説明

医療機器

【課題】歪率7%の大変形を受けても永久歪が残らず、歪率7%を超える変形を与えることにより賦形することができ、該変形により賦形された部分も超弾性を保ち、金属アレルギー症状のおそれのない医療現場において使い勝手のよい医療機器を提供する。
【解決手段】生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、Nb、Ta、Moの1種又は2種以上を、Nbは35mol%以下、Taは45mol%以下、Moは7mol%以下含有し、さらにZrを30mol%以下含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる合金の中で、Nb当量(mol%)=Nb(mol%)+0.6×Ta(mol%)+4×Mo(mol%)+0.7×Zr(mol%)からなる全Nb当量が10mol%以上35mol%以下になる生体用超弾性チタン合金よりなる医療機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器に関する。さらに詳しくは、本発明は、歪率7%の大変形を受けても永久歪が残らず、歪率7%を超える変形を与えることにより賦形することができ、該変形により賦形された部分も超弾性を保ち、金属アレルギー症状のおそれのない医療現場において使い勝手のよい医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超弾性合金が医療機器分野で広く用いられはじめた。例えば、Ni−Ti系合金は、弾性係数が小さく、大きい歪を与えても外力を除くと元に戻り、曲がり癖がつきにくく、耐食性に優れ、耐摩耗性が大きいので、経皮的冠動脈形成術(PTCA)に用いる拡張カテーテルを導くガイドワイヤーとして用いられている。しかし、Niは、体内において溶出するとアレルギー症状を起こす可能性があることが懸念されている。また、Ni−Ti系超弾性合金は、弾性限度を超えて変形させ、永久歪を与えると、永久歪が発生した部分では超弾性が失われるために、医療機器として使い勝手がよくない面もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、歪率7%の大変形を受けても永久歪が残らず、歪率7%を超える変形を与えることにより賦形することができ、該変形により賦形された部分も超弾性を保ち、金属アレルギー症状のおそれのない医療現場において使い勝手のよい医療機器を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、Niを含有しないNb−Ti系合金は、金属アレルギー症状を生ずるおそれがなく、歪率7%の大変形を受けても永久歪が残らず、歪率7%を超える変形を与えることによって賦形することができ、該変形により賦形された部分も超弾性を保つことを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上を、Nbは35mol%以下、Taは45mol%以下、Moは7mol%以下含有し、さらにZrを30mol%以下含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる合金の中で、Nb当量(mol%)=Nb(mol%)+0.6×Ta(mol%)+4×Mo(mol%)+0.7×Zr(mol%)からなる全Nb当量が10mol%以上35mol%以下になる生体用超弾性チタン合金よりなることを特徴とする医療機器、
(2)生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素より1種又は2種以上を合計で1〜10mol%の範囲で含有し、又はO、N、B、C、H、Siからなる浸入型元素より1種又は2種以上を合計で0.01〜2mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金よりなる(1)記載の医療機器、
(3)生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、O、N、B、C、H、Siからなる浸入型元素より1種又は2種以上を合計で0.01〜2mol%の範囲で含有し、さらに、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素より1種又は2種以上を合計で1〜5mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金よりなる(1)記載の医療機器、
(4)生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素とSnより1種又は2種以上を合計で1〜10mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金よりなる(1)記載の医療機器、
(5)生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、O、N、B、C、H、Siからなる浸入型元素より1種又は2種以上を合計で0.01〜2mol%の範囲で含有し、さらに、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素とSnより1種又は2種以上を合計で1〜5mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金よりなる(1)記載の医療機器、
(6)予め賦形されてなる(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の医療機器、
(7)室温において、歪率7%を超える変形を与えることにより、賦形されてなる(6)記載の医療機器、
(8)400℃以上、融点未満に加熱することにより、賦形されてなる(6)記載の医療機器、
(9)医療機器が、先端側及び手元側を有するガイドワイヤーであって、コアワイヤーを有し、先端から30mmのコアワイヤーの外径が0.3mm以下であり、先端から30mmから300mmまでの外径が0.10〜0.45mmである(1)乃至(8)のいずれか1項に記載の医療機器、
(10)医療機器が先端側及び手元側を有するガイドワイヤーであって、コアワイヤーと先端付近に固定されたコイルとからなる(1)乃至(9)のいずれか1項に記載の医療機器、
(11)医療機器がスタイレットであって、構成する金属の外径が0.5mm以下である(1)乃至(8)のいずれか1項に記載の医療機器、
(12)医療機器がカテーテルの補強用芯線であって、構成する金属の外径が0.5mm以下である(1)乃至(8)のいずれか1項に記載の医療機器、及び、
(13)医療機器が生体矯正材料であって、生体に沿わせて保持され、生体の変形を矯正する(1)乃至(8)のいずれか1項に記載の医療機器、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の医療機器は、金属アレルギー症状の原因とされるNiを含有しないので、患者に対して安全に使用することができる。本発明の医療機器は、歪率7%の大変形を受けても永久歪が残らないので、曲がり癖がつきにくく、歪率7%を超える変形を与えることによって賦形することができ、変形により賦形された部分も超弾性を保つので、医療現場において、患者の血管の形状などに合わせて術前に医療機器に賦形し、手術などを安全かつ容易に施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の医療機器は、生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上を、Nbは35mol%以下、Taは45mol%以下、Moは7mol%以下含有し、さらにZrを30mol%以下含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる合金の中で、Nb当量(mol%)=Nb(mol%)+0.6×Ta(mol%)+4×Mo(mol%)+0.7×Zr(mol%)からなる全Nb当量が10mol%以上35mol%以下になる生体用超弾性チタン合金よりなる医療機器である。本発明の医療機器は、大変形を受ける部位のみを、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上を、Nbは35mol%以下、Taは45mol%以下、Moは7mol%以下含有し、さらにZrを30mol%以下含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる合金の中で、全Nb当量が10mol%以上35mol%以下になる生体用超弾性チタン合金とすることができ、あるいは、大変形を受けない部位も、該生体用超弾性チタン合金とすることもできる。全Nb当量が10mol%未満であっても、35mol%を超えても、形状回復性が低下し、歪率7%の変形により永久歪が残るおそれがある。
本発明の医療機器は、大変形を受ける部位の組成を、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素より1種又は2種以上を合計で1〜10mol%の範囲で含有し、又はO、N、B、C、H、Siからなる浸入型元素より1種又は2種以上を合計で0.01〜2mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金とすることができる。Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素より1種又は2種以上を合計で1〜10mol%の範囲で含有させることにより、形状回復性と加工性を向上することができる。Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素より1種又は2種以上の合計の含有量が1mol%以下であると、形状回復性と加工性の向上効果が十分に発現しないおそれがある。Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素より1種又は2種以上の合計の含有量が10mol%を超えると、形状回復性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明の医療機器は、大変形を受ける部位の組成を、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、O、N、B、C、H、Siからなる浸入型元素より1種又は2種以上を合計で0.01〜2mol%の範囲で含有し、さらに、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素より1種又は2種以上を合計で1〜5mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金とすることができる。
本発明の医療機器は、大変形を受ける部位の組成を、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素とSnより1種又は2種以上を合計で1〜10mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金とすることができる。
本発明の医療機器は、大変形を受ける部位の組成を、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、O、N、B、C、H、Siからなる浸入型元素より1種又は2種以上を合計で0.01〜2mol%の範囲で含有し、さらに、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素とSnより1種又は2種以上を合計で1〜5mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金とすることができる。
【0008】
本発明の医療機器は、歪率1.5〜7%の大変形を受ける医療機器として使用する。医療機器が受ける変形は、多くの場合曲げ変形であるので、線材の曲げ変形を例に挙げて歪率を説明する。図1は、歪率の算出方法の説明図である。半径r(mm)の線材が曲率半径R(mm)の半円形を形成して180度曲げられた場合、半円形の外周部分は引張により伸びて長さがπ(R+r)(mm)となり、半円形の内周部分は圧縮により縮んで長さがπ(R−r)(mm)となる。半円形の外周部分も、内周部分も、曲げ変形を受ける前の長さはπR(mm)なので、歪率は次式により表される。
歪率(%)= {[π(R+r)−π(R−r)]/πR}×100= (2r/R)×100
すなわち、半径r(mm)の線材に対して、歪率1.5%に相当する曲率半径R(mm)は、R=133rであり、歪率7%に相当する曲率半径R(mm)は、R=28.6rである。線材のみならず、平板についても、同様にして歪率を算出することができる。
医療機器が受ける変形の歪率が1.5%未満である場合は、ステンレス鋼などの従来から用いられている材料でも、曲がり癖などは付きにくいので、本発明の医療機器を使用する必要性は大きくない。医療機器が受ける変形の歪率が7%を超える場合は、本発明の医療機器であっても形状回復性が不足し、曲がり癖などが付くおそれがあるので、使用を避けることが好ましい。
【0009】
本発明の医療機器は、あらかじめ賦形されてなることが好ましい。本発明の医療機器は、製造工程においてあらかじめ賦形して出荷することができ、あるいは、施術に際して、術者が患者の体腔などの形状に合わせてあらかじめ賦形したのち、医療機器を使用することもできる。
本発明の医療機器は、室温において、歪率7%を超える変形を与えることにより賦形することができる。本発明の医療機器は、歪率7%以下の変形であれば永久歪が残ることなく形状が回復するが、歪率7%を超える変形を与えると弾性限度を超えて永久歪が残り、賦形することができる。患者に手術を施すとき、手術室で術者が患者の血管などの形状に合わせて医療機器をあらかじめ賦形し、円滑に施術を進めることが可能であり、例えば、PTCAガイドワイヤーなどのように微妙な調整が必要とされる場合に特に好適に適用することができる。本発明の医療機器は、歪率7%を超える変形を与えることにより賦形した部分も、本来の形状回復性を保持するので、使い勝手が良好である。
本発明の医療機器は、400℃以上、融点未満に加熱することにより賦形することができる。本発明の医療機器は、例えば、製造工程において所定の型に嵌め、400℃以上、融点未満に加熱することにより、型の形状に賦形することができる。加熱温度が400℃未満であると、安定した賦形が困難となるおそれがある。この方法は、例えば、造影ガイドワイヤーなどのように、形状が比較的単純で普遍的な医療機器に適用することができる。製造工程において賦形された医療機器であっても、術者がさらに形状を変更したいと感じた場合には、さらに歪率7%を超える変形を与えて賦形しなおすことができる。
【0010】
本発明の医療機器は、コアワイヤーを有し、先端から30mmのコアワイヤーの外径が0.3mm以下であり、先端から30mmから300mmまでの外径が0.10〜0.45mmである先端側及び手元側を有するガイドワイヤーとすることができる。本発明の医療機器は、優れた形状回復性を有し、強度が大きいので、先端から30mmのコアワイヤーの外径が0.3mm以下であり、先端から30mmから300mmまでの外径が0.10〜0.45mmであっても、血管内を安定して押し進めることができる。本態様のガイドワイヤーは、血管造影用などの造影ガイドワイヤーとして好適に用いることができる。
本発明の医療機器は、コアワイヤーと先端付近に固定されたコイルとからなり、先端側及び手元側を有するガイドワイヤーとすることができる。図2は、本態様のガイドワイヤーのコアワイヤーの側面図及びコアワイヤーの先端付近にコイルを固定した状態を示す側面図である。本態様のコアワイヤー1は、先端側小径部2と、先端側小径部よりも外径の大きい手元側大径部3とからなり、先端に略半球形のチップ4が設けられている。コアワイヤーの先端側小径部は、コイル5に覆われ、コイルの先端部の素線がPt−W合金線6からなり、コイルの先端部を除く部分の素線が、ステンレス鋼線7からなる。本態様のガイドワイヤーは、先端部にX線不透過性のPt−W合金線からなるコイルを有するので、造影性が良好である。また、コアワイヤーの先端側小径部がコイルに覆われているので、術者が施術前に患者の血管の形状に合わせて微妙な形状にあらかじめ賦形し、円滑に手術を進めることができる。
ガイドワイヤーは、体腔内に挿入する前に、先端に曲率半径1mm以下の急角度で変形させる。これで病変部を探っていくときは、曲率半径5mm前後で変形されるが、本発明の医療機器であるガイドワイヤーは、永久歪を生ずることがなく、性能が低下しない。
【0011】
本発明の医療機器は、構成する金属線材の外径が0.5mm以下であるスタイレットとすることができる。図3は、本態様のスタイレットの側面図である。本態様のスタイレットは、スタイレット本体8、先端部9及び手元ハンドル10からなる。本発明の医療機器に用いる金属線材は、強度が大きく、優れた形状回復性を有するので、外径が0.5mm以下であっても、スタイレットによってカテーテルの形状を任意に屈曲させ、患者の咽頭展開時の気道形態に合わせて、容易に挿管することができる。
本発明の医療機器は、構成する金属線材の外径が0.5mm以下であるカテーテル用の補強用芯線とすることができる。本発明の医療機器に用いる金属線材は、強度が大きく、優れた形状回復性を有するので、外径が0.5mm以下であっても、血管カテーテル、脳室ドレナージカテーテルなどの各種のカテーテルの形状を自由に屈曲させ、体腔内へ容易に安定して進めることができる。
本発明の医療機器は、生体に沿わせて保持され、生体の変形を矯正する生体矯正材料とすることができる。このような生体矯正材料としては、例えば、歯列矯正ワイヤー、鷹爪矯正板などを挙げることができる。本発明の医療機器は、優れた形状回復性を有するので、無荷重のとき略直線状のワイヤーを装着し、比較的小さい一定の応力で、広い歪範囲で効果的に歯列を矯正することができる。また、食物や唾液が嚥下されるばかりでなく、歯列矯正ワイヤーは、食物との間で機械的な力を受ける接触を伴うが、Niの溶出がない本発明の医療機器は、金属アレルギー症状を引き起こすおそれがなく、安全に使用することができる。鷹爪矯正板は、変形した爪に張り付けて爪を正常な形状に矯正する用具である。本発明の医療機器は、比較的小さい一定の応力で、広い歪範囲で効果的に爪の形状を矯正することができる。
本発明の医療機器は、優れた形状回復性を有し、必要に応じて大変形を与えて賦形したのちも、変形部分がなお形状回復性を有し、型崩れしないので、使い勝手がよい。
【実施例】
【0012】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、ガイドワイヤーの評価は下記の方法により行った。
(1)形付け性
直径1mmの注射針に巻きつけてしごき、形付け性を目視により観察した。
◎:容易に形付けができる。
○:力を入れれば形付けができる。
△:形付けしにくい(折るような変形を加えないと形付けができない)。
×:全く形付けできない。
(2)形崩れ
病変部通過時の変形を模して、ポリテトラフルオロエチレン製の曲率半径5mmのS字回路にガイドワイヤー先端50mmを100回押し引きし、その後の変形を目視により観察した。
◎:最初の形が保持されている(全く形が崩れない)。
○:多少のゆがみが見られる程度である。
△:大きく形が崩れるが、血管の分岐は選択できる。
×:大きく形崩れしている(血管の分岐が選択できない程に形が崩れる)。
(3)トルク伝達性
図4に示す人の冠状動脈を模したポリテトラフルオロエチレン製のモデルを37℃の恒温水槽に浸漬し、モデル内にガイドワイヤーを挿入し、湾曲を与えた状態でガイドワイヤーの手元側を、モーターにより時計回り方向に720度回転させたときの先端の状態を観察した。
◎:回転の追従性が極めてよく滑らかである(手元と先端の回転が常に1:1で回転する)。
○:多少追従性のおくれがあるが、従来品より良い(0〜90°回転させたときの追従性は劣るものの、それ以外はほぼ1:1で回転する)。
△:0〜90°の追従性が劣り、以降の回転にもむらがある。
×:0〜90°の追従性が劣り、720°回転させても先端は360°以下しか回転しない。
(4)通過性
図4に示す人の冠状動脈を模したポリテトラフルオロエチレン製の模擬回路に5mm/secでガイドワイヤーを通し、ガイドワイヤーの状態を観察した。
◎:5g以下の抵抗値でもスムーズに進む。
○:10g以下の抵抗値でスムーズに進む。
△:スムーズには進まないが何とか通せる。
×:押し込んでも押し戻される。
(5)造影性
幅200mmの水槽を吸収体として人間の胸部に見立て、水槽の外側の壁にガイドワイヤーの先端部を取り付け、電流1.0mA、電圧85kVでX線を照射し、造影性の強弱を観察した。
◎:明確にX線不透過部が視認できる。
○:一応視認できる。
△:かすかに視認できる。
×:全く視認できない。
【0013】
また、実施例及び比較例において、スタイレットの評価は下記の方法により行った。
(1)形付け性
直径5mmの円筒に巻きつけ、形付け性を目視により観察した。
◎:容易に形付けができる。
○:力を入れれば形付けができる。
△:形付けしにくい(径を小さくすれば形付けできる)。
×:全く形付けできない。
(2)形崩れ
病変部通過時の変形を模して、ポリテトラフルオロエチレン製の曲率半径5mmのS字回路にスタイレット先端50mmを100回押し引きし、その後の変形を目視により観察した。
◎:最初の形が保持されている(全く形が崩れない)。
○:多少のゆがみが見られる程度である(若干形が崩れる)。
△:かなり形崩れがある(スタイレットの機能は残存している)。
×:大きく形崩れしている(スタイレットの機能は残存しない)。
(3)トルク伝達性
図4に示す人の冠状動脈を模したポリテトラフルオロエチレン製のモデルを37℃の恒温水槽に浸漬し、モデル内にスタイレットを挿入し、湾曲を与えた状態でスタイレットの手元側を、モーターにより時計回り方向に720度回転させたときの先端の状態を観察した。
◎:回転の追従性が極めてよく滑らかである。
○:多少追従性のおくれがあるが、従来品より良い。
△:おくれがあり、従来品より悪い。
×:跳ねが生じ使えない(720°回転させても先端は360°以下しか回転しない)。
(4)通過性
ペーシングリード[日本ガイダント(株)、ENDOTAK DSP]に、5mm/secでスタイレットを通し、手元のハンドルの荷重を測定した。
◎:荷重が50g未満でスムーズに到達できる。
○:荷重が50g以上を要するが目標にスムーズに到達する。
△:荷重が50g以上でなんとか到達するが押し込みはスムーズではない。
×:荷重が50g以上でも目標に到達できない。
(5)造影性
幅200mmの水槽を吸収体として人間の胸部に見立て、水槽の外側の壁にスタイレットの先端部を取り付け、電流1.0mA、電圧85kVでX線を照射し、造影性の強弱を観察した。
◎:明確に視認できる。
○:一応視認できる。
△:かすかに視認できる。
×:全く視認できない。
【0014】
また、実施例及び比較例において、カテーテルの補強用芯線の評価は下記の方法により行った。
(1)形付け性
カテーテルの先端部を2mmφの丸棒に巻きつけ、Rづけを行った。このときの形付け性の容易性を目視により判定した。
◎:補強用芯線を歪めず、一回で簡単に丸みが付けられる。
○:力を入れれば形付けができる。
△:形付けしにくい。
×:全く形付けできない。
(2)形崩れ
スタイレットの評価方法と同様に、ポリテトラフルオロエチレン製の曲率半径5mmのS字回路に先端部を100回押し引きし、その後の変形を目視により観察した。
◎:最初の形が保持されている。
○:多少のゆがみが見られる程度である。
△:かなり形崩れがある(補強用芯線の機能は残存している)。
×:大きく形崩れしている(補強用芯線の機能は残存しない)。
(3)トルク伝達性
図4に示す人の冠状動脈を模したポリテトラフルオロエチレン製のモデルを37℃の恒温水槽に浸漬し、モデル内に補強用芯線を挿入したカテーテルを挿入し、湾曲を与えた状態で補強用芯線の手元側を、モーターにより時計回り方向に720度回転させたときの先端の追従性状態を観察した。
◎:回転の追従性が極めてよく滑らかである。
○:多少追従性のおくれがあるが、従来品より良い。
△:おくれがあり、従来品より悪い。
×:跳ねが生じ使えない。
(4)通過性
内径3mmの、R=5、10、40mmの半円を連結し、直線部90cmを有する模擬回路を作製した。37℃の恒温水槽中で、上記模擬回路に補強用芯線を有するカテーテルを挿入し、その抵抗を観察した。
◎:最初の形が保持されている。
○:多少ゆがみが見られる程度である。
△:かなり形崩れがある。
×:大きく形崩れしている。
(5)造影性
スタイレットの評価方法と同様に、幅200mmの水槽の外側の壁に補強用芯線を挿入したカテーテルの先端部を取り付け、電流1.0mA、電圧85kVでX線を照射し、造影性の強弱を観察した。
◎:明確に視認できる。
○:一応視認できる。
△:かすかに視認できる。
×:全く視認できない。
【0015】
実施例1
Ti、Nb、Ta、Mo系超弾性チタン合金の線材を作製し、形状回復性をしらべた。
第1表に示す合金組成のTi、Nb、Ta、Mo系合金鋳塊を、非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて作製した。この合金鋳塊に熱間加工を施し、次いで700℃、10分間保持の中間焼鈍及び冷間伸線加工を繰り返し行い、直径1.0mmの超弾性チタン合金の線材を得た。
半径14.3mmのステンレス鋼棒を、直径1.0mmの線材の歪率7%に対する基準棒として準備した。さらに、直径1.0mmの線材に対して、歪率7%を超える変形を与えるために、半径12.5mm(歪率8.0%)、半径10.0mm(歪率10.0%)、半径7.5mm(歪率13.3%)、半径6.0mm(歪率16.6%)及び半径5.0mm(歪率20.0%)の5本のステンレス鋼棒を変形棒として準備した。
超弾性チタン合金の線材を、半径の大きい変形棒にあてがって90度曲げたのち、曲げ部分を基準棒にあてがって、曲げ部分が基準棒の表面と同じ曲率半径を有するか否かをしらべた。曲げが不足している場合は、半径の小さい変形棒に順次あてがって90度曲げ、線材の曲げ部分と基準棒の表面の曲率半径が等しい歪率7%の線材を作製した。
歪率7%の線材を内径1.5mmの直線状のステンレス鋼チューブに通したのち、Rゲージを用いて線材の曲げ部分の曲率半径を測定し、曲率半径14.3mm以上16.7mm未満(歪率7%未満6%以上)を ◎、曲率半径16.7mm以上25.0mm未満(歪率6%未満4%以上)を ○、曲率半径25.0mm以上(歪率4%未満)を × として評価した。
比較例1
実施例1と同様にして、第1表に示す合金組成のTi、Nb、Ta、Mo系チタン合金の線材を作製し、形状回復性をしらべた。
実施例1及び比較例1の結果を、第1表に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
第1表に見られるように、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上を、Nb35mol%以下、Ta45mol%以下、Mo7mol%以下含有し、全Nb当量が15mol%以上35mol%以下である実施例1の超弾性チタン合金は、すべて優秀又は良好な形状回復性を備えている。これに対して、全Nb当量が5mol%である比較例1のNo.122のチタン合金、全Nb当量が45mol%であるNo.123のチタン合金、全Nb当量が58mol%であるNo.124のチタン合金は、いずれも形状回復性が不良である。
実施例2
実施例1と同様にして、第2表に示す合金組成のTi、Nb、Ta、Mo、Zr系超弾性チタン合金の線材を作製し、形状回復性をしらべた。
比較例2
実施例1と同様にして、第2表に示す合金組成のTi、Nb、Ta、Mo、Zr系チタン合金の線材を作製し、形状回復性をしらべた。
実施例2及び比較例2の結果を、第2表に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
第2表に見られるように、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上を、Nb35mol%以下、Ta10mol%以下、Mo6mol%以下含有し、さらにZr30mol%以下含有し、全Nb当量が17mol%以上32.7mol%以下である実施例2の超弾性チタン合金は、すべて優秀又は良好な形状回復性を備えている。これに対して、全Nb当量が33mol%であってもZr含有量が40mol%である比較例2のNo.125のチタン合金、全Nb当量が45mol%であるNo.126のチタン合金、全Nb当量が58mol%であるNo.127のチタン合金は、いずれも形状回復性が不良である。
実施例3
実施例1と同様にして、第3表に示す合金組成のTi、Nb、Ta、Mo、Zr、Al、Ga、Ge、In系超弾性チタン合金の線材を作製し、形状回復性をしらべた。
比較例3
実施例1と同様にして、第3表に示す合金組成のTi、Nb、Ta、Mo、Zr、Al、Ga、Ge系チタン合金の線材を作製し、形状回復性をしらべた。
実施例3及び比較例3の結果を、第3表に示す。
【0020】
【表3】

【0021】
第3表に見られるように、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを、全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲で含有し、α安定化元素であるAl、Ga、Ge、Inを1〜10mol%の範囲で含有する実施例3の超弾性チタン合金は、すべて優秀又は良好な形状回復性を備えている。これに対して、全Nb当量が20mol%であっても、Al15mol%を含有する比較例3のNo.128のチタン合金、全Nb当量が40mol%であるNo.129のチタン合金、全Nb当量が25.5mol%であっても、AlとGaとGeを合計して15mol%含有するNo.130のチタン合金は、いずれも形状回復性が不良である。
実施例4
実施例1と同様にして、第4表に示す合金組成のTi、Nb、Ta、Mo、Zr、Au、Ag、Pd、Pt系超弾性チタン合金の線材を作製し、形状回復性をしらべた。
比較例4
実施例1と同様にして、第4表に示す合金組成のTi、Nb、Ta、Mo、Zr、Au、Ag、Pd系チタン合金の線材を作製し、形状回復性をしらべた。
実施例4及び比較例4の結果を、第4表に示す。
【0022】
【表4】

【0023】
第4表に見られるように、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを、全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲で含有し、貴金属元素であるAu、Ag、Pd、Ptを1〜10mol%の範囲で含有する実施例4の超弾性チタン合金は、すべて優秀又は良好な形状回復性を備えている。これに対して、全Nb当量が20mol%であっても、Au15mol%を含有する比較例4のNo.131のチタン合金、全Nb当量が40mol%であるNo.132のチタン合金、全Nb当量が25.5mol%であっても、AuとAgとPdを合計して15mol%含有するNo.133のチタン合金は、いずれも形状回復性が不良である。
【0024】
実施例5
図2に示すガイドワイヤーを作製し、評価を行った。
材料として、Nb20mol%、Ti80mol%の超弾性チタン合金を用い、長さ2,000mmのコアワイヤーを作製した。コアワイヤーの外径は、先端から5mmまでが0.03mm、先端から5mmから30mmまでが0.03〜0.07mm、先端から30mmから300mmまでが0.07〜0.2mm、先端から300mmから手元までが0.2〜0.35mmとした。コアワイヤーの表面を、ポリイミドを用いて厚さ1μmにコーティングし、さらに、重量平均分子量200万のポリエチレンオキシドを、トリレンジイソシアナートを用いて結合した。
コアワイヤーの先端側に、SUS304からなる線径0.06mm、コイル外径0.35mm、コイル長200mmの非造影コイルを取り付け、非造影コイルに続けて、さらに先端側に、Pt93mol%とIr7mol%の合金からなる線径0.06mm、コイル外径0.35mm、コイル長20mmの造影コイルを取り付けた。コアワイヤーの先端に、直径0.35mmの半球形の銀蝋のチップをろう付けした。次いで、コイル部にポリテトラフルオロエチレンを厚さ2μmに焼き付け塗装し、ガイドワイヤーを完成した。
得られたガイドワイヤーは、形付け性試験において、比較的簡単に丸みがついた。形崩れ試験において、最初の形が保存されていた。トルク伝達性試験において、回転の追従性が極めてよく、滑らかであった。通過性試験において、5g以下の抵抗値でもスムーズに通過した。造影性試験において、明確にX線不透過部が視認できた。
比較例5
コアワイヤーの材料としてSUS304を用いた以外は、実施例1と同様にしてガイドワイヤーを作製し、評価を行った。
得られたガイドワイヤーは、形付け性試験において、ガイドワイヤーを歪めず、一回で簡単に丸みがつけられた。形崩れ試験において、かなり形崩れがあった。トルク伝達性試験において、追従性が劣り、回転むらが多く、従来品より悪かった。通過性試験において、ゆがみが見られた。造影性試験において、従来のNiTi/Ptコイル品なみで、一応視認できる程度であった。
比較例6
コアワイヤーの材料としてNi50mol%とTi50mol%の超弾性合金を用いた以外は、実施例1と同様にしてガイドワイヤーを作製し、評価を行った。
得られたガイドワイヤーは、形付け性試験において、形付けしにくかった。形崩れ試験において、最初の形が保持されていた。トルク伝達性試験において、回転の追従性は、滑らかであった。通過性試験において、最初の形が保持されていた。造影性試験において、従来のSUS/Ptコイル品なみであった。
実施例5及び比較例5〜6の結果を、第5表に示す。
【0025】
【表5】

【0026】
第5表に見られるように、コアワイヤーにNb−Ti合金を用いた実施例5のガイドワイヤーは、材料にNiを含有せず、形付け性が良好であり、形崩れ、トルク伝達性、通過性及び造影性が非常に良好である。これに対して、コアワイヤーにSUS304を用いた比較例5のガイドワイヤーは、材料がNi14mol%を含み、形付け性が非常に良好であるが、形崩れ、トルク伝達性、通過性が不良である。また、コアワイヤーにNi−Ti超弾性合金を用いた比較例6のガイドワイヤーは、材料がNi50mol%を含み、形付け性が不良である。
【0027】
実施例6
コアワイヤーの材料として、Nb30mol%、Ti70mol%の超弾性チタン合金を用いた以外は、実施例5と同様にして、ガイドワイヤーを作製した。
得られたガイドワイヤーは、形付け性試験において、比較的簡単に丸みがついた。形崩れ試験において、最初の形が保存されていた。トルク伝達性試験において、回転の追従性が極めてよく、滑らかであった。通過性試験において、最初の形が保持されていた。造影性試験において、明確にX線不透過部が視認できた。
比較例7
コアワイヤーの材料として、Nb5mol%、Ti95mol%のチタン合金を用いた以外は、実施例5と同様にして、ガイドワイヤーを作製した。
得られたガイドワイヤーは、形付け性試験において、ガイドワイヤーを歪めず、一回で簡単に丸みがつけられた。形崩れ試験において、かなり形崩れがあった。トルク伝達性試験において、追従性に劣り、従来品より悪かった。通過性試験において、ゆがみが見られた。造影性試験において、従来のNiTi/Ptコイル品なみであった。
比較例8
コアワイヤーの材料として、Nb45mol%、Ti55mol%のチタン合金を用いた以外は、実施例5と同様にして、ガイドワイヤーを作製した。
得られたガイドワイヤーは、形付け性試験において、ガイドワイヤーを歪めず、一回で簡単に丸みがつけられた。形崩れ試験において、かなり形崩れがあった。トルク伝達性試験において、追従性に劣り、従来品より悪かった。通過性試験において、かなり形崩れがあった。造影性試験において、従来のNiTi/Ptコイル品なみであった。
実施例6及び比較例7〜8の結果を、第6表に示す。
【0028】
【表6】

【0029】
第6表に見られるように、コアワイヤーにNb含有量30mol%のNb−Ti合金を用いた実施例6のガイドワイヤーは、形付け性が良好であり、形崩れ、トルク伝達性、通過性及び造影性が非常に良好である。これに対して、コアワイヤーにNb含有量5mol%のNb−Ti合金を用いた比較例7のガイドワイヤーと、Nb含有量45mol%のNb−Ti合金を用いた比較例8のガイドワイヤーは、形付け性が非常に良好であるが、形崩れ、トルク伝達性、通過性が不良である。
【0030】
実施例7
図3に示すスタイレットを作製し、評価を行った。
材料として、Nb10mol%、Ta5mol%、Mo0.5mol%、Zr5mol%、Al3mol%、Ga2mol%、Ti74.5mol%の超弾性チタン合金を用い、長さ610mmのスタイレットを作製した。手元ハンドルは、ポリカーボネート樹脂で作製した。スタイレットの外径は、先端から1mmまでが0.35mm、先端から1mmから50mmまでが0.2〜0.35mm、先端から50mmから手元ハンドルまでが0.35mmとした。
得られたスタイレットは、形付け性試験において、比較的簡単に丸みがついた。形崩れ試験において、最初の形が保持されていた。トルク伝達性試験において、多少追従性のおくれがあるが、従来品よりよかった。通過性試験において、最初の形が保持されていた。造影性試験において、明確にX線不透過部が視認できた。
比較例9
材料としてSUS304を用いた以外は、実施例7と同様にしてスタイレットを作製し、評価を行った。
得られたスタイレットは、形付け性試験において、スタイレットを歪めず、一回で簡単に丸みがつけられたが、形崩れ試験において、かなり形崩れがあった。トルク伝達性試験において、跳ねが生じて使えなかった。通過性試験においても、かなり形崩れがあった。造影性試験において、従来のNiTi/Pt品なみであった。
実施例7及び比較例9の結果を、第7表に示す。
【0031】
【表7】

【0032】
第7表に見られるように、Nb−Ti合金を用いた実施例7のスタイレットは、材料にNiを含有せず、形崩れ、通過性が非常に良好であり、形付け性、トルク伝達性、造影性が良好である。これに対して、SUS304を用いた比較例9のスタイレットは、材料がNi14mol%を含み、形付け性が非常に良好であるが、形崩れと通過性が不良であり、トルク伝達性も不良である。
【0033】
実施例8
材料として、Nb15mol%、Ta5mol%、Mo1mol%、Zr5mol%、Au5mol%、Ti69mol%の超弾性チタン合金を用い、長さ120cm、外径0.34mmのカテーテルの補強用芯線を作製し、その先端部30cmを0.15mmまで先端に向かってテーパー状に細径化した。
得られたカテーテルの補強用芯線を、長さ120cm、外径1mmのマイクロカテーテルの手元側から挿入し、カテーテルの補強用芯線として用いた。本補強用芯線は、形付け性試験において、比較的簡単に丸みがついた。形崩れ試験において、最初の形が保持されていた。トルク伝達性試験において、多少追従性のおくれがあるが、従来品よりよかった。通過性試験において、最初の形が保持されていた。造影性試験において、明確にX線不透過部が視認できた。
比較例10
材料として、SUS304を用いた以外は、実施例8と同様にして、カテーテルの補強用芯線を作製した。
得られたカテーテルの補強用芯線は、形付け性試験において、補強用芯線を歪めず、一回で簡単に丸みがつけられたが、形崩れ試験においては、かなり形崩れがあった。トルク伝達性試験において、跳ねが生じて使えなかった。通過性試験においても、かなり形崩れがあった。造影性試験において、従来のNiTi/Pt品なみであった。
比較例11
材料として、Nb20mol%、Au15mol%、Ti65mol%のチタン合金を用いた以外は、実施例8と同様にして、カテーテルの補強用芯線を作製した。
得られたカテーテルの補強用芯線は、形付け性試験において、形付けができなかった。形崩れ試験においても、大きく形崩れしていた。トルク伝達性試験において、跳ねが生じ使えなかった。通過性試験において、かなり形崩れがあった。造影性試験において、従来のNiTi/Ptコイル品なみであった。
実施例8及び比較例10〜11の結果を、第8表に示す。
【0034】
【表8】

【0035】
第8表に見られるように、全Nb当量25.5mol%、Au含有率5mol%のNb−Ti合金を用いた実施例8のカテーテルの補強用芯線は、形崩れと通過性が非常に良好であり、形付け性、トルク伝達性、造影性が良好である。SUS304を用いた比較例10のカテーテルの補強用芯線は、材料がNi14mol%を含み、形崩れと通過性が不良であり、トルク伝達性も不良である。全Nb当量が20mol%であっても、Au含有率15mol%のチタン合金を用いた比較例11のカテーテルの補強用芯線は、形付け性、形崩れ、トルク伝達性が不良であり、通過性もやや不良である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の医療機器は、金属アレルギー症状の原因とされるNiを含有しないので、患者に対して安全に使用することができる。本発明の医療機器は、歪率7%の大変形を受けても永久歪が残らないので、曲がり癖がつきにくく、歪率7%を超える変形を与えることによって賦形することができ、変形により賦形された部分も超弾性を保つので、医療現場において、患者の血管の形状などに合わせて術前に医療機器に賦形し、手術などを安全かつ容易に施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】歪率の算出方法の説明図である。
【図2】ガイドワイヤーの側面図である。
【図3】スタイレットの側面図である。
【図4】冠状動脈モデルの説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 コアワイヤー
2 先端側小径部
3 手元側大径部
4 チップ
5 コイル
6 Pt−W合金線
7 ステンレス鋼線
8 スタイレット本体
9 先端部
10 手元ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上を、Nbは35mol%以下、Taは45mol%以下、Moは7mol%以下含有し、さらにZrを30mol%以下含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる合金の中で、Nb当量(mol%)=Nb(mol%)+0.6×Ta(mol%)+4×Mo(mol%)+0.7×Zr(mol%)からなる全Nb当量が10mol%以上35mol%以下になる生体用超弾性チタン合金よりなることを特徴とする医療機器。
【請求項2】
生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素より1種又は2種以上を合計で1〜10mol%の範囲で含有し、又はO、N、B、C、H、Siからなる浸入型元素より1種又は2種以上を合計で0.01〜2mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金よりなる請求項1記載の医療機器。
【請求項3】
生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、O、N、B、C、H、Siからなる浸入型元素より1種又は2種以上を合計で0.01〜2mol%の範囲で含有し、さらに、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素より1種又は2種以上を合計で1〜5mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金よりなる請求項1記載の医療機器。
【請求項4】
生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素とSnより1種又は2種以上を合計で1〜10mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金よりなる請求項1記載の医療機器。
【請求項5】
生体に挿入、留置、或いは取出し時のいずれかの時点で、歪率1.5%〜7%の大変形を受ける部位を有する医療機器であって、大変形を受ける部位の組成が、チタンのβ安定化元素であるNb、Ta、Moの1種又は2種以上とZrを全Nb当量が10mol%以上35mol%以下の範囲になるように添加した合金において、O、N、B、C、H、Siからなる浸入型元素より1種又は2種以上を合計で0.01〜2mol%の範囲で含有し、さらに、Al、Ga、Ge、Inからなるα安定化元素とAu、Ag、Pd、Ptからなる貴金属元素とSnより1種又は2種以上を合計で1〜5mol%の範囲で含有し、残部のチタンと、不可避的不純物とからなる生体用超弾性チタン合金よりなる請求項1記載の医療機器。
【請求項6】
予め賦形されてなる請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項7】
室温において、歪率7%を超える変形を与えることにより、賦形されてなる請求項6記載の医療機器。
【請求項8】
400℃以上、融点未満に加熱することにより、賦形されてなる請求項6記載の医療機器。
【請求項9】
医療機器が、先端側及び手元側を有するガイドワイヤーであって、コアワイヤーを有し、先端から30mmのコアワイヤーの外径が0.3mm以下であり、先端から30mmから300mmまでの外径が0.10〜0.45mmである請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項10】
医療機器が先端側及び手元側を有するガイドワイヤーであって、コアワイヤーと先端付近に固定されたコイルとからなる請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項11】
医療機器がスタイレットであって、構成する金属の外径が0.5mm以下である請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項12】
医療機器がカテーテルの補強用芯線であって、構成する金属の外径が0.5mm以下である請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項13】
医療機器が生体矯正材料であって、生体に沿わせて保持され、生体の変形を矯正する請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の医療機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−330461(P2007−330461A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165001(P2006−165001)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(597086058)
【Fターム(参考)】