化粧料の紫外線防御効果の測定方法、測定装置、及び測定値の表示方法
【課題】従来粉体化粧料の測定はかなり困難があり、測定値の再現性だけでなく、メーカー間の格差も大きい問題があった。
【解決手段】A.下記a)〜d)の工程を有する、液状化粧料の紫外線防御効果を測定する方法。a)基板とのなす角度が30°以上である塗り拡げ部材を、基板上で一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。b)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。c)上記a)工程により得られた別の液状化粧料層の紫外線防御効果を測定する工程。d)上記b)工程及びc)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【解決手段】A.下記a)〜d)の工程を有する、液状化粧料の紫外線防御効果を測定する方法。a)基板とのなす角度が30°以上である塗り拡げ部材を、基板上で一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。b)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。c)上記a)工程により得られた別の液状化粧料層の紫外線防御効果を測定する工程。d)上記b)工程及びc)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vitro法による化粧料の紫外線防御効果測定方法と、測定装置、及び測定値の表示方法に関する。
さらに詳しくは、実験体としてヒトを用いずに測定装置を用いて紫外線防御効果を測定するin vitro法において、より正確な測定値を得るための紫外線防御効果の測定方法と、その測定方法に基づいた測定装置、及びその測定方法に基づいて測定された測定値の表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本では化粧料における紫外線防御効果の指標として、波長290〜320nmのB波紫外線の防御能力を示すSPF(Sun Protection Factorの略)と、波長320〜400nmのA波紫外線の防御能力を示すPA(Protection grade of UVA)が用いられている。これらの測定結果を化粧料に表示する場合、日本化粧品工業連合会の定めるそれぞれの測定法基準(非特許文献1)(非特許文献2)に基づいて測定した値、またはそのグレードを表示することが求められる。
海外においても基本的にはそれぞれの地域の測定法及び表示方法(非特許文献3)に従って表示することが求められるが、基本的な測定方法はほぼ統一されている。測定法基準では、ヒトの背中を用い、背中に高出力の紫外線を照射し、その際に肌に生じる炎症反応と黒化反応の目視観察の結果から、紫外線防御効果を測定する。しかしながら、ヒトを用いると、手間と費用がかかり、測定結果がでるまでの期間が長い。
加えてヒトを用いることの倫理的、医学的問題などがあるため、日本、欧州においては、ヒトを用いないで、機械にて紫外線防御効果を測定するin vitro測定法の検討が進められている(非特許文献4)。しかしながら、現在進められているin vitro測定法にしても、多くの問題点が存在することが報告されている(非特許文献5)。本発明者の検討でも、同じ試料を用いて、同じ規格の中で試験しても、最大で20倍ほどSPF値が変動することを見いだしている。
【0003】
この問題点には科学的に説明可能な明確な理由が複数存在しており、この理由を把握して、制御下で試験をすれば問題は解決する。しかし、解決できていないのが現状であると考えられる。本発明者はこの科学分野における先端技術を有しており、正確に制御が可能になるか、その制御の精度、再現性などについて検討を実施してきた。
その結果、試料の作成方法にあること、すなわち数μmから十数μmの薄膜を1μm程度の精度でいかに平滑に塗工するかという点、そして塗工時に単位面積あたりの塗工量を定めない点が、問題解決の鍵となっていることを見いだした。
試料が潤沢にあり、何平米という大きな平滑塗膜を形成する場合では(非特許文献6)や(特許文献1)にあるような大型の装置を用いる方法があり、ディスプレイの液晶の塗工などでも用いられている。
しかしながら、化粧料の場合は、試料の量も少なく、求められる塗工面積もたかだか数十cm2である。従って、化粧料に適した測定方法を開発するためには、科学的現象を把握しておく必要がある。また、レジスト塗工などの分野で平滑な塗膜を形成すると言われているスピンコーターでも、実際に検討してみると、(特許文献2)にあるように塗膜表面に細かい筋状の構造が形成されることから平滑な表面は形成できない。塗料で平滑な塗膜を形成するのに使われるワイヤーコーターにおいても、実際に試験してみると、平滑な塗膜が形成できる化粧料とできない化粧料に分かれてしまう。(非特許文献7)にあるように、元々塗料やレジストの技術は数十μmの変動を許容した時に平滑という意味を持っており、求められる精度が化粧料における紫外線防御効果の測定法と比べて大きく異なっている。そのため、既存の資料を調べて平滑な塗工ができると書かれているものを集めてきて試験してみても、種々の性質を持つ化粧料をこのように薄膜化するのは簡単ではないことが判る。これが、非特許文献3に記載されているように、in vitro測定法が既に最初の開発から13年も経過しており、世界中で種々の改良が加えられているにもかかわらず、うまくいかない理由の1つである。
【0004】
この問題を解決する際に鍵となる論文の1つをここで示す。(非特許文献8)は、非平衡系の自己組織化現象であるディレクショナルヴィスカスフィンガリングにより、塗膜表面にストライプ模様が形成されること、そのストライプ模様の特性長と高低差は、塗工速度とアプリケーターの間隙の大きさにより制御されることを示している。
このストライプ模様は、現在日欧の化粧品工業会で検討されているin vitro測定法においても、試料作製時に形成されるが、ストライプ模様が形成されると、ストライプの谷の部分は膜厚が薄いため、照射された紫外線が谷の部分からより多く透過するため、ストライプの形成の有無、形状、深さにより、紫外線防御効果の値は大きく変動する。
特に紫外線防御効果の高い化粧品では、その影響をより強く受けることを本発明者らは見いだしている。従って、塗工速度を制御してストライプ模様を形成させないことが肝要である。この影響の程度についての詳細は後述する。
【0005】
次に問題となるのは、揚力である。現在検討されているin vitro測定法では、ヒトの指で試料を測定板に塗布するが、指のように円筒形の形状を持つ場合、揚力が指にかかり、塗膜の膜厚が一定にならない。指による塗布では、人が指先を測定板に試料を押しつける力を一定にすることが極めて困難である。そのため、塗膜が非平滑になり、測定値が安定しない大きな要因となる。
揚力は、指など塗工するものの形状だけでなく、測定する化粧料の粘度、チキソトロピック性、塗工速度にも影響を受ける。in vitro測定法で測定精度を上げるには、一定の面積を有する平滑な塗膜を形成させることが必須である。(非特許文献8)の技術では円筒型のアプリケーターを用いているため、やや大きな面積での精度に欠ける問題があり、25cm2以上の面積で平滑な塗工を行うためには、アプリケーターの形状についての検討が必要となる。形状についての詳細は後述する。
【0006】
塗工の方法も問題となる。通常インキなどの塗工では、アプリケーターの進行方向前面に塗工する液を置き、それを引き延ばす方法がとられる。アプリケーターの進行方向前面に厚い液膜が存在すると、アプリケーターがそれに乗り上げてしまい、インキ、塗料に求められる精度ならば問題がなくても、化粧料の紫外線防御効果のin vitro測定では大きな問題となるレベルの膜厚の変化が生じてしまう。従って、試料の置き方も重要な要素となる。但し、試料の置き方を工夫しても、試料の粘度が高い場合、塗工開始から2cm程度は膜厚が数μm程度厚くなりやすいため、この部分を除外することも必要である。
【0007】
アプリケーターの精度も塗膜の平滑性に大きな影響を与える。アプリケーターの精度が悪い場合、平滑な塗膜が得られないため、アプリケーターには一定以上の寸法精度が必要である。(特許文献3)0067段落〜0071段落に、速度制御はされていないものの、非円筒型のアプリケーターを用いた塗工方法が示されているが、実際に同じアプリケーターを用いても塗膜の膜厚は変動が大きい。具体的な数値は後述するが、アプリケーターの精度が悪いと平滑な塗膜が形成できない例として挙げておく。
【0008】
これらの要素を考慮して、平滑な塗膜が形成できたとする。現在検討されているin vitro測定法では、0.75mg/cm2という、最初から目標とする単位面積あたりの塗工量を定めて塗工することになっているが、これを粘度など性質の異なる種々の化粧料において実現することは大変手間がかかる問題である。特に、目標を定めて塗工した場合、わずか0.1mgのずれが生じただけでも0.1/0.75=0.13と10%以上の変動幅になってしまい、求められる塗工精度はもうひと桁小さいところを狙う必要がでてくるが、測定する対象である化粧品の塗工特性は化粧品ごと、ロットごとに異なり、都度測定条件の検討を行うことは大変な困難を伴う。
これに対して、本発明者らの方法は、単位面積あたりの塗工量に目標値は定めない。その代わりに単位面積あたりの塗工量もしくは膜厚を測定して、計算上、目標とする単位面積あたりの塗工量の時の紫外線防御効果を算出する。より詳しくは、平滑膜の吸光度曲線または透過率曲線と、単位面積あたりの塗工量の値から、計算にて、目標とする単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を求める方法をとっている。そのため、最初から目標の塗工量を定めて塗工する手間がなく、より簡便な塗工が可能となっているだけでなく、塗工時の精度も確保されていることが大きな特徴である。具体的な測定方法は後述する。
【0009】
さらに、現在、粉体化粧料については、in vivo法においては、紫外線吸収能を持たない溶媒を併用して測定しても良いことになっている。しかしながら、紫外線透過性成分を用いて塗膜を作成すると、その成分を通って紫外線が透過してしまい、実態とはかけ離れた性能(通常は実態よりも性能が低く表示される)が示されてしまう問題がある。そこで、粉体化粧料の紫外線防御効果を安定に測定するための方法として、特定の沸点以上の揮発性溶媒を特定の比率で粉体化粧料と混合させ、この資料を平滑に塗工した後、乾燥させてから紫外線防御効果を測定することにより、粉体化粧料の紫外線防御効果が安定に再現性良く測定できるようになった。
【0010】
また、本発明者の方法とは別に、従来化粧品業界でin vitro測定法として用いられてきた方法の例を以下に紹介する。(特許文献4)の0146段落には、石英板を用いた測定方法が示されている。具体的には、石英板に一定の面積の印をつけ、そこに指で一定量の試料を塗工する方法であり、通常、化粧品業界ではこの方法で測定することが多い。(特許文献5)の10ページには、モルモットの角質に指で試料を塗布する方法が示されているが、動物皮膚は元々平滑性が低い。(特許文献6)の0026段落には、試料をVITRO−SKINに塗工する方法が示されている。この方法では、VITRO−SKIN自体の平滑性が低いため、平滑な塗工はできない問題がある。
【0011】
【特許文献1】特開2006−26596号公報
【特許文献2】特開2008−62182号公報
【特許文献3】特開2009−35551号公報
【特許文献4】特開2002−80748号公報
【特許文献5】特開平6−16527号公報
【特許文献6】特開2009−299059号公報
【0012】
【非特許文献1】日本化粧品工業連合会 紫外線防御用化粧品と紫外線防止効果 −SPFとPA表示− 2003年改訂版
【非特許文献2】日本化粧品工業連合会 日本化粧品工業連合会SPF測定法基準〈2007年改訂版〉
【非特許文献3】ISO/TR26369 Cosmetics -- Sun protection test methods -- Review and evaluation of methods to assess the photoprotection of sun protection products
【非特許文献4】Colipa Guidelines, Method for in vitro Determination of UVA protection, 2009
【非特許文献5】Rohr, M.; Klette, E.; Ruppert, S.; Bimzcok, R.; Klebon, B.; Heinrich, U.; Tronnier, H.; Johncock, W.; Peters, S.; Pfluecker, F.; Rudolph, T.; Floesser-Mueller, H.; Jenni, K.; Kockott, D.; Lademann, J.; Herzog, B.; Bielfeldt, S.; Mendrok-Edinger, C.; Hanay, C.; Zastrow, L. “In vitro Sun Protection Factor: Still a Challenge with No Final Answer” Skin Pharmacol. Phys. 2010, 23(4), 201-212.
【非特許文献6】http://www.yasuiseiki.co.jp/coting1.html (2010年8月16日検索)
【非特許文献7】大西賢午 塗料の研究 No.145 Mar. 2006 http://www.kansai.co.jp/rd/token/pdf/145/10.pdf (2010年8月19日検索)
【非特許文献8】Kuroda, A.; Ishihara, T.; Takeshige, H.; Asakura, K. "Fabrication of Spatially Periodic Double Roughness Structures by Directional Viscous Fingering and Spinodal Dewetting for Water-Repellent Surfaces", J. Phys. Chem. B, 2008, 112 (4), 1163 -1169.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の(非特許文献3)に記載されたように、in vitro法の開発は1997年ごろから方法が提案されてきており、既に13年にも亘り世界中で検討が行われてきたにもかかわらず、安定した測定値が得られる方法が提案されず、安定に測定を行うことができなかった。
つまり、従来方法においては、ヒトが指を用いて非平滑膜を形成してそれを測定していた。また、日本や欧州では、測定器や測定基板を前提にした評価方法を検討しているが、その方法は新規の装置を導入することを余儀なくされる。
そして、(非特許文献5)に記載されたように、従来の測定方法による測定値は、得られる測定値の精度がかなり低いことがわかる。
消費者の感覚ではSPF値が10異なることは性能の差として認識されるが、従来技術の測定方法ではSPF値50と35は同じ試料でも測定結果として得られる可能性があり、より高精度な測定結果を得ることが望まれていた。
さらに、従来粉体化粧料の測定はかなり困難があり、測定値の再現性だけでなく、メーカー間の格差も大きい問題があったが、証明が難しいこともあり、あまり話題にされなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
1.下記a)〜d)の工程を有する、液状化粧料の紫外線防御効果を測定する方法である。
a)基板とのなす角度が30°以上である塗り拡げ部材を、基板上で一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
b)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。
c)上記a)工程により得られた別の液状化粧料層の紫外線防御効果を測定する工程。
d)上記b)工程及びc)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【0015】
2.下記e) 〜i)の工程を有する、粉体化粧料の紫外線防御効果を測定する方法である。
e)粉体化粧料と大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒とを、その質量比で、100:100〜100:50の範囲で混合してなる組成物を試料として得る工程。
f) 基板とのなす角度が30°以上である塗り拡げ部材を、基板上で一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
g)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。
h)上記f)工程により得られた別の該組成物層を乾燥し、その乾燥後の該組成物層の紫外線防御効果を測定する工程。
i)上記g)工程及びh)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【0016】
3.大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒は、環状6量体ジメチルポリシロキサン、カプリリルメチコンから選ばれることを特徴とする、2に記載の方法。
【0017】
4.一定の速度が毎秒1〜10mmの範囲の速度であることを特徴とする、1又は2に記載の方法。
【0018】
5.一定の速度が毎秒1〜5mmの範囲の速度であることを特徴とする、4に記載の方法。
【0019】
6.塗り拡げ部材先端と基板との間の隙間の高さが20〜25μmの範囲にあることを特徴とする1又は2に記載の方法。
【0020】
7.基板が、表面が平滑で、290〜400nmの範囲の紫外線を透過する性質を有する材料から選ばれることを特徴とする、1又は2に記載の方法。
【0021】
8.基板が、石英板またはポリメタクリル酸メチル板から選ばれることを特徴とする、7に記載の方法。
【0022】
9.基板に試料を塗工する際に、事前に試料を基板上に薄く広げてから、塗り拡げ装置にて平滑に塗工する手順を経るものであることを特徴とする、1又は2に記載の方法。
【0023】
10.塗工量または、膜厚を測定する部位は、試料の塗工開始位置から15mm以上離れていることを特徴とする、1又は2に記載の方法。
【0024】
11.塗工量または、膜厚を測定する部位は、試料の塗工開始位置から20mm以上離れていることを特徴とする、10に記載の方法。
【0025】
12.平滑に塗工した液状化粧料の単位面積あたりの塗工量の算出方法が、以下の方法に従うものであることを特徴とする、1に記載の方法。
A)液状化粧料に用いる揮発性成分が不透過性または難透過性である樹脂フィルムを用意。
B)該樹脂フィルムの質量を測定し、また、樹脂フィルムの面積を求める。
C)液状化粧料からなる層を形成する基板の質量を求める。
D)形成された平滑な液状化粧料層が乾燥する前に、該樹脂フィルムを該液状化粧料層表面の一部に静置する。
E)該樹脂フィルムに覆われていない部位の液状化粧料層を除去する。
F)該樹脂フィルムと液状化粧料層と基板からなる試料の質量を測定する。
G)上記の測定値から単位面積あたりの化粧料の質量を測定する。
【0026】
13.平滑に塗工した粉体化粧料の単位面積あたりの塗工量の算出方法が、以下の方法に従うものであることを特徴とする、2に記載の方法。
A)粉体化粧料に混合される沸点が240℃以上の揮発性溶媒が不透過性である樹脂フィルムを用意。
B)該樹脂フィルムの質量を測定し、また、樹脂フィルムの面積を求める。
C)該組成物からなる層を形成する基板の質量を求める。
D)形成された平滑な該組成物層が乾燥する前に、該樹脂フィルムを該組成物層表面の一部に静置する。
E)該樹脂フィルムに覆われていない部位の該組成物層を除去する。
F)該樹脂フィルムと該組成物層と基板からなる試料の質量を測定する。
G)上記の測定値から、単位面積あたりの該組成物層の質量を測定する。
H) 該組成物中の粉体化粧料の含有割合を考慮して、該組成物層中の粉体化粧料の質量を求める。
【0027】
14.1又は2に記載の任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果に基づき、目的とする紫外線防御効果を得るために必要な単位面積あたりの塗工量を求める方法。
15.1又は2に記載の方法を行うための装置であって、前記各工程を行う各装置からなり、紫外線防御効果を測定するための工程の一部、または全部を含み、紫外線防御効果を自動的に測定する装置。
【0028】
16.1又は2に記載の方法、又はそれらの方法を示す表示を容器に示す方法。
【発明の効果】
【0029】
従来、国際的に検討されている指での塗工を前提にしたin vitro測定方法では、標準偏差/測定値の平均は0.2を目標にしているが実現できていない。これに対して本方法では、標準偏差/測定値の平均はSPF値、UVA-PF値共に0.1以下を目標にしており、再現性、精度共にはるかに高い。本発明では単独の測定値においても、それぞれの標準偏差/測定の平均を0.1以下にするように努めることで、高い精度を実現した。
本発明による装置は簡単な構造からなる装置であり、その装置を用いた方法もまた簡単な方法であるにも関わらず、得られるSPFの測定値は上記のように安定的に精度が高いので、消費者の感覚に合ったSPFの測定値を示すことができる。また、本方法を用いて測定した結果を表示した表示物の信頼性を向上させることも可能となる。
さらに、本方法によって、会社を問わず同種の製品を直接比較可能にする表示方法が得られることになり、消費者にとって製品の選択基準が明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】液状化粧料の単位面積あたりの塗工量とSPF値、UVA-PF値との関係を示すグラフの例
【図2】粉体化粧料の単位面積あたりの塗工量とSPF値、UVA-PF値との関係を示すグラフの例
【図3】ストライプ模様の例を示した光学顕微鏡像
【図4】Colipa法凹凸基板上に形成されたストライプ模様を示した光学顕微鏡像
【図5】塗り拡げ装置の斜視図
【図6】塗り拡げ装置の下面図
【図7】塗り拡げ部材の断面図
【図8】塗り拡げ部材の断面図
【図9】基板上に化粧料を塗工した後の上面の概念図
【図10】基板上に化粧料を塗工した後の断面の概念図
【図11】本発明の測定方法の概念図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、上記本発明を詳細に説明する。
本発明の化粧料の紫外線防御効果を測定する方法は、液状化粧料に対しては、下記a)〜d)の工程を有する、液状化粧料の紫外線防御効果を測定する方法をとることができる。
a)塗り拡げ部材と基板のなす角度が30゜以上となるようにして、基板上で塗り拡げ装置を一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
b)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程
c)上記a)工程により得られた別の液状化粧料層の紫外線防御効果を測定する工程
d)上記b)工程及びc)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【0032】
また、粉体化粧料については、
下記e) 〜i)の工程を有する、粉体化粧料の紫外線防御効果を測定する方法。
e)粉体化粧料と大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒とを、その質量比で、100:100〜100:50の範囲で混合する工程。
f)塗り拡げ部材と基板のなす角度が30゜以上となるようにして、基板上で塗り拡げ装置を一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
g)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。
h)上記f)工程により得られた別の液状化粧料層の紫外線防御効果を測定する工程。
i)上記g)工程及びh)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【0033】
本発明で言う紫外線防御効果とは、一般に波長290〜320nmのB波紫外線に対応したSPF値、波長320〜400nmのA波紫外線に対応したUVA-PF値、またはPA分類、PPD値として表わされるが、これらの波長の防御効果を示す指標であれば特に限定されない。
b)及びg)の工程は、従来の単位面積あたりの塗工量の目標値を定めて塗工する方法と大きく異なる部分であり、あくまで平滑に塗工した塗膜そのものの単位面積あたりの塗工量または、膜厚を測定することを目的としている。b)及びg)の工程も、従来の単位面積あたりの塗工量の目標値を定めて塗工されたものを実測する方法とは大きく異なり、平滑に塗工した塗膜そのものの紫外線防御効果を測定することを目的としている。そしてc)及びh)の工程で、初めてb)c)、g)h)の工程で得られたデータから、目標とする単位面積あたりの塗工量または膜厚の紫外線防御効果を予測している。
【0034】
本発明の塗り拡げ装置について以下に説明する。
図5には、本発明にて使用する塗り拡げ装置1の斜視図が記載されている。
塗り拡げ装置1は塗り拡げ部材2及び該塗り拡げ部材2の両端を支持するための支持部3を有する装置である。
該塗り拡げ部材2は該支持部3に対して図示しない構造、例えば、塗り拡げ部材の両端部に設けたピンが、支持部3に設けられた上下方向に延びた溝に嵌合される等することによって上下に自由に移動が可能に支持されてなり、該塗り拡げ部材の自重によって、塗り拡げる対象である化粧料から受ける揚力に抗し、基板に対して該化粧料を均一に塗布するようにしてなるものである。
この図5に記載の塗り拡げ装置1は、説明のために他の部材を図示していないが、塗り拡げ装置として一体のものとするために、例えば2つの支持部3を接続させる部材アングル等を設けることも可能である。
また、図6は該塗り拡げ装置1を下面からみた図であり、塗り拡げ部材先端部6が塗り拡げ部材2の先端に位置している。
【0035】
本発明で用いる塗り拡げ装置1に備えられた塗り拡げ部材2及び支持部3の材質は、金属であることが好ましく、特にステンレス、ジュラルミン等寸法精度が良く、かつ加工可能な材料が好ましい。本発明で用いる塗り拡げ部材の断面形状は多角形であることが好ましい。
さらに、図7及び図8に示すように矢印で示す塗り拡げ装置の進行方向に向いた、塗り拡げ部材の面と、塗工される基板表面とのなす角度が30゜以上であることが必要である。30゜未満の場合では、化粧料5によって塗り拡げ部材にかかる揚力のために膜厚が一定にならず、化粧料によっては測定精度が低くなる場合がある。塗り拡げ部材が円筒状、あるいは楕円の筒状等のように、塗り拡げ部材の最も基板に近い部分と塗工される基板表面のなす角度が0゜に近くなる形状の場合も同様に塗り拡げ部材に係る揚力のために膜厚が一定にならない。
また、塗り拡げ部材先端6と基板とで形成される間隙の高さが20〜25μmの範囲にあることが好ましい。20μm未満の場合、塗り拡げ部材の加工精度が極めて高くないと、平滑な塗膜が得られない可能性があり、一般的な金属製塗り拡げ部材の加工精度から考えると、平滑な塗工ができない塗り拡げ装置になる可能性がある。20〜25μmの範囲であれば、加工精度と塗り拡げ装置の量産性が両立する領域である。25μmを超えると、塗膜が厚くなり、塗膜を透過する紫外線量が減少してくる結果、より高い感度を有する測定器が要求される問題を生じる。
【0036】
塗り拡げ部材の質量は、塗り拡げ部材を単独で用いる場合では100g以上あることが好ましく、さらに好ましくは400g以上あることが好ましい。質量が小さいと揚力の影響を受けやすく、平滑な膜が形成できなくなる原因になる。また、質量が大きすぎると基板やそれを支持している板にゆがみが生じ、基板が平らでなくなってくるため、塗工部位による膜厚が変化する原因になる。どれだけの質量がかけられるかは基板や支持している板の強度にもよるので一概に言えないが、5mm厚の超超ジュラルミンを用いた場合では、塗り拡げ部材の上から加重し、自重と合わせた荷重が2kgを超えてくると基板のゆがみが無視できない大きさとして現れてくることが観察されている。
【0037】
次に、本発明の塗り拡げ装置を用いる紫外線防御効果を測定する方法について示す。
図9に示すように、塗り拡げ装置1を基板4上にて移動させて、化粧料等の試料を基板4上に均一に塗布する。図9には、塗り拡げ装置1を基板4上にて移動させる機構に関しては図示をしないが、下記にて説明するように一定の速度にて移動を行う。
なお、化粧料等の試料は、塗布されるべき全量を塗り拡げ開始時に塗り拡げ部材の前部に供給しておくことも可能であるが、その場合には、塗り拡げ部材に係る揚力、つまり多量の試料により塗り拡げ部材を上方に向けて押す力が大きくなるので、試料を塗り拡げ部材の前部に供給する際には、逐次もしくは連続して適量を供給するか、事前に試料を基板4上にヘラなどを使用して塗り拡げておくことにより、塗り拡げ工程時にわたって、塗り拡げ部材に係る揚力をできるだけ小さく、さらに揚力の変動量も小さく、つまり、塗り拡げ部材前部に存在する試料もできるだけ少なくすることが、より平滑な塗膜を形成するためには必要である。
塗り拡げ装置を移動させるに伴って、図9にて示すような、移動方向に平行に形成されるSで示されるストライプ模様形成による試料の厚みのムラを解消することが必要であるし、また、図9においてA−Aの線において切断した状態を示す図10に示すように、移動方向に垂直な方向に形成される筋の厚みのムラも解消することが求められる。
【0038】
そのために下記に示すような条件等を設けることになる。
本発明でいう一定の速度での塗工とは、電動シリンダ、電動アクチュエーター、産業ロボット、搬送機など、一定速度で運動できる装置を用いて、基板または塗り拡げ装置を一定の速度で移動させて塗工することを言い、特にリニアモーターを用いたものは低速度領域での速度安定性が高く、トルクが大きいことから、重い金属性塗り拡げ装置を用いても安定した塗工ができること、速度や加速度の履歴が残ることから好ましい。一定の速度としては、毎秒1〜10mm、より好ましくは毎秒1〜5mmの速度で塗工することが好ましい。毎秒1mm未満では、塗工に時間がかかり過ぎ、化粧料に含まれる揮発性溶媒が塗工中に揮発して、塗膜部位による成分の不均一性が生じる可能性があり、10mmを超えると、ストライプ模様が形成されやすくなる問題がある。作業性、揮発性の問題などを加味すると、毎秒5mmの設定が最も好ましい。
【0039】
また、塗料等を塗工するためのバーコーター等は、毎秒150mmなどの高速で被塗工物を移動させて塗工するものであり、塗料等のように粘度が低いものではこの速度で塗工しても、ストライプ模様は時間と共に解消するが、本発明においては、化粧料であるから、毎秒150mm等の高速で塗工する必要がなく、しかも化粧料はより粘度が高く、さらに、高速での塗工は揚力がかかりやすく平滑な塗工が難しいことから、極低速での塗工が必要であり、さらに、塗り拡げ装置を基板に対して移動させる方法であり、塗料等における平滑な塗膜を形成させる条件とは、その原理においても全く異なる。尚、本発明で言う平滑な塗膜とは、表面に凹凸がないだけでなく、膜厚も一定な塗膜のことを指す。
【0040】
本発明で、塗り拡げ装置を用いて一定の速度で塗工するための手段としては、例えば非特許文献8にあるような低速での定速運動手段を有するリニアモーター、電動シリンダなどに、高度に平滑に加工された金属板あるいは柱(自重で変形したり、塗り拡げ部材の荷重により変形することを抑制するために、超々ジュラルミンなどの高強度、軽比重材料が好ましい)を支持部を介して水平に固定、または接続し、これに塗り拡げ部材の固定手段となるバーなどを設置し、ここに塗工するための基板や塗り拡げ部材を設置して塗工する手段が挙げられる。
この手段については、市販製品が存在していないため、特注または自作が必要となる。
尚、市販の塗料試験用の塗工試験器は一般に高速での塗工に適したモーターとギア比を用いており、低速度域での速度の安定性と精度が悪く、平滑な塗膜を形成する目的には適していない場合が多い。塗工試験機のカタログを見ると、一般に塗工速度の単位としてm/分の単位を用い、速度の調整も1m/分の単位であり、元々mm/分〜cm/分の単位で表わされる低速度はこれらの装置の概念にない領域である。特に、化粧料の場合、多様な粘度とチキソトロピー性、接着性があり、このような製剤を平滑に塗工する場合は、塗工手段には充分なトルクと速度安定性が求められる。また、塗料試験器は塗工器具を固定し、塗工面にしっかり圧着する構造を持つことが一般的である。しかしながら、例えば塗工器具の両端を固定した場合、塗工膜厚は中央部と端部で変化してしまい、平滑な塗膜が形成できない問題があり、塗工器具を塗工面に圧着する形態を持つ塗工試験器では、本発明の求める塗工精度が得られにくい問題がある。
【0041】
本発明で用いる基板4は、平滑であることが必要である。本発明で言う平滑とは、単位面積あたりの平均塗工量と標準偏差を測定した場合に、標準偏差/平均塗工量の値が0.15以下、好ましくは0.1以下であることを言う。ここで、凹凸があると、塗膜の膜厚が凹凸部分で変化していることになり、目標とする単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程において、得られる紫外線防御効果の測定値が不正確になる問題がある。例えばColipa(欧州化粧品工業会)法では凹凸のあるPMMA(ポリメタクリル酸メチル)製プレートを使用することになっているが、この凹凸は2μm程度とされている。基板との間隙が25μmの塗り拡げ部材を用いて塗工した試料の膜厚は10μm内外になるので、平均膜厚の数十%の変動をこの凹凸は与えることになる。高い紫外線防御効果を有する製品の場合、この変動幅が紫外線防御効果の測定値に与える影響は巨大であり、信頼性を失う原因となることから好ましくない。本発明で用いる基板4は、石英、合成石英、ポリメタクリル酸メチルなど290〜400nmの範囲の紫外線に対して透明性が確保されている材料を用いることが好ましく、塗り拡げ部材の自重による基板への沈み込みを考慮すると、硬質材料である石英、合成石英製の基板がより好ましい。
平均塗工量と標準偏差を求めるために、基板上の複数の点及び/または、複数の基板上に形成した塗膜を対象に塗工量の測定を行う。
【0042】
本発明では、塗り拡げ装置1を用いて、一定の速度にて基板上に平滑に塗工する際に、試料の置き方に特徴がある。粘度が低い化粧料の場合は、塗り拡げ装置の進行方向前面に充分な試料を置いても揚力による影響は少ないが、粘度が高い化粧料の場合は、塗り拡げ部材に揚力がかかりやすく、膜厚が変動しやすい問題がある。特に塗り拡げ装置の進行方向前面に大きな化粧料の塊があると、塗り拡げ部材は化粧料に乗り上げる形になり、膜厚が不均一になる原因となる。そのため、化粧料はヘラなどを用いて、事前に塗り拡げ装置の進行方向前面に薄く塗り広げてから、すばやく塗り拡げ装置を走らせて平滑な塗膜を形成することが好ましい。また、塗り拡げる量であるが、少なすぎると膜厚が不均一になる原因となる。目安としては、20〜30mg/cm2程度の量を塗り拡げておくことが好ましい。
【0043】
本発明で用いる塗り拡げ装置は、試料の通過路にあたる部位の寸法(塗り拡げ部材の長さではなく、塗り拡げ装置の進行方向における寸法、つまり図6における塗り拡げ部材先端部6の幅)において、最大値/最小値の値が2倍未満であることが好ましい。
【0044】
本発明の方法により、試料の単位面積あたりの塗工量を測定する場合は、図11に示すように、以下の方法に従うことが好ましい。但し、目的が達せられるのであれば、実施する順番は問わないし、一部工程を簡略化することも可能である。
A)化粧料に用いる揮発性成分が不〜難透過性であり、一定の大きさに切断されてなる樹脂フィルム7を用意する。
B)樹脂フィルム7の単位面積あたりの質量を求める。
C)切断されてなる樹脂フィルム7の質量を測定し、単位面積あたりの質量から、切断した樹脂フィルム7の面積を求める。
D)測定する基板4の質量を求める。
E)本発明の方法に従い、化粧料の試料5を塗工し、直後に切断したフィルムを試料5の表面に静置する。
F)樹脂フィルム7に覆われていない部位の試料を拭き取る。
G)樹脂フィルムと化粧料と基板からなる試料の質量を測定する。
H)上記の測定値から単位面積あたりの化粧料の質量を測定する。
【0045】
ここで言う化粧料に用いる揮発性成分が不〜難透過性の樹脂フィルムとしては、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート製のフィルムが好ましく、特に50〜100μm厚のポリエチレンテレフタレート製フィルムが好ましい。塗工直後に樹脂フィルムを試料に覆い被せることで、揮発性成分の揮発を抑制し、安定した測定値が得られる。もし揮発性成分が測定中に揮発すると、化粧料の濃度が変化し、それにつれて粘度が上昇する等の変動を生じるので、正確な塗工量が測定できず、測定までの時間に依存して、測定値が変化することになる結果、同じ試料の測定であっても、測定機関、測定者による測定値の変動の幅が大きくなる原因になる。
尚、測定全般に言えることであるが、本発明の場合、測定は0.1mgの単位まで正確に計測する。この際に、試料の静電気の影響を強く受けるため、除電装置を用いて、試料の除電を充分に行い、測定を行うことが好ましい。
【0046】
また、試料の膜厚を測定する場合では、非接触の光学式膜厚測定装置を用いることが可能である。
【0047】
次に、上記の平滑に塗工した試料の紫外線防御効果を測定する工程では、SPFアナライザーなどの市販の紫外線防御効果測定装置を用いることが好ましい。測定装置としては、(非特許文献5)のTable.1に記載の装置が例示される。
試料を測定する際に、測定部位としては、試料の塗工開始位置からなるべく遠い位置を測定することが好ましい。また、測定は290〜400nmの範囲を1nm単位で測定することが好ましい。
【0048】
次に、本発明のc)工程、d)工程のデータから、目標とする特定の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程について説明する。上記工程により、単位面積あたりの塗工量(もしくは膜厚)とその塗工量における波長別の紫外線防御効果が測定できている。しかしながら、試料により、その塗工量は変化し、同じではないため、そのままの計測値は相互の比較ができない。そのため、特定の単位面積あたりの塗工量を設定し、その値に合わせて、計算上で波長別の吸光度(または透過率)を求め、SPF値やUVA-PF(A波紫外線防御指数)値を求める必要がある。
特定の単位面積あたりの塗工量をMとし、試料の単位面積あたりの実測塗工量をNとすると、M/Nの値を波長別の吸光度に掛けることで、塗工量Mの時の紫外線防御効果曲線を計算により得、この曲線からSPF値やUVA-PF値を算出する。膜厚基準の場合は、目標とする膜厚を定め、同様の操作にて紫外線防御効果曲線を得、この曲線からSPF値やUVA-PF値を算出する。尚、吸光度ではなく、透過率を基準にして求めることも可能である。
【0049】
この段階では目標とする特定の単位面積あたりの塗工量が未知である。そこで、市販の製品を購入し、SPF値、PA分類と、上記の計算値との関係から、目標とする特定の単位面積あたりの塗工量がどの程度であると、市販製品の表示値に近くなるかを調べてみた。
日本製品としては、資生堂社、カネボウ化粧品社の製品を基準にすると、1.0mg/cm2の塗工量とすると表示値に近い測定値となる。一方、欧州ロレアル社の製品を基準にすると、0.75mg/cm2の塗工量とすると表示値に近い測定値となる。この際に、塗工量とSPF値、UVA-PF値のグラフを描き、近似式を求めることが好ましい。液状の化粧料の場合は、線形近似もしくは指数近似を用いることが好ましい。尚、この数値を算定するにあたり、SPF、UVA-PFの計算は、Optometrics社製SPF-290S付属のSPF V3.0ソフトウェアを用い、UVA-PFとしては、Erythermal UVA PFの値を用いたが、現在各地域で検討されている紫外線防御効果算出プログラムを用いることも可能である。
【0050】
試料が粉体化粧料の場合における測定方法について以下に示す。
粉体化粧料の測定はin vivo法においても難しく、測定値が大きくばらつく傾向を持っている。粉体化粧料は単独では塗ることが難しいため、日本の測定法基準(非特許文献26.4.2パウダー)においては、「塗布部位に試料を安定に載せるために、パウダーを塗布する前に精製水や紫外線吸収能を持たない溶媒を塗布してもよい」とされている。紫外線吸収能を持たない溶媒が試料に混合してきた場合、溶媒の揮発性により化粧品の紫外線防御効果が大きく影響を受け、揮発性の低い水などの溶媒を併用すると、紫外線防御効果測定値は低下し、揮発性の高い溶媒を使用し、かつ揮発させてから測定すると紫外線防御効果測定値は高くなる。
これは、紫外線吸収能を持たない溶媒の部分から紫外線が透過してしまうのが原因の1つであるが、この部分の測定法が定まっておらず、紫外線吸収能を持たない溶媒の種類及び量が定まっていない関係で、方法が統一されないことも問題である。そのため、基準とする市販製品自体の測定値に信頼性がない問題がある。当然、in vitro法においても同様の試料作製方法を用いれば、塗膜は不均一になり、試料の作成の仕方により、同じ試料であっても、得られる紫外線防御効果は大きく異なってしまう。これに対して、以下の方法によれば、粉体化粧料についても安定に、再現性よく測定が実施できる。すなわち、本方法で測定した測定値を製品に表示することで、消費者にとってより的確な商品選択の指標とすることが可能となる。
【0051】
本方法では、まず粉体化粧料と大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒とを、その質量比で、100:100〜100:50の範囲で混合したものを前述の方法に準じて塗工して単位面積あたりの塗工量を調べる。そして、揮発性溶媒との混合比から粉体化粧料のみの塗工量を計算し、送風下に30〜50℃の温度範囲で揮発性溶媒を除去した試料を作成して紫外線防御効果を測定し、粉体化粧料の紫外線防御効果を測定することを特徴としている。
まず、粉体化粧料に溶媒を混合することによって、塗り拡げ装置により平滑に塗工することが可能となる。仮に溶媒を混合せずに粉体の状態で塗工する場合には、平滑な塗工を行うことが極めて困難となる。さらに、大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒としたのは、240℃未満の揮発性溶媒を用いると、揮発性が高すぎて、計量時に数値が安定せず、正確な測定ができないためである。
大気圧下での沸点の異なる揮発性溶媒を各種試験したところ、沸点230℃のジメチルポリシロキサン(粘度2mm2/s)では測定値がやや安定しないのに対して、245℃の揮発性環状6量体ジメチルポリシロキサンでは測定値が安定していたことから、240℃以上の沸点を有する溶媒が好ましいということになる。
ただ、沸点が高すぎると乾燥工程で、添加した揮発性溶媒だけでなく、本来粉体化粧料に含まれている他の成分までが揮発してしまう場合があるので、具体的には、環状6量体ジメチルポリシロキサン(沸点245℃)、カプリリルメチコン(ダウコーニング社カタログhttp://www.dowcorning.co.jp/ja_JP/content/japan/japanproducts/Y517_Personal_Care_.pdf 3ページ では沸点100℃以上と記載されているが、揮発性から判断すると245℃以上の沸点を有する)を用いることが好ましく、特に環状6量体ジメチルポリシロキサンは揮発性と安定した測定が可能な点から特に好ましい。
本発明では、粉体化粧料と大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒とを、その質量比で、100:100〜100:50の範囲で混合したものを用いる。揮発性溶媒の割合が100:100を超えると、塗工時に塗工ムラができたり、固液分離が生じたりするため好ましくない。また、100:50を割ると、製剤によっては粘度が高くなり、塗工不良が生じる場合がある。
【0052】
本発明では、こうして得られた粉体化粧料と揮発性溶媒を混合して得られるスラリーを前述の方法に準じて塗工して単位面積あたりの塗工量を調べる。但し、前述の方法と異なるのは、実測値に、混合比をかけて得られる、粉体化粧料としての塗工量を用いる点である。また、紫外線防御効果測定用の試料は一度平滑に塗工した後、30〜50℃、より好ましくは40℃にて送風下に乾燥させることが好ましい。揮発性環状6量体ジメチルポリシロキサンと100:100混合の条件の場合、40℃ならばほぼ1時間で揮発性溶媒の揮発は完了する。
【0053】
これらの工程から得られたデータを元に、目標とする特定の単位面積あたりの塗工量での紫外線防御効果を測定する。尚、この際に、塗工量とSPF値、UVA-PF値のグラフを描き、近似式を求めることが好ましい。粉体化粧料の場合は、線形近似ではなく、指数近似を用いると相関性を示すR2乗値が1もしくは1に近い値を示すことから好ましい。
【0054】
上記、液状化粧料、粉体化粧料のいずれの測定においても、測定はそれぞれ2回以上実施し、もし数値が大きくずれた場合は再度試験し、エラーデータを排除する操作をすることが好ましい。特に塗膜表面にストライプ模様が入ったり、色のムラが観察される場合では、再度試験が必要である。
【0055】
本発明は、これらの方法を行うための装置であって、前記各工程を行う各装置からなり、紫外線防御効果を測定するための工程の一部、または全部を含み、紫外線防御効果を自動的に測定する装置とすることもできる。
【0056】
本発明は、上記の方法により得られた測定値または指標を表示した表示方法に適用できる。本方法は現在検討されているいずれの方法よりも高い精度と、測定者の個人差の排除、高い再現性を有する方法であり、今まで以上に精度の高い測定がより簡便に実施できることから、消費者に対して、より適切な紫外線対策指導が可能となるメリットがある。特に、現在日本で実施されているPA表示は最大がPA+++であり、これはUVA-PF値で言うと8以上に相当するが、欧州の製品はその倍のレベルを超えるものまで存在していること、PA+++は肌の黒化を抑制する筈なのに、実態としては黒化が起こることから、指標として説明されている内容と実際の性能が一致していない問題があり、これを的確に示すために、本方法の結果の表示方法は大変有効である。尚、表示物にされる表示方法は、本発明の測定値そのものでなくても、マーク、カテゴリ表記でも構わない。
【実施例】
【0057】
以下に実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(参考例)
特許文献3の0067段落〜0071段落に記載の塗り拡げ装置と同一機種を購入して調べたところ、1.5Mils(25μm)の部分で、両端と中央部の寸法を計測した結果、それぞれ1.09mm、0.60mm、0.53mmとなった。試料としてパラエルモサ社製有機系紫外線防御剤UVアブソリュート5 を5.0質量%、東レダウコーニング社製シリコーンゴムSE9140RTVに混合したものを用い、この塗り拡げ装置を用いて毎秒5mmの速度で、進行方向に並行な方向の1cmごとの塗工量を調べたところ、平均塗工量2.52mg/cm2に対して、標準偏差が0.205 mg/cm2(標準偏差/平均塗工量=0.081)であった。次に、進行方向に垂直な方向の1cmごとの塗工量を調べたところ、平均塗工量2.36mg/cm2に対して、標準偏差が0.174 mg/cm2(標準偏差/平均塗工量=0.074)であった。標準偏差/平均塗工量の値はそれほど大きくないものの、特定位置の塗膜の単位面積あたりの塗工量に変動が生じる傾向を有していた。
【0058】
そこで、試料の通過路にあたる部位の寸法が塗工量に影響を与える可能性を考慮して、塗り拡げ装置の進行方向前面の基板との角度を30゜に設定し、試料の通過路にあたる部位の寸法、つまり幅を1.00mm、2.00mm、3.00mmとし、間隙を30μmとした塗り拡げ装置を作製し、単位面積あたりの塗工量と、標準偏差、標準偏差/単位面積あたりの塗工量の値を調べたところ、表1に示すように、試料の通過路にあたる部位の寸法に依存して、単位面積あたりの塗工量が大きく変化していることが判った。この試験結果より、特許文献3の塗り拡げ装置は試料の通過路にあたる部位の寸法が大きく変動していたために、単位面積あたりの塗工量が部分的に変動して、特定の傾向を示すようになったこと、すなわち、塗膜が平滑から外れたことが判る。
【0059】
【表1】
【0060】
(実施例における塗工量の目安)
実施例においては、試料の塗工量を0.75mg/cm2もしくは1.0mg/cm2とした。これは上記のようにin vivo法による測定値に基づいて表示されている市販の化粧料の表示と、本発明に基づいて得られた測定値が類似した値を示すために必要な塗工量である。
【0061】
本発明では、平滑に塗工した試料の単位面積あたりの塗工量または、膜厚を測定するが、測定の部位は、試料の塗工開始位置から15mm以上離れていることが好ましく、さらに好ましくは20mm以上離れていることが好ましい。これは、塗工開始直後は塗り拡げ部材が不安定で、塗膜の厚さがやや厚くなるためである。これらの条件により、本方法では、一般的なサンスクリーン剤の場合で、単位面積あたりの塗工量基準で10%未満の変動幅に収まっている。
【0062】
1.実施例1(液状の化粧料の測定)
以下に具体的な測定例を示す。
(1)塗り拡げ装置を用いて、一定の速度にて基板上に平滑に塗工した試料の単位面積あたりの塗工量または、膜厚を測定する工程
塗り拡げ装置の進行方向と基板が形成する角度61.6°、間隙25μm、塗り拡げ部材の自重441.6g、試料の通過路にあたる部位の寸法3.34mm、塗り拡げ部材の横幅79.99mm、試料の通過路にあたる部位は基板と並行の属性を持つステンレス製塗り拡げ部材を用い、市販の化粧料(カネボウ化粧品社製、表示SPF50+ PA+++ 2010年度製品 W/O型サンスクリーン剤)の測定を実施した。基板としては平滑な石英板を用いた。塗工速度は毎秒5mmで実施した。
石英板と、5cm×5cmの大きさに切断した100μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの質量を0.1mgの単位まで正確に測定した。測定に際しては静電気除去装置を用いて、静電気を充分に除去した。石英板に塗り拡げ装置を置き、その前面全体に化粧料を塗り伸ばした。上記条件で塗り拡げ装置を移動させた直後に、塗工開始部位から20mm程度離れた部位から70mm付近にかけて上記PETフィルムを静置した。PETフィルムに触らないようにフィルム周囲の化粧料をティッシュペーパーと綿棒を用いて除去した。ついで、静電気を充分に除去し、石英板と化粧料とPETフィルムからなる試料の質量を0.1mgの単位まで正確に測定した。このPETフィルムの質量測定の結果から、その正確な面積は25.0cm2であり、PETフィルムと石英板に挟まれた化粧料の質量は42.3mgであることが判ったので、単位面積あたりの塗工量は1.69 mg/cm2であることが判った。この操作を繰り返し、測定値に再現性があることを確認した。
【0063】
(2)上記平滑に塗工した試料の紫外線防御効果を測定する工程
石英板に上記と同一の方法にて化粧料塗膜を形成させ、その紫外線防御効果を、Optometrics社製紫外線防御効果測定器SPF-290Sを用いて、波長290〜400nmの範囲の紫外線の透過率を1nmごとに計測した。同装置付属のコンピューターソフトウェアであるSPF V3.0を用いて算出した時のSPF値は199.68 標準偏差7.84、Erythermal UVA-PF値は33.1 標準偏差1.3であった。この標準偏差の値及び、測定値に対する標準偏差の割合は通常のin vitro測定法により得られる値と比べて小さな値であった。尚、紫外線防御効果の測定位置は、塗工開始位置から6cm離れた部位にて実施した。測定は2回実施し、再現性があることを確認した。
【0064】
(3)上記(1)工程、(2)工程のデータから、目標とする単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程
上記(2)の工程から、試験した化粧料の単位面積あたりの塗工量が1.69mg/cm2の時の透過率曲線が求まった。求めたい単位面積あたりの塗工量を例えば1.00mg/cm2とすると、1.00÷1.69=0.592倍塗工量が異なっていることが判る。透過率を吸光度に換算し、各波長別の吸光度に0.592倍をかけると、単位面積あたりの塗工量が1.69mg/cm2の時のデータから同塗工量が1.00 mg/cm2の時の吸光度曲線が予測できる。この吸光度曲線は、ソフトウェアであるマイクロソフトエクセルを用いてプログラム化したものを用いた。そして、この吸光度データを用いて、上記ソフトウェアにて求めたSPF値は67.0であり、Erythermal UVA-PF値は13.67であった。同様にして0.75mg/cm2の吸光度曲線と1.50及び0.75mg/cm2時の吸光度曲線を求め、それぞれのSPF値、UVA-PF値をグラフにしたものを図1に示す。例えば図1のデータから線形近似にてSPF、UVA-PFの近似曲線を求める場合、単位面積あたりの塗工量をXとすると、SPF値については、SPF値=209.08X−134、UVA-PF値については、UVA-PF値=31.307X−16.439となり、それぞれのR2乗値(寄与率)は0.9931と0.9906となった。この近似式から塗工量とSPF値、UVA-PF値の関係が求まった。尚、近似式を用いる場合は、求めたい単位面積あたりの塗工量前後のデータがプロットされている図から近似式を求めることが好ましい。これは直線性が確保できる単位面積あたりの塗工量の範囲が限られているためである。
【0065】
尚、本方法では、単位面積あたりの塗工量から目標とする塗工量を計算で求めている。理論上はこれで問題ないが、実際に単位面積あたりの塗工量と吸光度の間に直線性があるかどうかを、間隙が異なる塗り拡げ部材を作成して単位面積あたりの塗工量が異なる試料を用意し、確認したところ、良好な直線関係が得られたので、実際の試験においても理論式が適用できていることが確認された。
また、同じ試料を用いて、新たに塗工を行った場合も、ほぼ同様の数字を示したことから、試験の再現性も確保されていることが判った。
【0066】
2.実施例2(市販製品の測定結果)
市販のサンスクリーン剤を用いて試験を行った結果を表2、表3に示す。
ここで、PA分類とUVA-PFとの関係は、PA+がUVA-PF値で2〜4、PA++がUVA-PF値で4〜8、PA+++がUVA-PF値で8以上に相当する。また、SPF50+とはSPF値が51以上あることを示す。表2、表3において換算前とは、単位面積あたりの塗工量を塗工した時のSPFとErythermal UVA-PF値及びその標準偏差を示している。表2において換算後は、1mg/cm2塗工したとした場合の計算上算出されたSPF値、Erythermal UVA-PF値である。また、表3において換算後は、0.75 mg/cm2及び1mg/cm2塗工したとした場合の計算上算出されたSPF値、Erythermal UVA-PF値を示した。
表2の結果から、本発明の方法を用いた場合、安定した測定値が得られていることが判る。表3の結果からはやや標準偏差が大きくなっているが、センサーの感度ぎりぎりの領域を使用していることによるものであり、吸光度曲線はほぼ同じ曲線を描いていることから、本発明の方法を用いた場合、安定した測定値が得られていると言える。さらに、欧州製品の場合、0.75 mg/cm2塗工したと考えた場合の方が、より表示値に近い結果が得られることが判る。また、換算前の標準偏差/SPF値、換算前の標準偏差/UVA-PF値の値も大変小さく、平滑な塗膜が安定的に得られていることが判る。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
3.実施例3(粉体化粧料の測定)
以下に具体的な測定例を示す。
(1)断面が円または楕円ではない塗り拡げ部材を用いて、一定の速度にて基板上に平滑に塗工した試料の単位面積あたりの塗工量または、膜厚を測定する工程
実施例1において、化粧料の測定で用いたものと同じステンレス製塗り拡げ部材を用い、市販の粉体化粧料(カネボウ化粧品社製、表示SPF20 PA++ 2010年度製品、パウダーファンデーション)の測定を実施した。基板としては平滑な石英板を用いた。塗工速度は毎秒5mmで実施した。石英板と、5cm×5cmの大きさに切断した100μm厚のPETフィルムの質量を0.1mgの単位まで正確に測定した。測定に際しては静電気除去装置を用いて、静電気を充分に除去した。粉体化粧料と揮発性環状6量体ジメチルポリシロキサン(沸点245℃)を1:1の質量比にてヘラを用いて手で混合したものを試料とした。石英板に塗り拡げ装置を置き、その前面全体に試料を塗り伸ばした。上記条件で塗り拡げ装置を移動させた直後に、塗工開始部位から20mm程度離れた部位から70mm付近にかけて上記PETフィルムを静置した。PETフィルムに触らないようにフィルム周囲の化粧料をティッシュペーパーと綿棒を用いて除去した。ついで、静電気を充分に除去し、石英板と化粧料とPETフィルムからなる試料の質量を0.1mgの単位まで正確に測定した。このPETフィルムの質量測定の結果から、その正確な面積は24.5cm2であり、PETフィルムと石英板に挟まれた化粧料の質量は48.7mgであることが判ったので、単位面積あたりの塗工量は1.99mg/cm2であることが判った。揮発性溶媒と1:1の質量比で混合していることから、粉体化粧料のみの単位面積あたりの塗工量は半分の1.00 mg/cm2となる。尚、これらの作業は26.2℃の室温下で実施した。
【0070】
(2)上記平滑に塗工した試料の紫外線防御効果を測定する工程
石英板に上記と同一の方法にて粉体化粧料の塗膜を形成させ、40℃の送風乾燥機中に保管し、10分ごとに質量変化を調べた。その結果、1時間で質量は安定し、揮発性溶媒が除去されたことが判ったので、この試料を用いて、液状の化粧料の測定と同様にして紫外線防御効果を測定した。その結果、SPF値は63.37 標準偏差4.35、Erythermal UVA-PF値は49.72 標準偏差3.16であった。この標準偏差の値及び、測定値に対する標準偏差の割合は通常のin vitro測定法により得られる値と比べて小さな値であった。
【0071】
(3)上記(1)工程、(2)工程のデータから、目標とする単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程
上記b)の工程から、試験した化粧料の単位面積あたりの塗工量が1.00mg/cm2の時の透過率曲線が求まった。同様にして0.50、0.75、1.00mg/cm2の時の透過率曲線を求め、それぞれのSPF値、UVA-PF値をグラフにしたものを図2に示す。図2のデータから指数近似にてSPF、UVA-PFの近似曲線を求めると、単位面積あたりの塗工量をXとすると、SPF値については、SPF値=1.0048e4.1441X、UVA-PF値については、UVA-PF値=1.0144e3.8926Xとなり、それぞれのR2乗値(寄与率)は1.0となった。この近似式から塗工量とSPF値、UVA-PF値の関係が求まった。
また、本測定は各工程においても、また最終の結果においても再現性があることが確認された。
【0072】
4.実施例4(他の粉体化粧料の測定)
同様の方法を用いて、カネボウ化粧品社製粉体化粧料(パウダーファンデーション、2010年度製品)について試験を行った。
表4にその結果を示す。近似曲線を求めて、各表示値との関係を求めた結果、SPF値は塗工量0.75mg/cm2を基準とし、Erythermal UVA-PF値は0.50mg/cm2を基準として示すと表示値に比較的近い値になることが判った。表4の結果から、本発明の方法を用いた場合、従来できないとされた粉体化粧料のin vitro測定が安定して実施できていることが判る。また、換算前の標準偏差/SPF値、換算前の標準偏差/UVA-PF値の値も大変小さく、粉体化粧料においても、平滑な塗膜が安定的に得られていることが判る。
【0073】
【表4】
【0074】
また、カネボウ化粧品以外のメーカーの粉体化粧料についても測定を行ったが、測定は再現性よく実施できるものの、表示値と測定値の乖離が大きく、カネボウ化粧品のように比較的安定な測定値にならなかった。これはin vivo法における測定手順の問題が関係していることが予想される。
【0075】
5.比較例1
粉体化粧料と揮発性環状6量体ジメチルポリシロキサンの組み合わせの代わりに、各種の揮発性溶媒を用いて、単位面積当たりの塗工量を試験した場合
結果を表5に示す。試験方法は上記の粉体化粧料の方法に準じ、粉体化粧料と揮発性溶媒の混合質量比率は1:1にて実施した。尚、試験は26.1℃の条件にて実施した。表5にあるように、大気圧下での沸点が230℃以下の揮発性溶媒は、樹脂フィルムをかぶせても揮発性溶媒の揮発が抑制できず、経時で測定値が変動するために、塗工量を正確に測ることができないことが判る。
【0076】
【表5】
【0077】
6.実施例5(SPF値、UVA-PF値(PA分類)が未知の製剤の測定と表示物)
以上では、既に測定値を表示された市販製品の分析方法を示してきた。以下では、未知の試料についての測定、表示例を示す。
パラエルモサ社製有機系紫外線防御剤UVアブソリュート5を7.5質量%配合したリクイドファンデーションを作製し、欧州製品に準じ、単位面積あたりの塗工量が0.75mg/cm2の場合のSPF値とUVA-PF値(PA分類)を求めた。顔料などの配合比率は剤型が異なっても一緒とした。結果を表6に示す。表6の結果から、製品の表示値が求められ、表示物を作製した。
【0078】
【表6】
【0079】
表6の結果から、O/W(水中油型製剤、水分量40%)剤型は油性剤型と比べてSPF値、UVA-PF値共に大幅に低下した。従来は、前述したように、測定値自体が不正確なものであり、測定値の変動が大きかったために剤型による影響が正確には把握できなかった。本方法では正確な紫外線防御効果が測定できるため、水中油型製剤の水相の影響に起因する紫外線防御効果の劣化の程度が数字の形で定量的に明確に示された。このことから、本発明の方法は、測定値を得るだけでなく、紫外線防御効果に注目した従来の剤型の見直し、製造技術の改良が正確に行えるツールになることが予想される。
【0080】
7.比較例2(試料作製方法による影響)
現在標準的に用いられているヒトの指で塗工した場合にどの位の変動が生じるのかについて検討を行った結果を表7に示す。試料はパラエルモサ社製紫外線防御剤UVカクテルJP-6 を15.0質量%配合したクリームを用い、塗工量は2mg/cm2になるように塗工した。 メーカーの標準測定方法である、石英板にトランスポアテープを貼り、そこに丁寧に試料を塗りつける方法で作成したものでは、表面に多数のストライプ模様が形成されていた。トランスポアテープを密着させずに測定した場合でも、かなり異なる数値となっている。石英板に指で直接塗布した場合では、指の動かし方によって測定値が大きく異なっていることが判る。ストライプ模様が形成されないように、石英板2枚で試料を挟み込み測定した場合では、大変大きな測定値を示すことが判る。このように全て2mg/cm2の塗工量には準拠していても、試料の作成の仕方が異なるだけで、数字上はこのように大きな変化が生じてしまう。熟練者であれば何かの数値付近にみかけ上の測定値は落ち着いてくると思われるが、その数字は試料の紫外線防御効果を正しく反映したものとは言えず、意味をなさないことが下記試験結果から判る。
【0081】
【表7】
【0082】
なお、表7の挟み込みによる測定方法は、本発明が目指した平滑な塗膜と同様の塗膜を形成することができうる方法である。しかしながら、この方法は、化粧品の剤型により使用できない、または数字が大きく変動する場合があるため、汎用的には使用できない。具体的には、空気を多く含む製剤の場合、挟み込みにより、薄膜化していく過程で、空気による穴が塗膜に形成され、そこから紫外線が透過する問題が発生する。また、相分離を起こしやすい化粧料においては、薄膜化の過程で成分の分離や凝集が生じて、実態以上に性能が悪く表示される場合がある。従って、製剤によっては表7のようなデータを与えるが、再現性がとれない場合もあることに注意が必要である。
【0083】
8.比較例3(円筒型金属製塗り拡げ部材を用いた場合のSPF値への影響)
アプリケーターとしてベーカー型アプリケーターを用い、間隙設定を0とした。試料としてパラエルモサ社製有機系紫外線防御剤UVカクテルJP-6 を15.0質量%、東レダウコーニング社製シリコーンゴムSE9140RTV(紫外線透明性1液式シリコーンRTVゴム)に混合したものを用いた。紫外線透過性のポリプロピレンフィルムを用い、このフィルムの上に試料を2mg/cm2になるように、アプリケーターの荷重を変化させて塗工した。尚、2mg/cm2の塗工量はin vivo法によるSPF測定基準で用いられている量に相当する。この試料を用いて、Optometrics社製SPF290S型測定器を用いてSPF値を測定した結果を表8に示す。また、ストライプ模様の周期は光学顕微鏡観察によるものである。表8の結果から、同じ2mg/cm2の塗工量であっても、得られるSPF値は大きく異なっていることが判る。この試料の場合は、毎秒5mmの塗工速度であってもストライプ模様が形成されていた。ストライプ模様の例を図3に示す。一般に塗工速度が遅いとストライプの溝は深く、塗工速度が速いとストライプの溝は浅くなり、この溝の部分から紫外線が透過するため、本試料のような高い紫外線防御効果を示すサンプルを用いた場合では、その影響はSPF値に大きく影響する。そのため、ストライプ模様が生じない塗工をする必要がある。
【0084】
【表8】
【0085】
9.比較例4(ワイヤーコーター)
塗料の塗工試験では、ワイヤーコーターと言われる金属棒に針金を緻密に巻いた塗工器が多用される。そこで、ワイヤーコーター(No.5)を用い、試料として2種類の資生堂社製サンスクリーン剤(表示SPF50+、PA+++)を用い、それぞれ毎秒5mmの塗工速度で塗工し、紫外線防御効果を調べた。その結果、1点については測定値の変動幅は小さかったものの、もう1点については、塗膜が不均一になり、測定値も大きくばらついた。ワイヤーコーターについては製剤によっては利用可能であるが、高粘度製品ではワイヤーコーター由来の筋が残っていることが観察されることから、汎用的に利用できる器具ではないことが判った。
【0086】
10.実施例6、比較例5(塗り拡げ装置の進行方法の角度の影響)
塗り拡げ装置の進行方向で、試料と接する面の延長線が塗工する基板となす角度を10、20、25、30゜に設定し、試料の通過路にあたる部位の寸法を3mmに固定し、毎秒5mmの速度で塗工した場合の単位面積あたりの塗工量と標準偏差、及び標準偏差/塗工量の値を求めた。試料はパラエルモサ社製UVアブソリュート5 を5.0質量%、東レダウコーニング社製シリコーンゴムSE9140RTVに混合したものを用いた。塗工は紫外線透過性のポリプロピレンフィルムに対して実施した。結果を表9に示す。角度が10〜25゜の範囲においては、いずれの標準偏差/塗工量の値も0.1以上になっており、変動が大きいことが判る。これより角度が小さいと塗り拡げ部材にかかる揚力が大きくなり、塗り拡げ部材の上下動が生じることが判る。また、角度が30゜の場合では、標準偏差/単位面積あたりの塗工量の値は0.06と小さい値を示しており、揚力の影響が少なくなっていることが判る。
【0087】
【表9】
【0088】
11.実施例7、比較例6(塗り拡げ部材の間隙による影響)
塗り拡げ部材の間隙を12.5μm、20μm、25μmに設定し、試料の通過路にあたる部位の寸法を3.34mmに固定し、毎秒5mmの速度で塗工した場合の単位面積あたりの塗工量と標準偏差、及び標準偏差/単位面積あたりの塗工量の値を求めた。試料はパラエルモサ社製有機系紫外線防御剤UVアブソリュート5 を5.0質量%、東レダウコーニング社製シリコーンゴムSE9140RTVに混合したものを用いた。塗工は紫外線透過性のポリプロピレンフィルムに対して実施した。結果を表10に示す。間隙が12.5μmの場合では、標準偏差/単位面積あたりの塗工量の値がやや大きめである以外に、複数の塗工において、同じ位置に塗膜の薄い部分が形成されたことから、間隙が一定でないことが疑われる。塗り拡げ装置のメーカーも12.5μmで精度をだすことはかなり難しいと言っていることから、加工精度が上がって、安定的に高精度の塗り拡げ装置が作成できるようにならないと、12.5μm間隙の塗り拡げ装置は利用しにくい。一方、間隙が20μm、25μmの場合では、安定した塗工が実施できた。この結果から間隙は20〜25μmの範囲に設定するのが好ましいことが判る。
【0089】
【表10】
【0090】
12.比較例7(基板の凹凸がストライプ模様に与える影響)
上記の各試験は平滑な基板に対して実施されているが、凹凸のある基板に対して実施した場合にストライプ模様が形成されるのか否かを試験した。凹凸のある基板としては、Colipa法に準拠したポリメタクリル酸メチル製プレート(凹凸の大きさは2μm)を使用した。試料はパラエルモサ社製有機系紫外線防御剤UVアブソリュート5 を5.0質量%、東レダウコーニング社製シリコーンゴムSE9140RTVに混合したものを用い、指にサックをつけて2mg/cm2になるように塗工した。結果を図4に示す。図4は塗膜表面の光学顕微鏡像であるが、ストライプ模様が観察されている。このことから、基板に凹凸があってもストライプ模様は形成され、問題の解決にはなっていないことが判る。
【符号の説明】
【0091】
1・・・塗り拡げ装置
2・・・塗り拡げ部材
3・・・支持部
4・・・基板
5・・・化粧料
6・・・塗り拡げ部材先端
7・・・樹脂フィルム
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vitro法による化粧料の紫外線防御効果測定方法と、測定装置、及び測定値の表示方法に関する。
さらに詳しくは、実験体としてヒトを用いずに測定装置を用いて紫外線防御効果を測定するin vitro法において、より正確な測定値を得るための紫外線防御効果の測定方法と、その測定方法に基づいた測定装置、及びその測定方法に基づいて測定された測定値の表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本では化粧料における紫外線防御効果の指標として、波長290〜320nmのB波紫外線の防御能力を示すSPF(Sun Protection Factorの略)と、波長320〜400nmのA波紫外線の防御能力を示すPA(Protection grade of UVA)が用いられている。これらの測定結果を化粧料に表示する場合、日本化粧品工業連合会の定めるそれぞれの測定法基準(非特許文献1)(非特許文献2)に基づいて測定した値、またはそのグレードを表示することが求められる。
海外においても基本的にはそれぞれの地域の測定法及び表示方法(非特許文献3)に従って表示することが求められるが、基本的な測定方法はほぼ統一されている。測定法基準では、ヒトの背中を用い、背中に高出力の紫外線を照射し、その際に肌に生じる炎症反応と黒化反応の目視観察の結果から、紫外線防御効果を測定する。しかしながら、ヒトを用いると、手間と費用がかかり、測定結果がでるまでの期間が長い。
加えてヒトを用いることの倫理的、医学的問題などがあるため、日本、欧州においては、ヒトを用いないで、機械にて紫外線防御効果を測定するin vitro測定法の検討が進められている(非特許文献4)。しかしながら、現在進められているin vitro測定法にしても、多くの問題点が存在することが報告されている(非特許文献5)。本発明者の検討でも、同じ試料を用いて、同じ規格の中で試験しても、最大で20倍ほどSPF値が変動することを見いだしている。
【0003】
この問題点には科学的に説明可能な明確な理由が複数存在しており、この理由を把握して、制御下で試験をすれば問題は解決する。しかし、解決できていないのが現状であると考えられる。本発明者はこの科学分野における先端技術を有しており、正確に制御が可能になるか、その制御の精度、再現性などについて検討を実施してきた。
その結果、試料の作成方法にあること、すなわち数μmから十数μmの薄膜を1μm程度の精度でいかに平滑に塗工するかという点、そして塗工時に単位面積あたりの塗工量を定めない点が、問題解決の鍵となっていることを見いだした。
試料が潤沢にあり、何平米という大きな平滑塗膜を形成する場合では(非特許文献6)や(特許文献1)にあるような大型の装置を用いる方法があり、ディスプレイの液晶の塗工などでも用いられている。
しかしながら、化粧料の場合は、試料の量も少なく、求められる塗工面積もたかだか数十cm2である。従って、化粧料に適した測定方法を開発するためには、科学的現象を把握しておく必要がある。また、レジスト塗工などの分野で平滑な塗膜を形成すると言われているスピンコーターでも、実際に検討してみると、(特許文献2)にあるように塗膜表面に細かい筋状の構造が形成されることから平滑な表面は形成できない。塗料で平滑な塗膜を形成するのに使われるワイヤーコーターにおいても、実際に試験してみると、平滑な塗膜が形成できる化粧料とできない化粧料に分かれてしまう。(非特許文献7)にあるように、元々塗料やレジストの技術は数十μmの変動を許容した時に平滑という意味を持っており、求められる精度が化粧料における紫外線防御効果の測定法と比べて大きく異なっている。そのため、既存の資料を調べて平滑な塗工ができると書かれているものを集めてきて試験してみても、種々の性質を持つ化粧料をこのように薄膜化するのは簡単ではないことが判る。これが、非特許文献3に記載されているように、in vitro測定法が既に最初の開発から13年も経過しており、世界中で種々の改良が加えられているにもかかわらず、うまくいかない理由の1つである。
【0004】
この問題を解決する際に鍵となる論文の1つをここで示す。(非特許文献8)は、非平衡系の自己組織化現象であるディレクショナルヴィスカスフィンガリングにより、塗膜表面にストライプ模様が形成されること、そのストライプ模様の特性長と高低差は、塗工速度とアプリケーターの間隙の大きさにより制御されることを示している。
このストライプ模様は、現在日欧の化粧品工業会で検討されているin vitro測定法においても、試料作製時に形成されるが、ストライプ模様が形成されると、ストライプの谷の部分は膜厚が薄いため、照射された紫外線が谷の部分からより多く透過するため、ストライプの形成の有無、形状、深さにより、紫外線防御効果の値は大きく変動する。
特に紫外線防御効果の高い化粧品では、その影響をより強く受けることを本発明者らは見いだしている。従って、塗工速度を制御してストライプ模様を形成させないことが肝要である。この影響の程度についての詳細は後述する。
【0005】
次に問題となるのは、揚力である。現在検討されているin vitro測定法では、ヒトの指で試料を測定板に塗布するが、指のように円筒形の形状を持つ場合、揚力が指にかかり、塗膜の膜厚が一定にならない。指による塗布では、人が指先を測定板に試料を押しつける力を一定にすることが極めて困難である。そのため、塗膜が非平滑になり、測定値が安定しない大きな要因となる。
揚力は、指など塗工するものの形状だけでなく、測定する化粧料の粘度、チキソトロピック性、塗工速度にも影響を受ける。in vitro測定法で測定精度を上げるには、一定の面積を有する平滑な塗膜を形成させることが必須である。(非特許文献8)の技術では円筒型のアプリケーターを用いているため、やや大きな面積での精度に欠ける問題があり、25cm2以上の面積で平滑な塗工を行うためには、アプリケーターの形状についての検討が必要となる。形状についての詳細は後述する。
【0006】
塗工の方法も問題となる。通常インキなどの塗工では、アプリケーターの進行方向前面に塗工する液を置き、それを引き延ばす方法がとられる。アプリケーターの進行方向前面に厚い液膜が存在すると、アプリケーターがそれに乗り上げてしまい、インキ、塗料に求められる精度ならば問題がなくても、化粧料の紫外線防御効果のin vitro測定では大きな問題となるレベルの膜厚の変化が生じてしまう。従って、試料の置き方も重要な要素となる。但し、試料の置き方を工夫しても、試料の粘度が高い場合、塗工開始から2cm程度は膜厚が数μm程度厚くなりやすいため、この部分を除外することも必要である。
【0007】
アプリケーターの精度も塗膜の平滑性に大きな影響を与える。アプリケーターの精度が悪い場合、平滑な塗膜が得られないため、アプリケーターには一定以上の寸法精度が必要である。(特許文献3)0067段落〜0071段落に、速度制御はされていないものの、非円筒型のアプリケーターを用いた塗工方法が示されているが、実際に同じアプリケーターを用いても塗膜の膜厚は変動が大きい。具体的な数値は後述するが、アプリケーターの精度が悪いと平滑な塗膜が形成できない例として挙げておく。
【0008】
これらの要素を考慮して、平滑な塗膜が形成できたとする。現在検討されているin vitro測定法では、0.75mg/cm2という、最初から目標とする単位面積あたりの塗工量を定めて塗工することになっているが、これを粘度など性質の異なる種々の化粧料において実現することは大変手間がかかる問題である。特に、目標を定めて塗工した場合、わずか0.1mgのずれが生じただけでも0.1/0.75=0.13と10%以上の変動幅になってしまい、求められる塗工精度はもうひと桁小さいところを狙う必要がでてくるが、測定する対象である化粧品の塗工特性は化粧品ごと、ロットごとに異なり、都度測定条件の検討を行うことは大変な困難を伴う。
これに対して、本発明者らの方法は、単位面積あたりの塗工量に目標値は定めない。その代わりに単位面積あたりの塗工量もしくは膜厚を測定して、計算上、目標とする単位面積あたりの塗工量の時の紫外線防御効果を算出する。より詳しくは、平滑膜の吸光度曲線または透過率曲線と、単位面積あたりの塗工量の値から、計算にて、目標とする単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を求める方法をとっている。そのため、最初から目標の塗工量を定めて塗工する手間がなく、より簡便な塗工が可能となっているだけでなく、塗工時の精度も確保されていることが大きな特徴である。具体的な測定方法は後述する。
【0009】
さらに、現在、粉体化粧料については、in vivo法においては、紫外線吸収能を持たない溶媒を併用して測定しても良いことになっている。しかしながら、紫外線透過性成分を用いて塗膜を作成すると、その成分を通って紫外線が透過してしまい、実態とはかけ離れた性能(通常は実態よりも性能が低く表示される)が示されてしまう問題がある。そこで、粉体化粧料の紫外線防御効果を安定に測定するための方法として、特定の沸点以上の揮発性溶媒を特定の比率で粉体化粧料と混合させ、この資料を平滑に塗工した後、乾燥させてから紫外線防御効果を測定することにより、粉体化粧料の紫外線防御効果が安定に再現性良く測定できるようになった。
【0010】
また、本発明者の方法とは別に、従来化粧品業界でin vitro測定法として用いられてきた方法の例を以下に紹介する。(特許文献4)の0146段落には、石英板を用いた測定方法が示されている。具体的には、石英板に一定の面積の印をつけ、そこに指で一定量の試料を塗工する方法であり、通常、化粧品業界ではこの方法で測定することが多い。(特許文献5)の10ページには、モルモットの角質に指で試料を塗布する方法が示されているが、動物皮膚は元々平滑性が低い。(特許文献6)の0026段落には、試料をVITRO−SKINに塗工する方法が示されている。この方法では、VITRO−SKIN自体の平滑性が低いため、平滑な塗工はできない問題がある。
【0011】
【特許文献1】特開2006−26596号公報
【特許文献2】特開2008−62182号公報
【特許文献3】特開2009−35551号公報
【特許文献4】特開2002−80748号公報
【特許文献5】特開平6−16527号公報
【特許文献6】特開2009−299059号公報
【0012】
【非特許文献1】日本化粧品工業連合会 紫外線防御用化粧品と紫外線防止効果 −SPFとPA表示− 2003年改訂版
【非特許文献2】日本化粧品工業連合会 日本化粧品工業連合会SPF測定法基準〈2007年改訂版〉
【非特許文献3】ISO/TR26369 Cosmetics -- Sun protection test methods -- Review and evaluation of methods to assess the photoprotection of sun protection products
【非特許文献4】Colipa Guidelines, Method for in vitro Determination of UVA protection, 2009
【非特許文献5】Rohr, M.; Klette, E.; Ruppert, S.; Bimzcok, R.; Klebon, B.; Heinrich, U.; Tronnier, H.; Johncock, W.; Peters, S.; Pfluecker, F.; Rudolph, T.; Floesser-Mueller, H.; Jenni, K.; Kockott, D.; Lademann, J.; Herzog, B.; Bielfeldt, S.; Mendrok-Edinger, C.; Hanay, C.; Zastrow, L. “In vitro Sun Protection Factor: Still a Challenge with No Final Answer” Skin Pharmacol. Phys. 2010, 23(4), 201-212.
【非特許文献6】http://www.yasuiseiki.co.jp/coting1.html (2010年8月16日検索)
【非特許文献7】大西賢午 塗料の研究 No.145 Mar. 2006 http://www.kansai.co.jp/rd/token/pdf/145/10.pdf (2010年8月19日検索)
【非特許文献8】Kuroda, A.; Ishihara, T.; Takeshige, H.; Asakura, K. "Fabrication of Spatially Periodic Double Roughness Structures by Directional Viscous Fingering and Spinodal Dewetting for Water-Repellent Surfaces", J. Phys. Chem. B, 2008, 112 (4), 1163 -1169.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の(非特許文献3)に記載されたように、in vitro法の開発は1997年ごろから方法が提案されてきており、既に13年にも亘り世界中で検討が行われてきたにもかかわらず、安定した測定値が得られる方法が提案されず、安定に測定を行うことができなかった。
つまり、従来方法においては、ヒトが指を用いて非平滑膜を形成してそれを測定していた。また、日本や欧州では、測定器や測定基板を前提にした評価方法を検討しているが、その方法は新規の装置を導入することを余儀なくされる。
そして、(非特許文献5)に記載されたように、従来の測定方法による測定値は、得られる測定値の精度がかなり低いことがわかる。
消費者の感覚ではSPF値が10異なることは性能の差として認識されるが、従来技術の測定方法ではSPF値50と35は同じ試料でも測定結果として得られる可能性があり、より高精度な測定結果を得ることが望まれていた。
さらに、従来粉体化粧料の測定はかなり困難があり、測定値の再現性だけでなく、メーカー間の格差も大きい問題があったが、証明が難しいこともあり、あまり話題にされなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
1.下記a)〜d)の工程を有する、液状化粧料の紫外線防御効果を測定する方法である。
a)基板とのなす角度が30°以上である塗り拡げ部材を、基板上で一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
b)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。
c)上記a)工程により得られた別の液状化粧料層の紫外線防御効果を測定する工程。
d)上記b)工程及びc)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【0015】
2.下記e) 〜i)の工程を有する、粉体化粧料の紫外線防御効果を測定する方法である。
e)粉体化粧料と大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒とを、その質量比で、100:100〜100:50の範囲で混合してなる組成物を試料として得る工程。
f) 基板とのなす角度が30°以上である塗り拡げ部材を、基板上で一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
g)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。
h)上記f)工程により得られた別の該組成物層を乾燥し、その乾燥後の該組成物層の紫外線防御効果を測定する工程。
i)上記g)工程及びh)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【0016】
3.大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒は、環状6量体ジメチルポリシロキサン、カプリリルメチコンから選ばれることを特徴とする、2に記載の方法。
【0017】
4.一定の速度が毎秒1〜10mmの範囲の速度であることを特徴とする、1又は2に記載の方法。
【0018】
5.一定の速度が毎秒1〜5mmの範囲の速度であることを特徴とする、4に記載の方法。
【0019】
6.塗り拡げ部材先端と基板との間の隙間の高さが20〜25μmの範囲にあることを特徴とする1又は2に記載の方法。
【0020】
7.基板が、表面が平滑で、290〜400nmの範囲の紫外線を透過する性質を有する材料から選ばれることを特徴とする、1又は2に記載の方法。
【0021】
8.基板が、石英板またはポリメタクリル酸メチル板から選ばれることを特徴とする、7に記載の方法。
【0022】
9.基板に試料を塗工する際に、事前に試料を基板上に薄く広げてから、塗り拡げ装置にて平滑に塗工する手順を経るものであることを特徴とする、1又は2に記載の方法。
【0023】
10.塗工量または、膜厚を測定する部位は、試料の塗工開始位置から15mm以上離れていることを特徴とする、1又は2に記載の方法。
【0024】
11.塗工量または、膜厚を測定する部位は、試料の塗工開始位置から20mm以上離れていることを特徴とする、10に記載の方法。
【0025】
12.平滑に塗工した液状化粧料の単位面積あたりの塗工量の算出方法が、以下の方法に従うものであることを特徴とする、1に記載の方法。
A)液状化粧料に用いる揮発性成分が不透過性または難透過性である樹脂フィルムを用意。
B)該樹脂フィルムの質量を測定し、また、樹脂フィルムの面積を求める。
C)液状化粧料からなる層を形成する基板の質量を求める。
D)形成された平滑な液状化粧料層が乾燥する前に、該樹脂フィルムを該液状化粧料層表面の一部に静置する。
E)該樹脂フィルムに覆われていない部位の液状化粧料層を除去する。
F)該樹脂フィルムと液状化粧料層と基板からなる試料の質量を測定する。
G)上記の測定値から単位面積あたりの化粧料の質量を測定する。
【0026】
13.平滑に塗工した粉体化粧料の単位面積あたりの塗工量の算出方法が、以下の方法に従うものであることを特徴とする、2に記載の方法。
A)粉体化粧料に混合される沸点が240℃以上の揮発性溶媒が不透過性である樹脂フィルムを用意。
B)該樹脂フィルムの質量を測定し、また、樹脂フィルムの面積を求める。
C)該組成物からなる層を形成する基板の質量を求める。
D)形成された平滑な該組成物層が乾燥する前に、該樹脂フィルムを該組成物層表面の一部に静置する。
E)該樹脂フィルムに覆われていない部位の該組成物層を除去する。
F)該樹脂フィルムと該組成物層と基板からなる試料の質量を測定する。
G)上記の測定値から、単位面積あたりの該組成物層の質量を測定する。
H) 該組成物中の粉体化粧料の含有割合を考慮して、該組成物層中の粉体化粧料の質量を求める。
【0027】
14.1又は2に記載の任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果に基づき、目的とする紫外線防御効果を得るために必要な単位面積あたりの塗工量を求める方法。
15.1又は2に記載の方法を行うための装置であって、前記各工程を行う各装置からなり、紫外線防御効果を測定するための工程の一部、または全部を含み、紫外線防御効果を自動的に測定する装置。
【0028】
16.1又は2に記載の方法、又はそれらの方法を示す表示を容器に示す方法。
【発明の効果】
【0029】
従来、国際的に検討されている指での塗工を前提にしたin vitro測定方法では、標準偏差/測定値の平均は0.2を目標にしているが実現できていない。これに対して本方法では、標準偏差/測定値の平均はSPF値、UVA-PF値共に0.1以下を目標にしており、再現性、精度共にはるかに高い。本発明では単独の測定値においても、それぞれの標準偏差/測定の平均を0.1以下にするように努めることで、高い精度を実現した。
本発明による装置は簡単な構造からなる装置であり、その装置を用いた方法もまた簡単な方法であるにも関わらず、得られるSPFの測定値は上記のように安定的に精度が高いので、消費者の感覚に合ったSPFの測定値を示すことができる。また、本方法を用いて測定した結果を表示した表示物の信頼性を向上させることも可能となる。
さらに、本方法によって、会社を問わず同種の製品を直接比較可能にする表示方法が得られることになり、消費者にとって製品の選択基準が明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】液状化粧料の単位面積あたりの塗工量とSPF値、UVA-PF値との関係を示すグラフの例
【図2】粉体化粧料の単位面積あたりの塗工量とSPF値、UVA-PF値との関係を示すグラフの例
【図3】ストライプ模様の例を示した光学顕微鏡像
【図4】Colipa法凹凸基板上に形成されたストライプ模様を示した光学顕微鏡像
【図5】塗り拡げ装置の斜視図
【図6】塗り拡げ装置の下面図
【図7】塗り拡げ部材の断面図
【図8】塗り拡げ部材の断面図
【図9】基板上に化粧料を塗工した後の上面の概念図
【図10】基板上に化粧料を塗工した後の断面の概念図
【図11】本発明の測定方法の概念図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、上記本発明を詳細に説明する。
本発明の化粧料の紫外線防御効果を測定する方法は、液状化粧料に対しては、下記a)〜d)の工程を有する、液状化粧料の紫外線防御効果を測定する方法をとることができる。
a)塗り拡げ部材と基板のなす角度が30゜以上となるようにして、基板上で塗り拡げ装置を一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
b)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程
c)上記a)工程により得られた別の液状化粧料層の紫外線防御効果を測定する工程
d)上記b)工程及びc)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【0032】
また、粉体化粧料については、
下記e) 〜i)の工程を有する、粉体化粧料の紫外線防御効果を測定する方法。
e)粉体化粧料と大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒とを、その質量比で、100:100〜100:50の範囲で混合する工程。
f)塗り拡げ部材と基板のなす角度が30゜以上となるようにして、基板上で塗り拡げ装置を一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
g)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。
h)上記f)工程により得られた別の液状化粧料層の紫外線防御効果を測定する工程。
i)上記g)工程及びh)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【0033】
本発明で言う紫外線防御効果とは、一般に波長290〜320nmのB波紫外線に対応したSPF値、波長320〜400nmのA波紫外線に対応したUVA-PF値、またはPA分類、PPD値として表わされるが、これらの波長の防御効果を示す指標であれば特に限定されない。
b)及びg)の工程は、従来の単位面積あたりの塗工量の目標値を定めて塗工する方法と大きく異なる部分であり、あくまで平滑に塗工した塗膜そのものの単位面積あたりの塗工量または、膜厚を測定することを目的としている。b)及びg)の工程も、従来の単位面積あたりの塗工量の目標値を定めて塗工されたものを実測する方法とは大きく異なり、平滑に塗工した塗膜そのものの紫外線防御効果を測定することを目的としている。そしてc)及びh)の工程で、初めてb)c)、g)h)の工程で得られたデータから、目標とする単位面積あたりの塗工量または膜厚の紫外線防御効果を予測している。
【0034】
本発明の塗り拡げ装置について以下に説明する。
図5には、本発明にて使用する塗り拡げ装置1の斜視図が記載されている。
塗り拡げ装置1は塗り拡げ部材2及び該塗り拡げ部材2の両端を支持するための支持部3を有する装置である。
該塗り拡げ部材2は該支持部3に対して図示しない構造、例えば、塗り拡げ部材の両端部に設けたピンが、支持部3に設けられた上下方向に延びた溝に嵌合される等することによって上下に自由に移動が可能に支持されてなり、該塗り拡げ部材の自重によって、塗り拡げる対象である化粧料から受ける揚力に抗し、基板に対して該化粧料を均一に塗布するようにしてなるものである。
この図5に記載の塗り拡げ装置1は、説明のために他の部材を図示していないが、塗り拡げ装置として一体のものとするために、例えば2つの支持部3を接続させる部材アングル等を設けることも可能である。
また、図6は該塗り拡げ装置1を下面からみた図であり、塗り拡げ部材先端部6が塗り拡げ部材2の先端に位置している。
【0035】
本発明で用いる塗り拡げ装置1に備えられた塗り拡げ部材2及び支持部3の材質は、金属であることが好ましく、特にステンレス、ジュラルミン等寸法精度が良く、かつ加工可能な材料が好ましい。本発明で用いる塗り拡げ部材の断面形状は多角形であることが好ましい。
さらに、図7及び図8に示すように矢印で示す塗り拡げ装置の進行方向に向いた、塗り拡げ部材の面と、塗工される基板表面とのなす角度が30゜以上であることが必要である。30゜未満の場合では、化粧料5によって塗り拡げ部材にかかる揚力のために膜厚が一定にならず、化粧料によっては測定精度が低くなる場合がある。塗り拡げ部材が円筒状、あるいは楕円の筒状等のように、塗り拡げ部材の最も基板に近い部分と塗工される基板表面のなす角度が0゜に近くなる形状の場合も同様に塗り拡げ部材に係る揚力のために膜厚が一定にならない。
また、塗り拡げ部材先端6と基板とで形成される間隙の高さが20〜25μmの範囲にあることが好ましい。20μm未満の場合、塗り拡げ部材の加工精度が極めて高くないと、平滑な塗膜が得られない可能性があり、一般的な金属製塗り拡げ部材の加工精度から考えると、平滑な塗工ができない塗り拡げ装置になる可能性がある。20〜25μmの範囲であれば、加工精度と塗り拡げ装置の量産性が両立する領域である。25μmを超えると、塗膜が厚くなり、塗膜を透過する紫外線量が減少してくる結果、より高い感度を有する測定器が要求される問題を生じる。
【0036】
塗り拡げ部材の質量は、塗り拡げ部材を単独で用いる場合では100g以上あることが好ましく、さらに好ましくは400g以上あることが好ましい。質量が小さいと揚力の影響を受けやすく、平滑な膜が形成できなくなる原因になる。また、質量が大きすぎると基板やそれを支持している板にゆがみが生じ、基板が平らでなくなってくるため、塗工部位による膜厚が変化する原因になる。どれだけの質量がかけられるかは基板や支持している板の強度にもよるので一概に言えないが、5mm厚の超超ジュラルミンを用いた場合では、塗り拡げ部材の上から加重し、自重と合わせた荷重が2kgを超えてくると基板のゆがみが無視できない大きさとして現れてくることが観察されている。
【0037】
次に、本発明の塗り拡げ装置を用いる紫外線防御効果を測定する方法について示す。
図9に示すように、塗り拡げ装置1を基板4上にて移動させて、化粧料等の試料を基板4上に均一に塗布する。図9には、塗り拡げ装置1を基板4上にて移動させる機構に関しては図示をしないが、下記にて説明するように一定の速度にて移動を行う。
なお、化粧料等の試料は、塗布されるべき全量を塗り拡げ開始時に塗り拡げ部材の前部に供給しておくことも可能であるが、その場合には、塗り拡げ部材に係る揚力、つまり多量の試料により塗り拡げ部材を上方に向けて押す力が大きくなるので、試料を塗り拡げ部材の前部に供給する際には、逐次もしくは連続して適量を供給するか、事前に試料を基板4上にヘラなどを使用して塗り拡げておくことにより、塗り拡げ工程時にわたって、塗り拡げ部材に係る揚力をできるだけ小さく、さらに揚力の変動量も小さく、つまり、塗り拡げ部材前部に存在する試料もできるだけ少なくすることが、より平滑な塗膜を形成するためには必要である。
塗り拡げ装置を移動させるに伴って、図9にて示すような、移動方向に平行に形成されるSで示されるストライプ模様形成による試料の厚みのムラを解消することが必要であるし、また、図9においてA−Aの線において切断した状態を示す図10に示すように、移動方向に垂直な方向に形成される筋の厚みのムラも解消することが求められる。
【0038】
そのために下記に示すような条件等を設けることになる。
本発明でいう一定の速度での塗工とは、電動シリンダ、電動アクチュエーター、産業ロボット、搬送機など、一定速度で運動できる装置を用いて、基板または塗り拡げ装置を一定の速度で移動させて塗工することを言い、特にリニアモーターを用いたものは低速度領域での速度安定性が高く、トルクが大きいことから、重い金属性塗り拡げ装置を用いても安定した塗工ができること、速度や加速度の履歴が残ることから好ましい。一定の速度としては、毎秒1〜10mm、より好ましくは毎秒1〜5mmの速度で塗工することが好ましい。毎秒1mm未満では、塗工に時間がかかり過ぎ、化粧料に含まれる揮発性溶媒が塗工中に揮発して、塗膜部位による成分の不均一性が生じる可能性があり、10mmを超えると、ストライプ模様が形成されやすくなる問題がある。作業性、揮発性の問題などを加味すると、毎秒5mmの設定が最も好ましい。
【0039】
また、塗料等を塗工するためのバーコーター等は、毎秒150mmなどの高速で被塗工物を移動させて塗工するものであり、塗料等のように粘度が低いものではこの速度で塗工しても、ストライプ模様は時間と共に解消するが、本発明においては、化粧料であるから、毎秒150mm等の高速で塗工する必要がなく、しかも化粧料はより粘度が高く、さらに、高速での塗工は揚力がかかりやすく平滑な塗工が難しいことから、極低速での塗工が必要であり、さらに、塗り拡げ装置を基板に対して移動させる方法であり、塗料等における平滑な塗膜を形成させる条件とは、その原理においても全く異なる。尚、本発明で言う平滑な塗膜とは、表面に凹凸がないだけでなく、膜厚も一定な塗膜のことを指す。
【0040】
本発明で、塗り拡げ装置を用いて一定の速度で塗工するための手段としては、例えば非特許文献8にあるような低速での定速運動手段を有するリニアモーター、電動シリンダなどに、高度に平滑に加工された金属板あるいは柱(自重で変形したり、塗り拡げ部材の荷重により変形することを抑制するために、超々ジュラルミンなどの高強度、軽比重材料が好ましい)を支持部を介して水平に固定、または接続し、これに塗り拡げ部材の固定手段となるバーなどを設置し、ここに塗工するための基板や塗り拡げ部材を設置して塗工する手段が挙げられる。
この手段については、市販製品が存在していないため、特注または自作が必要となる。
尚、市販の塗料試験用の塗工試験器は一般に高速での塗工に適したモーターとギア比を用いており、低速度域での速度の安定性と精度が悪く、平滑な塗膜を形成する目的には適していない場合が多い。塗工試験機のカタログを見ると、一般に塗工速度の単位としてm/分の単位を用い、速度の調整も1m/分の単位であり、元々mm/分〜cm/分の単位で表わされる低速度はこれらの装置の概念にない領域である。特に、化粧料の場合、多様な粘度とチキソトロピー性、接着性があり、このような製剤を平滑に塗工する場合は、塗工手段には充分なトルクと速度安定性が求められる。また、塗料試験器は塗工器具を固定し、塗工面にしっかり圧着する構造を持つことが一般的である。しかしながら、例えば塗工器具の両端を固定した場合、塗工膜厚は中央部と端部で変化してしまい、平滑な塗膜が形成できない問題があり、塗工器具を塗工面に圧着する形態を持つ塗工試験器では、本発明の求める塗工精度が得られにくい問題がある。
【0041】
本発明で用いる基板4は、平滑であることが必要である。本発明で言う平滑とは、単位面積あたりの平均塗工量と標準偏差を測定した場合に、標準偏差/平均塗工量の値が0.15以下、好ましくは0.1以下であることを言う。ここで、凹凸があると、塗膜の膜厚が凹凸部分で変化していることになり、目標とする単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程において、得られる紫外線防御効果の測定値が不正確になる問題がある。例えばColipa(欧州化粧品工業会)法では凹凸のあるPMMA(ポリメタクリル酸メチル)製プレートを使用することになっているが、この凹凸は2μm程度とされている。基板との間隙が25μmの塗り拡げ部材を用いて塗工した試料の膜厚は10μm内外になるので、平均膜厚の数十%の変動をこの凹凸は与えることになる。高い紫外線防御効果を有する製品の場合、この変動幅が紫外線防御効果の測定値に与える影響は巨大であり、信頼性を失う原因となることから好ましくない。本発明で用いる基板4は、石英、合成石英、ポリメタクリル酸メチルなど290〜400nmの範囲の紫外線に対して透明性が確保されている材料を用いることが好ましく、塗り拡げ部材の自重による基板への沈み込みを考慮すると、硬質材料である石英、合成石英製の基板がより好ましい。
平均塗工量と標準偏差を求めるために、基板上の複数の点及び/または、複数の基板上に形成した塗膜を対象に塗工量の測定を行う。
【0042】
本発明では、塗り拡げ装置1を用いて、一定の速度にて基板上に平滑に塗工する際に、試料の置き方に特徴がある。粘度が低い化粧料の場合は、塗り拡げ装置の進行方向前面に充分な試料を置いても揚力による影響は少ないが、粘度が高い化粧料の場合は、塗り拡げ部材に揚力がかかりやすく、膜厚が変動しやすい問題がある。特に塗り拡げ装置の進行方向前面に大きな化粧料の塊があると、塗り拡げ部材は化粧料に乗り上げる形になり、膜厚が不均一になる原因となる。そのため、化粧料はヘラなどを用いて、事前に塗り拡げ装置の進行方向前面に薄く塗り広げてから、すばやく塗り拡げ装置を走らせて平滑な塗膜を形成することが好ましい。また、塗り拡げる量であるが、少なすぎると膜厚が不均一になる原因となる。目安としては、20〜30mg/cm2程度の量を塗り拡げておくことが好ましい。
【0043】
本発明で用いる塗り拡げ装置は、試料の通過路にあたる部位の寸法(塗り拡げ部材の長さではなく、塗り拡げ装置の進行方向における寸法、つまり図6における塗り拡げ部材先端部6の幅)において、最大値/最小値の値が2倍未満であることが好ましい。
【0044】
本発明の方法により、試料の単位面積あたりの塗工量を測定する場合は、図11に示すように、以下の方法に従うことが好ましい。但し、目的が達せられるのであれば、実施する順番は問わないし、一部工程を簡略化することも可能である。
A)化粧料に用いる揮発性成分が不〜難透過性であり、一定の大きさに切断されてなる樹脂フィルム7を用意する。
B)樹脂フィルム7の単位面積あたりの質量を求める。
C)切断されてなる樹脂フィルム7の質量を測定し、単位面積あたりの質量から、切断した樹脂フィルム7の面積を求める。
D)測定する基板4の質量を求める。
E)本発明の方法に従い、化粧料の試料5を塗工し、直後に切断したフィルムを試料5の表面に静置する。
F)樹脂フィルム7に覆われていない部位の試料を拭き取る。
G)樹脂フィルムと化粧料と基板からなる試料の質量を測定する。
H)上記の測定値から単位面積あたりの化粧料の質量を測定する。
【0045】
ここで言う化粧料に用いる揮発性成分が不〜難透過性の樹脂フィルムとしては、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート製のフィルムが好ましく、特に50〜100μm厚のポリエチレンテレフタレート製フィルムが好ましい。塗工直後に樹脂フィルムを試料に覆い被せることで、揮発性成分の揮発を抑制し、安定した測定値が得られる。もし揮発性成分が測定中に揮発すると、化粧料の濃度が変化し、それにつれて粘度が上昇する等の変動を生じるので、正確な塗工量が測定できず、測定までの時間に依存して、測定値が変化することになる結果、同じ試料の測定であっても、測定機関、測定者による測定値の変動の幅が大きくなる原因になる。
尚、測定全般に言えることであるが、本発明の場合、測定は0.1mgの単位まで正確に計測する。この際に、試料の静電気の影響を強く受けるため、除電装置を用いて、試料の除電を充分に行い、測定を行うことが好ましい。
【0046】
また、試料の膜厚を測定する場合では、非接触の光学式膜厚測定装置を用いることが可能である。
【0047】
次に、上記の平滑に塗工した試料の紫外線防御効果を測定する工程では、SPFアナライザーなどの市販の紫外線防御効果測定装置を用いることが好ましい。測定装置としては、(非特許文献5)のTable.1に記載の装置が例示される。
試料を測定する際に、測定部位としては、試料の塗工開始位置からなるべく遠い位置を測定することが好ましい。また、測定は290〜400nmの範囲を1nm単位で測定することが好ましい。
【0048】
次に、本発明のc)工程、d)工程のデータから、目標とする特定の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程について説明する。上記工程により、単位面積あたりの塗工量(もしくは膜厚)とその塗工量における波長別の紫外線防御効果が測定できている。しかしながら、試料により、その塗工量は変化し、同じではないため、そのままの計測値は相互の比較ができない。そのため、特定の単位面積あたりの塗工量を設定し、その値に合わせて、計算上で波長別の吸光度(または透過率)を求め、SPF値やUVA-PF(A波紫外線防御指数)値を求める必要がある。
特定の単位面積あたりの塗工量をMとし、試料の単位面積あたりの実測塗工量をNとすると、M/Nの値を波長別の吸光度に掛けることで、塗工量Mの時の紫外線防御効果曲線を計算により得、この曲線からSPF値やUVA-PF値を算出する。膜厚基準の場合は、目標とする膜厚を定め、同様の操作にて紫外線防御効果曲線を得、この曲線からSPF値やUVA-PF値を算出する。尚、吸光度ではなく、透過率を基準にして求めることも可能である。
【0049】
この段階では目標とする特定の単位面積あたりの塗工量が未知である。そこで、市販の製品を購入し、SPF値、PA分類と、上記の計算値との関係から、目標とする特定の単位面積あたりの塗工量がどの程度であると、市販製品の表示値に近くなるかを調べてみた。
日本製品としては、資生堂社、カネボウ化粧品社の製品を基準にすると、1.0mg/cm2の塗工量とすると表示値に近い測定値となる。一方、欧州ロレアル社の製品を基準にすると、0.75mg/cm2の塗工量とすると表示値に近い測定値となる。この際に、塗工量とSPF値、UVA-PF値のグラフを描き、近似式を求めることが好ましい。液状の化粧料の場合は、線形近似もしくは指数近似を用いることが好ましい。尚、この数値を算定するにあたり、SPF、UVA-PFの計算は、Optometrics社製SPF-290S付属のSPF V3.0ソフトウェアを用い、UVA-PFとしては、Erythermal UVA PFの値を用いたが、現在各地域で検討されている紫外線防御効果算出プログラムを用いることも可能である。
【0050】
試料が粉体化粧料の場合における測定方法について以下に示す。
粉体化粧料の測定はin vivo法においても難しく、測定値が大きくばらつく傾向を持っている。粉体化粧料は単独では塗ることが難しいため、日本の測定法基準(非特許文献26.4.2パウダー)においては、「塗布部位に試料を安定に載せるために、パウダーを塗布する前に精製水や紫外線吸収能を持たない溶媒を塗布してもよい」とされている。紫外線吸収能を持たない溶媒が試料に混合してきた場合、溶媒の揮発性により化粧品の紫外線防御効果が大きく影響を受け、揮発性の低い水などの溶媒を併用すると、紫外線防御効果測定値は低下し、揮発性の高い溶媒を使用し、かつ揮発させてから測定すると紫外線防御効果測定値は高くなる。
これは、紫外線吸収能を持たない溶媒の部分から紫外線が透過してしまうのが原因の1つであるが、この部分の測定法が定まっておらず、紫外線吸収能を持たない溶媒の種類及び量が定まっていない関係で、方法が統一されないことも問題である。そのため、基準とする市販製品自体の測定値に信頼性がない問題がある。当然、in vitro法においても同様の試料作製方法を用いれば、塗膜は不均一になり、試料の作成の仕方により、同じ試料であっても、得られる紫外線防御効果は大きく異なってしまう。これに対して、以下の方法によれば、粉体化粧料についても安定に、再現性よく測定が実施できる。すなわち、本方法で測定した測定値を製品に表示することで、消費者にとってより的確な商品選択の指標とすることが可能となる。
【0051】
本方法では、まず粉体化粧料と大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒とを、その質量比で、100:100〜100:50の範囲で混合したものを前述の方法に準じて塗工して単位面積あたりの塗工量を調べる。そして、揮発性溶媒との混合比から粉体化粧料のみの塗工量を計算し、送風下に30〜50℃の温度範囲で揮発性溶媒を除去した試料を作成して紫外線防御効果を測定し、粉体化粧料の紫外線防御効果を測定することを特徴としている。
まず、粉体化粧料に溶媒を混合することによって、塗り拡げ装置により平滑に塗工することが可能となる。仮に溶媒を混合せずに粉体の状態で塗工する場合には、平滑な塗工を行うことが極めて困難となる。さらに、大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒としたのは、240℃未満の揮発性溶媒を用いると、揮発性が高すぎて、計量時に数値が安定せず、正確な測定ができないためである。
大気圧下での沸点の異なる揮発性溶媒を各種試験したところ、沸点230℃のジメチルポリシロキサン(粘度2mm2/s)では測定値がやや安定しないのに対して、245℃の揮発性環状6量体ジメチルポリシロキサンでは測定値が安定していたことから、240℃以上の沸点を有する溶媒が好ましいということになる。
ただ、沸点が高すぎると乾燥工程で、添加した揮発性溶媒だけでなく、本来粉体化粧料に含まれている他の成分までが揮発してしまう場合があるので、具体的には、環状6量体ジメチルポリシロキサン(沸点245℃)、カプリリルメチコン(ダウコーニング社カタログhttp://www.dowcorning.co.jp/ja_JP/content/japan/japanproducts/Y517_Personal_Care_.pdf 3ページ では沸点100℃以上と記載されているが、揮発性から判断すると245℃以上の沸点を有する)を用いることが好ましく、特に環状6量体ジメチルポリシロキサンは揮発性と安定した測定が可能な点から特に好ましい。
本発明では、粉体化粧料と大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒とを、その質量比で、100:100〜100:50の範囲で混合したものを用いる。揮発性溶媒の割合が100:100を超えると、塗工時に塗工ムラができたり、固液分離が生じたりするため好ましくない。また、100:50を割ると、製剤によっては粘度が高くなり、塗工不良が生じる場合がある。
【0052】
本発明では、こうして得られた粉体化粧料と揮発性溶媒を混合して得られるスラリーを前述の方法に準じて塗工して単位面積あたりの塗工量を調べる。但し、前述の方法と異なるのは、実測値に、混合比をかけて得られる、粉体化粧料としての塗工量を用いる点である。また、紫外線防御効果測定用の試料は一度平滑に塗工した後、30〜50℃、より好ましくは40℃にて送風下に乾燥させることが好ましい。揮発性環状6量体ジメチルポリシロキサンと100:100混合の条件の場合、40℃ならばほぼ1時間で揮発性溶媒の揮発は完了する。
【0053】
これらの工程から得られたデータを元に、目標とする特定の単位面積あたりの塗工量での紫外線防御効果を測定する。尚、この際に、塗工量とSPF値、UVA-PF値のグラフを描き、近似式を求めることが好ましい。粉体化粧料の場合は、線形近似ではなく、指数近似を用いると相関性を示すR2乗値が1もしくは1に近い値を示すことから好ましい。
【0054】
上記、液状化粧料、粉体化粧料のいずれの測定においても、測定はそれぞれ2回以上実施し、もし数値が大きくずれた場合は再度試験し、エラーデータを排除する操作をすることが好ましい。特に塗膜表面にストライプ模様が入ったり、色のムラが観察される場合では、再度試験が必要である。
【0055】
本発明は、これらの方法を行うための装置であって、前記各工程を行う各装置からなり、紫外線防御効果を測定するための工程の一部、または全部を含み、紫外線防御効果を自動的に測定する装置とすることもできる。
【0056】
本発明は、上記の方法により得られた測定値または指標を表示した表示方法に適用できる。本方法は現在検討されているいずれの方法よりも高い精度と、測定者の個人差の排除、高い再現性を有する方法であり、今まで以上に精度の高い測定がより簡便に実施できることから、消費者に対して、より適切な紫外線対策指導が可能となるメリットがある。特に、現在日本で実施されているPA表示は最大がPA+++であり、これはUVA-PF値で言うと8以上に相当するが、欧州の製品はその倍のレベルを超えるものまで存在していること、PA+++は肌の黒化を抑制する筈なのに、実態としては黒化が起こることから、指標として説明されている内容と実際の性能が一致していない問題があり、これを的確に示すために、本方法の結果の表示方法は大変有効である。尚、表示物にされる表示方法は、本発明の測定値そのものでなくても、マーク、カテゴリ表記でも構わない。
【実施例】
【0057】
以下に実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(参考例)
特許文献3の0067段落〜0071段落に記載の塗り拡げ装置と同一機種を購入して調べたところ、1.5Mils(25μm)の部分で、両端と中央部の寸法を計測した結果、それぞれ1.09mm、0.60mm、0.53mmとなった。試料としてパラエルモサ社製有機系紫外線防御剤UVアブソリュート5 を5.0質量%、東レダウコーニング社製シリコーンゴムSE9140RTVに混合したものを用い、この塗り拡げ装置を用いて毎秒5mmの速度で、進行方向に並行な方向の1cmごとの塗工量を調べたところ、平均塗工量2.52mg/cm2に対して、標準偏差が0.205 mg/cm2(標準偏差/平均塗工量=0.081)であった。次に、進行方向に垂直な方向の1cmごとの塗工量を調べたところ、平均塗工量2.36mg/cm2に対して、標準偏差が0.174 mg/cm2(標準偏差/平均塗工量=0.074)であった。標準偏差/平均塗工量の値はそれほど大きくないものの、特定位置の塗膜の単位面積あたりの塗工量に変動が生じる傾向を有していた。
【0058】
そこで、試料の通過路にあたる部位の寸法が塗工量に影響を与える可能性を考慮して、塗り拡げ装置の進行方向前面の基板との角度を30゜に設定し、試料の通過路にあたる部位の寸法、つまり幅を1.00mm、2.00mm、3.00mmとし、間隙を30μmとした塗り拡げ装置を作製し、単位面積あたりの塗工量と、標準偏差、標準偏差/単位面積あたりの塗工量の値を調べたところ、表1に示すように、試料の通過路にあたる部位の寸法に依存して、単位面積あたりの塗工量が大きく変化していることが判った。この試験結果より、特許文献3の塗り拡げ装置は試料の通過路にあたる部位の寸法が大きく変動していたために、単位面積あたりの塗工量が部分的に変動して、特定の傾向を示すようになったこと、すなわち、塗膜が平滑から外れたことが判る。
【0059】
【表1】
【0060】
(実施例における塗工量の目安)
実施例においては、試料の塗工量を0.75mg/cm2もしくは1.0mg/cm2とした。これは上記のようにin vivo法による測定値に基づいて表示されている市販の化粧料の表示と、本発明に基づいて得られた測定値が類似した値を示すために必要な塗工量である。
【0061】
本発明では、平滑に塗工した試料の単位面積あたりの塗工量または、膜厚を測定するが、測定の部位は、試料の塗工開始位置から15mm以上離れていることが好ましく、さらに好ましくは20mm以上離れていることが好ましい。これは、塗工開始直後は塗り拡げ部材が不安定で、塗膜の厚さがやや厚くなるためである。これらの条件により、本方法では、一般的なサンスクリーン剤の場合で、単位面積あたりの塗工量基準で10%未満の変動幅に収まっている。
【0062】
1.実施例1(液状の化粧料の測定)
以下に具体的な測定例を示す。
(1)塗り拡げ装置を用いて、一定の速度にて基板上に平滑に塗工した試料の単位面積あたりの塗工量または、膜厚を測定する工程
塗り拡げ装置の進行方向と基板が形成する角度61.6°、間隙25μm、塗り拡げ部材の自重441.6g、試料の通過路にあたる部位の寸法3.34mm、塗り拡げ部材の横幅79.99mm、試料の通過路にあたる部位は基板と並行の属性を持つステンレス製塗り拡げ部材を用い、市販の化粧料(カネボウ化粧品社製、表示SPF50+ PA+++ 2010年度製品 W/O型サンスクリーン剤)の測定を実施した。基板としては平滑な石英板を用いた。塗工速度は毎秒5mmで実施した。
石英板と、5cm×5cmの大きさに切断した100μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの質量を0.1mgの単位まで正確に測定した。測定に際しては静電気除去装置を用いて、静電気を充分に除去した。石英板に塗り拡げ装置を置き、その前面全体に化粧料を塗り伸ばした。上記条件で塗り拡げ装置を移動させた直後に、塗工開始部位から20mm程度離れた部位から70mm付近にかけて上記PETフィルムを静置した。PETフィルムに触らないようにフィルム周囲の化粧料をティッシュペーパーと綿棒を用いて除去した。ついで、静電気を充分に除去し、石英板と化粧料とPETフィルムからなる試料の質量を0.1mgの単位まで正確に測定した。このPETフィルムの質量測定の結果から、その正確な面積は25.0cm2であり、PETフィルムと石英板に挟まれた化粧料の質量は42.3mgであることが判ったので、単位面積あたりの塗工量は1.69 mg/cm2であることが判った。この操作を繰り返し、測定値に再現性があることを確認した。
【0063】
(2)上記平滑に塗工した試料の紫外線防御効果を測定する工程
石英板に上記と同一の方法にて化粧料塗膜を形成させ、その紫外線防御効果を、Optometrics社製紫外線防御効果測定器SPF-290Sを用いて、波長290〜400nmの範囲の紫外線の透過率を1nmごとに計測した。同装置付属のコンピューターソフトウェアであるSPF V3.0を用いて算出した時のSPF値は199.68 標準偏差7.84、Erythermal UVA-PF値は33.1 標準偏差1.3であった。この標準偏差の値及び、測定値に対する標準偏差の割合は通常のin vitro測定法により得られる値と比べて小さな値であった。尚、紫外線防御効果の測定位置は、塗工開始位置から6cm離れた部位にて実施した。測定は2回実施し、再現性があることを確認した。
【0064】
(3)上記(1)工程、(2)工程のデータから、目標とする単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程
上記(2)の工程から、試験した化粧料の単位面積あたりの塗工量が1.69mg/cm2の時の透過率曲線が求まった。求めたい単位面積あたりの塗工量を例えば1.00mg/cm2とすると、1.00÷1.69=0.592倍塗工量が異なっていることが判る。透過率を吸光度に換算し、各波長別の吸光度に0.592倍をかけると、単位面積あたりの塗工量が1.69mg/cm2の時のデータから同塗工量が1.00 mg/cm2の時の吸光度曲線が予測できる。この吸光度曲線は、ソフトウェアであるマイクロソフトエクセルを用いてプログラム化したものを用いた。そして、この吸光度データを用いて、上記ソフトウェアにて求めたSPF値は67.0であり、Erythermal UVA-PF値は13.67であった。同様にして0.75mg/cm2の吸光度曲線と1.50及び0.75mg/cm2時の吸光度曲線を求め、それぞれのSPF値、UVA-PF値をグラフにしたものを図1に示す。例えば図1のデータから線形近似にてSPF、UVA-PFの近似曲線を求める場合、単位面積あたりの塗工量をXとすると、SPF値については、SPF値=209.08X−134、UVA-PF値については、UVA-PF値=31.307X−16.439となり、それぞれのR2乗値(寄与率)は0.9931と0.9906となった。この近似式から塗工量とSPF値、UVA-PF値の関係が求まった。尚、近似式を用いる場合は、求めたい単位面積あたりの塗工量前後のデータがプロットされている図から近似式を求めることが好ましい。これは直線性が確保できる単位面積あたりの塗工量の範囲が限られているためである。
【0065】
尚、本方法では、単位面積あたりの塗工量から目標とする塗工量を計算で求めている。理論上はこれで問題ないが、実際に単位面積あたりの塗工量と吸光度の間に直線性があるかどうかを、間隙が異なる塗り拡げ部材を作成して単位面積あたりの塗工量が異なる試料を用意し、確認したところ、良好な直線関係が得られたので、実際の試験においても理論式が適用できていることが確認された。
また、同じ試料を用いて、新たに塗工を行った場合も、ほぼ同様の数字を示したことから、試験の再現性も確保されていることが判った。
【0066】
2.実施例2(市販製品の測定結果)
市販のサンスクリーン剤を用いて試験を行った結果を表2、表3に示す。
ここで、PA分類とUVA-PFとの関係は、PA+がUVA-PF値で2〜4、PA++がUVA-PF値で4〜8、PA+++がUVA-PF値で8以上に相当する。また、SPF50+とはSPF値が51以上あることを示す。表2、表3において換算前とは、単位面積あたりの塗工量を塗工した時のSPFとErythermal UVA-PF値及びその標準偏差を示している。表2において換算後は、1mg/cm2塗工したとした場合の計算上算出されたSPF値、Erythermal UVA-PF値である。また、表3において換算後は、0.75 mg/cm2及び1mg/cm2塗工したとした場合の計算上算出されたSPF値、Erythermal UVA-PF値を示した。
表2の結果から、本発明の方法を用いた場合、安定した測定値が得られていることが判る。表3の結果からはやや標準偏差が大きくなっているが、センサーの感度ぎりぎりの領域を使用していることによるものであり、吸光度曲線はほぼ同じ曲線を描いていることから、本発明の方法を用いた場合、安定した測定値が得られていると言える。さらに、欧州製品の場合、0.75 mg/cm2塗工したと考えた場合の方が、より表示値に近い結果が得られることが判る。また、換算前の標準偏差/SPF値、換算前の標準偏差/UVA-PF値の値も大変小さく、平滑な塗膜が安定的に得られていることが判る。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
3.実施例3(粉体化粧料の測定)
以下に具体的な測定例を示す。
(1)断面が円または楕円ではない塗り拡げ部材を用いて、一定の速度にて基板上に平滑に塗工した試料の単位面積あたりの塗工量または、膜厚を測定する工程
実施例1において、化粧料の測定で用いたものと同じステンレス製塗り拡げ部材を用い、市販の粉体化粧料(カネボウ化粧品社製、表示SPF20 PA++ 2010年度製品、パウダーファンデーション)の測定を実施した。基板としては平滑な石英板を用いた。塗工速度は毎秒5mmで実施した。石英板と、5cm×5cmの大きさに切断した100μm厚のPETフィルムの質量を0.1mgの単位まで正確に測定した。測定に際しては静電気除去装置を用いて、静電気を充分に除去した。粉体化粧料と揮発性環状6量体ジメチルポリシロキサン(沸点245℃)を1:1の質量比にてヘラを用いて手で混合したものを試料とした。石英板に塗り拡げ装置を置き、その前面全体に試料を塗り伸ばした。上記条件で塗り拡げ装置を移動させた直後に、塗工開始部位から20mm程度離れた部位から70mm付近にかけて上記PETフィルムを静置した。PETフィルムに触らないようにフィルム周囲の化粧料をティッシュペーパーと綿棒を用いて除去した。ついで、静電気を充分に除去し、石英板と化粧料とPETフィルムからなる試料の質量を0.1mgの単位まで正確に測定した。このPETフィルムの質量測定の結果から、その正確な面積は24.5cm2であり、PETフィルムと石英板に挟まれた化粧料の質量は48.7mgであることが判ったので、単位面積あたりの塗工量は1.99mg/cm2であることが判った。揮発性溶媒と1:1の質量比で混合していることから、粉体化粧料のみの単位面積あたりの塗工量は半分の1.00 mg/cm2となる。尚、これらの作業は26.2℃の室温下で実施した。
【0070】
(2)上記平滑に塗工した試料の紫外線防御効果を測定する工程
石英板に上記と同一の方法にて粉体化粧料の塗膜を形成させ、40℃の送風乾燥機中に保管し、10分ごとに質量変化を調べた。その結果、1時間で質量は安定し、揮発性溶媒が除去されたことが判ったので、この試料を用いて、液状の化粧料の測定と同様にして紫外線防御効果を測定した。その結果、SPF値は63.37 標準偏差4.35、Erythermal UVA-PF値は49.72 標準偏差3.16であった。この標準偏差の値及び、測定値に対する標準偏差の割合は通常のin vitro測定法により得られる値と比べて小さな値であった。
【0071】
(3)上記(1)工程、(2)工程のデータから、目標とする単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程
上記b)の工程から、試験した化粧料の単位面積あたりの塗工量が1.00mg/cm2の時の透過率曲線が求まった。同様にして0.50、0.75、1.00mg/cm2の時の透過率曲線を求め、それぞれのSPF値、UVA-PF値をグラフにしたものを図2に示す。図2のデータから指数近似にてSPF、UVA-PFの近似曲線を求めると、単位面積あたりの塗工量をXとすると、SPF値については、SPF値=1.0048e4.1441X、UVA-PF値については、UVA-PF値=1.0144e3.8926Xとなり、それぞれのR2乗値(寄与率)は1.0となった。この近似式から塗工量とSPF値、UVA-PF値の関係が求まった。
また、本測定は各工程においても、また最終の結果においても再現性があることが確認された。
【0072】
4.実施例4(他の粉体化粧料の測定)
同様の方法を用いて、カネボウ化粧品社製粉体化粧料(パウダーファンデーション、2010年度製品)について試験を行った。
表4にその結果を示す。近似曲線を求めて、各表示値との関係を求めた結果、SPF値は塗工量0.75mg/cm2を基準とし、Erythermal UVA-PF値は0.50mg/cm2を基準として示すと表示値に比較的近い値になることが判った。表4の結果から、本発明の方法を用いた場合、従来できないとされた粉体化粧料のin vitro測定が安定して実施できていることが判る。また、換算前の標準偏差/SPF値、換算前の標準偏差/UVA-PF値の値も大変小さく、粉体化粧料においても、平滑な塗膜が安定的に得られていることが判る。
【0073】
【表4】
【0074】
また、カネボウ化粧品以外のメーカーの粉体化粧料についても測定を行ったが、測定は再現性よく実施できるものの、表示値と測定値の乖離が大きく、カネボウ化粧品のように比較的安定な測定値にならなかった。これはin vivo法における測定手順の問題が関係していることが予想される。
【0075】
5.比較例1
粉体化粧料と揮発性環状6量体ジメチルポリシロキサンの組み合わせの代わりに、各種の揮発性溶媒を用いて、単位面積当たりの塗工量を試験した場合
結果を表5に示す。試験方法は上記の粉体化粧料の方法に準じ、粉体化粧料と揮発性溶媒の混合質量比率は1:1にて実施した。尚、試験は26.1℃の条件にて実施した。表5にあるように、大気圧下での沸点が230℃以下の揮発性溶媒は、樹脂フィルムをかぶせても揮発性溶媒の揮発が抑制できず、経時で測定値が変動するために、塗工量を正確に測ることができないことが判る。
【0076】
【表5】
【0077】
6.実施例5(SPF値、UVA-PF値(PA分類)が未知の製剤の測定と表示物)
以上では、既に測定値を表示された市販製品の分析方法を示してきた。以下では、未知の試料についての測定、表示例を示す。
パラエルモサ社製有機系紫外線防御剤UVアブソリュート5を7.5質量%配合したリクイドファンデーションを作製し、欧州製品に準じ、単位面積あたりの塗工量が0.75mg/cm2の場合のSPF値とUVA-PF値(PA分類)を求めた。顔料などの配合比率は剤型が異なっても一緒とした。結果を表6に示す。表6の結果から、製品の表示値が求められ、表示物を作製した。
【0078】
【表6】
【0079】
表6の結果から、O/W(水中油型製剤、水分量40%)剤型は油性剤型と比べてSPF値、UVA-PF値共に大幅に低下した。従来は、前述したように、測定値自体が不正確なものであり、測定値の変動が大きかったために剤型による影響が正確には把握できなかった。本方法では正確な紫外線防御効果が測定できるため、水中油型製剤の水相の影響に起因する紫外線防御効果の劣化の程度が数字の形で定量的に明確に示された。このことから、本発明の方法は、測定値を得るだけでなく、紫外線防御効果に注目した従来の剤型の見直し、製造技術の改良が正確に行えるツールになることが予想される。
【0080】
7.比較例2(試料作製方法による影響)
現在標準的に用いられているヒトの指で塗工した場合にどの位の変動が生じるのかについて検討を行った結果を表7に示す。試料はパラエルモサ社製紫外線防御剤UVカクテルJP-6 を15.0質量%配合したクリームを用い、塗工量は2mg/cm2になるように塗工した。 メーカーの標準測定方法である、石英板にトランスポアテープを貼り、そこに丁寧に試料を塗りつける方法で作成したものでは、表面に多数のストライプ模様が形成されていた。トランスポアテープを密着させずに測定した場合でも、かなり異なる数値となっている。石英板に指で直接塗布した場合では、指の動かし方によって測定値が大きく異なっていることが判る。ストライプ模様が形成されないように、石英板2枚で試料を挟み込み測定した場合では、大変大きな測定値を示すことが判る。このように全て2mg/cm2の塗工量には準拠していても、試料の作成の仕方が異なるだけで、数字上はこのように大きな変化が生じてしまう。熟練者であれば何かの数値付近にみかけ上の測定値は落ち着いてくると思われるが、その数字は試料の紫外線防御効果を正しく反映したものとは言えず、意味をなさないことが下記試験結果から判る。
【0081】
【表7】
【0082】
なお、表7の挟み込みによる測定方法は、本発明が目指した平滑な塗膜と同様の塗膜を形成することができうる方法である。しかしながら、この方法は、化粧品の剤型により使用できない、または数字が大きく変動する場合があるため、汎用的には使用できない。具体的には、空気を多く含む製剤の場合、挟み込みにより、薄膜化していく過程で、空気による穴が塗膜に形成され、そこから紫外線が透過する問題が発生する。また、相分離を起こしやすい化粧料においては、薄膜化の過程で成分の分離や凝集が生じて、実態以上に性能が悪く表示される場合がある。従って、製剤によっては表7のようなデータを与えるが、再現性がとれない場合もあることに注意が必要である。
【0083】
8.比較例3(円筒型金属製塗り拡げ部材を用いた場合のSPF値への影響)
アプリケーターとしてベーカー型アプリケーターを用い、間隙設定を0とした。試料としてパラエルモサ社製有機系紫外線防御剤UVカクテルJP-6 を15.0質量%、東レダウコーニング社製シリコーンゴムSE9140RTV(紫外線透明性1液式シリコーンRTVゴム)に混合したものを用いた。紫外線透過性のポリプロピレンフィルムを用い、このフィルムの上に試料を2mg/cm2になるように、アプリケーターの荷重を変化させて塗工した。尚、2mg/cm2の塗工量はin vivo法によるSPF測定基準で用いられている量に相当する。この試料を用いて、Optometrics社製SPF290S型測定器を用いてSPF値を測定した結果を表8に示す。また、ストライプ模様の周期は光学顕微鏡観察によるものである。表8の結果から、同じ2mg/cm2の塗工量であっても、得られるSPF値は大きく異なっていることが判る。この試料の場合は、毎秒5mmの塗工速度であってもストライプ模様が形成されていた。ストライプ模様の例を図3に示す。一般に塗工速度が遅いとストライプの溝は深く、塗工速度が速いとストライプの溝は浅くなり、この溝の部分から紫外線が透過するため、本試料のような高い紫外線防御効果を示すサンプルを用いた場合では、その影響はSPF値に大きく影響する。そのため、ストライプ模様が生じない塗工をする必要がある。
【0084】
【表8】
【0085】
9.比較例4(ワイヤーコーター)
塗料の塗工試験では、ワイヤーコーターと言われる金属棒に針金を緻密に巻いた塗工器が多用される。そこで、ワイヤーコーター(No.5)を用い、試料として2種類の資生堂社製サンスクリーン剤(表示SPF50+、PA+++)を用い、それぞれ毎秒5mmの塗工速度で塗工し、紫外線防御効果を調べた。その結果、1点については測定値の変動幅は小さかったものの、もう1点については、塗膜が不均一になり、測定値も大きくばらついた。ワイヤーコーターについては製剤によっては利用可能であるが、高粘度製品ではワイヤーコーター由来の筋が残っていることが観察されることから、汎用的に利用できる器具ではないことが判った。
【0086】
10.実施例6、比較例5(塗り拡げ装置の進行方法の角度の影響)
塗り拡げ装置の進行方向で、試料と接する面の延長線が塗工する基板となす角度を10、20、25、30゜に設定し、試料の通過路にあたる部位の寸法を3mmに固定し、毎秒5mmの速度で塗工した場合の単位面積あたりの塗工量と標準偏差、及び標準偏差/塗工量の値を求めた。試料はパラエルモサ社製UVアブソリュート5 を5.0質量%、東レダウコーニング社製シリコーンゴムSE9140RTVに混合したものを用いた。塗工は紫外線透過性のポリプロピレンフィルムに対して実施した。結果を表9に示す。角度が10〜25゜の範囲においては、いずれの標準偏差/塗工量の値も0.1以上になっており、変動が大きいことが判る。これより角度が小さいと塗り拡げ部材にかかる揚力が大きくなり、塗り拡げ部材の上下動が生じることが判る。また、角度が30゜の場合では、標準偏差/単位面積あたりの塗工量の値は0.06と小さい値を示しており、揚力の影響が少なくなっていることが判る。
【0087】
【表9】
【0088】
11.実施例7、比較例6(塗り拡げ部材の間隙による影響)
塗り拡げ部材の間隙を12.5μm、20μm、25μmに設定し、試料の通過路にあたる部位の寸法を3.34mmに固定し、毎秒5mmの速度で塗工した場合の単位面積あたりの塗工量と標準偏差、及び標準偏差/単位面積あたりの塗工量の値を求めた。試料はパラエルモサ社製有機系紫外線防御剤UVアブソリュート5 を5.0質量%、東レダウコーニング社製シリコーンゴムSE9140RTVに混合したものを用いた。塗工は紫外線透過性のポリプロピレンフィルムに対して実施した。結果を表10に示す。間隙が12.5μmの場合では、標準偏差/単位面積あたりの塗工量の値がやや大きめである以外に、複数の塗工において、同じ位置に塗膜の薄い部分が形成されたことから、間隙が一定でないことが疑われる。塗り拡げ装置のメーカーも12.5μmで精度をだすことはかなり難しいと言っていることから、加工精度が上がって、安定的に高精度の塗り拡げ装置が作成できるようにならないと、12.5μm間隙の塗り拡げ装置は利用しにくい。一方、間隙が20μm、25μmの場合では、安定した塗工が実施できた。この結果から間隙は20〜25μmの範囲に設定するのが好ましいことが判る。
【0089】
【表10】
【0090】
12.比較例7(基板の凹凸がストライプ模様に与える影響)
上記の各試験は平滑な基板に対して実施されているが、凹凸のある基板に対して実施した場合にストライプ模様が形成されるのか否かを試験した。凹凸のある基板としては、Colipa法に準拠したポリメタクリル酸メチル製プレート(凹凸の大きさは2μm)を使用した。試料はパラエルモサ社製有機系紫外線防御剤UVアブソリュート5 を5.0質量%、東レダウコーニング社製シリコーンゴムSE9140RTVに混合したものを用い、指にサックをつけて2mg/cm2になるように塗工した。結果を図4に示す。図4は塗膜表面の光学顕微鏡像であるが、ストライプ模様が観察されている。このことから、基板に凹凸があってもストライプ模様は形成され、問題の解決にはなっていないことが判る。
【符号の説明】
【0091】
1・・・塗り拡げ装置
2・・・塗り拡げ部材
3・・・支持部
4・・・基板
5・・・化粧料
6・・・塗り拡げ部材先端
7・・・樹脂フィルム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記a)〜d)の工程を有する、液状化粧料の紫外線防御効果を測定する方法。
a)基板とのなす角度が30°以上である塗り拡げ部材を、基板上で一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
b)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。
c)上記a)工程により得られた別の液状化粧料層の紫外線防御効果を測定する工程。
d)上記b)工程及びc)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【請求項2】
下記e) 〜i)の工程を有する、粉体化粧料の紫外線防御効果を測定する方法。
e)粉体化粧料と大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒とを、その質量比で、100:100〜100:50の範囲で混合してなる組成物を試料として得る工程。
f) 基板とのなす角度が30°以上である塗り拡げ部材を、基板上で一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
g)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。
h)上記f)工程により得られた別の該組成物層を乾燥し、その乾燥後の該組成物層の紫外線防御効果を測定する工程。
i)上記g)工程及びh)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【請求項3】
大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒は、環状6量体ジメチルポリシロキサン、カプリリルメチコンから選ばれることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
一定の速度が毎秒1〜10mmの範囲の速度であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
一定の速度が毎秒1〜5mmの範囲の速度であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
塗り拡げ部材先端と基板との間の隙間の高さが20〜25μmの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
基板が、表面が平滑で、290〜400nmの範囲の紫外線を透過する性質を有する材料から選ばれることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
基板が、石英板またはポリメタクリル酸メチル板から選ばれることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
基板に試料を塗工する際に、事前に試料を基板上に薄く広げてから、塗り拡げ装置にて平滑に塗工する手順を経るものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
塗工量または、膜厚を測定する部位は、試料の塗工開始位置から15mm以上離れていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
塗工量または、膜厚を測定する部位は、試料の塗工開始位置から20mm以上離れていることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
平滑に塗工した液状化粧料の単位面積あたりの塗工量の算出方法が、以下の方法に従うものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
A)液状化粧料に用いる揮発性成分が不透過性または難透過性である樹脂フィルムを用意。
B)該樹脂フィルムの質量を測定し、また、樹脂フィルムの面積を求める。
C)液状化粧料からなる層を形成する基板の質量を求める。
D)形成された平滑な液状化粧料層が乾燥する前に、該樹脂フィルムを該液状化粧料層表面の一部に静置する。
E)該樹脂フィルムに覆われていない部位の液状化粧料層を除去する。
F)該樹脂フィルムと液状化粧料層と基板からなる試料の質量を測定する。
G)上記の測定値から単位面積あたりの化粧料の質量を測定する。
【請求項13】
平滑に塗工した粉体化粧料の単位面積あたりの塗工量の算出方法が、以下の方法に従うものであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
A)粉体化粧料に混合される沸点が240℃以上の揮発性溶媒が不透過性である樹脂フィルムを用意。
B)該樹脂フィルムの質量を測定し、また、樹脂フィルムの面積を求める。
C)該組成物からなる層を形成する基板の質量を求める。
D)形成された平滑な該組成物層が乾燥する前に、該樹脂フィルムを該組成物層表面の一部に静置する。
E)該樹脂フィルムに覆われていない部位の該組成物層を除去する。
F)該樹脂フィルムと該組成物層と基板からなる試料の質量を測定する。
G)上記の測定値から、単位面積あたりの該組成物層の質量を測定する。
H) 該組成物中の粉体化粧料の含有割合を考慮して、該組成物層中の粉体化粧料の質量を求める。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果に基づき、目的とする紫外線防御効果を得るために必要な単位面積あたりの塗工量を求める方法。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の方法を行うための装置であって、前記各工程を行う各装置からなり、紫外線防御効果を測定するための工程の一部、または全部を含み、紫外線防御効果を自動的に測定する装置。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の方法、又はそれらの方法を示す表示を容器に示す方法。
【請求項1】
下記a)〜d)の工程を有する、液状化粧料の紫外線防御効果を測定する方法。
a)基板とのなす角度が30°以上である塗り拡げ部材を、基板上で一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
b)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。
c)上記a)工程により得られた別の液状化粧料層の紫外線防御効果を測定する工程。
d)上記b)工程及びc)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【請求項2】
下記e) 〜i)の工程を有する、粉体化粧料の紫外線防御効果を測定する方法。
e)粉体化粧料と大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒とを、その質量比で、100:100〜100:50の範囲で混合してなる組成物を試料として得る工程。
f) 基板とのなす角度が30°以上である塗り拡げ部材を、基板上で一定の速度にて移動させて、基板上に平滑な液状化粧料層を塗工・形成する工程。
g)形成された該層が乾燥しない状態で、該基板の一部と単位面積あたりの塗工量または、該層の厚さを測定する工程。
h)上記f)工程により得られた別の該組成物層を乾燥し、その乾燥後の該組成物層の紫外線防御効果を測定する工程。
i)上記g)工程及びh)工程の測定により得られたデータから、任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果を計算により算出する工程。
【請求項3】
大気圧下での沸点が240℃以上の揮発性溶媒は、環状6量体ジメチルポリシロキサン、カプリリルメチコンから選ばれることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
一定の速度が毎秒1〜10mmの範囲の速度であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
一定の速度が毎秒1〜5mmの範囲の速度であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
塗り拡げ部材先端と基板との間の隙間の高さが20〜25μmの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
基板が、表面が平滑で、290〜400nmの範囲の紫外線を透過する性質を有する材料から選ばれることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
基板が、石英板またはポリメタクリル酸メチル板から選ばれることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
基板に試料を塗工する際に、事前に試料を基板上に薄く広げてから、塗り拡げ装置にて平滑に塗工する手順を経るものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
塗工量または、膜厚を測定する部位は、試料の塗工開始位置から15mm以上離れていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
塗工量または、膜厚を測定する部位は、試料の塗工開始位置から20mm以上離れていることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
平滑に塗工した液状化粧料の単位面積あたりの塗工量の算出方法が、以下の方法に従うものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
A)液状化粧料に用いる揮発性成分が不透過性または難透過性である樹脂フィルムを用意。
B)該樹脂フィルムの質量を測定し、また、樹脂フィルムの面積を求める。
C)液状化粧料からなる層を形成する基板の質量を求める。
D)形成された平滑な液状化粧料層が乾燥する前に、該樹脂フィルムを該液状化粧料層表面の一部に静置する。
E)該樹脂フィルムに覆われていない部位の液状化粧料層を除去する。
F)該樹脂フィルムと液状化粧料層と基板からなる試料の質量を測定する。
G)上記の測定値から単位面積あたりの化粧料の質量を測定する。
【請求項13】
平滑に塗工した粉体化粧料の単位面積あたりの塗工量の算出方法が、以下の方法に従うものであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
A)粉体化粧料に混合される沸点が240℃以上の揮発性溶媒が不透過性である樹脂フィルムを用意。
B)該樹脂フィルムの質量を測定し、また、樹脂フィルムの面積を求める。
C)該組成物からなる層を形成する基板の質量を求める。
D)形成された平滑な該組成物層が乾燥する前に、該樹脂フィルムを該組成物層表面の一部に静置する。
E)該樹脂フィルムに覆われていない部位の該組成物層を除去する。
F)該樹脂フィルムと該組成物層と基板からなる試料の質量を測定する。
G)上記の測定値から、単位面積あたりの該組成物層の質量を測定する。
H) 該組成物中の粉体化粧料の含有割合を考慮して、該組成物層中の粉体化粧料の質量を求める。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の任意の単位面積あたりの塗工量における紫外線防御効果に基づき、目的とする紫外線防御効果を得るために必要な単位面積あたりの塗工量を求める方法。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の方法を行うための装置であって、前記各工程を行う各装置からなり、紫外線防御効果を測定するための工程の一部、または全部を含み、紫外線防御効果を自動的に測定する装置。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の方法、又はそれらの方法を示す表示を容器に示す方法。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−63180(P2012−63180A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206174(P2010−206174)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
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