説明

医療用レーザ光源システム

【課題】特殊な導光装置を必要とせずデンタルチェアーで2.9μm帯のスムーズな治療を行える信頼性の高い医療用レーザ光源システムを提供する。
【解決手段】医療用レーザ光源システムを、励起レーザ光源装置と、長尺ファイバ導光装置と、小型2.9μm帯レーザデバイスとの少なくとも3つの主要要素部品で構成し、且つ、長尺ファイバ導光装置を石英ファイバで、小型2.9μm帯レーザデバイスを二六族半導体に遷移金属イオンをドープしたレーザ媒質で構成し、励起レーザ光源装置を、1kW以上のピークパワーで100mJ以上の2.9μm帯のレーザ光を発振できる、波長域1.5〜2.2μmの範囲の励起レーザパルス光を発振する固体レーザ発振器で構成した。さらに、光切替スイッチを搭載することで1台の励起レーザ光源装置より複数のデンタルチェアー治療器に2.9μm帯レーザ治療光を提供できる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に口腔内の歯科治療器に使われるレーザ光源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
1980年代中頃から生体主成分である水の吸収ピーク波長2.9μm帯でパルス発振するエルビウムレーザの医療への応用の可能性が注目されるようになり、我国では、1988年のフラッシュランプ励起エルビウムYAGパルスレーザの開発報告{1988年秋季応物、中島貞洋(他1名、1番目)}を起点に、山本肇東京医科歯科大学元学長を中心としたHOYA株式会社及び株式会社モリタ製作所との産学共同によるフラッシュランプ励起エルビウムYAGパルスレーザ歯科治療器の開発研究が開始され、大阪歯科、昭和、日本歯科大学も臨床治験に参加し、1995年に厚生省から承認を受け製品化されている。
【0003】
該2.9μm帯でパルス発振するレーザによる歯科治療は、デンタルタービンによる歯牙硬組織の機械的な切削に比べ、歯牙硬組織に含まれる水の蒸散により切削するため振動も発熱も少なく、このことから無麻酔或いは最小限の麻酔での無痛治療を可能とした。さらに、硬組織だけでなく軟組織や歯石除去など歯科で必要な多くの治療に応用でき、しかも殺菌も同時に行えることが確認され、東京医科歯科大学のグループから世界で初めて報告された。
【0004】
前述のように2.9μm帯でパルス発振するフラッシュランプ励起エルビウムレーザ歯科治療器は、患者にも術者にも有用で優しい治療装置であることが判り、その後、世界中の大学や開業医で精力的な臨床応用開発が続けられ、本年1月には東京医科歯科大学の青木章らにより『歯周治療・インプラント治療におけるEr:YAGレーザ』{青木章(他25名、3番目、医学情報社}に成果がまとめられ出版されている。この2.9μm帯のパルスレーザ光を利用した新しい治療は、日本が世界をリードしている貴重な分野でもある。
【0005】
一方、2.9μm帯のエネルギー導光には、機械的強度が低く汚れや水気に極めて弱いフッ化物や中空導波路ファイバ、機械的強度が低く汚れに弱く伝送効率が低い酸化ゲルマニウムファイバなどの特殊ファイバ、或いは、多数のミラーを組んで空中導光させる多関節ミラー導波路などが必要となる。このため、特開平7−51285号公報及び特開2007−68718号公報には、屈曲自在に複数の剛性棒、或いは複数の剛性棒と軟性棹を連接させた支持棒を取付けることで、これら特殊ファイバを搭載した導光装置の機械的強度を補うとの機構が開示されている。また、特開平7−51287号公報には、防塵フィルターを通した乾燥空気で特殊ファイバを満たして汚れや湿気を防ぐようにした構造が開示されている。さらに、各社の特殊ファイバ導光装置には機械的な脆さを保証するためにファイバ周囲をステンレスなどの金属製フレキシブルチューブでカバーさせる保護構造が設けられている(例えば、米国バイオレーズ社のフラッシュランプ励起エルビウムパルスレーザ歯科治療器)。このため自由な屈曲感が得られず術者に治療の際に高いストレスを感じさせている。また、米国シネロン社は、2.9μm帯の特殊導光装置を不要とする目的で術者の手に持つデンタルハンドピース後部に小型フラッシュランプ励起エルビウムパルスレーザ発振器を組込んだ歯科治療器を製品化している。
【0006】
しかしながら、前述の特殊ファイバ導光装置や多関節ミラー導光装置を必要とする現状のフラッシュランプ励起エルビウムパルスレーザ歯科治療器では、特殊導光装置を長尺とできないため術者の近くに当該治療器を配置しなければならないが、デンタルチェアー周囲には照明器具、モニター、治療器具などの複数の機器が装備されているため配置位置が制限されてしまう問題が発生している。また、該特殊導光装置と他の機器のワイヤーやチューブが引っ掛り破損事故を発生し易いとの問題も発生している。さらに、フラッシュランプ励起エルビウムパルスレーザは発振効率が低いため治療器が大きいことも配置位置の問題を一層難しくしている。また、米国シネロン社のエルビウムパルスレーザ歯科治療器は特殊な導光装置を必要としないが、レーザ出力を得るため高圧(例えば700V程度)と高電流(例えば400A)の大電力を術者が手に持つデンタルハンドピースに電送する必要があり、やはり、安全性と電気ノイズの問題から長尺とできず前者と同様な問題が発生している。
【0007】
以上のように現状のフラッシュランプ励起エルビウムパルスレーザ歯科治療器は、歯科医院の限られたスペースにおいて、一つのデンタルチェアの限られた位置にしか配置できないことやメンテナンス管理が難しく高価で操作性の悪い特殊導光装置が必要などの問題があるために、患者にも術者にも有用で画期的な歯科治療法であるにも関わらず一般への普及を難しくしているとの状況がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−51285号公報
【特許文献2】特開2007−68718号公報
【特許文献3】特開平7−51287号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】中島貞洋他1名、「高出力3μmEr:YAGレーザと伝送系の開発」1988年秋季応用物理学会予稿4aR−9
【非特許文献2】青木章他25名、「歯周治療・インプラント治療におけるEr:YAGレーザ」医学情報社
【非特許文献3】米国シネロン社ホームページ www.synerondental.com
【非特許文献4】米国バイオレーズ社 www.biolase.com
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が目的とするところは、限られたスペースの歯科医院においても配置を気にすることない1台の初段励起レーザ光源装置より、院内に配置されている全てのデンタルチェアーに特殊な導光装置を必要としない快適な治療を実現できる信頼性の高い医療用2.9μm帯パルスレーザ光源システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を達成するため、第1の発明は、医療用レーザ光源システム10を、励起レーザ光源装置20と、長尺ファイバ導光装置30と、小型2.9μm帯レーザデバイス40との少なくとも3つの主要要素部品で構成し、且つ、長尺ファイバ導光装置30を柔軟な屈曲性を持ち耐環境性に優れ機械的強度が高く光通信にも広く使われている石英ファイバで、小型2.9μm帯レーザデバイス40を石英ファイバでの長尺伝送が可能である1.5〜2.2μmの波長域の励起により2.9μm帯のレーザ発振が得られる遷移金属イオン(Cr2+、Fe2+、Co2+など)をドープした二六族半導体(ZnSe、ZnS、CdSe、CdTeなど)からなるレーザ媒質410で、構成している。さらに、励起レーザ光源装置20を、該レーザ媒質410から治療効果を得るため必要とされる1kW以上のピークパワーでパルス当り100mJ以上の2.9μm帯のレーザ光を発振させるために充分な波長域1.5〜2.2μmの範囲の励起レーザパルス光212を発振できる固体レーザ発振器で構成している。
【0012】
第2の発明による医療用レーザ光源システム10は、第1の発明による医療用レーザ光源システム10を構成している励起レーザ光源装置20内の励起レーザ光源ユニット210の集光器213の前端に光切替スイッチ214を搭載し、当該光切替スイッチ214により、医院内の各デンタルチェアー治療器50に接続している複数の長尺ファイバ導光装置30への励起レーザパルス光212の導光を選択的に切替られるように構成されている。同構成により、医療用レーザ光源システム10を構成する比較的大きな装置である励起レーザ光源装置20を医院内の任意の場所に1台配置することで、ここから院内に設置されている複数のデンタルチェアー治療器50まで、乾燥空気の充填も特殊な支持棒も必要ない安価でシンプルな長尺ファイバ導光装置30を通し励起レーザパルス光212を導光させることができる。各デンタルチェアー治療器50に設置されている制御コンソール250を術者が操作することで、光切替スイッチ214により術者が選択したデンタルチェアー治療器50に接続されている長尺ファイバ導光装置30に励起レーザパルス光212が導光され、術者の持つデンタルハンドピース500に取付けられている小型2.9μm帯レーザデバイス40を励起することで治療に必要な2.9μm帯レーザ治療光501が提供される。
【発明の効果】
【0013】
前記の第1及至2の発明による医療用レーザ光源システム10により、医療用レーザ光源システム10を構成する比較的大きな装置部分である励起レーザ光源装置20を医院内の任意の場所に配置することができ、ここからデンタルチェアー治療器50に設置されているデンタルハンドピース500まで、励起レーザパルス光212を、乾燥空気の充填も特殊な支持棒も必要ない安価でシンプルな長尺ファイバ導光装置30を通して導光し、デンタルハンドピース500に取付けられている小型2.9μm帯レーザデバイス40を励起させ治療に必要な2.9μm帯のレーザ光を提供することができるようになり、また、術者がストレスなく快適な治療を行えるようになった。さらに、光切替スイッチ214により 1台の励起レーザ光源装置20により、複数のデンタルチェアー治療器50に2.9μm帯レーザ治療光501を提供することができ、術者がデンタルチェアー治療器50に設置されてた制御コンソール250を操作することで、任意のデンタルチェアー治療器50から2.9μm帯レーザ治療光501を出射させ治療を行えるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施例による医療用レーザ光源システム10の主要部品関係図である。
【図2】第1実施例による医療用レーザ光源システム10を設置したデンタルチェアー治療器50の全体斜視図である。
【図3】第2実施例による医療用レーザ光源システム10の主要部品関係図である。
【図4】第2実施例による医療用レーザ光源システム10を設置したデンタルチェアー治療器50の全体斜視図である。
【図5】励起光源のバリエーション例の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
図1は第1実施例による医療用レーザ光源システム10の主要部品関係図、図2は本発明の第1実施例による医療用レーザ光源システム10を設置したデンタルチェアー治療器50の全体斜視図である。以下では、これらの図面を参照にしながら第1実施例を説明する。
図1と図2とにおいて第1の発明による医療用レーザ光源システム10は、励起レーザ光源装置20と、長尺ファイバ導光装置30と、デンタルチェアー治療器50に取りつけられ術者が手に持ち患部の治療を行うため用いるデンタルハンドピース500に搭載されている小型2.9μm帯レーザデバイス40の3つの主要要素部品で構成されている。
【0016】
励起レーザ光源装置20には、励起レーザ光源ユニット210、冷却器ユニット220、電源ユニット230、制御ディスプレイユニット240などの要素ユニットが組込まれており、当該励起レーザ光源ユニット210には本実施例による小型2.9μm帯レーザデバイス40に使われているCr2+: ZnSeからなるレーザ媒質410の励起波長域である1.5〜2.2μmの範囲内において強パルス発振が可能な固体レーザ発振器が搭載されている。本実施例では、Cr2+: ZnSeのピーク励起波長である1.78μmで発振する分布帰還型(DFB)レーザをTmアクティブファイバーで増幅する方式により、発振パルス幅を50〜1000μ秒、発振エネルギーを20mJ〜2J、繰返し速度を10〜100Hzまで可変できるMOFA (Master Oscillator and Power Amplifier)
で構成したレーザ光発振機211(図5参照)が搭載されている。励起レーザ光源ユニット210の出射口には、励起レーザ光発振器211より出射された励起レーザパルス光212を、長尺ファイバ導光装置30の励起光入射口311に集光するための集光器213が取付けられている。長尺ファイバ導光装置30は、当該集光器213の出射口に脱着可能に接続されている。本実施例では、FCファイバコネクタで構成した長尺ファイバ導光装置30を脱着できるよう設定されているが、使用される長尺ファイバ導光装置30のコネクタタイプに合わせた設定が可能である。冷却器ユニット220は、励起レーザ光源ユニット210で発生する熱の冷却を行うが、本実施例では、励起レーザ光源ユニット210の最大平均出力20Wの設定に対し発振効率20%であることから100W程度の冷却能力を持つ冷却器ユニット220を搭載させている。電源ユニット230は、励起レーザ光源ユニット210と冷却器ユニット220と制御ディスプレイユニット240の駆動に必要な電力を供給している。制御ディスプレイユニット240は、予め測定された励起レーザ光源ユニット210の励起レーザパルス光212に対する同励起レーザパルス光212で励起され小型2.9μm帯レーザデバイス40から発振されデンタルハンドピース500先端から出射される2.9μm帯レーザ治療光501のパフォーマンスデータや制御プログラムが記録されているROMやRAMなどの記憶素子、これらのデータを基に電源ユニット230、励起レーザ光源ユニット210と冷却器ユニット220などを制御して術者が設定した2.9μm帯レーザ治療光501を術者の指示に従い安全に安定して出射させるためのCPUなどを搭載した制御ボード241と、現在のレーザ出力の設定値、デンタルハンドピース50の使用状態、医療用レーザ光源システム10を構成する各ユニットの動作状態などを表示し把握できるようにしているディスプレイパネル242とから構成されている。
ここで、本実施例ではMOFAで構成した励起レーザ光発振器211を搭載しているが、その他にも1.5〜2.2μmの範囲内において強パルス発振が可能な固体レーザ発振器である2.1μm帯で発振するフラッシュランプ励起Ho:YAGレーザ、2.0μm帯で発振するLD励励起Tm:YAGレーザ、1.7μm帯で発振するフラッシュランプ励起Er:YAGレーザなどの固体レーザを搭載することもできる。
【0017】
長尺ファイバ導光装置30には、本発明による医療用レーザ光源システム10を構成する小型2.9μm帯レーザデバイス40の遷移金属イオンがドープされた二六族半導体からなるレーザ媒質410の励起波長域1.5〜2.2μmの長尺導光が可能である低OH濃度OH(1ppm以下)の石英ファイバの使用が必要となる。本例では株式会社フジクラ製のコア径400μmのSBシリーズステップインデックスタイプの石英ファイバを使い1次被覆としてシリコーン樹脂、2次被覆としてポリアミド、さらに該周囲に抗張力体のアラミド繊維と外被にPVCを用いることで圧縮力等の外力に強く屈曲性に優れた構造を有し光通信でも一般的に使われている同社標準の石英ファイバコード312を使用している。ここで、同様の構成を持つ石英ファイバコード312は多くのファイバメーカより標準品として製品化されていてこれらで構成することもできる。また、本例ではステップインデックスタイプ石英ファイバを使用しているが低OH濃度であればグレーデッドインデックスタイプの石英ファイバの使用も可能である。
【0018】
一方、デンタルハンドピース500に搭載されている小型2.9μm帯レーザデバイス40からの2.9μm帯レーザ治療光501の出射の条件設定を行うためのスイッチ類や設定状態を表示するためのディスプレイを持つ制御コンソール250と術者が2.9μm帯レーザ治療光501を出力させるためのフットスイッチ251は、デンタルチェアー治療器50に設置(フットスイッチ251の制御電線は制御コンソール250に接続)されているが、本実施例による医療用レーザ光源システム10では、励起レーザ光源装置20に組込まれている制御ディスプレイユニット240との制御信号を有線で通信するよう構成されているため、該通信用電気コード313が、石英ファイバコード312に並行して長尺ファイバ導光装置30内に組み入れられている。当該通信用電気コード313は、励起レーザ光源装置20の電気端子243と制御コンソール250の電気端子 (図示せず)とに接続されている。
【0019】
小型2.9μm帯レーザデバイス40は、デンタルチェアー治療器50に取りつけられ術者が手に持ち患部の治療を行うため用いるデンタルハンドピース500の中に搭載されている。本特許明細書の目的でないため詳述しないが、治療ごとに滅菌処理が必要とされる患部に触れるデンタルハンドピース500の外筒部510とデンタルハンドピース500の先端部からの2.9μm帯レーザ治療光501を患部に照射させるために取り付けられる各種の照射チップ520(例えば、非特許文献3及び非特許文献4の製品情報を参考)をワンタッチで脱着できる構造とすることで、当該小型2.9μm帯レーザデバイス40の搭載部の滅菌を不要としている。
【0020】
本実施例の2.9μm帯レーザデバイス40には、3mmD x 3mmH x 20mmLのサイズのZnSe二六族半導体に7x1018cm−3 のCr2+イオン濃度をドープしたレーザ媒質410が使われている。当該レーザ媒質410の後端面には、本実施例の励起レーザパルス光212の励起波長である1.78μmを高透過(本例では80%以上)し且つ2.9μm帯レーザ治療光501を高反射(本例では99%以上)するHRミラー420が、前端面には1.78μmと2.9μm帯レーザ治療光501のダブル反射防止膜411(それぞれ、80%以上及び99%以上を透過)が形成されている。2.9μm帯レーザ治療光501を取り出すOCミラー430の後端面には、本実施例の励起レーザパルス光212の励起波長である1.78μmを高反射(本例では80%以上)し且つ2.9μm帯レーザ治療光501の一部を透過(本例では40%)するOC膜431を、前端面には2.9μm帯レーザ治療光501の反射防止膜432(99%以上透過)が形成されており、当該OCミラー430とHRミラー420とで共振器が構成されている。小型2.9μm帯レーザデバイス40の後端に脱着可能に装着されている長尺ファイバ導光装置30の励起光出射口314から出射された励起レーザパルス光212は、励起集光器440によりコリメートされてHRミラー420の後方からレーザ媒質410に集光され、Cr2+イオンが励起されOCミラー430より、1kW以上のピークパワーでパルス当り100mJ以上の2.9μm帯レーザ治療光501が出射される。当該2.9μm帯レーザ治療光501は、リレー光学素子450により、ハンドピース先端に装着されている照射チップ520に導光され、該照射チップ520の先端から出射されて患部に照射されることで歯牙組織の治療を行えるようになる。
【0021】
ここで、本実施例による小型2.9μm帯レーザデバイス40には、レーザ媒質410としてCr2+: ZnSeを使用しているが、石英ファイバによる長尺伝送が可能な2.2μm以下で、さらに、2.9μm帯に近いことから高い量子効率が得られる励起波長域1.5〜2.2μmでの励起が可能で2.9μm帯レーザ治療光501を発振することができる遷移金属イオン(Cr2+、Fe2+、Co2+など)をドープした二六族半導体(ZnSe、ZnS、CdSe、CdTeなど)もレーザ媒質410として使うことができる。
【実施例2】
【0022】
図3は第2実施例による医療用レーザ光源システム10の主要部品関係図、図4は本発明の第2実施例による医療用レーザ光源システム10を設置したデンタルチェアー治療器50の全体斜視図である。以下では、これらの図面を参照にしながら第2実施例を説明する。
図3に示すように、第2実施例による医療用レーザ光源システム10も第1実施例による医療用レーザ光源システム10と同様に励起レーザ光源装置20と、長尺ファイバ導光装置30と、デンタルチェアー治療器50に取りつけられ術者が手に持ち患部の治療を行うため用いるデンタルハンドピース500に搭載されている小型2.9μm帯レーザデバイス40の3つの主要要素部品で構成されているが、以下の構成が異なっている。
【0023】
第2実施例による医療用レーザ光源システム10では、励起レーザ光発振器211より出射された励起レーザパルス光212を、長尺ファイバ導光装置30の励起光入射口311に集光するための集光器213の後端に光切替スイッチ214が搭載されており、ここに複数の長尺ファイバ導光装置30を取付けることで、医院内に設置されている複数のデンタルチェアー治療器50で2.9μm帯レーザ治療光501を利用した治療が行えるよう構成されている。さらに、デンタルチェアー治療器50に設置されている制御コンソール250と、励起レーザ光源装置20に組込まれている制御ディスプレイユニット240と間の制御信号を無線で通信できるようにWiFi機能が搭載されてしる。該機能により長尺ファイバ導光装置30への信用電気コード313を不要としている。また、長尺ファイバ導光装置30を長尺ファイバL導光装置320と長尺ファイバS導光装置330とに分離できるように構成している。長尺ファイバL導光装置320は、励起レーザ光源装置20の励起光入射口311とデンタルチェアー治療器50の励起光L出射口321との間に設置され、長尺ファイバS導光装置330は、該励起光L出射口321に励起光S入射口331により接続されデンタルハンドピース500との間に設置される。以上の構成としたことで、小型2.9μm帯レーザデバイスを搭載した新しいデンタルハンドピース500の交換を容易に行うことができる。
【0024】
一方、本実施例には、Cr2+: ZnSeの吸収が比較的高く、水の吸収も比較的高い1.92μmで発振するFBGレーザをTmアクティブファイバーで増幅する方式により、発振パルス幅を50〜1000μ秒、発振エネルギーを20mJ〜2J、繰返し速度を10〜100Hzまで可変できるMOFA (Master Oscillator and Power Amprifier) で構成した励起レーザ光発振器211(図5参照)が搭載されている。また、本実施例の小型2.9μm帯レーザデバイス40には、7mmD x 7mmH x 1mmLのサイズのZnSeの二六族半導体に1x1020cm−3 のCr2+イオン濃度をドープしたレーザ媒質410が使われている。当該レーザ媒質410の後端面には本実施例の励起レーザパルス光212の励起波長である1.92μmを高透過(本例では90%以上)し且つ2.9μm帯レーザ治療光501を高反射(本例では99.8%以上)するHRミラー420が、前端面には1.92μmを透過して且つ2.9μm帯レーザ治療光501の一部を透過(本例では20%)するOCミラー430が形成されており、当該OCミラー430とHRミラー420とで共振器が構成されている。小型2.9μm帯レーザデバイス40の後端に脱着可能に装着されている長尺ファイバ導光装置30の励起光出射口314から出射された励起レーザパルス光212は、励起集光器440により広いビーム径にコリメートされてHRミラー420の後方からレーザ媒質410に集光され、Cr2+イオンが励起されOCミラー430より1kW以上のピークパワーでパルス当り100mJ以上の2.9μm帯レーザ治療光501が出射される。同時に、吸収されなかった1.92μmの励起レーザパルス光212も出射される。該2.9μm帯レーザ治療光501と1.92μmの励起レーザパルス光212の混合されたレーザ光は、リレー光学素子450により、ハンドピース先端に装着されている照射チップ520に導光され、該照射チップ520の先端から出射されて患部に照射されることで歯牙組織の治療を行えるようになる。本構成により、1.92μmの励起レーザパルス光212が適度に生体組織に吸収されることによる止血効果と、2.9μm帯レーザ治療光501が生体組織に急激に吸収されることによる高い蒸散切開効果の相乗効果による優れた切開性能を得ることができる。
【0025】
励起レーザ光発振器のバリエーション:
本発明による医療用レーザ光源システム10を構成する励起レーザ光発振器211には、1.5〜2.2μmの範囲内において強パルス発振が可能な固体レーザ発振器を搭載でき、固体レーザ発振器として、2.1μm帯で発振するフラッシュランプ励起Ho:YAGレーザ、2.0μm帯で発振するLD励励起Tm:YAGレーザ、1.7μm帯で発振するフラッシュランプ励起Er:YAGレーザなどの固体レーザを搭載することができるが、実施例1及び実施例2で搭載している1.5〜2.2μmの範囲内で発振する種光260をアクティブファイバ290で増幅して励起レーザパルス光212を発振させる方式による固体レーザ発振器は発振効率が高いため有用である。図5の(a)は、実施例1に搭載している当該方式による励起レーザ光発振器211の概要構成図である。本例では図5の(a)に示すように、種光1:260として1.78μmで発振する分布帰還型レーザを使い該種光1:260からの1.78μmのレーザ発振光とTmをドープしたアクティブファイバー290の励起用LD:280794nmのレーザ励起光を混合器1:270で混合しTmをドープしたアクティブファイバー290に通すことで該アクティブファイバー290の先端よりエネルギーが増幅された1.78μmの励起レーザパルス光212が出射される。当該種光1の発振パルス幅と繰返し速度、励起用LDの発振強度を変えて励起レーザパルス光212を変調させることで、小型2.9μm帯レーザデバイス40からの2.9μm帯レーザ治療光501を発振パルス幅:50〜1000μ秒、発振エネルギー:20mJ〜2J、繰返し速度:10〜100Hzの範囲で可変させ取出すことができる。
【0026】
図5の(b)は、前述の方式による励起レーザ光発振器211のバリエーション例を示す概要構成図である。本例では、1.78μmで発振する種光1:260と1.92μmで発振する種光2:261のそれぞれの導光ファイバーを先方で混合器1:270に接続して、さらに該先で、Tmをドープしたアクティブファイバー290の励起用LD:280導光ファイバーと混合器2:271により混合するように構成している。
【0027】
図5(b)の構成による励起レーザ光発振器211に対し、例えば、実施例1及び実施例2に搭載されている小型2.9μm帯レーザデバイス40の共振器を、1.78μmと1.92μmを高透過(本例では85%以上)し且つ2.9μm帯レーザ治療光501を高反射(本例では99.5%以上)するHRミラー420と、1.78μmを高反射(本例では90%以上)、1.92μmを透過(本例では80%以上)して且つ2.9μm帯レーザ治療光501の一部を透過(本例では75%)するOCミラー430と、で構成することにより、1.92μmの励起レーザパルス光212が適度に生体組織に吸収されることによる止血効果と、1.78μmで高効率に発振される2.9μm帯レーザ治療光501による高い切開効果との相乗効果による優れた切開性能を得ることができる。
【0028】
ここで、図5(b)では1.78μmと1.92μmの2波長の励起レーザパルス光212を発振する構成としているが、混合器を組合せることで1.5〜2.2μmの範囲内のさらに多波長を発振させることができる構成とすることも可能である。
【0029】
さらに、図5(c)の構成による励起レーザ光発振器211は、図5(a)の構成の励起レーザ光発振器211に対し、アクティブファイバ290の出射口に混合器3:272を配置し、例えば、赤色の可視光の混合LD281を参照用の追加混合光502として混合させている。同実施例では、小型2.9μm帯レーザデバイス40のHRミラー420及びOCミラー430での当該LD281の波長の光を高透過(本例では50%以上)としている。
【0030】
ここで、図5(c)では、混合LD281として赤色の可視光を混合器3:272により混合しているが、該赤色の可視光に限定されるものでなく、例えば、青の可視光の混合LD281を混合することで参照光としてだけでなくレジンなどの重合にも使える構成とすることが可能である。さらに、該混合器3:272に、切開用歯科治療機器に搭載されている高出力の980nm或いは800nm波長帯の混合LD281を追加混合光502として混合させ加えることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上の説明から明らかなように、本発明による医療用レーザ光源システム10を使うことにより、限られたスペースの歯科医院でも、比較的大きな装置部分である励起レーザ光源装置20を医院内の任意の場所に配置することができ、ここから励起レーザパルス光212を、デンタルチェアー治療器50に設置されているデンタルハンドピース500まで、乾燥空気の充填も特殊な支持棒も必要ない安価でシンプルな長尺ファイバ導光装置30を通して導光し、デンタルハンドピース500に取付けられている小型2.9μm帯レーザデバイス40を励起させ治療に必要な2.9μm帯のレーザ光を提供することができるので、配置を気にする必要がなくなり、また、ストレスなく快適な治療を行えるようになった。さらに、光切替スイッチ214により 1台の励起レーザ光源装置20より、複数のデンタルチェアー治療器50に2.9μm帯レーザ治療光501を提供することができ、術者が治療を行うデンタルチェアー治療器50に設置されている制御コンソール250を操作することで、選択したデンタルチェアー治療器50から必要な2.9μm帯レーザ治療光501を出射させ治療を行うことができるようになる。
【符号の説明】
【0032】
10 医療用レーザ光源システム
20 励起レーザ光源装置
210 励起レーザ光源ユニット
211 励起レーザ光発振器
212 励起レーザパルス光
213 集光器
214 光切替スイッチ
220 冷却器ユニット
230 電源ユニット
240 制御ディスプレイユニット
241 制御ボード
242 ディスプレイパネル
243 電気端子
250 制御コンソール
251 フットスイッチ
260 種光1
261 種光2
270 混合器1
271 混合器2
272 混合器3
280 励起用LD
281 混合LD
290 アクティプファイバ
30 長尺ファイバ導光装置
311 励起光入射口
312 石英ファイバコード
313 通信用電気コード
314 励起光出射口
320 長尺ファイバL導光装置
321 励起光L出射口
330 長尺ファイバS導光装置
331 励起光S入射口
40 小型2.9μm帯レーザデバイス
410 レーザ媒質
411 ダブル反射防止膜
420 HRミラー
430 OCミラー
431 OC膜
432 反射防止膜
440 励起集光器
450 リレー光学素子
50 デンタルチェアー治療器
500 デンタルハンドピース
501 2.9μm帯レーザ治療光
502 追加混合光
510 外筒部
520 照射チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起レーザ光源装置と、該励起レーザ光源装置からのレーザ光を導光するための長尺ファイバ導光装置と、該長尺ファイバ導光装置より出射される前記該励起レーザ光源装置からのレーザ光を励起光源とする小型帯レーザデバイスとの少なくても3つの主要要素部品から構成され、且つ、当該小型帯レーザデバイスのレーザ発振波長が水の吸収ピークの2.9μm帯であることを特徴とする医療用レーザ光源システム。
【請求項2】
前記水の吸収ピークである2.9μm帯の波長域が2.7〜3.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の医療用レーザ光源システム。
【請求項3】
前記励起レーザ光源装置が、1.5〜2.2μmの範囲内において、発振パルス幅50〜1000μ秒、発振エネルギー20mJ〜2J、繰返し速度10〜100Hzの範囲でパルス発振する固体レーザ発振器で構成されていることを特徴とする請求項1及2に記載の医療用レーザ光源システム。
【請求項4】
前記励起レーザ光源装置が、1.5〜2.2μmの範囲内において、少なくても2波長でパルス発振する固体レーザ発振器で構成されていることを特徴とする請求項1及至3に記載の医療用レーザ光源システム。
【請求項5】
前記長尺ファイバ導光装置が、OH濃度1ppm以下の石英ファイバで構成されていることを特徴とする請求項1及至4に記載の医療用レーザ光源システム。
【請求項6】
前記励起レーザ光源装置と前記小型帯レーザデバイスとを、1本の前記長尺ファイバ導光装置で脱着可能に接続していることを特徴とする請求項1及至5に記載の医療用レーザ光源システム。
【請求項7】
前記長尺ファイバ導光装置の少なくても1つの中間点で脱着可能に分離接続できることを特徴とする請求項1及至5に記載の医療用レーザ光源システム。
【請求項8】
前記励起レーザ光源装置の前記長尺ファイバ導光装置との接続位置に光切替スイッチを取付けることで複数の当該長尺ファイバ導光装置を接続できるように構成されていることを特徴とする請求項1及至7に記載の医療用レーザ光源システム。
【請求項9】
小型帯レーザデバイスを、遷移金属イオン(Cr2+、Fe2+、Co2+)をドープした二六族半導体(ZnSe、ZnS、CdSe、CdTeなど)などのレーザ媒質で構成していることを特徴とする請求項1及至8に記載の医療用レーザ光源システム。
【請求項10】
前記レーザ媒質を、5x1018cm−3 〜1x1020cm−3のCr2+イオン濃度をドープしたZnSeで構成していることを特徴とする請求項1及至9に記載の医療用レーザ光源システム。
【請求項11】
前記レーザ媒質を、5x1018cm−3 〜1x1020cm−3のCr2+イオン濃度をドープしたCdSeで構成していることを特徴とする請求項1及至9に記載の医療用レーザ光源システム。
【請求項12】
励起レーザ光源装置と、該励起レーザ光源装置からのレーザ光を導光するための長尺ファイバ導光装置と、該長尺ファイバ導光装置より出射される前記該励起レーザ光源装置からのレーザ光を励起光源とする小型帯レーザデバイスとの少なくても3つの主要要素部品から構成され、且つ、当該小型帯レーザデバイスのレーザ発振波長が水の吸収ピークの2.9μm帯であることを特徴し、さらに、当該励起レーザ光源装置を構成する励起レーザ発振器の出力端に混合器3:272を配置し追加混合光を混合するよう構成していることを特徴とする請求項2及至11に記載の医療用レーザ光源システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−89927(P2013−89927A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232301(P2011−232301)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(708005622)
【Fターム(参考)】