説明

医療用複室容器

【課題】薬液の混合作業を手間をかけずに行うことができ、混合した薬液を確実に投与することが可能となり、かつ高圧蒸気による加熱滅菌処理のみで容器全体を滅菌することができ、製造工程を複雑化させることなく製造可能な医療用複室容器を提供する。
【解決手段】容器本体3が可撓性材料からなり、連通可能に区画された複数の薬液収納室5,6と、該複数の薬液収納室の一つに連通して混合薬液を排出する排出口4とを有する医療用複室容器70において、前記排出口4を含んだ前記容器本体3の一部を該容器本体側に折曲し、前記排出口4と前記容器本体3とを固定部材22により折曲状態で固定し、前記固定部材22は、前記薬液収納室5,6の昇圧によって、前記排出口4と前記容器本体3との折曲状態を解除可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、区画された複数の薬液収納室内の薬液を使用直前に混合して点滴等に使用する医療用複室容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、2種類以上の医療用薬液をそれぞれ個別に弱シール部により区画された薬液収納室に収容し、使用する際に薬液収納室に外部から圧力を加えることにより薬液収納室を区画する弱シール部を剥離開通させて薬液を混合する医療用複室容器が知られている。この種の医療用複室容器は、使用時に1つの薬液収納室に連通された排出口に刺針して点滴等に使用され、薬液調製による細菌汚染を防止し、薬液調製作業の効率化を図ることができる。
【0003】
ところが、実際の医療現場では、弱シール部を剥離開通し忘れ、本来混合調剤されるべき薬液が混合されず、混合前の一部の薬液を患者へ投与する事故が発生している。このような事故を防ぐ目的で、こうした複数の薬液収納室を備えた医療用複室容器では、使用時に2種類以上の薬液を確実に混合させるために、薬液の混合後に排出可能となる医療用複室容器が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、異なる成分の薬液が収容される複数の薬液収納室が形成され、複数の薬液収納室の一つに連通して分室が設けられ、異なる成分の薬液を混合薬液として排出する排出口が分室に連通して設けられた医療用複室容器において、複数の薬液収納室間は第1の弱シール部からなる仕切手段により液密に仕切られ、かつ薬液収納室と分室との間は第2の弱シール部からなる閉鎖手段により液密に閉鎖されており、これらの仕切手段及び閉鎖手段は、容器本体の外面の少なくとも一部を押圧して生じる内圧によって解除され、かつ閉鎖手段は仕切手段を解除させる内圧と同等又はそれ以上の内圧で解除されることを特徴とする医療用複室容器が記載されている。
この医療用複室容器では、容器本体の無菌性を保証するために、高圧蒸気による加熱滅菌処理を行うと、薬液収納室には薬液が充填されているために滅菌されるが、分室には水分等が存在しないため、薬液収納室と同じ条件の加熱滅菌処理では滅菌が不十分となる懸念があった。
これを改善し、閉鎖手段を弱シール部からなる非液密シールとすることにより、加熱滅菌処理のみで滅菌することを可能にした医療用複室容器か開示されている。(特許文献2参照)
【特許文献1】特開平9−327498号公報
【特許文献2】特開2005−342174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示す医療用複室容器では、第1の弱シール部が剥離開通した後に第2の弱シール部を確実に剥離開通させる必要があるが、各々の弱シール部を剥離開通させる強さはヒートシールの温度条件や容器本体の構成を融点の異なる樹脂を含むように製造する必要があるため、生産管理が困難であり、製造工程が複雑化するという問題がある。また、外部から圧力を加えて第1の弱シール部を剥離開通させた際に、第2の弱シール部が連続的に剥離開通されない場合には、再度更に強い圧力を加えて第2の弱シール部を剥離開通させる必要があり、作業に手間がかかる。更に、特許文献2に示す医療用複室容器では、容器の滅菌処理は高圧蒸気による加熱滅菌処理だけで済むが、特許文献1と同様の問題が指摘されている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、薬液の混合作業を手間をかけずに行うことができ、混合した薬液を確実に投与することが可能となり、かつ高圧蒸気による加熱滅菌処理のみで容器全体を滅菌することができ、製造工程を複雑化させることなく製造可能な医療用複室容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、容器本体が可撓性材料からなり、連通可能に区画された複数の薬液収納室と、該複数の薬液収納室の一つに連通して混合薬液を排出する排出口とを有する医療用複室容器において、前記排出口を含んだ前記容器本体の一部を該容器本体側に折曲し、前記排出口と前記容器本体とを固定部材により折曲状態で固定し、前記固定部材は、前記薬液収納室の昇圧によって、前記排出口と前記容器本体との折曲状態を解除可能に構成されていることを特徴とする。
このように構成することで、折曲状態のままでは医療用複室容器を適正に使用することができないことが一見して確認することができ、1回の昇圧作業で薬液収納室を区画する弱シール部を剥離開通すると同時に、折曲状態を解除することができ、更に、排出口を含んだ容器本体の一部を容器本体側に折曲しただけであるため、排出口にも薬液を存在させることができ、排出口の滅菌は容器本体同様に行うことが可能である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記固定部材が、前記排出口と前記容器本体とを締め付ける帯状部材であることを特徴とする。
このように構成することで、帯状の固定部材を締め付ける工程を薬液入りの医療用複室容器の製造工程の最後に一工程追加するだけで製造でき、また、帯状の固定部材は帯の幅、破断部の形状又は材質を変更することで破断強度を容易に設定することができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記固定部材が、前記排出口と前記容器本体とを包み込む袋状部材であることを特徴とする。
このように構成することで、袋状の固定部材を包み込む作業を薬液入りの医療用複室容器の製造工程の最後に一工程追加するだけで製造でき、また、袋状の固定部材は折曲された状態を容易に保持することができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記固定部材が、折曲された前記排出口又は該排出口周縁の前記容器本体折曲部と前記容器本体との間に設けられ、両者を固定する接合部材であることを特徴とする。
このように構成することで、接合される固定部材を取り付ける作業を薬液入りの医療用複室容器の製造工程の最後に一工程追加するだけで製造でき、また、接合される固定部材は大きさや材質を変更することで自由に剥離強度を設定することができる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記固定部材が、前記排出口と共に折り返された前記容器本体折曲部と前記容器本体とを狭持する狭持部材であることを特徴とする。
このように構成することで、固定部材を狭持する工程を医療用複室容器の製造工程の最後に一工程追加するだけで製造でき、また、狭持される固定部材は、形状や材質を変更することで自由に狭持力を設定することができる。
【0012】
請求項6に記載の発明は、前記排出口には、刺栓針の刺入を阻止するカバー部材を着脱可能に取り付けられていることを特徴とする。
このように構成することで、折曲状態において刺栓針を刺入することができなくなり、また、使用時まで排出口に触れることがなくなる。
【0013】
請求項7に記載の発明は、前記排出口に連通された前記容器本体の可撓部が折曲可能に構成されていることを特徴とする。
このように構成することで、容器本体を容易に折曲することができると共に、折曲部の固定を容易に、かつ確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、折曲状態のままでは医療用複室容器を適正に使用することができないことが一見して確認することができるため、正確な作業手順で点滴等の作業をすることができ、1回の昇圧作業で薬液収納室を区画する弱シール部を剥離開通すると同時に、折曲状態を解除することができるため、手間を掛けることなく混合薬液を生成することができ、混合調剤せずに混合前の薬液を投与する医療事故の発生を防止することができる。更に、排出口を含んだ容器本体の一部を容器本体側に折曲しただけであるため、加熱滅菌後に折曲すればよく、排出口にも薬液を存在させることができ、排出口の滅菌は容器本体同様に行うことが可能である結果、高圧蒸気による加熱滅菌処理だけで無菌性を保証することができる。したがって、医療用複室容器の信頼性の向上を図ることができると共に、製造工程を複雑化させることなく低コストで製造できる効果がある。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、帯状の固定部材を締め付ける工程を薬液入りの医療用複室容器の製造工程の最後に一工程追加するだけで製造できるため、製造工程を複雑化させることなく容易に製造できる。また、帯状の固定部材は帯の幅、破断部の形状又は材質を変更することで破断強度を容易に設定することができるため、簡易に生産管理を行うことができる効果がある。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、袋状の固定部材を包み込む作業を薬液入りの医療用複室容器の製造工程の最後に一工程追加するだけで製造できるため、製造工程を複雑化させることなく製造できる。また、袋状の固定部材は折曲された状態を容易に保持することができるため、簡易に生産管理を行うことができる効果がある。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、接合される固定部材を取り付ける作業を薬液入りの医療用複室容器の製造工程の最後に一工程追加するだけで製造できるため、製造工程を複雑化させることなく製造できる。また、接合される固定部材は大きさや材質を変更することで自由に剥離強度を設定することができるため、簡易に生産管理を行うことができる効果がある。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、固定部材を狭持する工程を医療用複室容器の製造工程の最後に一工程追加するだけで製造できるため、製造工程を複雑化させることなく製造できる。また、狭持される固定部材は、形状や材質を変更することで自由に狭持力を設定することができるため、簡易に生産管理を行うことができる効果がある。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、折曲状態において刺栓針を刺入することができなくなるため、手間をかけずに一見して状況を確認することができると共に、無理にでも折曲状態のまま使用することを防止することができる。また、使用時まで排出口に触れることがなくなるため、排出口を保護することができる。したがって、医療用複室容器のなお一層の信頼性の向上を図ることができる効果がある。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、容器本体を容易に折曲することができると共に、折曲部の固定を容易に確実に行うことができるため、追加する製造工程を複雑化させることなく、また、折曲状態を使用時まで確実に保持することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、医療用複室容器1は、周縁部2が剥離不能に融着された表裏2枚で構成される矩形状の合成樹脂フィルムからなる容器本体3を備え、容器本体3の周縁部2の下縁に各フィルムに狭持された樹脂製で中空形状の排出口4が設けられた構成となっている。排出口4は、通常は図示しないゴム栓等で閉栓されており、使用時に刺栓針が刺入できる構成となっている。また、容器本体3には、第1薬液収納室5及び第2薬液収納室6が長手方向に並べて配置され、第1薬液収納室5と第2薬液収納室6との間には、剥離して開通することができる直線状の弱シール部7が形成されている。ここで、第1薬液収納室5には第1薬液8が、第2薬液収納室6には第2薬液9が収容されている。ここで第2薬液9は、第1薬液8と異なる成分からなる薬液である。また、排出口4と第2薬液収納室6とは連通された構成となっており、排出口4により薬液の流出が阻止されている。更に、容器本体3の上縁中央部には、円形の掛吊孔10が形成されている。また、排出口4には、刺栓針が刺入できる面を覆う図示しない保護フィルムが剥離可能に設けられている。
【0022】
ここで、容器本体3を形成している合成樹脂フィルムに用いられる樹脂としては、医療用容器の分野で用いられる樹脂であれば特に限定されない。例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルサルホン、エチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらの内、透明性、柔軟性及び衛生性に優れ、低コストなポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0023】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエチレン系樹脂、エチレン−αオレフィンランダム共重合体等のオレフィン系エラストマー、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、α−オレフィン−プロピレンランダム共重合体等のポリプロピレン系樹脂や、環状ポリオレフィン樹脂、これらの混合物の単層、及び多層フィルムなどが挙げられる。こうした樹脂は、耐熱性向上等を目的として一部架橋されていても良い。このような合成樹脂フィルムは、厚みが50〜1000μm、好ましくは100〜500μm程度のものを用いれば良い。
【0024】
弱シール部7の形成方法としては、例えば、容器本体3の内面側をポリエチレンとポリプロピレンの混合物などの融点や相溶性の異なる樹脂組成物からなる層を形成させた合成樹脂フィルムを用いて、高融点の樹脂の溶融温度以下でシールする方法が挙げられる。或いは、ヒートシールを低温で行い、半溶着状態で弱接着させる方法、また、弱シール部7の形成部分に予め電子線等で架橋した可撓性材料を用いたり、強融着部分を特定の面積割合で発生させるシールバーを用いたり、或いは、2枚の可撓性材料の間に易剥離性の樹脂テープを挟む方法等も挙げられる。
【0025】
図3に基づいて第1実施形態の第1の態様について説明する。医療用複室容器70は、排出口4を含んだ容器本体3の一部を容器本体3側に折曲された状態(図2(a)、(b)参照)で用いられるものであり、この部分を固定部材22により排出口4と容器本体3とが締め付け固定されている。この固定部材22は、帯状の部材で帯の両端を立ち上げて溶着などにより接合したイージーピール部21を備え、環状に形成されたもので、容器本体3の折曲部11と平行する方向に排出口4と容器本体3とを締め付けるようになっている。
この帯状の固定部材には、上述の固定部材22の他に、図4に示す第2の態様として、環状に形成された帯状の部材で、環状を切断可能なミシン目部23及びV字状の基点23’を設けた固定部材24、図5に示す第3の態様として、帯の両端を重複させ、その重複部25を簡易接着し、環状に形成された固定部材26、図6に示す第4の態様として、排出口4と容器本体3とを締結させる長さを有する帯状の接着テープ材からなる固定部材27等が含まれる。
【0026】
次に作用について、図2、図3に基づいて説明する。
排出口4を含んだ容器本体3の一部を容器本体3側に折曲させ、固定部材22により固定する。ここで、折曲部11は液密に区画されている状態ではない。第1薬液収納室5を外部から圧力Pで押圧すると、弱シール部7が剥離開通され、第1薬液収納室5と第2薬液収納室6とが連通状態となり、第1薬液8と第2薬液9とが混合される。
また、弱シール部7が剥離開通されると同時に、第1薬液8が第2薬液収納室6に勢いよく流入し、第2薬液収納室6の外形が膨張する方向に変形し、更に、排出口4に至るまで薬液が流入する。そのため、固定部材22は第2薬液収納室6の外形が膨張されることと、排出口4まで薬液が流入したために排出口4に起き上がる力(折曲状態を解除する方向に働く力)が働くことに伴い、イージーピール部21が剥離して、固定部材22が破断される。そして、図2(c)に示すように、容器本体3に形成された弱シール部7が剥離された後に、固定部材22が破断されると、第1薬液8と第2薬液9とが混合された混合薬液12が生成され、かつ排出口4が容器本体3の下縁から下方へ突出することとなり、外部から容易にこれを確認することができる。これにより、排出口4に刺栓針が刺入し易くなる。
混合薬液12が生成され、排出口4に刺栓針が刺入できるようになった後に、掛吊孔10を介して医療用複室容器70を吊り下げ、刺栓針を排出口4に刺入して点滴等を行うことで、確実かつ効率良く混合薬液12を排出することができる。
【0027】
排出口4は、樹脂からなり、第1薬液8と第2薬液9とが混合された混合薬液12を取り出せるように形成され、刺栓針や専用のアダプター等の排出手段の接続によって医療用複室容器70から混合薬液12が取り出されるように形成されている。また、排出口4は、混合薬液12を取り出す以外に他の薬液を混注する注入口として使用されることもある。
【0028】
上述の医療用複室容器70は、弱シール部7が剥離開通された後に、固定部材22のイージーピール部21が破断するように構成されているため、折曲状態のままでは医療用複室容器を適正に使用することができないことが一見して確認することができ、正確な作業手順で点滴等の作業をすることができる。また、一度の昇圧作業で弱シール部7の剥離開通及びイージーピール部21の破断をすることができるため、手間を掛けることなく複数の薬液の混合を確実に行うことができる。更に、滅菌処理が加熱滅菌処理だけで済むために、製造工程が複雑化することなく製造可能である。
また、固定部材22の帯の幅や材質を変更することで、自由に破断強度を設定することができるだけでなく、イージーピール部21の接合面積や接合条件を変更することでも破断強度を変更することができる。
【0029】
第2の態様に示す固定部材24ついては、イージーピール部21に対応して、ミシン目部23が基点23’から破断し、医療用複室容器70が使用状態となる以外は固定部材22と同様であるので、説明は省略する。
この固定部材24の基点23’の形状を変更することや、ミシン目部23のピッチを変更することにより破断強度を変更することができる。また、ミシン目部23又は基点23’のいずれか一方のみ、又は複数設けてもよい。
第3の態様に示す固定部材26については、重複部25が剥離することで、医療用複室容器70が使用状態となる以外は、固定部材22と同様であるので、説明は省略する。
この固定部材26の重複部25の製造条件や面積を変更することで、破断強度を変更することができる。
これらの態様に示す固定部材22、24、26は、いずれも固定部材22、24、26に破断し易い部分を設けて、そこを起点として破断するように構成されているが、固定部材22、24、26そのものを開通操作により破断する程度の強度を有する材料を用いて作成してもよい。
また、第4の態様に示す固定部材27については、第1薬液収納室5から第2薬液収納室6に第1薬液8が流入して第2薬液収納室6の体積が膨張し、排出口4が起き上がり方向に力を受けて剥離する以外は前述した固定部材22と同様であるため、説明を省略する。
この固定部材27のテープ幅、テープ長さ、材質又は固定する際の条件を変更することで、剥離強度を変更することができる。
【0030】
次に、図7〜図11に基づいて第1実施形態の他の態様を説明する。
図7に示す第5の態様として、医療用複室容器70は、排出口4を含んだ容器本体3の一部を容器本体3側に折曲された状態で用いられるものであり、袋状の固定部材29により、排出口4と容器本体3とが包み込まれて固定されている。この固定部材29は、袋状の部材であって袋の開口部に対して垂直方向のミシン目部28、袋の底部のミシン目部28’及びV字状の基点45が形成されている。
作用については、第1の態様と同様の手順で、第2薬液収納室6の外形が膨張されることと、排出口4まで薬液が流入したために排出口4に起き上がる力が働くことに伴い、固定部材29のミシン目部28、28’が基点45から破断して、排出口4が使用可能な状態となる。
固定部材29のV字状の基点45の形状を変更することや、ミシン目部28、28’のピッチ及びミシン目の本数を変更することにより破断強度を変更することができる。なお、ミシン目部28、28’又は基点45は、いずれか一方のみ設けられていてもよいし、複数設けられていてもよい。
【0031】
次に、図8に示す第6の態様として、医療用複室容器70は、排出口4を含んだ容器本体3の一部を容器本体3側に折曲された状態で、排出口4と容器本体3とが両面テープからなる固定部材30により、接合固定されている。また、図9に示す第7の態様として、容器本体3の相対する面同士を両面テープからなる固定部材31により、接合固定しても良い。この固定部材30,31は、綿ファスナー等で構成されていても良い。
作用については、第1の態様と同様の手順で、排出口4まで薬液が流入したために排出口4に起き上がる力が働くことに伴い、固定部材30、31の接合部が剥離して、排出口4が使用可能な状態となる。
固定部材30,31は、大きさ、材質又は粘着力を変更することにより、剥離強度を変更することができる。
【0032】
また、図10に示す第8の態様としては、医療用複室容器70は、排出口4を含んだ容器本体3の一部を容器本体3側に折曲された状態で用いられるものであり、排出口4と共に折り返された容器本体3の折曲部11で複数の樹脂製クリップ等からなる固定部材32により、狭持された状態で固定されている。ここで、図11に示す第9の態様として、1つの樹脂製クリップ等からなる固定部材33により、折曲部11を狭持固定しても良い。この固定部材32、33は、金属製クリップ等で構成されていても良い。
作用については、第1の態様と同様の手順で、第2薬液収納室6の外形が膨張されることと、排出口4まで薬液が流入したために排出口4に起き上がる力が働くことに伴い、固定部材32、33が折曲部11から外れ、排出口4が使用可能な状態となる。
固定部材32、33は、狭持片の長さ、大きさ、形状、狭持片の数及び材質を変更することにより、狭持力を変更することができる。
【0033】
したがって、図7〜図11に示した各態様においても、折曲状態のままでは医療用複室容器を適正に使用することができないことが一見して確認することができ、正確な作業手順で点滴等の作業をすることができる。また、一度の昇圧作業で弱シール部7を剥離開通させ、排出口4を使用可能な状態にすることができるため、手間を掛けることなく複数の薬液の混合を確実に行うことができる。更に、滅菌処理が加熱滅菌処理だけで済むために、製造工程が複雑化することなく製造可能である。
【0034】
上記第1実施形態によれば、医療用複室容器70が折曲された状態で固定されているため、その状態では適正に使用することができないことが一見して確認することができる。したがって、薬液を混合する手順を確実に実施することができる。また、1回の昇圧(押圧)作業で弱シール部7の剥離開通及び折曲状態の解除をすることができるため、手間を掛けることなく混合薬液12を確実に生成することができる。更に、排出口4を含んだ容器本体3の一部を容器本体3側に折曲しただけであるため、排出口4にも薬液が存在している。したがって、放射線処理や化学的処理による滅菌処理を施す必要が無く、高圧蒸気による加熱滅菌処理だけで無菌性を保証することができる。その結果、医療用複室容器70の信頼性の向上を図ることができると共に、製造工程を複雑化させることなく低コストで製造できる効果がある。
【0035】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。
図12に示す第1の態様としては、医療用複室容器80は、排出口4を含んだ容器本体3の一部を容器本体3側に折曲された状態で用いられ、例えば、帯状の固定部材24により締め付け固定されている。更に、排出口4には刺栓針の刺入を阻止する樹脂からなるカバー部材34が着脱可能に取り付けられている。カバー部材34は、排出口4を囲むように断面略L字形状に形成されており、容器本体3又は固定部材24に簡易接着されている。
【0036】
カバー部材34が無い状態で折曲固定されていたとしても、通常、使用可能状態と認識することは無いが、その状態でも刺栓針を刺入することは不可能ではない。したがって、カバー部材34を取り付けることで、医療用複室容器80の排出口4を含んだ容器本体3の一部が容器本体3側に折曲され、固定部材24により固定された状態では刺栓針を刺入不可であることを一見して認識できるようになる。更に、カバー部材34を設けることにより、排出口4を保護することができる。なお、カバー部材34を容器本体3又は固定部材24に簡易接着することは必須ではないものの、カバー部材34のずれを防止することができるため、本実施形態に示すように簡易接着されていることが好ましい。
【0037】
図13に示す第2の態様としては、容器本体3の折曲部11を狭持して固定する場合には、狭持された固定部材35の2本の狭持片36を排出口4の両側まで延伸し、狭持片36と排出口4を囲むように形成された断面略半円形状で少なくとも一方の側面に側壁が設けられたカバー部材37とを一体化したものでもよい。このカバー部材37により、刺栓針を刺入不可であることを一見して認識できるようになる。更に、カバー部材37を設けることにより、排出口4を保護することができる。
【0038】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態を図面に基づいて説明する。
図14〜図16に示すように、医療用複室容器90は、容器本体53の下端の一部に突出した四角形状の可撓部40が設けられている。可撓部40の先端には排出口4が連通して取り付けられている。その他の構成については、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
可撓部40を折曲することで折曲部41が形成され、容器本体53と排出口4とを折曲部41で折り曲げた状態で、固定部材22、24、26、27、29、30、31、32、33で固定したものである。また、カバー部材34、37を取り付けても良い。
作用については、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
折曲部41は、容器本体53の下端の一部、つまり、図16に示すように容器本体53の短手方向の長さより短い長さで折曲しているため、折曲される長さ及び面積が小さくなり、容易に折曲することが可能となる。また、折曲される長さ及び面積が小さくなるため、折曲状態において、折曲状態を解除しようとする方向に働く力が小さくなり、結果として、各固定部材の破断強度や剥離強度等を小さくすることができる。したがって、固定部材を確実に取り付けることができると共に、折曲状態を使用時まで保持しやすくすることができる。
また、第1薬液収納室5と第2薬液収納室6とを区画する弱シール部7を剥離開通すると同時に、折曲部41に加わる折曲状態を解除しようとする力は、容器本体53の幅より短い可撓部40の折曲部41に集中する。したがって、可撓部40が無い場合より狭い範囲に力が集中するため、可撓部40の折曲状態の解除が容易となる。このことは、使用できる固定部材の破断強度を高くすることが可能となり、更には固定部材の設計許容度が拡がるため好ましい。
【0039】
以上で本発明における実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような態様も採用可能である。
弱シール部の形状は、直線状のもので説明しているが、曲線状や円弧状に形成されていても良い。
帯状の固定部材を折曲部と平行する方向に締め付けた説明をしているが、折曲部に対して直交する方向に固定部材を締め付けても良いし、斜めにたすき掛けのようにして締め付けても良い。
接着テープ材からなる固定部材は、接着テープ材の長さを更に長くし容器本体の周囲を覆うようにしても良いし、接着テープ材が容器本体と容器本体折曲部との間で締結させるようにしても良い。
袋状の固定部材のミシン目部は、容器本体の両側面に沿った位置にそれぞれ開口部に対して垂直方向に形成されていても良い。
カバー部材は、樹脂製のもので説明しているが、用途を満たすものであれば紙製や他の材質からなるものでも良い。また、形状についても用途を満たすものであれば形状は拘らない。
可撓部の形状は、四角形状のもので説明しているが、半円形状や三角形状など用途を満たすものであれば形状は拘らない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態の要部を示す容器本体等の斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図であり、(a)は容器本体折曲前、(b)は容器本体折曲状態、(c)は容器本体の弱シール部剥離開通後の断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態における第1の態様の斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態における第2の態様の斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態における第3の態様の斜視図である。
【図6】本発明の第1実施形態における第4の態様の斜視図である。
【図7】本発明の第1実施形態における第5の態様の斜視図である。
【図8】本発明の第1実施形態における第6の態様の断面図である。
【図9】本発明の第1実施形態における第7の態様の断面図である。
【図10】本発明の第1実施形態における第8の態様の斜視図である。
【図11】本発明の第1実施形態における第9の態様の斜視図である。
【図12】本発明の第2実施形態における第1の態様の斜視図である。
【図13】本発明の第2実施形態における第2の態様の斜視図である。
【図14】本発明の第3実施形態における要部を示す容器本体等の斜視図である。
【図15】図14のB−B線に沿う容器本体折曲状態の断面図である。
【図16】本発明の第3実施形態における要部を示す容器本体等の正面図である。
【符号の説明】
【0041】
1、70、80、90 医療用複室容器 3、53 容器本体 4 排出口 5 第1薬液収納室 6 第2薬液収納室 7 弱シール部 8 第1薬液 9 第2薬液 11、41 折曲部 12混合薬液 22、24、26、27 固定部材(帯状部材) 29固定部材(袋状部材) 30、31 固定部材(接合部材) 32、33 固定部材(狭持部材) 34、37 カバー部材 40 可撓部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体が可撓性材料からなり、連通可能に区画された複数の薬液収納室と、該複数の薬液収納室の一つに連通して混合薬液を排出する排出口とを有する医療用複室容器において、
前記排出口を含んだ前記容器本体の一部を該容器本体側に折曲し、前記排出口と前記容器本体とを固定部材により折曲状態で固定し、
前記固定部材は、前記薬液収納室の昇圧によって、前記排出口と前記容器本体との折曲状態を解除可能に構成されていることを特徴とする医療用複室容器。
【請求項2】
前記固定部材が、前記排出口と前記容器本体とを締め付ける帯状部材であることを特徴とする請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項3】
前記固定部材が、前記排出口と前記容器本体とを包み込む袋状部材であることを特徴とする請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項4】
前記固定部材が、折曲された前記排出口又は該排出口周縁の前記容器本体折曲部と前記容器本体との間に設けられ、両者を固定する接合部材であることを特徴とする請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項5】
前記固定部材が、前記排出口と共に折り返された前記容器本体折曲部と前記容器本体とを狭持する狭持部材であることを特徴とする請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項6】
前記排出口には、刺栓針の刺入を阻止するカバー部材を着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の医療用複室容器。
【請求項7】
前記排出口に連通された前記容器本体の可撓部が折曲可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の医療用複室容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−282707(P2007−282707A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110831(P2006−110831)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(000143880)株式会社細川洋行 (130)
【Fターム(参考)】