説明

医療用レンズ

【課題】200〜400nmの紫外線波長領域の光の透過率が低く、かつ、450nmを超える波長領域で大きな吸収能を持たず、自然に近いレンズ色目で、かつ、室内の視界確保に優れた医療用樹脂レンズを提供する
【解決手段】合成樹脂100質量部に対して、下記一般式(1)、


(式中、Rは炭素原子数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基等を表す。Rは炭素原子数1〜8のアルキル基又は炭素原子数2〜8のアルケニル基を表す。)で表されるトリアジン系化合物0.001〜20質量部を配合してなることを特徴とする医療用樹脂レンズである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用樹脂レンズに関し、詳しくは、特定のトリアジン系化合物を配合してなる医療用樹脂レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用レンズは、ガラスレンズと比較して安全性、加工の容易さ等に優れていることから樹脂レンズが広く普及している。
【0003】
眼の網膜や水晶体等は、波長200〜400nm付近の紫外線により支障をきたし、白内障や角膜炎を引き起こすことが知られている。また、この波長領域の紫外線は、樹脂を劣化させる要因でもあるため、医療用レンズではこの紫外線領域を透過させないことが望まれる。さらに、眼鏡レンズにおいては、まぶしさを軽減する目的で400〜500nmの波長を完全にカットするレンズも有用とされているが、レンズの色目が濃すぎたり、室内での視界が暗く、コントラスト感度が低下するといった問題がある。従って、特に白内障患者においては、200〜400nm付近の波長領域のみを完全にカットし、450nmを超える波長を透過させ、レンズの色目がより自然に近く室内でも視界の明るさを確保できるレンズが要求されている。
【0004】
従来から医療用レンズには紫外線の遮蔽効果などを期待してベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤などの各種紫外線吸収剤を配合することが検討されてきており、特許文献1及び2には紫外線吸収剤溶液に合成樹脂レンズを含浸させて樹脂の表面にコーティングする方法、特許文献3にはカーボネート/アクリル樹脂に有機酸コバルト化合物を配合する方法、特許文献4〜7にはチオウレタン樹脂やカーボネート樹脂にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を配合する方法、また、特許文献8にはエピチオスルフィドモノマーとベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を共重合させる方法等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−230003号公報
【特許文献2】特開平09−269401号公報
【特許文献3】特開平05−212103号公報
【特許文献4】特開昭58−122501号公報
【特許文献5】特開平02−093422号公報
【特許文献6】特開平11−231102号公報
【特許文献7】特開平11−295502号公報
【特許文献8】特開2001−091906号公報
【0006】
しかしながら、従来使用および使用が検討されている紫外線吸収剤で十分な性能を得るためには樹脂に多量に配合する必要があり、その結果、樹脂の重合反応に影響を与えたり、製造した樹脂レンズを通して見える色調が実際の色調と異なったり、樹脂レンズの物性が劣るなどの問題があった。さらに、従来の紫外線吸収剤では紫外線吸収能において200〜400nmの波長をカットできるものの、450nmを超える波長領域にも吸収能を有するため、レンズ色目や室内での視界確保の面で充分といえるものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、200〜400nmの紫外線波長領域の光を完全にカットし、かつ、450nmを超える波長領域で大きな吸収能を持たず、自然に近いレンズ色目で、しかも、室内の視界確保に優れた医療用樹脂レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のトリアジン化合物を合成樹脂に配合することで上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の医療用樹脂レンズは、基材樹脂となる合成樹脂100質量部に対して、下記一般式(1)、

(式中、Rは炭素原子数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数2〜8のアルケニル基、炭素原子数6〜18のアリール基、炭素原子数7〜18のアルキルアリール基又は炭素原子数7〜18のアリールアルキル基を表す。但し、これらのアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよく、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、エステル基、アミド基又はイミノ基で中断されていてもよい。また、前記の置換及び中断は組み合わされてもよい。Rは炭素原子数1〜8のアルキル基又は炭素原子数2〜8のアルケニル基を表す。)で表されるトリアジン系化合物0.001〜20質量部を配合してなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の医療用樹脂レンズは、前記トリアジン系化合物が下記一般式(2)、

(式中、Rは炭素原子数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。但し、これらのアルキル基はヒドロキシ基、ハロゲン原子又はアルコキシ基で置換されていてもよく、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、エステル基、アミド基又はイミノ基で中断されていてもよい。)で表されることが好ましく、前記合成樹脂がポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シクロオレフィン系樹脂およびノルボルネン系樹脂からなる群から選ばれる樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、200〜400nmの紫外線吸収能に優れ、かつ、450nmを超える波長領域に大きな吸収を示さず、自然に近いレンズ色目で、室内の視界確保に優れた医療用樹脂レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1及び比較例1で作製したPC樹脂配合系でのUV透過率曲線を表すグラフである。
【図2】実施例2及び比較例3で作製したPMMA樹脂配合系でのUV透過率曲線を表すグラフである。
【図3】実施例3及び比較例3で作製したNBE樹脂配合系でのUV透過率曲線を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に用いられるトリアジン系化合物は、下記一般式(1)で表される。

(式中、Rは炭素原子数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数2〜8のアルケニル基、炭素原子数6〜18のアリール基、炭素原子数7〜18のアルキルアリール基又は炭素原子数7〜18のアリールアルキル基を表す。但し、これらのアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよく、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、エステル基、アミド基又はイミノ基で中断されていてもよい。また、前記の置換及び中断は組み合わされてもよい。Rは炭素原子数1〜8のアルキル基又は炭素原子数2〜8のアルケニル基を表す。)
【0014】
上記一般式(1)におけるRで表される炭素原子数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、アミル、第三アミル、ヘキシル、オクチル、第二オクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ウンデシル、ドデシル等の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。炭素原子数3〜8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基等が挙げられ、中でもヘキシル基が、本発明の目的である紫外線の吸収特性に優れるため好ましい。
【0015】
で表される炭素原子数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、アミル、第三アミル、ヘキシル、オクチル、第三オクチル等が挙げられ、中でもメチル基が、本発明の目的である紫外線の吸収特性に優れるため好ましい。
【0016】
及びRで表される炭素原子数2〜8のアルケニル基としては、直鎖及び分岐のプロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニルが不飽和結合の位置によらず挙げられる。
【0017】
で表される炭素原子数6〜18のアリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル等が挙げられ、炭素原子数7〜18のアルキルアリール基としては、例えば、メチルフェニル、ジメチルフェニル、エチルフェニル、オクチルフェニル等が挙げられ、炭素原子数7〜18のアリールアルキル基としては、例えば、ベンジル、2−フェニルエチル、1−メチル−1−フェニルエチル等が挙げられる。また、置換基や中断を有するアリール基としては、4−メチルフェニル、3−クロロフェニル、4−ベンジルオキシフェニル、4−シアノフェニル、4−フェノキシフェニル、4−グリシジルオキシフェニル、4−イソシアヌレートフェニル等が挙げられる。
【0018】
上記エステル基は、カルボン酸とアルコールが脱水縮合して形成される基であり、上記アミド基はカルボン酸とアミンの脱水縮合により形成される基である。
【0019】
また、炭素原子数が1〜12の上記アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシ、ヘキサオキシ、オクトキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシ基が挙げられる。
【0020】
置換基または中断を有していてもよいRのアルキル基、シクロアルキル基としては、2−ヒドロキシプロピル、2−メトキシエチル、3−スルホニル−2−ヒドロキシプロピル、4−メチルシクロヘキシル等が挙げられる。
【0021】
本発明の一般式(1)で表されるトリアジン系化合物は、好ましくは下記一般式(2)で表されるトリアジン系化合物で表される。

(式中、Rは炭素原子数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。但し、これらのアルキル基はヒドロキシ基、ハロゲン原子又はアルコキシ基で置換されていてもよく、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、エステル基、アミド基又はイミノ基で中断されていてもよい。)
【0022】
上記一般式(2)におけるRで表される炭素原子数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基としては、例えば、先の一般式(1)におけるRが表す直鎖又は分岐のアルキル基と同じ基が挙げられる。また、アルコキシ基は上記アルコキシ基と同様である。
【0023】
本発明の上記一般式(1)又は(2)で表される化合物としては、例えば、下記の化合物No.1〜No.4等の化合物が挙げられる。
【0024】

【0025】

【0026】

【0027】

【0028】
本発明のトリアジン系化合物の配合量は、基材となる合成樹脂100質量部に対して0.001〜20質量部であり、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。トリアジン系化合物の使用量が0.001質量部未満であると、充分な紫外線吸収能力が発揮できず、一方、トリアジン系化合物の使用量が20質量部を超えると、樹脂物性の低下や、ブリードが発生してしまう等の問題を生じる。
【0029】
本発明に用いる、基材樹脂となる合成樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル―スチレン樹脂、ウレタン―メタクリレート樹脂、エポキシ―メタクリレート樹脂及びポリエステル―メタクリレート樹脂等のアクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びジアリルフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ジアリルカーボネート樹脂及びアリルジグリコールカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂或いはシクロオレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂セルロースアセテート及び前記樹脂の共重合樹脂又はハイブリッド樹脂等が挙げられ、中でも、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シクロオレフィン系樹脂又はノルボルネン系樹脂が好ましく、特にポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂又はノルボルネン樹脂において好適に使用できる。また、これらの合成樹脂は単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
本発明の医療用レンズには、用いる合成樹脂の種類に応じて通常用いられる酸化防止剤(フェノール系、リン系又はチオエーテル系等)、他の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、可塑剤、帯電防止剤、加工助剤等の添加剤を配合することができる。
【0031】
上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ第三ブチル−p−クレゾール、2,6−ジフェニル−4−オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6−ヘキサメチレンビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’−チオビス(6−第三ブチル−m−クレゾール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第三ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−第三ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−第三ブチル−m−クレゾール)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ第三ブチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(4−第二ブチル−6−第三ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−第三ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−アクリロイルオキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェノール、ステアリル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレングリコールビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサメチレンビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5−トリス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕、トコフェロール等があげられ、合成樹脂100質量部に対して、0.001〜10質量部、より好ましくは、0.05〜5質量部が用いられる。
【0032】
上記リン系酸化防止剤としては、例えば、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2−第三ブチル−4−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルチオ)−5−メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ第三ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6−トリ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−n−ブチリデンビス(2−第三ブチル−5−メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10−ジハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)−オクタデシルホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2−〔(2,4,8,10−テトラキス第三ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ〕エチル)アミン、2−(1,1−ジメチルエチル)−6−メチル−4−[3−[[2,4,8,10−トラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン−6−イル]オキシ]プロピル]フェノール、2−エチル−2−ブチルプロピレングリコールと2,4,6−トリ第三ブチルフェノールのホスファイト等が挙げられ、合成樹脂100質量部に対して、0.001〜10質量部、より好ましくは、0.01〜5質量部が用いられる。
【0033】
上記チオエーテル系酸化防止剤としては、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類及びペンタエリスリトールテトラ(β−ドデシルメルカプトプロピオネート)等のポリオールのβ−アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類が挙げられる。
【0034】
本発明に用いられる他の紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、他のトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤及びベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0035】
上記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ第三ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール等の2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類が挙げられる。
【0036】
上記他のトリアジン系紫外線吸収剤としては、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシ−5−メチルフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−(3−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−(3−トリデシルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−[3−(2−エチルヘキシルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルオキシ]フェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジビフェニル−s−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−[1−(i−オクチルオキシカルボニル)エチルオキシ]フェニル]−4,6−ジビフェニル−s−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−6−(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2,4−ビス(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−s−トリアジン等のトリアリールトリアジン類等が挙げられる。
【0037】
上記ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)等の2−ヒドロキシベンゾフェノン類が挙げられる。
【0038】
上記ベンゾエート系紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジ第三ブチルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ第三アミルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。
【0039】
これら他の紫外線吸収剤は、基材樹脂への溶解性に優れた構造が好ましく、また、加工時や使用時の熱で揮散しにくい高分子量の構造のものが好ましく、分子量500以上、より好ましくは分子量700以上であり、重合性基や反応性基を導入して高分子量化したり、樹脂に組み込んだものでもよい。これら他の紫外線吸収剤の使用量は、合成樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部である。
【0040】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−ブチル−2−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/ジブロモエタン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−モルホリノ−s−トリアジン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−第三オクチルアミノ−s−トリアジン重縮合物、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,6,11−トリス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノウンデカン、1,6,11−トリス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノウンデカン等のヒンダードアミン化合物が挙げられ、合成樹脂100質量部に対して、0.001〜10質量部、より好ましくは、0.01〜5質量部が用いられる。
【0041】
上記可塑剤としては、特に限定されないが、例えばリン酸エステル系可塑剤やポリエステル系可塑剤が挙げられ、これらは、単独で或いは2種以上混合して用いることができる。
【0042】
上記リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
【0043】
上記ポリエステル系可塑剤としては、脂肪族二塩基酸や芳香族二塩基酸とジオール化合物からなる鎖状ポリエステルやヒドロキシカルボン酸の鎖状ポリエステルが挙げられる。
【0044】
上記脂肪族二塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、スベリン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、イタコン酸、マレイン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸等。芳香族二塩基酸としてはフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ターフェニルジカルボン酸等が挙げられる。
【0045】
上記ジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチルプロパンジオール、1,3−ジメチルプロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、チオジエチレングリコール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
【0046】
上記ヒドロキシカルボン酸としては、4−ヒドロキシルメチルシクロヘキサンカルボン酸、ヒドロキシトリメチル酢酸、6−ヒドロキシカプロン酸、グリコール酸、乳酸等が挙げられる。
【0047】
他のポリエステル系可塑剤として、3価以上のポリオールとモノカルボン酸化合物のポリエステルが挙げられる。3価以上のポリオールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールやその縮合物であるジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等が挙げられる。また、これらポリオールにエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールでもよい。
【0048】
上記モノカルボン酸としては、安息香酸、p−メチル安息香酸、m−メチル安息香酸、ジメチル安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−メトキシ安息香酸、p−クロロ安息香酸、ナフチル酸、ビフェニルカルボン酸等の芳香族カルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式カルボン酸;酢酸、プロピオン酸、2−エチルヘキサン酸等の脂肪族酸が挙げられる。モノカルボン酸は単独でも混合でもよい。
【0049】
これら可塑剤の使用量は、樹脂性能、加工性等の点で、合成樹脂に対して0〜20質量%が好ましい。寸法安定性の観点から1〜15質量%が更に好ましく、特に好ましくは、2〜10質量%であり、加水分解の面でポリエステル系可塑剤が好ましい。
【0050】
上記帯電防止剤としては、例えば、脂肪酸第四級アンモニウムイオン塩、ポリアミン四級塩等のカチオン系帯電防止剤;高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールEO付加物、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、アニオン型のアルキルスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキシド付加物リン酸エステル塩等のアニオン系帯電防止剤;多価アルコール脂肪酸エステル、ポリグリコールリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル等のノニオン系帯電防止剤;アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性型アルキルベタイン、イミダゾリン型両性活性剤等の両性帯電防止剤が挙げられる。かかる帯電防止剤は単独で用いてもよく、また、2種類以上の帯電防止剤を組み合わせて用いてもよい。樹脂100質量部に対して、0.001〜10質量部、より好ましくは、0.01〜5質量部が用いられる。
【0051】
本発明に係る医療用樹脂レンズの形状、大きさ等は特に限定されず、用途としては、眼鏡、サングラス用レンズ、ゴーグル、コンタクトレンズ、眼内レンズ等が挙げられる。また、本発明に係る医療用樹脂レンズは、各用途の樹脂レンズにおいて通常採用される方法によって製造することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
PC(ポリカーボネート)樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、製品名E−2000)100質量部に上記化合物No.1を1質量部配合し、260℃で射出成型により厚さ1mmの試験板を成形した。得られた試験板の250〜600nmにおける透過率を測定した。透過率曲線データを図1に示す。
【0054】
(比較例1)
前記実施例1において、上記化合物No.1を配合しない以外は、同様の成形法により試験板を作製し、透過率の測定を行った。透過率曲線データを図1に示す。
【0055】
(実施例2)
PMMA(アクリル)樹脂(三菱レイヨン(株)製、製品名アクリペットVH000)100質量部に上記化合物No.1を1質量部配合し、220℃で射出成型により厚さ1mmの試験板を成形した。得られた試験板の200〜500nmにおける透過率を測定した。透過率曲線データを図2に示す。
【0056】
(比較例2)
前記実施例2において、上記化合物No.1を配合しない以外は、同様の成形法により試験板を作製し、透過率の測定を行った。透過率曲線データを図2に示す。
【0057】
(実施例3−1)
NBE(ノルボルネン)樹脂(JSR(株)製、製品名ARTON F5023)100質量部に上記化合物No.1を1質量部配合し、300℃で射出成型により厚さ1mmの試験板を成形した。得られた試験板の250〜600nmにおける透過率を測定した。透過率曲線データを図3に示す。
【0058】
(実施例3−2)
前記実施例3−1において、化合物No.1の紫外線吸収剤を3質量部に変えた以外は、同様の成形条件において試験板を作製し、同様の透過率測定を行った。透過率曲線データを図3に示す。
【0059】
(比較例3)
前記実施例3において、上記化合物No.1を配合しない以外は、同様の成形法により試験板を作製し、透過率の測定を行った。透過率曲線データを図3に示す。
【0060】
上記各実施例及び比較例の透過率測定の結果から、本発明に係る特定のトリアジン系化合物を配合した合成樹脂からなる試験片は500nm以上の光に対してほとんど吸収能は示さずに、400nm以下の光に対して極めて高い吸収能を有することが明らかである。従って、本発明に係る特定のトリアジン系化合物を配合した合成樹脂を含む医療用樹脂レンズは、400nm以下の有害な紫外線を完全にカットでき、かつ、500nm以上の光に対して吸収能は示さないことから実物の色調と差異のない色調で認識可能となり、室内での視野を確保できるため有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂となる合成樹脂100質量部に対して、下記一般式(1)、

(式中、Rは炭素原子数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数2〜8のアルケニル基、炭素原子数6〜18のアリール基、炭素原子数7〜18のアルキルアリール基又は炭素原子数7〜18のアリールアルキル基を表す。但し、これらのアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素原子数1〜12のアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよく、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、エステル基、アミド基又はイミノ基で中断されていてもよい。また、前記の置換及び中断は組み合わされてもよい。Rは炭素原子数1〜8のアルキル基又は炭素原子数2〜8のアルケニル基を表す。)で表されるトリアジン系化合物0.001〜20質量部を配合してなることを特徴とする医療用樹脂レンズ。
【請求項2】
前記トリアジン系化合物が下記一般式(2)、

(式中、Rは炭素原子数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。但し、これらのアルキル基はヒドロキシ基、ハロゲン原子又はアルコキシ基で置換されていてもよく、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、エステル基、アミド基又はイミノ基で中断されていてもよい。)で表される請求項1に記載の医療用樹脂レンズ。
【請求項3】
前記合成樹脂がポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シクロオレフィン系樹脂およびノルボルネン系樹脂からなる群から選ばれる樹脂である請求項1又は2に記載の医療用樹脂レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−24916(P2011−24916A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175925(P2009−175925)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】