半導体用ボンディングワイヤおよびその製造方法
【課題】狭ピッチ化、細線化、長ワイヤ化において高強度で、高曲げ剛性であること、高いボール部接合性およびウェッジ接合性を有すること、工業的な量産性、高速ボンディング使用性にも優れていること、などを兼備する半導体素子用ボンディングワイヤを提供する。
【解決手段】導電性の金属からなる外周部2と、前記金属を主成分とする合金からなる芯線1と、さらにその芯線と外周部の間に拡散層3を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤである。また、導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤである。
【解決手段】導電性の金属からなる外周部2と、前記金属を主成分とする合金からなる芯線1と、さらにその芯線と外周部の間に拡散層3を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤである。また、導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子上の電極と外部リードを接続するために使用される半導体ボンディングワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体素子上の電極と外部端子との間を接合するボンディングワイヤとしては、線径20−50μm程度で、材質は高純度4N系(純度> 99.99質量%)の金であるボンディングワイヤが主として使用されている。金ボンディングワイヤの接合技術としては、超音波併用熱圧着方式が一般的であり、汎用ボンディング装置、ワイヤをその内部に通して接続に用いるキャピラリ冶具などが必要である。ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、表面張力によりボールを形成させた後に、 150〜300 ℃の範囲内で加熱した半導体素子の電極上にこのボール部を圧着接合せしめ、その後で、直接ワイヤを外部リード側に超音波圧着により接合させる。
【0003】
近年、半導体実装の構造・材料・接続技術などは急速に多様化しており、例えば実装構造では、現行のリードフレームを使用したQFP (Quad Flat Packaging) に加え、基板、ポリイミドテープなどを使用するBGA (Ball Grid Array) 、CSP (Chip Scale Packaging)などの新しい形態が実用化され、ループ性、接合性、量産使用性などをより向上したボンディングワイヤが求められている。そうしたワイヤの接続技術でも、現在主流のボール/ウェッジ接合のほかに、狭ピッチ化に適したウェッジ/ウェッジ接合では、二箇所の部位で直接ワイヤを接合するため、細線の接合性の向上が求められる。
ボンディングワイヤの接合相手となる材質も変化しており、シリコン基板上の配線、電極材料では、従来のAl合金に加えて、より微細配線に好適なCuが実用化されている。また、高密度配線のために電極膜の厚さは薄くなる傾向にあり、ワイヤ先端のボール部を接合する際に、その直下の半導体基板にクラックなどのダメージを与えることが懸念されている。さらに、半導体の小型化、高密度化を進めるために、これまで実現が困難とされていた、電極膜下に素子を形成した半導体の開発が始まっており、ボール接合時のダメージを軽減することの重要性が高まっている。これらの接合相手の動向に応じるために、ボンディングワイヤの接合性、接合部信頼性を向上することが求められる。
【0004】
こうした半導体素子の高集積化、高密度化などのニーズに対応するために、金ボンディングワイヤ接続のニーズも多様化しており、なかでも、(1)狭ピッチ化、(2)細線化、(3)多ピン・長ワイヤ化、(4)小ボール接合性、(5)接合部のチップ損傷の軽減などが要求されている。
例えば、高粘性の熱硬化エポキシ樹脂が高速注入される樹脂封止工程では、ワイヤが変形して隣接ワイヤと接触することが問題となり、しかも、狭ピッチ化、長ワイヤ化、細線化も進むなかで、樹脂封止時のワイヤ変形を少しでも抑えることが求められている。ワイヤ強度の増加により、こうした変形をある程度コントロールすることはできるものの、ループ制御が困難となったり、接合時の強度が低下するなどの問題が解決されなくては実用化は難しい。
【0005】
これらの要求に対応するためには、ボンディング工程におけるループ制御が容易であり、しかも電極部、リード部への接合性も向上されており、ボンディング以降の樹脂封止工程におけるワイヤ変形を抑制することができるなどの、総合的な特性を満足することが求められる。
【0006】
これまで、ボンディングワイヤを高強度化する手段として、複数の合金元素を添加することが主流であった。現在主流の高純度系金ボンディングワイヤでは、合金元素の添加は数ppm 〜数十ppm に制限されており、ループ制御性、接合性などには優れているものの、ワイヤ変形の抑制、ボール形成時の熱影響部(ネック部)の強度などは十分ではなかった。最近、添加量を増やして総計で1%程度まで添加した高濃度合金ワイヤが、一部のICで使用され始めているが、樹脂封止時のワイヤ変形を改善する効果は十分ではなく、リード側への接合性が低下するなどの問題が懸念されていた。
【0007】
金に代わるワイヤ素材も検討されているが、例えば、銅ワイヤでは、ワイヤの高強度化とボール部の軟化とを両立させることが困難であり、一般的なLSI などには使用されていない。また、セラミックスパッケージ用途のウェッジ−ウェッジ接合には、アルミワイヤが用いられているが、樹脂封止された場合に表面腐食の問題や、高濃度に合金元素を添加すると接合性が低下するなどの問題が生じており、汎用的に使用することは困難である。
【0008】
高強度化を達成する別方法では、芯線と外周部が異なる金属からなるボンディングワイヤ(以下、2層ボンディングワイヤと呼ぶ)が提案されており、例えば、特許文献1ではAg芯線をAu被覆したワイヤについて、特許文献2では、芯線を導電性金属とし表面をAuメッキしたワイヤについて、特許文献3では、Pt/Pt合金の芯線とその外周部をAg/Ag合金とするワイヤなどが、開示されている。他にも、2層を構成する材料が同種金属でありながら濃度の異なる材料である場合として、例えば、特許文献4では、Ca,Beなどを含有するAu合金の芯線とその外周部を同様の低濃度のAu合金とするワイヤについて開示されている。これらは、芯線と外周部で異なる金属を組み合わせることにより、汎用製品の全てに相当する、単一部材で構成されたワイヤ(以下、単層ボンディングワイヤと呼ぶ)では困難である特性を総合的に満足することが期待される。また、特許文献5では、表面に合金元素あるいは高濃度合金が被覆され、外周部から中心部に連続的に合金元素の濃度を変化させているボンディングワイヤについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭56−21354号公報
【特許文献2】特開昭59−155161号公報
【特許文献3】特開平4−79246号公報
【特許文献4】特開平4−252196号公報
【特許文献5】特開平3−135040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現行の単層ボンディングワイヤでは、高強度化するために合金元素の添加量を増加させると、ボール部の表面酸化および引け巣の発生などにより接合性が低下したり、また、ワイヤ表面の硬化、酸化などにより、ウェッジ接合性が低下し、製造歩留まりが低下する問題が生じる。また添加量の増加により電気抵抗は上昇する傾向にあり、特に、高周波用途のICでは、そうした電気抵抗の過剰な増加は信号遅延の原因として懸念される。
【0011】
そうした、単層ボンディングワイヤでは対応困難な課題に対応する手段の一つとして、芯線と外周部とを異種材料で構成する2層ボンディングワイヤを始め、多層構造のボンディングワイヤに関して、多くの素材の組合せが提案されている。しかしながら、2層ボンディングワイヤはこれまで実用化に到っておらず、実際の半導体において評価された実例もほとんど報告されていないのが実情である。
【0012】
その理由として、これまで提案されている2層ボンディングワイヤにおいて芯線と外周部で異なる部材とすることで、量産するうえで、芯線と外周部で所定の比率を得るための製造技術、品質管理などが非常に困難であり、また、特定の特性は向上しても、芯線とその外周部との密着性の低下などがあり、多くのワイヤ要求特性を総合的に満足するのは困難であることなど、多くの問題が残されていた。
本発明者らも、2層ボンディングワイヤの特性などを調査した結果、芯線とその外周部との密着性の低下、芯線と外周部で所定の比率を得るための製造技術、品質管理など、多くの解決すべき問題点があることが確認された。
【0013】
芯線と外周部が異なる金属を主成分とする従来の2層ボンディングワイヤの場合、異種材が単に接触しているだけであったので界面での密着性に関する不具合が多く認められる。伸線加工などを経ることで若干は改善されるものの、それだけでは十分な密着性を得るのは困難である。製造中に、機械的特性の異なる異種金属を同時に伸線加工するため、界面での密着性が十分でないと、ワイヤ長手方向の面積比率のバラツキが生じて、所定の特性を得るのが困難となったり、高速伸線工程での界面剥離、亀裂が生じたりする問題が発生する。また、ワイヤ使用時に高速で、複雑に曲げ変形される際や、接合時に著しく塑性変形される際に、2層ボンディングワイヤの界面の剥離などに関連する不良が発生する。
また、製造中に、機械的特性の異なる異種金属を同時に伸線加工するため、芯線と外周部の面積比率が変化して、所定の特性を得ることが困難である。
【0014】
2層ボンディングワイヤの製造法では、予め作製した2層構造のインゴットあるいは太径ワイヤを、最終線径まで伸線する製造法と、最終径の近傍のワイヤ表面にメッキ、蒸着などにより表層部を形成する方法が考えられるが、いずれとも製造に関連する問題が発生する。前者では、芯線と外周部との界面での密着性が低下したり、機械的特性の異なる異種金属を伸線加工することにより、芯線と外周部の面積比率が初期から変化するなどの問題点も多く、安定した機械的特性を得ることが困難である。一方、後者の製造では、最終に表層部を形成するため、芯線と外周部との界面での密着性が不十分であり、また、滑らかなワイヤ表面を得ることが困難であるなどの問題がおこる。
【0015】
さらに、芯線と外周部に異なる金属を主成分とする異種材を用いることで、ワイヤの強度増加は期待できるものの、ボール接合性の問題が生じる。すなわち、ワイヤが溶融されて形成されるボール部では、芯線材と外周部が混合されて、高濃度に合金化元素を含有する状態となることにより、ボール部の硬化、表面酸化、引け巣発生などが起こり、接合強度が低下したり、ボール接合部直下の半導体基板にクラックなどの損傷を与えることが問題となる。例えば、芯線と外周部とが異種金属を主成分とする場合には、溶融されたボール部での合金化元素の含有量は数%〜数十%にまで達する場合が多いことから考えても、2層ボンディングワイヤの実用化には、ボール接合時の接合強度の確保と半導体基板へのダメージの軽減を満足することが重要となる。
【0016】
また、芯線と外周部で同種の金属を主成分とする2層ボンディングワイヤの場合でも、上記の異種金属を主成分とする場合と同様に、界面での密着性に関する不具合が発生しやすく、例えば、生産性の低下、曲げ変形や接合時の界面剥離や、特性バラツキなどが起こることが問題となる。また、同種の金属を主成分とすることで、異種金属の場合のボール接合ダメージなどの問題は軽減することができるものの、一方で、2層構造であるにも係わらず、現行の単層ワイヤと比較しても強度などの機械的特性を改善することは困難となる。例えば、芯線と外周部との断面積比で決まる混合則に支配される強度、弾性率では、同種金属とすることで類似した特性を有する芯線と外周部の特性に左右され、それを超えることは困難である。すなわち、強度、弾性率では、芯線と外周部との断面積比に支配される混合則に従う場合が多いことから考えても、その強度、弾性率を有する芯線または外周部のどちらかの材料特性を超えることは困難である。
【0017】
そこで強度を増加させるために、芯線および外周部の部材に元素を高濃度添加すれば、単層ボンディングワイヤの場合と同様に、ボール部接合性やウェッジ接合性などが低下する問題が起きてしまう。今後の狭ピッチ化・細線化・長ワイヤ化に対応するには、ループ倒れの抑制、樹脂封止時のワイヤ変形などを抑制することが要求され、これまでの2層ボンディングワイヤよりもさらに機械的特性を向上することが求められており、なかでも、樹脂封止時のワイヤ変形を大幅に抑制するための、曲げ剛性の向上が必要であることを、本発明者らは確認している。
【0018】
また、前述した、表面に合金元素あるいは高濃度合金が被覆され、外周部から中心部にかけて合金元素の濃度が連続的に変化されているボンディングワイヤの場合、最新のボンディング装置およびループ形成、接合条件においても、現行の単層ボンディングワイヤと同等の特性を得ることが困難である。例えば、ワイヤ表面近傍の合金元素濃度が連続的に変化しているだけでは、過酷なループ形成時や、キャピラリ内壁による摩擦などに十分に耐えることは困難であることから、ループ形状がばらついたり、直線性が低下したりする。また、表面の被覆層が数千Å程度であり、しかも濃度変化されていることから、リード部または樹脂基板上のメッキ部へのウェッジ接合時にワイヤが大変形されることで、薄い被覆層がワイヤとメッキ部との接合界面に介在することにより接合強度を低下させる要因となったり、また濃度が異なる層が接合界面に分散していることで、接合界面での拡散挙動が不均一となり、長期の接合信頼性を得るのが困難となることが多い。
【0019】
以上のことから、今後の半導体の実装技術に適応するためにも、ワイヤは個別の要求特性のみ満足するのではなく、総合的に特性を向上する材料開発が求められる。現行の単層ボンディングワイヤの成分設計、2層ボンディングワイヤの材料選定あるいは、単に2層構造とするだけなどでは対応が困難であることから、ループ制御性に優れ、高強度で、しかも接合性、接合強度も向上できるボンディングワイヤが所望されている。
【0020】
本発明では、従来の単層および2層のボンディングワイヤでは同時に満足することが困難であった3つの課題である、狭ピッチ化、細線化、長ワイヤ化において高強度で、高曲げ剛性であること、高いボール部接合性およびウェッジ接合性を有すること、工業的な量産性、高速ボンディング使用性にも優れていること、などを兼備する半導体素子用ボンディングワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前述した目的を達成するための本発明の要旨は次の通りである。
(1)導電性の金属からなる外周部と、前記金属を主成分とする合金からなる芯線と、さらにその芯線と外周部の間に拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(2)導電性の金属からなる芯線と、前記の金属を主成分とする合金からなる外周部と、さらに、その芯線と外周部との間に拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(3)外周部と芯線とが同種の導電性の金属を主成分とする合金からなり、しかも、それぞれの合金中に含有される合金化元素の種類または濃度が、少なくとも一種以上は異なっており、さらに、その芯線と外周部の間に、拡散層、または、拡散層と金属間化合物層の両方を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(4)(2)又は(3)に記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素と同種の金属からなる最表面層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(5)(2)又は(3)に記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素と同種の金属からなる最表面層を有し、さらにその外周部と最表面層の間に拡散層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(6)(1)〜(3)のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素とは異なる、外周部より酸化の少ない金属からなる最表面層を有し、さらにその外周部と最表面層の間に拡散層または金属間化合物層のうち少なくとも1層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(7)導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(8)導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、拡散層および金属間化合物層を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(9)導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる中層と、前記中層の第2の金属とは異なる導電性の金属またはその合金からなる外周部から構成され、さらにその芯線と中層との間、および中層と外周部との間には、拡散層、または、拡散層と金属間化合物層の両方を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(10)(7)〜(9)のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、外周部の主成分金属とは異なる導電性の金属またはその金属を主成分とする合金からなる最表面層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(11)(1)〜(10)のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤを製造する方法において、芯線と外周部の界面に、濃度勾配を有する拡散層、または、濃度勾配を有する拡散層と金属間化合物層の両方を形成させる拡散熱処理を行うことを特徴とする半導体用ボンディングワイヤの製造方法。
(12)(1)〜(10)のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤを製造する方法において、芯線と外周部の界面に、濃度勾配を有する拡散層、または、濃度勾配を有する拡散層と金属間化合物層の両方を形成させる拡散熱処理を行い、その後で伸線加工することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1(a)】芯線1/拡散層3/外周部2の構造の本発明の中間層複合ボンデイングワイヤのワイヤ断面を模式的に示す図である。
【図1(b)】芯線1/金属間化合物層4/外周部2の構造の本発明の中間層複合ボンデイングワイヤのワイヤ断面を模式的に示す図である。
【図1(c)】芯線1/金属間化合物層4/拡散層3/外周部2の構造の本発明の中間層複合ボンデイングワイヤのワイヤ断面を模式的に示す図である。
【図2(a)】拡散層を形成した複合ボンデイングワイヤ試料の断面を、オージェ分光装置を用いてライン分析する方法を模式的に示す図である。
【図2(b)】拡散層が形成されていない複合ボンデイングワイヤ試料の断面を、オージェ分光装置を用いてライン分析する方法を模式的に示す図である。
【図3】オージェ分光装置を用いて、複合ボンディングワイヤの断面をライン分析した結果であり、Auの芯線とAu−20%Pd合金の外周部との組合せのボンディングワイヤにおける、オージェ分光法でライン分析した結果を示しており、拡散層を形成したワイヤ試料図2(a)における結果である。
【図4(a)】Auの芯線とAu−30%Ag合金の外周部との組み合わせの複合ボンデイングワイヤの断面を、オージェ分光装置を用いてライン分析した結果を示す図である。
【図4(b)】Auの芯線とAu−30%Ag合金の外周部との組み合わせの複合ボンデイングワイヤの断面を、オージェ分光装置を用いてライン分析した結果を示す図であり、拡散層が形成されていないワイヤ試料図2(b)における結果である。
【図5(a)】Ag芯線とAu外周部からなる複合ボンデイングワイヤの断面をオージェ分光法でライン分析した結果を示す図であり、拡散層を形成したワイヤ試料図2(a)における結果である。
【図5(b)】Ag芯線とAu外周部からなる複合ボンデイングワイヤの断面をオージェ分光法でライン分析した結果を示す図であり、拡散層が形成されていないワイヤ試料図2(b)における結果である。
【図6(a)】外周部のさらに外側に、芯線および外周部の溶媒元素と同種の金属からなる最表面同種金属層7を設けた、芯線1/金属間化合物層4/外周部2/最表面同種金属層7の構造のボンデイングワイヤを模式的に示す図である。
【図6(b)】外周部のさらに外側に、芯線および外周部の溶媒元素と同種の金属からなる最表面同種金属層7を設けた、芯線1/拡散層3/外周部2/中間層5/最表面同種金属層7の構造のボンデイングワイヤを模式的に示す図である。
【図7(a)】芯線1/金属間化合物層4/中層8/拡散層3/外周部2の構造の3層構造の中間層複合ボンデイングワイヤを模式的に示す図である。
【図7(b)】芯線1/拡散層3/中層8/金属間化合物層4/外周部2の構造の3層構造の中間層複合ボンデイングワイヤを模式的に示す図である。
【図8】オージェ分光装置によるライン分析の結果であり、それぞれ外周部/芯線の組合わせが異なるワイヤで比較している。外周部Au/芯線Au−Ag30%合金の拡散層におけるAg濃度と、外周部Au/芯線Au−Cu3%合金の拡散層におけるCu濃度を示している。
【図9(a)】オージェ分光装置によるワイヤのライン分析の結果であり、芯線Pd−Cu2%−Al4%合金/外周部Pd−Au5%−Ag1%合金のワイヤの場合の金属間化合物層におけるAu,Alの濃度変化を示す図である。
【図9(b)】オージェ分光装置によるワイヤのライン分析の結果であり、芯線Cu−Pd5%−Be1%合金/外周部Cu−Au5%合金のワイヤの場合の金属間化合物層におけるPd,Auの濃度変化を示す図である。
【図10(a)】外周部Au/芯線Au−Cu3%−Ca0.1%合金の構造で線径25μmのワイヤの内部に拡散層を形成した場合の樹脂封止時のワイヤ変形量を示す図である。
【図10(b)】芯線Au/外周部Au−Cu3%合金の構造で線径20μmのワイヤの内部に金属間化合物層を形成した場合の樹脂封止時のワイヤ変形量を示す図である。
【図11】オージェ分光装置によるライン分析の結果であり、それぞれ外周部/芯線の組合わせが異なるワイヤで比較している。本図では、Au/Ag系のAg元素、およびPt/Au系のPt元素についての濃度変化を比較している。
【図12(a)】外周部/芯線の組み合わせがAu/Cu系である場合のワイヤの界面に形成された金属間化合物層のオージェ分光装置によるライン分析の結果を示す図である。
【図12(b)】外周部/芯線の組み合わせがAu/Al系である場合のワイヤの界面に形成された金属間化合物層のオージェ分光装置によるライン分析の結果を示す図である。
【図13(a)】外周部Au/芯線Ptの構造で線径25μmのワイヤの内部にAu−Pt拡散層を形成した場合の樹脂封止時のワイヤ変形量を示す図である。
【図13(b)】外周部Au/芯線Cuの構造で線径20μmのワイヤの内部にAu−Cu系の金属間化合物層を形成した場合の樹脂封止時のワイヤ変形量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係わるボンディングワイヤの構成についてさらに説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「%」はいずれも「 mol%」を意味する。
高強度、高接合性、高生産性などの相反する課題を総合的に解決するためには、本発明の(1)〜(6)に記載のように芯線と外周部を同種の元素をベースとする金属および合金から構成し、さらにその芯線/外周部の間に、それら芯線と外周部を構成する元素からなる拡散層、あるいは、該拡散層と金属間化合物層の両方(両者を総称して中間層と呼ぶ)を形成したボンディングワイヤ(以下、中間層複合ボンディングワイヤと呼ぶ)が有効であり、また、本発明の(7)〜(10)に記載のように、導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、芯線と外周部をそれぞれ構成する元素を各1種以上含有する、拡散層、または、該拡散層と金属間化合物層の両方(両者を総称して中間層と呼ぶ)を形成し、前記拡散層は濃度勾配を有したボンディングワイヤ(以下、中間層複合ボンディングワイヤと呼ぶ)が有効であることを見出した。この中間層複合ボンディングワイヤの利点は、界面での密着性は著しく向上し、しかも機械的特性も大幅に向上することができることにある。
【0024】
ここで、拡散層、金属間化合物層の形成に深く関わる芯線または外周部の部材は、金属と合金に分けることができ、以下では、その合金に含有される元素のうち構成比率の最も高い主成分となる元素を溶媒元素とし、合金化のために含有されている元素を溶質元素と称する。よって、本発明の(1)〜(6)に記載の中間層複合ボンディングワイヤでは、芯線と外周部の部材ともに同一の溶媒元素を使用していることになり、また、本発明の(7)〜(10)に記載の中間層複合ボンディングワイヤは、芯線と外周部の部材とで異なる溶媒元素を使用していることになる。
【0025】
拡散層とは、芯線と外周部を構成する原子が互いに反対方向に移動する相互拡散を起こすことにより、これら元素が混合された領域であり、それらの元素が固溶された状態をしている。図1(a)には、芯線1と外周部2の界面に拡散層3を形成したボンディングワイヤの断面を模式的に示す。その拡散層内に含有される元素の濃度は、基本的には、芯線内部および外周部内部の濃度とは異なる。よって、拡散層の境界は、元素濃度が不連続に変化する界面として確認できる。
【0026】
外周部は、金属であるか、合金の場合には、溶質元素の濃度傾斜をもたない均一化された層であることが必要である。これは、ワイヤの表面域の元素濃度を均一化させることで、ウェッジ接合界面における拡散を安定化させ、常に良好な接合性が得られるためである。こうした、均質化された芯線および外周部は、それぞれ 0.5μm以上確保することで、上記の効果が得られる。さらに、芯線も金属または均一化された合金であることがより好ましい。これにより、芯線/外周部の間に中間層を形成する際に、安定かつ再現よく中間層を形成できるのみならず、伸線加工時の生産性、特性が安定し、ループ形状、接合性なども良好なものを得ることができる。
【0027】
芯線/外周部の界面に形成される中間層は、芯線と外周部との部材の組合わせにより変化させることができ、具体的には、本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤにおいては、芯線と外周部との部材の組合わせが金属−合金の場合には拡散層が形成でき、合金−合金の組み合わせでは、拡散層、金属間化合物層の少なくとも一方を形成することができる。以下に、それぞれのケースについて説明する。
【0028】
まずは芯線と外周部との部材の組合わせが金属−合金の場合には、溶媒元素中に少なくとも1種以上の溶質元素を含有する拡散層を形成できる。この拡散層に含まれる溶質元素の平均濃度(%)は、合金中の溶質元素濃度(%)の1/10又はそれよりも高い濃度であることが望ましい。これは、拡散層中の溶質元素濃度が合金中の溶質元素濃度の1/10又はそれよりも高い濃度であることにより、拡散層/芯線、および拡散層/外周部との両方の界面の密着強度を向上する効果が得られるためである。
【0029】
一方、芯線と外周部との部材が合金−合金の組合せの場合は、前述した溶媒元素を主成分として一部の溶質元素を含有する拡散層の他にも、溶質元素を主成分とする拡散層の形成も機械的特性の向上に有効である。前者の溶媒元素を主成分とする拡散層では、金属−合金の場合に形成される拡散層と同様の構成および効果を得ることができる。一方、後者の溶質元素を主成分とする拡散層は2種以上の溶質元素からなり、拡散層における溶質元素の濃度の総計が60%以上であることがより好ましく、これにより、弾性率を高めてループ形成時の直進性を向上することができる。
【0030】
また、本発明の(7)〜(10)に記載のボンディングワイヤにおいて、拡散層を構成する元素が溶媒元素か溶質元素であるかで分類すると、芯線および外周部を構成する溶媒元素同士からなる拡散層、溶媒元素と溶質元素とからなる拡散層、2種以上の溶質元素のみからなる拡散層に区別されるが、いずれもほぼ同様の効果を得ることが可能である。
【0031】
こうした拡散層の構成元素は、芯線と外周部との組合せにより変化する。芯線と外周部との部材が金属−金属(第1金属−第2金属)の場合に形成される拡散層は、溶媒元素同士(第1金属と第2金属)からなる拡散層のみであるが、金属−合金(第1金属−第2金属の合金、第2金属−第1金属の合金)の組合せでは、溶媒元素同士(第1金属と第2金属合金の溶媒元素、第2金属と第1金属合金の溶媒元素)を主成分とする拡散層と、合金中の溶質元素(第2金属合金の溶質元素、または第1金属合金の溶質元素)と別部材中の溶媒元素(第1金属、または第2金属合金の溶媒元素)とからなる拡散層が形成される場合がある。
【0032】
また、合金−合金(第1金属の合金−第2金属の合金)の組合せでは、それぞれの合金を構成する溶媒元素同士(第1金属合金の溶媒元素と第2金属合金の溶媒元素)を主成分とする拡散層、溶質元素(第1金属合金の溶質元素または第2金属合金の溶質元素)と他部材中の溶媒元素(第2金属合金の溶媒元素または第1金属合金の溶媒元素)とからなる拡散層に加えて、異なる2種の溶質元素(第1金属合金の溶質元素と第2金属合金の溶質元素)を主体とする拡散層を形成させることができる。いずれの組合せでも、溶媒元素同士を主成分とする拡散層が形成される場合が最も多い。また、溶媒元素よりも速く拡散する溶質元素を部材中に含有させることにより、上記の溶質元素を含有する拡散層の形成を促進することが可能である。
【0033】
溶媒元素同士を主成分とする拡散層は、いずれか一方の溶媒元素を少なくとも1%以上含有することが必要である。これは、拡散層の中に1%以上の元素を含有することにより、拡散層/芯線、および拡散層/外周部との両方の界面の密着強度を向上する効果が得られるためである。また、その濃度は3%以上であることがより好ましい。これは、ループ形成中においてキャピラリ内壁とワイヤとの摩擦が上昇しても、良好なループ制御性が確保することができるためである。また、この拡散層は、溶媒元素を主成分とし、さらに一部の溶質元素を含有することにより、拡散層の硬度などを上昇させ、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制する効果を高めることができる。その溶質元素の濃度は、 0.5%以上であることが望ましく、これは、 0.5%以上であれば溶質元素の固溶硬化を利用できるためである。
【0034】
芯線と外周部どちらかに含まれる溶質元素と、他部材の溶媒元素とからなる拡散層では、溶質元素を2%以上含有することにより、良好な密着性および曲げ剛性が得られる。また、異なる2種の溶質元素を主体とする拡散層では、少なくとも一方の溶質元素を3%以上含有することが必要である。これは、3%以上の溶質元素を含有することにより、密着性を向上することができ、しかもその溶質元素が含まれていた芯線または外周部よりも強度を増加させることにより、ワイヤの変形抵抗を高めることができるためである。
【0035】
なお、本発明のボンディングワイヤにおいては、拡散層の内部の元素濃度は均一である必要はなく、濃度勾配が形成されていても構わない。濃度勾配があることにより、拡散層/芯線、および拡散層/外周部との両方の界面の密着性をさらに向上させることができ、製造時の取扱いが容易になり、ワイヤの生産性も向上する。こうした濃度勾配がある場合の拡散層の組成については、拡散層全体を平均化した元素濃度が、前述した濃度の関係を満足すれば、十分な効果が得られる。さらに、好ましくは、濃度が最も低い領域において、前述した濃度の関係が満足されていれば、平均濃度が均一な場合よりも界面密着性を向上させて、ワイヤが塑性変形を受けても界面剥離を抑える効果をより高められる。
【0036】
図1(b)には、芯線1と外周部2の界面に金属間化合物層4を形成したボンディングワイヤの断面を模式的に示す。ここでの金属間化合物は、結晶構造、格子定数、組成などが芯線および外周部の部材とは異なることが特徴である。すなわち、本発明の(3)〜(6)に記載のボンディングワイヤにおいては、芯線と外周部が同種元素を主成分とするものの、芯線と外周部ともに合金からなる場合では、その間に金属間化合物層を形成することができる。芯線と外周部との界面に形成させる金属間化合物層は、芯線に含まれる溶質元素と、外周部に含まれる溶質元素をそれぞれ少なくとも1種以上含有する金属間化合物であれば、密着性や機械的特性などを向上させる効果を得ることができる。
【0037】
また、本発明の(8)〜(10)に記載のボンディングワイヤの場合は、芯線と外周部との界面に形成させる金属間化合物層としては、芯線および外周部を構成する2種類の溶媒元素(第1金属および第2金属または、第1金属合金の溶媒元素および第2金属合金の溶媒元素)からなる金属間化合物が主流であるが、それ以外にも、芯線または外周部の少なくとも一方が一種類以上の溶質元素を含有する合金の場合、その溶質元素(例えば、第1金属合金の溶質元素)と、その溶質元素を含む部材とは異なる芯線あるいは外周部の溶媒元素(例えば、第二金属合金の溶媒元素)とからなる金属間化合物、あるいは溶質元素と溶質元素(第1金属合金の溶質元素と第二金属合金の溶質元素)からなる金属間化合物が形成された場合にもほぼ同様に、密着性や機械的特性などを向上させる効果を得ることができる。
【0038】
また、本発明のボンディングワイヤにおいて、金属間化合物を構成する元素数は2種類の場合(2元系化合物)が多いが、上記の溶質元素をさらに含む3種類以上の場合(3元系、4元系化合物など)でも、良好な結果が得られる。さらに金属間化合物の層は1種類だけとは限らず、異なる2種以上の金属間化合物を層状に形成させることにより、複数の相の特徴を統合して利用することも可能である。
【0039】
また、本発明のボンディングワイヤにおいて、拡散層、金属間化合物層などの中間層の近傍に、芯線と外周部の一方に含まれる溶質元素を濃化させることも利用できる。これは、界面に形成される中間層には固溶しない溶質元素を、予め芯線または外周部の部材に添加させることにより、これらの層の形成に伴い、中間層/芯線あるいは中間層/外周部の境界近傍に溶質元素を排出させることが可能となる。濃化域の生成により、局所的に強度を増加させることができ、溶質元素を平均的に分布させている場合よりも、さらに曲げ剛性の上昇効果を高めるのに有利である。こうした効果を利用するための濃化の程度は、部材に含まれる溶質元素の濃度よりも5%以上濃度が上昇していることが望ましい。
【0040】
次に、拡散層、金属間化合物層の形成による特性の向上効果、膜厚などについてさらに説明する。
本発明では、界面に形成された拡散層あるいは金属間化合物層が、芯線/外周部との界面の密着強度を向上させるので、通常の2層ボンディングワイヤでは問題が発生していたような、製造時の界面剥離、ボンディング時のループ制御あるいは接合における界面剥離などを抑えることが可能となる。つまり、ワイヤにかなりの曲げ変形が加わっても、芯線/外周部との界面で剥離しないような十分な密着性を確保できることになる。
【0041】
また、樹脂封止時には、高粘性のエポキシ樹脂が高速で流動することにより、ワイヤ全体に曲げモーメントが加わり、ワイヤが変形する(これを、ワイヤの樹脂流れと称す)。このワイヤの樹脂流れを抑制するには、曲げ剛性を高めることが非常に有効である。
【0042】
中間層複合ボンディングワイヤでは、引張強度、降伏強度、弾性率、曲げ剛性などの機械的特性を向上させることができ、特に、曲げ剛性を大幅に増加させることにより、樹脂封止時のワイヤ変形の抑制効果を一層高めることができる。すなわち、中間層複合ボンディングワイヤの曲げ剛性は、従来の単層ボンディングワイヤよりも高い値が得られるだけでなく、2層ボンディングワイヤと比較しても、芯線、外周部よりも強度、剛性が高い拡散層あるいは金属間化合物層を中間域に形成していること、さらにワイヤ断面でみると中間層を含めて3層以上の構造であることなどに起因して、曲げ剛性を大幅に高める効果を発揮できる。従って、単層ボンディングワイヤでは対応が困難とされていたような狭ピッチ化、細線化にも対応することができる。
【0043】
さらに、中間層複合ボンディングワイヤでは、ワイヤの強度、曲げ剛性などを増加させるだけでなく、併せて、ボール形成性、接合強度なども向上することができることも大きな利点である。従来の単層ボンディングワイヤでは、強度増加のための合金元素の高濃度添加により問題が生じる場合が多く、例えば、ボール形成時の酸化による引け巣の発生、それに伴う接合強度の低下が起こったり、また高強度化によりウェッジ接合性が低下したりすることが懸念されていた。それに対し、高強度材を芯線に、接合性の良好な材料を外周部に用い、その界面に中間層を形成させることにより、高強度化と高接合性という、従来は相反すると考えられていた特性を両立させることができ、しかも、その芯線と外周部の比率を調整することにより、溶融されたボール部に含まれる合金濃度を低く抑えることにより、ボール部の酸化、硬化などを抑制することもできる。この点では、従来の芯線と外周部による2層ボンディングワイヤでも、単層ワイヤに比べればある程度は対応できるものの、要求を十分満足することは困難である。
【0044】
それに対し、中間層を設けた中間層複合ボンディングワイヤを使用することにより、2層ボンディングワイヤと比較しても、剛性率の大幅な向上により樹脂封止時のワイヤ変形を低減し、ウェッジ接合時の界面剥離を抑えることができ、しかもボール形成時の熱影響により軟化するネック部の強度をより増加させることができるなど、特性の改善効果は大きい。特に、こうした効果は細線化するほど重要となり、中間層複合ボンディングワイヤでは、チップ上の電極間隔が50μm以下でのワイヤボンディング、また線径20μm以下、さらには18μm以下の極細線の実用化などにも非常に有利である。
こうした改善効果を十分に得るためには、樹脂封止時のワイヤ変形を支配する曲げ剛性の影響、さらにその曲げ剛性を向上させるための中間層複合ボンディングワイヤの構造などについて、十分吟味しておくことが重要である。それについて、以下に詳しく説明する。
【0045】
樹脂封止時のワイヤ変形を抑制するための、曲げ剛性の影響については、実験により確認できたが、さらに変形の解析でも十分理解できることを見出した。例えば、簡素化して考えるために、ワイヤの一端を固定した片持梁と仮定して、梁全長Lにわたり分布荷重qが加わっているときのワイヤ変形を考える。このときの最大たわみ量Ymax は、次式で表すことができる。
Ymax = qL4/(8EI)・・・・・(1)
ここで、Eは弾性率、Iは断面2次モーメントである。ここで、芯線/中間層/外周部からなるワイヤでは、式(1)の弾性率と断面2次モーメントの積EIは、芯線(In)、中間層(Mid)、外周部(Out)それぞれの部材の弾性率EIn,EMid ,EOut 、および断面2次モーメントIIn,IMid ,IOut を用いて、次式で近似できる。
EIZ=EInIIn+EMidIMid+EOutIOut ・・・・・(2)
また、芯線の内径d1 、ワイヤ直径d2 、中間層の厚さrを用いると、芯線、中間層、外周部それぞれの断面2次モーメントIIn,IMid ,IOut は、
IIn=π・d14/64 ・・・・・(3)
IMid =π((d1 +r)4−d14)/64 ・・・・・(4)
IOut =π(d24−(d1 +r)4)/64・・・・・(5)
で表すことができる。
【0046】
式(1)より、弾性率と断面2次モーメントの積EIを増加させることで、ワイヤ変形量Ymax を低減できることが判明した。また、中間層を持たない従来の2層ボンディングワイヤと比較すれば、式(2)においてEMid IMid の項が追加されており、断面2次モーメントの上昇効果を高めるためには、中間層は弾性率EMid が高い材料を用いるか、中間層の厚さを厚くすることで、より高い効果が得られることが判る。
【0047】
また、式(3)〜(5)を比較することで、同種金属による芯線と外周部の間に中間層を形成させることが、曲げ剛性の向上に有利であることが見出される。例えば、芯線または外周部に含有する溶質元素が高濃度側から低濃度側に拡散して、拡散層は主に低濃度側に形成されることから、式(4)の拡散層厚さrが増加するのは主として低濃度側であるため、弾性率が低い低濃度側の部材層の厚さが減少する。従って、弾性率が低い低濃度側の部材厚さが減って、その分低濃度側より弾性率の高い中間層が形成されることで、ワイヤ全体としての弾性率を増加させる効果も得られる。こうした理由から、中間層の弾性率が芯線または外周部の一方の弾性率よりも低くとも、式(2)のワイヤ全体としてのEIZ を高める効果を得ることが可能であることが確認された。また、この低濃度側への溶質元素の拡散を促進するためには、溶媒元素よりも速く拡散する溶質元素を部材中に含有させることが好ましい。
【0048】
界面に形成された金属間化合物層は、拡散層と比較すると、界面密着性を向上させる効果は同様であるが、曲げ剛性などの機械的強度については、より高い効果が得られる。すなわち、金属間化合物は高強度で、特に弾性率は拡散層よりも高いことから、金属間化合物の形成により式(2)のEMid がより増加し、拡散層のみを形成する場合よりも曲げ剛性が上昇し、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制する効果を大幅に高めることができる。金属間化合物の組成は、熱平衡的に存在する金属間化合物の相のいずれかではあるが、その相を選択的に生成させることにより、曲げ剛性などの特性発現の効果を高めることができる。
【0049】
また、中間層複合ボンディングワイヤの構成としては、前述したような拡散層、金属間化合物層が個別に形成されている場合以外にも、拡散層と金属間化合物層が界面に同時に形成されている場合には、機械的特性を向上する効果を相乗的に高める効果が得られる。図1(c)には一例として、芯線1/金属間化合物層4/拡散層3/外周部2の構造をしたボンディングワイヤの断面を示しており、その他にも、芯線/拡散層/金属間化合物層/外周部、および芯線/拡散層/金属間化合物層/拡散層/外周部などのケースも、本願発明の中間層複合ボンディングワイヤに含まれる。
【0050】
式(4)からも判るように、拡散層および金属間化合物層の厚さrは重要な因子である。拡散層の厚さは0.05μm以上であれば、密着性および、引張強度、降伏強度、曲げ剛性を向上する十分な効果が得られる。好ましくは、拡散層の厚さが 0.2μm以上であることが望ましく、ボール形成時の熱影響部(ネック部)の強度を高めることができる。さらにより好ましくは、拡散層の厚さが 1.0μm以上であれば曲げ剛性を大幅に高めて、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制することができ、しかもネック部の強度も増加させて、ここでの破断を抑える効果も得られる。
【0051】
また、金属間化合物層の厚さは0.03μm以上であれば、密着性を改善し、引張強度、弾性率、曲げ剛性などを向上する十分な効果が得られる。また、好ましくは、金属間化合物層の厚さが 0.1μm以上であれば曲げ剛性を高める効果が顕著となり、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制することができ、しかも製造中およびループ形成中における金属間化合物層の破壊も低減される。さらにより好ましくは1μm以上であれば曲げ剛性を大幅に高めることにより、狭ピッチ接続に必要となる線径20μm以下の細線でも良好なループ形成、接合性などが得られる。
【0052】
拡散層、金属間化合物層などの中間層の厚さの上限は特にはないものの、芯線/中間層/外周部としての機能を効率よく発揮させるためには、中間層の厚さが線径の7割以下に抑えることが望ましい。また、硬質である金属間化合物層を形成する場合には、伸線加工が困難となるため、生産性を重視すれば、金属間化合物層の厚さは線径の5割以下に抑えることが、より望ましい。
中間層の測定には、EPMA,EDX 、オージェ分光分析法、透過型電子顕微鏡(TEM)などを利用することができる。ワイヤの研磨断面において芯線と外周部との界面を挟んでのライン分析を行うことにより、拡散層、金属間化合物層の厚さ、組成などを知ることができる。
【0053】
拡散層の測定方法について、以下に具体例で説明する。
実際に拡散層を観察する一つの手法として、ワイヤ断面における芯線/外周部の界面を挟んだ領域においてライン分析を行うことが有効である。この分析結果における拡散層の境界近傍の濃度プロファイルとしては、濃度が不連続に変化する場合と、連続的に変化する場合に分けられ、それぞれで拡散層の判別が若干異なる。境界近傍で不連続に変化する前者の場合では、溶質元素の濃度変化に不連続性が生じる位置を拡散層の境界として認識でき、その芯線側および外周部側との境界で挟まれた領域が拡散層である。一方、境界近傍で連続的に濃度変化する後者の場合には、測定距離に対する濃度変化の勾配に着目することが有効であり、拡散層が形成されていない場合と比較して、拡散層が形成された試料では濃度勾配が緩やかになることで判別できる。この連続的に変化する場合での拡散層の境界の決め方として、測定距離と濃度のグラフにおいて、拡散層内の境界近傍における濃度勾配を外挿した直線と、芯材または外周層内における濃度を外挿した直線とが交差する部位として判定できる。こうした、拡散層の境界での濃度変化が連続的か不連続であるかによって拡散層の識別法を変えることで、精度良く拡散層の厚さなどを測定することもできる。
【0054】
図2にオージェ分光法によるワイヤ断面のライン分析方法の概要を、図3,図4,図5にその分析の結果を示す。図2(a)には、線の長手方向とは垂直に断面研磨した試料を用い、芯線1と外周部2の界面に形成された拡散層3を横切るように、分析ライン6に沿って分析を行うことを示しており、図2(b)には、比較として、拡散層を形成されておらず、芯線1と外周部2により構成されている断面を示す。ここでオージェ分光分析を用いた理由は、微小領域の分析に適しており、拡散層が薄い試料の分析などに有効であるためである。図3は、Auの芯線とAu−20%Pd合金の外周部との組合せで拡散層を形成した場合である。図4(a)は、Auの芯線とAu−30%Ag合金の外周部との組合せで拡散層を形成した場合であり、また、同一の芯線と外周部との組合せで拡散層が形成されていない場合の結果を図4(b)と比較する。分析は0.05μm間隔で行った。
【0055】
また、図5は、Ag芯線とAu外周部の組合せのワイヤを用いており、拡散層を形成したワイヤ試料図2(a)における結果図5(a)と、拡散層が形成されていないワイヤ試料図2(b)における結果図5(b)とを比較している。分析は0.05μm間隔で行った。
まず、拡散層が形成されていないワイヤ図2(b)の測定結果図4(b)、図5(b)には、芯線/外周部の界面近傍で、濃度の連続的な変化が生じている。これは、芯線/外周部の界面を横切ってライン分析する際、分析領域がその界面を含む場合に通常、見掛け上濃度が変化したように観察される現象である。現在の分析の手法、精度などの関係上、こうした連続的な濃度変化が観察されるのを避けることは困難である。
【0056】
一方、拡散層を形成したワイヤ図2(a)の分析結果図3、図5(a)では、不連続な濃度変化が生じており、その不連続に変化した部位が拡散層として認識でき、さらにその拡散層の境界は、不連続な濃度変化が検出される界面として確認できる。また、分析結果図4(a)では、拡散層の境界近傍の濃度変化が連続的であるものの、拡散層が形成されていない図4(b)と比較して、測定距離に対する濃度勾配が緩やかになっていることで、拡散層の形成を確認することができる。この場合、拡散層の境界の判定には、拡散層内の濃度勾配を外挿した直線mと、外周部内における濃度を外挿した直線nとが交差する部位pを境界とすることで、拡散層の領域を再現よく評価することができる。これら図3、図4(a)、図5(a)の分析結果からも、拡散層はワイヤ断面の分析における濃度変化として検出することができるので、このようなワイヤ断面での分析法により、拡散層を識別することは十分可能となる。
【0057】
拡散層の厚さが 0.5μm以下であるとか、または濃度が希薄であるなどの理由から、分析の精度を向上したいときには、ライン分析の分析間隔を狭くするとか、界面近傍の観察したい領域に絞っての点分析を行うことも有効である。また、ワイヤを斜め研磨して、拡散層の厚さを拡大させて測定することにより、0.01μm程度まで分解精度を向上させることも可能となる。さらに、組成を知るために定量性を高める必要がある場合には、拡散層の構成部材と同種の材料を目的の組成となるように溶製した試料を予め準備しておき、それを標準試料として用いて、分析の検量線を求めることにより、濃度の精度を高めることができる。その他、0.05μmよりも薄い中間層の厚さおよび組成を精度良く測定するためには、手間はかかるものの、中間層を含む薄膜試料を作製し、TEM による観察および電子線回折などを利用することが有効である。
【0058】
本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤにおいて、芯線/外周部の間に拡散層、金属間化合物層などの中間層を形成することで機械的特性、生産性、ループ形成性などを向上できるが、さらに、ボンディングワイヤとしての使用性能を総合的に満足させるためには、芯線および外周部を構成する部材の選定が重要である。すなわち、芯線部材/外周部材の構成が、金属/合金、合金/金属、合金/合金の組み合わせをそれぞれ利用することにより、ウェッジ接合性、ボール接合性、曲げ剛性、表面性状などを制御することが可能となる。
【0059】
以下に、本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤに関し、芯線と外周部の部材の組み合わせに分けて、特徴を個別に説明する。
まずは、外周部が導電性の金属、芯線はその金属を主成分とする合金であり、その間に拡散層を設けたワイヤ(以下、合金In/拡散層/金属Out と称す)では、芯線の合金化により高強度化を達成しつつ、外周部を金属にすることでウェッジ接合性も向上することができる。ここでのウェッジ接合性とは、リード上のAgおよびPdのメッキ層、または基板上のAuメッキ、Siチップ上のAl電極膜などに対して、ワイヤを直接接合する場合において、接合部剥離や、ボール部の異常形状などの不良を発生させることなく良好な高速ボンディング性を得ること、さらに、ウェッジ接合部における接合強度を高めつつ、ウェッジ接合部近傍でのプル強度も確保することなどを同時に満足させることである。外周部の金属により、ワイヤ表面の酸化、硫化などが軽減され、接合界面での拡散を促進することで接合強度を上昇させ、さらに拡散層の形成により接合部剥離を抑制し、ウェッジ接合部近傍でのプル強度が向上できる。
【0060】
従来の同種の金属からなる合金In/金属Out の2層構造であるワイヤでは、曲げ剛性の向上が十分でないのに比して、その間に拡散層を設けて合金In/拡散層/金属Out とすることで曲げ剛性などの機械的特性の向上が可能となる。これは、前述したように、低濃度である金属Out 側に拡散層を主に形成させて、この部位の弾性率を増加させることで、拡散層をもたない従来の2層ボンディングワイヤに比して、式(2)で示したワイヤ全体の弾性率と断面2次モーメントの積EIを増加させることができるためである。従来の2層ボンディングワイヤでは、曲げ剛性を高めるために合金Inをより高濃度化したり、合金Inの面積を増加させなければならなかったので、ボール部内も高濃度化して接合性が低下する問題が発生したが、本発明では、このような手段を用いなくても、拡散層の形成により曲げ剛性を上昇させることができるので、そうしたボール部の高濃度化の問題も改善することが可能となる。
【0061】
こうした合金In/拡散層/金属Out の構造における高強度とウェッジ接合性を兼備させるためには、ワイヤの直径d2 に対する芯線の直径d1 の比率(d1 /d2 )を 0.2〜0.8 の範囲とすることが好ましい。これは式(3)〜(5)で示される断面2次モーメントIを比較したところ、芯線、中間層、外周部それぞれの断面2次モーメントを総合的に高めるためには、d1 /d2 は上記範囲が望ましいためである。
【0062】
次に、芯線は導電性の金属であり、外周部はその金属を主成分とする合金として、その間に拡散層を設けたワイヤ(以下、金属In/拡散層/合金Out と称す)では、曲げ剛性などをより増加させ、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制する効果を高めることができる。拡散層が形成されていない金属In/合金Out の構造では、伸線中には外周部の合金が加工されにくいことから、ワイヤ製造時に密着性の低下に関する問題が、合金In/金属Out の場合よりも多く発生する。そこで拡散層を形成させて金属In/拡散層/合金Out とすることで、生産性が大幅に向上できる。また、外周部の合金は、芯線の金属元素を溶媒とし、その溶媒中に固溶または析出して強度を高める元素を含有させることが望ましい。
【0063】
外周部を合金とすることで、ウェッジ接合界面での拡散を制御することが難しくなる場合があり、特に細線化あるいは低温接合などにおいて接合強度を確保するのが困難となる。それを改善するためには、外周部に含まれる溶質元素の濃度を均一化させることが望ましく、接合界面での拡散を安定化させる効果が得られる。この効果を得るためにも、均一化された外周部が 0.5μm以上の厚みであることが望ましい。
【0064】
また、芯線よりも高強度である合金を外周部に用いたワイヤでは、前述した、金属の外周部とその合金の芯線からなるワイヤよりも、曲げ剛性を向上する効果をより高められる。式(3),(5)を用いると、芯線と外周部の断面2次モーメントを計算で求めることができる。例えば、ワイヤの直径d2 が芯線の内径d1 の2倍である場合(d2 =2d1 )には、中間層の厚さrはd1 に比べて小さいと仮定すると、外周部の断面2次モーメントIOut は芯線のIInの15倍(IOut =15・IIn)となり、また、芯線と外周部の面積が等しい場合(d12=d22)には、外周部の断面2次モーメントIOut は、芯線のそれIInの3倍(IOut =3・IIn)となる。こうした解析からも、曲げ剛性を高める効果は外周部の方が芯線よりも大きいことが確認できる。さらに式(4)からも、外周部に弾性率の高い部材を用いた方が、ワイヤの曲げ剛性を向上する効果をより高められる。こうした理由からも、上述した、芯線を金属、外周部をその合金とするワイヤ(金属In/拡散層/合金Out )では、曲げ剛性を高くすることができる。
【0065】
また、金属の芯線の内径d1 はワイヤ直径d2 に対して84%以下であることが望ましい。これは、式(3),(5)の解析により、d1 <0.84・d2 とすることで、IOut >IInの関係を満足することができるためであり、すなわち、芯線の内径d1 をワイヤ直径の84%以下に抑えることにより、外周部の断面2次モーメントの方を芯線のそれよりも高くすることができるという根拠に基づく。
【0066】
外周部と芯線とを同種の導電性の金属を主成分とする合金とし、しかもそれぞれの合金中に含有される合金化元素の種類または濃度が少なくとも1種以上は異なっており、さらにその外周部と芯線との間に拡散層または金属間化合物層の少なくとも1層を設けたワイヤ(以下、合金In/中間層/合金Out と称す)とすることで、曲げ剛性などをより増加させ、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制する効果を高めることができる。
【0067】
ここで中間層が形成されていない合金In/合金Out であれば、界面での密着性が不十分であり、製造時の断線や、高速ボンディング中のループ形状不良などを起こしやすい。それに対し、中間層を形成した合金In/中間層/合金Out の構造することで、芯線と外周部の曲げ剛性を同時に高めることができ、しかも外周部と芯線との密着性も大幅に向上できる。外周部と芯線との合金中に種類または濃度が少なくとも1種以上は異なる溶質元素を含有させることで、中間層を形成させることができる。例えば、結合力の強い2種以上の元素を外周部と芯線に分けて含有させることで、界面に金属間化合物層の形成を促進することもできる。曲げ剛性をより高めるためには、外周部の合金には、芯線の合金よりも弾性率の高い部材を用いることがより好ましい。接合性の安定化を図るためにも、外周部の合金内の溶質元素濃度を均一化させることが望ましい。芯線と外周部の比率は、ボール部の特性、ワイヤの強度、接合性などに重要であり、実用的には、芯線と外周部ともに、面積比率が10%以上であることが望ましい。これは、面積比率が10%以上であれば、芯線と外周部の部材が拡散熱処理により消費されて消失してしまうことなく、使用時に芯線と外周部としての役割を十分果たすことができるためである。なお、本発明において、面積比率とは、ワイヤの軸方向に垂直な断面における全断面積に対する各部の断面積の割合である。
【0068】
上述した、本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤの、合金In/拡散層/金属Out 、金属In/拡散層/合金Out 、合金In/中間層/合金Out の3種のワイヤに共通する点として、芯線と外周部を同種の溶媒元素を用いており、これにより、ワイヤの強度、曲げ剛性などを増加させるだけでなく、併せて、ボール部の形成性および接合強度なども向上することができる。従来の単層ボンディングワイヤでは、強度増加のために合金元素を高濃度に添加すると問題が生じる場合が多く、例えば、ボール形成時の酸化による引け巣の発生、それに伴う接合強度の低下が起こったりすることが懸念されていた。また、同種の溶媒元素からなる芯線と外周部を用いていても中間層が形成されてない従来の2層構造では、ボール部全体として含まれる合金濃度を低く抑えることにより、ボール部の接合性は向上できるものの、ワイヤの強度、曲げ剛性などが充分でなく、一方で、それらの機械的特性を増加させるために、合金中を高濃度化したり、合金の面積を増加させると、ボール部内も高濃度化して接合性が低下する問題が発生する。それに対し、外周部/中間層/芯線の多層構造とすることにより、高強度化と高接合性という、従来は相反する特性を両立させることができる。
【0069】
本発明の(2)〜(5)に記載のボンディングワイヤにおいて、外周部が合金である、金属In/拡散層/合金Out 、合金In/中間層/合金Out のワイヤでは、外周部2のさらに外側に、芯線1および外周部2の溶媒元素と同種の金属からなる最表面層7を設けることで、ウェッジ接合性、ボール接合性、ループ安定性などをさらに高めることができる。この最表面同種金属層7/外周部2/中間層5/芯線1で構成されるワイヤ断面の模式図を図6(a)に示す。
【0070】
図6(a)において、中間層5は金属間化合物層4により構成されている。合金に含まれる溶質元素がワイヤ表面で偏析や酸化することで、ウェッジ接合性が低下したり、キャピラリ内壁とワイヤとの摩擦を上昇させることでループ形状のばらつきの原因となることがある。それに対し、同種の金属からなる最表面層を形成して、最表面同種金属層/外周部/中間層/芯線で構成させることで、表面の偏析および酸化を低減することができ、しかも表面近傍を内部よりも軟質にすることで接合時のワイヤ変形を適度に進行させられるため、低温でのウェッジ接合性を改善できる。さらに、最表面層の金属が芯線および外周部の溶媒元素と同じであるため、溶融したボール部内での溶媒元素の濃度を上昇させることで、ボール部の酸化、硬化などを低減して、ボール接合性を改善する効果も得られる。
【0071】
特に、芯線と外周部ともに合金である合金In/中間層/合金Out ワイヤでは、溶質元素によりボール部が硬化してチップ損傷を与えることが最も懸念されることから、同種金属の最表面層7を形成することで、ボール接合性を向上する高い効果が得られる。最表面層7の金属は、純度が99.5%以上であることが望ましい。最表面層7の厚さは、線径の 0.1%〜10%の範囲であることが好ましく、この範囲であれば、ウェッジ接合性とボール接合性の両者を改善する十分な効果が得られるためである。
【0072】
ここで、最表面層を形成する方法としては、中間層を形成したワイヤの表面に、メッキ、蒸着などにより形成することが有効である。膜形成の段階でみると、最終線径で膜形成する方法、または、最終線径よりも少し太径で膜形成した後に伸線加工する方法、のいずれでも構わない。また、図6(b)に示すように、最表面同種金属層7と外周部2との間に中間層5を形成させて、最表面同種金属層7/中間層5/外周部2/中間層5/芯線1の構成とすることで、その界面の密着性を改善することができ、例えば、ウェッジ接合時の超音波振動を高めても界面剥離などの不良発生を抑えられる。図6(b)において、外周部2と芯線1との間の中間層5は、拡散層3により構成されている。
【0073】
本発明のボンディングワイヤにおいては、芯線と外周部の比率も、ボール部の特性、ワイヤの強度、接合性などに重要であり、実用的には、芯線と外周部ともに、面積比率が10%以上であることが望ましい。これは、面積比率が10%以上であれば、芯線と外周部の部材が拡散熱処理により消費されて消失してしまうことなく、使用時に芯線と外周部としての役割を果たすことができるためである。しかも、面積比率はワイヤの強度、接合性、ワイヤ変形への抵抗などを左右するだけでなく、ワイヤ先端を溶融して形成されるボール部では、面積比率で混合された合金となり、その組成によりボール部の真球性、硬度、変形能、表面性状などが決まることになる。例えば、面積比率を適正化することにより、ボール部が硬くなりすぎて半導体基板に損傷を与えたり、ボール表面が酸化されて接合性が低下するなどの不良を、回避することができる。従って、芯線と外周部を構成する元素に応じて、さらにワイヤの要求特性を総合的に満足させることができるように、面積比率を適正化する必要がある。なお、本発明において、面積比率とは、ワイヤの軸方向に垂直な断面における全断面積に対する各部の断面積の割合である。
【0074】
芯線/外周部の界面に拡散層や金属間化合物層を形成するためには、界面での拡散を促進する拡散熱処理が必要である。芯線と外周部が異なる部材からなる線を準備し、それに拡散熱処理を施すことになるが、その拡散熱処理を施すタイミングは3種類に分類される。第一には、芯線と外周部を組み合わせただけの部材(以下、初期複合部材と呼ぶ)に拡散熱処理を施し(初期加熱)、その後に伸線加工により細くする方法と、第二には、初期複合部材にある程度の線径まで伸線した後で、拡散熱処理(中間加熱)を施し、さらに伸線加工を行い最終線径まで細くしていく方法と、第三には、最終線径まで伸線した後に、拡散熱処理(最終加熱)を施す方法である。
【0075】
拡散熱処理を太径の段階で行う利点は、拡散層および金属間化合物層がその後の伸線加工における界面剥離を防止する役割を果たすことができることにあり、一方懸念される点として、最終線径の段階で必要な厚さを確保するには、伸線加工に伴い中間層も薄く加工される程度を予測し、初期の中間層形成条件を適正化するなどの手間がかかることである。反対に最終段階で拡散熱処理を施す利点は、拡散層および金属間化合物層の厚さを制御するのが容易であることであり、注意すべき点は、伸線工程中での芯線/外周部の界面剥離を抑制するための製造条件の探索が必要であること、あるいは最終段階で高温加熱した場合にワイヤ最表面での酸化が懸念されたり、ワイヤを連続的に移動しながら拡散熱処理する場合には、細いほど長時間を要することなどが挙げられる。
【0076】
上記の特徴を理解した上で、組合わせる部材の種類、ワイヤの要求特性などに応じて拡散熱処理を施すタイミングおよびその熱処理条件を選定することが可能である。また、前述した長所、短所を踏まえて、拡散熱処理を一回で行うのではなく、前述した初期、中期、最終段階での拡散熱処理をいくつか組み合わせて、段階的に拡散層および金属間化合物層を形成することも有効な方法である。
【0077】
外周部が酸化しやすい金属であったり、比較的高温で加熱する場合には、ワイヤ表面の酸化を抑制するために、非酸化雰囲気で熱処理を行うことが必要である。具体的には、Ar,N2 ガスなどの不活性ガス、あるいはH2 などを含む還元性ガスなどを加熱炉中に流した状態で熱処理を行うことにより、拡散熱処理中の表面酸化を抑えることができる。
【0078】
ワイヤの表面酸化は、上記の熱処理のときにかぎらず、ワイヤ製造工程全般や、保管時、ボンディング工程、樹脂封止中などにおいても問題となることが多い。特に、最近の狭ピッチ細線化に対応したり、BGA などの基板接続において低温接合性を改善する場合には、ワイヤ表面の酸化を抑えて、ウェッジ接合性を向上することが重要となる。そのためには、上記本発明の(4)〜(6)および(10)に記載するように、中間層複合ボンディングワイヤの外周部の表面に、芯線および外周部の主要元素とは異なる、または外周部の金属とは異なる、導電性で酸化の少ない金属またはその合金からなる最表面層(被覆層)を形成させることが有効である。すなわち、最表面層/外周部/中間層/芯線で構成させることで、中間層複合ボンディングワイヤのウェッジ接合性を高めることが容易となる。
【0079】
被覆する最表面層の厚さを、線径の0.05%〜10%の範囲とすることで、ウェッジ接合性を向上する十分な効果が得られる。最表面層に用いられる金属は、Au,Pt,Pdなどの酸化の少ない金属およびその合金であることが望ましい。こうした厚さ、材質の最表面層を形成することで、低温接合性を向上することができる。
【0080】
この最表面層を形成する方法としては、中間層を形成したワイヤの表面に、メッキ、蒸着などにより最表面層を被覆することが有効である。その被覆する段階でみると、最終線径で被覆する方法、または、最終線径よりも少し太径で被覆した後に伸線加工する方法、のいずれでも構わない。さらに最表面層と外周部との間に中間層を形成させ、最表面層/中間層(b)/外周部/中間層(a)/芯線の構造とすることで、その界面の密着性を改善することができ、線径20μm以下の細線の製造性が向上したり、ウェッジ接合時の超音波振動を高めても最表面層と外周部との界面剥離などの不良発生を抑えられる。
【0081】
前述のような、芯線と外周部との中間に拡散層や金属間化合物層を形成させたボンディングワイヤを製造するためには、拡散熱処理の条件選定により、拡散層、金属間化合物層の形成を制御することが必要である。単純にワイヤを加熱すれば、必要な拡散層、金属間化合物層が形成されるわけではなく、目指す拡散層、金属間化合物層の形成などを意識した熱処理条件の適正化が重要となる。通常のワイヤ製造工程では、加工歪取り焼鈍や、伸びを出すための焼鈍などが施される場合が多いものの、これらの焼鈍のみでは、本発明の拡散層、金属間化合物層を適正に形成させ、それに伴う特性を発現させることは困難である。従って、目的とする拡散層、金属間化合物層の種類、厚さ、組成、密着強度などを満足させるためには、温度、加熱時間、速度、雰囲気などの条件や、熱処理の前後の工程などを制御することが必要である。そのためにも、芯線/外周部の界面での拡散挙動を十分理解することにより、初めて、拡散熱処理の条件を適正化することも可能となる。特に、以下の考え方に従えば、適切な温度、加熱時間などを選定することができる。
【0082】
拡散層の厚さLは、相互拡散係数Diと、拡散時間tに支配され、その関係は次式で表される。
L=(Di・t)1/2 ・・・・・(6)
この相互拡散係数Diについては、溶媒元素を主成分とする拡散層の場合は、その溶媒元素中での溶質元素の拡散速度に近い値であり、一方、芯線および外周部に含有される溶質元素を主体とする拡散層の場合は、
Di=(DIncIn+DOutcOut) ・・・・・(7)
で表される。ここで、芯線および外周部の溶媒金属の拡散係数DIn,DOut と、拡散層中のそれら溶媒金属の濃度cIn,cOut (cIn+cOut =1)を用いた。この相互拡散係数Diは拡散層の成長速度に相当するもので、上式から判るように、拡散層中の組成cIn,cOut も関与している。2元系の組み合わせでの拡散定数DIn,DOut は比較的多く報告されており、利用することが可能である。さらに、この相互拡散係数Dと加熱温度Tとの関係は、
D=f・exp (−Q/RT)・・・・・(8)
で表される。ここで、Qは拡散の活性化エネルギーであり、Rは気体定数、fは定数である。fとQは元素の組み合わせにより固有の物性値であり、fとQが判明すれば相互拡散係数Diを知ることができ、式(6)より拡散層の厚さLを計算することができる。
【0083】
また、拡散層内に濃度分布を生じる場合が多く、この濃度を制御することは重要である。ワイヤの構造を円筒型と仮定すると、中心からxの距離での濃度Cは近似的に、
C= a + b lnx ・・・・・(9)
で表される。ここで、a,bは定数である。式(6)の拡散層厚さと、式(9)の濃度などを十分考慮して、熱処理条件を選定することが重要である。すなわち、目標とする拡散層厚さL、濃度分布Cを得るには、加熱温度Tが決まれば拡散時間tを求めることができ、一方、拡散時間tが先に決まっている場合には加熱温度Tを求めることができる。
【0084】
金属間化合物層の厚さdについても同様に、拡散時間tと放物線則に従うため、
d=k・t1/2 ・・・・・(10)
で表される。成長速度kは、化合物層成長の活性化エネルギーEを用いて、
k=ko ・exp (−E/RT)・・・・・(11)
で表される。ここで、ko ,Eは、金属間化合物の種類によりほぼ決まるが、元素の組み合わせなども影響を及ぼす場合がある。安定して金属間化合物を成長させるには、活性化エネルギーEを超える熱量を与える必要があり、しかも活性化エネルギーEは相により異なる。従って、こうした金属間化合物の成長挙動を理解した上で、温度、加熱時間などを制御することにより、生成させたい金属間化合物を優先的に形成させることも可能となる。
【0085】
拡散層、金属間化合物層などの中間層を形成するための拡散熱処理では、高温で加熱するほど成長が促進されるが、あまり高温すぎれば外周部材が酸化されて接合性が低下したり、冷却時の熱歪みにより界面に形成された中間層に亀裂が生じることが起こり得る。そこで、本発明者らは、候補となる材料の組み合わせを変えて調査したところ、拡散熱処理の温度Td は芯線、外周部の材料の融点により近似的に表すことができることを確認した。具体的には、拡散熱処理の温度Td は、芯線、外周部材の融点の平均値TmOを用いて、次の関係
0.3TmO<Td <0.9TmO ・・・・・(12)
を満足することが望ましい。この範囲で温度を設定し、さらに加熱時間を制御することにより、所定の中間層の厚みを得ることができる。
【0086】
加熱炉は必ずしも単一である必要はなく、急速加熱、急速冷却を軽減させる方が望ましい場合には、本加熱の前後に予備加熱または2次加熱を設けることも有効である。特に、界面に形成される金属間化合物の相の種類によっては、急速冷却により芯線/金属間化合物層あるいは外周部/金属間化合物層の界面に発生する熱歪みを緩和するために、本加熱の後の2次加熱が有効である。また、脆弱な金属間化合物相の生成を抑えて、特定の金属間化合物相の成長を促進する必要がある場合など、その脆弱な相の成長を回避する手段としては、温度、時間などの拡散熱処理条件の適正化か、あるいはそれで対処できない場合には、金属間化合物の核生成を制御するための予備加熱により、目的とする金属間化合物相の生成を促進することも可能である。こうした温度範囲の異なる加熱を行うには、温度設定の異なる部位を複数形成させた加熱炉、炉内温度を連続的に変化させた加熱炉を用いることができる。
【0087】
また、中間層を形成させるには、上述した拡散熱処理工程を利用する方法の他に、芯線と外周部を組合わせる際に、いずれか一方を溶融させた高温状態とすることで、拡散を促進させて中間層を形成する方法も可能である。この方法を芯線と外周部のどちらを溶融させるかで区別すると、予め作製した芯線の周囲に、溶融した金属または合金を鋳込むことで外周部を形成する方法、または、外周部として用いるため予め作製した円柱状の中央に、溶融した金属または合金を鋳込むことで芯線を形成する方法に分けられ、いずれの方法でも芯線と外周部の間に中間層を有する形成することができる。ただし、中間層の厚さおよび種類をコントロールするには、溶融温度、時間、冷却速度などを制御することが重要である。
【0088】
これらの条件設定のためにも、拡散熱処理の考え方として式(5)〜(11)で説明したような拡散挙動を十分理解し、熱量および放熱などを管理することで、目的とする中間層を形成させることが可能となる。さらに、こうした溶融金属を利用する中間層の生成法として、芯線と外周部の少なくとも一方を連続鋳造で製造することも可能である。この連続鋳造法により、上記の鋳込む方法と比して、工程が簡略化され、しかも線径を細くすることで、生産性を向上させることが可能となる。
【0089】
外周部と芯線との間、最表面層と外周部との間の両界面に中間層を形成させた最表面層/中間層(b)/外周部/中間層(a)/芯線の構造のワイヤを製造するには、下述する3種類の方法を用途、目的に応じて使い分けることが好ましい。第一の方法では、外周部と芯線との間に中間層(a)を形成した外周部/中間層(a)/芯線構造のワイヤを予め作製し、その表面に最表面層を形成し、最後に拡散熱処理により最表面層と外周部との間に中間層(b)を形成させる方法である。これは、厚さ 0.7μm以下の比較的薄い最表面層あるいは中間層(b)を形成させるとき、あるいは2種類の中間層を形成するための適正温度が異なる場合に有効な方法である。
【0090】
第2の方法では、中間層(a)と中間層(b)の2種類の中間層を同一の拡散熱処理工程で形成させる方法である。この方法では、2種の中間層の形成を個別に制御することは困難であるものの、中間層の形成工程を1回とすることで生産性を高めることが利点である。
【0091】
第3の方法では、中間層(a)と中間層(b)の2種類の中間層を形成させる拡散熱処理の温度範囲を、低温と高温とに分けて行う方法である。例えば、温度範囲の異なる2個の熱処理炉を用いる場合、または熱処理炉内に温度が異なる2種以上の加熱帯を用いる場合などが好ましく、いずれの場合も加熱時間、加熱域長さなどを適正化することで、所望する中間層(a),(b)を形成することが可能である。この方法により、熱活性化過程が異なる相互拡散または金属間化合物成長を利用して、幾つか存在し得る拡散層または金属間化合物層のなかで所望する中間層を2つの界面にそれぞれ形成することも可能となる。
【0092】
本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤにおいて、芯線または外周部に用いられる導電性金属とは、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al元素などが望ましく、さらに、その純度が99.9%以上の純金属であることがより好ましい。これは、上記元素を溶媒とする金属またはその合金により芯線と外周部とを構成することにより、前述した中間層複合ボンディングワイヤとしての効果を十分発現できるためである。ここで、半導体配線の電極部、リード側メッキ部への接合性をより向上するためには、Au,Pd,Ptを用いることがより好ましく、一方、強度、弾性率を高めるためにはPd,Cu元素などがより好ましい。
【0093】
芯線または外周部に用いられる合金とは、上記のAu,Pt,Pd,Cu,Ag,Alを溶媒元素とし、少なくとも1種以上の溶質元素を総計で0.02〜45%の範囲で含有することが望ましい。これは、溶質元素の濃度が0.02%以上であれば、純金属と比して強度、剛性を高めることができ、濃度が45%未満であればボール部の硬化および酸化などを抑えることができるためである。添加する溶質元素は、溶媒元素により異なるものの、例えば、Auを溶媒とする場合の溶質元素では、Ca,Be,In,Cu,Pd,Pt,Ag,Co,Ni、希土類元素などの中から少なくとも1種以上を総計で0.01〜40%の範囲で含有させることが有効であり、またCuを溶媒とする場合には、Be,Au,Pd,Ag,Sn,Mnなどの中から少なくとも1種以上を総計で 0.1〜30%の範囲で含有すること、Alを溶媒とする場合には、Si,Mg,Au,Pd,Zn元素などの中から少なくとも1種以上を総計で 0.1〜20%の範囲で含有することが望ましい。前述したように、芯線と外周部に形成させる拡散層および金属間化合物層が、溶質元素を含むことにより、拡散層および金属間化合物層の強度を著しく向上することができる。
【0094】
さらに、溶質元素を主成分とする拡散層の成長を促進するためには、例えばAg−Cu,Ag−Pd,Cu−Be,Pd−Ptなどの元素の組合せの溶質元素を芯線と外周部に分けて含有させることが好ましい。一方、界面に金属間化合物層の成長を促進するためには、例えば、Au−Al,Ag−Al,Cu−Pd,Ag−Pd,Au−Cu,Fe−Pdなどの組み合わせで、芯線と外周部に分けて溶質元素として含有させることも有効である。
【0095】
本発明の(7)〜(10)に記載のボンディングワイヤにおいて、芯線または外周部に用いられる導電性金属とは、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al,Ni,Fe元素などを溶媒とする金属またはその合金が望ましい。すなわち、上記元素の中から選定された2種類の元素から、芯線と外周部で異なる部材を構成することにより、前述した中間層複合ボンディングワイヤとしての効果を発現することができる。ここで、ワイヤ最表面での酸化を抑えるためには、外周部にAu,Pt,Pd,Ag,Alを用いることがより好ましい。さらにより好ましくは、半導体配線の電極部、リード側メッキ部への接合性をより向上するためには、外周部にAu,Pd,Ptを用いることが望ましい。一方、芯線に用いる部材では、強度、弾性率が高いことが望ましいため、Pd,Cu,Ni,Fe元素などがより好ましい。
【0096】
Ni,Fe元素などのように、高強度でありながら、芯線材または外周部材に直接用いると、密着性を確保することが難しい元素でも、界面に中間層を形成させることで利用も可能となり、ワイヤ変形を抑制する高い効果が得られる。好ましくは、芯線にNi,Fe元素をベースとする金属またはその合金を、外周部にはAu,Pt,Pd,Agなどの酸化を抑えられる元素を用いることが望ましく、この構造のワイヤでは接合性も向上させることができる。また、Ni,Fe元素を主体とするワイヤは、ウェッジ/ウェッジの接合に好適である。
【0097】
また、芯線と外周部の材料の組み合わせにより、生成する拡散層および金属間化合物層の組成、種類などが支配される。例えば、AuとAgの組み合わせでは、界面に拡散層は形成されるが、金属間化合物層を形成することはできない。同様に、状態図では化合物が熱平衡的には存在しないことからも、拡散層のみの形成が予測される2元系には、Au−Pt,Au−Ni,Ag−Cu,Ag−Pd,Ag−Ni,Pd−Ptなど多くの組合せが含まれる。一方で、Au−Al,Ag−Alなどの組み合わせでは、界面に金属間化合物層を形成することは容易であるが、拡散層のみを形成することは困難である。
【0098】
以上のように、芯線または外周部における要求特性を満足し、しかも、その界面における拡散層および金属間化合物層の形成による密着性、曲げ剛性の向上などの十分な効果も得ることができるように、芯線、外周部の部材および拡散熱処理条件などを選定することが重要である。例えば、外周部にはAuを、芯線にはCuを用いて、中間層として金属間化合物(Au3Cu,AuCu,AuCu3)を形成させた中間層複合ボンディングワイヤでは、アルミ電極への接合性は良好であり、ボール部近傍の熱影響を受けて強度低下を起こしやすいネック部においても十分な強度を有し、しかも現行の主流であるAuボンディングワイヤ用のボンディング装置をそのまま利用できることを確認した。
【0099】
また、芯線または外周部に用いられる導電性の部材は、純度が99.9質量%以上の純金属であるか、またはこれらの元素を溶媒として、少なくとも1種以上の溶質元素を添加された合金であることも構わない。すなわち、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al,Ni,Fe元素を溶媒とする合金では、純金属と比して強度、剛性を高めることができ、芯線または外周部そのものの機械的特性を高めることが可能である。
【0100】
添加する溶質元素は、溶媒元素により異なるものの、例えば、Auを溶媒とする場合の溶質元素では、Ca,Be,In,Cu,Pd,Pt,Ag,Co,Ni、希土類元素などの中から少なくとも1種以上を総計で0.01〜40%の範囲で含有させることが有効であり、またCuを溶媒とする場合には、Be,Au,Pd,Ag,Sn,Mnなどの中から少なくとも1種以上を総計で 0.1〜30%の範囲で含有すること、Alを溶媒とする場合には、Si,Mg,Au,Pd,Zn元素などの中から少なくとも1種以上を総計で 0.1〜20%の範囲で含有することが望ましい。さらに、前述したように、芯線と外周部に形成させる拡散層および金属間化合物層が、溶質元素を含むことにより、拡散層および金属間化合物層の強度を著しく向上することができる。
【0101】
また、本発明の(9)に記載のボンディングワイヤのように、芯線と外周部との間に中層を設けて、芯線と中層と外周部の3層構造とし、しかも、その芯線/中層および中層/外周部のそれぞれの界面に拡散層または金属間化合物層の少なくとも一種以上を有するボンディングワイヤとすることにより、高強度化、高密着性、接合性の向上などの効果をより高めることができる。その3層構造の中間層複合ボンディングワイヤの構造例を図7に示す。
【0102】
図7(a)は芯線1/金属間化合物層4/中層8/拡散層3/外周部2の構造であり、図7(b)は芯線1/拡散層3/中層8/金属間化合物層4/外周部2の構造を表している。ここで、芯線/中層および中層/外周部のそれぞれの界面に形成された拡散層、金属間化合物層などの中間層では、これまで述べた中間層複合ボンディングワイヤにおける、芯線と外周部とからなる2層構造の界面に形成された中間層の場合と同様の組成、厚さなどの構造にすることにより、密着性、機械的特性などを向上させる、ほぼ同様の効果を得ることができる。
【0103】
中間層を形成させる拡散熱処理も、前述した手法と同様で構わない。従来の2層構造でも芯線/外周部の界面における密着性の低下が問題となり、製造が困難であったことからも、芯線と中層と外周部の3層構造ワイヤは製造が非常に困難であり、量産は不可能であった。それに対し、芯線/中層、中層/外周部のそれぞれの界面に拡散層および金属間化合物層を形成させることにより、密着性を向上させたので量産可能となり、しかも、中間層の形成部位が2つの界面となることで、それら中間層による強度、曲げ剛性などの向上によるワイヤ変形の抑制効果についても、さらに高めることができる。
【0104】
こうした、各層の界面に中間層を形成させた3層構造とすることで、中間層を形成させた2層構造よりも、ワイヤを高強度化させて、且つ、ループ制御性の改善、ウェッジ接合性の向上、ボール部の硬化抑制などの、相反する特性を満足させることがより容易となる。例えば、中層を高強度の金属またはその合金とし、その中層よりも軟質である金属または合金を芯線と外周部に用いることにより、過酷なループ制御に追従してワイヤを変形させることで目的のループ形状を達成し、しかも、樹脂封止時にはワイヤ変形を抑制することもできる。
【0105】
また、高強度外周部にはワイヤのウェッジ接合性の良好なAu,Al,Cuなどの金属を用いることで、ウェッジ接合性を向上することもできる。さらに、芯線と外周部を同種の溶媒元素からなる金属または合金とし、中層のみ異なる硬質の材料を用いることは、溶融されたボール部内での、過剰に硬化させる溶質元素の割合を低減させて、接合直下への損傷を軽減することに有効である。この具体例として、Auの外周部、Cu,Pdなどの金属およびその合金である中層、Au合金の芯線とすることで、2層構造の場合よりも、ボール接合性、ウェッジ接合性などをより高められることができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例にもとずいて本発明を説明する。
実施例1
本実施例は、本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤに関するものである。
ボンディングワイヤの原材料として、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al元素のそれぞれについて粒、または小片であり、純度が約99.9質量%以上のものを用意した。
こうした高純度材以外にも、Ca,Be,In,Cu,Ag,Pt,Pdなどから1種類以上の元素を総計で 0.001−1%の範囲で含有するAu合金、Be,Auなどから1種類以上の元素を総計で 0.001−1%の範囲で含有するCu合金、Si,Mg,Ag,Pt,Pdなどから1種類以上の元素を総計で0.01−1%の範囲で含有するAl合金なども、個別に高周波真空溶解炉で溶解鋳造により合金材を作製した。
【0107】
芯線と外周部で異なる部材からなる中間層複合ボンディングワイヤを作製するために、下記の2種類の方法を使用した。
第一の方法は、芯線と外周部を個別に準備し、それらを組合わせてから、鍛造、圧延などにより、ある線径まで細くしてから、拡散熱処理を施し、その後さらに伸線加工により最終線径まで細くする方法(以下、挿入法と呼ぶ)である。今回は、長さが10cm、直径が約5mmの線を準備し、その断面の中心部に穴径 0.4〜2.5mm の範囲で貫通する穴を加工した外周部材と、その穴径と同等の線径である芯線材を別途作製した。この外周部材の穴に芯線材を挿入して、鍛造、ロール圧延、ダイス伸線などの加工を施して、線径50〜100 μmの線を作製した。そのワイヤの拡散熱処理として、20cmの均熱帯を持つ横型赤外加熱炉を用いて、 300〜900 ℃に設定された炉中を、0.01〜40m/sの速度でワイヤを連続的に移動させながら熱処理を施した。その拡散熱処理されたワイヤをさらに、ダイス伸線により、最終径の20〜30μmまで伸線した。最後に、上記の加熱炉で熱処理を施すことにより、加工歪みを取り除き、伸び値が4%程度になるように特性を調整した。
【0108】
第二の方法は、ある線径まで細くしたワイヤを芯線材とし、そのワイヤ表面を覆うように異なる材料で外周部を作製した後に、拡散熱処理を施し、その後さらに伸線加工により最終線径まで細くする方法(以下、被覆法と呼ぶ)である。今回は、直径が約 200〜500 μmのワイヤを予め準備し、そのワイヤ表面に蒸着、メッキなどにより 0.1〜30μmの厚さで外周部材を被覆し、線径60〜100 μmまでダイス伸線した後に、上述した加熱炉を用いて同様の拡散熱処理を施した。その拡散熱処理されたワイヤをさらに、ダイス伸線により、最終径の20〜30μmまで伸線し、最後に、加工歪みを取り除き伸び値が4%程度になるように熱処理を施した。
【0109】
ワイヤの量産性を評価するために、総重量約50gとなるように配合したワイヤ試料を挿入法により作製し、そのワイヤを同一系列のダイスにより一定速度で伸線加工することにより、線径25μmまで伸線したときの断線回数を測定した。その断線回数が、6回以上の場合には生産性に問題ありと判断して×印で表し、2〜5回の場合を生産性が充分ではないことから△印で表し、1回以下の場合は量産性に問題ないと判断して○印で表現した。
【0110】
ワイヤの引張強度および弾性率は、長さ10cmのワイヤ5本の引張試験を実施し、その平均値により求めた。曲げ剛性率は方持梁試験法により測定した。具体的には、長さ2〜5cmのワイヤの一端を固定して、自重により変形する曲線を測定し、その変形量から解析的に剛性率を計算した。
【0111】
ボンディングワイヤの接続には、市販の自動ワイヤボンダーを使用して、ボール/ウェッジ接合あるいはウェッジ/ウェッジ接合を行った。ボール/ウェッジ接合法では、アーク放電によりワイヤ先端にボール(初期ボール径:46μm)を作製し、それをシリコン基板上の電極膜に接合し、ワイヤ他端をリード端子上にウェッジ接合した。ここで、芯線あるいは外周部にCu,Ag,Al元素などを含有するワイヤでは、ボール溶融時の酸化を抑制するために、ワイヤ先端にN2 ガスを吹き付けながら、放電させた。また、ウェッジ/ウェッジ接合法では、ボールは形成しないで、シリコン基板上の電極膜にワイヤを直接接合した。
【0112】
接合相手としては、シリコン基板上の電極膜の材料である、厚さ1μmのAl合金膜(Al−1%Si− 0.5%Cu)、あるいはCu配線(Au0.01μm/Ni 0.4μm/Cu 0.4μm)を使用した。一方の、ウェッジ接合の相手には、表面にAgメッキ(厚さ:1〜4μm)が施されたリードフレーム、または表面にAuメッキ/Niメッキ/Cu配線を形成されている樹脂基板を使用した。
【0113】
ボール部近傍のネック部(熱影響域)における強度を評価するために、プル試験法を用いた。これは、ボンディングされたワイヤの中央部よりもボール接合部に近い部位に、専用フックを引掛けて、上方に引張りながら、破断強度(プル強度)を測定する方法であり、20本の平均値を測定した。
【0114】
ボンディング工程でのループ形状安定性については、 500本のワイヤを投影機により観察して、ワイヤの直線性、ループ高さなどの不良が3本以上ある場合は、問題有りと判断して×印で表し、不良が認められない場合は○印を、その中間の1〜2本の場合には△印で表した。不良原因の一つとして、芯線と外周部の界面の密着性が十分でないことに関連して、ループ形状が乱れる不良が発生することを確認しており、該評価法はそうした密着性を判定する方法の一つとなる。
【0115】
樹脂封止時のワイヤ流れ(樹脂流れ)の測定に関しては、ワイヤのスパンとして約6mmが得られるようボンディングした半導体素子が搭載されたリードフレームを、モールディング装置を用いてエポキシ樹脂で封止した後に、軟X線非破壊検査装置を用いて樹脂封止した半導体素子内部をX線投影し、ワイヤ流れが最大の部分の流れ量を20本測定し、その平均値をワイヤのスパン長さで除算した値(百分率)を封止後のワイヤ流れと定義した。
【0116】
ボール接合部の接合強度については、アルミ電極の2μm上方で冶具を平行移動させてせん断破断強度を読みとるシェアテスト法で測定し、20本の破断荷重の平均値を測定した。
ボール接合部直下のシリコン基板への損傷を評価するために、ボール接合部および電極膜は王水により除去した後、シリコン基板上のクラック、微小ピット穴などを光顕やSEM などにより観察した。 500個の接合部を観察し、5μm以上のクラックが3個以上認められる場合はチップ損傷が問題となると判断して△印で表し、クラックが1〜3個発生しているか、または1μm程度のピット穴が2個以上認められる場合は、チップ損傷が懸念されるものの実用上は問題はないことから、○印で表し、クラックは発生しておらずピット穴も1個以下の場合は、非常に良好であることから◎印で表示した。
【0117】
また、リード側にワイヤを接合するウェッジ接合性の判定では、リードフレーム接続における通常のステージ温度である 250℃で1000pin のボンディングを行った結果、接合部での剥離が生じたり、ワイヤの変形形状が対称的に変形していなかったりする場合には△印で表し、そうした不良が発生しないで、現行の汎用金ボンディングワイヤと同様に良好である場合には○印で表示した。さらにBGA などで求められる低温でのウェッジ接合性を評価するために、ステージ温度 180℃で1000pin のボンディングを行い、全ピン良好な接続が行え、接合形状も良好である場合には、低温ウェッジ接合性にも優れているとして、◎印で表示した。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
【表6】
【0124】
【表7】
【0125】
表1〜4には、本発明に係わる中間層複合ボンディングワイヤについての評価結果を示している。表1,2に示した実施例1〜19は、金属の外周部、その合金の芯線、外周部/芯線の間の拡散層からなり、発明(1)のボンディングワイヤに関する結果である。表3,4の実施例20〜30は、金属の芯線、その合金の外周部、外周部/芯線の間の拡散層が形成されており、発明(2)に関わる場合であり、実施例29〜35は、外周部と芯線ともに同種元素を主成分とする合金からなり、発明(3)に関わる場合である。表5に示したうちの実施例38〜42は、表3,4中の数種の中間層複合ボンディングワイヤのさらに外側に、芯線および外周部の主要元素とは同種の金属からなる最表面層を蒸着やメッキなどにより設けており、発明(4)に関するもので、その中の実施例38,41,42は、最表面層と外周部との間に中間層を設けた、発明(5)に関するボンディングワイヤの結果である。また、表5の実施例43〜46は、芯線および外周部の主要元素とは異なる金属からなる最表面層を設けており、発明(6)に関するボンディングワイヤの結果である。
【0126】
一方、表6は芯線と外周部のみの2層構造の場合の比較例を示しており、なかでも比較例1〜7は、芯線と外周部とが同種元素を主成分とする2層構造の場合であり、比較例8〜10は、芯線と外周部とが異なる元素を主成分とする2層構造ワイヤに関する。表7の比較例11〜13は、表5の3層構造の比較例である。これらの比較例はいずれも、芯線と外周部に中間層を形成していない場合である。
【0127】
表に示した試料No. は、関連試料をグループ分けして整理するための番号であり、最初の数字は拡散熱処理される前の試料番号を意味しており、その後のアルファベット表記(a,b,c…)は、その同一の試料で拡散熱処理が異なる場合、または最表面に被覆を施した場合に相当する。例えば、実施例1〜3(試料No. 1−a〜1−c)、実施例20,21(試料No. 16−a〜16−b)などは、それぞれ芯線と外周部の部材、割合などが同一であるワイヤを用いて、拡散熱処理条件を変えることで、拡散層の厚さを変化させた試料の結果であり、それに比して、比較例1(試料No. 1−d)は、同一試料で、拡散熱処理を行わなかった場合の結果に相当する。
芯線と外周部の材料の組合せ、または拡散層、金属間化合物層の厚さに応じて、拡散熱処理の条件は変更しており、例えば、実施例1では約 500℃の炉中を速度40m/sで連続的に焼鈍しており、実施例3では約 650℃で速度5m/s、実施例14では約 550℃で速度40m/s、実施例29では約 750℃で速度2m/sで熱処理を施した。
【0128】
表中には、拡散層あるいは金属間化合物層の厚さ、濃度または化合物の組成などを示している。これは、ワイヤを断面研磨し、芯線/外周部の界面に形成された中間層をオージェ分光装置あるいはEPMA装置で測定した結果である。オージェ分光分析によるライン分析の測定結果の一例を図8,9に示している。中間層を挟んでその外周部側からで芯線側までライン分析しているが、グラフのX軸には任意の位置からの距離で表示している。図8には、外周部Au/芯線Au−Ag30%合金の拡散層におけるAg濃度と、外周部Au/芯線Au−Cu3%合金の拡散層におけるCu濃度を示しており、図9(a)には芯線Pd−Cu2%−Al4%合金/外周部Pd−Au5%−Ag1%合金の場合の金属間化合物層におけるAu,Al濃度の変化を、図9(b)には芯線Cu−Pd5%−Be1%合金/外周部Cu−Au5%合金の場合の金属間化合物層におけるPd,Au濃度の変化を示している。
【0129】
いずれの結果でも、ワイヤ内部に形成された拡散層、金属間化合物層を確認することができ、さらに各層の厚さも測定できる。例えば、主な金属間化合物は、図9(a)ではAu5Al2相、図9(b)ではAu3Pd 相であることが観察された。表1〜5に示した厚さ、組成なども同様の手法により測定されたものである。試料によっては拡散層内に濃度勾配がある場合においても、表中の拡散層の濃度は、拡散層内の平均濃度値で表している。例えば、実施例5の拡散層内の濃度範囲はPd 1.5〜2.5 %であり、実施例9ではPd30〜40%であった。また、成長した主要な金属間化合物相を表に示しており、化学量論性からのずれにより組成比に若干の幅が生じる場合には、平均的組成で表している。
【0130】
拡散層と金属間化合物層が同時に確認される場合もあり、例えば実施例33では、拡散層Au−Cu 0.5%と金属間化合物Cu3Pt が観察された。さらに、拡散層、金属間化合物層などの中間層の近傍に溶質元素が濃化している場合も観察され、例えば、実施例7では、Agを約10%含有する拡散層と芯線との界面近傍にNi元素が、芯線内の添加量に対して10%以上濃化していた。
まずは、ワイヤの量産性をみると、表6の従来の2層構造のワイヤでは、伸線の途中で断線が発生して歩留まりが低下しており、また、ワイヤのSEM 観察では、表面キズなどの外観不良が発生していたのに対して、表1〜4の中間層複合ボンディングワイヤでは、製造時の断線は最小限にまで低減されており、外観での問題も発生していなかった。
【0131】
表1,2の拡散層が形成されたボンディングワイヤでは、比較例1〜3と比較しても、強度、弾性率、曲げ剛性などが優れており、樹脂封止時のワイヤ変形(樹脂流れ)が抑制されていることが判る。特に、拡散層を形成することにより、曲げ剛性が明らかに上昇していることが、ワイヤ変形を抑える効果をもたらしていると考えられる。
【0132】
一例として、Auの外周部、Au−Cu3%−Ca 0.1%合金の芯線の同一構成である実施例1〜3(試料No. 1−a〜1−c)と比較例1(試料No. 1−d)を比較すると、拡散層が厚くなるに従い、機械的特性が向上していることが確認された。例えば、実施例1では、拡散層の厚さLは0.03μmと薄いものの、比較例1(L=0)に比べると、弾性率、曲げ剛性は増加し、樹脂流れは低減されるなど、改善が認められた。さらに実施例2(L= 0.3μm)では、L>0.05μmの条件を満たすことから、その改善効果は大きくなっており、目標としていた樹脂流れ率を7%以下に抑えることが達成されていた。この7%の意味としては、現在、主流である高純度Auボンディングワイヤの汎用製品を数種類評価したところ、つねに7%以上であることが確認されたため、樹脂流れ率を7%以下に抑えることをワイヤ特性向上の目安として用いたためである。さらに、実施例3(L=2μm)では、上記の効果に加えて、プル強度も増加しており、ネック部での曲がり不良などを抑えるのに効果が期待される。
【0133】
また、芯線、外周部および中間層の組成は同一であるもののそれぞれの厚みが異なる場合として、実施例6では、実施例5よりも芯線の径が増え、さらに中間層もより外側に形成することで、曲げ剛性は増加し、樹脂流れは低減されていた。また、実施例8と実施例9を比較しても、同様の効果が確認された。
【0134】
表3,4もほぼ同様であり、中間層を形成させることにより、表6の比較例4〜8と比較して、弾性率、曲げ剛性は増加し、樹脂流れを低減することができることが確認された。表3,4では、外周部を合金とすることで、表1,2における芯線を合金とする場合よりも、曲げ剛性を1割程度は高めており、樹脂流れも低減されていた。また、実施例25,29の場合では金属間化合物層を形成させることでより、拡散層のみ形成した場合と比較しても、高い効果が得られており、樹脂流れを 4.5%以下にまで抑えられることが確認された。
【0135】
従来の2層構造である、芯線と外周部が異なる金属を主成分とするワイヤに関する、比較例8〜10では、ボール接合部直下のシリコン基板にクラックなどの損傷を与えてしまうのに対し、表1〜4では、芯線と外周部が同種金属を主成分とすることで、ボール部の硬化を軽減する作用が働き、シリコン基板への損傷が抑えられていることが確認された。
【0136】
図10には、拡散層または金属間化合物層の層厚と樹脂流れの関係を示している。図10(a)は外周部Au/芯線Au−Cu3%−Ca 0.1%合金の界面に拡散層が成長させたワイヤの樹脂流れ率であり、線径25μm、ワイヤ長約6mmの条件の結果であり、一方の図10(b)は、芯線Au/外周部Au−Cu3%合金の界面に主に金属間化合物層を成長させたワイヤの場合で、線径20μm、ワイヤ長約5mmでの実験結果である。いずれの場合も、拡散層または金属間化合物層が厚くなるほど、樹脂流れが抑えられていることは明らかである。例えば、図10(a)の拡散層厚さLとの相関では、0.05μm以上では樹脂流れの抑制効果があり、さらに 1.0μm以上でその効果がより高まっていた。また、図10(b)の金属間化合物層厚さdとの相関では、0.05μm以上で流れ抑制効果が高く、また 0.1μm以上ではその効果がより高くなり、さらに 1.0μm以上では効果がより一層高くなっていることが確認された。
【0137】
樹脂流れ以外の特性をみると、表6の2層構造ワイヤおよび表7の3層構造ワイヤのように中間層を形成していない場合には、ループ形状のバラツキが発生しており、ループ安定性に問題があったり、またウェッジ接合形状でも、現行の金ボンディングワイヤと比べて、剥離などの不良が発生する頻度が高かったのに対して、表1〜5の中間層複合ボンディングワイヤでは、ループ安定性、ウェッジ接合形状ともに良好であることが確認された。
【0138】
表5の実施例38〜42では、表3,4の実施例20,27,31,34のそれぞれの中間層複合ボンディングワイヤにおいて、その表面に芯線や外周部と同種の元素を主成分とする最表面層を形成したものであり、これにより低温 180℃でのウェッジ接合性は向上し、さらにボール部直下のチップ損傷も軽減されていることが確認された。また、実施例43〜46では、実施例11,19,28,34のそれぞれの中間層複合ボンディングワイヤにおいて、その表面に芯線や外周部とは異なり、しかも酸化の少ない元素を主成分とする最表面層を形成したもので、これによりウェッジ接合性は向上しており、さらに曲げ剛性などの特性向上によりワイヤの樹脂流れを低減する効果も得られていた。さらに、チップ上の電極膜にワイヤを直接接合するウェッジ−ウェッジ接合についても評価したところ、実施例1,19,24などでは、中間層を形成しない場合と比較して、接合強度が高く、低温 180℃でのウェッジ接合での不良率も大幅に低減しており、ワイヤの樹脂流れも減少されていることが確認された。
【0139】
また、ワイヤを6ヵ月間大気中に放置した後で同様の実験を行っても、実施例43〜46では最表面層による酸化抑制の効果が維持されていることが確認できた。こうした結果からも、実施例11,19,28,34などのワイヤでは、出荷時に酸化を軽減するためのガス置換による梱包が必要と考えられていたが、実施例43〜46ではそうした特殊は梱包も必要なく、また経時劣化の心配がないことも確認できた。
【0140】
芯線/外周部/最表面層の3層構造のワイヤについて比較すると、表7の比較例11〜13では、伸線の途中で断線が発生して歩留まりが低下しており、使用特性でもループ形状のバラツキやウェッジ接合形状不良の不具合が発生していたのに対し、表5に示した実施例38〜46では、3層構造で、且つその界面に中間層を形成することにより、製造時の断線は最小限にまで低減され、量産性が向上しており、ループ形状、ウェッジ接合形状なども良好であり、しかも、強度、弾性率、曲げ剛性などが上昇して、樹脂流れの抑制効果が高まっていることからも、中間層の形成による効果が確認された。
実施例2
【0141】
本実施例は、本発明の(7)〜(11)に記載のボンディングワイヤに関するものである。
原材料は、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al,Ni,Fe元素それぞれについて粒、または小片の試料であり、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Alの純度は約 99.99質量%以上であり、Ni純度は99.9質量%以上、Fe純度は99質量%以上のものを用意した。
こうした高純度材以外にも、Ca,Be,In,Cu,Ag,Pt,Pdなどから1種類以上の元素を総計で 0.001−1%の範囲で含有するAu合金、Be,Auなどから1種類以上の元素を総計で 0.001−1%の範囲で含有するCu合金、Si,Mg,Ag,Pt,Pdなどから1種類以上の元素を総計で0.01−1%の範囲で含有するAl合金なども、個別に高周波真空溶解炉で溶解鋳造により合金材を作製した。
【0142】
芯線と外周部で異なる部材からなる中間層複合ボンディングワイヤを作製するために、下記の2種類の方法を使用した。
第一の方法は、芯線と外周部を個別に準備し、それらを組合わせてから、鍛造、圧延などにより、ある線径まで細くしてから、拡散熱処理を施し、その後さらに伸線加工により最終線径まで細くする方法(以下、挿入法と呼ぶ)である。今回は、長さが10cm、直径が約5mmの線を準備し、その断面の中心部に穴径 0.4〜2.5mm の範囲で貫通する穴を加工した外周部材と、その穴径と同等の線径である芯線材を別途作製した。この外周部材の穴に芯線材を挿入して、鍛造像、ロール圧延、ダイス伸線などの加工を施して、線径50〜100 μmの線を作製した。そのワイヤの拡散熱処理として、20cmの均熱帯を持つ横型赤外加熱炉を用いて、 300〜900 ℃に設定された炉中を、0.01〜40m/sの速度でワイヤを連続的に移動させながら熱処理を施した。その拡散熱処理されたワイヤをさらに、ダイス伸線により、最終径の20〜30μmまで伸線した。最後に、上記の加熱炉で熱処理を施すことにより、加工歪みを取り除き、伸び値が4%程度になるように特性を調整した。
【0143】
第二の方法は、ある線径まで細くしたワイヤを芯線材とし、そのワイヤ表面を覆うように異なる材料で外周部を作製した後に、拡散熱処理を施し、その後さらに伸線加工により最終線径まで細くする方法(以下、被覆法と呼ぶ)である。今回は、直径が約 200〜500 μmのワイヤを予め準備し、そのワイヤ表面に蒸着、メッキなどにより 0.1〜30μmの厚さで外周部材を被覆し、線径60〜100 μmまでダイス伸線した後に、上述した加熱炉を用いて同様の拡散熱処理を施した。その拡散熱処理されたワイヤをさらに、ダイス伸線により、最終径の20〜30μmまで伸線し、最後に、加工歪みを取り除き伸び値が4%程度になるように熱処理を施した。
【0144】
ワイヤの量産性を評価するために、総質量約50gとなるように配合したワイヤ試料を挿入法により作製し、そのワイヤを同一系列のダイスにより一定速度で伸線加工することにより、線径25μmまで伸線したときの断線回数を測定した。その断線回数が、6回以上の場合には生産性に問題ありと判断して×印で表し、2〜5回の場合を生産性が充分ではないことから△印で表し、1回以下の場合は量産性に問題ないと判断して○印で表現した。
【0145】
ワイヤの引張強度および弾性率は、長さ10cmのワイヤ5本の引張試験を実施し、その平均値により求めた。曲げ剛性率は片持梁試験法により測定した。具体的には、長さ3cmのワイヤの一端を固定して、自重により変形する曲線を測定し、その変形量から解析的に剛性率を計算した。
【0146】
ボンディングワイヤの接続には、市販の自動ワイヤボンダーを使用して、ボール/ウェッジ接合あるいはウェッジ/ウェッジ接合を行った。ボール/ウェッジ接合法では、アーク放電によりワイヤ先端にボール(初期ボール径:46μm)を作製し、それをシリコン基板上の電極膜に接合し、ワイヤ他端をリード端子上にウェッジ接合した。ここで、芯線あるいは外周部にCu,Ag,Al,Ni,Fe元素などを含有するワイヤでは、ボール溶融時の酸化を抑制するために、ワイヤ先端にN2 ガスを吹き付けながら、放電させた。また、ウェッジ/ウェッジ接合法では、ボールは形成しないで、シリコン基板上の電極膜にワイヤを直接接合した。
【0147】
接合相手としては、シリコン基板上の電極膜の材料である、厚さ1μmのAl合金膜(Al−1%Si− 0.5%Cu)、あるいはCu配線(Au0.01μm/Ni 0.4μm/Cu 0.4μm)を使用した。一方の、ウェッジ接合の相手には、表面にAgメッキ(厚さ:1〜4μm)が施されたリードフレーム、または表面にAuメッキ/Niメッキ/Cu配線を形成されているガラエポ樹脂基板を使用した。
【0148】
ボール部近傍のネック部(熱影響域)における強度を評価するために、プル試験法を用いた。これは、ボンディングされたワイヤの中央部よりもボール接合部に近い部位に、専用フックを引掛けて、上方に引張りながら、破断強度(プル強度)を測定する方法であり、20本の平均値を測定した。
【0149】
ボンディング工程でのループ形状安定性については、1000本のワイヤを投影機により観察して、ワイヤの直線性、ループ高さなどの不良が3本以上ある場合は、問題有りと判断して×印で表し、不良が認められない場合は○印を、その中間の1〜2本の場合には△印で表した。不良原因の一つとして、芯線と外周部の界面の密着性が十分でないことに関連して、ループ形状が乱れる不良が発生することを確認しており、該評価法はそうした密着性を判定する方法の一つとなる。
【0150】
樹脂封止時のワイヤ流れ(以下、樹脂流れと呼ぶ)の測定に関しては、ワイヤのスパンとして約6mmが得られるようボンディングした半導体素子が搭載されたリードフレームを、モールディング装置を用いてエポキシ樹脂で封止した後に、軟X線非破壊検査装置を用いて樹脂封止した半導体素子内部をX線投影し、ワイヤ流れが最大の部分の流れ量を20本測定し、その平均値をワイヤのスパン長さで除算した値(百分率)を封止後のワイヤ流れと定義した。
【0151】
ボール接合部の接合強度については、アルミ電極の2μm上方で冶具を平行移動させてせん断破断強度を読みとるシェアテスト法で測定し、20本の破断荷重の平均値を測定した。
【0152】
また、リード側にワイヤを接合するウェッジ接合性の判定では、リードフレーム接続における通常のステージ温度である 250℃で1000pin のボンディングを行った結果、接合部での剥離が生じたり、ワイヤの変形形状が対称的に変形していなかったりする場合には△印で表し、そうした不良が発生しないで、現行の汎用金ボンディングワイヤと同様に良好である場合には○印で表示した。さらにBGA などで求められる低温でのウェッジ接合性を評価するために、ステージ温度 180℃で1000pin のボンディングを行い、全ピン良好な接続が行え、接合形状も良好である場合には、低温ウェッジ接合性にも優れているとして、◎印で表示した。
【0153】
【表8】
【0154】
【表9】
【0155】
【表10】
【0156】
【表11】
【0157】
【表12】
【0158】
【表13】
【0159】
表8,9には、本発明に係わる中間層複合ボンディングワイヤについての評価結果を示している。芯線/外周部の界面に形成される中間層の種類により分類しており、表8に示した実施例51〜63は拡散層のみが形成された場合であり、表9に示した実施例64〜78は金属間化合物層(一部拡散層も含む)が形成されている場合である。表10に示した実施例79〜82は、中間層複合ボンディングワイヤの外側に最表面層を蒸着やメッキなどにより形成させた、最表面層/外周部/中間層/芯線からなるボンディングワイヤに関する場合であり、また、表11に示した実施例83〜87は、芯線/中層/外周部の3層構造であり、しかもその界面に中間層を形成した場合である。
【0160】
一方、表12の比較例21〜27は、芯線と外周部の2層構造の場合の比較例であり、表13の比較例28〜30は、3層構造の場合の比較例の結果である。これらの比較例は、芯線と外周部における部材、割合の構成が表8、表9、表11に記載のワイヤと同一であるものの、拡散熱処理を施していないことにより、中間層を形成していない場合である。
【0161】
表に示した試料No. は、関連試料をグループ分けして整理するための番号であり、アルファベット表記(a,b,c…)は拡散熱処理される前の試料を意味しており、後の数字は、その同一の試料で拡散熱処理が異なることを示している。例えば、実施例51〜54(試料No. a−1〜a−4)、実施例64〜67(試料No. j−1〜j−4)などは、それぞれ芯線と外周部の部材、割合などが同一であるワイヤを用いて、拡散熱処理条件を変えることで、拡散層の厚さを変化させた試料の結果であり、それに比して、比較例21(試料No. a−5)、比較例25(試料No. j−5)は、同一試料で、拡散熱処理を行わなかった場合の結果に相当する。
【0162】
芯線と外周部の材料の組合せ、または拡散層、金属間化合物層の厚さに応じて、拡散熱処理の条件は変更しており、例えば、実施例51では約 500℃の炉中を速度40m/sで連続的に焼鈍しており、実施例53では約 650℃で速度5m/s、実施例65では約 550℃で速度40m/s、実施例66では約 750℃で速度2m/sで熱処理を施した。
【0163】
表中には、拡散層あるいは金属間化合物層の厚さ、濃度または化合物の組成などを示している。これは、ワイヤを断面研磨し、芯線/外周部の界面に形成された中間層をオージェ分光装置あるいはEPMA装置で測定した結果である。オージェ分光分析によるライン分析の測定結果の一例を図11,12に示している。中間層を挟んでその外周部側から芯線側までライン分析しているが、グラフのX軸には任意の位置からの距離で表示している。図11には、芯線Ag/外周部Auの拡散層におけるAg濃度と、芯線Pt/外周部Auの拡散層におけるPt濃度を示しており、図12(a)には芯線Cu/外周部Auの場合の金属間化合物層におけるAu,Cu濃度の変化を、図12(b)には芯線Al/外周部Auの金属間化合物層におけるAl,Au濃度の変化を示している。
【0164】
いずれの結果でも、ワイヤ内部に形成された拡散層、金属間化合物層を確認することができ、さらに各層の厚さも測定できる。例えば、主な金属間化合物は、図12(a)ではAuCu,AuCu3 相、(b)ではAu5Al2,AuAl相であることが観察された。同様の手法により測定された厚さ、組成などを表8〜11に示している。試料によっては拡散層内に濃度勾配がある場合においても、表中の拡散層の濃度は、拡散層内の平均濃度値で表している。例えば、実施例54の拡散層内の濃度範囲はAg45〜55%であり、実施例59ではPd30〜40%であった。また、金属間化合物についても主要な相を表に示しており、化学量論性からのずれにより組成比に若干の幅が生じる場合には、平均的組成で表している。
【0165】
さらに、拡散層、金属間化合物層などの中間層の近傍に溶質元素が濃化している場合も確認されている。例えば、実施例63では、Cu合金の外周部と金属間化合物の界面近傍にPd,Ptなどの元素が、含有量に対して10%以上濃化しており、実施例25では、Au外周部と金属間化合物の界面近傍にCu,Pdなどの元素が、含有量に対して20%以上濃化していることが観察された。
【0166】
まずは、ワイヤの量産性をみると、表12の従来の2層構造のワイヤでは、伸線の途中で断線が発生して歩留まりが低下しており、また、ワイヤのSEM 観察では、表面キズなどの外観不良が発生していたのに対して、表8、表9の中間層複合ボンディングワイヤでは、製造時の断線は最小限にまで低減されており、外観での問題も発生していなかった。
【0167】
表8の拡散層が形成されたボンディングワイヤでは、比較例21〜24と比較しても、強度、弾性率、曲げ剛性などが優れており、樹脂封止時のワイヤ変形(樹脂流れ)が抑制されていることが判る。特に、拡散層を形成することにより、曲げ剛性が明らかに上昇していることが、ワイヤ変形を抑える効果をもたらしていると考えられる。
【0168】
一例として、芯線Ag/外周部Auの構成は同一である実施例51〜54(試料No. a−1〜a−4)と比較例21(試料No. a−5)を比較すると、拡散層が厚くなるに従い、機械的特性が向上していることが確認された。例えば、実施例1では、拡散層の厚さLは0.03μmと薄いものの、比較例21(L=0)に比べると、弾性率、曲げ剛性は増加し、樹脂流れは低減されるなど、改善が認められた。さらに実施例52(L=0.06μm)では、L>0.05μmの条件を満たすことから、その改善効果は大きくなっており、目標としていた樹脂流れ率を7%以下に抑えることが達成されていた。この7%の意味としては、現在主流である高純度Auボンディングワイヤの汎用製品を数種類評価したところ、つねに7%以上であることが確認されたため、樹脂流れ率を7%以下に抑えることをワイヤ特性向上の目安として用いたためである。さらに、実施例53(L= 0.2μm)では、上記の効果に加えて、プル強度も増加しており、ネック部での曲がり不良などを抑えるのに効果が期待される。
【0169】
表9もほぼ同様であり、金属間化合物を成長させることにより、表12の比較例25〜27と比較して、弾性率、曲げ剛性は増加し、樹脂流れを低減することができることが確認された。また表8の拡散層のみ形成した場合と比較しても、表9の場合では金属間化合物層を形成させることでより高い効果が得られており、例えば、樹脂流れを4%未満にまで抑えられることが確認された。
【0170】
図13には、拡散層または金属間化合物層の層厚と樹脂流れの関係を示している。図13(a)は外周部Au/芯線Ptの界面に拡散層が成長させたワイヤの樹脂流れ率であり、線径25μm、ワイヤ長約6mmの条件の結果であり、一方の図13(b)は、外周部Au/芯線Cuの界面に主に金属間化合物層を成長させたワイヤの場合で、線径20μm、ワイヤ長約5mmでの実験結果である。いずれの場合も、拡散層または金属間化合物層が厚くなるほど、樹脂流れが抑えられていることは明らかである。例えば、図13(a)の拡散層厚さLとの相関では、0.05μm以上では樹脂流れの抑制効果があり、さらに 1.0μm以上でその効果がより高まっていた。また、図13(b)の金属間化合物層厚さdとの相関では、0.05μm以上で流れ抑制効果が高く、また 0.1μm以上ではその効果がより高くなり、さらに 1.0μm以上では効果がより一層高くなっていることが確認された。
【0171】
樹脂流れ以外の特性をみると、表12の2層構造ワイヤおよび表13の3層構造ワイヤのように中間層を形成していない場合には、ループ形状のバラツキが発生しており、ループ安定性に問題があったり、またウェッジ接合形状でも、現行の金ボンディングワイヤと比べて、剥離などの不良が発生する頻度が高かったのに対して、表8、表9、表10、表11の中間層複合ボンディングワイヤでは、ループ安定性、ウェッジ接合形状ともに良好であることが確認された。
【0172】
表10の実施例79〜82では、表8、表9の実施例55,63,68,71のそれぞれの中間層複合ボンディングワイヤにおいて、その表面に導電性金属の最表面層を形成したものであり、これにより 180℃での低温接合性が向上していることが確認された。また、これらのワイヤを6ヵ月間大気中に放置した後で同様の実験を行っても、実施例79〜82では最表面層による酸化抑制の効果が維持されていることが確認できた。こうした結果からも、実施例55,63,68,71などのワイヤでは、出荷時に酸化を軽減するためのガス置換による梱包が必要と考えられていたが、実施例79〜82ではそうした特殊な梱包も必要なく、また経時劣化の心配がないことも確認できた。
【0173】
芯線/中層/外周部の3層構造のワイヤについて比較すると、表13の比較例28〜30では、伸線の途中で断線が発生して歩留まりが低下しており、使用特性でもループ形状のバラツキやウェッジ接合形状不良の不具合が発生していたのに対し、表11に示した実施例83〜87では、3層構造で、且つその界面に中間層を形成することにより、製造時の断線は最小限にまで低減され、量産性が向上しており、ループ形状、ウェッジ接合形状なども良好であり、しかも、強度、弾性率、曲げ剛性などが上昇して、樹脂流れの抑制効果が高まっていることからも、中間層の形成による効果が確認された。また、表8、表9の中層を含まないワイヤの結果と比較しても、実施例83〜87では、曲げ剛性などの機械的特性は上昇し、樹脂流れは3%未満にまで抑えられていた。
【産業上の利用可能性】
【0174】
以上説明したように、本発明においては、芯線と外周部を同種の元素をベースとする金属および合金から構成し、さらにその芯線/外周部の間に、それら芯線と外周部を構成する元素からなる拡散層あるいは金属間化合物層を設けた中間層複合構造にすることより、また、芯線とは異なる導電性金属からなる外周部が形成され、さらにその芯線と外周部の間に、芯線と外周部を異なる導電性金属により構成され、しかもその界面に拡散層または金属間化合物層が形成されている中間層複合構造にすることより、狭ピッチ化、細線化、長ワイヤ化に優れた高強度、高曲げ剛性を有し、ボール部接合性、ウェッジ接合性も向上され、しかも工業的に量産性にも優れた、半導体素子用ボンディングワイヤを提供することができる。
【符号の説明】
【0175】
1 芯線
2 外周部
3 拡散層
4 金属間化合物層
5 中間層(拡散層および金属間化合物層の総称)
6 分析ライン
7 最表面層
8 中層
d1 芯線の直径
d2 ワイヤ直径
r 中間層の厚さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子上の電極と外部リードを接続するために使用される半導体ボンディングワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体素子上の電極と外部端子との間を接合するボンディングワイヤとしては、線径20−50μm程度で、材質は高純度4N系(純度> 99.99質量%)の金であるボンディングワイヤが主として使用されている。金ボンディングワイヤの接合技術としては、超音波併用熱圧着方式が一般的であり、汎用ボンディング装置、ワイヤをその内部に通して接続に用いるキャピラリ冶具などが必要である。ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、表面張力によりボールを形成させた後に、 150〜300 ℃の範囲内で加熱した半導体素子の電極上にこのボール部を圧着接合せしめ、その後で、直接ワイヤを外部リード側に超音波圧着により接合させる。
【0003】
近年、半導体実装の構造・材料・接続技術などは急速に多様化しており、例えば実装構造では、現行のリードフレームを使用したQFP (Quad Flat Packaging) に加え、基板、ポリイミドテープなどを使用するBGA (Ball Grid Array) 、CSP (Chip Scale Packaging)などの新しい形態が実用化され、ループ性、接合性、量産使用性などをより向上したボンディングワイヤが求められている。そうしたワイヤの接続技術でも、現在主流のボール/ウェッジ接合のほかに、狭ピッチ化に適したウェッジ/ウェッジ接合では、二箇所の部位で直接ワイヤを接合するため、細線の接合性の向上が求められる。
ボンディングワイヤの接合相手となる材質も変化しており、シリコン基板上の配線、電極材料では、従来のAl合金に加えて、より微細配線に好適なCuが実用化されている。また、高密度配線のために電極膜の厚さは薄くなる傾向にあり、ワイヤ先端のボール部を接合する際に、その直下の半導体基板にクラックなどのダメージを与えることが懸念されている。さらに、半導体の小型化、高密度化を進めるために、これまで実現が困難とされていた、電極膜下に素子を形成した半導体の開発が始まっており、ボール接合時のダメージを軽減することの重要性が高まっている。これらの接合相手の動向に応じるために、ボンディングワイヤの接合性、接合部信頼性を向上することが求められる。
【0004】
こうした半導体素子の高集積化、高密度化などのニーズに対応するために、金ボンディングワイヤ接続のニーズも多様化しており、なかでも、(1)狭ピッチ化、(2)細線化、(3)多ピン・長ワイヤ化、(4)小ボール接合性、(5)接合部のチップ損傷の軽減などが要求されている。
例えば、高粘性の熱硬化エポキシ樹脂が高速注入される樹脂封止工程では、ワイヤが変形して隣接ワイヤと接触することが問題となり、しかも、狭ピッチ化、長ワイヤ化、細線化も進むなかで、樹脂封止時のワイヤ変形を少しでも抑えることが求められている。ワイヤ強度の増加により、こうした変形をある程度コントロールすることはできるものの、ループ制御が困難となったり、接合時の強度が低下するなどの問題が解決されなくては実用化は難しい。
【0005】
これらの要求に対応するためには、ボンディング工程におけるループ制御が容易であり、しかも電極部、リード部への接合性も向上されており、ボンディング以降の樹脂封止工程におけるワイヤ変形を抑制することができるなどの、総合的な特性を満足することが求められる。
【0006】
これまで、ボンディングワイヤを高強度化する手段として、複数の合金元素を添加することが主流であった。現在主流の高純度系金ボンディングワイヤでは、合金元素の添加は数ppm 〜数十ppm に制限されており、ループ制御性、接合性などには優れているものの、ワイヤ変形の抑制、ボール形成時の熱影響部(ネック部)の強度などは十分ではなかった。最近、添加量を増やして総計で1%程度まで添加した高濃度合金ワイヤが、一部のICで使用され始めているが、樹脂封止時のワイヤ変形を改善する効果は十分ではなく、リード側への接合性が低下するなどの問題が懸念されていた。
【0007】
金に代わるワイヤ素材も検討されているが、例えば、銅ワイヤでは、ワイヤの高強度化とボール部の軟化とを両立させることが困難であり、一般的なLSI などには使用されていない。また、セラミックスパッケージ用途のウェッジ−ウェッジ接合には、アルミワイヤが用いられているが、樹脂封止された場合に表面腐食の問題や、高濃度に合金元素を添加すると接合性が低下するなどの問題が生じており、汎用的に使用することは困難である。
【0008】
高強度化を達成する別方法では、芯線と外周部が異なる金属からなるボンディングワイヤ(以下、2層ボンディングワイヤと呼ぶ)が提案されており、例えば、特許文献1ではAg芯線をAu被覆したワイヤについて、特許文献2では、芯線を導電性金属とし表面をAuメッキしたワイヤについて、特許文献3では、Pt/Pt合金の芯線とその外周部をAg/Ag合金とするワイヤなどが、開示されている。他にも、2層を構成する材料が同種金属でありながら濃度の異なる材料である場合として、例えば、特許文献4では、Ca,Beなどを含有するAu合金の芯線とその外周部を同様の低濃度のAu合金とするワイヤについて開示されている。これらは、芯線と外周部で異なる金属を組み合わせることにより、汎用製品の全てに相当する、単一部材で構成されたワイヤ(以下、単層ボンディングワイヤと呼ぶ)では困難である特性を総合的に満足することが期待される。また、特許文献5では、表面に合金元素あるいは高濃度合金が被覆され、外周部から中心部に連続的に合金元素の濃度を変化させているボンディングワイヤについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭56−21354号公報
【特許文献2】特開昭59−155161号公報
【特許文献3】特開平4−79246号公報
【特許文献4】特開平4−252196号公報
【特許文献5】特開平3−135040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現行の単層ボンディングワイヤでは、高強度化するために合金元素の添加量を増加させると、ボール部の表面酸化および引け巣の発生などにより接合性が低下したり、また、ワイヤ表面の硬化、酸化などにより、ウェッジ接合性が低下し、製造歩留まりが低下する問題が生じる。また添加量の増加により電気抵抗は上昇する傾向にあり、特に、高周波用途のICでは、そうした電気抵抗の過剰な増加は信号遅延の原因として懸念される。
【0011】
そうした、単層ボンディングワイヤでは対応困難な課題に対応する手段の一つとして、芯線と外周部とを異種材料で構成する2層ボンディングワイヤを始め、多層構造のボンディングワイヤに関して、多くの素材の組合せが提案されている。しかしながら、2層ボンディングワイヤはこれまで実用化に到っておらず、実際の半導体において評価された実例もほとんど報告されていないのが実情である。
【0012】
その理由として、これまで提案されている2層ボンディングワイヤにおいて芯線と外周部で異なる部材とすることで、量産するうえで、芯線と外周部で所定の比率を得るための製造技術、品質管理などが非常に困難であり、また、特定の特性は向上しても、芯線とその外周部との密着性の低下などがあり、多くのワイヤ要求特性を総合的に満足するのは困難であることなど、多くの問題が残されていた。
本発明者らも、2層ボンディングワイヤの特性などを調査した結果、芯線とその外周部との密着性の低下、芯線と外周部で所定の比率を得るための製造技術、品質管理など、多くの解決すべき問題点があることが確認された。
【0013】
芯線と外周部が異なる金属を主成分とする従来の2層ボンディングワイヤの場合、異種材が単に接触しているだけであったので界面での密着性に関する不具合が多く認められる。伸線加工などを経ることで若干は改善されるものの、それだけでは十分な密着性を得るのは困難である。製造中に、機械的特性の異なる異種金属を同時に伸線加工するため、界面での密着性が十分でないと、ワイヤ長手方向の面積比率のバラツキが生じて、所定の特性を得るのが困難となったり、高速伸線工程での界面剥離、亀裂が生じたりする問題が発生する。また、ワイヤ使用時に高速で、複雑に曲げ変形される際や、接合時に著しく塑性変形される際に、2層ボンディングワイヤの界面の剥離などに関連する不良が発生する。
また、製造中に、機械的特性の異なる異種金属を同時に伸線加工するため、芯線と外周部の面積比率が変化して、所定の特性を得ることが困難である。
【0014】
2層ボンディングワイヤの製造法では、予め作製した2層構造のインゴットあるいは太径ワイヤを、最終線径まで伸線する製造法と、最終径の近傍のワイヤ表面にメッキ、蒸着などにより表層部を形成する方法が考えられるが、いずれとも製造に関連する問題が発生する。前者では、芯線と外周部との界面での密着性が低下したり、機械的特性の異なる異種金属を伸線加工することにより、芯線と外周部の面積比率が初期から変化するなどの問題点も多く、安定した機械的特性を得ることが困難である。一方、後者の製造では、最終に表層部を形成するため、芯線と外周部との界面での密着性が不十分であり、また、滑らかなワイヤ表面を得ることが困難であるなどの問題がおこる。
【0015】
さらに、芯線と外周部に異なる金属を主成分とする異種材を用いることで、ワイヤの強度増加は期待できるものの、ボール接合性の問題が生じる。すなわち、ワイヤが溶融されて形成されるボール部では、芯線材と外周部が混合されて、高濃度に合金化元素を含有する状態となることにより、ボール部の硬化、表面酸化、引け巣発生などが起こり、接合強度が低下したり、ボール接合部直下の半導体基板にクラックなどの損傷を与えることが問題となる。例えば、芯線と外周部とが異種金属を主成分とする場合には、溶融されたボール部での合金化元素の含有量は数%〜数十%にまで達する場合が多いことから考えても、2層ボンディングワイヤの実用化には、ボール接合時の接合強度の確保と半導体基板へのダメージの軽減を満足することが重要となる。
【0016】
また、芯線と外周部で同種の金属を主成分とする2層ボンディングワイヤの場合でも、上記の異種金属を主成分とする場合と同様に、界面での密着性に関する不具合が発生しやすく、例えば、生産性の低下、曲げ変形や接合時の界面剥離や、特性バラツキなどが起こることが問題となる。また、同種の金属を主成分とすることで、異種金属の場合のボール接合ダメージなどの問題は軽減することができるものの、一方で、2層構造であるにも係わらず、現行の単層ワイヤと比較しても強度などの機械的特性を改善することは困難となる。例えば、芯線と外周部との断面積比で決まる混合則に支配される強度、弾性率では、同種金属とすることで類似した特性を有する芯線と外周部の特性に左右され、それを超えることは困難である。すなわち、強度、弾性率では、芯線と外周部との断面積比に支配される混合則に従う場合が多いことから考えても、その強度、弾性率を有する芯線または外周部のどちらかの材料特性を超えることは困難である。
【0017】
そこで強度を増加させるために、芯線および外周部の部材に元素を高濃度添加すれば、単層ボンディングワイヤの場合と同様に、ボール部接合性やウェッジ接合性などが低下する問題が起きてしまう。今後の狭ピッチ化・細線化・長ワイヤ化に対応するには、ループ倒れの抑制、樹脂封止時のワイヤ変形などを抑制することが要求され、これまでの2層ボンディングワイヤよりもさらに機械的特性を向上することが求められており、なかでも、樹脂封止時のワイヤ変形を大幅に抑制するための、曲げ剛性の向上が必要であることを、本発明者らは確認している。
【0018】
また、前述した、表面に合金元素あるいは高濃度合金が被覆され、外周部から中心部にかけて合金元素の濃度が連続的に変化されているボンディングワイヤの場合、最新のボンディング装置およびループ形成、接合条件においても、現行の単層ボンディングワイヤと同等の特性を得ることが困難である。例えば、ワイヤ表面近傍の合金元素濃度が連続的に変化しているだけでは、過酷なループ形成時や、キャピラリ内壁による摩擦などに十分に耐えることは困難であることから、ループ形状がばらついたり、直線性が低下したりする。また、表面の被覆層が数千Å程度であり、しかも濃度変化されていることから、リード部または樹脂基板上のメッキ部へのウェッジ接合時にワイヤが大変形されることで、薄い被覆層がワイヤとメッキ部との接合界面に介在することにより接合強度を低下させる要因となったり、また濃度が異なる層が接合界面に分散していることで、接合界面での拡散挙動が不均一となり、長期の接合信頼性を得るのが困難となることが多い。
【0019】
以上のことから、今後の半導体の実装技術に適応するためにも、ワイヤは個別の要求特性のみ満足するのではなく、総合的に特性を向上する材料開発が求められる。現行の単層ボンディングワイヤの成分設計、2層ボンディングワイヤの材料選定あるいは、単に2層構造とするだけなどでは対応が困難であることから、ループ制御性に優れ、高強度で、しかも接合性、接合強度も向上できるボンディングワイヤが所望されている。
【0020】
本発明では、従来の単層および2層のボンディングワイヤでは同時に満足することが困難であった3つの課題である、狭ピッチ化、細線化、長ワイヤ化において高強度で、高曲げ剛性であること、高いボール部接合性およびウェッジ接合性を有すること、工業的な量産性、高速ボンディング使用性にも優れていること、などを兼備する半導体素子用ボンディングワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前述した目的を達成するための本発明の要旨は次の通りである。
(1)導電性の金属からなる外周部と、前記金属を主成分とする合金からなる芯線と、さらにその芯線と外周部の間に拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(2)導電性の金属からなる芯線と、前記の金属を主成分とする合金からなる外周部と、さらに、その芯線と外周部との間に拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(3)外周部と芯線とが同種の導電性の金属を主成分とする合金からなり、しかも、それぞれの合金中に含有される合金化元素の種類または濃度が、少なくとも一種以上は異なっており、さらに、その芯線と外周部の間に、拡散層、または、拡散層と金属間化合物層の両方を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(4)(2)又は(3)に記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素と同種の金属からなる最表面層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(5)(2)又は(3)に記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素と同種の金属からなる最表面層を有し、さらにその外周部と最表面層の間に拡散層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(6)(1)〜(3)のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素とは異なる、外周部より酸化の少ない金属からなる最表面層を有し、さらにその外周部と最表面層の間に拡散層または金属間化合物層のうち少なくとも1層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(7)導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(8)導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、拡散層および金属間化合物層を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(9)導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる中層と、前記中層の第2の金属とは異なる導電性の金属またはその合金からなる外周部から構成され、さらにその芯線と中層との間、および中層と外周部との間には、拡散層、または、拡散層と金属間化合物層の両方を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(10)(7)〜(9)のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、外周部の主成分金属とは異なる導電性の金属またはその金属を主成分とする合金からなる最表面層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
(11)(1)〜(10)のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤを製造する方法において、芯線と外周部の界面に、濃度勾配を有する拡散層、または、濃度勾配を有する拡散層と金属間化合物層の両方を形成させる拡散熱処理を行うことを特徴とする半導体用ボンディングワイヤの製造方法。
(12)(1)〜(10)のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤを製造する方法において、芯線と外周部の界面に、濃度勾配を有する拡散層、または、濃度勾配を有する拡散層と金属間化合物層の両方を形成させる拡散熱処理を行い、その後で伸線加工することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1(a)】芯線1/拡散層3/外周部2の構造の本発明の中間層複合ボンデイングワイヤのワイヤ断面を模式的に示す図である。
【図1(b)】芯線1/金属間化合物層4/外周部2の構造の本発明の中間層複合ボンデイングワイヤのワイヤ断面を模式的に示す図である。
【図1(c)】芯線1/金属間化合物層4/拡散層3/外周部2の構造の本発明の中間層複合ボンデイングワイヤのワイヤ断面を模式的に示す図である。
【図2(a)】拡散層を形成した複合ボンデイングワイヤ試料の断面を、オージェ分光装置を用いてライン分析する方法を模式的に示す図である。
【図2(b)】拡散層が形成されていない複合ボンデイングワイヤ試料の断面を、オージェ分光装置を用いてライン分析する方法を模式的に示す図である。
【図3】オージェ分光装置を用いて、複合ボンディングワイヤの断面をライン分析した結果であり、Auの芯線とAu−20%Pd合金の外周部との組合せのボンディングワイヤにおける、オージェ分光法でライン分析した結果を示しており、拡散層を形成したワイヤ試料図2(a)における結果である。
【図4(a)】Auの芯線とAu−30%Ag合金の外周部との組み合わせの複合ボンデイングワイヤの断面を、オージェ分光装置を用いてライン分析した結果を示す図である。
【図4(b)】Auの芯線とAu−30%Ag合金の外周部との組み合わせの複合ボンデイングワイヤの断面を、オージェ分光装置を用いてライン分析した結果を示す図であり、拡散層が形成されていないワイヤ試料図2(b)における結果である。
【図5(a)】Ag芯線とAu外周部からなる複合ボンデイングワイヤの断面をオージェ分光法でライン分析した結果を示す図であり、拡散層を形成したワイヤ試料図2(a)における結果である。
【図5(b)】Ag芯線とAu外周部からなる複合ボンデイングワイヤの断面をオージェ分光法でライン分析した結果を示す図であり、拡散層が形成されていないワイヤ試料図2(b)における結果である。
【図6(a)】外周部のさらに外側に、芯線および外周部の溶媒元素と同種の金属からなる最表面同種金属層7を設けた、芯線1/金属間化合物層4/外周部2/最表面同種金属層7の構造のボンデイングワイヤを模式的に示す図である。
【図6(b)】外周部のさらに外側に、芯線および外周部の溶媒元素と同種の金属からなる最表面同種金属層7を設けた、芯線1/拡散層3/外周部2/中間層5/最表面同種金属層7の構造のボンデイングワイヤを模式的に示す図である。
【図7(a)】芯線1/金属間化合物層4/中層8/拡散層3/外周部2の構造の3層構造の中間層複合ボンデイングワイヤを模式的に示す図である。
【図7(b)】芯線1/拡散層3/中層8/金属間化合物層4/外周部2の構造の3層構造の中間層複合ボンデイングワイヤを模式的に示す図である。
【図8】オージェ分光装置によるライン分析の結果であり、それぞれ外周部/芯線の組合わせが異なるワイヤで比較している。外周部Au/芯線Au−Ag30%合金の拡散層におけるAg濃度と、外周部Au/芯線Au−Cu3%合金の拡散層におけるCu濃度を示している。
【図9(a)】オージェ分光装置によるワイヤのライン分析の結果であり、芯線Pd−Cu2%−Al4%合金/外周部Pd−Au5%−Ag1%合金のワイヤの場合の金属間化合物層におけるAu,Alの濃度変化を示す図である。
【図9(b)】オージェ分光装置によるワイヤのライン分析の結果であり、芯線Cu−Pd5%−Be1%合金/外周部Cu−Au5%合金のワイヤの場合の金属間化合物層におけるPd,Auの濃度変化を示す図である。
【図10(a)】外周部Au/芯線Au−Cu3%−Ca0.1%合金の構造で線径25μmのワイヤの内部に拡散層を形成した場合の樹脂封止時のワイヤ変形量を示す図である。
【図10(b)】芯線Au/外周部Au−Cu3%合金の構造で線径20μmのワイヤの内部に金属間化合物層を形成した場合の樹脂封止時のワイヤ変形量を示す図である。
【図11】オージェ分光装置によるライン分析の結果であり、それぞれ外周部/芯線の組合わせが異なるワイヤで比較している。本図では、Au/Ag系のAg元素、およびPt/Au系のPt元素についての濃度変化を比較している。
【図12(a)】外周部/芯線の組み合わせがAu/Cu系である場合のワイヤの界面に形成された金属間化合物層のオージェ分光装置によるライン分析の結果を示す図である。
【図12(b)】外周部/芯線の組み合わせがAu/Al系である場合のワイヤの界面に形成された金属間化合物層のオージェ分光装置によるライン分析の結果を示す図である。
【図13(a)】外周部Au/芯線Ptの構造で線径25μmのワイヤの内部にAu−Pt拡散層を形成した場合の樹脂封止時のワイヤ変形量を示す図である。
【図13(b)】外周部Au/芯線Cuの構造で線径20μmのワイヤの内部にAu−Cu系の金属間化合物層を形成した場合の樹脂封止時のワイヤ変形量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係わるボンディングワイヤの構成についてさらに説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「%」はいずれも「 mol%」を意味する。
高強度、高接合性、高生産性などの相反する課題を総合的に解決するためには、本発明の(1)〜(6)に記載のように芯線と外周部を同種の元素をベースとする金属および合金から構成し、さらにその芯線/外周部の間に、それら芯線と外周部を構成する元素からなる拡散層、あるいは、該拡散層と金属間化合物層の両方(両者を総称して中間層と呼ぶ)を形成したボンディングワイヤ(以下、中間層複合ボンディングワイヤと呼ぶ)が有効であり、また、本発明の(7)〜(10)に記載のように、導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、芯線と外周部をそれぞれ構成する元素を各1種以上含有する、拡散層、または、該拡散層と金属間化合物層の両方(両者を総称して中間層と呼ぶ)を形成し、前記拡散層は濃度勾配を有したボンディングワイヤ(以下、中間層複合ボンディングワイヤと呼ぶ)が有効であることを見出した。この中間層複合ボンディングワイヤの利点は、界面での密着性は著しく向上し、しかも機械的特性も大幅に向上することができることにある。
【0024】
ここで、拡散層、金属間化合物層の形成に深く関わる芯線または外周部の部材は、金属と合金に分けることができ、以下では、その合金に含有される元素のうち構成比率の最も高い主成分となる元素を溶媒元素とし、合金化のために含有されている元素を溶質元素と称する。よって、本発明の(1)〜(6)に記載の中間層複合ボンディングワイヤでは、芯線と外周部の部材ともに同一の溶媒元素を使用していることになり、また、本発明の(7)〜(10)に記載の中間層複合ボンディングワイヤは、芯線と外周部の部材とで異なる溶媒元素を使用していることになる。
【0025】
拡散層とは、芯線と外周部を構成する原子が互いに反対方向に移動する相互拡散を起こすことにより、これら元素が混合された領域であり、それらの元素が固溶された状態をしている。図1(a)には、芯線1と外周部2の界面に拡散層3を形成したボンディングワイヤの断面を模式的に示す。その拡散層内に含有される元素の濃度は、基本的には、芯線内部および外周部内部の濃度とは異なる。よって、拡散層の境界は、元素濃度が不連続に変化する界面として確認できる。
【0026】
外周部は、金属であるか、合金の場合には、溶質元素の濃度傾斜をもたない均一化された層であることが必要である。これは、ワイヤの表面域の元素濃度を均一化させることで、ウェッジ接合界面における拡散を安定化させ、常に良好な接合性が得られるためである。こうした、均質化された芯線および外周部は、それぞれ 0.5μm以上確保することで、上記の効果が得られる。さらに、芯線も金属または均一化された合金であることがより好ましい。これにより、芯線/外周部の間に中間層を形成する際に、安定かつ再現よく中間層を形成できるのみならず、伸線加工時の生産性、特性が安定し、ループ形状、接合性なども良好なものを得ることができる。
【0027】
芯線/外周部の界面に形成される中間層は、芯線と外周部との部材の組合わせにより変化させることができ、具体的には、本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤにおいては、芯線と外周部との部材の組合わせが金属−合金の場合には拡散層が形成でき、合金−合金の組み合わせでは、拡散層、金属間化合物層の少なくとも一方を形成することができる。以下に、それぞれのケースについて説明する。
【0028】
まずは芯線と外周部との部材の組合わせが金属−合金の場合には、溶媒元素中に少なくとも1種以上の溶質元素を含有する拡散層を形成できる。この拡散層に含まれる溶質元素の平均濃度(%)は、合金中の溶質元素濃度(%)の1/10又はそれよりも高い濃度であることが望ましい。これは、拡散層中の溶質元素濃度が合金中の溶質元素濃度の1/10又はそれよりも高い濃度であることにより、拡散層/芯線、および拡散層/外周部との両方の界面の密着強度を向上する効果が得られるためである。
【0029】
一方、芯線と外周部との部材が合金−合金の組合せの場合は、前述した溶媒元素を主成分として一部の溶質元素を含有する拡散層の他にも、溶質元素を主成分とする拡散層の形成も機械的特性の向上に有効である。前者の溶媒元素を主成分とする拡散層では、金属−合金の場合に形成される拡散層と同様の構成および効果を得ることができる。一方、後者の溶質元素を主成分とする拡散層は2種以上の溶質元素からなり、拡散層における溶質元素の濃度の総計が60%以上であることがより好ましく、これにより、弾性率を高めてループ形成時の直進性を向上することができる。
【0030】
また、本発明の(7)〜(10)に記載のボンディングワイヤにおいて、拡散層を構成する元素が溶媒元素か溶質元素であるかで分類すると、芯線および外周部を構成する溶媒元素同士からなる拡散層、溶媒元素と溶質元素とからなる拡散層、2種以上の溶質元素のみからなる拡散層に区別されるが、いずれもほぼ同様の効果を得ることが可能である。
【0031】
こうした拡散層の構成元素は、芯線と外周部との組合せにより変化する。芯線と外周部との部材が金属−金属(第1金属−第2金属)の場合に形成される拡散層は、溶媒元素同士(第1金属と第2金属)からなる拡散層のみであるが、金属−合金(第1金属−第2金属の合金、第2金属−第1金属の合金)の組合せでは、溶媒元素同士(第1金属と第2金属合金の溶媒元素、第2金属と第1金属合金の溶媒元素)を主成分とする拡散層と、合金中の溶質元素(第2金属合金の溶質元素、または第1金属合金の溶質元素)と別部材中の溶媒元素(第1金属、または第2金属合金の溶媒元素)とからなる拡散層が形成される場合がある。
【0032】
また、合金−合金(第1金属の合金−第2金属の合金)の組合せでは、それぞれの合金を構成する溶媒元素同士(第1金属合金の溶媒元素と第2金属合金の溶媒元素)を主成分とする拡散層、溶質元素(第1金属合金の溶質元素または第2金属合金の溶質元素)と他部材中の溶媒元素(第2金属合金の溶媒元素または第1金属合金の溶媒元素)とからなる拡散層に加えて、異なる2種の溶質元素(第1金属合金の溶質元素と第2金属合金の溶質元素)を主体とする拡散層を形成させることができる。いずれの組合せでも、溶媒元素同士を主成分とする拡散層が形成される場合が最も多い。また、溶媒元素よりも速く拡散する溶質元素を部材中に含有させることにより、上記の溶質元素を含有する拡散層の形成を促進することが可能である。
【0033】
溶媒元素同士を主成分とする拡散層は、いずれか一方の溶媒元素を少なくとも1%以上含有することが必要である。これは、拡散層の中に1%以上の元素を含有することにより、拡散層/芯線、および拡散層/外周部との両方の界面の密着強度を向上する効果が得られるためである。また、その濃度は3%以上であることがより好ましい。これは、ループ形成中においてキャピラリ内壁とワイヤとの摩擦が上昇しても、良好なループ制御性が確保することができるためである。また、この拡散層は、溶媒元素を主成分とし、さらに一部の溶質元素を含有することにより、拡散層の硬度などを上昇させ、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制する効果を高めることができる。その溶質元素の濃度は、 0.5%以上であることが望ましく、これは、 0.5%以上であれば溶質元素の固溶硬化を利用できるためである。
【0034】
芯線と外周部どちらかに含まれる溶質元素と、他部材の溶媒元素とからなる拡散層では、溶質元素を2%以上含有することにより、良好な密着性および曲げ剛性が得られる。また、異なる2種の溶質元素を主体とする拡散層では、少なくとも一方の溶質元素を3%以上含有することが必要である。これは、3%以上の溶質元素を含有することにより、密着性を向上することができ、しかもその溶質元素が含まれていた芯線または外周部よりも強度を増加させることにより、ワイヤの変形抵抗を高めることができるためである。
【0035】
なお、本発明のボンディングワイヤにおいては、拡散層の内部の元素濃度は均一である必要はなく、濃度勾配が形成されていても構わない。濃度勾配があることにより、拡散層/芯線、および拡散層/外周部との両方の界面の密着性をさらに向上させることができ、製造時の取扱いが容易になり、ワイヤの生産性も向上する。こうした濃度勾配がある場合の拡散層の組成については、拡散層全体を平均化した元素濃度が、前述した濃度の関係を満足すれば、十分な効果が得られる。さらに、好ましくは、濃度が最も低い領域において、前述した濃度の関係が満足されていれば、平均濃度が均一な場合よりも界面密着性を向上させて、ワイヤが塑性変形を受けても界面剥離を抑える効果をより高められる。
【0036】
図1(b)には、芯線1と外周部2の界面に金属間化合物層4を形成したボンディングワイヤの断面を模式的に示す。ここでの金属間化合物は、結晶構造、格子定数、組成などが芯線および外周部の部材とは異なることが特徴である。すなわち、本発明の(3)〜(6)に記載のボンディングワイヤにおいては、芯線と外周部が同種元素を主成分とするものの、芯線と外周部ともに合金からなる場合では、その間に金属間化合物層を形成することができる。芯線と外周部との界面に形成させる金属間化合物層は、芯線に含まれる溶質元素と、外周部に含まれる溶質元素をそれぞれ少なくとも1種以上含有する金属間化合物であれば、密着性や機械的特性などを向上させる効果を得ることができる。
【0037】
また、本発明の(8)〜(10)に記載のボンディングワイヤの場合は、芯線と外周部との界面に形成させる金属間化合物層としては、芯線および外周部を構成する2種類の溶媒元素(第1金属および第2金属または、第1金属合金の溶媒元素および第2金属合金の溶媒元素)からなる金属間化合物が主流であるが、それ以外にも、芯線または外周部の少なくとも一方が一種類以上の溶質元素を含有する合金の場合、その溶質元素(例えば、第1金属合金の溶質元素)と、その溶質元素を含む部材とは異なる芯線あるいは外周部の溶媒元素(例えば、第二金属合金の溶媒元素)とからなる金属間化合物、あるいは溶質元素と溶質元素(第1金属合金の溶質元素と第二金属合金の溶質元素)からなる金属間化合物が形成された場合にもほぼ同様に、密着性や機械的特性などを向上させる効果を得ることができる。
【0038】
また、本発明のボンディングワイヤにおいて、金属間化合物を構成する元素数は2種類の場合(2元系化合物)が多いが、上記の溶質元素をさらに含む3種類以上の場合(3元系、4元系化合物など)でも、良好な結果が得られる。さらに金属間化合物の層は1種類だけとは限らず、異なる2種以上の金属間化合物を層状に形成させることにより、複数の相の特徴を統合して利用することも可能である。
【0039】
また、本発明のボンディングワイヤにおいて、拡散層、金属間化合物層などの中間層の近傍に、芯線と外周部の一方に含まれる溶質元素を濃化させることも利用できる。これは、界面に形成される中間層には固溶しない溶質元素を、予め芯線または外周部の部材に添加させることにより、これらの層の形成に伴い、中間層/芯線あるいは中間層/外周部の境界近傍に溶質元素を排出させることが可能となる。濃化域の生成により、局所的に強度を増加させることができ、溶質元素を平均的に分布させている場合よりも、さらに曲げ剛性の上昇効果を高めるのに有利である。こうした効果を利用するための濃化の程度は、部材に含まれる溶質元素の濃度よりも5%以上濃度が上昇していることが望ましい。
【0040】
次に、拡散層、金属間化合物層の形成による特性の向上効果、膜厚などについてさらに説明する。
本発明では、界面に形成された拡散層あるいは金属間化合物層が、芯線/外周部との界面の密着強度を向上させるので、通常の2層ボンディングワイヤでは問題が発生していたような、製造時の界面剥離、ボンディング時のループ制御あるいは接合における界面剥離などを抑えることが可能となる。つまり、ワイヤにかなりの曲げ変形が加わっても、芯線/外周部との界面で剥離しないような十分な密着性を確保できることになる。
【0041】
また、樹脂封止時には、高粘性のエポキシ樹脂が高速で流動することにより、ワイヤ全体に曲げモーメントが加わり、ワイヤが変形する(これを、ワイヤの樹脂流れと称す)。このワイヤの樹脂流れを抑制するには、曲げ剛性を高めることが非常に有効である。
【0042】
中間層複合ボンディングワイヤでは、引張強度、降伏強度、弾性率、曲げ剛性などの機械的特性を向上させることができ、特に、曲げ剛性を大幅に増加させることにより、樹脂封止時のワイヤ変形の抑制効果を一層高めることができる。すなわち、中間層複合ボンディングワイヤの曲げ剛性は、従来の単層ボンディングワイヤよりも高い値が得られるだけでなく、2層ボンディングワイヤと比較しても、芯線、外周部よりも強度、剛性が高い拡散層あるいは金属間化合物層を中間域に形成していること、さらにワイヤ断面でみると中間層を含めて3層以上の構造であることなどに起因して、曲げ剛性を大幅に高める効果を発揮できる。従って、単層ボンディングワイヤでは対応が困難とされていたような狭ピッチ化、細線化にも対応することができる。
【0043】
さらに、中間層複合ボンディングワイヤでは、ワイヤの強度、曲げ剛性などを増加させるだけでなく、併せて、ボール形成性、接合強度なども向上することができることも大きな利点である。従来の単層ボンディングワイヤでは、強度増加のための合金元素の高濃度添加により問題が生じる場合が多く、例えば、ボール形成時の酸化による引け巣の発生、それに伴う接合強度の低下が起こったり、また高強度化によりウェッジ接合性が低下したりすることが懸念されていた。それに対し、高強度材を芯線に、接合性の良好な材料を外周部に用い、その界面に中間層を形成させることにより、高強度化と高接合性という、従来は相反すると考えられていた特性を両立させることができ、しかも、その芯線と外周部の比率を調整することにより、溶融されたボール部に含まれる合金濃度を低く抑えることにより、ボール部の酸化、硬化などを抑制することもできる。この点では、従来の芯線と外周部による2層ボンディングワイヤでも、単層ワイヤに比べればある程度は対応できるものの、要求を十分満足することは困難である。
【0044】
それに対し、中間層を設けた中間層複合ボンディングワイヤを使用することにより、2層ボンディングワイヤと比較しても、剛性率の大幅な向上により樹脂封止時のワイヤ変形を低減し、ウェッジ接合時の界面剥離を抑えることができ、しかもボール形成時の熱影響により軟化するネック部の強度をより増加させることができるなど、特性の改善効果は大きい。特に、こうした効果は細線化するほど重要となり、中間層複合ボンディングワイヤでは、チップ上の電極間隔が50μm以下でのワイヤボンディング、また線径20μm以下、さらには18μm以下の極細線の実用化などにも非常に有利である。
こうした改善効果を十分に得るためには、樹脂封止時のワイヤ変形を支配する曲げ剛性の影響、さらにその曲げ剛性を向上させるための中間層複合ボンディングワイヤの構造などについて、十分吟味しておくことが重要である。それについて、以下に詳しく説明する。
【0045】
樹脂封止時のワイヤ変形を抑制するための、曲げ剛性の影響については、実験により確認できたが、さらに変形の解析でも十分理解できることを見出した。例えば、簡素化して考えるために、ワイヤの一端を固定した片持梁と仮定して、梁全長Lにわたり分布荷重qが加わっているときのワイヤ変形を考える。このときの最大たわみ量Ymax は、次式で表すことができる。
Ymax = qL4/(8EI)・・・・・(1)
ここで、Eは弾性率、Iは断面2次モーメントである。ここで、芯線/中間層/外周部からなるワイヤでは、式(1)の弾性率と断面2次モーメントの積EIは、芯線(In)、中間層(Mid)、外周部(Out)それぞれの部材の弾性率EIn,EMid ,EOut 、および断面2次モーメントIIn,IMid ,IOut を用いて、次式で近似できる。
EIZ=EInIIn+EMidIMid+EOutIOut ・・・・・(2)
また、芯線の内径d1 、ワイヤ直径d2 、中間層の厚さrを用いると、芯線、中間層、外周部それぞれの断面2次モーメントIIn,IMid ,IOut は、
IIn=π・d14/64 ・・・・・(3)
IMid =π((d1 +r)4−d14)/64 ・・・・・(4)
IOut =π(d24−(d1 +r)4)/64・・・・・(5)
で表すことができる。
【0046】
式(1)より、弾性率と断面2次モーメントの積EIを増加させることで、ワイヤ変形量Ymax を低減できることが判明した。また、中間層を持たない従来の2層ボンディングワイヤと比較すれば、式(2)においてEMid IMid の項が追加されており、断面2次モーメントの上昇効果を高めるためには、中間層は弾性率EMid が高い材料を用いるか、中間層の厚さを厚くすることで、より高い効果が得られることが判る。
【0047】
また、式(3)〜(5)を比較することで、同種金属による芯線と外周部の間に中間層を形成させることが、曲げ剛性の向上に有利であることが見出される。例えば、芯線または外周部に含有する溶質元素が高濃度側から低濃度側に拡散して、拡散層は主に低濃度側に形成されることから、式(4)の拡散層厚さrが増加するのは主として低濃度側であるため、弾性率が低い低濃度側の部材層の厚さが減少する。従って、弾性率が低い低濃度側の部材厚さが減って、その分低濃度側より弾性率の高い中間層が形成されることで、ワイヤ全体としての弾性率を増加させる効果も得られる。こうした理由から、中間層の弾性率が芯線または外周部の一方の弾性率よりも低くとも、式(2)のワイヤ全体としてのEIZ を高める効果を得ることが可能であることが確認された。また、この低濃度側への溶質元素の拡散を促進するためには、溶媒元素よりも速く拡散する溶質元素を部材中に含有させることが好ましい。
【0048】
界面に形成された金属間化合物層は、拡散層と比較すると、界面密着性を向上させる効果は同様であるが、曲げ剛性などの機械的強度については、より高い効果が得られる。すなわち、金属間化合物は高強度で、特に弾性率は拡散層よりも高いことから、金属間化合物の形成により式(2)のEMid がより増加し、拡散層のみを形成する場合よりも曲げ剛性が上昇し、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制する効果を大幅に高めることができる。金属間化合物の組成は、熱平衡的に存在する金属間化合物の相のいずれかではあるが、その相を選択的に生成させることにより、曲げ剛性などの特性発現の効果を高めることができる。
【0049】
また、中間層複合ボンディングワイヤの構成としては、前述したような拡散層、金属間化合物層が個別に形成されている場合以外にも、拡散層と金属間化合物層が界面に同時に形成されている場合には、機械的特性を向上する効果を相乗的に高める効果が得られる。図1(c)には一例として、芯線1/金属間化合物層4/拡散層3/外周部2の構造をしたボンディングワイヤの断面を示しており、その他にも、芯線/拡散層/金属間化合物層/外周部、および芯線/拡散層/金属間化合物層/拡散層/外周部などのケースも、本願発明の中間層複合ボンディングワイヤに含まれる。
【0050】
式(4)からも判るように、拡散層および金属間化合物層の厚さrは重要な因子である。拡散層の厚さは0.05μm以上であれば、密着性および、引張強度、降伏強度、曲げ剛性を向上する十分な効果が得られる。好ましくは、拡散層の厚さが 0.2μm以上であることが望ましく、ボール形成時の熱影響部(ネック部)の強度を高めることができる。さらにより好ましくは、拡散層の厚さが 1.0μm以上であれば曲げ剛性を大幅に高めて、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制することができ、しかもネック部の強度も増加させて、ここでの破断を抑える効果も得られる。
【0051】
また、金属間化合物層の厚さは0.03μm以上であれば、密着性を改善し、引張強度、弾性率、曲げ剛性などを向上する十分な効果が得られる。また、好ましくは、金属間化合物層の厚さが 0.1μm以上であれば曲げ剛性を高める効果が顕著となり、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制することができ、しかも製造中およびループ形成中における金属間化合物層の破壊も低減される。さらにより好ましくは1μm以上であれば曲げ剛性を大幅に高めることにより、狭ピッチ接続に必要となる線径20μm以下の細線でも良好なループ形成、接合性などが得られる。
【0052】
拡散層、金属間化合物層などの中間層の厚さの上限は特にはないものの、芯線/中間層/外周部としての機能を効率よく発揮させるためには、中間層の厚さが線径の7割以下に抑えることが望ましい。また、硬質である金属間化合物層を形成する場合には、伸線加工が困難となるため、生産性を重視すれば、金属間化合物層の厚さは線径の5割以下に抑えることが、より望ましい。
中間層の測定には、EPMA,EDX 、オージェ分光分析法、透過型電子顕微鏡(TEM)などを利用することができる。ワイヤの研磨断面において芯線と外周部との界面を挟んでのライン分析を行うことにより、拡散層、金属間化合物層の厚さ、組成などを知ることができる。
【0053】
拡散層の測定方法について、以下に具体例で説明する。
実際に拡散層を観察する一つの手法として、ワイヤ断面における芯線/外周部の界面を挟んだ領域においてライン分析を行うことが有効である。この分析結果における拡散層の境界近傍の濃度プロファイルとしては、濃度が不連続に変化する場合と、連続的に変化する場合に分けられ、それぞれで拡散層の判別が若干異なる。境界近傍で不連続に変化する前者の場合では、溶質元素の濃度変化に不連続性が生じる位置を拡散層の境界として認識でき、その芯線側および外周部側との境界で挟まれた領域が拡散層である。一方、境界近傍で連続的に濃度変化する後者の場合には、測定距離に対する濃度変化の勾配に着目することが有効であり、拡散層が形成されていない場合と比較して、拡散層が形成された試料では濃度勾配が緩やかになることで判別できる。この連続的に変化する場合での拡散層の境界の決め方として、測定距離と濃度のグラフにおいて、拡散層内の境界近傍における濃度勾配を外挿した直線と、芯材または外周層内における濃度を外挿した直線とが交差する部位として判定できる。こうした、拡散層の境界での濃度変化が連続的か不連続であるかによって拡散層の識別法を変えることで、精度良く拡散層の厚さなどを測定することもできる。
【0054】
図2にオージェ分光法によるワイヤ断面のライン分析方法の概要を、図3,図4,図5にその分析の結果を示す。図2(a)には、線の長手方向とは垂直に断面研磨した試料を用い、芯線1と外周部2の界面に形成された拡散層3を横切るように、分析ライン6に沿って分析を行うことを示しており、図2(b)には、比較として、拡散層を形成されておらず、芯線1と外周部2により構成されている断面を示す。ここでオージェ分光分析を用いた理由は、微小領域の分析に適しており、拡散層が薄い試料の分析などに有効であるためである。図3は、Auの芯線とAu−20%Pd合金の外周部との組合せで拡散層を形成した場合である。図4(a)は、Auの芯線とAu−30%Ag合金の外周部との組合せで拡散層を形成した場合であり、また、同一の芯線と外周部との組合せで拡散層が形成されていない場合の結果を図4(b)と比較する。分析は0.05μm間隔で行った。
【0055】
また、図5は、Ag芯線とAu外周部の組合せのワイヤを用いており、拡散層を形成したワイヤ試料図2(a)における結果図5(a)と、拡散層が形成されていないワイヤ試料図2(b)における結果図5(b)とを比較している。分析は0.05μm間隔で行った。
まず、拡散層が形成されていないワイヤ図2(b)の測定結果図4(b)、図5(b)には、芯線/外周部の界面近傍で、濃度の連続的な変化が生じている。これは、芯線/外周部の界面を横切ってライン分析する際、分析領域がその界面を含む場合に通常、見掛け上濃度が変化したように観察される現象である。現在の分析の手法、精度などの関係上、こうした連続的な濃度変化が観察されるのを避けることは困難である。
【0056】
一方、拡散層を形成したワイヤ図2(a)の分析結果図3、図5(a)では、不連続な濃度変化が生じており、その不連続に変化した部位が拡散層として認識でき、さらにその拡散層の境界は、不連続な濃度変化が検出される界面として確認できる。また、分析結果図4(a)では、拡散層の境界近傍の濃度変化が連続的であるものの、拡散層が形成されていない図4(b)と比較して、測定距離に対する濃度勾配が緩やかになっていることで、拡散層の形成を確認することができる。この場合、拡散層の境界の判定には、拡散層内の濃度勾配を外挿した直線mと、外周部内における濃度を外挿した直線nとが交差する部位pを境界とすることで、拡散層の領域を再現よく評価することができる。これら図3、図4(a)、図5(a)の分析結果からも、拡散層はワイヤ断面の分析における濃度変化として検出することができるので、このようなワイヤ断面での分析法により、拡散層を識別することは十分可能となる。
【0057】
拡散層の厚さが 0.5μm以下であるとか、または濃度が希薄であるなどの理由から、分析の精度を向上したいときには、ライン分析の分析間隔を狭くするとか、界面近傍の観察したい領域に絞っての点分析を行うことも有効である。また、ワイヤを斜め研磨して、拡散層の厚さを拡大させて測定することにより、0.01μm程度まで分解精度を向上させることも可能となる。さらに、組成を知るために定量性を高める必要がある場合には、拡散層の構成部材と同種の材料を目的の組成となるように溶製した試料を予め準備しておき、それを標準試料として用いて、分析の検量線を求めることにより、濃度の精度を高めることができる。その他、0.05μmよりも薄い中間層の厚さおよび組成を精度良く測定するためには、手間はかかるものの、中間層を含む薄膜試料を作製し、TEM による観察および電子線回折などを利用することが有効である。
【0058】
本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤにおいて、芯線/外周部の間に拡散層、金属間化合物層などの中間層を形成することで機械的特性、生産性、ループ形成性などを向上できるが、さらに、ボンディングワイヤとしての使用性能を総合的に満足させるためには、芯線および外周部を構成する部材の選定が重要である。すなわち、芯線部材/外周部材の構成が、金属/合金、合金/金属、合金/合金の組み合わせをそれぞれ利用することにより、ウェッジ接合性、ボール接合性、曲げ剛性、表面性状などを制御することが可能となる。
【0059】
以下に、本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤに関し、芯線と外周部の部材の組み合わせに分けて、特徴を個別に説明する。
まずは、外周部が導電性の金属、芯線はその金属を主成分とする合金であり、その間に拡散層を設けたワイヤ(以下、合金In/拡散層/金属Out と称す)では、芯線の合金化により高強度化を達成しつつ、外周部を金属にすることでウェッジ接合性も向上することができる。ここでのウェッジ接合性とは、リード上のAgおよびPdのメッキ層、または基板上のAuメッキ、Siチップ上のAl電極膜などに対して、ワイヤを直接接合する場合において、接合部剥離や、ボール部の異常形状などの不良を発生させることなく良好な高速ボンディング性を得ること、さらに、ウェッジ接合部における接合強度を高めつつ、ウェッジ接合部近傍でのプル強度も確保することなどを同時に満足させることである。外周部の金属により、ワイヤ表面の酸化、硫化などが軽減され、接合界面での拡散を促進することで接合強度を上昇させ、さらに拡散層の形成により接合部剥離を抑制し、ウェッジ接合部近傍でのプル強度が向上できる。
【0060】
従来の同種の金属からなる合金In/金属Out の2層構造であるワイヤでは、曲げ剛性の向上が十分でないのに比して、その間に拡散層を設けて合金In/拡散層/金属Out とすることで曲げ剛性などの機械的特性の向上が可能となる。これは、前述したように、低濃度である金属Out 側に拡散層を主に形成させて、この部位の弾性率を増加させることで、拡散層をもたない従来の2層ボンディングワイヤに比して、式(2)で示したワイヤ全体の弾性率と断面2次モーメントの積EIを増加させることができるためである。従来の2層ボンディングワイヤでは、曲げ剛性を高めるために合金Inをより高濃度化したり、合金Inの面積を増加させなければならなかったので、ボール部内も高濃度化して接合性が低下する問題が発生したが、本発明では、このような手段を用いなくても、拡散層の形成により曲げ剛性を上昇させることができるので、そうしたボール部の高濃度化の問題も改善することが可能となる。
【0061】
こうした合金In/拡散層/金属Out の構造における高強度とウェッジ接合性を兼備させるためには、ワイヤの直径d2 に対する芯線の直径d1 の比率(d1 /d2 )を 0.2〜0.8 の範囲とすることが好ましい。これは式(3)〜(5)で示される断面2次モーメントIを比較したところ、芯線、中間層、外周部それぞれの断面2次モーメントを総合的に高めるためには、d1 /d2 は上記範囲が望ましいためである。
【0062】
次に、芯線は導電性の金属であり、外周部はその金属を主成分とする合金として、その間に拡散層を設けたワイヤ(以下、金属In/拡散層/合金Out と称す)では、曲げ剛性などをより増加させ、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制する効果を高めることができる。拡散層が形成されていない金属In/合金Out の構造では、伸線中には外周部の合金が加工されにくいことから、ワイヤ製造時に密着性の低下に関する問題が、合金In/金属Out の場合よりも多く発生する。そこで拡散層を形成させて金属In/拡散層/合金Out とすることで、生産性が大幅に向上できる。また、外周部の合金は、芯線の金属元素を溶媒とし、その溶媒中に固溶または析出して強度を高める元素を含有させることが望ましい。
【0063】
外周部を合金とすることで、ウェッジ接合界面での拡散を制御することが難しくなる場合があり、特に細線化あるいは低温接合などにおいて接合強度を確保するのが困難となる。それを改善するためには、外周部に含まれる溶質元素の濃度を均一化させることが望ましく、接合界面での拡散を安定化させる効果が得られる。この効果を得るためにも、均一化された外周部が 0.5μm以上の厚みであることが望ましい。
【0064】
また、芯線よりも高強度である合金を外周部に用いたワイヤでは、前述した、金属の外周部とその合金の芯線からなるワイヤよりも、曲げ剛性を向上する効果をより高められる。式(3),(5)を用いると、芯線と外周部の断面2次モーメントを計算で求めることができる。例えば、ワイヤの直径d2 が芯線の内径d1 の2倍である場合(d2 =2d1 )には、中間層の厚さrはd1 に比べて小さいと仮定すると、外周部の断面2次モーメントIOut は芯線のIInの15倍(IOut =15・IIn)となり、また、芯線と外周部の面積が等しい場合(d12=d22)には、外周部の断面2次モーメントIOut は、芯線のそれIInの3倍(IOut =3・IIn)となる。こうした解析からも、曲げ剛性を高める効果は外周部の方が芯線よりも大きいことが確認できる。さらに式(4)からも、外周部に弾性率の高い部材を用いた方が、ワイヤの曲げ剛性を向上する効果をより高められる。こうした理由からも、上述した、芯線を金属、外周部をその合金とするワイヤ(金属In/拡散層/合金Out )では、曲げ剛性を高くすることができる。
【0065】
また、金属の芯線の内径d1 はワイヤ直径d2 に対して84%以下であることが望ましい。これは、式(3),(5)の解析により、d1 <0.84・d2 とすることで、IOut >IInの関係を満足することができるためであり、すなわち、芯線の内径d1 をワイヤ直径の84%以下に抑えることにより、外周部の断面2次モーメントの方を芯線のそれよりも高くすることができるという根拠に基づく。
【0066】
外周部と芯線とを同種の導電性の金属を主成分とする合金とし、しかもそれぞれの合金中に含有される合金化元素の種類または濃度が少なくとも1種以上は異なっており、さらにその外周部と芯線との間に拡散層または金属間化合物層の少なくとも1層を設けたワイヤ(以下、合金In/中間層/合金Out と称す)とすることで、曲げ剛性などをより増加させ、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制する効果を高めることができる。
【0067】
ここで中間層が形成されていない合金In/合金Out であれば、界面での密着性が不十分であり、製造時の断線や、高速ボンディング中のループ形状不良などを起こしやすい。それに対し、中間層を形成した合金In/中間層/合金Out の構造することで、芯線と外周部の曲げ剛性を同時に高めることができ、しかも外周部と芯線との密着性も大幅に向上できる。外周部と芯線との合金中に種類または濃度が少なくとも1種以上は異なる溶質元素を含有させることで、中間層を形成させることができる。例えば、結合力の強い2種以上の元素を外周部と芯線に分けて含有させることで、界面に金属間化合物層の形成を促進することもできる。曲げ剛性をより高めるためには、外周部の合金には、芯線の合金よりも弾性率の高い部材を用いることがより好ましい。接合性の安定化を図るためにも、外周部の合金内の溶質元素濃度を均一化させることが望ましい。芯線と外周部の比率は、ボール部の特性、ワイヤの強度、接合性などに重要であり、実用的には、芯線と外周部ともに、面積比率が10%以上であることが望ましい。これは、面積比率が10%以上であれば、芯線と外周部の部材が拡散熱処理により消費されて消失してしまうことなく、使用時に芯線と外周部としての役割を十分果たすことができるためである。なお、本発明において、面積比率とは、ワイヤの軸方向に垂直な断面における全断面積に対する各部の断面積の割合である。
【0068】
上述した、本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤの、合金In/拡散層/金属Out 、金属In/拡散層/合金Out 、合金In/中間層/合金Out の3種のワイヤに共通する点として、芯線と外周部を同種の溶媒元素を用いており、これにより、ワイヤの強度、曲げ剛性などを増加させるだけでなく、併せて、ボール部の形成性および接合強度なども向上することができる。従来の単層ボンディングワイヤでは、強度増加のために合金元素を高濃度に添加すると問題が生じる場合が多く、例えば、ボール形成時の酸化による引け巣の発生、それに伴う接合強度の低下が起こったりすることが懸念されていた。また、同種の溶媒元素からなる芯線と外周部を用いていても中間層が形成されてない従来の2層構造では、ボール部全体として含まれる合金濃度を低く抑えることにより、ボール部の接合性は向上できるものの、ワイヤの強度、曲げ剛性などが充分でなく、一方で、それらの機械的特性を増加させるために、合金中を高濃度化したり、合金の面積を増加させると、ボール部内も高濃度化して接合性が低下する問題が発生する。それに対し、外周部/中間層/芯線の多層構造とすることにより、高強度化と高接合性という、従来は相反する特性を両立させることができる。
【0069】
本発明の(2)〜(5)に記載のボンディングワイヤにおいて、外周部が合金である、金属In/拡散層/合金Out 、合金In/中間層/合金Out のワイヤでは、外周部2のさらに外側に、芯線1および外周部2の溶媒元素と同種の金属からなる最表面層7を設けることで、ウェッジ接合性、ボール接合性、ループ安定性などをさらに高めることができる。この最表面同種金属層7/外周部2/中間層5/芯線1で構成されるワイヤ断面の模式図を図6(a)に示す。
【0070】
図6(a)において、中間層5は金属間化合物層4により構成されている。合金に含まれる溶質元素がワイヤ表面で偏析や酸化することで、ウェッジ接合性が低下したり、キャピラリ内壁とワイヤとの摩擦を上昇させることでループ形状のばらつきの原因となることがある。それに対し、同種の金属からなる最表面層を形成して、最表面同種金属層/外周部/中間層/芯線で構成させることで、表面の偏析および酸化を低減することができ、しかも表面近傍を内部よりも軟質にすることで接合時のワイヤ変形を適度に進行させられるため、低温でのウェッジ接合性を改善できる。さらに、最表面層の金属が芯線および外周部の溶媒元素と同じであるため、溶融したボール部内での溶媒元素の濃度を上昇させることで、ボール部の酸化、硬化などを低減して、ボール接合性を改善する効果も得られる。
【0071】
特に、芯線と外周部ともに合金である合金In/中間層/合金Out ワイヤでは、溶質元素によりボール部が硬化してチップ損傷を与えることが最も懸念されることから、同種金属の最表面層7を形成することで、ボール接合性を向上する高い効果が得られる。最表面層7の金属は、純度が99.5%以上であることが望ましい。最表面層7の厚さは、線径の 0.1%〜10%の範囲であることが好ましく、この範囲であれば、ウェッジ接合性とボール接合性の両者を改善する十分な効果が得られるためである。
【0072】
ここで、最表面層を形成する方法としては、中間層を形成したワイヤの表面に、メッキ、蒸着などにより形成することが有効である。膜形成の段階でみると、最終線径で膜形成する方法、または、最終線径よりも少し太径で膜形成した後に伸線加工する方法、のいずれでも構わない。また、図6(b)に示すように、最表面同種金属層7と外周部2との間に中間層5を形成させて、最表面同種金属層7/中間層5/外周部2/中間層5/芯線1の構成とすることで、その界面の密着性を改善することができ、例えば、ウェッジ接合時の超音波振動を高めても界面剥離などの不良発生を抑えられる。図6(b)において、外周部2と芯線1との間の中間層5は、拡散層3により構成されている。
【0073】
本発明のボンディングワイヤにおいては、芯線と外周部の比率も、ボール部の特性、ワイヤの強度、接合性などに重要であり、実用的には、芯線と外周部ともに、面積比率が10%以上であることが望ましい。これは、面積比率が10%以上であれば、芯線と外周部の部材が拡散熱処理により消費されて消失してしまうことなく、使用時に芯線と外周部としての役割を果たすことができるためである。しかも、面積比率はワイヤの強度、接合性、ワイヤ変形への抵抗などを左右するだけでなく、ワイヤ先端を溶融して形成されるボール部では、面積比率で混合された合金となり、その組成によりボール部の真球性、硬度、変形能、表面性状などが決まることになる。例えば、面積比率を適正化することにより、ボール部が硬くなりすぎて半導体基板に損傷を与えたり、ボール表面が酸化されて接合性が低下するなどの不良を、回避することができる。従って、芯線と外周部を構成する元素に応じて、さらにワイヤの要求特性を総合的に満足させることができるように、面積比率を適正化する必要がある。なお、本発明において、面積比率とは、ワイヤの軸方向に垂直な断面における全断面積に対する各部の断面積の割合である。
【0074】
芯線/外周部の界面に拡散層や金属間化合物層を形成するためには、界面での拡散を促進する拡散熱処理が必要である。芯線と外周部が異なる部材からなる線を準備し、それに拡散熱処理を施すことになるが、その拡散熱処理を施すタイミングは3種類に分類される。第一には、芯線と外周部を組み合わせただけの部材(以下、初期複合部材と呼ぶ)に拡散熱処理を施し(初期加熱)、その後に伸線加工により細くする方法と、第二には、初期複合部材にある程度の線径まで伸線した後で、拡散熱処理(中間加熱)を施し、さらに伸線加工を行い最終線径まで細くしていく方法と、第三には、最終線径まで伸線した後に、拡散熱処理(最終加熱)を施す方法である。
【0075】
拡散熱処理を太径の段階で行う利点は、拡散層および金属間化合物層がその後の伸線加工における界面剥離を防止する役割を果たすことができることにあり、一方懸念される点として、最終線径の段階で必要な厚さを確保するには、伸線加工に伴い中間層も薄く加工される程度を予測し、初期の中間層形成条件を適正化するなどの手間がかかることである。反対に最終段階で拡散熱処理を施す利点は、拡散層および金属間化合物層の厚さを制御するのが容易であることであり、注意すべき点は、伸線工程中での芯線/外周部の界面剥離を抑制するための製造条件の探索が必要であること、あるいは最終段階で高温加熱した場合にワイヤ最表面での酸化が懸念されたり、ワイヤを連続的に移動しながら拡散熱処理する場合には、細いほど長時間を要することなどが挙げられる。
【0076】
上記の特徴を理解した上で、組合わせる部材の種類、ワイヤの要求特性などに応じて拡散熱処理を施すタイミングおよびその熱処理条件を選定することが可能である。また、前述した長所、短所を踏まえて、拡散熱処理を一回で行うのではなく、前述した初期、中期、最終段階での拡散熱処理をいくつか組み合わせて、段階的に拡散層および金属間化合物層を形成することも有効な方法である。
【0077】
外周部が酸化しやすい金属であったり、比較的高温で加熱する場合には、ワイヤ表面の酸化を抑制するために、非酸化雰囲気で熱処理を行うことが必要である。具体的には、Ar,N2 ガスなどの不活性ガス、あるいはH2 などを含む還元性ガスなどを加熱炉中に流した状態で熱処理を行うことにより、拡散熱処理中の表面酸化を抑えることができる。
【0078】
ワイヤの表面酸化は、上記の熱処理のときにかぎらず、ワイヤ製造工程全般や、保管時、ボンディング工程、樹脂封止中などにおいても問題となることが多い。特に、最近の狭ピッチ細線化に対応したり、BGA などの基板接続において低温接合性を改善する場合には、ワイヤ表面の酸化を抑えて、ウェッジ接合性を向上することが重要となる。そのためには、上記本発明の(4)〜(6)および(10)に記載するように、中間層複合ボンディングワイヤの外周部の表面に、芯線および外周部の主要元素とは異なる、または外周部の金属とは異なる、導電性で酸化の少ない金属またはその合金からなる最表面層(被覆層)を形成させることが有効である。すなわち、最表面層/外周部/中間層/芯線で構成させることで、中間層複合ボンディングワイヤのウェッジ接合性を高めることが容易となる。
【0079】
被覆する最表面層の厚さを、線径の0.05%〜10%の範囲とすることで、ウェッジ接合性を向上する十分な効果が得られる。最表面層に用いられる金属は、Au,Pt,Pdなどの酸化の少ない金属およびその合金であることが望ましい。こうした厚さ、材質の最表面層を形成することで、低温接合性を向上することができる。
【0080】
この最表面層を形成する方法としては、中間層を形成したワイヤの表面に、メッキ、蒸着などにより最表面層を被覆することが有効である。その被覆する段階でみると、最終線径で被覆する方法、または、最終線径よりも少し太径で被覆した後に伸線加工する方法、のいずれでも構わない。さらに最表面層と外周部との間に中間層を形成させ、最表面層/中間層(b)/外周部/中間層(a)/芯線の構造とすることで、その界面の密着性を改善することができ、線径20μm以下の細線の製造性が向上したり、ウェッジ接合時の超音波振動を高めても最表面層と外周部との界面剥離などの不良発生を抑えられる。
【0081】
前述のような、芯線と外周部との中間に拡散層や金属間化合物層を形成させたボンディングワイヤを製造するためには、拡散熱処理の条件選定により、拡散層、金属間化合物層の形成を制御することが必要である。単純にワイヤを加熱すれば、必要な拡散層、金属間化合物層が形成されるわけではなく、目指す拡散層、金属間化合物層の形成などを意識した熱処理条件の適正化が重要となる。通常のワイヤ製造工程では、加工歪取り焼鈍や、伸びを出すための焼鈍などが施される場合が多いものの、これらの焼鈍のみでは、本発明の拡散層、金属間化合物層を適正に形成させ、それに伴う特性を発現させることは困難である。従って、目的とする拡散層、金属間化合物層の種類、厚さ、組成、密着強度などを満足させるためには、温度、加熱時間、速度、雰囲気などの条件や、熱処理の前後の工程などを制御することが必要である。そのためにも、芯線/外周部の界面での拡散挙動を十分理解することにより、初めて、拡散熱処理の条件を適正化することも可能となる。特に、以下の考え方に従えば、適切な温度、加熱時間などを選定することができる。
【0082】
拡散層の厚さLは、相互拡散係数Diと、拡散時間tに支配され、その関係は次式で表される。
L=(Di・t)1/2 ・・・・・(6)
この相互拡散係数Diについては、溶媒元素を主成分とする拡散層の場合は、その溶媒元素中での溶質元素の拡散速度に近い値であり、一方、芯線および外周部に含有される溶質元素を主体とする拡散層の場合は、
Di=(DIncIn+DOutcOut) ・・・・・(7)
で表される。ここで、芯線および外周部の溶媒金属の拡散係数DIn,DOut と、拡散層中のそれら溶媒金属の濃度cIn,cOut (cIn+cOut =1)を用いた。この相互拡散係数Diは拡散層の成長速度に相当するもので、上式から判るように、拡散層中の組成cIn,cOut も関与している。2元系の組み合わせでの拡散定数DIn,DOut は比較的多く報告されており、利用することが可能である。さらに、この相互拡散係数Dと加熱温度Tとの関係は、
D=f・exp (−Q/RT)・・・・・(8)
で表される。ここで、Qは拡散の活性化エネルギーであり、Rは気体定数、fは定数である。fとQは元素の組み合わせにより固有の物性値であり、fとQが判明すれば相互拡散係数Diを知ることができ、式(6)より拡散層の厚さLを計算することができる。
【0083】
また、拡散層内に濃度分布を生じる場合が多く、この濃度を制御することは重要である。ワイヤの構造を円筒型と仮定すると、中心からxの距離での濃度Cは近似的に、
C= a + b lnx ・・・・・(9)
で表される。ここで、a,bは定数である。式(6)の拡散層厚さと、式(9)の濃度などを十分考慮して、熱処理条件を選定することが重要である。すなわち、目標とする拡散層厚さL、濃度分布Cを得るには、加熱温度Tが決まれば拡散時間tを求めることができ、一方、拡散時間tが先に決まっている場合には加熱温度Tを求めることができる。
【0084】
金属間化合物層の厚さdについても同様に、拡散時間tと放物線則に従うため、
d=k・t1/2 ・・・・・(10)
で表される。成長速度kは、化合物層成長の活性化エネルギーEを用いて、
k=ko ・exp (−E/RT)・・・・・(11)
で表される。ここで、ko ,Eは、金属間化合物の種類によりほぼ決まるが、元素の組み合わせなども影響を及ぼす場合がある。安定して金属間化合物を成長させるには、活性化エネルギーEを超える熱量を与える必要があり、しかも活性化エネルギーEは相により異なる。従って、こうした金属間化合物の成長挙動を理解した上で、温度、加熱時間などを制御することにより、生成させたい金属間化合物を優先的に形成させることも可能となる。
【0085】
拡散層、金属間化合物層などの中間層を形成するための拡散熱処理では、高温で加熱するほど成長が促進されるが、あまり高温すぎれば外周部材が酸化されて接合性が低下したり、冷却時の熱歪みにより界面に形成された中間層に亀裂が生じることが起こり得る。そこで、本発明者らは、候補となる材料の組み合わせを変えて調査したところ、拡散熱処理の温度Td は芯線、外周部の材料の融点により近似的に表すことができることを確認した。具体的には、拡散熱処理の温度Td は、芯線、外周部材の融点の平均値TmOを用いて、次の関係
0.3TmO<Td <0.9TmO ・・・・・(12)
を満足することが望ましい。この範囲で温度を設定し、さらに加熱時間を制御することにより、所定の中間層の厚みを得ることができる。
【0086】
加熱炉は必ずしも単一である必要はなく、急速加熱、急速冷却を軽減させる方が望ましい場合には、本加熱の前後に予備加熱または2次加熱を設けることも有効である。特に、界面に形成される金属間化合物の相の種類によっては、急速冷却により芯線/金属間化合物層あるいは外周部/金属間化合物層の界面に発生する熱歪みを緩和するために、本加熱の後の2次加熱が有効である。また、脆弱な金属間化合物相の生成を抑えて、特定の金属間化合物相の成長を促進する必要がある場合など、その脆弱な相の成長を回避する手段としては、温度、時間などの拡散熱処理条件の適正化か、あるいはそれで対処できない場合には、金属間化合物の核生成を制御するための予備加熱により、目的とする金属間化合物相の生成を促進することも可能である。こうした温度範囲の異なる加熱を行うには、温度設定の異なる部位を複数形成させた加熱炉、炉内温度を連続的に変化させた加熱炉を用いることができる。
【0087】
また、中間層を形成させるには、上述した拡散熱処理工程を利用する方法の他に、芯線と外周部を組合わせる際に、いずれか一方を溶融させた高温状態とすることで、拡散を促進させて中間層を形成する方法も可能である。この方法を芯線と外周部のどちらを溶融させるかで区別すると、予め作製した芯線の周囲に、溶融した金属または合金を鋳込むことで外周部を形成する方法、または、外周部として用いるため予め作製した円柱状の中央に、溶融した金属または合金を鋳込むことで芯線を形成する方法に分けられ、いずれの方法でも芯線と外周部の間に中間層を有する形成することができる。ただし、中間層の厚さおよび種類をコントロールするには、溶融温度、時間、冷却速度などを制御することが重要である。
【0088】
これらの条件設定のためにも、拡散熱処理の考え方として式(5)〜(11)で説明したような拡散挙動を十分理解し、熱量および放熱などを管理することで、目的とする中間層を形成させることが可能となる。さらに、こうした溶融金属を利用する中間層の生成法として、芯線と外周部の少なくとも一方を連続鋳造で製造することも可能である。この連続鋳造法により、上記の鋳込む方法と比して、工程が簡略化され、しかも線径を細くすることで、生産性を向上させることが可能となる。
【0089】
外周部と芯線との間、最表面層と外周部との間の両界面に中間層を形成させた最表面層/中間層(b)/外周部/中間層(a)/芯線の構造のワイヤを製造するには、下述する3種類の方法を用途、目的に応じて使い分けることが好ましい。第一の方法では、外周部と芯線との間に中間層(a)を形成した外周部/中間層(a)/芯線構造のワイヤを予め作製し、その表面に最表面層を形成し、最後に拡散熱処理により最表面層と外周部との間に中間層(b)を形成させる方法である。これは、厚さ 0.7μm以下の比較的薄い最表面層あるいは中間層(b)を形成させるとき、あるいは2種類の中間層を形成するための適正温度が異なる場合に有効な方法である。
【0090】
第2の方法では、中間層(a)と中間層(b)の2種類の中間層を同一の拡散熱処理工程で形成させる方法である。この方法では、2種の中間層の形成を個別に制御することは困難であるものの、中間層の形成工程を1回とすることで生産性を高めることが利点である。
【0091】
第3の方法では、中間層(a)と中間層(b)の2種類の中間層を形成させる拡散熱処理の温度範囲を、低温と高温とに分けて行う方法である。例えば、温度範囲の異なる2個の熱処理炉を用いる場合、または熱処理炉内に温度が異なる2種以上の加熱帯を用いる場合などが好ましく、いずれの場合も加熱時間、加熱域長さなどを適正化することで、所望する中間層(a),(b)を形成することが可能である。この方法により、熱活性化過程が異なる相互拡散または金属間化合物成長を利用して、幾つか存在し得る拡散層または金属間化合物層のなかで所望する中間層を2つの界面にそれぞれ形成することも可能となる。
【0092】
本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤにおいて、芯線または外周部に用いられる導電性金属とは、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al元素などが望ましく、さらに、その純度が99.9%以上の純金属であることがより好ましい。これは、上記元素を溶媒とする金属またはその合金により芯線と外周部とを構成することにより、前述した中間層複合ボンディングワイヤとしての効果を十分発現できるためである。ここで、半導体配線の電極部、リード側メッキ部への接合性をより向上するためには、Au,Pd,Ptを用いることがより好ましく、一方、強度、弾性率を高めるためにはPd,Cu元素などがより好ましい。
【0093】
芯線または外周部に用いられる合金とは、上記のAu,Pt,Pd,Cu,Ag,Alを溶媒元素とし、少なくとも1種以上の溶質元素を総計で0.02〜45%の範囲で含有することが望ましい。これは、溶質元素の濃度が0.02%以上であれば、純金属と比して強度、剛性を高めることができ、濃度が45%未満であればボール部の硬化および酸化などを抑えることができるためである。添加する溶質元素は、溶媒元素により異なるものの、例えば、Auを溶媒とする場合の溶質元素では、Ca,Be,In,Cu,Pd,Pt,Ag,Co,Ni、希土類元素などの中から少なくとも1種以上を総計で0.01〜40%の範囲で含有させることが有効であり、またCuを溶媒とする場合には、Be,Au,Pd,Ag,Sn,Mnなどの中から少なくとも1種以上を総計で 0.1〜30%の範囲で含有すること、Alを溶媒とする場合には、Si,Mg,Au,Pd,Zn元素などの中から少なくとも1種以上を総計で 0.1〜20%の範囲で含有することが望ましい。前述したように、芯線と外周部に形成させる拡散層および金属間化合物層が、溶質元素を含むことにより、拡散層および金属間化合物層の強度を著しく向上することができる。
【0094】
さらに、溶質元素を主成分とする拡散層の成長を促進するためには、例えばAg−Cu,Ag−Pd,Cu−Be,Pd−Ptなどの元素の組合せの溶質元素を芯線と外周部に分けて含有させることが好ましい。一方、界面に金属間化合物層の成長を促進するためには、例えば、Au−Al,Ag−Al,Cu−Pd,Ag−Pd,Au−Cu,Fe−Pdなどの組み合わせで、芯線と外周部に分けて溶質元素として含有させることも有効である。
【0095】
本発明の(7)〜(10)に記載のボンディングワイヤにおいて、芯線または外周部に用いられる導電性金属とは、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al,Ni,Fe元素などを溶媒とする金属またはその合金が望ましい。すなわち、上記元素の中から選定された2種類の元素から、芯線と外周部で異なる部材を構成することにより、前述した中間層複合ボンディングワイヤとしての効果を発現することができる。ここで、ワイヤ最表面での酸化を抑えるためには、外周部にAu,Pt,Pd,Ag,Alを用いることがより好ましい。さらにより好ましくは、半導体配線の電極部、リード側メッキ部への接合性をより向上するためには、外周部にAu,Pd,Ptを用いることが望ましい。一方、芯線に用いる部材では、強度、弾性率が高いことが望ましいため、Pd,Cu,Ni,Fe元素などがより好ましい。
【0096】
Ni,Fe元素などのように、高強度でありながら、芯線材または外周部材に直接用いると、密着性を確保することが難しい元素でも、界面に中間層を形成させることで利用も可能となり、ワイヤ変形を抑制する高い効果が得られる。好ましくは、芯線にNi,Fe元素をベースとする金属またはその合金を、外周部にはAu,Pt,Pd,Agなどの酸化を抑えられる元素を用いることが望ましく、この構造のワイヤでは接合性も向上させることができる。また、Ni,Fe元素を主体とするワイヤは、ウェッジ/ウェッジの接合に好適である。
【0097】
また、芯線と外周部の材料の組み合わせにより、生成する拡散層および金属間化合物層の組成、種類などが支配される。例えば、AuとAgの組み合わせでは、界面に拡散層は形成されるが、金属間化合物層を形成することはできない。同様に、状態図では化合物が熱平衡的には存在しないことからも、拡散層のみの形成が予測される2元系には、Au−Pt,Au−Ni,Ag−Cu,Ag−Pd,Ag−Ni,Pd−Ptなど多くの組合せが含まれる。一方で、Au−Al,Ag−Alなどの組み合わせでは、界面に金属間化合物層を形成することは容易であるが、拡散層のみを形成することは困難である。
【0098】
以上のように、芯線または外周部における要求特性を満足し、しかも、その界面における拡散層および金属間化合物層の形成による密着性、曲げ剛性の向上などの十分な効果も得ることができるように、芯線、外周部の部材および拡散熱処理条件などを選定することが重要である。例えば、外周部にはAuを、芯線にはCuを用いて、中間層として金属間化合物(Au3Cu,AuCu,AuCu3)を形成させた中間層複合ボンディングワイヤでは、アルミ電極への接合性は良好であり、ボール部近傍の熱影響を受けて強度低下を起こしやすいネック部においても十分な強度を有し、しかも現行の主流であるAuボンディングワイヤ用のボンディング装置をそのまま利用できることを確認した。
【0099】
また、芯線または外周部に用いられる導電性の部材は、純度が99.9質量%以上の純金属であるか、またはこれらの元素を溶媒として、少なくとも1種以上の溶質元素を添加された合金であることも構わない。すなわち、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al,Ni,Fe元素を溶媒とする合金では、純金属と比して強度、剛性を高めることができ、芯線または外周部そのものの機械的特性を高めることが可能である。
【0100】
添加する溶質元素は、溶媒元素により異なるものの、例えば、Auを溶媒とする場合の溶質元素では、Ca,Be,In,Cu,Pd,Pt,Ag,Co,Ni、希土類元素などの中から少なくとも1種以上を総計で0.01〜40%の範囲で含有させることが有効であり、またCuを溶媒とする場合には、Be,Au,Pd,Ag,Sn,Mnなどの中から少なくとも1種以上を総計で 0.1〜30%の範囲で含有すること、Alを溶媒とする場合には、Si,Mg,Au,Pd,Zn元素などの中から少なくとも1種以上を総計で 0.1〜20%の範囲で含有することが望ましい。さらに、前述したように、芯線と外周部に形成させる拡散層および金属間化合物層が、溶質元素を含むことにより、拡散層および金属間化合物層の強度を著しく向上することができる。
【0101】
また、本発明の(9)に記載のボンディングワイヤのように、芯線と外周部との間に中層を設けて、芯線と中層と外周部の3層構造とし、しかも、その芯線/中層および中層/外周部のそれぞれの界面に拡散層または金属間化合物層の少なくとも一種以上を有するボンディングワイヤとすることにより、高強度化、高密着性、接合性の向上などの効果をより高めることができる。その3層構造の中間層複合ボンディングワイヤの構造例を図7に示す。
【0102】
図7(a)は芯線1/金属間化合物層4/中層8/拡散層3/外周部2の構造であり、図7(b)は芯線1/拡散層3/中層8/金属間化合物層4/外周部2の構造を表している。ここで、芯線/中層および中層/外周部のそれぞれの界面に形成された拡散層、金属間化合物層などの中間層では、これまで述べた中間層複合ボンディングワイヤにおける、芯線と外周部とからなる2層構造の界面に形成された中間層の場合と同様の組成、厚さなどの構造にすることにより、密着性、機械的特性などを向上させる、ほぼ同様の効果を得ることができる。
【0103】
中間層を形成させる拡散熱処理も、前述した手法と同様で構わない。従来の2層構造でも芯線/外周部の界面における密着性の低下が問題となり、製造が困難であったことからも、芯線と中層と外周部の3層構造ワイヤは製造が非常に困難であり、量産は不可能であった。それに対し、芯線/中層、中層/外周部のそれぞれの界面に拡散層および金属間化合物層を形成させることにより、密着性を向上させたので量産可能となり、しかも、中間層の形成部位が2つの界面となることで、それら中間層による強度、曲げ剛性などの向上によるワイヤ変形の抑制効果についても、さらに高めることができる。
【0104】
こうした、各層の界面に中間層を形成させた3層構造とすることで、中間層を形成させた2層構造よりも、ワイヤを高強度化させて、且つ、ループ制御性の改善、ウェッジ接合性の向上、ボール部の硬化抑制などの、相反する特性を満足させることがより容易となる。例えば、中層を高強度の金属またはその合金とし、その中層よりも軟質である金属または合金を芯線と外周部に用いることにより、過酷なループ制御に追従してワイヤを変形させることで目的のループ形状を達成し、しかも、樹脂封止時にはワイヤ変形を抑制することもできる。
【0105】
また、高強度外周部にはワイヤのウェッジ接合性の良好なAu,Al,Cuなどの金属を用いることで、ウェッジ接合性を向上することもできる。さらに、芯線と外周部を同種の溶媒元素からなる金属または合金とし、中層のみ異なる硬質の材料を用いることは、溶融されたボール部内での、過剰に硬化させる溶質元素の割合を低減させて、接合直下への損傷を軽減することに有効である。この具体例として、Auの外周部、Cu,Pdなどの金属およびその合金である中層、Au合金の芯線とすることで、2層構造の場合よりも、ボール接合性、ウェッジ接合性などをより高められることができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例にもとずいて本発明を説明する。
実施例1
本実施例は、本発明の(1)〜(6)に記載のボンディングワイヤに関するものである。
ボンディングワイヤの原材料として、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al元素のそれぞれについて粒、または小片であり、純度が約99.9質量%以上のものを用意した。
こうした高純度材以外にも、Ca,Be,In,Cu,Ag,Pt,Pdなどから1種類以上の元素を総計で 0.001−1%の範囲で含有するAu合金、Be,Auなどから1種類以上の元素を総計で 0.001−1%の範囲で含有するCu合金、Si,Mg,Ag,Pt,Pdなどから1種類以上の元素を総計で0.01−1%の範囲で含有するAl合金なども、個別に高周波真空溶解炉で溶解鋳造により合金材を作製した。
【0107】
芯線と外周部で異なる部材からなる中間層複合ボンディングワイヤを作製するために、下記の2種類の方法を使用した。
第一の方法は、芯線と外周部を個別に準備し、それらを組合わせてから、鍛造、圧延などにより、ある線径まで細くしてから、拡散熱処理を施し、その後さらに伸線加工により最終線径まで細くする方法(以下、挿入法と呼ぶ)である。今回は、長さが10cm、直径が約5mmの線を準備し、その断面の中心部に穴径 0.4〜2.5mm の範囲で貫通する穴を加工した外周部材と、その穴径と同等の線径である芯線材を別途作製した。この外周部材の穴に芯線材を挿入して、鍛造、ロール圧延、ダイス伸線などの加工を施して、線径50〜100 μmの線を作製した。そのワイヤの拡散熱処理として、20cmの均熱帯を持つ横型赤外加熱炉を用いて、 300〜900 ℃に設定された炉中を、0.01〜40m/sの速度でワイヤを連続的に移動させながら熱処理を施した。その拡散熱処理されたワイヤをさらに、ダイス伸線により、最終径の20〜30μmまで伸線した。最後に、上記の加熱炉で熱処理を施すことにより、加工歪みを取り除き、伸び値が4%程度になるように特性を調整した。
【0108】
第二の方法は、ある線径まで細くしたワイヤを芯線材とし、そのワイヤ表面を覆うように異なる材料で外周部を作製した後に、拡散熱処理を施し、その後さらに伸線加工により最終線径まで細くする方法(以下、被覆法と呼ぶ)である。今回は、直径が約 200〜500 μmのワイヤを予め準備し、そのワイヤ表面に蒸着、メッキなどにより 0.1〜30μmの厚さで外周部材を被覆し、線径60〜100 μmまでダイス伸線した後に、上述した加熱炉を用いて同様の拡散熱処理を施した。その拡散熱処理されたワイヤをさらに、ダイス伸線により、最終径の20〜30μmまで伸線し、最後に、加工歪みを取り除き伸び値が4%程度になるように熱処理を施した。
【0109】
ワイヤの量産性を評価するために、総重量約50gとなるように配合したワイヤ試料を挿入法により作製し、そのワイヤを同一系列のダイスにより一定速度で伸線加工することにより、線径25μmまで伸線したときの断線回数を測定した。その断線回数が、6回以上の場合には生産性に問題ありと判断して×印で表し、2〜5回の場合を生産性が充分ではないことから△印で表し、1回以下の場合は量産性に問題ないと判断して○印で表現した。
【0110】
ワイヤの引張強度および弾性率は、長さ10cmのワイヤ5本の引張試験を実施し、その平均値により求めた。曲げ剛性率は方持梁試験法により測定した。具体的には、長さ2〜5cmのワイヤの一端を固定して、自重により変形する曲線を測定し、その変形量から解析的に剛性率を計算した。
【0111】
ボンディングワイヤの接続には、市販の自動ワイヤボンダーを使用して、ボール/ウェッジ接合あるいはウェッジ/ウェッジ接合を行った。ボール/ウェッジ接合法では、アーク放電によりワイヤ先端にボール(初期ボール径:46μm)を作製し、それをシリコン基板上の電極膜に接合し、ワイヤ他端をリード端子上にウェッジ接合した。ここで、芯線あるいは外周部にCu,Ag,Al元素などを含有するワイヤでは、ボール溶融時の酸化を抑制するために、ワイヤ先端にN2 ガスを吹き付けながら、放電させた。また、ウェッジ/ウェッジ接合法では、ボールは形成しないで、シリコン基板上の電極膜にワイヤを直接接合した。
【0112】
接合相手としては、シリコン基板上の電極膜の材料である、厚さ1μmのAl合金膜(Al−1%Si− 0.5%Cu)、あるいはCu配線(Au0.01μm/Ni 0.4μm/Cu 0.4μm)を使用した。一方の、ウェッジ接合の相手には、表面にAgメッキ(厚さ:1〜4μm)が施されたリードフレーム、または表面にAuメッキ/Niメッキ/Cu配線を形成されている樹脂基板を使用した。
【0113】
ボール部近傍のネック部(熱影響域)における強度を評価するために、プル試験法を用いた。これは、ボンディングされたワイヤの中央部よりもボール接合部に近い部位に、専用フックを引掛けて、上方に引張りながら、破断強度(プル強度)を測定する方法であり、20本の平均値を測定した。
【0114】
ボンディング工程でのループ形状安定性については、 500本のワイヤを投影機により観察して、ワイヤの直線性、ループ高さなどの不良が3本以上ある場合は、問題有りと判断して×印で表し、不良が認められない場合は○印を、その中間の1〜2本の場合には△印で表した。不良原因の一つとして、芯線と外周部の界面の密着性が十分でないことに関連して、ループ形状が乱れる不良が発生することを確認しており、該評価法はそうした密着性を判定する方法の一つとなる。
【0115】
樹脂封止時のワイヤ流れ(樹脂流れ)の測定に関しては、ワイヤのスパンとして約6mmが得られるようボンディングした半導体素子が搭載されたリードフレームを、モールディング装置を用いてエポキシ樹脂で封止した後に、軟X線非破壊検査装置を用いて樹脂封止した半導体素子内部をX線投影し、ワイヤ流れが最大の部分の流れ量を20本測定し、その平均値をワイヤのスパン長さで除算した値(百分率)を封止後のワイヤ流れと定義した。
【0116】
ボール接合部の接合強度については、アルミ電極の2μm上方で冶具を平行移動させてせん断破断強度を読みとるシェアテスト法で測定し、20本の破断荷重の平均値を測定した。
ボール接合部直下のシリコン基板への損傷を評価するために、ボール接合部および電極膜は王水により除去した後、シリコン基板上のクラック、微小ピット穴などを光顕やSEM などにより観察した。 500個の接合部を観察し、5μm以上のクラックが3個以上認められる場合はチップ損傷が問題となると判断して△印で表し、クラックが1〜3個発生しているか、または1μm程度のピット穴が2個以上認められる場合は、チップ損傷が懸念されるものの実用上は問題はないことから、○印で表し、クラックは発生しておらずピット穴も1個以下の場合は、非常に良好であることから◎印で表示した。
【0117】
また、リード側にワイヤを接合するウェッジ接合性の判定では、リードフレーム接続における通常のステージ温度である 250℃で1000pin のボンディングを行った結果、接合部での剥離が生じたり、ワイヤの変形形状が対称的に変形していなかったりする場合には△印で表し、そうした不良が発生しないで、現行の汎用金ボンディングワイヤと同様に良好である場合には○印で表示した。さらにBGA などで求められる低温でのウェッジ接合性を評価するために、ステージ温度 180℃で1000pin のボンディングを行い、全ピン良好な接続が行え、接合形状も良好である場合には、低温ウェッジ接合性にも優れているとして、◎印で表示した。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
【表6】
【0124】
【表7】
【0125】
表1〜4には、本発明に係わる中間層複合ボンディングワイヤについての評価結果を示している。表1,2に示した実施例1〜19は、金属の外周部、その合金の芯線、外周部/芯線の間の拡散層からなり、発明(1)のボンディングワイヤに関する結果である。表3,4の実施例20〜30は、金属の芯線、その合金の外周部、外周部/芯線の間の拡散層が形成されており、発明(2)に関わる場合であり、実施例29〜35は、外周部と芯線ともに同種元素を主成分とする合金からなり、発明(3)に関わる場合である。表5に示したうちの実施例38〜42は、表3,4中の数種の中間層複合ボンディングワイヤのさらに外側に、芯線および外周部の主要元素とは同種の金属からなる最表面層を蒸着やメッキなどにより設けており、発明(4)に関するもので、その中の実施例38,41,42は、最表面層と外周部との間に中間層を設けた、発明(5)に関するボンディングワイヤの結果である。また、表5の実施例43〜46は、芯線および外周部の主要元素とは異なる金属からなる最表面層を設けており、発明(6)に関するボンディングワイヤの結果である。
【0126】
一方、表6は芯線と外周部のみの2層構造の場合の比較例を示しており、なかでも比較例1〜7は、芯線と外周部とが同種元素を主成分とする2層構造の場合であり、比較例8〜10は、芯線と外周部とが異なる元素を主成分とする2層構造ワイヤに関する。表7の比較例11〜13は、表5の3層構造の比較例である。これらの比較例はいずれも、芯線と外周部に中間層を形成していない場合である。
【0127】
表に示した試料No. は、関連試料をグループ分けして整理するための番号であり、最初の数字は拡散熱処理される前の試料番号を意味しており、その後のアルファベット表記(a,b,c…)は、その同一の試料で拡散熱処理が異なる場合、または最表面に被覆を施した場合に相当する。例えば、実施例1〜3(試料No. 1−a〜1−c)、実施例20,21(試料No. 16−a〜16−b)などは、それぞれ芯線と外周部の部材、割合などが同一であるワイヤを用いて、拡散熱処理条件を変えることで、拡散層の厚さを変化させた試料の結果であり、それに比して、比較例1(試料No. 1−d)は、同一試料で、拡散熱処理を行わなかった場合の結果に相当する。
芯線と外周部の材料の組合せ、または拡散層、金属間化合物層の厚さに応じて、拡散熱処理の条件は変更しており、例えば、実施例1では約 500℃の炉中を速度40m/sで連続的に焼鈍しており、実施例3では約 650℃で速度5m/s、実施例14では約 550℃で速度40m/s、実施例29では約 750℃で速度2m/sで熱処理を施した。
【0128】
表中には、拡散層あるいは金属間化合物層の厚さ、濃度または化合物の組成などを示している。これは、ワイヤを断面研磨し、芯線/外周部の界面に形成された中間層をオージェ分光装置あるいはEPMA装置で測定した結果である。オージェ分光分析によるライン分析の測定結果の一例を図8,9に示している。中間層を挟んでその外周部側からで芯線側までライン分析しているが、グラフのX軸には任意の位置からの距離で表示している。図8には、外周部Au/芯線Au−Ag30%合金の拡散層におけるAg濃度と、外周部Au/芯線Au−Cu3%合金の拡散層におけるCu濃度を示しており、図9(a)には芯線Pd−Cu2%−Al4%合金/外周部Pd−Au5%−Ag1%合金の場合の金属間化合物層におけるAu,Al濃度の変化を、図9(b)には芯線Cu−Pd5%−Be1%合金/外周部Cu−Au5%合金の場合の金属間化合物層におけるPd,Au濃度の変化を示している。
【0129】
いずれの結果でも、ワイヤ内部に形成された拡散層、金属間化合物層を確認することができ、さらに各層の厚さも測定できる。例えば、主な金属間化合物は、図9(a)ではAu5Al2相、図9(b)ではAu3Pd 相であることが観察された。表1〜5に示した厚さ、組成なども同様の手法により測定されたものである。試料によっては拡散層内に濃度勾配がある場合においても、表中の拡散層の濃度は、拡散層内の平均濃度値で表している。例えば、実施例5の拡散層内の濃度範囲はPd 1.5〜2.5 %であり、実施例9ではPd30〜40%であった。また、成長した主要な金属間化合物相を表に示しており、化学量論性からのずれにより組成比に若干の幅が生じる場合には、平均的組成で表している。
【0130】
拡散層と金属間化合物層が同時に確認される場合もあり、例えば実施例33では、拡散層Au−Cu 0.5%と金属間化合物Cu3Pt が観察された。さらに、拡散層、金属間化合物層などの中間層の近傍に溶質元素が濃化している場合も観察され、例えば、実施例7では、Agを約10%含有する拡散層と芯線との界面近傍にNi元素が、芯線内の添加量に対して10%以上濃化していた。
まずは、ワイヤの量産性をみると、表6の従来の2層構造のワイヤでは、伸線の途中で断線が発生して歩留まりが低下しており、また、ワイヤのSEM 観察では、表面キズなどの外観不良が発生していたのに対して、表1〜4の中間層複合ボンディングワイヤでは、製造時の断線は最小限にまで低減されており、外観での問題も発生していなかった。
【0131】
表1,2の拡散層が形成されたボンディングワイヤでは、比較例1〜3と比較しても、強度、弾性率、曲げ剛性などが優れており、樹脂封止時のワイヤ変形(樹脂流れ)が抑制されていることが判る。特に、拡散層を形成することにより、曲げ剛性が明らかに上昇していることが、ワイヤ変形を抑える効果をもたらしていると考えられる。
【0132】
一例として、Auの外周部、Au−Cu3%−Ca 0.1%合金の芯線の同一構成である実施例1〜3(試料No. 1−a〜1−c)と比較例1(試料No. 1−d)を比較すると、拡散層が厚くなるに従い、機械的特性が向上していることが確認された。例えば、実施例1では、拡散層の厚さLは0.03μmと薄いものの、比較例1(L=0)に比べると、弾性率、曲げ剛性は増加し、樹脂流れは低減されるなど、改善が認められた。さらに実施例2(L= 0.3μm)では、L>0.05μmの条件を満たすことから、その改善効果は大きくなっており、目標としていた樹脂流れ率を7%以下に抑えることが達成されていた。この7%の意味としては、現在、主流である高純度Auボンディングワイヤの汎用製品を数種類評価したところ、つねに7%以上であることが確認されたため、樹脂流れ率を7%以下に抑えることをワイヤ特性向上の目安として用いたためである。さらに、実施例3(L=2μm)では、上記の効果に加えて、プル強度も増加しており、ネック部での曲がり不良などを抑えるのに効果が期待される。
【0133】
また、芯線、外周部および中間層の組成は同一であるもののそれぞれの厚みが異なる場合として、実施例6では、実施例5よりも芯線の径が増え、さらに中間層もより外側に形成することで、曲げ剛性は増加し、樹脂流れは低減されていた。また、実施例8と実施例9を比較しても、同様の効果が確認された。
【0134】
表3,4もほぼ同様であり、中間層を形成させることにより、表6の比較例4〜8と比較して、弾性率、曲げ剛性は増加し、樹脂流れを低減することができることが確認された。表3,4では、外周部を合金とすることで、表1,2における芯線を合金とする場合よりも、曲げ剛性を1割程度は高めており、樹脂流れも低減されていた。また、実施例25,29の場合では金属間化合物層を形成させることでより、拡散層のみ形成した場合と比較しても、高い効果が得られており、樹脂流れを 4.5%以下にまで抑えられることが確認された。
【0135】
従来の2層構造である、芯線と外周部が異なる金属を主成分とするワイヤに関する、比較例8〜10では、ボール接合部直下のシリコン基板にクラックなどの損傷を与えてしまうのに対し、表1〜4では、芯線と外周部が同種金属を主成分とすることで、ボール部の硬化を軽減する作用が働き、シリコン基板への損傷が抑えられていることが確認された。
【0136】
図10には、拡散層または金属間化合物層の層厚と樹脂流れの関係を示している。図10(a)は外周部Au/芯線Au−Cu3%−Ca 0.1%合金の界面に拡散層が成長させたワイヤの樹脂流れ率であり、線径25μm、ワイヤ長約6mmの条件の結果であり、一方の図10(b)は、芯線Au/外周部Au−Cu3%合金の界面に主に金属間化合物層を成長させたワイヤの場合で、線径20μm、ワイヤ長約5mmでの実験結果である。いずれの場合も、拡散層または金属間化合物層が厚くなるほど、樹脂流れが抑えられていることは明らかである。例えば、図10(a)の拡散層厚さLとの相関では、0.05μm以上では樹脂流れの抑制効果があり、さらに 1.0μm以上でその効果がより高まっていた。また、図10(b)の金属間化合物層厚さdとの相関では、0.05μm以上で流れ抑制効果が高く、また 0.1μm以上ではその効果がより高くなり、さらに 1.0μm以上では効果がより一層高くなっていることが確認された。
【0137】
樹脂流れ以外の特性をみると、表6の2層構造ワイヤおよび表7の3層構造ワイヤのように中間層を形成していない場合には、ループ形状のバラツキが発生しており、ループ安定性に問題があったり、またウェッジ接合形状でも、現行の金ボンディングワイヤと比べて、剥離などの不良が発生する頻度が高かったのに対して、表1〜5の中間層複合ボンディングワイヤでは、ループ安定性、ウェッジ接合形状ともに良好であることが確認された。
【0138】
表5の実施例38〜42では、表3,4の実施例20,27,31,34のそれぞれの中間層複合ボンディングワイヤにおいて、その表面に芯線や外周部と同種の元素を主成分とする最表面層を形成したものであり、これにより低温 180℃でのウェッジ接合性は向上し、さらにボール部直下のチップ損傷も軽減されていることが確認された。また、実施例43〜46では、実施例11,19,28,34のそれぞれの中間層複合ボンディングワイヤにおいて、その表面に芯線や外周部とは異なり、しかも酸化の少ない元素を主成分とする最表面層を形成したもので、これによりウェッジ接合性は向上しており、さらに曲げ剛性などの特性向上によりワイヤの樹脂流れを低減する効果も得られていた。さらに、チップ上の電極膜にワイヤを直接接合するウェッジ−ウェッジ接合についても評価したところ、実施例1,19,24などでは、中間層を形成しない場合と比較して、接合強度が高く、低温 180℃でのウェッジ接合での不良率も大幅に低減しており、ワイヤの樹脂流れも減少されていることが確認された。
【0139】
また、ワイヤを6ヵ月間大気中に放置した後で同様の実験を行っても、実施例43〜46では最表面層による酸化抑制の効果が維持されていることが確認できた。こうした結果からも、実施例11,19,28,34などのワイヤでは、出荷時に酸化を軽減するためのガス置換による梱包が必要と考えられていたが、実施例43〜46ではそうした特殊は梱包も必要なく、また経時劣化の心配がないことも確認できた。
【0140】
芯線/外周部/最表面層の3層構造のワイヤについて比較すると、表7の比較例11〜13では、伸線の途中で断線が発生して歩留まりが低下しており、使用特性でもループ形状のバラツキやウェッジ接合形状不良の不具合が発生していたのに対し、表5に示した実施例38〜46では、3層構造で、且つその界面に中間層を形成することにより、製造時の断線は最小限にまで低減され、量産性が向上しており、ループ形状、ウェッジ接合形状なども良好であり、しかも、強度、弾性率、曲げ剛性などが上昇して、樹脂流れの抑制効果が高まっていることからも、中間層の形成による効果が確認された。
実施例2
【0141】
本実施例は、本発明の(7)〜(11)に記載のボンディングワイヤに関するものである。
原材料は、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al,Ni,Fe元素それぞれについて粒、または小片の試料であり、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Alの純度は約 99.99質量%以上であり、Ni純度は99.9質量%以上、Fe純度は99質量%以上のものを用意した。
こうした高純度材以外にも、Ca,Be,In,Cu,Ag,Pt,Pdなどから1種類以上の元素を総計で 0.001−1%の範囲で含有するAu合金、Be,Auなどから1種類以上の元素を総計で 0.001−1%の範囲で含有するCu合金、Si,Mg,Ag,Pt,Pdなどから1種類以上の元素を総計で0.01−1%の範囲で含有するAl合金なども、個別に高周波真空溶解炉で溶解鋳造により合金材を作製した。
【0142】
芯線と外周部で異なる部材からなる中間層複合ボンディングワイヤを作製するために、下記の2種類の方法を使用した。
第一の方法は、芯線と外周部を個別に準備し、それらを組合わせてから、鍛造、圧延などにより、ある線径まで細くしてから、拡散熱処理を施し、その後さらに伸線加工により最終線径まで細くする方法(以下、挿入法と呼ぶ)である。今回は、長さが10cm、直径が約5mmの線を準備し、その断面の中心部に穴径 0.4〜2.5mm の範囲で貫通する穴を加工した外周部材と、その穴径と同等の線径である芯線材を別途作製した。この外周部材の穴に芯線材を挿入して、鍛造像、ロール圧延、ダイス伸線などの加工を施して、線径50〜100 μmの線を作製した。そのワイヤの拡散熱処理として、20cmの均熱帯を持つ横型赤外加熱炉を用いて、 300〜900 ℃に設定された炉中を、0.01〜40m/sの速度でワイヤを連続的に移動させながら熱処理を施した。その拡散熱処理されたワイヤをさらに、ダイス伸線により、最終径の20〜30μmまで伸線した。最後に、上記の加熱炉で熱処理を施すことにより、加工歪みを取り除き、伸び値が4%程度になるように特性を調整した。
【0143】
第二の方法は、ある線径まで細くしたワイヤを芯線材とし、そのワイヤ表面を覆うように異なる材料で外周部を作製した後に、拡散熱処理を施し、その後さらに伸線加工により最終線径まで細くする方法(以下、被覆法と呼ぶ)である。今回は、直径が約 200〜500 μmのワイヤを予め準備し、そのワイヤ表面に蒸着、メッキなどにより 0.1〜30μmの厚さで外周部材を被覆し、線径60〜100 μmまでダイス伸線した後に、上述した加熱炉を用いて同様の拡散熱処理を施した。その拡散熱処理されたワイヤをさらに、ダイス伸線により、最終径の20〜30μmまで伸線し、最後に、加工歪みを取り除き伸び値が4%程度になるように熱処理を施した。
【0144】
ワイヤの量産性を評価するために、総質量約50gとなるように配合したワイヤ試料を挿入法により作製し、そのワイヤを同一系列のダイスにより一定速度で伸線加工することにより、線径25μmまで伸線したときの断線回数を測定した。その断線回数が、6回以上の場合には生産性に問題ありと判断して×印で表し、2〜5回の場合を生産性が充分ではないことから△印で表し、1回以下の場合は量産性に問題ないと判断して○印で表現した。
【0145】
ワイヤの引張強度および弾性率は、長さ10cmのワイヤ5本の引張試験を実施し、その平均値により求めた。曲げ剛性率は片持梁試験法により測定した。具体的には、長さ3cmのワイヤの一端を固定して、自重により変形する曲線を測定し、その変形量から解析的に剛性率を計算した。
【0146】
ボンディングワイヤの接続には、市販の自動ワイヤボンダーを使用して、ボール/ウェッジ接合あるいはウェッジ/ウェッジ接合を行った。ボール/ウェッジ接合法では、アーク放電によりワイヤ先端にボール(初期ボール径:46μm)を作製し、それをシリコン基板上の電極膜に接合し、ワイヤ他端をリード端子上にウェッジ接合した。ここで、芯線あるいは外周部にCu,Ag,Al,Ni,Fe元素などを含有するワイヤでは、ボール溶融時の酸化を抑制するために、ワイヤ先端にN2 ガスを吹き付けながら、放電させた。また、ウェッジ/ウェッジ接合法では、ボールは形成しないで、シリコン基板上の電極膜にワイヤを直接接合した。
【0147】
接合相手としては、シリコン基板上の電極膜の材料である、厚さ1μmのAl合金膜(Al−1%Si− 0.5%Cu)、あるいはCu配線(Au0.01μm/Ni 0.4μm/Cu 0.4μm)を使用した。一方の、ウェッジ接合の相手には、表面にAgメッキ(厚さ:1〜4μm)が施されたリードフレーム、または表面にAuメッキ/Niメッキ/Cu配線を形成されているガラエポ樹脂基板を使用した。
【0148】
ボール部近傍のネック部(熱影響域)における強度を評価するために、プル試験法を用いた。これは、ボンディングされたワイヤの中央部よりもボール接合部に近い部位に、専用フックを引掛けて、上方に引張りながら、破断強度(プル強度)を測定する方法であり、20本の平均値を測定した。
【0149】
ボンディング工程でのループ形状安定性については、1000本のワイヤを投影機により観察して、ワイヤの直線性、ループ高さなどの不良が3本以上ある場合は、問題有りと判断して×印で表し、不良が認められない場合は○印を、その中間の1〜2本の場合には△印で表した。不良原因の一つとして、芯線と外周部の界面の密着性が十分でないことに関連して、ループ形状が乱れる不良が発生することを確認しており、該評価法はそうした密着性を判定する方法の一つとなる。
【0150】
樹脂封止時のワイヤ流れ(以下、樹脂流れと呼ぶ)の測定に関しては、ワイヤのスパンとして約6mmが得られるようボンディングした半導体素子が搭載されたリードフレームを、モールディング装置を用いてエポキシ樹脂で封止した後に、軟X線非破壊検査装置を用いて樹脂封止した半導体素子内部をX線投影し、ワイヤ流れが最大の部分の流れ量を20本測定し、その平均値をワイヤのスパン長さで除算した値(百分率)を封止後のワイヤ流れと定義した。
【0151】
ボール接合部の接合強度については、アルミ電極の2μm上方で冶具を平行移動させてせん断破断強度を読みとるシェアテスト法で測定し、20本の破断荷重の平均値を測定した。
【0152】
また、リード側にワイヤを接合するウェッジ接合性の判定では、リードフレーム接続における通常のステージ温度である 250℃で1000pin のボンディングを行った結果、接合部での剥離が生じたり、ワイヤの変形形状が対称的に変形していなかったりする場合には△印で表し、そうした不良が発生しないで、現行の汎用金ボンディングワイヤと同様に良好である場合には○印で表示した。さらにBGA などで求められる低温でのウェッジ接合性を評価するために、ステージ温度 180℃で1000pin のボンディングを行い、全ピン良好な接続が行え、接合形状も良好である場合には、低温ウェッジ接合性にも優れているとして、◎印で表示した。
【0153】
【表8】
【0154】
【表9】
【0155】
【表10】
【0156】
【表11】
【0157】
【表12】
【0158】
【表13】
【0159】
表8,9には、本発明に係わる中間層複合ボンディングワイヤについての評価結果を示している。芯線/外周部の界面に形成される中間層の種類により分類しており、表8に示した実施例51〜63は拡散層のみが形成された場合であり、表9に示した実施例64〜78は金属間化合物層(一部拡散層も含む)が形成されている場合である。表10に示した実施例79〜82は、中間層複合ボンディングワイヤの外側に最表面層を蒸着やメッキなどにより形成させた、最表面層/外周部/中間層/芯線からなるボンディングワイヤに関する場合であり、また、表11に示した実施例83〜87は、芯線/中層/外周部の3層構造であり、しかもその界面に中間層を形成した場合である。
【0160】
一方、表12の比較例21〜27は、芯線と外周部の2層構造の場合の比較例であり、表13の比較例28〜30は、3層構造の場合の比較例の結果である。これらの比較例は、芯線と外周部における部材、割合の構成が表8、表9、表11に記載のワイヤと同一であるものの、拡散熱処理を施していないことにより、中間層を形成していない場合である。
【0161】
表に示した試料No. は、関連試料をグループ分けして整理するための番号であり、アルファベット表記(a,b,c…)は拡散熱処理される前の試料を意味しており、後の数字は、その同一の試料で拡散熱処理が異なることを示している。例えば、実施例51〜54(試料No. a−1〜a−4)、実施例64〜67(試料No. j−1〜j−4)などは、それぞれ芯線と外周部の部材、割合などが同一であるワイヤを用いて、拡散熱処理条件を変えることで、拡散層の厚さを変化させた試料の結果であり、それに比して、比較例21(試料No. a−5)、比較例25(試料No. j−5)は、同一試料で、拡散熱処理を行わなかった場合の結果に相当する。
【0162】
芯線と外周部の材料の組合せ、または拡散層、金属間化合物層の厚さに応じて、拡散熱処理の条件は変更しており、例えば、実施例51では約 500℃の炉中を速度40m/sで連続的に焼鈍しており、実施例53では約 650℃で速度5m/s、実施例65では約 550℃で速度40m/s、実施例66では約 750℃で速度2m/sで熱処理を施した。
【0163】
表中には、拡散層あるいは金属間化合物層の厚さ、濃度または化合物の組成などを示している。これは、ワイヤを断面研磨し、芯線/外周部の界面に形成された中間層をオージェ分光装置あるいはEPMA装置で測定した結果である。オージェ分光分析によるライン分析の測定結果の一例を図11,12に示している。中間層を挟んでその外周部側から芯線側までライン分析しているが、グラフのX軸には任意の位置からの距離で表示している。図11には、芯線Ag/外周部Auの拡散層におけるAg濃度と、芯線Pt/外周部Auの拡散層におけるPt濃度を示しており、図12(a)には芯線Cu/外周部Auの場合の金属間化合物層におけるAu,Cu濃度の変化を、図12(b)には芯線Al/外周部Auの金属間化合物層におけるAl,Au濃度の変化を示している。
【0164】
いずれの結果でも、ワイヤ内部に形成された拡散層、金属間化合物層を確認することができ、さらに各層の厚さも測定できる。例えば、主な金属間化合物は、図12(a)ではAuCu,AuCu3 相、(b)ではAu5Al2,AuAl相であることが観察された。同様の手法により測定された厚さ、組成などを表8〜11に示している。試料によっては拡散層内に濃度勾配がある場合においても、表中の拡散層の濃度は、拡散層内の平均濃度値で表している。例えば、実施例54の拡散層内の濃度範囲はAg45〜55%であり、実施例59ではPd30〜40%であった。また、金属間化合物についても主要な相を表に示しており、化学量論性からのずれにより組成比に若干の幅が生じる場合には、平均的組成で表している。
【0165】
さらに、拡散層、金属間化合物層などの中間層の近傍に溶質元素が濃化している場合も確認されている。例えば、実施例63では、Cu合金の外周部と金属間化合物の界面近傍にPd,Ptなどの元素が、含有量に対して10%以上濃化しており、実施例25では、Au外周部と金属間化合物の界面近傍にCu,Pdなどの元素が、含有量に対して20%以上濃化していることが観察された。
【0166】
まずは、ワイヤの量産性をみると、表12の従来の2層構造のワイヤでは、伸線の途中で断線が発生して歩留まりが低下しており、また、ワイヤのSEM 観察では、表面キズなどの外観不良が発生していたのに対して、表8、表9の中間層複合ボンディングワイヤでは、製造時の断線は最小限にまで低減されており、外観での問題も発生していなかった。
【0167】
表8の拡散層が形成されたボンディングワイヤでは、比較例21〜24と比較しても、強度、弾性率、曲げ剛性などが優れており、樹脂封止時のワイヤ変形(樹脂流れ)が抑制されていることが判る。特に、拡散層を形成することにより、曲げ剛性が明らかに上昇していることが、ワイヤ変形を抑える効果をもたらしていると考えられる。
【0168】
一例として、芯線Ag/外周部Auの構成は同一である実施例51〜54(試料No. a−1〜a−4)と比較例21(試料No. a−5)を比較すると、拡散層が厚くなるに従い、機械的特性が向上していることが確認された。例えば、実施例1では、拡散層の厚さLは0.03μmと薄いものの、比較例21(L=0)に比べると、弾性率、曲げ剛性は増加し、樹脂流れは低減されるなど、改善が認められた。さらに実施例52(L=0.06μm)では、L>0.05μmの条件を満たすことから、その改善効果は大きくなっており、目標としていた樹脂流れ率を7%以下に抑えることが達成されていた。この7%の意味としては、現在主流である高純度Auボンディングワイヤの汎用製品を数種類評価したところ、つねに7%以上であることが確認されたため、樹脂流れ率を7%以下に抑えることをワイヤ特性向上の目安として用いたためである。さらに、実施例53(L= 0.2μm)では、上記の効果に加えて、プル強度も増加しており、ネック部での曲がり不良などを抑えるのに効果が期待される。
【0169】
表9もほぼ同様であり、金属間化合物を成長させることにより、表12の比較例25〜27と比較して、弾性率、曲げ剛性は増加し、樹脂流れを低減することができることが確認された。また表8の拡散層のみ形成した場合と比較しても、表9の場合では金属間化合物層を形成させることでより高い効果が得られており、例えば、樹脂流れを4%未満にまで抑えられることが確認された。
【0170】
図13には、拡散層または金属間化合物層の層厚と樹脂流れの関係を示している。図13(a)は外周部Au/芯線Ptの界面に拡散層が成長させたワイヤの樹脂流れ率であり、線径25μm、ワイヤ長約6mmの条件の結果であり、一方の図13(b)は、外周部Au/芯線Cuの界面に主に金属間化合物層を成長させたワイヤの場合で、線径20μm、ワイヤ長約5mmでの実験結果である。いずれの場合も、拡散層または金属間化合物層が厚くなるほど、樹脂流れが抑えられていることは明らかである。例えば、図13(a)の拡散層厚さLとの相関では、0.05μm以上では樹脂流れの抑制効果があり、さらに 1.0μm以上でその効果がより高まっていた。また、図13(b)の金属間化合物層厚さdとの相関では、0.05μm以上で流れ抑制効果が高く、また 0.1μm以上ではその効果がより高くなり、さらに 1.0μm以上では効果がより一層高くなっていることが確認された。
【0171】
樹脂流れ以外の特性をみると、表12の2層構造ワイヤおよび表13の3層構造ワイヤのように中間層を形成していない場合には、ループ形状のバラツキが発生しており、ループ安定性に問題があったり、またウェッジ接合形状でも、現行の金ボンディングワイヤと比べて、剥離などの不良が発生する頻度が高かったのに対して、表8、表9、表10、表11の中間層複合ボンディングワイヤでは、ループ安定性、ウェッジ接合形状ともに良好であることが確認された。
【0172】
表10の実施例79〜82では、表8、表9の実施例55,63,68,71のそれぞれの中間層複合ボンディングワイヤにおいて、その表面に導電性金属の最表面層を形成したものであり、これにより 180℃での低温接合性が向上していることが確認された。また、これらのワイヤを6ヵ月間大気中に放置した後で同様の実験を行っても、実施例79〜82では最表面層による酸化抑制の効果が維持されていることが確認できた。こうした結果からも、実施例55,63,68,71などのワイヤでは、出荷時に酸化を軽減するためのガス置換による梱包が必要と考えられていたが、実施例79〜82ではそうした特殊な梱包も必要なく、また経時劣化の心配がないことも確認できた。
【0173】
芯線/中層/外周部の3層構造のワイヤについて比較すると、表13の比較例28〜30では、伸線の途中で断線が発生して歩留まりが低下しており、使用特性でもループ形状のバラツキやウェッジ接合形状不良の不具合が発生していたのに対し、表11に示した実施例83〜87では、3層構造で、且つその界面に中間層を形成することにより、製造時の断線は最小限にまで低減され、量産性が向上しており、ループ形状、ウェッジ接合形状なども良好であり、しかも、強度、弾性率、曲げ剛性などが上昇して、樹脂流れの抑制効果が高まっていることからも、中間層の形成による効果が確認された。また、表8、表9の中層を含まないワイヤの結果と比較しても、実施例83〜87では、曲げ剛性などの機械的特性は上昇し、樹脂流れは3%未満にまで抑えられていた。
【産業上の利用可能性】
【0174】
以上説明したように、本発明においては、芯線と外周部を同種の元素をベースとする金属および合金から構成し、さらにその芯線/外周部の間に、それら芯線と外周部を構成する元素からなる拡散層あるいは金属間化合物層を設けた中間層複合構造にすることより、また、芯線とは異なる導電性金属からなる外周部が形成され、さらにその芯線と外周部の間に、芯線と外周部を異なる導電性金属により構成され、しかもその界面に拡散層または金属間化合物層が形成されている中間層複合構造にすることより、狭ピッチ化、細線化、長ワイヤ化に優れた高強度、高曲げ剛性を有し、ボール部接合性、ウェッジ接合性も向上され、しかも工業的に量産性にも優れた、半導体素子用ボンディングワイヤを提供することができる。
【符号の説明】
【0175】
1 芯線
2 外周部
3 拡散層
4 金属間化合物層
5 中間層(拡散層および金属間化合物層の総称)
6 分析ライン
7 最表面層
8 中層
d1 芯線の直径
d2 ワイヤ直径
r 中間層の厚さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の金属からなる外周部と、前記金属を主成分とする合金からなる芯線と、さらにその芯線と外周部の間に拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項2】
導電性の金属からなる芯線と、前記の金属を主成分とする合金からなる外周部と、さらに、その芯線と外周部との間に拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項3】
外周部と芯線とが同種の導電性の金属を主成分とする合金からなり、しかも、それぞれの合金中に含有される合金化元素の種類または濃度が、少なくとも一種以上は異なっており、さらに、その芯線と外周部の間に、拡散層、または、拡散層と金属間化合物層の両方を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素と同種の金属からなる最表面層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素と同種の金属からなる最表面層を有し、さらにその外周部と最表面層の間に拡散層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素とは異なる、外周部より酸化の少ない金属からなる最表面層を有し、さらにその外周部と最表面層の間に拡散層または金属間化合物層のうち少なくとも1 層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項7】
導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項8】
導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、拡散層および金属間化合物層を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項9】
導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる中層と、前記中層の第2の金属とは異なる導電性の金属またはその合金からなる外周部から構成され、さらにその芯線と中層との間、および中層と外周部との間には、拡散層、または、拡散層と金属間化合物層の両方を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、外周部の主成分金属とは異なる導電性の金属またはその金属を主成分とする合金からなる最表面層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤを製造する方法において、芯線と外周部の界面に、濃度勾配を有する拡散層、または、濃度勾配を有する拡散層と金属間化合物層の両方を形成させる拡散熱処理を行うことを特徴とする半導体用ボンディングワイヤの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤを製造する方法において、芯線と外周部の界面に、濃度勾配を有する拡散層、または、濃度勾配を有する拡散層と金属間化合物層の両方を形成させる拡散熱処理を行い、その後で伸線加工することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤの製造方法。
【請求項1】
導電性の金属からなる外周部と、前記金属を主成分とする合金からなる芯線と、さらにその芯線と外周部の間に拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項2】
導電性の金属からなる芯線と、前記の金属を主成分とする合金からなる外周部と、さらに、その芯線と外周部との間に拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項3】
外周部と芯線とが同種の導電性の金属を主成分とする合金からなり、しかも、それぞれの合金中に含有される合金化元素の種類または濃度が、少なくとも一種以上は異なっており、さらに、その芯線と外周部の間に、拡散層、または、拡散層と金属間化合物層の両方を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素と同種の金属からなる最表面層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素と同種の金属からなる最表面層を有し、さらにその外周部と最表面層の間に拡散層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、芯線および外周部の主要元素とは異なる、外周部より酸化の少ない金属からなる最表面層を有し、さらにその外周部と最表面層の間に拡散層または金属間化合物層のうち少なくとも1 層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項7】
導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、拡散層を有し、前記拡散層が濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項8】
導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる外周部、さらにその芯線と外周部の間に、拡散層および金属間化合物層を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項9】
導電性を有する第1の金属または該第1の金属を主成分とする合金からなる芯線と、前記芯線の第1の金属とは異なる導電性を有する第2の金属または該第2の金属を主成分とする合金からなる中層と、前記中層の第2の金属とは異なる導電性の金属またはその合金からなる外周部から構成され、さらにその芯線と中層との間、および中層と外周部との間には、拡散層、または、拡散層と金属間化合物層の両方を有し、前記拡散層は濃度勾配を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤにおいて、前記ボンディングワイヤの外周部のさらに外側に、外周部の主成分金属とは異なる導電性の金属またはその金属を主成分とする合金からなる最表面層を有することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤを製造する方法において、芯線と外周部の界面に、濃度勾配を有する拡散層、または、濃度勾配を有する拡散層と金属間化合物層の両方を形成させる拡散熱処理を行うことを特徴とする半導体用ボンディングワイヤの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の半導体用ボンディングワイヤを製造する方法において、芯線と外周部の界面に、濃度勾配を有する拡散層、または、濃度勾配を有する拡散層と金属間化合物層の両方を形成させる拡散熱処理を行い、その後で伸線加工することを特徴とする半導体用ボンディングワイヤの製造方法。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図11】
【図12(a)】
【図12(b)】
【図13(a)】
【図13(b)】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図11】
【図12(a)】
【図12(b)】
【図13(a)】
【図13(b)】
【公開番号】特開2010−166079(P2010−166079A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66859(P2010−66859)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【分割の表示】特願2002−527565(P2002−527565)の分割
【原出願日】平成13年9月18日(2001.9.18)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【分割の表示】特願2002−527565(P2002−527565)の分割
【原出願日】平成13年9月18日(2001.9.18)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】
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