説明

医薬組成物

本発明は、a)超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質及び/又はその製薬学的許容性の塩、b)水及びc)シクロデキストリン及び/又は官能性シクロデキストリン−誘導体を含有する、貯蔵安定性溶液の形での、超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質の非経口的投与のための医薬組成物に関する。本発明による組成物は、付加的な助剤なしでも高い安定性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質の非経口的適用のための、溶液の形の医薬組成物に関する。
【0002】
超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質、例えばエスモロール塩酸塩、ランジオロール塩酸塩(2種の心臓−選択性β−遮断剤)及びフレストロール塩酸塩は、その極めて短い消失半減期に基づいて非経口的処方で、特に麻酔薬並びに緊急の場合には、集中治療薬中で使用される。
【0003】
本発明の目的のための「超短時間作用型」とは、その消失半減期が、β−遮断剤メトプロロールの消失半減期(半減期t1/2=90分)よりも短い作用物質であると理解される。特に、本発明によって使用されたβ−アドレノ受容体拮抗物質の消失半減期は、好ましくは20分よりも短い。
【0004】
これに関する問題は、一方では、水性溶液中でのその作用物質のわずかな安定性であり、それというのもこれは加水分解的に遊離酸及びアルコール(エスモロールの場合には純粋な酸及びメタノール)に分解されるためである[例えば、Baaske DM、Dykstra SD、Wagenknecht DM、Kamatz NN Stability of esmolol hydrochloride in intravenous solutions.Am J Hosp Pharm. 1994 Nov 1;51(21):2693-6.; Tamotsu Yasuda, Hiroyuki Kamiya, Yoko Tanaka, Go Watanabe, Ultra-short-acting cardioselective beta-blockade attenuates postischemic cardiac dysfunction in the isolated rat heart, Eur J Cardiothorac Surg 2001; 19:647-652]。
【0005】
他方では、たとえばエスモロールについて投与のために使用される作用物質濃度はあまりにも高いため、しばしばこの溶液が高張液となる。さらにこの溶液を安定化するために、多くの場合においてさらにアルコールを25%程度添加する。この処方技術的問題に基づいて、集中治療薬中におけるエスモロールの使用は、付加的なリスクを伴う。
【0006】
これに反して市販のランジロロールは、例えば現在のところそもそも固体の配合物中でのみ使用可能であるため、集中的治療薬中でのその使用前に、先ず溶解しなければならず、これは不必要な時間の損失を招きうる。ランジオロールを含有する凍結乾燥組成物は、CN 1827109Aから知られている。
【0007】
エスモロールに関して挙げられた問題を解決するための試みは、デキストロースの添加[Wiest DB, Gamer SS, Childress LM., Stability ofesmolol hydrochloride in 5% dextrose injection. Am J Health Syst Pharm. 1995 Apr 1;52(7):716-8.]、pH値<6への調整[Rosenberg LS, Hostetler CK, Wagenknecht DM, Aunet DA., An accurate prediction of the pH change due to degradation: correction for a "produced" secondary buffering system. Pharm Res. 1988 Aug;5(8):514-7.]ならびに高濃度プロピレングリコールの添加[http://www.rxlist.com/cgi/generic3/esmolol.htm]を含む。
【0008】
WO 85/04580は、0.1〜30%の質量部のエスモロール溶液が記載されており、これは、特に、緩衝液及びエタノールを5〜60%の割合で含有する。
【0009】
EP 0 403 578 Blでは、請求項1において、心臓状態の治療のための、注射可能な水性組成物が請求されており、この場合、この組成物は、エスモロール(塩酸塩)の効果的量を1mg〜250mgエスモロール/ml溶液の割合で、かつ0.01〜0.04Mの緩衝液を含み、pH値は4.5〜5.5を示す。
【0010】
国際特許出願WO 02/076446には、0.1〜500mg/mlのエスモロール塩酸塩、0.001〜2M緩衝液及び1〜500mg/mlの浸透調整剤を含有する、エスモロール溶液が記載されている。
【0011】
欧州特許出願EP 1 417 962 Aには、1500mg〜3500mgの割合のエスモロール又はその製薬学的許容性の塩を有する30ml〜70mlの希釈液から構成される医薬組成物が記載されている。
【0012】
ランジオールに関して挙げられた問題を解決するための試みについては、知られていない。
【0013】
本発明の課題は、超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質の非経口的適用のための組成物から成り、これは特に、注射又は輸液のために提供され、一方で高い貯蔵安定性を示し、かつ、他方で投与に適した浸透圧モル濃度を示す。この組成物はさらに可能な限り血管保護特性を有し、これは特に高い作用物質濃度(たとえばエスモロール)の場合には重要である。
【0014】
驚くべきことに、本発明による課題は、超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質及び/又はその製薬学的許容性の塩の安定性を増加させるためのシクロデキストリン及び/又は官能性シクロデキストリン誘導体を、非経口的投与に適した貯蔵安定性水性溶液中で使用することにより解決されることが見出された。
【0015】
本発明のこの課題において、溶液はさらに他の助剤、特に緩衝液、保存剤、水と混合可能な有機溶剤、塩、糖アルコール及び/又は糖を含有することができる。
【0016】
他の観点において本発明は、貯蔵安定性溶液の形の、超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質の非経口投与のための医薬組成物に関し、この組成物は、本質的に、
a)超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質及び/又はその製薬学的許容性の塩、
b)水及び
c)シクロデキストリン及び/又は官能性シクロデキストリン誘導体、
から成る。
【0017】
DE 42 07 922 Al及びUS 2004/0053894には、一般に、製薬学的組成物中でのシクロデキストリンの使用が記載されている。さらに、製薬学的組成物中でのシクロデキストリンの使用は、WO 2003/033025 A2、US 2003/0216349 Al及びIkeda et al., J Pharm Sci. 2004, 93(7), 1659-1671に記載されている。
【0018】
シクロデキストリン及び/又は官能性シクロデキストリン誘導体の添加によって、超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質の安定性は、純粋な水性溶液中で顕著に増加しうることが見出された。
【0019】
驚くべきことに、さらに超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質溶液は、専ら超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質、シクロデキストリン及び水から構成され、さらに他の助剤の前処理(たとえば、技術水準から公知の緩衝剤又は浸透調整剤)なしで、十分に安定性であり、かつ浸透性に関しては投与に適している。これは特にpH値3〜7.5又は特に好ましくは5〜7の範囲である。
【0020】
本発明の目的のための用語「貯蔵安定性」とは、凍結乾燥製品からそれ自体を溶解することで製造可能である溶液とは異なり、長期に亘って貯蔵可能であって、その際、含有される作用物質の言うに値する分解が生じない水性溶液であると理解される。「貯蔵安定性」とは、特に、1ヶ月後に5%未満の作用物質が分解される水性溶液であると理解される。
【0021】
溶液のpH値は、前記に示したように好ましくは3〜7.5、特に好ましくは5〜7である。
【0022】
これに関して、溶液中のシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体の濃度は、好ましくは0.1〜20質量%(W/V)、好ましくは0.25〜7%(W/V)、特に好ましくは0.5〜4%(W/V)である。
【0023】
シクロデキストリン又は官能性シクロデキストリン誘導体は、好ましくはα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、その官能性誘導体及びこれらの混合物から成る群から選択される。
【0024】
「官能性シクロデキストリン誘導体」とは、シクロデキストリン分子の本質的構造及び大きさが保持されているシクロデキストリンの製薬学的許容性のすべての塩であると理解される。特に本発明では、官能性シクロデキストリン誘導体としては、製薬学的許容性の酸及びエーテル、特に低級アルキルエーテルのエステルである。特に好ましいシクロデキストリン誘導体は、(2−ヒドロキシプロピル)−β−シクロデキストリン及び(スルホブチルエーテル)−7β−シクロデキストリンである。
【0025】
本発明による組成物中で使用された超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質は、好ましくはエスモロール、ランジオロール及びフレストロールからなる群から選択される作用物質である。
【0026】
超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質又はその塩の濃度は、溶液中で使用されたβ−アドレノ受容体拮抗物質にしたがって0.1〜30%であってもよい。
【0027】
エスモロール又はエスモロール塩の場合の好ましい濃度は1〜20%である。ランジオロール又はランジオロール塩の場合の好ましい濃度は1〜20%である。フレストロール又はフレストロール塩の場合の好ましい濃度は0.1〜10%である。
【0028】
この溶液は、好ましくは270ミリオスモル(mosmol)/l〜310ミリオスモル(mosmol)/lの浸透圧モル濃度、特に好ましくは280ミリオスモル(mosmol)/l〜300ミルオスモル(mosmol)/lの浸透圧モル濃度を示す。これは、等張溶液に相当する。
【0029】
エスモロールの場合には、本発明による組成物は、好ましくは、
10〜20mgのエスモロール又はその塩を含有する1mlの溶液、
10〜100mgのエスモロール又はその塩を含有する2mlの溶液、
50〜500mgのエスモロール又はその塩を含有する5mlの溶液、
50〜5000mg、特に2500mgのエスモロール又はその塩を含有する10mlの溶液、
50〜5000mgのエスモロール又はその塩を含有する50mlの溶液、
50〜5000mgのエスモロール又はその塩を含有する100mlの溶液、
50〜5000mgのエスモロール又はその塩を含有する250mlの溶液
から成る群から選択された販売単位の形である。
【0030】
市販の製品中で、100mgのエスモロールを含有する10mlの溶液を"ready-to-use"(即時使用可能な)製品として直接注射に使用することができる。高い割合のエスモロールを含む市販の組成物(特に10ml/2500mgエスモロール)は、投与前に希釈しなければならない。これとは対照的に、本発明による溶液は、その血管保護特性に基づいて、さらに高いエスモロール濃度で"ready-to-use"(即時使用可能な)製品として使用することができる。
【0031】
ランジオロール又はフレストロールの場合には、本発明による組成物は、好ましくは、 5〜20mgのランジオロール又はフレストロール又はこれらの塩を含有する1mlの溶液、
5〜100mgのランジオロール又はフレストロール又はこれらの塩を含有する2mlの溶液、
10〜500mgのランジオロール又はフレストロール又はこれらの塩を含有する5mlの溶液、
10〜5000mgのランジオロール又はフレストロール又はこれらの塩を含有する10mlの溶液、
25〜2500mgのランジオロール又はフレストロール又はこれらの塩を含有する25mlの溶液、
50〜5000mgのランジオロール又はフレストロール又はこれらの塩を含有する50mlの溶液、
50〜5000mgのランジオロール又はフレストロール又はこれらの塩を含有する100mlの溶液、
50〜5000mgのランジオロール又はフレストロール又はこれらの塩を含有する250mlの溶液、
から成る群から選択される販売単位の形である。
【0032】
市販のランジオロール含有製品において、50mgのランジオロールは乾燥物質として含有される。この製品は、注射前に再度溶液中に装入しなければならない。
【0033】
これとは対照的に、ランジオロールの本発明による組成物中では、ランジオロールは溶液中で極めて安定に存在する。一般には、本発明による組成物の血管保護特性に基づいて、それぞれ、従来の配合物に対して比較可能な、超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質のより高い濃度を使用することができる。
【0034】
本発明による組成物の製造は、公知方法で、それぞれの構成成分の混合及び引き続いての溶解によって実施することができる。
【0035】
本発明による組成物は、特に、心房性細動、心房性粗動及び洞性頻脈を有する患者における、房室性頻脈及びAV結節頻脈の際、頻脈性上心室性及び心室性不整脈の際、術前、術中及び術後並びに緊急の場合における頻脈及び高血圧の際の心室頻度を減少させるための、術中の虚血を予防及び治療するための、不安定な狭心症及び急性心筋梗塞を治療するための、医薬品を製造するために使用することができる。
【0036】
以下、本発明を、実施例及び図面に基づいてさらに説明する。
【0037】
これに関して、図1は、5%エスモロール参考溶液及び本発明による組成物の75℃での促進分解率を示す。
【0038】
図2は、水中のエスモロール−シクロデキストリン−複合体の75℃での促進分解率についての凍結乾燥の影響を示す。
【0039】
さらに図3では、エスモロールの75℃での安定性におけるα−デキストリンの濃度の影響を示す。
【0040】
図4は、エスモロールの75℃での安定性におけるヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの影響を示す。
【0041】
図5は、水性溶液中のランジオロールの70℃での安定性におけるα−シクロデキストリンの増加した濃度の影響を示す。
【0042】
図6は、水性溶液中のランジオロールの70℃での安定性における2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの増加した濃度の影響を示す。
【0043】
図7は、水性溶液中のランジオロールの70℃での安定性におけるγ−シクロデキストリンの増加した濃度の影響を示す。
【0044】
図8は、水性溶液中のランジオロールの70℃での安定性におけるpH値の影響を示す。
【0045】
図9は、濃縮懸濁液によりランジオロールが貯蔵されている0.25%(W/V)の水性ランジオロール溶液の70℃での安定性における、シクロデキストリン(2%、W/V)の影響を示す。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】5%エスモロール参考溶液及び本発明による組成物の75℃での促進分解率を示す図
【図2】水中エスモロール−シクロデキストリン−複合体の75℃での促進分解率における凍結乾燥の影響を示す図
【図3】エスモロールの75℃での安定性におけるα−デキストリンの濃度の影響を示す図
【図4】エスモロールの75℃での安定性におけるヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの影響を示す図
【図5】水性溶液中のランジオロールの70℃での安定性におけるα−シクロデキストリンの増加した濃度の影響を示す図
【図6】水性溶液中のランジオロールの70℃での安定性における2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの増加した濃度の影響を示す図
【図7】水性溶液中のランジオロールの70℃での安定性におけるγ−シクロデキストリンの増加した濃度の影響を示す図
【図8】水性溶液中のランジオロールの70℃での安定性におけるpH値の影響を示す図
【図9】濃縮懸濁液によるランジオロールが貯蔵されている0.25%(W/V)の水性ランジオロール溶液の70℃での安定性における、シクロデキストリン(2%、W/V)の影響を示す図
【0047】
例1:
(2−ヒドロキシプロピル)−β−シクロデキストリン−エスモロール−複合体の製造
5%濃度のエスモロール溶液に対して、当モル量の(2−ヒドロキシプロピル)−β−シクロデキストリンを添加し、かつ6時間に亘って撹拌する。
【0048】
例2:
α−及びγ−シクロデキストリン−エスモロール−複合体の製造
5%濃度のエスモロール溶液に対して、それぞれ、当モル量のα−シクロデキストリン(Cavamax W6 Pharma、製造元 Wacker Chemie AG社)(例2a)又はγ−シクロデキストリン(Cavamax W8 Pharma、製造元 Wacker Chemie AG社)(例2b)を添加し、かつ18時間に亘って撹拌した。
【0049】
例3:
シクロデキストリン−エスモロール−複合体の製造
例3a:
エスモロール及びα−シクロデキストリンを、5%(W/V)(エスモロール)又は14%(W/V)(α−シクロデキストリン)の水中の最終濃度で注射用に溶解し、かつ24時間に亘って室温で攪拌した。
【0050】
例3b:
エスモロール及び場合により付加的なα−シクロデキストリンを、5%(W/V)(エスモロール)又は14%、7%、4%、2%、1%及び0%(W/V)(α−シクロデキストリン)の水中の最終濃度で注射用に溶解し、かつ24時間に亘って室温で攪拌した。
【0051】
例3c:
エスモロール及び場合により付加的なヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを、5%(W/V)(エスモロール)又は7%及び0%(W/V)(ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン)の水中の最終濃度で注射用に溶解し、かつ24時間に亘って室温で攪拌した。
【0052】
例4−比較例:
注射のための従来の5%エスモロール溶液の製造
第1表に示された処方にしたがって、非経口的エスモロール溶液を製造した。
【0053】
【表1】

【0054】
例5:
非経口的エスモロール溶液の安定性試験
例1〜例3に記載された溶液を用いて、75℃の温度で促進安定性試験を実施した。0、24、45及び70時間後に試料を取り出し、これを蒸留水で希釈した(20μl試料+180μl水)。促進された分解は、HPLCを用いて以下のようにして測定した。
【0055】
定性的及び定量的分析のために、ダイオード−アレイ−検出器を備えたHPLC装置(Hitachi Elite LaChrom)及びWatersのNova-Pak-カラムC18、4μm、3.9×150mmを使用した。移動相は、(A)水中のHPO(10g/l)、その際、トリエチルアミン(TEA)でpH2.35に調整したもの、及び(B)アセトニトリルから構成された。使用した勾配を第2表に示した。
【0056】
【表2】

【0057】
流量は1ml/分であり、注射容量は20μlであった。エスモロール塩酸塩の検出は、274nmで実施した。エスモロール塩酸塩の保持時間は平均3.9分に達し、主分解生成物(以下第3表中「不純物A」)の保持時間は1.7分であった。分解率を測定するために、主分解生成物と残留エスモロール塩酸塩との比を算定し、かつ%で示した("エスモロール"分解率%)。
【0058】
この試験結果は、シクロデキストリン含有溶液の顕著に増加した安定性を示した:
図1には、5%エスモロール参考溶液及び水中のエスモロール−シクロデキストリン−複合体の75℃での促進分解率を示す[(白抜き菱形)0%シクロデキストリンの5%エスモロール比較溶液(例3b);(X)5%エスモロール+γ−シクロデキストリン(例2b);(黒塗り四角)5%エスモロール+(2−ヒドロキシプロピル)−β−シクロデキストリン(例1);(黒塗り三角)5%エスモロール+α−シクロデキストリン(例2a)]。この値は、3つの試験からの平均値±S.D.である。
【0059】
図2において、水中の75℃でのエスモロール−シクロデキストリン−複合体の促進分解における凍結乾燥の影響をしめす[(白抜き菱形)0%シクロデキストリンの5%エスモロール比較溶液(例3b);(X)14%濃度のα−シクロデキストリン−溶液中の5%エスモロール(例3a)凍結乾燥なし;(黒塗り四角)5%エスモロール+α−シクロデキストリン(例2a)引き続いての凍結乾燥及び水中での再構成を含む]。この値は、3つの試験からの平均値±S.D.である。
【0060】
図3において、5%水性エスモロール溶液の75℃での安定性におけるα−シクロデキストリンの濃度の影響を示す[(白抜き三角)0%シクロデキストリンの5%エスモロール比較溶液(例3b);(+)5%エスモロール+1%α−シクロデキストリン(例3b);(白抜き丸)5%エスモロール+2%α−シクロデキストリン(例3b);(黒塗り四角)5%エスモロール+4%α−シクロデキストリン(例3b);(黒塗り三角)5%エスモロール+7%α−シクロデキストリン(例3b);(黒塗り丸)5%エスモロール+14%α−シクロデキストリン(例3b)]。この値は、3つの試験からの平均値±S.D.である。
【0061】
図4において、水性5%エスモロール溶液の75℃での安定性におけるヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの影響を示す[(黒塗り四角)0%ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの5%エスモロール比較溶液(例3c);(白抜き丸)5%エスモロール+7%ヒドロキシルプロピル−β−シクロデキストリン(例3c)]。この値は、3つの試験からの平均値±S.D.である。
【0062】
例6:
エスモロール−シクロデキストリン−複合体の貯蔵安定性
第3表は、分解生成物(=不純物)の増加に基づく、従来の配合物(例4)と比較してのエスモロール−シクロデキストリン−複合体の貯蔵安定性をしめす。
【0063】
【表3】

【0064】
例7:
浸透圧モル濃度の測定
水に対する浸透圧モル濃度又は凝固点低下は、セミマイクロ浸透圧計(Knauer社)を用いて測定した。この浸透圧計を用いて浸透圧モル濃度を測定可能にするために、試料を、浸透圧計中で凍結するまで冷却した。
【0065】
例3aによるα−シクロデキストリンを有する5%エスモロール溶液は、290mosmol/lの浸透圧モル濃度を示す。これは、等張溶液に相当し、それというのも281〜297mosmol/1の等張圧の範囲に達するためである。>310mosmolの溶液は高張圧として示され、<270mosmol/1の溶液は低張圧として評価される。
【0066】
例8:
シクロデキストリン−ランジオロール−複合体の製造及び安定性試験
ランジオロールを、浄水(gereinigtem Wasser)中で0.25%(m/V)の濃度で溶解させた。引き続いてα−シクロデキストリン(Cyclolab社、Budapest)、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(CTD Inc社、Florida)及びγ−シクロデキストリン(ISP社、Deutschland)を、0%、0.5%、1%、2%及び7%(W/V)の最終濃度で添加した。この溶液を70℃に加熱し、かつ例5中で記載されたHPLC法にしたがってランジオロールの安定性を測定した。ランジオロールの検出を、220nmで実施した。ランジオロール塩酸塩の保持時間は平均10.5分であり、主分解生成物の保持時間は1.4分である。分解率の測定のために、主分解生成物と残留ランジオロール塩酸塩との比を算定し、かつ%でしめした(「ランジオロール分解率(%)」)。この試験結果は、図5〜7に示した。それぞれ示された値は、3つの試験からの平均値±S.D.である。図5は、70℃でのランジオロールの安定性に関する0%(黒塗り四角)、0.5%(X)、1%(白抜き丸)、2%(白抜き三角)、4%(黒抜き三角)及び7%(白抜き四角)α−シクロデキストリンの影響を示す。
【0067】
図6は、70℃でのランジオロールの安定性に関する2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン0%(黒塗り四角)、0.5%(X)、1%(白抜き丸)、2%(白抜き三角)、4%(黒塗り三角)及び7%(白抜き四角)2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの影響を示す。
【0068】
図7は、70℃でのランジオロールの安定性に関する0%(黒塗り菱形)、0.5%(白抜き四角)、1%(X)、2%(白抜き三角)、4%(黒塗り四角)及び7%(白抜き丸)2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの影響を示す。
【0069】
例9:
ランジオロールの安定性におけるpH値の影響の評価
ランジオロールを、浄水中0.25%(W/V)の濃度で溶解した。引き続いてpH値を3、4、5、5.5、6、6.5、7及び8に調整した。溶液を70℃に加熱し、かつランジオロールの安定性を例5及び8に記載されたHPLC法にしたがって測定した。この試験結果を、図8にしめした。これに関して、pH3.0(白抜き菱形)、pH4.0(X)、pH5.0(白抜き四角)、pH5.5(白抜き三角)、pH6.0(黒塗り三角)、pH6.5(黒塗り菱形)、pH7.0(白抜き丸)及びpH8.0(黒塗り四角)の場合のランジオロールの分解率を示す。それぞれ示された値は、3つの試験からの平均値±S.D.である。
【0070】
例10:
濃縮懸濁液を用いて製造された、シクロデキストリン−ランジオロール−複合体の安定性試験
ランジオロール及びα−シクロデキストリン(Cyclolab社、Budapest)、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(CTD Inc社、Florida)又はγ−シクロデキストリン(ISP社、Deutschland)を、浄水中で、10%ランジオロール(W/V)又は80%シクロデキストリン(W/V)の濃度で懸濁し、かつ2時間に亘って室温で攪拌した。超音波を用いての5分の処理後に、懸濁液を段階的に希釈し、その結果、ランジオロールの最終濃度は0.25%(W/V)を有していた。この溶液を、70℃でインキュベートし、かつ取り出された試料を、例5及び8に記載されたHPLV法を用いて分析した。この試験結果を、図9にしめした。これに関して、70℃でのランジオロールの安定化に関する2%のα−シクロデキストリン(黒塗り菱形)、2%の2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(白抜き三角)及び2%γ−シクロデキストリン(白抜き丸)の影響を示す。それぞれ示された値は、3つの試験からの平均値±S.D.である。
【0071】
例11:
静脈内投与された超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質における血管保護作用
シクロデキストリンを含むか又は含まない前記β−アドレノ受容体拮抗物質の溶液を、ラットに持続的に頸静脈を介してより長時間に亘って注入した。これは、シクロデキストリン含有溶液中の前記β−アドレノ受容体拮抗物質が、市販の溶液を使用した場合と比較して顕著に少ない内皮損傷及び血管損傷を生じることを示した。
【符号の説明】
【0072】
(白抜き菱形、図1) 0%シクロデキストリンの5%エスモロール比較溶液(例3b)、 (X、図1) 5%エスモロール+γ−シクロデキストリン(例2b)、 (黒塗り四角、図1) 5%エスモロール+(2−ヒドロキシプロピル)−β−シクロデキストリン(例1)、 (黒塗り三角、図1) 5%エスモロール+α−シクロデキストリン(例2a)、 (白抜き菱形、図2) 0%シクロデキストリンの5%エスモロール比較溶液(例3b)、 (X、図2) 14%濃度のα−シクロデキストリン−溶液中の5%エスモロール(例3a)凍結乾燥なし、 (黒塗り四角、図2) 5%エスモロール+α−シクロデキストリン(例2a)引き続いての凍結乾燥及び水中での再構成を含む、 (白抜き三角、図3) 0%シクロデキストリンの5%エスモロール比較溶液(例3b)、 (+、図3) 5%エスモロール+1%α−シクロデキストリン(例3b)、 (白抜き丸、図3) 5%エスモロール+2%α−シクロデキストリン(例3b)、 (黒塗り四角、図3) 5%エスモロール+4%α−シクロデキストリン(例3b)、 (黒塗り三角、図3) 5%エスモロール+7%α−シクロデキストリン(例3b)、 (黒塗り丸、図3) 5%エスモロール+14%α−シクロデキストリン(例3b)、 (黒塗り四角、図4) 0%ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンの5%エスモロール比較溶液(例3c)、 (白抜き丸、図4) 5%エスモロール+7%ヒドロキシルプロピル−β−シクロデキストリン(例3c)、 (黒塗り四角、図5) 0%α−シクロデキストリン、 (X、図5) 0.5%、 (白抜き丸、図5) 1%、 (白抜き三角、図5) 2%、 (黒抜き三角、図5) 4%、 (白抜き四角、図5) 7%、 (黒塗り四角、図6) 0%2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、 (X、図6) 0.5%、 (白抜き丸、図6) 1%、 (白抜き三角、図6) 2%、 (黒塗り三角、図6)4%、 (白抜き四角、図6) 7%、(黒塗り菱形、図7)0%2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、 (白抜き四角、図7) 0.5%、 (X、図7) 1%、 (白抜き三角、図7) 2%、 (黒塗り四角、図7) 4%、 (白抜き丸、図7) 7%、 (白抜き菱形、図8) pH3.0、 (X、図8) pH4.0、 (白抜き四角、図8) pH5.0、 (白抜き三角、図8) pH5.5、 (黒塗り三角、図8) pH6.0、 (黒塗り菱形、図8) pH6.5、 (白抜き丸、図8) pH7.0、 (黒塗り四角、図8) pH8.0、(黒塗り菱形、図9) 2%α−シクロデキストリン、 (白抜き三角、図9) 2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、 (白抜き丸、図9) 2%γ−シクロデキストリン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非経口的投与に適した貯蔵安定性水性溶液の中での超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質及び/又はその製薬学的許容性の塩の安定性を増加させるための、シクロデキストリン及び/又は官能性シクロデキストリン誘導体の使用。
【請求項2】
本質的に、
a)超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質及び/又はその製薬学的許容性の塩、
b)水
c)シクロデキストリン及び/又は官能性シクロデキストリン−誘導体
から成る、貯蔵安定性の溶液の形の、超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質の非経口的投与のための医薬組成物。
【請求項3】
溶液のpH値が3〜7.5、好ましくは5〜7である、請求項1又は2に記載の組成物の使用又は組成物。
【請求項4】
シクロデキストリン又はその官能性誘導体の濃度が0.1〜20%(W/V)、好ましくは0.25〜7%(W/V)、特に好ましくは0.5〜4%である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の使用又は組成物。
【請求項5】
シクロデキストリン又はシクロデキストリン−誘導体が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、その官能性誘導体及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項1から4までのいずれか1項に記載の使用又は組成物。
【請求項6】
シクロデキストリン−誘導体が、(2−ヒドロキシプロピル)−β−シクロデキストリン及び(スルホブチルエーテル)−7β−シクロデキストリンから成る群から選択される、請求項5に記載の使用又は組成物。
【請求項7】
超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質が、エスモロール、ランジオロール及びフレストロールから成る群から選択された作用物質である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の使用又は組成物。
【請求項8】
超短時間作用型β−アドレノ受容体拮抗物質又はその塩の濃度が0.1〜30%である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の使用又は組成物。
【請求項9】
溶液が、270mosmol/l〜310mosmol/l、好ましくは280mosmol/1〜300mosmol/lの浸透圧モル濃度を示す、請求項1から8までのいずれか1項に記載の使用又は組成物。
【請求項10】
組成物が、
10〜20mgのエスモロール又はその塩を含有する1ml溶液、
10〜100mgのエスモロール又はその塩を含有する2ml溶液、
50〜500mgのエスモロール又はその塩を含有する5ml溶液、
50〜5000mg、特に2500mgのエスモロール又はその塩を含有する10ml溶液、
50〜5000mgのエスモロール又はその塩を含有する50ml溶液、
50〜5000mgエスモロール又はその塩を含有する100ml溶液、
50〜5000mgエスモロール又はその塩を含有する250ml溶液
から成る群から選択された販売単位の形である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の使用又は組成物。
【請求項11】
組成物が、
5〜20mgのランジオロール又はフレストロール又はその塩を含有する1ml溶液、
5〜100mgランジオロール又はフレストロール又はその塩を含有する2ml溶液、
10〜500mgのランジオロール又はフレストロール又はその塩を含有する5ml溶液、
10〜5000mgのランジオロール又はフレストロール又はその塩を含有する10ml溶液、
25〜2500mgのランジオロール又はフレストロール又はその塩を含有する25ml溶液、
50〜5000mgのランジオロール又はフレストロール又はその塩を含有する50ml溶液、
50〜5000mgのランジオロール又はフレストロール又はその塩を含有する100ml溶液、
50〜5000mgのランジオロール又はフレストロール又はその塩を含有する250ml溶液
から成る群から選択された販売単位の形である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の使用又は組成物。
【請求項12】
心房性細動、心房性粗動及び洞性頻脈を有する患者、房室性頻脈及びAV結節頻脈、頻脈性上心室性及び心室性不整脈、術前、術中及び術後の頻脈及び高血圧並びにその他の緊急の場合における心室頻度を減少させるため、術中の虚血を予防及び治療するため、不安定な狭心症及び急性心筋梗塞を治療するための、医薬品を製造するための、請求項1から11までのいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−506486(P2011−506486A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538268(P2010−538268)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【国際出願番号】PCT/AT2008/000470
【国際公開番号】WO2009/079679
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(510172859)エイオーピー オーファン ファーマスーティカルズ アクチエンゲゼルシャフト (2)
【氏名又は名称原語表記】AOP Orphan Pharmaceuticals AG
【住所又は居所原語表記】Wilhelminenstrasse 91/II f/B 4, A−1160 Wien, Austria
【Fターム(参考)】