医療用ガイドワイヤ、医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体、および医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体
【課題】重力の作用で垂れ下がり易い先端部内部に浮力室を形成することにより、操作性を向上できる、圧力抵抗利用、及び比重差利用により、前方への推進力を向上させた医療用ガイドワイヤの提供。
【解決手段】少なくともコイル先部31が放射線不透過材からなるコイル体3内に、先端側部が細径で手元側部が太径の芯材の先端側部を貫挿するとともに、コイル体3の先端と芯材の先端とを固着し、コイル体3の外周に樹脂被覆4を施したガイドワイヤ1において、コイル先部31内に浮力室を形成した。その際、樹脂被覆4は、湿潤状態時において、コイル体3の伸長時に、コイル体3のコイル素線間の隙間に、コイル体3の外径よりも小さい外径の筒状の膜43を形成する。これにより、浮力室作用と圧力抵抗増大作用との併用による血管内深部挿入を可能とした。
【解決手段】少なくともコイル先部31が放射線不透過材からなるコイル体3内に、先端側部が細径で手元側部が太径の芯材の先端側部を貫挿するとともに、コイル体3の先端と芯材の先端とを固着し、コイル体3の外周に樹脂被覆4を施したガイドワイヤ1において、コイル先部31内に浮力室を形成した。その際、樹脂被覆4は、湿潤状態時において、コイル体3の伸長時に、コイル体3のコイル素線間の隙間に、コイル体3の外径よりも小さい外径の筒状の膜43を形成する。これにより、浮力室作用と圧力抵抗増大作用との併用による血管内深部挿入を可能とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、血流を有効利用して屈曲蛇行血管内への深部到達性を改善した医療用ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
血管にカテーテルを挿入する際にまずガイドワイヤを人体の目的箇所に挿入する必要があり、湾曲部など挿入の困難な位置に円滑にガイドワイヤを到達させるため、各種の提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、芯材の先端にX線不透過性金属コイルが装着され、この金属コイルの外周を包み込む樹脂チューブおよび樹脂チューブを膨潤させて被覆するガイドワイヤが開示されている。この構成では、樹脂チューブの平滑性による滑り性、血栓付着防止性および芯材先端の細径による挿入時のプッシュアビリティの向上などを得ている。
【0004】
特許文献2には、柔軟性を有する先端部と剛性の高い本体部が存在し、先端部に高X線造影性金属が挿入され、全体を樹脂被覆および湿潤時に潤滑特性を示すガイドワイヤが記載されている。この提案では、湿潤時の潤滑性に優れてガイドワイヤの操作性(押し込み、引き戻し)を向上させることを目的としている。
【0005】
特許文献3には、芯材の先端部に放射線不透過コイルが固定されて、部分的に樹脂被覆および親水性被覆が施され、手元部の摩擦係数の低下によるガイドワイヤの操作性を向上させた提案がされている。
【特許文献1】特開2000−135289号公報
【特許文献2】特開平4−9162号公報
【特許文献3】実用新案登録第2588582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のガイドワイヤにおいては、血管中の内部空間において血液ないし血流における浮力を、また、圧力抵抗を、そして、さらに比重差を利用して、ガイドワイヤの操作性の向上に有効利用しようとする思想は存在していない。
この発明の目的は、重力の作用で垂れ下がり易いガイドワイヤの内部に浮力室(気室)を積極的に形成することにより、操作性を向上でき、また、屈曲変形などによりガイドワイヤのコイル素線間の隙間が広がった場合においても気密性保持可能とし、そして、圧力抵抗利用、及び比重差利用により、前方への推進力を向上させた医療用ガイドワイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の医療用ガイドワイヤは、先端側に放射線不透過材からなる放射線不透過部を有し、放射線不透過部の後端側に放射線透過材からなる放射線透過部を有するコイルスプリング体と、コイルスプリング体内に貫挿され、先端側が細径で後端側が太径の芯材とを備え、コイルスプリング体の先端と芯材の先端とを気密的に固着し、コイルスプリング体の外周に樹脂被覆を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、放射線不透過部の後端部に、芯材とコイルスプリング体とを気密的に固着する気密壁を設け、樹脂被覆は、コイルスプリング体の外周に気密的に被覆されており、湿潤状態時においては、乾燥状態時よりも潤滑性を有するとともに、コイルスプリング体の伸長時に、コイルスプリング体のコイル素線間の隙間に、コイルスプリング体の外径よりも小さい外径の筒状の膜を形成し、放射線不透過部内に、コイルスプリング体の先端と芯材の先端とを気密的に固着した固着部と、気密壁と、樹脂被覆とによる浮力室を形成する。
【0008】
これによれば、医療用ガイドワイヤの先端側の放射線不透過部内に選択的に形成された浮力室が、血管内で血液ないし血流により浮力を受けるため、重力による医療用ガイドワイヤ先端部の垂れ下がりが防止でき、血管内での医療用ガイドワイヤ先端部の安定姿勢を維持することができ、ガイドワイヤの操作性が向上する。
また、放射線不透過部が屈曲変形させられ、コイルスプリング体のコイル素線間の隙間が広がった場合においても、湿潤状態の樹脂被覆が伸ばされることにより形成される筒状の膜により、内部気体が外部へ放出されることなく、気密性を保持できる。
【0009】
請求項2に記載の医療用ガイドワイヤは、浮力室により、放射線不透過部の屈曲変形時に浮力室内の気体圧力が増大し、また、屈曲変形の解消により、増大した内部圧力を元の状態に戻す浮力室内の弾性復元力を利用したことを特徴とする。
これによれば、浮力室が塑性変形しやすい放射線不透過部に選択的に設けられ、浮力室による弾性復元力を利用することによって、塑性変形しやすい放射線不透過部の垂れ下がりや塑性変形を低減させて、医療用ガイドワイヤの先端部は常に初期の形状を安定維持できる。
【0010】
請求項3に記載の医療用ガイドワイヤでは、樹脂被覆が湿潤状態時に、コイルスプリング体が伸長された際、樹脂被覆は伸長して、コイルスプリング体のコイル素線間の隙間に筒状の膜を形成し、筒状の膜の外径は、コイルスプリング体の外径より小さく、外周に、コイル素線が凸部、筒状の膜が凹部となる、凸凹部が形成される。
これによれば、医療用ガイドワイヤが血管内に挿入されたときに、凸凹部で血流による圧力抵抗を受け、血管内深部への挿入が可能となる。
【0011】
請求項4に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイル素線間の隙間がコイル素線の素線径の50%になるまでのコイルスプリング体伸長時において、コイル素線間の隙間に筒状の膜を形成する。
比較的太径の血管内でガイドワイヤ先端が反転してしまった場合でも、広がったコイル素線間の隙間に筒状の膜が形成されるため、気密性が保持でき、浮力室による弾性復元作用の効果にあずかることができる。
【0012】
請求項5に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイル素線間の隙間がコイル素線の素線径の100%になるまでのコイルスプリング体伸長時において、コイル素線間の隙間に筒状の膜を形成する。
比較的細径の血管内でガイドワイヤ先端が反転してしまった場合でも、広がったコイル素線間の隙間に筒状の膜が形成されるため、気密性が保持でき、浮力室による弾性復元作用の効果にあずかることができる。
【0013】
請求項6に記載の医療用ガイドワイヤでは、樹脂被覆は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとの混合物からなり、湿潤状態時に、混合物からなる樹脂被覆は、樹脂層の内側から外側へ比重が小さくなっている。
この場合、混合物の具体的態様としては、単純に疎水性ポリマーと親水性ポリマーを混合した混合物以外に、疎水性ポリマーに接着性ポリマーを混合したものに親水性ポリマーを混合した混合物、疎水性ポリマーに可塑剤を付加したものに親水性ポリマーを混合した混合物、疎水性ポリマーに接着性ポリマーと可塑剤とを混合したものに親水性ポリマーを混合した混合物でもよい。
体積が次第に増大していく外側へ、比重の小さい親水性ポリマーの重量比を大きくさせることによって、内側から外側への比重を小さくする構成とすることにより、比重の軽い外側が樹脂被覆全体に占める割合が大きくなるため、軽量化を達成し、浮力性能の向上に寄与する。
【0014】
請求項7に記載の医療用ガイドワイヤでは、樹脂被覆は、疎水性被覆の固体層である第1層と、湿潤時に吸水し膨潤して潤滑特性を示す親水性被覆の流動層である第2層からなり、湿潤状態時に、樹脂被覆は、第1層から第2層側へ比重が小さくなっている。
これにより、比重の軽い第2層が樹脂被覆全体に占める割合が大きくなるため、軽量化を達成し、浮力性能の向上に寄与する。
【0015】
請求項8に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイルスプリング体は、先端側に、ステンレス鋼線よりもスプリングバック量が小さい放射線不透過材からなる放射線不透過部を有する。
すなわち、放射線不透過部は塑性変形しやすい材料からなるが、浮力室による弾性復元作用により、放射線透過部の塑性変形は低減される。
【0016】
請求項9に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイルスプリング体は、先端側に、ステンレス鋼線よりもスプリングバック量が小さい放射線不透過材からなる放射線不透過部を有し、放射線不透過部の後端側に、ステンレス鋼線からなる放射線透過部を有し、放射線不透過部は、放射線透過部よりも外径が径小である。
すなわち、放射線不透過部は塑性変形しやすい。しかし、浮力室による弾性復元作用により、放射線不透過部の塑性変形は低減される。
【0017】
請求項10に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイルスプリング体は、放射線不透過材と放射線透過材とを接合して、縮径伸線加工後の線材をコイル状に形成してなり、先端側が放射線不透過材のコイルである。
螺旋巻きするのに先立って、放射線不透過材と放射線透過材とを溶接により接合して、縮径伸線加工した後に、コイル状に螺旋巻き形成した構造であるため、従来の2つのコイルを接合する構造に必要であったハンダやロー材は不要となり、軽量化を達成し、浮力性能の向上に寄与する。
【0018】
請求項11に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイルスプリング体は、先端部に少なくとも1本の放射線不透過材を含む多条線からなる。
これにより、単線のコイルスプリング体と比較して、多条線からなるコイルスプリング体は、屈曲時のコイル素線間の隙間が極めて小さいため、過酷な屈曲変形に対しても、コイル素線間に形成される樹脂被覆の筒状の膜が引張によって破られることはなく、気密状態を維持することができる。
【0019】
請求項12に記載の医療用ガイドワイヤでは、浮力室は、独立気泡構造の発泡体を封入して形成されている。
これにより、浮力室への発泡体の封入により、芯材およびコイルスプリング体の塑性変形を効果的に阻止し、弾性復元力を増大することができる。
【0020】
請求項13に記載の医療用ガイドワイヤでは、浮力室は、比重が0.06〜0.5の球状体の発泡ビーズを封入して形成されている。
この場合、発泡ビーズは隣接する発泡ビーズとの接触点が少なく、浮力室の形成に好都合な空隙を多く形成することができるので、浮力性能の向上に寄与する。
【0021】
請求項14に記載の医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体は、マイクロカテーテルとマイクロカテーテルに挿通される医療用ガイドワイヤからなり、医療用ガイドワイヤの外径は、概ね0.2032〜0.254mm(0.008〜0.010インチ)であり、マイクロカテーテルの内径は、概ね0.280〜0.80mmである。
この組立体によれば、医療用ガイドワイヤを細径としながらも、マイクロカテーテルにより医療用ガイドワイヤの押込み特性を向上させることができ、血管内深部への挿入が可能となり、低侵襲化の要請に応えることができ、手術時の患者への負担軽減に寄与することができる。
【0022】
請求項15に記載の医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体は、ガイディングカテーテルと、ガイディングカテーテルに挿通される医療用ガイドワイヤと、ガイディングカテーテルにより案内されるバルーンカテーテルとからなり、医療用ガイドワイヤの外径は、概ね0.2032〜0.254mm(0.008〜0.010インチ)であり、バルーンカテーテルの内径は、概ね0.38〜0.90mmであり、ガイディングカテーテルの内径は、概ね1.7〜2.0mmである。
この組立体によれば、浮力室の浮力を利用し、医療用ガイドワイヤの先端部を血流に乗せ、かつ、血流による圧力抵抗を利用して血管内深部に挿入することができるので、バルーンカテーテルとガイディングカテーテルの細径化がそれぞれ可能となって病変部に対する低侵襲性の要請に応え、手術時の患者への負担軽減に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明の最良の実施形態を、図に示す実施例とともに説明する。
【実施例1】
【0024】
〔実施例1の構成〕
図1ないし図6は、実施例1(請求項1〜5、7〜10に対応)を示したものである。
図示右側が先端側、左側が手元(後端)側である(実施例1以降の実施例の図でも、特に図中に記載がある場合を除き、図示右側が先端側、左側が手元側である)。
実施例1では、医療用ガイドワイヤは、冠状動脈閉塞部治療用のガイドワイヤ1である。
ガイドワイヤ1は、芯材(コア)2と、芯材先端部としての芯材2の先端側部21に同軸的に外嵌めされたコイルスプリング体(以下コイル体)3とを有する。そして、コイル体3の外周に樹脂被覆4を形成し、ガイドワイヤ1の先端部12には浮力室5が形成されている。
【0025】
芯材2はステンレス線で形成され、先端側は、細径の先端側部21となっており、後端(手元)側は、太径の手元側部22となっている。先端側部21は、長さ約300mmで、手元側部22の長さは残りの約1200mmまたは約2700mmである。先端側部21は、手元側から強テーパ部23、弱テーパ部24、円柱部25、弱テーパ部26、および、先端に向かって3段階にわたり板厚が小さくなるように形成された多段扁平部27(図1(e)参照)からなっている。
【0026】
多段扁平部27では、各段差部毎に曲率半径が異なる。すなわち、最先端にある最も板厚が小さい1段目27a、その後端側にある1段目27aよりも僅かに板厚が大きい2段目27b、さらにその後端側にある2段目27bよりも僅かに板厚が大きい3段目27cの順に、屈曲変形の際の局率半径が大きくなる。このため、先端側部21の屈曲変形が狭い範囲内で容易となり、先端側部21が屈曲狭窄病変部に沿って忠実に追従する利点が得られる。
多段扁平部27は、例えば、先端側から手元側へ向かう板厚が、順に1段目27aが0.040mm、2段目27bが0.050mm、3段目27cが0.063mmとなるように設定されている。
尚、多段扁平部27の横断面積が略同一に形成された構造の場合、金型が先端側部21に対して、略平行状態にプレス成形することになる。これにより、プレス成形後の多段扁平部27の微細な寸法が安定するとともに、金型の長寿命化も図られる。
【0027】
コイル体3は、所定長さの白金線とステンレス線とを溶接して所定の外径寸法に伸線加工した後、コイル状に螺旋巻して形成され、芯材2の先端側部21と同等の約300mmの全長を有する。コイル体3は、コイル先部31が約30mmの白金など放射線不透過材からなり、コイル先部31の後側のコイル後部32は約270mmのステンレスなどの放射線透過材からなる。
【0028】
コイル体3は、放射線不透過材として白金以外に、金、銀、タングステンなどの線材が用いられ、放射線透過材としては生体適合性の関係からステンレス線が使用される。白金線などの放射線不透過材は、ステンレス鋼線に比較してスプリングバック量が小さく塑性変形し易い材料である。そのため、例えば、線径0.072mmの線材を外径0.355mmのコイル体3に巻回形成すると、白金線によるコイル先部31のほうがステンレス鋼線によるコイル後部32よりもコイル外径が0.02mm以上小さくなる。すなわち、コイル体3は、先端側へいくほど先細りに縮径された形状となる。
また、ガイドワイヤ1のコイル先部31は、先端部分の柔軟性を確保するために、コイル体3のコイル素線Wの外径の約10〜30%程度の隙間Cが空いている。
【0029】
コイル体3は、先端33が芯材2の先端とロー付け部10(固着部)において、ボールハンダ(錫)又はロー材等を用いて隙間のない状態で気密的固着され、後端34は、芯材2の強テーパ部23にロー付けされ固着されている。
コイル体3の外周および芯材2の手元側部22には、樹脂被覆4が施されている。
【0030】
本実施例では、樹脂被覆4は、疎水性被覆の固体層の第1層41と、湿潤時に潤滑特性を示す親水性被覆の流動層の第2層42とからなる二層構造である。
具体的には、疎水性被覆の固体層とは、ポリウレタン、ポリエーテルブロックアミド、ポリアミド、及びフッ素樹脂などにより被覆された固体層のことをいう。また、親水性被覆の流動層とは、湿潤時に潤滑特性を示す流動層のことをいい、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸エチルエステル共重合体、及び、ポリエチレンオキサイド等である。
【0031】
そして、本実施例では、湿潤時に第1層41よりも第2層42の比重が小さくなる構造となっている。
具体的には、第1層41がフッ素樹脂であるPTFEとすれば、この比重が2.14〜2.20であることから、第2層42には、これより比重が小さく湿潤時に概ね水に近い比重を示すポリビニルピロリドン、無水マレイン酸エチルエステル共重合体、ポリエチレンオキサイド等を用いる。また、第1層41にポリウレタン(比重1.20〜1.24)又はポリエステル(比重1.38)を用いるとすれば、第2層42には、前記同様、これより比重が小さく湿潤時に概ね水に近い比重を示すポリビニルピロリドン等を用いる。
【0032】
第1層41と第2層42の被覆形態は、図2(a)のようにコイル体3の外周に内層側から順に第1層41、第2層42が被覆される形態でもよいし、図2(b)のように、第1層41がコイル素線Wの全周にわたって被覆され、第2層42は、コイル体3の外周に被覆された第1層41の上に被覆される形態でもよい。
【0033】
コイル体3の、コイル先部(放射線不透過部、以下、不透過コイルとも称する)31とコイル後部(放射線透過部、以下、透過コイルとも称する)32との接合部分には、ロー付けにより気密壁11が形成されている。
気密壁11は、コイル先部31の後端部と芯材2とを隙間のない状態にボールハンダ(錫)又はロー材等を用いて隙間のない状態で機密的に固着してなる。
この結果、コイル体3のコイル先部(不透過コイル)31内は、ロー付け部10、気密壁11および樹脂被覆4により気密性が確保され、内部の空間により浮力室5が形成されている。つまり、ガイドワイヤ1は、先端部12に浮力室5を備えている。
【0034】
この浮力室5は、湿潤時、ガイドワイヤ1の屈曲等により、コイル素線間の隙間Cが広げられた場合にも、上記した樹脂被覆4が伸長して隙間Cにコイル体3の外径よりも小さい外径の筒状の膜43を形成するため、気密性が維持される。
前述したように、ガイドワイヤ1のコイル先部31は、先端部分の柔軟性を確保するために、コイル素線間にコイル体3のコイル素線Wの外径の約10〜30%程度の隙間Cが空いている。また術者は、血管分岐部での任意選択性を向上させるため、最先端から約2〜7mmの範囲で、単数、又は、複数の部位でコイル先部31を屈曲変形させている(図3(a)参照)。そして、病変狭窄部導入の際、管壁との接触等によりコイル体3が弾縮変形する。
その際、隙間Cは広がるが、図3(b)に示すように、それに合わせて、吸水し湿潤状態となった樹脂被覆4が伸ばされて隙間Cに連続した膜43を形成する。
【0035】
この連続した膜43は螺旋円筒状で、その谷部の外径はコイル体3の樹脂被覆された外径よりも小さい。すなわち、樹脂被覆4で被覆されたコイル体3の外周に、コイル素線Wが凸部61、コイル素線間に形成された筒状の膜43が凹部62となる、凸凹部6が形成される。
【0036】
一般に、冠状動脈の血管内径は2〜4mmであり、深部へ行くに従って細径化し、稀に狭窄病変部位でガイドワイヤ1の先端部が反転することがある。
例えば、ガイドワイヤ1の外径dが0.35mm、血管内径Dが2mmの場合、屈曲部でのコイル体3円弧の外側の弧長Lと、内側の弧長mとの差Δsは、Δs=L−m=(π×2×1/2)−(π×1.3×1/2)≒1.099mmとなり、内側の弧長mは2.04mm(π×1.3×1/2)となる。これが伸ばされて、3.139mmとなっていることから、長さ比は約1.53となり、屈曲部でのコイル体3は概ね50%伸ばされていることになる(図4(a)参照)。
【0037】
血管内径Dが1.4mmの場合では、Δsは、Δs=L−m=(π×1.4×1/2)−(π×0.7×1/2)≒1.099mmとなり、内側の弧長mは1.099mm(π×0.7×1/2)となる。これが伸ばされて2.198mmとなっていることから、長さ比は約2となり、屈曲部でのコイル体3は概ね100%伸ばされていることになる(図4(b)参照)。
尚、これよりも下回る血管径においては、その血管内径幅で拘束されるため、係る現象は生じない。
【0038】
本実施例では、上記のように細い血管内で稀に反転作用が生じ、コイル体3が50%や100%まで伸長された場合においても、膜43が破れることがないように、樹脂被覆4の量、材料が設定されている。
具体的には、第1層41において、疎水性ポリマーに可塑剤を付加することにより、柔軟性を高めること等がある。可塑剤としては、樟脳、カストール油、ジオクチルフタレート等を用いることができる。
【0039】
〔実施例1の樹脂被覆形成方法〕
樹脂被覆4の形成方法としては、押出成形、ディッピング工法および熱収縮チューブによる成形方法など、いずれであってもよいが、浮力室5を密閉できることが必要である。
コイル体3内に浮力室5を密閉して形成するためには、被覆形成時に加圧されて、浮力室5内に樹脂が入り込まず気体が残存したままで形成できる熱収縮チューブによる成形方法またはディッピング工法が望ましい。特に、加圧されずに樹脂溶着端部処理が不要なディッピング工法が最も望ましい。
【0040】
本実施例の樹脂被覆4の形成方法は、まずコイル体3を疎水性ポリマー溶液内へ浸漬し(ディッピング工法)、その後、熱乾燥(170℃、10分程度)する。その後、親水性ポリマー溶液に浸漬し(ディッピング工法(上塗り))、熱乾燥(170℃、10分程度)させて形成している。
【0041】
また、疎水性ポリマー溶液内へ、接着性ポリマー又は可塑剤のいずれか、又は双方を混合した溶液に浸漬し、熱乾燥した後に、親水性ポリマー溶液への浸漬もしくは親水性ポリマーの塗布を行う方法でもよい。
その場合、接着性ポリマーとしては、ポリウレタン、ポリエステル、スチレンポリブタジエン、アクリル樹脂等を用いる。これは、コイル体3への樹脂被覆4の付着性を高めるためである。
また、可塑剤としては、樟脳、カストール油、ジオクチルフタレート等を用いる。これは、樹脂被覆4の柔軟性を高めるために有効である。特に、前述のように、反転作用が生じても、コイル素線間の隙間Cに連続した柔軟な膜43を形成し、膜43が破れないようにするためには、柔軟性を高めるため可塑剤を付加するのが好ましい。
【0042】
〔実施例1の作用効果〕
図5は、円筒状の膜43がコイル素線間の隙間Cに形成されている様子を観察した写真である。図5(a)、(b)は、円筒状の膜43はコイル体3の中心径部分に形成されており、(a)が素線径の50%伸長時、(b)が素線径の100%伸長時の様子である。また、図5(c)、(d)は、円筒状の膜43がコイル体3の内側に形成されており、(c)が素線径の50%伸長時、(d)が素線径の100%伸長時の様子である。
いずれも、コイル素線間の隙間Cに筒状の膜43が形成され内部に気体を閉じ込めている。
すなわち、このガイドワイヤ1は、コイル先部31が屈曲変形させられ、コイル素線間の隙間Cが広がった場合においても、湿潤状態の樹脂被覆4が伸ばされることにより形成される筒状の膜43により、内部気体が外部へ放出されることなく(内部に気体を閉じ込めた状態)、気密性を保持でき、屈曲変形時においても浮力室5が形成できている。
【0043】
実施例1のガイドワイヤ1は、このような筒状の膜43を形成し、浮力室5を形成することにより以下のような作用、効果を有する。
イ)浮力室5により、血流中での先端部12の姿勢を安定維持できる。
放射線による造影目的として、ガイドワイヤ1のコイル体3には、少なくともコイル先部31に白金が用いられるが、白金は比重が21.4で、ステンレスの比重7.9に比較して約2.7倍である。
ガイドワイヤ1の先端部12は柔軟性が要求されるため、芯材2は細径化されている。このため、コイル先部(不透過コイル)31の比重が大きいほど、自由状態においてガイドワイヤ1の先端部12は大きく垂れ下がり易い。この傾向はガイドワイヤ1が差し込まれる血管内の血液流中においても同様である。
【0044】
このコイル先部31が重いガイドワイヤ1を血管内へ挿入すると、ガイドワイヤ1の先端部12が垂れ下がることにより、これにより血管内壁への接触度合いが大きくなり、血管の解離または内膜剥離を生じる虞がある。とくに、血管の分岐位置において、この垂れ下がりにより、手術者が所望の方向へガイドワイヤ1を挿入する際の、血管選択性が低下する。
この発明では、ガイドワイヤ1の先端部12のコイル先部31内に浮力室5を有するため、血管内の血流中では、先端部12は浮力により垂れ下がりが低減し、一定のストレート状態を維持することができる。このように、血流内での先端部12の垂れ下がりを低減することにより、血管壁との接触、摩擦を軽減させて、解離または内膜剥離などの発生を防ぐことができる。そして、ガイドワイヤ1の先端部12を血流に乗せて、屈曲、蛇行した血管の深部まで、円滑かつ容易に挿入できる。
【0045】
ロ)浮力室5による弾性復元力利用により先端部12の形状を安定維持でき、血管内深部への挿入が可能となる。
前述のように、コイル先部31は、コイル後部32よりもスプリングバック量が小さく、塑性変形し易いため、屈曲、蛇行した血管内への挿入時において、変形し易く、曲がり癖を生じ易い。そこで、本発明のガイドワイヤ1は、この塑性変形し易いコイル先部(不透過コイル)31の内側に密閉された浮力室5を設けている。
【0046】
このため、屈曲変形時には浮力室5内の気体の圧力が増大し、屈曲変形を解消すれば、増大した内部圧力により元の状態に戻る性質を有する。つまり、気体など充填された浮力室5内の弾性復元力を利用することにより先端部12の塑性変形を低減させて、先端部12が常に初期の形状を安定維持できる。
コイル体3は、白金線などの放射線不透過材とステンレス線の放射線透過材とのスプリングバック量の差により、先端33へいくほど先細り状態に縮径されるとともに、浮力室5の形成に基づく形状の安定維持効果も生じる。この結果、狭窄病変部に対するコイル先部31の通過性を一段と向上させることができる。
【0047】
ハ)圧力抵抗利用により血管内深部への挿入を可能とする。
本発明のガイドワイヤ1は、冠状動脈閉塞部治療用であり、図6(a)に示すように、冠状動脈Ac内へ挿入される。冠状動脈Ac内での血流方向は、大動脈弓Aa内とは異なり、ガイドワイヤ1の進行方向と同一、つまり追い風状態となる(図6(a)矢印参照)。
かかる場合において、血流は、凸部61に衝突して、円筒状の膜43により芯材側への血流の浸入が遮られるため、血流は自然とコイル体3の巻回形態に沿って流れ、その結果、スパイラルの渦流が発生する(図6(b)参照)。
【0048】
凸部61に血流が衝突する際の圧力抵抗と、コイル体3の巻回形態によって発生するスパイラル渦流とにより、進行方向への推進力を発揮させることができる。
本発明は、前述のように内部気体を外に放出しない浮力室5を形成しているため、先端部12は、浮力室5の作用により血流に浮いた状態であり、かつ、圧力抵抗とスパイラル渦流とにより前方への推進力を発揮させることができ、血管内深部への挿入がさらに容易となる。
【0049】
ニ)この発明のガイドワイヤ1では、細径化することができ、手術の低侵襲化の要請に応えることが容易で、患者の負担を軽減できる。
例えば心臓血管閉塞部の拡径治療、つまり経皮的経血管冠動脈形成術(PTCA)においては、一般にガイドワイヤは外径0.35mm、拡径治療に用いるバルーンカテーテルを導入するガイディングカテーテルは7F〜8F(内径が2.3mm〜2.7mm)が用いられる。ガイドワイヤは、屈曲蛇行血管内の深部へ挿入するために、トルク伝達性、押し込み特性等の各種機械的な特性が要求されるため、一般に用いられる外径は0.355mmである。
【0050】
一方、この発明のガイドワイヤ1は、機械的な特性を利用して血管内の深部までの挿入性が向上することの他に、浮力室5の浮力を利用して血流に乗せて血管内深部へ挿通する効果を併せ持つ。このため、この発明のガイドワイヤ1は、トルク伝達特性等の機械的要求特性を軽減させ、ガイドワイヤ1及び芯材2を細径化することが可能となる。
例えば、ガイドワイヤ1とバルーンカテーテル(図示せず)とガイディングカテーテル(図示せず)との組立体として用いる場合(請求項15対応)、ガイドワイヤ1の外径が0.014インチから0.008〜0.010インチ(0.355mmから0.2032〜0.254mm)へ、又、バルーンカテーテルを案内するガイディングカテーテルは、7F〜8Fから5F、6F(内径2.3mm〜2.7mmから内径1.7mm〜2.0mm)へ細径化することができる。これにより、低侵襲化の要請に応えることが可能で、手術時の患者負担が軽減できる。
尚、補足すれば、バルーンカテーテルの内径は概ね0.38〜0.90mmであって、ガイディングカテーテルはバルーンカテーテルと併用されて、ガイドワイヤ1との適切なクリアランスを保っている為、ガイドワイヤ1の押す力をガイディングカテーテル及びバルーンカテーテルが反力として支えることにより、病変部での押込み力を発揮させることができる。
【0051】
ホ)コイル体3の外周部は、弾力性のある樹脂被覆4により密閉されているため、先端部12が局部座屈変形しても浮力室5の内圧が増大して弾性変形し、かつこの増大した内圧により元に戻る復元力が発生する。また、樹脂被覆4は、塑性変形し易い細線の芯材2を保護する作用も合わせ持つ。
【0052】
へ)樹脂被覆4が、固体層の第1層41と、流動層の第2層42とからなる二層構造であることにより、例えば、樹脂被覆4に微細なピンホールあるいは傷などが発生している場合、第2層42の液体粘性流動体を第1層41の全体に包被することにより、浮力室5内の気体が外部に漏れることを防いで浮力室5の密閉状態を維持することができる。
また、第2層42の液体粘性流動体を第1層41の全体に包被することに伴い、血管壁との摩擦を軽減させることができる。
【0053】
ト)樹脂被覆4において、第2層42が第1層41よりも比重が小なる構造とすることにより、ガイドワイヤ1の軽量化を達成し、浮力性能の向上に寄与する。
この構造が軽量化できる理由は、外層側の第2層42は、内層側の第1層41に対して、徐変径大化しているため、各層同じ厚さであれば、比重の軽い外層側の第2層42が被覆全体に占める割合が大きくなるからである。
【実施例2】
【0054】
〔実施例2の構成〕
図7は、実施例2(請求項6に対応)を示したものである。
尚、実施例2以降の実施例では、実施例1と異なる点を中心に説明する。
本実施例のガイドワイヤ1では、樹脂被覆4は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとの混合物の単層からなる単層構造である。また、この混合物からなる単層は、湿潤状態時に内側から外側へ比重が小さくなっている。
混合物の具体的態様としては、疎水性ポリマーと親水性ポリマーを混合した混合物、疎水性ポリマーに接着性ポリマーを混合したものに親水性ポリマーを混合した混合物、疎水性ポリマーに可塑剤を付加したものに親水性ポリマーを混合した混合物、疎水性ポリマーに接着性ポリマーと可塑剤とを混合したものに親水性ポリマーを混合した混合物がある。
【0055】
疎水性ポリマーとしては、セルロースエステル、ポリメチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体等であり、セルロースエステルが最も好ましい。
親水性ポリマーとは、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸エチルエステル共重合体、及び、ポリエチレンオキサイド等である。
【0056】
接着性ポリマーとしては、ポリウレタン、ポリエステル、スチレンポリブタジエン、アクリル樹脂等を用いる。これは、コイル体3への樹脂被覆4の付着性を高めるためである。
また、可塑剤としては、樟脳、カストール油、ジオクチルフタレート等を用いる。これは、樹脂被覆4の柔軟性を高めるために有効である。
【0057】
〔実施例2の樹脂被覆形成方法〕
本実施例の樹脂被覆4の形成方法は、コイル体3を疎水性ポリマー溶液と親水性ポリマーとの混合溶液内へ浸漬し(ディッピング工法)、その後、熱乾燥(170℃、10分程度)させて形成される。
又は、疎水性ポリマー溶液内へ、接着性ポリマー又は可塑剤のいずれか、又は接着性ポリマーと可塑剤の双方を混合し、その後、親水性ポリマーを混合した混合溶液に、コイル体3を浸漬し(ディッピング工法)、その後、熱乾燥(170℃、10分程度)させて形成される。
【0058】
〔実施例2の作用効果〕
本実施例の樹脂被覆4は、湿潤状態時に、内側から外側へ比重が小さくなる構成である。放射線不透過材等の金属製のコイル体3の外周部には、例えば、接着性ポリマーが混合されている疎水性ポリマーが付着し、そして、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとの間で、高い架橋結合または分子間結合されている。このため、コイル体3の内側では疎水性ポリマー成分が多く、その外側は親水性ポリマー成分が多く配置されるからである。
これにより、ガイドワイヤ1の軽量化を達成し、浮力性能の向上に寄与する。
この構造が軽量化できる理由は、外側は、内側に対して、徐変径大化しているため、外側の比重を小さくすれば、比重の小さい外側が被覆全体に占める割合が大きくなるからである。
【実施例3】
【0059】
〔実施例3の構成〕
図8及び図9は、実施例3(請求項11に対応)を示したものである。
本実施例のガイドワイヤ1では、コイル体3は、コイル先部31に少なくとも1本の放射線不透過材を含む多条線からなる多条線コイル3Aである。
具体的には、多条線コイル3Aは、線径φ0.072mmの線材を3〜12本(図8に示す本実施例では12本)用いて、外径がφ0.35mmの撚り線状に形成したもので、ロー付け部10と気密壁11との間のコイル先部31に少なくとも1本(本実施例では交互に6本)の放射線不透過材からなる不透過線材Rを使用することにより、コイル先部31を放射線不透過部となす構造である。
【0060】
この構造の製造方法は、線材3〜12本を芯金を用いて巻回成形する方法、又は、ロープ撚線機を用いて各線材を撚り合わせて製造する方法等がある。
また、線径φ0.072mmの線材を3〜4本の撚り線を用いて成形し、それを3〜12本用いて多条線コイル3Aとしてもよい。
【0061】
〔実施例3の作用効果〕
上記構造とすることによる被覆形成及び浮力室5との関係について以下に説明する。
屈曲変形したとき、屈曲部の局率半径が大きい側で、実施例1のような単線のコイル体3では、コイル素線間の隙間Cが大きいのに対して、多条線コイル3Aでは、隙間Cが極めて小さい(図9参照)。
この理由は、屈曲変形時、多条線コイル3Aでは、各素線間で相対滑りによる微小な位置ずれが発生して、単線のコイル体3の大きな隙間Cを吸収したものと考えることができる。
【0062】
多条線を用いた多条線コイル3Aでは、屈曲変形しても、コイル素線間に発生する隙間Cは微小であるため、過酷な屈曲変形に対しても、被覆が引張によって破られることはなく、被覆による密閉状態を過酷な屈曲変形時においても維持することができる。
そして、浮力室5の機能を長期安定して発揮することができる。
【実施例4】
【0063】
〔実施例4の構成〕
図10(a)は、実施例4(請求項12に対応)を示したものである。
この実施例では、浮力室5を独立気泡構造の発泡体層51により形成している。
発泡体層51は、芯材2とコイル体3とをロー付けした後、発泡材液の容器内にコイル体3の所定部位まで浸漬(ディッピング)して引き上げ、治具を通して付着した発泡材の外径を均一にして、発泡材が固化するまで放置、もしくは加熱する。その後、前記ディッピング工法などにより、コイル体3および芯材2の全体に樹脂被覆4を施す。なお、スプレー式の発泡材を用いてもよい。
【0064】
発泡体層51は樹脂(弾性体)に発泡剤を加えた材料を用い、樹脂はポリエステル、スチレン・メタクリル酸共重合体などのスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が使用できる。発泡剤としては、炭酸ガス等の揮発性発泡剤、炭酸アンモニウム等の分解性発泡剤など公知のものが使用できる。一例として、比重が0.06〜0.3の架橋ポリオレフィン発泡体を用いる。
【0065】
発泡体層51は、ゴムに発泡剤を加えたものであってもよく、ゴム材料としてはシリコーンゴム、クロロプレンゴムを用いる。シリコーンゴム発泡剤としは、アゾビスイソブチロニトリルなど公知の発泡剤が使用できる。発泡体層51の構造は、気泡が連続している連続気泡構造よりも独立気泡構造が望ましく、気泡の大きさは微細であることが望ましい。一例として、圧縮永久歪みに優れ、低比重(0.41程度)で平均セル径が110μm程度の微細セル構造のシリコーンスポンジが望ましい。
【0066】
〔実施例4の作用効果〕
実施例4の構成により、以下の特有の作用効果がある。
芯材2とコイル体3との間に発泡体層51が介在するため、コイル体3の外周に樹脂被覆成形の際にコイル先部31が押出成形によって加圧されても、コイル体3の内部に樹脂が入り込むことはない。発泡体層51が独立気泡であれば、コイル体3の内部に樹脂が入り込むことをより一層有効に阻止でき、浮力室5が確保できる。また、発泡体層51が弾性体であるため、芯材2およびコイル体3の塑性変形をより有効に阻止できるとともに弾性復元力を増大できる。
【0067】
一般にコイル体3のコイル先部(不透過コイル)31は、より柔軟性を付与するため、コイル線間に微小な隙間を設けている。このため、樹脂被覆4の成形時に、この隙間内に樹脂被覆4の樹脂が入り込んで柔軟性を阻害する。コイル体3の外周面まで発泡体層51により一体化されているため、この弊害を防ぎ、コイル先部31の柔軟性を安定維持できる。
【実施例5】
【0068】
〔実施例5の構成〕
図10(b)は、実施例5(請求項13に対応)を示したものである。この実施例では、浮力室5を発泡ビーズ53により形成している。発泡ビーズ53としては、合成樹脂発泡ビーズを用い、材料は実施例4に示した材料を球状体に形成したものを使用する。この例として、比重0.06〜0.5で50〜100μm程度の球状体を用いる。
【0069】
〔実施例5の作用効果〕
実施例5の構成では、以下の特有の作用効果を奏する。
発泡ビーズ53は、発泡体でかつ球状構造であることから、例えば多角形状とは異なり隣接する発泡ビーズ53同士の接触点が少なく、浮力室5の形成に好都合な空隙を多く形成できる。
【0070】
また、発泡ビーズ53のバインダーとして、実施例4の発泡体層51を用いることにより、容易にコイル先部(不透過コイル)31内に浮力室5が形成できる。なお、この場合の製造方法としては、前記発泡体層51に発泡ビーズ53を一定量混入させるのみで、実施例4と同様の工法で形成できる。
【実施例6】
【0071】
図11は、実施例6(請求項14に対応)を示したものである。
本実施例は、マイクロカテーテル7とマイクロカテーテル7に挿通されるガイドワイヤ1からなるガイドワイヤ1とマイクロカテーテル7との組立体8である。
本発明のガイドワイヤ1は既に上述してあるように、浮力室作用と圧力抵抗増大作用との併用、さらには、比重差を利用した被覆形成による軽量化作用により、血流を利用して血管内深部挿入を可能とするものである。このため、この発明のガイドワイヤ1は、トルク伝達特性等の機械的要求特性を軽減させ、ガイドワイヤ1を細径化することが可能である。
しかし、高度狭窄病変内を通過させるには、さらに十分なトルク伝達特性等の機械的要求特性が必要となり、細径化したガイドワイヤ1においては、これが不十分な場合がある。
【0072】
そこで、本実施例では、小内径の可撓性チューブでなるマイクロカテーテル7と併用する組立体8として使用することにより、機械的要求特性の必要を満たすものである。
すなわち、高度狭窄病変部Sへガイドワイヤ1の先端部12を到達させた後、マイクロカテーテル7を高度狭窄病変部S近傍まで挿入し、このマイクロカテーテル7の後端部(体外、図示せず)を保持しながらガイドワイヤ1を押し、かかる場合にこの押す力をマイクロカテーテル7が反力として支えることにより、押し込み力を発揮させ、ガイドワイヤ1を前進させることができる。
これに用いるマイクロカテーテル7の内径は、0.280〜0.80mmで外径が0.4〜1.2mm程度である。また、このマイクロカテーテル7に挿入されるガイドワイヤ1の外径は、概ね0.2032〜0.254mm(0.008〜0.010インチ)である。
【0073】
これにより、血管内深部挿入を可能となして、細径でありながら高度狭窄病変部S内での押し込み力を発揮させ、低侵襲化の要請に応えることができ、手術時の患者負担を軽減できる。
【0074】
〔変形例〕
図12ないし図14は、変形例を示したものである。
実施例1〜6では、芯材2の先端側部21の最先端部分に、先端に向かって3段階にわたり板厚が小さくなるように形成された多段扁平部27(図1(e)参照)が設けられていたが、先端に向かって3段階にわたり外径が小さくなるように形成された円形断面先細形状の多段縮径部28が設けられているのでもよい(図12(c)参照)。多段縮径部28でも、多段扁平部27と同様に、各段差部毎に曲率半径が異なるため、先端側部21の屈曲変形が容易になり、先端側部21が屈曲狭窄病変部に沿って忠実に追従する利点が得られる。
【0075】
図13に示すガイドワイヤ1では、コイル後部(透過コイル)32の手元側端に、芯材2の手元側部22を包む多条中空コイル体36を接続し、芯材2の後端と多条中空コイル体36の後端とをロー付け又は溶接している。
この際、手元側において、中実体を用いた例と、多条中空コイル体内に中実体の芯材2を用いた例とを比較した場合、手元側の外径が同一外径の時、外装に多条中空コイル体36を用いれば、隣接素線間に凹状の隙間が生じているので、中実体の芯材に比べて軽量化を図ることができる。また、芯材2を血管に挿入する際、血液が多条中空コイル体36に沿って流動することにより、芯材2に推進力を付与して狭窄病変部への深部挿入が可能となる。
【0076】
図14に示すガイドワイヤ1では、コイルは不透過コイル31のみであり、ガイドワイヤ1の全体を樹脂被覆4で包囲している。これら変形例の構成でも、実施例1と同様の作用、効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(a)はガイドワイヤの側面図であり、(b)は(a)のA−A断面図であり、(c)は芯材の側面図であり、(d)は(c)の正面図であり、(e)は多段扁平部の斜視図である(実施例1)。
【図2】(a)、(b)は、ガイドワイヤ先端部の側部断面図である(実施例1)。
【図3】(a)はガイドワイヤ先端部の屈曲の様子を説明する図であり、(b)は、伸長時のガイドワイヤの側面図である(実施例1)。
【図4】(a)、(b)は、ガイドワイヤ先端部が反転した場合の屈曲部の伸長程度を説明する図である(実施例1)。
【図5】円筒状の膜がコイル素線間の隙間に形成されている様子を観察した写真である(実施例1)。
【図6】(a)は、ガイドワイヤの冠状動脈への挿入を示す説明図であり、(b)はガイドワイヤの斜視図であり、ガイドワイヤと血流との関係を示している(実施例1)。
【図7】ガイドワイヤ先端部の側部断面図である(実施例2)。
【図8】ガイドワイヤの斜視図である(実施例3)。
【図9】(a)は、単線のコイル体の屈曲状態を示し(実施例1)、(b)は、多条線コイルの屈曲状態を示した図である(実施例3)。
【図10】(a)、(b)は、ガイドワイヤ先端部の側部断面図である(実施例4、5)。
【図11】(a)、(b)は、ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体を用いた、高度狭窄病変部へのガイドワイヤの挿入の様子を示した図である(実施例6)。
【図12】芯材を示した図であり、(a)は側面図、(b)は右側面図、(c)は多段縮径部の斜視図である(変形例)。
【図13】(a)はガイドワイヤの側面図であり、(b)は(a)のB−B断面図であり、(c)は(a)のC−C断面図である(変形例)。
【図14】ガイドワイヤの側面図である(変形例)。
【符号の説明】
【0078】
1 ガイドワイヤ(医療用ガイドワイヤ)
10 ロー付け部(固着部)
11 気密壁
12 先端部
2 芯材
21 先端側部(芯材の先端)
22 手元側部(芯材の後端)
3 コイルスプリング体(コイル体)
31 コイル先部(放射線不透過部、不透過コイル)
32 コイル後部(放射線透過部、透過コイル)
33 先端(コイルスプリング体の先端)
3A 多条線コイル
4 樹脂被覆
41 第1層
42 第2層
43 膜(筒状の膜)
5 浮力室
51 発泡体層(発泡体)
53 発泡ビーズ
6 凸凹部
61 凸部
62 凹部
7 マイクロカテーテル
8 組立体(医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体)
W コイル素線
C 隙間(コイル素線間の隙間)
R 不透過線材
【技術分野】
【0001】
この発明は、血流を有効利用して屈曲蛇行血管内への深部到達性を改善した医療用ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
血管にカテーテルを挿入する際にまずガイドワイヤを人体の目的箇所に挿入する必要があり、湾曲部など挿入の困難な位置に円滑にガイドワイヤを到達させるため、各種の提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、芯材の先端にX線不透過性金属コイルが装着され、この金属コイルの外周を包み込む樹脂チューブおよび樹脂チューブを膨潤させて被覆するガイドワイヤが開示されている。この構成では、樹脂チューブの平滑性による滑り性、血栓付着防止性および芯材先端の細径による挿入時のプッシュアビリティの向上などを得ている。
【0004】
特許文献2には、柔軟性を有する先端部と剛性の高い本体部が存在し、先端部に高X線造影性金属が挿入され、全体を樹脂被覆および湿潤時に潤滑特性を示すガイドワイヤが記載されている。この提案では、湿潤時の潤滑性に優れてガイドワイヤの操作性(押し込み、引き戻し)を向上させることを目的としている。
【0005】
特許文献3には、芯材の先端部に放射線不透過コイルが固定されて、部分的に樹脂被覆および親水性被覆が施され、手元部の摩擦係数の低下によるガイドワイヤの操作性を向上させた提案がされている。
【特許文献1】特開2000−135289号公報
【特許文献2】特開平4−9162号公報
【特許文献3】実用新案登録第2588582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のガイドワイヤにおいては、血管中の内部空間において血液ないし血流における浮力を、また、圧力抵抗を、そして、さらに比重差を利用して、ガイドワイヤの操作性の向上に有効利用しようとする思想は存在していない。
この発明の目的は、重力の作用で垂れ下がり易いガイドワイヤの内部に浮力室(気室)を積極的に形成することにより、操作性を向上でき、また、屈曲変形などによりガイドワイヤのコイル素線間の隙間が広がった場合においても気密性保持可能とし、そして、圧力抵抗利用、及び比重差利用により、前方への推進力を向上させた医療用ガイドワイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の医療用ガイドワイヤは、先端側に放射線不透過材からなる放射線不透過部を有し、放射線不透過部の後端側に放射線透過材からなる放射線透過部を有するコイルスプリング体と、コイルスプリング体内に貫挿され、先端側が細径で後端側が太径の芯材とを備え、コイルスプリング体の先端と芯材の先端とを気密的に固着し、コイルスプリング体の外周に樹脂被覆を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、放射線不透過部の後端部に、芯材とコイルスプリング体とを気密的に固着する気密壁を設け、樹脂被覆は、コイルスプリング体の外周に気密的に被覆されており、湿潤状態時においては、乾燥状態時よりも潤滑性を有するとともに、コイルスプリング体の伸長時に、コイルスプリング体のコイル素線間の隙間に、コイルスプリング体の外径よりも小さい外径の筒状の膜を形成し、放射線不透過部内に、コイルスプリング体の先端と芯材の先端とを気密的に固着した固着部と、気密壁と、樹脂被覆とによる浮力室を形成する。
【0008】
これによれば、医療用ガイドワイヤの先端側の放射線不透過部内に選択的に形成された浮力室が、血管内で血液ないし血流により浮力を受けるため、重力による医療用ガイドワイヤ先端部の垂れ下がりが防止でき、血管内での医療用ガイドワイヤ先端部の安定姿勢を維持することができ、ガイドワイヤの操作性が向上する。
また、放射線不透過部が屈曲変形させられ、コイルスプリング体のコイル素線間の隙間が広がった場合においても、湿潤状態の樹脂被覆が伸ばされることにより形成される筒状の膜により、内部気体が外部へ放出されることなく、気密性を保持できる。
【0009】
請求項2に記載の医療用ガイドワイヤは、浮力室により、放射線不透過部の屈曲変形時に浮力室内の気体圧力が増大し、また、屈曲変形の解消により、増大した内部圧力を元の状態に戻す浮力室内の弾性復元力を利用したことを特徴とする。
これによれば、浮力室が塑性変形しやすい放射線不透過部に選択的に設けられ、浮力室による弾性復元力を利用することによって、塑性変形しやすい放射線不透過部の垂れ下がりや塑性変形を低減させて、医療用ガイドワイヤの先端部は常に初期の形状を安定維持できる。
【0010】
請求項3に記載の医療用ガイドワイヤでは、樹脂被覆が湿潤状態時に、コイルスプリング体が伸長された際、樹脂被覆は伸長して、コイルスプリング体のコイル素線間の隙間に筒状の膜を形成し、筒状の膜の外径は、コイルスプリング体の外径より小さく、外周に、コイル素線が凸部、筒状の膜が凹部となる、凸凹部が形成される。
これによれば、医療用ガイドワイヤが血管内に挿入されたときに、凸凹部で血流による圧力抵抗を受け、血管内深部への挿入が可能となる。
【0011】
請求項4に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイル素線間の隙間がコイル素線の素線径の50%になるまでのコイルスプリング体伸長時において、コイル素線間の隙間に筒状の膜を形成する。
比較的太径の血管内でガイドワイヤ先端が反転してしまった場合でも、広がったコイル素線間の隙間に筒状の膜が形成されるため、気密性が保持でき、浮力室による弾性復元作用の効果にあずかることができる。
【0012】
請求項5に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイル素線間の隙間がコイル素線の素線径の100%になるまでのコイルスプリング体伸長時において、コイル素線間の隙間に筒状の膜を形成する。
比較的細径の血管内でガイドワイヤ先端が反転してしまった場合でも、広がったコイル素線間の隙間に筒状の膜が形成されるため、気密性が保持でき、浮力室による弾性復元作用の効果にあずかることができる。
【0013】
請求項6に記載の医療用ガイドワイヤでは、樹脂被覆は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとの混合物からなり、湿潤状態時に、混合物からなる樹脂被覆は、樹脂層の内側から外側へ比重が小さくなっている。
この場合、混合物の具体的態様としては、単純に疎水性ポリマーと親水性ポリマーを混合した混合物以外に、疎水性ポリマーに接着性ポリマーを混合したものに親水性ポリマーを混合した混合物、疎水性ポリマーに可塑剤を付加したものに親水性ポリマーを混合した混合物、疎水性ポリマーに接着性ポリマーと可塑剤とを混合したものに親水性ポリマーを混合した混合物でもよい。
体積が次第に増大していく外側へ、比重の小さい親水性ポリマーの重量比を大きくさせることによって、内側から外側への比重を小さくする構成とすることにより、比重の軽い外側が樹脂被覆全体に占める割合が大きくなるため、軽量化を達成し、浮力性能の向上に寄与する。
【0014】
請求項7に記載の医療用ガイドワイヤでは、樹脂被覆は、疎水性被覆の固体層である第1層と、湿潤時に吸水し膨潤して潤滑特性を示す親水性被覆の流動層である第2層からなり、湿潤状態時に、樹脂被覆は、第1層から第2層側へ比重が小さくなっている。
これにより、比重の軽い第2層が樹脂被覆全体に占める割合が大きくなるため、軽量化を達成し、浮力性能の向上に寄与する。
【0015】
請求項8に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイルスプリング体は、先端側に、ステンレス鋼線よりもスプリングバック量が小さい放射線不透過材からなる放射線不透過部を有する。
すなわち、放射線不透過部は塑性変形しやすい材料からなるが、浮力室による弾性復元作用により、放射線透過部の塑性変形は低減される。
【0016】
請求項9に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイルスプリング体は、先端側に、ステンレス鋼線よりもスプリングバック量が小さい放射線不透過材からなる放射線不透過部を有し、放射線不透過部の後端側に、ステンレス鋼線からなる放射線透過部を有し、放射線不透過部は、放射線透過部よりも外径が径小である。
すなわち、放射線不透過部は塑性変形しやすい。しかし、浮力室による弾性復元作用により、放射線不透過部の塑性変形は低減される。
【0017】
請求項10に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイルスプリング体は、放射線不透過材と放射線透過材とを接合して、縮径伸線加工後の線材をコイル状に形成してなり、先端側が放射線不透過材のコイルである。
螺旋巻きするのに先立って、放射線不透過材と放射線透過材とを溶接により接合して、縮径伸線加工した後に、コイル状に螺旋巻き形成した構造であるため、従来の2つのコイルを接合する構造に必要であったハンダやロー材は不要となり、軽量化を達成し、浮力性能の向上に寄与する。
【0018】
請求項11に記載の医療用ガイドワイヤでは、コイルスプリング体は、先端部に少なくとも1本の放射線不透過材を含む多条線からなる。
これにより、単線のコイルスプリング体と比較して、多条線からなるコイルスプリング体は、屈曲時のコイル素線間の隙間が極めて小さいため、過酷な屈曲変形に対しても、コイル素線間に形成される樹脂被覆の筒状の膜が引張によって破られることはなく、気密状態を維持することができる。
【0019】
請求項12に記載の医療用ガイドワイヤでは、浮力室は、独立気泡構造の発泡体を封入して形成されている。
これにより、浮力室への発泡体の封入により、芯材およびコイルスプリング体の塑性変形を効果的に阻止し、弾性復元力を増大することができる。
【0020】
請求項13に記載の医療用ガイドワイヤでは、浮力室は、比重が0.06〜0.5の球状体の発泡ビーズを封入して形成されている。
この場合、発泡ビーズは隣接する発泡ビーズとの接触点が少なく、浮力室の形成に好都合な空隙を多く形成することができるので、浮力性能の向上に寄与する。
【0021】
請求項14に記載の医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体は、マイクロカテーテルとマイクロカテーテルに挿通される医療用ガイドワイヤからなり、医療用ガイドワイヤの外径は、概ね0.2032〜0.254mm(0.008〜0.010インチ)であり、マイクロカテーテルの内径は、概ね0.280〜0.80mmである。
この組立体によれば、医療用ガイドワイヤを細径としながらも、マイクロカテーテルにより医療用ガイドワイヤの押込み特性を向上させることができ、血管内深部への挿入が可能となり、低侵襲化の要請に応えることができ、手術時の患者への負担軽減に寄与することができる。
【0022】
請求項15に記載の医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体は、ガイディングカテーテルと、ガイディングカテーテルに挿通される医療用ガイドワイヤと、ガイディングカテーテルにより案内されるバルーンカテーテルとからなり、医療用ガイドワイヤの外径は、概ね0.2032〜0.254mm(0.008〜0.010インチ)であり、バルーンカテーテルの内径は、概ね0.38〜0.90mmであり、ガイディングカテーテルの内径は、概ね1.7〜2.0mmである。
この組立体によれば、浮力室の浮力を利用し、医療用ガイドワイヤの先端部を血流に乗せ、かつ、血流による圧力抵抗を利用して血管内深部に挿入することができるので、バルーンカテーテルとガイディングカテーテルの細径化がそれぞれ可能となって病変部に対する低侵襲性の要請に応え、手術時の患者への負担軽減に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明の最良の実施形態を、図に示す実施例とともに説明する。
【実施例1】
【0024】
〔実施例1の構成〕
図1ないし図6は、実施例1(請求項1〜5、7〜10に対応)を示したものである。
図示右側が先端側、左側が手元(後端)側である(実施例1以降の実施例の図でも、特に図中に記載がある場合を除き、図示右側が先端側、左側が手元側である)。
実施例1では、医療用ガイドワイヤは、冠状動脈閉塞部治療用のガイドワイヤ1である。
ガイドワイヤ1は、芯材(コア)2と、芯材先端部としての芯材2の先端側部21に同軸的に外嵌めされたコイルスプリング体(以下コイル体)3とを有する。そして、コイル体3の外周に樹脂被覆4を形成し、ガイドワイヤ1の先端部12には浮力室5が形成されている。
【0025】
芯材2はステンレス線で形成され、先端側は、細径の先端側部21となっており、後端(手元)側は、太径の手元側部22となっている。先端側部21は、長さ約300mmで、手元側部22の長さは残りの約1200mmまたは約2700mmである。先端側部21は、手元側から強テーパ部23、弱テーパ部24、円柱部25、弱テーパ部26、および、先端に向かって3段階にわたり板厚が小さくなるように形成された多段扁平部27(図1(e)参照)からなっている。
【0026】
多段扁平部27では、各段差部毎に曲率半径が異なる。すなわち、最先端にある最も板厚が小さい1段目27a、その後端側にある1段目27aよりも僅かに板厚が大きい2段目27b、さらにその後端側にある2段目27bよりも僅かに板厚が大きい3段目27cの順に、屈曲変形の際の局率半径が大きくなる。このため、先端側部21の屈曲変形が狭い範囲内で容易となり、先端側部21が屈曲狭窄病変部に沿って忠実に追従する利点が得られる。
多段扁平部27は、例えば、先端側から手元側へ向かう板厚が、順に1段目27aが0.040mm、2段目27bが0.050mm、3段目27cが0.063mmとなるように設定されている。
尚、多段扁平部27の横断面積が略同一に形成された構造の場合、金型が先端側部21に対して、略平行状態にプレス成形することになる。これにより、プレス成形後の多段扁平部27の微細な寸法が安定するとともに、金型の長寿命化も図られる。
【0027】
コイル体3は、所定長さの白金線とステンレス線とを溶接して所定の外径寸法に伸線加工した後、コイル状に螺旋巻して形成され、芯材2の先端側部21と同等の約300mmの全長を有する。コイル体3は、コイル先部31が約30mmの白金など放射線不透過材からなり、コイル先部31の後側のコイル後部32は約270mmのステンレスなどの放射線透過材からなる。
【0028】
コイル体3は、放射線不透過材として白金以外に、金、銀、タングステンなどの線材が用いられ、放射線透過材としては生体適合性の関係からステンレス線が使用される。白金線などの放射線不透過材は、ステンレス鋼線に比較してスプリングバック量が小さく塑性変形し易い材料である。そのため、例えば、線径0.072mmの線材を外径0.355mmのコイル体3に巻回形成すると、白金線によるコイル先部31のほうがステンレス鋼線によるコイル後部32よりもコイル外径が0.02mm以上小さくなる。すなわち、コイル体3は、先端側へいくほど先細りに縮径された形状となる。
また、ガイドワイヤ1のコイル先部31は、先端部分の柔軟性を確保するために、コイル体3のコイル素線Wの外径の約10〜30%程度の隙間Cが空いている。
【0029】
コイル体3は、先端33が芯材2の先端とロー付け部10(固着部)において、ボールハンダ(錫)又はロー材等を用いて隙間のない状態で気密的固着され、後端34は、芯材2の強テーパ部23にロー付けされ固着されている。
コイル体3の外周および芯材2の手元側部22には、樹脂被覆4が施されている。
【0030】
本実施例では、樹脂被覆4は、疎水性被覆の固体層の第1層41と、湿潤時に潤滑特性を示す親水性被覆の流動層の第2層42とからなる二層構造である。
具体的には、疎水性被覆の固体層とは、ポリウレタン、ポリエーテルブロックアミド、ポリアミド、及びフッ素樹脂などにより被覆された固体層のことをいう。また、親水性被覆の流動層とは、湿潤時に潤滑特性を示す流動層のことをいい、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸エチルエステル共重合体、及び、ポリエチレンオキサイド等である。
【0031】
そして、本実施例では、湿潤時に第1層41よりも第2層42の比重が小さくなる構造となっている。
具体的には、第1層41がフッ素樹脂であるPTFEとすれば、この比重が2.14〜2.20であることから、第2層42には、これより比重が小さく湿潤時に概ね水に近い比重を示すポリビニルピロリドン、無水マレイン酸エチルエステル共重合体、ポリエチレンオキサイド等を用いる。また、第1層41にポリウレタン(比重1.20〜1.24)又はポリエステル(比重1.38)を用いるとすれば、第2層42には、前記同様、これより比重が小さく湿潤時に概ね水に近い比重を示すポリビニルピロリドン等を用いる。
【0032】
第1層41と第2層42の被覆形態は、図2(a)のようにコイル体3の外周に内層側から順に第1層41、第2層42が被覆される形態でもよいし、図2(b)のように、第1層41がコイル素線Wの全周にわたって被覆され、第2層42は、コイル体3の外周に被覆された第1層41の上に被覆される形態でもよい。
【0033】
コイル体3の、コイル先部(放射線不透過部、以下、不透過コイルとも称する)31とコイル後部(放射線透過部、以下、透過コイルとも称する)32との接合部分には、ロー付けにより気密壁11が形成されている。
気密壁11は、コイル先部31の後端部と芯材2とを隙間のない状態にボールハンダ(錫)又はロー材等を用いて隙間のない状態で機密的に固着してなる。
この結果、コイル体3のコイル先部(不透過コイル)31内は、ロー付け部10、気密壁11および樹脂被覆4により気密性が確保され、内部の空間により浮力室5が形成されている。つまり、ガイドワイヤ1は、先端部12に浮力室5を備えている。
【0034】
この浮力室5は、湿潤時、ガイドワイヤ1の屈曲等により、コイル素線間の隙間Cが広げられた場合にも、上記した樹脂被覆4が伸長して隙間Cにコイル体3の外径よりも小さい外径の筒状の膜43を形成するため、気密性が維持される。
前述したように、ガイドワイヤ1のコイル先部31は、先端部分の柔軟性を確保するために、コイル素線間にコイル体3のコイル素線Wの外径の約10〜30%程度の隙間Cが空いている。また術者は、血管分岐部での任意選択性を向上させるため、最先端から約2〜7mmの範囲で、単数、又は、複数の部位でコイル先部31を屈曲変形させている(図3(a)参照)。そして、病変狭窄部導入の際、管壁との接触等によりコイル体3が弾縮変形する。
その際、隙間Cは広がるが、図3(b)に示すように、それに合わせて、吸水し湿潤状態となった樹脂被覆4が伸ばされて隙間Cに連続した膜43を形成する。
【0035】
この連続した膜43は螺旋円筒状で、その谷部の外径はコイル体3の樹脂被覆された外径よりも小さい。すなわち、樹脂被覆4で被覆されたコイル体3の外周に、コイル素線Wが凸部61、コイル素線間に形成された筒状の膜43が凹部62となる、凸凹部6が形成される。
【0036】
一般に、冠状動脈の血管内径は2〜4mmであり、深部へ行くに従って細径化し、稀に狭窄病変部位でガイドワイヤ1の先端部が反転することがある。
例えば、ガイドワイヤ1の外径dが0.35mm、血管内径Dが2mmの場合、屈曲部でのコイル体3円弧の外側の弧長Lと、内側の弧長mとの差Δsは、Δs=L−m=(π×2×1/2)−(π×1.3×1/2)≒1.099mmとなり、内側の弧長mは2.04mm(π×1.3×1/2)となる。これが伸ばされて、3.139mmとなっていることから、長さ比は約1.53となり、屈曲部でのコイル体3は概ね50%伸ばされていることになる(図4(a)参照)。
【0037】
血管内径Dが1.4mmの場合では、Δsは、Δs=L−m=(π×1.4×1/2)−(π×0.7×1/2)≒1.099mmとなり、内側の弧長mは1.099mm(π×0.7×1/2)となる。これが伸ばされて2.198mmとなっていることから、長さ比は約2となり、屈曲部でのコイル体3は概ね100%伸ばされていることになる(図4(b)参照)。
尚、これよりも下回る血管径においては、その血管内径幅で拘束されるため、係る現象は生じない。
【0038】
本実施例では、上記のように細い血管内で稀に反転作用が生じ、コイル体3が50%や100%まで伸長された場合においても、膜43が破れることがないように、樹脂被覆4の量、材料が設定されている。
具体的には、第1層41において、疎水性ポリマーに可塑剤を付加することにより、柔軟性を高めること等がある。可塑剤としては、樟脳、カストール油、ジオクチルフタレート等を用いることができる。
【0039】
〔実施例1の樹脂被覆形成方法〕
樹脂被覆4の形成方法としては、押出成形、ディッピング工法および熱収縮チューブによる成形方法など、いずれであってもよいが、浮力室5を密閉できることが必要である。
コイル体3内に浮力室5を密閉して形成するためには、被覆形成時に加圧されて、浮力室5内に樹脂が入り込まず気体が残存したままで形成できる熱収縮チューブによる成形方法またはディッピング工法が望ましい。特に、加圧されずに樹脂溶着端部処理が不要なディッピング工法が最も望ましい。
【0040】
本実施例の樹脂被覆4の形成方法は、まずコイル体3を疎水性ポリマー溶液内へ浸漬し(ディッピング工法)、その後、熱乾燥(170℃、10分程度)する。その後、親水性ポリマー溶液に浸漬し(ディッピング工法(上塗り))、熱乾燥(170℃、10分程度)させて形成している。
【0041】
また、疎水性ポリマー溶液内へ、接着性ポリマー又は可塑剤のいずれか、又は双方を混合した溶液に浸漬し、熱乾燥した後に、親水性ポリマー溶液への浸漬もしくは親水性ポリマーの塗布を行う方法でもよい。
その場合、接着性ポリマーとしては、ポリウレタン、ポリエステル、スチレンポリブタジエン、アクリル樹脂等を用いる。これは、コイル体3への樹脂被覆4の付着性を高めるためである。
また、可塑剤としては、樟脳、カストール油、ジオクチルフタレート等を用いる。これは、樹脂被覆4の柔軟性を高めるために有効である。特に、前述のように、反転作用が生じても、コイル素線間の隙間Cに連続した柔軟な膜43を形成し、膜43が破れないようにするためには、柔軟性を高めるため可塑剤を付加するのが好ましい。
【0042】
〔実施例1の作用効果〕
図5は、円筒状の膜43がコイル素線間の隙間Cに形成されている様子を観察した写真である。図5(a)、(b)は、円筒状の膜43はコイル体3の中心径部分に形成されており、(a)が素線径の50%伸長時、(b)が素線径の100%伸長時の様子である。また、図5(c)、(d)は、円筒状の膜43がコイル体3の内側に形成されており、(c)が素線径の50%伸長時、(d)が素線径の100%伸長時の様子である。
いずれも、コイル素線間の隙間Cに筒状の膜43が形成され内部に気体を閉じ込めている。
すなわち、このガイドワイヤ1は、コイル先部31が屈曲変形させられ、コイル素線間の隙間Cが広がった場合においても、湿潤状態の樹脂被覆4が伸ばされることにより形成される筒状の膜43により、内部気体が外部へ放出されることなく(内部に気体を閉じ込めた状態)、気密性を保持でき、屈曲変形時においても浮力室5が形成できている。
【0043】
実施例1のガイドワイヤ1は、このような筒状の膜43を形成し、浮力室5を形成することにより以下のような作用、効果を有する。
イ)浮力室5により、血流中での先端部12の姿勢を安定維持できる。
放射線による造影目的として、ガイドワイヤ1のコイル体3には、少なくともコイル先部31に白金が用いられるが、白金は比重が21.4で、ステンレスの比重7.9に比較して約2.7倍である。
ガイドワイヤ1の先端部12は柔軟性が要求されるため、芯材2は細径化されている。このため、コイル先部(不透過コイル)31の比重が大きいほど、自由状態においてガイドワイヤ1の先端部12は大きく垂れ下がり易い。この傾向はガイドワイヤ1が差し込まれる血管内の血液流中においても同様である。
【0044】
このコイル先部31が重いガイドワイヤ1を血管内へ挿入すると、ガイドワイヤ1の先端部12が垂れ下がることにより、これにより血管内壁への接触度合いが大きくなり、血管の解離または内膜剥離を生じる虞がある。とくに、血管の分岐位置において、この垂れ下がりにより、手術者が所望の方向へガイドワイヤ1を挿入する際の、血管選択性が低下する。
この発明では、ガイドワイヤ1の先端部12のコイル先部31内に浮力室5を有するため、血管内の血流中では、先端部12は浮力により垂れ下がりが低減し、一定のストレート状態を維持することができる。このように、血流内での先端部12の垂れ下がりを低減することにより、血管壁との接触、摩擦を軽減させて、解離または内膜剥離などの発生を防ぐことができる。そして、ガイドワイヤ1の先端部12を血流に乗せて、屈曲、蛇行した血管の深部まで、円滑かつ容易に挿入できる。
【0045】
ロ)浮力室5による弾性復元力利用により先端部12の形状を安定維持でき、血管内深部への挿入が可能となる。
前述のように、コイル先部31は、コイル後部32よりもスプリングバック量が小さく、塑性変形し易いため、屈曲、蛇行した血管内への挿入時において、変形し易く、曲がり癖を生じ易い。そこで、本発明のガイドワイヤ1は、この塑性変形し易いコイル先部(不透過コイル)31の内側に密閉された浮力室5を設けている。
【0046】
このため、屈曲変形時には浮力室5内の気体の圧力が増大し、屈曲変形を解消すれば、増大した内部圧力により元の状態に戻る性質を有する。つまり、気体など充填された浮力室5内の弾性復元力を利用することにより先端部12の塑性変形を低減させて、先端部12が常に初期の形状を安定維持できる。
コイル体3は、白金線などの放射線不透過材とステンレス線の放射線透過材とのスプリングバック量の差により、先端33へいくほど先細り状態に縮径されるとともに、浮力室5の形成に基づく形状の安定維持効果も生じる。この結果、狭窄病変部に対するコイル先部31の通過性を一段と向上させることができる。
【0047】
ハ)圧力抵抗利用により血管内深部への挿入を可能とする。
本発明のガイドワイヤ1は、冠状動脈閉塞部治療用であり、図6(a)に示すように、冠状動脈Ac内へ挿入される。冠状動脈Ac内での血流方向は、大動脈弓Aa内とは異なり、ガイドワイヤ1の進行方向と同一、つまり追い風状態となる(図6(a)矢印参照)。
かかる場合において、血流は、凸部61に衝突して、円筒状の膜43により芯材側への血流の浸入が遮られるため、血流は自然とコイル体3の巻回形態に沿って流れ、その結果、スパイラルの渦流が発生する(図6(b)参照)。
【0048】
凸部61に血流が衝突する際の圧力抵抗と、コイル体3の巻回形態によって発生するスパイラル渦流とにより、進行方向への推進力を発揮させることができる。
本発明は、前述のように内部気体を外に放出しない浮力室5を形成しているため、先端部12は、浮力室5の作用により血流に浮いた状態であり、かつ、圧力抵抗とスパイラル渦流とにより前方への推進力を発揮させることができ、血管内深部への挿入がさらに容易となる。
【0049】
ニ)この発明のガイドワイヤ1では、細径化することができ、手術の低侵襲化の要請に応えることが容易で、患者の負担を軽減できる。
例えば心臓血管閉塞部の拡径治療、つまり経皮的経血管冠動脈形成術(PTCA)においては、一般にガイドワイヤは外径0.35mm、拡径治療に用いるバルーンカテーテルを導入するガイディングカテーテルは7F〜8F(内径が2.3mm〜2.7mm)が用いられる。ガイドワイヤは、屈曲蛇行血管内の深部へ挿入するために、トルク伝達性、押し込み特性等の各種機械的な特性が要求されるため、一般に用いられる外径は0.355mmである。
【0050】
一方、この発明のガイドワイヤ1は、機械的な特性を利用して血管内の深部までの挿入性が向上することの他に、浮力室5の浮力を利用して血流に乗せて血管内深部へ挿通する効果を併せ持つ。このため、この発明のガイドワイヤ1は、トルク伝達特性等の機械的要求特性を軽減させ、ガイドワイヤ1及び芯材2を細径化することが可能となる。
例えば、ガイドワイヤ1とバルーンカテーテル(図示せず)とガイディングカテーテル(図示せず)との組立体として用いる場合(請求項15対応)、ガイドワイヤ1の外径が0.014インチから0.008〜0.010インチ(0.355mmから0.2032〜0.254mm)へ、又、バルーンカテーテルを案内するガイディングカテーテルは、7F〜8Fから5F、6F(内径2.3mm〜2.7mmから内径1.7mm〜2.0mm)へ細径化することができる。これにより、低侵襲化の要請に応えることが可能で、手術時の患者負担が軽減できる。
尚、補足すれば、バルーンカテーテルの内径は概ね0.38〜0.90mmであって、ガイディングカテーテルはバルーンカテーテルと併用されて、ガイドワイヤ1との適切なクリアランスを保っている為、ガイドワイヤ1の押す力をガイディングカテーテル及びバルーンカテーテルが反力として支えることにより、病変部での押込み力を発揮させることができる。
【0051】
ホ)コイル体3の外周部は、弾力性のある樹脂被覆4により密閉されているため、先端部12が局部座屈変形しても浮力室5の内圧が増大して弾性変形し、かつこの増大した内圧により元に戻る復元力が発生する。また、樹脂被覆4は、塑性変形し易い細線の芯材2を保護する作用も合わせ持つ。
【0052】
へ)樹脂被覆4が、固体層の第1層41と、流動層の第2層42とからなる二層構造であることにより、例えば、樹脂被覆4に微細なピンホールあるいは傷などが発生している場合、第2層42の液体粘性流動体を第1層41の全体に包被することにより、浮力室5内の気体が外部に漏れることを防いで浮力室5の密閉状態を維持することができる。
また、第2層42の液体粘性流動体を第1層41の全体に包被することに伴い、血管壁との摩擦を軽減させることができる。
【0053】
ト)樹脂被覆4において、第2層42が第1層41よりも比重が小なる構造とすることにより、ガイドワイヤ1の軽量化を達成し、浮力性能の向上に寄与する。
この構造が軽量化できる理由は、外層側の第2層42は、内層側の第1層41に対して、徐変径大化しているため、各層同じ厚さであれば、比重の軽い外層側の第2層42が被覆全体に占める割合が大きくなるからである。
【実施例2】
【0054】
〔実施例2の構成〕
図7は、実施例2(請求項6に対応)を示したものである。
尚、実施例2以降の実施例では、実施例1と異なる点を中心に説明する。
本実施例のガイドワイヤ1では、樹脂被覆4は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとの混合物の単層からなる単層構造である。また、この混合物からなる単層は、湿潤状態時に内側から外側へ比重が小さくなっている。
混合物の具体的態様としては、疎水性ポリマーと親水性ポリマーを混合した混合物、疎水性ポリマーに接着性ポリマーを混合したものに親水性ポリマーを混合した混合物、疎水性ポリマーに可塑剤を付加したものに親水性ポリマーを混合した混合物、疎水性ポリマーに接着性ポリマーと可塑剤とを混合したものに親水性ポリマーを混合した混合物がある。
【0055】
疎水性ポリマーとしては、セルロースエステル、ポリメチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体等であり、セルロースエステルが最も好ましい。
親水性ポリマーとは、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸エチルエステル共重合体、及び、ポリエチレンオキサイド等である。
【0056】
接着性ポリマーとしては、ポリウレタン、ポリエステル、スチレンポリブタジエン、アクリル樹脂等を用いる。これは、コイル体3への樹脂被覆4の付着性を高めるためである。
また、可塑剤としては、樟脳、カストール油、ジオクチルフタレート等を用いる。これは、樹脂被覆4の柔軟性を高めるために有効である。
【0057】
〔実施例2の樹脂被覆形成方法〕
本実施例の樹脂被覆4の形成方法は、コイル体3を疎水性ポリマー溶液と親水性ポリマーとの混合溶液内へ浸漬し(ディッピング工法)、その後、熱乾燥(170℃、10分程度)させて形成される。
又は、疎水性ポリマー溶液内へ、接着性ポリマー又は可塑剤のいずれか、又は接着性ポリマーと可塑剤の双方を混合し、その後、親水性ポリマーを混合した混合溶液に、コイル体3を浸漬し(ディッピング工法)、その後、熱乾燥(170℃、10分程度)させて形成される。
【0058】
〔実施例2の作用効果〕
本実施例の樹脂被覆4は、湿潤状態時に、内側から外側へ比重が小さくなる構成である。放射線不透過材等の金属製のコイル体3の外周部には、例えば、接着性ポリマーが混合されている疎水性ポリマーが付着し、そして、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとの間で、高い架橋結合または分子間結合されている。このため、コイル体3の内側では疎水性ポリマー成分が多く、その外側は親水性ポリマー成分が多く配置されるからである。
これにより、ガイドワイヤ1の軽量化を達成し、浮力性能の向上に寄与する。
この構造が軽量化できる理由は、外側は、内側に対して、徐変径大化しているため、外側の比重を小さくすれば、比重の小さい外側が被覆全体に占める割合が大きくなるからである。
【実施例3】
【0059】
〔実施例3の構成〕
図8及び図9は、実施例3(請求項11に対応)を示したものである。
本実施例のガイドワイヤ1では、コイル体3は、コイル先部31に少なくとも1本の放射線不透過材を含む多条線からなる多条線コイル3Aである。
具体的には、多条線コイル3Aは、線径φ0.072mmの線材を3〜12本(図8に示す本実施例では12本)用いて、外径がφ0.35mmの撚り線状に形成したもので、ロー付け部10と気密壁11との間のコイル先部31に少なくとも1本(本実施例では交互に6本)の放射線不透過材からなる不透過線材Rを使用することにより、コイル先部31を放射線不透過部となす構造である。
【0060】
この構造の製造方法は、線材3〜12本を芯金を用いて巻回成形する方法、又は、ロープ撚線機を用いて各線材を撚り合わせて製造する方法等がある。
また、線径φ0.072mmの線材を3〜4本の撚り線を用いて成形し、それを3〜12本用いて多条線コイル3Aとしてもよい。
【0061】
〔実施例3の作用効果〕
上記構造とすることによる被覆形成及び浮力室5との関係について以下に説明する。
屈曲変形したとき、屈曲部の局率半径が大きい側で、実施例1のような単線のコイル体3では、コイル素線間の隙間Cが大きいのに対して、多条線コイル3Aでは、隙間Cが極めて小さい(図9参照)。
この理由は、屈曲変形時、多条線コイル3Aでは、各素線間で相対滑りによる微小な位置ずれが発生して、単線のコイル体3の大きな隙間Cを吸収したものと考えることができる。
【0062】
多条線を用いた多条線コイル3Aでは、屈曲変形しても、コイル素線間に発生する隙間Cは微小であるため、過酷な屈曲変形に対しても、被覆が引張によって破られることはなく、被覆による密閉状態を過酷な屈曲変形時においても維持することができる。
そして、浮力室5の機能を長期安定して発揮することができる。
【実施例4】
【0063】
〔実施例4の構成〕
図10(a)は、実施例4(請求項12に対応)を示したものである。
この実施例では、浮力室5を独立気泡構造の発泡体層51により形成している。
発泡体層51は、芯材2とコイル体3とをロー付けした後、発泡材液の容器内にコイル体3の所定部位まで浸漬(ディッピング)して引き上げ、治具を通して付着した発泡材の外径を均一にして、発泡材が固化するまで放置、もしくは加熱する。その後、前記ディッピング工法などにより、コイル体3および芯材2の全体に樹脂被覆4を施す。なお、スプレー式の発泡材を用いてもよい。
【0064】
発泡体層51は樹脂(弾性体)に発泡剤を加えた材料を用い、樹脂はポリエステル、スチレン・メタクリル酸共重合体などのスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が使用できる。発泡剤としては、炭酸ガス等の揮発性発泡剤、炭酸アンモニウム等の分解性発泡剤など公知のものが使用できる。一例として、比重が0.06〜0.3の架橋ポリオレフィン発泡体を用いる。
【0065】
発泡体層51は、ゴムに発泡剤を加えたものであってもよく、ゴム材料としてはシリコーンゴム、クロロプレンゴムを用いる。シリコーンゴム発泡剤としは、アゾビスイソブチロニトリルなど公知の発泡剤が使用できる。発泡体層51の構造は、気泡が連続している連続気泡構造よりも独立気泡構造が望ましく、気泡の大きさは微細であることが望ましい。一例として、圧縮永久歪みに優れ、低比重(0.41程度)で平均セル径が110μm程度の微細セル構造のシリコーンスポンジが望ましい。
【0066】
〔実施例4の作用効果〕
実施例4の構成により、以下の特有の作用効果がある。
芯材2とコイル体3との間に発泡体層51が介在するため、コイル体3の外周に樹脂被覆成形の際にコイル先部31が押出成形によって加圧されても、コイル体3の内部に樹脂が入り込むことはない。発泡体層51が独立気泡であれば、コイル体3の内部に樹脂が入り込むことをより一層有効に阻止でき、浮力室5が確保できる。また、発泡体層51が弾性体であるため、芯材2およびコイル体3の塑性変形をより有効に阻止できるとともに弾性復元力を増大できる。
【0067】
一般にコイル体3のコイル先部(不透過コイル)31は、より柔軟性を付与するため、コイル線間に微小な隙間を設けている。このため、樹脂被覆4の成形時に、この隙間内に樹脂被覆4の樹脂が入り込んで柔軟性を阻害する。コイル体3の外周面まで発泡体層51により一体化されているため、この弊害を防ぎ、コイル先部31の柔軟性を安定維持できる。
【実施例5】
【0068】
〔実施例5の構成〕
図10(b)は、実施例5(請求項13に対応)を示したものである。この実施例では、浮力室5を発泡ビーズ53により形成している。発泡ビーズ53としては、合成樹脂発泡ビーズを用い、材料は実施例4に示した材料を球状体に形成したものを使用する。この例として、比重0.06〜0.5で50〜100μm程度の球状体を用いる。
【0069】
〔実施例5の作用効果〕
実施例5の構成では、以下の特有の作用効果を奏する。
発泡ビーズ53は、発泡体でかつ球状構造であることから、例えば多角形状とは異なり隣接する発泡ビーズ53同士の接触点が少なく、浮力室5の形成に好都合な空隙を多く形成できる。
【0070】
また、発泡ビーズ53のバインダーとして、実施例4の発泡体層51を用いることにより、容易にコイル先部(不透過コイル)31内に浮力室5が形成できる。なお、この場合の製造方法としては、前記発泡体層51に発泡ビーズ53を一定量混入させるのみで、実施例4と同様の工法で形成できる。
【実施例6】
【0071】
図11は、実施例6(請求項14に対応)を示したものである。
本実施例は、マイクロカテーテル7とマイクロカテーテル7に挿通されるガイドワイヤ1からなるガイドワイヤ1とマイクロカテーテル7との組立体8である。
本発明のガイドワイヤ1は既に上述してあるように、浮力室作用と圧力抵抗増大作用との併用、さらには、比重差を利用した被覆形成による軽量化作用により、血流を利用して血管内深部挿入を可能とするものである。このため、この発明のガイドワイヤ1は、トルク伝達特性等の機械的要求特性を軽減させ、ガイドワイヤ1を細径化することが可能である。
しかし、高度狭窄病変内を通過させるには、さらに十分なトルク伝達特性等の機械的要求特性が必要となり、細径化したガイドワイヤ1においては、これが不十分な場合がある。
【0072】
そこで、本実施例では、小内径の可撓性チューブでなるマイクロカテーテル7と併用する組立体8として使用することにより、機械的要求特性の必要を満たすものである。
すなわち、高度狭窄病変部Sへガイドワイヤ1の先端部12を到達させた後、マイクロカテーテル7を高度狭窄病変部S近傍まで挿入し、このマイクロカテーテル7の後端部(体外、図示せず)を保持しながらガイドワイヤ1を押し、かかる場合にこの押す力をマイクロカテーテル7が反力として支えることにより、押し込み力を発揮させ、ガイドワイヤ1を前進させることができる。
これに用いるマイクロカテーテル7の内径は、0.280〜0.80mmで外径が0.4〜1.2mm程度である。また、このマイクロカテーテル7に挿入されるガイドワイヤ1の外径は、概ね0.2032〜0.254mm(0.008〜0.010インチ)である。
【0073】
これにより、血管内深部挿入を可能となして、細径でありながら高度狭窄病変部S内での押し込み力を発揮させ、低侵襲化の要請に応えることができ、手術時の患者負担を軽減できる。
【0074】
〔変形例〕
図12ないし図14は、変形例を示したものである。
実施例1〜6では、芯材2の先端側部21の最先端部分に、先端に向かって3段階にわたり板厚が小さくなるように形成された多段扁平部27(図1(e)参照)が設けられていたが、先端に向かって3段階にわたり外径が小さくなるように形成された円形断面先細形状の多段縮径部28が設けられているのでもよい(図12(c)参照)。多段縮径部28でも、多段扁平部27と同様に、各段差部毎に曲率半径が異なるため、先端側部21の屈曲変形が容易になり、先端側部21が屈曲狭窄病変部に沿って忠実に追従する利点が得られる。
【0075】
図13に示すガイドワイヤ1では、コイル後部(透過コイル)32の手元側端に、芯材2の手元側部22を包む多条中空コイル体36を接続し、芯材2の後端と多条中空コイル体36の後端とをロー付け又は溶接している。
この際、手元側において、中実体を用いた例と、多条中空コイル体内に中実体の芯材2を用いた例とを比較した場合、手元側の外径が同一外径の時、外装に多条中空コイル体36を用いれば、隣接素線間に凹状の隙間が生じているので、中実体の芯材に比べて軽量化を図ることができる。また、芯材2を血管に挿入する際、血液が多条中空コイル体36に沿って流動することにより、芯材2に推進力を付与して狭窄病変部への深部挿入が可能となる。
【0076】
図14に示すガイドワイヤ1では、コイルは不透過コイル31のみであり、ガイドワイヤ1の全体を樹脂被覆4で包囲している。これら変形例の構成でも、実施例1と同様の作用、効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(a)はガイドワイヤの側面図であり、(b)は(a)のA−A断面図であり、(c)は芯材の側面図であり、(d)は(c)の正面図であり、(e)は多段扁平部の斜視図である(実施例1)。
【図2】(a)、(b)は、ガイドワイヤ先端部の側部断面図である(実施例1)。
【図3】(a)はガイドワイヤ先端部の屈曲の様子を説明する図であり、(b)は、伸長時のガイドワイヤの側面図である(実施例1)。
【図4】(a)、(b)は、ガイドワイヤ先端部が反転した場合の屈曲部の伸長程度を説明する図である(実施例1)。
【図5】円筒状の膜がコイル素線間の隙間に形成されている様子を観察した写真である(実施例1)。
【図6】(a)は、ガイドワイヤの冠状動脈への挿入を示す説明図であり、(b)はガイドワイヤの斜視図であり、ガイドワイヤと血流との関係を示している(実施例1)。
【図7】ガイドワイヤ先端部の側部断面図である(実施例2)。
【図8】ガイドワイヤの斜視図である(実施例3)。
【図9】(a)は、単線のコイル体の屈曲状態を示し(実施例1)、(b)は、多条線コイルの屈曲状態を示した図である(実施例3)。
【図10】(a)、(b)は、ガイドワイヤ先端部の側部断面図である(実施例4、5)。
【図11】(a)、(b)は、ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体を用いた、高度狭窄病変部へのガイドワイヤの挿入の様子を示した図である(実施例6)。
【図12】芯材を示した図であり、(a)は側面図、(b)は右側面図、(c)は多段縮径部の斜視図である(変形例)。
【図13】(a)はガイドワイヤの側面図であり、(b)は(a)のB−B断面図であり、(c)は(a)のC−C断面図である(変形例)。
【図14】ガイドワイヤの側面図である(変形例)。
【符号の説明】
【0078】
1 ガイドワイヤ(医療用ガイドワイヤ)
10 ロー付け部(固着部)
11 気密壁
12 先端部
2 芯材
21 先端側部(芯材の先端)
22 手元側部(芯材の後端)
3 コイルスプリング体(コイル体)
31 コイル先部(放射線不透過部、不透過コイル)
32 コイル後部(放射線透過部、透過コイル)
33 先端(コイルスプリング体の先端)
3A 多条線コイル
4 樹脂被覆
41 第1層
42 第2層
43 膜(筒状の膜)
5 浮力室
51 発泡体層(発泡体)
53 発泡ビーズ
6 凸凹部
61 凸部
62 凹部
7 マイクロカテーテル
8 組立体(医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体)
W コイル素線
C 隙間(コイル素線間の隙間)
R 不透過線材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に放射線不透過材からなる放射線不透過部を有し、前記放射線不透過部の後端側に放射線透過材からなる放射線透過部を有するコイルスプリング体と、
前記コイルスプリング体内に貫挿され、先端側が細径で後端側が太径の芯材とを備え、
前記コイルスプリング体の先端と前記芯材の先端とを気密的に固着し、
前記コイルスプリング体の外周に樹脂被覆を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、
前記放射線不透過部の後端部に、前記芯材と前記コイルスプリング体とを気密的に固着する気密壁を設け、
前記樹脂被覆は、前記コイルスプリング体の外周に気密的に被覆されており、湿潤状態時においては、乾燥状態時よりも潤滑性を有するとともに、前記コイルスプリング体の伸長時に、前記コイルスプリング体のコイル素線間の隙間に、前記コイルスプリング体の外径よりも小さい外径の筒状の膜を形成し、
前記放射線不透過部内に、前記コイルスプリング体の先端と前記芯材の先端とを気密的に固着した固着部と、前記気密壁と、前記樹脂被覆とによる浮力室を形成することを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記浮力室により、前記放射線不透過部の屈曲変形時に前記浮力室内の気体圧力が増大し、また、屈曲変形の解消により、増大した内部圧力を元の状態に戻す前記浮力室内の弾性復元力を利用したことを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記樹脂被覆が湿潤状態時に、前記コイルスプリング体が伸長された際、
前記樹脂被覆は伸長して、前記コイルスプリング体の前記コイル素線間の隙間に前記筒状の膜を形成し、
前記筒状の膜の外径は、前記コイルスプリング体の外径より小さく、
外周に、前記コイル素線が凸部、前記筒状の膜が凹部となる、凸凹部が形成されることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
請求項3に記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイル素線間の隙間が前記コイル素線の素線径の50%になるまでの前記コイルスプリング体伸長時において、
前記コイル素線間の隙間に前記筒状の膜を形成することを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項5】
請求項3に記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイル素線間の隙間が前記コイル素線の素線径の100%になるまでの前記コイルスプリング体伸長時において、
前記コイル素線間の隙間に前記筒状の膜を形成することを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記樹脂被覆は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとの混合物からなり、
湿潤状態時に、前記混合物からなる前記樹脂被覆は、内側から外側へ比重が小さくなっていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記樹脂被覆は、疎水性被覆の固体層である第1層と、親水性被覆の流動層である第2層からなり、
湿潤状態時に、前記樹脂被覆は、前記第1層から前記第2層側へ比重が小さくなっていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイルスプリング体は、先端側に、ステンレス鋼線よりもスプリングバック量が小さい放射線不透過材からなる前記放射線不透過部を有することを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイルスプリング体は、先端側に、ステンレス鋼線よりもスプリングバック量が小さい放射線不透過材からなる前記放射線不透過部を有し、前記放射線不透過部の後端側に、ステンレス鋼線からなる前記放射線透過部を有し、
前記放射線不透過部は、前記放射線透過部よりも外径が径小であることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイルスプリング体は、放射線不透過材と放射線透過材とを接合して、縮径伸線加工後の線材をコイル状に形成してなり、先端側が放射線不透過材のコイルであることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項11】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイルスプリング体は、先端部に少なくとも1本の放射線不透過材を含む多条線からなることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記浮力室は、独立気泡構造の発泡体を封入して形成されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記浮力室は、比重が0.06〜0.5の球状体の発泡ビーズを封入して形成されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項14】
マイクロカテーテルと前記マイクロカテーテルに挿通される請求項1ないし13のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤとからなる医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体であって、
前記医療用ガイドワイヤの外径は、概ね0.2032〜0.254mm(0.008〜0.010インチ)であり、
前記マイクロカテーテルの内径は、概ね0.280〜0.80mmであることを特徴とする医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体。
【請求項15】
ガイディングカテーテルと、前記ガイディングカテーテルに挿通される請求項1ないし13のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤと、前記ガイディングカテーテルにより案内されるバルーンカテーテルとからなる医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体であって、
前記医療用ガイドワイヤの外径は、概ね0.2032〜0.254mm(0.008〜0.010インチ)であり、
前記バルーンカテーテルの内径は、概ね0.38〜0.90mmであり、
前記ガイディングカテーテルの内径は、概ね1.7〜2.0mmであることを特徴とする医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体。
【請求項1】
先端側に放射線不透過材からなる放射線不透過部を有し、前記放射線不透過部の後端側に放射線透過材からなる放射線透過部を有するコイルスプリング体と、
前記コイルスプリング体内に貫挿され、先端側が細径で後端側が太径の芯材とを備え、
前記コイルスプリング体の先端と前記芯材の先端とを気密的に固着し、
前記コイルスプリング体の外周に樹脂被覆を形成した医療用ガイドワイヤにおいて、
前記放射線不透過部の後端部に、前記芯材と前記コイルスプリング体とを気密的に固着する気密壁を設け、
前記樹脂被覆は、前記コイルスプリング体の外周に気密的に被覆されており、湿潤状態時においては、乾燥状態時よりも潤滑性を有するとともに、前記コイルスプリング体の伸長時に、前記コイルスプリング体のコイル素線間の隙間に、前記コイルスプリング体の外径よりも小さい外径の筒状の膜を形成し、
前記放射線不透過部内に、前記コイルスプリング体の先端と前記芯材の先端とを気密的に固着した固着部と、前記気密壁と、前記樹脂被覆とによる浮力室を形成することを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記浮力室により、前記放射線不透過部の屈曲変形時に前記浮力室内の気体圧力が増大し、また、屈曲変形の解消により、増大した内部圧力を元の状態に戻す前記浮力室内の弾性復元力を利用したことを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記樹脂被覆が湿潤状態時に、前記コイルスプリング体が伸長された際、
前記樹脂被覆は伸長して、前記コイルスプリング体の前記コイル素線間の隙間に前記筒状の膜を形成し、
前記筒状の膜の外径は、前記コイルスプリング体の外径より小さく、
外周に、前記コイル素線が凸部、前記筒状の膜が凹部となる、凸凹部が形成されることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
請求項3に記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイル素線間の隙間が前記コイル素線の素線径の50%になるまでの前記コイルスプリング体伸長時において、
前記コイル素線間の隙間に前記筒状の膜を形成することを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項5】
請求項3に記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイル素線間の隙間が前記コイル素線の素線径の100%になるまでの前記コイルスプリング体伸長時において、
前記コイル素線間の隙間に前記筒状の膜を形成することを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記樹脂被覆は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとの混合物からなり、
湿潤状態時に、前記混合物からなる前記樹脂被覆は、内側から外側へ比重が小さくなっていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記樹脂被覆は、疎水性被覆の固体層である第1層と、親水性被覆の流動層である第2層からなり、
湿潤状態時に、前記樹脂被覆は、前記第1層から前記第2層側へ比重が小さくなっていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイルスプリング体は、先端側に、ステンレス鋼線よりもスプリングバック量が小さい放射線不透過材からなる前記放射線不透過部を有することを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイルスプリング体は、先端側に、ステンレス鋼線よりもスプリングバック量が小さい放射線不透過材からなる前記放射線不透過部を有し、前記放射線不透過部の後端側に、ステンレス鋼線からなる前記放射線透過部を有し、
前記放射線不透過部は、前記放射線透過部よりも外径が径小であることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイルスプリング体は、放射線不透過材と放射線透過材とを接合して、縮径伸線加工後の線材をコイル状に形成してなり、先端側が放射線不透過材のコイルであることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項11】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記コイルスプリング体は、先端部に少なくとも1本の放射線不透過材を含む多条線からなることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記浮力室は、独立気泡構造の発泡体を封入して形成されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤにおいて、
前記浮力室は、比重が0.06〜0.5の球状体の発泡ビーズを封入して形成されていることを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
【請求項14】
マイクロカテーテルと前記マイクロカテーテルに挿通される請求項1ないし13のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤとからなる医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体であって、
前記医療用ガイドワイヤの外径は、概ね0.2032〜0.254mm(0.008〜0.010インチ)であり、
前記マイクロカテーテルの内径は、概ね0.280〜0.80mmであることを特徴とする医療用ガイドワイヤとマイクロカテーテルとの組立体。
【請求項15】
ガイディングカテーテルと、前記ガイディングカテーテルに挿通される請求項1ないし13のいずれか1つに記載の医療用ガイドワイヤと、前記ガイディングカテーテルにより案内されるバルーンカテーテルとからなる医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体であって、
前記医療用ガイドワイヤの外径は、概ね0.2032〜0.254mm(0.008〜0.010インチ)であり、
前記バルーンカテーテルの内径は、概ね0.38〜0.90mmであり、
前記ガイディングカテーテルの内径は、概ね1.7〜2.0mmであることを特徴とする医療用ガイドワイヤとバルーンカテーテルとガイディングカテーテルとの組立体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図5】
【公開番号】特開2008−11938(P2008−11938A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183925(P2006−183925)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【特許番号】特許第3940161号(P3940161)
【特許公報発行日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(390030731)朝日インテック株式会社 (140)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【特許番号】特許第3940161号(P3940161)
【特許公報発行日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(390030731)朝日インテック株式会社 (140)
【Fターム(参考)】
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