医薬配合物514
本発明は、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマー、たとえばコポビドンを含む固体分散系中に薬物4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬配合物に関する。本発明は、そのような配合物により得られるこの薬物の医薬日用量にも関する。さらに本発明は、この薬物の生物学的利用能を高めるための、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む固体分散系中における、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーの使用にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示するある態様は、Abbott GMBH & Co.KGとAstraZeneca UK Ltd.の共同研究合意のもとに実施された。
【0002】
本発明は、改良された生物学的利用能および/または安定性および/または薬物装填量を備えた新規な医薬組成物、これらの新規な医薬組成物を調製するための方法、ならびに癌の処置において単一薬剤として、または他の療法と組み合わせて、それらを使用することに関する。
【0003】
特に、本発明は、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に薬物4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬配合物に関する。特に適切なマトリックスポリマーはコポビドン(copovidone)である。本発明は、そのような配合物により得られる4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの医薬日用量(daily pharmaceutical dose)にも関する。さらに本発明は、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの生物学的利用能および/または安定性を高めるための、あるいは患者において癌を処置するための、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む固体分散組成物中におけるコポビドンの使用にも関する。
【背景技術】
【0004】
下記の構造をもつ4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン(化合物1):
【0005】
【化1】
【0006】
が、国際特許出願公開No.WO2004/080976に開示されている(化合物168)。それは、癌、たとえば乳癌および卵巣癌の処置に関して現在臨床試験中のポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬である。
【0007】
WO2005/012524およびWO2005/053662によれば、PARP阻害化合物、たとえば4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンは、その細胞が相同組換え(homologous recombination)(HR)依存性DNA二本鎖破断(double−stranded break)(DSB)修復経路に欠陥のある癌の治療に特に有効である。BRCA1(NM_007295)およびBRCA 2(NM_000059)遺伝性乳癌/卵巣癌遺伝子は、HR依存性DNA DSB修復経路の多数のタンパク質のうちのまさに2つである。HR依存性DNA DSB修復経路の他のメンバーには下記のものが含まれる:ATM(NM_000051)、ATR(NM_001184)、DSS1(U41515)、RPA 1(NM_002945.2)、RPA 2(NM_00294.6)、RPA 3(NM_002974.3)、RPA 4(NM_013347.1)、Chk1(NM_001274.2)、Chk2(096017 GI:6685284)、RAD51(NM_002875)、RAD51L1(NM_002877)、RAD51c(NM_002876)、RAD51L3(NM_002878)、DMC1(NM_007068)、XRCC2(NM_005431)、XRCC3(NM_05432)、RAD52(NM_002879)、RAD54L(NM_003579)、RAD54B(NM_012415)、RAD50(NM_005732)、MRE11A(NM_005590)およびNBS1(NM_002485)。したがって、たとえばBRCA1+および/またはBRCA2+である乳癌または卵巣癌は、相同組換え(HR)依存性DNA二本鎖破断(DSB)修復経路に欠陥のない癌よりPARP阻害化合物に対してはるかに感受性である可能性がある;これは有効な単剤療法および/またはより低い用量での処置を可能にし、それに伴って副作用がより少なくかつより低くなるであろう。
【0008】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン(化合物1)は、約12.5のpKa(フタラジノン部分)をもつ弱酸性化合物である。それは生理的pH範囲にわたって本質的に中性である。化合物1の水性平衡溶解度は、広範な水性緩衝液(pH1〜9)にわたって約0.10mg/mLであると測定された;この溶解度は、実在および模擬胃腸媒質内では0.12〜0.20mg/mLに上昇し、摂食状態の模擬腸液内では0.20mg/mLの最高溶解度に達する(実施例1.1を参照)。
【0009】
化合物1は、Caco−2細胞系を用いて調べた際、高透過性マーカーであるプロプラノロールと比較して中程度に透過性であると判定された。Caco−2 Papp値は3.67×10−6cm/秒であった;これはヒトのPeff値1.4×10−4cm/秒に等しい。化合物1は薬物配合に関して貧溶解性の限界にあり、これらの溶解度および透過値に基づけばバイオ医薬分類システム(Biopharmaceutical Classification System)(BCS)内で仮のクラス4(25mgを超える用量で)である(実施例1を参照)。
【0010】
溶解度および透過性の測定値に基づいて行なった化合物1の生物学的利用能の推定により、即時放出(immediate release)(IR)錠が化合物1に適切であることが示唆された。実際に、類似の溶解度、透過性および用量範囲をもつ化合物がIR錠としての配合に成功している(たとえば、Kasim et al. “Molecular properties of WHO essential drugs and provision of biopharmaceutics classification.” Molecular Pharmaceutics. 1(1):85-96, 2004を参照)。しかし、イヌにおいて試験した際、一般的なIR錠の投与後の曝露は予想よりはるかに低かった(参照:実施例6;図13)。
【0011】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの経口による患者への生物学的利用能は、ある程度は胃腸管におけるこの薬物の溶解速度および溶解度に依存する。一連の配合物についての4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの生物学的利用能は、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの投与以後に経過した時間に対する血漿4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン濃度のグラフの曲線下面積(AUC)を測定することにより評価できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2004/080976
【特許文献2】WO2005/012524
【特許文献3】WO2005/053662
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kasim et al. “Molecular properties of WHO essential drugs and provision of biopharmaceutics classification.” Molecular Pharmaceutics. 1(1):85-96, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、脂質配合物(Gelucire(商標)44−14)の調製により化合物1のIR錠の貧溶解性に対処することができ、この配合物を第I相および第II相臨床試験に使用した。しかし、高い薬物装填量(>10%)では、この脂質配合物について曝露低下がみられた(実施例6および図30を参照)。gelucire脂質配合物についての潜在的な問題点は、このように、最大耐容量を判定して潜在的療法用量を推定することを目的とした用量漸増試験中に初めて分かった。療法用量が400mgであれば、10%の薬物を装填したGelucire(商標)44−14配合物を16個のサイズ0カプセルとして投与しなければならないであろうということが分かった。これは患者にコンプライアンス問題をもたらすだけでなく、製造、包装および輸送の経費の増加など商業的にも関係があるであろう。
【0015】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンが50mgまたは100mgを超える日用量で必要な場合(実際に、400mg、1日2回という高い用量を臨床試験で試験している)、管理可能な単位数により投与できるように(たとえば1日4単位未満)、高い生物学的利用能をもつ4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの配合物、および十分な薬物装填量を達成するのが可能な配合物を見出すことが望ましいであろう。
【0016】
そのような生物学的利用能の向上は、一般的な配合物、たとえば4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの一般的なIR錠についてみられるものに匹敵する生物学的曝露を達成するのに必要な4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの日用量の減少を可能にするのに有用であろう。
【0017】
したがって、一般的なIR錠配合物と比較して改良された生物学的利用能および薬物装填量をもつ4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの配合物、理想的には約90%(静脈内液剤と比較して)の目標生物学的利用能をもつ配合物、および1回に摂取する必要のある単位数をたとえば4単位未満、理想的には1または2単位に減らすのに十分な薬物装填量が可能な配合物を見出すことが望まれている。
【0018】
本発明は、療法有効量に必要な錠剤またはカプセル剤のサイズおよび/または個数を理想的には4単位未満、好ましくはわずか1または2単位に減らす、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの配合物を提供することを目的とする。
【0019】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの療法ポテンシャルを高めるという目的に関して、本発明者らは、十分に高い薬物装填量(たとえば10%を超える)が可能な配合物において4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの生物学的利用能の向上を達成することにより療法ポテンシャルを高めることを試みた。個別の態様において、薬物装填量は少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%または60%であろう。薬物装填量が高いほど不安定である可能性が大きいので、60%の薬物装填量をもつ配合物の調製は可能ではあるが、安定性を維持するためにはより低い薬物装填量を採用するのが好ましいことは認識されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、利用できる多様な配合法のうち、特定のタイプのポリマーを含む固体分散配合物が前記に述べた1以上の目的に対処する手段であることを見出した。さらに、本発明の固体分散配合物は脂質gelucire配合物と比較して化合物1の生物学的利用能を高めることが、意外にも見出された。
【0021】
本発明者らは今回意外にも、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを配合することにより、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの療法ポテンシャルを高めうることを見出した。マトリックスポリマーであるコポビドンは、可塑剤の必要なしに高温溶融押出に使用でき、かつ最終製品(たとえば錠剤)中30%の薬物装填量ですら許容できる安定性を備えた製品を提供するので、特に適切であることが見出された。
【0022】
ある種の外部賦形剤が化合物1の安定性(たとえば、非晶質形態に維持する能力)を損なう可能性があることは認識されるであろうから、いずれか利用できる固体分散技術を用いて追加の界面活性剤/可塑剤の必要なしに、薬物を含む固体分散系中に配合できる適切なマトリックスポリマーを同定することがさらに望ましいであろう。
【0023】
したがって、1態様において本発明の固体分散配合物は界面活性剤/可塑剤を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
下記の添付図面および実験例を参照して以下に本発明の観点を説明する;これらは例示のためのものであって限定ではない。さらに他の観点および態様が当業者に明らかになるであろう。
【図1】図1は、化合物1のCaco−2単層透過性を示す(n=3,±s.d.)。
【図2】図2は、種々の化合物1配合物のインビトロ溶解度を示す。
【図3】図3は、結晶質化合物1の存在に起因する融解転移を示す固体分散系のサーモグラムを示す。
【図4】図4は、化合物1の単結晶を示す錠剤の高温載物台顕微鏡検査法におけるイメージを示す。
【図5】図5は、種々の薬物装填量の化合物1およびコポビドンの固体分散系についてのPDFスペクトルを示す。
【図6】図6は、種々の薬物装填量の化合物1およびコポビドンの固体分散系についてのPDFスペクトルと物理的混合物についての模擬スペクトルとの比較を示す。
【図7】図7は、薬物装填量10%の化合物1およびコポビドンの固体分散系について、50μm×50μmおよび10μm×10μm走査からのTM−AFMトポグラフィーイメージ(高さ)、先端偏角イメージ(tip−deflection)(誤差)および位相イメージ(機械的特性)を示す。
【図8】図8は、薬物装填量30%の化合物1およびコポビドンの固体分散系について、50μm×50μmおよび10μm×10μm走査からのTM−AFMトポグラフィーイメージ(高さ)、先端偏角イメージ(tip−deflection)(誤差)および位相イメージ(機械的特性)を示す。
【図9】図9は、薬物装填量40%の化合物1およびコポビドンの固体分散系について、50μm×50μmおよび10μm×10μm走査からのTM−AFMトポグラフィーイメージ(高さ)、先端偏角イメージ(tip−deflection)(誤差)および位相イメージ(機械的特性)を示す。
【図10】図10は、化合物1形態HについてのXRPD回折図を示す。
【図11】図11は、化合物1形態Hについての代表的なDSCトレースを示す。
【図12】図12は、OpadryについてのXRPD回折図を示す。
【図13】図13は、化合物1の赤外スペクトルを示す。
【図14】図14は、Aqoat MG、HP55S、Pharmacoat、ポビドン、およびコポビドンの赤外スペクトルを示す。
【図15】図15は、相関スクエアの注を施したAqoat MGの同期スペクトルを示す。
【図16】図16は、Aqoat MGの非同期スペクトルを示す。
【図17】図17は、HP55Sの同期スペクトルを示す。
【図18】図18は、HP55Sの非同期スペクトルを示す。
【図19】図19は、HP55Sの非同期スペクトル(高感度)を示す。
【図20】図20は、Pharmacoatの同期スペクトルを示す。
【図21】図21は、Pharmacoatの非同期スペクトルを示す。
【図22】図22は、Pharmacoatの非同期スペクトル(高感度)を示す。
【図23】図23は、ポビドンの同期スペクトルを示す。
【図24】図24は、ポビドンの同期スペクトル(高感度)を示す。
【図25】図25は、ポビドンの非同期スペクトルを示す。
【図26】図26は、コポビドンの同期スペクトルを示す。
【図27】図27は、コポビドンの同期スペクトル(高感度)を示す。
【図28】図28は、コポビドンの非同期スペクトルを示す。
【図29】図29は、コポビドンの非同期スペクトル(高感度)を示す。
【図30】図30は、種々の化合物1配合物について、時間に対する血漿濃度のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の第1観点によれば、マトリックスポリマーを含む固体分散系中に有効薬剤を含む医薬配合物であって、有効薬剤が4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその塩もしくは溶媒和物であり、マトリックスポリマーが低い吸湿性および高い軟化温度を示す配合物が提供される。
【0026】
1態様において、有効薬剤は配合物中に安定な非晶質形態で存在する。有効薬剤が配合物中に安定な非晶質形態で存在する場合、その配合物は配合物中の有効薬剤を非晶質形態で安定化し、他の形態への変換または返転を少なくすることができる。
【0027】
特定の態様において、化合物1の塩もしくは溶媒和物は医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物であることが望ましいであろう。
【0028】
本明細書中で用いる“ポリマー”は、共有化学結合により結合した反復構造単位からなる高分子を意味するものとする。この用語は、天然、由来が合成または半合成いずれであっても、線状および分枝状ポリマー、環状ポリマー、たとえば環状オリゴ糖(シクロデキストリンを含む)、ホモポリマーおよびコポリマーを含む。
【0029】
本明細書中で用いる用語“マトリックスポリマー”は、ポリマーまたは2種類以上のポリマーのブレンドを含む、低い吸湿性および高い軟化温度を示す材料を意味するものとする。
【0030】
本明細書中で用いる“低い吸湿性”は、M.S. Int. J. Pharm 103: 03-114 (1994)に示される動的蒸気収着(Dynamic Vapour Sorption)(DVS)により測定して50%の相対湿度で<10%の平衡含水率をもつことを意味するものとする。
【0031】
本明細書中で用いる“高い軟化温度”は、示差走査熱量測定(DSC)により測定してその物質が“受け取ったままの”状態で(すなわち、高湿度に曝露されていない)>100℃のガラス転移温度(Tg)または融点(Tm)を示すことを意味するものとする。Tgは非晶質の状態または形態にあるポリマーに適した測定であり、Tmは結晶質の状態または形態にあるポリマーに適した測定であることは、当業者に認識されるであろう。
【0032】
本発明に使用するのに適したマトリックスポリマーには下記のものが含まれる:コポビドン、フタル酸ヒプロメロース(hypromellose phthalate)(フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、HPMCP)、酢酸コハク酸ヒプロメロース(酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、HPMCAS)、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPBCD)、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、HPMC)、ポリメタクリレート(ポリ(メタクリル酸,メタクリル酸メチル1:1;ポリ(メタクリル酸,アクリル酸エチル)1:1)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、および酢酸フタル酸セルロース(CAP)。
【0033】
コポビドンは、化学式(C6H9NO)m(C4H6O2)nをもつN−ビニル−2−ピロリドン(VP)と酢酸ビニル(VA)の合成線状ランダムコポリマーであり、VA含量は公称40%である(ただし、たとえば35〜41%で変動する可能性がある)。酢酸ビニルをビニルピロリドンポリマー鎖に付加することにより、ポビドン(ポリビニルピロリドン、PVPホモポリマー)と比較してポリマーの吸湿性およびガラス転移温度(Tg)が低下する。
【0034】
コポビドンのK−値は25〜31であり、K−値は1%水溶液の動粘度から計算されるので、それはポリマーの平均分子量に関係する。平均分子量(Mw)は約24,000から30,000までの範囲である。
【0035】
本発明の1観点によれば、コポビドンを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬配合物が提供される。1態様において、この医薬配合物は患者に粘膜投与するのに適したものである。格別な粘膜投与経路は経口であり、たとえば錠剤またはカプセル剤などである。
【0036】
本発明は、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの医薬日用量であって、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に療法有効量の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬日用量も提供する。1態様において、マトリックスポリマーはコポビドンである。他の態様において、この医薬配合物は患者に粘膜投与される。
【0037】
特定の態様において、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの療法有効量は10〜1000mgの範囲にあり、他の態様において、この用量は25〜400mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む。
【0038】
本発明のさらに他の観点によれば、コポビドンを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含み、かつ癌の処置に有用な1種類以上の追加化合物を含む医薬配合物が提供される。1態様において、医薬配合物は患者に粘膜投与するためのものである。
【0039】
本発明のさらに他の観点によれば、有効薬剤および少なくとも1種類のマトリックスポリマーを含む固体非晶質分散系を含む経口医薬配合物であって、マトリックスポリマーが低い吸湿性および高い軟化温度を示し、有効薬剤が4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物である配合物が提供される。
【0040】
本発明のさらに他の観点は、特に癌を処置するための医薬の製造における、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を含む固体分散系中の、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマー、たとえばコポビドンの使用;ならびに、癌を処置する方法であって、その必要がある患者に、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマー、たとえばコポビドンを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を含む療法有効量の配合物を投与する方法に関する。そのような観点において、医薬は10から1500mgまで、たとえば10から1000mgまで、および25から400mgまでの化合物1を含むことができる。
【0041】
本発明の他の観点は下記に関する:薬物4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを必要とする患者においてその薬物の生物学的利用能を高めるための方法であって、その患者に、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む配合物を投与する方法;ならびに、患者において癌を処置するための4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの医薬日用量であって、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に10〜1000mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬日用量。特定の態様において、マトリックスポリマーはコポビドンである。
【0042】
本発明のさらに他の観点によれば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの固体非晶質分散系を調製する方法であって、
(i)適量の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を目的量の少なくとも1種類のマトリックスポリマーと混合し、その際、マトリックスポリマーは低い吸湿性および高い軟化温度を示し;
(ii)混合物の温度を高めて溶融物を生成させ;そして
(iii)この溶融物を押出して固体生成物を製造する
ことを含む方法が提供される。
【0043】
工程(iii)において、溶融物を固体ロッドとして押出し、次いでそれをたとえばミリングによりさらに加工して医薬配合物に使用するのに適した粉末を製造することができる。あるいは、溶融物を1以上の型内へ押出すことができる。そのような型は、たとえば楕円体または錠剤の形状などの成形品を生成することができる。
【0044】
工程(ii)において、熱および/または機械的応力を付与することにより溶融物を生成することができる。
【0045】
本発明の種々の観点によれば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン:マトリックスポリマーの特定の重量比は1:0.25から1:10までである。より好ましくは、この範囲の下限は1:≧4、1:5または1:7である。好ましくは、この範囲の上限は1:≦2、1:1、1:0.5または1:0.3である。適切な比率は1:2、1:3および1:4である。1態様において、この範囲は1:≧2〜1:10である。他の態様において、固体分散系は界面活性剤/可塑剤を含有する。界面活性剤および可塑剤についての考察をさらに後記に示す。
【0046】
本明細書中で用いる句“療法有効量”という句は、その処置を必要とする有意数の対象においてそのために薬物を投与する特定の薬理学的応答をもたらす薬物投与量を意味する。特定の対象に特定の場合に投与する薬物の療法有効量が必ずしも本明細書に記載する状態/疾患の処置に有効ではないであろうが、それでもそのような投与量は療法有効量であると当業者によりみなされることを強調する。たとえば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの療法有効量は、25mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、400mg、500mg、600mgまたは750mgを1日1回または2回であろう。
【0047】
本発明の固体分散配合物は、向上した生物学的利用能および薬物装填ポテンシャルを示し、したがって一般的な/即時放出4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン配合物と比較して、必要な投与単位がより少ない可能性がある。
【0048】
本発明の1観点は、患者において癌を処置するための4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの医薬日用量であって、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマー、たとえばコポビドンを含む固体分散系中に10〜1500mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬日用量を提供する。1態様において、この医薬用量を患者の粘膜に投与する。他の態様において、この用量は25〜600mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む。
【0049】
種々の態様において、この用量は1500、1250、1000、800、700、600、500、450、400、300、250、225、200、175、150、125、100、75、50、25、15または10mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む。特定の態様において、この用量は25、50、100、200または400mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む。
【0050】
さらに他の賦形剤が前記の配合物または用量に含有されてもよい。たとえば、配合物または用量は1種類以上の増量剤、結合剤、崩壊剤および/または滑沢剤を含むことができる。
【0051】
適切な増量剤には、たとえば乳糖、蔗糖、デンプン、化工デンプン、マンニトール、ソルビトール、無機塩類、セルロース誘導体(たとえば微結晶性セルロース、セルロース)、硫酸カルシウム、キシリトールおよびラクチトールが含まれる。
【0052】
適切な結合剤には、たとえば乳糖、デンプン、化工デンプン、糖類、アラビアゴム、トラガントゴム、グアーガム、ペクチン、ろう結合剤、微結晶性セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、コポリビドン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン(PNP)およびアルギン酸ナトリウムが含まれる。
【0053】
適切な崩壊剤には、たとえばクロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポリビニルピロリドン、グリコール酸デンプンナトリウム、トウモロコシデンプン、微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースが含まれる。
【0054】
適切な滑沢剤には、たとえばステアリン酸マグネシウム、ラウリルステアリン酸マグネシウム、ステアリルフマル酸ナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、安息香酸カリウム、安息香酸ナトリウム、ミリスチン酸、パルミチン酸、鉱油、硬化ひまし油、中鎖トリグリセリド、ポロキサマー(poloxamer)、ポリエチレングリコールおよびタルクが含まれる。
【0055】
添加できるさらに他の一般的な賦形剤には、保存剤、安定剤、抗酸化剤、シリカ流動調節剤、付着防止剤または流動促進剤が含まれる。
【0056】
添加できる他の適切な増量剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤およびさらに他の追加の賦形剤は、Handbook of Pharmaceutical Excipients, 5th Edition (2006); The Theory and Practice of Industrial Pharmacy, 3rd Edition 1986; Pharmaceutical Dosage Forms 1998; Modern Pharmaceutics, 3rd Edition 1995; Remington's Pharmaceutical Sciences 20th Edition 2000に記載されている。
【0057】
特定の態様において、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンは、固体分散系の10〜70%、好ましくは15%から50%まで(より好ましくは20〜30%または25〜35%)(重量)の量で存在するであろう。
【0058】
ある態様においては、1種類以上の増量剤が配合物または用量の1〜70重量%の量で存在するであろう。
【0059】
ある態様においては、1種類以上の結合剤が配合物または用量の2〜40重量%の量で存在するであろう。
【0060】
ある態様においては、1種類以上の崩壊剤が配合物または用量の1〜20重量%、特に4〜10重量%の量で存在するであろう。
【0061】
特定の賦形剤が結合剤および増量剤の両方として、または結合剤、増量剤および崩壊剤として作用しうることは認識されるであろう。一般に、結合剤、増量剤および崩壊剤の合計量は、たとえば配合物または用量の1〜90重量%を構成する。
【0062】
ある態様においては、1種類以上の滑沢剤が配合物または用量の0.5〜3重量%、特に1〜2重量%の量で存在するであろう。
【0063】
ある態様においては、1種類以上の界面活性剤が固体分散系中に固体分散系の0.1〜50%、好ましくは≦5%(たとえば1〜2%)(重量)の量で存在するであろう。界面活性剤の存在は、本発明により達成される療法ポテンシャルの増大をさらに高める。適切な界面活性剤の例には下記のものが含まれる:陰イオン界面活性剤、たとえばドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム);ドキュセートナトリウム(docusate sodium);陽イオン界面活性剤、たとえばセトリマイド(cetrimide)、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウムおよびラウリン酸;非イオン界面活性剤、たとえばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、たとえばポリソルベート(polysorbate)20、40、60および80;ポリオキシエチレンひまし油誘導体、たとえばCremophor RH40(商標);ポリオキシエチレンステアレートおよびポロキサマー。
【0064】
ある態様においては、1種類以上の可塑剤が固体分散系中に固体分散系の0.1〜50%、好ましくは≦5%(たとえば1〜2%)(重量)の量で存在するであろう。可塑剤の存在は、押出法を採用する場合に固体分散系の加工適性を向上させることができる。適切な可塑剤の例には下記のものが含まれる:クエン酸アセチルトリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、安息香酸ベンジル、クロルブタノール、デキストリン、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、マンニトール、鉱油、ラノリンアルコール、パルミチン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルアセテートフタレート、プロピレングリコール、2−ピロリドン、ソルビトール、ステアリン酸、トリアセチン、クエン酸トリブチル、トリエタノールアミンおよびクエン酸トリエチル。
【0065】
本明細書中で用いる用語“固体分散系(solid dispersion)”は、有効薬剤が賦形剤キャリヤー中に分散している系を意味する。これらの系内での薬物の状態に関して、この意味での固体分散系は、薬物が結晶質もしくは非晶質薬物の個別のドメインとして、または個々の分子として、賦形剤キャリヤー中に分散している組成物を含むことができる。完成した薬物−賦形剤複合材料に関して、固体分散系は比較的大きな固体塊、たとえばペレット、タブレット、フィルムまたはストランドであることができる;あるいは、それらはマイクロ−もしくはナノ−サイズの一次粒子またはそれらの凝集物からなるさらさらした粉末として存在することができる。固体分散組成物のバルク状態は、加工様式に大きく依存する(Miller, D. A., McGinty, J. W., Williams III, R. O. Solid Dispersion Technologies. Microencapsulation of Oil-in-Water Emulsions 172 (2008) pp 451-491)。
【0066】
本発明において、固体分散系の定義は、乾式もしくは湿式混合または乾式ブレンド操作からの物理的混合物を含まない。
【0067】
固体分散系を調製するための方法は当技術分野で既知であり、一般に薬物およびポリマーを共通の溶剤に溶解し、そして溶剤を蒸発させる工程を含む。溶剤は使用するポリマーに従ってルーティンに選択できる。溶剤の例は下記のものである:アセトン、アセトン/ジクロロメタン、メタノール/ジクロロメタン、アセトン/水、アセトン/メタノール、アセトン/エタノール、ジクロロメタン/エタノール、またはエタノール/水。溶剤を蒸発させる方法には、回転蒸発、噴霧乾燥、凍結乾燥および薄層蒸発が含まれる。あるいは、溶剤除去は極低温(cryogenic)凍結に続く凍結乾燥により達成できる。他の手法、たとえば溶融押出法、溶剤制御式沈殿法、pH制御式沈殿法、超臨界流体技術および極低温同時ミリングを使用できる。
【0068】
本発明はさらに、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン:コポビドン固体分散系の調製方法を開示する。そのような方法は、(i)適量の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンおよびマトリックスポリマーを共通の溶剤に溶解し;そして(ii)溶剤を除去することを含む。この分散系を含む医薬組成物は、たとえば安定剤および/または追加の賦形剤などの物質を必要に応じて添加することにより調製できる。特定の態様において、溶剤を噴霧乾燥により除去する。
【0069】
本発明の他の観点によれば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン:コポビドン固体分散系を溶融押出法により調製する。そのような方法は、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物、およびコポビドンポリマー、ならびに可塑剤を含めたいずれか追加の任意賦形剤を溶融押出装置に添加し、次いでこれを加熱および混合し、最終的に固体分散生成物を押し出すことを含む。押出装置は、混合物を溶融するのに十分なほど高いけれども成分を分解しないのに十分なほど低い温度に混合物を加熱する。
【0070】
本発明の他の観点によれば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの固体非晶質分散系の調製方法であって、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物、および少なくとも1種類のマトリックスポリマー(マトリックスポリマーは低い吸湿性および高い軟化温度を示す)を、同時にホットメルト押出することを含む方法が提供される。
【0071】
本発明の他の観点によれば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの固体分散生成物を調製するための下記を含む方法が提供される:
(a)下記を含む粉末状または顆粒状にしたプレミックスを用意し:
(i)5〜60重量%の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン;および
(ii)40〜95重量%のコポビドン;
(b)溶剤を添加せずにニーダーまたは溶融押出機内でプレミックスを溶融して均質な溶融物となし;
(c)この溶融物を付形および固化して固体分散生成物を得る。
【0072】
1態様において、固体分散生成物を経口投与できる適切な剤形に成形する。
【0073】
他の態様において、固体分散生成物を粉砕し、1種類以上の追加の賦形剤または成分と混合し、打錠またはカプセル封入して適切な剤形にする。
【0074】
固体分散系という場合、ある割合の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンがマトリックスポリマー内に溶解している可能性があることを除外しない;溶解しているとすれば、その厳密な割合は選択した特定のポリマーに依存するであろう。
【0075】
本発明の配合物において、少なくとも若干の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンは、マトリックスポリマーを含む固体分散系中に非晶質形態で存在する可能性がある。非晶質形態の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンがあることはさらに有利である;それは4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの溶解度および溶解速度をさらに高め、これにより本発明で達成する療法ポテンシャルの増大がさらに高まるからである。薬物が非晶質形態で存在するか否かは、一般的な熱分析法またはX線回折法により判定できる。1態様において、XRPDを用いて測定して配合物中の少なくとも25%の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンが非晶質形態で存在する。より好ましくは、この量はXRPDを用いて測定して少なくとも30%、40%、50%、75%、90%、95%である。最も好ましい態様は、配合物中の100%の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンが非晶質形態で存在する場合である。実際には、現在のXRPD機器および技術は>5%の結晶質形態を検出できるにすぎない可能性があり、したがって結晶質形態を検出できないことはその試料が95%〜100%非晶質であることを意味する可能性がある。
【0076】
XRPDは出現しつつあるナノメートルスケールの解析技術により補うことができる:対分布関数(Pair−wise Distribution Function)(X線回折パターンを正規化散乱関数に変換する)はナノ結晶性の検出を容易にすることができる;固相NMRプロトンスピン拡散試験法を用いて、原子間力顕微鏡検査法およびナノサーマル分析法のように、相分離を検出することができる。そのような技術は絶対的というよりむしろ相対的であるが、医薬固体分散配合物の開発および最適化に際して有用な手段である。
【0077】
他の態様において、薬物は安定な非晶質形態であり、これは非晶質状態の化合物1の安定性(非晶質形態に留まり、結晶質形態への変換に抵抗する能力)が、本発明の固体分散配合物において非晶質状態の化合物1自体の安定性と比較して延長されることを意味する。
【0078】
好ましい態様において、本発明の配合物および用量は粘膜投与可能であり、すなわち粘膜を通した吸収のために粘膜に投与できる。この目的のために適切な投与経路には、吸入による投与、ならびに経口、鼻腔内および直腸投与が含まれる。経口投与が特に好ましい。投与経路に従って、配合物の錠剤、カプセル剤または他の剤形が当業者により選択されるであろう。ただし、他の投与経路、たとえば非経口が除外されることはない。
【0079】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンは、ポリ−ADP−リボースポリメラーゼ(PARP)阻害作用をもたらすために有用である。この作用は、癌、たとえば乳癌または卵巣癌、特に相同組換え(HR)依存性DNA二本鎖破断(DSB)修復経路に欠陥をもつ癌、たとえばBRCA1+および/またはBRCA2+ve癌を処置するために有用である。
【0080】
本発明の他の観点は、コポビドンを含む分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含み、かつ癌の処置に有用な1種類以上の追加化合物を含む、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン組成物に関する。
【0081】
特に、有用な“追加の”抗癌化合物には、DNA損傷促進剤が含まれる。DNA損傷促進剤は、細胞におけるDNA損傷の量を、直接に、またはたとえばDNA修復の阻害によって間接的に、増加させる化合物(たとえば、有機低分子、ペプチドまたは核酸)である。DNA損傷促進剤は、しばしば有機低分子化合物である。
【0082】
適切なDNA損傷促進剤には、細胞のDNAに損傷を与える薬剤(すなわちDNA損傷剤)、たとえば下記のものが含まれる:アルキル化剤、たとえばメタンスルホン酸メチル(MMS)、テモゾラミド(temozolomide)、ダカルバジン(dacarbazine)(DTIC)、シスプラチン(cisplatin)、オキサリプラチン(oxaliplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、シスプラチン−ドキソルビシン−シクロホスファミド(cisplatin-doxorubicin-cyclophosphamide)、カルボプラチン−パクリタキセル(carboplatin-paclitaxel)、シクロホスファミド、ナイトロジェンマスタード、メルファラン(melphalan)、クロラムブシル(chlorambucil)、ブスルファン(busulphan)、エトポシド(etoposide)、テニポシド(teniposide)、アムサクリン(amsacrine)、イリノテカン(irinotecan)、トポテカン(topotecan)およびルビテカン(rubitecan)ならびにニトロソ尿素、トポイソメラーゼ−1阻害薬、たとえばトポテカン(Topotecan)、イリノテカン(Irinotecan)、ルビテカン(Rubitecan)、エキサテカン(Exatecan)、ルルトテカン(Lurtotecan)、ギメテカン(Gimetecan)、ジフロモテカン(Diflomotecan)(ホモカンプトテシン(homocamptothecin)類);ならびに7−置換された非シラテカン(non-silatecan)類;7−シリルカンプトテシン(7-silyl camptothecin)類、BNP 1350;ならびに非カンプトテシン系トポイソメラーゼ−I阻害薬、たとえばインドロカルバゾール類、トポイソメラーゼ−II阻害薬、たとえばドキソルビシン(Doxorubicin)、ダウノルビシン(Danorubicin)、および他のルビシン類、アクリジン類(アムサクリン(Amsacrine)、m−AMSA)、ミトキサントロン(Mitoxantrone)、エトプシド(Etopside)、テニポシド(Teniposide)およびAQ4、二重トポイソメラーゼ−IおよびII阻害薬、たとえばベンゾフェナジン類、XR 11576/MLN 576およびベンゾピリドインドール類、ならびに代謝拮抗薬、たとえばゲムシタビン(gemcitabine)、葉酸代謝拮抗薬、たとえば5 フルオロウラシルおよびテガフル(tegafur)、ラルチトレキセド(raltitrexed)、メトトレキセート(methotrexate)、シトシンアラビノシド(cytosine arabinoside)、およびヒドロキシ尿素、ならびに三酸化ヒ素。
【0083】
患者はヒト、たとえば成人または小児であることができるが、他の動物の処置も考慮される。
【実施例】
【0084】
<実施例1.化合物1の特性>
1.1 溶解度
結晶質形態Aの化合物1の溶解度を水中および生理的pH範囲を示す一連のpH緩衝液中で測定した。溶解しなかった(または沈殿した)物理的形態の化合物1はいずれも、溶解度測定後にXRPDにより評価しなかった。溶解度データを表1にまとめる。形態Aの結晶質形態の化合物1はWO2008/047082に開示されている。
【0085】
【表1】
【0086】
化合物1の溶解度を実際および模擬胃腸媒質中においても測定した(表2)。HIFおよびFeSSIF中における溶解度は、表1に報告した緩衝液中での溶解度より顕著に高かった。
【0087】
【表2】
【0088】
1.2 透過性
化合物1は、確証されたCaco−2細胞系を用いて調べて、高透過性マーカーであるプロプラノロールと比較した場合、中程度に透過性であると判定された;結果を表3および図1にまとめる。化合物1は、低濃度(10μM)でP−gpにより排出され、これは選択的P−gp阻害薬エラクリダール(Elacridar)(GF120918;GG918;N−(4−[2−(1,2,3,4−テトラヒドロ−6,7−ジメトキシ−2−イソキノリル)エチル]フェニル)−9,10−ジヒドロ−5−メトキシ−9−オキソ−4−アクリジンカルボキサミド塩酸塩により阻害される性向をもつことが示された。
【0089】
【表3】
【0090】
<実施例2.ポリマーの特性>
【0091】
【表4】
【0092】
<実施例3.スクリーニング試験:ポリマー分散系>
3.1 プロトコル
【0093】
【表5】
【0094】
3.2 方法
プロトコルに詳述した割合の化合物1および各ポリマーの二元混合物を含む一連の4%w/w溶液を、1.8mLバイアル内へ秤量し、特定した溶剤系に溶解することにより調製した。化合物1、ポリマーおよび界面活性剤の三元混合物を含むさらに他の溶液を、同様な方法で調製した。40℃で窒素下に(10mL/分の流速、0.7バールの圧力)15分間の蒸発により溶剤を除去し、続いて完全真空下で一夜乾燥させて、固体分散系を調製した。
【0095】
得られた試料を、調製直後と、30℃および60%相対湿度で最高1か月間の貯蔵後に、XRPDにより評価した(Bruker GADDS回折計;室温でCuKa線を用い、1.5〜41.5゜の2θ領域でデータ収集)。
【0096】
3.3 結果
【0097】
【表6−1】
【0098】
【表6−2】
【0099】
【表6−3】
【0100】
このスクリーニング試験の結果は、評価したすべてのポリマーについて非晶質固体分散系の調製が可能であったことを証明する。しかし、低融点のポロキサマーおよびポリエチレングリコールを用いて調製した固体分散系はきわめて不安定であり、30℃/60%相対湿度で貯蔵した場合に1か月以内に結晶質薬物の形成を生じた。これらのポリマーについてはそれ以後の評価は行なわなかった。Eudragit E100を用いて25%の薬物装填量で調製した固体分散系は非晶質かつ安定であるようにみえた;しかし、50%の薬物装填量では直ちに結晶化がみられた。文献報告は、Eudragit Eを用いて調製した分散系は著しい結晶性を示す可能性があることを指摘しており(たとえば、Qi et al. Int. J. Pharm. 354: 158-167, 2008を参照);比較試験ではポビドンK25を用いて調製した固体分散系より化学的安定性がより低い可能性がある(Dargel, E., Mielck, J.B. Acta Pharm. Technol. 35(4):197-209. 1989)。Eudragit E100の評価はそれ以上行なわなかった。Eudragit L100−55につきDCM/MeOH溶剤系を用いて調製した固体分散系は、30℃/60%相対湿度で1週間後に結晶化を示したが、アセトン/MeOH溶剤系を用いて調製したものは安定であった。本発明者らは、コポビドンを用いて50%の薬物装填量で調製した固体分散系は30℃/60%相対湿度で1週間後に若干の結晶化を示したが、25%の薬物装填量で調製したものは安定であることを見出した。
【0101】
<実施例4.化合物1の配合物>
4.1 即時放出錠
4.1.1 組成
【0102】
【表7】
【0103】
4.1.2 調製方法
標準的な即時放出錠を直接圧縮法により製造した。結晶質化合物1ならびに乳糖、微結晶性セルロース、クロスカルメロースNaおよびラウリル硫酸ナトリウムをガラスバイアル内へバイアルの容量の約75%を占めるように秤量し、次いでタンブルミキサー内で30分間、混和した。ブレンドした材料を40メッシュ(425μm)の篩でふるい、次いでさらに15分間タンブル混合した。ステアリン酸マグネシウムを次いで添加し、ブレンドを手動で約20秒間振とうした。得られた混合物を次いで400mgずつに分配し、10mmの成形用具を備えたハンドプレスを用いて目標圧縮力0.5トンで圧縮して錠剤コアにした。
【0104】
4.2 マイクロ懸濁液
4.2.1 調製方法
約1gの結晶質化合物1を10mLメスフラスコ内へ秤量し、0.5% HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはヒプロメロース(Hypromellose)、公称見掛け粘度4000cPをもつUSP代替タイプ2910、たとえばDOW Methocel E4Mまたはそれと同等のもの)溶液を添加して容量を調整した。混合物を一夜攪拌し、次いで0.5% HPMC溶液で100mLに定量希釈して10mg/mLのマイクロ懸濁液を得た。化合物1の平均体積直径は、Sympatec粒径分析計(Sympatec GmbH)を用いるレーザー回折法により4.54μmであると測定された。
【0105】
4.3 Gelucireカプセル剤
4.3.1 配合物
【0106】
【表8】
【0107】
4.3.2 調製方法
ラウロイルマクロゴールグリセリド(lauroyl macrogolglyceride)(ラウロイルポリオキシルグリセリド)を50〜70℃で溶融し、次いでステンレス鋼容器内へ秤量した。結晶質化合物1を添加し、内容物を混合して均質な懸濁液を得た。サーモスタット制御自動カプセル充填機を用いて、混合を続けながら混合物をカプセル内へ分注してカプセル当たり500mg重量を充填した。
【0108】
4.4 化合物1製剤のインビトロ溶解
4.4.1 試験法
米国薬局方装置I(バスケット)の一般法に従って溶解を実施した。約100mgの化合物1を含有する量の材料を正確に秤量し、次いで37℃に維持した500mLのTRIS緩衝液(0.05Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン溶液;塩酸でpH7.2に調整)を入れた溶解容器へ移し、100rpmで攪拌した。15、30、45および60分後、10mlの試料を取り出し、0.2μm PVDFフィルターにより濾過した。濾液中の化合物1の濃度を紫外線顕微鏡検査により278nmの波長で測定した。
【0109】
4.4.2 結果
【0110】
【表9】
【0111】
4.5 ナノ懸濁液
4.5.1 調製方法
化合物1を数滴のビヒクル(0.5% HPMC/0.1%Tween80)とガラスバイアル内で1分間“ボルテックス”混合して化合物を湿潤および分散させ、自由流動性のスラリーを形成させた。追加容量のビヒクルをスラリーに添加して薬物濃度50mg/mlとなし、得られたスラリーを次いで約1分間“ボルテックス”混合して混和した。50mg/mlの薬物濃度のスラリーをジルコニア製ミリングポットへ移した。ジルコニア製ミリングビーズ(直径0.6〜0.8mm)をビーズとスラリーのレベルが等しくなるまでポットに添加した。ポットを次いでテフロン(Teflon)製リングと蓋(ジルコニア)でシールし、Fritsch P7遊星形ミルに乗せた。第2ポット(釣合重りとして)を次いでミルに乗せた。ポットをミル上において800rpmで回転させた;4×30分の操作(各操作間に10分を置く)。ポットを次いでさらに15分間放冷し、得られたビーズミリング懸濁液の試料を分析用に採取した。このナノ懸濁液を次いでミリングビーズから分離し、投与できる状態の10mg/mlの濃度に希釈した。ナノ懸濁液粒径を、Brookhaven Instrumentsからの光ファイバー準弾性光散乱(Fibre Optic Quasi Elastic Light Scattering)(FOQUELS)−レーザー波長635nmを用いて測定した。平均有効直径692±8nmと測定された。X線回折法によりこの薬物は本質的に結晶質であることが確認された。
【0112】
4.6 固体分散系
4.6.1 溶剤蒸発法による調製
1:3の重量比の化合物1:ポリマーを含む固体分散系を下記に従って調製した:
WO2004/080976の例9に従って製造した化合物1[化合物168]0.75g、および2.25gのポリマーを、250ml丸底フラスコ内へ直接秤量し、75mlのメタノール:ジクロロメタン(1:1)に溶解した。溶剤をロータリーエバポレーターで除去した。この配合物を真空オーブンに入れ、高真空下に40℃で一夜乾燥させた。
【0113】
配合物をフラスコから回収し、必要であれば乳棒と乳鉢を用いて乾式ミリングした。次いで配合物を必要になるまで真空デシケーター内に保存した。
【0114】
1:3以外の比率をもつ配合物を調製するために、プロセスにおける重量および容量を前記のものに比例して調整した。
【0115】
4.6.2 溶融押出法による調製
化合物1を調製処方に定めた割合でポリマーおよび流動促進剤とブレンドした。このブレンドを2軸スクリュー押出機で押出した。押出し中に押出機バレルに真空を施して溶融物を脱ガスした。押出品を2つの逆転カレンダーロールに通すことによりカレンダー掛けし、次いで冷却した後にミリングした。
【0116】
4.6.3 安定性試験
4.6.3.1 プロトコル
前記の溶剤蒸発法を用いて固体分散系を調製し(4.6.1を参照)、非晶質化合物1をWO2004/080976の例9[化合物168]に従って製造した。試料を、ポリエチレンライナー付き密閉HDPEボトル内に乾燥剤と共に3か月間、冷蔵下(2〜8℃)、長期条件下(25℃/60%相対湿度)および加速条件下(40℃/75%相対湿度)で貯蔵した。そのほか、試料を1か月間、開放ペトリ皿内において40℃/75%相対湿度で貯蔵した。試料を、設置前、1か月後、ならびに密閉容器内の長期および加速条件下の試料のみについては3か月後に試験した。
【0117】
4.6.3.2 方法
(溶解)
米国薬局方の一般法に従い、装置IIを用いて溶解を実施した(パドル法)。約100mgの化合物1を含有する量の固体分散系を正確に秤量し、次いで温度37℃および攪拌速度75rpmのpH6.5リン酸緩衝液500mLに入れた。5、10、20および45分後、2mlの試料を取り出し、化合物1含量をHPLCにより測定した。
【0118】
【表10】
【0119】
(示差走査熱量測定による結晶化度の測定)
試料を示差走査熱量測定装置(TA Instruments Q1000)内で、存在する水および/または溶剤をいずれも駆出した後、試料を冷却し、そして存在する可能性のある結晶質材料の融解転移温度(化合物1のTm=210℃)を含む温度範囲にわたって一定速度で加熱するように設計したプログラムを用いて加熱した(図3を参照)。
【0120】
【表11】
【0121】
4.6.3.3 結果
【0122】
【表12】
【0123】
安定性試験の結果は、比較的吸湿性のポリマーであるポビドンを用いて調製した固体分散系は40℃/75%相対湿度で貯蔵した場合に結晶化する傾向があり、これにより溶解速度が低下したことを証明する。2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンおよびフタル酸ヒプロメロースを用いて調製した固体分散系は、試験したすべての条件下で安定であった。
【0124】
4.7 コポビドン固体分散系(無コーティング錠配合物)
4.7.1 配合物
【0125】
【表13】
【0126】
4.7.2 調製方法
4.6.2に記載した溶融押出法を用いて、化合物1およびコポビドンの固体分散系を調製した。ミリングした押出品を外部賦形剤と混合し、単パンチ式ハンドプレスにより80〜100Nの範囲の硬度になるように圧縮して、錠剤の形にした。
【0127】
4.7.3 安定性試験−無コーティング錠
4.7.3.1 プロトコル
4.7.2の記載に従って製造した無コーティング錠を、ポリエチレンライナー付き密閉HDPEボトル内に乾燥剤と共に4か月間、長期条件下(25℃/60%相対湿度)および加速条件下(40℃/75%相対湿度)で貯蔵した。試料を、設置前、次いで1、3および4か月後に試験した。
【0128】
4.7.3.2 インビトロ評価
4.6.3.2の記載に従ってDSCにより結晶化度を測定した。
【0129】
(溶解試験)
固体分散配合物について前記に述べたものからの溶解法(4.6.3.2を参照)を応用した。米国薬局方の一般法に従い、装置IIを用いて溶解を実施した(パドル法)。個々の投与単位を温度37℃および攪拌速度75rpmのpH6.5リン酸緩衝液1000mLに入れた。15、30、60、90、120および180分後、1mlの試料を取り出し、化合物1含量をHPLCにより測定した。
【0130】
【表14】
【0131】
(HPLCによる化合物1の検定および不純物)
化合物1および総不純物の含量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。50:50 v/v アセトニトリル/水を希釈剤として用いて、約0.4mg/mLの化合物1を含有する試料溶液を調製した。試料溶液を分析前に0.2μm PVDFフィルターにより濾過した。
【0132】
10μLの試料を、下記の表15の勾配プログラムにより規定される水中0.05%トリフルオロ酢酸(TFA)(溶離剤A)/アセトニトリル中0.05% TFA(溶離剤B)を含有する移動相に注入した。
【0133】
【表15】
【0134】
時点ゼロの規定に従って移動相を開始し、次いで溶離剤AとBの割合を徐々に直線的に後続の各時点での組成に調整することにより、組成を変更する。
【0135】
3.5μmの粒度をもつWaters Sunfire C18固定相を充填した長さ15cm×内径4.6mmのカラムを用いて、不純物の分離を行なった。移動相の流速は1.0mL/分であり、温度を30℃に制御し、可変波長UV検出器を用いて測定した276nmにおける吸光度を外部化合物1標準品のものと比較することにより、不純物濃度を測定した。
【0136】
(クーロメトリー式カールフィッシャー滴定法による含水率)
Metrohm 684クーロメーターを用いるクーロメトリー式カールフィッシャー滴定法により含水率を測定した。試料を分析前にボールミリングし、200mgの試料サイズを用いて測定を実施した。
【0137】
4.7.3.3 結果
【0138】
【表16】
【0139】
4.8 コポビドン固体分散系(フィルムコーティング錠配合物)
4.8.1 配合物
【0140】
【表17】
【0141】
4.8.2 調製方法
化合物1を製造処方に定めた割合でポリマーおよび流動促進剤とブレンドした。このブレンドを2軸スクリュー押出機で押出した。押出し中に押出機バレルに真空を施して溶融物を脱ガスした。押出品を2つの逆転カレンダーロールに通すことによりカレンダー掛けし、次いでミリング前に冷却した。押出品をミリングし、続いて外部賦形剤と混合した。粉末状ブレンドを、ロータリープレス(10のパンチステーションを備えたKorsch XL 100)によって十分な硬度(最低25N)になるように圧縮して錠剤コアにした。
【0142】
錠剤コアをDriacoater Driam 600コーターによりOpadry(商標)グリーン(Colorcon 03B21726,130g/Kg水溶液)でコートした。付与した全コーティング溶液は錠剤コアKg当たり35gのOpadry(商標)に相当する。
【0143】
4.8.3 安定性試験−フィルムコーティング錠
4.8.3.1 プロトコル
4.8.2の記載に従って製造したフィルムコーティング錠を、ポリエチレンライナー付き密閉HDPEボトル内に乾燥剤と共に4か月間、長期条件下(25℃/60%相対湿度)および加速条件下(40℃/75%相対湿度)で貯蔵した。試料を、設置前、次いで1、3および4か月後に試験した。
【0144】
4.8.3.2 インビトロ評価
セクション4.7.3.2に記載した方法を用いて含水率、検定および不純物を測定した。
【0145】
(高温載物台顕微鏡検査法による結晶化度の測定)
粉砕した錠剤を、光学顕微鏡検査法により交差偏光条件下で賦形剤および化合物1の融点範囲にわたって定常的に加熱しながら検査して、薬物結晶の存在を検出した。180℃〜190℃で複屈折性であるとみられ、続いて約210℃で融解したいずれかの粒子を、化合物1と分類した。顕微鏡下で見た薬物結晶の例については図4を参照されたい。
【0146】
(溶解試験)
無コーティング錠配合物について前記に述べたものからの溶解法(4.7.3.2を参照)を応用した。米国薬局方の一般法に従って装置Iを用いて(バスケット法)溶解を実施した。個々の投与単位を温度37℃および攪拌速度100rpmの0.3% SDS 900mLに入れた。15、30、45、60および90分後、試料を取り出し、化合物1含量をHPLCにより測定した。
【0147】
【表18】
【0148】
4.8.3.3 結果
【0149】
【表19】
【0150】
【表20】
【0151】
<実施例5.ナノメートルスケールの特性分析試験>
5.1 固相核磁気共鳴試験
10、25、35および40%の薬物装填量で4.6.2に記載した溶融押出法を用いて調製した化合物1およびコポビドンの固体分散系を、Asano, A; Takegoshi, K.; Hikichi, K. Polymer (1994), 35(26), 5630-6に示された固相核磁気共鳴分光法(SSNMR)により評価した。13C交差分極マジック角スピニング(cross−polarisation magic angle spinning)SSNMRスペクトルを、100MHz、スピン速度9kHzで、Bruker Avance 400WBを用い、4mm HFX MASプローブにより記録した。薬物装填量の異なる各試料につき、500μsから10msまでの範囲の種々の接触時間で一連のスペクトルを取得した。種々のスペクトル領域からのピーク面積を測定した。これらの面積は、化合物1またはコポビドンに対応するピークを含むように選択された。接触時間の延長に伴ってビーク面積は最大値にまで増大し、次いでプロトンスピン拡散として知られるプロセスのため減衰する。この減衰は定数T1rにより特徴づけられ、これは参照回転フレームにおけるプロトンスピン−格子緩和(proton spin−lattice relaxation)を表わす。スピン拡散長さスケールより長い長さスケールの相分離系について、この減衰プロセスの緩和率は個々の成分についてみられたものと同一である。混合系について、T1rの単一値は個々の成分の重みつき平均として観察される。
【0152】
化合物1装填量10〜40%の試料について、それぞれの磁化減衰はきわめて類似するT1r実測値をもつ単一の指数関数に当てはめることができた。これは、薬物とポリマーについての類似の緩和経路を示唆し、単一相を意味する。
【0153】
【表21】
【0154】
5.2 対分布関数試験
10、25、35および40%の薬物装填量で4.6.2に記載した溶融押出法を用いて調製した化合物1およびコポビドンの固体分散系を、X線粉末回折により評価し、各試料について対分布関数(PDF)を導いた。
【0155】
5.2.1 データ収集
X線粉末回折データは、波長1.5418ÅのX線を発生する銅源をもつ(平行ビームオプティクスを得るために用いたGoebel鏡は、kβを除去し、平均波長kα1およびkα2のビームを残す)Bruker D8回折計で、40kVの電圧および40mAのフィラメント放射を用いて収集された。試料を反射モードで測定し、走査位置検知検出器を用いて回折パターンを収集した。
【0156】
ゼロバックグラウンドのウェハーの回折図を真空下で得た。50mg(±5mg)の各試料を秤量し、ゼロバックグラウンドのホルダー上に確実にほぼ完全に覆うように分散させた。試料をTTKチャンバーに添加し、これを次いで<5×10−2ミリバールの圧力の真空下に置いた。XRPDデータを約20〜30分間にわたって収集した:4〜80゜の2θを0.007091゜のステップで0.2秒/ステップの間カウントするデータ取得パラメーターを各試料に用いた。
【0157】
パターン中に6.6゜の2θにおけるピークが試料ホルダーにより生じ、これはそれぞれの場合、実験当日に測定したブランク操作(すなわち空の試料ホルダー)を差し引くことにより除かれた。
【0158】
5.2.2 コンピューター法−対分布関数
PDFを各試料から計算した(S.J.L. Billinge and M.G. Kanatzidis, Chem. Commun., 2004, 749-760; S. Bates et.al., Pharmaceutical Research, 2006, 23(10) 2333-2349; S. Bates et.al., J. Pharmaceutical Sciences, 2007, 96(5), 1418-1433)。試料と実験設定の両方に関するデータに対して多数の補正を行なうことにより、測定したX線回折パターン(散乱関数として知られる)を正規化散乱関数S(Q)に変換した。次いでs(Q)の正弦フーリエ変換、方程式1からPDFを作成する:
【0159】
【化2】
【0160】
PDFは、原子間距離に対するG(r)のプロットであり、他の原子から特定距離‘r’の位置に原子を見出す確率を示す。ナノ結晶質であるX線非晶質材料は長距離規則性をもち、したがって遠く離れた位置に原子を見出す確率が比較的高い。これに対し、真の非晶質材料は何らかの長距離規則性をもたず、遠く離れた位置に原子を見出す確率は比較的低い。
【0161】
測定した各X線回折パターンからソフトウェアPDFgetX2を用いてPDFを作成した(X. Qui et.al., J. Appl. Cryst. 2004, 37, 678)。
【0162】
5.2.3 結果
図5に示すように、化合物1およびコポビドンの固体分散系に関しては、調べた薬物装填量のいずれについても15Åより上には規則性の証拠はほとんどない。これにより、これらの固体分散系が非晶質であり、有意の長距離規則性を示さないことが確認される。
【0163】
5.2.4 PDFの直線的組合わせ
5.2.4.1 方法
配合物の個別の成分である非晶質化合物1およびコポビドンのPDFを作成した。これらのPDFを次いで適正な比率で(70%のコポビドンおよび30%の非晶質化合物1)組み合わせて、これら2つの物理的混合物についての模擬PDFトレースを得た。5.2.2.で得たトレースをこの模擬トレースと比較した。
【0164】
5.2.4.2 結果
図6に示すように、非晶質化合物1とコポビドンの物理的混合物は1〜5Åに特徴的なパターンを示し、これは約2Åと約3ÅにG(r)に関する2つの最小値を含む;化合物1およびコポビドンの固体分散系は単一の強い最小値を約3Åに示す。これらのデータは、化合物1およびコポビドンの固体分散系が真の分子分散系であることを指摘する。
【0165】
5.3 ナノサーマル特性分析試験
10、30および40%の薬物装填量で4.6.2に記載した溶融押出法を用いて調製した化合物1およびコポビドンの固体分散系を、原子間力顕微鏡検査法(Gan, Y. Surface Science Reports (2009), 64(3), 99-121; Fulghum, J. E.; McGuire, G. E.; Musselman, I. H.; Nemanich, R. J.; White, J. M.; Chopra, D. R.; Chourasia, A. R. Analytical Chemistry (1989), 61(12), 243R-69R)、および局在熱分析法(Harding, L.; King, W. P.; Dai, X.; Craig, D. Q. M.; Reading, M. Pharmaceutical Research (2007), 24(11), 2048-2054)により評価した。
【0166】
5.3.1 方法
Veeco Explorer原子間力顕微鏡に基づくTA Instruments 2990 Micro−Thermal Analyzerにより作業を実施した。試料の予備イメージングを、Tapping Mode(TM−AFM)でVeeco 1660−00高共振周波数(HRF)シリコンプローブを用いて実施した。マイクロサーマル分析(マイクロ−TA)を、Wollastonワイヤサーマルプローブを用いて実施した。ナノサーマル分析(ナノ−TA)を、Anasys Instruments NanoTA1 AFMアクセサリーにより制御されるAnasys Instruments AN2−300 ThermaLever(商標)ドープしたシリコンプローブを用いて実施した。Wollastonプローブは、ポリ(エチレン)テレフタレート(PET)フィルム(融解温度=240℃)および室温を用いて温度校正された。ThermaLeverプローブについては、ポリカプロラクトン(PCL,Tm=55℃)、HDPE(Tm=115℃)およびPET融解温度標準品を用いて3点温度校正を実施した。試料分析の前と後に各プローブの校正を検査した。別途記載しない限り、すべての局在熱分析操作に用いた加熱速度は20℃/秒であった。
【0167】
すべての試料を入手したままの状態で、すなわち成形ペレットの表面が改質されていない状態で分析した。
【0168】
5.3.2 結果
図7(10%の薬物装填量)、図8(30%の薬物装填量)および図9(40%の薬物装填量)に示すように、種々の薬物装填量の試料がすべて多様な程度に表面特徴を示したが、マトリックス内に何らかの相分離の徴候を示したものはなかった。
【0169】
5.4 結晶化試験
4.6.2に記載した溶融押出法を用いて製造したミリングした押出品、および4.7.2の記載に従って製造した表13に示す錠剤組成物につき、水が化合物1の結晶化度に及ぼす影響を調べた。この試験は、水性スラリーを用いて、専有コーティング組成物Opadry(商標)グリーン(Colorcon 03B21726,130g/Kg水溶液)の不存在下および存在下の両方で実施された。錠剤はスラリー実験開始前に粉砕された。
【0170】
5.4.1 実験条件
下記の物質を25mLバイアル内へ秤量した。
【0171】
【表22】
【0172】
20mLの水を50℃に加熱し、各バイアルに添加した。得られたスラリーを50℃で48時間攪拌し続けた。
【0173】
得られたスラリー材料のXRPDにより、形態Hが化合物1の主な結晶形態であることが確認された。化合物1形態Hは、下記に特異的ピークを含むX線回折パターン(λ=1.5418Å)をもつ:
【0174】
【表23】
【0175】
化合物1形態Hは、X線回折パターン(λ=1.5418Å)に下記の追加ピークをも含む:
【0176】
【表24】
【0177】
化合物1形態Hは、前記の最初の4ピークのリストから選択される3以上のピークのいずれかの組み合わせにより特徴づけることもできる。
【0178】
化合物1形態Hの代表的な粉末XRPDパターンを図10に示す。
【0179】
化合物1形態HはTGAにより減量を生じ、これは1水和物および若干の追加の物理吸着水と一致する。示した例において、存在する水の全量は4.7%重量%である;化合物1の1水和物についての理論減量は4.0%w/wである。
【0180】
化合物1形態Hは、DSCを用いて特性分析することもできる。化合物1形態Hを0℃から300℃まで毎分10℃で加熱すると、115℃まで幅広い脱水吸熱を示し、続いて125〜175℃で相転移が起きる。208.0℃±1℃で開始する鋭い吸熱がみられ、これは形態Aと一致する。化合物1形態Hの代表的なDSCトレースを図11に示す。
【0181】
Opadry(商標)の不存在下で得られた材料は形態Hと一致する強いXRPD反射を生じ、これに対しOpadry(商標)の存在下では形態HのXRPD回折パターンの強度はかなり低下した。これは干渉の結果ではない;図12に示すOpadry(商標)のXRPD回折パターンは25゜未満の2θには有意のピークがないことを指摘しているからである。したがって、観察されたこのきわめて低い強度の反射は形態Hの存在が少量にすぎないことの指標となる。これは、Opadry(商標)が化合物1の非晶質固体分散系に安定化効果を及ぼすことができるのを示唆する可能性がある。このグレードのOpadry(商標)は、4.8に記載するフィルムコーティング錠配合物の調製に使用するために選択された。
【0182】
5.5 二次元相関分光試験
5.5.1 はじめに
二次元相関分光法(2D−COS)は、ある系に外部摂動(external perturbation)を付与していずれかの分光計によりモニターする方法である。スペクトル強度をスペクトル変数(たとえば、波長、振動数または波数)の関数としてプロットする。スペクトル変数の2つの直交軸が2Dスペクトル平面を規定し、スペクトル強度を第3軸に沿ってプロットすることができる(Noda, I., Dowrey, A. E., Marcott, C., Story, G. M., Ozaki, Y. Appl. Spectrosc. 54 (7) 2000 pp 236A-248A; Noda, I. Appl. Spectosc. 44 (4) 1990 pp 550-561)。
【0183】
同期2D相関スペクトルにおいて、強度は摂動範囲にわたるスペクトル強度変動の同時(simultaneous)または一致した(coincidental)変化を表わす。同期スペクトルは、選択したスペクトル変数について等しい数値に対応する対角に対して対称的である;対角(diagonal)と対角外(off−diagonal)の両方の位置に相関ピークが現われる。オートピーク(autopeak)と呼ばれる対角ピークは、選択したスペクトル変数の特定の値についての摂動範囲にわたる強度変動を表わし、これに対しクロスピーク(cross peak)と呼ばれる対角外ピークは、選択したスペクトル変数の2つの異なる値において観察されたスペクトル強度の同時または一致した変化を表わす。そのような同期変化は、カップリングまたは相互作用の指標となることができる。
【0184】
これに対し、非同期スペクトルにおいて、強度は逐次または連続変化を表わす。非同期スペクトルは対角に対して逆対称であり、オートピークをもたず、専らクロスピークからなり、これは2つのスペクトル特徴が期外変化する場合にのみ発生する。この特徴を利用して、異なる由来、たとえば複雑な混合物中で独立して行動する異なる成分のスペクトル信号から生じるオーバーラップしたバンドを識別することができる。
【0185】
同期および非同期両方の相関スペクトルについて、摂動データセット内のそれぞれ個々のスペクトルから平均スペクトルを差し引くことにより、ノイズの増大を犠牲にして、感度を改善することができる。
【0186】
2D−COSを用いて、摂動に応答して生じる、試料マトリックス内での分子内または分子間相互作用の指標となりうるスペクトル変動において、何らかの相関の性質および程度を確立することができる。医薬固体分散系に関して、薬物とマトリックスポリマーの間の高レベルの相互作用は安定かつ均質な分散系の形成を増進する傾向があると思われる;これに対し、そのような相互作用の不存在または競合する分子内カップリングの存在は、逆の作用をもつであろう。
【0187】
5.5.2 方法
4.6.1に記載した溶剤蒸発法により調製した固体分散系における化合物1および種々のポリマーの濃度変化の影響を、赤外分光法により調べた。Thermo Nicolet Magna 550シリーズII分光計でスペクトルを収集した。表25に示す化合物1およびマトリックスポリマーの固体分散組成物について、2D−COSスペクトルを収集した。
【0188】
【表25】
【0189】
専有ソフトウェア(Omnic 8.0)を用いて各スペクトルを最強バンドに対して正規化した。次いでスペクトルをカンマ区切り(comma separated value)(CSV)ファイルに変換し、MS Excel(商標)へ転送し、Matlab(登録商標)(The MathWorks(商標))用にフォーマットし、これで2D同期および非同期スペクトルを作成した。
【0190】
5.5.3 結果
(酢酸コハク酸ヒプロメロース(Aqoat MG))
化合物1のスペクトルにおいて、最強のバンドは1630cm−1にある(図13)。Aqoat MGスペクトルにおいて、最強のバンドは1050cm−1にある(図14)。同期スペクトル(図15)において、クロスピークが1050cm−1、1650cm−1、および1050cm−1、2700cm−1において顕著である;しかし、非同期スペクトル(図16)は、これらの相互作用が分子内(ポリマー/ポリマー)の性質のものであることを指摘する。
【0191】
(フタル酸ヒプロメロース(HP55S))
HP55Sの赤外スペクトルは、図14に示すように1000cm−1のすぐ上方に強いスペクトル特徴を示す。同期(図17)および非同期(図18および19)相関スペクトルは、1600〜1800cm−1の範囲の弱い分子内および分子間−混合相互作用を指摘する。
【0192】
(ヒプロメロース(Pharmacoat 606))
HP55Sの場合と同様に、Pharmacoatの赤外スペクトルは1000cm−1のすぐ上方に強いスペクトル特徴を示す(図14)。同期(図20)および非同期(図21および22)相関スペクトルは、1600〜1800cm−1の範囲の弱い分子内および分子間−混合相互作用を指摘する。Pharmacoatについての分子間(薬物−ポリマー)相互作用の強度は、HP55Sの場合より若干大きい。
【0193】
(ポビドン(Kollidon 25))
ポビドンの赤外スペクトルの主バンド(図14)は1600cm−1にあり、化合物1の赤外スペクトルの主バンド(図13)とオーバーラップする。同期(図23および24)および非同期(図25)相関スペクトルは、水素結合相互作用を指摘する。
【0194】
(コポビドン(Kollidon VA64))
コポビドンはポビドンと同じ多数の赤外(図2)および2Dスペクトル特徴(図26〜29)をもつが、水素結合がより強いことを示唆する追加のファクターも示す。
【0195】
5.5.4 結論
化合物1の固体分散系にみられた分子間相互作用の程度は、マトリックスポリマーの性質に著しく依存する。分子間相互作用の全体的なランキングを表26に示す。
【0196】
【表26】
【0197】
これらの結果は、化合物1およびコポビドンの固体分散系が特に安定かつ均質な可能性があることを示唆する。
【0198】
<実施例6.生物学的利用能の比較試験>
6.1 プロトコル
幾つかの異なる状態の薬物100mgを絶食ビーグル犬(n=6)に経口投与した。投与した配合物は、IR錠(4.1を参照)、マイクロ懸濁配合物(4.2を参照)およびナノ懸濁配合物(4.5を参照)、Gelucire(登録商標)44/14内に種々の装填量の薬物を収容したカプセル剤(4.3を参照)、溶剤蒸発法(4.6.1を参照)および溶融押出法(4.6.2を参照)により調製した固体分散系を収容したカプセル剤、ならびに溶融押出した固体分散系から製造した錠剤(4.7を参照)であった。錠剤およびカプセル剤の投与に続いて20mlの水を投与し、これに対し10mLの懸濁配合物の強制投与に続いて10mLの水を投与して強制投与チューブを洗浄した。
【0199】
投与後、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、12、24および30時間目に血液試料を採取した。試料を3000rpmで15分間遠心し、血漿をプレーン血液チューブ内へ取り出し、分析するまで−20℃に保存した。試料を手動固相抽出(Phenomenex Strata X,30mg)法に続いて下記の表27に詳述する条件を用いるLC−MSにより分析した。
【0200】
【表27】
【0201】
6.2 結果
【0202】
【表28】
【0203】
図30を参照。ポリマーベースの固体分散系からのCpmaxおよびAUCは共に、即時放出錠、Gelucireカプセル剤およびマイクロ懸濁/ナノ懸濁配合物より有意に大きかった(P<0.05)。
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示するある態様は、Abbott GMBH & Co.KGとAstraZeneca UK Ltd.の共同研究合意のもとに実施された。
【0002】
本発明は、改良された生物学的利用能および/または安定性および/または薬物装填量を備えた新規な医薬組成物、これらの新規な医薬組成物を調製するための方法、ならびに癌の処置において単一薬剤として、または他の療法と組み合わせて、それらを使用することに関する。
【0003】
特に、本発明は、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に薬物4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬配合物に関する。特に適切なマトリックスポリマーはコポビドン(copovidone)である。本発明は、そのような配合物により得られる4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの医薬日用量(daily pharmaceutical dose)にも関する。さらに本発明は、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの生物学的利用能および/または安定性を高めるための、あるいは患者において癌を処置するための、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む固体分散組成物中におけるコポビドンの使用にも関する。
【背景技術】
【0004】
下記の構造をもつ4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン(化合物1):
【0005】
【化1】
【0006】
が、国際特許出願公開No.WO2004/080976に開示されている(化合物168)。それは、癌、たとえば乳癌および卵巣癌の処置に関して現在臨床試験中のポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬である。
【0007】
WO2005/012524およびWO2005/053662によれば、PARP阻害化合物、たとえば4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンは、その細胞が相同組換え(homologous recombination)(HR)依存性DNA二本鎖破断(double−stranded break)(DSB)修復経路に欠陥のある癌の治療に特に有効である。BRCA1(NM_007295)およびBRCA 2(NM_000059)遺伝性乳癌/卵巣癌遺伝子は、HR依存性DNA DSB修復経路の多数のタンパク質のうちのまさに2つである。HR依存性DNA DSB修復経路の他のメンバーには下記のものが含まれる:ATM(NM_000051)、ATR(NM_001184)、DSS1(U41515)、RPA 1(NM_002945.2)、RPA 2(NM_00294.6)、RPA 3(NM_002974.3)、RPA 4(NM_013347.1)、Chk1(NM_001274.2)、Chk2(096017 GI:6685284)、RAD51(NM_002875)、RAD51L1(NM_002877)、RAD51c(NM_002876)、RAD51L3(NM_002878)、DMC1(NM_007068)、XRCC2(NM_005431)、XRCC3(NM_05432)、RAD52(NM_002879)、RAD54L(NM_003579)、RAD54B(NM_012415)、RAD50(NM_005732)、MRE11A(NM_005590)およびNBS1(NM_002485)。したがって、たとえばBRCA1+および/またはBRCA2+である乳癌または卵巣癌は、相同組換え(HR)依存性DNA二本鎖破断(DSB)修復経路に欠陥のない癌よりPARP阻害化合物に対してはるかに感受性である可能性がある;これは有効な単剤療法および/またはより低い用量での処置を可能にし、それに伴って副作用がより少なくかつより低くなるであろう。
【0008】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン(化合物1)は、約12.5のpKa(フタラジノン部分)をもつ弱酸性化合物である。それは生理的pH範囲にわたって本質的に中性である。化合物1の水性平衡溶解度は、広範な水性緩衝液(pH1〜9)にわたって約0.10mg/mLであると測定された;この溶解度は、実在および模擬胃腸媒質内では0.12〜0.20mg/mLに上昇し、摂食状態の模擬腸液内では0.20mg/mLの最高溶解度に達する(実施例1.1を参照)。
【0009】
化合物1は、Caco−2細胞系を用いて調べた際、高透過性マーカーであるプロプラノロールと比較して中程度に透過性であると判定された。Caco−2 Papp値は3.67×10−6cm/秒であった;これはヒトのPeff値1.4×10−4cm/秒に等しい。化合物1は薬物配合に関して貧溶解性の限界にあり、これらの溶解度および透過値に基づけばバイオ医薬分類システム(Biopharmaceutical Classification System)(BCS)内で仮のクラス4(25mgを超える用量で)である(実施例1を参照)。
【0010】
溶解度および透過性の測定値に基づいて行なった化合物1の生物学的利用能の推定により、即時放出(immediate release)(IR)錠が化合物1に適切であることが示唆された。実際に、類似の溶解度、透過性および用量範囲をもつ化合物がIR錠としての配合に成功している(たとえば、Kasim et al. “Molecular properties of WHO essential drugs and provision of biopharmaceutics classification.” Molecular Pharmaceutics. 1(1):85-96, 2004を参照)。しかし、イヌにおいて試験した際、一般的なIR錠の投与後の曝露は予想よりはるかに低かった(参照:実施例6;図13)。
【0011】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの経口による患者への生物学的利用能は、ある程度は胃腸管におけるこの薬物の溶解速度および溶解度に依存する。一連の配合物についての4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの生物学的利用能は、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの投与以後に経過した時間に対する血漿4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン濃度のグラフの曲線下面積(AUC)を測定することにより評価できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2004/080976
【特許文献2】WO2005/012524
【特許文献3】WO2005/053662
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kasim et al. “Molecular properties of WHO essential drugs and provision of biopharmaceutics classification.” Molecular Pharmaceutics. 1(1):85-96, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、脂質配合物(Gelucire(商標)44−14)の調製により化合物1のIR錠の貧溶解性に対処することができ、この配合物を第I相および第II相臨床試験に使用した。しかし、高い薬物装填量(>10%)では、この脂質配合物について曝露低下がみられた(実施例6および図30を参照)。gelucire脂質配合物についての潜在的な問題点は、このように、最大耐容量を判定して潜在的療法用量を推定することを目的とした用量漸増試験中に初めて分かった。療法用量が400mgであれば、10%の薬物を装填したGelucire(商標)44−14配合物を16個のサイズ0カプセルとして投与しなければならないであろうということが分かった。これは患者にコンプライアンス問題をもたらすだけでなく、製造、包装および輸送の経費の増加など商業的にも関係があるであろう。
【0015】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンが50mgまたは100mgを超える日用量で必要な場合(実際に、400mg、1日2回という高い用量を臨床試験で試験している)、管理可能な単位数により投与できるように(たとえば1日4単位未満)、高い生物学的利用能をもつ4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの配合物、および十分な薬物装填量を達成するのが可能な配合物を見出すことが望ましいであろう。
【0016】
そのような生物学的利用能の向上は、一般的な配合物、たとえば4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの一般的なIR錠についてみられるものに匹敵する生物学的曝露を達成するのに必要な4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの日用量の減少を可能にするのに有用であろう。
【0017】
したがって、一般的なIR錠配合物と比較して改良された生物学的利用能および薬物装填量をもつ4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの配合物、理想的には約90%(静脈内液剤と比較して)の目標生物学的利用能をもつ配合物、および1回に摂取する必要のある単位数をたとえば4単位未満、理想的には1または2単位に減らすのに十分な薬物装填量が可能な配合物を見出すことが望まれている。
【0018】
本発明は、療法有効量に必要な錠剤またはカプセル剤のサイズおよび/または個数を理想的には4単位未満、好ましくはわずか1または2単位に減らす、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの配合物を提供することを目的とする。
【0019】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの療法ポテンシャルを高めるという目的に関して、本発明者らは、十分に高い薬物装填量(たとえば10%を超える)が可能な配合物において4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの生物学的利用能の向上を達成することにより療法ポテンシャルを高めることを試みた。個別の態様において、薬物装填量は少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%または60%であろう。薬物装填量が高いほど不安定である可能性が大きいので、60%の薬物装填量をもつ配合物の調製は可能ではあるが、安定性を維持するためにはより低い薬物装填量を採用するのが好ましいことは認識されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、利用できる多様な配合法のうち、特定のタイプのポリマーを含む固体分散配合物が前記に述べた1以上の目的に対処する手段であることを見出した。さらに、本発明の固体分散配合物は脂質gelucire配合物と比較して化合物1の生物学的利用能を高めることが、意外にも見出された。
【0021】
本発明者らは今回意外にも、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを配合することにより、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの療法ポテンシャルを高めうることを見出した。マトリックスポリマーであるコポビドンは、可塑剤の必要なしに高温溶融押出に使用でき、かつ最終製品(たとえば錠剤)中30%の薬物装填量ですら許容できる安定性を備えた製品を提供するので、特に適切であることが見出された。
【0022】
ある種の外部賦形剤が化合物1の安定性(たとえば、非晶質形態に維持する能力)を損なう可能性があることは認識されるであろうから、いずれか利用できる固体分散技術を用いて追加の界面活性剤/可塑剤の必要なしに、薬物を含む固体分散系中に配合できる適切なマトリックスポリマーを同定することがさらに望ましいであろう。
【0023】
したがって、1態様において本発明の固体分散配合物は界面活性剤/可塑剤を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
下記の添付図面および実験例を参照して以下に本発明の観点を説明する;これらは例示のためのものであって限定ではない。さらに他の観点および態様が当業者に明らかになるであろう。
【図1】図1は、化合物1のCaco−2単層透過性を示す(n=3,±s.d.)。
【図2】図2は、種々の化合物1配合物のインビトロ溶解度を示す。
【図3】図3は、結晶質化合物1の存在に起因する融解転移を示す固体分散系のサーモグラムを示す。
【図4】図4は、化合物1の単結晶を示す錠剤の高温載物台顕微鏡検査法におけるイメージを示す。
【図5】図5は、種々の薬物装填量の化合物1およびコポビドンの固体分散系についてのPDFスペクトルを示す。
【図6】図6は、種々の薬物装填量の化合物1およびコポビドンの固体分散系についてのPDFスペクトルと物理的混合物についての模擬スペクトルとの比較を示す。
【図7】図7は、薬物装填量10%の化合物1およびコポビドンの固体分散系について、50μm×50μmおよび10μm×10μm走査からのTM−AFMトポグラフィーイメージ(高さ)、先端偏角イメージ(tip−deflection)(誤差)および位相イメージ(機械的特性)を示す。
【図8】図8は、薬物装填量30%の化合物1およびコポビドンの固体分散系について、50μm×50μmおよび10μm×10μm走査からのTM−AFMトポグラフィーイメージ(高さ)、先端偏角イメージ(tip−deflection)(誤差)および位相イメージ(機械的特性)を示す。
【図9】図9は、薬物装填量40%の化合物1およびコポビドンの固体分散系について、50μm×50μmおよび10μm×10μm走査からのTM−AFMトポグラフィーイメージ(高さ)、先端偏角イメージ(tip−deflection)(誤差)および位相イメージ(機械的特性)を示す。
【図10】図10は、化合物1形態HについてのXRPD回折図を示す。
【図11】図11は、化合物1形態Hについての代表的なDSCトレースを示す。
【図12】図12は、OpadryについてのXRPD回折図を示す。
【図13】図13は、化合物1の赤外スペクトルを示す。
【図14】図14は、Aqoat MG、HP55S、Pharmacoat、ポビドン、およびコポビドンの赤外スペクトルを示す。
【図15】図15は、相関スクエアの注を施したAqoat MGの同期スペクトルを示す。
【図16】図16は、Aqoat MGの非同期スペクトルを示す。
【図17】図17は、HP55Sの同期スペクトルを示す。
【図18】図18は、HP55Sの非同期スペクトルを示す。
【図19】図19は、HP55Sの非同期スペクトル(高感度)を示す。
【図20】図20は、Pharmacoatの同期スペクトルを示す。
【図21】図21は、Pharmacoatの非同期スペクトルを示す。
【図22】図22は、Pharmacoatの非同期スペクトル(高感度)を示す。
【図23】図23は、ポビドンの同期スペクトルを示す。
【図24】図24は、ポビドンの同期スペクトル(高感度)を示す。
【図25】図25は、ポビドンの非同期スペクトルを示す。
【図26】図26は、コポビドンの同期スペクトルを示す。
【図27】図27は、コポビドンの同期スペクトル(高感度)を示す。
【図28】図28は、コポビドンの非同期スペクトルを示す。
【図29】図29は、コポビドンの非同期スペクトル(高感度)を示す。
【図30】図30は、種々の化合物1配合物について、時間に対する血漿濃度のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の第1観点によれば、マトリックスポリマーを含む固体分散系中に有効薬剤を含む医薬配合物であって、有効薬剤が4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその塩もしくは溶媒和物であり、マトリックスポリマーが低い吸湿性および高い軟化温度を示す配合物が提供される。
【0026】
1態様において、有効薬剤は配合物中に安定な非晶質形態で存在する。有効薬剤が配合物中に安定な非晶質形態で存在する場合、その配合物は配合物中の有効薬剤を非晶質形態で安定化し、他の形態への変換または返転を少なくすることができる。
【0027】
特定の態様において、化合物1の塩もしくは溶媒和物は医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物であることが望ましいであろう。
【0028】
本明細書中で用いる“ポリマー”は、共有化学結合により結合した反復構造単位からなる高分子を意味するものとする。この用語は、天然、由来が合成または半合成いずれであっても、線状および分枝状ポリマー、環状ポリマー、たとえば環状オリゴ糖(シクロデキストリンを含む)、ホモポリマーおよびコポリマーを含む。
【0029】
本明細書中で用いる用語“マトリックスポリマー”は、ポリマーまたは2種類以上のポリマーのブレンドを含む、低い吸湿性および高い軟化温度を示す材料を意味するものとする。
【0030】
本明細書中で用いる“低い吸湿性”は、M.S. Int. J. Pharm 103: 03-114 (1994)に示される動的蒸気収着(Dynamic Vapour Sorption)(DVS)により測定して50%の相対湿度で<10%の平衡含水率をもつことを意味するものとする。
【0031】
本明細書中で用いる“高い軟化温度”は、示差走査熱量測定(DSC)により測定してその物質が“受け取ったままの”状態で(すなわち、高湿度に曝露されていない)>100℃のガラス転移温度(Tg)または融点(Tm)を示すことを意味するものとする。Tgは非晶質の状態または形態にあるポリマーに適した測定であり、Tmは結晶質の状態または形態にあるポリマーに適した測定であることは、当業者に認識されるであろう。
【0032】
本発明に使用するのに適したマトリックスポリマーには下記のものが含まれる:コポビドン、フタル酸ヒプロメロース(hypromellose phthalate)(フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、HPMCP)、酢酸コハク酸ヒプロメロース(酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、HPMCAS)、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPBCD)、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、HPMC)、ポリメタクリレート(ポリ(メタクリル酸,メタクリル酸メチル1:1;ポリ(メタクリル酸,アクリル酸エチル)1:1)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、および酢酸フタル酸セルロース(CAP)。
【0033】
コポビドンは、化学式(C6H9NO)m(C4H6O2)nをもつN−ビニル−2−ピロリドン(VP)と酢酸ビニル(VA)の合成線状ランダムコポリマーであり、VA含量は公称40%である(ただし、たとえば35〜41%で変動する可能性がある)。酢酸ビニルをビニルピロリドンポリマー鎖に付加することにより、ポビドン(ポリビニルピロリドン、PVPホモポリマー)と比較してポリマーの吸湿性およびガラス転移温度(Tg)が低下する。
【0034】
コポビドンのK−値は25〜31であり、K−値は1%水溶液の動粘度から計算されるので、それはポリマーの平均分子量に関係する。平均分子量(Mw)は約24,000から30,000までの範囲である。
【0035】
本発明の1観点によれば、コポビドンを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬配合物が提供される。1態様において、この医薬配合物は患者に粘膜投与するのに適したものである。格別な粘膜投与経路は経口であり、たとえば錠剤またはカプセル剤などである。
【0036】
本発明は、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの医薬日用量であって、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に療法有効量の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬日用量も提供する。1態様において、マトリックスポリマーはコポビドンである。他の態様において、この医薬配合物は患者に粘膜投与される。
【0037】
特定の態様において、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの療法有効量は10〜1000mgの範囲にあり、他の態様において、この用量は25〜400mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む。
【0038】
本発明のさらに他の観点によれば、コポビドンを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含み、かつ癌の処置に有用な1種類以上の追加化合物を含む医薬配合物が提供される。1態様において、医薬配合物は患者に粘膜投与するためのものである。
【0039】
本発明のさらに他の観点によれば、有効薬剤および少なくとも1種類のマトリックスポリマーを含む固体非晶質分散系を含む経口医薬配合物であって、マトリックスポリマーが低い吸湿性および高い軟化温度を示し、有効薬剤が4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物である配合物が提供される。
【0040】
本発明のさらに他の観点は、特に癌を処置するための医薬の製造における、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を含む固体分散系中の、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマー、たとえばコポビドンの使用;ならびに、癌を処置する方法であって、その必要がある患者に、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマー、たとえばコポビドンを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を含む療法有効量の配合物を投与する方法に関する。そのような観点において、医薬は10から1500mgまで、たとえば10から1000mgまで、および25から400mgまでの化合物1を含むことができる。
【0041】
本発明の他の観点は下記に関する:薬物4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを必要とする患者においてその薬物の生物学的利用能を高めるための方法であって、その患者に、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む配合物を投与する方法;ならびに、患者において癌を処置するための4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの医薬日用量であって、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に10〜1000mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬日用量。特定の態様において、マトリックスポリマーはコポビドンである。
【0042】
本発明のさらに他の観点によれば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの固体非晶質分散系を調製する方法であって、
(i)適量の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を目的量の少なくとも1種類のマトリックスポリマーと混合し、その際、マトリックスポリマーは低い吸湿性および高い軟化温度を示し;
(ii)混合物の温度を高めて溶融物を生成させ;そして
(iii)この溶融物を押出して固体生成物を製造する
ことを含む方法が提供される。
【0043】
工程(iii)において、溶融物を固体ロッドとして押出し、次いでそれをたとえばミリングによりさらに加工して医薬配合物に使用するのに適した粉末を製造することができる。あるいは、溶融物を1以上の型内へ押出すことができる。そのような型は、たとえば楕円体または錠剤の形状などの成形品を生成することができる。
【0044】
工程(ii)において、熱および/または機械的応力を付与することにより溶融物を生成することができる。
【0045】
本発明の種々の観点によれば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン:マトリックスポリマーの特定の重量比は1:0.25から1:10までである。より好ましくは、この範囲の下限は1:≧4、1:5または1:7である。好ましくは、この範囲の上限は1:≦2、1:1、1:0.5または1:0.3である。適切な比率は1:2、1:3および1:4である。1態様において、この範囲は1:≧2〜1:10である。他の態様において、固体分散系は界面活性剤/可塑剤を含有する。界面活性剤および可塑剤についての考察をさらに後記に示す。
【0046】
本明細書中で用いる句“療法有効量”という句は、その処置を必要とする有意数の対象においてそのために薬物を投与する特定の薬理学的応答をもたらす薬物投与量を意味する。特定の対象に特定の場合に投与する薬物の療法有効量が必ずしも本明細書に記載する状態/疾患の処置に有効ではないであろうが、それでもそのような投与量は療法有効量であると当業者によりみなされることを強調する。たとえば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの療法有効量は、25mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、400mg、500mg、600mgまたは750mgを1日1回または2回であろう。
【0047】
本発明の固体分散配合物は、向上した生物学的利用能および薬物装填ポテンシャルを示し、したがって一般的な/即時放出4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン配合物と比較して、必要な投与単位がより少ない可能性がある。
【0048】
本発明の1観点は、患者において癌を処置するための4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの医薬日用量であって、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマー、たとえばコポビドンを含む固体分散系中に10〜1500mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬日用量を提供する。1態様において、この医薬用量を患者の粘膜に投与する。他の態様において、この用量は25〜600mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む。
【0049】
種々の態様において、この用量は1500、1250、1000、800、700、600、500、450、400、300、250、225、200、175、150、125、100、75、50、25、15または10mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む。特定の態様において、この用量は25、50、100、200または400mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む。
【0050】
さらに他の賦形剤が前記の配合物または用量に含有されてもよい。たとえば、配合物または用量は1種類以上の増量剤、結合剤、崩壊剤および/または滑沢剤を含むことができる。
【0051】
適切な増量剤には、たとえば乳糖、蔗糖、デンプン、化工デンプン、マンニトール、ソルビトール、無機塩類、セルロース誘導体(たとえば微結晶性セルロース、セルロース)、硫酸カルシウム、キシリトールおよびラクチトールが含まれる。
【0052】
適切な結合剤には、たとえば乳糖、デンプン、化工デンプン、糖類、アラビアゴム、トラガントゴム、グアーガム、ペクチン、ろう結合剤、微結晶性セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、コポリビドン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン(PNP)およびアルギン酸ナトリウムが含まれる。
【0053】
適切な崩壊剤には、たとえばクロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポリビニルピロリドン、グリコール酸デンプンナトリウム、トウモロコシデンプン、微結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースが含まれる。
【0054】
適切な滑沢剤には、たとえばステアリン酸マグネシウム、ラウリルステアリン酸マグネシウム、ステアリルフマル酸ナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、安息香酸カリウム、安息香酸ナトリウム、ミリスチン酸、パルミチン酸、鉱油、硬化ひまし油、中鎖トリグリセリド、ポロキサマー(poloxamer)、ポリエチレングリコールおよびタルクが含まれる。
【0055】
添加できるさらに他の一般的な賦形剤には、保存剤、安定剤、抗酸化剤、シリカ流動調節剤、付着防止剤または流動促進剤が含まれる。
【0056】
添加できる他の適切な増量剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤およびさらに他の追加の賦形剤は、Handbook of Pharmaceutical Excipients, 5th Edition (2006); The Theory and Practice of Industrial Pharmacy, 3rd Edition 1986; Pharmaceutical Dosage Forms 1998; Modern Pharmaceutics, 3rd Edition 1995; Remington's Pharmaceutical Sciences 20th Edition 2000に記載されている。
【0057】
特定の態様において、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンは、固体分散系の10〜70%、好ましくは15%から50%まで(より好ましくは20〜30%または25〜35%)(重量)の量で存在するであろう。
【0058】
ある態様においては、1種類以上の増量剤が配合物または用量の1〜70重量%の量で存在するであろう。
【0059】
ある態様においては、1種類以上の結合剤が配合物または用量の2〜40重量%の量で存在するであろう。
【0060】
ある態様においては、1種類以上の崩壊剤が配合物または用量の1〜20重量%、特に4〜10重量%の量で存在するであろう。
【0061】
特定の賦形剤が結合剤および増量剤の両方として、または結合剤、増量剤および崩壊剤として作用しうることは認識されるであろう。一般に、結合剤、増量剤および崩壊剤の合計量は、たとえば配合物または用量の1〜90重量%を構成する。
【0062】
ある態様においては、1種類以上の滑沢剤が配合物または用量の0.5〜3重量%、特に1〜2重量%の量で存在するであろう。
【0063】
ある態様においては、1種類以上の界面活性剤が固体分散系中に固体分散系の0.1〜50%、好ましくは≦5%(たとえば1〜2%)(重量)の量で存在するであろう。界面活性剤の存在は、本発明により達成される療法ポテンシャルの増大をさらに高める。適切な界面活性剤の例には下記のものが含まれる:陰イオン界面活性剤、たとえばドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム);ドキュセートナトリウム(docusate sodium);陽イオン界面活性剤、たとえばセトリマイド(cetrimide)、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウムおよびラウリン酸;非イオン界面活性剤、たとえばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、たとえばポリソルベート(polysorbate)20、40、60および80;ポリオキシエチレンひまし油誘導体、たとえばCremophor RH40(商標);ポリオキシエチレンステアレートおよびポロキサマー。
【0064】
ある態様においては、1種類以上の可塑剤が固体分散系中に固体分散系の0.1〜50%、好ましくは≦5%(たとえば1〜2%)(重量)の量で存在するであろう。可塑剤の存在は、押出法を採用する場合に固体分散系の加工適性を向上させることができる。適切な可塑剤の例には下記のものが含まれる:クエン酸アセチルトリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、安息香酸ベンジル、クロルブタノール、デキストリン、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、マンニトール、鉱油、ラノリンアルコール、パルミチン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルアセテートフタレート、プロピレングリコール、2−ピロリドン、ソルビトール、ステアリン酸、トリアセチン、クエン酸トリブチル、トリエタノールアミンおよびクエン酸トリエチル。
【0065】
本明細書中で用いる用語“固体分散系(solid dispersion)”は、有効薬剤が賦形剤キャリヤー中に分散している系を意味する。これらの系内での薬物の状態に関して、この意味での固体分散系は、薬物が結晶質もしくは非晶質薬物の個別のドメインとして、または個々の分子として、賦形剤キャリヤー中に分散している組成物を含むことができる。完成した薬物−賦形剤複合材料に関して、固体分散系は比較的大きな固体塊、たとえばペレット、タブレット、フィルムまたはストランドであることができる;あるいは、それらはマイクロ−もしくはナノ−サイズの一次粒子またはそれらの凝集物からなるさらさらした粉末として存在することができる。固体分散組成物のバルク状態は、加工様式に大きく依存する(Miller, D. A., McGinty, J. W., Williams III, R. O. Solid Dispersion Technologies. Microencapsulation of Oil-in-Water Emulsions 172 (2008) pp 451-491)。
【0066】
本発明において、固体分散系の定義は、乾式もしくは湿式混合または乾式ブレンド操作からの物理的混合物を含まない。
【0067】
固体分散系を調製するための方法は当技術分野で既知であり、一般に薬物およびポリマーを共通の溶剤に溶解し、そして溶剤を蒸発させる工程を含む。溶剤は使用するポリマーに従ってルーティンに選択できる。溶剤の例は下記のものである:アセトン、アセトン/ジクロロメタン、メタノール/ジクロロメタン、アセトン/水、アセトン/メタノール、アセトン/エタノール、ジクロロメタン/エタノール、またはエタノール/水。溶剤を蒸発させる方法には、回転蒸発、噴霧乾燥、凍結乾燥および薄層蒸発が含まれる。あるいは、溶剤除去は極低温(cryogenic)凍結に続く凍結乾燥により達成できる。他の手法、たとえば溶融押出法、溶剤制御式沈殿法、pH制御式沈殿法、超臨界流体技術および極低温同時ミリングを使用できる。
【0068】
本発明はさらに、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン:コポビドン固体分散系の調製方法を開示する。そのような方法は、(i)適量の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンおよびマトリックスポリマーを共通の溶剤に溶解し;そして(ii)溶剤を除去することを含む。この分散系を含む医薬組成物は、たとえば安定剤および/または追加の賦形剤などの物質を必要に応じて添加することにより調製できる。特定の態様において、溶剤を噴霧乾燥により除去する。
【0069】
本発明の他の観点によれば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン:コポビドン固体分散系を溶融押出法により調製する。そのような方法は、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物、およびコポビドンポリマー、ならびに可塑剤を含めたいずれか追加の任意賦形剤を溶融押出装置に添加し、次いでこれを加熱および混合し、最終的に固体分散生成物を押し出すことを含む。押出装置は、混合物を溶融するのに十分なほど高いけれども成分を分解しないのに十分なほど低い温度に混合物を加熱する。
【0070】
本発明の他の観点によれば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの固体非晶質分散系の調製方法であって、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物、および少なくとも1種類のマトリックスポリマー(マトリックスポリマーは低い吸湿性および高い軟化温度を示す)を、同時にホットメルト押出することを含む方法が提供される。
【0071】
本発明の他の観点によれば、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの固体分散生成物を調製するための下記を含む方法が提供される:
(a)下記を含む粉末状または顆粒状にしたプレミックスを用意し:
(i)5〜60重量%の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン;および
(ii)40〜95重量%のコポビドン;
(b)溶剤を添加せずにニーダーまたは溶融押出機内でプレミックスを溶融して均質な溶融物となし;
(c)この溶融物を付形および固化して固体分散生成物を得る。
【0072】
1態様において、固体分散生成物を経口投与できる適切な剤形に成形する。
【0073】
他の態様において、固体分散生成物を粉砕し、1種類以上の追加の賦形剤または成分と混合し、打錠またはカプセル封入して適切な剤形にする。
【0074】
固体分散系という場合、ある割合の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンがマトリックスポリマー内に溶解している可能性があることを除外しない;溶解しているとすれば、その厳密な割合は選択した特定のポリマーに依存するであろう。
【0075】
本発明の配合物において、少なくとも若干の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンは、マトリックスポリマーを含む固体分散系中に非晶質形態で存在する可能性がある。非晶質形態の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンがあることはさらに有利である;それは4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの溶解度および溶解速度をさらに高め、これにより本発明で達成する療法ポテンシャルの増大がさらに高まるからである。薬物が非晶質形態で存在するか否かは、一般的な熱分析法またはX線回折法により判定できる。1態様において、XRPDを用いて測定して配合物中の少なくとも25%の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンが非晶質形態で存在する。より好ましくは、この量はXRPDを用いて測定して少なくとも30%、40%、50%、75%、90%、95%である。最も好ましい態様は、配合物中の100%の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンが非晶質形態で存在する場合である。実際には、現在のXRPD機器および技術は>5%の結晶質形態を検出できるにすぎない可能性があり、したがって結晶質形態を検出できないことはその試料が95%〜100%非晶質であることを意味する可能性がある。
【0076】
XRPDは出現しつつあるナノメートルスケールの解析技術により補うことができる:対分布関数(Pair−wise Distribution Function)(X線回折パターンを正規化散乱関数に変換する)はナノ結晶性の検出を容易にすることができる;固相NMRプロトンスピン拡散試験法を用いて、原子間力顕微鏡検査法およびナノサーマル分析法のように、相分離を検出することができる。そのような技術は絶対的というよりむしろ相対的であるが、医薬固体分散配合物の開発および最適化に際して有用な手段である。
【0077】
他の態様において、薬物は安定な非晶質形態であり、これは非晶質状態の化合物1の安定性(非晶質形態に留まり、結晶質形態への変換に抵抗する能力)が、本発明の固体分散配合物において非晶質状態の化合物1自体の安定性と比較して延長されることを意味する。
【0078】
好ましい態様において、本発明の配合物および用量は粘膜投与可能であり、すなわち粘膜を通した吸収のために粘膜に投与できる。この目的のために適切な投与経路には、吸入による投与、ならびに経口、鼻腔内および直腸投与が含まれる。経口投与が特に好ましい。投与経路に従って、配合物の錠剤、カプセル剤または他の剤形が当業者により選択されるであろう。ただし、他の投与経路、たとえば非経口が除外されることはない。
【0079】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンは、ポリ−ADP−リボースポリメラーゼ(PARP)阻害作用をもたらすために有用である。この作用は、癌、たとえば乳癌または卵巣癌、特に相同組換え(HR)依存性DNA二本鎖破断(DSB)修復経路に欠陥をもつ癌、たとえばBRCA1+および/またはBRCA2+ve癌を処置するために有用である。
【0080】
本発明の他の観点は、コポビドンを含む分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含み、かつ癌の処置に有用な1種類以上の追加化合物を含む、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン組成物に関する。
【0081】
特に、有用な“追加の”抗癌化合物には、DNA損傷促進剤が含まれる。DNA損傷促進剤は、細胞におけるDNA損傷の量を、直接に、またはたとえばDNA修復の阻害によって間接的に、増加させる化合物(たとえば、有機低分子、ペプチドまたは核酸)である。DNA損傷促進剤は、しばしば有機低分子化合物である。
【0082】
適切なDNA損傷促進剤には、細胞のDNAに損傷を与える薬剤(すなわちDNA損傷剤)、たとえば下記のものが含まれる:アルキル化剤、たとえばメタンスルホン酸メチル(MMS)、テモゾラミド(temozolomide)、ダカルバジン(dacarbazine)(DTIC)、シスプラチン(cisplatin)、オキサリプラチン(oxaliplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、シスプラチン−ドキソルビシン−シクロホスファミド(cisplatin-doxorubicin-cyclophosphamide)、カルボプラチン−パクリタキセル(carboplatin-paclitaxel)、シクロホスファミド、ナイトロジェンマスタード、メルファラン(melphalan)、クロラムブシル(chlorambucil)、ブスルファン(busulphan)、エトポシド(etoposide)、テニポシド(teniposide)、アムサクリン(amsacrine)、イリノテカン(irinotecan)、トポテカン(topotecan)およびルビテカン(rubitecan)ならびにニトロソ尿素、トポイソメラーゼ−1阻害薬、たとえばトポテカン(Topotecan)、イリノテカン(Irinotecan)、ルビテカン(Rubitecan)、エキサテカン(Exatecan)、ルルトテカン(Lurtotecan)、ギメテカン(Gimetecan)、ジフロモテカン(Diflomotecan)(ホモカンプトテシン(homocamptothecin)類);ならびに7−置換された非シラテカン(non-silatecan)類;7−シリルカンプトテシン(7-silyl camptothecin)類、BNP 1350;ならびに非カンプトテシン系トポイソメラーゼ−I阻害薬、たとえばインドロカルバゾール類、トポイソメラーゼ−II阻害薬、たとえばドキソルビシン(Doxorubicin)、ダウノルビシン(Danorubicin)、および他のルビシン類、アクリジン類(アムサクリン(Amsacrine)、m−AMSA)、ミトキサントロン(Mitoxantrone)、エトプシド(Etopside)、テニポシド(Teniposide)およびAQ4、二重トポイソメラーゼ−IおよびII阻害薬、たとえばベンゾフェナジン類、XR 11576/MLN 576およびベンゾピリドインドール類、ならびに代謝拮抗薬、たとえばゲムシタビン(gemcitabine)、葉酸代謝拮抗薬、たとえば5 フルオロウラシルおよびテガフル(tegafur)、ラルチトレキセド(raltitrexed)、メトトレキセート(methotrexate)、シトシンアラビノシド(cytosine arabinoside)、およびヒドロキシ尿素、ならびに三酸化ヒ素。
【0083】
患者はヒト、たとえば成人または小児であることができるが、他の動物の処置も考慮される。
【実施例】
【0084】
<実施例1.化合物1の特性>
1.1 溶解度
結晶質形態Aの化合物1の溶解度を水中および生理的pH範囲を示す一連のpH緩衝液中で測定した。溶解しなかった(または沈殿した)物理的形態の化合物1はいずれも、溶解度測定後にXRPDにより評価しなかった。溶解度データを表1にまとめる。形態Aの結晶質形態の化合物1はWO2008/047082に開示されている。
【0085】
【表1】
【0086】
化合物1の溶解度を実際および模擬胃腸媒質中においても測定した(表2)。HIFおよびFeSSIF中における溶解度は、表1に報告した緩衝液中での溶解度より顕著に高かった。
【0087】
【表2】
【0088】
1.2 透過性
化合物1は、確証されたCaco−2細胞系を用いて調べて、高透過性マーカーであるプロプラノロールと比較した場合、中程度に透過性であると判定された;結果を表3および図1にまとめる。化合物1は、低濃度(10μM)でP−gpにより排出され、これは選択的P−gp阻害薬エラクリダール(Elacridar)(GF120918;GG918;N−(4−[2−(1,2,3,4−テトラヒドロ−6,7−ジメトキシ−2−イソキノリル)エチル]フェニル)−9,10−ジヒドロ−5−メトキシ−9−オキソ−4−アクリジンカルボキサミド塩酸塩により阻害される性向をもつことが示された。
【0089】
【表3】
【0090】
<実施例2.ポリマーの特性>
【0091】
【表4】
【0092】
<実施例3.スクリーニング試験:ポリマー分散系>
3.1 プロトコル
【0093】
【表5】
【0094】
3.2 方法
プロトコルに詳述した割合の化合物1および各ポリマーの二元混合物を含む一連の4%w/w溶液を、1.8mLバイアル内へ秤量し、特定した溶剤系に溶解することにより調製した。化合物1、ポリマーおよび界面活性剤の三元混合物を含むさらに他の溶液を、同様な方法で調製した。40℃で窒素下に(10mL/分の流速、0.7バールの圧力)15分間の蒸発により溶剤を除去し、続いて完全真空下で一夜乾燥させて、固体分散系を調製した。
【0095】
得られた試料を、調製直後と、30℃および60%相対湿度で最高1か月間の貯蔵後に、XRPDにより評価した(Bruker GADDS回折計;室温でCuKa線を用い、1.5〜41.5゜の2θ領域でデータ収集)。
【0096】
3.3 結果
【0097】
【表6−1】
【0098】
【表6−2】
【0099】
【表6−3】
【0100】
このスクリーニング試験の結果は、評価したすべてのポリマーについて非晶質固体分散系の調製が可能であったことを証明する。しかし、低融点のポロキサマーおよびポリエチレングリコールを用いて調製した固体分散系はきわめて不安定であり、30℃/60%相対湿度で貯蔵した場合に1か月以内に結晶質薬物の形成を生じた。これらのポリマーについてはそれ以後の評価は行なわなかった。Eudragit E100を用いて25%の薬物装填量で調製した固体分散系は非晶質かつ安定であるようにみえた;しかし、50%の薬物装填量では直ちに結晶化がみられた。文献報告は、Eudragit Eを用いて調製した分散系は著しい結晶性を示す可能性があることを指摘しており(たとえば、Qi et al. Int. J. Pharm. 354: 158-167, 2008を参照);比較試験ではポビドンK25を用いて調製した固体分散系より化学的安定性がより低い可能性がある(Dargel, E., Mielck, J.B. Acta Pharm. Technol. 35(4):197-209. 1989)。Eudragit E100の評価はそれ以上行なわなかった。Eudragit L100−55につきDCM/MeOH溶剤系を用いて調製した固体分散系は、30℃/60%相対湿度で1週間後に結晶化を示したが、アセトン/MeOH溶剤系を用いて調製したものは安定であった。本発明者らは、コポビドンを用いて50%の薬物装填量で調製した固体分散系は30℃/60%相対湿度で1週間後に若干の結晶化を示したが、25%の薬物装填量で調製したものは安定であることを見出した。
【0101】
<実施例4.化合物1の配合物>
4.1 即時放出錠
4.1.1 組成
【0102】
【表7】
【0103】
4.1.2 調製方法
標準的な即時放出錠を直接圧縮法により製造した。結晶質化合物1ならびに乳糖、微結晶性セルロース、クロスカルメロースNaおよびラウリル硫酸ナトリウムをガラスバイアル内へバイアルの容量の約75%を占めるように秤量し、次いでタンブルミキサー内で30分間、混和した。ブレンドした材料を40メッシュ(425μm)の篩でふるい、次いでさらに15分間タンブル混合した。ステアリン酸マグネシウムを次いで添加し、ブレンドを手動で約20秒間振とうした。得られた混合物を次いで400mgずつに分配し、10mmの成形用具を備えたハンドプレスを用いて目標圧縮力0.5トンで圧縮して錠剤コアにした。
【0104】
4.2 マイクロ懸濁液
4.2.1 調製方法
約1gの結晶質化合物1を10mLメスフラスコ内へ秤量し、0.5% HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはヒプロメロース(Hypromellose)、公称見掛け粘度4000cPをもつUSP代替タイプ2910、たとえばDOW Methocel E4Mまたはそれと同等のもの)溶液を添加して容量を調整した。混合物を一夜攪拌し、次いで0.5% HPMC溶液で100mLに定量希釈して10mg/mLのマイクロ懸濁液を得た。化合物1の平均体積直径は、Sympatec粒径分析計(Sympatec GmbH)を用いるレーザー回折法により4.54μmであると測定された。
【0105】
4.3 Gelucireカプセル剤
4.3.1 配合物
【0106】
【表8】
【0107】
4.3.2 調製方法
ラウロイルマクロゴールグリセリド(lauroyl macrogolglyceride)(ラウロイルポリオキシルグリセリド)を50〜70℃で溶融し、次いでステンレス鋼容器内へ秤量した。結晶質化合物1を添加し、内容物を混合して均質な懸濁液を得た。サーモスタット制御自動カプセル充填機を用いて、混合を続けながら混合物をカプセル内へ分注してカプセル当たり500mg重量を充填した。
【0108】
4.4 化合物1製剤のインビトロ溶解
4.4.1 試験法
米国薬局方装置I(バスケット)の一般法に従って溶解を実施した。約100mgの化合物1を含有する量の材料を正確に秤量し、次いで37℃に維持した500mLのTRIS緩衝液(0.05Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン溶液;塩酸でpH7.2に調整)を入れた溶解容器へ移し、100rpmで攪拌した。15、30、45および60分後、10mlの試料を取り出し、0.2μm PVDFフィルターにより濾過した。濾液中の化合物1の濃度を紫外線顕微鏡検査により278nmの波長で測定した。
【0109】
4.4.2 結果
【0110】
【表9】
【0111】
4.5 ナノ懸濁液
4.5.1 調製方法
化合物1を数滴のビヒクル(0.5% HPMC/0.1%Tween80)とガラスバイアル内で1分間“ボルテックス”混合して化合物を湿潤および分散させ、自由流動性のスラリーを形成させた。追加容量のビヒクルをスラリーに添加して薬物濃度50mg/mlとなし、得られたスラリーを次いで約1分間“ボルテックス”混合して混和した。50mg/mlの薬物濃度のスラリーをジルコニア製ミリングポットへ移した。ジルコニア製ミリングビーズ(直径0.6〜0.8mm)をビーズとスラリーのレベルが等しくなるまでポットに添加した。ポットを次いでテフロン(Teflon)製リングと蓋(ジルコニア)でシールし、Fritsch P7遊星形ミルに乗せた。第2ポット(釣合重りとして)を次いでミルに乗せた。ポットをミル上において800rpmで回転させた;4×30分の操作(各操作間に10分を置く)。ポットを次いでさらに15分間放冷し、得られたビーズミリング懸濁液の試料を分析用に採取した。このナノ懸濁液を次いでミリングビーズから分離し、投与できる状態の10mg/mlの濃度に希釈した。ナノ懸濁液粒径を、Brookhaven Instrumentsからの光ファイバー準弾性光散乱(Fibre Optic Quasi Elastic Light Scattering)(FOQUELS)−レーザー波長635nmを用いて測定した。平均有効直径692±8nmと測定された。X線回折法によりこの薬物は本質的に結晶質であることが確認された。
【0112】
4.6 固体分散系
4.6.1 溶剤蒸発法による調製
1:3の重量比の化合物1:ポリマーを含む固体分散系を下記に従って調製した:
WO2004/080976の例9に従って製造した化合物1[化合物168]0.75g、および2.25gのポリマーを、250ml丸底フラスコ内へ直接秤量し、75mlのメタノール:ジクロロメタン(1:1)に溶解した。溶剤をロータリーエバポレーターで除去した。この配合物を真空オーブンに入れ、高真空下に40℃で一夜乾燥させた。
【0113】
配合物をフラスコから回収し、必要であれば乳棒と乳鉢を用いて乾式ミリングした。次いで配合物を必要になるまで真空デシケーター内に保存した。
【0114】
1:3以外の比率をもつ配合物を調製するために、プロセスにおける重量および容量を前記のものに比例して調整した。
【0115】
4.6.2 溶融押出法による調製
化合物1を調製処方に定めた割合でポリマーおよび流動促進剤とブレンドした。このブレンドを2軸スクリュー押出機で押出した。押出し中に押出機バレルに真空を施して溶融物を脱ガスした。押出品を2つの逆転カレンダーロールに通すことによりカレンダー掛けし、次いで冷却した後にミリングした。
【0116】
4.6.3 安定性試験
4.6.3.1 プロトコル
前記の溶剤蒸発法を用いて固体分散系を調製し(4.6.1を参照)、非晶質化合物1をWO2004/080976の例9[化合物168]に従って製造した。試料を、ポリエチレンライナー付き密閉HDPEボトル内に乾燥剤と共に3か月間、冷蔵下(2〜8℃)、長期条件下(25℃/60%相対湿度)および加速条件下(40℃/75%相対湿度)で貯蔵した。そのほか、試料を1か月間、開放ペトリ皿内において40℃/75%相対湿度で貯蔵した。試料を、設置前、1か月後、ならびに密閉容器内の長期および加速条件下の試料のみについては3か月後に試験した。
【0117】
4.6.3.2 方法
(溶解)
米国薬局方の一般法に従い、装置IIを用いて溶解を実施した(パドル法)。約100mgの化合物1を含有する量の固体分散系を正確に秤量し、次いで温度37℃および攪拌速度75rpmのpH6.5リン酸緩衝液500mLに入れた。5、10、20および45分後、2mlの試料を取り出し、化合物1含量をHPLCにより測定した。
【0118】
【表10】
【0119】
(示差走査熱量測定による結晶化度の測定)
試料を示差走査熱量測定装置(TA Instruments Q1000)内で、存在する水および/または溶剤をいずれも駆出した後、試料を冷却し、そして存在する可能性のある結晶質材料の融解転移温度(化合物1のTm=210℃)を含む温度範囲にわたって一定速度で加熱するように設計したプログラムを用いて加熱した(図3を参照)。
【0120】
【表11】
【0121】
4.6.3.3 結果
【0122】
【表12】
【0123】
安定性試験の結果は、比較的吸湿性のポリマーであるポビドンを用いて調製した固体分散系は40℃/75%相対湿度で貯蔵した場合に結晶化する傾向があり、これにより溶解速度が低下したことを証明する。2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンおよびフタル酸ヒプロメロースを用いて調製した固体分散系は、試験したすべての条件下で安定であった。
【0124】
4.7 コポビドン固体分散系(無コーティング錠配合物)
4.7.1 配合物
【0125】
【表13】
【0126】
4.7.2 調製方法
4.6.2に記載した溶融押出法を用いて、化合物1およびコポビドンの固体分散系を調製した。ミリングした押出品を外部賦形剤と混合し、単パンチ式ハンドプレスにより80〜100Nの範囲の硬度になるように圧縮して、錠剤の形にした。
【0127】
4.7.3 安定性試験−無コーティング錠
4.7.3.1 プロトコル
4.7.2の記載に従って製造した無コーティング錠を、ポリエチレンライナー付き密閉HDPEボトル内に乾燥剤と共に4か月間、長期条件下(25℃/60%相対湿度)および加速条件下(40℃/75%相対湿度)で貯蔵した。試料を、設置前、次いで1、3および4か月後に試験した。
【0128】
4.7.3.2 インビトロ評価
4.6.3.2の記載に従ってDSCにより結晶化度を測定した。
【0129】
(溶解試験)
固体分散配合物について前記に述べたものからの溶解法(4.6.3.2を参照)を応用した。米国薬局方の一般法に従い、装置IIを用いて溶解を実施した(パドル法)。個々の投与単位を温度37℃および攪拌速度75rpmのpH6.5リン酸緩衝液1000mLに入れた。15、30、60、90、120および180分後、1mlの試料を取り出し、化合物1含量をHPLCにより測定した。
【0130】
【表14】
【0131】
(HPLCによる化合物1の検定および不純物)
化合物1および総不純物の含量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。50:50 v/v アセトニトリル/水を希釈剤として用いて、約0.4mg/mLの化合物1を含有する試料溶液を調製した。試料溶液を分析前に0.2μm PVDFフィルターにより濾過した。
【0132】
10μLの試料を、下記の表15の勾配プログラムにより規定される水中0.05%トリフルオロ酢酸(TFA)(溶離剤A)/アセトニトリル中0.05% TFA(溶離剤B)を含有する移動相に注入した。
【0133】
【表15】
【0134】
時点ゼロの規定に従って移動相を開始し、次いで溶離剤AとBの割合を徐々に直線的に後続の各時点での組成に調整することにより、組成を変更する。
【0135】
3.5μmの粒度をもつWaters Sunfire C18固定相を充填した長さ15cm×内径4.6mmのカラムを用いて、不純物の分離を行なった。移動相の流速は1.0mL/分であり、温度を30℃に制御し、可変波長UV検出器を用いて測定した276nmにおける吸光度を外部化合物1標準品のものと比較することにより、不純物濃度を測定した。
【0136】
(クーロメトリー式カールフィッシャー滴定法による含水率)
Metrohm 684クーロメーターを用いるクーロメトリー式カールフィッシャー滴定法により含水率を測定した。試料を分析前にボールミリングし、200mgの試料サイズを用いて測定を実施した。
【0137】
4.7.3.3 結果
【0138】
【表16】
【0139】
4.8 コポビドン固体分散系(フィルムコーティング錠配合物)
4.8.1 配合物
【0140】
【表17】
【0141】
4.8.2 調製方法
化合物1を製造処方に定めた割合でポリマーおよび流動促進剤とブレンドした。このブレンドを2軸スクリュー押出機で押出した。押出し中に押出機バレルに真空を施して溶融物を脱ガスした。押出品を2つの逆転カレンダーロールに通すことによりカレンダー掛けし、次いでミリング前に冷却した。押出品をミリングし、続いて外部賦形剤と混合した。粉末状ブレンドを、ロータリープレス(10のパンチステーションを備えたKorsch XL 100)によって十分な硬度(最低25N)になるように圧縮して錠剤コアにした。
【0142】
錠剤コアをDriacoater Driam 600コーターによりOpadry(商標)グリーン(Colorcon 03B21726,130g/Kg水溶液)でコートした。付与した全コーティング溶液は錠剤コアKg当たり35gのOpadry(商標)に相当する。
【0143】
4.8.3 安定性試験−フィルムコーティング錠
4.8.3.1 プロトコル
4.8.2の記載に従って製造したフィルムコーティング錠を、ポリエチレンライナー付き密閉HDPEボトル内に乾燥剤と共に4か月間、長期条件下(25℃/60%相対湿度)および加速条件下(40℃/75%相対湿度)で貯蔵した。試料を、設置前、次いで1、3および4か月後に試験した。
【0144】
4.8.3.2 インビトロ評価
セクション4.7.3.2に記載した方法を用いて含水率、検定および不純物を測定した。
【0145】
(高温載物台顕微鏡検査法による結晶化度の測定)
粉砕した錠剤を、光学顕微鏡検査法により交差偏光条件下で賦形剤および化合物1の融点範囲にわたって定常的に加熱しながら検査して、薬物結晶の存在を検出した。180℃〜190℃で複屈折性であるとみられ、続いて約210℃で融解したいずれかの粒子を、化合物1と分類した。顕微鏡下で見た薬物結晶の例については図4を参照されたい。
【0146】
(溶解試験)
無コーティング錠配合物について前記に述べたものからの溶解法(4.7.3.2を参照)を応用した。米国薬局方の一般法に従って装置Iを用いて(バスケット法)溶解を実施した。個々の投与単位を温度37℃および攪拌速度100rpmの0.3% SDS 900mLに入れた。15、30、45、60および90分後、試料を取り出し、化合物1含量をHPLCにより測定した。
【0147】
【表18】
【0148】
4.8.3.3 結果
【0149】
【表19】
【0150】
【表20】
【0151】
<実施例5.ナノメートルスケールの特性分析試験>
5.1 固相核磁気共鳴試験
10、25、35および40%の薬物装填量で4.6.2に記載した溶融押出法を用いて調製した化合物1およびコポビドンの固体分散系を、Asano, A; Takegoshi, K.; Hikichi, K. Polymer (1994), 35(26), 5630-6に示された固相核磁気共鳴分光法(SSNMR)により評価した。13C交差分極マジック角スピニング(cross−polarisation magic angle spinning)SSNMRスペクトルを、100MHz、スピン速度9kHzで、Bruker Avance 400WBを用い、4mm HFX MASプローブにより記録した。薬物装填量の異なる各試料につき、500μsから10msまでの範囲の種々の接触時間で一連のスペクトルを取得した。種々のスペクトル領域からのピーク面積を測定した。これらの面積は、化合物1またはコポビドンに対応するピークを含むように選択された。接触時間の延長に伴ってビーク面積は最大値にまで増大し、次いでプロトンスピン拡散として知られるプロセスのため減衰する。この減衰は定数T1rにより特徴づけられ、これは参照回転フレームにおけるプロトンスピン−格子緩和(proton spin−lattice relaxation)を表わす。スピン拡散長さスケールより長い長さスケールの相分離系について、この減衰プロセスの緩和率は個々の成分についてみられたものと同一である。混合系について、T1rの単一値は個々の成分の重みつき平均として観察される。
【0152】
化合物1装填量10〜40%の試料について、それぞれの磁化減衰はきわめて類似するT1r実測値をもつ単一の指数関数に当てはめることができた。これは、薬物とポリマーについての類似の緩和経路を示唆し、単一相を意味する。
【0153】
【表21】
【0154】
5.2 対分布関数試験
10、25、35および40%の薬物装填量で4.6.2に記載した溶融押出法を用いて調製した化合物1およびコポビドンの固体分散系を、X線粉末回折により評価し、各試料について対分布関数(PDF)を導いた。
【0155】
5.2.1 データ収集
X線粉末回折データは、波長1.5418ÅのX線を発生する銅源をもつ(平行ビームオプティクスを得るために用いたGoebel鏡は、kβを除去し、平均波長kα1およびkα2のビームを残す)Bruker D8回折計で、40kVの電圧および40mAのフィラメント放射を用いて収集された。試料を反射モードで測定し、走査位置検知検出器を用いて回折パターンを収集した。
【0156】
ゼロバックグラウンドのウェハーの回折図を真空下で得た。50mg(±5mg)の各試料を秤量し、ゼロバックグラウンドのホルダー上に確実にほぼ完全に覆うように分散させた。試料をTTKチャンバーに添加し、これを次いで<5×10−2ミリバールの圧力の真空下に置いた。XRPDデータを約20〜30分間にわたって収集した:4〜80゜の2θを0.007091゜のステップで0.2秒/ステップの間カウントするデータ取得パラメーターを各試料に用いた。
【0157】
パターン中に6.6゜の2θにおけるピークが試料ホルダーにより生じ、これはそれぞれの場合、実験当日に測定したブランク操作(すなわち空の試料ホルダー)を差し引くことにより除かれた。
【0158】
5.2.2 コンピューター法−対分布関数
PDFを各試料から計算した(S.J.L. Billinge and M.G. Kanatzidis, Chem. Commun., 2004, 749-760; S. Bates et.al., Pharmaceutical Research, 2006, 23(10) 2333-2349; S. Bates et.al., J. Pharmaceutical Sciences, 2007, 96(5), 1418-1433)。試料と実験設定の両方に関するデータに対して多数の補正を行なうことにより、測定したX線回折パターン(散乱関数として知られる)を正規化散乱関数S(Q)に変換した。次いでs(Q)の正弦フーリエ変換、方程式1からPDFを作成する:
【0159】
【化2】
【0160】
PDFは、原子間距離に対するG(r)のプロットであり、他の原子から特定距離‘r’の位置に原子を見出す確率を示す。ナノ結晶質であるX線非晶質材料は長距離規則性をもち、したがって遠く離れた位置に原子を見出す確率が比較的高い。これに対し、真の非晶質材料は何らかの長距離規則性をもたず、遠く離れた位置に原子を見出す確率は比較的低い。
【0161】
測定した各X線回折パターンからソフトウェアPDFgetX2を用いてPDFを作成した(X. Qui et.al., J. Appl. Cryst. 2004, 37, 678)。
【0162】
5.2.3 結果
図5に示すように、化合物1およびコポビドンの固体分散系に関しては、調べた薬物装填量のいずれについても15Åより上には規則性の証拠はほとんどない。これにより、これらの固体分散系が非晶質であり、有意の長距離規則性を示さないことが確認される。
【0163】
5.2.4 PDFの直線的組合わせ
5.2.4.1 方法
配合物の個別の成分である非晶質化合物1およびコポビドンのPDFを作成した。これらのPDFを次いで適正な比率で(70%のコポビドンおよび30%の非晶質化合物1)組み合わせて、これら2つの物理的混合物についての模擬PDFトレースを得た。5.2.2.で得たトレースをこの模擬トレースと比較した。
【0164】
5.2.4.2 結果
図6に示すように、非晶質化合物1とコポビドンの物理的混合物は1〜5Åに特徴的なパターンを示し、これは約2Åと約3ÅにG(r)に関する2つの最小値を含む;化合物1およびコポビドンの固体分散系は単一の強い最小値を約3Åに示す。これらのデータは、化合物1およびコポビドンの固体分散系が真の分子分散系であることを指摘する。
【0165】
5.3 ナノサーマル特性分析試験
10、30および40%の薬物装填量で4.6.2に記載した溶融押出法を用いて調製した化合物1およびコポビドンの固体分散系を、原子間力顕微鏡検査法(Gan, Y. Surface Science Reports (2009), 64(3), 99-121; Fulghum, J. E.; McGuire, G. E.; Musselman, I. H.; Nemanich, R. J.; White, J. M.; Chopra, D. R.; Chourasia, A. R. Analytical Chemistry (1989), 61(12), 243R-69R)、および局在熱分析法(Harding, L.; King, W. P.; Dai, X.; Craig, D. Q. M.; Reading, M. Pharmaceutical Research (2007), 24(11), 2048-2054)により評価した。
【0166】
5.3.1 方法
Veeco Explorer原子間力顕微鏡に基づくTA Instruments 2990 Micro−Thermal Analyzerにより作業を実施した。試料の予備イメージングを、Tapping Mode(TM−AFM)でVeeco 1660−00高共振周波数(HRF)シリコンプローブを用いて実施した。マイクロサーマル分析(マイクロ−TA)を、Wollastonワイヤサーマルプローブを用いて実施した。ナノサーマル分析(ナノ−TA)を、Anasys Instruments NanoTA1 AFMアクセサリーにより制御されるAnasys Instruments AN2−300 ThermaLever(商標)ドープしたシリコンプローブを用いて実施した。Wollastonプローブは、ポリ(エチレン)テレフタレート(PET)フィルム(融解温度=240℃)および室温を用いて温度校正された。ThermaLeverプローブについては、ポリカプロラクトン(PCL,Tm=55℃)、HDPE(Tm=115℃)およびPET融解温度標準品を用いて3点温度校正を実施した。試料分析の前と後に各プローブの校正を検査した。別途記載しない限り、すべての局在熱分析操作に用いた加熱速度は20℃/秒であった。
【0167】
すべての試料を入手したままの状態で、すなわち成形ペレットの表面が改質されていない状態で分析した。
【0168】
5.3.2 結果
図7(10%の薬物装填量)、図8(30%の薬物装填量)および図9(40%の薬物装填量)に示すように、種々の薬物装填量の試料がすべて多様な程度に表面特徴を示したが、マトリックス内に何らかの相分離の徴候を示したものはなかった。
【0169】
5.4 結晶化試験
4.6.2に記載した溶融押出法を用いて製造したミリングした押出品、および4.7.2の記載に従って製造した表13に示す錠剤組成物につき、水が化合物1の結晶化度に及ぼす影響を調べた。この試験は、水性スラリーを用いて、専有コーティング組成物Opadry(商標)グリーン(Colorcon 03B21726,130g/Kg水溶液)の不存在下および存在下の両方で実施された。錠剤はスラリー実験開始前に粉砕された。
【0170】
5.4.1 実験条件
下記の物質を25mLバイアル内へ秤量した。
【0171】
【表22】
【0172】
20mLの水を50℃に加熱し、各バイアルに添加した。得られたスラリーを50℃で48時間攪拌し続けた。
【0173】
得られたスラリー材料のXRPDにより、形態Hが化合物1の主な結晶形態であることが確認された。化合物1形態Hは、下記に特異的ピークを含むX線回折パターン(λ=1.5418Å)をもつ:
【0174】
【表23】
【0175】
化合物1形態Hは、X線回折パターン(λ=1.5418Å)に下記の追加ピークをも含む:
【0176】
【表24】
【0177】
化合物1形態Hは、前記の最初の4ピークのリストから選択される3以上のピークのいずれかの組み合わせにより特徴づけることもできる。
【0178】
化合物1形態Hの代表的な粉末XRPDパターンを図10に示す。
【0179】
化合物1形態HはTGAにより減量を生じ、これは1水和物および若干の追加の物理吸着水と一致する。示した例において、存在する水の全量は4.7%重量%である;化合物1の1水和物についての理論減量は4.0%w/wである。
【0180】
化合物1形態Hは、DSCを用いて特性分析することもできる。化合物1形態Hを0℃から300℃まで毎分10℃で加熱すると、115℃まで幅広い脱水吸熱を示し、続いて125〜175℃で相転移が起きる。208.0℃±1℃で開始する鋭い吸熱がみられ、これは形態Aと一致する。化合物1形態Hの代表的なDSCトレースを図11に示す。
【0181】
Opadry(商標)の不存在下で得られた材料は形態Hと一致する強いXRPD反射を生じ、これに対しOpadry(商標)の存在下では形態HのXRPD回折パターンの強度はかなり低下した。これは干渉の結果ではない;図12に示すOpadry(商標)のXRPD回折パターンは25゜未満の2θには有意のピークがないことを指摘しているからである。したがって、観察されたこのきわめて低い強度の反射は形態Hの存在が少量にすぎないことの指標となる。これは、Opadry(商標)が化合物1の非晶質固体分散系に安定化効果を及ぼすことができるのを示唆する可能性がある。このグレードのOpadry(商標)は、4.8に記載するフィルムコーティング錠配合物の調製に使用するために選択された。
【0182】
5.5 二次元相関分光試験
5.5.1 はじめに
二次元相関分光法(2D−COS)は、ある系に外部摂動(external perturbation)を付与していずれかの分光計によりモニターする方法である。スペクトル強度をスペクトル変数(たとえば、波長、振動数または波数)の関数としてプロットする。スペクトル変数の2つの直交軸が2Dスペクトル平面を規定し、スペクトル強度を第3軸に沿ってプロットすることができる(Noda, I., Dowrey, A. E., Marcott, C., Story, G. M., Ozaki, Y. Appl. Spectrosc. 54 (7) 2000 pp 236A-248A; Noda, I. Appl. Spectosc. 44 (4) 1990 pp 550-561)。
【0183】
同期2D相関スペクトルにおいて、強度は摂動範囲にわたるスペクトル強度変動の同時(simultaneous)または一致した(coincidental)変化を表わす。同期スペクトルは、選択したスペクトル変数について等しい数値に対応する対角に対して対称的である;対角(diagonal)と対角外(off−diagonal)の両方の位置に相関ピークが現われる。オートピーク(autopeak)と呼ばれる対角ピークは、選択したスペクトル変数の特定の値についての摂動範囲にわたる強度変動を表わし、これに対しクロスピーク(cross peak)と呼ばれる対角外ピークは、選択したスペクトル変数の2つの異なる値において観察されたスペクトル強度の同時または一致した変化を表わす。そのような同期変化は、カップリングまたは相互作用の指標となることができる。
【0184】
これに対し、非同期スペクトルにおいて、強度は逐次または連続変化を表わす。非同期スペクトルは対角に対して逆対称であり、オートピークをもたず、専らクロスピークからなり、これは2つのスペクトル特徴が期外変化する場合にのみ発生する。この特徴を利用して、異なる由来、たとえば複雑な混合物中で独立して行動する異なる成分のスペクトル信号から生じるオーバーラップしたバンドを識別することができる。
【0185】
同期および非同期両方の相関スペクトルについて、摂動データセット内のそれぞれ個々のスペクトルから平均スペクトルを差し引くことにより、ノイズの増大を犠牲にして、感度を改善することができる。
【0186】
2D−COSを用いて、摂動に応答して生じる、試料マトリックス内での分子内または分子間相互作用の指標となりうるスペクトル変動において、何らかの相関の性質および程度を確立することができる。医薬固体分散系に関して、薬物とマトリックスポリマーの間の高レベルの相互作用は安定かつ均質な分散系の形成を増進する傾向があると思われる;これに対し、そのような相互作用の不存在または競合する分子内カップリングの存在は、逆の作用をもつであろう。
【0187】
5.5.2 方法
4.6.1に記載した溶剤蒸発法により調製した固体分散系における化合物1および種々のポリマーの濃度変化の影響を、赤外分光法により調べた。Thermo Nicolet Magna 550シリーズII分光計でスペクトルを収集した。表25に示す化合物1およびマトリックスポリマーの固体分散組成物について、2D−COSスペクトルを収集した。
【0188】
【表25】
【0189】
専有ソフトウェア(Omnic 8.0)を用いて各スペクトルを最強バンドに対して正規化した。次いでスペクトルをカンマ区切り(comma separated value)(CSV)ファイルに変換し、MS Excel(商標)へ転送し、Matlab(登録商標)(The MathWorks(商標))用にフォーマットし、これで2D同期および非同期スペクトルを作成した。
【0190】
5.5.3 結果
(酢酸コハク酸ヒプロメロース(Aqoat MG))
化合物1のスペクトルにおいて、最強のバンドは1630cm−1にある(図13)。Aqoat MGスペクトルにおいて、最強のバンドは1050cm−1にある(図14)。同期スペクトル(図15)において、クロスピークが1050cm−1、1650cm−1、および1050cm−1、2700cm−1において顕著である;しかし、非同期スペクトル(図16)は、これらの相互作用が分子内(ポリマー/ポリマー)の性質のものであることを指摘する。
【0191】
(フタル酸ヒプロメロース(HP55S))
HP55Sの赤外スペクトルは、図14に示すように1000cm−1のすぐ上方に強いスペクトル特徴を示す。同期(図17)および非同期(図18および19)相関スペクトルは、1600〜1800cm−1の範囲の弱い分子内および分子間−混合相互作用を指摘する。
【0192】
(ヒプロメロース(Pharmacoat 606))
HP55Sの場合と同様に、Pharmacoatの赤外スペクトルは1000cm−1のすぐ上方に強いスペクトル特徴を示す(図14)。同期(図20)および非同期(図21および22)相関スペクトルは、1600〜1800cm−1の範囲の弱い分子内および分子間−混合相互作用を指摘する。Pharmacoatについての分子間(薬物−ポリマー)相互作用の強度は、HP55Sの場合より若干大きい。
【0193】
(ポビドン(Kollidon 25))
ポビドンの赤外スペクトルの主バンド(図14)は1600cm−1にあり、化合物1の赤外スペクトルの主バンド(図13)とオーバーラップする。同期(図23および24)および非同期(図25)相関スペクトルは、水素結合相互作用を指摘する。
【0194】
(コポビドン(Kollidon VA64))
コポビドンはポビドンと同じ多数の赤外(図2)および2Dスペクトル特徴(図26〜29)をもつが、水素結合がより強いことを示唆する追加のファクターも示す。
【0195】
5.5.4 結論
化合物1の固体分散系にみられた分子間相互作用の程度は、マトリックスポリマーの性質に著しく依存する。分子間相互作用の全体的なランキングを表26に示す。
【0196】
【表26】
【0197】
これらの結果は、化合物1およびコポビドンの固体分散系が特に安定かつ均質な可能性があることを示唆する。
【0198】
<実施例6.生物学的利用能の比較試験>
6.1 プロトコル
幾つかの異なる状態の薬物100mgを絶食ビーグル犬(n=6)に経口投与した。投与した配合物は、IR錠(4.1を参照)、マイクロ懸濁配合物(4.2を参照)およびナノ懸濁配合物(4.5を参照)、Gelucire(登録商標)44/14内に種々の装填量の薬物を収容したカプセル剤(4.3を参照)、溶剤蒸発法(4.6.1を参照)および溶融押出法(4.6.2を参照)により調製した固体分散系を収容したカプセル剤、ならびに溶融押出した固体分散系から製造した錠剤(4.7を参照)であった。錠剤およびカプセル剤の投与に続いて20mlの水を投与し、これに対し10mLの懸濁配合物の強制投与に続いて10mLの水を投与して強制投与チューブを洗浄した。
【0199】
投与後、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、12、24および30時間目に血液試料を採取した。試料を3000rpmで15分間遠心し、血漿をプレーン血液チューブ内へ取り出し、分析するまで−20℃に保存した。試料を手動固相抽出(Phenomenex Strata X,30mg)法に続いて下記の表27に詳述する条件を用いるLC−MSにより分析した。
【0200】
【表27】
【0201】
6.2 結果
【0202】
【表28】
【0203】
図30を参照。ポリマーベースの固体分散系からのCpmaxおよびAUCは共に、即時放出錠、Gelucireカプセル剤およびマイクロ懸濁/ナノ懸濁配合物より有意に大きかった(P<0.05)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスポリマーを含む固体分散系中に有効薬剤を含む医薬配合物であって、有効薬剤が4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその塩もしくは溶媒和物であり、マトリックスポリマーが低い吸湿性および高い軟化温度を示す配合物。
【請求項2】
有効薬剤が安定な非晶質形態である、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
少なくとも90%の有効薬剤が非晶質形態である、請求項2に記載の配合物。
【請求項4】
マトリックスポリマーが、コポビドン、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPBCD)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース、HPMC)、ポリメタクリレート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、および酢酸フタル酸セルロース(CAP)から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項5】
マトリックスポリマーがコポビドンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項6】
コポビドンが1−ビニル−2−ピロリドンと酢酸ビニルの質量比6:4のコポリマーである、請求項5に記載の配合物。
【請求項7】
有効薬剤:マトリックスポリマーの重量比が1:0.25〜1:10である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項8】
有効薬剤:マトリックスポリマーの重量比が1:≧2〜1:10である、請求項7に記載の配合物。
【請求項9】
単位投与量当たりの有効薬剤の量が少なくとも20%である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項10】
固体分散系が界面活性剤および/または可塑剤を含有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項11】
界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム);ドキュセートナトリウム;セトリマイド;塩化ベンゼトニウム;塩化セチルピリジニウム;ラウリン酸;ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリソルベート20、40、60および80);ポリオキシエチレンひまし油誘導体(例えば、Cremophor RH40(商標));ステアリン酸ポリオキシエチレンおよびポロキサマーから選択される、請求項10に記載の配合物。
【請求項12】
粘膜投与のためのものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項13】
固体分散系が溶剤蒸発法または溶融押出法により調製される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項14】
固体分散系が溶融押出法により調製される、請求項12に記載の配合物。
【請求項15】
医薬の製造における、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を含む固体分散系中の、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーの使用。
【請求項16】
医薬が癌を処置するためのものである、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
医薬が10〜1500mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を含む、請求項14または15に記載の使用。
【請求項18】
薬物4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを必要とする患者においてその薬物の生物学的利用能を高めるための方法であって、その患者に、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む配合物を投与する方法。
【請求項19】
患者において癌を処置するための4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの医薬日用量であって、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に10〜1000mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬日用量。
【請求項20】
マトリックスポリマーがコポビドンである、請求項19に記載の医薬日用量。
【請求項21】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの固体非晶質分散系を調製する方法であって、
(i)適量の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を、所望の量の少なくとも1種類の低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーと混合すること;
(ii)マトリックスの温度を高めて溶融物を生成させること;
(iii)この溶融物を押出して固体生成物を製造すること;
を含む方法。
【請求項22】
工程(iii)において溶融物を1以上の型内へ押出す、請求項21に記載の方法。
【請求項1】
マトリックスポリマーを含む固体分散系中に有効薬剤を含む医薬配合物であって、有効薬剤が4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその塩もしくは溶媒和物であり、マトリックスポリマーが低い吸湿性および高い軟化温度を示す配合物。
【請求項2】
有効薬剤が安定な非晶質形態である、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
少なくとも90%の有効薬剤が非晶質形態である、請求項2に記載の配合物。
【請求項4】
マトリックスポリマーが、コポビドン、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPBCD)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース、HPMC)、ポリメタクリレート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、および酢酸フタル酸セルロース(CAP)から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項5】
マトリックスポリマーがコポビドンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項6】
コポビドンが1−ビニル−2−ピロリドンと酢酸ビニルの質量比6:4のコポリマーである、請求項5に記載の配合物。
【請求項7】
有効薬剤:マトリックスポリマーの重量比が1:0.25〜1:10である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項8】
有効薬剤:マトリックスポリマーの重量比が1:≧2〜1:10である、請求項7に記載の配合物。
【請求項9】
単位投与量当たりの有効薬剤の量が少なくとも20%である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項10】
固体分散系が界面活性剤および/または可塑剤を含有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項11】
界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム);ドキュセートナトリウム;セトリマイド;塩化ベンゼトニウム;塩化セチルピリジニウム;ラウリン酸;ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリソルベート20、40、60および80);ポリオキシエチレンひまし油誘導体(例えば、Cremophor RH40(商標));ステアリン酸ポリオキシエチレンおよびポロキサマーから選択される、請求項10に記載の配合物。
【請求項12】
粘膜投与のためのものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項13】
固体分散系が溶剤蒸発法または溶融押出法により調製される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の配合物。
【請求項14】
固体分散系が溶融押出法により調製される、請求項12に記載の配合物。
【請求項15】
医薬の製造における、4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を含む固体分散系中の、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーの使用。
【請求項16】
医薬が癌を処置するためのものである、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
医薬が10〜1500mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を含む、請求項14または15に記載の使用。
【請求項18】
薬物4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを必要とする患者においてその薬物の生物学的利用能を高めるための方法であって、その患者に、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む配合物を投与する方法。
【請求項19】
患者において癌を処置するための4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの医薬日用量であって、低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーを含む固体分散系中に10〜1000mgの4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンを含む医薬日用量。
【請求項20】
マトリックスポリマーがコポビドンである、請求項19に記載の医薬日用量。
【請求項21】
4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンの固体非晶質分散系を調製する方法であって、
(i)適量の4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オンまたはその医薬的に許容できる塩もしくは溶媒和物を、所望の量の少なくとも1種類の低い吸湿性および高い軟化温度を示すマトリックスポリマーと混合すること;
(ii)マトリックスの温度を高めて溶融物を生成させること;
(iii)この溶融物を押出して固体生成物を製造すること;
を含む方法。
【請求項22】
工程(iii)において溶融物を1以上の型内へ押出す、請求項21に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図30】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図30】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公表番号】特表2012−505158(P2012−505158A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529638(P2011−529638)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【国際出願番号】PCT/GB2009/051309
【国際公開番号】WO2010/041051
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.TEFLON
【出願人】(300022113)アストラゼネカ・ユーケイ・リミテッド (39)
【氏名又は名称原語表記】AstraZeneca UK Limited
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【国際出願番号】PCT/GB2009/051309
【国際公開番号】WO2010/041051
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.TEFLON
【出願人】(300022113)アストラゼネカ・ユーケイ・リミテッド (39)
【氏名又は名称原語表記】AstraZeneca UK Limited
【Fターム(参考)】
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