説明

医療用処置具、その製造方法、並びに医療用内視鏡と医療内視鏡用処置具との組立体

【課題】金属素線を撚合構成した操作用ロープから成る医療用処置具の高性能化、多機能化、及び細径化に伴い、操作用ロープへ加わる操作力は増大傾向にある。この為、高強度特性の操作用ロープから成る医療用処置具を提供する。
【解決手段】操作用ロープは、金属素線を撚合構成して成り、金属素線はオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、強加工の伸線加工と引張破断強度が急傾斜増大する温度域での低温加熱処理を施して、高強度の引張破断強度特性、高強度の引張破断力を有して、高度の操作性を有する操作用ワイヤロープから成る医療用処置具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属素線に一定の機械的加工と低温加熱処理を設けた後に撚合構成して操作用ロープとし、引張破断強度等の機械的強度特性を向上させ、操作性を向上させたことを特徴とする医療用処置具等に関する。
【背景技術】
【0002】
体内へ挿入する医療用処置具の先端部、又は手元操作部は操作用ロープを介して手元操作を先端部へ伝達させる為、連結部材と接合した操作用ロープの機械的強度特性を考慮して、病変部治療に際して人体への安全確保を満たさなければならず、この為種々の提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、生体組織クリップ装置の操作ワイヤとしてステンレス製の撚り線ワイヤを用い、撚り線とすることにより可とう性の効果が記載されている。しかし、ステンレス製のいずれの鋼種を用いるのか、又操作用ロープを構成する金属素線、及び前記金属素線を撚合構成した後の操作用ロープの熱処理温度と引張破断強度特性との関係については何ら明示されていない。
【0004】
特許文献2には、医療用処置具の操作用ロープとして、下撚りの下層と上撚りの外層とが並行撚り撚合形態で、かつ外層が太細線の交互配列として、特に回転操作性を向上させる記載がある。しかし、前記同様に操作用ロープを構成する金属素線、並びに前記金属素線を撚合構成した後の操作用ロープの熱処理温度と引張破断強度特性については何ら明示されていない。
【0005】
特許文献3には、内視鏡として湾曲操作ワイヤと挿入先端部とを真空環境下、又は不活性ガス環境下における「ろう付け固着」する接合技術が開示され、錆発生による湾曲操作ワイヤの断線防止を目的としている。
しかし、一般的に、例えばステンレス鋼のろう付けには融点が895℃から1030℃の金ろう(JISZ3266)等が用いられ、かかる場合に湾曲操作ワイヤを撚合構成する金属素線は溶けて溶接され、又かかる特許文献にはろう材の開示はなく、そして、ろう材の溶融温度と湾曲操作ワイヤとの機械的強度特性との相関性については何ら開示はなく、さらに上記いずれの特許文献も「ろう付けを単なる固着手段」として用いる考え方である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−301082号公報
【特許文献2】特許第4084245号公報
【特許文献3】特開2001−149307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点を解決する為になされたものであり、一般的に市販されているオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて強加工の伸線加工した金属素線の熱影響による引張破断強度特性に着目して、金属素線製造における各工程毎の引張破断強度特性と低温加熱処理との相関性において、金属素線の引張破断強度特性向上効果を有する工程を累積することにより、高度に引張破断強度を高めた金属素線を用いて撚合構成したロープから成る医療用処置具、及びその製造方法を提供する。
そして補足すれば、強加工の伸線加工した金属素線への熱影響による引張破断強度特性向上効果を、操作用ロープと連結部材とを接合する接合部材の溶融熱を利用して前記接合部材を単に固着手段として用いるのみではなく、操作用ロープの引張破断力を向上させながら、かつ接合強度を向上させる新たな接合の技術思想を併せて開示することにより、術者が安全に操作できる医療用処置具を提供することにある。尚本発明の熱処理において、引張破断強度の低下、及び硬度を低下させて鋼線を軟化させる焼きなまし、又は低温焼きなまし、並びに変態点以上(例Ac3 約730℃以上)で加熱する焼きならしとは異なり、引張破断強度が増大して機械的性質を向上させる熱処理、と位置づけて「低温加熱処理」と呼称し区別する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、可とう性管体の先端側に先端処置部と、手元側に手元操作部を備え、前記可とう性管体に貫挿した操作用ロープを前記先端処置部と前記手元操作部とに連結し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具において、前記操作用ロープは、素線直径が0.008mmから0.200mmの金属素線を複数本用いて撚合構成して成り、前記金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線と伸線後に180℃から495℃の低温加熱処理を設けて、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の低温加熱処理を設けて、前記伸線と前記低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線を行い、前記最終伸線までの総減面率を95%から99.5%以下とし、前記最終伸線までの前記低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計が10%以上とし、かつ、Y:引張破断強度(kgf/mm2 )、X:総減面率(%)とした場合に、
Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた操作用ロープから成ることを特徴とする医療用処置具である。
この構成により、伸線加工した金属素線の引張破断強度が急傾斜増大する温度域での低温加熱処理を施し、強加工の伸線加工と低温加熱処理を施し、又はこれを累積することにより、高強度の引張破断強度を有する金属素線を得て撚合構成し、高強度の引張破断力を有する操作用ロープを用いて、術者が安全に操作できる医療用処置具の提供ができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の医療用処置具において、前記操作用ロープの金属素線の伸線と低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上の繰り返しが、一次伸線の減面率を80%から94%とし、その後180℃から495℃の一次低温加熱処理を設けて、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、その後180℃から525℃の一次低温加熱処理を設けて、前記一次低温加熱処理による引張破断強度の増加率を6%以上とし、二次伸線の減面率を40%から79%とし、その後180℃から495℃の二次低温加熱処理を設けて、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、その後180℃から525℃の二次低温加熱処理を設けて、前記二次低温加熱処理による引張破断強度の増加率を4%以上とすることを特徴とする前記金属素線を用いた操作用ロープから成る医療用処置具である。
この構成により、引張破断強度向上効果に寄与する加工誘起マルテンサイトの生成を増大させることができ、減面率の高い伸線加工と引張破断強度が急傾斜増大する温度域での低温加熱処理を累積することにより、高強度の引張破断力を有する操作用ロープを得ることができる。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1〜2のいずれか一つに記載の医療用処置具において、前記操作用ロープの金属素線の低温加熱処理の温度が、300℃から495℃とし、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃とし、前記最終伸線までの前記低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計が15%以上とし、かつ、Y:引張破断強度(kgf/mm2 )、X:総減面率(%)とした場合に、Y≧2.268X+70の関係式を満たし、前記金属素線を用いた操作用ロープから成ることを特徴とする医療用処置具である。
この構成により、伸線加工した金属素線の引張破断強度が急傾斜し、より増大する温度域での低温加熱処理を施し、強加工の伸線加工と低温加熱処理を累積することにより、高強度の引張破断強度を有する金属素線を得て撚合構成し、高強度の引張破断力を有する操作用ロープを得ることができる。
【0011】
請求項4記載の発明は、前記金属素線を複数本用いて撚合構成した操作用ロープにおいて、撚合構成した後に短時間低温加熱処理を設けて、前記短時間低温加熱処理前の引張破断力よりも増大させたことを特徴とする前記金属素線を用いた操作用ロープから成る請求項1〜3のいずれか一つに記載の医療用処置具である。
この構成により、高強度の引張破断強度特性を有する金属素線を複数本用いて撚合構成した後に、引張破断強度が急傾斜し、より増大する温度域での短時間低温加熱処理を加えることにより、より高強度の引張破断力と操作性を有する操作用ロープを得ることができる。
【0012】
請求項5記載の発明は、前記操作用ロープは、前記金属素線を芯材と側材に用いて、前記芯材の外周に側材を6本から9本を一方向螺旋状に巻回成形する撚合構成のスパイラルロープから成り、前記芯材の素線直径が前記側材の素線直径の1.07倍から2.12倍とし、前記金属素線を用いた操作用ロープから成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具である。
この構成により、引張破断力を向上させた操作用ロープを用いて、特に押し、及び回転操作による先端部への操作力伝達性能をより向上させた医療用処置具の提供ができる。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記先端処置部に湾曲駒を複数個連結し、先端側の前記湾曲駒と前記操作用ロープの先端部とを連結した湾曲部から成り、前記手元操作部を操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記湾曲部を湾曲変形させたことを特徴とする医療用処置具である医療用内視鏡である。
この構成により、操作用ロープの引張破断力は向上し、操作力が増大しても対応することができ、又引張破断力の高強度化に伴ってロープの伸びが減少し、その結果先端処置部の湾曲変形操作の応答性を向上させ、さらに引張破断力の高強度化に伴って、各金属素線の硬度が上昇し、その結果繰り返し湾曲変形操作時の湾曲駒との接触に際して、耐摩耗特性を向上させることができる。そして操作用ロープの機械的強度不足に起因する操作不能状態での術者の手技中断を解消し、高度の操作性を有する医療用内視鏡の提供ができる。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部の処置用ループを拡縮させ、又は拡縮させた後、前記操作用ロープ、及び前記先端処置部に高周波電流を通電させて患部を切除することを特徴とする医療内視鏡用処置具である医療内視鏡用スネア、又は医療内視鏡用高周波スネアで、又請求項8記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部の生検鉗子の鉗子カップを開閉させて生体組織を採取し、又は前記鉗子カップを開閉させた後、前記操作用ロープ、及び前記鉗子カップに高周波電流を通電させて患部を切除することを特徴とする医療内視鏡用処置具である医療内視鏡用鉗子、又は医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子である。
この構成により、操作用ロープの引張破断強度不足に起因する操作不能状態での術者の手技の中断を防ぎ、先端処置部のループの拡縮、又は生検鉗子カップの開閉作用の円滑化を図り、高度の操作性を維持しながら、患部の切除、又は生体組織の採取、及び止血等の迅速な手技対応ができる医療内視鏡用スネア、医療内視鏡用高周波スネア、並びに、医療内視鏡用鉗子、医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子の医療内視鏡用処置具の提供ができる。
【0015】
請求項9記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部のクリップを離脱させて体内留置することを特徴とする医療内視鏡用処置具である医療内視鏡用クリップ装置である。
この構成により、先端処置部のクリップを複数設けて操作用ロープの引張力が増大しても引張破断強度不足に起因する操作不能を防ぎ、クリップの離脱操作を円滑にさせ、迅速な手技対応ができるクリップ装置の医療内視鏡用処置具の提供ができる。
【0016】
請求項10記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部のナイフ部を所望の位置へ案内しながら前記操作用ロープ、及び前記ナイフ部へ高周波電流を通電させて患部生体組織を焼灼切開することを特徴とする医療内視鏡用処置具である医療内視鏡用高周波ナイフである。
この構成により、操作用ロープの引張破断力不足に起因する操作不能状態での術者の手技中断を防ぎ、先端処置部のナイフ部への円滑な操作性を向上させながら、患部の切除、及び止血等の迅速な手技対応ができる高周波ナイフの医療内視鏡用処置具の提供ができる。
【0017】
請求項11記載の発明は、可とう性管体の先端側に先端処置部と、手元側に手元操作部を備え、前記可とう性管体に貫挿した操作用ロープを前記先端処置部と前記手元操作部とを連結し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具の製造方法において、
前記操作用ロープに用いる金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と、伸線工程後に180℃から495℃で10分から180分の低温加熱処理工程を設けて、
又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の低温加熱処理工程を設けて、
前記伸線工程と前記低温加熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上の各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を95%から99.5%以下とし、
前記最終伸線工程までの前記低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計が10%以上とし、かつ、Y:引張破断強度(kgf/mm2 )、X:総減面率(%)とした場合に、
Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記操作用ロープは、素線直径が0.008mmから0.200mmの前記金属素線を複数本用いて撚合構成する工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法である。
この構成により、伸線加工した金属素線の引張破断強度が急傾斜増大する温度域での低温加熱処理工程を設け、強加工の伸線加工工程と低温加熱処理工程を累積することにより、高強度の引張破断強度を有する金属素線を得て撚合構成して高強度の引張破断力を有し、操作性を向上させた操作用ロープから成る医療用処置具の製造ができる。
【0018】
請求項12記載の発明は、請求項11記載の医療用処置具の製造方法において、前記伸線工程と前記低温加熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上の各工程が、減面率が80%から94%の一次伸線工程と、
その後180℃から495℃で10分から180分の一次低温加熱処理工程を設けて、 又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、その後180℃から525℃の一次低温加熱処理工程を設けて、前記一次低温加熱処理による引張破断強度の増加率を6%以上とし、
減面率が40%から79%の二次伸線工程と、
その後180℃から495℃で10分から180分の二次低温加熱処理工程を設けて、 又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、その後180℃から525℃で10分から180分の二次低温加熱処理工程を設けて、前記二次低温加熱処理による引張破断強度の増加率を4%以上とする工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法である。
この構成により、減面率の高い伸線加工工程と金属素線の引張破断強度が急傾斜増大する温度域での低温加熱処理工程を累積することにより、引張破断力向上効果に寄与する加工誘起マルテンサイトの生成を増大させることができ、高強度の引張破断力を有する操作用ロープから成る医療用処置具の製造ができる。
【0019】
請求項13記載の発明は、請求項11〜12のいずれか一つに記載の医療用処置具の製造方法において、
前記操作用ロープに用いる前記金属素線の一次伸線工程から最終伸線工程前の各伸線工程で、減面率が4%から20%の複数のダイスを用いて連続伸線する工程と、
前記最終伸線工程において、減面率が4%から20%の複数のダイスを用いて連続伸線し、かつ、最終ダイスの減面率は4%から13%で前記最終伸線工程内で最も減面率を小とするダイス配列の連続伸線する工程とし、かつ、前記伸線工程が湿式伸線工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法である。
この構成により、操作用ロープの用いる金属素線の素線直径が0.200mm以下の細線、0.100mm以下の極細線であっても高強度の引張破断強度を有する金属素線を断線させることなく連続して伸線加工ができ、生産性を高めて安定した品質をもつ金属素線を撚合構成した操作用ロープから成る医療用処置具を製造することができる。
【0020】
請求項14記載の発明は、前記手元操作部に処置具孔を有する請求項6記載の医療用処置具である医療用内視鏡と、請求項7〜10のいずれか一つに記載の医療内視鏡用処置具を、前記処置具孔より出入りさせて病変部治療を行うことを特徴とする医療用内視鏡と医療内視鏡用処置具との組立体である。
この構成により、操作用ロープの引張破断強度不足に起因する医療用内視鏡、及び医療内視鏡用処置具の操作不能状態での術者の手技の中断を防ぎ、高度の操作性を維持しながら円滑、かつ迅速な手技対応ができる医療用内視鏡と医療内視鏡用処置具との組立体の提供ができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の医療用処置具(医療内視鏡)の全体を示す斜視図。
【図2】本発明の医療用処置具(医療内視鏡)の挿入部先端側を側方からみた断面図。
【図3】本発明の医療用処置具(医療内視鏡)の先端の湾曲駒、及び操作用ロープの組付図。
【図4】他の実施例(管体ロープ受けの連結部材)の医療用処置具(医療用内視鏡)の先端の湾曲駒、及び操作用ロープの組付図。
【図5】本発明の医療用処置具に用いる操作用ロープの構成図。
【図6】総減面率と引張破断強度特性図。
【図7】操作用ロープに用いる金属素線の温度と引張破断強度特性図。
【図8】医療内視鏡用スネア、及び医療内視鏡用高周波スネアの構成図。
【図9】医療内視鏡用鉗子、及び医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子構成図。
【図10】医療内視鏡用クリップ装置の構成図。
【図11】医療内視鏡用高周波ナイフの構成図。
【図12】金属素線の引張破断強度と減面率との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施形態を図に示すとともに説明する。
【実施例】
【0023】
図1は本発明の実施例1の医療用処置具である医療用内視鏡1の全体の斜視図を示し、医療用内視鏡1は、手元操作部2と、この手元操作部2の先端に接続されて体内へ挿入される細長の挿入部4と、並びに前記操作部2の手元部に医療用内視鏡1の医療内視鏡用処置具11の出入りを可能にした処置具孔10と、及び光源装置(図示せず)に着脱自在に接続されるコネクタ9を備えたユニバーサルコード8から構成されている。又、前記手元操作部2には、先端部を自在に湾曲させる湾曲操作ノブ3、及びビデオプロセッサー(図示せず)をコントロールするリモートスイッチ12が設けられている。
そして挿入部4は、手元部から可とう管部5と、湾曲部6と、先端構成部7を直列に連結した構造となっている。尚、本発明の医療用処置具とは、医療用内視鏡と医療内視鏡用処置具の双方をいい、医療内視鏡用処置具には後述するスネア、鉗子、クリップ、高周波ナイフ等の処置具のことをさす。
【0024】
図2の先端処置部は、湾曲部6と先端構成部7から成り、湾曲部6は、短円筒状の湾曲駒18を複数個直列に並べてリベット19を介して回動自在に連結し、かつ各湾曲駒18はリベット19の軸方向と概ね直交する部位の短円筒状の軸方向の中間部位で内側へ円弧上に切り曲げて一対のロープ受け22を形成する。
そして操作用ロープ20は、複数の湾曲駒18の内側のロープ受け22内を貫挿し、最先端の先端湾曲駒18aと、先端ロープ受けの連結部材22aにて接合部材21を用いて接合されている。
そして、操作用ロープ20の手元部は、図1に示した手元操作部2の湾曲操作ノブ3まで挿入部4、及び手元操作部2内を貫挿して湾曲操作ノブ3と連動させ、この湾曲操作ノブ3を回動操作することにより操作用ロープ20を押し引き等、牽引操作させて湾曲部6を、図2において上下方向へ湾曲操作が可能な構造となっている。尚、前記図2の上下一対のロープ受け22に対して直交する図2の手前・奥方向へ、もう一対のロープ受けを配設(図示せず)すると、図2の上下方向と手前奥の四方向に湾曲操作が可能な構造となる。かかる構造を用いてもよい。
そして又、湾曲駒18の外周には線材を編組したブレード23と、その外周には合成樹脂から成る外層チューブ24を被覆した構成から成っている。
【0025】
そして先端構成部7は、口金管25内にイメージガイドファイバー26が挿入され、その先端側に対物レンズ27が配設されている。そして接続パイプ29と接続したチャンネルチューブ28は手元操作部2の手元部まで通ずる処置具孔10と連結しており、このチャンネルチューブ28内へ生検鉗子等の鉗子類の他に、高周波スネア、クリップ装置、注射針等の種々の医療内視鏡用処置具11が出入りでき、病変部の治療行為ができる構造となっている。
【0026】
図3は、最先端の先端湾曲駒18aと操作用ロープ20の組付図を示し、先端湾曲駒18aの短円筒状の長軸方向の略中間部位で内側へ円弧状に切り曲げて、突起状の一対の先端ロープ受けの連結部材22a内に操作用ロープ20が貫挿され、先端ロープ受けの連結部材22aで接合部材21を用いて操作用ロープ20の先端部20aが接合されている。
【0027】
そして本発明の医療用処置具に用いる操作用ロープ20は、スパイラルロープ、又は後述するストランドロープを用い、図5(A)、(A’)は本発明実施例1の医療用内視鏡に用いる操作用ロープ20のスパイラルロープの実施例を示す。
本発明の実施例の操作用ロープ20は、素線直径が0.008mmから0.200mmの金属素線を複数本用いて撚合構成し、スパイラルロープの実施例Aの操作用ロープ200では、素線直径(線径)が0.13mmの金属素線1本の芯材200Aと、素線直径(線径)が0.11mmの金属素線6本から成る側材200Bを、芯材200Aの外側に側材200Bを撚合させ、撚合方向が長手方向に対して連続して一方向螺旋状の巻回形成とした撚合構成とし、つまり一般にスパイラルロープの撚り構成1×7(芯材1本の外側に6本の側材)とし、撚合後のロープ外径Dは0.35mmで、ロープピッチ(図示P)はロープ外径Dの2.5倍から15倍とする。ここで、スパイラルロープとは、3本以上の金属素線を撚り合わせてストランド(束)としたロープのことをいい、(1×n)の形の呼び名とし、nは金属素線の本数を示す。
【0028】
そして操作用ロープに用いる金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて所定の減面率を有する伸線加工と引張破断強度が急傾斜増大して機械的性質を向上させる温度域と合致させた温度範囲での低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線加工を行い、最終伸線加工までの総減面率を95%から99.5%とし、最終仕上がり金属素線の引張破断強度が一定の関係式から成ることを特徴とする。尚、ここでいう減面率とは一伸線工程において伸線前の線径と伸線後の線径との間の断面積差を減少率で表したものをいい、又総減面率とは固溶化処理した線材を用いて、線材(例えば引張破断強度が60〜80kgf/mm2 の性質をもつ線材)の伸線前の線径と、各伸線工程を経て最終伸線工程後の仕上がり線径との間の断面積差を減少率で表したものをいう。
【0029】
ここで引張破断強度が急傾斜増大して機械的性質を向上させる温度域と合致させた温度範囲での低温加熱処理としたのは、後述する総減面率が95%以上の金属素線の熱影響での引張破断強度特性を示した図7、図12において、かかる温度範囲で低温加熱処理を行い、伸線加工と前記低温加熱処理を行い、又これを累積することにより、金属素線の引張破断強度を飛躍的に増大することができるからである。
従って、本発明でいう「低温加熱処理」は、引張破断強度の低下、及び硬度が低下して軟化処理する焼きなまし熱処理、又は変態点以上(例Ac3 :約730℃以上)に加熱する焼きならし熱処理とは異なる。
【0030】
そして、伸線加工と低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上としたのは、後述する、例えば1セットとした本発明の操作用ロープ実施例Aは、伸線加工のみの比較例1に対して、より引張破断強度を増大させることができ、さらに2セットとした実施例B、Cに至っては飛躍的に引張破断強度を増大させることができるからである。
又、総減面率が95%以上としたのは、総減面率が80%、90%以上を境にして引張破断強度が増大する変曲ポイントがみられ(図6、ばね第3版丸善株式会社63頁、図2.82参照)、総減面率が95%に至っては、より飛躍的に増大する変曲ポイントとなるからである。
そして又、総減面率が99.5%以下としたのは、これを超える伸線加工の強い加工度では、金属組織内に空隙が生じはじめて脆化が著しく、ロープとして撚合構成時に金属素線の断線が発生し易くなるからである。
【0031】
そして、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線の伸線加工としたのは、加工性のよいオーステナイト組織を得る為であり、オーステナイト系ステンレス鋼線は変態点を利用した熱処理による結晶粒の微細化ができず、冷間加工によってのみ結晶粒の微細化が可能で、伸線加工により顕著な加工硬化性を示して引張破断強度を向上させることができるからである。又オーステナイト系ステンレス鋼線を用いる理由は、マルテンサイト系ステンレス鋼線では熱処理による焼入硬化性を示して熱影響を受け易く、析出硬化系ステンレス鋼線(SUS630等)では靭性が不足して撚線加工時に断線が発生して前記実施例のような細線・極細線の撚合構成はできず、又フェライト系ステンレス鋼線では温度脆性(シグマ脆性)の問題があるからである。
【0032】
そして補足すれば、一次伸線工程の減面率を他の伸線工程の減面率よりも最も高く設定することが望ましい。この理由は、引張破断強度増大に大きく寄与する加工誘起マルテンサイトの生成を増大させることができるからである。
【0033】
ここで表1、2は、本発明の金属素線の素線直径が0.008mmから0.200mm(本実施例では製造工程が異なる0.11mm、0.13mm)の高強度の引張破断強度特性を有する金属素線を得る為の製造工程と、工程毎に引張破断強度特性等を示したものである。
これは、固溶化処理したオーステナイトステンレス鋼線を用いて、引張破断強度が70kgf/mm2 から75kgf/mm2 の線材(母材)を用いて、所定の減面率の伸線加工と低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返す。
そして、2セットの場合を例示すると、一次伸線の減面率を最も高くした所定の減面率で一次伸線を行い、その後温度範囲が180℃から525℃で10分から180分の熱処理炉を用いた雰囲気加熱による一次低温加熱処理を行い、その後一次伸線より低い所定の減面率で二次伸線を行い、そして前記同様温度範囲が180℃から525℃で10分から180分の熱処理炉を用いた雰囲気加熱による二次低温加熱処理を行い、その後前記同様一次伸線より低い減面率で所定の三次伸線を行い、所定の仕上がりの素線直径の金属素線を得ることができる。
【0034】
そして具体的には、実施例Aの操作用ロープ200の芯材200Aは、線径が0.58mmの固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を複数のダイスを用いて線径が0.183mmになるまで一次伸線加工を行い、その後引張破断強度が急傾斜増大する温度範囲180℃から495℃で10分から180℃の熱処理炉を用いた雰囲気加熱による一次低温加熱処理(本実施例では450℃、30分)を行い、その後線径が0.13mmまで二次伸線加工(最終伸線加工)を行うと総減面率が95%となって伸線加工の加工硬化と引張破断強度が増大する温度範囲での低温加熱処理により引張破断強度を70kgf/mm2 から268kgf/mm2 まで向上させることができる。又、側材200Bについても概ね前記芯材200Aと同様である。
【0035】
そして又、本発明の実施例Bの操作用ロープ201の芯材201Aは、線径が0.76mmの固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を複数のダイスを用いて線径が0.23mmになるまで一次伸線加工を行い、その後前記実施例Aと同様な温度範囲で一次低温加熱処理を行った後に、線径が0.168mmまで二次伸線加工を行い、その後前記同様な温度範囲で二次低温加熱処理(本実施例では450℃、30分)を加えた後に、線径が0.13mmまで三次伸線加工(最終伸線加工)を行うと総減面率が97.1%となって、より高い引張破断強度を有する芯材201Aを得ることができる。又、側材201Bについても概ね前記芯材201Aと同様である。
【0036】
そして前記実施例Bと同様の製造方法にて総減面率99.5%とする芯材202A,及び側材202Bから成る操作用ロープ202を実施例Cとし、そして引張破断強度が急傾斜増大する低温加熱処理を加えないで伸線加工のみの操作用ロープ203を比較例1とし、実施例A〜C、及び比較例1の芯材、及び側材の製造工程を整理すると表1、2となる。尚、実施例A〜B、及び比較例1の芯材、及び側材の金属素線の材質は、オーステナイト系ステンレス鋼線のSUS304材を用い、又実施例Cの芯材、及び側材の金属素線の材質は、再溶解材のSUS316材を用いた。又ここでいう引張破断強度とは、線材に引張力を加えて破断したときの最大値を線材の断面積で除した値のことをいう。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表1、2によれば、「伸線加工と低温加熱処理を1セット」とする実施例Aの芯材200A、及び側材200Bの一次低温加熱処理による引張破断強度の増加率イは、いずれも13.6%となって6%を超えて10%以上の増加率を示している。そして最終伸線工程(本実施例では二次伸線)後の引張破断強度はそれぞれ268kgf/mm2 、270kgf/mm2 となっていずれも260kgf/mm2 以上の値を示している。
【0040】
そして「伸線加工と低温加熱処理を2セット」とする実施例Bの芯材201A、及び側材201Bの一次低温加熱処理による引張破断強度の増加率イは、いずれも14.3%となって10%以上の増加率を示す。二次低温加熱処理による引張破断強度の増加率ロは、いずれも5.8%となっていずれも4%以上の増加率を示し、各低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計(イ+ロ)はいずれも20.1%となって10%を超えて15%以上の増加率を示している。そして最終伸線工程(本実施例では三次伸線)後の引張破断強度は、それぞれ306kgf/mm2 、312kgf/mm2 となっていずれも290kgf/mm2 以上の値を示している。
【0041】
そして又、前記実施例Bと同様に、実施例Cの芯材202A、及び側材202Bの一次低温加熱処理による引張破断強度の増加率イは、19.1%、19.2%となっていずれも10%以上の増加率を示す。又、二次低温加熱処理による引張破断強度の増加率ロは、いずれも9.5%となっていずれも4%以上の増加率を示し、各低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計(イ+ロ)は28.6%、28.7%となっていずれも15%以上の増加率を示している。そして最終伸線工程(本実施例では三次伸線)後の引張破断強度は、それぞれ402kgf/mm2 、400kgf/mm2 となっていずれも350kgf/mm2 以上の値を示している。
【0042】
そして前記実施例AとBとの差は、実施例Bは伸線工程と低温加熱処理を2セットとし、又一次伸線の減面率と総減面率が実施例Aよりも高い。又、実施例BとCとの差は、実施例Cは、一次伸線の減面率と総減面率が実施例Bよりも高く、又再溶解材を用いたSUS316とする鋼種差である。
【0043】
ここで一次伸線工程の減面率は80%から94%とし(本実施例では90%から93.8%)、より高い引張破断強度特性を得る為には85%から94%とし、又二次伸線加工の減面率は40%から79%とし(本実施例では46.6%から75%)、より高い引張破断強度特性を得る為には45%から79%として、一次伸線工程での減面率を二次伸線以降の減面率よりも高く設定し、そして最終伸線工程までの総減面率を95%以上99.5%以下とし、より高い引張破断強度特性を得る為には、97%以上99.5%以下とする。
【0044】
そして、前記実施例Aのように伸線加工と低温加熱処理を1セットとしてその後最終伸線加工を設けたとき、金属素線の総減面率をX(%)とすると、金属素線の引張破断強度Y(kgf/mm2 )との関係式は、下記(1)となる。
関係式:Y≧2.000X+70 ・・・(1)
前記関係式(1)において、芯材200Aの総減面率Xは95%であることから、引張破断強度Yは260kgf/mm2 以上となり、前記実施例Aにおける芯材200Aの引張破断強度は268kgf/mm2 であることから前記関係式(1)を満たしている。
そして次に、前記同様に、前記実施例Bのように伸線加工と低温加熱処理を2セットとしてその後最終伸線加工を設けたとき、金属素線の総減面率をX(%)とすると、金属素線の引張破断強度Y(kgf/mm2 )との関係式は、下記(2)となる。
関係式:Y≧2.268X+70 ・・・(2)
前記関係式(2)において、芯材201Aの総減面率Xは97.1%であることから、引張破断強度Yは290kgf/mm2 以上となり、前記実施例Bにおける芯材201Aの引張破断強度は306kgf/mm2 であることから前記関係式(2)を満たしている。
そしてさらに、本実施例のうち最も高く引張破断強度を向上させた実施例Cにおいては、下記関係式(3)となる。
関係式:Y≧2.763X+75 ・・・(3)
前記関係式(3)において、芯材202Aの総減面率Xは99.5%であることから、引張破断強度Yは350kgf/mm2 以上となり、前記実施例Cにおける芯材202Aの引張破断強度は402kgf/mm2 であることから前記関係式(3)を満たしている。
【0045】
このように本発明の各実施例は、比較例1に対して飛躍的に引張破断強度が増大し、各実施例においては比較例1と異なり、引張破断強度が急傾斜増大して機械的性質を向上させる温度域での低温加熱処理を施し、伸線加工と前記低温加熱処理を施し、又これらを累積することにより、そして又、一次伸線加工における金属素線の減面率を他の伸線加工よりも高く設定し、そしてさらに強加工の伸線加工に適した鋼種等の選定により、高強度の引張破断強度を有する金属素線を製造することができる。
そして、金属素線の引張破断強度Y(kgf/mm2 )と総減面率X(%)との関係を図12に示す。尚、図中符号イは関係式(1)を、符号ロは関係式(2)を、符号ハは関係式(3)をそれぞれ示し、符号ニは比較例1の場合を示す。
【0046】
そして又、一次及び二次の各低温加熱処理の温度範囲を180℃から525℃で10分から180分(本実施例では450℃、30分)としたのは、後述する図7において、オーステナイト系ステンレス鋼線、例えばSUS304材とSUS316材の強加工の伸線加工での引張破断強度が急傾斜増大する温度範囲であり、又熱処理炉を用いた雰囲気加熱による生産性、及び品質の安定性を考慮したからである。
そして伸線加工と低温加熱処理を1セットとして5セット以上設けてもよいが、経済性、生産性等の観点から3セット以下が望ましい。又、金属素線の段階で最終伸線後(本実施例Cでは三次伸線後)に低温加熱処理を設けない理由は、前記金属素線の段階で低温加熱処理を施すと引張破断強度は増大するが、強加工の伸線加工により伸び不足している為、前記金属素線を複数本用いてロープとしての撚合時に、金属素線が破断し易くなり、これを防ぐ為である。これは総減面率が95%を超える特有の現象と考えられる。そしてロープとして撚合構成後の低温加熱処理については後述する。
【0047】
次に図7は、一般に金属素線の母線にオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて総減面率が95%以上の最終伸線加工後の金属素線を熱影響下(各温度30分)での引張破断強度特性を示した図で、SUS304材のときは図示イを、SUS316材のときは図示ロを示す。
これによるとSUS304材は180℃の熱影響により引張破断強度が上昇し始めて急傾斜し、概ね450℃近傍で最高の引張破断強度特性を示し、495℃まで引張破断強度特性向上効果が顕著にみられ、そして520℃を超えると常温(20℃)よりも急激に引張破断強度が低下する。又、Moを含むSUS316材は、低温側でSUS304材と同様な傾向を示すが高温側では概ね480℃近傍で最高の引張破断強度特性を示し、525℃まで引張破断強度特性向上効果が顕著にみられ、そして540℃を超えると常温(20℃)よりも急激に引張破断強度が低下する。
この引張破断強度特性が急激に低下する理由は、前述のように、この固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線は、前記520℃、540℃を超える温度から800℃に加熱されると、カーボンの析出、クロムの移動の為のエネルギーを必要とし、鋭敏化現象を生じて、特にカーボンが0.08%以下の通常のSUS304のオーステナイト系ステンレス鋼線では、700℃4分から5分程度で、この鋭敏化現象が現れ、引張破断強度が極端に低下するからである。
【0048】
このような引張破断強度特性を有する為、SUS304材の金属素線の低温加熱処理の温度範囲は、引張破断強度が急傾斜増大する温度域である180℃から495℃が望ましく、又Moを含む例えばSUS316材(Moが2重量%〜3重量%)の金属素線の低温熱処理の温度範囲は180℃から525℃が望ましい。
このように本発明は、強加工の伸線加工して総減面率の高いオーステナイト系ステンレス鋼線の温度による引張破断強度特性に着目して、並びに、操作用ロープ20に用いる金属素線は細線・極細線で熱容量小で熱影響を受け易いことに着目して、操作用ロープの金属素線の撚合状態でのロープの引張破断力を大幅に向上させることのできる、新たな技術思想を提供するものである。尚、ここでいうロープの引張破断力とは、ロープに引張力を加えてロープが破断した時の最大荷重のことをいう。
【0049】
そして、本実施例に用いる金属素線のオーステナイト系ステンレス鋼線の化学成分は、重量%でC:0.15%以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、Ni:6%〜16%、Cr:16%〜20%、P:0.045%以下、S:0.030%以下、Mo:3%以下、残部が鉄及び不可避的不純物から成る。このように高珪素ステンレス鋼(Si:3.0%〜5.0%)、又析出硬化系ステンレス鋼線(SUS630等)を用いなくても前記工法を用いることにより、高強度のオーステナイト系ステンレス鋼線の金属素線を得ることができる。尚、Cは引張破断強度向上の為には、0.005%以上が望ましく、粒界腐食抑制の観点から0.15%以下が望ましい。
【0050】
本発明の医療用内視鏡1の操作用ロープ20に用いる芯材、又は側材の金属素線は、素線直径が0.008mmから0.200mmのオーステナイト系ステンレス鋼線で、特に金属素線の素線直径が0.130mm以下で引張破断強度が350kgf/mm2 以上で、総減面率が97%以上の伸線加工を可能とする為には、再溶解材を用いたSUS304材、又はSUS316材が望ましい。
この理由は、ステンレス鋼線の伸線時の断線原因は、表面疵もさることながら酸化物系介在物であることが最も多く、細線・極細線化するほどこの傾向が著しい。
そしてその化学成分は、介在物生成元素であるAl、Ti、Ca、Oの成分は低く、又硫化物の作用で伸線低下を引き起こすSも低く抑える。具体的なオーステナイト系ステンレス鋼線の化学成分は、重量%で、C:0.08%以下、Si:0.10%以下、Mn:2%以下、P:0.045%以下、S:0.010%以下、Ni:8%〜12%、Cr:16%〜20%、Mo:3%以下、Al:0.0020%以下、Ti:0.10%以下、Ca:0.005%以下、O:0.0020%以下、で残部がFeと不可避的不純物から成る。
そして再溶解材の製造方法としては、ステンレス鋼の溶製後のインゴットにフラックスを用いたエレクトロスラグ再溶解の製造方法等である。トリプル溶解材を用いても前記同様の効果が得られる。
【0051】
そして次に、強加工の伸線加工した金属素線を複数本用いて撚合構成した後の操作用ロープに、引張破断強度が急傾斜増大する温度域で、より顕著な効果を示す温度範囲の300℃から525℃で2秒から10分の短時間低温加熱処理(本実施例では450℃で2秒と60秒)を加えることにより、操作用ロープの引張破断力を増大させ、かつ操作性を向上させることができる。表3は、実施例A〜Cの操作用ロープ200、201、202に450℃で加熱時間を変化させたときのロープの引張破断力を比較したものである。
【0052】
【表3】

【0053】
表3によれば、低温加熱処理の450℃で2秒間の加熱であっても操作用ロープ200の引張破断力は、24.1kgfから24.9kgfとなって約3.5%増大し、又同様に操作用ロープ201の場合は、約3.6%増大し、さらに操作用ロープ202の場合は、約3.9%増大し、総減面率の増大とともに引張破断力の増加率は増大する傾向となる。
ここでいう「短時間低温加熱処理」とは、300℃から525℃で2秒から10分以内、又300℃から550℃以下では2秒から10秒以内の、引張破断力が増大して機械的性質を向上させる熱処理のことをいう。
そしてその工法は、撚合構成したロープに熱処理炉を用いた雰囲気加熱、又は不活性ガス中での光輝熱処理、並びに撚合構成したロープに公知の曲げと捩りの歪を与えるスピナー矯正機、又はレベラー式矯正機等により矯正加工した後に前記雰囲気加熱、又は光輝熱処理を加える工法等である。
そして前記工法を用いることにより、操作用ロープの引張破断力を向上させ、かつ直線性を向上させることができ、医療用処置具の操作性をより向上させることができる。この理由は、撚合加工後、又は矯正加工後の前記短時間低温加熱処理を施すことにより、操作用ロープに局部的に発生した集中応力を平均化させることによる、と考えることができる。
【0054】
そして前述のように、低温加熱処理、又は短時間低温加熱処理により引張破断力を向上させる顕著な効果を得る為には、操作用ロープに用いる金属素線の総減面率は95%から99.5%が望ましく、好ましくは97%から99.5%である。この理由は、99.5%を超える総減面率を有する金属素線は極端に伸びが不足し、撚合時に特に側材の金属素線の断線が発生し易いからである。
【0055】
そして本発明の操作用ロープ20の他のスパイラルロープの実施例を図5(B)〜(E)に示す。図5(B)〜(E)はそれぞれ実施例D〜Gを示し、スパイラルロープの撚り構成は、それぞれ1×8、1×9、1×10、1×19である。又、他の実施例として図示しないが、1×3、1×12等である。
そして、芯材と側材の金属素線の素線直径は、いずれも0.008mmから0.200mmとし、芯材と側材とは同一素線直径の金属素線を撚合構成して用いてもよい。尚、前記実施例D〜F、及び撚り構成1×7の他の実施例の芯材と側材の素線直径(線径)、及び線径比(芯材/側材)を整理すると、表4となる。
【0056】
【表4】

【0057】
表4によれば、例えば実施例F(図示(D))は、撚り構成1×10で、芯材は線径が0.18mmの金属素線1本と、側材は線径が0.085mmの金属素線9本からなり、線径比は2.12である。同様に、撚り構成1×7の他の実施例において、芯材は線径が0.122mm、側材の線径は0.114mmで線径比は1.07である。
そして、前記各実施例で示すように、芯材の線径は側材の線径よりも1.07倍から2.12倍の太径線を用いている。芯材も側材も同一線径を用いてもよいが、芯材に太径線を用いる理由は、操作用ロープ20に引張力を加えたとき、芯材1本に加わる引張力の負荷は、数本から成る側材よりもその構造差(側材はスパイラル状で伸び易い構造に対して、芯材はストレート状で直接引張力の負荷が加わり易い構造)から増大する。この為、芯材に太径線を用いて横断面積を増大させて芯材へ加わる引張応力を軽減させて、その結果芯材の早期破断を防いで、ロープとしての引張破断力を向上させる為である。
そして芯材と側材とが同一線径の線径比1.0を下回れば、芯材へ加わる引張力の負荷は増大して芯材の早期破断によるロープの引張破断力を低下させる。又、前記上限値(線径比2.12)を上回れば、芯材の剛性が増大して、耐繰り返し曲げ疲労特性が劣ってくる。尚補足すれば、前記実施例A〜Cの線径比は、1.18である。
従って、線径比(芯材/側材)は、1.0倍から2.12倍が好ましく、より好ましくは1.07倍から2.12倍で、さらに好ましくは、1.18倍から2.12倍である。
【0058】
そして次に、操作用ロープ20の他の実施例としてストランドロープについて説明する。ここでいうストランドロープとは、3本以上のストランドを撚り合わせたロープのことをいい、(m×n)の呼び名とし、mはストランドの総数、nはストランド内の金属素線の本数を示す。例えば、他のストランドロープの実施例として、前記実施例Aのスパイラルロープの撚り構成1×7を用いて、ストランドの総数が7束のときは、7×7(図示(F))、同様にスパイラルロープの実施例Dの撚り構成1×8を用いて、ストランドの総数が7束のときは7×8(図示せず)となる。
本発明の操作用ロープ20の実施例については、前記スパイラルロープ、及びストランドロープの双方を含み、使用する金属素線は前記各実施例A〜Cと同様である。
そしてスパイラルロープは、医療用処置具の体内挿入時、屈曲蛇行が比較的少なく、高い引張力を要する場合に用いられ、特に押し操作力、及び回転操作力が要求される場合に好適である。これに対してストランドロープは、屈曲蛇行が多くて軽い操作力で、かつ耐曲げ応力を要する場合に用いられ、特に耐繰り返し曲げ疲労特性が要求される場合に好適である。いずれを選択するかは、屈曲蛇行の程度と要求される操作性との関係で決定される。
【0059】
そして補足すれば、前記金属素線の引張破断強度を増大させる低温加熱処理の温度範囲と合致させた溶融温度をもつ接合部材21を用いても操作用ロープ20の引張破断力の向上、及び接合部での操作用ロープの耐疲労特性等の機械的強度特性を向上させることができる。具体的には、例えば図3において、操作用ロープ20の先端部20aと、先端湾曲駒18aの先端ロープ受けの連結部材22aとは、接合部材21を溶融加熱して接合させる。
そして接合部材21は、溶融温度が180℃から495℃の共晶合金、又は操作用ロープ20の金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには180℃から525℃の共晶合金を用いる。ここでいう共晶合金とは、合金の成分比を変更することにより得られる最低融点(溶融温度)を有する特殊な合金のことをいい、具体的には、金又は銀を含む合金材で金錫系合金材として金80重量%、残部が錫で溶融温度が280℃、又銀錫系合金として銀3.5重量%、残部が錫で溶融温度が221℃、そして、金88重量%、残部がゲルマニウムで溶融温度が356℃、又銀と錫とインジウムから成り、溶融温度が450℃から472℃の共晶合金であり、その代表例を表5に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
ここで接合部材21として金を用いる理由は、耐食性、展延性向上の為であり、銀を用いる理由は、融点調整等の為であり、錫を用いる理由は、融点を低下させて操作用ロープ20との濡れ性を向上させる為である。
【0062】
そして接合部材21の溶融温度が180℃から495℃、又は180℃から525℃としたのは、180℃を下回ると加工硬化させた操作用ロープ20の引張破断力を接合部材21の溶融温度を利用して向上させることはできず、そして495℃を超えると操作用ロープ20に用いる金属素線のオーステナイト系ステンレス鋼線の特質から、又は525℃を超えるとMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線の特質から、前記各オーステナイト系ステンレス鋼線を520℃、又は540℃を超える800℃に加熱すると鋭敏化現象を生じて、後述するように極端に引張破断強度特性等を低下させることとなり、この現象を防ぎ、操作用ロープ20の機械的強度特性を最大限に発揮させる為である。
【0063】
そして、接合部材21の溶融熱により先端ロープ受けの連結部材22aとの接合部の操作用ロープ20の先端部20aの引張破断強度は増大し、この引張破断強度増大に伴い引張応力は増大し、その結果接合部での操作用ロープの耐曲げ疲労特性は向上する。
このことにより、術者の手技中での操作用ロープ20の先端部20aの接合部へ加わる繰り返し曲げ疲労により、操作用ロープ20と先端ロープ受けの連結部材22aとが離脱する危険は生じない。尚、補足すれば、溶融温度が605℃から800℃の銀ろう、溶融温度が895℃から1030℃金ろうを用いた場合には、前述したように芯材、又は側材の鋭敏化現象による脆化、又は、なまし状態となって大幅に引張破断強度が低下し、そして引張破断強度及び曲げ応力の低下に伴い、操作用ロープ20の先端部20aが先端ロープ受けの連結部材22aからの脱落の危険が増大し、湾曲操作ノブ3の操作不能を生じ、医療用内視鏡が操作不能に陥る恐れがある。
【0064】
そしてさらに補足すれば、操作用ロープ20の先端部20aの部分には、先端ロープ受けの連結部材22aの長手方向の長さに添って所定長、例えば先端ロープ受けの連結部材22aの長手方向の長さが2mmであれば、2mmから100mm程度電解研磨を施すことが望ましい。又は、紙やすり等により研磨してもよい。
そして、操作用ロープ20の先端部20aを、接合部材21の共晶合金を溶融する前に研磨する理由は、特に強加工における伸線加工(総減面率90%以上)した金属素線を用いて撚合構成した操作用ロープは、その接合部材21との濡れ性が極端に悪くなり、これを防ぐ為に電解研磨等を用いて酸化皮膜を除去して濡れ性を向上させ、接合部材21による接合性を向上させる為である。又、予め全長にわたって電解研磨等を施した操作用ロープ20を用いてもよい。尚、補足すれば、前記操作用ロープの接合部材21との濡れ性が極端に悪くなる理由は、強加工の伸線加工の加工度増大に伴って現われる金属素線表層部の繊維状組織の発達、及び酸化被膜の形成によるものと考えることができる。
【0065】
そして又、操作用ロープ20の先端部20aの部分には、先端ロープ受けの連結部材22aの長手方向の長さに添って所定長、例えば先端ロープ受けの連結部材22aの長手方向の長さが2mmであれば、1mmから10mm程度めっき処理、又は接合部材211を芯材と側材との線間間隙に含浸、及び側材の外周に固着させて、その後接合部材21を溶融固着させてもよい。かかる場合、めっき処理に用いる材料は、前記接合部材21の共晶合金と同一の組成成分を含む材料を用いることが望ましく、例えば接合部材21に金、又は銀を含む成分が含まれていれば、めっき処理する材料は、金めっき、又は銀めっきが望ましい。
そして操作用ロープ20の先端部20aの部分に予め含浸・固着させてもよく、かかる場合に用いる接合部材211は、接合部材21と同一又は同種の共晶合金が望ましい。尚、ここでいう同種の共晶合金である接合部材とは、一つ、又は二つの同一の組成成分を合計した重量%が全体の50重量%以上のものをいい、例えば表5で符号A1とA2は同種で、又はA1とB1とは異種である。
【0066】
この構造により、以下に述べる特有の作用効果がある。つまり、操作用ロープ20の先端部20aと先端のロープ受けの連結部材22aとの接合を強固にさせ、又接合部材211と接合部材21との接合部での溶融一体化固着により、接合強度を大幅に向上させることができる。
そして、操作用ロープ20の先端部20aをめっき処理、又は接合部材211を予め含浸・固着する理由は、前記強加工の伸線加工により濡れ性が極端に悪化した操作用ロープ20の接合部材21との濡れ性を向上させて強固結合を可能とする為である。尚、予め接合部材211を溶融固着した場合には、先端ロープ受けの連結部材22aに貫挿後、溶融固着した接合部材211にレーザー光を照射させて接合部材211を再溶融させて先端ロープ受けの連結部材22aと接合させてもよい。かかる場合、接合部材211は、操作用ロープ20の先端部20aの表面に撚合構成の撚り線の谷間が目視できない程度に厚く形成する必要があり、又本発明の操作用ロープ20の各実施例で用いる接合部材21と同一、又は同種の共晶合金を用いることが望ましい。これにより、接合工程での先端ロープ受けの連結部材22aと操作用ロープ20の先端部20aとの接合の組付作業を簡略化することができる。
【0067】
そして次に、操作用ロープ20の先端ロープ受けの連結部材22aの構造は、先端湾曲駒18aの内周側先端部へ短小管体の管体ロープ受けの連結部材221を用いて固着させ、操作用ロープ20の先端部20aを貫挿させた後、接合部材21を用いて接合させてもよい。かかる場合、先端湾曲駒18aの先端ロープ受けの連結部材22a、又は管体ロープ受けの連結部材221は、操作用ロープ20と同一、又は同種の材料から形成されることが接合強度向上の観点からより望ましい。ここで同種材料とは、JIS表示でいう鋼種記号のいずれかを問わず(オーステナイト系SUS304かマルテンサイト系SUS403のいずれかを問わず)、前置記号が同一鋼材であれば同種材料のことをいう。従って、ステンレス鋼材とアルミニウム鋼材とは異種材料である。最も好ましいのは、同一材料である。
【0068】
そして次に、本発明の医療用処置具の他の実施例2〜7について以下説明する。
【0069】
図8は、本発明の医療内視鏡用処置具である実施例2の医療内視鏡用高周波スネア13Aを示し、図示(A)は先端処置部17を示し、手元操作部2と連結している操作用ロープ20の先端部には、管体ロープ受けの連結部材221が処置用ループ17Aと操作用ロープ20の先端部を管体内、又は管体端部で接合部材21を用いて接合されている。
図示(B)は手元操作部2を示し、手元操作部2はガイド溝2Dと指かけリング2Cを備えた操作部本体2Aと高周波発生装置(図示せず)に接続する端子30を有する平板状の連結部材222を備えたスライダー2Bから構成され、連結部材222は操作用ロープ20の手元端を挿入する穴部32を有して、前記穴部32に操作用ロープ20の手元部を挿入し、穴部32に接合部材21を用いて操作用ロープ20と接合している。尚、操作用ロープ20の手元部の外側には、座屈防止の為補強パイプ2Eが設けられ、スライダー2Bと連結している。尚、図示(C)(D)は、先端処置部17の操作用ロープ20と連結部材221との一部拡大図を示し、又図示(E)(F)は、手元操作部2の操作用ロープ20と連結部材222との一部拡大図を示す。
【0070】
そしてスライダー2Bをガイド溝2Dに沿って前後方向(図示左右方向)へ移動させることにより、スライダー2Bに連結されている操作用ロープ20に操作力が加わり、処置用ループ17Aをフッ素樹脂等の絶縁材料から成るシース241内へ収納(スライダー2Bを図示右側へ移動)、又はシース241の外へ出して拡張させ(スライダー2Bを図示左側へ移動)、処置用ループ17Aで患部を補足し、端子30に高周波装置と接続して端子30から連結部材222、操作用ロープ20、連結部材221、処置用ループ17Aへ通電させて患部を切除、及び止血等の処置を図っている。
【0071】
そして、操作用ロープ20と連結部材221、222とは、接合部材21を用いて連結部材221、222の内部、又は端部とで接合している。
かかる構成において、本発明の操作用ロープ20は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて強加工の伸線加工と低温加熱処理を1セット以上繰り返して高強度の引張破断強度を有する金属素線を撚合構成して成り、又撚合構成した後に短時間低温加熱処理を加えることにより、操作用ロープ20の引張破断力を増大させたものである。
【0072】
これにより、操作用ロープ20の耐曲げ疲労特性、及び耐摩耗特性を向上させることができる。耐曲げ疲労特性が向上する理由は、引張力を加えた状態での耐曲げ疲労特性は、引張応力と曲げ応力の合成応力が高いほど耐曲げ疲労特性は向上し、金属素線の引張破断強度の増大、又は操作用ロープの引張破断力の増大により引張応力は増大して、合成応力が高くなるからである。そして耐摩耗特性が向上する理由は、金属素線の引張破断強度の増大、又は操作用ロープの引張破断力の増大に伴い、金属素線の硬度が高くなるからである。具体的には、操作用ロープと接触する部材であるステンレス鋼から成る連結部材221、222、及び実施例1の連結部材22a 、又湾曲変形による操作用ロープ20との摺動が激しい湾曲駒18のロープ受け22等の硬度(ビッカース硬度で150〜200)よりも約3倍以上高くなるからである。
そして又、本発明の操作用ロープ20は、先端処置部17の拡縮変形する処置用ループ17Aに用いても前記同様の効果を発揮する。
【0073】
そして補足すれば、前記金属素線、及び撚合構成したロープの引張破断力を増大させる低温加熱処理の温度範囲と合致した溶融温度をもつ接合部材21を用いることにより、接合部材21を単に固着手段として用いるのではなく、接合部の操作用ロープ20の引張破断力を向上させながら、かつ接合部の接合強度を向上させることができる。
【0074】
そしてさらに補足すれば、強加工の伸線加工による接合部材21の濡れ性の低下を、操作用ロープの少なくとも接合部に電解研磨等の処理を施すことによる接合性の向上、及び連結部材221、222にステンレス鋼材を用いて操作用ロープとの同一、又は同種材料を用いることにより相互間の熱膨張差を少なくし、かつ、接合部材との濡れ性を均等化して接合部材との強固な接合性の向上を図ることができる。尚、医療内視鏡用スネア13(実施例3)との差は、主に高周波装置に接続する端子30の有無、及び絶縁性の有無(例えばシース241の材料等)等である。
【0075】
図9は、本発明の医療内視鏡用処置具である実施例4の医療内視鏡用鉗子14を示し、図示(A)は先端処置部17を示し、手元操作部2と連結している操作用ロープ20の先端部には、一対の鉗子カップをパンタグラフ機構から成る生検鉗子17Bと連結する先端側が偏平状で連結ピンの穴部221Z(図示(C))を有し、手元側が略円筒状の連結部材221Aが、操作用ロープ20の先端部と略円筒状の円筒内、又は円筒端部で接合部材21を用いて接合されている。図示(B)は、手元操作部2を示し、手元操作部2はガイド溝2Dと指かけリング2Cを備えた操作部本体2Aと、操作用ロープ20の手元部と連結する略円筒状の連結部材222Aを備えたスライダー2Bから構成され、略円筒状の連結部材222Aは、操作用ロープ20の手元部と略円筒状の円筒内、又は円筒端部で接合部材21を用いて接合されている。尚、操作用ロープ20の手元部の外側には、座屈防止の為補強パイプ2Eが設けられ、スライダー2Bと連結している。尚、図示(C)(D)は、先端処置部17の操作用ロープ20と連結部材221Aとの一部拡大図を示し、又図示(E)(F)は、手元操作部2の操作用ロープ20と連結部材222Aとの一部拡大図を示す。
【0076】
そしてスライダー2Bをガイド溝2Dに沿って前後方向(図示左右方向)へ移動させることにより、スライダー2Bに連結されている操作用ロープ20に操作力が加わり、生検鉗子17Bの鉗子カップを開(スライダー2Bを図示左側へ移動)閉(スライダー2Bを図示右側へ移動)させ、患部を補足し、切除等の処置を図っている。尚、医療内視鏡用鉗子14(実施例4)と、高周波通電による医療用処置具である医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子14A(実施例5)との差は、前記実施例2と3と同様に、主に高周波装置に接合する端子30の有無、及び絶縁性の有無(例えばシース241、242の材料等)等で、実施例5の場合に前記実施例2と同様な端子30をスライダー2B内の連結部材222Aに端子を接続する構造等である。(図8(E)(F)参照)
【0077】
この構成により、実施例4〜5は、前記実施例1〜3と同様に強加工の伸線加工による高強度の引張破断強度特性を有する金属素線を撚合構成した操作用ロープ20を得て、生検鉗子17Bの鉗子カップの開閉操作を容易にして切除処置の向上を図り、かつ手元操作部2のコンパクト化を図ることができる。この理由は、操作用ロープの引張破断力増大により切除処置が容易となり、又引張破断力増大に伴ってロープの伸びが減少し、手元操作部2のスライダー2Bの移動距離が少なくなって手元操作の先端処置部への応答性が向上し、かつスライダー2Bの移動距離を少なくさせることによるコンパクト化が図れるからである。
そして補足すれば、金属素線、及び撚合構成したロープの引張破断力を増大させる低温加熱処理の温度範囲と合致した溶融温度をもつ接合部材21の溶融熱を利用して接合部の操作用ロープ20の引張破断力をより増大させて接合することができ、さらに金、又は銀成分を含む接合部材の高電導特性と併せて、高度の操作性を有する医療内視鏡用処置具の提供ができる。
【0078】
次に図10は、本発明の医療内視鏡用処置具である実施例6の医療内視鏡用クリップ装置15を示し、先端処置部17のクリップ17Cを導入管33内へ収納させた状態で体内へ挿入し、その後手元操作部2のスライダー部2Bをガイド溝2Dに沿って図示右方向へ移動させることにより、スライダー2B内の連結部材222Bと接合部材21により接合されている操作用ロープ20に操作力が加わり、操作用ロープの先端部と接合部材21により接合されているフック状の連結部材221Bへ力が伝わり、フック状の連結部材221Bからクリップ17Cが外れて離脱し、患部を捕捉して血管を閉じて止血処置を図っている。尚、図(C)は、クリップ17Cによる血管34のクリップ状態を示す縦断面図である。
【0079】
そして次に図11は、本発明の医療内視鏡用処置具である実施例7の医療内視鏡用高周波ナイフ16を示し、先端処置部17のナイフ部17Dを体内へ挿入して患部へ近づけた後、手元操作部2のスライダー部2Bをガイド溝2Dに沿って図示左方向へ移動させることにより、スライダー2B内の高周波装置と接続できる端子30を有する連結部材222Cと接合部材21により接合されている操作用ロープ20に操作力が加わる。
そして操作用ロープ20の先端部と接合部材21により接合している略円筒状連結部材221Cへ力が加わり、連結部材221Cの先端側と連結している棒状電極部172Dと平板状電極部171Dとから成るナイフ部17Dの平板状電極部171Dを患部へ接触させて生体組織を焼灼切開の処置を図っている。尚、前記実施例7の医療用処置具は、シリンジ31より生理食塩水をシース243の内部空間243Aへ通過させて先端処置部17より噴出させ、出血部分を明確にさせる機能を備えている。
そして、実施例6、7において、接合部材21を用いて操作用ロープ20と連結部材221B、222B、221C、222Cとの接合法は前記実施例1〜5と同様である。
【0080】
この構成により、実施例6、7は、前記実施例1〜5と同様に強加工の伸線加工による高強度の引張破断強度特性を有する金属素線を撚合構成した操作用ロープ20を得て、クリップを連接増加することによるロープへ加わる操作力増大に対応することができ、その結果後述する組立体の医療用内視鏡内へ処置具孔からの1回の挿入操作で複数か所クリップ留置を可能とすることができる。又、引張破断力が向上した操作用ロープを用いることにより、生体組織の焼灼切開の処置を容易にすることができる。この理由は、高周波電流を通電させて焼灼止血に用いられる使用温度範囲は、一般的には180℃から350℃で操作用ロープに用いる金属素線の引張破断強度が増大する温度範囲内であるからである。 そして補足すれば、前記実施例1〜5と同様に操作用ロープの引張破断力を増大させる低温加熱処理の温度範囲と合致した溶融温度をもつ接合部材21の溶融熱を利用して接合部の操作用ロープ20の引張破断力を向上させて接合することができ、さらに金、又は銀成分を含む接合部材の高電導特性と併せて、高度の操作性を有する医療内視鏡用処置具の提供ができる。
【0081】
そしてさらに補足すれば、生理食塩水を用いた医療用処置具においては、銀成分を含む接合部材を用いたとき、生理食塩水との接触により硫化銀等が形成されて黒色化が始まり、時間の経過とともに黒色化がさらに進んで腐食が進行して接合強度が低下する。この為、腐食進行による接合強度低下防止、及び黒色化防止の観点から金系共晶合金の接合部材21を用いることが、より望ましい接合形態である。このことは、医療用内視鏡のチャンネルチューブ等の内孔から生理食塩水を通過させて先端部の対物レンズの洗浄、又病変部の把握明確化等の為に病変部へ生理食塩水を噴射させる場合にも同様の問題が発生し、医療用内視鏡、及び医療内視鏡用処置具に共通する技術課題である。前記方法により、この技術課題を解消することができる。
【0082】
そして、特に実施例6、7において、手元操作部の押し操作、及び回転操作により先端処置部17のクリップ17C、又はナイフ部17Dを所望の患部位置へコントロールし易い本発明の操作用ロープ20は、ストランドロープよりもスパイラルロープが望ましく、さらに望ましいのはスパイラルロープのうち前記したように側材よりも芯材のほうが一定の範囲の太径線を用いた態様である。
この理由は、手元操作部の押し操作、及び回転操作は操作用ロープの、特にストレート状の芯材の特性に大きく影響され、例えば押し操作の場合には、耐座屈荷重は断面二次モーメントに比例し、芯材の素線直径の太いものほどこの値は大きくなって耐座屈荷重は向上し、押し操作力は向上する。又、回転操作の場合には、捩り抵抗モーメントは断面二次極モーメントに比例し、素線直径の太いものほどこの値は大きくなり、その結果先端部への回転伝達性能を向上させることができるからである。
【0083】
そして次に、本発明の医療用処置具の製造方法について以下に説明する。
可とう性管体の先端側に先端処置部と、手元側に手元操作部を備え、前記可とう性管体に貫挿した操作用ロープを前記先端処置部と前記手元操作部とを連結し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具の製造方法において、
前記操作用ロープに用いる金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と、伸線工程後に180℃から495℃で10分から180分の低温加熱処理工程を設けて、
又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の低温加熱処理工程を設けて、
前記伸線工程と前記低温加熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上の各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を95%から99.5%以下とし、
前記最終伸線工程までの前記低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計が10%以上とし、かつ、Y:引張破断強度(kgf/mm2 )、X:総減面率(%)とした場合に、
Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記操作用ロープは、素線直径が0.008mmから0.200mmの前記金属素線を複数本用いて撚合構成する工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法である。 この構成により、伸線加工した金属素線の引張破断強度が急傾斜増大する温度域での低温加熱処理工程を設け、高強度の伸線加工工程と低温加熱処理工程を設けて、又はこれらの工程を累積することにより高強度の引張破断強度を有する金属素線を撚合構成して、高強度の引張破断力を有する操作用ロープから成る医療用処置具の製造ができる。
そして補足すれば、前記引張破断強度が急傾斜増大する温度域での低温加熱処理の温度範囲と合致する溶融温度をもつ接合部材の溶融熱を利用しても、操作用ロープの引張破断力をより増大させて接合できる医療用処置具の製造ができる。
【0084】
前記記載の医療用処置具の製造方法において、「前記伸線工程と前記低温加熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上」とする工程が、減面率が80%から94%の一次伸線工程と、その後180℃から495℃で10分から180分の一次低温加熱処理工程を設けて、
又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、その後180℃から525℃の一次低温加熱処理工程を設けて、前記一次低温加熱処理による引張破断強度の増加率を6%以上とし、
減面率が40%から79%の二次伸線工程と、その後180℃から495℃で10分から180分の二次低温加熱処理工程を設けて、
又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、その後180℃から525℃で10分から180分の二次低温加熱処理工程を設けて、前記二次低温加熱処理による引張破断強度の増加率を4%以上とする工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法である。
この構成により、複雑な金属組織をもつ高価な金属材料(例えば高珪素ステンレス鋼線等)を用いなくても一般に市販されているオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、高強度の引張破断強度を有する金属素線を製造することができ、一次伸線工程の減面率を最も高くして引張破断強度向上効果に寄与する加工誘起マルテンサイトの生成をより増大させることができ、そして引張破断強度が急傾斜増大する温度域での低温加熱処理工程を設け、伸線加工工程と低温加熱処理工程とを累積することにより飛躍的に引張破断強度を増大させた金属素線を製造することができる。
【0085】
前記記載の各医療用処置具の製造方法において、前記操作用ロープに用いる前記金属素線の一次伸線工程から最終伸線工程前の各伸線工程で、減面率が4%から20%の複数のダイスを用いて連続伸線する工程と、前記最終伸線工程において、減面率が4%から20%の複数のダイスを用いて連続伸線し、かつ、最終ダイスの減面率は4%から13%で前記最終伸線工程内で最も減面率を小とするダイス配列の連続伸線する工程とし、かつ、前記伸線工程が湿式伸線工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法である。
この構成により、金属素線の素線直径が0.100mm以下の極細線であっても高強度の引張破断強度を有する金属素線を断線させることなく連続して伸線加工ができ、生産性を高めて安定した品質をもつ金属素線から成る操作用ロープを製造することができる。
【0086】
そして、このような強加工の伸線加工による高強度の引張破断強度を有する金属素線を得る為には、最終伸線工程において減面率が4%から20%の複数ダイス(5個〜8個)を用いて、かつ複数ダイス(5個〜8個)のうち最終ダイスは減面率を4%から13%として最終伸線工程内で最も小さい減面率とするダイスを用いたダイス配列とする。
そして又、このような極細線の伸線加工のダイスには、ダイヤモンドダイスを用いることにより、伸線時の抵抗を低くさせて伸線工程での断線を防ぐことができ、生産性が高く、又安定した品質の金属素線を得ることができる。
【0087】
そして補足すれば、加工誘起マルテンサイト生成による引張破断強度向上効果をより高める為には、伸線時の金属素線の表面温度は140℃以下が望ましく、湿式伸線での冷却潤滑液の設定、又は伸線時のダイスへシャワー状に吹き付ける潤滑液の設定、及びこれらの潤滑液による温度設定等によりこれを達成できる。例えば、湿式伸線の場合の潤滑液の設定温度は28℃から42℃が前記金属素線の表面温度を維持する上で望ましい。
【0088】
次に図1、2を用いて医療用処置具である処置具孔10を有する医療用内視鏡1と、前記実施例2〜7の医療内視鏡用処置具との組立体について説明する。
前記組立体は、先端処置部17に湾曲駒18を複数個連結し、先端側の前記湾曲駒18aと前記操作用ロープ20の先端部とを前記接合部材21、211を用いて接合した湾曲部6から成り、手元操作部2を操作して前記操作用ロープ20の操作力の伝達作用により、前記湾曲部6を湾曲変形させ、かつ前記手元操作部2に処置具孔10を有する請求項6に記載の医療用処置具である医療用内視鏡1と、前記実施例2〜7の医療内視鏡用処置具1を前記処置具孔10より出入りさせて病変部治療を行うことを特徴とする医療用内視鏡1と、医療内視鏡用処置具との組立体である。
この構成により、操作用ロープの引張破断力不足、及び接合部での引張破断力不足に起因する医療用内視鏡、及び医療内視鏡用処置具の操作不能状態での手技の中断を防ぎ、高度の操作性を有しながら、円滑、かつ迅速な病変部の多様な手技対応ができる組立体の提供ができる。そして操作用ロープに、芯材が側材よりも一定範囲の径大の金属素線を用いることによる医療内視鏡用処置具の押し操作性、及び回転操作の操作性を、より向上させることができる。
【0089】
そして補足すれば、操作用ロープと連結部材との接合部に、引張破断強度が急傾斜増大する温度域での低温加熱処理の温度範囲と合致する溶融温度をもつ接合部材を用いることにより、接合部での操作用ロープの引張破断力を増大させ、又高周波電流を通電させて患部を処置する高通電特性を有する接合部材の使用による通電特性の向上、そしてさらに、対物レンズの洗浄、又は病変部の正確認識等の為、医療用内視鏡のチャンネルチューブ等、又は医療内視鏡用処置具のシース内の内孔から生理食塩水を通過させることによる接合部での黒色化防止の為の金成分を含む接合部材の選択使用等により高度の操作性を有する組立体の提供ができる。
【0090】
そしてここで、操作用ロープと連結部材との接合部に前記低温加熱処理の温度範囲と合致する溶融温度をもつ共晶合金の接合部材を用いて接合すると、接合部材の溶融熱を利用して接合部の操作用ロープの引張破断力を増大させて強固結合を可能と成すことができる。その接合部材を併せ用いた医療用処置具の具体例を以下に記載する。
可とう性管体に貫挿した操作用ロープの先端処置部の連結部材、又は手元操作部の連結部材と、前記操作用ロープとを接合部材を用いて接合し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具において、
前記操作用ロープは、素線直径が0.008mmから0.200mmの金属素線を複数本用いて撚合構成して成り、前記金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線と伸線後に180℃から495℃の低温加熱処理を設けて、
又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の低温加熱処理を設けて、
前記伸線と前記低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線を行い、前記最終伸線までの総減面率を95%から99.5%以下とし、
前記最終伸線までの前記低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計が10%以上とし、かつ、
Y:引張破断強度(kgf/mm2 )、
X:総減面率(%)とした場合に、
Y≧2.000X+70の関係式を満たし、前記接合部材は、180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成り、又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金から成り、前記操作用ロープと前記連結部材とを、前記接合部材を用いて接合して成ることを特徴とする医療用処置具である。
【0091】
又、前記操作用ロープと連結部材との接合部に前記低温加熱処理の温度範囲と合致する溶融温度をもつ共晶合金の接合部材を用いて接合すると、接合部材の溶融熱を利用して接合部の操作用ロープの引張破断力を増大させて強固結合を可能と成すことができる、操作用ロープから成る医療用処置具を製造することができる。その製造方法の具体例を以下に記載する。
可とう性管体に貫挿した操作用ロープの先端処置部の連結部材、又は手元操作部の連結部材と、前記操作用ロープとを接合部材を用いて接合し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具の製造方法において、
前記操作用ロープに用いる金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と、伸線工程後に180℃から495℃で10分から180分の低温加熱処理工程を設けて、
又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の低温加熱処理工程を設けて、
前記伸線工程と前記低温加熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、前記最終伸線工程までの総減面率を95%から99.5%以下とし、
前記最終伸線工程までの前記低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計が10%以上とし、かつ、Y:引張破断強度(kgf/mm2 )、X:総減面率(%)とした場合に、Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記操作用ロープは、素線直径が0.008mmから0.200mmの前記金属素線を複数本用いて撚合構成する工程から成る工程と、
前記撚合構成したロープを電解研磨した後に所定長切断する工程と、
又は前記撚合構成したロープを所定長切断した後に電解研磨する工程と、
その後切断した前記操作用ロープの先端部を前記先端処置部の連結部材の穴部へ挿入する工程と、又はその後切断した前記操作用ロープの手元部を前記手元操作部の連結部材の穴部へ挿入する工程と、
前記連結部材内へ挿入した前記操作用ロープとの接合部に、180℃から495℃の溶融温度をもつ共晶合金から成る前記接合部材を溶融させ、又は前記操作用ロープの金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の溶融温度をもつ共晶合金からなる前記接合部材を溶融させ、前記連結部材と前記操作用ロープとを前記接合部材を用いて接合する工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法である。
【0092】
そして又、前記記載の医療用処置具の製造方法において、接合部材を用いた接合法の好ましい態様として「前記接合部材を溶融させ、同一又は同種の材料から成る前記連結部材と前記操作用ロープとを前記接合部材を用いて接合する工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法」である。
これにより、操作用ロープと連結部材とが同一、又は同種材料を用いることにより、相互間の熱膨張差を少なくし、かつ操作用ロープと接合部材との濡れ性、及び連結部材と接合部材との濡れ性を接合面で概ね均一にさせることにより、又接合部の接合部材間の接合力を均一にさせることにより、より高い接合部の接合強度を得ることができる。
【0093】
[発明の効果]
以上説明のとおり、本発明の医療用処置具は、強加工の伸線加工と引張破断強度が急傾斜増大する温度域での低温加熱処理を行い、又はこれを累積することにより高強度の引張破断強度を有する金属素線を得て撚合構成し、引張破断力が高く操作性の高い操作用ロープから成る。
【0094】
そして又、処置具孔を備えた本発明の医療用内視鏡を用いて、処置具孔より各医療内視鏡用処置具を出入りさせ、病変部の状況に対応した治療を行う為の術者へ高度の操作性を有する医療用処置具の組立体の提供ができ、迅速治療に大きく寄与することができる。以上の諸効果がある。
【符号の説明】
【0095】
1 医療用内視鏡
2 操作部
3 湾曲操作ノブ
4 挿入部
5 可とう管部
6 湾曲部
7 先端構成部
10 処置具孔
13 医療内視鏡用スネア
13A 医療内視鏡用高周波スネア
14 医療内視鏡用鉗子
14A 医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子
15 医療内視鏡用クリップ装置
16 医療内視鏡用高周波ナイフ
18 湾曲駒
20 操作用ロープ
20a 操作用ロープの先端部
21 接合部材
22 ロープ受け
22a 先端ロープ受けの連結部材
221 管体ロープ受けの連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可とう性管体の先端側に先端処置部と、手元側に手元操作部を備え、前記可とう性管体に貫挿した操作用ロープを前記先端処置部と前記手元操作部とに連結し、
前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具において、
前記操作用ロープは、素線直径が0.008mmから0.200mmの金属素線を複数本用いて撚合構成して成り、
前記金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線と伸線後に180℃から495℃の低温加熱処理を設けて、
又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の低温加熱処理を設けて、
前記伸線と前記低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上繰り返した後に最終伸線を行い、
前記最終伸線までの総減面率を95%から99.5%以下とし、
前記最終伸線までの前記低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計が10%以上とし、かつ、Y:引張破断強度(kgf/mm2 )、X:総減面率(%)とした場合に、Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた操作用ロープから成ることを特徴とする医療用処置具。
【請求項2】
請求項1記載の医療用処置具において、
前記操作用ロープの金属素線の伸線と低温加熱処理を1セットとして少なくとも1セット以上の繰り返しが、一次伸線の減面率を80%から94%とし、その後180℃から495℃の一次低温加熱処理を設けて、
又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、その後180℃から525℃の一次低温加熱処理を設けて、
前記一次低温加熱処理による引張破断強度の増加率を6%以上とし、
二次伸線の減面率を40%から79%とし、その後180℃から495℃の二次低温加熱処理を設けて、
又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、その後180℃から525℃の二次低温加熱処理を設けて、
前記二次低温加熱処理による引張破断強度の増加率を4%以上とすることを特徴とする前記金属素線を用いた操作用ロープから成る医療用処置具。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか一つに記載の医療用処置具において、
前記操作用ロープの金属素線の低温加熱処理の温度が、300℃から495℃とし、
又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、300℃から525℃とし、
前記最終伸線までの前記低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計が15%以上とし、かつ、Y:引張破断強度(kgf/mm2 )、X:総減面率(%)とした場合に、Y≧2.268X+70の関係式を満たし、
前記金属素線を用いた操作用ロープから成ることを特徴とする医療用処置具。
【請求項4】
前記金属素線を複数本用いて撚合構成した操作用ロープにおいて、
撚合構成した後に短時間低温加熱処理を設けて、
前記短時間低温加熱処理前の引張破断力よりも増大させたことを特徴とする前記金属素線を用いた操作用ロープから成る請求項1〜3のいずれか一つに記載の医療用処置具。
【請求項5】
前記操作用ロープは、前記金属素線を芯材と側材に用いて、前記芯材の外周に側材を6本から9本を一方向螺旋状に巻回成形する撚合構成のスパイラルロープから成り、
前記芯材の素線直径が前記側材の素線直径の1.07倍から2.12倍とし、
前記金属素線を用いた操作用ロープから成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の医療用処置具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記先端処置部に湾曲駒を複数個連結し、先端側の前記湾曲駒と前記操作用ロープの先端部とを連結した湾曲部から成り、前記手元操作部を操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記湾曲部を湾曲変形させた医療用内視鏡であることを特徴とする医療用処置具。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部の処置用ループを拡縮させ、又は拡縮させた後、前記操作用ロープ、及び前記先端処置部に高周波電流を通電させて患部を切除する医療内視鏡用処置具の医療内視鏡用スネア、又は医療内視鏡用高周波スネアであることを特徴とする医療用処置具。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部の生検鉗子の鉗子カップを開閉させて生体組織を採取し、
又は前記鉗子カップを開閉させた後、前記操作用ロープ、及び前記鉗子カップに高周波電流を通電させて患部を切除する医療内視鏡用処置具の医療内視鏡用鉗子、又は医療内視鏡用ホットバイオプシー鉗子であることを特徴とする医療用処置具。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部のクリップを離脱させて体内留置する医療内視鏡用処置具の医療内視鏡用クリップ装置であることを特徴とする医療用処置具。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の医療用処置具が、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部のナイフ部を所望の位置へ案内しながら前記操作用ロープ、及び前記ナイフ部へ高周波電流を通電させて患部生体組織を焼灼切開する医療内視鏡用処置具の医療内視鏡用高周波ナイフであることを特徴とする医療用処置具。
【請求項11】
可とう性管体の先端側に先端処置部と、手元側に手元操作部を備え、前記可とう性管体に貫挿した操作用ロープを前記先端処置部と前記手元操作部とを連結し、前記手元操作部を押し、引き、又は回転操作して前記操作用ロープの操作力の伝達作用により、前記先端処置部を動作させる医療用処置具の製造方法において、
前記操作用ロープに用いる金属素線は、固溶化処理したオーステナイト系ステンレス鋼線を用いて、伸線工程と、伸線工程後に180℃から495℃で10分から180分の低温加熱処理工程を設けて、
又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、180℃から525℃の低温加熱処理工程を設けて、
前記伸線工程と前記低温加熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上の各工程を繰り返した後に最終伸線工程を設けて、
前記最終伸線工程までの総減面率を95%から99.5%以下とし、
前記最終伸線工程までの前記低温加熱処理による引張破断強度の増加率の合計が10%以上とし、かつ、Y:引張破断強度(kgf/mm2 )、X:総減面率(%)とした場合に、Y≧2.000X+70の関係式を満たし、
前記操作用ロープは、素線直径が0.008mmから0.200mmの前記金属素線を複数本用いて撚合構成する工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の医療用処置具の製造方法において、
前記伸線工程と前記低温加熱処理工程を1セットとして少なくとも1セット以上の各工程が、減面率が80%から94%の一次伸線工程と、
その後180℃から495℃で10分から180分の一次低温加熱処理工程を設けて、 又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、その後180℃から525℃の一次低温加熱処理工程を設けて、前記一次低温加熱処理による引張破断強度の増加率を6%以上とし、
減面率が40%から79%の二次伸線工程と、
その後180℃から495℃で10分から180分の二次低温加熱処理工程を設けて、 又は前記金属素線がMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼線のときには、その後180℃から525℃で10分から180分の二次低温加熱処理工程を設けて、前記二次低温加熱処理による引張破断強度の増加率を4%以上とする工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法。
【請求項13】
請求項11〜12のいずれか一つに記載の医療用処置具の製造方法において、
前記操作用ロープに用いる前記金属素線の一次伸線工程から最終伸線工程前の各伸線工程で、減面率が4%から20%の複数のダイスを用いて連続伸線する工程と、
前記最終伸線工程において、減面率が4%から20%の複数のダイスを用いて連続伸線し、かつ、最終ダイスの減面率は4%から13%で前記最終伸線工程内で最も減面率を小とするダイス配列の連続伸線する工程とし、かつ、前記伸線工程が湿式伸線工程から成ることを特徴とする医療用処置具の製造方法。
【請求項14】
前記手元操作部に処置具孔を有する請求項6記載の医療用処置具である医療用内視鏡と、請求項7〜10のいずれか一つに記載の医療内視鏡用処置具を、前記処置具孔より出入りさせて病変部治療を行うことを特徴とする医療用内視鏡と医療内視鏡用処置具との組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−110381(P2011−110381A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272448(P2009−272448)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(309023704)株式会社パテントストラ (16)
【Fターム(参考)】