説明

化粧品基材および化粧料

【課題】酸性側での安定性に優れ、弱酸性の毛髪コンディショニング剤に配合しやすく、かつ毛髪や皮膚に優れた潤い感やなめらかさを付与し、特に毛髪の櫛通り性を向上させることができ、しかも毛髪コンディショニング剤の保存安定性に優れ、かつ容易に製造できる化粧品基材、およびこの化粧品基材を含有する化粧料を提供する。
【解決手段】タンパク質加水分解物の誘導体であって、アシル化されたアミノ基、およびグリセリル基がエステル結合したカルボキシ基を有するN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材、特に、全アミノ基の70%以上がアシル化されており、全カルボキシ基の50%以上がグリシドールによりエステル化されており、タンパク質加水分解物のアミノ酸重合度が3〜30であるN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材、および、この化粧品基材を含有する化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材およびこの化粧品基材を含有する化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、タンパク質を加水分解したタンパク質加水分解物(加水分解タンパク、加水分解ペプチドとも言う。)のアミノ基に脂肪酸を縮合してなるN−アシル化誘導体(N−アシル化タンパク質加水分解物)やその塩は、界面活性剤や乳化剤、コンディショニング剤として毛髪化粧品や皮膚化粧品に広く用いられている(特許文献1)。それは、N−アシル化タンパク質加水分解物が、皮膚や毛髪と親和性があり、また天然物由来の原料のみから製造できるので安全性が高い上に生分解性に優れるためである。特に、N−アシル化タンパク質加水分解物の塩は、シャンプーに広く用いられているが、これはN−アシル化タンパク質加水分解物の塩は、合成系の陰イオン界面活性剤に比べて皮膚への刺激が少ない上にヘアコンディショニング効果を有しているためである(特許文献2)。
【0003】
しかしながら、N−アシル化タンパク質加水分解物には、次に述べるような問題があった。すなわち、
1)毛髪や皮膚は弱酸性のため、化粧品は毛髪や肌への刺激の少ない弱酸性のものが多いが、N−アシル化タンパク質加水分解物の塩は酸性側では水に不溶となりやすいので、酸性の水系化粧品にはその効果を発揮できる充分な量を配合しにくいという問題、
2)N−アシル化タンパク質加水分解物の塩は界面活性能を有していて起泡性があるため、ヘアコンディショナーには多量には配合しにくいという問題、
3)一般にヘアコンディショナーが用いられる弱酸性領域では、ペプチドのカルボキシ基が毛髪表面のタンパク質のカルボキシ基と反発するので、毛髪に収着しにくいという問題、などである。特に3)の毛髪に収着しにくいという問題は、酸性アミノ酸単位を多く含む植物タンパク質加水分解物では顕著である。
【0004】
シャンプーなどに用いられる界面活性剤成分としては、前記N−アシル化タンパク質加水分解物の他に、アミノ酸のアミノ基に脂肪酸を縮合させたN−アシルアミノ酸の塩も知られている(特許文献3)。しかし、N−アシルアミノ酸の塩は、酸性側では水に不溶になるだけでなく中性付近でも水に溶けにくく、化粧品に配合しにくいという問題は、N−アシル化タンパク質加水分解物より大きい。さらに、アミノ酸の誘導体ではタンパク質加水分解物が有する毛髪や皮膚への親和性(収着性)は期待できないので、毛髪や皮膚へのコンディショニング効果の付与は、N−アシル化タンパク質加水分解物に劣るという問題があった。
【0005】
また、N−アシル中性アミノ酸のカルボキシ末端にアルキル基を導入したN−アシル中性アミノ酸のアルキルエステルも知られており、界面活性剤の一成分としての使用が提案されている(特許文献4および特許文献5)。しかし、このN−アシル中性アミノ酸アルキルエステルを製造するためには、脱水系または脱水系に近い系でエステル化反応を行う必要があり、製造が容易でないとの問題がある。すなわち、固形物として得られたN−アシル中性アミノ酸を用い、アルコールなどの有機溶媒中か高アルコール濃度の含水アルコール溶液中でエステル化し、N−アシル化アミノ酸アルキルエステルを粉末などの脱水した状態で得る必要があり、製造に有機溶媒を使用し、製造設備の制約を受けるとの問題があった。
【0006】
また、N−α−アシルアルギニンのカルボキシ末端に四級アンモニウム基を有する基を導入したエステルも知られており(特許文献4)、シャンプー、リンス、洗浄剤への使用が提案されている。しかし、このN−アシルアミノ酸誘導体は、タンパク質加水分解物が有する毛髪や皮膚への親和性(収着性)による保湿性、なめらかさの付与効果は期待できず、毛髪や皮膚へのコンディショニング効果は満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−101449号公報
【特許文献2】特開平6−122610号公報
【特許文献3】特開昭54−050513号公報
【特許文献4】特開平8−175934号公報
【特許文献5】特開平9−12522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術の有する上記の問題点が解決された化粧品基材を提供することを課題とする。より具体的には、
弱酸性の水系でも不溶物を生じにくく、従って、ヘアリンスやヘアコンディショナーなどの弱酸性の毛髪コンディショニング化粧品にも配合しやすく、乳化剤としての機能を発揮できるとともに、
毛髪や皮膚に優れた潤い感やなめらかさを付与する、
毛髪の櫛通り性を向上させる、との効果に優れ、
さらに、製造が容易である化粧品基材を提供することを課題とする。
【0009】
さらにまた本発明は、前記化粧品基材を用いた化粧料であって、毛髪や皮膚への収着性に優れ、毛髪や皮膚に優れた潤い感やなめらかさを付与する化粧料を提供することを課題とする。特に、毛髪の櫛通り性を向上させることができ、かつ毛髪をしなやかな感触に仕上げることができるまとまりやすさ(整髪性)に優れた毛髪化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、タンパク質加水分解物のアミノ基をアシル化してなるN−アシル化タンパク質加水分解物の有するカルボキシ基に、下記の一般式(I)
【0011】
【化1】

【0012】
で表される官能基をエステル結合させてなるN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、従来のN−アシル化タンパク質加水分解物に比べて、酸性側での安定性に優れること、シャンプーや毛髪コンディショニング剤に配合すると、毛髪に優れた潤い感やなめらかさを付与し、毛髪の櫛通り性を向上できること、しかも弱酸性の化粧品中においても保存安定性に優れていることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0013】
すなわち、本発明は、アシル化されたアミノ基および一般式(I)で表される官能基によりエステル化されているカルボキシ基を有し、下記の一般式(III):
【0014】
【化2】


(式中、Rは、水素または一般式(I)で表される官能基を表し、R’は、水素またはRCO−で表される官能基であり、Rは、カルボン酸から末端カルボキシ基を除く残基を示し、Rは、塩基性アミノ酸単位の側鎖から側鎖末端アミノ基を除く残基を示し、Rは、酸性アミノ酸単位の側鎖から側鎖末端カルボキシ基を除く残基を示し、Rは、前記塩基性アミノ酸単位および酸性アミノ酸単位以外のアミノ酸単位、すなわち中性アミノ酸単位の側鎖を示し、a、bおよびcは、それぞれ、タンパク質加水分解物1分子内の塩基性アミノ酸単位の数、酸性アミノ酸単位の数および中性アミノ酸単位の数を示す。)で表されるN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体からなることを特徴とする化粧品基材を提供するものである(請求項1)。
【0015】
なお、一般式(III)において、a、bおよびcは、はアミノ酸単位の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない。また、a、b、cの値は、理論的には0または正の整数であるが、実際には異なるアミノ酸重合度を有する分子の混合物であるので、実際に表される値はその平均値であり必ずしも0または正の整数ではない。また、タンパク質加水分解物は、少なくとも1以上のアミノ酸単位を含むので、a+b+cは1より大きい。
【0016】
また、R、R、R、Rについても、それぞれ2種以上の異なるものを含むことが可能である。すなわち、N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体を構成する塩基性アミノ酸単位、酸性アミノ酸単位または中性アミノ酸単位のそれぞれが、2種以上のアミノ酸単位からなっていてもよい。さらに、本発明の化粧品基材は、一般式(III)で表されるN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の2種以上から構成されていてもよい。
【0017】
一般式(III)で表されるN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、タンパク質加水分解物を原料とし、そのタンパク質加水分解物中のアミノ基の少なくとも一部をアシル化し、かつそのタンパク質加水分解物中のカルボキシ基の少なくとも一部を一般式(I)で表される官能基によりエステル化して得ることができるものである。従って、一般式(III)中のR’の少なくとも一部はRCO−で表される官能基であり、Rの少なくとも一部は一般式(I)で表される官能基である。
【0018】
ここで、アミノ基のアシル化とは、原料のタンパク質加水分解物中のアミノ基とカルボン酸(または酸ハライドなどのカルボン酸誘導体)を縮合させて−CONH−で表される基を形成することを意味する。
【0019】
ここで、原料となるタンパク質加水分解物は、タンパク質を酸、アルカリ、酵素またはそれらの併用により、部分加水分解して得ることができるものである。したがって、通常、複数のアミノ酸単位がペプチド結合して構成され、その末端にアミノ基およびカルボキシ基を有する。
【0020】
また、このタンパク質加水分解物を構成するアミノ酸単位が、塩基性アミノ酸単位および/または酸性アミノ酸単位を含む場合には、タンパク質加水分解物は、前記末端のアミノ基およびカルボキシ基に加えて、側鎖にもアミノ基および/またはカルボキシ基を有する。そして、塩基性アミノ酸単位が含まれる場合には、アシル化されるアミノ基には、主鎖末端のアミノ基のみではなく、塩基性アミノ酸単位の側鎖末端のアミノ基も含まれ、酸性アミノ酸単位が含まれる場合には、エステル化されるカルボキシ基には、主鎖末端のカルボキシ基のみではなく、酸性アミノ酸単位の側鎖末端のカルボキシ基も含まれる。
【0021】
この原料となるタンパク質加水分解物は、下記の一般式(II)で表すことができる。
【0022】
【化3】

【0023】
式中、R、R、およびR、並びにa、bおよびcは、それぞれ、一般式(III)におけるR、R、およびR、並びにa、bおよびcと同じ意味を表す。
【0024】
従って、a、bおよびcはアミノ酸単位の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない。また、a、b、cの値は、理論的には0または正の整数であるが、実際には、タンパク質加水分解物は異なるアミノ酸重合度を有する分子の混合物であるので実際に表される値はその平均値であり、必ずしも0または正の整数ではない。
【0025】
請求項2に記載の発明は、前記R中の50%以上が、一般式(I)で表される官能基であることを特徴とする請求項1に記載の化粧品基材である。すなわち、タンパク質加水分解物の全カルボキシ基の50%以上が、一般式(I)で表される官能基によりエステル化(グリセリル化)されていることを特徴とする化粧品基材である。一般式(III)から明らかなように、タンパク質加水分解物を構成するアミノ酸単位に酸性アミノ酸単位が含まれる場合には、一般式(I)で表される官能基によりエステル化されるカルボキシ基には、主鎖末端のカルボキシ基のみではなく、酸性アミノ酸単位の側鎖末端のカルボキシ基も含まれる。全カルボキシ基とは、この側鎖のカルボキシ基も含むとの意味である。一般式(I)で表される官能基によりエステル化されている割合が全カルボキシ基の50%未満の場合、酸性側での安定性に優れるとの本発明の効果が十分発揮されない場合がある。
【0026】
請求項3に記載の発明は、前記R’中の70%以上が、RCO−で表される官能基であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧品基材である。すなわち、タンパク質加水分解物の全アミノ基の70%以上が、アシル化されていることを特徴とする化粧品基材である。ここで全アミノ基とは、タンパク質加水分解物が有するアミノ基の全てを意味し、タンパク質加水分解物を構成するアミノ酸単位に塩基性アミノ酸単位が含まれる場合には、末端のアミノ基のみではなく、塩基性アミノ酸単位の側鎖のアミノ基も含む。
【0027】
アシル基のタンパク質加水分解物への導入率、すなわち全アミノ基の中のアシル化されているものの割合(アシル化率と言う。)の好ましい範囲は、タンパク質加水分解物の分子量や側鎖にアミノ基を有する塩基性アミノ酸単位の存在割合により変動するが、概ね、70%以上が好ましい。ここで、アシル化率は、アシル化反応前後の反応溶液中のアミノ態窒素量をvan Slyke法などで測定し、それらを比較することにより得ることができる。
【0028】
アシル化率が70%未満では、アシル化に基づく特性が充分に発揮されない場合がある。ただし、塩基性アミノ酸単位の割合が、酸性アミノ酸単位や中性アミノ酸単位に比べて極度に大きい場合は、アシル化率が100%近くなると、N−アシル化タンパク質加水分解物の油性の性質が極端に上がり、水溶性の化粧品中では、保存中に濁りを生じる場合や、油層として分離してくる場合がある。
【0029】
請求項4に記載の発明は、前記Rが、炭素数7〜23のアルキル基またはアルケニル基であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の化粧品基材である。すなわちタンパク質加水分解物のアミノ基が、炭素数7〜23の脂肪酸によりアシル化されていることを特徴とする化粧品基材である。毛髪に優れた潤い感やなめらかさを付与する効果は、アシル化を炭素数7〜23の脂肪酸により行った場合特に顕著となる。
【0030】
請求項5に記載の発明は、前記式(III)においてa+b+cが3〜30であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の化粧品基材である。N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体を構成するタンパク質加水分解物のアミノ酸重合度a+b+cは、通常1〜200の範囲であるが、毛髪や皮膚への収着性、浸透性、造膜性や化粧品に配合した際の安定性の面から、2〜50が好ましく、特に好ましくは3〜30である。
【0031】
ここで、アミノ酸重合度とは、前記タンパク質加水分解物の1分子に含まれるアミノ酸単位の数である。アミノ酸重合度は理論的には整数であるが、実際には、タンパク質加水分解物は異なるアミノ酸重合度を有する分子の混合物であるので、a+b+cで表されるアミノ酸重合度はその平均値(数平均)であり、必ずしも整数ではない。
【0032】
請求項6に記載の発明は、前記式(III)においてa/(a+b+c)及びb/(a+b+c)が0.6以下であることを特徴とする請求項5に記載の化粧品基材である。a+b+cが3〜30である範囲、すなわち前記の特に好ましい範囲において、aは0〜30、bは0〜30、cは0〜30であることができるが、化粧品原料として一般に用いられる天然タンパクのタンパク質加水分解物では、塩基性アミノ酸単位が全アミノ酸単位の60モル%以上のものはまれであり、a+b+cに占めるaの割合は最大でも0.6であり、また、酸性アミノ酸は、植物由来タンパクには多量含まれているが、それでも60モル%を超えるものはほとんど見当たらず、a+b+cに占めるbの割合は最大でも0.6である。
【0033】
請求項7に記載の発明は、前記式(III)においてa/(a+b+c)が0.5以下であり、b/(a+b+c)が0.15以下であり、かつcが1〜30であることを特徴とする請求項6に記載の化粧品基材である。化粧品原料として一般に用いられる天然タンパクのタンパク質加水分解物では、酸性アミノ酸単位が全アミノ酸単位の15モル%以下のもの、塩基性アミノ酸単位が全アミノ酸単位の50モル%以下のものが、通常用いられる。また、天然タンパクのタンパク質加水分解物でcが0のものを調製するためには、加水分解後に塩基性イオン交換樹脂や酸性イオン交換樹脂による精製等の工程が必要であり、このような工程がない場合は、天然タンパク加水分解物では通常cは1〜30の範囲内である。
【0034】
請求項8の発明は、前記式(III)においてa/(a+b+c)が0.03以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の化粧品基材である。タンパク質加水分解物中の酸性アミノ酸単位の割合が大きくなると、タンパク質加水分解物に付加するグリセリル基(式(I)で表される官能基)を多くすることができ、毛髪や皮膚に適用した際に保湿性の付与効果を増加することができる。そこで、タンパク質加水分解物中の酸性アミノ酸単位の全アミノ酸単位に対する割合(式(III)中の、a/(a+b+c))は0.03以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、特に0.1以上が好ましい。a/(a+b+c)が上記範囲未満であるとグリセリン誘導体化による効果が十分に発揮できない場合がある。
【0035】
請求項9の発明は、前記タンパク質加水分解物が、植物タンパク質加水分解物である請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の化粧品基材である。植物タンパクは酸性アミノ酸を多く含むため、N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体にすることによって、弱酸性化粧品中での安定性のよさや、毛髪に優れた潤い感やなめらかさを付与し、毛髪の櫛通り性を向上させる効果がより発揮されるようになる。またヘアトリートメント製品など陽イオン性物質を含む化粧品に配合してもその化粧品の安定性を損なうことがない。
【0036】
なお、前記タンパク質加水分解物は、タンパク質が、ほぼ完全に単量体のアミノ酸となるまで加水分解された場合でも(以下、全加水分解物と言う場合もある。)、少なくとも2種のアミノ酸単位から構成される。従って、本発明の化粧品基材を構成するN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、全加水分解物から合成された場合でも、少なくとも2種のアミノ酸単位を含有するものである。このN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、前記の特許文献3〜5等に開示されているN−アシルアミノ酸塩やN−アシルアミノ酸誘導体とは、そのカルボキシル基末端部分の構造が相違しているが、さらに2種以上のアミノ酸単位を含有する点でも相違するものである。
【0037】
請求項10に記載の発明は、前記請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の化粧品基材を含有することを特徴とする化粧料である。前記本発明の化粧品基材、すなわち前記N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、毛髪や皮膚への収着性が高く、特に毛髪に優れた潤い感やなめらかさを付与するなどの優れた作用を示す。例えば、この化粧品基材を、毛髪化粧料に含有させることにより、毛髪に優れた潤い感やなめらかさを付与するともに、毛髪の櫛通り性を向上させることができ、かつ毛髪をしなやかな感触に仕上げることができるまとまりやすさ(整髪性)に優れた毛髪化粧料とすることができる。
【0038】
本発明の化粧料としては、毛髪セット剤、整髪料、パーマネントウェーブ用剤、シャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、染毛剤、染毛料などの毛髪化粧料、化粧水、クレンジングクリーム、ハンドクリーム、洗顔料、ボディーシャンプー、乳液、ローション、メイクアップ用品などの皮膚化粧料を挙げることができる。
【0039】
請求項11の発明は、前記化粧品基材の含有量が0.05〜30質量%であることを特徴とする請求項10に記載の化粧料である。化粧料中のN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の含有量の好適な範囲は、化粧料の種類や使用の形態などにより変動するが、通常、化粧料の全重量に対して0.05〜30質量%が好ましい。
【0040】
本発明の化粧品基材を構成するN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、例えば、N−アシル化タンパク質加水分解物と、次の一般式(IV)
【0041】
【化4】

【0042】
で表されるグリシドール(2,3−エポキシ−1−プロパノール)を、水溶液中で、酸性条件下で反応させることにより得ることができる。具体的には、N−アシル化タンパク質加水分解物の水溶液を酸剤やアルカリ剤を用いてpH1〜5の範囲、好ましくは、pH2〜4.5に調整し、攪拌下、グリシドールを滴下して反応させることでタンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体が得られる。
【0043】
本発明は、前記の化粧品基材及び毛髪化粧料に加えて、N−アシル化タンパク質加水分解物に、一般式(IV)で表される2,3−エポキシ−1−プロパノールを、水溶液中で、酸性条件下で反応させることを特徴とするN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の製造方法(請求項12)を提供する。
【0044】
この製造方法に使用されるN−アシル化タンパク質加水分解物は、前記一般式(II)で表わされるタンパク質加水分解物を、後述の方法でN−アシル化して合成することができるものである。反応のpHが、上記範囲未満および上記範囲を越える場合では反応性が低下するので、反応は、酸またはアルカリ剤を用いてpHを上記範囲に調整して行う。
【0045】
本発明の製造方法は、水系で実施することができ、製造に有機溶媒を使用する必要はない。また本発明の製造方法は、製造設備の制約を受けることもなく、N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明の化粧品基材であるN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、陰イオン性が弱められているため、弱酸性化粧品に配合しやすくかつ界面活性剤や乳化剤として刺激性が少ない。その結果、本発明の化粧品基材は、酸性側での安定性に優れ、ヘアリンスやヘアコンディショナーなどの弱酸性の毛髪コンディショニング剤に配合しやすく、配合した際には、毛髪に優れた潤い感やなめらかさを付与し、毛髪の櫛通り性を向上させることができ、しかも毛髪コンディショニング剤の保存安定性に優れる。また、皮膚に対しては、潤い感やなめらかさの付与効果に優れる上に、イオン性物質と共存させにくい増粘剤を含む乳液等の化粧品にも配合することができる。さらに、本発明の化粧品基材は、水系で製造できるため、製造が容易であるとの特徴も有する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体およびN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物の赤外吸収スペクトルである。
【図2】実施例1のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体水溶液およびN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物水溶液への希塩酸添加量とpH変化の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明の化粧品基材であるN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、タンパク質加水分解物のアミノ基に、高級脂肪酸などを縮合させてN−アシル化タンパク質加水分解物を合成し、このN−アシル化タンパク質加水分解物のカルボキシ基を、前記のように、グリシドールと縮合反応させてエステル化することにより容易に製造できる。
【0049】
また、タンパク質加水分解物のカルボキシ基を、グリシドールと縮合反応させてエステル化して、タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体を先ず合成し、その後、このタンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体のアミノ基のアシル化を行うことによりN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体を製造することもできる。ただし、この方法では、タンパク質加水分解物のアミノ基へのアシル化反応は塩基性側で行われるため、アシル化反応中にカルボキシ基のエステル結合が切断されてエステル化率が低いものになる。そのため、タンパク質加水分解物をまずN−アシル化誘導体とし、その後エステル化を行う方法が好ましい。以下、タンパク質加水分解物、N−アシル化タンパク質加水分解物(アシル化反応)、N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体(エステル化反応)について詳しく説明する。
【0050】
[タンパク質加水分解物]
N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体を構成するタンパク質加水分解物は、タンパク質(タンパク源)を酸、アルカリ、酵素あるいはそれらの併用によって部分加水分解して得られるものであるが、このタンパク源としては、例えば、コラーゲン(その変性物であるゼラチンも含む)、ケラチン、フィブロイン、セリシン、カゼイン、コンキオリン、エラスチン、鶏などの卵黄タンパク、卵白タンパクなどの動物由来のもの、大豆、エンドウ、小麦、米(米糠)、ゴマ、トウモロコシ、イモ類のタンパクなどの植物由来のもの、サッカロミセス属、カンディダ属、エンドミコプシス属の酵母菌や、いわゆるビール酵母、清酒酵母といわれる酵母菌より分離した酵母タンパク、キノコ類(担子菌)やクロレラより分離した微生物由来のものが挙げられる。
【0051】
これらのタンパク源の中で、植物由来のタンパク質は酸性アミノ酸を多く含む。そこで、そのタンパク質加水分解物は、カルボキシ基同士の反発により弱酸性の毛髪や皮膚に収着しにくいという問題がある。さらに、そのタンパク質加水分解物のN末端にアシル基を付加したN−アシル化植物タンパク質加水分解物では、その傾向がさらに強くなり、酸性側で不溶物となりやすくなる。そのため、化粧料への配合量が制限されるとの問題が特に顕著であり、N−アシル化植物タンパク質加水分解物の特性を毛髪や皮膚化粧料で充分に発揮させにくいという問題があった。
【0052】
しかし、N−アシル化植物タンパク質加水分解物の末端カルボキシ基をグリセリンエステル誘導体化(グリセリルエステル化)することにより、酸性度が減少し、毛髪や皮膚への収着性が向上するとともに、弱酸性化粧品中での安定性が改善され、N−アシル化植物タンパク質加水分解物の特性を充分に発揮させることができる。すなわち、N−アシル化タンパク質加水分解物のグリセリンエステル誘導体化により得られる効果は、タンパク質加水分解物が植物タンパク質加水分解物の場合に特に顕著である。
【0053】
タンパク質加水分解物のアミノ酸重合度(一般式(III)および一般式(II)におけるa+b+c)は、前記のように、毛髪や皮膚への収着性や浸透性、化粧品に配合した際の化粧品の安定性の面から2〜50が好ましいが、なかでも3〜30がより好ましい。タンパク質加水分解物のアミノ酸重合度が上記範囲を超えると、このタンパク質加水分解物から構成されるN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の毛髪や皮膚への収着性が低分子量のタンパク質加水分解物から構成されるものに比べて減少する上に、保存中に凝集しやすくなって化粧品の安定性が劣るようになり、さらに、皮膚や毛髪に適用したときには、つっぱり感を与える恐れがある。
【0054】
一方、タンパク質加水分解物のアミノ酸重合度が上記範囲以下では、皮膚や毛髪への収着作用が減少し、その効果を充分に発揮できなくなる恐れがある。タンパク質加水分解物のアミノ酸重合度は、タンパク源の部分加水分解の条件、例えば、反応系における酸、アルカリ、酵素などの濃度、反応温度、反応時間を調整することによって、容易に調整することができる。
【0055】
タンパク質加水分解物を構成するアミノ酸単位中の、側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸単位、側鎖の末端にカルボキシ基を有する酸性アミノ酸単位、およびそれら以外のアミノ酸単位(中性アミノ酸単位)の割合は、通常、タンパク質加水分解物の元になるタンパク質(タンパク源)にほぼ依存する。塩基性アミノ酸単位、酸性アミノ酸単位、中性アミノ酸単位の存在は、N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の性質に、互いに影響を及ぼすため、塩基性アミノ酸単位、酸性アミノ酸単位、中性アミノ酸単位の存在割合の最適な数値範囲を規定するのは難しい。a+b+cが2〜50の範囲の場合、通常a(塩基性アミノ酸単位の数)は0〜30、b(酸性アミノ酸単位の数)は0〜30、c(中性アミノ酸単位の数)は0〜50の範囲にあるものが用いられる。
【0056】
[N−アシル化タンパク質加水分解物:アシル化反応]
N−アシル化タンパク質加水分解物は、上記のようにして得られたタンパク質加水分解物の全アミノ基(塩基性アミノ酸単位が含まれる場合は、末端アミノ基とともに側鎖のアミノ基を含む。)に、カルボン酸またはその誘導体(酸ハライドなど)を縮合させ、アシル化することにより得られる。このカルボン酸としては、炭素数7〜23のアルキル基または炭素数7〜23のアルケニル基を有する高級脂肪酸を挙げることができる。より具体的には、例えば、オクタン酸(カプリル酸)、デカン酸(カプリン酸)、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、イコサン酸、ドコサン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ヤシ油脂肪酸などを挙げることができる。
【0057】
そして、タンパク質加水分解物をアシル化させる方法としては、最も一般的な方法としてショッテン−バウマン(Schotten−Baumann)反応を挙げることができる。この方法は、タンパク質加水分解物の水溶液に、縮合させるカルボン酸の酸クロライド誘導体を、pH8〜10程度のアルカリ条件下に攪拌しながら加えて、縮合反応させる方法である。
【0058】
より具体的には、タンパク質加水分解物の水溶液を水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ剤でpHを8〜10程度に調整し、攪拌しながら高級脂肪酸などの酸クロライド誘導体を滴下する。滴下時間は反応量によって異なるが、1〜6時間かけて行うのが好ましい。その際、反応に伴って塩化水素(HCl)が生成するので、溶液のpHを水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などを滴下して8〜10程度に保つ。反応温度は0〜80℃で、温度が高いほど反応速度は上昇するが、反応性、着色、着臭などの面から30〜60℃が好ましい。
【0059】
タンパク質加水分解物のアシル化方法としては、この他にも高級脂肪酸の低級アルコールエステルとタンパク質加水分解物を高温、高圧下で処理して脱水縮合または脱アルコール縮合する方法や、高級脂肪酸を例えばN−オキシコハク酸イミドエステルなどのカルボキシ基活性誘導体とした上でタンパク質加水分解物と反応させる方法も採用できるが、反応性、製造コスト、着色などの品質の面から、酸クロライドによるショッテン−バウマン反応を採用するのが好ましい。
【0060】
反応の進行と終了は、van Slyke法などによるアミノ態窒素量を測定することによって確認することができる。そして、得られたアシル化物は、好ましくは硫酸、リン酸などの強酸の水溶液中に放出して沈殿物あるいは浮遊沈殿物として採取し、これを水洗して精製した後、濃度やpHを調整して、次のエステル化反応(C−グリセリル化反応)に供される。なお、得られたアシル化物を強酸水溶液中に放出して沈殿物として採取する場合、酸剤として塩酸を用いることもできるが、後述するように、グリセリンエステル化の際に塩素イオンが残存していると副生成物の除去が必要となるため、酸剤には、硫酸やリン酸を用いるのが好ましい。
【0061】
[N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体:エステル化反応]
本発明の化粧品基材であるN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、上記のようにして得られたN−アシル化タンパク質加水分解物を用い、前記請求項12に記載の製造方法により得ることができる。
【0062】
具体的には、N−アシル化タンパク質加水分解物の水溶液を、酸剤やアルカリ剤を用いてpH1〜6、好ましくは2〜5に調整し、攪拌下、グリシドールを滴下して反応させることでN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体が得られる。なお、アシル化率の低いN−アシル化タンパク質加水分解物では、エステル化の反応時のpHが高いと、グリシドールがアミノ基に反応する恐れがあるため、pHは5以下、好ましくは4.5以下に保つ必要がある。
【0063】
N−アシル化タンパク質加水分解物の水溶液を酸性に調整するために用いられる酸剤としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸が挙げられる。ただし、酸剤として塩酸を用いた場合は、副生成物として有害なクロロヒドリンが生じるので、反応後の除去操作が必要となり製造が煩雑になる。そのため、酸剤には、硫酸、リン酸などの使用が好ましい。なお、N−アシル化反応物の精製は酸性側で行われることが多いので、その場合は、精製後水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ剤を加えて、グリシドールとの反応のための最適なpH、例えばpH2〜5に調整される。
【0064】
反応温度は、室温〜80℃の範囲で行うのが好ましく、40〜70℃がより好ましい。反応温度が上記範囲以下では反応速度が遅くなり、また、反応温度を80℃以上にしても反応率の上昇が認められない上に、N−アシル化タンパク質加水分解物が着色や着臭を起こして品質の低下が起こる場合がある。
【0065】
反応時のグリシドールの滴下時間はグリシドール量や反応温度により異なるが、概ね30分〜3時間であり、滴下終了後は、反応を完結させるために、40〜75℃に加温しながら1〜5時間程度攪拌を続けるのが好ましい。
【0066】
N−アシル化タンパク質加水分解物の全カルボシキ基の一般式(I)で表される官能基によりエステル化されているものの割合、すなわちエステル化率は、全カルボシキ基に対するグリシドールの反応比により調整することができる。前記のように、エステル化率は50%以上が好ましい。エステル化率が50%未満では、グリセリンエステル化した効果が十分発揮されない恐れがある。
【0067】
従って、全カルボシキ基に対するグリシドールの反応比は、エステル化率が50%以上になるように調整するのが好ましい。エステル化率を50%以上とするために必要な反応比は、通常モル比で、N−アシル化タンパク質加水分解物のカルボシキ基:グリシドール=1:0.7〜1:3程度であるが、タンパク質加水分解物の種類やアミノ酸重合度によっても異なり限定されない。すなわち、タンパク質加水分解物の種類やアミノ酸重合度によっては立体障害などで反応性が低くなり、グリシドールの反応比率をさらに高くする必要がある場合もある。なお、N−アシル化タンパク質加水分解物中の全カルボキシ基のモル数は、van Slyke法などによるアミノ態窒素量の測定と、アミノ酸分析によるタンパク質加水分解物中の酸性アミノ酸の存在割合から計算で求めることができる。
【0068】
エステル化反応の進行と終了は、後述するエステル価の測定法に従って、エステル化率を求めることで確認することができる。
【0069】
[N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材]
前記反応終了後、反応液は各種化粧品に見合ったpHや濃度に調整して化粧品基材として使用できる。また、反応液を中和後、適宜濃縮して、イオン交換樹脂、透析膜、電気透析、ゲル濾過、限外濾過などによって精製して、毛髪化粧品や皮膚化粧品に配合してもよい。ただし、本発明のN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の製造法では、エステル化反応での未反応のグリシドールからの副生成物はグリセリンである。グリセリンは広く化粧品に配合される成分のため、エステル化反応終了後特に精製することなく、濃度やpHを調整したのみでも毛髪化粧品や皮膚化粧品に配合することも可能である。
【0070】
[化粧品基材の用途]
本発明のN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材が配合される化粧品としては、例えば、シャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、枝毛コート、ヘアクリーム、パーマネントウェーブ用第1剤および第2剤、セットローション、染毛剤、染毛料、液体整髪料、養毛・育毛剤などの毛髪化粧品、化粧水、クレンジングクリーム、エモリエントクリーム、ハンドクリーム、アフターシェーブローション、シェービングフォーム、洗顔クリーム、洗顔料、ボディーシャンプー、各種石鹸、脱毛剤、フェイスパック、乳液、メイクアップ用品、日焼け止め用品などの皮膚化粧品、を挙げることができる。
【0071】
本発明のN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材の配合量(化粧品中での含有量)は、化粧品の種類によっても異なるが、概ね化粧品中0.1〜30質量%、特に1〜20質量%程度が好ましい場合が多い。化粧品中への配合量が上記範囲より少ない場合は、毛髪や皮膚に優れた潤い感やなめらかさを付与したり、毛髪の櫛通り性を向上させる効果が充分に発現しない恐れがある。また、N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の配合量が上記範囲より多くなっても、それに見合う効果の向上が見られず、むしろ毛髪や皮膚に過剰のN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル導体が収着してべたつきを生じる恐れがある。
【0072】
また、上記化粧品に、N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体からなる化粧品基材と併用して配合できる成分としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、カチオン性ポリマー、両性ポリマー、アニオン性ポリマーなどの合成ポリマー、半合成ポリマー類、動植物油、炭化水素類、エステル油、高級アルコール類、シリコーン油などの油剤、天然多糖類、保湿剤、低級アルコール類、アミノ酸類、増粘剤、動植物抽出物、シリコーン類、防腐剤、香料、動植物由来および微生物由来の蛋白質を加水分解したタンパク質加水分解物およびそれらの第4級アンモニウム誘導体、シリル化誘導体、アシル化誘導体およびその塩などが挙げられる。これら以外にも、本発明の化粧品基材の特性を損なわない範囲で、適宜他の成分を添加することができる。
【実施例】
【0073】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中で用いる%は、いずれも質量%である。
【0074】
実施例に先立って、実施例中で用いる窒素量の測定法、カルボキシ基のモル数の算出法、アシル化率の算出法およびエステル化率の測定方法について記述する。
【0075】
[窒素量の測定法]
実施例中でのアミノ態窒素量は、van Slyke法により測定した。また、実施例中での総窒素量は、改良デュマ法により測定した。
【0076】
[カルボキシ基のモル数の算出法]
van Slyke法で得られたアミノ態窒素量から求めたモル数と等モルの末端カルボキシ基が存在するものとし、アミノ酸分析から得られた酸性アミノ酸の存在モル数をタンパク質加水分解物のアミノ酸側鎖のカルボキシ基のモル数とし、これらの末端カルボキシ基のモル数とアミノ酸側鎖のカルボキシ基のモル数を合算した値をタンパク質加水分解物中の全カルボキシ基のモル数とした。
【0077】
[アシル化率の算出法]
アシル化反応前の反応溶液中のアミノ態窒素量と、アシル化反応後の反応溶液中のアミノ態窒素量の比較から算出した。
【0078】
[エステル化率の測定法]
1)先ず、化粧品原料基準第二版注解に記載されているエステル価測定法に従い、試料1g中のエステルをけん化するのに要する水酸化カリウムのmg数(=エステル価)を算出する。
すなわち、試料2〜3gを精密に秤り取り、200mlのフラスコに入れ、エタノール10mlおよび1%フェノールフタレインエタノール溶液を数滴加え、0.1mol/l水酸化カリウム水溶液で中和する。
次いで、0.5mol/l水酸化カリウムエタノール液25mlを正確に加え、還流冷却器を付けて水浴上で1時間静かに煮沸する。
煮沸後冷却し、0.5mol/lの塩酸水溶液で過量の水酸化カリウムを滴定する。このときの0.5mol/l塩酸水溶液の消費量(ml)をpとする。
【0079】
試料を用いない以外は同様にして(空試験)、0.5mol/l塩酸水溶液の消費量を求め、この消費量(ml)をqとする。このようにして得られたp、qと下記の式からエステル価を算出する。なお、下式において、28.053は、0.5mol/l塩酸水溶液1mlを中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数である。
【0080】
【数1】

【0081】
2)次に、前記で得られたエステル価を、水酸化カリウムの分子量で除することで、試料1g中のエステルをけん化するために要する水酸化カリウムのモル数rを算出し、さらに、試料1g中に含まれているカルボキシ基のモル数sからエステル化率を算出する。すなわち、エステル化率は下記の式から求められる。
【0082】
エステル化率(%)=(r/s)×100
【0083】
なお、実施例で使用した各タンパク質加水分解物は、それぞれのタンパク源を、酸またはアルカリを使用した公知の方法により(場合により酵素を併用して)、加水分解(部分加水分解または全加水分解)したものである。また、アミノ酸重合度(一般式(II)や一般式(III)におけるa+b+c)は、総窒素量とアミノ態窒素量の割合から算出した。また、日立社製のアミノ酸自動分析機を用いたアミノ酸分析によりa:b:cを求め、アミノ酸重合度からa、b、cそれぞれの値を求めた。
【0084】
[タンパク質加水分解物]
以下の実施例で用いたタンパク質加水分解物は、市販のタンパク質(大豆タンパク質、小麦タンパク質、エンドウタンパク質、米タンパク質、シルク又はゼラチン)を、酸、アルカリ又は酵素を用いて常法により加水分解したものである。アミノ酸重合度は、酸、アルカリ又は酵素の量の調整により調整することができる。
【0085】
実施例1:N−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体
[アシル化反応]
大豆タンパク質の加水分解物[一般式(II)におけるa(塩基性アミノ酸)が0.5、b(酸性アミノ酸)が1.4、c(その他のアミノ酸)が2.1で、a+b+c=4である。]の40%水溶液400g[この試料中のカルボキシ基のモル数は0.94モル。このモル数は、前記のカルボキシ基のモル数の算出法により得られた値である。以後の実施例においても同じである。]に、20%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH10に調整した。
【0086】
この溶液を45℃で撹拌しながら、この中に、ヤシ油脂肪酸クロライド98g(大豆タンパク質加水分解物のアミノ基に対して1当量)を2時間かけて滴下してアシル化反応を行った。ヤシ油脂肪酸クロライドを滴下中は、20%水酸化ナトリウム水溶液を添加して溶液のpHを9〜10に保った。
【0087】
滴下終了後、50℃で2時間撹拌を続け反応を完結させた。反応終了後、反応液に希硫酸を加えてpHを約2にしてアシル化物を浮遊沈殿として回収した。このアシル化物をイオン交換水でpHが約3.5になるまで洗浄を繰り返し、未反応の大豆タンパク質加水分解物や生じた塩類を除去し、固形分濃度約40%のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物の水分散液を得た。アシル化率は96%で、総窒素量から求めた大豆タンパク質加水分解物の回収率は76%であった。
【0088】
[エステル化反応]
上記で得られたN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物の水分散液を55℃で撹拌しながらこの中に、グリシドール106g(大豆タンパク質加水分解物の回収率を76%として、大豆タンパク質加水分解物のカルボシキ基に対して2当量)を1時間かけて滴下した。添加中は溶液のpHを4前後に保つように希硫酸を適宜添加した。滴下終了後、液温を60℃に上げてさらに3時間撹拌を続け、エステル化反応を完結させた。エステル化反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、水を加えて濃度30%のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体水溶液を1150g得た。
【0089】
得られたN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の赤外分光分析測定を行い、エステル化反応前のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物と比較した。その結果を図1に示すが、実線で表されているN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体では、破線で表されている原料のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物(図では実施例1の原料と表記)と比べて、1735cm−1にエステルに由来する大きな吸収が見られ、カルボキシ基がエステル化されていることが確認できた。また、前記のエステル化率の測定法で得られたN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物のエステル化率を求めたところ、66.9%であった。
【0090】
実施例2:N−ヤシ油脂肪酸小麦タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体
大豆タンパク質加水分解物の代わりに、小麦タンパク質加水分解物[一般式(II)におけるaが0.2、bが3.6、cが4.2で、a+b+c=8であり、カルボキシ基のモル数は0.86モルである。]を用い、ヤシ油脂肪酸クロライドの量を87.7g(小麦タンパク質加水分解物のアミノ基に対して1当量)とした以外は、実施例1と同様にして、アシル化反応を行い、固形分濃度約40%のN−ヤシ油脂肪酸小麦タンパク質加水分解物の水分散液を得た。アシル化率は94%で、総窒素量から求めた小麦タンパク質加水分解物の回収率は81%であった。
【0091】
上記で得られたN−ヤシ油脂肪酸小麦タンパク質加水分解物の水分散液と、グリシドール128g(小麦タンパク質加水分解物の回収率81%として、小麦タンパク質加水分解物のカルボシキ基に対して2.5当量)を用い、実施例1と同様にして、エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、分画分子量3500の透析チューブに入れて水に対して一晩透析処理を行い、副生成物のグリセリンや生じた塩類を除去した。透析処理後、pHを7.0に調整して、濃度30%のN−ヤシ油脂肪酸小麦タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体水溶液を850g得た。
【0092】
この溶液の一部を用いて実施例1と同様にして、赤外分光分析測定により、カルボキシ基がエステル化されていることを確認した。また、前記のエステル化率の測定法でN−ヤシ油脂肪酸小麦タンパク質加水分解物のエステル化率を求めたところ85.5%であった。
【0093】
実施例3:N−ラウロイルエンドウタンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体
大豆タンパク質加水分解物の代わりに、エンドウタンパク質加水分解物[一般式(II)におけるaが0.6、bが1.4、cが2.5で、a+b+c=4.5であり、カルボキシ基のモル数は0.52モルである。]を用い、ヤシ油脂肪酸クロライドの代わりにラウロイルクロライド72.5g(エンドウタンパク質加水分解物のアミノ基に対して1当量)を用いた以外は、実施例1と同様にして、アシル化反応を行い、固形分濃度約40%のN−ラウロイルエンドウタンパク質加水分解物の水分散液を得た。アシル化率は92%で、総窒素量から求めたエンドウタンパク質加水分解物の回収率は85%であった。
【0094】
上記で得られたN−ラウロイルエンドウタンパク質加水分解物の水分散液と、グリシドール49g(エンドウタンパク質加水分解物の回収率85%として、エンドウタンパク質加水分解物のカルボシキ基に対して1.5当量)を用い、実施例1と同様にして、エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、水を加えて濃度30%のN−ラウロイルエンドウタンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体水溶液を590g得た。
【0095】
この溶液の一部を用いて実施例1と同様にして、赤外分光分析測定により、カルボキシ基がエステル化されていることを確認した。また、前記のエステル化率の測定法でN−ラウロイルエンドウタンパク質加水分解物のエステル化率を求めたところ、67.7%であった。
【0096】
実施例4:N−ヤシ油脂肪酸米タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体
大豆タンパク質加水分解物の代わりに、米タンパク質加水分解物[一般式(II)におけるaが0.1、bが1.0、cが2.4で、a+b+c=3.5であり、カルボキシ基のモル数は0.73モルである。]を用い、ヤシ油脂肪酸クロライドの量を82.7g(米タンパク質加水分解物のアミノ基に対して1当量)とした以外は、実施例1と同様にしてアシル化反応を行い、固形分濃度約40%のN−ヤシ油脂肪酸米タンパク質加水分解物の水分散液を得た。アシル化率は88%で、総窒素量から求めた米タンパク質加水分解物の回収率は69%であった。
【0097】
上記で得られたN−ヤシ油脂肪酸米タンパク質加水分解物の水分散液と、グリシドール37g(米タンパク質加水分解物の回収率69%として、米タンパク質加水分解物のカルボシキ基に対して1当量)を用い、実施例1と同様にして、エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、水を加えて濃度30%のN−ヤシ油脂肪酸米タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体水溶液を710g得た。
【0098】
この溶液の一部を用いて実施例1と同様にして、赤外分光分析測定により、カルボキシ基がエステル化されていることを確認した。また、前記のエステル化率の測定法でN−ヤシ油脂肪酸米タンパク質加水分解物のエステル化率を求めたところ、54.6%であった。
【0099】
実施例5:N−ラウロイルシルクタンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体
大豆タンパク質加水分解物の代わりに、シルクタンパク質加水分解物[一般式(II)におけるaが0.05、bが0.31、cが9.64で、a+b+c=10であり、カルボキシ基のモル数は0.21モルである。]を用い、ヤシ油脂肪酸クロライドの代わりにラウロイルクロライド53.3g(シルクタンパク質加水分解物のアミノ基に対して1当量)を用いた以外は、実施例1と同様にしてアシル化反応を行い、固形分濃度約40%のN−ラウロイルシルクタンパク質加水分解物の水分散液を得た。アシル化率は87%で、総窒素量から求めたN−ラウロイルシルクタンパク質加水分解物の回収率は79%であった。
【0100】
上記で得られたN−ラウロイルシルクタンパク質加水分解物の水分散液と、グリシドール24.6g(シルクタンパク質加水分解物の回収率79%として、シルクタンパク質加水分解物のカルボシキ基に対して2当量)を用い、実施例1と同様にして、エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、分画分子量3500の透析チューブに入れて水に対して一晩透析処理を行い、副生成物のグリセリンや生じた塩類を除去した。透析処理後、pHを7.0に調整して、濃度30%のN−ラウロイルシルクタンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体水溶液を530g得た。
【0101】
この溶液の一部を用いて実施例1と同様にして、赤外分光分析測定により、カルボキシ基がエステル化されていることを確認した。また、前記のエステル化率の測定法でN−ラウロイルシルクタンパク質加水分解物のエステル化率を求めたところ60.3%であった。
【0102】
実施例6:N−ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解物グリセリンエステル誘導体
大豆タンパク質加水分解物の代わりに、コラーゲン加水分解物[一般式(II)におけるaが0.3、bが0.6、cが3.6で、a+b+c=4.5であり、カルボキシ基のモル数は0.36モルである。]を用い、ヤシ油脂肪酸クロライドの量を80.6g(コラーゲン加水分解物のアミノ基に対して1当量)とした以外は、実施例1と同様にしてアシル化反応を行い、固形分濃度約40%のN−ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解物の水分散液を得た。アシル化率は97%で、総窒素量から求めたコラーゲン加水分解物の回収率は86%であった。
【0103】
上記で得られたN−ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解物の水分散液と、グリシドール34g(コラーゲン加水分解物の回収率86%として、コラーゲン加水分解物のカルボシキ基に対して1.5当量)を用い、実施例1と同様にして、エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、水を加えて濃度30%のN−ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解物グリセリンエステル誘導体水溶液を740g得た。
【0104】
この溶液の一部を用いて実施例1と同様にして、赤外分光分析測定により、カルボキシ基がエステル化されていることを確認した。また、前記のエステル化率の測定法でN−ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解物のエステル化率を求めたところ75.2%であった。
【0105】
実施例7:N−ヤシ油脂肪酸エンドウタンパク質全加水分解物グリセリンエステル誘導体
[加水分解工程]
エンドウタンパク質300gを36%塩酸800gに溶解し、80℃で16時間攪拌しながら分解した。分解後、分解液を25%水酸化ナトリウム水溶液でpH4に調整し、濾過によって不溶物を除去した。濾液はさらに25%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整し、電気透析装置で脱塩した。脱塩後の溶液を、活性炭を用いて脱色し、濾過後、溶液の濃度が40%になるまで濃縮してエンドウタンパク質の全加水分解物液を得た。
【0106】
[アシル化反応]
上記のようにして得られたエンドウタンパク質全加水分解物[一般式(II)におけるa(塩基性アミノ酸)が0.142、b(酸性アミノ酸)が0.328、c(その他のアミノ酸)が0.61で、a+b+c=1.08ある。]の40%水溶液400g[この試料中のアミノ基のモル数は0.636モル、カルボキシ基のモル数は1.47モル。]に、20%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH10に調整した。
【0107】
この溶液を45℃で撹拌しながら、この中に、ヤシ油脂肪酸クロライド150g(エンドウタンパク質全加水分解物のアミノ基に対して1当量)を3時間かけて滴下してアシル化反応を行った。ヤシ油脂肪酸クロライドを滴下中は、20%水酸化ナトリウム水溶液を添加して溶液のpHを9〜10に保った。
【0108】
滴下終了後、50℃で2時間撹拌を続け反応を完結させた。反応終了後、反応液に希硫酸を加えてpHを約2にし、55℃に加温してアシル化物を浮遊沈殿として回収した。このアシル化物をイオン交換水でpHが約3.5になるまで洗浄を繰り返し、未反応のエンドウタンパク全加水分解物や生じた塩類を除去し、固形分濃度約35%のN−ヤシ油脂肪酸エンドウタンパク質全加水分解物の水分散液を得た。アシル化率は81%で、総窒素量から求めたエンドウタンパク質全加水分解物の回収率は72%であった。
【0109】
[エステル化反応]
上記で得られたN−ヤシ油脂肪酸エンドウタンパク質全加水分解物の水分散液を55℃で撹拌しながらこの中に、グリシドール94g(エンドウタンパク質全加水分解物の回収率を72%として、エンドウタンパク質全加水分解物のカルボシキ基に対して1.2当量)を2時間かけて滴下した。添加中は溶液のpHを4前後に保つように希硫酸を適宜添加した。滴下終了後、液温を60℃に上げてさらに3時間撹拌を続け、エステル化反応を完結させた。エステル化反応終了後、反応液を20%水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、濃度30%のN−ヤシ油脂肪酸エンドウタンパク質全加水分解物グリセリンエステル誘導体の水溶液を710g得た。
【0110】
この溶液の一部を用いて、実施例1と同様にして赤外分光分析測定を行い、カルボキシ基がエステル化されていることを確認した。また、前記のエステル化率の測定法で、N−ヤシ油脂肪酸エンドウタンパク質全加水分解物グリセリンエステル誘導体のエステル化率を求めたところ、75.1%であった。
【0111】
実施例8:N−ラウロイルシルクタンパク質全加水分解物グリセリンエステル誘導体
[加水分解工程]
シルク(絹繊維)300gを36%塩酸620gに溶解し、80℃で8時間攪拌しながら分解した。分解後、分解液を25%水酸化ナトリウム水溶液でpH4に調整し、濾過によって不溶物を除去した。濾液はさらに25%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整し、電気透析装置で脱塩した。脱塩後の溶液を、活性炭を用いて脱色し、濾過後、溶液の濃度が40%になるまで濃縮してシルクタンパク質の全加水分解物液を得た。
【0112】
[アシル化反応]
上記のようにして得られたシルクタンパク質全加水分解物[一般式(II)におけるaが(塩基性アミノ酸)が0.010、b(酸性アミノ酸)が0.037、c(その他のアミノ酸)が1.073で、a+b+c=1.12である。]の40%水溶液400g[この試料中のアミノ基のモル数は0.50モル、カルボキシ基のモル数は1.47モル。]に、20%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH10に調整した。
【0113】
この溶液を45℃で撹拌しながら、この中に、ラウリン酸クロライド101g(シルクタンパク全加水分解物のアミノ基に対して1当量)を2.5時間かけて滴下してアシル化反応を行った。ラウリン酸クロライドを滴下中は、20%水酸化ナトリウム水溶液を添加して溶液のpHを9〜10に保った。
【0114】
滴下終了後、50℃で2時間撹拌を続け反応を完結させた。反応終了後、反応液に希硫酸を加えてpHを約2にし、55℃に加温してアシル化物を浮遊沈殿として回収した。このアシル化物をイオン交換水でpHが約3.5になるまで洗浄を繰り返し、未反応のシルクタンパク質全加水分解物や生じた塩類を除去し、固形分濃度約35%のN−ラウロイルシルクタンパク質全加水分解物の水分散液を得た。アシル化率は86%で、総窒素量から求めたシルクタンパク質全加水分解物の回収率は75%であった。
【0115】
[エステル化反応]
上記のようにして得られたシルクタンパク質全加水分解物の水分散液を55℃で撹拌しながら、グリシドール104g(シルクタンパク全加水分解物の回収率を75%として、シルクタンパク全加水分解物のカルボシキ基に対して1.0当量)を2.5時間かけて滴下した。添加中は溶液のpHを4前後に保つように希硫酸を適宜添加した。滴下終了後、液温を60℃に上げてさらに3時間撹拌を続け、反応を完結させた。
【0116】
反応終了後、25%水酸化ナトリウム水溶液で反応液のpHを6.0に調整し、濃度を調整してシルクタンパク質全加水分解物グリセリンエステル誘導体の30%水溶液を796g得た。
【0117】
この溶液の一部を用いて実施例1と同様にして赤外分光分析測定を行い、カルボキシ基がエステル化されていることを確認した。また、前記のエステル化率の測定法でシルクタンパク質全加水分解物グリセリンエステル誘導体のエステル化率を求めたところ、71.2%であった。
【0118】
[N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の酸性度]
実施例1〜8で製造したN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の酸性度を測定した。具体的には、次に示すイ)、ロ)、ハ)の手順を順に行った。
イ)それぞれのN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体を、その総窒素量が0.36g/100mlになるように水で希釈する。
ロ)得られた水溶液100mlをpH7.0に調整する。
ハ)pH調整後の水溶液に0.1mol/lの塩酸水溶液を1mlずつ添加してpHの変化を調べる。
【0119】
図2は、実施例1のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体、およびエステル化反応(グリセリル化反応)前のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物(図では実施例1の原料と表記)についての、塩酸水溶液の添加量とpH変化の関係を示すグラフである。図2より明らかなように、エステル化反応前のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物では、0.1mol/lの塩酸水溶液の添加量が増えるに従って徐々にpHが下がっているのに対し、そのグリセリル化誘導体であるN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体では、少量の塩酸の添加でpHが急激に下がっている。すなわち、酸の水素イオンが結合するカルボキシ基が、N−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体では原料の大豆タンパク質加水分解物より減少している(酸性度が下がっている)ことを意味している。
【0120】
実施例2〜8のN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体のいずれの場合でも、実施例1の場合と同様、それぞれのエステル化反応前のN−アシル化タンパク質加水分解物より少量の塩酸量で急激なpH低下が認められた。酸性度を表す目安として、実施例1〜8で製造したN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリン誘導体水溶液(表1中では「グリセリンエステル誘導体」と表記)およびそれぞれのエステル化反応前のN−アシル化タンパク質加水分解物水溶液(表1中では「原料のタンパク質加水分解物」と表記)のpHを3.0にするために必要な0.1mol/lの塩酸水溶液量を表1に示す。なお、エステル化反応前のN−アシル化タンパク質加水分解物水溶液では、いずれも塩酸添加でpHが4付近になるとN−アシル化タンパク質加水分解物は沈殿物あるいは浮遊沈殿物となって溶液から分離した。
【0121】
【表1】

【0122】
表1から明らかなように、実施例1〜8のN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、いずれもそれぞれのエステル化反応前のN−アシル化タンパク質加水分解物に比べて、少量の塩酸の添加でpH3.0に達しており、カルボキシ基がエステル化されて減少していることが示されている。特に、タンパク質加水分解物部分が植物タンパク由来である実施例1〜4および実施例7の場合は、グリセリンエステル誘導体での塩酸添加量と、原料のN−アシル化タンパク質加水分解物での塩酸添加量の差が大きく、N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の酸性度が、エステル化反応前のN−アシル化タンパク質加水分解物に比べて大きく下がっている(塩基性度が上がっている)ことが示されている。
【0123】
[N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の酸性側での溶解性]
実施例1〜8で製造したN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体およびそれぞれのエステル化反応前のN−アシル化タンパク質加水分解物について、pH3.0〜7.0の範囲での溶解性をpH0.5刻みで調べた。試験は、固形分濃度10%に調整した水溶液に1mol/lの塩酸を添加してそれぞれのpHに調整し、充分に撹拌し、静置後に溶液の状態を目視により観察することにより行った。その結果を表2に示す。なお、表中では、各実施例で得られたN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体を「誘導体」、各実施例の比較品であるエステル化反応前のN−アシル化タンパク質加水分解物を「原料」と略記する。また、観察結果は、次の評価基準で示す。
【0124】
溶解性の評価基準
◎: 透明
○: 薄濁
△: 乳濁
×: 不溶物分離あるいは沈殿物発生
【0125】
【表2】

【0126】
表2より明らかなように、各実施例で得られたN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の水溶液はpH6までは透明であり、pHを5付近にまで下げても薄く濁る程度であるが、それぞれのエステル化反応前のN−アシル化タンパク質加水分解物では、pH6付近から濁り始め、pH6より低い場合では不溶物が沈降あるいは浮遊して分離した。また、各実施例のN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、pH4.5〜5.0以下では乳濁液となったが、pH2にまで下げても不溶物の分離は見られなかった(表には記していない)。従って、N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、pH6程度の透明化粧品への配合が十分可能であり、それ以下のpHでも乳化化粧品には配合が可能と言える。
【0127】
[N−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の応用例]
次に、上記の実施例1〜8で製造したN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体を化粧品に配合した実施例を記す。なお、以下の実施例での配合量は質量%であり、配合成分が固形物でないものについては括弧内に有効成分濃度を示す。
【0128】
実施例9および比較例1:ヘアトリートメント剤
実施例1のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体を用いて表3に示す組成のヘアトリートメント剤(実施例9)を調製し、毛髪に適用して使用後の毛髪のなめらかさ、しっとり感、はり、まとまりやすさおよび櫛通り性を評価した。また、そのヘアトリートメント剤を50℃で保存したときの保存安定性を調べた。比較品として、N−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物のカリウム塩(比較例1、成和化成社製、プロモイスESCP(商品名):実施例1におけるエステル化反応前の、N−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物を水酸化カリウムにより中和して、濃度を25%として得たもの。)を用いた。なお、表中での実施例9と比較例1の配合量が異なっているのは、ヘアトリートメント剤中での大豆タンパク質加水分解物由来の窒素量が同一量(ヘアトリートメント剤中0.3%)になるように配合しているためである。
【0129】
【表3】

【0130】
上記ヘアトリートメント剤による毛髪の処理は下記のように行った。まず、長さ15cmで重さ1gの毛束を2本用意し、毛髪の損傷度を一定にするため、5%の過酸化水素水を含む5%アンモニア水溶液に毛束を5分間浸漬し、水洗後、風乾する工程を5回繰り返した。次に、それぞれの毛束を1gのイオン交換水に浸漬して充分に水を含ませた後、実施例9および比較例1のヘアトリートメント剤をそれぞれ1g各々の毛束に塗布し、毛束をラップで包み、40℃の恒温槽に10分間放置した。10分間の加温処理後、毛束を40℃の水道水で流水洗浄し、タオルドライ後、ヘアドライヤーで乾燥し、室温で一晩放置し、翌日に官能評価に供した。なお、比較例1のヘアトリートメント剤は、下記の保存安定性試験の項に記すように、調製後1日で2相に分離してくるので、試験の際には均一になるよう充分攪拌してから用いた。
【0131】
官能評価は、10人のパネラーに、それぞれの毛束のなめらかさ、しっとり感、はり、まとまりやすさおよび櫛通り性について、どちらが優れているかで評価させた。その結果を表4に優れていると答えた人数で示す。
【0132】
【表4】

【0133】
表4に示した結果では、毛髪のなめらかさおよび櫛通り性に関しては実施例9と比較例1に大差は見られないが、その他の評価項目ではいずれも実施例9が優れているとの評価で、N−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、N−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物カリウム塩より、毛髪にしっとり感やはり、まとまりやすさを付与する効果が高いことが明らかに示された。これは、N−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体では、タンパク質加水分解物のカルボキシ基がエステル化されているため、アニオン性のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物カリウム塩より、弱酸性である毛髪表面に収着しやすい上に、カルボキシ基に結合したグリセリル基が保湿効果を発揮して、毛髪にしっとり感やまとまりやすさを付与するためと考えられる。なお、毛髪へのなめらかさおよび櫛通り性の付与作用は、N−アシル化タンパク質加水分解物のアシル基部分に起因するもののため、実施例9と比較例1に大きな差が出なかったものと思われる。
【0134】
次に、上記実施例9および比較例1のヘアトリーメント剤を50℃の恒温槽に1ヶ月保存し、保存安定性を調べた。その結果を表5に示す。
【0135】
【表5】

【0136】
表5に示したように、実施例9のヘアトリートメント剤は、50℃で30日間保存しても調製直後の乳化物の状態を保っていたが、比較例1のヘアトリートメント剤は調製翌日には2相に分離し(全量の約半分の上層が乳化状態で、下層が半透明液体)、乳化化粧料としての体はなさない状態であった。一般に、ヘアトリートメント剤は、陽イオン性界面活性剤が配合されているため、陰イオン性物質の配合はほとんど不可能である。比較例1のヘアトリートメント剤は、アニオン性界面活性剤のN−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物カリウム塩を配合したため、2相分離を生じたものと考えられる。それに対して、実施例9では、N−ヤシ油脂肪酸大豆タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体が、タンパク質加水分解物のカルボキシ基がエステル化されているため陰イオン性を消失して非イオン性となっているため、陽イオン界面活性剤とも共存でき、乳化系を壊すことがなかったものと考えられる。
【0137】
実施例10および比較例2:クレンジング乳液
実施例3のN−ラウロイルエンドウタンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体を用いて表6に示す組成のクレンジング乳液(実施例10)を調製し、保存安定性を調べた。比較品として、N−ラウロイルエンドウタンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体に代えて、N−ラウロイルエンドウタンパク質加水分解物のカリウム塩を用いた(比較例2:実施例3におけるエステル化反応前の、N−ラウロイルエンドウタンパク質加水分解物を水酸化カリウムにより中和して、濃度を25%として得たもの。)。なお、表中で実施例10と比較例2の配合量が異なっているのは、クレンジング乳液中でのエンドウタンパク由来の窒素量が同一量(クレンジング乳液中1.8%)になるように配合しているためである。
【0138】
【表6】

【0139】
上記実施例10および比較例2のクレンジング乳液を25℃の恒温槽に1ヶ月保存して外観の様相を目視で観察した。その結果を表7に示すが、調製直後は実施例10、比較例2とも乳化状態である。
【0140】
【表7】

【0141】
表5に示したように、実施例10のクレンジング乳液は30日間保存後も調製直後の乳化状態を保っていたが、比較例2のクレンジング乳液は調製後1日目には、上層に少量の水相が分離し(下層が乳化相)、保存5日目には水相が全量の約1/5にまで増えていて2相に分離しているのが明確となり、乳化化粧料としての体はなさない状態であった。すなわち、一般にクレンジング乳液処方に用いられる陰イオン性のアクリル酸系の増粘剤はイオン性物質とは共存しにくいため、比較例2に用いた陰イオン性であるN−ラウロイルエンドウタンパク質加水分解物カリウム塩では粘度が発現せず分離を起こしたものと思われる。それに対して、実施例10で用いたN−ラウロイルエンドウタンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体は、タンパク質加水分解物のカルボキシ基をエステル化しているため非イオン性となっていて、弱酸性の化粧料中でもアクリル酸系の増粘剤と共存でき、乳化系を壊すことがないものと考えられる。
【0142】
実施例11および比較例3〜4:シャンプー
表8に示す3種類のシャンプーを調製し、それぞれのシャンプーを毛髪に使用し、使用後の毛髪の潤い感、なめらかさおよび櫛通り性を官能評価した。
【0143】
実施例11では、実施例6で製造したN−ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解物グリセリンエステル誘導体を用い、比較例3では実施例6で原料として用いたN−ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解物のカリウム塩を用い、比較例4ではN−ヤシ油脂肪酸タンパク質加水分解物などを含有せず、保湿剤として一般に用いられているグリセリンを用いている。なお、グリセリンの配合量は、N−ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解物グリセリンエステル誘導体のグリセリン部にほぼ見合う量である。
【0144】
【表8】

【0145】
上記シャンプーによる処理は次のようにして行った。すなわち、長さ15cmで重さ1gの毛束を3本用意し、実施例11および比較例3〜4のシャンプーをそれぞれ2gずつ用いてそれぞれの毛束を1分間洗浄し、温水の流水中で30秒間ゆすいだ。このシャンプー洗浄とゆすぎ処理を5回繰り返した後、毛束の潤い感およびなめらかさを10人のパネラーに下記の評価基準で評価させた。その結果を表9に10人の平均値で示す。
【0146】
潤い感、なめらかさ、櫛通り性の評価基準
非常に良い:5
良い :4
普通 :3
悪い :2
非常に悪い:1
【0147】
【表9】

【0148】
表9に示すように、N−ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解物グリセリンエステル誘導体を含有する実施例11のシャンプーで処理した毛髪は、その原料であるN−ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解物カリウム塩を含有する比較例3のシャンプーやグリセリンを含有する比較例4のシャンプーで処理した毛髪に比べて、潤い感、なめらかさ、櫛通り性とも評価値が高かった。特に、実施例11の評価値がグリセリンを含有する比較例4の評価値に比べて非常に大きいのは、N−ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解物グリセリンエステル誘導体ではコラーゲン加水分解物部分のイオン性によって毛髪に収着しやすいが、グリセリンは毛髪に収着することがなく、ゆすぎによって大部分が洗い流され、その保湿効果が充分に発揮されることがないためと考えられる。
【0149】
実施例12および比較例5〜6:モイスチャージェル
表10に示す組成の2種類のモイスチャージェルを調製し、皮膚に適用したときの皮膚のべたつきのなさ、しっとり感およびなめらかさについて評価した。
【0150】
実施例7で製造したN−ヤシ油脂肪酸エンドウタンパク全加水分解物グリセリンエステル誘導体を用い、比較例5では実施例7で原料として使用したN−ヤシ油脂肪酸エンドウタンパク全加水分解物のカリウム塩を用いている。また、比較例6はN−アシルタンパク質加水分解物などを用いず、保湿剤として一般に用いられているグリセリンを用いているが、配合量はN−ヤシ油脂肪酸エンドウタンパク全加水分解物グリセリンエステル誘導体のグリセリン部に見合う量である。
【0151】
【表10】

【0152】
上記3種類のモイスチャージェルについて、10人の女性パネラーに、毎日一回以上5日間にわたって、前腕部の決められた位置にそれぞれのモイスチャージェルを0.5〜1g(塗布量はパネラーにより異なる)手で擦り込むように塗布させた。
【0153】
5日間の使用期間後、前腕部の肌のべたつきのなさ、しっとり感およびなめらかさについて最も優れているものを2点、次に優れているものを1点、劣るものを0点とした3段階評価をさせた。その結果を表11に10人の平均値で示す。
【0154】
【表11】

【0155】
表11に示したように、N−ヤシ油脂肪酸エンドウタンパク全加水分解物グリセリンエステル誘導体を含有する実施例12のモイスチャージェルは、その原料であるN−ヤシ油脂肪酸エンドウタンパク全加水分解物のカリウム塩を含有する比較例5のモイスチャージェルや一般に保湿剤として用いられているグリセリンを含有する比較例6のモイスチャージェルに比べて、べたつきのなさ、しっとり感、なめらかさに関して優れているとの評価であった。すなわち、実施例12で用いられているN−ヤシ油脂肪酸エンドウタンパク全加水分解物グリセリンエステル誘導体は、べたつきのないしっとりとした感触やなめらかさを付与する効果に優れていることが明らかである。なお、大多数のパネラーは、比較例6のモイスチャージェルは、べたつく感触でなめらかさがないが、実施例12のモイスチャージェルは、べたつきのないさっぱりしたしっとり感があると答えていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシル化されたアミノ基および下記の一般式(I):
【化1】


で表される官能基によりエステル化されているカルボキシ基を有し、
下記の一般式(III):
【化2】


(式中、Rは、水素または一般式(I)で表される官能基を表し、R’は、水素またはRCO−で表される官能基であり、Rは、カルボン酸から末端カルボキシ基を除く残基を示し、Rは、塩基性アミノ酸単位の側鎖から側鎖末端アミノ基を除く残基を示し、Rは、酸性アミノ酸単位の側鎖から末端カルボキシ基を除く残基を示し、Rは、中性アミノ酸単位の側鎖を示し、a、bおよびcは、それぞれ、タンパク質加水分解物1分子内の、塩基性アミノ酸単位の数、酸性アミノ酸単位の数および中性アミノ酸単位の数を示す。)で表されるN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体からなることを特徴とする化粧品基材。
【請求項2】
前記R中の50%以上が、一般式(I)で表される官能基であることを特徴とする請求項1に記載の化粧品基材。
【請求項3】
前記R’中の70%以上が、RCO−で表される官能基であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧品基材。
【請求項4】
前記Rが、炭素数7〜23のアルキル基またはアルケニル基であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の化粧品基材。
【請求項5】
前記式(III)においてa+b+cは3〜30であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の化粧品基材。
【請求項6】
前記式(III)においてa/(a+b+c)及びb/(a+b+c)が0.6以下であることを特徴とする請求項5に記載の化粧品基材。
【請求項7】
前記式(III)においてa/(a+b+c)が0.5以下であり、b/(a+b+c)が0.15以下であり、かつcが1〜30であることを特徴とする請求項6に記載の化粧品基材。
【請求項8】
前記式(III)においてa/(a+b+c)が0.03以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の化粧品基材。
【請求項9】
前記タンパク質加水分解物が、植物タンパク質加水分解物であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の化粧品基材。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の化粧品基材を含有することを特徴とする化粧料。
【請求項11】
前記化粧品基材の含有量が0.05〜30質量%であることを特徴とする請求項10に記載の化粧料。
【請求項12】
N−アシル化タンパク質加水分解物に、一般式(IV)で表される2,3−エポキシ−1−プロパノールを、水溶液中で、酸性条件下で反応させることを特徴とするN−アシル化タンパク質加水分解物グリセリンエステル誘導体の製造方法。
【化3】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−185026(P2009−185026A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3485(P2009−3485)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000147213)株式会社成和化成 (45)
【Fターム(参考)】