説明

半導体封入用外套管の製造方法及び半導体封入用外套管

【課題】低温で半導体素子を封入可能であり、しかも耐酸性に優れた半導体封入用外套管を製造する方法を提供する。
【解決手段】10dPa・sの粘度に相当する温度が650℃以下であり、Bが15.5モル%以上の組成を有するSiO−B−RO系無鉛ガラスにてガラス管を作製する工程と、前記ガラス管をpH3〜6の酸性溶液又はpH8〜12のアルカリ性溶液で表面処理する工程とを含む半導体封入用外套管を製造方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封入用外套管の製造方法に関し、具体的にはシリコンダイオード、発光ダイオード、サーミスタ等の半導体素子の封入に用いられる半導体封入用外套管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーミスタ、ダイオード、LED等の半導体素子は、気密封入が必要になる。従来、半導体素子を気密封入するための外套管は、鉛ガラス製のものが使用されてきたが、近年は特許文献1や特許文献2に紹介されるSiO−B−RO(Rはアルカリ金属元素)系の組成を有する無鉛ガラスで作製したものも提案されている。
【0003】
半導体封入用外套管は、ガラス原料を溶融窯で溶融し、溶融ガラスを管状に成形した後、得られたガラス管を長さ約2mm程度に切断して、洗浄し、ビーズと呼ばれる短いガラス外套管を得ている。半導体封入部品の組み立ては、半導体素子とジュメット線等の金属線を外套管に挿入し、加熱することにより行われる。この加熱により、外套管端部でガラスが軟化して金属線を熔封し、半導体素子を管内に気密封入することができる。このようにして作製された半導体封入部品は、管外に露出した金属線の酸化膜を除去する目的で酸処理やメッキ処理等が行われる。
【0004】
半導体封入用外套管を構成する半導体封入用ガラスには、(1)素子が劣化したり、金属の降伏点を越えて弾性を失うことによる金属線の接触不良が生じたりしないように、低温で封入できること、(2)金属線の熱膨張係数に整合した熱膨張係数を有すること、(3)ガラスと金属線の接着性が十分に高いこと、(4)体積抵抗が高いこと、(5)酸処理、メッキ処理等によって劣化しないように耐薬品性、特に耐酸性が十分に高いこと、等の特性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2002−37641号公報
【特許文献2】米国特許第7102242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、外套管材質として鉛ガラスが採用されていた理由は、低融点化が容易であることによる。しかも鉛ガラスは、硫酸溶液に接するとガラス表面に硫酸に難溶性の硫酸鉛層が形成されるために耐硫酸性に優れている。それゆえ半導体素子封入後の酸処理やメッキ処理で外套管表面が劣化することがない。ところが、SiO−B−RO系の無鉛ガラスは、このような硫酸に難溶性の層が表面に形成されないことから、耐酸性が低いという欠点がある。耐酸性の低いガラスを酸処理やメッキ処理すると、ガラス表面が劣化して細かいクラックが生じる。ガラス表面にこのようなクラックが存在すると様々な汚れや水分が付着しやすく、素子の表面抵抗が下がって電気製品の不具合を生じることがある。ところが耐酸性を向上させるために、ガラス組成中のSiOなどのガラスの骨格成分の含有量を増やしたり、アルカリ金属成分の含有量を減らしたりすると、低温封入が困難になる。
【0007】
本発明の課題は、低温で半導体素子を封入可能であり、しかも耐酸性に優れた半導体封入用外套管を製造する方法と、この方法によって作製された半導体封入用外套管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等の検討の結果、Bを多量に含有する低粘性のSiO−B−RO系無鉛ガラスで作製した外套管を液体で表面処理して耐酸バリア層を形成することにより、上記課題を解決できることを見いだし、本発明として提案するものである。
【0009】
本発明の半導体封入用外套管の製造方法は、SiO−B−RO系無鉛ガラスにてガラス管を作製する工程と、前記ガラス管を酸性溶液又はアルカリ性溶液で表面処理する工程とを含むことを特徴とする。「RO」とは、アルカリ金属酸化物であるLiO、NaO及び/又はKOを意味する。「無鉛」とは、ガラス原料として積極的に鉛原料を添加しないという意味であり、不純物等からの混入を完全に排除するものではない。より客観的には、ガラス中に含まれるPbOの含有量が、不純物を含めて0.1質量%以下であると定義することができる。「酸性溶液」とはpH6以下の溶液を意味し、「アルカリ性溶液」とはpH8以上の溶液を意味する。
【0010】
酸がガラスを劣化させるメカニズムは、次のように考えられる。まず酸性溶液中のプロトンがガラス中のアルカリ金属成分とイオン交換する。またガラスの網目構造を形成するSi成分が水和してガラス構造が弱められる。さらにB成分等のSi以外の網目構造成分が溶け出してSiのゲルができる。これが溶液中に拡散して新しい表面ができると、またイオン交換が始まるというものである。それゆえプロトンとガラス中のアルカリ金属成分とのイオン交換反応を抑制できれば、ガラスの耐酸性を向上させることができる。
【0011】
そこで上記本発明では、表面処理によって、ガラス表面のアルカリ金属成分をプロトンとイオン交換し、アルカリ金属成分の含有量が少ないイオン交換層をガラス表面に形成しようというものである。このイオン交換層の存在によって、後の酸処理やメッキ処理でのイオン交換反応を起こし難くすることができる。
【0012】
本発明の方法においてはSiO−B−RO系無鉛ガラスの10dPa・sの粘度に相当する温度が650℃以下であることが好ましい。ここで「10dPa・sの粘度に相当する温度」とは、以下の方法で求めた温度を意味する。まずASTM C338に準拠するファイバ法により軟化点を測定する。また白金球引き上げ法により作業点領域の粘度に相当する温度を求める。次にこれらの粘度と温度をFulcherの式に当てはめて、10dPa・sにおける温度を算出する。なお10dPa・sの粘度に相当する温度は、半導体素子を封入する温度に相当する。
【0013】
本発明の方法においては、特にpH3〜6の酸性溶液、又はpH8〜12のアルカリ性溶液を用いて表面処理することが好ましい。
【0014】
既述の通り、予めガラス表面をイオン交換しておくことにより、ガラス表面のアルカリ金属成分の含有量を減少させておくことができる。ところがイオン交換を必要以上に行うと、ガラス表面にSiを主成分とする硬い層が形成されてしまう。半導体素子封入時の熱処理によって外套管内面が軟化して表面積が減少し内径が縮小すると、この硬い層は軟化し難いことから、折り畳まれた状態となり易く、これが白いシワに見える。このシワは気密不良の原因となる。
【0015】
このような場合に上記構成を採用すれば、過度のイオン交換反応を抑制し、ガラスの網目構造を破壊しない程度にアルカリを選択的に溶出させることが容易になる。また表面にSiを主成分とする硬い層が形成されにくくなり、素子封入のための熱処理を行っても外套管表面にシワが発生し難くなる。
【0016】
本発明の方法においては、Bが15.5モル%以上の組成を有するSiO−B−RO系無鉛ガラスにてガラス管を作製することが好ましい。より具体的には、モル%で、SiO 46〜60%、Al 0〜6%、B 15.5〜30%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、ZnO 0〜20%、LiO 0〜25%、NaO 0〜15%、KO 0〜7%、TiO 0〜8%含有するSiO−B−RO系無鉛ガラスにてガラス管を作製することが好ましい。
【0017】
SiO−B−RO系無鉛ガラスにおいて、Bは封入温度(10dPa・sの粘度に相当する温度)を低温化する効果がある。その反面、Bはガラスの耐酸性を低下させる成分である。よってBを多量に含有するSiO−B−RO系無鉛ガラスで半導体封入用外套管を作製する場合に本発明の方法を適用すれば、顕著な効果を享受することができる。
【0018】
本発明の半導体封入用外套管は、上記方法により作製されてなることを特徴とする。
【0019】
上記方法により作製された外套管は、その表面にアルカリ含有量が少ないイオン交換層が形成され、この層が耐酸性バリア層として機能する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法を用いて作製した半導体封入用外套管は、低温で半導体素子を封入できる。また耐酸性に優れるため、素子封入後に酸処理を施しても、イオン交換による表面の微細なクラックが生じ難いことから信頼性の高い半導体封入部品を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の方法は、10dPa・sの粘度に相当する温度が650℃以下であるSiO−B−RO系無鉛ガラスを用いてガラス管を作製する工程と、前記ガラス管を酸性溶液又はアルカリ性溶液で表面処理する工程とを含む。
【0022】
まず10dPa・sの粘度に相当する温度が650℃以下であるSiO−B−RO系無鉛ガラスを用いてガラス管を作製する工程について説明する。
【0023】
この工程において使用するSiO−B−RO系無鉛ガラスは、10dPa・sの粘度に相当する温度が620〜650℃、特に620〜635℃であることが好ましい。10dPa・sの粘度の温度は、概ね半導体素子の封入温度に相当する。それゆえ本発明の方法で作製される外套管は、650℃以下で半導体素子を封入することができる。なお10dPa・sの粘度の温度を650℃以下とするためには、LiOをアルカリ成分の中でも多く含有させること、Bを多量に含有すること等により達成することができる。
【0024】
上記SiO−B−RO系無鉛ガラスは、10dPa・sの粘度に相当する温度が1000℃以下、特に950〜965℃であることが好ましい。10dPa・sの粘度に相当する温度はガラスを溶融する温度である。それゆえ本発明に使用するSiO−B−RO系無鉛ガラスは、低温でエネルギー消費を抑えて溶融することができる。なお10dPa・sの粘度に相当する温度を1000℃以下とするためには、アルカリ金属酸化物やZnOを増量することにより達成することができる。特にこの温度を965℃以下にするにはZnOを7.4%以上とすることが望ましい。
【0025】
上記SiO−B−RO系無鉛ガラスは、ジュメットとシールするために、30℃〜380℃の範囲における熱膨張係数が85〜105×10−7/℃であることが好ましい。
【0026】
上記SiO−B−RO系無鉛ガラスは、体積抵抗が極力高いことが好ましい。具体的には150℃における体積抵抗値が、Logρ(Ω・cm)で7以上、特に9以上、さらには10以上であることが望ましい。また200℃程度の高温でダイオード等を使用する場合には、250℃における体積抵抗値がLogρ(Ω・cm)で7以上あることが望ましい。なおガラスの体積抵抗が低いと、例えばダイオードの場合は電極間にわずかに電気が流れるようになり、あたかもダイオードに平行して抵抗体を設置したような回路を生じてしまう。
【0027】
10dPa・sの粘度に相当する温度が650℃以下であるSiO−B−RO系無鉛ガラスとしては、Bが15.5モル%以上の組成を有するSiO−B−RO系無鉛ガラス、より具体的には、モル%で、SiO 46〜60%、Al 0〜6%、B 15.5〜30%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、ZnO 0〜20%、LiO 0〜25%、NaO 0〜15%、KO 0〜7%、TiO 0〜8%含有するSiO−B−RO系無鉛ガラスが好適に使用できる。なお上記組成は一例であり、この範囲に限定されるものではない。
【0028】
ガラス組成を上記の範囲に限定した理由を以下に説明する。なお、以下の%表示は、特に断りがある場合を除き、モル%を指す。
【0029】
SiOは、主成分でありガラスの安定化に重要な成分である。また耐酸性の向上に大きな効果がある。一方、SiOは封止温度を上昇させる成分でもある。SiOの含有量は46〜60%、好ましくは46〜59.9%、より好ましくは48.2〜57.9%、さらに好ましくは50.2〜53.7%である。SiOの含有量が少なすぎると上記した効果を享受し難くなる。逆にSiOの含有量が多すぎると低温封入が困難になる。
【0030】
Alは、Siを含有する結晶の析出を抑え、また耐水性を高める成分である。一方、Alはガラスの粘性を上昇させる成分でもある。Alの含有量は0〜6%、好ましくは0.1〜4%、さらに好ましくは0.4〜3%である。Alの含有量が少なすぎると上記した効果が得られなくなる。逆にAlの含有量が多すぎるとガラスの粘性が高くなり過ぎて成形性が低下し易くなる。また低温封入が困難になる。
【0031】
は、ガラスを安定化させる成分であるとともに、ガラスの粘性を低下させる成分である。一方、Bは耐薬品性を低下させる成分でもある。Bの含有量は15.5〜30%、好ましくは15.8〜25%、さらに好ましくは16.1〜18.2%である。Bの含有量が少なすぎると上記した効果を享受し難くなる。逆にBの含有量が多すぎると耐酸性が悪くなる。
【0032】
アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)はガラスを安定化させる効果が高い。その一方で、10dPa・sの粘度に相当する温度が650℃以下のガラスにおいては、アルカリ土類金属酸化物によるガラスの低温化効果は期待できず、むしろ封入温度を上昇させるおそれがある。このためアルカリ土類金属酸化物の総量は少ない方が好ましく、その含有量は合量で0〜10%、0〜8%、特に0〜6%であることが望ましい。なお各アルカリ土類金属酸化物成分については以下に述べる。
【0033】
MgOとCaOの含有量は、各々0〜10%、好ましくは各々0〜5%、さらに好ましくは各々0〜2%である。MgOやCaOの含有量が多すぎるとガラスの粘度が高くなり溶融が困難になる。なおCaOは上記したアルカリ土類金属酸化物共通の効果に加えて、耐薬品性を向上させる効果もある。
【0034】
ZnOはアルカリ金属酸化物に比べて膨張を上げずに、また耐酸性を劣化させずにガラスの粘性を低下させることができる成分である。ZnOの含有量は0〜20%、好ましくは1〜15%、さらに好ましくは2〜12%である。ZnOが多すぎるとガラスが失透し易くなる。
【0035】
アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KO)は、ガラスの粘性を下げたり、膨張を上げたりする効果がある。特にLiOはガラスの粘性を低下させる効果が高いこと、及びイオン半径が小さくプロトンとイオン交換されてもガラスがあまり体積収縮しないことから、上記組成のガラスでは必須成分として使用することが好ましい。一方、アルカリ金属酸化物の総量が多すぎると、膨張が高くなりすぎてジュメット等の金属線との間でクラックを生じる。またガラスの耐酸性を悪化させる。それゆえアルカリ金属酸化物は合量で10〜30%、特に20〜30%、21〜28%であることが好ましい。なお各アルカリ金属酸化物成分については以下に述べる。
【0036】
LiOは上記したようにガラスの粘性を低下させる効果が大きく、イオン半径が小さいためガラス内の移動速度が大きく、またクラックを生じにくいため、本発明の効果を高めるためには極力多く導入することが望ましい。その含有量が多くなるとLiを含有する結晶を生じさせやすいが、アルカリの減少率を他のアルカリよりも緩和させる効果がありシワを改善できる。このためLiOの含有量は0〜25%、好ましくは0.1〜25%、より好ましくは4〜20%、特に好ましくは5〜19%、さらに好ましくは9〜19%である。LiOの含有量が少なすぎると上記した効果を享受し難くなる。一方、LiOの含有量が多すぎると失透し易くなる。
【0037】
また上述の通り、LiOはガラスの粘度を下げる効果とクラックの発生を防止する効果が最も高いので、本発明ではアルカリ金属酸化物の総量に占めるLiOの割合を一定以上とすることが望ましい。LiOを含有させる場合、LiO/(LiO+NaO+KO)の値がモル%基準で0.05〜0.9、特に0.1〜0.9、さらには0.3〜0.8とすることが好ましい。なおこの値が大きすぎるとガラス中に結晶が生じる可能性がある。
【0038】
また封入温度の低温化の観点から、LiO/SiOの値をモル%基準で0.05〜0.5、特に0.1〜0.4、さらには0.15〜0.35とすることが好ましい。なおこの値が小さすぎると650℃での封入が難しくなり、逆に大きすぎるとガラス中に結晶を生じて失透するおそれがある。
【0039】
NaOは上記したアルカリ金属共通の効果の他にガラスを安定化させて失透を防止する効果があり、ガラスの安定化を考慮して導入することが望ましい。NaOの含有量は0〜15%、好ましくは1〜15%、より好ましくは2〜13%、さらに好ましくは5〜11%である。NaOの含有量が少なすぎると上記した効果を享受し難くなる。一方、NaOの含有量が多すぎると、失透し易くなる。
【0040】
Oは上記したアルカリ金属共通の効果の他にガラスを安定化させ失透を防止する効果がある。その一方でKOはLiOに比較してクラックを生じさせ易い。またガラスの粘性を下げる効果が小さい。KOの含有量は0〜7%、好ましくは0.6〜3%、さらに好ましくは0.6〜2.3%である。KOの含有量が多すぎると失透し易くなる。
【0041】
TiOは耐酸性を高めるために添加する成分である。その一方でTiOはガラスの耐失透性を悪化させやすいという特徴がある。このためTiOを過剰に含有させると金属や耐火物との接触によってガラスが容易に失透し、この失透物の影響によって得られるガラスの寸法精度が低下するという問題を引き起こす虞がある。TiOの含有量は0〜8%、好ましくは0.6〜5%、さらに好ましくは1.1〜5%、さらに好ましくは1.1〜4%である。
【0042】
また耐酸性を向上させるために、SiOとTiOの含有量を合量で48.5〜61%、特に51〜58%、さらには52.1〜56.5%とすることが好ましい。SiOとTiOの合量が少なすぎると耐酸性の向上に効果がない。SiOとTiOの合量が多すぎるとガラスが固くなって低温で封入しづらくなる。
【0043】
また上記成分以外にも、ガラスの特性を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。例えばCeOを清澄剤として添加可能である。この場合、CeOの含有量は0〜5%、特に0.1〜3%であることが好ましい。またガラスの粘性を低下させるためにFを0.5%まで、耐薬品性を向上させるためにBiを25%まで、Laを10%まで、ZrOを5%まで含有させることができる。ただしAs、Sb等環境上好ましくない成分は添加すべきでない。具体的にはAsやSbの含有量は0.1%以下に制限される。
【0044】
SiO−B−RO系無鉛ガラスを用いたガラス管の作製を工業的規模で行う場合、例えば次のようにして行うことができる。なお以下の方法は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
まずガラス原料を調合混合する。原料は、酸化物や炭酸塩など複数の成分からなる鉱物や不純物からなっており、分析値を考慮して調合すればよく、原料は限定されない。これらを重量換算で計測し、Vミキサーやロッキングミキサー、攪拌羽根のついたミキサーなど規模に応じた適当な混合機で混合し、投入原料を得る。
【0046】
次に原料をガラス溶融炉に投入し、ガラス化する。溶融炉は、ガラス原料を溶融しガラス化するための溶融槽と、ガラス中の泡を上昇除去するための清澄槽と、清澄されたガラスを成形に適当な粘度まで下げ、成形装置に導くための通路(フィーダー)とを有するものが一般的である。溶融炉は、耐火物や内部を白金で覆った炉が使用され、バーナーによる加熱やガラスへの電気通電によって加熱される。投入された原料は通常1100℃〜1600℃の溶解槽でガラス化され、さらに1100℃〜1400℃の清澄槽に入る。ここでガラス中の泡を浮上させて泡を除去する。清澄糟から出たガラスは、フィーダーを通って成形装置に移動するうちに温度が下がり、ガラスの成形に適した粘度10〜10dPa・sになる。
【0047】
次いで成形装置にてガラスを管状に成形する。成形法としてはダンナー法、ベロ法、ダウンドロー法、アップドロー法が適用可能である。
【0048】
その後、ガラス管を所定の寸法に切断することにより、ビーズ状の半導体封入用外套管を得ることができる。ガラス管の切断加工は、管1本ずつをダイヤモンドカッターで切断することも可能であるが、大量生産に適した方法として、多数の管ガラスを1本に結束してからダイヤモンドホイールカッターで切断し、一度に多数の管ガラスを切断する方法が一般的に用いられている。
【0049】
次に、前記ガラス管を酸性溶液又はアルカリ性溶液で表面処理する工程について説明する。
【0050】
この工程において処理液として使用する酸性溶液はpH6以下、アルカリ性溶液はpH8以上である。酸性溶液或いはアルカリ性溶液にてガラス表面を処理することにより、ガラス表面にイオン交換層が形成され、これがバリア層として機能する。
【0051】
ただし処理液の酸性やアルカリ性が強すぎるとガラスの網目構造が破壊され、耐酸性の改善効果が失われたり、シワが発生したりする可能性がある。それゆえpH3〜6、特にpH4〜6の酸性溶液、或いはpH8〜14、特にpH8〜13、さらにはpH8〜12のアルカリ性溶液を使用することが好ましい。特に、弱アルカリ性溶液を使用することが望ましい。弱酸性溶液、或いは弱アルカリ性溶液でガラス表面を処理すれば、アルカリ金属成分の溶出速度を低下させることができる。その結果、ガラスの最表面からガラス内部までのアルカリ金属成分含有量の減少率が緩やかになり、最表面と内部との組成差に起因するシワの発生を効果的に抑制することができる。
【0052】
この工程において使用する処理液の温度は限定されないが、40℃以上、特に60℃以上、さらには70℃以上であることが望ましい。処理液の温度が高いほど処理時間を短縮することができる。なお処理液の温度の上限は100℃であることが望ましい。処理液の温度が低いとバリア層として機能するイオン交換層を作製することが困難になる。一方、処理液の温度が高すぎると安定した処理を行なうことが難しくなる。
【0053】
なお処理時間は短いほど生産効率が高く好ましいが、短時間すぎると安定した処理を行うことが難しくなる。それゆえ処理時間は、2分程度以上であることが望ましい。
【0054】
上記処理液、処理条件にてガラス管を表面処理する方法として、例えば次のような方法を採用することができる。
【0055】
まず所定の寸法に成形、切断されたガラス管(ビーズ)を処理液に浸漬し、一定時間保持した後、処理液から引き上げる。処理液として使用する酸性溶液は、HCl、HSO、HNO、CHCOOH等の水溶液が使用可能である。アルカリ性溶液としては、NaOH、KOH、NHOH等の水溶液が使用可能である。またこれらの水溶液には、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を含有させておくこともできる。具体的な処理条件を以下に例示する。
(1)弱アルカリ性溶液(70℃、pH10)に浸漬し、5分間揺動させる。次に界面活性剤入りのアルカリ性界面活性剤液(60℃、pH10)中で5分間超音波振動させる。続いてイオン交換水(室温)で5分間×5回洗浄する。
(2)弱酸性溶液(50℃、pH4)に5分浸漬する。次に界面活性剤入りのアルカリ性溶液(80℃、pH10)中に5分間浸漬する。続いてイオン交換水(室温)で5分間×3回洗浄する。
(3)界面活性剤入りのアルカリ性溶液(50℃、pH12)中に5分間浸漬する。その後、イオン交換水(50℃)で5分間×3回洗浄する。
【0056】
その後、処理液から引き上げた外套管を乾燥することにより、本発明の半導体封入用外套管を得ることができる。なお乾燥温度は、ガラスが変形しない温度であればよく、たとえば歪点で処理することもできる。
【0057】
上記方法により作製された外套管は、その表面にアルカリ含有量が少ないイオン交換層が形成され、この層が耐酸性バリア層として機能する。このイオン交換層は、表面から内部に向かってアルカリ成分の含有量が徐々に減少し、Si成分の含有量が徐々に増加していることが望ましい。なおこれらの成分の含有量の変化は連続的であることがシワを防止する上で望ましい。
【0058】
イオン交換層(耐酸性バリア層)の厚みは耐酸性を発揮させるために1nm以上、特に10nm以上であることが望ましく、一方、シワを防止するために1μm以下にすることが望ましい。
【0059】
また最表面のNaOが、SIMSによるデプスロファイル分析でイオン交換層より内側のNaO測定強度を1とした場合の0.9倍以下、特に0.6倍以下、さらには0.3倍以下であることが望ましい。なおシワ防止の観点からはこの値が0.01倍以上、特に0.1倍以上、さらには0.2倍以上であることが望ましい。また最表面のLiOが、イオン交換層より内側のLiO測定強度を1とした場合の0.9倍以下、特に0.6倍以下、さらには0.3倍以下であることが望ましい。なおシワ防止の観点からはこの値が0.01倍以上、特に0.1倍以上、さらには0.2倍以上であることが望ましい。またガラスの最表面のSiOが、イオン交換層より内側のSiO測定強度を1とした場合の1.1倍以上、特に1.5倍以上、さらには2.0倍以上であることが望ましい。ここでイオン交換層より内側とは、Siやアルカリ金属成分のデプスプロファイルを二次イオン質量分析法(SIMS)で分析した時にその含有量が変化しなくなった深さよりも内側を意味する。この深さは、例えば表面から100nmの深さを基準とすることができる。なおイオン交換層の境界が判別し難い場合を考慮すれば、400nmの深さを基準とすることが好ましい。また、連続的に減少するアルカリ含有量が表面で濃くなる場合やCが検出される場合など表面が汚染されていると判断される場合は、Naのデプスプロファイルの最小値を表面とする。
【0060】
次に本発明の方法を用いて作製した半導体封入用外套管を用いて半導体素子を封入する方法を述べる。
【0061】
まず外套管内で、ジュメット線などの金属線が半導体素子を両側から挟み込んだ状態となるように冶具を用いてセットする。その後、全体を650℃以下の温度に加熱し、外套管を軟化変形させて半導体素子を気密封入する。
【0062】
ところで上記方法により作製された半導体素子の気密封入体は、外部に露出した金属線端部の表面に熱処理の影響で酸化膜が形成されており、このままの状態では半田コーティング、Snメッキ、Niメッキ等を施すことができない。そのため気密封入体に酸処理を施して、金属線端部表面に形成された酸化膜を剥離することが行われる。酸処理としては、50℃の有機スルホン酸で5〜10分間処理したり、36N硫酸80質量%に過酸化水素(15%)を0.1質量%添加したもので80℃20秒間処理したり、36N硫酸5%で20〜80℃で1分間処理したりする方法が採用される。
【0063】
続いて、金属線の酸化膜が取り除かれた気密封入体を市水で洗浄した後、SnやNi硫酸メッキ、或いは半田ディップなどの工程を経て金属線端部が被覆することにより、シリコンダイオード、発光ダイオード、サーミスタなどの小型の電子部品を作製することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。なお本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0065】
表1は、本発明で使用するSiO−B−RO系無鉛ガラスの組成例を示している。
【0066】
【表1】

【0067】
各試料は次のようにして調製した。ます表中に記載のガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1200℃で3時間溶融し、成形して各種の評価に供した。なおガラス原料としては、珪石粉、酸化アルミニウム、硼酸、酸化亜鉛、炭酸リチウム、硝酸ソーダ、炭酸カリウム、酸化チタン、酸化セリウム等を使用した。
【0068】
次に得られた試料について、熱膨張係数、10dPa・sにおける温度を評価した。結果を表1に示す。
【0069】
次に、本発明の方法を用いて、試料No.1及びNo.8のガラスからなる外套管試料を作製した。
【0070】
次に得られた試料について、熱処理前後の耐酸性を評価した。熱処理は、半導体素子の封入を想定したものであり、表面処理後の試料をカーボン板に載せて、封入温度に保持した炉に8分間投入することにより行った。この熱処理により、試料の端面部分が軟化変形して丸みを帯び、また内径が1/3〜半分程度に収縮する。
【0071】
なお表面処理は次の条件で行った。まず、1.4×0.9×φ1.5mmの寸法に成形したガラス管を、目開き1mmのステンレス製籠に入れ、界面活性剤入り水溶液(50℃、pH12)中に5分間浸漬した後、イオン交換水(50℃)で5分間×3回洗浄した。その後、ガラス管を乾燥機に投入し、200℃で乾燥させて試料とした。
【0072】
また比較のために、表面処理前のガラス管についても、同様の方法で耐酸性を評価した。結果を表2に示す。

【0073】
【表2】

【0074】
表2から明らかなように、本発明の方法で作製した外套管試料は、良好な耐酸性を有していた。また熱処理後の試料について、その表面を40倍の光学顕微鏡で観察したところ、シワは認められなかった。
【0075】
なお熱膨張係数は、直径約3mm、長さ約50mmの円柱状の測定試料を用いて、熱膨張計により30〜380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数を測定した値である。
【0076】
封入温度は次のようにして求めた。まずASTM C338に準拠するファイバ法により軟化点を測定した。次に、白金球引き上げ法により作業点領域の粘度に相当する温度を求めた。最後に、これらの粘度と温度をFulcherの式に当てはめて、10dPa・sにおける温度を算出し、これを封入温度とした。10dPa・sにおける温度も同様に求めた。
【0077】
耐酸性は次のようにして評価した。まず試料を各3個、36N硫酸20質量%溶液に60秒間浸漬したのち、イオン交換水で60秒洗浄し、120℃で2時間以上乾燥させた。その後、試料表面を100倍の顕微鏡で観察し、ランダムに見た3箇所の表面におけるクラック数を合計し、1つ以下の場合を「○」、2つ以上の場合を「×」とした。
【0078】
次に、表面処理後の試料No.1について、外表面のSi、Na及びLiのデプスプロファイルを二次イオン質量分析法(SIMS)で調べたところ、約50nmの表面層が検出され、100nmの深さに対する表面部分の測定強度を1とした場合で、Siの場合で3倍、NaとLiが各々0.2倍であることが確認された。また各成分とも連続的に変化していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の方法は、シリコンダイオード、発光ダイオード、サーミスタ、サージアブソーバー等の半導体素子の封入に用いられるガラス外套管の製造方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO−B−RO系無鉛ガラスにてガラス管を作製する工程と、前記ガラス管を酸性溶液又はアルカリ性溶液で表面処理する工程とを含むことを特徴とする半導体封入用外套管の製造方法。
【請求項2】
SiO−B−RO系無鉛ガラスの10dPa・sの粘度に相当する温度が650℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体封入用外套管の製造方法。
【請求項3】
pH3〜6の酸性溶液、又はpH8〜12のアルカリ性溶液を用いて表面処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体封入用外套管の製造方法。
【請求項4】
が15.5モル%以上の組成を有するSiO−B−RO系無鉛ガラスにてガラス管を作製することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の半導体封入用外套管の製造方法。
【請求項5】
モル%で、SiO 46〜60%、Al 0〜6%、B 15.5〜30%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、ZnO 0〜20%、LiO 0〜25%、NaO 0〜15%、KO 0〜7%、TiO 0〜8%含有するSiO−B−RO系無鉛ガラスにてガラス管を作製することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の半導体封入用外套管の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの方法により作製されてなることを特徴とする半導体封入用外套管。


【公開番号】特開2012−140259(P2012−140259A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292606(P2010−292606)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】