説明

医療用針及び穿刺具

【課題】 生体内への投与物の所定量の投与、及び/又は、生体内からの被採取物の所定量の採取を、容易且つ正確に行うことができる医療用針を提供する。
【解決手段】 生体内に侵入可能な穿刺部10を備える医療用針1であって、穿刺部10は、外周面に互いに平行な一対の平面部12,12を有しており、一対の平面部12,12にそれぞれ開口するように貫通し穿刺部10の内部に画定される保持チャンバ18が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内への薬剤等の投与や、血液、体液、組織等の採取を行うための医療用針に関し、更に、この医療用針を備える穿刺具に関する。
【背景技術】
【0002】
注射針やランセット等の医療用針として、痛みや不快感を生じ難い低侵襲性のものが近年開発されており、例えば特許文献1に開示されている。図25に示すように、特許文献1に開示された皮膚穿孔要素50は、先端側部分51及び基端側部分52を備えており、先端側部分51が生体内に侵入可能となるように先鋭に形成されている。先端側部分51から基端側部分52には流体流路53が延在しており、流体流路53の先端側部分51の開口53aで採取された生理学的サンプルは、毛細管力によって基端側部分52に向けて案内される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−116821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された構成によれば、流体流路53の先端側部分51で収集された生理学的サンプルが基端側部分52に向けて流動してしまうために、サンプルを定量採取する用途には適さないという問題があった。また、流体流路53を介して体内に薬剤を投与する場合にも、一定量を正確に投与することが困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、生体内への投与物の所定量の投与、及び/又は、生体内からの被採取物の所定量の採取を、容易且つ正確に行うことができる医療用針を提供することを目的とする。
【0006】
更に、本発明は、このような医療用針を備える穿刺具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、生体内に侵入可能な穿刺部を備える医療用針であって、前記穿刺部は、外周面に互いに平行な一対の平面部を有しており、前記一対の平面部にそれぞれ開口するように貫通し、前記穿刺部の内部に画定される保持チャンバが形成された医療用針により達成される。
【0008】
この医療用針において、前記保持チャンバは、前記穿刺部の内部から前記一対の平面部の一方又は双方に向けてテーパ状に拡径するように形成されていることが好ましい。
【0009】
穿刺部に形成する保持チャンバは、単一であってもよく、或いは、複数であってもよい。保持チャンバを複数形成する場合、前記穿刺部の穿刺方向に間隔をあけて形成することが好ましい。
【0010】
上述した医療用針は、生分解性材料からなり、全体が生体内に侵入して留置可能に構成することができる。或いは、前記穿刺部を生体外で支持する保持部を更に備える構成にすることもできる。
【0011】
また、本発明の前記目的は、上述した医療用針と、前記医療用針を進出可能に収容するケーシングとを備える穿刺具により達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生体内への投与物の所定量の投与、及び/又は、生体内からの被採取物の所定量の採取を、容易且つ正確に行うことができる医療用針を提供することができ、更に、このような医療用針を備える穿刺具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る医療用針の斜視図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】本発明の変形例を示す要部断面図である。
【図5】本発明の他の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図6】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図7】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図8】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図9】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図10】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図11】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図12】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図13】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図14】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図15】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図16】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図17】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図18】本発明の医療用針の成形方法の一例を説明するための模式図である。
【図19】本発明の更に他の変形例を示す断面図である。
【図20】図19に示す医療用針の使用方法を説明するための断面図である。
【図21】本発明の更に他の変形例を示す斜視図である。
【図22】本発明の一実施形態に係る穿刺具を示す平面図である。
【図23】本発明の更に他の変形例を示す斜視図である。
【図24】本発明の他の実施形態に係る穿刺具を示す正面図である。
【図25】従来の医療用針の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る医療用針の斜視図であり、図2は、図1の要部拡大図である。また、図3は、図2のA−A断面図である。以下の各図面の説明においては、同様の機能を有する構成部分に同一の符号を付して、詳細な説明を省略する場合がある。
【0015】
図1及び図2に示すように、医療用針1は、先細に形成された穿刺部10と、穿刺部10の後端側に連設された保持部20とを備えており、全体として板状に形成されている。
【0016】
穿刺部10は、表裏面がそれぞれ平面部12,12とされており、先端に皮膚を穿刺可能な尖頭部14を有している。穿刺部10は、互いに平行な一対の平面部12,12を有する形状であればよく、本実施形態では穿刺方向に垂直な断面を台形状としているが、これに限定されるものではない。穿刺部10の断面形状としては、台形状の他に、矩形状や多角形状の他、円形状または楕円形状の外周面を互いに平行な平面部を形成するように軸方向に切り欠いた形状等を例示することができる。
【0017】
穿刺部10の幅方向両側には、鋸状の凹凸部16,16が形成されており、生体内への穿刺部10の侵入を容易にしている。凹凸部16の穿刺方向の長さは、本実施形態では穿刺部10の先端側から半分程度の長さとしているが、穿刺部10の全体を生体内にスムーズに侵入させることができるように適宜設定可能である。また、凹凸部16は本発明において必須のものではなく、尖頭部14により穿刺部10を生体内に侵入可能であれば、凹凸部16を設けない構成であってもよい。穿刺部10の幅は、本実施形態においては尖頭部14の基部から後方に向けて穿刺方向の全体にわたって略一定としているが、後方に向けて徐々に幅広となるように穿刺部10を形成してもよい。或いは、穿刺部10を後方に向けて幅狭となるように(幅が窄まるように)形成してもよく、生体内への穿刺部10の侵入状態を維持したい用途には特に好適である。穿刺部10が侵入する生体には、例えば、細胞、組織、臓器、消化管、血管、神経、皮膚、筋肉、眼、等が含まれる。
【0018】
穿刺部10には、両端が一対の平面部12,12にそれぞれ開口するように表裏面を貫通する貫通孔からなる保持チャンバ18が形成されている。保持チャンバ18は、穿刺部10の内部に画定されるように、穿刺部10の先端から所定の位置(例えば、先端から300〜800μm)に配置されている。穿刺部10は、保持チャンバ18を生体内の所望の深さ位置に到達可能な長さを有することが好ましく、例えば、0.2〜300mm程度の長さを有することが好ましい。
【0019】
保持チャンバ18には、生体の皮膚に穿刺して目的とする血液、体液、組織等の被採取物を充填し、採取することができる。或いは、生体内に投与する薬剤等の投与物を予め充填しておき、生体の所定の部位に穿刺して、投与物をピンポイントで投与することができる。本実施形態の医療用針1は、生体内への投与物の投与、及び、生体内からの被採取物の採取の双方を行うことが可能であるが、いずれか一方のみを目的とするものであってもよい。投与物及び被採取物は、液状、固形状、半固形状(ゲル状)、凍結乾燥状、ナノ粒子状など種々の性状であってよい。
【0020】
保持チャンバ18は、上述したように、一対の平面部12,12にそれぞれ開口するように形成されるため、内容積を正確に設定することが可能である。また、この保持チャンバ18は、生体内に穿刺可能な穿刺部10の内部に画定されており、生体外に位置する保持部20には延在されていない。したがって、投与物や被採取物を、保持チャンバ18内に所定量だけ正確に収容して保持することができる。
【0021】
穿刺部10の穿刺及び抜き取りは、常に生体外に位置する保持部20を器具や手で摘まんで行うことができる。穿刺部10の抜き取りは、薬剤の種類や投与法などに応じて、穿刺後に瞬間的に行ってもよく、或いは、穿刺部10を生体内に一時的に留置するように経時的に行ってもよい。これにより、正確な量の薬剤を生体内に放出することができ、あるいは、被採取物を必要な量だけ採取して計測等を行うことができる。保持チャンバ18の大きさに特に制限はないが、内容積が0.001μl〜1mlで、開口面積が0.1μm程度のものを例示することができる。保持チャンバ18のアスペクト比(長さ/直径)は、例えば0.1〜5の範囲に設定することが好ましい。
【0022】
保持部20は、生体内には侵入せず、生体外で穿刺部10を支持できるように、穿刺部10の後端側から大きく広がるように形成されている。保持部20の形状や大きさについては、特に限定はない。
【0023】
穿刺部10は、生体適合性材料により作製することができる。生体適合性材料としては、例えば、高分子ポリマ、生体高分子、蛋白質、および生体適合性無機材料が含まれる。
【0024】
高分子ポリマとしては、医療用に使用可能なものが好ましく使用可能であり、例えば、ポリ塩化ビニル,ポリエチレングリコール,パリレン,ポリエチレン,ポリプロピレン,シリコーン,ポリイソプレン,ポリメチルメタクリレート,フッ素樹脂,ポリエーテルイミド,ポリエチレンオキサイド,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンテレフタレート,ポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネートカーボネート,ポリフェニレンオキサイド,ポリフェニレンサルファイド,ポリホルムアルデヒド,ポリアンヒドリド,ポリアミド(6ナイロン、66ナイロン),ポリブタジエン,ポリ酢酸ビニル,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,ポリエステルアミド,ポリメタクリル酸メチル,ポリアクリロニトリル,ポリサルホン,ポリエーテルサルホン,ABS樹脂,ポリカーボネート,ポリウレタン(ポリエーテルウレタン、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン尿素),ポリ塩化ビニリデン,ポリスチレン,ポリアセタール,ポリブタジエン,エチレン酢酸ビニル共重合体,エチレンビニルアルコール共重合体,エチレンプロピレン共重合体,ポリヒドロキシエチルメタクリレート,ポリヒイドロブチレート,ポリオルトエステル,ポリ乳酸,ポリグリコール,ポリカプロラクトン,ポリ乳酸共重合体,ポリグリコール酸・グリコール共重合体,ポリカプロノラクトン共重合体,ポリジオキサノン,パーフルオロエチレン−プロピレン共重合体,シアノアクリレート重合体,ポリブチルシアノアクリレート,ポリアリルエーテルケトン,エポキシ樹脂,ポリエステル樹脂,ポリイミド,フェノール樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。
【0025】
生体高分子としては、例えば、セルロース,でんぷん,キチン・キトサン,寒天,カラギーナン,アルギン酸,アガロース,ブルラン,マンナン,カードラン,キサンタンガム,ジェランガム,ペクチン,キシログルカン,グアーガム,リグニン,オリゴ糖,ヒアルロン酸,シゾフィラン,レンチナンなどが含まれ、蛋白質としてはコラーゲン,ゼラチン,ケラチン,フィブロイン,にかわ,セリシン,植物性蛋白質,牛乳蛋白質,ラン蛋白質,合成蛋白質,ヘパリン,核酸が含まれ、糖、あめ、ブドウ糖、麦芽糖、ショ糖、マントース、単糖類、多糖類およびこれらのポリマーアロイなどが挙げられる。
【0026】
生体適合性無機材料としては、例えば、ガラス等のセラミック,ナノ複合化セラミック,Al/ZrO複合セラミックス,Si系ナノ複合材料,水酸化アパタイト,炭酸カルシウム,カーボン,グラファイト(ナノグラファイバー),カーボンナノチューブ(CNT),フラーレン複合材料,ハイドロキシアパタイト・ポリマー複合材料,コバルトクロム合金,ステンレス、チタン、チタン合金などが挙げられる。
【0027】
これらの生体適合性材料のうち、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、コラーゲン、でんぷん、ヒアルロン酸、アルギン酸、キチン、キトサン、セルロース、ゼラチンなどを含む生分解性ポリマ、およびこれらの化合物などから選択される生分解性材料を用いることが好適である。微生物存在下の環境に配置することで分解されるため、使用後の廃棄が容易だからである。
【0028】
特に、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびこれらの共重合体から選択される材料を用いることが好適である。血液や体液等の生体組成液に対する適度な親和性があるため、保持チャンバ18内に生体組成液を収容し易いだけでなく、生体組成液中の成分の過剰な吸着を抑制し易いからである。
【0029】
また、このような生体適合性材料により作製された穿刺部10では、表面全体に生体適合性向上処理が施されているのが好適であり、特に、保持チャンバ18の内壁面に生体適合性向上処理を施すことが好ましい。この生体適合性向上処理とは、生体組成液に接触する表面を改質したり、表面処理剤を付着させることにより、生体組成液との親和性を調整したり、生体組成液中の成分の吸着を抑制し易くする表面処理である。
【0030】
生体組成液との親和性を調整するための生体適合性向上処理は、例えば、ポリエチレングリコール、水酸化ナトリウム、クエン酸、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、Poloxamer、シリコーン等の薬剤を付着して固定化することで行うことができる。
【0031】
また、生体組成液中の成分の吸着を抑制し易くするための生体適合性向上処理は、例えば、ヘパリン、燐酸、ポリエチレングリコール、水酸化ナトリウム、クエン酸、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、Poloxamer、シリコーン等の薬剤を付着して固定化することで行うことができる。
【0032】
特に限定されるものではないが、生体組成液との親和性は、例えば接触角の大きさにより評価することができ、これにより適宜選択された親和性を確保すれば、保持チャンバ18内に生体組成液を収容し易くすることができる。一方、生体組成液中の成分の吸着は出来るだけ抑制されるのが好ましく、生体組成液との親和性を阻害しない範囲で適切に付着させることが可能である。
【0033】
保持部20は、穿刺部10の材料と異なる材料から作製することも可能であるが、穿刺部10と同じ材料により一体的に作製することが好ましい。例えば、上述のような材料により、上型及び下型からなる成形型を用いて穿刺部10及び保持部20を一体に成形することが可能である。
【0034】
穿刺部10における保持チャンバ18の形成は、配置や容積を正確に設定できるように、保持チャンバ18に対応する突状部位を上型及び下型の一方又は双方に設けて、穿刺部10の射出成形時に保持チャンバ18を形成することが好ましい。このような形成方法は、保持チャンバ18の容量が微少(例えば、100nL(ナノリットル)以下)である場合に、特に有効である。但し、保持チャンバ18の大きさによっては、エキシマレーザやフェムト秒レーザなど微細加工用のレーザ加工や切削加工等により保持チャンバ18を形成することも可能である。
【0035】
保持チャンバ18は、直筒状に形成することも可能であるが、本実施形態では図3に縦断面図で示すように、表面側の平面部12から裏面側の平面部12に向けてテーパ状に拡径するように形成されている。保持チャンバ18のこのような形状によれば、直筒状に形成する場合に比べて保持チャンバ18の内壁面18wと投与物や被採取物との実際の接触面積を増大させることができ、保持チャンバ18の内部に投与物や被採取物を保持し易くすることができると共に、拡径された開口から投与物の投与や被採取物の採取を容易に行うことができる。このような接触面積増大の効果は、保持チャンバ18が微小(例えば、開口径が200μm以下、内容積が100nL以下)である場合に特に顕著であり、保持チャンバ18の内壁面18wを、平面部12の直交方向に対して僅かでも傾斜するようにテーパ状にすることで奏することができる。
【0036】
図3に示す保持チャンバ18は、断面が台形状の穿刺部10が有する2つの平面部12,12の面積が小さい方から面積が大きい方に向けて拡径するように形成されており、内容積の確保を図っているが、図4に示すように、面積が大きい平面部12から面積の小さい平面部12に向けてテーパ状に拡径するように形成してもよい。
【0037】
保持チャンバ18の内壁面は、投与物や被採取物との接触面積をより増大させるために粗面であることが好ましい。例えば、図5に拡大図で示すように、保持チャンバ18の内壁面18wを微視的に階段状に形成することが効果的である。
【0038】
保持チャンバ18の形状は、図3に示すように穿刺部10の厚み方向の全体をテーパ状に拡径する代わりに、図6に示すように、直筒状部18aと拡径部18bとの組み合わせから構成してもよい。また、図3及び図6に示す保持チャンバ18は、穿刺部10の内部から一方の平面部12に向けてテーパ状に拡径しているが、図7に示すように、穿刺部10の内部から一対の平面部12,12の双方に向けてテーパ状に拡径するように、2つの円錐台状の拡径部18c,18dにおける頂部同士を接合した形状にしてもよい。
【0039】
図7に示す保持チャンバ18は、2つの拡径部18c,18dの間が射出成形時における上型と下型の接合面Tとなるようにして、形成することができる。この場合、図8に示すように、一方の拡径部18eの頂部の面積を、他方の拡径部18fの頂部の面積よりも大きく設定することで、2つの拡径部18e,18fに多少の位置ずれを生じても、頂部同士が確実に接合した形状が得られる。このため、上型と下型との接合面Tに要求される位置合わせ精度を緩和して、成形を容易にすることができる。
【0040】
また、図9に示すように、保持チャンバ18を複数の拡径部18g,18h,18i,18jから構成し、1つの拡径部18gの頂部に対して複数の拡径部18h,18i,18jの頂部を接合した形状にしてもよい。この場合、各拡径部18g,18h,18i,18jの1又は複数は、直筒状に形成されていてもよい。
【0041】
また、図10に示すように、保持チャンバ18の内壁面18wを全体として段状に形成してもよい。この場合、各段の角度は直角でもよいが、図10に示すように各段の角度を鋭角にしたり、図11に示すように断面が直線状である内壁面18wの一部(または全部)を湾曲させることで、内壁面18wと投与物や被採取物との接触面積を増大させることができ、保持チャンバ18における投与物または被採取物の保持能力を高めることができる。図10及び図11に示す保持チャンバ18の段状部は、必ずしも保持チャンバ18の内壁面18wの全体にわたって形成する必要はなく、内壁面18wの一部のみに段状部が形成されたものであってもよい。或いは、内壁面18wの一部における段状部の形状が、他部における段状部の形状と異なるものであってもよい。
【0042】
複数の拡径部を組み合わせた形状の保持チャンバ18は、穿刺部10の断面形状が台形状以外の場合であっても適用可能である。例えば、穿刺部10の断面形状が六角形状の場合、図12に示すように、頂部の面積が等しい2つの拡径部18k,18lの組み合わせや、図13に示すように、頂部の面積が異なる2つの拡径部18m,18nの組み合わせが可能である。
【0043】
穿刺部10の六角形状の断面形状には、図14に示すように、略台形状にした場合も含まれる。これらの断面が六角形状の穿刺部10は、強度を維持しつつ断面積を小さくすることが可能であり、穿刺を容易に行うことができる。なお、図14に示す穿刺部10の保持チャンバ18は、単一の拡径部から形成しているが、この構成においても複数の拡径部から保持チャンバ18を形成してもよい。
【0044】
また、穿刺部10を射出成形する場合、上型及び下型によってそれぞれ形成される部分の断面形状や大きさは、互いに異なるものであってもよい。すなわち、穿刺部10の断面形状は、図15に示すように接合面Tでの接合長さ(接合面積)が互いに異なる2つの台形形状を組み合わせたもの、図16に示すように接合面Tでの接合長さが互いに異なる2つの六角形状を組み合わせたもの、図17に示すように接合面Tでの接合長さが異なる台形形状及び六角形状を組み合わせたもの等を例示することができる。これらの構成によれば、上型と下型との接合面Tに要求される位置合わせ精度を緩和して、成形を容易にすることができる。また、穿刺部10の強度を高める複雑な断面形状を容易に得ることができ、保持チャンバ18の内容積を確保しつつ、断面積の低減により穿刺抵抗の低減を図ることができる。
【0045】
また、保持チャンバ18の開口形状は、本実施形態では円形状としているが、楕円形状、矩形状、多角形状など種々の形状とすることが可能である。例えば、医療用針1を射出成形により作製する場合、保持チャンバ18の開口形状が楕円形状となるように成形型の突状部位の断面を楕円形状として、図18に示すように、射出成形時の材料の射出方向(B方向)と平行になるように突状部位30の長軸30aを設定することが好ましい。このような保持チャンバ18の形成方法によれば、突状部位30の周辺における成形材料のスムーズな流れを促すことができ、保持チャンバ18が微小であっても内容積の精度を確保することができる。
【0046】
また、本発明の医療用針は、図19に示すように保持部20を吸盤状に形成し、穿刺部10を保持部20の内面中央から起立するように設けた構成にすることができる。この構成によれば、穿刺時にこの保持部20の中央部を矢示P方向に押圧すると、図20に示すように穿刺部10が生体内に侵入すると共に、保持部20の可撓変形により保持部20の内面を生体の表面Sに密着させることができる。この構成においては、保持部20の内面側に粘着テープ等からなる粘着層21を設けることが好ましく、これによって保持部20と生体表面Sとの密着性を高めて穿刺部10の穿刺状態を長期間良好に維持することができる。保持部20には、中央部から径方向外方に向けて放射状に切り込みを形成する等して変形を容易にする加工を行ってもよく、これによって生体表面Sとの密着性をより高めることができる。また、吸盤状の保持部20の内面に、穿刺部10を複数設けた構成にしてもよい。
【0047】
上記の各実施形態においては、穿刺部10に形成した保持チャンバ18が単一の場合である。この構成によれば、保持チャンバ18に薬剤を充填して生体内に穿刺した場合の薬剤の到達距離を正確にコントロールすることができるので、ワクチン接種などにおいて有益である。一方、穿刺部10には、図21に示すように、保持チャンバ18を複数形成してもよい。各保持チャンバ18は、穿刺部10の内部に画定されており、穿刺部10の穿刺方向に間隔をあけて形成されることが好ましい。図21に示す構成では、各保持チャンバ18は、穿刺方向に沿って直線状に配置されているが、それぞれ幅方向にずれた配置であってもよい。また、各保持チャンバ18は、形状、開口面積、内容積等が互いに相違してもよく、更に、上述した保持チャンバ18の各種変形例を適用可能である。
【0048】
図21に示す穿刺部10によれば、穿刺部10の穿刺深さは一定として、皮内、皮下、筋肉内など生体内における深さ方向の異なる部位に対して、投与物の投与や被採取物の採取を行うことができる。複数の保持チャンバ18により投与物を投与する場合、保持チャンバ18によって投与物を異ならせることが可能であり、或いは、投与物の投与と同時に他の保持チャンバ18で被採取物を採取することが可能である。
【0049】
本発明の医療用針は、単独で使用することが可能である。或いは、本発明の医療用針をケーシング内に進出可能に収容した穿刺具として使用することも可能である。穿刺具としては、軟質材料から形成されたケーシング(外針)の内部に、上記各実施形態の医療用針を内針として備える留置針の他、国際公開公報第2009/148133号パンフレットに開示されているように、穿刺器具本体に着脱可能に装着される穿刺針カートリッジや、穿刺器具本体を要することなく単独で穿刺が可能な穿刺装置などを例示することができる。
【0050】
図22に示すように、国際公開公報第2009/148133号パンフレットに開示された穿刺針カートリッジ40は、医療用針1と、この医療用針1が収容される筐体状のケーシング44とを備えている。医療用針1は、穿刺部10及び保持部20を備えており、穿刺部10に保持チャンバ18が設けられている。また、ケーシング44の内壁面には、互いに対向する位置に一対の可撓片44a,44aが設けられており、これら可撓片44a,44aが保持部20と係合している。なお、図22においては、ケーシング44の上蓋を取り除いた状態で示している。
【0051】
この穿刺針カートリッジ40は、ケーシング44の後方開口44bを介して医療用針1の後端側を突起状部材等により押圧すると、穿刺部10がケーシング44の前方開口44cから突出して、穿刺を行うことができる。そして、穿刺後は可撓片44a,44aの作用により医療用針1が後方へと移動し、穿刺部10がケーシング44内に収容される。このように、穿刺具を医療用針がケーシング内で進退可能な構成は、インフルエンザワクチン接種等のように、所望の深さ位置(例えば皮内)に短時間の穿刺を行いたい場合に特に効果的である。但し、穿刺具40の構成は、ケーシング44内で医療用針1が進退可能な構成に限定されず、医療用針がケーシングから進出して穿刺位置で保持される(すなわち、医療用針がケーシングから進出した後に退避しない)構成であってもよい。
【0052】
また、上記各実施形態の医療用針は、穿刺部10と、この穿刺部10を生体外で支持する保持部20とを備える構成にしているが、図23に示すように、保持部を備えず穿刺部10のみから医療用針1を構成することも可能である。この医療用針1は、全体が生体内に侵入するため、生分解性材料により形成することが好ましく、保持チャンバ18に投与物を充填した状態で穿刺して穿刺部10を生体内に留置させることにより、医療用針1を生体内で分解させて投与物の吸収を促すことができる。このように、医療用針1の全体が生体内に侵入して留置可能に構成することで注射針の回収が不要になるので、医療廃棄の問題を解消することができ、特にドラッグデリバリーシステム(DDS)において効果的である。保持部20を備えない本実施形態の医療用針1についても、保持部20を備える医療用針1について上述した保持チャンバ18の各種変形例が適用可能であることは、言うまでもない。
【0053】
穿刺部10のみからなる医療用針1は、例えば図24に正面図で示すように、貫通孔からなる装着部42を複数備える筒状のケーシング44と組み合わせることで、穿刺具40を構成することができる。この穿刺具40は、穿刺部のみからなる医療用針1を各装着部42にそれぞれ収容し、ケーシング44の前面44aを生体表面に押し当てた状態で、医療用針1の後端側をプランジャや圧縮空気等の押圧手段により押圧することで、医療用針1を発射し、生体内10に侵入させることができる。生体内への各医療用針1の侵入深さは、医療用針1の押圧力を調整することにより所望の深さに制御することが可能である。各医療用針1は、同じ押圧力で一体的に押圧してもよく、或いは、それぞれ異なる侵入深さとなるように個別に押圧してもよい。
【0054】
ケーシング44が備える装着部42は、単一であってもよい。また、ケーシング44は、例えば内視鏡により構成することも可能である。この構成においては、穿刺部のみからなる医療用針1を内視鏡の先端に装着して、ガイドワイヤや空気圧などを利用して医療用針1を噴射し、生体内の所望の箇所に穿刺することができる。
【0055】
本発明の医療用針及び穿刺具は、投与物の投与や被採取物の採取を微少量であっても正確に行うことが可能であることから、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、微量成分や単一細胞を採取して分析を行うための医療用デバイスなど、種々の用途を有するものである。
【符号の説明】
【0056】
1 医療用針
10 穿刺部
12 平面部
18 保持チャンバ
20 保持部
40 穿刺具
44 ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に侵入可能な穿刺部を備える医療用針であって、
前記穿刺部は、外周面に互いに平行な一対の平面部を有しており、
前記一対の平面部にそれぞれ開口するように貫通し、前記穿刺部の内部に画定される保持チャンバが形成された医療用針。
【請求項2】
前記保持チャンバは、前記穿刺部の内部から前記一対の平面部の一方又は双方に向けてテーパ状に拡径するように形成されている請求項1に記載の医療用針。
【請求項3】
前記保持チャンバは、前記穿刺部の穿刺方向に間隔をあけて複数形成されている請求項1に記載の医療用針。
【請求項4】
生分解性材料からなり、全体が生体内に侵入して留置可能に構成された請求項1に記載の医療用針。
【請求項5】
前記穿刺部を生体外で支持する保持部を更に備える請求項1に記載の医療用針。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の医療用針と、前記医療用針を進出可能に収容するケーシングとを備える穿刺具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−183076(P2011−183076A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53881(P2010−53881)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 経済産業省中小企業庁 戦略的基盤技術高度化支援事業 「医療用微細針の超精密微細成形加工に係る技術」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503467089)株式会社ライトニックス (10)
【Fターム(参考)】