説明

医療用ガイドワイヤ

【課題】閉塞した血管や、狭窄や蛇行の強い血管への挿入が容易で、脳血管等の細い血管内の血栓を迅速且つ確実に除去することができる上に、血管の損傷を確実に防止することができる医療用ガイドワイヤを提供する。
【解決手段】ガイドワイヤ本体12に配設され、外部に超音波を発生可能な超音波振動体14と、この超音波振動体14を超音波振動させる電源供給装置16と、を有して構成された医療用ガイドワイヤ10により、血管内の血栓を超音波により乳化融解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内に形成された血栓を超音波によって乳化融解する医療用ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
急性心筋梗塞、脳梗塞、肺動脈血栓塞栓症、上腸管脈動脈血栓塞栓症、急性末梢動脈閉塞等に代表される致命的な疾患は、血管内に形成された血栓による動脈の閉塞が主な原因であり、可及的早期に血栓を除去して血管を再還流させる必要がある。
【0003】
従来、このような血栓を除去する技術として、例えば、血栓溶解剤の全身投与により血栓を溶解する方法や、カテーテルを使用して局所の血栓に直接、血栓溶解剤を散布して血栓を溶解する方法等が広く知られている。しかしながら、前者の方法では、多量の血栓溶解剤を経静脈的に全身投与する方法であるため、手技は簡単であるが多量の血栓溶解剤を必要とし、脳出血や消化管出血等の合併症を引き起こす危険性が高い。とりわけ、血栓溶解剤による血栓溶解は酵素反応であるため、時間がかかり、即効性に欠ける難点がある。また、後者の方法は現在最も普及している方法であるが、血栓溶解剤を必要とする上に、手技が煩雑で時間がかかり、熟練を要する。
【0004】
また、外科的手法として、バルンまたはステントカテーテルにより血栓を押し付ける方法や血栓吸引カテーテルにより血栓を除去する方法等が知られている。しかしながら、前者では、バルン等で血管を押し広げる必要があるため、血管壁の解離を来す危険性がある上に、血管内皮を傷つけてしまうおそれがあるため、血栓の形成をさらに助長してしまう場合がある。また、両者とも太い血管には有効であるが、血管の狭窄や蛇行が強い場合には局所までバルンを到達させるのは困難であり、脳動脈等の細い血管には使用することができない。
【0005】
一方、先端部に超音波発生体を設けたカテーテルを血管内に挿入して血栓が存在する位置まで進め、外部の駆動部からカテーテル本体を介して超音波発生体を駆動させて超音波を発生させ、その超音波振動によって血栓を振動破壊して血栓を除去する方法(例えば、特許文献1参照)や、先端部に超音波共振体を設けたカテーテルを患部付近に位置させ、外部の超音波発信器から経皮的に組織を解して超音波を伝播させて前記超音波共振体を共振させて血栓を除去する方法(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
【特許文献1】特開2005−95410号公報
【特許文献2】特開平6−343641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記の方法では、いずれも超音波によりカテーテルの先端を振動させるため、カテーテルが飛び跳ね、血管壁を損傷させてしまう可能性があり、血栓に対し縦方向の振動を与えられない欠点がある。また、中空構造のカテーテルの径を細くするのは限界があり、閉塞した血管や狭窄や蛇行の強い血管への挿入は困難である。さらに、前記後者の方法では、外部の超音波発生器からの超音波が頭蓋骨で遮断されるため、脳血管内の血栓には利用できないという欠点がある。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、閉塞した血管や、狭窄や蛇行の強い血管への挿入が容易で、脳血管等の細い血管内の血栓を迅速且つ確実に除去することができる上に、血管の損傷を確実に防止することができる医療用ガイドワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、以下の本発明の医療用ガイドワイヤにより達成される。
【0009】
(1)本発明は、ガイドワイヤ本体に配設され、外部に超音波を発生可能な超音波発生部と、前記超音波発生部を超音波振動させる駆動部と、を有して構成され、血管内の血栓を前記超音波により乳化融解することを特徴とする、医療用ガイドワイヤである。
【0010】
(2)本発明は、前記超音波発生部から発生可能な超音波の周波数帯域は、0.1MHz以上100MHz以下であることを特徴とする、(1)に記載の医療用ガイドワイヤである。
【0011】
(3)本発明は、前記超音波発生部は、前記ガイドワイヤ本体の先端から所定の間隔をおいて配設されていることを特徴とする(1)または(2)に記載の医療用ガイドワイヤである。
【0012】
(4)本発明は、前記超音波発生部は、自身が変形することによって超音波振動が可能な超音波振動体であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の医療用ガイドワイヤである。
【0013】
(5)本発明は、前記超音波振動体は、電歪素子を有する電歪振動子であり、前記駆動部は、前記電歪素子に電圧を印加することによって前記電歪振動子を超音波振動させる電源供給装置であることを特徴とする、(4)に記載の医療用ガイドワイヤである。
【0014】
(6)本発明は、前記超音波振動体は、磁歪素子を有する磁歪振動子であり、前記駆動部は、前記磁歪素子に磁界を印加することによって前記磁歪振動子を超音波振動させる駆動コイルであることを特徴とする、(4)に記載の医療用ガイドワイヤである。
【0015】
(7)本発明は、前記駆動部は、超音波振動を発生可能な超音波振動発生装置であり、前記超音波発生部は、前記超音波振動発生装置から発生する超音波振動に共振して超音波振動する超音波共振体であり、前記超音波発生装置から発生する超音波振動は、前記ガイドワイヤ本体を介して前記超音波共振体に伝達されるように構成されていることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の医療用ガイドワイヤである。
【0016】
(8)本発明は、前記超音波振動発生装置から発生可能な超音波振動の周波数は、前記超音波共振体の共振周波数であって前記ガイドワイヤ本体の共振周波数ではない周波数に設定されていることを特徴とする、(7)に記載の医療用ガイドワイヤである。
【0017】
(9)本発明は、前記ガイドワイヤ本体の先端部分は、可撓性および柔軟性を有する材料によって形成されていることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の医療用ガイドワイヤである。
【0018】
(10)本発明は、前記超音波発生部は、前記ガイドワイヤ本体に同軸的に配設されていることを特徴とする、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の医療用ガイドワイヤである。
【0019】
(11)本発明は、脳血管内の脳血栓を乳化融解するために用いられることを特徴とする、請求項(1)〜(10)のいずれか1項に記載の医療用ガイドワイヤである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る医療用ガイドワイヤによれば、従来の血栓除去カテーテルのように小型化に限界のある中空構造のカテーテルを用いる必要がないため、閉塞した血管や、狭窄や蛇行の強い血管への挿入が容易で、心臓等の血管内の血栓のみならず、脳血管等の細い血管内の血栓を迅速且つ確実に除去することができる。また、血栓のような脆弱な組織のみを超音波によって乳化融解させることができ、弾力性のある血管の内壁を傷つけてしまうおそれが無く、血管の損傷を確実に防止することができる。
【0021】
また、前記超音波発生部から発生可能な超音波の周波数帯域が、0.1MHz以上100MHz以下であれば、高周波帯域の超音波により、血栓を十分に粉砕・乳化・融解させることができ、乳化融解後の血栓が末梢血管に流れても遠隔塞栓を生じる心配がなく、また、従来の血栓除去用カテーテルのように血管内の溶存酵素等の気化による気泡を発生させることがない。
【0022】
さらに、従来の血栓除去用カテーテルでは、振動によって超音波振動子が配設された先端部分が飛び跳ねてしまう場合があるため、カテーテルによって血管の内壁を傷つけてしまうおそれがある上に、血管内において超音波振動子を適切な位置に保持し続けることが難しく、血栓に対して一定方向の振動を継続的に与えることが困難である。その点、前記超音波発生部が、前記ガイドワイヤ本体の先端から所定の間隔をおいて配設されていれば、超音波発生部の振動により先端部分が飛び跳ねてしまうことがなく、血管の内壁やその周辺の臓器を傷つけるおそれがない上に、超音波発生部を適切な位置に保持し続けることができ、超音波発生部から発生する超音波を血栓に対して安定的に供給することができる。
【0023】
さらにまた、前記超音波発生部が、自身が変形することによって超音波振動が可能な超音波振動体であれば、外部から超音波振動を与える必要がなく、超音波振動を発生させる装置が不要となる。
【0024】
また、前記超音波振動体が、電歪素子を有する電歪振動子であり、前記駆動部は、前記電歪素子に電圧を印加することによって前記電歪振動子を超音波振動させる電源供給装置であれば、電気エネルギーによって超音波を発生させることが可能となる。
【0025】
また、前記超音波振動体は、磁歪素子を有する磁歪振動子であり、前記駆動部は、前記磁歪素子に磁界を印加することによって前記磁歪振動子を超音波振動させる駆動コイルであれば、磁気エネルギーによって超音波を発生させることが可能となる。
【0026】
さらに、前記駆動部が、超音波振動を発生可能な超音波振動発生装置であり、前記超音波発生部が、前記超音波振動発生装置から発生する超音波振動に共振して超音波振動する超音波共振体であり、前記超音波発生装置から発生する超音波振動が、前記ガイドワイヤ本体を介して前記超音波共振体に伝達されるように構成されていれば、駆動部を超音波発生部から離れた位置に配設することが可能となり、設計の自由度を高めることができ、また、外部で発生させた超音波が頭蓋骨等で遮断されることがないので、脳血管内の血栓にも利用することができる。
【0027】
さらにまた、前記超音波振動発生装置から発生可能な超音波振動の周波数が、前記超音波共振体の共振周波数であって前記ガイドワイヤ本体の共振周波数ではない周波数に設定されていれば、超音波振動発生装置によって超音波共振体のみを超音波振動させることができ、ガイドワイヤ本体が振動して血管やその周辺の臓器を傷つけてしまうおそれがない。
【0028】
また、前記ガイドワイヤ本体の先端部分が、可撓性および柔軟性を有する材料によって形成されていれば、ガイドワイヤ本体を曲がりくねった血管内で円滑に移動させることができ、血管を傷つけてしまうおそれがない。
【0029】
さらに、前記超音波発生部が、前記ガイドワイヤ本体に同軸的に配設されていれば、超音波発生部を備えていながらガイドワイヤ本体の径方向の寸法をコンパクトにすることができ、脳血管のような複雑に枝分かれして細く曲がりくねった血管であっても容易に挿入することができる。なお、「同軸的」とは、ガイドワイヤ本体の軸心と超音波発生部の軸心が略同一直線上にあることを意味する。
【0030】
さらにまた、本発明に係る医療用ガイドワイヤは、上述の通り、狭窄や蛇行の強い血管への挿入が容易であるため、特に、脳血管内の脳血栓を乳化融解するのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を用いて、本発明の実施例1〜3に係る医療用ガイドワイヤについて詳細に説明する。
【実施例1】
【0032】
図1は本発明の実施例1に係る医療用ガイドワイヤ10の外観を模式的に示した略示外観図であり、図2は医療用ガイドワイヤ10の主要部を拡大して示した部分拡大図である。
【0033】
本実施例1に係る医療用ガイドワイヤ10は、ガイドワイヤ本体12に配設された超音波振動体14(本発明に係る「超音波発生部」)と、この超音波振動体14を超音波振動させる電源供給装置16(本発明に係る「駆動部」)と、を有して構成されている。
【0034】
ガイドワイヤ本体12としては、カテーテル等の医療器具を血管等の体腔内の所定位置へと案内するために一般的に用いられる従来公知のガイドワイヤを適用することができ、例えば、ステンレス、金、白金、アルミニウム、タングステン、タンタル、またはこれらの合金等の金属によって形成することができる。
【0035】
また、ガイドワイヤ本体12の先端部分12Aは、曲がりくねった血管に挿入しやすく、且つ、血管の内壁を傷つけることがないように、可撓性および柔軟性を有する材料によって形成されていることが好ましく、例えば、テーパリングしたステンレス合金等の材料で形成することができる。
【0036】
さらに、ガイドワイヤ本体12の太さは限定されないが、好ましくは0.1〜1mm、特に好ましくは0.36〜0.89mmであり、特に、脳血管で使用する場合は0.36mm程度、末梢血管で使用する場合は0.89mm程度であることが好ましい。
【0037】
先端部分に超音波振動子を配設した従来の血栓除去用カテーテル(例えば、上記特許文献1記載のカテーテル)は、心臓血管等、太くてあまり曲がってくねっていない血管にしか適用することができなかったが、本実施例1に係る医療用ガイドワイヤ10では、カテーテル等を血管等の体腔内の所定位置へと案内するための細いガイドワイヤ本体12を採用しているため、脳血管のような複雑に枝分かれして細く曲がりくねった血管であっても容易に挿入することができ、脳血管内の脳血栓等を除去することができる。また、ガイドワイヤ本体12の先端部分が可撓性および柔軟性を有する材料によって形成されているため、ガイドワイヤ本体12を曲がりくねった血管内で円滑に移動させることができ、血管を傷つけてしまうおそれもない。
【0038】
超音波振動体14は、このガイドワイヤ本体12の先端から所定の間隔L(本実施例ではL=約3cm)をおいて、ガイドワイヤ本体12に同軸的に(ガイドワイヤ本体12の軸心と超音波振動体14の軸心が略同一直線上に位置するように)配設されている。
【0039】
従来の血栓除去用カテーテルでは、振動によって超音波振動子が配設された先端部分が飛び跳ねてしまう場合があるため、カテーテルによって血管の内壁を傷つけてしまうおそれがある上に、血管内において超音波振動子を適切な位置に保持し続けることが難しく、血栓に対して一定方向の振動を継続的に与えることが困難である。一方、本実施例1に係る医療ガイドワイヤ10では、超音波振動体14がガイドワイヤ本体12の先端から所定の間隔Lをおいて配設されているため、超音波振動子14の振動により先端部分が飛び跳ねてしまうことがなく、血管の内壁やその周辺の臓器を傷つけるおそれがない上に、超音波振動子14を適切な位置に保持し続けることができ、超音波振動子14から発生する超音波を血栓に対して安定的に供給することができる。また、超音波振動体14がガイドワイヤ本体12に同軸的に配設されているため、超音波振動体14を備えていながらガイドワイヤ本体12の径方向の寸法をコンパクトにすることができ、脳血管のような複雑に枝分かれして細く曲がりくねった血管であっても容易に挿入することができる。
【0040】
また、超音波振動体14は、本実施例1では、略円柱形状の電歪素子からなる電歪振動子である。ここで、「電歪素子(圧電素子とも呼ばれる)」とは、電圧を加えると、いわゆる電歪効果によって微小に伸縮(変形)する素子をいい、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等が代表例として挙げられる。なお、電歪振動子は、少なくとも一部に電歪素子を有して構成されていればよく、例えば、電歪素子と他の素子を組み合わせて電歪振動子を形成してもよい。
【0041】
さらに、図2に拡大して示されるように、超音波振動体14の軸方向両端には、電源供給装置16から伸びるリード線18が接続されている。電源供給装置16は、このリード線18を介して、超音波振動体14の軸方向に所定の電圧を印加可能に構成されており、この電圧の周波数を調整することにより、超音波振動体14を軸方向(図2における矢印Aの方向)に所望の周波数で超音波振動させ、超音波振動体14から所望の周波数の超音波を発生させることが可能である。
【0042】
なお、電源供給装置16によって印加する電圧の周波数(超音波振動体14から発生させる超音波の周波数)は、血管の血管径や、血栓量等に応じて調整すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1MHz〜100MHz、特に好ましくは1MHz以上30MHz以下の高周波帯域がよい。超音波の周波数が0.1MHz以下では、血栓を十分に粉砕・乳化・融解させることができず、100MHzを超えると波長が短くなり方向性が無くなるためかなりの高出力にする必要があり、いずれも好ましくない。
【0043】
特許文献1に開示された血栓除去用カテーテルは、約15kHz〜30kHzの低周波帯域の超音波を用いて血栓を「振動破壊」するものであるが、本実施例1に係る医療用ガイドワイヤ10のように、高周波帯域の超音波を適用すれば、血栓を十分に粉砕・乳化・融解させることができ、乳化融解後の血栓が末梢血管に流れても遠隔塞栓を生じる心配がない。また、特許文献1に記載の血栓除去用カテーテルのような低周波帯域の超音波を用いた場合、血管内の溶存酵素等を気化させ気泡を発生させるおそれがあるが、本実施例1に係る医療用ガイドワイヤ10のように、高周波帯域の超音波を適用すれば、そのような気泡が発生させることがない。
【0044】
図3は本実施例1に係る医療用ガイドワイヤ10を血管内に挿入した様子を模式的に示した図であり、図4は医療用ガイドワイヤ10によって血栓が乳化融解される様子を模式的に示した図である。
【0045】
まず、X線検査や超音波診断等によって心臓や脳等の血管20を検査し、血管20内に形成された血栓22を特定する。なお、この際、血管20の血管径や血栓22の量等に応じて、電源供給装置16によって印加する電圧の周波数を決定する。
【0046】
次に、例えばX線透視下において、図3に示されるように、ガイドワイヤ本体12を血管20内に挿入し、超音波振動体14が血栓22の近傍に位置するようにセットする。そして、電源供給装置16を用いて超音波振動体14に所望の周波数の電圧を印加する。これにより、超音波振動体14は、電圧の周波数に応じて超音波振動し(高速で微小な伸縮を繰り返し)、血栓22に対して直接的に、または血液を介して間接的に超音波Wを与える。この結果、図4に示されるように、超音波Wによって血栓22が乳化されて融解される。
【0047】
以上説明したように、本実施例1に係る医療用ガイドワイヤ10によれば、ガイドワイヤ本体12に配設され、外部に超音波を発生可能な超音波発生部(本実施例1では超音波振動体14)と、この超音波発生部を超音波振動させる駆動部(本実施例1では電源供給装置16)と、を有して構成され、血管内の血栓を超音波により乳化融解するため、従来の血栓除去カテーテルのように小型化に限界のある中空構造のカテーテルを用いる必要がないため、閉塞した血管や、狭窄や蛇行の強い血管への挿入が容易で、心臓等の血管内の血栓のみならず、脳血管等の細い血管内の血栓を迅速且つ確実に除去することができる。また、血栓のような脆弱な組織のみを超音波によって乳化融解させることができ、弾力性のある血管の内壁を傷つけてしまうおそれが無く、血管の損傷を確実に防止することができる。
【0048】
また、超音波発生部が、自身が変形することによって超音波振動が可能な超音波振動体であるため、外部から超音波振動を与える必要がなく、超音波振動を発生させる装置が不要となる。
【0049】
さらに、超音波振動体14が、電歪素子を有する電歪振動子であり、駆動部は、電歪素子に電圧を印加することによって電歪振動子を超音波振動させる電源供給装置16であるため、電気エネルギーによって超音波を発生させることができる。
【実施例2】
【0050】
図5は本発明の実施例2に係る医療用ガイドワイヤ30の外観を模式的に示した略示外観図であり、図6は医療用ガイドワイヤ30の主要部を拡大して示した部分拡大図である。
【0051】
本実施例2に係る医療用ガイドワイヤ30は、ガイドワイヤ本体32に配設された超音波振動体34(本発明に係る「超音波発生部」)と、この超音波振動体34を超音波振動させる駆動コイル36(本発明に係る「駆動部」)と、この駆動コイル36に駆動電流を供給する電源供給装置38と、を有して構成されている。なお、ガイドワイヤ本体32は、上記実施例1に係るガイドワイヤ本体12と同一の構造であるため、その説明は省略する。
【0052】
超音波振動体34は、本実施例2では、上記実施例1に係る電歪振動子に代えて、略円板状の磁歪素子からなる磁歪振動子によって構成されている。ここで、「磁歪素子」とは、磁界を加えると、いわゆる磁歪効果によって微小に伸縮(変形)する素子をいい、例えば、ニッケル、フェライト等が代表例として挙げられる。なお、磁歪振動子は、少なくとも一部に磁歪素子を有して構成されていればよく、例えば、磁歪素子と他の素子を組み合わせて磁歪振動子を形成してもよい。さらに、磁歪素子に代えて、超磁歪素子を適用することもでき、この場合、超音波振動体34の振幅をさらに増大させることが可能となる。
【0053】
また、超音波振動体34は、ガイドワイヤ本体32の先端から所定の間隔(上記実施例1と同様に、先端から約3cm)をおいて、その軸心がガイドワイヤ本体32の軸心に対して略直交するように配設されている。
【0054】
さらに、図6に拡大して示されるように、超音波振動体34の径方向外周面には、駆動コイル36が巻回されていると共に、この駆動コイル36には、電源供給装置38から伸びるリード線40が接続されている。駆動コイル36は、電源供給装置38からリード線40を介して供給される駆動電流に基づいて、超音波振動体34の軸心方向に磁界を印加可能に構成されており、この磁界を調整することにより、超音波振動体34を軸心方向(図6における矢印Bの方向)に所望の周波数で超音波振動させ、超音波振動体34から所望の周波数の超音波を発生させることが可能である。
【0055】
本実施例2に係る医療用ガイドワイヤ30では、上記実施例1に係る医療用ガイドワイヤ10と同様に、例えばX線透視下において、ガイドワイヤ本体32を血管内に挿入し、超音波振動体34が血栓の近傍に位置するようにセットする。そして、駆動コイル36を用いて超音波振動体34に所望の周波数の磁界を印加する。これにより、超音波振動体34は、磁界の周波数に応じて超音波振動し(高速で微小な伸縮を繰り返し)、血栓に対して直接的に、または血液を介して間接的に超音波を与える。この結果、超音波によって血栓が乳化されて融解される。
【0056】
このように、本実施例2に係る医療用ガイドワイヤ30によれば、超音波振動体34は磁歪素子を有する磁歪振動子であり、駆動部は磁歪素子に磁界を印加することによって磁歪振動子を超音波振動させる駆動コイル36であるため、磁気エネルギーによって超音波を発生させることが可能となる。
【0057】
なお、上記実施例1および2では、本発明に係る「超音波振動体」として、電歪振動子または磁歪振動子を適用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、自身が変形することによって超音波振動が可能な超音波振動体であればよい。
【実施例3】
【0058】
図7は本発明の実施例3に係る医療用ガイドワイヤ50の外観を模式的に示した略示外観図である。
【0059】
本実施例3に係る医療用ガイドワイヤ50は、ガイドワイヤ本体52に配設された超音波共振体54(本発明に係る「超音波発生部」)と、超音波振動を発生可能な超音波振動発生装置56(本発明に係る「駆動部」)と、を有して構成されている。なお、ガイドワイヤ本体52は、上記実施例1に係るガイドワイヤ本体12と同一の構造であるため、その説明は省略する。
【0060】
超音波共振体54は、超音波振動発生装置56から発生する超音波振動に共振して超音波振動可能なものであればよく、その材質は特に限定されないが、例えば、白金(音速V=3260m/s)、鉄(音速V=5950m/s)、ステンレス(音速V=5790m/s)、チタン(音速V=5990m/s)等が代表例として挙げられる。なお、超音波の周波数fを1MHzに設定した場合、超音波共振体54の軸心方向の長さ寸法aは、「a=V/2f」で算出することができ、白金で1.63mm、鉄で2.98mm、ステンレスで2.90mm、チタンで3.00mmとなる。また、超音波の周波数fを30MHzに設定した場合、超音波共振体54の長さ寸法aは、白金で0.54mm、鉄で0.99mm、ステンレスで0.97mm、チタンで1.00mmとなる。
【0061】
超音波振動発生装置56は超音波振動を発生可能に構成され、この超音波振動は、ガイドワイヤ本体52を介して超音波共振体54に伝達される。なお、超音波振動発生装置56から発生可能な超音波振動の周波数は、超音波共振体54の共振周波数であってガイドワイヤ本体52の共振周波数ではない周波数に設定される。従って、超音波振動発生装置56によって超音波共振体54のみを超音波振動させることができ、ガイドワイヤ本体52が振動して血管やその周辺の臓器を傷つけてしまうおそれがない。
【0062】
また、特許文献2に記載のカテーテルでは、外部の超音波発生器からの超音波が頭蓋骨で遮断されるため、脳血管内の血栓には利用できないのに対し、本実施例3に係る医療用ガイドワイヤ50では頭蓋骨で覆われた脳血管内の血栓に対しても問題なく利用することができる。
【0063】
本実施例3に係る医療用ガイドワイヤ50は、上記実施例1に係る医療用ガイドワイヤ10と同様に、例えばX線透視下において、ガイドワイヤ本体52を血管内に挿入し、超音波共振体54が血栓の近傍に位置するようにセットする。そして、超音波振動装置56を用いて超音波共振体54を所望の周波数で超音波振動させることによって、血栓に対して直接的に、または血液を介して間接的に超音波を与える。この結果、超音波によって血栓が乳化されて融解される。
【0064】
このように、本実施例3に係る医療用ガイドワイヤ50によれば、駆動部が、超音波振動を発生可能な超音波振動発生装置56であり、超音波発生部が、超音波振動発生装置56から発生する超音波振動に共振して超音波振動する超音波共振体54であり、超音波発生装置56から発生する超音波振動が、ガイドワイヤ本体52を介して超音波共振体54に伝達されるように構成されているため、駆動部(この例では超音波発生装置56)を超音波発生部(この例では超音波共振体54)から離れた位置に配設することが可能となり、設計の自由度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る医療用ガイドワイヤは、血管内の血栓の除去に適用することができ、特に、脳血管内の脳血栓の除去に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例1に係る医療用ガイドワイヤの外観を模式的に示した略示外観図である。
【図2】同医療用ガイドワイヤの主要部を拡大して示した部分拡大図である。
【図3】同医療用ガイドワイヤを血管内に挿入した様子を模式的に示した図である。
【図4】同医療用ガイドワイヤによって血栓が乳化融解される様子を模式的に示した図である。
【図5】本発明の実施例2に係る医療用ガイドワイヤの外観を模式的に示した略示外観図である。
【図6】同医療用ガイドワイヤの主要部を拡大して示した部分拡大図である。
【図7】本発明の実施例3に係る医療用ガイドワイヤの外観を模式的に示した略示外観図である。
【符号の説明】
【0067】
W・・・超音波
10、30、50…医療用ガイドワイヤ
12、32、52…ガイドワイヤ本体
14、34…超音波振動体
16、38…電源供給装置
18、40…リード線
20…血管
22…血栓
36…駆動コイル
54…超音波共振体
56…超音波振動発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドワイヤ本体に配設され、外部に超音波を発生可能な超音波発生部と、
前記超音波発生部を超音波振動させる駆動部と、を有して構成され、
血管内の血栓を前記超音波により乳化融解することを特徴とする、
医療用ガイドワイヤ。
【請求項2】
前記超音波発生部から発生可能な超音波の周波数帯域は、0.1MHz以上100MHz以下であることを特徴とする、
請求項1に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項3】
前記超音波発生部は、前記ガイドワイヤ本体の先端から所定の間隔をおいて配設されていることを特徴とする、
請求項1または2に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項4】
前記超音波発生部は、自身が変形することによって超音波振動が可能な超音波振動体であることを特徴とする、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項5】
前記超音波振動体は、電歪素子を有する電歪振動子であり、
前記駆動部は、前記電歪素子に電圧を印加することによって前記電歪振動子を超音波振動させる電源供給装置であることを特徴とする、
請求項4に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項6】
前記超音波振動体は、磁歪素子を有する磁歪振動子であり、
前記駆動部は、前記磁歪素子に磁界を印加することによって前記磁歪振動子を超音波振動させる駆動コイルであることを特徴とする、
請求項4に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項7】
前記駆動部は、超音波振動を発生可能な超音波振動発生装置であり、
前記超音波発生部は、前記超音波振動発生装置から発生する超音波振動に共振して超音波振動する超音波共振体であり、
前記超音波発生装置から発生する超音波振動は、前記ガイドワイヤ本体を介して前記超音波共振体に伝達されるように構成されていることを特徴とする、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項8】
前記超音波振動発生装置から発生可能な超音波振動の周波数は、前記超音波共振体の共振周波数であって前記ガイドワイヤ本体の共振周波数ではない周波数に設定されていることを特徴とする、
請求項7に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項9】
前記ガイドワイヤ本体の先端部分は、可撓性および柔軟性を有する材料によって形成されていることを特徴とする、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項10】
前記超音波発生部は、前記ガイドワイヤ本体に同軸的に配設されていることを特徴とする、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の医療用ガイドワイヤ。
【請求項11】
脳血管内の脳血栓を乳化融解するために用いられることを特徴とする、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の医療用ガイドワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−195599(P2007−195599A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14691(P2006−14691)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】