説明

医療用チューブ

【課題】可撓性を損なうことなく、チューブに傷が入っていた場合にも、チューブが破断することなくチューブを抜き取ることが可能な医療用チューブを提供する。
【解決手段】外壁面108から内壁面109に達する溝102が長手方向に設けられたドレーンチューブ100であって、ドレーンチューブ100の長手方向に沿って、少なくとも一本の線状体130が溝102を避けるように配設され、また、ドレーンチューブ100の長手方向に肉厚部140が設けられ、線状体130が肉厚部140に埋め込まれてていることを特徴とする医療用チューブである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用チューブの一つであるドレーンチューブは、外科用医療用具として体液の排出用に多く用いられており、さまざまな内外径、断面構造あるいは形状を持った製品が市販されている。
【0003】
従来、ドレーンチューブは、チューブ側壁面に側孔やスリット状の溝を設け、体液の貯留部位に挿入した場合にチューブの先端部分及び側孔や溝の部分から体液がチューブ内に流入し、排出される構造になっている。
【0004】
ドレーンチューブは術後の回復を短期化するため、傷口から滲出した体液を排出すべく体内に留置されるが、患者が充分回復し、体液の排出の必要がなくなると抜去して廃棄される。ドレーンチューブはこの抜去の際、体外部分を引張ることによってチューブ全体が完全に抜き去られるよう、充分な強度を確保した設計をする必要がある。
一方、手術においてチューブを留置する際、チューブが途中で抜けないよう糸で体の一部に縛りつける場合が多く、この糸縛りによってチューブに傷をつけたり、あるいは固定手技の際に針やメス、鉗子などでチューブに傷をつけたりすることがあった。
【0005】
従来のドレーンチューブでは、このように留置したチューブに傷がついていると設計した強度を確保できなくなり、抜去時にチューブが破断しチューブの一部が体内に残り再度開腹手術をして残ったチューブの一部を取り除く必要があった。
【0006】
医療用チューブにおいてチューブの強度を増す手段として、チューブ内に金属線を用い、チューブ長手方向に埋め込むという工夫をしたものが提案されている(例えば、特許文献1)。これは確かにチューブの強度を向上させる手段としては有効であるが、チューブの剛性が増し、金属線によりチューブ自身の可撓性が損なわれ臓器の圧迫を起こす危険性があった。また、留置手技の最中に、傷口の状態に合わせて長さを調節するためにチューブを切断することが困難であるばかりか、切断した場合その切断面形状が鋭利であったり、切断面より金属線自身が出て体内臓器を傷つけたりする可能性があった。
【0007】
また、ポリプロピレンやポリエチレンなどの樹脂を基材とした糸を複数本チューブに埋め込むことによりチューブの強度を上げる提案がなされている(例えば、特許文献2)。この樹脂性の糸を使用する場合、一般に市販されている糸は樹脂を延伸して細い繊維とし紡糸したものであり、樹脂を延伸することにより長さ方向の強度を向上させているが、耐熱性がないためシリコーンゴム製のチューブを生産する際に架橋工程における加熱によって糸が収縮してしまい同時に押し出して複合化させることができない。また、シリコーンゴム以外の熱可塑性樹脂のチューブを生産する場合にも樹脂を溶融させるための加熱のために糸が収縮する。また、延伸せずに糸状にした樹脂を用いるためには充分な強度を得るために太い棒状のものとなりチューブの可撓性が損なわれるという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開平6−154334号公報
【特許文献2】特開平10−52497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、可撓性を損なうことなく、チューブに傷が入っていた場合にも十分な強度を保持できる医療用チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の医療用チューブは、
外壁面から内壁面に達する溝または孔が長手方向に設けられた医療用チューブであって、
前記医療用チューブの長手方向に沿って、少なくとも一本の線状体が前記溝または孔を避けるように配設されていることを特徴とする。
【0011】
この医療用チューブにおいては、チューブ内に線状体が配設されているため、チューブに傷が入っていても、チューブを引っ張った場合、その傷の部分で破断することのないチューブを提供できる。
【0012】
また、隔壁により区分された複数の内腔をさらに有し、前記隔壁と前記内壁が交差する部分に前記肉厚部が設けられていてもよい。こうすることにより、肉厚部に線状体を配設することができるので、チューブの加工性が向上する。
【0013】
また、前記線状体は、前記チューブ内に埋め込まれていてもよい。こうすることにより、線状体の周りをチューブで構成される樹脂で包み込むため、チューブとの接着強度が向上し、充分な破断強度をもったチューブとすることができる。
【0014】
また、前記線状体は、ポリエステル樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルペンテン樹脂の中から選ばれるいずれかの樹脂からなるフィルムであってもよい。こうすることにより耐熱性を維持しつつ可撓性を損なうことなく強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可撓性を損なうことなく、チューブに傷が入っていた場合にも十分な強度を保持できる医療用チューブを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態について、ドレーンチューブに適用した例を挙げ、図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、共通する構成要素には同一符号を付し、以下の説明において詳細な説明を適宜省略する。
【0017】
図1に示すように、ドレーンチューブ100には、外壁面108から内壁面109に達する溝102または孔103が長手方向に設けられている。ドレーンチューブ100の長手方向に沿って、少なくとも一本の線状体130が溝102または孔103を避けるように配設されている。ドレーンチューブ100は、体内留置部110と体外留置部120とを備える。体内留置部110は、集液部106として機能する内腔104が設けられるとともに、周壁部長手方向に、内壁面109に達する溝102が設けられている。
ドレーンチューブ100は、隔壁150により区分された複数の内腔をさらに有していてもよく、また、隔壁150と内壁109が交差する部分に肉厚部140が設けられていてもよい。そしてこの肉厚部140に、線状体130が配設されるように構成されていてもよい。肉厚部140に線状体130が配設された構成とした場合、チューブの加工性が向上する。
内腔104は、体液の集液部として機能し、溝102は、体液の取り込み部として機能する。本実施形態では、溝102は、集液部106先端側から後端側に向かって2本形成されているが、溝を設ける領域や溝の本数は適宜設定することができる。
溝102は、集液を行なっていないときは、溝の側面同士は密着しており、チューブ内周面とチューブ外周面は連通していない。チューブ内を陰圧に吸引することにより、溝102が内腔104側に引き込まれ連通し、浸出液を吸引することが可能となる。
【0018】
線状体130は、特に限定されるものではなく、連続する糸状のものや、樹脂フィルムを狭い幅にスリットしたテープ状のものであればよい。
線状体130はポリエステル樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルペンテン樹脂の中から選ばれるいずれかの樹脂からなるフィルムが用いられ、これらのなかで、ポリエーテルペンテン樹脂を用いることがより好ましい。
また、線状体130は、図1では2箇所に配設しているが、本数は限定されるものではない。また、配設場所についても特に限定されるものではないが、チューブ100の肉厚部140に設けることがより好ましい。こうすることによって、配設した線状体130がチューブ外壁面108や内壁面109から露出することを防ぐことができる。また、チューブの加工性も向上する。
【0019】
線状体130の厚さは、0.1mm以上、0.2mm以下が好ましく、厚みがこの範囲内であれば、破断防止に十分な強度とすることができる。幅は、0.5mm以上、2mm以下が好ましい。幅がこの範囲内にあれば、可撓性を維持しつつ十分な強度とすることができる。
【0020】
また、線状体130とドレーンチューブ100は、成形時に同時に複合化することによりチューブの破断強度を向上することができる。2軸延伸してヒートセットしたフィルムは一般的に工業用や包装用に市販されており市場で比較的入手しやすく新たに専用のフィルムを生産する必要が無い。2軸延伸しヒートセットした樹脂フィルムは強度が強く、チューブの破断強度を向上させるのに最適であり、耐熱性も高いためチューブ生産工程における加熱で収縮することが無い。また、いわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれる耐熱性、強度の高い樹脂であれば無延伸のフィルムでも使用可能である。これらの樹脂は強度と共に剛性も高いが厚みの薄いフィルム状であるため複合化した際チューブの可撓性を損なわない。
次に、線状体130の配設で、平板なテープ状の線状体130を用いる場合、ドレーンチューブ100の周方向とテープの幅方向を図1または2に示すように、同じ向きになるように配設することが好ましい。こうすることにより、テープを確実にチューブ内に埋め込めることが可能となる。
【0021】
また、別の実施形態を図2に示す。ドレーンチューブ100は、内腔104を有する体内留置部110と、体外留置部120を備える。体内留置部110には、周壁部に、内壁面109に達する孔103が長手方向に沿って複数設けられている。
内腔104は、体液の集液部として機能し、孔103は、体液の取り込み部として機能する。本実施形態では、孔103は、集液部先端側から後端側に向かって対称に2列4箇所形成されているが、側孔を設ける領域や個数は適宜設定することができる。
線状体130は図1と同様、樹脂フィルムを狭い幅にスリットしたテープ状の補強材料であり図2では2箇所に配設しているが配設場所、本数は限定されるものではない。
【0022】
ドレーンチューブ100の材質としては、軟質塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂など、医療用として一般に使用されているものでよい。それらの中でもシリコーン樹脂がより好ましい。ドレーンチューブの断面形状は円形のほか、楕円形や長円形であってもよい。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
図2と同様の構成のドレーンチューブを製作し評価した。すなわち、厚さ0.125mmのポリエーテルペンテン樹脂の2軸延伸フィルムを幅1mmにスリットしテープ状にした巻物を2本準備し、押出機で硬度70のシリコーンゴム材料を用いて外径が3.5mmのチューブを試作し、その際、ダイスの部分にテープ状にしたフィルムを挿入して合流させた。
製作したチューブの体内留置部に相当する位置に、メスを用いて幅2mmの同形状の傷を入れた試料と、傷を入れない試料を準備し引張試験を行い、破断強度を比較した。
【0024】
(比較例1)
上記実施例と同じ硬度のシリコーンゴム材料を用いて、テープ状フィルムの複合をせずシリコーンゴム単体で同形状のチューブを試作した。その際テープ状フィルムを複合させないこと以外は全て同じ条件で成形した。
【0025】
【表1】

【0026】
引張試験における破断強度の比較を表1に示す。傷の無いチューブにおいては、シリコーンゴム本体に充分な強度があるため、線状体を複合させた実施例1は複合させていない比較例1とほとんど破断強度の差が無い。しかし傷を入れたチューブにおいては線状体を複合させていない比較例1では傷が無い場合に比べて大幅に破断強度が低下するのに対し、線状体を複合した実施例1では傷を入れたチューブにおいても破断強度がほとんど低下していないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ドレーンチューブの一例を示す図で(a)は先端正面図、(b)は側面図、(c)は先端正面図の拡大図である。
【図2】ドレーンチューブの別の例を示す図で(a)は先端正面図、(b)は側面図、(c)は先端正面図の拡大図である。
【符号の説明】
【0028】
100 ドレーンチューブ
102 溝
103 孔
104 内腔
106 集液部
108 外壁面
109 内壁面
110 体内留置部(集液部)
120 体外留置部
130 線状体
140 肉厚部
150 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁面から内壁面に達する溝または孔が長手方向に設けられた医療用チューブであって、
前記医療用チューブの長手方向に沿って、少なくとも一本の線状体が前記溝または孔を避けるように配設されていることを特徴とする医療用チューブ。
【請求項2】
前記線状体は、前記医療用チューブの長手方向の肉厚部に配設されている請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項3】
隔壁により区分された複数の内腔をさらに有し、前記隔壁と前記内壁が交差する部分に前記肉厚部が設けられている請求項1または2に記載の医療用チューブ。
【請求項4】
前記線状体は、ポリエステル樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルペンテン樹脂の中から選ばれるいずれかの樹脂からなるフィルムである請求項1ないし3に記載の医療用チューブ。
【請求項5】
前記医療用チューブは、シリコーン樹脂で形成され、前記線状体は、ポリエーテルペンテン樹脂フィルムで構成されている請求項1ないし4のいずれかに記載の医療用チューブ。
【請求項6】
前記線状体は、前記医療用チューブ内に埋め込まれている請求項1ないし5のいずれかに記載の医療用チューブ。
【請求項7】
前記医療用チューブは、集液部となる体内留置部を備えた医療用ドレーンチューブである請求項1ないし6のいずれかに記載の医療用チューブ。
【請求項8】
前記溝または孔は、前記体内留置部に設けられている請求項1ないし7のいずれかに記載の医療用チューブ。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−130273(P2007−130273A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326833(P2005−326833)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】