説明

医療用複室容器、薬剤入り医療用複室容器、該医療用複室容器の製造方法

【課題】複雑な構造の部材を用いなくても混合前の薬剤の誤投与を防ぐことができ、複数の薬剤の混合及び排出をより確実かつ容易に行うことができる医療用複室容器及び薬剤入り医療用複室容器、該医療用複室容器の製造に適した製造方法の提供。
【解決手段】可撓性フィルム11、12で構成され、弱シール部13により区画された薬剤収納室14、15が一定方向に配列している容器本体10と、両端に開口が設けられた中空部21を有する略円筒状の排出口部材20と、所定の大きさの先端面21を有し、全長が所定の長さである挿入部材30と、排出口部材20の容器本体10外側の開口を閉栓する栓部材40とを備え、挿入部材30の先端面21側が、排出口部材20の第一の薬剤収納室14側の開口から中空部21に挿入されている医療用複室容器1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱シール部により区画された複数の薬剤収納室を備える医療用複室容器、該医療用複室容器の薬剤収納室に薬剤を収納した薬剤入り医療用複室容器、ならびに該医療用複室容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミン剤等を生理食塩水に混合して患者に注射または点滴する等、複数の薬剤を混合した薬液を患者に投与することが行われている。
複数の薬剤を混合する場合、組み合わせる薬剤の種類によっては、予め混合しておくと変質することがある。従来、変質の可能性のある薬剤を組み合わせる場合には、使用直前にガラス容器中の薬剤に対して別の薬剤を注射器等で注入し混合していた。しかし、このような混合作業では、混合比率を間違えたり、混合し忘れたりするという人的ミスを生じるおそれがあった。このような人的ミスを回避するために、簡易な方法により薬剤の混合を正確に行う技術が要請されていた。
【0003】
こうした要請に対し、容器本体の内部を弱シール部により区画して複数の薬剤収納室を設け、該複数の薬剤収納室に、複数の薬剤をそれぞれ混合することなく収容した医療用複室容器が提案されている(例えば、特許文献1)。このような医療用複室容器の容器本体には通常、薬液の排出口となる口部材が、複数の薬剤収納室のうちの1つに連通して液密に取り付けられており、該口部材から薬液を排出できるようになっている。
該医療用複室容器においては、使用する際に外部から薬剤収納室に圧力を加えることで、各薬剤収納室を区画する弱シール部を剥離し、結果、各薬剤収納室に収容された薬剤が混合される。そのため、該医療用複室容器を用いることで、複数の薬剤を正確な混合率で混合することができ、また、その混合作業の簡易化が図れる。しかし、該医療用複室容器を用いる場合、弱シール部を剥離し忘れたまま注射や点滴を行ってしまうおそれがある。また、弱シール部を剥離させるために圧力を加えた場合でも、目視では剥離したかどうかを確認しにくいため、弱シール部が剥離していない状態で注射や点滴を行ってしまうおそれがある。
このような問題に対して種々の検討がなされている。例えば特許文献2には、プラスチックフィルムにて形成され、内部空洞を弱シール部により複数の隔室に区画された薬剤バッグと、複数の隔室の一つを臨ませつつ外周が薬液バッグに流密装着された排出口と、通常状態において前記排出口を閉鎖するように貼着された剥離膜とを具備し、該剥離膜が、薬剤バッグの対向面に、排出口に対する剥離膜の貼着より強固に貼着された薬剤収納封止体が開示されている。
また、特許文献3には、薬剤を収納する収納室から薬剤を排出する開口を有する薬剤排出部の前記開口を塞ぐ開封防止部材を備える医療用複室容器が開示されており、該開封防止部材は、ゴム栓を塞ぐ本体部と、当該本体部に連結され前記収納室を挟持する一対の挟持部と、当該一対の挟持部の挟持状態を保持する保持手段とを備え、前記収納室内の圧力が高まると前記保持手段による挟持状態が解除され、前記開封防止部材が前記薬剤排出部から離脱可能となるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−111818号公報
【特許文献2】特開2006−020964号公報
【特許文献3】特開2006−150120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の薬剤収納封止体においては、通常は剥離膜によって排出口が閉鎖され、薬剤バッグから排出口への薬剤の排出が阻止される一方、該剥離膜が薬剤バッグを構成するプラスチックフィルムの対向面に強固に粘着されていることから、弱シール部が剥離して薬剤バッグが拡開変形すると、薬剤バッグと一体に剥離膜が変位して排出口より剥離され、薬剤の排出が可能となるとされている。しかしながら、この薬剤収納封止体においては、排出口を、一般的に用いられている略筒状のものに比べて複雑な構造とすることが必要で、製造に手間やコストがかかる等の問題がある。
特許文献3記載の医療用複室容器においては、薬剤排出部(排出口)に、その開口を塞ぐ開封防止部材を取り付けるとともに、使用時に仕切り用封止部を開封するに際し、容器本体を押圧して収納室内の圧力が高まったときに薬剤排出部から開封防止部材が離脱可能となるように構成していることから、仕切り用封止部を開封する前に、薬剤排出部の開口が開封されるのを防止することができるとされている。しかしながら、この薬剤収納封止体においては、複雑な構造の開封防止部材が必要で、製造に手間やコストがかかる等の問題がある。また、該開封防止部材は、排出口および容器本体の外側を挟持するように取り付けられているため、薬剤の混合前に外から手ではずすことができてしまい、また、輸送時や保管時に衝撃等によりはずれるおそれもある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、複雑な構造の部材を用いなくても混合前の薬剤の誤投与を防ぐことができ、複数の薬剤の混合および排出をより確実かつ容易に行うことができる医療用複室容器および薬剤入り医療用複室容器、ならびに該医療用複室容器の製造に適した製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]対向する一対の可撓性フィルムで構成され、剥離可能な弱シール部により区画された複数の薬剤収納室が一定方向に配列している容器本体と、両端に開口が設けられた中空部を有する略円筒状の排出口部材と、前記排出口部材の前記容器本体外側の開口を閉栓し、使用時に前記容器本体内の薬剤を排出する排出手段が接続される栓部材と、を備える医療用複室容器であって、
前記排出口部材は、前記複数の薬剤収納室のうち配列方向末端にある第一の薬剤収納室と前記容器本体の外とを連通するように、前記第一の薬剤収納室側の末端にて前記容器本体の周縁部に取り付けられており、
さらに、一端が前記排出口部材の前記第一の薬剤収納室側の開口から前記中空部に挿入された挿入部材を備え、
前記挿入部材の挿入側の先端面が、前記栓部材の表面の前記排出手段が接続される領域と同等以上の大きさで形成されており、
前記排出口部材の軸方向における前記挿入部材の全長が、当該医療用複室容器を前記排出口部材が取り付けられた位置が下方となるように設置した際の、前記先端面が到達可能な最下端の位置Pから前記第一の薬剤収納室の上端の位置Pまでの薬剤未充填時の高さよりも短く、且つ前記挿入部材を設けずに前記第一の薬剤収納室に薬剤を充填した時の前記位置Pから前記位置Pまでの高さ以上であることを特徴とする医療用複室容器。
[2]前記挿入部材の見かけ密度が、前記複数の薬剤収納室にそれぞれ充填される複数の薬剤を混合した混合薬剤の密度未満である、[1]に記載の医療用複室容器。
[3]前記排出口部材の内周面には、前記挿入部材が前記容器本体外側の開口から抜け出すのを防止するための突出部が設けられている、[1]または[2]に記載の医療用複室容器。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載の医療用複室容器に薬剤を充填した、薬剤入り医療用複室容器。
[5][3]に記載の医療用複室容器を製造する方法であって、
対向する一対の可撓性フィルムを重ね合わせ、前記排出口部材の取り付け位置以外の周縁部を剥離不能にヒートシールし、前記複数の薬剤収納室を区画する位置に、剥離可能な弱シール部を形成して、前記容器本体を作製する工程(1)、
前記挿入部材の前記先端面側の末端を、前記排出口部材の前記第一の薬剤収納室側の開口から前記中空部に挿入して該先端面を前記突出部に当接させ、その状態で、前記排出口部材を前記取り付け位置にて前記容器本体内に挿入する工程(2)、
前記取り付け位置の前記容器本体の内面と前記排出口部材の外周面とを剥離不能にヒートシールする工程(3)、
前記排出口部材の、前記容器本体の外側の開口を前記栓部材で閉栓する工程(4)、
を含む製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、混合前の薬剤の誤投与を防ぐことができ、複雑な構造の部材を用いなくても複数の薬剤の混合および排出をより確実かつ容易に行うことができる医療用複室容器および薬剤入り医療用複室容器、ならびに該医療用複室容器の製造に適した製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1(a)は、本発明の第一の実施形態の医療用複室容器1に薬剤を充填し、排出口部材20が取り付けられた側が下方となるように設置した状態を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)中の位置X−X’における縦断面図である。
【図2】図2は、医療用複室容器1が備える排出口部材20および挿入部材30の拡大斜視図である。
【図3】図3(a)は、医療用複室容器1を、排出口部材20が取り付けられた位置が下方となるように設置した際の、薬剤未充填時における第一の薬剤収納室14付近の拡大断面図であり、図3(b)は、挿入部材30を設けずに薬剤を充填した時の第一の薬剤収納室14付近の拡大断面図である。
【図4】図4(a)は、薬剤充填後、外方から圧力を加えて弱シール部を剥離して第一の薬剤収納室14と第二の薬剤収納室15とを開通させた後の医療用複室容器1が、排出口部材20が取り付けられた側が下方となるように設置された状態を示す斜視図であり、図4(b)は、図4(a)に示す状態の医療用複室容器1の縦断面図である。
【図5】図5は、医療用複室容器1を製造する方法の一例を説明する概略工程図である。
【図6】図6は、本発明の第二の実施形態の医療用複室容器1が備える挿入部材30’の拡大斜視図である。
【図7】図7(a)は、医療用複室容器1’が備える排出口部材20’の拡大斜視図であり、図7(b)は、図7(a)中の位置A−A’における縦断面図である。
【図8】図8は、医療用複室容器1’を製造する方法の一例を説明する概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の医療用複室容器について、実施形態例を示して説明する。ただし本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
[第一の実施形態]
図1に、本実施形態の医療用複室容器1を示す。図1(a)は、医療用複室容器1に薬剤を充填し、排出口部材20が取り付けられた側が下方となるように、例えば点滴スタンド等のフックにつり下げて設置した状態を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)中の位置X−X’における縦断面図である。図1には、第一の薬剤収納室14、第二の薬剤収納室15それぞれに、薬剤として、第一の薬液L、第二の薬液Lを充填した状態を示している。
また、図2は、医療用複室容器1が備える排出口部材20および挿入部材30の拡大斜視図である。
図3(a)は、医療用複室容器1を、排出口部材20が取り付けられた位置が下方となるように設置した際の、薬剤未充填時における第一の薬剤収納室14付近の拡大断面図であり、図3(b)は、挿入部材30を設けずに薬剤を充填した時の第一の薬剤収納室14付近の拡大断面図である。
図4(a)は、薬剤充填後、外方から圧力を加えて弱シール部を剥離して第一の薬剤収納室14と第二の薬剤収納室15とを開通させた後の医療用複室容器1が、図1に示すように、排出口部材20が取り付けられた側が下方となるように設置された状態を示す斜視図であり、図4(b)は、図4(a)に示す状態の医療用複室容器1の縦断面図である。
【0011】
医療用複室容器1は、対向する一対の略長方形の可撓性フィルム11、12で構成された容器本体10と、略円筒状の排出口部材20と、挿入部材30と、栓部材40とを備える。
容器本体10には、可撓性フィルム11の内面と可撓性フィルム12の内面とが剥離可能にシールされてなる弱シール部13が、該容器本体10の短手方向に直線状に設けられ、該弱シール部13により容器本体10の内部が第一の薬剤収納室14と第二の薬剤収納室15とに区画されている。第一の薬剤収納室14および第二の薬剤収納室15は、容器本体10の長手方向に配列している。
弱シール部13では、第一の薬剤収納室14、第二の薬剤収納室15のそれぞれに薬剤が収納された状態で、第一の薬剤収納室14、第二の薬剤収納室15の一方または両方に対して外方から力を加えると、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とが剥離するようになっている。
容器本体10の下端側の周縁部には排出口部材20が取り付けられ、排出口部材20の取り付け位置以外の周縁部では、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12とが剥離不能に融着されている。容器本体10の上端側の周縁部には円形の吊孔16が設けられている。
本明細書においては、容器本体10の長手方向、つまり複数の薬剤収納室14、15の配列方向の末端のうち、排出口部材20が取り付けられる第一の薬剤収納室14側の末端を下端といい、第二の薬剤収納室15側の末端を上端という。
【0012】
排出口部材20は、略円筒状であり、両端に開口を備えて内部を連通する中空部21を有している。排出口部材20の両端の開口は、第一の薬剤収納室14の内側の端面22側の開口と、容器本体10の外側の端面23側の開口であり、端面23側の開口は栓部材40により閉栓されている。
排出口部材20は、端面22側の直筒部24と、端面23側の開口から栓部材40が嵌合する嵌合部25とから構成される。
嵌合部25は、栓部材40に対応した形状であり、栓部材40を嵌合部25と直筒部24との境界まで嵌合することができ、これにより、中空部21を液密に閉鎖できるようになっている。
【0013】
排出口部材20は、第一の薬剤収納室14と容器本体10の外とを連通するように、容器本体10の下端側にて容器本体10の周縁部に取り付けられている。具体的には、排出口部材20の直筒部24の外周面を、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12との間に狭持し、熱溶着により剥離不能に接着することで、該外周面が容器本体10の内面と接着されている。
【0014】
栓部材40は、薬剤充填後の医療用複室容器1の使用前(輸送・保管時等)には容器本体10内の薬剤の流出を阻止し、使用時には刺栓針や専用のアダプター等の排出手段の接続によって容器本体10内の薬剤を排出できるようにするものであり、たとえばゴム栓等が挙げられる。
栓部材40の、容器本体10外側に露出する表面は、剥離可能な保護フィルムで被覆されてもよい。
【0015】
挿入部材30は、一端に先端面31が形成された略円柱状の部材であり、先端面31側の末端が、排出口部材20の端面22側の開口から中空部21内に挿入されている。
挿入部材30の外周面の、中空部21内に挿入される部分の外形は、排出口部材20の内形に対応する形状で、中空部21内への挿入時に内周面との間に隙間が生じる寸法で形成されている。これにより、先端面31が栓部材40と密着する位置まで挿入部材30を挿入可能となっている。また、該中空部21内に挿入された挿入部材30が、排出口部材20の軸方向に摺動可能となっている。該隙間の大きさは、0.1〜1.0mmが好ましく、0.2〜0.5mmがより好ましい。該範囲の下限値以上であると、充分な摺動性が確保でき、上限値以下であると、栓部材40に刺栓針を刺入した際に、該隙間に刺栓針が入り込んで突出するのを防ぐことができ、排出口部材20に挿入部材30が挿入された状態での容器本体10の外への薬剤の排出を防止することができるなお、医療用複室容器1を加熱殺菌する場合、上述した隙間の大きさは、加熱殺菌後においての大きさである。
先端面31は、栓部材40の表面の、前記排出手段が接続される領域と同等以上の大きさで形成されている。薬剤充填後の医療用複室容器1の栓部材40に排出手段、たとえば刺栓針を刺入し、その先端を中空部21内に突出させることで、容器本体10内の薬剤が、該刺栓針を通じて容器本体10外に排出される。したがって、「排出手段が接続される領域」の外縁は、栓部材40を端面22側から見た場合に中空部21に露出している部分の外縁と略一致する。ただし刺栓針は通常、栓部材40の容器本体10外側の表面の中心付近の一定領域内に刺入されるため、排出手段が接続される領域の外縁は、必ずしも前記露出している部分の外縁と完全に一致している必要はなく、それよりも内側にあってもよい。
【0016】
挿入部材30の、先端面31が形成された側とは反対側の端部32は、図1(b)に示すように、容器本体10の厚み方向における断面形状が、その先端33にかけて次第に幅狭となる略テーパー形状で、先端33は、容器本体10の厚み方向における幅が先端面31の直径よりも狭くなっている。また、先端33は曲面となっている。
先端33は、詳しくは後述するが、第一の薬剤収納室14に薬剤を充填した際に、第一の薬剤収納室14の上端、つまり弱シール部13の下端に接することとなる。そのため、容器本体10の厚み方向における先端33の幅が広い場合や先端33が尖っている場合、先端33が弱シール部13と接触した際にその圧力で弱シール部13が剥離しやすくなるおそれがある。先端33を上記のような形状とすることで、弱シール部13の意図しない剥離を防止できる。
【0017】
挿入部材30は、排出口部材20の軸方向における全長Dが、当該医療用複室容器1を排出口部材20が取り付けられた位置が下方となるように設置した際の、図3(a)に示す高さh1、すなわち先端面31が到達可能な最下端の位置Pから第一の薬剤収納室14の上端の位置Pまでの薬剤未充填時の高さh1よりも短く、且つ図3(b)に示す高さh2、すなわち挿入部材30を設けずに第一の薬剤収納室14に薬剤を充填した時の前記位置Pから前記位置Pまでの高さh2以上である必要がある。
全長Dは、図3(a)に示す高さh4、すなわち端面22の位置、つまり排出口部材20の上端の位置Pから前記位置Pまでの薬剤未充填時の高さh4よりも長いことが好ましい。
全長Dは、特に、図1(b)に示す高さh3、すなわち挿入部材30を設けて第一の薬剤収納室14に薬剤を充填した時の前記位置Pから前記位置Pまでの高さh3と等しい長さであることが好ましい。
【0018】
全長Dが上記長さであることで、挿入部材30は、当該医療用複室容器1に薬剤を充填した際に、先端面31が栓部材40の上面と当接し、先端33が第一の薬剤収納室14の上端に当接するようになっている。
これにより、弱シール部13の剥離前の状態、つまり第一の薬剤収納室14に収納された薬剤と第二の薬剤収納室15に収納された薬剤とが未混合の状態での医療用複室容器1からの薬剤の排出が実質的に阻止される。すなわち、挿入部材30の先端面31が栓部材40の上面と当接していることで、栓部材40の下面から刺栓針を刺入した際に、刺栓針は栓部材40の上面を超えて刺入されることはないため、薬剤の未混合状態における医療用複室容器1からの薬剤の排出が実質的に阻止される。実質的に阻止されるとは、薬剤の排出が完全に阻止される場合だけでなく、薬剤がわずかに排出されるものの、その排出速度が、点滴するには相当に不充分な速度となる程度にまで抑制される場合も含む。
第一の薬剤収納室14に薬剤を充填した際に、挿入部材30が設けられていない場合の高さh2は一定であるが、挿入部材30が設けられている場合の高さh3は、高さh2と同じ長さであるか、挿入部材30がそれよりも長い場合は、挿入部材30により第一の薬剤収納室14は長手方向に引っ張られ、上記位置Pが低い位置となる。つまり、高さh2は、挿入部材30を設けて第一の薬剤収納室14に薬剤を充填した時の前記位置Pから前記位置Pまでの高さh3と同じかそれよりも短い。また、第一の薬剤収納室14に薬液Lを充填していくと、第一の薬剤収納室14の厚みが厚くなるため、前記位置Pから前記位置Pまでの高さは、次第に、薬剤未充填時の高さh1よりも低くなっていくため、高さh3は高さh1よりも短い。そのため、高さh1〜h3は、h1>h3≧h2の関係にある。
そのため、第一の薬剤収納室14に薬剤(薬液L)を充填する前は、たとえば先端33が弱シール部13の下端と当接する位置に挿入部材30を配置した場合には、先端面31と栓部材40の上面との間に隙間が存在しており、挿入部材30は、先端33が弱シール部13の下端と当接する位置から、先端面31が栓部材40の上面と当接する位置までの範囲内にて、排出口部材20の軸方向に摺動可能である。
この医療用複室容器1の第一の薬剤収納室14に薬液Lを充填していくと、上述したように、前記位置Pから前記位置Pまでの高さが次第に低くなっていく。前記位置Pから前記位置Pまでの高さが低くなるにつれて、挿入部材30が、弱シール部13によって栓部材40方向に押しつけられ、薬液Lの充填完了時には、図1(b)に示すように、挿入部材30の先端面31が栓部材40の上面と密着する。この状態では、先端面31によって刺栓針の刺入が阻止されるため、薬液Lは排出されない。
【0019】
上記のように挿入部材30の先端面31が栓部材40の上面と密着した状態の医療用複室容器1の第一の薬剤収納室14、第二の薬剤収納室15のいずれか一方または両方に外方から圧力を加えると、その押圧により可撓性フィルム11の内面と可撓性フィルム12の内面との弱シール部13が剥離する。弱シール部13が剥離すると、第一の薬剤収納室14と第二の薬剤収納室15とが開通し、各薬剤収納室14、15内の薬液L、Lが混合され、混合薬液Lが調製される。
また、弱シール部13が剥離すると、挿入部材30が上方に移動可能となり、刺栓針の刺入が可能となる。そのため、弱シール部13の剥離後、刺栓針を刺入すると、その先端により挿入部材30が上方に押し上げられ、最終的には排出口部材20からはずれて端面22側の開口が露出した状態となる。そのため、刺栓針を介して、容器本体10内で調製された混合薬液Lを排出させ、点滴などにより患者に投与することが可能となる。
このように、医療用複室容器1においては、弱シール部13が剥離していない状態では、挿入部材30により刺栓針を侵入が阻止されるため、第一の薬剤収納室14内の薬液Lは排出されず、薬剤の未混合による誤投与を防止できる。
また、医療用複室容器1を用いる場合、従来提案されているように排出口部材の第一の薬剤収納室内の開口を剥離膜で閉鎖する場合や開封防止部材を設ける場合に比べて、特殊な構造の部材を必要としない。また、剥離膜が充分に剥離しない等の不具合が生じず、使用時に余分な手間がかからない。また、弱シール部13が未剥離の状態で、外側からの力で開封防止部材が外れる等の不具合が生じるおそれもない。
【0020】
本発明においては、特に、挿入部材30の見かけ密度が混合薬液L、つまり第一の薬剤収納室14、第二の薬剤収納室15にそれぞれ充填される複数の薬剤を混合した混合薬剤の密度未満であることが好ましい。
この場合、弱シール部13の剥離および混合薬液Lの調製と同時に、挿入部材30が混合薬液L中を浮上し、刺栓針を刺入しなくても、排出口部材20からはずれる。
挿入部材30の見かけ密度が混合薬液Lの密度未満である場合、挿入部材30の全長Dは、さらに、第一、第二の薬剤収納室14、15それぞれに充填した薬剤が弱シール部13の剥離により混合して混合薬液Lが調製された際の、該混合薬液Lの最上面(液面)の位置における容器本体10内側の幅よりも短いことが好ましい。これにより、図4に示すように、浮上した挿入部材30が最終的に混合薬液Lの液面に浮いた状態となるため、混合薬液Lが透明である場合でも、容器本体10の外側から混合薬液Lの残存量を容易に視認できる。
【0021】
上記高さh2、h3の値は、それぞれ、高さh1、第一の薬剤収納室14の容量、第一の薬剤収納室14への薬液Lの充填量等によって異なるが、実際に使用する条件で予備実験を行うことで求めることができ、その値から挿入部材30の全長Dを設定すればよい。
第一、第二の薬剤収納室14、15にそれぞれ充填される薬剤を混合した混合薬剤の密度は、第一の薬剤収納室14に充填する薬液Lおよびその充填量ならびに第二の薬剤収納室15に充填する薬液Lおよびその充填量によって異なるが、実際に使用する条件で予備実験を行うことで求めることができ、その値から挿入部材30の見かけ密度の上限を設定すればよい。
混合薬剤の密度は、比重びんを使って常法により、またはJIS Z8804で規定される浮ひょうにより求められる。
【0022】
上記医療用複室容器1において、可撓性フィルム11としては、医療用容器の分野で用いられている合成樹脂のフィルムが使用できる。一般に、容器本体10内に収納された薬剤を視認できる程度の透明性を有するものが使用される。
医療用容器の分野で用いられる合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルサルホン、エチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらのなかでも、透明性、柔軟性及び衛生性に優れ、低コストである点から、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂、エチレン−αオレフィンランダム共重合体等のオレフィン系エラストマー、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、α−オレフィン−プロピレンランダム共重合体等のポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、これらのいずれか2種以上の混合物等が挙げられる。
これらの合成樹脂は、耐熱性向上等を目的として一部架橋されていてもよい。
可撓性フィルム11は、単層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよい。
可撓性フィルム11の厚みは、50〜1000μm程度が好ましく、100〜500μm程度がより好ましい。
【0023】
可撓性フィルム12としては、可撓性フィルム11と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
可撓性フィルム11を構成する材質と可撓性フィルム12を構成する材質とは異なっていても同じであってもよいが、熱溶着が容易である点から、少なくとも容器本体10の内面が同種の合成樹脂からなるフィルムであることが好ましい。
【0024】
排出口部材20を構成する材料としては、特に限定されず、公知のものが利用できる。該材料としては合成樹脂が一般的に使用され、該合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルサルホン、エチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらのなかでも、衛生性に優れ、低コストである点から、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂、エチレン−αオレフィンランダム共重合体等のオレフィン系エラストマー、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、α−オレフィン−プロピレンランダム共重合体等のポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、これらのいずれか2種以上の混合物等が挙げられる。
これらの合成樹脂は、性能向上のためにブレンドされていてもよく、耐熱性向上等を目的として一部架橋されていてもよい。
排出口部材20は、直筒部24の外周面をヒートシールにより容器本体10の内面と接着させる観点から、少なくとも直筒部24が合成樹脂製であることが好ましく、成形性等を考慮すると、排出口部材20全体が合成樹脂製であることが特に好ましい。
直筒部24は、単一の材料から構成される単層構造であってもよく、複数の合成樹脂層からなる多層構造であってもよい。
直筒部24を構成する合成樹脂としては、熱溶着による接着が容易であり、接着強度も高いことから、容器本体10の内面を構成する合成樹脂と同種の合成樹脂が好ましい。
排出口部材20は、直筒部24のみが合成樹脂製であっても、排出口部材20全体が合成樹脂製であってもよい。また、排出口部材20の直筒部24、嵌合部25それぞれの部分を、それぞれ異なる合成樹脂、または合成樹脂以外の材料で形成してもよい。
排出口部材20は、射出成形などの公知の成型方法により作製できる。
【0025】
挿入部材30は、上述したように、見かけ密度が、第一、第二の薬剤収納室14、15にそれぞれ充填される薬剤を混合した混合薬剤の密度未満であることが好ましい。医療用複室容器を用いて投与される薬剤の多くが希薄な水溶液であるため、該見かけ密度は、水の密度である1.0g/cm未満であることが好ましく、特に、該混合薬剤の液面に完全に浮上するような低密度のものが好ましい。
本明細書および特許請求の範囲において、「見かけ密度」は、挿入部材30の質量[g]を、挿入部材30の見かけの体積[cm]で除した値であり、挿入部材30の見かけの体積は、水中置換により求められる。
挿入部材30の見かけ密度を前記混合薬剤の密度未満とする方法としては、たとえば、挿入部材30を、密度が前記混合薬剤の密度未満の材料を用いて形成する方法が挙げられる。たとえば密度が1.0g/cm未満の材料としては、たとえば後述するポリオレフィン樹脂が好ましい。また、多孔質体としたり、内部を空洞にする場合は、密度が前記混合薬剤の密度未満のものに限らず、密度が前記混合薬剤の密度以上の材料も使用できる。
【0026】
挿入部材30を構成する材料としては、成形性、剛性、耐熱性等の点から、合成樹脂が好ましい。該合成樹脂としては、前記排出口部材20の説明で挙げた合成樹脂と同様のものが挙げられる。それらのなかでも、密度が1.0g/cm未満の合成樹脂が好ましく、密度が1.0g/cm未満のポリオレフィン樹脂がより好ましい。該ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂としては、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。
挿入部材30は、射出成形などの公知の成型方法により作製できる。
【0027】
医療用複室容器1の第一の薬剤収納室14、第二の薬剤収納室15それぞれに薬剤を充填することで、薬剤入り医療用複室容器とすることができる。
第一の薬剤収納室14に収納する薬剤(以下、第一薬剤ということがある。)としては、液体の薬剤(薬液)が用いられる。
第二の薬剤収納室15に収納する薬剤(以下、第二薬剤ということがある。)は、流動性を有するものであればよく、液体でも粉体でもよい。
第一薬剤、第二薬剤の充填量は、各薬剤の種類に応じて決定できる。
【0028】
医療用複室容器1の製造方法としては、特に限定されないが、たとえば下記の製造方法(I)が挙げられる。該製造方法について、図5を用いて説明する。
対向する一対の可撓性フィルム11、12を重ね合わせ、排出口部材20の取り付け位置17以外の周縁部を剥離不能にヒートシールし、第一の薬剤収納室14と第二の薬剤収納室15とに区画する位置に、剥離可能な弱シール部13を形成して、容器本体10を作製する工程(I−1)、
排出口部材20を、前記取り付け位置17にて容器本体10内に挿入する工程(I−2)、
前記取り付け位置17の容器本体10内面と排出口部材20の直筒部24の外周面とを剥離不能にヒートシールする工程(I−3)、
前記排出口部材20の端面23側の開口から挿入部材30を挿入し、最後に該開口を栓部材40で閉栓する工程(I−4)、
を含む製造方法。
【0029】
ここで、「剥離不能」は、当該薬剤入り医療用複室容器を外側から押圧した際に剥離しない強度で接着していることを示す。該強度は、例えば15mm幅の短冊を用いた剥離試験(JIS Z0238)により測定されるヒートシール強さとして、20〜30N/15mmが好ましく、23〜25N/15mmがより好ましい。容器本体10の周縁部における可撓性フィルム11と可撓性フィルム12との間のヒートシール強さ、容器本体10と排出口部材20との間のヒートシール強さは、それぞれ、剥離不能な範囲であれば、同じであっても異なっていてもよい。
「剥離可能」は、当該薬剤入り医療用複室容器を外側から押圧した際に剥離する強度で接着していることを示す。該強度は、例えば15mm幅の短冊を用いた剥離試験(JIS Z0238)により測定されるヒートシール強さとして、2.0〜5.0N/15mmが好ましく、2.5〜3.0N/15mmがより好ましい。
なお、ヒートシール強さに関しては、剥離強度または接着強度という場合がある。
ヒートシール強さは、ヒートシールの温度および圧力などの条件を変更することにより調整できる。また、弱シール部13のヒートシール強さを剥離可能な強度とする別の方法として、たとえば、容器本体10の内面側に、ポリエチレンとポリプロピレンとの混合物等の、融点や相溶性の異なる樹脂混合物からなる層を形成させた合成樹脂フィルムを用いて、高融点の樹脂の溶融温度以下の温度でシールする方法が挙げられる。また、ヒートシールを低温で行い、半溶着状態で弱接着させる方法、弱シール部13の形成部分に予め電子線等で架橋した可撓性材料を用いる方法、強溶着部分を特定の面積割合で発生させるシールバーを用いる方法、可撓性フィルム11と可撓性フィルム12との間に易剥離性の樹脂テープを挟む方法等が挙げられる。
また、ヒートシールによる接着方法の他、インパルスシールや接着剤を用いたシールによる接着方法により弱シール部を形成してもよい。
【0030】
上記工程(I−1)にて作製される容器本体10は、第二の薬剤収納室15に薬剤を充填するための充填予定部19が、容器本体10の上端側の周縁部から突出して設けられている。
該容器本体10においては、充填予定部19を設けることで、図5(a)中の点線の位置でカットした際、第二の薬剤収納室15と容器本体10の外とを連通する開口部が形成されるようになっている。
また、容器本体10の、排出口部材20の取り付け位置17は、排出口部材20の直筒部24が挿入できる大きさで形成されている。
【0031】
上記工程(I−4)の前および/または後、第一の薬剤収納室14、第二の薬剤収納室15にそれぞれ第一薬剤、第二薬剤を充填することにより、医療用複室容器1に薬剤を充填した薬剤入り医療用複室容器を得ることができる。
第二の薬剤収納室15への第二薬剤の充填は、容器本体10の上縁部に設けた充填予定部19から行われる。充填予定部19は、図7(a)中に点線で示す位置をそれぞれカットされ、第二薬剤が注入された後、剥離不能にヒートシールされる。第二の薬剤収納室15への第二薬剤の充填は、工程(I−4)の前に行っても後に行ってもよい。
第一の薬剤収納室14への第一薬剤の充填は、たとえば、工程(I−4)の前に、容器本体10を、排出口部材20が設けられた側が上方になるように配置し、排出口部材20の端面23側の開口から第一薬剤を注入することにより実施できる。その後工程(I−4)を行うことで、該開口が液密に閉鎖される。また、工程(I−4)の後、栓部材40および挿入部材30を取り外して第一薬剤を充填してもよい。
なお、挿入部材30を挿入した後、栓部材40で閉栓されていない状態で、排出口部材20を、第一の薬剤収納室14へ第一薬剤を充填するための薬剤注入手段として使用することもできるが、第一の薬剤収納室14への第一薬剤の充填が進むにつれて、前記位置Pから前記位置Pまでの高さが低くなり、挿入部材30が弱シール部13により押し下げられて、挿入部材30の先端面31が排出口部材20の端面23側の開口に近づくため、挿入部材30の挿入されていない状態で第一薬剤の充填を行うことが好ましい。
また、充填予定部19と同様に、第一の薬剤収納室14に薬剤を充填するための充填予定部を、容器本体10の側端側の周縁部に設けてもよい。
得られた薬剤入り医療用複室容器に対し、滅菌処理を行ってもよい。滅菌処理としては、通常、高圧蒸気による加熱滅菌処理が行われる。
【0032】
[第二の実施形態]
次に、本発明の第二の実施形態の医療用複室容器1’について説明する。なお、以下に記載する実施形態において、第一実施形態に対応する構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
本実施形態の医療用複室容器1’は、挿入部材30の代わりに、下記の挿入部材30’を備え、排出口部材20の代わりに、下記の排出口部材20’を備える以外は、第一の実施形態の医療用複室容器1と同様の構成である。
挿入部材30’は、先端面31が形成された側とは反対側の端部32’が、容器本体10の厚み方向における断面形状がその先端33’にかけて次第に幅狭となる略テーパー形状で、先端33’の容器本体10の厚み方向における幅が先端面31の直径よりも狭くなっている以外は、挿入部材30と同様の構成の挿入部材である。
排出口部材20’は、内周面に、挿入部材30が容器本体10外側の開口23から抜け出すのを防止するための突出部26が設けられている以外は、排出口部材20と同様の構成の排出口部材である。
【0033】
図6に、挿入部材30’の斜視図を示し、図7(a)に、排出口部材20’の斜視図を示し、図7(b)に、図7(a)中の位置A−A’における排出口部材20’の縦断面図を示す。
本実施形態において、挿入部材30’の端部32’が上記のような扁平形状を有することで、第一の実施形態よりも、弱シール部13の意図しない剥離をより効果的に防止できる。
また、排出口部材20’の内周面に突出部26が設けられていることで、挿入部材30’が、排出口部材20’の端面23側の開口から抜け出さないようになっている。このことは、後述する製造方法(II)により医療用複室容器を製造する場合に有用である。
本実施形態において、医療用複室容器1’を、排出口部材20’が取り付けられた位置が下方となるように設置した際に、挿入部材30’の先端面31が到達可能な最下端の位置Pは、突出部26の上端の位置である。
なお、突出部26は、本実施形態においては、直筒部24の嵌合部25側末端にて、内周面の円周方向に沿って、内周面の全周にわたって連続的に形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、たとえば円周方向に沿って複数の突出部が非連続的に形成されていてもよい。
挿入部材30’、排出口部材20’は、それぞれ、射出成形などの公知の成型方法により作製できる。
【0034】
医療用複室容器1’の製造方法としては、特に限定されないが、たとえば下記の製造方法(II)が挙げられる。該製造方法について、図8を用いて説明する。
対向する一対の可撓性フィルム11、12を重ね合わせ、排出口部材20’の取り付け位置17’以外の周縁部を剥離不能にヒートシールし、第一の薬剤収納室14と第二の薬剤収納室15とに区画する位置に、剥離可能な弱シール部13を形成して、容器本体10’を作製する工程(II−1)、
挿入部材30’の先端面31側の末端を、排出口部材20’の端面22側の開口から中空部21に挿入して先端面31を突出部26に当接させ、その状態で、排出口部材20’を取り付け位置17’にて容器本体10’内に挿入する工程(II−2)、
取り付け位置17’の容器本体10’の内面と排出口部材20’の外周面とを剥離不能にヒートシールする工程(II−3)、
排出口部材20’の端面23側の開口を栓部材40で閉栓する工程(II−4)、
を含む製造方法。
【0035】
上記工程(II−1)にて作製される容器本体10’は、第一の薬剤収納室14に薬剤を充填するための充填予定部18が容器本体10の側端側の周縁部から突出して設けられ、第二の薬剤収納室15に薬剤を充填するための充填予定部19が、容器本体10の上端側の周縁部から突出して設けられている。
該容器本体10’においては、充填予定部18、充填予定部19をそれぞれ図8(a)中の点線の位置でカットすると、第一の薬剤収納室14、第二の薬剤収納室15それぞれと容器本体10の外とを連通する開口部が形成されるようになっている。
また、容器本体10’の取り付け位置17’は、次の工程(II−2)において排出口部材20および挿入部材30’の端部32’を挿入するため、端部32’の幅よりも幅広に形成されている。
なお、「剥離不能」、「剥離可能」、弱シール部の形成方法についての説明は、前記製造方法(I)での説明と同様である。
【0036】
上記工程(II−3)の後、第一の薬剤収納室14、第二の薬剤収納室15にそれぞれ第一薬剤、第二薬剤を充填することにより、医療用複室容器1’に薬剤を充填した薬剤入り医療用複室容器を得ることができる。
第一の薬剤収納室14への第一薬剤の充填、第二の薬剤収納室15への第二薬剤の充填は、それぞれ、容器本体10’の側縁部および上縁部にそれぞれ設けた充填予定部18、19から行われる。充填予定部18、19は、それぞれ、図8(a)中に点線で示す位置をそれぞれカットされ、各薬剤が注入された後、剥離不能にヒートシールされる。
なお、図8には、排出口部材20’を、端面23側の開口が閉栓されていない状態で容器本体10’に取り付けた例を示したが、本発明はこれに限定されず、たとえば工程(II−4)を工程(II−2)の前に行い、予め排出口部材20’の端面23側の開口を栓部材40で閉栓した状態で、工程(II−2)、(II−3)を行ってもよい。
得られた薬剤入り医療用複室容器に対し、滅菌処理を行ってもよい。滅菌処理としては、通常、高圧蒸気による加熱滅菌処理が行われる。
【0037】
以上、上記第一〜第二の実施形態を説明したが本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
たとえば、容器本体10を、2枚の可撓性フィルムで構成した例を示したが、例えば1枚の可撓性フィルムを折り曲げて使用してもよく、インフレーション成形により形成されたフィルムを用いてもよい。
容器本体10が有する薬剤収納室の数は、2つに限定されず、3つ以上であってもよい。たとえば第二の薬剤収納室15部分に、別の弱シール部を該容器本体10の短手方向に直線状に設け、容器本体10の長手方向に3つの薬剤収納室が配列した構成としてもよい。
第二の実施形態では、挿入部材30’と排出口部材20’とを組み合わせ、製造方法(II)により製造した例を示したが、この組み合わせに限定されるものではなく、たとえば挿入部材30’の代わりに第一実施形態で用いた挿入部材30を用いてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…医療用複室容器、10…容器本体、11…可撓性フィルム、12…可撓性フィルム、13…弱シール部、14…第一の薬剤収納室、15…第二の薬剤収納室、16…吊孔、20…排出口部材、21…中空部、22…端面、23…端面、24…直筒部、25…嵌合部、30…挿入部材、31…先端面、40…栓部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の可撓性フィルムで構成され、剥離可能な弱シール部により区画された複数の薬剤収納室が一定方向に配列している容器本体と、両端に開口が設けられた中空部を有する略円筒状の排出口部材と、前記排出口部材の前記容器本体外側の開口を閉栓し、使用時に前記容器本体内の薬剤を排出する排出手段が接続される栓部材と、を備える医療用複室容器であって、
前記排出口部材は、前記複数の薬剤収納室のうち配列方向末端にある第一の薬剤収納室と前記容器本体の外とを連通するように、前記第一の薬剤収納室側の末端にて前記容器本体の周縁部に取り付けられており、
さらに、一端が前記排出口部材の前記第一の薬剤収納室側の開口から前記中空部に挿入された挿入部材を備え、
前記挿入部材の挿入側の先端面が、前記栓部材の表面の前記排出手段が接続される領域と同等以上の大きさで形成されており、
前記排出口部材の軸方向における前記挿入部材の全長が、当該医療用複室容器を前記排出口部材が取り付けられた位置が下方となるように設置した際の、前記先端面が到達可能な最下端の位置Pから前記第一の薬剤収納室の上端の位置Pまでの薬剤未充填時の高さよりも短く、且つ前記挿入部材を設けずに前記第一の薬剤収納室に薬剤を充填した時の前記位置Pから前記位置Pまでの高さ以上であることを特徴とする医療用複室容器。
【請求項2】
前記挿入部材の見かけ密度が、前記複数の薬剤収納室にそれぞれ充填される複数の薬剤を混合した混合薬剤の密度未満である、請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項3】
前記排出口部材の内周面には、前記挿入部材が前記容器本体外側の開口から抜け出すのを防止するための突出部が設けられている、請求項1または2に記載の医療用複室容器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の医療用複室容器に薬剤を充填した、薬剤入り医療用複室容器。
【請求項5】
請求項3に記載の医療用複室容器を製造する方法であって、
対向する一対の可撓性フィルムを重ね合わせ、前記排出口部材の取り付け位置以外の周縁部を剥離不能にヒートシールし、前記複数の薬剤収納室を区画する位置に、剥離可能な弱シール部を形成して、前記容器本体を作製する工程(1)、
前記挿入部材の前記先端面側の末端を、前記排出口部材の前記第一の薬剤収納室側の開口から前記中空部に挿入して該先端面を前記突出部に当接させ、その状態で、前記排出口部材を前記取り付け位置にて前記容器本体内に挿入する工程(2)、
前記取り付け位置の前記容器本体の内面と前記排出口部材の外周面とを剥離不能にヒートシールする工程(3)、
前記排出口部材の、前記容器本体の外側の開口を前記栓部材で閉栓する工程(4)、
を含む製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−24343(P2012−24343A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166047(P2010−166047)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000143880)株式会社細川洋行 (130)
【Fターム(参考)】