説明

半導体基板加熱用基板保持体

【課題】 抵抗発熱体に高い電圧を印加しても、温度均一性を犠牲にすることなく、抵抗発熱体の周囲の絶縁性を良好に維持できる基板保持体を提供する。
【解決手段】 半導体基板Wの載置面1aとは反対側の面もしくは内部に半導体基板Wの加熱用の抵抗発熱体2を備えた基板保持体1であって、抵抗発熱体2は円弧状パターン21aおよび折り返しパターン21bを交互に接続して構成される同心円状部分21と、同心円状部分21を構成する複数の折り返しパターン21bのうち、互いに向かい合う折り返しパターン21b同士の間の領域に延在する直線状部分22とからなり、抵抗発熱体2に給電するための1対の給電端子3が同心円状部分21に接続されている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板加熱用の基板保持体に関し、特に半導体基板にプラズマCVD、減圧CVD、メタルCVDなどの処理を施す半導体製造装置に用いられる、抵抗発熱体を備えた基板保持体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体デバイスの製造プロセスでは、成膜処理に代表される処理工程において、被処理物であるシリコンウェハなどの半導体基板を保持しながら加熱する基板保持体が用いられている。この基板保持体は、その表面に半導体基板を載置するための基板載置面が設けられており、基板載置面とは反対側の面もしくは基板保持体の内部に、半導体基板を加熱するための抵抗発熱体が設けられている。
【0003】
抵抗発熱体で加熱される半導体基板の温度は、例えば成膜処理においては、半導体基板上に成膜される膜の膜厚や膜質に大きな影響を与える。そのため、加熱の際は、半導体基板の温度均一性を確保すること(すなわち、半導体基板の温度を全面に亘って均一にすること)が、製品となる半導体デバイスの品質や生産性の向上に極めて重要となる。
【0004】
かかる基板温度の均一性を確保するため、これまで様々な技術が提案されてきた。例えば、特許文献1には、並列接続された複数の線状発熱体からなる抵抗発熱体群を連続して形成し、さらに線状発熱体を適宜切断することにより抵抗発熱体群の抵抗値を調整し、温度均一性を向上させる技術が開示されている。また、特許文献2には、抵抗値を調整するネジ付きの抵抗値調整手段を備えた抵抗発熱体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−317283号公報
【特許文献2】特開2005−197161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、高誘電率絶縁膜などの従来にはなかった材質を半導体基板上に成膜する場合が増えており、これに伴い従来の500℃以下の温度よりも高い温度(例えば700℃以上)で成膜することが必要になることがある。このように成膜温度が高くなっても、これまでと同様に半導体基板の温度均一性は重要であるが、成膜温度の上昇に伴いかかる温度均一性とは別の新たな課題が判明してきている。
【0007】
すなわち、上記したように成膜温度が高くなることに伴い、半導体基板の昇温に、従来に比べて高い電圧を抵抗発熱体に印加する必要が生じ、これにより抵抗発熱体の周囲の絶縁体には従来よりも高い電位勾配が発生する。その結果、抵抗発熱体の周囲の絶縁体が絶縁性を維持できなくなり、隣接する抵抗発熱体の間で漏電が発生したり、さらには絶縁破壊による基板保持体の破損が発生したりする問題が生じるおそれがあることが判明した。
【0008】
上記電位勾配は(隣接する両抵抗発熱体間の電位差)/(当該両抵抗発熱体間の距離)で計算されるため、上記課題の対処法としては、当該隣接する抵抗発熱体間の距離を大きくして電位勾配を小さくすることが考えられる。しかし、隣接する抵抗発熱体間の距離を大きくすれば、当該両抵抗発熱体間の領域では温度が低下し、温度均一性が悪化してしまう。
【0009】
上記課題は、従来はなかった多様な材質が半導体デバイスに使用されるようになり、近年、高温での成膜処理が行われるようになったことに伴って顕著になったものであり、従来の500℃以下の成膜温度では特に考慮する必要がなかったものである。本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、基板保持体の抵抗発熱体に従来よりも高い電圧を印加しても、温度均一性を犠牲にすることなく、抵抗発熱体の周囲の絶縁体の絶縁性を維持することができる基板保持体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、抵抗発熱体を所定のパターンで形成することにより顕著な効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明の半導体基板加熱用の基板保持体は、半導体基板の載置面とは反対側の面もしくは内部に半導体基板の加熱用の抵抗発熱体を備えた基板保持体であって、前記抵抗発熱体は円弧状パターンおよび折り返しパターンを交互に接続して構成される同心円状部分と、該同心円状部分を構成する複数の折り返しパターンのうち、互いに向かい合う折り返しパターン同士の間の領域に延在する直線状部分とからなり、前記抵抗発熱体に給電するための1対の給電端子が該同心円状部分に接続されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の基板保持体に比べて高い電圧を抵抗発熱体に印加しても、温度均一性を犠牲にすることなく、抵抗発熱体の周囲の絶縁体の絶縁性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の半導体基板加熱用の基板保持体の一具体例を模式的に示す縦断面図である。
【図2】図1の基板保持体をX−X線に沿って切断したときの模式的断面図であり、基板保持体を平面視したときの抵抗発熱体の一パターン例が示されている。
【図3】図2のA−A部における抵抗発熱体およびその周囲の絶縁体の電位分布を模式的に示すグラフである。
【図4】従来の半導体基板加熱用の基板保持体を平面視したときの抵抗発熱体のパターンの一具体例が示されている。
【図5】図4のB−B部における抵抗発熱体およびその周囲の絶縁体の電位分布を模式的に示すグラフである。
【図6】従来の半導体基板加熱用の基板保持体を平面視したときの抵抗発熱体パターンの他の具体例が示されている。
【図7】図6のC−C部における抵抗発熱体およびその周囲の絶縁体の電位分布を模式的に示すグラフである。
【図8】従来の半導体基板加熱用の基板保持体を平面視したときの抵抗発熱体パターンのさらに他の具体例が示されている。
【図9】図8のD−D部における抵抗発熱体およびその周囲の絶縁体の電位分布を模式的に示すグラフであり、比較のため図3の電位分布も示されている。
【図10】本発明の半導体基板加熱用の基板保持体を平面視したときの抵抗発熱体の他のパターン例が示されている。
【図11】本発明の半導体基板加熱用の基板保持体の他の具体例を示す縦断面図である。
【図12】実施例で使用したウェハ温度計が具備する測温素子の配置位置を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の半導体基板加熱用の基板保持体の一具体例について説明する。図1に示すように、本発明の一具体例の基板保持体1は、その内部に導体ペーストの塗布および焼成などにより形成された抵抗発熱体2が埋設されている。基板保持体1は略円板形状を有しており、半導体基板Wの載置面1aとは反対側の面の略中心部に、1対の給電端子3が植設されている。この1対の給電端子3の一端部は、抵抗発熱体2に電気的に接続している。一方、基板保持体1の裏面から露出している他端部は、図示しない導体ロッドやリード線に電気的に接続しており、これにより図示しない外部電源から抵抗発熱体2に給電できるようになっている。
【0014】
かかる構造の基板保持体1は、例えばプラズマCVD、減圧CVD、メタルCVDなどの処理を施す半導体製造装置のチャンバ内に設置され、半導体デバイスの製造に供される。例えば成膜処理の際は、外部電源から1対の給電端子3を介して抵抗発熱体2に電圧が印加され、これにより発生するジュール熱によって基板保持体1およびその載置面1a上の半導体基板Wが所定の温度まで加熱される。この状態で半導体基板Wに対して所定の成膜処理が施される。
【0015】
図2は、図1に示す基板保持体1をX−X線に沿って切断したときの模式的断面図であり、基板保持体1を平面視したときの抵抗発熱体2の一パターン例が示されている。この抵抗発熱体2は、複数の円弧状パターン21aおよび複数の折り返しパターン21bが1つずつ交互に接続して構成される同心円状部分21と、この同心円状部分21を構成する複数の折り返しパターン21bのうち、互いに向かい合う折り返しパターン21b同士の間の領域に延在する直線状部分22とからなる。そして、抵抗発熱体2に給電するための1対の給電端子3が、直線状部分22ではなく同心円状部分21に接続されている。
【0016】
より具体的に説明すると、直線状部分22は、基板保持体1の半径方向に、基板保持体1の端から端に亘って一往復するように延在している。そして、この直線状部分22を挟んだ基板保持体1の両側に同心円状部分21が1つずつ形成されている。直線状部分22の両末端部は、基板保持体1の外周縁部に配置されており、これら両末端部に、直線状部分22の両側に位置する同心円状部分21の端部がそれぞれ接続している。つまり、直線状部分22を介して2つの同心円状部分21が互いに接続している。なお、図2のパターンでは、これら2つの同心円状部分21は、直線状部分22に関して線対称になっている。
【0017】
直線状部分22の両側に位置する同心円状部分21は、各々、上記直線状部分22との接続部から基板保持体1の周方向に沿って基板保持体1の最外周部を約半周に亘って延在した後、直線状部分22の近傍で約180°折り返す。そして、上記最外周部の抵抗発熱体の内周部側を基板保持体1の周方向に沿って再び約半周に亘って延在した後、直線状部分22の近傍で再び約180°折り返す。以降、同様にして中心部に到達するまで円弧状パターン21aと折り返しパターン21bとを交互に繰り返すことによって、全体として略同心円状の同心円状部分21が構成される。
【0018】
さらに、各同心円状部分21は、基板保持体1の中心に最も近い円弧状パターン21aまたはそこから必要に応じて延在させた延長部のいずれかに位置する各同心円状部分21の末端部に、1対の給電端子3の片方が接続している。なお、図2のパターン例では、各同心円状部分21は、6つの円弧状パターン21a、5つの折り返しパターン21b、および最も中心に近い位置の円弧状パターン21aから基板保持体1の中心部に植設された給電端子3まで延びる1つの延長部によって構成されている。
【0019】
このように、円弧状パターン21aと折り返しパターン21bとを交互に接続して構成される同心円状部分21を、基板保持体1の半径方向に延在する直線状部分22の両側に1つずつ設けることによって、2つの同心円状部分21のそれぞれの折り返しパターン21bを、直線状部分22を挟んで基板保持体1の周方向において互いに向かい合わせることが可能となる。換言すれば、同心円状部分21を構成する複数の折り返しパターン21bのうち、互いに向かい合う折り返しパターン21b同士の間の領域に、直線状部分22を延在させることが可能となる。
【0020】
かかる構成により、高い電圧を抵抗発熱体2に印加しても、載置面1aに載置される半導体基板Wの温度均一性を犠牲にすることなく、抵抗発熱体2の周囲の絶縁体の絶縁性を維持することができる。これは、前述したように、同心円状部分21を構成する複数の折り返しパターン21bのうち、互いに向かい合う折り返しパターン21b同士の間の領域に直線状部分22を延在させ、抵抗発熱体2に給電するための給電端子3を同心円状部分21に接続することによるものである。これについて、図2のA−A部における抵抗発熱体2およびその周囲の絶縁体の電位分布を模式的に示すグラフである図3を参照しながら説明する。
【0021】
すなわち、図2のパターンを有する本発明の基板保持体の一具体例では、周方向において向かい合う2つの折り返しパターン21b同士の間の領域に直線状部分22が延在しているため、比較的高い電位差を有するこれら2つの折り返しパターン21b間の距離を十分に離すことができる。その結果、図3に示すように、向かい合う折り返しパターン21b間の電位勾配を小さくすることが可能となる。
【0022】
これに対して、互いに向かい合う折り返しパターン21b同士の間の領域に直線状部分22を介在させることなく、折り返しパターン21bの周囲の絶縁体内部における電位勾配を図3の場合と同等もしくはそれ以下にする場合は、例えば図4に示すようなパターンで抵抗発熱体を形成することが必要となる。この図4のB−B部における抵抗発熱体およびその周囲の絶縁体の電位分布を模式的に示すグラフを図5に示す。
【0023】
これら図3と図5を比較して分かるように、図5では絶縁体内部での電位勾配の最大値を図3のものとほぼ同じにするため、向かい合う抵抗発熱体同士の間隔を広げる必要がある。そのため、図4のパターンに示されるように、向かい合う折り返しパターン21b同士の間に幅広の帯状領域24を設けることが必要となり、この帯状領域24において基板加熱時の昇温が不十分になって温度均一性を損なうおそれがある。これに対して、図2のパターンでは、向かい合う折り返しパターン21b同士の間に中間的な電位を持った直線状部分22を介在させているため、隣接する抵抗発熱体同士の間隔(すなわち絶縁体の幅)を、図4のものに比べて約半分以下にすることができる。
【0024】
向かい合う折り返しパターン21b同士の間に直線状部分22を介在させることなく、かつ上記した帯状領域24を設けない場合は、抵抗発熱体のパターンは例えば図6のようなパターンとなる。この図6のパターンは、隣接する折り返しパターン21b同士の間の距離が図2のパターンとほぼ同じなので、温度均一性の点では問題はない。
【0025】
しかしながら、図6のC−C部における抵抗発熱体およびその周囲の絶縁体の電位分布を模式的に示す図7のグラフから分かるように、図7では絶縁体の電位勾配が、図3や図5に比べて著しく急勾配になっている。その結果、図6のパターンでは、抵抗発熱体への電圧印加時に絶縁体において漏電または絶縁破壊が発生する恐れがある。このように、向かい合う折り返しパターン21b間に局所的な低温領域を発生させないために、直線状部分を形成するのではなく、単に向かい合う折り返しパターン21b間の間隔を狭めた場合は、絶縁体に問題が発生し得る。
【0026】
互いに向かい合う折り返しパターン21b同士の間に直線状部分22を介在させてはいるものの、抵抗発熱体に給電するための1対の給電端子3が同心円状部分21に接続されていないパターンとしては、例えば図8のような場合が考えられる。この図8のパターンは図2のパターンに類似しているが、図8のD−D部における抵抗発熱体およびその周囲の絶縁体の電位分布と、図2のA−A部における抵抗発熱体およびその周囲の絶縁体の電位分布とを比較する図9のグラフから分かるように、両者は大きく異なっている。具体的には、図2よりも図8のパターンの方が電位勾配が大きくなっている。
【0027】
図2のパターンにおいて電位勾配をなだらかにすることができる理由は、向かい合う折り返しパターン21b間に中間的な電位を持った直線状部分22が介在しているからである。これに対して、図8のパターンのように、1対の給電端子3のいずれか、あるいは両方が同心円状部分21に接続されていない場合は、1対の給電端子3に接続する2箇所の接続部の間で延在する抵抗発熱体の略中間部分に直線状部分22が位置しないので、直線状部分22の電位が抵抗発熱体の中で中間的な電位とはならない。そのため、向かい合う折り返しパターン21bと直線状部分22との間で大きな電位勾配が生じてしまう。
【0028】
以上、本発明の半導体基板加熱用の基板保持体について一具体例を挙げて説明したが、本発明はかかる具体例に限定されるものではなく、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で種々の代替例や変形例を考えることができる。
【0029】
例えば、上記一具体例の基板保持体1は、1本の抵抗発熱体2が1対の給電端子3の一方の接続部から他方の接続部まで延在する直列回路で構成されていたが、かかる構成に限定されるものではなく、例えば図10に示すパターンのように、抵抗発熱体12が並列回路で構成されていてもよい。具体的には、この図10に示すパターンでは、基板保持体11の半径方向に延在する2つの直線状部分122が互いに向かい合うように配置されている。
【0030】
各直線状部分122の両側には、略扇型の同心円状部分121が1つずつ設けられており、これら2つの同心円状部分121は直線状部分122を介して互いに接続している。さらに、上記向かい合う2つの直線状部分122に対して同じ側に位置する2つの同心円状部分121同士は、基板保持体11の中心に最も近い位置に存在する円弧状パターン121aから延びる延長部同士が接続している。そして、これら延長部の接続部分に給電端子3が接続している。
【0031】
上記図10に示すパターンにおいても、図2と同様に温度均一性を犠牲にすることなく、抵抗発熱体周囲の絶縁体の絶縁性を維持することができる。さらに並列回路の場合は、直列回路に比べて1対の給電端子3の一方の接続部から他方の接続部に至るまでの距離を短くすることができるので、抵抗値を下げることができる。つまり、直列回路に比べて加熱時により多くの電流を流すことができるので、高い電力が必要な高温用途には特に好適である。また、昇温速度を高めることができるので、成膜時のスループットを上げることも可能となる。
【0032】
さらに、上記一具体例の基板保持体1は、1個の抵抗発熱体2が基板保持体1の載置面1aから一定の深さに埋設されたものであったが、かかる構造に限定されるものではなく、基板保持体の載置面とは反対側の面に露出するように抵抗発熱体を設けてもよい。あるいは、2個以上の抵抗発熱体を使用し、これらをそれぞれ基板保持体の厚み方向において異なる位置に設けてもよい。
【0033】
図11には、2個の抵抗発熱体32a、32bが半導体基板の載置面31aから異なる深さに埋設された基板保持体31の例が示されている。このように複数個の抵抗発熱体を設ける場合は、少なくともいずれかが図2や図10に示すようなパターンを有している限り、複数の抵抗発熱体のパターン同士が同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。このように複数個の抵抗発熱体を配置することによって、抵抗発熱体の個数に比例して供給できる電力が増加するため、高温用途においてより一層好適となる。
【0034】
なお、図11では2個の抵抗発熱体32a、32bにそれぞれ給電するため、2対の給電端子33a、33bが設けられている。また、上記の抵抗発熱体は、図面では模式的に箔状のように示したが、抵抗発熱体の形状は箔状に限定されるものではなく、これ以外に例えばコイル状などの様々な形状を使用することができる。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
窒化アルミニウム(AlN)の粉末99.5重量部に対して、酸化イットリウム(Y)を0.5重量部添加し、さらにアクリルバインダーおよび有機溶剤を加え、ボールミルにて24時間混合して、AlNスラリーを作製した。このスラリーからスプレードライ法により顆粒を作製し、得られた顆粒をプレス成形して2枚の成形体を得た。各成形体を700℃の窒素雰囲気中で脱脂した後、1850℃の窒素雰囲気中で焼結して窒化アルミニウム(AlN)焼結体を作製した。これら2枚のAlN焼結体を機械加工して、各々直径330mm、厚さ10mmの円板とした。各AlN焼結体は、上下面の表面粗さがRa0.8μm、平面度が50μmであった。
【0036】
次に、平均粒径が2.0μmのタングステン(W)粉末100重量部に対して、Y1重量部と、バインダーとしてのエチルセルロース5重量部とを混合し、さらに溶剤としてのブチルカルビトールを添加してWペーストを作製した。このWペーストをスクリーン印刷により上記2枚のAlN焼結体のうちの一方の片面に塗布し、図2に示す抵抗発熱体のパターンを形成した。これを800℃の窒素雰囲気中で脱脂した後、1800℃の窒素雰囲気中で6時間焼成し、抵抗発熱体を形成した。
【0037】
次に、AlNが20重量部、Yが30重量部、残部がAlからなる粉末に、バインダーと有機溶剤とを加えてセラミックスペーストを作製した。このセラミックスペーストを、上記AlN焼結体の抵抗発熱体が形成された面の全面にスクリーン印刷により塗布した。これを乾燥させた後、800℃の窒素雰囲気中で脱脂した。この脱脂後、上記AlN焼結体の抵抗発熱体が形成された面に、もう1枚のAlN焼結体を重ね合わせた。そして、これら2枚のAlN焼結体に対して、1800℃の窒素雰囲気中で圧力2MPa×2時間のホットプレスを行い、基板保持体を作製した。
【0038】
この基板保持体の片面側から、抵抗発熱体が露出するようにザグリ加工を行った。露出した抵抗発熱体にニッケルメッキを施した直径8mm、長さ20mmのW製の給電端子を接続した。更に、基板保持体の給電端子の設置側の面の中央に、温度測定用の測温素子を設置するための内径1.7mm、深さ7mmの有底孔を設けた。この有底孔に測温素子を設置して試料1の基板保持体を完成させた。なお、基板載置面は、給電端子および測温素子を設置した面とは反対側の面になる。
【0039】
以降、抵抗発熱体のパターンを図2に代えて他のパターンにした以外は、上記試料1の基板保持体と同様にして、試料2、3、4および5の基板保持体を作製した。すなわち、試料2は図4のパターン、試料3は図6のパターン、試料4は図8のパターン、試料5は図10のパターンとした。
【0040】
これら試料1〜5の基板保持体を、それぞれ基板載置面を上にして半導体製造装置内に設置した。各基板保持体の基板載置面には、直径300mmのシリコンウェハを載置した。このシリコンウェハには、測温素子8が図12に示すように25ヶ所配置されたウェハ温度計7を設置しておいた。この状態で半導体製造装置内を真空にし、抵抗発熱体に電力を供給した。
【0041】
そして、基板保持体に設置した測温素子にて測定される温度が500℃になるまで、5℃/分の昇温速度で基板保持体を加熱した。500℃に達した後、その温度に20分間保持した。保持した後、ウェハ温度計7で示される25個の温度の最高値と最低値の差(以下、この差を温度バラツキと称する)を測定し、これを温度均一性の指標とした。
【0042】
その後引き続き、5℃/分の昇温速度で基板保持体を700℃まで加熱した。700℃に達した後、その温度に20分間保持した。保持した後、上記と同様にして温度バラツキを測定した。なお、抵抗発熱体への給電に用いた外部電源の定格電圧は200Vであった。また、700℃まで昇温する前に漏電が発生し、電流が不安定になった試料は、その時点で昇温を中止した。以上の結果を下記表1に示す。
【0043】
[表1]

【0044】
上記表1から分かるように、本発明の抵抗発熱体パターンを形成した試料1および試料5では、700℃まで問題なく昇温することができた。また、500℃および700℃のいずれにおいても高い温度均一性を確保することができた。なお、試料1では700℃昇温時の所要電圧が定格値近くに達しているのに対し、試料5では700℃昇温時の所要電圧が定格値に比べ大幅に低かった。よって、試料5の場合は、昇温時にさらに高い電圧を印加して大電力を与えることが可能であることが分かる。
【0045】
これらに対して試料2では、700℃まで問題なく昇温することができたが、図4の帯状領域24の温度低下の影響により、500℃および700℃のいずれにおいても温度均一性が大幅に悪化した。また試料3および試料4では、500℃における温度均一性は良好であったが、漏電が発生して電流が不安定になったため、700℃まで昇温することができなかった。
【0046】
[実施例2]
AlN顆粒をプレス成形して成形体を得るところまでは実施例1と同様にして、直径330mm、厚さ10mmのAlN成形体を2枚作製した。これらの成形体に、抵抗発熱体としてのモリブデン製のコイルを挿入するための溝加工をそれぞれ施した。溝加工は挿入後のコイルの形状が図2に示すパターンとなるように行った。これら2枚のAlN成形体を、溝加工を施した面同士が向かい合うよう対向させ、これらの間にモリブデンコイルと窒化アルミニウムの顆粒とを挿入してプレス成形した。
【0047】
次に、このプレス成形体にたいして700℃の窒素雰囲気中で脱脂し、さらに1800℃の窒素雰囲気中で圧力2MPa×2時間のホットプレスを行い、基板保持体を作製した。得られた基板保持体に実施例1と同様にして給電端子および測温素子を設置して、試料6の基板保持体を完成させた。
【0048】
以降、抵抗発熱体のパターンを図2に代えて他のパターンにした以外は、上記試料6の基板保持体と同様にして、試料7、8、9および10の基板保持体を作製した。すなわち、試料7は図4のパターン、試料8は図6のパターン、試料9は図8のパターン、試料10は図10のパターンとした。これら試料6〜10の基板保持体に対して、実施例1と同様にして昇温試験を実施した。その試験結果を下記の表2に示す。
【0049】
[表2]

【0050】
上記表2から、表1と同様の結果が得られていることが分かる。すなわち、本発明の抵抗発熱体パターンを形成した試料6および試料10では、700℃まで問題なく昇温することができ、かつ500℃および700℃のいずれにおいても高い温度均一性を有している。また、試料10においては、700℃昇温時の所要電圧が定格値に比べ大幅に低いため、昇温時にさらに高い電圧を印加して大電力を与えることが可能である。
【0051】
これらに対して試料7では、700℃まで問題なく昇温することができたが、図4の帯状領域24の温度低下の影響により、500℃および700℃のいずれにおいても温度均一性が大幅に悪化した。また試料8および試料9では、500℃における温度均一性は良好であったが、漏電が発生して電流が不安定になったため、700℃まで昇温することができなかった。
【符号の説明】
【0052】
1 基板保持体
1a 載置面
2 抵抗発熱体
3 給電端子
7 ウェハ温度計
8 測温素子
21 同心円状部分
21a 円弧状パターン
21b 折り返しパターン
22 直線状部分
24 帯状領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の載置面とは反対側の面もしくは内部に半導体基板の加熱用の抵抗発熱体を備えた基板保持体であって、前記抵抗発熱体は円弧状パターンおよび折り返しパターンを交互に接続して構成される同心円状部分と、該同心円状部分を構成する複数の折り返しパターンのうち、互いに向かい合う折り返しパターン同士の間の領域に延在する直線状部分とからなり、前記抵抗発熱体に給電するための1対の給電端子が該同心円状部分に接続されていることを特徴とする半導体基板加熱用の基板保持体。
【請求項2】
前記互いに向かい合う折り返しパターン同士は前記基板保持体の周方向において向かい合っており、前記直線状部分は前記基板保持体の半径方向に延在していることを特徴とする、請求項1に記載の半導体基板加熱用の基板保持体。
【請求項3】
前記同心円状部分は前記直線状部分の両側に1つずつ設けられており、これら2つの同心円状部分は互いに前記直線状部分を介して接続していることを特徴とする、請求項1または2に記載の半導体基板加熱用の基板保持体。
【請求項4】
前記直線状部分は、前記1対の給電端子との接続部の間で延在する前記抵抗発熱体の略中間に位置していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の半導体基板加熱用の基板保持体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−26428(P2013−26428A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159544(P2011−159544)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】