説明

医療用牽引機

【課題】容易かつ衛生的に牽引力を調節できる医療用牽引機を提供する。
【解決手段】医療用牽引機11は、定位置に回動自在な回転軸12が設けられ、リール13および径の異なる複数の滑車16が軸方向に一体的に配置された滑車群体17が、回転軸12にそれぞれ一体回動可能に取付けられている。また、リール13には治療対象者の被牽引部が結合された一方の紐状体14が巻付けられ、滑車群体17における滑車16のいずれか1つには、重錘が結合された他方の紐状体が一方の紐状体14を巻取る方向に巻掛けられて、治療対象者の被牽引部を牽引する。そして、滑車群体17は、径の異なる複数の滑車16から形成されているので、他方の紐状体を異なる径の滑車16に付け替えるだけで、医療用牽引機11の牽引力が調整できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑車を用いた医療用牽引機に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は従来の医療用牽引機1を示すが、この医療用牽引機1は、例えば手術等の治療において、治療対象者の被牽引部に装着して牽引することで被牽引部を略水平にし、治療の補助をするものである。
【0003】
この医療用牽引機1では、治療対象者の被牽引部に装着された緊縛具2に例えばワイヤや包帯等の紐状体3が結合され、この紐状体3が例えば万力等の固定部材4に取付けられた滑車5に巻掛けられて下垂されおり、さらに、紐状体3の下垂端に重錘6が重量調節自在に結合されている。
【0004】
そして、固定部材4によって、例えば手術台等に医療用牽引機1が固定され、治療対象者の被牽引部を略水平になるように牽引する。
【0005】
このような医療用牽引機において、固定部材に対して摺動可能な滑車用支柱を介して滑車を取付けることで、前記固定部材に対して前記滑車の高さが調整可能となり、さらに、前記滑車支柱は前記固定部に対して回動自在であるので、前記滑車の角度も調整可能となり、必要に応じて、前記滑車の高さや方向を容易に調整できるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−255074号公報(第3−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図7および特許文献1の医療用牽引機では、牽引力を調整するために、紐状体に結合された重錘の重量を調節する必要があり、この重錘の重量の調節に際しては、前記紐状体の下垂端に結合された重錘を加減して調節しなければならず容易ではないとともに、多くの殺菌された重錘を用意しなければならず、衛生上の管理も容易ではない。
【0007】
特に、例えば手術中等では、手術台より床側での重錘を加減する作業は衛生上好ましくない。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、容易かつ衛生的に牽引力を調節できる医療用牽引機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された発明は、定位置に回動自在に保持される回転軸と、この回転軸に一体に回動可能に取付けられたリールと、このリールにより巻取られるとともにリールから引出された先端が治療対象者の被牽引部に結合された一方の紐状体と、前記リールと一体に回動可能に前記回転軸に取付けられるとともに径の異なる複数の滑車が軸方向に一体的に設けられた滑車群体と、この滑車群体における複数の滑車のうちのいずれか一つに前記一方の紐状体を巻取る方向に巻掛けられて下垂される他方の紐状体と、この他方の紐状体の下垂端に結合された重錘とを具備したものである。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、滑車郡体は、複数の円板部材と、これらの円板部材の間においてそれぞれ径の異なる円周上に配置された複数の紐状体巻掛部とを具備したものである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2に記載された発明において、複数の滑車は、それぞれ異なる色に形成されたものである。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載された発明において、リールに対する滑車群体の回動方向を他方の紐状体を巻取る方向にのみ回動可能にする回動方向規制手段が設けられたものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載された発明によれば、径の異なる複数の滑車が軸方向に一体的に設けられた滑車群体を具備することで、重錘が結合された他方の紐状体を径の異なる滑車に付け替えるのみで、前記滑車群体におけるモーメントを変化させて医療用牽引器の牽引力を調整でき、重錘を加減する必要がないので、容易かつ衛生的に牽引力を調整できる。
【0014】
請求項2に記載された発明によれば、滑車群体が、複数の円板部材と紐状体巻掛部とを具備したことで、容易かつ衛生的に牽引力を調整できるとともに、前記滑車群体が容易かつ安価に製造でき、さらに前記滑車群体を軽量化できるので医療用牽引機の操作性を向上できる。
【0015】
請求項3に記載された発明によれば、複数の滑車が、それぞれ異なる色に形成されたことで、前記複数の滑車それぞれを色により確実に識別でき、より確実に牽引力の調整ができる。
【0016】
請求項4に記載された発明によれば、回動方向規制手段が設けられたことで、リールに対する滑車群体の回動方向が他方の紐状体を巻取る方向にのみ回動可能であるので、前記滑車群体による前記他方の紐状体の巻取りまたは前記リールによる一方の紐状体の引出しにより、重錘または被牽引部の位置を調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の第1の実施の形態の構成を図1乃至図3を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図2または図3に示されるように、医療用牽引機11は、例えば橈骨等の骨折治療のための手術中に治療対象者の被牽引部である指先等を牽引することで、この被牽引部を略水平にして治療の補助をするものである。
【0019】
図1に示されるように、この医療用牽引機11は、定位置に回動自在に保持される回転軸12が設けられ、この回転軸12にリール13が一体に回動可能に取付けられている。
【0020】
ここで、回転軸12は、一対の軸受け12aを介して取付ブラケット12bに取付けられ、リール13の両側に軸受け12aが位置するようになっている。
【0021】
また、このリール13は、一方の紐状体14を巻取り、リール13から引出された一方の紐状体14の先端は、緊縛具15を介して治療対象者の被牽引部に結合される。
【0022】
そして、径の異なる複数の滑車16が軸方向に一体的に配置され順次取付けられた滑車群体17は、回転軸12がこの滑車群体17の中心を通るように取付けられ、回転軸12の中心線O−Oを軸に、リール13と滑車群体17とが同心状に一体回動可能となっている。
【0023】
また、この滑車群体17における複数の滑車16のうちのいずれか1つには、選択的に他方の紐状体18が、一方の紐状体14を巻取る方向に巻掛けられて下垂されており、さらに、他方の紐状体18の下垂端には重錘19が結合されている。
【0024】
ここで、リール13に対する滑車群体17の回動方向を他方の紐状体18を巻取る方向にのみ回動可能にする例えばワンウェイクラッチ等の回動方向規制手段が設けられると、滑車群体17による他方の紐状体18の巻取りまたはリール13による一方の紐状体14の引出しにより、重錘19または被牽引部の位置を調整できるので好ましい。
【0025】
この医療用牽引機11は、取付ブラケット12bに取付けられた固定部材20を介して例えば万力等の固定具21が取付けられ、この固定具21により例えば手術台等の固定用構造体22に固定される。
【0026】
滑車群体17は、径の異なる複数の滑車16が一体的に配置され順次取付けられて構成されており、滑車16は、外側縁部に環状突起部23a,23bが形成され、これら環状突起部23a,23bの間に溝部25が形成されている。
【0027】
環状突起部23a,23bには、フック係合孔26が円周上に複数設けられ、これらのフック係合孔26の一つに、他方の紐状体18の一端に結合されたフック部材27を係合し、他方の紐状体18は、溝部25において一方の紐状体14を巻取る方向に巻掛けられて、他端側が溝部25から下垂される。
【0028】
ここで、最も径の大きい滑車16においては、両側の環状突起部23a,23bにフック係合孔26が設けられ、最も径の小さい滑車16においては、フック係合孔26は設けられていない。また、その他の滑車16においては、軸方向の外側の環状突起部23bにのみフック係合孔26が設けられる。
【0029】
なお、フック係合孔26を設ける場所については、滑車16に設けられていれば限定されない。
【0030】
また、滑車群体17における滑車16の数は限定されず、滑車16の径の大きさも限定されない。
【0031】
滑車群体17における滑車16それぞれが異なる色に形成されることで、複数の滑車16それぞれを色により確実に識別でき、フック部材27の掛違いを防止できるので好ましい。
【0032】
また、滑車16それぞれが異なる色に形成されていれば、その色は限定されず、色を形成する方法も限定されない。
【0033】
さらに、滑車16それぞれを色により識別できれば、滑車16の一部を滑車16毎にそれぞれ異なる色で形成することも可能である。
【0034】
なお、リール13に巻取られる一方の紐状体14および滑車16に巻掛けられる他方の紐状体18の材質は、滑車としての張力に対する耐久性が満足できるものであれば限定されず、適宜選択できる。
【0035】
次に、上記第1の実施の形態の作用および効果を説明する。
【0036】
図2または図3に示されるように、リール13に巻取られた一方の紐状体14の先端に、緊縛具15を介して治療対象者の被牽引部を結合し、滑車群体17を形成する複数の滑車16のうちのいずれか1つにおけるフック係合孔26に、他方の紐状体18に結合されたフック部材27を係合し、他方の紐状体18が溝部25において、一方の紐状体14を巻取る方向に巻掛けられて、この他方の紐状体18の下垂端に重錘19を結合することで、回転軸12にモーメントを発生させ、この回転軸12およびリール13を介して一方の紐状体14に牽引力を発生させて、例えば橈骨等の骨折治療のための手術中に治療対象者の被牽引部である指先等を牽引し治療の補助をする。
【0037】
そして、医療用牽引機11の牽引力の調整に際しては、滑車群体17は、径の異なる滑車16が一体的に設けられているので、滑車16のフック係合孔26に係合されたフック部材27を、径の異なる滑車16のフック係合孔26に付け替え、その滑車16の溝部25に他方の紐状体18を巻掛けるだけで牽引力の調整ができる。
【0038】
従って、医療用牽引機11では、他方の紐状体18のフック部材27を径の異なる滑車16におけるフック係合孔26に付け替えるのみで容易に牽引力の調整ができ、さらに、重錘19の重量を加減する必要がないので衛生的にも良好である。
【0039】
また、滑車16それぞれを異なる色で形成することで、複数の滑車16それぞれを色によって確実に識別でき、より確実に牽引力の調整ができる。
【0040】
さらに、リール13に対する滑車群体17の回動方向を他方の紐状体18を巻取る方向にのみ回動可能にする回動方向規制手段が設けられることで、滑車群体17を回動させて他方の紐状体18を巻取ることによる重錘19の位置の調整およびリール13を回動させて一方の紐状体14を引出すことによる被牽引部の位置の調整をすることができる。
【0041】
例えば、径の大きな滑車16から径の小さな滑車16にフック部材27を付け替えることやフック部材27を係合するフック係合孔26の位置により、滑車群体17から下垂される他方の紐状体18が長くなり、重錘19が床に付いてしまった場合等に、滑車群体17を回動させて他方の紐状体18を巻取り、重錘19の高さを調整できる。
【0042】
次に、第2の実施の形態を図4を参照して説明する。なお、上記の実施の形態と同一の構成および作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0043】
図4に示すように、滑車群体17における滑車16は、2つの円板部材28の間に円周上に配置された複数の紐状体巻掛部としてのスリーブ29を介し、さらに2つの円板部材28およびスリーブ29を挟むようにネジ30が螺入されることにより形成される。
【0044】
そして、上記のように形成された複数の滑車16を、それぞれ径の異なる円周上に配置された複数のスリーブ29および複数のネジ30により順次固定することで、滑車群体17が形成される。
【0045】
また、円板部材28の間に設けられたスリーブ29は、他方の紐状体18が結合されたフック部材27を係合することができ、さらに他方の紐状体18を巻掛ることができる。
【0046】
なお、複数の円板部材28と、これらの円板部材28の間においてそれぞれ径の異なる円周上に配置された複数のスリーブ29とを具備していれば、滑車群体17の形成方法は限定されない。
【0047】
ここで、スリーブ29の軸方向の長さは、他方の紐状体18のフック部材27が係合できかつ他方の紐状体18を巻掛ることができる長さであれば限定されない。
【0048】
滑車群体17において、複数のスリーブ29がそれぞれ径の異なる円周上に配置されていれば、円板部材28の径の大きさは限定されないが、それぞれ径の異なる円板部材28により段差状の滑車群体17が形成されると、他方の紐状体18のフック部材27がスリーブ29に係合し易いので好ましい。
【0049】
なお、滑車群体17における滑車16の数は限定されず、径の大きさも限定されない。
【0050】
さらに、スリーブ29およびスリーブ29を挟む円板部材28の内側面を、滑車16毎に異なる色で形成すると、滑車16それぞれが色により確実に識別でき、より確実に牽引力の調整ができる。
【0051】
このような、複数の円板部材28とスリーブ29とを具備した滑車群体17が取付けられた医療用牽引機11では、スリーブ29に他方の紐状体18のフック部材27を係合できるので、スリーブ29に係合されたフック部材27を、径の異なる円周上のスリーブ29に付け替えるのみで容易に牽引力の調整をすることができ、さらに、重錘19の重量を加減する必要がないので衛生的にも良好である。
【0052】
また、滑車群体17が容易かつ安価に製造でき、さらに滑車群体17を軽量化できるので医療用牽引機11の操作性を向上できる。
【0053】
次に、第3の実施の形態を図5を参照して説明する。なお、上記の実施の形態と同一の構成および作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0054】
図5に示されるように、2つの円板部材28の間に紐状体巻掛部としてのスリーブ29を介して円周上に配置されたネジ32を1方向にのみ螺入することで、2つの円板部材28が固定されて滑車16が形成されている。
【0055】
また、上記のように形成された複数の滑車16を、スリーブ29を介してそれぞれ径の異なる円周上に配置された複数のネジ30を1方向にのみ螺入して順次固定することで、滑車群体17が形成される。
【0056】
ここで、ネジ32の頭部33の上端部34は、隣接する滑車16の円板部材28に近接するように配置される。
【0057】
このように、ネジ32の頭部33の上端部34が、隣接する滑車16の円板部材28に近接することで、ネジ32が緩んでしまった場合でも、緩む範囲を円板部材28により規制でき、ネジ32が脱落するおそれを防止できる。
【0058】
さらに、1方向からのみネジ32を螺入することで複数の滑車16を順次固定して滑車群体17が形成できるので、より容易かつ安価に医療用牽引機11が製造できる。
【0059】
また、この第3の実施の形態ではスリーブ29を紐状体巻掛部としたが、スリーブ29を円板部材28の間に設けずに、ネジ32を紐状体巻掛部とすることも可能である。なおこのようにスリーブ29を設けない場合は、ネジ32の頭部33により円板部材28の間のスペースを確保し、ネジ32が固定できる。
【0060】
次に、第4の実施の形態を図6を参照して説明する。なお、上記の実施の形態と同一の構成および作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0061】
この図6に示された医療用牽引機11は、例えば切削加工、鋳造等により、1つの母材に径の異なる複数の滑車16が一体成形されて、一体物の滑車群体17が形成されている。
【0062】
このような滑車群体17では、滑車16が一体成形されているので、滑車16を相互に固定する必要が無く、組み付けが容易である。
【0063】
本発明は、例えば手術等の治療の補助をする滑車を用いた医療用牽引機に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の医療用牽引機を示す一部を切り欠いた正面図である。
【図2】同上医療用牽引機を固定用構造物に取付けた状態を示す側面図である。
【図3】同上医療用牽引機の反対側を示す側面図である。
【図4】本発明に係る第2の実施の形態の医療用牽引機を示す正面図である。
【図5】本発明に係る第3の実施の形態の医療用牽引機を示す正面図である。
【図6】本発明に係る第4の実施の形態の医療用牽引機を示す正面図である。
【図7】従来の医療用牽引機の牽引状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0065】
11 医療用牽引機
12 回転軸
13 リール
14 一方の紐状体
16 滑車
17 滑車群体
18 他方の紐状体
19 重錘
28 円板部材
29 紐状体巻掛部としてのスリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定位置に回動自在に保持される回転軸と、
この回転軸に一体に回動可能に取付けられたリールと、
このリールにより巻取られるとともにリールから引出された先端が治療対象者の被牽引部に結合された一方の紐状体と、
前記リールと一体に回動可能に前記回転軸に取付けられるとともに径の異なる複数の滑車が軸方向に一体的に設けられた滑車群体と、
この滑車群体における複数の滑車のうちのいずれか一つに前記一方の紐状体を巻取る方向に巻掛けられて下垂される他方の紐状体と、
この他方の紐状体の下垂端に結合された重錘と
を具備したことを特徴とする医療用牽引機。
【請求項2】
滑車郡体は、
複数の円板部材と、
これらの円板部材の間においてそれぞれ径の異なる円周上に配置された複数の紐状体巻掛部と
を具備したことを特徴とする請求項1記載の医療用牽引機。
【請求項3】
複数の滑車は、それぞれ異なる色に形成された
ことを特徴とする請求項1または2記載の医療用牽引機。
【請求項4】
リールに対する滑車群体の回動方向を他方の紐状体を巻取る方向にのみ回動可能にする回動方向規制手段が設けられた
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の医療用牽引機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−295974(P2008−295974A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154085(P2007−154085)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(595120806)株式会社エム・イー・システム (6)
【Fターム(参考)】