説明

医療用ナビゲーションシステム

【課題】体内に器具を挿入して体内組織の治療等を行う場合において安全性を高める。
【解決手段】プローブ22よりボリュームデータが取得される。内視鏡26の先端部を取り囲むように、球体が定義され、その表面が近傍面66とされる。ボリュームデータに基づいて、近傍面66上における組織データの有無が判定される。組織データが存在する場合、組織への近接を表すナビゲーション情報(アラーム)が出力される。内視鏡の先端を基準として複数の近傍面を設定することも可能であり、その場合には組織への近接度合いを表す情報を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用ナビゲーションシステムに関し、特に、体内に挿入される器具の操作を支援するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々な医療用ナビゲーションシステムが提案されている。このナビゲーションシステムは、治療器具、診断器具、観察器具等の操作を支援するものである。例えば、脳外科の領域において、腫瘍の摘出を行う場合には、MRI装置やX線CT装置が予め利用されて、摘出対象としての腫瘍を含む三次元空間からボリュームデータが取得される。その後、ボリュームデータがデータ処理空間内において処理される。具体的には、摘出すべき腫瘍が及んでいる範囲(治療範囲)がマニュアル指定により又は自動的な画像処理により画定される。そのような準備段階を経て、実際に器具を体内に挿入してそれを操作することによりその腫瘍が除去されるが、その際に予め画定した範囲から器具が逸脱しそうな場合には直ちに警告音や警告表示が発せられ、正常組織の損傷等が防止される。
【0003】
産科において胎児治療を行う場合にも、ナビゲーションシステムの利用が期待されている。例えば、胎盤上における疾患部に対してレーザー照射による治療を行う場合、腹腔鏡を通じて治療器具が子宮内に挿入されるが、その場合において腹腔鏡(特にその先端)が胎児、胎盤、子宮壁等に接触しないように、腹腔鏡先端の組織への近接がリアルタイムで監視され、そのような近接状態が生じたならばそれが直ちに使用者に報知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−5245号公報
【特許文献2】特開2008−18172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような胎児治療においては、安全領域あるいは危険領域を事前に確定的に定めておくことができないという特有の問題がある。子宮内において胎児や胎盤は動いてしまうからである。すなわち、子宮内において胎児は羊水中に浮いているような状態にあり、胎児それ自身も体位を変える。また、胎盤は非常に軟弱性をもった組織であり、胎盤と羊水の境界の形状や位置は動的に変化し得る。このようなことから、器具を動かすことが可能な安全領域(あるいは器具を進入させてはならない危険領域)を事前に確定しておくことはできず、それ故リアルタイムでの領域設定及び進入判定が必要となる。
【0006】
その場合に演算量を如何に減らすかという点が問題となる。従来の典型的な手法では、ボリュームデータ全部を対象として閾値法によって組織の表面(境界)の全部が抽出され、組織の表面から一定距離だけ隔てられたところに、つまり組織に沿って判定面が設定される。そして、器具先端の三次元座標をモニタリングし、その三次元座標が判定面に到達した時点で、先端がそれ以上に組織に近付かないようにアラームが出力される。しかし、そのような従来法では、大量のデータを対象として複雑な演算を行う必要があるので、リアルタイム処理はかなり困難である。特に、複数の領域(注意領域、危険領域)を段階的に設定するような場合には更にその問題が顕著となる。この問題は胎児治療以外の医療分野においても指摘され得るものである。
【0007】
なお、上記特許文献1及び特許文献2には外科的治療を支援する装置が開示されているが、それらには動的に変化する組織に対する器具の近接をリアルタイムで判定する技術は開示されていない。
【0008】
本発明の目的は、体内に器具を挿入してそれを操作する過程において、その操作を支援する情報をリアルタイムに操作者に提供できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、器具の組織への近接の判定における演算量を削減し、迅速な判定を行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、体内に挿入された器具の操作を支援する医療用ナビゲーションシステムにおいて、前記器具における特定部位を含んだ体内三次元領域に対して超音波の送受波を行い、これにより超音波ボリュームデータを取得する送受波手段と、前記超音波ボリュームデータが存在する三次元データ処理空間内において、前記特定部位についての三次元座標を基準として、前記特定部位が組織へ接近した近接状態を判定するための二次元又は三次元の近傍領域を設定する設定手段と、前記ボリュームデータに基づいて、前記近傍領域に組織データが存在するか否か判定する判定手段と、前記近傍領域に組織データが存在すると判定された場合に前記近接状態を器具操作者に報知する報知手段と、を含むことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、器具が体内に挿入されると、器具における特定部位の三次元座標を基準として近傍領域が設定される。この近傍領域はリアルタイムで設定されるものであり、器具が移動すると、それに即応して近傍領域も移動する。一方、特定部位を含む三次元領域に対して超音波の送受波が行われ、これにより超音波ボリュームデータが取得される。この超音波ボリュームデータを利用することにより、近傍領域に組織データがあるか否か、つまり、特定部位の近傍に組織があるか否かを判定することができる。組織への近接状態が判定されると、それが直ちに器具操作者に提供される。そのように提供される情報はナビゲーション情報と言えるものである。よって、そのようなナビゲーション情報により、器具を安全に操作することができ、器具によって組織を不必要に傷つけてしまう等の問題を未然に回避できる。これは診断、治療等における負担の軽減をもたらすものである。
【0011】
器具は内視鏡、鉗子、治療器等であり、特定部位は器具の先端であるのが望ましい。特定部位の三次元座標は、基準となる1点の三次元座標であるのが望ましく、そのように構成すれば近傍領域を迅速に設定でき、また演算量を大幅に削減できる。但し、複数点の三次元座標あるいはある程度広がりをもった多数点の三次元座標を基準として近傍領域が定義されてもよい。近傍領域は、少なくともこれから器具を移動させる方向に存在するのが望ましく、特に、器具の挿入操作についての安全性を高めるには器具の少なくとも前方が近傍領域に含まれるように当該近傍領域を定義するのが望ましい。近傍領域は二次元領域又は三次元領域である。前者は例えば球面であり、後者は例えば球体である。単純な形状にすれば演算が容易である。組織は通常連続しているので、ある立体の表面で組織データの有無を判定すれば当該立体の内部においてそのような判定を行わなくても組織データの判定漏れは生じないものと考えられる。演算量削減の観点からは二次元領域として近傍領域(判定領域)を定めるのが望ましい。組織データの有無の判定に際して器具データを組織データであると誤認しないように両者を旨く弁別するのが望ましい。例えば、器具それ自体を除外した領域として近傍領域を定義するのが望ましい。あるいは、近傍領域において器具データと組織データとを閾値により弁別して後者のみを判定できるように構成してもよい。器具は一般に高輝度反射体となるので、輝度を基準として器具データと組織データを弁別することは比較的に容易である。対象となっている器具の他に、別の器具が差し込まれている場合もあるが、そのような別の器具が近傍領域に入ってきた場合に、それも判定の対象とするのか、それをその対象から除外するのかについては、ユーザーに選択させるようにしてもよい。生体安全性の観点から言えば一般に報知対象から別の器具を除外してもよいものと思われる。当該別の器具についても、その安全性が問題となる場合には、上記同様のナビゲーションを適用するのが望ましい。すなわち、複数の器具について個別的にナビゲーションを行うことが可能である。その場合にはどの器具についての近接状態の報知であるのかが識別できるようにするのが望ましい。近接状態の報知は例えば音、発光、振動、画像表示等によってなされる。近接度合いに応じて、音のレベル、音色、パターン等を変化させてもよい。
【0012】
望ましくは、前記近傍領域は前記特定部位の三次元座標を基準として設定された二次元の近傍面であり、前記近傍面上において前記組織データの有無が判定される。この構成によれば、近傍面上において組織データの二次元探索を行えば足りるので、三次元探索に比べて演算量を削減でき迅速な演算が可能となる。組織ではなく器具を基準として安全領域(あるいは危険領域)を画定する点において、組織表面を基準として安全領域(あるいは危険領域)を画定する従来法とはその考え方が根本的に相違する。
【0013】
望ましくは、前記近傍面は、球面の全部又は一部であり、少なくとも前記特定部位の前方に設定される。器具の前方は通常、挿入方向つまり主な移動方向となるからである。例えば、硬質棒状の器具であれば主軸を延長した方向が前方である。当該方向において、追突による前進時の組織損傷を防止すべき必要性が高いので、特に前方について組織探索を行う必要性は高い。但し、器具(具体的には特定部位)の移動方向を自動的に判断し、当該移動方向の前方に近傍面を適応的に設定することも可能である。器具の移動速度に応じて近傍領域のサイズや設定位置を適応的に可変設定するようにしてもよい。
【0014】
望ましくは、前記近傍面は前記器具を含まない領域であり、あるいは、前記判定手段は前記近傍面上に存在する器具データを除外しつつ前記組織データの有無を判定する。この構成によれば、器具それ自身を組織であると誤認してしまう問題を防止できる。上記のように他の器具についてもそれを判定対象から除外してもよい。
【0015】
望ましくは、前記設定手段は、前記基準点からの距離が互いに異なる複数の近傍面を多重的に設定し、前記判定手段は、前記各近傍面上で組織データの有無を判定し、前記報知手段は、前記組織データがあるとの判定がなされた近傍面に応じて報知態様を変化させる。この構成によれば、安全度あるいは危険度を段階的に評価できる。なお、複数の近傍面に代えて各方位について距離計測を行って距離に基づいて近接度を評価することも可能である。但し、その場合には組織表面の抽出等、複雑な演算が必要となるので、迅速な演算の観点から1個又は数個の近傍面を利用するのが望ましい。
【0016】
望ましくは、前記近傍領域のサイズを変更する手段を含む。ユーザーによってサイズを変更できるようにしてもよいし、操作速度によってサイズを変更できるようにしてもよい。組織への接触を防止すべき必要性や要求される安全度に応じてサイズを変更するのが望ましい。なお、筒状の挿入ガイドから器具の先端が出た時点から自動的にナビゲーションが開始されるようにしてもよい。逆に、筒状の挿入ガイドに器具の先端が収容された時点であるいは器具の引き抜き動作が検知された時点で自動的にナビゲーションを終了させるようにしてもよい。
【0017】
望ましくは、前記判定手段は、前記近傍面上に探索経路を設定し、前記探索経路に沿って前記組織データの有無の判定処理を順次進行させる。この構成によれば、より重要な方位(より迅速に組織を検知すべき方位)を時間的に優先して組織探索を行えるので、重要な方位ほど報知のタイミングを早めることが可能である。但し、近傍面上での組織データの探索が極短時間に終了するならば、探索経路の形態はあまり問題とならない。
【0018】
望ましくは、前記探索経路は、前記特定部位の前方に相当する地点を出発点として、そこから前記特定部位の側方へ(あるいは後方へ)広がる形態を有する。望ましくは、前記探索経路は、前記出発点を中心とした多重リング状の形態を有する。この構成によれば前方から側方、更には後方にかけて、時間的な優先度を設定できる。
【0019】
望ましくは、前記超音波ボリュームデータに対して前記特定部位の三次元座標を基準として複数の切断面を設定し、前記超音波ボリュームデータに基づいて前記複数の切断面に対応する複数の断層画像を形成する表示処理手段を含む。この構成によれば複数の断層画像の観察により特定部位と組織との位置的関係を把握することが容易となる。
【0020】
望ましくは、前記複数の断層画像の内で少なくとも1つの断層画像には前記特定部位を表すマークが表示される。この構成によればナビゲーションを行う基準部位あるいは基準点を画像上で容易に確認できる。ナビゲーションが的確に実行されていることを確認することも可能である。あるいは、どの方位において組織の近接が生じたのかを画像を通じて確認できる。
【0021】
望ましくは、前記複数の断層画像の内で少なくとも1つの断層画像には前記近傍領域を表す図形が表示される。この構成によれば判定が及ぶ領域を認識できるので、操作上の混乱を防止できる。
【0022】
本発明は、体内に挿入された器具の操作を支援する医療用ナビゲーションシステムにおいて、前記器具の三次元座標を計測する第1座標計測手段と、前記器具における先端部を含んだ体内三次元領域に対して超音波の送受波を行い、これにより超音波ボリュームデータを取得するプローブと、前記プローブの三次元座標を計測する第2座標計測手段と、前記器具の三次元座標及び前記プローブの三次元座標に基づいてデータ演算を行う手段であって、前記超音波ボリュームデータが存在する三次元データ処理空間内において前記先端部についての三次元座標を基準点として演算し、前記三次元データ処理空間内に前記基準点を中心として少なくともその前方に前記先端部が組織へ近接した接近状態を判定するための立体形状を有する近傍面を設定する設定手段と、前記超音波ボリュームデータに基づいて、前記近傍面上における組織データの有無を判定する判定手段と、前記判定面上に組織データがあると判定された場合に前記近接状態を器具操作者にリアルタイムで報知する報知手段と、を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明に係るプログラムは、体内に挿入された器具の操作を支援する医療用ナビゲーションシステムにおいて実行されるプログラムであって、前記器具における特定部位を含んだ体内三次元領域に対して超音波を送受波することにより得られた超音波ボリュームデータを入力する機能と、前記超音波ボリュームデータが存在する三次元データ処理空間内において、前記特定部位についての三次元座標を基準点として、前記特定部位が組織へ近接した接近状態を判定するための二次元又は三次元の近傍領域を設定する機能と、前記超音波ボリュームデータに基づいて、前記近傍領域に組織データが存在するか否かを判定する機能と、前記近傍領域に前記組織データが存在すると判定された場合に前記特定部位による組織への近接状態を器具操作者に報知する機能と、を含むことを特徴とするものである。
【0024】
このプログラムは通常のコンピュータ等において実行されてもよく、あるいは、超音波診断装置において実行されてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、体内に器具を挿入してそれを操作する過程において、その操作を支援する情報をリアルタイムに操作者に提供できる。あるいは、本発明によれば、器具の組織への近接の判定における演算量を削減し、迅速な判定を行える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る医療システムの好適な実施形態を示す概念図である。
【図2】内視鏡の先端を基準として設定される2つの球面(2つの近傍面)を示す説明図である。
【図3】直交座標系を示す説明図である。
【図4】極座標系を示す説明図である。
【図5】探索経路を説明するための説明図である。
【図6】探索経路に沿った組織データの探索方法を示すフローチャートである。
【図7】表示例を示す図である。
【図8】ナビゲーションのための他の方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1には、本発明に係る医療システムが概念的に示されている。この医療システムは、体内における疾患部位に対して腹腔鏡つまり内視鏡を用いて治療を行うためのシステムであり、以下に詳述するナビゲーションシステムを含んでいる。
【0029】
図1において、本実施形態に係る医療システムは、超音波診断装置10、内視装置12、治療装置14、座標計測装置16,18、データ処理部(ナビゲーター)20等を有している。各装置について具体的に説明すると、超音波診断装置10は、プローブ22と、それが接続された超音波診断装置本体24と、で構成されている。内視装置12は、内視鏡26と、それが接続された内視装置本体28と、で構成されている。治療装置14は、内視鏡26に挿通されるレーザー光伝達部材と、それに対してレーザー光を与える治療装置本体30と、により構成されている。図1において、符号32は治療用のレーザー光を示している。座標計測装置16は、反射部材34、光計測ユニット36及び座標演算部38により構成されている。同様に、座標計測装置18は、反射部材40、光計測ユニット42及び座標演算部44により構成されている。データ処理部20は、本実施形態においてパーソナルコンピューターによって構成されており、各装置から入力されるデータの処理を実行する。ちなみに、上述した各座標演算部38,44がパーソナルコンピューターの機能として実現されてもよい。また、データ処理部20が有する機能を超音波診断装置本体24等に搭載することも可能である。データ処理部20にはスピーカ46及びディスプレイ48が接続されている。それらは報知手段を構成するものである。
【0030】
図1において、生体50の表面50A上にはプローブ22が当接されている。プローブ22は後に説明するボリュームデータを取得するためのものであり、そのボリュームデータは三次元空間Vから取得される。プローブ22は操作者によって保持され、あるいはロボットによって保持される。プローブ22のケースには上述した反射部材34が取り付けられている。この反射部材34は複数の反射球からなり、それぞれの反射球は座標計測用の光を反射するものである。プローブ22は3Dプローブであり、すなわち超音波ビームを二次元走査する機能を有している。本実施形態においては、プローブ22は、1Dアレイ振動子を備えた振動子ユニット、及び、それを機械的に走査する機構を備えている。もちろん、プローブ22に2Dアレイ振動子を設けるようにしてもよい。
【0031】
いずれにしても、プローブ22により超音波ビームBが形成され、その超音波ビームBが二次元的に走査される。具体的には、第1走査方向に超音波ビームBが走査されて走査面が構成され、その走査面が第2走査方向に走査されることにより、三次元空間Vが構成される。ちなみに、符号62は深さ方向すなわちビーム方向を表しており、符号64は第1走査方向を表している。第2走査方向は紙面奥行き方向である。三次元空間Vは、診断及び治療の対象となる組織54及び体内に挿入された内視鏡26の先端部60を含むように形成される。具体的には、そのような条件が満たされるようにプローブ22の位置決めがなされる。
【0032】
ちなみに、生体50は例えば妊婦であり、組織54は例えば子宮内に存在する胎盤である。すなわち、図1は、胎盤54の表面54A上を走行する血管に対してレーザー治療を行う場合の様子を模式的に表したものである。そのような治療にあたっては、内視鏡26、特にその先端部60が胎盤54、子宮壁、胎児等に不必要に接触しないことが求められるのであり、そのような安全性の観点からナビゲーションが実行されている。
【0033】
内視鏡26は、体内に挿入される観察用の器具であり、それは一般にトラカールと称されるガイド筒52を経由して体内に挿入される。内視鏡26は、本実施形態において硬質の棒状部材であり、その生体側の基部56には上述した反射部材40が設けられている。反射部材40は上記の反射部材34と同様に複数の反射球からなるものであり、それぞれの反射球は座標計測用の光を反射するものである。内視鏡26の先端部60は図示のようにターゲット組織である胎盤54に向けてゆっくりと刺し込まれており、例えば胎盤54における疾患部位の直前1cmのところに先端部60が位置決められ、その状態において内視鏡26の先端面からレーザー光を出射することにより、疾患部位に対する治療が遂行される。但し、このような手技は一例であり、本発明に係るシステムは各種の観察、診断、治療等において用いることが可能である。
【0034】
本実施形態においては、体内に挿入される器具つまり内視鏡26における特定部位を基準として、ナビゲーションのための近傍領域が定義される。具体的には、本実施形態においては内視鏡26における先端面の中心(中央)が基準点とされ、その基準点を中心とした近傍球が定義されており、その近傍球の表面(球面)が判定面としての近傍面66とされている。そして、その判定面66上において組織の存在が検知された場合には、直ちにアラームが出力される。このように内視鏡26の先端を基準としてナビゲーション用の判定面が設けられ、それは内視鏡の動きとともに運動するものであるため、演算量を従来よりも大幅に少なくして、リアルタイムで組織近接を判断することが可能であり、しかも組織が運動したとしても組織の近接をリアルタイムで判定できるため、安全性を極めて高めることができるという利点が得られる。組織近接の判定に関しては後に詳述することにする。
【0035】
超音波診断装置本体24は、プローブ22から出力される受信信号を処理する各種のモジュールを有しており、本実施形態においてはボリュームデータに基づいて三次元画像を形成する機能も有している。本実施形態では、超音波診断装置本体24からデータ処理部20へボリュームデータが出力されており、そのボリュームデータがデータ処理部20においてナビゲーションのために利用されている。超音波診断装置本体24は、表示器及び入力器等を含むものである。
【0036】
内視装置本体28は、内視鏡26から出力される光学的な信号或いは画像信号を入力して、それが備えている表示器に内視画像を表示するものである。内視鏡26はそのような画像形成のための光源等を有している。ちなみに、本実施形態においては挿入器具が内視鏡26であるが、挿入器具が鉗子のようなものであっても、後述する本発明に係る手法をそのまま適用することが可能である。したがって、挿入される器具の種別を問わずそれぞれに対してナビゲーション機能を適用することが可能である。
【0037】
光計測ユニット36は、座標計測用の光ビームを出射し、反射した光を受光する機能を有している。光ビームの空間的走査を行うことにより、反射した光の方位から対象物であるプローブの三次元座標や各軸周りの傾き角度に関する情報を得ることができる。そのような座標演算は光計測ユニット36からの出力信号を受け入れる座標演算部38において実行されている。ちなみに光を利用した座標計測は公知技術である。磁場及び磁気センサを利用した座標計測、複数のポテンショメータを利用した座標計測等の他の方式を使ってプローブ22の空間的な座標(位置及び姿勢)を計測するようにしてもよい。図1において符号35は走査される光ビームを表している。座標計測装置18は上記の座標計測装置16と同様の構成を有しており、その具体的な説明については省略するが、この座標計測装置18によれば内視鏡26の座標を演算することが可能である。符号41は光ビームを表している。
【0038】
以上のように、プローブ22の三次元座標を計測すれば、プローブ22と三次元空間Vとの空間的関係が既知となるので、各エコーデータ或いは三次元空間Vにおける各位置の三次元座標が既知となる。同様に、内視鏡26についての三次元座標を上記のように演算できるので、しかも内視鏡26は硬質の棒状体として構成されており、先端面上の基準点の三次元座標も既知となる。つまり、ボリュームデータの座標系と内視鏡26の座標系の空間的関係を知ることが可能となる。本実施形態においては、プローブ22及び内視鏡26のそれぞれについての座標計測を行ったが、ボリュームデータに基づいて内視鏡先端の位置をデータ処理により特定できるならば、プローブ22及び内視鏡26の個別的な座標計測は不要である。座標演算部38から出力されるプローブ22についての三次元座標データ、及び、座標演算部44から出力される内視鏡26についての三次元座標データはデータ処理部20へ出力されている。
【0039】
データ処理部20は本実施形態においてナビゲーターとして機能するものであり、内視鏡26の先端部60が組織に近接したことを速やかに検知し、近接情報をナビゲーション情報として器具操作者に提供するものである。近接情報すなわちアラームの出力形態としてはいくつかが考えられ、本実施形態においてはスピーカ46を利用して音としてアラームが出力される。同時に、ディスプレイ48が利用されて画像或いは表示としてアラームが提供される。さらに、バイブレータやLED発光等の方式が利用されてもよい。データ処理部20は、図1に示される各構成の動作制御を行う主制御部として機能してもよい。例えば、先端部60と組織との距離に応じて治療装置14の制御を行うようにしてもよい。
【0040】
図2には、2つの近傍面66A,66Bが示されている。図2に示されるように、互いにサイズの異なる2つの近傍面66A,66Bを設定すれば、組織近接の度合を段階的に評価することが可能である。すなわち、アラームとして黄色信号及び赤色信号を出すことが可能となる。具体的に説明すると、データ処理空間上において、内視鏡26の先端に設定される基準点eを中心として半径r1の近傍球が定義され、その表面である球面が組織近接判定用の近傍面66Aであるとされている。同様に、基準点eを中心として半径r2を持った近傍球が定義され、その表面が近傍面66Bであると定義されている。ここで組織54における表面が符号54Aで表されている。本実施形態においては、各近傍面66A,66B上においてそこに組織データがあるか否かの判断が実行される。すなわち、組織54の表面54Aを抽出して、それを基準として危険領域等を定義するのではなく、内視鏡26を基準として判定領域が確定されている。組織の連続性から、球面である近傍面66A,66B上に組織データがある場合には、内視鏡26が組織に近接したことを判断できるので、その場合にはアラームが出力される。もっとも、球体内に組織データが含まれた場合にアラームを出力することも可能である。但し、その場合には探索が三次元的な範囲に及ぶことになるからデータ演算量削減の観点から言えば二次元の平面上における探索が有利である。
【0041】
近傍面の個数及び各近傍面のサイズはユーザーにより或いは自動的に可変設定されるのが望ましい。例えばより安全性が求められる場合にはより多くの近傍面を設定することが可能であり、或いは近傍面を定義する半径をより大きくして早期に組織の近接を判定できるようにしてもよい。本実施形態において、各近傍面66A,66Bは上述したように球面であるが、それらには内視鏡26を避ける穴が設けられている。すなわち内視鏡26それ自体も超音波の反射体であり、そのような内視鏡それ自体から生じたエコーを組織データであると誤認しないように近傍面66A,66Bの形状(組織探索範囲)が定められている。但し、組織データと器具データ(内視鏡からの反射エコー)は閾値処理によって容易に弁別可能であるため、各近傍面66A,66Bを完全なる球面とするようにしてもよい。また、本実施形態においては、近傍面66A,66Bが実質的に球体の面として構成されていたが、半球に相当する面であってもよく、或いは円錐の湾曲底面に相当する面であってもよい。少なくとも、内視鏡26の主軸を延長した前方方向に判定面としての近傍面が設けられるのが望ましい。
【0042】
本実施形態においては、一点の基準点を中心として簡易な図形を生成し、その表面上において組織データの探索を行うようにしたので、その演算量は従来に比べて著しく少なく、これによってリアルタイムで組織近接判定を行うことが可能である。しかも、図2に示されるように複数の近傍面66A,66Bを段階的に設ければ、組織への近接度合いを表す情報を得ることができるので、器具の操作をより適切に行えるという利点がある。ちなみに、いずれの近傍面上において組織データの検知がなされたのかを区別できるようにそれぞれの報知態様を異ならせるのが望ましい。各近傍面66A,66B上における組織データの探索にあたっては、孤立したノイズ等による誤検出を防止するため、組織の連続性或いは連結性を考慮した組織判別を行うのが望ましい。例えば複数の組織データの連結が認められる場合に限って組織近接を判定するようにしてもよい。或いは外側の近傍面の通過に続いて内側の近傍面の通過が判定された場合に組織への近接を判定するようにしてもよい。その場合において、内視鏡26の先端部から見ていずれの方位において組織への近接が生じたのかを表す方位情報を操作者に提供するようにしてもよい。そのような情報を操作者に提供すれば、例えば胎児が自ら動いて内視鏡26に近づいたような場合に、内視鏡26をどの方向へ退避させればよいのかを認識することが可能となる。本実施形態においては、ひとつの基準点に基づいて判定のための面が定義されていたが、複数の点に基づいてそのような面が定義されてもよい。或いは内視鏡26の外形に基づいてそれを包み込むように判定のための面が定義されてもよい。但し、演算をできる限り迅速に行うためには、本実施形態で示したように一点に基づいて単純図形を生成するのが望ましい。複数の器具が同時に挿入される場合において、いずれかの近傍面上の他の器具が入り込むことが予想されるが、そのような場合にはエコーレベルに基づいて組織か器具かを弁別し、組織であればアラームを出力するようにしてもよい。組織であるか器具であるのかを識別する情報を使用者に提供してもよい。
【0043】
次に、図3乃至図6を用いて近傍面上における組織探索の方法について説明する。図3には、直交座標系が示されている。図3においてX−Y−Zで示される座標系は絶対的な直交座標系である。そのような座標系において上述したように内視鏡26の先端に相当する基準点eを中心として半径rをもった球が定義され、その表面が近傍面66とされる。ここではひとつの近傍面66のみが示されている。基準点eを基準として相対的な直交座標系x−y−zを定義することができ、図3にはそれが示されている。ここで基準点eの座標は(xe,ye,ze)で表される。
【0044】
このような前提の下、球面上の各点の座標は以下の(1)式によって表される。なお、図3において球面上の一つの点がAで表されており、その座標が(x,y,z)で表されている。
【0045】
(x−xe2+(y−ye2+(z−ze2=r2 …(1)
【0046】
以上のような近傍面上において組織の探索が行われるわけであるが、近傍面上において能率的な組織探索を行うために、本実施形態においては、以下に説明するような探索経路が設定されている。その際、極座標系を導入するのが便利であることから、図4に示されるような極座標系が利用される。ここにおいて、基準点eを基準として直交座標系x’−y’−z’が定義されており、ここで軸x’は内視鏡の主軸に一致している。その主軸x’からの軸z’方向の回転角がθで表されており、軸y’方向の回転角がφで表されている。言い換えると、z’軸を中心とした回転によるx’−y’平面上におけるx’からの開き角がφであり、そこからさらにy’軸を中心とした回転によるx’−y’平面からの仰角がθであるといえる。すなわち球面上のある一点Aの座標は半径rと回転角θ,φによって特定される。
【0047】
このような前提の下で、図5に示されるような探索が実行される。ここで、n及びkはそれぞれθ及びφを決定するためのカウント値を表しており、n=1,2,3,・・・であり、k=1,2,3,・・・である。そして、以下の(2)式及び(3)式に基づいてθ及びφが求められる。ちなみにΔθはθ方向のピッチを表しており、Δφはφ方向のピッチを表している。
【0048】
θ=Δθ・n …(2)
【0049】
φ=Δφ・k …(3)
【0050】
上記のn及びkの決定の仕方が図5に示されている。最初にn及びkのいずれにも0が与えられ、次に、その原点を取り囲むように左回りのループが多重的に形成され、その際、各パスが定められるようにn及びkに値が順次与えられる。1つのループは5つのパスから成り、それが図5においてS1,S2,S3,S4,S5で表されている。この図5に示される探索経路の設定方法について図6を用いて更に具体的に説明する。ちなみに図4及び図5においてA0は出発点を表している。
【0051】
図6において、S0は出発点における判定を示しており、S1〜S5は各サブパスでの判定処理を表している。
【0052】
S11においては、n及びkに対して0が代入され、またSに対して1が代入されている。Sは開始点の周りにおける周回数に相当するカウント値である。S12においては、現在注目している座標のエコー値e(n,k)が閾値th以上であるか否かが判断される。当該エコー値が閾値th以上であれば組織データであると判定され、S14においてアラームが出力される。一方、S12においてエコー値eが閾値th以上でなければS13においてnが1つインクリメントされる。
【0053】
S15においては、前回よりも1つ外側のパスにおいて、最初にエコー値e(n,k)が閾値th以上であるか否かが判断され、閾値th以上であればS33においてアラームが出力される。一方、閾値th以上ではないと判断される場合には、S16においてkが1つインクリメントされる。そしてS17においてkがSよりも小さいか否かが判断される。すなわちkがSよりも小さい限りにおいてS15〜S17までの工程が繰り返される。S17においてkがSと同じかそれ以上であると判断された場合には、S18以後の各工程が実行される。
【0054】
S18においては、水平のパスで探索を行うために、エコー値e(n,k)が閾値th以上であるか否かが判断される。そして、閾値th以上であればS33においてアラームが出力され、そうでなければS19においてnが1つ小さい数に変更される。そしてS20においてnの絶対値がSよりも小さいか否かが判断され、その条件が満たされる限りにおいてS18〜S20の工程が繰り返し実行される。そしてnの絶対値がS以上となった場合にはS21が実行される。
【0055】
S21においては、エコー値e(n,k)が閾値th以上であるか否かが判断され、閾値th以上であればS33においてアラームが出力され、そうでなければS22においてkが1つ小さな値に変更された上で、S23においてkの絶対値がSよりも小さいか否かが判断される。kの絶対値がSよりも小さければS21〜S23の工程が繰り返し実行され、そうでない場合にはS24の工程が実行される。
【0056】
S24においてはエコー値e(n,k)が閾値th以上であるか否かが判断され、閾値th以上であればS33においてアラームが出力され、そうでなければS25においてnが1つ大きな値に変更された上で、S26においてnがSよりも小さいか否かが判断される。nがSよりも小さい限りにおいてS24〜S26の工程が繰り返し実行され、そうでなければS27が実行される。
【0057】
S27においてはエコー値e(n,k)が閾値th以上であるか否かが判断され、閾値th以上であれば組織検知であるとしてS33でアラームが出力される。そうでなければS28においてkが1つ大きな値に変更された上で、S29においてkが0よりも小さい値であるか否かが判断され、kが0よりも小さければS27〜S29の工程が繰り返し実行され、そうでなければS30においてnが1つ大きな値に変更され、かつS31においてSが1つ大きな値に変更される。
【0058】
そして、S32においてSがSmaxよりも小さいか否かが判断され、SがSmaxよりも小さければS15以降の工程が繰り返し実行され、そうでなければ本処理が終了する。
【0059】
すなわち、Smaxとして周回数を定めておけば、ユーザーが希望する個数分だけループ状の探索を順次行うことができ、その場合においてΔθ及びΔφの値を適宜設定することにより探索の分解能すなわちピッチを可変設定することが可能である。ちなみに、上記のθは通常0からπの範囲内の値をとり、φも同様に0からπの間の値をとる。但し、Smaxを適宜定めることにより例えば半球の探索を行うことも容易に設定可能である。
【0060】
複数の近傍面(図2)を設定する場合には、図6に示した一連のプロセスを2つの近傍面のそれぞれに対して適用すればよい。図6に示したプロセスによれば、組織との衝突の危険性をより早期に検知すべき必要性が高い前方領域を時間的により優先して探索できるという利点が得られる。もちろん図5及び図6に示したプロセスは一例であって、探索経路については必要に応じて任意に定めることが可能である。いずれにしても、ボリュームデータが存在するデータ処理空間内において基準点を定め、その周囲に探索面を定義し、その探索面上において組織データの有無が確実に判断できるようなプロセスを採用するのが望ましい。
【0061】
なお、極座標から直交座標への変換は例えば以下の(4)式を用いればよい。
【0062】
x’=rcosθcosφ
y’=rcosθsinφ
z’=rsinθ …(4)
【0063】
図7には、図1に示したデータ処理部20に接続されたディスプレイ48に表示される内容の一例が示されている。表示画面74は複数の画像を有しており、符号76は三次元画像或いはワイヤーフレーム画像を示している。符号78,80,82はそれぞれ断層画像を示している。それらはいわゆるトリプレーンを構成するものである。画像76においては、3つの切断面がグラフィックイメージによって表示されており、それが符号78A,80A,82Aで表されている。符号26Aはグラフィックイメージとして表された内視鏡である。その先端が基準点となり、その基準点を直交する3つの切断面が定義されている。ここで符号78Aで示される切断面は内視鏡の主軸に対して直交する面であり、符号80A,82Aで示される2つの切断面は、主軸に直交する切断面に対してさらに直交する切断面であり、3つは互いに直交関係にある。
【0064】
断層画像78は、符号78Aで示した切断面に対応する断層画像である。断層画像80は符号80Aで示した切断面に対応する断層画像である。断層画像82は符号82Aで示した切断面に対応する断層画像である。断層画像78,80,82にはそれぞれ基準点を表すマーカーEが表されており、また他の断層画像の切断位置を示すラインも表されている。さらに、それらの断層画像78,80,82には近傍球或いは近傍面を表す円形のグラフィックイメージCが表されている。そのようなグラフィックイメージCを観察することにより、基準点に対してどのくらいの大きさを持って近傍球が定義されているのかを直感的に認識することができ、また近傍面と組織との位置関係を認識することも可能である。ちなみに断層画像82に示されているように、この例では近傍球内に組織がくい込んでおり、危険信号としてのアラームが出力されている状態となっている。なお、断層画像80,82には内視鏡を表すライン状あるいは棒状のグラフィックイメージDも表されている。
【0065】
以上のように三次元的な空間を表す画像とともにトリプレーン画像を表示すれば内視鏡の移動操作の便宜を図ることができ、ひいては操作の安全性を高めることが可能である。またこのような画像を表示すれば、危険信号が生じた場合に、内視鏡から見てどの方向に組織があるのか或いは内視鏡に対してどの程度組織が近接しているかの状況を容易に把握できるという利点がある。
【0066】
次に、図8を用いて変形例について説明する。ボックス84は超音波の送受波によって得られたボリュームデータを示している。上述した座標計測装置によらずに、ボックス86で示されるようにボリュームデータ84を用いて器具を抽出するようにしてもよい。器具は高輝度反射体であるため閾値処理により器具の形状認識することが可能である。ボックス90で示されるように、抽出された器具における先端の座標すなわち基準点が次に演算される。基準点が特定されると、符号92に示されるようにその基準点に基づいて判定面すなわち近傍面が定義される。そのように設定される近傍面はボックス94で示される判定プロセスにおいて利用される。
【0067】
すなわち、判定プロセスにおいては、データ処理空間内において仮想的に存在する近傍面上において、ボリュームデータ84を参照し、組織データが存在するか否かが判定される。もし組織データが存在すれば、組織に近接した状態であることが認識されるので、ボックス96で示されるようにアラームが出力される。なお、ボリュームデータ84に基づいてボックス88で示されるように組織表面を抽出した上で、近傍面上に組織表面があるか否かを判定するようにしてもよい。また組織表面を抽出できるならば、上記のように特定された基準点と組織表面までの距離を演算することも可能であり、そのように演算された結果を表示してもよい。これがボックス98で示されている。但し、組織表面抽出には一般に複雑な演算が必要となり、リアルタイムで組織近接を判断するためには、上述したように簡易な判定方法を採用するのが望ましい。
【0068】
本実施形態においては、生体内において内視鏡を移動させると、それに伴って基準点の三次元座標も刻々と変化することになり、同時に、近傍面も内視鏡の動きに伴って移動する。すなわち組織近接の判定をリアルタイムで行える。この場合において、内視鏡が移動する方向にだけ判定面を適応的に設定することも可能である。また内視鏡が移動する速度に応じて判定球のサイズを変更したり判定面の個数を変えたりすることも可能である。そのような判定条件を動的に変化させる態様も本発明の範囲に含まれる。
【0069】
図1に示した実施形態においては、プローブの三次元座標及び内視鏡の三次元座標が座標計測装置によって計測されていたが、図8に示したように、ボリュームデータそれ自身に基づいて基準点を特定し、それに基づいて近傍面を設定することが可能である。すなわち座標計測装置を不要にすることが可能である。上述した実施形態においては、二次元的な面上において組織の判定を行ったが、もちろん三次元領域を判定領域として定めるようにしてもよい。また上述した実施形態においては、内視鏡の先端部分を包み込むように判定球が定義され、そこにおいて組織の有無が判断されていたが、内視鏡全体を包み込むように判定領域を定めることももちろん可能である。
【0070】
いずれにしても体内に挿入される器具を操作する者に対して、その器具における特定部位が組織に近接したことを表すナビゲーション情報を提供することにより、器具を操作する上での負担を軽減でき、また安全性を飛躍的に高めることが可能である。本発明に係る医療システムは胎児治療以外の各種の治療において利用可能であり、また治療以外の診断や観察等においても利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 超音波診断装置、12 内視装置、14 治療装置、16,18 座標計測装置、20 データ処理部(ナビゲーター)、22 プローブ、26 内視鏡、54 対象組織、66 近傍面(球面)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に挿入された器具の操作を支援する医療用ナビゲーションシステムにおいて、
前記器具における特定部位を含んだ体内三次元領域に対して超音波の送受波を行い、これにより超音波ボリュームデータを取得する送受波手段と、
前記超音波ボリュームデータが存在する三次元データ処理空間内において、前記特定部位についての三次元座標を基準として、前記特定部位が組織へ接近した近接状態を判定するための二次元又は三次元の近傍領域を設定する設定手段と、
前記ボリュームデータに基づいて、前記近傍領域に組織データが存在するか否か判定する判定手段と、
前記近傍領域に組織データが存在すると判定された場合に前記近接状態を器具操作者に報知する報知手段と、
を含むことを特徴とする医療用ナビゲーションシステム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記近傍領域は前記特定部位の三次元座標を基準として設定された二次元の近傍面であり、
前記近傍面上において前記組織データの有無が判定される、ことを特徴とする医療用ナビゲーションシステム。
【請求項3】
請求項2記載のシステムにおいて、
前記近傍面は、球面の全部又は一部であり、少なくとも前記特定部位の前方に設定される、ことを特徴とする医療用ナビゲーションシステム。
【請求項4】
請求項2記載のシステムにおいて、
前記近傍面は前記器具を含まない領域であり、あるいは、前記判定手段は前記近傍面上に存在する器具データを除外しつつ前記組織データの有無を判定し、これにより前記器具データを前記組織データであると誤認してしまうことが防止されることを特徴とする医療用ナビゲーションシステム。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記設定手段は、前記基準点からの距離が互いに異なる複数の近傍面を多重的に設定し、
前記判定手段は、前記各近傍面上で組織データの有無を判定し、
前記報知手段は、前記組織データがあるとの判定がなされた近傍面に応じて報知態様を変化させる、ことを特徴とする医療用ナビゲーションシステム。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記近傍領域のサイズを変更する手段を含む、ことを特徴とする医療用ナビゲーション装置。
【請求項7】
請求項2乃至6のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記判定手段は、前記近傍面上に探索経路を設定し、前記探索経路に沿って前記組織データの有無の判定処理を順次進行させる、ことを特徴とする医療用ナビゲーションシステム。
【請求項8】
請求項7記載のシステムにおいて、
前記探索経路は、前記特定部位の前方に相当する地点を出発点として、そこから前記特定部位の側方へ広がる形態を有する、ことを特徴とする医療用ナビゲーションシステム。
【請求項9】
請求項8記載のシステムにおいて、
前記探索経路は、前記出発点を中心とした多重リング状の形態を有する、ことを特徴とする医療用ナビゲーションシステム。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
前記超音波ボリュームデータに対して前記特定部位の三次元座標を基準として複数の切断面を設定し、前記超音波ボリュームデータに基づいて前記複数の切断面に対応する複数の断層画像を形成する表示処理手段を含む、ことを特徴とする医療用ナビゲーションシステム。
【請求項11】
請求項10記載のシステムにおいて、
前記複数の断層画像の内で少なくとも1つの断層画像には前記特定部位を表すマークが表示される、ことを特徴とする医療用ナビゲーション装置。
【請求項12】
請求項10又は11記載のシステムにおいて、
前記複数の断層画像の内で少なくとも1つの断層画像には前記近傍領域を表す図形が表示される、ことを特徴とする医療用ナビゲーション装置。
【請求項13】
体内に挿入された器具の操作を支援する医療用ナビゲーションシステムにおいて、
前記器具の三次元座標を計測する第1座標計測手段と、
前記器具における先端部を含んだ体内三次元領域に対して超音波の送受波を行い、これにより超音波ボリュームデータを取得するプローブと、
前記プローブの三次元座標を計測する第2座標計測手段と、
前記器具の三次元座標及び前記プローブの三次元座標に基づいてデータ演算を行う手段であって、前記超音波ボリュームデータが存在する三次元データ処理空間内において前記先端部についての三次元座標を基準点として演算し、前記三次元データ処理空間内に前記基準点を中心として少なくともその前方に前記先端部が組織へ近接した接近状態を判定するための立体形状を有する近傍面を設定する設定手段と、
前記超音波ボリュームデータに基づいて、前記近傍面上における組織データの有無を判定する判定手段と、
前記判定面上に組織データがあると判定された場合に前記近接状態を器具操作者にリアルタイムで報知する報知手段と、
を含むことを特徴とする医療用ナビゲーションシステム。
【請求項14】
体内に挿入された器具の操作を支援する医療用ナビゲーションシステムにおいて実行されるプログラムであって、
前記器具における特定部位を含んだ体内三次元領域に対して超音波を送受波することにより得られた超音波ボリュームデータを入力する機能と、
前記超音波ボリュームデータが存在する三次元データ処理空間内において、前記特定部位についての三次元座標を基準点として、前記特定部位が組織へ近接した接近状態を判定するための二次元又は三次元の近傍領域を設定する機能と、
前記超音波ボリュームデータに基づいて、前記近傍領域に組織データが存在するか否かを判定する機能と、
前記近傍領域に前記組織データが存在すると判定された場合に前記特定部位による組織への近接状態を器具操作者に報知する機能と、
を含むことを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−240067(P2010−240067A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90193(P2009−90193)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「インテリジェント手術機器研究開発プロジェクト(研究連携型機器開発)」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【出願人】(510136312)独立行政法人国立成育医療研究センター (6)
【出願人】(508219438)株式会社イノベンチャー・シー (5)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【上記2名の代理人】
【識別番号】100075258
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 研二
【Fターム(参考)】