説明

半導体リソグラフィー用高分子化合物の製造方法

【課題】金属イオン含有量が100ppb以下かつ酸不純物濃度が100ppm以下となる、半導体リソグラフィー用高分子化合物、および該高分子化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】下記工程(a)〜(c)を含む各金属イオン不純物濃度が100ppb以下かつ酸不純物濃度が100ppm以下となる半導体リソグラフィー用高分子化合物の製造方法。(a)酸触媒の存在下で、高分子化合物を得る工程、(b)前記工程(a)で得られた高分子化合物溶液、または、前記高分子化合物溶液を貧溶媒中で再沈澱精製した高分子化合物を再溶解した溶液を、各金属イオン不純物濃度2.0ppb以下の陰イオン交換樹脂に接触させる工程、(c)前記陰イオン交換樹脂に接触させた高分子化合物溶液を、貧溶媒中で再沈澱し、高分子化合物を製造する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体リソグラフィー用組成物、例えば、フォトレジストもしくは反射防止膜組成物として使用するのに好適な高分子化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体デバイス製造工程において、フォトリソグラフィーによる微細加工が用いられており、例えば、シリコンウエハ等の半導体基板上にフォトレジストや反射防止膜等の半導体リソグラフィー用組成物の薄膜を形成し、次いで、半導体デバイスのパターンが描かれたマスクパターンを介して紫外線等の活性光線を照射し、現像して得られたフォトレジストパターンを保護膜として基板をエッチング処理することにより、基板表面に該パターンに対応する微細凹凸が形成されている。
【0003】
金属イオン汚染は、高密度集積回路、コンピュータチップおよびコンピュータハードドライブの製造において、しばしば欠陥の増加や収量損失を招き、性能低下を引き起こす大きな要因となっている。例えば、プラズマプロセスでは、ナトリウムおよび鉄等の金属イオンが、半導体リソグラフィー用組成物中に存在すると、プラズマ剥離の際に汚染を生じる恐れがある。しかし、これらの問題は、高温アニールサイクルの間に汚染物のHClゲッタリングを利用することにより、製造プロセスにおいて実質的な程度に問題を抑制することが可能である。
【0004】
一方、半導体リソグラフィー用組成物である半導体レジストおよび反射防止膜等の高分子化合物を製造する際は、高分子化合物または高分子化合物溶液中には遊離酸やゲル粒子が残存または発生することがある。これらの因子は、半導体レジストや反射防止膜、その他の電子材料、例えば、ハードマスクコーティング、層間コーティングおよびフィルレイヤーコーティングの不良要因となり得る。
【0005】
半導体リソグラフィー等の微細加工技術の発展により電子デバイスがより精巧なものとなっており、これらの諸問題は、完全な解決が困難となっている。非常に低レベルの金属イオン不純物の存在により、半導体デバイスの性能および安定性が低下することが、しばしば観察されており、これらの主要因は、特に半導体リソグラフィー用組成物中に含まれるナトリウムイオンおよび/または鉄イオンであることが確認されている。
【0006】
更には、半導体リソグラフィー用組成物中の100ppb未満の金属イオン不純物濃度が、このような電子デバイスの性能および安定性に悪影響を及ぼすことも明らかになっている。従来、半導体リソグラフィー用組成物中の金属イオン不純物濃度は、厳しい不純物濃度規格を満たす材料を選択することや半導体リソグラフィー用組成物の調整段階で金属イオン不純物が混入しないように徹底したプロセス管理を行うことで、管理されている。
【0007】
特許文献1および2には、脱イオン水であらかじめ洗浄したイオン交換樹脂を使用して、金属イオン不純物を最小限にしながら、安定した分子量のノボラック樹脂の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−143237号公報
【特許文献2】特表2002−519192号公報
【0009】
しかしながら、近年の半導体集積回路の微細化に伴い、金属イオン等の不純物の除去工程だけでなく、半導体リソグラフィー用組成物の物性においてリソグラフィー特性の高い再現性が要求されており、特に、半導体リソグラフィー用組成物中に含まれる組成物である半導体レジスト組成物または反射防止膜組成物中の高分子化合物の物性、例えば、分子量・分散度・光学定数・残存酸量等、に高い再現性が要求されている。
【0010】
つまり、半導体リソグラフィー用組成物に含まれる金属イオン不純物の低減と、そこで用いられる高分子化合物の高い再現性を非常に精密な領域で制御することが必要である。
特に、光学定数である屈折率および消衰係数は、高分子化合物に大きく影響されることから、高分子化合物の化学構造変化を極力抑えつつ、金属イオン不純物の除去をすることが要求されている。
一方、特許文献1および2においては、いずれも陰イオンのみならず、陽イオン交換性樹脂を含むフィルターを用いて濾過処理を行っている。しかしながら、このような従来の金属イオン不純物を除去するために用いられてきた手法では、これらのイオン交換性基との化学反応によりフォトレジスト組成物中の保護基の脱離またはポリマー側鎖に架橋剤が付加した高分子化合物を含む反射防止膜組成物の架橋反応が進行するといった問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、各金属イオン不純物濃度が100ppb以下、かつ酸不純物濃度が100ppm以下となる、半導体リソグラフィー用高分子化合物、および該高分子化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、あらかじめ金属イオン不純物濃度が規定値内になるように脱イオン水で洗浄した陰イオン交換樹脂を酸触媒の脱酸処理工程に用いることで、金属イオン不純物濃度が100ppb以下、かつ酸不純物濃度が100ppm以下である半導体リソグラフィー用高分子化合物を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明の第一の要旨は、下記工程(a)〜(c)を含む各金属イオン不純物濃度が100ppb以下かつ酸不純物濃度が100ppm以下となる半導体リソグラフィー用高分子化合物の製造方法である。
(a)酸触媒の存在下で、高分子化合物を得る工程、
(b)前記工程(a)で得られた高分子化合物溶液、または、前記高分子化合物溶液を貧溶媒中で再沈澱精製した高分子化合物を再溶解した溶液を、各金属イオン不純物濃度2.0ppb以下の陰イオン交換樹脂に接触させる工程、
(c)前記陰イオン交換樹脂に接触させた高分子化合物溶液を、貧溶媒中で再沈澱し、高分子化合物を製造する工程
【0014】
また、本発明の第二の要旨は、前記陰イオン交換樹脂に接触させる高分子化合物溶液の各金属イオン不純物濃度が50ppb以下である前記製造方法である。
【0015】
さらに、本発明の第三の要旨は、前記方法で得られた半導体リソグラフィー用高分子化合物にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、フォトリソグラフィー工程に使用されるのに好適な高分子化合物または該高分子化合物を含む溶液中に含まれる金属イオン不純物は低濃度であり、かつ、該溶液中に含まれる酸不純物を非常に低い濃度まで除去することができる。
【0017】
また、本発明によれば、フォトレジスト用組成物または反射防止膜用組成物に使用されるのに好適な高分子化合物を、金属イオン不純物を除去するための陽イオン交換性基を用いることなく、また、該陽イオン交換樹脂との反応による化学構造等の変化を生じることなく、効率的に酸不純物を除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<半導体リソグラフィー用高分子化合物の製造方法>
<(a)高分子化合物を得る工程>
本発明において、半導体リソグラフィー用高分子化合物は、半導体リソグラフィー工程で使用される活性光線を吸収する部位を有する高分子化合物であって、酸触媒の存在下で製造されるものであればよい。
【0019】
前記高分子化合物としては、例えば、芳香環および/またはイソシアヌル酸等を含むものであって、典型的には、(メタ)アクリレートモノマー、または官能基としてカルボン酸とヒドロキシル基を含む少なくとも二種のモノマーを重合することによって製造される(メタ)アクリル系高分子化合物、またはポリエステル系高分子化合物、ポリエーテル系高分子化合物、ポリアミド系高分子化合物等を挙げることができる。
特に制限されないが、エッチング速度等の観点から、ポリエステル系高分子化合物であることが好ましい。
【0020】
前記ポリエステル系高分子化合物は、例えば、酸触媒存在下、官能基としてカルボン酸とヒドロキシル基を含む少なくとも二種のモノマーを重合溶媒に溶解させ、重合反応に適当な温度まで加熱して縮重合反応により得ることができる。特に制限されないが、目的分子量に達するまでの反応時間の短縮および分子量の精密な制御の観点から、前記縮合重合反応は、100〜150℃が好ましく、120〜145℃が更に好ましい。
【0021】
前記ポリエステル系高分子化合物の重合に用いられる重合溶媒としては、特に制限されないが、モノマー、酸触媒、および重合体のいずれをも溶解できる溶媒が好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、アニソール、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、γ-ブチロラクトン、ヘキサン、ヘプタン、または、これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0022】
前記ポリエステル系高分子化合物の重合に用いられる酸触媒としては、特に制限されないが、例えば、シュウ酸、無水マレイン酸、マレイン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。工業性の観点から、p−トルエンスルホン酸が好ましい。
【0023】
本発明において、側鎖に架橋剤が付加された高分子化合物としては、フォトリソグラフィー工程で使用される活性光線を吸収する部位を有する高分子化合物の側鎖に架橋剤が付加されたものであってもよい。
【0024】
官能基であるカルボン酸とヒドロキシル基の縮合重合反応によって得られた前記ポリエステル系高分子化合物を含む反応溶液に酸触媒(例えば、p-トルエンスルホン酸)、架橋剤(例えば、グリコールウリルやメラミン)等を添加し反応させることで、ポリエステル系高分子化合物に含まれる官能基に架橋剤を付加させることができ、高分子化合物の側鎖に架橋剤が付加された高分子化合物を合成することができる。
この架橋剤付加反応は、50℃以下、好ましくは15〜30℃、更に好ましくは18〜22℃の範囲が望ましい。架橋剤付加反応の効率的な進行と分子量の精密な制御の両方の観点から、前記範囲での架橋剤付加反応を行うことが好ましい。
【0025】
前記架橋剤付加工程において、側鎖に付加される架橋剤としては、例えば、グリコールウリル、メチル化グリコールウリル、ブチル化グリコールウリル、テトラメトキシグリコールウリル、メチル化メラミン樹脂、N−メトキシメチル-メラミン、ウレタンウレア、アミノ基またはビニルエーテルを含む群から選択される。
特に、反射防止膜性能に優れる観点から、グリコールウリル系が好ましい。更に、非芳香族の特徴を併せ持つことにより、エッチングレートを向上させることができる。
【0026】
前記の通り得られた高分子化合物を含む溶液は、原料由来あるいは製造工程で酸不純物や金属イオン不純物を含むことが多く、この酸や金属イオン不純物が電子デバイスの性能および安定性に悪影響を及ぼすことも明らかになっているため、原料管理や再沈殿処理、イオン交換樹脂処理等により、前記の酸、金属イオン等の不純物を低濃度まで除去する必要がある。
【0027】
<(b)陰イオン交換樹脂に接触させる工程>
本発明において、前記溶液中の酸不純物を除去するために、前記溶液を、陰イオン交換樹脂に接触させることにより処理される。
これにより、酸不純物等を除去することができ、前記高分子化合物を酸との反応による化学構造等の変化を抑えることができる。
なお、本発明において、「接触」とは、カラム中またはバッチプロセスにおいて、前記陰イオン交換樹脂に、前記高分子化合物中の残存酸触媒をイオン交換反応によって吸着させる工程である。
また、前記陰イオン交換樹脂の量は、残存酸触媒の除去効率や金属溶出量の観点から、前記高分子化合物溶液に対して0.05〜0.5倍量(質量比)が好ましく、さらに0.〜0.2倍量(質量比)が好ましい。
また、前記接触時間は、残存酸触媒の除去効率や工業的観点から、0.1〜10時が好ましく、さらに0.5〜7時間が好ましい。
【0028】
前記陰イオン交換基としては、例えば、第四アンモニウム塩基等が挙げられる。例えば、高分子化合物中に酸を有する場合、このような陰イオン交換基を含む樹脂用いて処理すると、酸を吸着し、高分子化合物中の酸不純物を除去することができる。
【0029】
本発明において、前記陰イオン交換樹脂の各金属イオン不純物濃度が、2.0ppb以下、好ましくは1.8ppb以下、さらに好ましくは1.5ppb以下のものを使用する。各不純物濃度が前記範囲内であれば、陰イオン交換樹脂中の金属イオン等不純物が高分子化合物中へ溶出を抑制することができる。
各不純物濃度が前記範囲内の陰イオン交換樹脂を得る方法としては、例えば、陰イオン交換樹脂を超純水等で洗浄し乾燥する方法等が挙げられる。
各不純物濃度が前記範囲内の陰イオン交換樹脂に、前記高分子化合物を溶解した溶液に通すことで、前記陰イオン交換樹脂から溶出する金属イオン不純物濃度を最小限に抑えた上、酸不純物を非常に低い濃度まで除去することができる。
【0030】
前記陰イオン交換樹脂の洗浄方法としては、特に限定されないが、例えば、カラム中またはバッチプロセスにおいて、陰イオン交換樹脂を樹脂の20倍重量の超純水ですすぎ、次いで、20倍重量の水酸化アンモニウム溶液ですすぎ、その後、さらに20倍重量の超純水ですすぐことによって、得られた該陰イオン交換樹脂を乾燥する方法、または、前記陰イオン交換樹脂を、さらに鉱酸溶液(例えば、硫酸、塩酸の5〜98%水溶液)ですすぎ、再び超純水ですすぎ、乾燥させる方法が好ましい。
【0031】
前記陰イオン交換樹脂として、好ましくは、ORGANO社から商業的に入手可能なAmberlyst B20−HG・Dryがある。
【0032】
本発明で得られる半導体リソグラフィー用高分子化合物は、該高分子化合物中に含まれる各金属イオン不純物の濃度が100ppb以下であり、かつ、酸不純物濃度が100ppm以下、好ましくは50ppm以下、特に好ましくは30ppm以下である。
【0033】
<(c)再沈殿工程>
本発明の製法は、前記陰イオン交換樹脂に接触させた高分子化合物溶液を、貧溶媒中で
再沈殿する工程を含む。
再沈殿工程において、前記陰イオン交換樹脂に接触させて得られた溶液を、良溶媒で適当な濃度に希釈した後、溶媒中に滴下することで高分子化合物を析出させる。
良溶媒としては、例えば、アニソール、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
貧溶媒としては、例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、ジイソプロピルエーテル、水、ヘキサン、ヘプタン等、またはこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0034】
再沈殿工程により、高分子化合物溶液中に残存する未反応のモノマーや重合開始剤、酸触媒等を除去することができる。これらの未反応物は、そのまま残存しているとレジストや反射防止膜性能に悪影響を及ぼす可能性が高く、可能な限り除去することが好ましい。
再沈殿工程後、その析出物を濾別し、十分に乾燥してフォトリソグラフィー用組成物に使用するのに好適な成膜性樹脂を得ることができる。
また、濾別した後、乾燥工程を含まずに湿粉のまま使用することも可能である。
【0035】
本明細書に記載の方法で半導体リソグラフィー用組成物として使用するのに好適な高分子化合物を含む溶液を処理することで、原料由来および/または製造工程に由来する酸不純物を非常に低い濃度まで除去することが可能である。また、同時に溶出される金属イオン不純物濃度も最小限に抑える事もできる。
【0036】
また、各金属イオン不純物濃度が50ppb以下の高分子化合物溶液は、原料中の金属イオン不純物濃度の管理、再沈殿、水や有機溶媒による洗浄、または脱金属フィルター等により、得ることができる。
【0037】
前記脱金属フィルターは、特に制限されないが、電荷調整剤によってゼータ電位を生じる強酸性イオン交換性基を含まないフィルターが好ましい。例えば、前記性質を有するフィルターシートとして、住友3Mから商業的に入手可能なCUMOTMゼータプラスTMフィルターカートリッジ EC(GNグレード)として入手することができる。
【実施例】
【0038】
以下の具体例は、本発明を利用した高分子化合物の製造方法の例示である。
しかし、これらの例は、本発明の範囲を如何様にも限定もしくは減縮することを意図したものではなく、本発明を実施するために排他的に利用しなければならない条件、パラメータまたは値を教示するものと解釈されるべきものではない。また、特に断りがない場合、全ての部および百分率は重量に基づく値である。
また、実施例および比較例で用いた陰イオン交換樹脂は、前記洗浄方法等により、各金属イオン不純物濃度を低減させた。
【0039】
分子量測定方法
下記合成例等において得られた高分子化合物の重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography:東ソー製HLC8220GPC)により、ポリスチレン換算で求めた(測定条件;測定サンプル:乾粉50mg/溶離液5mL、溶離液:1.7mMリン酸/THF、分離カラム:昭和電工社製、Shodex GPC K−805L(商品名)、測定温度:40℃、検出器:示差屈折率検出器)。
【0040】
金属イオン不純物濃度測定方法
陰イオン交換樹脂中の各金属イオン不純物濃度は、次のようにして求めた。
陰イオン交換樹脂2.0gを2%硝酸60gに5時間浸漬した後の溶液を、高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer):Agilent Technologies製7500cs)により金属分析し、各金属イオン不純物濃度(Na、Fe)を求めた。また、高分子化合物溶液中の各金属イオン不純物濃度も、前記高周波誘導結合プラズマ質量分析計により金属分析し、各金属イオン不純物濃度(Na,Fe)を求めた(測定サンプル: 高分子化合物溶液または高分子化合物の乾粉1.5gを蒸留精製したN-メチル-2-ピロリドンで100倍希釈したサンプル、測定法:標準添加法)。
【0041】
残存酸触媒(pTSA)量測定方法
高分子化合物の乾粉1.0gをアセトニトリル21ml、水9mlの混合溶液に溶解し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:島津理化製LC−20A、分離カラム:GL Science Intersil ODS−2)にて、残pTSAの定量を行った。
【0042】
[合成例1]
1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(67.12g,0.258mol)、デカヒドロ−2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(65.36g, 0.258mol)、p−トルエンスルホン酸−水和物(pTSA)(2.606g,13.7mmol)、およびアニソール(79.60g)を三口フラスコに充填し、Dean-Starkトラップを用いて脱水および脱メタノール反応を行いながら130℃で9時間重合させた後、50℃まで冷却し、トリエチルアミン(1.386g,13.7mmol)を加えて反応を停止させた。その後、テトラヒドロフラン(THF)(89.4g)で希釈し、ヘキサン(580.0g)とIPA(1740.0g)の混合物に再沈殿し、下記式(1)に示すポリエステル系高分子化合物(重量平均分子量:7,260、収率:約43%)を得た。
尚、再沈殿する前の重合液中の金属イオン不純物濃度は、Na50ppm、Fe40ppmであった。
【0043】
【化1】

【0044】
[合成例2]
1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(67.12g,0.258mol)、デカヒドロ−2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(65.36g, 0.258mol)、p−トルエンスルホン酸−水和物(pTSA)(2.606g,13.7mmol)、およびアニソール(79.60g)を三口フラスコに充填し、Dean-Starkトラップを用いて脱水および脱メタノール反応を行いながら130℃で9時間重合した。その後、テトラヒドロフラン(THF) (89.4g)で希釈して、テトラメトキシグリコールウリル(TMGU)(25.64g,80.55mmol)を添加し、20℃で6時間反応させてトリエチルアミン(1.386g,13.7mmol)を加えて反応を停止させた。この反応液を、ヘキサン(580.0g)とIPA(1740.0g)の混合物に再沈殿し、下記式(2)に示す側鎖に架橋剤が付加されたポリエステル系高分子化合物(重量平均分子量:8,520、収率:約41%)を得た。
尚、再沈殿する前の重合液中の金属イオン不純物濃度は、Na40ppm、Fe30ppmであった。
【0045】
【化2】

【0046】
[実施例1]
各金属イオン不純物濃度1.5ppb以下の陰イオン交換樹脂(ORGANO Amberlyst B20−HG・Dry)(5.00g)をTHFにて洗浄し、乾燥した。この陰イオン交換樹脂に、合成例1で得られた高分子化合物(9.00g)をTHF(21.00g)に溶解した高分子化合物溶液を加えて5時間攪拌し、残存酸触媒(pTSA)の除去を行った。陰イオン交換樹脂とのスラリー溶液を濾別して得られた濾液(該高分子化合物溶液)を、ヘキサンと2−プロパノールの混合物(ヘキサン/2−プロパノール=1/3質量比)の貧溶媒にて再沈殿し、ポリエステル系高分子化合物を得た。
得られた高分子化合物を、40℃で60時間減圧乾燥し、高分子化合物乾粉の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)、金属イオン不純物濃度、残pTSAを測定した。
【0047】
[実施例2]
各金属イオン不純物濃度1.5ppb以下の陰イオン交換樹脂(ORGANO Amberlyst B20−HG・Dry)(5.00g)をTHFにて洗浄し、乾燥した。この陰イオン交換樹脂に、合成例2で得られた高分子化合物(9.00g)をTHF(21.00g)に溶解した高分子化合物溶液を加えて5時間攪拌し、酸触媒(pTSA)の除去を行った。その後、実施例1と同様の方法で処理し、得られた高分子化合物乾粉の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)、金属イオン不純物濃度、残pTSAを測定した。
【0048】
[比較例1]
合成例1で得られた高分子化合物(9.00g)を、THF(21.00g)に溶解した高分子化合物溶液を、陰イオン交換樹脂に接触させずに、ヘキサンと2−プロパノールの混合物(ヘキサン/2−プロパノール=1/3質量比)の貧溶媒にて再沈殿し、ポリエステル系高分子化合物を得た。
得られた高分子化合物を、40℃で60時間減圧乾燥し、高分子化合物乾粉の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)、金属イオン不純物濃度、残pTSAを測定した。
【0049】
[比較例2]
合成例2で得られた高分子化合物(9.00g)をTHF(21.00g)に溶解した高分子化合物溶液を、陰イオン交換樹脂に接触させずに、ヘキサンと2−プロパノールの混合物(ヘキサン/2−プロパノール=1/3質量比)の貧溶媒にて再沈殿し、ポリエステル系高分子化合物を得た。
得られた高分子化合物を、40℃で60時間減圧乾燥し、高分子化合物乾粉の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)、金属イオン不純物濃度、残pTSAを測定した。
【0050】
[比較例3]
各金属イオン不純物濃度2.5ppbの陰イオン交換樹脂(ORGANO Amberlyst B20−HG・Dry)(5.00g)をTHFにて洗浄し、乾燥した。この陰イオン交換樹脂に、合成例1で得られた高分子化合物(9.00g)をTHF(21.00g)に溶解した高分子化合物溶液を加えて5時間攪拌し、酸触媒(pTSA)の除去を行った。その後、実施例1と同様の方法で処理し、得られた高分子化合物乾粉の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)、金属イオン不純物濃度、残pTSAを測定した。
【0051】
[比較例4]
各金属イオン不純物濃度3.5ppbの陰イオン交換樹脂(ORGANO Amberlyst B20−HG・Dry)(5.00g)をTHFにて洗浄し、乾燥した。この陰イオン交換樹脂に、合成例1で得られた高分子化合物(9.00g)をTHF(21.00g)に溶解した高分子化合物溶液を加えて5時間攪拌し、酸触媒(pTSA)の除去を行った。その後、実施例1と同様の方法で処理し、得られた高分子化合物乾粉の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)、金属イオン不純物濃度、残pTSAを測定した。
【0052】
[比較例5]
各金属イオン不純物濃度2.5ppbの陰イオン交換樹脂(ORGANO Amberlyst B20−HG・Dry)(5.00g)をTHFにて洗浄し、乾燥した。この陰イオン交換樹脂に、合成例2で得られた高分子化合物(9.00g)をTHF(21.00g)に溶解した高分子化合物溶液を加えて5時間攪拌し、酸触媒(pTSA)の除去を行った。その後、実施例1と同様の方法で処理し、得られた高分子化合物乾粉の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)、金属イオン不純物濃度、残pTSAを測定した。
【0053】
[比較例6]
各金属イオン不純物濃度3.5ppbの陰イオン交換樹脂(ORGANO Amberlyst B20−HG・Dry)(5.00g)をTHFにて洗浄し、乾燥した。この陰イオン交換樹脂に、合成例2で得られた高分子化合物(9.00g)をTHF(21.00g)に溶解した高分子化合物溶液を加えて5時間攪拌し、酸触媒(pTSA)の除去を行った。その後、実施例1と同様の方法で処理し、得られた高分子化合物乾粉の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)、金属イオン不純物濃度、残pTSAを測定した。
【0054】
[比較例7]
各金属イオン不純物濃度3.5ppbの陰イオン交換樹脂(ORGANO Amberlyst B20−HG・Dry)(5.00g)をTHFにて洗浄し、乾燥した。この陰イオン交換樹脂に、合成例2で得られた高分子化合物(9.00g)をTHF(21.00g)に溶解した高分子化合物溶液を加えて5時間攪拌し、酸触媒(pTSA)の除去を行った。さらに、陰イオン交換樹脂とのスラリー溶液を濾別して得られた濾液(該高分子化合物溶液)を、あらかじめ超純水、THFにて洗浄した陽イオン交換樹脂(ダウエックスTM 50Wx8)(5.00g)に加えて、5時間攪拌し、金属イオン不純物の除去を行った。その後、実施例1と同様の方法で処理し、得られた高分子化合物乾粉の重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)、金属イオン不純物濃度、残pTSAを測定した。
【0055】
前記実施例および比較例で得られた高分子化合物乾粉の、重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)、金属イオン不純物濃度、残pTSAの測定結果を表1または2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1および2より、実施例1および2の場合、各金属イオン不純物濃度が100ppb以下かつ酸不純物(残pTSA)濃度が100ppm以下を満たす、高純度な高分子化合物を製造することが可能である。
一方、比較例1および2の場合には、陰イオン交換樹脂との接触させる工程が無いため、残pTSA量が低減されていない。
また、比較例3〜6の場合には、金属イオン不純物濃度が高い陰イオン交換樹脂を使用しているため、残pTSA量は低減しているものの、各金属イオン不純物濃度が、陰イオン交換樹脂処理前と比較して大幅に増加している。
さらに、比較例7の場合には、高分子化合物溶液中の金属イオン不純物を除去するために陽イオン交換樹脂と接触させたために、高分子化合物の側鎖に付加している架橋剤が反応し、架橋反応が進行(MwおよびMzの増加)していることが判断できる。
以上より、本発明によって、金属イオン不純物濃度が100ppb以下かつ酸不純物濃度が100ppm以下となる、半導体リソグラフィー用高分子化合物、および該高分子化合物の製造方法を提供することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)〜(c)を含む各金属イオン不純物濃度が100ppb以下かつ酸不純物濃度が100ppm以下となる半導体リソグラフィー用高分子化合物の製造方法。
(a)酸触媒の存在下で、高分子化合物を得る工程、
(b)前記工程(a)で得られた高分子化合物溶液、または、前記高分子化合物溶液を貧溶媒中で再沈澱精製した高分子化合物を再溶解した溶液を、各金属イオン不純物濃度2.0ppb以下の陰イオン交換樹脂に接触させる工程、
(c)前記陰イオン交換樹脂に接触させた高分子化合物溶液を、貧溶媒中で再沈澱し、高分子化合物を製造する工程
【請求項2】
前記陰イオン交換樹脂に接触させる溶液が、各金属イオン不純物濃度が50ppb以下である請求項1記載の半導体リソグラフィー用高分子化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で得られた半導体リソグラフィー用高分子化合物。

【公開番号】特開2012−207058(P2012−207058A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71518(P2011−71518)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】