説明

半導体ウェーハ用のサポート治具

【課題】加熱工程で使用する場合に保持枠の変形するおそれを払拭し、重量を軽減して生産性の向上を図ることのできる半導体ウェーハ用のサポート治具を提供する。
【解決手段】相互に嵌合する内保持枠1と外保持枠2との間に、半導体ウェーハWを保持する耐熱性のエラストマー層3の周縁部を着脱自在に挟持し、少なくとも加熱工程で使用されるサポート治具で、内保持枠1と外保持枠2とを、ASTM規格のASTM D648における荷重撓み温度が300℃以上、及びASTM D790における曲げ強度が120MPa以上である樹脂含有の成形材料を使用してそれぞれ射出成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハを保持して少なくとも各種の加熱工程で使用される半導体ウェーハ用のサポート治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体ウェーハ用のサポート治具は、図示しないが、所定の成形材料により射出成形されるグリップリングを備え、このグリップリングの周縁部に、中空を覆う耐熱性のエラストマー層が覆着されており、このエラストマー層上に半導体ウェーハが着脱自在に粘着保持される(特許文献1参照)。
【0003】
グリップリングの所定の成形材料は、ポリカーボネートやABS樹脂にガラス繊維がチョップド法やミルド法により混合分散することにより調製される。また、エラストマー層は、一般的な加熱工程の加熱温度を考慮し、250℃程度の加熱温度に耐え得るよう、シリコーンゴムやフッ素ゴム等のエラストマーを使用して可撓性の薄膜に成形される。
【0004】
係るサポート治具は、エラストマー層に半導体ウェーハを着脱自在に粘着保持した状態で常温における各種工程で使用されたり、ダイアタッチ材を硬化する工程やハンダリフロー工程等からなる加熱工程で用いられたり、あるいはエキスパンド装置にセットされてエラストマー層がエキスパンドされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001‐118870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来における半導体ウェーハ用のサポート治具は、以上のように構成され、樹脂を含む所定の成形材料によりグリップリングが成形されているので、常温で使用される場合には問題がないものの、ハンダリフロー工程等の加熱工程で使用される場合にはグリップリングが変形し、この結果、グリップリングからエラストマー層が外れたり、半導体ウェーハが脱落するおそれがある。
【0007】
このような問題を解消する手段としては、アルミニウムやステンレス等の金属を使用してグリップリングを切削加工する方法があげられるが、この方法の場合には、グリップリングの重量が増大するので、ハンダリフロー装置のベルトコンベアにサポート治具をセットすると、グリップリングの重量でベルトコンベアが停止したり、ベルトコンベアの搬送速度が低下して所定のリフロー条件を満たさなくなり、生産性の低下を招くという問題が新たに生じることとなる。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、加熱工程で使用する場合に保持枠の変形するおそれを払拭し、重量を軽減して生産性の向上を図ることのできる半導体ウェーハ用のサポート治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、相互に嵌合する内保持枠と外保持枠との間に、半導体ウェーハを保持する耐熱性のエラストマー層を着脱自在に挟み持ち、少なくとも加熱工程で使用されるものであって、
内保持枠と外保持枠とを、ASTM規格のASTM D648における荷重撓み温度が略300℃以上、及びASTM D790における曲げ強度が120MPa以上である樹脂含有の成形材料を使用してそれぞれ成形したことを特徴としている。
なお、内保持枠と外保持枠の成形材料を、液晶性全芳香族ポリエステル樹脂にガラス繊維を混合して調製することができる。
【0010】
ここで、特許請求の範囲における内保持枠と外保持枠とは、平面リング形や枠形等とすることができる。半導体ウェーハは、φ200、300、450mmタイプ等を特に問うものではなく、又平面円形が主ではあるが、エラストマー層の脱落等の問題を生じなければ、矩形や多角形等でも良い。さらに、エラストマー層は、透明、不透明、半透明のいずれでも良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加熱工程で使用する場合に保持枠である内保持枠と外保持枠の変形するおそれを払拭し、重量を軽減して生産性の向上を図ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る半導体ウェーハ用のサポート治具の実施形態におけるハンダリフロー装置等を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明に係る半導体ウェーハ用のサポート治具の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における半導体ウェーハ用のサポート治具は、図1や図2に示すように、相互に嵌合する保持枠である内保持枠1と外保持枠2とを備え、これら内保持枠1と外保持枠2との間に、薄い半導体ウェーハWを保持する耐熱性のエラストマー層3を緊張状態に挟持し、少なくともハンダリフロー装置10を用いる加熱工程で使用される。
【0014】
内保持枠1と外保持枠2とは、ASTM(米国試験・材料協会;American Society for Testing and Materials)規格のASTM D648における荷重撓み温度が300℃以上、及びASTM D790における曲げ強度が120MPa以上である樹脂含有の成形材料を使用してそれぞれ平面リング形に射出成形され、内保持枠1の外側に外保持枠2が着脱自在に嵌合する。
【0015】
内保持枠1と外保持枠2の具体的な成形材料は、優れた耐熱性と軽量性を得ることができるよう、例えば溶融した液晶性全芳香族ポリエステル樹脂にガラス繊維が混合分散されることによりコンパウンドに調製され、内保持枠1あるいは外保持枠2を射出成形する図示しない成形機に充填される。
【0016】
半導体ウェーハWは、特に限定されるものではないが、例えばφ300mmタイプのシリコンウェーハからなり、表面に回路パターンが形成され、裏面がバックグラインドされており、ダイアタッチ材を硬化する工程、ハンダペーストの印刷後にハンダペーストの微小ハンダ粒をハンダ塊に溶融再固化するためのハンダリフロー工程等に供される。
【0017】
エラストマー層3は、250℃程度の加熱温度に耐え得るシリコーンゴムやフッ素ゴム等のエラストマーを使用して可撓性の丸い薄膜に成形され、内保持枠1と外保持枠2との間に周縁部が着脱自在に挟持されており、薄く撓みやすい半導体ウェーハWの裏面を粘着保持する。
【0018】
上記構成において、サポート治具に半導体ウェーハWを保持させ、ハンダリフロー装置10にセットする場合には、内保持枠1と外保持枠2との間に、半導体ウェーハWを保持したエラストマー層3を緊張状態に挟持してその食み出た余剰部をカットすれば、サポート治具に半導体ウェーハWを保持させ、常温で半導体ウェーハWに各種加工を施すことができる。
【0019】
また、ハンダリフロー装置10のベルトコンベアにサポート治具をセットすれば、このサポート治具がベルトコンベアにより装置内の250℃程度で加熱する加熱炉に搬送され、半導体ウェーハWの表面に印刷されたハンダペーストの微小ハンダ粒がハンダ塊に溶融再固化される。
【0020】
上記構成によれば、サポート治具の内保持枠1と外保持枠2とをASTM D648における荷重撓み温度が300℃以上、かつASTM D790における曲げ強度が120MPa以上である成形材料で成形するので、優れた耐熱性と強度を得ることができ、例えハンダリフロー工程等の加熱工程で使用される場合にも、内保持枠1と外保持枠2が変形することがない。したがって、内保持枠1と外保持枠2からエラストマー層3が外れたり、半導体ウェーハWが脱落するおそれがない。
【0021】
また、内保持枠1と外保持枠2とをそれぞれ金属で加工する必要がないので、これら内保持枠1と外保持枠2の重量増大を有効に抑制し、製造コストを削減することができる。したがって、ハンダリフロー装置10のベルトコンベアにサポート治具をセットしても、このサポート治具の重量でベルトコンベアが停止したり、遅延するおそれがない。さらに、ベルトコンベアの搬送速度が低下して所定のリフロー条件を満たさなくなり、生産性が低下するのを防止することができる。
【0022】
次に、本発明に係る半導体ウェーハ用のサポート治具の実施例を比較例と共に説明する。
【実施例1】
【0023】
先ず、サポート治具の内保持枠と外保持枠とを成形するため、溶融した液晶性全芳香族ポリエステル樹脂にガラス繊維を混合分散することにより、ASTM D648における荷重撓み温度が338℃、かつASTM D790における曲げ強度が126MPaのコンパウンドAを調製し、このコンパウンドAにより、内保持枠と外保持枠とをそれぞれ射出成形した。
【0024】
こうして内保持枠と外保持枠とを射出成形したら、これら内保持枠と外保持枠との間に、エラストマー層を緊張状態に挟持してその食み出た余剰部をカットし、250℃の耐熱環境に10分間放置して変形やエラストマー層の脱落を観察し、その結果を表1にまとめた。
【実施例2】
【0025】
先ず、サポート治具の内保持枠と外保持枠とを成形するため、溶融した液晶性全芳香族ポリエステル樹脂にガラス繊維を混合分散することにより、ASTM D648における荷重撓み温度が312℃、かつASTM D790における曲げ強度が138MPaのコンパウンドBを調製し、このコンパウンドBにより、内保持枠と外保持枠とをそれぞれ射出成形した。
【0026】
こうして内保持枠と外保持枠とを射出成形したら、これら内保持枠と外保持枠との間に、エラストマー層を緊張状態に挟持してその食み出た余剰部をカットし、250℃の耐熱環境に10分間放置して変形やエラストマー層の脱落を観察し、その結果を表1にまとめた。
【比較例1】
【0027】
先ず、サポート治具の内保持枠と外保持枠とを成形するため、溶融した液晶性全芳香族ポリエステル樹脂にガラス繊維を混合分散することにより、ASTM D648における荷重撓み温度が275℃、かつASTM D790における曲げ強度が140MPaのコンパウンドCを調製し、このコンパウンドCにより、内保持枠と外保持枠とをそれぞれ射出成形した。
【0028】
内保持枠と外保持枠とを射出成形したら、これら内保持枠と外保持枠との間に、エラストマー層を緊張状態に挟持してその食み出た余剰部をカットし、250℃の耐熱環境に10分間放置して変形やエラストマー層の脱落を観察し、その結果を表1にまとめた。
【比較例2】
【0029】
サポート治具の内保持枠と外保持枠とを成形するため、ノナンジアミン(炭素数9のジアミン)とテレフタル酸とで調製したナイロン9T樹脂にガラス繊維を混合分散することにより、ASTM D648における荷重撓み温度が290℃、かつASTM D790における曲げ強度が210MPaのコンパウンドDを調製し、このコンパウンドDにより、内保持枠と外保持枠とをそれぞれ射出成形した。その他の部分は比較例1と同様にしてその結果を表1に記載した。
【比較例3】
【0030】
サポート治具の内保持枠と外保持枠とを成形するため、溶融した液晶性全芳香族ポリエステル樹脂にガラス繊維を混合分散することにより、ASTM D648における荷重撓み温度が350℃、かつASTM D790における曲げ強度が93MPaのコンパウンドEを調製し、このコンパウンドEにより、内保持枠と外保持枠とをそれぞれ射出成形した。その他の部分は比較例1と同様にしてその結果を表1に記載した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から明らかなように、実施例1、2の場合には、内保持枠と外保持枠とが変形することなく適切に嵌合し、エラストマー層が脱落することはなかった。
これに対し、比較例1、2、3の場合には、内保持枠と外保持枠が変形したり、エラストマー層が緩んで脱落した。
【符号の説明】
【0033】
1 内保持枠
2 外保持枠
3 エラストマー層
10 ハンダリフロー装置
W 半導体ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に嵌合する内保持枠と外保持枠との間に、半導体ウェーハを保持する耐熱性のエラストマー層を着脱自在に挟み持ち、少なくとも加熱工程で使用される半導体ウェーハ用のサポート治具であって、
内保持枠と外保持枠とを、ASTM規格のASTM D648における荷重撓み温度が略300℃以上、及びASTM D790における曲げ強度が120MPa以上である樹脂含有の成形材料を使用してそれぞれ成形したことを特徴とする半導体ウェーハ用のサポート治具。
【請求項2】
内保持枠と外保持枠の成形材料を、液晶性全芳香族ポリエステル樹脂にガラス繊維を混合して調製した請求項1記載の半導体ウェーハ用のサポート治具。

【図1】
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【図2】
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