説明

医療器具及び医療器具の製造方法

【課題】基材材料に制限されず多種の基材材料に耐久性の優れた潤滑性を付与することが可能で、また、基材の真空処理を不要として生産性が改良された、湿潤時に潤滑性を示すチューブ形状の医療器具及び医療器具の製造方法を提供すること。
【解決手段】チューブ形状の基材2の外周面及び内周面の一面もしくは両面に、湿潤時に潤滑性を示す架橋膜4を有する医療器具1において、架橋膜4が親水性高分子と少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーとで形成され、反応性官能基の少なくとも一つは基材側の官能基と化学結合を形成し、反応性官能基の少なくとも一つは親水性高分子側の官能基と化学結合を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤時に潤滑性を有する医療器具及び医療器具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気管、消化管、尿道、その他の体腔あるいは組織中に挿入される医療器具は、組織を損傷せずに、また目的部位までに確実に挿入することを可能とする挿人性、滑らかさが要求される。さらには、組織内に留置している間に摩擦によって組織の損傷、炎症を引き起こすことを避けるために優れた潤滑性が要求される。例えば、医療器具の基材にシリコーンオイル、オリーブオイル、グリセリン等を塗布することによりその潤滑性を向上させる試みがなされている。しかし、このような試みには潤滑効果の持続性がなく、塗布液が流出する欠点がある。
【0003】
この欠点を解決するために、アクリル酸もしくはメタクリル酸で変性した変性ポリオレフィンからなる医療器具の基材表面に親水性高分子をコーティングし湿潤時に潤滑効果の持続性を発現する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3580844号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記技術にあっては、アクリル酸もしくはメタクリル酸で変性されたオレフィン基材材料の存在が不可欠であり、基材材料が変性オレフィン基材以外の医療器具においては潤滑性の付与が不可能であった。医療器具は治療用途が多様化し目的に合わせて多種の基材材料が使用されているので、このような基材材料に制限があると医療器具の用途に制限が生じ好ましくない。また、オレフィン基材をアクリル酸もしくはメタクリル酸に変性するための表面グラフト処理の操作は、真空雰囲気が必要となり処理時間が長くなり生産性が悪く好ましくない。
【0005】
以上のように、医療器具の表面に長時間の摩擦に対する耐久性、持続性が優れた潤滑性を発現する為には基材の種類に制限がみられ、また、基材表面を変性する複雑な真空処理の操作が必要であった。
【0006】
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、基材材料に制限されず多種の基材材料に耐久性の優れた潤滑性を付与することが可能で、また、基材の真空処理を不要として生産性が改良された、湿潤時に潤滑性を示すチューブ形状の医療器具及び医療器具の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、チューブ形状の基材の外周面及び内周面の一面もしくは両面に、湿潤時に潤滑性を示す架橋膜を有する医療器具であって、前記架橋膜が親水性高分子と少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーとで形成され、前記反応性官能基の少なくとも一つは前記基材側の官能基と化学結合を形成し、前記反応性官能基の少なくとも一つは前記親水性高分子側の官能基と化学結合を形成することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る医療器具によれば、架橋膜を形成している少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーの少なくとも一つの反応性官能基は基材側の官能基と化学結合を形成し、少なくとも別の一つの反応性官能基は親水性高分子側の官能基と化学結合による架橋膜を形成することができる。これにより、基材材料によらず基材表面と、少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーと、親水性高分子とが化学結合によりネットワークを形成するので、基材材料に制限されずに多種の基材材料に耐久性の優れた潤滑性を付与することができる。また、真空処理が不要なので、生産性が改良された潤滑性を有する医療器具を提供することができる。なお、モノマーの有する反応性官能基と基材側の官能基との化学結合、及び、モノマーの有する反応性官能基と親水性高分子側の官能基との化学結合は、化学的に安定した強固な結合が行えるという観点から、いずれも共有結合であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の医療器具は、前記基材の架橋膜を有する架橋面に表面改質処理により基材側の官能基を有するように改質された表面改質層を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る医療器具によれば、基材表面が表面改質処理により官能基を備えるため、基材側の官能基と、架橋膜を形成するモノマーの反応性官能基との化学結合の形成が容易になる。これにより、基材表面とモノマーとの接着が強化されるので、基材と架橋膜との密着性を強化することができる。
【0011】
また、本発明の医療器具は、前記モノマーが紫外線の照射により活性化する紫外線官能基と、熱により活性化する熱官能基とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る医療器具によれば、モノマーが有する反応性官能基の内、紫外線の照射により紫外線官能基が基材側の官能基か親水性高分子側の官能基のいずれかと化学結合を形成し、加熱により熱官能基が基材側の官能基と親水性高分子側の官能基とのうち紫外線官能基が化学結合を形成しなかったいずれかの官能基と化学結合を形成する。これにより、基材材料によらず、基材表面と、少なくとも紫外線官能基及び熱官能基を有するモノマーと、親水性高分子とが化学結合によりネットワークを形成するので、基材材料に制限されずに耐久性の優れた潤滑性を付与することができる。また、真空処理が不要なので、生産性が改良された潤滑性を有する医療器具を提供することができる。
【0013】
また、本発明の医療器具は、前記紫外線官能基がアクリル基、メタクリル基、エポキシ基、エポキシアクリル基のいずれかを有し、前記熱官能基がヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基のいずれかを有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る医療器具によれば、モノマーは紫外線の照射により活性化するアクリル基、メタクリル基、エポキシ基、エポキシアクリル基のいずれかの紫外線官能基を有しているので、紫外線を照射するとラジカルまたはカチオンを形成し、基材側の官能基か親水性高分子側の官能基のいずれかと、化学結合を形成することができる。一方で、モノマーは熱により活性化するヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基のいずれかの熱官能基も有しているので、加熱処理すると縮合反応もしくは付加反応により、基材側の官能基と親水性高分子側の官能基とのうち紫外線官能基が化学結合を形成しなかったいずれかの官能基と化学結合を形成することができる。これにより、基材材料によらず基材表面と、少なくとも紫外線官能基及び熱官能基を有するモノマーと、親水性高分子とが化学結合によりネットワークを形成するので、基材材料に制限されずに耐久性の優れた潤滑性を付与することができる。また、真空処理が不要なので、生産性が改良された潤滑性を有する医療器具を提供することができる。
【0015】
また、本発明の医療器具は、前記親水性高分子が酸無水物基を有する高分子、酸無水物基を有する高分子とヒドロキシル基を有する物質との架橋物、酸無水物基を有する高分子とアミノ基を有する物質との架橋物のいずれかであることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る医療器具によれば、親水性高分子が酸無水物基を有する高分子である場合、酸無水物基が水と反応してカルボキシル基が形成される。これにより、カルボキシル基と少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーの反応性官能基とが化学結合を形成する。
また、親水性高分子が酸無水物基を有する高分子とヒドロキシル基を有する物質との架橋物である場合、酸無水物基の水と反応して形成されたカルボキシル基とヒドロキシル基を有する物質のヒドロキシル基が縮重合反応によりエステル結合を形成し、部分的に架橋物となる。これにより、縮重合反応に用いられない官能基と、少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーの反応性官能基とが化学結合を形成する。
また、親水性高分子が酸無水物基を有する高分子とアミノ基を有する物質との架橋物である場合、酸無水物基の水と反応して形成されたカルボキシル基とアミノ基を有する物質のアミノ基が縮重合反応によりアミド結合を形成し、部分的に架橋物となる。これにより、縮重合反応に用いられない官能基と、少なくとも二つ以上の反応性官能基を有するモノマーの反応性官能基とが化学結合を形成する。
これにより、前記いずれの親水性高分子でも基材材料によらず、基材表面と、少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーと、親水性高分子とが化学結合によりネットワークを形成するので、基材材料に制限されずに耐久性の優れた潤滑性を付与することができる。また、真空処理が不要なので、生産性が改良された潤滑性を有する医療器具を提供することができる。
【0017】
また、本発明の医療器具の製造方法は、チューブ形状の基材の外周面及び内周面の一面もしくは両面に湿潤時に潤滑性を示す架橋膜を生成する医療器具の製造方法であって、前記基材の架橋膜を生成する架橋面を表面改質処置により基材側の官能基を有する表面改質層に改質する表面改質工程と、前記表面改質工程で改質された前記架橋面に、親水性高分子と、紫外線の照射により活性化する紫外線官能基及び熱により活性化する熱官能基の少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーとの混合塗布液を塗布する塗布工程と、前記塗布工程にて塗布された混合塗布液に紫外線を照射する紫外線照射工程と、前記塗布工程にて塗布された混合塗布液に加熱をする加熱工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る医療器具の製造方法によれば、表面改質工程で基材表面に反応性官能基を形成し、塗布工程で親水性高分子と、紫外線官能基及び熱官能基の少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーとの混合塗布液を塗布する。そして、紫外線照射工程と加熱工程を経ることにより、モノマーが有する紫外線官能基か熱官能基のいずれかが、基材側の官能基と化学結合により固定化されるので密着性が向上し、基材側の官能基と化学結合を形成しなかった残りの反応性官能基が親水性高分子側の官能基と化学結合により架橋膜を形成し親水性高分子を不溶化し耐久性を向上させる。
これにより、基材材料によらず基材表面と、少なくとも紫外線官能基及び熱官能基を有するモノマーと、親水性高分子とが化学結合によりネットワークを形成するので、基材材料に制限されずに多種の基材材料に耐久性の優れた潤滑性を付与することができる。また、真空処理が不要なので、生産性が改良された潤滑性を有する医療器具を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の医療器具及び医療器具の製造方法によれば、基材材料に制限されず多種の基材材料に耐久性の優れた潤滑性を付与することが可能で、また、真空処理を不要として生産性が改良された潤滑性を有する医療器具及び医療器具の製造方法を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明における医療器具の構成について詳細を説明する。図1に本発明により製造される医療器具の概念図を示す。図1に示すように、医療器具1は、チューブ形状の基材2と、表面改質層3と、架橋膜4とで構成される。
【0021】
基材2は、例えば、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリオレフィンなどの樹脂およびその混合物などで構成される。また、表面の形状に制約はなく、平滑面、多孔質基材、多孔質化処理、多孔質被膜などいずれであっても良く、その制限はない。
【0022】
表面改質層3は、基材2の表面の接着性を向上するために表面改質処理された基材側の官能基を有する層である。
【0023】
架橋膜4は、親水性高分子とモノマーとで形成される。モノマーは紫外線の照射により活性化する紫外線官能基及び熱により活性化する熱官能基の二つの反応性官能基を有する。紫外線官能基及び熱官能基のいずれも活性化されることで、基材側の官能基及び親水性高分子側の官能基のいずれかと化学結合を形成することができる。紫外線官能基は、例えば、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、エポキシアクリル基などがあげられ、熱官能基は、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基などがあげられる。
【0024】
親水性高分子は、酸無水物基を有する高分子、酸無水物基を有する高分子とヒドロキシル基を有する物質との架橋物、酸無水物基を有する高分子とアミノ基を有する物質との架橋物などがあげられる。
酸無水物基を有する高分子は、例えば、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体のエステル誘導体などがあげられる。
また、ヒドロキシル基を有する物質は、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系高分子や、プロピレンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオール系高分子などがあげられる。
また、アミノ基を有する物質は、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレングリコールジアミン、ポリプロピレングリコールジアミンなどのジアミンや、尿素、ポリビニルアミン、アミノアセタール化ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ジアミンとエピクロルヒドリンの反応生成物などのアミノ基を有する物質や、ポリビニルピロリドン、ポリビニルポリピロリドンなどのポリビニルピロリドン系高分子などがあげられる。
親水性高分子の平均分子量は5〜500万程度が好適であるが、これに限るものではない。また、親水性高分子は混合物として用いても良く、溶媒に溶解して用いても良い。
【0025】
次に、本発明における医療器具の製造方法について詳細を説明する。本実施形態の医療器具の製造方法は表面改質工程S1と、塗布工程S2と、紫外線照射工程S3と、加熱工程S4と、親水化処理工程S5とを記述の順に行う(図2参照)。
【0026】
表面改質工程S1は、基材2の架橋膜4を生成する架橋面に表面改質処理により基材2側の官能基を有するように改質された表面改質層3を備えるための工程である。基材2の材質などに応じて大気圧プラズマ処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、エキシマレーザー処理、電子線照射処理などを不活性ガス、活性ガスの使用を含めて検討し大気圧雰囲気で実施すること、または、プライマによる溶液処理を実施することで、基材2側の官能基を有する表面改質層3を備えることができる。表面改質層3が有する基材2側の官能基は、基材2と後述するモノマーとの接着性を向上させる。
【0027】
塗布工程S2は、基材2の架橋面に親水性高分子と、紫外線の照射により活性化する紫外線官能基及び熱により活性化する熱官能基の少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーとの混合塗布液を塗布する工程である。塗布は混合塗布液に基材2を浸漬することで行う。
【0028】
親水性高分子とモノマーの混合塗布液の溶媒は、例えば、アルコール系や、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサンなどのケトン系や、酢酸ブチル、酢酸エチルなどのエステル系や、テトラヒドロフランなどのエーテル系や、トルエン、キシレンなどの芳香族系などがあげられるが、これらに限らず、親水性高分子とモノマーとを溶解可能な溶媒であればかまわない。濃度は、0.5〜15wt%が好適であるが、これに限るものではない。また、混合塗布液には反応性官能基の活性化を促進するために、光開始剤もしくは触媒を用いてもよいが、特に制限は無い。
【0029】
紫外線照射工程S3は、基材2の架橋面に紫外線を照射する工程で、紫外線の照射の時間、照射強度は特に制限がない。紫外線照射工程を経ることで、モノマーが有する紫外線官能基と、基材2側の官能基か親水性高分子側の官能基のいずれかとが化学結合の一種である共有結合を形成する。
【0030】
加熱工程S4は、基材2の架橋面に加熱をする工程で、樹脂が劣化しない温度、室温〜150度程度の範囲内で5分〜48時間程度行えばよい。加熱工程を経ることで、モノマーが有する熱官能基と、基材2側の官能基か親水性高分子側の官能基の内で紫外線官能基が共有結合を形成しなかった官能基とが共有結合を形成する。
【0031】
紫外線照射工程S3及び加熱工程S4を経ることで、モノマーの紫外線官能基か熱官能基のいずれかが親水性高分子側の官能基と共有結合により架橋膜4を形成する。また、モノマーの反応性官能基で架橋膜を形成しなかった反応性官能基が基材2側の官能基と共有結合する。前者は親水性高分子を不溶化し耐久性を向上させ、後者は基材2と架橋膜4との密着性を向上させることができる。これにより、医療器具1に耐久性の優れた潤滑性を付与することができる。
【0032】
親水化処理工程S5は、架橋膜4を40度〜80度程度温水または水湿で5分〜48時間程度処理することで、医療器具1に潤滑性を付与する工程である。しかし、必ずしも必要なものではなく、実施しなくてもかまわない。
【0033】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本実施形態において、基材2はポリウレタン、ポリスチレン、ポリオレフィンなどの樹脂及びその混合物としたが、それに制限されるものではない。
【0034】
また、本実施形態において、モノマーの有する紫外線官能基及び熱官能基の具体例を示したが、これらに限られるものではない。また、モノマーは紫外線官能基と熱官能基を有するとしたが、基材2の表面、及び、親水性高分子と共有結合を形成できる反応性官能基であればかまわない。また、反応性官能基の数は二つでなくても良く、三つ以上でもかまわない。
【0035】
また、本実施形態において、親水性高分子の具体例を示したが、これらに限られたものではない。また、親水性高分子は酸無水物基を有する高分子、酸無水物基を有する高分子とヒドロキシル基を有する物質との架橋物、酸無水物基を有する高分子とアミノ基を有する架橋物のいずれかとしたが、これらの基本構造を有し、架橋反応により共重合体を形成させ不溶化処理された物質であっても良い。
【0036】
また、本実施形態において、紫外線照射工程の後に加熱工程を実施したが、この順番には制限がない。
【0037】
また、医療器具とは、例えば、体内に挿入される内視鏡、内視鏡用部品、内視鏡用処置具、カテーテル、ガイドワイヤなどが挙げられるが、これらに限るものではない。
【実施例】
【0038】
<実施例1>
メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体(VEMA、ISP社製、Gantrez AN169)をアセトン溶媒(和光純薬製)に溶解し1wt%溶液を得、この溶液にVEMAの固形重量に対して50%の重量の60℃温水を添加し、無水マレイン酸基を開環させた。さらに、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、ナカライテスク社製)をVEMAの固形重量に対して50%加えて、親水性高分子の塗布液を得た。また、反応性官能基を有するモノマーとしてメタクリル基とイソシアネート基を有するカレンズAOI(昭和電工株式会社製)を用いて、カレンズAOIをアセトン溶媒に溶解し1wt%溶液を得た。そして、前記親水性高分子の塗布液とカレンズAOIを7:3の混合比で混合した混合塗布液Aを調整した。
【0039】
前記混合塗布液Aと光開始剤としてアセトフェノン系ラジカル開始剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製、イルガキュア184)5wt%とを混合した混合塗布液Bに、基材2であるポリウレタンチューブ基材を30秒間浸漬した後、紫外線照射装置により照度25mW/cmの紫外線を60秒間照射した。次いで、60℃の温水に30分浸漬した後、60℃、24時間加熱乾燥をし、潤滑性を有する材料を得た。
【0040】
<実施例2>
混合塗布液は実施例1で調整した混合塗布液Bを用いた。
基材2であるポリエチレンチューブ基材の表面に、表面改質層3を形成するためにコロナ放電(tantec社装置)を電力100W、30秒間処理した後、混合塗布液Bにポリエチレンチューブ基材を30秒間浸漬し、次いで、紫外線照射装置により照度25mW/cmの紫外線を60秒間照射した。次に、60℃の温水に30分浸漬した後、60℃、24時間加熱乾燥をし、潤滑性を有する材料を得た。
【0041】
<実施例3>
混合塗布液は実施例1で調整した混合塗布液Bを用いた。
基材2であるポリエチレンチューブ基材の表面に、表面改質層3を形成するためにコロナ放電(tantec社装置)を電力100W、30秒間処理した後、混合塗布液Bにポリエチレンチューブ基材を30秒間浸漬し、次いで、紫外線照射装置により照度25mW/cmの紫外線を60秒間照射した。その後、60℃、12時間加熱乾燥を行った。次に、60℃の温水に30分浸漬した後、60℃、24時間加熱乾燥をし、潤滑性を有する材料を得た。
【0042】
<実施例4>
メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体(VEMA、ISP社製、Gantrez AN169)をアセトン溶媒(和光純薬製)に溶解し1wt%溶液を得た。ヒドロキシプロピルセルロース(HPC、日本曹達製、セルニー)をアセトン溶媒に溶解し1wt%溶液を得た。VEMAとHPCの混合比を98:2とし混合した親水性高分子の塗布液を得た。次いで、この塗布液にVEMAとHPCとを合計した固形重量に対して50%の重量の60℃の温水を添加し、無水マレイン酸基が開環した親水性高分子の塗布液を得た。反応性官能基を有するモノマーとしてメタクリル基とイソシアネート基を有するカレンズAOI(昭和電工株式会社製)を用いて、カレンズAOIをアセトン溶媒に溶解し1wt%溶液を得た。前記親水性高分子の塗布液とカレンズAOIを7:3の混合比で混合した混合塗布液Cを調整した。
【0043】
基材2であるポリエチレンチューブ基材の表面に、表面改質層3を形成するためにコロナ放電(tantec社装置)を電力100W、30秒間処理した後、前記調整された混合塗布液Cと光開始剤としてアセトフェノン系ラジカル開始剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製、イルガキュア184)5wt%とを混合した混合塗布液Dにポリ工チレンチューブ基材を30秒間浸漬し、次いで、紫外線照射装置により照度25mW/cmの紫外線を60秒間照射した。その後、60℃、12時間加熱乾燥を行った。次に、60℃の温水に30分浸漬した後、60℃、24時間加熱乾燥をし、潤滑性を有する材料を得た。
【0044】
<実施例5>
混合塗布液は実施例4で調整した混合塗布液Dを用いた。
基材2である多孔質ポリエチレンチューブ基材の表面に、表面改質層3を形成するためにコロナ放電(tantec社装置)を電力100W、30秒間処理した後、混合塗布液Dにポリエチレンチューブ基材を30秒間浸漬し、次いで、紫外線照射装置により照度25mW/cmの紫外線を60秒間照射した。その後、60℃、12時間加熱乾燥を行った。次に、60℃の温水に30分浸漬した後、60℃、24時間加熱乾燥をし、潤滑性を有する材料を得た。
【0045】
<実施例6>
メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体(VEMA、ISP社製、Gantrez AN169)をアセトン溶媒(和光純薬製)に溶解し1wt%溶液を得た。アミノ基を有するエチレンジアミン(和光純薬製)をアセトン溶媒に溶解し1wt%溶液を得た。VEMAとの混合比を98:2とし混合した親水性高分子塗布液を得た。次いで、この溶液にVEMAとエチレンジアミンとを合計した固形重量に対して50%の重量の60℃の温水を添加し、無水マレイン酸基が開環した親水性高分子の塗布液を得た。反応性官能基を有するモノマーとしてメタクリル基とイソシアネート基を有するカレンズAOI(昭和電工株式会社製)を用いて、カレンズAOIをアセトン溶媒に溶解し1wt%溶液を得た。前記親水性高分子の塗布液とカレンズAOIを7:3の混合比で混合した混合塗布液Eを調整した。
【0046】
基材2であるポリエチレンチューブ基材の表面に、表面改質層3を形成するためにコロナ放電(tantec社装置)を電力100W、30秒間処理した後、前記調整された混合塗布液Eと光開始剤としてアセトフェノン系ラジカル開始剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製、イルガキュア184)5wt%とを混合した混合塗布液Fにポリエチレンチューブ基材を30秒間浸漬し、次いで、紫外線照射装置により照度25mW/cmの紫外線を60秒間照射した。その後、60℃、12時間加熱乾燥を行った。次に、60℃の温水に30分浸漬した後、60℃、24時間加熱乾燥をし、潤滑性を有する材料を得た。
【0047】
<実施例7>
混合塗布液は実施例6で調整した混合塗布液Fを用いた。
基材2である多孔質ポリエチレンチューブ基材の表面に、表面改質層3を形成するためにコロナ放電(tantec社装置)を電力100W、30秒間処理した後、混合塗布液Fにポリエチレンチューブ基材を30秒間浸漬し、次いで、紫外線照射装置により照度25mW/cmの紫外線を60秒間照射した。その後、60℃、12時間加熱乾燥を行った。次に、60℃の温水に30分浸漬した後、60℃、24時間加熱乾燥をし、潤滑性を有する材料を得た。
【0048】
<比較例1>
基材2であるポリエチレンチューブ基材の表面に、表面改質層3を形成するためにコロナ放電(tantec社装置)を電力100W、30秒間処理した後、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体(VEMA、ISP社製、Gantrez AN169)をアセトン溶媒(和光純薬製)に溶解し1wt%溶液に調整された塗布液にポリエチレンチューブ基材を30秒間浸漬し、次いで、60℃、12時間加熱乾燥を行った。次に、60℃の温水に30分浸漬した後、60℃、24時間加熱乾燥をし、潤滑性を有する材料を得た。
【0049】
上記の実施例1〜7及び比較例1について、摩擦係数μの評価を行った。
まず、評価方法について図3を用いて説明する。図3は摩擦係数測定器(新東科学社製、HEIDON)で、サンプル基材5と、相手部材6と、おもり7と、移動台8と、加重変換器9とで構成される。
【0050】
サンプル基材5は移動台8に固定され移動台8と共に平行運動する。移動台8に設置されたサンプル基材5はおもり7により垂直加重が掛けられ相手部材6と接触する。移動台8を往復平行移動するとサンプル基材5と相手部材6の接触面に摩擦が生じ、この時の摩擦力を加重変換器9で摩擦係数μに変換する。
【0051】
本評価方法において、摩擦係数μの測定はサンプル基材5を水中に浸漬した状態で行い、1往復目の摩擦係数μ及び耐久性評価のため移動台8が300回の往復運動した後の摩擦係数μを測定した。
【0052】
実施例1〜7および比較例1で製造した潤滑性を有する材料をサンプル基材5として、各材料について摩擦係数μを測定した結果を図4に示す。実施例1〜7の1往復状態の摩擦係数μは0.10〜0.14であり全ての実施例で良好な潤滑性を示している。また、300往復後の持続性評価においては、実施例1〜7の摩擦係数μは0.10〜0.15であった。この結果は、1往復状態の摩擦係数μとほぼ同じ値であり、300往復後も本発明の全ての実施例で耐久性の良好な潤滑性を示している。
【0053】
一方で、混合塗布液にモノマーを用いていない比較例1の1往復状態の摩擦係数μは、0.13であり、300往復後の摩擦係数μは、0.34であった。このように1往復状態では、良好な潤滑性を示すものの、300往復後の摩擦係数μは大きな増加が見られる。このことは、長時間の摩擦により基材表面に塗布された親水高分子が剥離するため、潤滑性が耐久性に優れていないことを示している。
【0054】
以上の結果から、本発明の基材表面には、耐久性の優れた潤滑性を付与することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】この発明の実施形態の医療器具の構成例を示す側面図である。
【図2】この発明の実施形態の医療器具の製造方法の工程順序を示す図である。
【図3】この発明の実施例に用いた摩擦係数測定器の構成例を示す全体図である。
【図4】この発明の実施例の試験結果を示す表である。
【符号の説明】
【0056】
1 医療器具
2 基材
3 表面改質層
4 架橋膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ形状の基材の外周面及び内周面の一面もしくは両面に、湿潤時に潤滑性を示す架橋膜を有する医療器具であって、
前記架橋膜が親水性高分子と少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーとで形成され、
前記反応性官能基の少なくとも一つは前記基材側の官能基と化学結合を形成し、
前記反応性官能基の少なくとも一つは前記親水性高分子側の官能基と化学結合を形成すること
を特徴とする医療器具。
【請求項2】
前記基材の架橋膜を有する架橋面に表面改質処理により基材側の官能基を有するように改質された表面改質層を備えることを特徴とする請求項1に記載の医療器具。
【請求項3】
前記モノマーが紫外線の照射により活性化する紫外線官能基と、熱により活性化する熱官能基とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の医療器具。
【請求項4】
前記紫外線官能基がアクリル基、メタクリル基、エポキシ基、エポキシアクリル基のいずれかを有し、前記熱官能基がヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基のいずれかを有することを特徴とする請求項3に記載の医療器具。
【請求項5】
前記親水性高分子が酸無水物基を有する高分子、酸無水物基を有する高分子とヒドロキシル基を有する物質との架橋物、酸無水物基を有する高分子とアミノ基を有する物質との架橋物のいずれかであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の医療器具。
【請求項6】
チューブ形状の基材の外周面及び内周面の一面もしくは両面に湿潤時に潤滑性を示す架橋膜を生成する医療器具の製造方法であって、
前記基材の架橋膜を生成する架橋面を表面改質処置により基材側の官能基を有する表面改質層に改質する表面改質工程と、
前記表面改質工程で改質された前記架橋面に、親水性高分子と、紫外線の照射により活性化する紫外線官能基及び熱により活性化する熱官能基の少なくとも二つの反応性官能基を有するモノマーとの混合塗布液を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程にて塗布された混合塗布液に紫外線を照射する紫外線照射工程と、
前記塗布工程にて塗布された混合塗布液に加熱をする加熱工程と
を備えることを特徴とする医療器具の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−273555(P2009−273555A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125750(P2008−125750)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】