説明

化粧材

【課題】アクリル板やメラミン板等の透光層を布帛表面に積層して成る化粧材において、透光層の表面において外部映像が二重写しに反射することなく、樹脂に表面繊維が被覆されてない布帛固有の美観を、透光層の表側に表現する。
【解決手段】布帛11に密着した接着層14と、その接着層14の上に積層されて接着層14を平坦にする平滑面19の形成されている平滑層13とによって透光層12を構成する。接着層14との密着面に露出して隣り合う布帛11の少なくとも一部の表面繊維17と表面繊維17との表面繊維間隙間18において、布帛内部に介在する空気に接着層14を接触させる。布帛表面の凹凸に沿って布帛表面に接触して布帛表面の凹凸に沿った凹凸を有する接触層16と、その接触層16の凹凸に沿って接触層16に接触して接触層16の凹凸に沿った凹凸を有する媒介層15とによって接着層14を構成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性素材による透光層を布帛に積層し、布帛特有の美観を透光層の表側から観賞し得る化粧材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
布帛の美観を透視するために、JIS−K−7361(1)に規定される全光線透過率が10%以上であり、JIS−K−5600(5−4)に規定される表面硬度がH以上で硬く透明なガラス板、アクリル板、メラミン板等の厚みが一定の透光性厚板(以下、透光性均厚板と言う。)を布帛の上に載せることは日常よく行われる。
【0003】
座卓テーブル等の装飾のために行われるこの種の手法は実用的ではあるが、布帛と透光性均厚板との一体感はなく、透光性均厚板を載せただけと言うことが一見して分かる。
そのように感じられるのは、透明均厚板の表面と裏面がそれぞれ平滑であり、その透明均厚板の上に載せた物体からの入射光が表裏各面で反射し、その反射光によって物体が二重写しになって見え、そのように二重写しになって見えることは日常経験的に知られており、又、その透明均厚板の下に敷かれているものがテーブルクロス等として日常使用されていて手に取ることの出来る布帛であり、それらを簡単に動かすことが出来ると思われることに起因するものと思われる。
【0004】
透光性均厚板21を布帛11に接着層14を介して貼り合わせると言うことも、日常よく行われるところである(例えば、特許文献1参照)。
その貼り合わせに透明な接着剤が使用されるとしても、その接着剤は布帛を構成している糸条23aと糸条23bの間の凹部25のみならず布帛の表面繊維17と表面繊維17の間の繊維間隙間18まで含浸し、その接着剤の樹脂成分の屈折率が、空気の屈折率よりも高いことから、布帛が水に濡れたかの如く濃い濡れ色に見え、色相と質感において布帛固有の美観は看取されない。
【0005】
布帛が水に濡れたかの如く濃い濡れ色を呈しないようにするために、布帛に撥水撥油処理を施して、接着層14の樹脂成分が表面繊維17と表面繊維17の間の繊維間隙間18にまで入り込まないようにすることも考えられたが、その撥水撥油処理によって布帛が濃色化され、又、その使用する撥水剤によって接着性が損なわれることにもなるので、その撥水撥油処理による方法は、現実的には採用し難い。
【0006】
樹脂成分を表面繊維17と表面繊維17の間の繊維間隙間18に入り込ませることなく接着層14を布帛11に塗布する方法として、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱溶融性樹脂の加熱溶融物をTダイ押出機から布帛11へとシート状に押し出すことは公知である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−198999号公報
【特許文献2】特開昭60−078732号公報(特公平4−3294号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Tダイ押出機による場合、その熱溶融性樹脂の融点が、ガラスは素よりメラミン樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に比して著しく低く軟弱であり、又、熱溶融性樹脂が白濁した乳白色なことから、布帛11の美観が接着層14に遮られる。
又、Tダイ押出機による場合、シート状に押し出された熱溶融性樹脂を布帛に密着させるためにエンボスロールに通されることになるが、そのとき布帛11の凹凸24・25が押し潰されることになり、布帛11の美観が損なわれる。
そして、布帛11が熱収縮したり熱溶融するので、Tダイ押出機からシート状に押し出された熱溶融性樹脂によって厚い透光層12を積層することも出来ない。
【0009】
本発明者は、布帛に透光性均厚板を積層するとき、その透光性均厚板の表面が平滑であっても、その布帛との接触面である裏面が布帛に密着した凹凸面であれば、その透光性均厚板の上に載せた物体からの入射光が透光性均厚板の表面で反射して目に映るが、その裏面である凹凸面では乱反射して目に映り難く、従って、その載せた物体が透光性均厚板の表面で二重写しにはなり難くなると考えた。
【0010】
その裏面での凹凸が布帛の表面繊維17と表面繊維17の間の繊維間隙間18にまで入り込まず、布帛の表面繊維17が空気に触れた状態であれば、透光性均厚板の組成分によって布帛が水に濡れたかの如く濃い濡れ色を呈することはなく、布帛が透光性均厚板の組成分に包み込まれるように透光性均厚板に埋没して一体感を呈し、透光性均厚板を透過して布帛固有の美観を看取し得るものと考えた。
【0011】
本発明は、かかる知見を基に完成されたものであり、アクリル板やメラミン板等の透光層を布帛表面に積層して成り、その透光層の表面において外部映像が二重写しに反射することなく、樹脂に表面繊維が被覆されてない布帛固有の美観を、透光層の表側で観賞することの出来る化粧材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る化粧材は、(a) 布帛表面に透光性素材による透光層12を積層して構成された化粧材20において、(b) 透光層12が、布帛11に密着した接着層14と、その接着層14の上に積層されて接着層14を平坦にする平滑面19の形成されている平滑層13とによって構成されており、(c) 接着層14の布帛11との密着面が、布帛表面に露出して隣り合う少なくとも一部の表面繊維17と表面繊維17との表面繊維間隙間18において、その布帛内部に介在する空気に接触していることを第1の特徴とする。
【0013】
本発明に係る化粧材の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、(a) 透光性素材によって構成された厚みが一定の透光性均厚板21が、直接またはプライマー接着剤22を介して、平滑層13の上に積層されて透光層12の一部を構成しており、(b) その透光性均厚板21の表面が、化粧材20の平滑面19を構成している点にある。
【0014】
本発明に係る化粧材の第3の特徴は、上記第1と第2の何れかの特徴に加えて、(a) 接着層14が、(a1) 布帛表面の凹凸に沿って布帛表面に接触し、布帛表面の凹凸に沿った凹凸を有する接触層16と、(a2) その接触層16の凹凸に沿って接触層16に接触し、接触層16の凹凸に沿った凹凸を有する媒介層15とによって構成されており、(b) その媒介層15の上に積層された平滑層13によって、媒介層15の凹凸が平坦にされており、(c) 接触層16が、布帛表面の表面繊維17と表面繊維17の間の表面繊維間隙間18において、布帛内部に介在する空気に接触している点にある。
【0015】
本発明に係る化粧材の第4の特徴は、上記第3の特徴に加えて、媒介層15の厚み(t)が布帛11の厚み(T)以下(好ましくは20μm以下)である点にある。
【0016】
本発明に係る化粧材の第5の特徴は、上記第3と第4の何れかの特徴に加えて、接触層16が、熱流動性樹脂または熱硬化性樹脂によって構成されている点にある。
【0017】
本発明に係る化粧材の第6の特徴は、上記第3と第4と第5の何れかの特徴に加えて、接触層16の厚み(s)が50μm以下(好ましくは25μm以下)である点にある。
【0018】
本発明に係る化粧材の第7の特徴は、上記第3と第4と第5と第6の何れかの特徴に加えて、(a) 媒介層15が、熱可塑性樹脂によって構成され、厚み(t)が一定のフイルムによって構成されており、(b) 接触層16が、媒介層15の熱可塑性樹脂よりも融点の低い熱融着性樹脂によって構成されている点にある。
【0019】
本発明に係る化粧材の第8の特徴は、上記第第3と第4と第5と第6と第7の何れかの特徴に加えて、平滑層13が、熱流動性樹脂、熱硬化性樹脂、液状樹脂組成物の何れかの樹脂によって構成されている点にある。
【0020】
本発明に係る化粧材の第9の特徴は、上記第第3と第4と第5と第6と第7と第8の何れかの特徴に加えて、(a) 布帛11が複数本の繊維によって構成された多繊糸条23を少なくとも一部に使用して織編成されており、(b) 布帛11が、布帛表面に露出した表面糸条を凸部24とし、隣り合う表面糸条と表面糸条の糸条間隙間26を凹部25とする表面凹凸を有し、(c) 多繊糸条23が、糸条表面に露出した表面繊維17を凸部とし、表面繊維17と表面繊維17の間の繊維間隙間18を凹部とする表面凹凸を有し、(d) 糸条間隙間26に接着層14が窪み込んだ内部凹部(25)と、その内部凹部(25)に隣り合う糸条23・23による内部凸部24が、透光層12の内部に形成されており、(e) その内部凹部(25)の谷底27に介在する空気に接触層16が接触している点にある。
【0021】
本発明に係る化粧材の第10の特徴は、上記第9の何れかの特徴に加えて、接触層16が、糸条23の表面繊維17と表面繊維17の間の繊維間隙間18の凹部を埋め尽くすことなく繊維間隙間18に窪み込み、その凹部の谷底28において空気に接触している点にある。
【0022】
本発明に係る化粧材の第11の特徴は、上記第9と第10の何れかの特徴に加えて、糸条11を構成している繊維(17)の平均繊度が11dtex以下であり、接触層16の厚み(s)が繊維(17)の平均太さの3倍以下である点にある。
【発明の効果】
【0023】
本発明(第1の特徴)においては、接着層14の布帛11との密着面が、布帛表面に露出して隣り合う少なくとも一部の表面繊維17と表面繊維17との表面繊維間隙間18において、その布帛内部に介在する空気に接触しており、表面繊維17と接着層14は線点接触、即ち、断面において点接触しており、表面繊維17が接着層14の樹脂皮膜に包まれていないので、布帛11が水に濡れたかの如く濃い濡れ色観を呈することがない。
そして、透光層12の布帛11との接触面が、布帛11に密着した接着層14であり、布帛表面に応じた凹凸を有するので、透光層12の内部反射光によって外部物体が透光層12の表面で二重写しになることはない。
このように、本発明によると、透光層の表面において外部映像が二重写しに反射することなく、透光層に被覆されない布帛固有の美観を透光層の表面において透視し観賞することの出来る化粧材を得ることが出来る。
【0024】
本発明(第2の特徴)によると、透光性素材によって構成された厚みが一定の透光性均厚板21を平滑層13の上に積層して透光層12の一部としたので、透光層12の厚みが均一にし易くなる。
【0025】
本発明(第3の特徴)によると、布帛表面の凹凸に沿って布帛表面に接触して布帛表面の凹凸に沿った凹凸を有する接触層16と、その接触層16の凹凸に沿って接触層16に接触して接触層16の凹凸に沿った凹凸を有する媒介層15とによって接着層14が構成されているので、低粘度の流動性樹脂組成物を塗布して媒介層15を積層する場合でも、その流動性樹脂組成物が繊維間隙間18に滲み込むことがなく、その流動性樹脂組成物の樹脂皮膜に表面繊維17が包まれて、布帛11が水に濡れたかの如く濃い濡れ色観を呈することがない。
そして、その低粘度の流動性樹脂組成物によって媒介層15の表面が平坦になり、厚みが一定の透光性均厚板21を積層する場合でも、その流動性樹脂組成物を接着剤として積層し易くなる。
【0026】
そして、繊維間隙間18に入り込まない程度に微細なホットメルト粉末や、繊維間隙間18に入り込まない程度に粘度の調整された流動性樹脂組成物を、繊維間隙間18に入り込まない程度に薄く散布し、或いは塗布することは容易であり、そうすることによって布帛表面の凹凸に沿って極薄の接触層16を積層することが出来る。
従って、本発明(第4と第5)の特徴によると、その極薄接触層16によって、媒介層15が繊維間隙間18に滲み込み、その媒介層15の樹脂皮膜に表面繊維17が包まれて布帛11が濡れ色観を呈することを確実に防ぐことが出来る。
【0027】
本発明(第6と第7の特徴)によると、接触層16や媒介層15を熱可塑性樹脂フイルムによって構成するとしても、その厚み(s)が50μm以下で一定しているので、そのフイルムによって布帛11の美観が遮られることはなく、又、低粘度の流動性樹脂組成物を塗布して媒介層15を積層する場合でも、その流動性樹脂組成物の繊維間隙間18への滲み込みが確実に抑えられ、布帛11が水に濡れたかの如く濃い濡れ色観を呈する不都合を確実に回避することが出来る。
【0028】
本発明(第8の特徴)によると、熱流動性樹脂、熱硬化性樹脂、液状樹脂組成物の何れの樹脂によっても平滑層13を構成することが出来、化粧材への多様な需要に応えることが出来る。
【0029】
本発明(第9の特徴)によると、布帛11が複数本の繊維によって構成された多繊糸条23を少なくとも一部に使用して織編成されており、その布帛11が布帛表面に露出した表面糸条を凸部24とし隣り合う表面糸条と表面糸条の糸条間隙間26を凹部25とする表面凹凸を有し、その多繊糸条23が糸条表面に露出した表面繊維17を凸部とし表面繊維17と表面繊維17の間の繊維間隙間18を凹部とする表面凹凸を有し、糸条間隙間26に接着層14が窪み込んだ内部凹部(25)と、その内部凹部(25)に隣り合う糸条23・23による内部凸部24が透光層12の内部に形成されており、その内部凹部(25)の谷底27に介在する空気に接触層16が接触しているので、繊細且つ多彩な化粧材を得ることが出来る。
【0030】
本発明(第10の特徴)によると、接触層16が糸条23の表面繊維17と表面繊維17の間の繊維間隙間18の凹部を埋め尽くすことなく繊維間隙間18に窪み込み、その凹部の谷底28において空気に接触しているので、布帛11の上に透光層12が積層されていても、布帛11の布目がハッキリと分かり、透光層12に覆われていない布帛固有の美観を感得することが出来る。
【0031】
本発明(第11の特徴)によると、布帛11の糸条23を構成している繊維17の平均繊度を11dtex以下とし、接触層16の厚み(s)を繊維(17)の平均太さの3倍以下としたので、織編布帛特有の複雑、繊細、且つ、優雅な美観を呈する化粧材を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る化粧材の断面図であり、一部を円で囲んで拡大して図示している。
【図2】従来の化粧材の断面図であり、一部を円で囲んで拡大して図示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
布帛11には、意匠的に特徴のある織物、編物、不織布の何れをも適用することが出来る。
【0034】
媒介層15と布帛11との接着媒体となる接触層16にはホットメルト系接着剤を使用するとよい。
その樹脂成分は、溶融しても表面繊維17が濡れ色観を呈しない程度に布帛表面に部分的に融着させる。
そのホットメルト系接着剤には、ポリオレフィン系ホットメルト系接着剤、ポリエステル系ホットメルト系接着剤、ポリアミド系ホットメルト系接着剤、ポリウレタン系ホットメルト系接着剤等、布帛11の材質とフイルム15の材質との接着性を考慮して選定される。
ホットメルト系接着剤の付着量が少なすぎると、表面繊維17とフイルム15との接着力が不足し、その付着量が多すぎると、その樹脂成分が繊維間隙間18に滲み込んで布帛11が濡れ色観を呈するようになる。
この点を考慮して、ホットメルト系接着剤の付着量は、2g/m2 乃至50g/m2 に、好ましくは5g/m2乃至20g/m2 、更に好ましくは10g/m2 前後で概して8g/m2 乃至12g/m2にする。
【0035】
媒介層15には、透明ポリオレフィン系フイルム、透明ポリエステル系フイルム、透明ポリアミド系フイルム、透明ポリウレタン系フイルム、透明ポリエチレンビニルアルコール系フイルム等の透明な有機高分子型熱可塑性フイルムを使用することが出来る。
これらの透明フイルムは、布帛11に積層された媒介層15の上に重ね、加熱しつつバキュームによって布帛側から吸引して接触層16に密着させ、接触層16を介して布帛11に接着する。
そのようにバキュームによって吸引しつつ接着すると、糸条間23a・23bの凹部25や凸部26のみならず、表面繊維17と繊維間隙間18による糸条23の表面の凹凸に沿って媒介層15が布帛11に接着する。
その加熱時に軟化し易くし、布帛11の凹凸に沿って変形し易くするうえでも、媒介層15に使用する透明フイルムの厚み(t)は、100μm以下に、好ましくは50μm以下に、更に好ましくは20μm以下にする。
材質にもよるが、媒介層のフイルムの厚み(t)が100μmを超えると、フイルムが布帛表面の凹凸に馴染み難く、その布帛の凹凸感を化粧材20に表現し難くなる。
【0036】
媒介層15にフイルムを使用する場合には、接触層16に使用するホットメルト系接着剤を予めフイルム(15)にグラビアロール等によって塗着、或いは、Tダイラミネーター等によって融着させておくことが出来、又、二軸共押出型Tダイラミネーターによって媒介層15と接触層16との二層積層構造の熱融着性フイルムとして調製することも出来る。
そのように媒介層15となるフイルムに接触層16を予め積層しておくと、表面繊維17と表面繊維17との表面繊維間隙間18に接触層16の樹脂成分が滲み込むことがなく、表面繊維17と接触層16が断面において点接着となり、布帛11が水に濡れたかの如く濃い濡れ色観を呈することはなくなる。
布帛表面の糸条間23a・23bの凹部25や凸部26との高低差が10μm以上であれば、プレス加熱によって媒介層15を布帛11に接触層16を介して接着することも出来る。
その高低差が10μm未満になると、布帛11と透光層12との一体感が乏しく、外部映像が透光層の表面において二重写しになり易く、布帛11の質感を化粧材20に表現し難くなる。
従って、糸条23の総繊度や繊維17の単繊維繊度、織組織や編組織等によって、その高低差が10μm以上になるように布帛11を調製する。
【0037】
媒介層15には、低粘度の透明な流動性樹脂組成物を使用し、それを媒介層15の上に塗布する。好ましい流動性樹脂組成物は、揮発性溶媒の配合されていない紫外線硬化型樹脂組成物である。
紫外線硬化型樹脂組成物には、紫外線によるラジカル開裂時に気体を発生させない重合開始剤を適用する。
媒介層15には、加熱によって固化する熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使用することも出来る。
媒介層15を厚く積層する場合は、その塗布面を平滑にし、その媒介層15をもって透光層12とし、又、平滑面13とすることも出来る。
【0038】
媒介層の上には更に透明で厚みが一定の透光性均厚板21を積層することが出来る。
透光性均厚板21には、ポリアクリル酸エステル系樹脂透明板、ポリメタクリル酸エステル系樹脂透明板、ポリオレフィン系樹脂透明板、ポリエステル系樹脂透明板、ポリアミド系、ポリウレタン系樹脂透明板、ポリカーボネート系樹脂透明板、ポリエチレンビニルアルコール系樹脂透明板、メラミン系樹脂透明板等のプラスチック透明板のほかガラス板を使用することが出来る。
特に、化粧材20を建材や車両内装板材等の硬質板材として使用する場合には、JIS−K−5600(5−4)に規定される表面硬度がH以上の硬く透明で厚みが一定の透光性均厚板21を使用するとよい。
透光性均厚板21の透明度は、無着色透明な透光性均厚板21ではJIS−K−7361(1)に規定される全光線透過率が90%以上になるようにし、着色透明な透光性均厚板21では全光線透過率が10%以上に、好ましくは30%以上になるようにするとよい。
【0039】
化粧材20の表面に肉厚感を付与するためには、透光層全体の厚みを1mm以上にするとよく、そのためには厚みが1mm以上の透光性均厚板21を使用するとよい。
透光層12の表面である平滑面19には、透視される布帛11の美観を損なうことなく、彫刻模様やエンボス模様を施すことが出来る。
化粧材20は、平板なものに限らず、2次曲面や3次曲面をもつ立体的な造形をなすものであってもよい。
【0040】
透光層12は、布帛11の片面にだけではなく、布帛11の表裏両面に積層することも出来る。
透光層12が布帛11の片面にだけ積層された化粧材20の裏面には、補強材が適宜に積層され、又、取り付けられる。
【0041】
本発明に係る化粧材20は、建材、鞄やスーツケースその他のケースの表面材、家具その他の屋内装置品の表面材、車両内装材等に使用される。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、その実施例は本発明の範囲を縮限するものではない。
[実施例1]
単繊維繊度2dtex、総繊度150dtexのポリエステル繊維糸条(23)によって編成された目付け350g/m2 の椅子張り地用横編布帛(11)に、厚み(t)12μmのエチレンビニルアルコール系フイルム(株式会社クラレ製品名エバールHF−M)(16)にウレタン系ホットメルト樹脂(15)をコーティング(塗布量8g/m2)した積層フイルムを重ね、加熱しつつバキュームによって吸引して積層フイルムを横編布帛に接着する。その積層されたフイルムのSEMでの断面観察による横編布帛(11)の凹部(25)と凸部(26)に沿った凹凸差は約110μmであった。
【0043】
その横編布帛(11)に積層されたエチレンビニルアルコール系フイルム(16)の上に、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(株式会社共栄社化学製品名「ライトエステルHO」)100重量部と2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(メルク社製品名「ダロキュアー1173」)2重量部とから成る紫外線硬化型樹脂組成物(13)を塗布厚1000μmとして塗布し、その塗布面を厚み50μmの透明ポリエステルフイルムで被覆して酸素を遮断し、ブラックライト(松下電工株式会社製品名「FL20S−BL−B」)の照射下に18時間放置し、紫外線硬化型樹脂組成物(13)を硬化させ、その後、厚み50μmの透明ポリエステルフイルムを剥離除去して化粧材(20)を作成した。
【0044】
[実施例2]
単繊維繊度1.3dtex、総繊度60dtexのポリエステル繊維糸条(23)によって織成された目付け210g/m2 のカーテン地用ジャガード織布帛(11)に、実施例1と同様にエチレンビニルアルコール系フイルム(16)とウレタン系ホットメルト樹脂(15)との積層フイルムを重ね、加熱しつつバキュームによって吸引して積層フイルムを織布帛(11)に接着する。その積層されたフイルムのSEMでの断面観察による織布帛(11)の凹部(25)と凸部(26)に沿った凹凸差は約30μmであった。
【0045】
その織布帛(11)に積層されたエチレンビニルアルコール系フイルム(16)の上に、実施例1に使用の紫外線硬化型樹脂組成物(13)を塗布厚200μmとして塗布し、その塗布層(13)にJIS−K−7361−1による全光線透過率93%、JIS−K−5600−5−4による表面硬度2H、板厚2mmの透明アクリル板(三菱レイヨン株式会社製品名「アクリライト」)(21)を戴設して酸素を遮断し、実施例1に使用のブラックライトの照射下に18時間放置し、紫外線硬化型樹脂組成物(13)を硬化させて化粧材(20)を作成した。
【0046】
[実施例3]
単繊維繊度2dtex、総繊度500dtexのポリエステル繊維糸条(23)によって織成された目付け250g/m2 の椅子張り地用織布帛(11)に、実施例1と同様にエチレンビニルアルコール系フイルム(16)とウレタン系ホットメルト樹脂(15)との積層フイルムを重ね、加熱しつつバキュームによって吸引して積層フイルムを織布帛(11)に接着する。その積層されたフイルムのSEMでの断面観察による織布帛(11)の凹部(25)と凸部(26)に沿った凹凸差は約10μmであった。
【0047】
その織布帛(11)に積層されたエチレンビニルアルコール系フイルム(16)の上に、実施例1に使用の紫外線硬化型樹脂組成物(13)を塗布厚120μmとして塗布し、その塗布層(13)に実施例2に使用の透明アクリル板(21)を戴設して酸素を遮断し、実施例1に使用のブラックライトの照射下に18時間放置し、紫外線硬化型樹脂組成物(13)を硬化させて化粧材(20)を作成した。
【0048】
[比較例1]
実施例2の織布帛(11)に、実施例2に使用の積層フイルムを重ねることなく、実施例1と実施例2に使用の紫外線硬化型樹脂組成物(13)を塗布厚200μmとして塗布し、その塗布層(13)に実施例2に使用の透明アクリル板(21)を戴設して酸素を遮断し、実施例1と実施例2に使用のブラックライトの照射下に18時間放置し、紫外線硬化型樹脂組成物(13)を硬化させて化粧材(20)を作成した。
【0049】
[比較例2]
実施例2の織布帛(11)に、実施例2と比較例1に使用の透明アクリル板(21)を戴設して化粧材(20)とした。
【0050】
実施例1と実施例2と実施例3と比較例1と比較例2の化粧材(20)の表面(19)に載せた物体の反射映像の現れ方(包埋感)と、化粧材(20)の表面(19)から透視される布帛(11)の織編組織による地模様の現れ方(繊維質感)と、化粧材(20)の表面(19)から透視される布帛(11)の色調について、次の通り「○」と「×」をもって評価し、[表1]に示す結果を得た。
[包埋感]
○;物体の反射映像が二重写しには見え難い。
×;ガラス板を載せたように物体の反射映像が二重写しになって鮮明に見える。
[繊維質感]
○;布帛の繊維糸条の輪郭が立体的に見える。
×;布帛の繊維糸条が印刷されているかのように平板に見える。
[色調]
○;化粧材に使用する前の布帛の色調と殆ど同じである。
×;水に濡れた布帛のように黒味を帯びた濃色に見える。
尚、「○」と「×」の何れにも評価し難い場合、[表1]に「△」と表示している。
【0051】
【表1】

【0052】
比較例1と比較例2に対比される実施例1と実施例2と実施例3が示す通り、本発明によると、外部物体の反射映像が二重写しには見えず包埋感があり、布帛が本来の色調をもって立体感を帯びて透視され、布帛固有の美観を透光層の表面において感得し得る化粧材が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る化粧材20は、天井材、壁面材、床面材、タイル等の建材の表面材、鞄やスーツケースその他のケースの表面材、テーブル、タンス、衣裳函等の家具、飾り棚その他の屋内装置品の表面材、車両内装材の表面材等に利用することが出来る。
【符号の説明】
【0054】
11:布帛
12:透光層
13:平滑層
14:接着層
15:媒介層
16:接触層
17:表面繊維
18:表面繊維間隙間
19:平滑面
20:化粧材
21:均厚板
22:プライマー
23:糸条
24:凸部
25:凹部
26:糸条間隙間
27:谷底(糸条間隙間)
28:谷底(繊維間隙間)
s :接触層の厚み
t :媒介層の厚み
T :布帛の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛表面に透光性素材による透光層(12)を積層して構成された化粧材(20)において、
透光層(12)が、布帛(11)に密着した接着層(14)と、その接着層(14)の上に積層されて接着層(14)を平坦にする平滑面(19)の形成されている平滑層(13)とによって構成されており、
接着層(14)の布帛(11)との密着面が、布帛表面に露出して隣り合う少なくとも一部の表面繊維(17)と表面繊維(17)との表面繊維間隙間(18)において、その布帛内部に介在する空気に接触していることを特徴とする化粧材。
【請求項2】
透光性素材によって構成された厚みが一定の透光性均厚板(21)が、直接またはプライマー接着剤(22)を介して、平滑層(13)の上に積層されて透光層(12)の一部を構成しており、
その透光性均厚板(21)の表面が、化粧材(20)の平滑面(19)を構成している前掲請求項1に記載の化粧材。
【請求項3】
接着層(14)が、(1) 布帛表面の凹凸に沿って布帛表面に接触し、布帛表面の凹凸に沿った凹凸を有する接触層(16)と、(2) その接触層(16)の凹凸に沿って接触層(16)に接触し、接触層(16)の凹凸に沿った凹凸を有する媒介層(15)とによって構成されており、
その媒介層(15)の上に積層された平滑層(13)によって、媒介層(15)の凹凸が平坦にされており、
接触層(16)が、布帛表面の表面繊維(17)と表面繊維(17)の間の表面繊維間隙間(18)において、布帛内部に介在する空気に接触している前掲請求項1と2の何れかに記載の化粧材。
【請求項4】
媒介層(15)の厚み(t)が、布帛11の厚み(T)以下である前掲請求項3に記載の化粧材。
【請求項5】
接触層(16)が、熱流動性樹脂または熱硬化性樹脂によって構成されている前掲請求項3と4の何れかに記載の化粧材。
【請求項6】
接触層(16)の厚み(s)が50μm以下である前掲請求項3と4と5の何れかに記載の化粧材。
【請求項7】
媒介層(15)が、熱可塑性樹脂によって構成され、厚み(t)が一定のフイルムによって構成されており、
接触層(16)が、媒介層(15)の熱可塑性樹脂よりも融点の低い熱融着性樹脂によって構成されている前掲請求項3と4と5と6の何れかに記載の化粧材。
【請求項8】
平滑層(13)が、熱流動性樹脂、熱硬化性樹脂、液状樹脂組成物の何れかの樹脂によって構成されている前掲請求項1と2と3と4の5と6と7の何れかに記載の化粧材。
【請求項9】
布帛(11)が、複数本の繊維によって構成された多繊糸条(23)を少なくとも一部に使用して織編成されており、
布帛(11)が、布帛表面に露出した表面糸条を凸部(24)とし、隣り合う表面糸条と表面糸条の糸条間隙間(26)を凹部(25)とする表面凹凸を有し、
多繊糸条(23)が、糸条表面に露出した表面繊維(17)を凸部とし、表面繊維(17)と表面繊維(17)の間の繊維間隙間(18)を凹部とする表面凹凸を有し、
糸条間隙間(26)に接着層(14)が窪み込んだ内部凹部(25)と、その内部凹部(25)に隣り合う糸条(23・23)による内部凸部24が、透光層(12)の内部に形成されており、
その内部凹部(25)の谷底(27)に介在する空気に接触層(16)が接触している前掲請求項3と4の5と6と7と8に記載の化粧材。
【請求項10】
接触層(16)が、糸条(23)の表面繊維(17)と表面繊維(17)の間の繊維間隙間(18)の凹部を埋め尽くすことなく繊維間隙間(18)に窪み込み、その凹部の谷底(28)において空気に接触している前掲請求項9に記載の化粧材。
【請求項11】
糸条(11)を構成している繊維(17)の平均繊度が11dtex以下であり、接触層(16)の厚み(s)が繊維(17)の平均太さの3倍以下である前掲請求項9と10の何れかに記載の化粧材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−167743(P2010−167743A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14370(P2009−14370)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】