説明

半導体ガスセンサ

【課題】水素、COの検知感度が低く、特に空気清浄機や換気装置等におけるファンの運転制御用に好適に用いることができる半導体ガスセンサを提供する。
【解決手段】酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体1と、一対の検知用電極2,2とを具備する。前記感ガス体1が前記一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部3を含む。前記コア部3は平均粒径2μm以上10μm未満の酸化タングステン粉末を含む粉体材料の焼結体にて形成されたものであることを特徴とするものである。このような半導体ガスセンサAでは、水素、CO以外の他種類のガスに対しては良好な感応性を示すと共に、水素、COに対する感応性が低くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素、COに対する感応性が低く、特に空気清浄機や換気装置等の制御に用いるガス検知用センサとして好適に用いることができる半導体ガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ガスセンサは空気中の微量のガス成分の検知に適し、種々の用途に用いられているが、例えば空気清浄機や換気装置などにおいて室内のタバコの煙に含まれる臭い成分を汚染ガスとして半導体ガスセンサにより検出し、その半導体ガスセンサの検出信号に基づいて空気清浄用ファンの運転を制御するために用いられている(特許文献1参照)。このとき、例えば半導体ガスセンサにて検知される臭い成分の濃度が高い場合にはファンを運転させたりファンの回転数を増大させたりし、前記濃度が低い場合にはファンの回転を停止させたりこの回転数を低減させたりする制御を行うものである。
【特許文献1】特開2001−179039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、空気清浄機の制御に半導体ガスセンサを用いると、臭気ガス以外にも水素、CO、CH4等の無臭のガスも検知してしまい、特にタバコの臭い等の脱臭を目的とした空気清浄機等の場合には、空気中の臭い成分が十分に除去された後も半導体ガスセンサからは水素ガス等の検知に基づく検出信号が出力され、この検出信号に基づいてファンの運転を制御することとなり、ファンを必要以上に運転させてしまう場合がある。
【0004】
また、一般的に半導体ガスセンサはシリコン被毒に対する耐性が低く、空気清浄機内に使用されているシリコンパッキンなどによる被毒を受けるとガス検知感度が変動してしまい、長期に亘って正確なガス検知を行うことが困難となる場合がある。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、無臭の無機ガスである水素、COの検知感度が低く、特に空気清浄機や換気装置等におけるファンの運転制御用に好適に用いることができる半導体ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【0006】
また、本発明は更にシリコン被毒に対する耐性が高い半導体ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究の結果、酸化タングステンを含む焼結体にて構成される感ガス体中の特定部位を形成するために用いられる酸化タングステン粒子の粒径が、軽量な無臭ガスである水素やCOの検知感度の増減に大きく関与することを見出し、本発明の完成に至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明に係る半導体ガスセンサAは、酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体1と、一対の検知用電極2,2とを具備し、前記感ガス体1が前記一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部3を含み、前記コア部3は平均粒径2μm以上10μm未満の酸化タングステン粉末を含む粉体材料の焼結体にて形成されたものであることを特徴とするものである。このような半導体ガスセンサAでは、水素、CO以外のガスに対しては、多種類のガスについて良好な感応性を示すと共に、水素、COに対する感応性が低くなるものである。
【0009】
上記感ガス体1中のコア部3には、コア部3中の酸化タングステンの含有量に対して10〜50重量%の範囲のアルミナが含有されていることが好ましい。このようにすると、感ガス体1の電気抵抗値を適度な値に維持すると共に半導体ガスセンサAのイニシャルアクションが良好となり、しかも水素、COの検知感度を更に低減することができるものである。
【0010】
また、上記感ガス体1にはシリカが添加されていることも好ましい。この場合、感ガス体1はシリコン被毒に対する高い耐性を有することとなり、感ガス体1がシリコン被毒を受けた場合もガス検知感度の変動が発生することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水素、COの検知感度を抑制しつつ、他の他種類のガスについて検知を行うことができて、水素、COを検知対象としないガス検知用途に好適に用いることができる。特に空気清浄機や換気装置の制御用途に使用した場合には、無臭の水素ガス等の検知出力に基づいた制御がなされることを防止することができて、空気中の臭い成分が十分に除去された後も半導体ガスセンサからの検出信号に基づいて不要な運転を行わせるようなことをなくすことができるものである。
【0012】
また、感ガス体のコア部が所定量のアルミナを含有することで、感ガス体の電気抵抗値を適度な値に維持すると共に半導体ガスセンサのイニシャルアクションを良好なものとして半導体ガスセンサの実用性を向上することができ、且つ水素、COの検知感度を更に低減することができるものである。
【0013】
また、感ガス体にシリカを添加して感ガス体のシリコン被毒に対する耐性を向上することで、シリコン被毒を受けた場合でも長期に亘ってガス検知感度の変動を抑制することができ、特に空気清浄機や換気装置中にシリコンパッキン等が使用されている場合であっても長期に亘っての使用が可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
本発明に係る半導体ガスセンサAは、酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体1と、前記感ガス体1の電気抵抗を測定するための検知用電極2,2とを具備する。
【0016】
感ガス体1は一対の検知用電極2,2を覆うように設けられる。図1,2に示す半導体ガスセンサAでは、検知用電極2,2であるコイル状のヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bをセンサ基体とし、このヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bを覆うように楕円球体状に感ガス体1が形成されている。このとき図示の例ではヒータ兼用電極2aは、そのコイル部分が感ガス体1中に埋設されるように形成されると共に、芯線状電極2bはヒータ兼用電極2aのコイル部分の中心を貫通するように感ガス体1中に埋設されており、これによりヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bがまとまりよく配設されて感ガス体1の小型化が容易なものである。
【0017】
そして、この半導体ガスセンサAは、有底筒状のセンサ筐体40の底部を兼ねる樹脂製のベース30と、ベース30を貫通してセンサ筐体40内外に突出する3本の端子101,102,103と、端子101,102,103にリード線201,202,203を接続固定して支持された感ガス体1からなるセンシング部Aと、センサ筐体40の天上面に設けられたガス導入用のステンレス製の金網41とで構成されている。ヒータ兼用電極2aは上述のリード線201,203間に設けられて、ヒータ兼用電極2a、リード線201,203が一体に形成されているものであり、また芯線状電極2bは上述のリード線202により形成されている。
【0018】
このときの感ガス体1の外径形状は、適宜の形状とすることができ、例えば図示の例のような楕円球体状、或いは球体状等のような球状に形成することができる。また感ガス体1の外径寸法は適宜設定されるが、その径が好ましくは0.20〜0.7mm、更に好ましくは、0.25〜0.6mmの範囲となるようにするものであり、例えば長手軸方向の直径を0.5mmとし、短手軸方向の径を、0.3mmとすることができる。
【0019】
また、図3,4に示す半導体ガスセンサAでは、アルミナ等にて形成される例えば厚さ0.3mmで一辺の長さが2mmの正方形の平板状の基板7をセンサ基体(平板型基体)として用い、この基板7の一面に厚膜状に感ガス体1が形成されている。ここで基板7の一面には電極2c,2dを一対の検知用電極2,2として図3(a)に示すように設け、電極2c,2d間に亘るように感ガス体1が形成されている。また基板7の他面には前記電極2c,2dとスルーホールにより接続される電極8c,8dと、ヒータ用の電極8a,8bとが設けられており、ヒータ用の電極8a,8b間には酸化ルテニウム印刷膜等からなるヒータ25が設けられている。各電極2c,2d、8a〜8dは例えば金製のものを設けることができる。またこの基板7の他面側の電極8a〜8dにはリードワイヤ5をそれぞれ接続して、リードワイヤ5をベース30に貫通した端子10に接続してある。
【0020】
このような半導体ガスセンサAにおける感ガス体1は、一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部3を有する。このときコア部3は感ガス体1の内部での各検知用電極2,2の互いに対向し合う各対向面の80%以上の領域と接触し、且つこの対向面間に挟まれた空間の80%以上を占有することが好ましい。そして、上記コア部3を形成するための粉体材料中の酸化タングステン粒子の平均粒径は、2μm以上10μm未満である必要がある。
【0021】
このようなコア部3を備えることで、他のガスに対する良好な感応性とその検知時の良好な応答性とを確保しつつ、半導体ガスセンサAの、水素、COの検知感度を抑制することができるものである。ここで、コア部3を形成するための酸化タングステン粒子の平均粒径が2μmに満たないと応答性の低下や検知感度の悪化を招くおそれがあり、またこの平均粒径が10μm以上であると水素、COの検知感度を十分に抑制することができなくなる。
【0022】
また、上記感ガス体1には、特にコア部3に、コア部3中の酸化タングステンの含有量に対して10〜50重量%の範囲でアルミナを含有させることも好ましい。この場合は、感ガス体1を作製するにあたり、例えば酸化タングステン粒子に所定量のアルミナ粒子を混合した粉体材料の焼結体にて感ガス体1を形成することができる。このような範囲で感ガス体1にアルミナを含有させると、感ガス体1の電気抵抗値を適度な値に維持すると共に半導体ガスセンサAのイニシャルアクションが良好となり、しかも水素、COの検知感度を更に低減することができるものである。すなわち、前記アルミナ含有量が10重量%以上であることで半導体ガスセンサAのイニシャルアクションが向上し、また、アルミナ含有量が高くなりすぎると水素、COに対する感応性が高くなる傾向が生じるが、この含有量が50重量%以下とすることで水素,COの感度を十分に低減することができるものである。またこのようにアルミナ含有量50重量%以下とすれば、感ガス体1の電気抵抗値が過剰に増大することがなく、半導体ガスセンサAの実用性が向上するものである。
【0023】
ここでイニシャルアクションは、空気中で半導体ガスセンサAにおけるヒータや検知用電極2,2間に電圧がかけられていない状態から、ヒータの通電と検知用電極2,2間の電圧の印加を同時に行った場合、すなわち半導体ガスセンサAを起動した場合に、検知用電極2,2にて検知される感ガス体1の電気抵抗値が安定するまでに要する時間の短さで評価される。
【0024】
また、上記感ガス体1にはシリカ(SiO2)を含有させることも好ましい。シリカの添加は、例えば感ガス体1を構成するための焼結体にシリカゾルを塗布した後に焼成することにより行うことができる。かかる感ガス体1はシリコン被毒に対する高い耐性を有することとなり、感ガス体1がシリコン被毒を受けた場合もガス検知感度の変動が発生することを抑制することができるものである。前記シリカの含有量は適宜調整されるものであるが、シリコン被毒に対して十分に高い耐性を発揮させるためには、好ましくは6〜60体積%の範囲で添加されるようにする。例えばシリカの添加のために濃度20%のシリカゾルを用いる場合には感ガス体1を構成する焼結体に対してこの焼結体の30〜300体積%のシリカゾルを用いることが好ましい。このときシリカの含有量が6体積%に満たないと十分なシリコン被毒性改善効果が得られないおそれがあり、また60体積%を超えると応答性が遅くなるおそれがある。
【0025】
上記感ガス体1はこのようなコア部3のみで形成しても良く、このときコア部3は一対の検知用電極2,2の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置するだけでなく、更に前記検知用電極2,2を覆うように形成することができる。
【0026】
また感ガス体1はこのようなコア部3と、平均粒径が2μm未満又は10μm以上である酸化タングステン粒子を含む粉体材料の焼結体からなる部分とを共に有していても良い。このような部分を有していても上記のようなコア部3を有していれば、水素、COの検知感度を十分に抑制することができるものである。例えばコア部3の表面を覆う外層部4を、平均粒径が2μmに満たず、或いはこれが10μmを超える酸化タングステン粒子を含む粉体材料の焼結体にて形成することができる。また、このコア部3以外の焼結体からなる部分にもアルミナを含有させることができる。この部分におけるアルミナの含有量は特に制限されず、適宜調整される。
【0027】
感ガス体1を形成するにあたっては、原料として酸化タングステン粒子、アルミナ粒子、シリカゾル等を用いることができ、適宜の手法で形成することができる。具体的には次の手法を例示することができる。
【0028】
まず、メタタングステン酸アンモニウムや無水タングステン酸のようなタングステン化合物を、例えば空気中で500℃〜700℃で1〜7時間加熱して焼成した後、粉砕して、粉体状の酸化タングステンを得る。このとき、酸化タングステン粒子の平均粒径が2μm以上10μm未満の範囲となるように粉砕を行う。この粉体状の酸化タングステンに、必要に応じてα−アルミナ等の粉体状のアルミナを酸化タングステンに対して好ましくは10〜50重量%の範囲で混合し、この混合物にテルピオネール等の分散媒を加えてコア部形成用のペースト状の組成物を得る。
【0029】
また外層部形成用の組成物も、上記コア部形成用の組成物と同様の組成に形成する。このとき粉末状の酸化タングステンの平均粒径は2μm以上10μm未満である必要はなく、特に制限はない。また、この外層部形成用の組成物にアルミナを含有させる場合はその含有量は適宜調整され、特に制限はされない。
【0030】
そして、まずコア部形成用の組成物をセンサ基体を覆うように塗布又は印刷する。このき上記図1に示す構造の半導体ガスセンサAを得る場合には、まずコア部形成用の組成物をヒータ兼用電極2aのコイル部分の内側に充填する。また、前記組成物は更に前記コイル部分の外側も覆うようにして塗布しても良い。
【0031】
また図3に示す構造を有する半導体ガスセンサAを得る場合には、基板1の一面上にコア部形成用の組成物を一対の電極2c,2dに亘るようにしてこの電極2c,2dを覆うように塗布又は印刷する。
【0032】
次に、必要に応じて上記塗布又は印刷されたコア部形成用の組成物を焼成する。焼成条件は適宜設定されるが、例えば400〜600℃で、3〜10分間加熱することができる。
【0033】
次に、上記塗布又は印刷されたコア部形成用の組成物又はその焼結体にシリカを添加した後、焼成する。シリカの添加は例えば前記組成物やその焼結体の表面に所定量のシリカゾル等を塗布することにより行うことができる。焼成条件は適宜設定されるが、例えば500℃で3分間加熱することができる。尚、このときのシリカゾルの塗布焼成は省略しても良い。
【0034】
次に、このセンサ基体に塗布又は印刷したコア部形成用の組成物(又はその焼結体)の表面を覆うようにして外層部形成用の組成物を塗布又は印刷する。このとき図1に示す構造の半導体ガスセンサAを得る場合には、コア部形成用の組成物(又はその焼結体)の表面全体を覆うようにして外層部形成用の組成物を塗布することができる。また図3に示す構造を有する半導体ガスセンサAを得る場合には、基板1上におけるコア部形成用の組成物(又はその焼結体)の外部に露出する露出面全体を覆うようにして外層部形成用の組成物を塗布又は印刷することができる。
【0035】
次に、センサ基体に塗布又は印刷された上記組成物を焼成して焼結体を得る。焼成条件は適宜調整されるが例えば400〜600℃で3〜10分間加熱することができる。
【0036】
次に、上記焼結体にシリカを添加した後、再度焼成する。シリカの添加は例えば焼結体の表面に所定量のシリカゾル等を塗布することにより行うことができる。また焼成は例えば空気中で500℃〜800℃で3〜10分間加熱することにより行うことができる。これにより感ガス体1を得ることができる。
【0037】
このようにして感ガス体1を形成するにあたり、図1に示す構造にあっては、ヒータ兼用電極2aの表面のうちコイル部分の内側に配された面の少なくとも80%がコア部3と接触すると共にこのコイル部分の内側における芯線状電極2bの表面の少なくとも80%もコア部3と接触し、且つコイル部分の内側の空間の少なくとも80%をコア部3が占有していることが好ましい。また更に好ましくは、前記コイル部分の内側の空間全てをコア部3が占有すると共にこのコア部3がヒータ兼用電極2aにおけるコイル部分内側に配置された面及び芯線状電極2bにおけるコイル部分内側に配置されている表面の全てと接触するようにし、或いは更にコイル部分全体をコア部3にて覆うようにする。
【0038】
また図3に示す構造にあっては、好ましくは感ガス体1内部における一対の電極2c,2dの各対向面のうち少なくとも80%がコア部3と接触させる。また、感ガス体1内部における一対の電極2c,2dの表面全体のうち少なくとも80%をコア部3と接触させることも好ましい。また、前記各対向面に挟まれた空間の少なくとも80%を前記コア部3が占有するようになっていることが好ましい。また、電極2c,2dの間の領域における基板1上の感ガス体1の厚みの1/3以上をコア部3が占めることが好ましい。
【0039】
また、感ガス体1をコア部3のみで形成する場合には上記外層部形成用の組成物に代えてコア部形成用の組成物を用いて、同様に感ガス体1を形成することができる。特に図3に示す構造の半導体ガスセンサAを得る場合には、基板1上におけるコア部形成用の組成物(又はその焼結体)の外部に露出する露出面全体を覆うようにして外層部形成用の組成物を1回だけ塗布又は印刷し、次いで、上記と同様の条件で焼成、シリカの添加、焼成を順次行って感ガス体1を形成することができる。
【実施例】
【0040】
〔耐シリコン被毒性評価〕
(実施例1)
半導体ガスセンサAとして、図1,2に示すものを作製した。
【0041】
このとき、コイル状のヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bとしては、線径20μmの白金線からなるものを用い、ヒータ兼用電極2aのコイル部の寸法はコイル径0.18mm、コイル幅0.4mmに形成した。
【0042】
また感ガス体1は次のようにして形成した。
【0043】
まず、メタタングステン酸アンモニウムを空気中で600°で5時間加熱して焼成した後、粉砕して、平均粒径9μmの粉体状の酸化タングステンを得た。
【0044】
この粉体状の酸化タングステンに、この酸化タングステンに対して20重量%のα−アルミナ粉末を加えて混合し、これに更にテルピオネールを加えてペースト状としてコア部形成用のペースト状の組成物を得た。
【0045】
この組成物をヒータ兼用電極2aのコイル部の内側全体に充填し、更にこのコイル部全体を覆うように塗布した後、700℃で10分間加熱焼成した。更にこの焼結体の表面に濃度20%のシリカゾルを焼結体の体積に対して100体積%塗布した後、750℃で10分間焼成することにより、長径0.5mm、短径0.3mmの寸法の感ガス体1を形成した。
【0046】
(実施例2)
シリカゾルの添加を行わなかった以外は実施例1と同様にして半導体ガスセンサAを得た。
【0047】
(評価試験)
上記実施例1及び実施例2について、素子温度400℃での種々のガスに対するシリコン被毒前後のガス感度を調査した。
【0048】
シリコン被毒処理は、濃度100ppmのヘキサメチルジシロキサン(HMDS)を含む雰囲気中に半導体ガスセンサAを素子温度400℃で1時間暴露することにより行った。
【0049】
ここでガス感度は、特定のガスを含む雰囲気中における感ガス体1の電気抵抗値(R)を、清浄空気中における電気抵抗値(Rair)にて除した値(R/Rair)と定義する。
【0050】
この結果を下記表1及び図5のグラフに示す。図5(a)は実施例1のシリコン被毒前における結果を、図5(b)は実施例1のシリコン被毒後における結果を、図5(c)は実施例2のシリコン被毒前における結果を、図5(d)は実施例2のシリコン被毒後における結果をそれぞれ示す。
【0051】
【表1】

【0052】
この結果から明らかなように、実施例1,2では水素ガスの検知感度が非常に小さいが、他のガスについては十分な検知感度を有し、また特に実施例1ではシリコン被毒前後で各ガスの検知感度の変動がほとんど認められなかった。
【0053】
〔アルミナ含有量変動時の性能評価〕
上記実施例1において、酸化タングステンに対するアルミナ含有量を0重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、100重量%にそれぞれ変更して、半導体ガスセンサAを形成した。
【0054】
この各半導体ガスセンサAについて、素子温度400℃での空気中での感ガス体1の電気抵抗値を測定した結果を図6(a)のグラフに示す。
【0055】
また、イニシャルアクションの評価のため、各半導体ガスセンサAについて、空気中でヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bに通電がなされていない状態から、ヒータ兼用電極2aの通電による感ガス体1の加熱と及び電極2a,2b間の電圧の印加とを同時に行った場合の前記電極2a,2bにて検知される感ガス体1の電気抵抗値の変化を測定した。この場合の前記電気抵抗値の安定値に対する、前記電圧の印加等を開始してから10秒後又は15秒後における電気抵抗値の値の比を図6(b)のグラフに示す。
【0056】
また、この半導体ガスセンサAを水素濃度30ppmの雰囲気中に暴露した場合のガス感度(R/Rair)を測定した結果を図6(c)のグラフに示す。
【0057】
また、この半導体ガスセンサAをエタノール濃度10ppmの雰囲気中に暴露した場合のガス感度(R/Rair)を測定した結果を図6(d)のグラフに示す。
【0058】
これらの結果によると、アルミナ含有量の増大に伴ってイニシャルアクションは良好なものとなる傾向があるが、感ガス体1の電気抵抗値が増大する傾向も生じ、またエタノール感度は向上するものの、水素感度も向上してしまう傾向がある。
【0059】
これらの結果により、上記アルミナ含有量が20重量%、30重量%、40重量%、50重量%の場合では、水素感度を十分に抑制しつつ、感ガス体1に適度な電気抵抗値が付与されると共に、イニシャルアクションも良好なものになると評価できる。
【0060】
〔ガス感度特性〕
(組成物aの調製)
実施例1と同様の手法により得られた平均粒径9μmの粉体状の酸化タングステンに、この酸化タングステンに対して50重量%のα−アルミナ粉末を加えて混合し、これに更にテルピオネールを加えてペースト状として調製した。
【0061】
(組成物bの調製)
酸化タングステン粉末の平均粒径を12μmとした以外は上記組成物aと同様にして調製した。
【0062】
(実施例3)
半導体ガスセンサAとして、図1,2に示すものを作製した。
【0063】
このとき、コイル状のヒータ兼用電極2a及び芯線状電極2bとしては、線径20μmの白金線からなるものを用い、ヒータ兼用電極2aのコイル部の寸法はコイル径0.18mm、コイル幅0.4mmに形成した。
【0064】
感ガス体1の作製にあたっては、まず組成物aをヒータ兼用電極2aのコイル部の内側全体に充填し、更にこのコイル部全体を覆うように塗布した後、400℃で、3分間加熱焼成した。更にこの焼結体の表面にこの焼結体に対して組成物aを塗布した後、700℃で10分間焼成した。次いでこの焼結体の表面に濃度20重量%のシリカゾルを焼結体の体積の100体積%塗布した後、更に750℃で10分間加熱焼成することで、長径0.5mm、短径0.3mmの寸法の感ガス体1を形成した。
【0065】
(実施例4)
実施例3において、感ガス体1の作製にあたり、まず組成物aをヒータ兼用電極2aのコイル部の内側全体に充填し、更にこのコイル部全体を覆うように塗布した後、400℃で、3分間加熱焼成した。更にこの焼結体の表面にこの焼結体に対して組成物bを塗布した後、700℃で10分間焼成した。次いでこの焼結体の表面に濃度20重量%のシリカゾルを焼結体の体積の100体積%塗布した後、更に750℃で10分間加熱焼成することで、長径0.5mm、短径0.3mmの寸法の感ガス体1を形成した。それ以外は実施例3と同様にして半導体ガスセンサAを作製した。
【0066】
(比較例1)
実施例3において、感ガス体1の作製にあたり、まず組成物bをヒータ兼用電極2aのコイル部の内側全体に充填し、更にこのコイル部全体を覆うように塗布した後、400℃で、3分間加熱焼成した。更にこの焼結体の表面にこの焼結体に対して組成物aを塗布した後、700℃で10分間焼成した。次いでこの焼結体の表面に濃度20重量%のシリカゾルを焼結体の体積の100体積%塗布した後、更に750℃で10分間加熱焼成することで、長径0.5mm、短径0.3mmの寸法の感ガス体1を形成した。それ以外は実施例3と同様にして半導体ガスセンサAを作製した。
【0067】
(比較例2)
実施例3において、感ガス体1の作製にあたり、まず組成物bをヒータ兼用電極2aのコイル部の内側全体に充填し、更にこのコイル部全体を覆うように塗布した後、400℃で、3分間加熱焼成した。更にこの焼結体の表面にこの焼結体に対して組成物bを塗布した後、700℃で10分間焼成した。次いでこの焼結体の表面に濃度20重量%のシリカゾルを焼結体の体積の100体積%塗布した後、更に750℃で10分間加熱焼成することで、長径0.5mm、短径0.3mmの寸法の感ガス体1を形成した。それ以外は実施例3と同様にして半導体ガスセンサAを作製した。
【0068】
(評価試験)
上記実施例3,4及び比較例1,2について、素子温度400℃でのエタノールと水素の各ガス感度を調査した。
【0069】
ガス感度の測定にあたっては、感ガス体1に向けて空気の気流を送出した状態から、この気流中に10ppmのエタノール又は30ppmの水素を混入し、その後再び空気のみを送出して、この間の検知用電極2,2にて測定される感ガス体1の電気抵抗値の測定を行った。測定は各実施例及び比較例につき5個の半導体ガスセンサAを作製してそれぞれについて行った。
【0070】
この結果を図7,8に示す。図7(a)は実施例3におけるエタノール検知時の結果を、図7(b)は実施例3における水素ガス検知時の結果を、図7(c)は実施例4におけるエタノール検知時の結果を、図7(d)は実施例4における水素ガス検知時の結果を、図8(a)は比較例1におけるエタノール検知時の結果を、図8(b)は比較例1における水素ガス検知時の結果を、図8(c)は比較例2におけるエタノール検知時の結果を、図8(d)は比較例2における水素ガス検知時の結果を、それぞれ示す。
【0071】
これらの結果から明らかなように、平均粒径9μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成されたコア部3を有する実施例3,4ではエタノールが高い検知感度で測定されるのに対して水素ガスはほとんど検知されず、このとき感ガス体1をコア部3のみで形成した実施例3だけでなく、平均粒径12μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成された外層部4を有する実施例4でも、同様の結果が得られた。
【0072】
一方、コア部3に相当する部位を平均粒径12μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成した比較例1,2では水素感度が高く、エタノールと水素ガスとが共に検知されてしまうものであり、このとき前記のような焼結体のみで形成した比較例2だけでなく、外層部4に相当する部位を平均粒径9μmの酸化タングステン粉末を含む焼結体にて形成した比較例1でも同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す、半導体ガスセンサの要部概略構成図である。
【図2】同上の一部破断した正面図である。
【図3】本発明の実施の形態の他例の要部を示し、(a)は一面側から視た斜視図、(b)は他面側から視た斜視図、(c)は一部省略した断面図である。
【図4】同上の一部破断した斜視図である。
【図5】(a)はシリコン被毒前の実施例1、(b)はシリコン被毒後の実施例1、(c)はシリコン被毒前の実施例2、(d)はシリコン被毒後の実施例2の、種々のガスについての、濃度−ガス感度特性を示すグラフである。
【図6】実施例1においてアルミナ含有量を変動させた場合のセンサ特性を示すグラフであり、(a)は空気中での感ガス体の電気抵抗値、(b)は空気中での感ガス体の電気抵抗値の安定値に対する、起動10秒後及び15秒後における電気抵抗値の値の比を示すものであり、(c)は水素濃度30ppmの雰囲気におけるガス感度を示すものであり、(d)はエタノール濃度10ppmの雰囲気におけるガス感度を示すものである。
【図7】(a)は実施例3におけるエタノール感度特性を、(b)は実施例3における水素ガス感度特性を、(c)は実施例4におけるエタノール感度特性を、(d)は実施例4における水素ガス感度特性を示すグラフである。
【図8】(a)は比較例1におけるエタノール感度特性を、(b)は比較例1における水素ガス感度特性を、(c)は比較例2におけるエタノール感度特性を、(d)は比較例2における水素ガス感度特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0074】
A 半導体ガスセンサ
1 感ガス体
2 検知用電極
3 コア部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステンを含む粉体材料の焼結体にて構成される感ガス体と、一対の検知用電極とを具備し、前記感ガス体が前記一対の検知用電極の互いに対向し合う対向面に接触すると共に前記対向面間に挟まれた空間に配置されるコア部を含み、前記コア部は平均粒径2μm以上10μm未満の酸化タングステン粉末を含む粉体材料の焼結体にて形成されたものであることを特徴とする半導体ガスセンサ。
【請求項2】
上記感ガス体中のコア部に、コア部中の酸化タングステンの含有量に対して10〜50重量%の範囲のアルミナが含有されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体ガスセンサ。
【請求項3】
上記感ガス体にシリカが添加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体ガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−57391(P2007−57391A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243456(P2005−243456)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(593210961)エフアイエス株式会社 (39)
【Fターム(参考)】