胞密度を1cm当たり2.10個に調節して、7日目及び14日目に、培養の開始時に使用されるものと同じ濃度で、GM−CSF、IL4、TNFα及びTGF−β1と細胞に供給した。但し、全ての培養物に関して12.5ng/mlであった14日目のTGF−β1を除く。18日目に、細胞は、激しくピペットで採取することにより培養物から収集されて、単一細胞集団を調製した(Hubert他, 近刊)。
【0030】
走化性アッセイ
細胞遊走は、走化性マイクロチャンバ技法を用いて評価した(48ウェル Boydenマイクロチャンバ;Neuroprobe,米国、メリーランド州キャビン・ジョン)。走化性チャンバの下位ウェルに27個の非条件培地、ヒト線維芽細胞由来細胞条件培地又は研究される種々のケモカインを充填した。非条件培地は、無作為遊走用の対照として使用した。各条件は6回繰り返した。表現型の特性化後、DCを収集して、下位ウェルと分離させるポリビニルピロリドンを含まないポリカーボネート膜8μm孔フィルタ(Poretics Corp.,カリフォルニア州リバーモア)を用いて、DC懸濁液(2×10個の細胞/ml)55μlをチャンバの上位ウェルへ適用させた。これらの膜は、0.1%酢酸溶液中の100μg/mlのゼラチンとのインキュベーションによりコーティングされた。チャンバは、5%CO/95%空気雰囲気下で37℃にて5時間インキュベートした。フィルタの下側へ遊走した細胞を固定して、Diff Quick Stainセット(Baxter Diagnostics AG,スイス、デュディンゲン)で染色した。フィルタの上側を掻爬して、残留非遊走細胞を除去した。目盛付き格子を伴う接眼レンズを使用して、ウェル1つ当たり1つの無作為野を計数して、完全に遊走した細胞の数を評価した。
【0031】
上位ウェルと下位ウェルとを分離させる標準的な5μm孔ポリビニルピロリドンを含まないポリカーボネートフィルタを使用して、LCに関して同じ試験を実現させた。
【0032】
ヒドロゲルの調製
ポリカルボフィル(Noveon AA1)は、Noveon(ベルギー、ブリュッセル)から供給された。ポリカルボフィルゲル(1.5%w/w)は、ケラチノサイト成長培地中にNoveon AA1を分散させることにより調製された。混合物は、濃厚化が起きるまで攪拌した後、透明なゲルが生じるまで、40%(w/w)トロメタモールの滴下により中和した。トロメタモールの量は、pH7を達成するように調節された。
【0033】
器官型培養物
HPV形質転換ケラチノサイト細胞系の器官型培養物は、これまでに記載される手順をわずかに変更した手順により調製された(DeIvenne他, 1995; Merrick他, 1992)。皮膚等価体の調製に関して、0.1%酢酸1.6ml、フェノールレッドを補充した冷却10倍濃縮ハンクス緩衝液1ml及びpH7.2を付与するための1N NaOHと氷上で混合したコラーゲン(コラーゲン溶液AC−5、タイプI、ICN, Biomedical,ベルギー、アッセ地方(relegen))32mgにより、コラーゲンマトリックス溶液が作製された。次に、5×10個の正常ヒト線維芽細胞を含有するFCS 1ミリリットルを添加した。コラーゲン/線維芽細胞溶液1ミリリットルを24ウェルプレート(Nunclon Multidishes, Nunc,デンマーク、ロスキルド)へ注ぎ、37℃で1時間凝固させた。コラーゲン及び線維芽細胞の最終濃度は、それぞれ3.2mg/ml及び5×10個の細胞/mlであった。37℃で一晩の成長培地1mlによるゲル平衡後、成長培地50μl中に再懸濁させた30.10個のHPV形質転換ケラチノサイトをゲルの上部に播種して、48時間水面下で維持した。コラーゲンラフトが25mm組織培養入片(8μm孔径、Nunc)において引き上げられ、空気と液体培地との間の界面にあるステンレス鋼グリッド上へ配置された。続いて、上皮細胞を20日にわたって層形成させた。ケラチノサイトの層形成後、DCを、4.10個の細胞/50μl(ケラチノサイト成長培地)濃度でin vitroで形成された上皮の上部上へ播種した。液体培地又はポリカルボフィルゲルには、下記濃度で種々のケモカイン/デフェンシンを補充したか、或いは補充しなかった:500ng/mlの単球走化性タンパク質1(MCP−1、Peprotech,ニュージャージー州ロッキーヒル)、750ng/mlのヒト好中球ペプチド−2(HNP2、Sigma-Aldrich,ミズーリ州セントルイス)、750ng/mlのヒトβデフェンシン−2(HβD2、PeproTech, ニュージャージー州ロッキーヒル)又は500ng/mlのマクロファージ炎症性タンパク質3α(MIP3α、PeproTech, ニュージャージー州ロッキーヒル)。37℃で48時間後、コラーゲンラフトを収集した。続いて、培養物を−70℃でOCT化合物(Tissue Tek, Sakura, The Nethrlands)中に包埋して、免疫組織化学分析用にクリオスタットミクロトームで切片化した。
【0034】
免疫組織化学
上皮層へ遊走するDCの密度は、抗CD1aモノクローナル抗体(クローン NA1/34、Dako,(デンマーク、グロストルップ)社製)を用いてアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ技法(Vectastain ABC Kit、Vector Laboratories,カリフォルニア州バーリンゲーム)により評価した。8ミクロンの凍結切片を冷アセトン中で30分間固定して、内因性ペルオキシダーゼを0.1%Hで30分間ブロックした。続いて、切片を順次、抗CD1a抗体(2%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するPBS中に1/40希釈で)とともに1時間、ビオチン化マウス抗Ig抗体とともに30分間、及びストレプトアビジン/ホースラディッシュペルオキシダーゼ/アビジン/ビオチン複合体とともにさらに30分間インキュベートした。陽性細胞は、3,3’−ジアミノベンジジン基質(DAB)により可視化させた。切片はヘマトキシリンにより対比染色させた。
【0035】
器官型培養物におけるCD1a+細胞浸潤の評価
器官型培養物におけるDC/LC浸潤は、上皮の上部と個々のDCとの間の距離を、画像分析のコンピュータシステム(CAS、Becton Dikinson,ベルギー、エーレムボードヘム)により測定することにより評価した。続いて、浸潤深さと培養物の厚さとの間の比を算出した。パーセント比は、培養物の上部上に留まるDC/LCに関しては0%、上皮の底部に到達するDC/LCに関しては100%であった。
【0036】
ケラチノサイト成長阻害アッセイ
DC(40000個のDC/ウェル)を伴うか、又は伴わないHPV形質転換ケラチノサイト細胞系(5×10個の細胞/ウェル)を、ケモカイン/デフェンシンを伴うか、又は伴わない96ウェルプレート(Nunclon Surface、NUNC)中で培養した。増殖は37℃で48時間後に測定され、続いて0.4μCi/ウェルの[H]チミジン(6,7Ci/mmol、Moravek Biochemicals,カリフォルニア州ブレア)とともに18時間インキュベーションした。[H]チミジンは、分裂中に細胞周期のS期中にDNAに組み込むことができる。DNAは、自動サンプル収集器(Packar, Canberra, オランダ、ティルブルフ)により収集されて、チミジン組込みは、液体シンチレーションカウンター(Top Count、Packard, Canberra)を使用することにより分析された。データは、下記式:
増殖%=(試験cpm/対照cpm)×100
(式中、試験cpmは、ケモカイン/デフェンシンの存在下又は非存在下でDCを伴って培養したケラチノサイトによる[H]チミジン組込みであり、対照cpmは、DCを伴わないが、ケモカイン/デフェンシンを伴うか、又は伴わないケラチノサイトによる[H]チミジン組込みである)
を使用することにより算出される増殖のパーセントとして提示される。
【0037】
混合リンパ球反応アッセイ
刺激集団(樹状細胞)を収集して、2500ラドで照射した。洗浄及び遠心分離後、細胞は、5%ヒトプールAB血清を含有するRPMI−1640培地中で50000個のDC/100μlへ調節された。続いて、刺激細胞(50000個のDC/ウェル)を、ウェル1つ当たり1×10個の同種異系PBMC及び種々のケモカイン/デフェンシンを含有する丸底96ウェルプレート(Nunclon)へ添加した。試験は四重反復で実施した。増殖応答は、0.4μCi[H]チミジン(6,7Ci/mmol、Moravek Biochemicals,カリフォルニア州ブレア)を各ウェルへ添加することにより培養の7日後に測定した。DNAは、自動サンプル収集器(Packar, Canberra,オランダ、ティルブルフ)により18時間後に収集されて、液体シンチレーションカウンター(Top Count、Packard, Canberra)で計数された。
【0038】
統計学的分析
統計学的分析は、対応のない(unpaired)スチューデントt検定を使用することにより実施した(Instat Mac 2.01ソフトウェア、Graph-Pad Software,カリフォルニア州サンディエゴ)。差は、P<0.05である場合に統計学的に有意であるとみなした。
【0039】
結果
HNP2及びMCP−1は、DCの走化性を誘導する
DCの遊走に影響を与えることができる分子を同定するために、本発明者等は、Boydenマイクロ走化性チャンバを使用して遊走アッセイを実施した。この研究用に生成されるDCは、フローサイトメトリ及び表面表現型により、形態、前方散乱値及び側方散乱値を含む幾つかの基準に基づいて90%純粋であることが判断された(データは示さず)。
【0040】
図1に示すように、DCに関する化学誘引物質であることが既知であるGM−CSF(1ng/ml)(Hubert他, 1999)の添加は、ケモキネシスを評価するのに使用される非条件培地と比較して、DCの走化性を有意に増強した。興味深いことに、MCP−1及びHNP2は、予備研究で最適な濃度であることが予め確定されたそれぞれ500ng/ml及び750ng/mlで、DCの遊走を増大させた。さらに、MCP−1及びHNP2の走化性活性は、GM−CSFにより誘導される走化性のレベルに類似していた。
【0041】
HβD2及びMIP3αは、LCの走化性を誘導する
LCが走化性分子により誘引され得るかどうかを確定するために、in vitroで生成させたLCを用いて、Boydenチャンバアッセイを実施した。LCは、造血成長因子(TPO、SCF、Flt3L)、サイトカイン(GM−CSF、TNFα、IL4)及びTGF−β1の存在下で培養されるCD34臍帯血前駆体から生成された(Hubert他, 近刊)。FACS分析及び電子顕微鏡法により確証されるように、それらは、LCの形態学的特徴、免疫組織化学的(CD1a、CD207、E−カドヘリン、CLA及びCCR6)特徴及び超微細構造的特徴(バーベック顆粒)を示した(データは示さず)。
【0042】
DCに関して観察されるように、GM−CSF(10ng/ml)は、非条件培地よりも有意に高いLC遊走を誘導した。MIP3α(500ng/ml)又はHβD2(750ng/ml)の存在下でのLCの移動度は、GM−CSFで観察される移動度と同一であった(図2)。
【0043】
ポリカルボフィルゲル中に含まれるケモカイン及びデフェンシンは、HPV形質転換ケラチノサイトの器官型培養物へのDC/LCの浸潤を刺激する
MIP3α及びHβD−2又はMCP−1及びHNP2の添加が、それぞれLC及びDCの、in vivoで観察される頸部高度病巣を思わせるin vitroで形成された(前)腫瘍性上皮を浸潤する能力を調節することができるかどうかを研究した。培養の20日後、空気/液体界面でコラーゲンゲル上で成長させたHPV形質転換ケラチノサイト細胞系は、厚さが最大10〜15個の細胞の上皮層を生じた。これらの細胞は、高度病巣生検材料で観察されるように上皮の全層全体にわたってまとまりがなく且つ非常に不規則であるようであった。
【0044】
DC又はLCは、化学誘引物質分子の存在下又は非存在下でこれらの培養物の上部上で層を成した。免疫療法的アプローチにおいてこれらの分子を局所的に適用する蓋然性を評価するために、ケモカイン及びデフェンシンは、ポリカルボフィルゲル中に含まれた。走化性分子の、DC/LCの遊走に影響を与える能力は、化学誘引物質添加の48時間後に器官型培養物の切片におけるCD1a細胞の密度を評価することにより確定された。図3は、ポリカルボフィルゲル中に含まれるか又は含まれない、走化性分子とともにインキュベートされるか或いは走化性分子とともにインキュベートされないHPV形質転換器官型培養物におけるCD1a標識DCを示す代表的な実験を示す。図4は、LCを用いて実施した類似の実験を表す。
【0045】
HPV形質転換ケラチノサイト器官型培養物では、LC/DCは、化学誘引物質の非存在下では上皮層を乏しく浸潤した(図3A及び図3B並びに図4A及び図4B)。対比して、陽性対照であるGM−SCFの添加は、上皮層で観察されるLC/DCの密度の有意な増加を引き起こした(図3C及び図3D並びに図4C及び図4D)。成長培地におけるケモカイン及びデフェンシンの添加は、GM−CSFで観察される漸増に類似したDC/LCの漸増を誘導した(図3C、図3E、図3G及び図4C、図4E、図4G)。興味深いことに、この浸潤はまた、化学誘引物質がポリカルボフィルゲル中に含まれる場合にも存在した(図3D、図3F、図3H及び図4D、図4F、図4H)。
【0046】
DC/LC浸潤の定量分析は、器官型培養物の全層全体にわたって全てのCD1a細胞の浸潤深さを評価することにより実施された(図5)。
【0047】
器官型培養物の培地にMCP1又はHNP2が補充された場合、DCの浸潤は、化学誘引物質を伴わない基本的な浸潤と比較して増大し、GM−CSFで観察されるレベルと同等の浸潤レベルに達した(図5A)。ポリガルボフィルゲル中に化学誘引物質分子を含ませることにより、培地中での化学誘引物質の存在下で観察される浸潤と比較してDC浸潤は変更されなかった。
【0048】
LCの浸潤はまた、MIP3α又はHβD−2の存在下でも増大された(図5B)。器官型培養物の培地にHβD−2が補充された場合、LCの遊走は、GM−CSFの存在下で観察される遊走と比較してわずかに低かった。MIP3αの添加は、GM−CSFで得られる漸増に類似した漸増を誘導した。液体培地中又はポリカルボフィルゲル中に含まれる化学誘引物質は、類似の様式でLCを漸増させた。
【0049】
DC/LC分化に対するケモカイン/デフェンシンの潜在的影響を確定するために、本発明者等は、器官型培養物の二重免疫染色(CD1a/CD14)を実施した。ケモカイン/デフェンシンの存在下で器官型培養物に浸潤するDC/LCの表現型は、遊走前に確立される表現型と比較して変更されなかった(データは示さず)。
【0050】
HPV+ケラチノサイトに対するDCの細胞分裂停止活性は、ケモカイン/デフェンシンの存在下で変更されない
DCは、in vitroでHPV形質転換ケラチノサイトの成長を阻害することが可能である(Hubert他, 2001)ため、本発明者等は、この細胞分裂停止活性に対する走化性分子の影響を確定しようとした。本発明者等は、種々の化学誘引物質の存在下又は非存在下で、HPVケラチノサイトをDCと共培養することにより48時間成長阻害アッセイを実施した。
【0051】
DCは、DCなしの培養物と比較して、HPVケラチノサイトの増殖を56%にまで低減させたため、HPVケラチノサイトに対する有意な成長阻害効果を示した。デフェンシンもケモカインも、HPVケラチノサイトに対するDCの細胞分裂停止活性を変更しなかった。
【0052】
ケモカイン及びデフェンシンは、混合リンパ球反応(MLR)においてDCの抗原提示反応に影響を及ぼさない
リンパ球増殖は、ケモカイン又はデフェンシン単独の存在下で変化しなかった(データは示さず)。
【0053】
図7で示されるように、DCは、走化性分子の存在下又は非存在下で、Tリンパ球増殖を刺激するそれらの能力の点で有意に異ならなかった。したがって、DCの、Tリンパ球へ抗原を提示する能力は影響を受けなかった。
【0054】
参考文献
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】DCに関する種々の分子の走化活性を示すグラフであり、ここでNCは、非条件培地を示す。結果は、3回の実験の平均値±SDであり、アスタリスクは、統計学的に有意な差を示す:**P<0.01。
【図2】LCに関する種々の分子の走化活性を示すグラフであり、ここでNCは、非条件培地を示す。結果は、7回の実験の平均値±SDであり、アスタリスクは、統計学的に有意な差を示す:P<0.05。
【図3】HPVケラチノサイトの器官型培養物のCD1a免疫標識切片により示される、器官型培養物へのDCの浸透と外因性GM−CSF(C、D)、MCP−1(E、F)及びHNP2(G、H)の添加との間の相関を示す図であり、ここで写真A及びBは、走化性分子の非存在下でのDC浸潤を示し、C〜Hは、液体培地中の走化性分子の存在下(C、E、G)又はポリカルボフィルゲル中に含まれる走化性分子の存在下(D、E、H)でのDC漸増を示す。
【図4】HPVケラチノサイトの器官型培養物のCD1a免疫標識切片により示される、器官型培養物へのLCの浸透と外因性GM−CSF(C、D)、MIP3α(E、F)及びHβD2(G、H)の添加との間の相関を示す図であり、ここで写真A及びBは、走化性分子の非存在下でのDC浸潤を示し、C〜Hは、液体培地中の走化性分子の存在下(C、E、G)又はポリカルボフィルゲル中に含まれる走化性分子の存在下(D、E、H)でのDC漸増を示す。
【図5】HPV形質転換ケラチノサイトの器官型培養物へのDC及びLC浸潤の定量的評価を示す図であり、ここでDCの浸透(A)は、GM−CSF(対照として使用)、MCP−1及びHNP2の非存在下で或いは存在下で(ポリカルボフィルゲル中に含まれるか、又は含まれない)試験され、LCの浸透(B)は、GM−CSF、MIP3α及びHβD2の非存在下で或いは存在下で(ポリカルボフィルゲル中に含まれるか、又は含まれない)評価される。DC及びLCは、抗CD1a抗体で免疫標識することにより検出された。結果は、上皮層厚のパーセントで浸潤深さとして表される(各培養条件に関してn=4)。アスタリスクは、統計学的に有意な差を示す:P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【図6】DC媒介性細胞分裂停止活性がケモカイン及びデフェンシンの存在下で維持されることを示す図である。HPVケラチノサイトは、5×10個の細胞/ウェルで96ウェルプレート中で培養した。これらの細胞は、4×10個の細胞/ウェルで添加したDCとともに培養した。走化性分子の存在下又は非存在下での48時間のインキュベーション後、細胞増殖を3H−TdR組込みにより測定した。結果は、ケモカイン又はデフェンシンの存在下又は非存在下での、単独で培養したケラチノサイトと比較した共培養におけるHPVケラチノサイト増殖のパーセントとして表される。結果は、異なるドナーに由来するDCを使用した4回の実験の平均値±SDとして提示される。
【図7】ケモカイン及びデフェンシンが、DCの、強力な混合リンパ球反応を刺激する能力を変更させなかったことを示す図である。2500ラドで照射した5×10個のDCは、7日間ケモカイン及びデフェンシンの存在下で1×10個のPBMCとともに培養した。細胞増殖を3H−TdR組込みにより測定した。増殖指数は、ケモカイン/デフェンシンが添加されるか又はされない混合DC−PBMC培養物における細胞増殖を、ケモカイン/デフェンシンを伴って又は伴わずに単独で培養したPBMCと比較することにより得られた。これらの結果は、異なるドナーに由来するDCを使用した3回の実験の平均値±SDとして提示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び化学誘引物質を含む粘膜付着性医薬組成物であって、該組成物のpHは6を上回る、粘膜付着性医薬組成物。
【請求項2】
前記化学誘引物質は、MIP3α、HβD2、MCP−1及びモルグラモスチムから成る群から選択される、請求項1に記載の粘膜付着性医薬組成物。
【請求項3】
顆粒球マクロファージコロニー漸増因子(GM−CSF)及びHNP2(ヒト好中球デフェンシン2)から成る群から選択される補助化学誘引物質を含有する、請求項1又は2に記載の粘膜付着性医薬組成物。
【請求項4】
前記ポリマーは、天然ゴム、半合成材料及び合成材料から成る群から選択される、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の粘膜付着性医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物のpHは6〜8であり、好ましくは前記組成物のpHは約6.9である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の粘膜付着性医薬組成物。
【請求項6】
鱗状粘膜の治療における、好ましくは肛門性器疾患又は口腔疾患、特にヒトパピローマウイルスの治療における使用のための請求項1ないし5のいずれか1項に記載の粘膜付着性医薬組成物。
【請求項7】
鱗状粘膜の治療における、好ましくは肛門性器疾患又は口腔疾患、特にヒトパピローマウイルスの治療における使用のための薬剤の製造における請求項1ないし6のいずれか1項に記載の粘膜付着性医薬組成物の使用。
【請求項8】
肛門性器疾患及び/又は口腔疾患を治療する方法であって、治療上有効な量の請求項1ないし5のいずれか1項に記載の粘膜付着性医薬組成物を、かかる治療を必要とする患者へ投与することを含む、肛門性器疾患及び/又は口腔疾患を治療する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−525516(P2008−525516A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548800(P2007−548800)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【国際出願番号】PCT/EP2005/056709
【国際公開番号】WO2006/069911
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(500029925)ユニベルシテ・ド・リエージュ (18)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LIEGE
【住所又は居所原語表記】Avenue Pre−Aily,4,B−4031 Angleur,Belgium
【Fターム(参考)】