説明

半導体スイッチング素子駆動回路

【課題】トランスの小形化を図ること。
【解決手段】トランス(7)は、一次巻線がコンデンサ(5)を介してパルス電圧源(1)に接続され、二次巻線の一端が逆阻止用ダイオード(9)を介して電圧駆動型半導体スイッチング素子(13)の第1のオン・オフ制御端子に接続されるとともに、二次巻線の他端が電圧駆動型半導体スイッチング素子(13)の第2のオン・オフ制御端子に接続されている。トランス(7)の二次巻線に一定値以上の負電圧が発生した際に、短絡手段(15,17)によって電圧駆動型半導体スイッチング素子(13)の寄生キャパシタンス(13a)が放電される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源等に使用する半導体スイッチング素子駆動回路に関し、特に、トランスを介して電圧駆動型の半導体スイッチング素子をオン・オフ制御する半導体スイッチング素子駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源等においては、制御回路と主回路とが異なる電位に置かれることがあり、その場合、主回路内のスイッチング素子をオン・オフ制御するための制御信号を絶縁した状態で伝送することが必要となる。
オン・オフ制御信号を絶縁伝送するように構成された半導体スイッチング素子駆動回路は、例えば特許文献1によって提案されている。図4にこの従来の駆動回路を簡略化して示す。
【0003】
この駆動回路において、パルス電圧源10の出力Vaは、トランス20によって絶縁されて伝送される。なお、図5(a)には、パルス電圧源10の出力Vaの最も簡単な例が示されている。この例に係る出力Vaは、振幅、時間幅ともに正負対称な波形を有する。
トランス20の出力Vb(パルス電圧源10の出力Vaと相似な波形を有する)は、抵抗30を介して駆動対象である半導体スイッチング素子40のゲートに入力される。なお、ここでは、半導体スイッチング素子40としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ)を使用するものとする。
【0004】
一般に、IGBTやMOSFET等の絶縁ゲート素子のゲートは、寄生キャパシタンス(図4では、符号40aで表されている)を持つ。一方、トランス20には、漏れインダクタンスがある。これら相互はLC共振を発生する場合があるが、この共振は半導体スイッチング素子40を安定に制御する上で望ましくない。そこで、トランス20と半導体スイッチング素子40のゲートとの間には、上記の共振を防止するための制動抵抗30が設けられている。
上記抵抗30は、寄生キャパシタンス40aと共にRCフィルタ(ローパスフィルタ)を構成する。このため、半導体スイッチング素子40のゲート電圧、つまり、寄生キャパシタンス40aの端子電圧Vcは、図5(b)に示すように、パルス電圧源10の出力Vaよりも若干遅延した波形を示すことになる。
【0005】
半導体スイッチング素子40は、寄生キャパシタンス40aの端子電圧Vcが該半導体スイッチング素子40のスレッシュホールド電圧Vth以上になったときにオンし、また、上記端子電圧Vcが上記スレッシュホールド電圧Vthを下回ったときにオフする。それゆえ、上記端子電圧Vcは必ずしも負極性となる必要はないが、トランス20の磁気飽和を避けるためには正負電圧時間積が均等である必要があるので、端子電圧Vcに図5に示すような波形を持たせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−193854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に小容量回路で、装置全体の大きさが限られる場合には、トランス20を極力小形化する必要がある。このため、トランス20はできるだけ小さい鉄心を用いて構成することが望ましいが、鉄心の断面積が小さくなると磁束密度が大きくなって、磁気飽和を起こしやすくなる。
上記従来の半導体スイッチング素子駆動回路において、トランス20に磁気飽和が発生すると、該トランス20の一次側が短絡状態になるためこの一次側に過電流が流れる。また、トランス20の二次側では、上記電圧V3の低下のために半導体スイッチング素子40のオン状態を維持することができなくなる。
上記磁束密度は、トランス20のコイルの巻数に反比例するので、上記巻数を増やすことによって磁束密度を下げることが考えられる。しかし、限られた体積の中で上記コイルの巻数を増やすには巻線を細くする必要があるので、巻線材料の入手性、巻線の信頼性等を考慮すると、上記の手法による磁束密度の低下には限度があり、このため、トランス20自体の小形化が制限されていた。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑み、トランスに印加される電圧時間積を小さくして該トランスの小形化を図ることが可能な半導体スイッチング素子駆動回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、一次巻線がコンデンサを介してパルス電圧源に接続され、二次巻線の一端が逆阻止用ダイオードを介して電圧駆動型半導体スイッチング素子の第1のオン・オフ制御端子に接続されるとともに、前記二次巻線の他端が前記電圧駆動型半導体スイッチング素子の第2のオン・オフ制御端子に接続されたトランスと、前記二次巻線に一定値以上の負電圧が発生した際に、前記第1のオン・オフ制御端子と第2のオン・オフ制御端子との間を短絡する短絡手段と、
を備える半導体スイッチング素子駆動回路を提供する。
【0010】
前記トランスには、前記パルス電圧源が発生するパルス電圧の電圧・時間積よりも小さい値の電圧・時間積で飽和する磁気特性を有したものを使用することが可能である。
【0011】
前記短絡手段は、前記一定値以上の負電圧を検出する電圧検出素子と、この電圧検出素子の検出信号に基づいて導通する短絡用スイッチ素子とを備えることができる。好ましい実施の形態では、前記短絡用スイッチ素子として、前記第1のオン・オフ制御端子と前記第2のオン・オフ制御端子との間にトランジスタを介在させ、前記電圧検出素子として、前記トランスの二次巻線の一端と前記トランジスタのベースとの間にツェナーダイオードを介在させている。
【0012】
前記コンデンサには、過電流および共振を抑制するための抵抗を直列接続することが望ましい。また、前記逆阻止用ダイオードと前記電圧駆動型半導体スイッチング素子の第1のオン・オフ制御端子との間には、共振抑制用の抵抗を介在させることが望ましい。
【0013】
実施例においては、前記電圧駆動型半導体スイッチング素子としてIGBTまたはMOS−FETが使用されているが、本発明は、これらとは異なる電圧駆動型半導体スイッチング素子にも適用可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来回路においてトランスが受け持っていた電圧の一部をコンデンサが受け持つので、該トランスに係る電圧時間積の値が小さくなる。したがって、小型トランスを用いた場合でもスイッチング素子を安定にスイッチング動作させることが可能になるので、低コストかつ小型の半導体スイッチング素子駆動回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る半導体スイッチング素子駆動回路の一実施形態を示す回路図である。
【図2】図1に示す回路の動作を示す波形図である。
【図3】飽和しやすい磁気特性を有したトランスを使用した場合における図1に示す回路の動作波形図である。
【図4】従来の半導体スイッチング素子駆動回路の一例を示す回路図である。
【図5】図4に示す従来の回路の動作を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る半導体スイッチング素子駆動回路の一実施形態を示す。この図1において、パルス電圧源1の出力は、直列接続された抵抗3およびコンデンサ5を介してトランス7の一次巻線に接続されている。トランス7の二次巻線は、その一端がダイオード9および抵抗11を介して駆動対象である電圧駆動型半導体スイッチング素子13のゲート(第1のオン・オフ制御端子)に接続され、その他端が該半導体スイッチング素子13のエミッタ(第2のオン・オフ制御端子)に接続されている。
【0017】
トランス7の二次巻線の一端は、ツェナーダイオード15を介してトランジスタ17のベースにも接続されている。トランジスタ17は、エミッタがダイオード9と抵抗11とを結ぶラインに接続され、コレクタがトランス7の二次巻線の他端と半導体スイッチング素子13のエミッタとを結ぶラインに接続されている。
【0018】
電圧駆動型半導体スイッチング素子13としては、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ)、MOS−FET等のMOSゲート構造を有するスイッチング素子が使用され、本実施形態では、IGBTが使用されている。絶縁ゲート素子であるこの半導体スイッチング素子13のゲートは、寄生キャパシタンス13aを有する。
なお、上記半導体スイッチング素子13は、例えばスイッチング電源のスイッチング素子として機能する。
【0019】
次に、図2の波形図を参照して、本実施形態に係る半導体スイッチング素子駆動回路の動作を説明する。
図2(a)に示すようにパルス電圧源1から出力されるパルス電圧V1が立ち上がると、トランス7の一次側においてパルス電圧源1→抵抗3→コンデンサ5→トランス7→パルス電圧源1の経路で電流が流れ、それに伴って、トランス7の二次側において該トランス7→ダイオード9→抵抗11→寄生キャパシタンス13a→トランス7の経路で電流が流れる。
上記トランス7の二次側に流れる電流は、上記寄生キャパシタンス13aを充電し、その結果、半導体スイッチング素子13がオンする。図2(c)に寄生キャパシタンス13aの端子電圧V3(半導体スイッチング素子13のゲート電圧)を示す。
【0020】
その後、コンデンサ5の充電に伴って該コンデンサ5の端子電圧が次第に上昇する。トランス7の一次巻線に印加される電圧は、パルス電圧源1の出力電圧V1からコンデンサ5の端子電圧を差し引いたものになる。したがって、コンデンサ5の端子電圧の上昇によって、トランス7の一次巻線に印加される電圧が低下し、このため、トランス7の出力電圧V2も低下する。
【0021】
図2(b)に示すように、トランス7の出力電圧V2は、一旦0Vまで低下した後、コンデンサ5とトランス7の漏れインダクタンスとの共振により負極性を示し、その後、再び0Vとなる。このとき、寄生キャパシタンス13aの両端の電圧V3は、図2(c)に示すように一定値に保たれる。その理由は、以下の通りである。
・トランジスタ17がオフ状態にある。
・ダイオード9が寄生キャパシタンス13aの放電を阻止する。
・半導体スイッチング素子13は寄生キャパシタンス13aの充電分以上の電流を吸収しない。
【0022】
パルス電圧源1の出力電圧V1が0Vとなると、コンデンサ5に印加されていた電圧(およそ電圧V1のピーク値に等しい)が逆極性でトランス7の一次巻線に印加されるので、図2(b)に示すように、該トランス7の出力電圧V2も負極性となる。ツェナーダイオード15のツェナー電圧Vzは、この負極性の電圧V2と寄生キャパシタンス13aの端子電圧V3とを加算した電圧より低く設定されている。したがって、ツェナーダイオード15は、トランス7が一定値以上の負電圧を出力した際に導通し、これにより寄生キャパシタンス13a→抵抗11→トランジスタ17→ツェナーダイオード15→トランス7→寄生キャパシタンス13aの経路で電流が流れてトランジスタ17がオンする。
寄生キャパシタンス13aは、オンしたトランジスタ17および抵抗11を介して短絡される。このため、図2(c)に示すように寄生キャパシタンス13aの端子電圧V3が0Vとなって、半導体スイッチング素子13がオフする。
【0023】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る半導体スイッチング素子駆動回路は、上記コンデンサ5の充電動作によって寄生キャパシタンス13aの充電中にのみトランス7の出力電圧V2が正極性を維持し、また、この出力電圧V2が正極性でない状態になっても、パルス電圧源1の出力電圧V1が0Vになるまでの間、充電された寄生キャパシタンス13aの電圧V3を所定の大きさに維持する。したがって、トランス7に印加される電圧時間積が小さくなるにもかかわらず、半導体スイッチング素子13を安定にオン・オフさせることができる。そして、上記電圧時間積が小さくなることによって、トランス7の小形化が可能となる。
なお、前記抵抗11は、図4に示す抵抗30に対応するものであり、上記寄生キャパシタンス13aとトランス7の漏れインダクタンスとによるLC共振を防止するために設けられている。
【0024】
図3は、図1で示した例よりもコンデンサ5のキャパシタンスを大きく設定し、かつ、トランス7として、パルス電圧源1が発生する電圧パルスV1の電圧・時間積よりも小さい電圧・時間積で磁気飽和を起こすものを用いた場合の動作波形図を例示したものである。
この例でも、パルス電圧源1の出力電圧V1の立ち上がり時に寄生キャパシタンス13aが充電されて、半導体スイッチング素子13がオンする。そして、その後、トランス7の一次側に流れる励磁電流によってコンデンサ5が次第に充電される。トランス7は、例えば、図3に示す時刻t1で飽和点に達して、その励磁インダクタンスが急速に小さくなり、そのため、その一次側がほぼ短絡状態となる。抵抗3は、このときにパルス電圧源1に過電流が流れるのを防止し、かつ、コンデンサ5とトランス7の漏れインダクタンスとの共振を防止する目的で設けたものである。
【0025】
コンデンサ5は、短時間でほぼパルス電圧源1の出力電圧V1のピークまで充電され、それに伴って、トランス7の出力電圧V2はおよそ0Vとなる。しかし、このとき、寄生キャパシタンス13aの電圧V3は、上記と同様の原理(トランジスタ17がオフ状態にある。ダイオード9が寄生キャパシタンス13aの放電を阻止する。半導体スイッチング素子13が寄生キャパシタンス13aの充電分以上の電流を吸収しない。)で一定値に保たれる。
【0026】
パルス電圧源1の出力電圧V1が0Vになると、コンデンサ5の電圧が逆極性でトランス7に印加され、その結果、上記と同様の原理(トランジスタ17がオンすることによる放電路の形成)で寄生キャパシタンス13aが放電される。この際も、トランス7は、一定時間後に飽和して短絡状態となる。このため、コンデンサ5は、その端子電圧がほぼ0Vになるまで放電される。
このように、本実施形態に係る半導体スイッチング素子駆動回路によれば、トランス7としてパルス電圧源1の出力電圧V1が印加された場合に飽和してしまう小型のものを用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 パルス電圧源
3 抵抗
5 コンデンサ
7 トランス
9 ダイオード
11 抵抗
13 電圧駆動型半導体スイッチング素子
13a 寄生キャパシタンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻線がコンデンサを介してパルス電圧源に接続され、二次巻線の一端が逆阻止用ダイオードを介して電圧駆動型半導体スイッチング素子の第1のオン・オフ制御端子に接続されるとともに、前記二次巻線の他端が前記電圧駆動型半導体スイッチング素子の第2のオン・オフ制御端子に接続されたトランスと、
前記二次巻線に一定値以上の負電圧が発生した際に、前記第1のオン・オフ制御端子と第2のオン・オフ制御端子との間を短絡する短絡手段と、
を備えることを特徴とする半導体スイッチング素子駆動回路。
【請求項2】
前記トランスは、前記パルス電圧源が発生するパルス電圧の電圧・時間積よりも小さい値の電圧・時間積で飽和する磁気特性を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体スイッチング素子駆動回路。
【請求項3】
前記短絡手段は、前記一定値以上の負電圧を検出する電圧検出素子と、この電圧検出素子の検出信号に基づいて導通する短絡用スイッチ素子とを備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体スイッチング素子駆動回路。
【請求項4】
前記短絡用スイッチ素子は、前記第1のオン・オフ制御端子と前記第2のオン・オフ制御端子との間に介在させたトランジスタであり、前記電圧検出素子は、前記トランスの二次巻線の一端と前記と他のベースとの間に介在させたツェナーダイオードであることを特徴とする請求項3に記載の半導体スイッチング素子駆動回路。
【請求項5】
前記コンデンサに過電流・共振抑制用の抵抗を直列接続したことを特徴とする請求項1に記載の半導体スイッチング素子駆動回路。
【請求項6】
前記逆阻止用ダイオードと前記電圧駆動型半導体スイッチング素子の第1のオン・オフ制御端子との間に共振抑制用の抵抗を介在させたことを特徴とする請求項1に記載の半導体スイッチング素子駆動回路。
【請求項7】
前記電圧駆動型半導体スイッチング素子が、IGBTまたはMOS−FETであることを特徴とする請求項1に記載の半導体スイッチング素子駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−193649(P2010−193649A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36576(P2009−36576)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】