説明

半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法

【課題】短時間で容易に、半導体デバイス基板の微小な欠陥部を特定でき、透過形電子顕微鏡観察に適した薄片試料とすることが可能な半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法を提供すること。
【解決手段】光学顕微鏡によって、観察対象である、シリコン半導体基板上に形成された半導体デバイス内の微小欠陥部の上部表面に電子ビーム、レーザーなどでマーキングして位置を特定する第1工程、該特定場所を支持台に固定する第2工程、基板の両面からのFIB加工によって表面を削って電子が透過する程度に薄くして平面観察用試料を作成する第3工程、STEMで観察することにより微小欠陥部を特定する第4工程、微小欠陥を特定した後にSEM観察して、欠陥部上に新たにマーキングする第5工程、FIBで切断して断面観察用試料とする第6工程を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過形電子顕微鏡(以降、TEMという)などを用いた半導体デバイスの不良箇所の評価方法に関し、特には、シリコン基板上に作り込まれた半導体デバイス(以降、半導体デバイス基板と称する)の微小欠陥部を精度良く観察し評価するための半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス基板の内部構造の極く微小な欠陥部などを観察する方法としては、断面試料の観察面に電子線を照射し、透過または走査透過した電子線から物質の結晶構造の違いなどを反映した画像を形成して内部構造の像を得る透過形電子顕微鏡(TEM)または走査透過形電子顕微鏡(以降、STEMという)を挙げることができる。通常、これらの装置は、総称してTEMと分類される。これらの手法を用いて半導体デバイス基板内部の欠陥部を観察するためには、半導体デバイス基板の観察面での厚さを、電子線が透過する程度に極めて薄く加工する必要がある。
【0003】
図2は、FIB(Forcused Ion Beam;集束イオンビーム)加工法を用いた従来の、TEM、STEM観察用断面試料の作製手順を示す試料部分の斜視図である。(a)はプロセスフロー説明図、(b)は(a)のプロセスフローに対応する作製試料の斜視図である。まず、ウエハ状態の半導体デバイス基板(図示せず)を準備し、観察対象である微小欠陥部を光学顕微鏡で観察し、欠陥部の上部表面に特定場所をレーザーマーキング102などで目印をつける。欠陥部が確実に含まれるようにレーザーマーキング102よりはるかに大きい300μm×300μm程度の大きさの試料ブロック101として図示しないダイサー、FIBなどで切り出すか、または前記欠陥部がへき開面に支障なく取り出せる場合は、へき開法で取り出す(手順A1)。大型の試料室を有するFIB装置では元のウエハの大きさの半導体デバイス基板を直接試料室に持ち込んで、観察対象である微小欠陥部近傍をイオンビーム加工できるので、この手順A1による試料ブロック101の切り出し処理を省略できる。
【0004】
次に、手順A1で切り出した欠陥部が含まれる試料ブロック101をFIB装置内の試料室に導入して、細く絞ったイオンビームにより、レーザーマーキング102を目印にし、観察の対象となる欠陥部が確実に含まれる特定場所103(サイズ;厚さ5μm×長さ20μm×幅20μm程度の大きさ)の外周辺部分をボックス状に深堀りし、最後に、特定場所103の底面を5μmの深さで切断して特定試料103aを切り離し取り出す。前述の手順A1で切り出した試料ブロック101から取り出した特定試料103aには、観察対象の欠陥部が含まれるので、その後のイオンビーム加工の際の熱などで変質、変形しないように、同じFIB装置内で金属薄膜(デポ膜と呼ばれる)のタングステン膜(図示せず)などで被覆して保護する(手順A2)。この特定試料103aを別に準備した支持台104に固定する。
【0005】
または、FIB装置に図示しないマイクロサンプリング法と呼ばれる周知の機能が付属している場合は特定試料103aに、細線状のプローブを付着させて特定試料103aを吊り上げて、前述と同様に支持台104の一種である銅メッシュに固定する。次に、該支持台104に固定した前記特定試料103aをFIBで更に、TEMの電子線が透過できる程度の薄さ(サイズ(薄膜化した箇所);5μm×0.1μm×5μm程度)に加工すると、TEM観察に用いられるために薄片化された観察用断面試料105の作製が完了する(手順A3)。前述の特定試料103aを薄片化された観察用断面試料105に加工する方法は、FIBで加工するか、またはさらにオージェ電子分光装置を用いてアルゴンイオンエッチングにより薄膜化する。なお、FIB装置にマイクロサンプリング機能が無い場合には、手順A1の後に、前述の手順A2のボックス状加工から底面を切り離さずにそのままの状態で、更に手順A3の断面薄片加工までをFIBにて行い、その後に先を細くしたガラス棒の先端に静電力で特定場所103を含む薄片状の観察用断面試料105を付けて吊り上げ、銅メッシュなどの支持台104に固定して薄片化された観察用断面試料105の作製が完了となる(特許文献2、3、4、5、非特許文献1、2)。
【0006】
図3は、前記図2の手順A3で作製され、銅メッシュなどの支持台104に固定された薄片状の観察用断面試料105の内部構造観察を行うための、TEMを用いた観察装置の概略構成図を示す。この観察装置は観察用断面試料105に照射するTEM(図示せず)の電子線3、観察用断面試料105を透過した電子線4、この透過した電子線4を検出する電子線検出器5、画像観察用のCRT(Cthode Ray Tube)6などから構成される。しかし、前述した手順A1〜手順A3で説明した従来の観察用断面試料105の作製方法によると、半導体デバイス基板の表面にあるミクロンオーダー以上の大きな欠陥に対しては適用できる。しかし、図4に示すように、半導体デバイス基板の内部のドープドポリシリコン膜9の下層のシリコン基板7との界面またはゲート絶縁膜11上にあるナノメーターオーダーの微小欠陥部10に対しては、半導体デバイス基板上に形成された層間絶縁膜8やメタルからなる電極および配線(図示せず)が邪魔になるので、観察対象の微小欠陥部10を光学顕微鏡で観察ができない。さらに、図2で説明した、対応する基板表面の特定場所103へのレーザーマーキング102もできないという問題がある。
【0007】
特に、微小欠陥部10の上方に層間絶縁膜8が何層か積層されている場合、層間絶縁膜8の厚さは通常1〜2μmの厚さがあり、光学顕微鏡で観察できる大きさは、数μm程度の大きさまでである。層間絶縁膜8の上にあるメタルなどの電極および配線材料(図示せず)はエッチングなどにより容易に除去できるが、層間絶縁膜8の下層であってシリコン基板7との間にある微小な異物や欠陥などは、光学顕微鏡で表面から観察することはできない。また、これらの微小欠陥部10が半導体デバイス基板の表面に存在する場合は比較的、光学顕微鏡でも識別させ易いが、特にその欠陥がシリコン基板7の材料に関連した内部欠陥、たとえば結晶欠陥の場合には、欠陥に影響が出ない方法で露出させないと、光学顕微鏡では識別できないという問題があった。その対策として、走査形電子顕微鏡(以降、SEM)を用いて内部にある結晶欠陥を観察する方法やFIB内でマーキングすることにより、観察対象とする欠陥を確実に観察する装置などが考案されている。また、欠陥部を含む特定場所をサンプリングして、FIB装置内のホルダーに取り付け、FIB内で観察しながら2方向以上から加工して薄膜試料を作成する方法も提案されている。また、欠陥部を電気的に検知する手法として、エミッション顕微鏡法があり、レーザー照射により欠陥部が発光し、その近傍にレーザーマーカーでマーキングして、FIBとSEMを組み合わせた装置によってマーキング個所の近傍を薄片加工しながら欠陥部を観察する方法も近年行われているが、この手法によっても欠陥部を特定および観察できない場合があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−14899号公報
【特許文献2】特許第3965761号公報
【特許文献3】特開平8−327514号公報
【特許文献4】特開2004−245660号公報
【特許文献5】特許第3843637号公報
【非特許文献1】発明協会公開技報公技番号2006−504555号
【非特許文献2】発明協会公開技報公技番号2006−503669号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述のTEM観察用断面試料の作製方法は、いずれも欠陥部の大きさがミクロンオーダーであって、光学顕微鏡による観察対象の欠陥場所が特定できる場合のものであり、ナノメーターオーダーの微小欠陥部の試料作製法としては適さない。もし、観察対象とする欠陥部の近傍をサンプリング試料として採取できたとしても、サンプリング試料の観察により、存在する欠陥部を特定して判別することが煩雑である。たとえば、欠陥部を判別可能にするために、相当な加工時間を要し、作業効率が悪いという課題がある。場合によっては欠陥部を見逃して消失してしまうことも多い。また、特許文献1の段落0022には欠陥位置を2次元的にTEM/STEMで観察し同定する、と記載されているのみである。
【0010】
本発明は、以上説明した点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、短時間で容易に、半導体デバイス基板の微小な欠陥部を特定でき、透過形電子顕微鏡観察に適した薄片試料とすることが可能な半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記本発明の目的はを達成するために、半導体デバイス基板の内部に含まれる微小欠陥部の近傍部分を、前記半導体デバイス基板から切り出して試料ブロックとし、該試料ブロック中の前記微小欠陥部を光学顕微鏡で特定して、前記微小欠陥部の上部の基板表面にレーザーマーキングする第1工程、前記試料ブロックから、前記レーザーマーキングにより特定された前記微小欠陥部を含む基板部分を集束イオンビームにより切り取り、切り取った前記レーザーマーキングにより特定された微小欠陥部を含む基板部分を支持台に固定する第2工程、前記支持台に固定された微小欠陥部を含む基板部分を集束イオンビームにより前記電子線が透過する程度の厚さの薄片に削って平面観察用試料とする第3工程、該平面観察用試料を透過形走査形電子顕微鏡の走査二次電子像で拡大観察して前記微小欠陥部を特定するとともに、前記二次電子の走査により発生するコンタミネーション膜を前記微小欠陥部上部の前記平面観察用試料表面に堆積してマーキングする第4工程、該マーキングにより特定される前記微小欠陥部上部の前記平面観察試料表面で、前記平面観察用試料を集束イオンビームにより切断して断面観察用試料とする第5工程を有する半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法とする。前記第3工程で作製される平面観察用試料は、前記支持台に固定された微小欠陥部を含む基板部分を集束イオンビームにより両面から削られて、電子線が透過する程度の厚さにされるとともに、前記微小欠陥部が表面に露出されていることが好ましい。また、前記第3工程が、前記支持台に固定された微小欠陥部を含む基板部分に対して、集束イオンビームおよび低加速アルゴンエッチングをこの順に実施して両面から電子線が透過する程度の厚さに削るとともに、前記微小欠陥部が基板表面に露出する平面観察用試料とする工程とすることもできる。前記低加速アルゴンエッチングがオージェ電子分光装置を用いるエッチングであることが望ましい。
【0012】
前記本発明の目的は、シリコン基板上に形成される半導体デバイス内の微小欠陥部近傍部分を、集束イオンビームを用いて前記半導体デバイス基板から切り取って支持台に固定し、支持台に固定された前記微小欠陥部近傍部分の表面をウェットエッチングして削り前記微小欠陥部を表面に露出させる第1工程、露出した前記微小欠陥部を走査形電子顕微鏡の走査二次電子像で拡大観察し、露出した前記微小欠陥部上に前記走査二次電子像の観察時に発生するコンタミネーション膜を堆積させてマーキングとする第2工程、マーキングにより特定される前記微小欠陥部を集束イオンビームを用いて切断し薄片化して平面観察用試料とする第3工程を有する半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法とすることによっても達成される。前記ウェットエッチングとして、前記微小欠陥部近傍部分の表面のアルミニウム電極のエッチングに塩酸溶液、シリコン酸化膜にフッ酸溶液、ポリシリコン膜にTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)溶液を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、短時間で容易に、半導体デバイス基板の微小な欠陥部を特定でき、透過形電子顕微鏡観察に適した薄片試料とすることが可能な半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1にかかるTEM、STEM観察用断面試料の作製工程を示す試料部分の斜視図である。
【図2】従来の、TEM、STEM観察用断面試料の作製工程を示す試料部分の斜視図である。
【図3】前記図2の手順A3で作製され、銅メッシュに固定された観察用断面試料の内部を観察するための、TEMを用いた観察装置の概略構成図を示す。
【図4】従来の図2の手順で作製された観察用断面試料の欠陥部近傍の模式的断面図である。
【図5】本発明の実施例1にかかる前記図1に示す作製工程により作製された断面観察用試料の模式的断面図である。
【図6】本発明の実施例1にかかる試料の作製工程を示す概略図である。
【図7】本発明の実施例2にかかるTEM、STEM断面観察用試料の作製工程を示す試料部分の斜視図である。
【図8】本発明の実施例2にかかる前記図1に示す作製工程により作製された断面観察用試料の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
以下、本発明の実施例1にかかる半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、TEM,STEM観察用の、実施例1による欠陥部観察用試料の作製手順を示すものである。(a)は第1工程〜第5工程のフローの説明図であり、(b)は(a)に対応する作製工程段階の試料の斜視図である。なお、分析対象となる微小欠陥は、図4に示した、半導体デバイス基板の内部のドープドポリシリコン膜9のゲート絶縁膜11との界面にあるナノメーターオーダーの微小欠陥部10とする。
【0017】
(第1工程)
まず、第1工程として、エミッション顕微鏡(図示しない)などによって、半導体デバイス基板の、電気的に不良になった場所を見つけて、その不良場所(微小欠陥部)に対応する表面に、付属のレーザーマーカーで第1のレーザーマーキングを付けたウエハ(図示せず)を準備する。前記図2に示した従来の試料作製手順と同様、ダイサーまたはFIBを用いて観察対象である微小欠陥部(前記不良場所)に対応する第1のレーザーマーキング(図示せず)を目印にして大きめのサイズで試料ブロック20を切り出すか、観察対象である前記微小欠陥部を含む特定場所が、その結晶面に影響することなく割れる場合は、へき開して試料ブロック20を取り出す。大型の試料室を有するFIB装置では、元のウエハで直接、微小欠陥部を含む特定試料23をFIB加工で切り出せるので、この操作は省略できる。次に、切り出した試料ブロック20を光学顕微鏡で拡大観察し、おおよその微小欠陥部の位置の確認をし、レーザーマーカーで、前記微小欠陥部のさらに近くに対応する表面に第2のレーザーマーキング21を付けた後、試料ブロック20の基板表面に設けられているメタルなどの電極および配線をエッチングなどで除去する。前記光学顕微鏡は倍率が低いので、微小欠陥部の位置を確認することができ、第2のレーザーマーキング21も付けることができるが、微小欠陥部の詳細までは不明である。前記メタルエッチング後に必要な場合は再度第2のレーザーマーキング21を付ける。
【0018】
(第2工程)
次に、第2工程として、図示しないFIB装置内の試料室に前記試料ブロック20を、基板の主面に平行な面がイオンビーム(FIB)の出射方向に垂直となる方向に配置する。細く絞ったFIBにより、第2のレーザーマーキング21を目印にして微小欠陥部が含まれる特定場所22(サイズ;5μm×20μm×20μm程度)の外周辺部分をボックス状に、樹木の根を掘り起こすように深堀りし、最後に、前記試料ブロック20を傾斜させて前記特定場所22の底面を切断して切り離して特定試料23を取り出す。前記特定場所22内の微小欠陥部の上部に対応する表面には、後工程のFIBで加工されないように、同じFIB装置内で金属薄膜(デポ膜と呼ばれる)のタングステン膜(図示せず)などを保護膜として被覆し、前記図2と同様に、別に準備した銅製またはモリブデン製の半円状のメッシュなどの支持台104に固定する。またはFIB装置にマイクロサンプリング法と呼ばれる機能が付属している場合は、特定場所22に細線状のプローブを付着させてから底面を切り離して特定試料23を吊り上げて、前述と同様のメッシュ104に固定する。
【0019】
(第3工程)
次に、支持台104に固定した特定試料23をデポ膜部分を中心に、STEM観察の際の電子線が透過することができる程度に薄く、FIBで加工することにより、平面観察用試料24の作製が完了する。FIBによる加工は、両面から削り薄くする。薄膜化する箇所のサイズは、5μm×0.1μm×20μm程度とする。
【0020】
(第4工程)
この第3工程後、平面観察用試料24を90°回転させSTEM室内に導入し、この試料に加速電圧200kVで電子線を透過させ、透過電子による明視野像および暗視野像を観察すると、微小欠陥部は、半導体デバイスの本来の構成物質とは異なるコントラストで観察される。よって、微小欠陥部は、半導体デバイスの本来の構成物質と区別することが可能となる。例えば、図4に示したような半導体デバイスにおいて、ゲート絶縁膜11とドープドポリシリコン膜9の界面などに微小欠陥部10がある場合、前工程のウエハでの電気特性試験やエミッション顕微鏡での発光操作などで微小欠陥部は多くは溶けた状態になっている。この微小欠陥部は、その上層にあるドープドポリシリコン膜9の薄く加工された結晶によるコントラストとは異なるアモルファス状のコントラストとして観察される。微小欠陥部10がシリコン基板7とゲート絶縁膜11の界面にある場合においても、シリコン基板7とは異なるアモルファス状のコントラストとして観察される。
【0021】
第4工程において、透過電子による明視野像および暗視野像の観察により微小欠陥部が特定できない場合は、再度第3工程を行う。必要に応じて第3工程と第4工程を繰り返し行うことにより、微小欠陥部の平面方向の位置を特定する。
【0022】
このSTEM観察により、従来のような断面方向でFIBのみで長時間かけて行う加工やFIBで加工しながらSEMで観察して欠陥部を特定する方法(デュアルビーム加工法)に比べて、平面方向で観察できるため微小欠陥部の見落としが少なくなり、微小欠陥部全体も詳細に観察できる。微小欠陥部の中に原因となるような特定物質が存在する場合には、その部分がその周辺部よりも更に異なるコントラストを示すことで判別することができる。
【0023】
また、二次電子像により微小欠陥部を観察する場合、微小欠陥部の種類によっては、ドープドポリシリコン膜9のコントラストにより微小欠陥部のコントラストが相対的に小さくなり明瞭に見えない場合もある。その場合は低加速電圧でアルゴンイオンを照射するエッチング装置で微小欠陥部を覆っているドープドポリシリコン膜9を除去して、微小欠陥部を明瞭に露出させることが有効である。具体的方法については後述する。
(第5工程)
一方、不良解析としては、不良の原因となる前記特定物質の同定と構成物質層などの存在位置などを知るためには、前述の平面観察用試料の観察だけでなく、試料の断面方向でも観察する必要がある。
【0024】
その断面観察用試料26を作成するため、まず、前記特定物質の断面観察位置をマーキングする。マーキングは、第4工程において特定した微小欠陥部に対して、同じSTEM装置内で加速電圧200kVで電子線を照射させ、透過電子による明視野像および暗視野像の観察から走査二次電子像の観察に切り替える。通常の走査二次電子像の観察は10万倍程度までであるが、目印となるマーキング用のコンタミネーションを蓄積するには、単位面積あたりの電子線照射量を増やし、倍率は100万倍以上にして数分間観察する。倍率で電子線照射量を大きくできない場合は、一次電子電流量を増やすか、コンデンサーレンズ電流量を更に増やす、電子ビームを絞って対物可動絞り穴を大きくして、電子ビーム照射量を大きくするなどして、目的箇所の断面観察位置の表面にコンタミネーションによるマーキング25を付ける。このマーキング25は、後で行うFIB加工時に十分見える数μmの大きさにすると都合がよい。
【0025】
第5工程において、走査二次電子像を観察する場合、効率的に微小欠陥部を特定するために倍率を段階的に高くすることが望ましい。例えば、最初は、数万倍の倍率とし、より正確な微小欠陥部の位置を特定し、次にその特定した箇所に対して倍率を数十万倍とし、さらに正確な微小欠陥部の位置を特定し、さらに100万倍以上とする。このように3段階とする。もちろん4段階以上とすることもできる。
(第6工程)
次に、第6工程として、装置内の試料室に、マーキング25を付けた前記平面観察用試料24を導入して、微小欠陥部の位置(マーキング25)には、イオンビームで加工されないように、同じFIB内で金属薄膜(デポ膜と呼ばれる)のタングステン膜(図示せず)などを付ける。FIB装置にマイクロサンプリング法と呼ばれる機能が付属している場合は、微小欠陥部と同じ面に細線状のプローブを付着させてから底部を切断して形成された特定試料24を吊り上げて、別に準備した銅製またはモリブデン製の半円状のメッシュなどの支持台104に断面方向で固定し、加工面にタングステン膜をデポする。次に、メッシュなどの支持台104に固定した特定試料24にマーキング25を付けた平面観察用試料24をデポ膜部分を中心に、FIBで切断加工して、TEM観察に用いられる断面観察用試料26の作製が完了する。薄膜化した箇所のサイズは、5μm×0.1μm×0.1μm程度とする。
【0026】
この後に、FIB装置から薄膜化した断面観察用試料26が載った試料ホルダーを外に出して、STEM装置内に試料ホルダーを載せ換えて、前記断面観察用試料26の微小欠陥部の断面観察位置を観察する。
(コンタミネーション膜12の形成について)
図5は、前記図1に示す作製工程により作製された断面観察用試料26の模式的断面図である。第4工程で形成されたコンタミネーション膜12によるマーキングを見ることができる。
【0027】
このように、第3工程で作製された平面観察用試料24をSTEM装置内で透過電子像(明視野像や暗視野像)により微小欠陥部10の平面方向での位置を特定した後に、この特定した位置の走査二次電子像を観察するだけで、観察部には電子ビームによるコンタミネーション膜12によるマーキングの形成が進行するので、ナノメーターオーダーの微小欠陥部10の特定を短時間で極めて容易にすることができる。通常、STEMは薄膜化試料表面に電子線を照射して得られる、物質内部からの走査透過電子(明視野像信号)または環状走査透過電子(暗視野像信号)を画像化して観察することが主目的であるが、STEMには一般に薄膜試料の表面状態を観察するために走査二次電子像の電子検出器も備えている。前者の明視野像または暗視野像は物質内部に関する結晶情報などを観察するもので、後者の走査二次電子像は表面の凹凸などの情報を示すものである。従って、微小欠陥部10について、内部と表面の両方の情報が得ることができ、しかも照射電子電流量を増やすために観察倍率を高くすることなどで、目印となるコンタミネーション膜12によるマーキングも同時に施すことが可能である。コンタミネーション量は、断面観察用試料26の表面における照射電子電流量と時間の積が観察領域(倍率)に比例して多くなるが、走査透過電子像または環状走査透過電子像よりも走査二次電子像を観察する場合の方が、断面観察用試料26表面により多くのコンタミネーション膜12が付着する。このコンタミネーション膜12の成分は、一般的にアモルファス状のカーボンであるため、周辺の構成物質であるタングステン膜などのデポ膜13などとは組成のコントラストが明らかに異なり、マーキング物質としての目印として好都合である。
【0028】
前述した、低加速電圧でアルゴンイオンを照射するエッチング装置で微小欠陥部を覆っているドープドポリシリコン膜9を除去して、微小欠陥部を露出させる方法について以下に記載する。
【0029】
FIBで平面方向に薄片加工してドープドポリシリコン膜9を僅かに残した段階、または、ウェットエッチングでドープドポリシリコン膜9をエッチングしてドープドポリシリコン膜9を僅かに残した段階、まで行った後に、アルゴンポリッシャーなどの低加速電圧装置でエッチングする方法がよい。
【0030】
しかし、微小欠陥部を観察しながらエッチング可能なオージェ電子分光装置( Auger Electron Spectroscopy、AESと略記する)内に平面観察試料24を配置し、アルゴンイオンを照射してドープドポリシリコンを除去して微小欠陥部を露出させることが確実な方法であるので好ましい。具体的方法としては、図6に示した。STEM装置内に平面観察試料24を配置し透過電子像を観察し微小欠陥部10と他の領域とのコントラストの差により微小欠陥部10を特定し、STEM装置内で透過電子像の観察から二次電子像の観察に切り替え微小欠陥部10の上方にコンタミネーション膜12を形成する工程(図6(a)、図6(c))と、オージェ電子分光装置でドープドポリシリコン膜9をエッチングする工程(図6(b)、図6(d)とを繰り返すことにより、微小欠陥部10を露出させる。その後、上記第4工程および第5工程を行い図6(e)コンタミネーション膜12を形成する。そして、上記第6工程を行い断面試料26を作製する。
【0031】
このAESでは、アルゴンイオン照射により深さ方向へ掘り下げることができ、極く表面の元素分析が可能なため、ほとんどの欠陥部の解析を行うことができる。なお、FIBでは大きなエネルギー(加速電圧30〜40kV)のアルゴンイオンで加工するために、エッチングレートが早く、観察対象である欠陥部面でエッチングを止めることが困難であるが、低エネルギー(加速電圧5〜10kV)のアルゴンイオンを用いたAESによるエッチングでは、エッチング速度が遅いため、欠陥部の見落としが少ないことが特徴である。
【実施例2】
【0032】
図7に本発明の実施例2にかかる半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法を示す。(a)は第1工程〜第3工程のフローの説明図であり、(b)は(a)に対応する作製工程段階の試料の斜視図である。
(第1工程)
実施例1(図1)の第2工程までと同様にして特定試料23をメッシュなどの支持台104に固定する。その後、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)などを用いて前記特定試料23の表面をエッチングして、微小欠陥部10を露出させる。
(第2工程)
次に、この特定試料23をSEM装置の試料室に入れて、微小欠陥部10を平面観察する。観察は、加速電圧25kVで電子線を照射し、走査二次電子像にて微小欠陥部10を特定する。特定した微小欠陥部10に対して倍率数万倍以上で、数分でコンタミネーション膜12が微小欠陥部10の露出部上に直接、蓄積されマーキング25となる。
【0033】
SEMによる不良解析では、走査二次電子像を観察するが、試料の極く表面から発生する二次電子は、微小欠陥部とベースのシリコン基板とで、材料がわずかに異なるために、その二次電子発生量が異なり、その結果、異なったコントラスト像として観察される。また、走査二次電子像を高倍率で観察するため、単位面積あたりの照射する電子電流量が高くなり、周辺部に対して電子ビーム照射によりコンタミネーションが局部的に付着することから、ナノオーダーの微小な欠陥部の保護と目印であるマーキングを施すことが可能となる。
【0034】
しかし、実施例1のように、平面観察のためにFIBによる平面加工を行わないため、STEM装置を用いた透過電子像の観察を行えない。よって、走査二次電子像のみにより微小欠陥部を特定する必要があり、微笑欠陥部を特定するまで時間を要する。
(第3工程)
この後、FIB装置に特定試料23を載せ換えて、微小欠陥部10の周辺加工、プローブによる吊り上げ、メッシュなどの支持台104への固定など行い、FIBによる断面加工および薄膜化を行う。
【0035】
以上で断面観察用試料26の作製が完了する。この後に、FIB装置から薄膜化した断面観察用試料26が載った試料ホルダーを外に出して、STEM装置内に試料ホルダーを載せ換えて、前記断面観察用試料26の微小欠陥部の断面観察位置を観察する。
【0036】
図8に実施例2により作製した断面観察用試料26の模式的断面図を示す。前記実施例1で説明した断面観察用試料26と異なるのは、FIBにより薄片化を行わない点である。本実施例では、平面観察試料24により透過電子像の観察を行わないため、実施例1に比べ微小欠陥部10を見つけることが困難となる。しかし、微小欠陥部10を露出した後にSEM観察することにより、微小欠陥部の表面に直接コンタミネーション膜12が蓄積されるため、前記図5で説明したポリシリコン膜9を介してコンタミネーション膜12を蓄積するよりも、熱などに対して微小欠陥部10を保護できるメリットがある。符号13はデポ膜である。
【符号の説明】
【0037】
3…TEMの電子線
4…透過した電子線
5…電子線検出器
6…画像観察用のCRT
7…シリコン基板
8…層間絶縁膜
9…ポリシリコン膜
10…微小欠陥部
11…ゲート絶縁膜
12…コンタミネーション膜
13…デポ膜
20…試料ブロック
21…レーザーマーキング
22…特定場所
23…特定試料
24…平面観察用試料
25…マーキング
26…断面観察用試料
101…試料ブロック
102…レーザーマーキング
103…特定場所
103a…特定試料
104…支持台
105…観察用断面試料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイス基板の内部に含まれる微小欠陥部の近傍部分を、前記半導体デバイス基板から切り出して試料ブロックとし、該試料ブロック中の前記微小欠陥部を光学顕微鏡で特定して、前記微小欠陥部の上部の基板表面にレーザーマーキングする第1工程、
前記試料ブロックから、前記レーザーマーキングにより特定された前記微小欠陥部を含む基板部分を集束イオンビームにより切り取り、切り取った前記レーザーマーキングにより特定された微小欠陥部を含む基板部分を支持台に固定する第2工程、
前記支持台に固定された微小欠陥部を含む基板部分を集束イオンビームにより前記電子線が透過する程度の厚さの薄片に削って平面観察用試料とする第3工程、
該平面観察用試料を透過形走査形電子顕微鏡の透過電子像で観察して微小欠陥部を特定する第4工程、
前記第4工程で特定された微小欠陥部に対して前記平面観察試料を二次電子像で拡大観察して、前記電子線の走査により発生するコンタミネーション膜を前記微小欠陥部上部の前記平面観察用試料表面に堆積してマーキングする第5工程、
該マーキングにより特定される前記微小欠陥部上部の前記平面観察試料表面で、前記平面観察用試料を集束イオンビームにより切断して断面観察用試料とする第6工程を有することを特徴とする半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法。
【請求項2】
前記第3工程で作製される平面観察用試料は、前記支持台に固定された微小欠陥部を含む基板部分を集束イオンビームにより両面から削られて、電子線が透過する程度の厚さにされるとともに、前記微小欠陥部が表面に露出されていることを特徴とする請求項1記載の半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法。
【請求項3】
前記第3工程が、前記支持台に固定された微小欠陥部を含む基板部分に対して、集束イオンビームおよび低加速アルゴンエッチングをこの順に実施して両面から電子線が透過する程度の厚さに削るとともに、前記微小欠陥部が基板表面に露出する平面観察用試料とする工程であることを特徴とする請求項2記載の半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法。
【請求項4】
前記低加速アルゴンエッチングがオージェ電子分光装置を用いるエッチングであることを特徴とする請求項3記載の半導体デバイス基板の欠陥部観察用試料の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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