説明

医薬用精製水の製造方法、及び医薬品用精製水の製造装置

【課題】本発明は、熱水殺菌工程を含む精製水の製造処理を、効率的かつ短時間で行うことができる医薬用精製水の製造方法、及び製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】精製水の製造工程開始にあたり熱水殺菌工程を行う医薬用精製水の製造方法であって、被処理水の水温60℃以上での透過水の導電率が45μS/cm以下の逆浸透膜装置を用い、熱水殺菌工程では、逆浸透膜装置の濃縮水、及び電気式脱イオン装置の濃縮水、電極水、脱塩水の、原水タンクへの返送、または系外への排出を、昇温、均温、降温の各工程で適宜切換することにより、熱水殺菌工程を効率的に行う医薬用精製水の製造方法、及び製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品用精製水の製造方法及び製造装置に係わり、特に精製水の製造前に、系内を効率的に殺菌できるようにした医薬品用精製水の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医薬品製造等に用いられる精製水の製造装置として、水道水等の原水を、逆浸透膜装置と、電気式脱イオン装置を組み合わせた系で処理するようにしたものが知られている。
特に医薬品製造用の精製水の製造には、生菌の発生を防止するための厳密な管理が要求されるため、精製水の製造処理前に、系内の各装置を、定期的(例えば週1回)に殺菌する必要がある。
精製水製造装置内部の殺菌は、通常60℃以上の温度の熱水を装置内部に通水することにより行われる。
【0003】
ところで、特許文献1(特開平8−252600号公報)には、常温の原水を逆浸透膜装置及びイオン交換装置に通水し、この処理水を一旦純水タンクに貯留したものを、熱交換器で90℃以上の高温に加熱し、この加熱水をUF装置に通水後、被処理水タンクに戻して逆浸透膜装置、イオン交換装置等を熱水殺菌する方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、系全体を熱水殺菌するためには、純水タンクの純水を加熱してUF装置に通水した後、この熱水を原水タンクに還流させて原水タンクの原水を熱水で置換する必要があり、殺菌のための昇温工程、均温工程、降温工程に長時間を要する上に、その間、系内の逆浸透膜装置やイオン交換装置に熱負荷が加わるため、イオン交換装置の劣化が促進されるという問題がある。
【0005】
また、特許文献2(特開2004−74109号公報)には、常温状態の原水を事前に逆浸透膜、電気式脱イオン装置(電気再生式純水製造装置)に通して純水とし、この純水で原水タンク内の貯留水を置換したものを原水加熱器で加熱して、逆浸透膜、電気式脱イオン装置、原水タンクと循環させて熱殺菌する方法が記載されている。
しかし、この方法では、熱殺菌に際して、原水タンク内の原水を、一旦、この系を通過して処理された純水で置換して、この原水タンク内の純水を加熱して系内を循環させる方法であり、原水タンクの原水と純水の置換に長時間を要する上に、系内の逆浸透膜装置や電気式脱イオン装置に熱負荷が加わるため、イオン交換装置の劣化が促進されるという問題がある。
さらに、特許文献3(特開2005−288335号公報)には、第1三方弁及び第2三方弁の切換え操作により、一次純水システムの循環経路を形成し、この状態で、一次純水システムの被処理水タンク内の被処理水を軟水に置換した上で、この軟水を第1熱交換器で加熱し、逆浸透膜装置、脱イオン装置に一括送水して加熱殺菌する方法が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献3の方法も被処理水タンクの被処理水を軟水で置換するのに長時間を要し、全体の処理効率が良くないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−252600号公報
【特許文献2】特開2004−74109号公報
【特許文献3】特開2005−288335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、熱水殺菌工程を含む精製水製造処理において、殺菌工程に要する時間を短縮するとともに、原水タンクの原水を直接殺菌用の熱水として使用して処理水の無駄を大幅に節減した、医薬品用精製水を効率的に製造できる精製水製造方法、及び精製水製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の医薬品用精製水の製造方法は、原水が供給される原水タンクと、逆浸透膜装置と、電気式脱イオン装置と、前記電気式脱イオン装置の脱塩水が供給される処理水タンクが順に配置され、前記原水タンクから前記逆浸透膜装置に供給される被処理水を60℃以上の温度に加熱する加熱手段とを備えた系を用いる医薬用精製水の製造方法であって、
前記逆浸透膜装置として、被処理水の水温60℃以上における透過水の導電率が45μS/cm以下の逆浸透膜装置を使用し、精製水の製造を開始するにあたり系内を熱水により殺菌するための昇温、均温及び降温の各工程において、(a)昇温工程では、前記加熱手段により前記原水タンクから前記逆浸透膜装置に供給される被処理水を60℃以上の温度に加熱するとともに、前記原水タンクへの原水の供給を止め、前記逆浸透膜装置の濃縮水を排出し、前記電気式脱イオン装置の脱塩水、濃縮水、電極水は前記原水タンクへ還流させる、(b)均温工程では、前記加熱を継続しつつ、前記原水タンクへの原水の流入を止め、前記逆浸透膜装置の濃縮水および前記電気式脱イオン装置の濃縮水、電極水、脱塩水を原水タンクへ還流させる、(c)降温工程では、前記加熱を停止するとともに、前記原水タンクへ原水を供給し、前記逆浸透膜装置の濃縮水および前記電気式脱イオン装置の濃縮水、電極水を放出し、前記電気式脱イオン装置の脱塩水は処理水タンクへ還流させる、ことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の医薬品用精製水の製造装置は、原水が供給される原水タンクと、逆浸透膜装置と、電気式脱イオン装置と、前記電気式脱イオン装置の脱塩水が供給される処理水タンクが順に配置され、原水タンクから前記逆浸透膜装置に供給される被処理水を60℃以上の温度に加熱する加熱手段を備えた医薬品用精製水の製造装置であって、前記逆浸透膜装置の被処理水の水温60℃以上における透過水の導電率が45μS/cm以下の逆浸透膜装置を使用し、原水の供給配管及び脱塩水の供給配管にそれぞれ開閉弁を設け、前記逆浸透膜装置の濃縮水排出配管と原水タンク間、前記電気式脱イオン装置の濃縮水排出配管と前記原水タンク間、前記電気式脱イオン装置の電極水排出配管と前記原水タンク間及び前記電気式脱イオン装置の脱塩水排出配管の前記開閉弁の上流部と前記原水タンク間に、それぞれ切換弁の切換えにより濃縮水、電極水及び脱塩水を前記原水タンクに還流可能な独立又は共通の還流配管を設けるとともに、殺菌するための昇温、均温及び降温の各工程において、前記開閉弁、前記切換弁および前記加熱手段を以下のように制御する制御手段を備えたことを特徴とするものである。(a)昇温工程では、前記加熱手段を駆動させ、前記原水の供給配管を閉鎖、電気式脱イオン装置の脱塩水、濃縮水、電極水の流路を処理水タンク側から原水タンクへの還流配管側に切換える、(b)均温工程においては、さらに、前記逆浸透膜装置の濃縮水の流路を排出側から原水タンクへの還流管路側に切換え、(c)降温工程においては、前記加熱手段を停止し、前記原水の供給配管を開放、前記逆浸透膜装置の濃縮水及び前記電気式脱イオン装置の濃縮水、電極水の流路を原水タンクへの還流管路側から排出側に切換える。
【0011】
本発明によれば、熱水殺菌工程では、原水タンクの原水を加熱して系内を循環させつつ精製するとともに、昇温工程、均温工程では電気式脱イオン装置の濃縮水、電極水も系内を循環させつつ、循環する熱水が所定の水質になるまでは逆浸透膜装置を機能させ所定の水質になった後には、逆浸透膜装置の濃縮水も循環させて極力熱の系外への放出を抑制して昇温を迅速に行わせ、降温工程では系内に原水を導入するとともに、逆浸透膜装置の濃縮水、電気式脱イオン装置の濃縮水、電極水を放出することにより、降温を迅速に行わせることにより、全体として、熱水殺菌に要する時間を大幅に短縮させることができ、さらに、殺菌処理に用いる処理水を大幅に節減できる。
また、殺菌工程終了時には、系内の水が精製されており、殺菌工程終了後、そのまま精製水製造処理工程に移行できる。従って、精製水の製造工程全体を効率的に行うことができ、また、このように効率化しても、電気式脱イオン装置の劣化を招くことがない。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明によれば、医薬品等に用いられる精製水の製造処理全体に要する時間を、電気式脱イオン装置に対する負荷を増大させることなく、大幅に短縮することができる。また、殺菌処理に要する処理水やエネルギーを節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における医薬品用精製水の製造装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の精製水製造方法の昇温工程におけるフローを示す図である。
【図3】本発明の精製水製造方法の均温工程におけるフローを示す図である。
【図4】本発明の精製水製造方法の降温工程におけるフローを示す図である。
【図5】本発明の精製水製造方法の精製水製造処理工程のフローを示す図である。
【図6】他の実施形態における医薬品用精製水の製造装置の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の詳細、ならびにその他の特徴及び利点について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態における医薬品用精製水の製造装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態における医薬品用精製水の製造装置1は、前処理水10を処理する活性炭吸着装置11と、この活性炭吸着装置11の後段に、原水タンク12が設置されており、活性炭吸着装置11、原水タンク12間は、開閉バルブ21を備えた供給配管L1によって接続されている。
原水タンク12の後段には、逆浸透膜装置13と、電気式脱イオン装置14と、が順次設置されており、更に電気式脱イオン装置14の後段には、処理水タンク15が設置されている。電気式脱イオン装置14と処理水タンク15は、開閉バルブ22を備えた供給配管L2により接続されている。
また、原水タンク12と逆浸透膜装置13との間には、蒸気ヒータ16が設けられている。図1では蒸気ヒータ16は原水タンク12と逆浸透膜装置13との間に設置されているが、特に限定されるものではなく、また、加熱は蒸気ヒータに限定されるものではなく電熱ヒータ等も使用可能である。
【0016】
なお、原水タンク12と蒸気ヒータ16との間の配管には、第1のポンプP1が設けられ、蒸気ヒータ16と逆浸透膜装置13との間の配管には、第2のポンプP2が設けられている。原水タンク12内の水は、これらのポンプにより上記各装置に順次通水され、後述するように加熱殺菌時には、還流配管を介して、熱水を系内に循環させるようになっている。なお、図1では原水タンク12と蒸気ヒータ16との間には、第1のポンプP1が介挿入され、蒸気ヒータ16と逆浸透膜装置13との間には、第2のポンプP2が介挿入されているが、いずれか一方でもよく、設置する場所も特に限定されない。
また、原水タンク12内、蒸気ヒータ16と逆浸透膜装置13との間の配管、電気式脱イオン装置14と処理水タンク15との間の配管には、それぞれ温度計T1、T2、T3が設けられており、加熱殺菌時には、各部の水温を検出して、図示を省略した制御手段により、昇温、均温、降温の各工程における各バルブの操作を行うとともに、蒸気ヒータ16を制御して各部の水温を所定の殺菌温度に維持するようになっている。
【0017】
このように、温度計T1〜T3は、加熱殺菌時に系内の水温が所定の殺菌温度であることを監視するとともに、所定の殺菌温度を維持するように図示を省略した制御手段により蒸気ヒータ16をフィードバック制御する温度センサーとして用いられる。
【0018】
逆浸透膜装置13の濃縮水出口配管は、濃縮水排出バルブ23を介して濃縮水排出配管L3に接続されている。濃縮水排出配管L3の濃縮水排出バルブ23の上流部と原水タンク12間には、後述する均熱工程において、濃縮水排出バルブ23を閉じるとともに、管路に設けた切換えバルブ24の開放により、逆浸透膜装置13の濃縮水を原水タンク12に還流させる還流配管L4が設けられている。
【0019】
電気式脱イオン装置14は、脱塩室141と濃縮室142と電極室143とから構成されており、脱塩水の供給配管L2の開閉バルブ22の上流部と原水タンク12間には、殺菌工程において、切換えバルブ25の開放により、高温の脱塩水を原水タンク12に還流させる還流配管L5が設けられている。
また、濃縮室142の濃縮水出口配管と、電極室143の電極水出口配管はそれぞれ共通の還流配管L6に接続されている。この共通の還流配管L6は分岐して一方の分岐管L61は原水タンク12に接続され、他方の分岐管L62は濃縮水排出口に開口している。分岐管L61、62には、それぞれ流路を原水タンク12側と濃縮水排出口側に切換えるバルブ26、27が設けられている。
【0020】
なお、開閉バルブ21、22及び濃縮水排出バルブ23、切換えバルブ24〜27は、加熱処理の各段階において、図示を省略した制御手段により開閉が行われる。そして、開閉バルブ22と切換えバルブ25、濃縮水排出バルブ23と切換えバルブ24、切換えバルブ26と27については、それぞれ同時に開閉制御が行われて、熱水の流路の切換えが行われる。
【0021】
本発明に使用される逆浸透膜装置13は、水温60℃以上の熱水を通水したときの、透過水の導電率が45μS/cm以下となるものであり、脱塩率は85%以上のものが好ましい。
このような逆浸透膜装置13に装着される逆浸透膜131(図示省略)としては、例えば、Duratherm RO 2540 HF(70℃用)、Duratherm RO 4040 HF(70℃用)、Duratherm RO 8040 HF(70℃用)(いずれも米国GE社製、商品名)等が挙げられる。
【0022】
電気式脱イオン装置14は、電極室141と濃縮室142と脱塩室143と、を有している。ここで、具体的な電気式脱イオン装置14の構造図は省略するが、濃縮室142、電極室143からは、それぞれ出口配管が設けられている。
なお、濃縮室142を流れる濃縮水流路と電極室143を流れる電極水流路とが、電気式脱イオン装置14内部で合流している場合には、濃縮水の出口配管と電極水の出口配管とを共通配管としてもよい。
このような電気式脱イオン装置14としては、例えば、MK−2MiniHT(耐熱仕様EDI)(GE社製)が適している。
【0023】
次に、図2〜5に基づいて、本発明の製造装置1による医薬用精製水の製造方法について説明する。
本発明では、製造装置1内の各装置に熱水を通水し、殺菌処理をした後に通常の精製水製造処理を行う。この熱殺菌工程は、昇温工程、均温工程、降温工程から構成される。以下に、製造装置1による医薬用精製水の製造方法について説明する。
【0024】
図2に基づいて、殺菌工程における昇温工程のフローを説明する。
初めに、開閉バルブ21、22及び切換えバルブ24、27を閉とし、濃縮水排出バルブ23、切換えバルブ、25、26を開として、ポンプP1を駆動させる。これによって、タンク12内の原水は、20〜80℃の加熱温度に設定した蒸気ヒータ16に供給し、原水を加熱する。次いで、加熱された原水を、ポンプP2を駆動させて蒸気ヒータ16から逆浸透膜装置13に供給する。
逆浸透膜装置13では、被処理水の水温が60℃以上で脱塩処理が行われる。
逆浸透膜装置13から排出された濃縮水は、濃縮水排出バルブ23を介して系外に排出させる。
使用する逆浸透膜装置13は、被処理水の水温が60℃以上で透過水の導電率は45μS/cm以下、好ましくは40μS/cm以下の性能のものであり、被処理水の水温が60℃以上で脱塩率が85%以上のものがより好ましい。
昇温速度としては、温度計T2で測定される逆浸透膜装置13への供給水の水温が、5℃/分以下の速度で上昇するように行うことが好ましい。従って、急激な温度上昇が起こらないよう、蒸気ヒータ16の設定温度、系内の循環水の流速等を適宜調整して行うことが好ましい。
【0025】
上記のように、常温での逆浸透膜処理を経ずに蒸気ヒータの熱水状態で逆浸透膜装置13を通過した透過水は、直接電気式脱イオン装置14の脱塩室141、濃縮室142、及び電極室143に供給される。
脱塩室141から排出される処理水は、切換えバルブ25を介して原水タンク12に還流される。また、濃縮室142及び電極室143から排出される処理水も、切換えバルブ26を介して原水タンク12に還流される。
この状態で、系内の温度が60〜90℃に昇温するまで原水タンク12内の原水を循環させる。すなわち、原水タンク12内への新たな水の供給を行わず、原水タンク12内の水を循環して昇温させるため、系内の昇温に伴って、循環水の精製が進行する。
なお、昇温工程において処理水の循環が繰り返されると、逆浸透膜装置13に供給される水の導電率は次第に低下する。そして、逆浸透膜装置13の供給水の導電率が200μS/cm以下、好ましくは150μS/cm以下、さらに好ましくは100μS/cm以下になると、逆浸透膜装置13の濃縮水の導電率も原水の導電率と同等又はそれより低くなるので、切換えバルブ24を開にして原水タンク12に還流させて、濃縮水の排出による熱の放出を抑制することができる。
【0026】
次に、図3に基づいて、均温工程のフローを説明する。
開閉バルブ21、22、濃縮水排出バルブ23及び切換えバルブ27は閉、切換えバルブ25、26は開としたままで、切換えバルブ24を開として、上記昇温工程と同様に、タンク12内の原水を、60〜90℃に設定した蒸気ヒータ16に供給し、原水の水温を60〜90℃に保持した状態でこの原水を蒸気ヒータ16から逆浸透膜装置13に供給する。逆浸透膜装置13では、熱水状態で通水された原水が逆浸透膜131により脱塩処理されて濃縮水を得られるが、均温工程における系内の循環水は、既に昇温工程で脱塩処理されているため、この濃縮水は、系外に排出せず、切換えバルブ24を介して還流配管L4より原水タンク12に還流する。
なお、必要に応じて逆浸透膜装置13の濃縮水の一部を系外に排出するようにしてもよい。
【0027】
逆浸透膜装置13を熱水状態で通過した透過水は、上記昇温工程のときと同様、電気式脱イオン装置14の脱塩室141、濃縮室142、電極室143に直接供給される。脱塩室141から排出される処理水は、切換えバルブ25を介して原水タンク12に還流される。また、濃縮室142及び電極室143から排出される処理水も、切換えバルブ26を介して原水タンク12に還流される。
このように、逆浸透膜装置13で得られる濃縮水も含め、製造装置1内の水をすべて循環させることにより、系内の熱をロスすることなく、熱水殺菌を効率的に行うことができる。
この状態で、系内の各装置が十分に殺菌処理されるまで、原水タンク12内の原水を循環させる。循環回数としては、特に制限されるものではないが、通常は数回から数十回である。
【0028】
次に、図4に基づいて、降温工程におけるフローを説明する。
開閉バルブ22を閉、切換えバルブ25を開としたまま、開閉バルブ21、濃縮水排出バルブ23、切換えバルブ27を開とし、切換えバルブ24、26を閉として、活性炭吸着装置11によって吸着処理がなされた常温の原水を、原水タンク12内に供給する。
併せて、原水タンク12内の原水を、加熱動作を停止した蒸気ヒータ16に供給する。次いでこの原水を、上記均温工程のときと同様、逆浸透膜装置13に供給する。逆浸透膜装置13に供給された原水は、逆浸透膜131で脱塩処理され、逆浸透膜装置13で得られた濃縮水は、濃縮水排出バルブ23を介して系外に排出させる。
被処理水の降温速度は、逆浸透膜装置13への供給水の水温が、5℃/分以下の速度で降下するように行うことが好ましい。従って、系内に供給する原水タンク12内の貯留水の水温や、系内の循環水の流速等を適宜調整して、急激な温度低下を抑えて行うことが好ましい。
【0029】
降温工程においても、脱塩室141からの処理水は、切換えバルブ25を介して原水タンク12に還流されるが、逆浸透膜装置13の濃縮水及び電気式脱イオン装置14の濃縮水、電極水は、それぞれ還流配管L3並びに還流配管L6及び分岐管L62から系外に排出される。
この状態で、系内の温度が20〜30℃に降温するまで原水タンク12内の原水を循環させる。
【0030】
なお、本実施形態では、前処理水10を原水タンク12に供給するとともに、逆浸透膜装置13の濃縮水等を系外に放出して系内の水温を降下させることとしたが、例えば、蒸気ヒータ16のジャケットに冷水を供給して、蒸気ヒータ16を水冷ジャケットとして用いることもでき、濃縮水等の系外への放出と水冷ジャケットの使用とを併用することもできる。
【0031】
以上のようにして製造装置1の殺菌処理が終了した後、実際の医薬品用精製水の製造を行う。ここで、系内の循環水は、上記の熱水殺菌工程時に逆浸透膜装置13によって十分に脱塩処理されているため、この循環水を精製処理することなく、このまま以下の精製水製造工程に供することもできる。
図5は、本発明の精製水の製造方法の精製水製造処理工程のフローを示す図である。
初めに、切換えバルブ24、26を閉、開閉バルブ21、濃縮水排出バルブ23及び切換えバルブ27を開としたまま、開閉バルブ22を開とし、切換えバルブ25を閉として、タンク12内の原水を、20〜30℃に温度設定した蒸気ヒータ16にポンプP1を駆動させて供給し、次いで、ポンプP2を駆動してこの原水を逆浸透膜装置13に供給し、逆浸透膜131によって脱塩処理する。
この際、逆浸透膜装置13で得られた濃縮水は、濃縮水排出バルブ23を介して系外に排出させる。
【0032】
逆浸透膜装置13の透過水は、電気式脱イオン装置14の脱塩室141、濃縮室142及び電極室143に供給される。
脱塩室141で脱イオン処理がなされた処理水は、開閉バルブ22を介して供給配管L2より処理水タンク15に供給される。濃縮室142でイオン濃度の高まった濃縮水は、濃縮室142及び電極室143から排出され、切換えバルブ27を介して分岐管L62より系外に排出される。
なお、濃縮室142、電極室143から排出される排水は、原水よりも水質が良い場合には、分岐管L61から原水タンクに返送してもよい。
【0033】
このように、本発明の精製水製造方法は、熱水殺菌工程において、熱水状態で逆浸透膜131を通水させた透過水を、直接電気式脱イオン装置14に供給して熱水殺菌しており、殺菌工程に要する時間を大幅に短縮できる。即ち、従来のように、予め常温の原水を逆浸透膜131に通水して純水を製造し、次いでこの純水で原水タンク12内の原水を置換し、これを電気式脱イオン装置14に供給する工程を経ないため、殺菌処理に要する処理水やエネルギーを大幅に節減できる。なお、殺菌工程終了後は、系内の水が脱塩処理されているため、速やかに精製水製造処理工程に移行することもできる。
また、このように熱水状態で逆浸透膜131を通水させた処理水を、直接電気式脱イオン装置14に供給しても、電気式脱イオン装置14への負荷を増大させず、電気式脱イオン装置14の短命化や処理水の水質低下を招くこともない。
【0034】
なお、本実施形態では上記の構成の装置1としているが、例えば、原水タンク12と蒸気ヒータ16との間に、活性炭吸着装置、膜処理装置を設けることもでき、逆浸透膜装置13と電気式脱イオン装置14との間に、UV照射装置を設けることもできる。
さらに、電気式脱イオン装置14と切換えバルブ25との間にUV照射装置、膜処理装置を設けた構成とすることも可能である。
【0035】
本発明の精製水の製造方法及び製造装置によって得られた処理水は、主に薬剤調整や注射用水等の医薬品製造用として好ましく用いられるが、この処理水の用途としては、医薬品用に限定されるものでなく、例えば半導体製造用、食品用など、幅広い用途に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0037】
図1に示した医薬品用精製水の製造装置1を用いて原水(厚木市)の処理を行った。
以下、図2〜図4を用いて説明する。
【0038】
図1における活性炭吸着装置11としては、ACボンベNCC−200AC(野村マイクロ・サイエンス株式会社製、商品名)を用い、これに装着する活性炭として、クラレコールKW(クラレケミカル株式会社製、商品名)を用いた。
逆浸透膜131としては、Duratherm RO 4040 HF(GE社製)を用い、電気式脱イオン装置14としては、MK−2MiniHT(GE社製、商品名)を用いた。
【0039】
(実施例1)
[昇温工程]
逆浸透膜装置13に、逆浸透膜131として「Duratherm RO 4040 HF」(GE社製、商品名))を装着した製造装置1を用い、上記逆浸透膜131に、非加熱の原水(原水導電率170μS/cm)を供給して、以下の操作を行った。
ここで、「非加熱」とは、蒸気ヒータ16等を用いた積極的な加熱処理を行っていないことを意味している。
まず、図2において、活性炭吸着装置11で予め活性炭処理されて原水タンク12内に貯留された非加熱の原水(導電率170μS/cm)を、図示を省略した温度制御装置により、原水を80℃に加熱するよう設定した蒸気ヒータ16に供給して加熱しながら通水し、次いで、加熱された原水(水温20〜80℃)を、逆浸透膜装置13、電気式脱イオン装置14の順に通水した(逆浸透膜装置13の処理水の導電率は10〜20μS/cm以下(脱塩率は85%以上)である。)。
電気脱イオン装置14の脱塩室141の流量は1.5L/min./cellである。
脱塩室141からの処理水は、切換えバルブ25を介して原水タンク12に返送し、濃縮室142、電極室143からの処理水は、切換えバルブ26を介して原水タンク12に返送して、この状態のまま、系内の温度が80℃になるまで60分間循環させた。
なお、逆浸透膜装置13から排出された濃縮水は、濃縮水排出バルブ23を介して排出配管L3より系外に排出した。
【0040】
[均温工程]
図3において、蒸気ヒータ16の温度は80℃に設定したまま、原水タンク12内の水を、上記昇温工程と同様に、蒸気ヒータ16、逆浸透膜装置13、電気式脱イオン装置14の順に通水した。
脱塩室141、濃縮室142、電極室143からの処理水は、それぞれ切換えバルブ25、26を介して還流配管L5、還流配管L6により原水タンク12に返送し、逆浸透膜装置13から排出された濃縮水も、切換えバルブ24を介して還流配管L4により原水タンク12に返送して、水温80℃に保持した熱水を、製造装置1内に30分間循環させた。
なお、電気脱イオン装置14の脱塩室141の流量は1.5L/min./cellである。
【0041】
[降温工程]
図4において、蒸気ヒータ16の加熱動作を停止したうえで、開閉バルブ21を開放して前処理水10を原水タンク12に供給し、原水タンク12内の熱水と混合する。
同時に、この混合水を、上記の各工程と同様に、蒸気ヒータ16、逆浸透膜装置13、電気式脱イオン装置14の順に通水する。このときの、電気脱イオン装置14の脱塩室141の流量は1.5L/min./cellとした。
脱塩室141からの処理水は、切換えバルブ25を介して原水タンク12に還流し、濃縮室142、電極室143からの処理水は、切換えバルブ27を介して分岐管L62から系外に排出して、この状態のまま、系内の温度が25〜30℃になるまで60分間循環させた。
なお、逆浸透膜装置13からの濃縮水は、濃縮水排出バルブ23を介して排出配管L3より系外に排出した。
降温工程が終了した時点での、逆浸透膜131へ供給される水の導電率は120μS/cmであった。
ちなみに、逆浸透膜装置13へ供給される水の導電率が、殺菌工程前の導電率(170μS/cm)に上昇するまで、さらに20分間必要であった。
この実施例において、殺菌工程開始時から殺菌工程を終了するまで(殺菌工程前の導電率(170μS/cm)に回復するまで)に要した時間は、170分であった。
【0042】
殺菌処理を行う前の電気脱イオン装置14の脱塩室141出口の生菌数は2.1cfu/mlであったが、上述した一連の殺菌処理を行った結果、脱塩室141出口の生菌数は0.1cfu/mlとなった。
【0043】
(参考例1)
図6に示す純水製造装置1´を用いて、以下の操作を行った。
なお、純水製造装置1´は、図1に示す純水製造装置1の逆浸透膜装置13と電気脱イオン装置14とを接続する配管上に、切換えバルブ28を設けると共に、逆浸透膜装置13及び切換えバルブ28間に、切換えバルブ29を介して還流配管L5と接続する配管L7を設けたものであり、他の構成は、図1に示す純水製造装置と同様である。
参考例1において、逆浸透膜装置13に装着する逆浸透膜131としては、「SU−710T」(東レ社製、商品名)を使用した。
【0044】
図6において、切換えバルブ28を閉とし、切換えバルブ24、29を開とし、他の切換えバルブ及び開閉バルブは全て閉として、原水タンク12内の非加熱の原水を、80℃に設定した蒸気ヒータ16、逆浸透膜装置13の順に通水した。逆浸透膜装置13の透過水は、配管L7及び還流配管L5を介して原水タンク12に返送し、逆浸透膜装置13の濃縮水も、還流配管L4を介して原水タンク12に返送した。
この状態のまま、電気脱イオン装置14はバイパスして系内の水の温度が80℃になるまで循環させ(昇温工程)、その後、系内の水の水温を80℃に保持して、製造装置1´内に30分間循環させた(均温工程)。
均温工程時の逆浸透膜装置13の処理水の導電率は、60μS/cm(脱塩率は約65%)であり、電気式脱イオン装置14に供給できる水質の処理水は得られなかった。
【0045】
(参考例2)
図1に示す製造装置1の逆浸透膜装置13に、参考例1で用いた「SU−710T」(東レ社製、商品名)を逆浸透膜131として装着し、以下の操作を行った。
【0046】
処理水タンク15内に貯留されている電気式脱イオン装置14の処理水を原水タンク12に還流して、原水タンク12内の被処理水が逆浸透膜装置13の供給口入口において導電率が100μS/cm以下になるまで希釈して、逆浸透膜装置13の処理水の導電率を10μS/cm以下にした。この操作に30分を要した。
以下、昇温工程と均温工程は実施例と同様の方法で、殺菌処理を行った。(逆浸透膜装置13の処理水の導電率は10〜20μS/cmであった。)
降温工程では、逆浸透膜装置13に供給する水の導電率の上昇を抑制するため、開閉バルブ21を閉として原水タンク12に対する前処理水10の供給は行わず、蒸気ヒータ16のジャケットに冷水を供給し、他の点は実施例の降温工程と同様にして、系内の温度が25〜30℃になるまで60分間循環させた。
降温工程が終了した時点での、逆浸透膜131へ供給される水の導電率は20μS/cm以下であった。
ちなみに、逆浸透膜装置13へ供給される水の導電率が、殺菌工程前の導電率(170μS/cm)に上昇するまでに、さらに60分間必要であった。
この参考例において、殺菌工程開始時から殺菌工程を終了するまで(殺菌工程前の導電率(170μS/cm)に回復するまで)に要した時間は240分であった。
【0047】
殺菌処理を行う前の電気脱イオン装置14の脱塩室141出口の生菌数は3.1cfu/mlであったが、上述した一連の殺菌処理を行った結果、脱塩室141出口の生菌数は0.2cfu/mlとなった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の精製水の製造方法及び製造装置は、医薬品用等の精製水の製造に用いることができ、とくに精製水の製造前に、系内を熱水殺菌する精製水の製造の際に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 医薬品用精製水製造装置
10 前処理水
11 活性炭吸着装置
12 原水タンク
13 逆浸透膜装置
131 逆浸透膜
14 電気式脱イオン装置
15 処理水タンク
16 蒸気ヒータ
21、22 開閉バルブ
23 濃縮水排出バルブ
24〜30 切換えバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水が供給される原水タンクと、逆浸透膜装置と、電気式脱イオン装置と、前記電気式脱イオン装置の脱塩水が供給される処理水タンクが順に配置され、前記原水タンクから前記逆浸透膜装置に供給される被処理水を60℃以上の温度に加熱する加熱手段とを備えた系を用いる医薬品用精製水の製造方法であって、
前記逆浸透膜装置の被処理水の水温60℃以上における、前記逆浸透膜装置の透過水の導電率が45μS/cm以下の逆浸透膜装置を使用し、精製水の製造を開始するにあたり系内を熱水により殺菌するための昇温、均温及び降温の各工程において、
(a)前記昇温工程では、前記加熱手段により前記原水タンクから前記逆浸透膜装置に供給される被処理水を60℃以上の温度に加熱するとともに、前記原水タンクへの原水の供給を止め、前記逆浸透膜装置の濃縮水を排出し、前記電気式脱イオン装置の脱塩水、濃縮水、電極水は前記原水タンクへ還流させる、
(b)前記均温工程では、前記加熱を継続しつつ、前記原水タンクへの原水の流入を止め、前記逆浸透膜装置の濃縮水および前記電気式脱イオン装置の濃縮水、電極水、脱塩水を原水タンクへ還流させる、
(c)前記降温工程では、前記加熱を停止するとともに、前記原水タンクへ原水を供給し、前記逆浸透膜装置の濃縮水および前記電気式脱イオン装置の濃縮水、電極水を放出し、前記電気式脱イオン装置の脱塩水は処理タンクへ還流させる、
ことを特徴とする医薬品用精製水の製造方法。
【請求項2】
昇温工程における被処理水の昇温速度が、5℃/分以下であることを特徴とする請求項1に記載の医薬品用精製水の製造方法。
【請求項3】
降温工程における被処理水の降温速度が、5℃/分以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬品用精製水の製造方法。
【請求項4】
原水が供給される原水タンクと、逆浸透膜装置と、電気式脱イオン装置と、前記電気式脱イオン装置の脱塩水が供給される処理水タンクが順に配置され、原水タンクから前記逆浸透膜装置に供給される被処理水を60℃以上の温度に加熱する加熱手段を備えた医薬品用精製水の製造装置において、
前記逆浸透膜装置の被処理水の水温60℃以上における、前記逆浸透膜装置の透過水の導電率が45μS/cm以下の逆浸透膜装置を使用し、原水の供給配管及び脱塩水の供給配管にそれぞれ開閉弁を設け、前記逆浸透膜装置の濃縮水排出配管と原水タンク間、前記電気式脱イオン装置の濃縮水排出配管と前記原水タンク間、前記電気式脱イオン装置の電極水排出配管と前記原水タンク間及び前記電気式脱イオン装置の脱塩水排出配管の前記開閉弁の上流部と前記原水タンク間に、それぞれ切換弁の切換えにより濃縮水、電極水及び脱塩水を前記原水タンクに還流可能な独立又は共通の還流配管を設けるとともに、殺菌するための昇温、均温及び降温の各工程において、前記開閉弁、前記切換弁および前記加熱手段を以下のように制御する制御手段を備えたことを特徴とする医薬品用精製水の製造装置。
(a)前記昇温工程では、前記加熱手段を駆動させ、前記原水の供給配管を閉鎖、電気式脱イオン装置の脱塩水、濃縮水、電極水の流路を処理水タンク側から原水タンクへの還流配管側に切換える、
(b)前記均温工程においては、さらに、前記逆浸透膜装置の濃縮水の流路を排出側から原水タンクへの還流管路側に切換え、
(c)前記降温工程においては、前記加熱手段を停止し、前記原水の供給配管を開放、前記逆浸透膜装置の濃縮水及び前記電気式脱イオン装置の濃縮水、電極水の流路を原水タンクへの還流管路側から排出側に切換える。
【請求項5】
前記電気式脱イオン装置の濃縮水排出配管と前記原水タンク間の還流配管と前記電気式脱イオン装置の電極水排出配管と前記原水タンク間の還流配管は、共通配管であることを特徴とする請求項4に記載の医薬品用精製水の製造装置。
【請求項6】
前記逆浸透膜装置は、水温60℃以上の被処理水が供給されたときの脱塩率が85%以上である
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の医薬品用精製水の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−147880(P2011−147880A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10921(P2010−10921)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】