説明

半導体素子の製造方法

【課題】短時間で半導体素子を製造する。
【解決手段】(a)成長基板10上に、III族窒化物系化合物半導体から構成され、空洞11dを備える空洞含有層11を形成する。(b)空洞含有層11上に、n型のIII族窒化物系化合物半導体から構成され、空洞を閉じるn層12を形成する。(c)n層12上に、III族窒化物系化合物半導体から構成される活性層13を形成する。(d)活性層13上に、p型のIII族窒化物系化合物半導体から構成されるp層14を形成する。(e)p層14上方に、支持基板20を接着する。(f)空洞11dが形成されている位置を境界として、前記成長基板10を剥離する。(g)n層12を平坦化する。工程(b)は、(b1)相対的に横方向成長の弱い条件でn層の一部を形成する工程と、(b2)相対的に横方向成長の強い条件でn層の他の一部を形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子、たとえば光半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、光半導体素子(light emitting diode; LED)は、成長基板上に、n層、活性層(発光層)、p層等で構成される半導体多層膜(半導体層)を成膜した後、成長基板及び半導体多層膜表面に電極を形成する。絶縁性の成長基板を使用する場合は、反応性イオンエッチング等の手法を用いて、半導体層の一部の領域をn層が露出するまでエッチングし、n層とp層のそれぞれに電極を形成する。
【0003】
成長基板の選択は、半導体層の結晶品質に大きな影響を与える。しかし成長基板の導電性、熱伝導性、光吸収係数は、光半導体素子の電気、熱、光学特性にも影響する。良好な結晶性の半導体層を形成可能な成長基板が、他の特性のすべてが優良な半導体素子を実現するとは限らない。このため半導体層を成長基板から剥離し、発光に寄与する半導体層に電極を直接形成する、シンフィルムLEDまたは半導体レーザ(laser diode; LD)が提案されている(たとえば、特許文献1、2、3及び4参照)。成長基板を除去することにより、電気、熱、光学特性を向上させることができる。成長基板の除去には、一般的にはレーザリフトオフが用いられる。
【0004】
成長基板上に空洞(ボイド)含有層を形成し、その上にn層、発光層、p層を成長させ、支持基板を貼り合わせた後、空洞含有層に衝撃を与えることで成長基板を剥離する半導体素子の製造方法の発明が開示されている(たとえば、特許文献5参照)。特許文献5記載の発明においては、空洞含有層は、横方向(層の面内方向)成長優位の条件と、縦方向(層の厚さ方向)成長優位の条件とを交互に変更して形成される。空洞含有層の開口は、空洞含有層上に形成されるn層で閉じられる。
【0005】
特許文献5記載の半導体素子の製造方法においては、以下の問題が生じる場合があった。
【0006】
図4(A)〜(C)は、空洞含有層を含む断面図である。図4(A)〜(C)を参照し、従来技術の問題点を説明する。
【0007】
図4(A)を参照する。成長基板50上に、GaNで構成される空洞含有層51が形成されている。材料ガスGが供給され、空洞含有層51上に、n型GaN膜であるn層52が成膜されつつある。空洞含有層51及び成膜中のn層52には空洞(ボイド)53が形成されている。図4(A)には、空洞53の開口部Rが大きい場合を示した。n層52の横方向成長により、空洞53が閉じられつつある。その一方で、空洞53内部の半導体やGaN結晶54が分解して生じた窒素(N)ガスが、開口部Rを通り、空洞53の内部から外部へ抜けていく。このNガスは、開口部Rが大きい状態では、材料ガスGの開口部R周辺への到達を特に妨げることがなく、n層52の横方向成長にほとんど影響を与えない。
【0008】
図4(B)を参照する。図4(B)は、図4(A)のn層52の成膜を続けたものである。空洞53は、n層52の成長により徐々に閉じる。図4(B)には、空洞53が徐々に閉じられ、開口部Rが小さくなった状態を示した。開口部Rが小さくなると、空洞53内部から外部へ抜けていくNガスの勢いが強くなり、開口部Rの周辺へ材料ガスGが到達しにくくなる結果、空洞53を閉じようとするn層52の横方向成長が阻害される。
【0009】
図4(C)は、n層52の成長により、閉じられた後の空洞53の形状を示す断面図である。本図には、開口部Rが大きいときに形成された空洞部にV、開口部Rが小さいときに形成された空洞部にVの符号を付して示した。開口部Rが小さく、横方向成長が阻害された状態でn層52の形成を行うと、空洞53が閉じるまでに時間を要し、空洞部V、ひいては空洞53の高さが高くなる。
【0010】
特許文献5に記載された発明においては、n層52、発光層、p層を形成し、成長基板50を剥離した後、空洞含有層51及びn層52のうち空洞53が形成された部分を研磨することによって、n層52を平坦化させる。この際、空洞53の高さが高いと、研磨に要する時間が長くなる。また、研磨する部分のn層52が厚くなるため、n層52の形成工程にも長時間を要する。このような問題に対し、n層52の成長温度を最適値に設定することで開口を閉じる速度を調節することを考えた。
【0011】
図5は、n層52の成長温度と、形成される空洞53との関係をまとめた表である。成長温度は低い温度として980℃、中程度の温度として1000℃、高い温度として1020℃を選択した。中程度の温度でn層52を成長させた場合、上述のように、GaN結晶の蒸発(分解、脱離)の影響が大きく、なかなか空洞53が閉じず、n層52の形成工程や、後の研磨工程に時間を要する。なお、成長基板50の剥離という観点からは、空洞53は良好に形成されているということができる。
【0012】
低い温度でn層52を成長させた場合、たとえば空洞含有層51の構成元素の分解、脱離が少なく、十分な大きさに空洞53を形成するのは困難である。空洞53は、n層52の成長時においてもGaNの分解、脱離が生じることで形成されていくためである。形成される空洞53が少ないことから、成長基板50の剥離がスムーズに行われない場合がある。
【0013】
高い温度でn層52を成長させると、横方向成長を促進することが可能である。しかし空洞53は、n層52成長中もその内部で脱離が進むことで大きくなる。よって横方向成長が促進された結果、空洞53が閉じるのが早すぎてしまい、その後の脱離は抑制されるため、十分な大きさの空洞53を形成することは難しい。このため、成長基板50の剥離に必要な、成長基板50に対する占有面積(成長基板50と空洞含有層51の接触している面積の比率)とすること(成長基板50をスムーズに剥離すること)が困難となる。
【0014】
このように、n層52の成長温度を最適化して空洞53を所望の大きさに形成しつつ、空洞53の高さを低くすることは困難であった。
【0015】
なお、空洞含有層51形成時において、空洞53の開口率(空洞53上部の開口部Rの、層の面内における面積率)を小さくするためには、たとえば空洞含有層51の厚さを厚くする、空洞含有層51形成時の成長温度を高くする、という方法が考えられる。前者の方法によれば、空洞含有層51の成長時間が長くなり、また空洞53の高さがその分高くなり、好ましくない。後者の方法によれば、開口率だけでなく、空洞53自体が小さくなり、剥離に必要な占有面積とするのが難しい。このように、空洞53を適当な大きさとしつつ、開口率をたとえば50%程度以下とするのは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】再公表特許WO98−14986号公報
【特許文献2】特開2005−516415号公報
【特許文献3】特開2000−228539号公報
【特許文献4】特開2004−172351号公報
【特許文献5】特開2010−153450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、短時間で半導体素子を製造することのできる半導体素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一観点によると、(a)成長基板上に、III族窒化物系化合物半導体から構成され、空洞を備える空洞含有層を形成する工程と、(b)前記空洞含有層上に、n型のIII族窒化物系化合物半導体から構成され、前記空洞を閉じるn層を形成する工程と、(c)前記n層上に、III族窒化物系化合物半導体から構成される活性層を形成する工程と、(d)前記活性層上に、p型のIII族窒化物系化合物半導体から構成されるp層を形成する工程と、(e)前記p層上方に、支持基板を接着する工程と、(f)前記空洞が形成されている位置を境界として、前記成長基板を剥離する工程と、(g)前記n層を平坦化する工程とを有し、前記工程(b)は、(b1)相対的に横方向成長の弱い条件で前記n層の一部を形成する工程と、(b2)相対的に横方向成長の強い条件で前記n層の他の一部を形成する工程とを含む半導体素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、短時間で半導体素子を製造することの可能な半導体素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例による半導体素子の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図2】(A)〜(F)は、実施例による半導体素子の製造方法を示す断面図である。
【図3】(A)〜(F)は、実施例による半導体素子の製造方法を示す断面図である。
【図4】(A)〜(C)は、空洞含有層を含む断面図である。
【図5】n層52の成長温度と、形成される空洞53との関係をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しつつ説明する。本発明は半導体素子の製造方法に関するが、光半導体素子の製造方法を例にとって説明を行う。
【0022】
図1は、実施例による半導体素子の製造方法の概略を示すフローチャートである。実施例による半導体素子の製造方法においては、まずステップS101において、成長基板上に、III族窒化物系化合物半導体(III−V族窒化物系化合物半導体)からなり、内部に多数の空洞を含む空洞含有層を形成する。空洞含有層形成工程(ステップS101)は、下地層形成工程(ステップS101a)及び繰り返し層形成工程(ステップS101b)を含む。
【0023】
次に、空洞含有層上に、たとえばMOCVD法により、III族窒化物系化合物半導体エピタキシャル層を形成する。III族窒化物系化合物半導体エピタキシャル層は、n層(n型半導体層)、活性層(発光層)、p層(p型半導体層)を含む。n層、活性層(発光層)、及びp層は、III族窒化物系化合物半導体、たとえばGaN系半導体から構成される。
【0024】
III族窒化物系化合物半導体エピタキシャル層形成工程においては、まず空洞含有層上に、たとえばn型のGaNで構成されるn層を形成する(ステップS102)。ステップS102のn層形成工程は、低温n型GaN膜成長工程(ステップS102a)、及び、高温n型GaN膜成長工程(横方向成長促進工程)(ステップS102b)を含む。続いて、n層上に、通電により発光を行う活性層(発光層)を形成する(ステップS103)。更に、活性層(発光層)上に、p型のGaN系半導体からなるp層を形成する(ステップS104)。
【0025】
ステップS105においては、半導体エピタキシャル層(p層)上方に、支持基板を接着する。その後、ステップS106において、空洞が形成された位置を境界として、成長基板を半導体エピタキシャル層(n層、活性層、及びp層)から剥離する。ステップS107の表面処理工程においては、たとえば研磨により、成長基板の剥離によって表出した半導体エピタキシャル層(n層)表面の平坦化を行う。ステップS108においては、表面処理が行われた半導体エピタキシャル層(n層)上に電極を形成する。その後、支持基板付きの半導体エピタキシャル層を、個々のチップに分離する(ステップS109)。
【0026】
図2(A)〜(F)及び図3(A)〜(F)は、実施例による半導体素子の製造方法を示す断面図である。
【0027】
図2(A)〜(D)を参照して、空洞含有層形成工程(ステップS101)を説明する。図2(A)に、ステップS101aの下地層形成工程の概略を示す。たとえば、径2インチ、厚さ430μmのサファイア基板である成長基板10をサセプタ上に載置し、MOCVD装置にセットする。窒素13.5LM、水素4.5LMの雰囲気下でトリメチルガリウム(TMG)を、流量11μmol/min、アンモニア(NH)を流量3.3LMで供給し、500℃で厚さ200nmのGaNからなる下地層11aを形成する。下地層11aの形成後、TMGの供給を停止して雰囲気温度を1000℃まで昇温する。なお、1000℃は、低温n型GaN膜成長工程(ステップS102a)において、GaN膜を成長させる温度である。
【0028】
図2(B)を参照する。ステップS101bの繰り返し層形成工程においては、雰囲気温度を1000℃に保ったまま、窒素6LM、水素7.5LMの雰囲気下で、下地層11a上に、GaNからなる繰り返し層11bを形成する。繰り返し層11bは、第1ステップ層11bと第2ステップ層11bを交互に複数セット、たとえば4セット繰り返して成膜することにより形成する。第1ステップ層11bは、主に縦方向成長が助長される条件で成膜を行い、第2ステップ層11bは、主に横方向成長が助長される条件で成膜を行う。
【0029】
図2(B)に示すように、TMGを流量23μmol/minで供給するとともに、NHを流量2.2LMで供給し、下地層11a上に、厚さ20nmのGaN層である第1ステップ層11bを形成する。
【0030】
図2(C)を参照する。TMGを流量45μmol/minで供給するとともに、NHを流量4.4LMで供給し、第1ステップ層11b上に、厚さ80mのGaN層である第2ステップ層11bを形成する。
【0031】
図2(D)を参照する。厚さ20nmの第1ステップ層11bと厚さ80nmの第2ステップ層11bを、交互に4層ずつ成膜することで、厚さ400nmのGaNからなる繰り返し層11bを形成する。下地層11aと繰り返し層11bとから構成される層を、空洞含有層11と呼ぶ。空洞含有層11は、下地層11aと繰り返し層11bとで構成される柱状構造体11c、及び、柱状構造体11c間の空洞11dを含む。空洞含有層11形成後(繰り返し層11b成膜後)の開口率を測定したところ、62%であった。開口率は成膜条件などによって変わるが、本発明においては、空洞含有層11が厚くなりすぎず、空洞も剥離に必要な程度に大きくするために、空洞含有層11形成時点で50%以上となる条件を選ぶことが好ましい。
【0032】
成長条件の異なる第1ステップ層11bと第2ステップ層11bとを、交互に繰り返して形成することで、結晶の核となる接触部と、横方向成長で融合する非接触部を残しながら、最終的には、半導体エピタキシャル層(n層、活性層、及びp層)を、表面平滑性にすぐれ、高い結晶性を有する層とすることができる。
【0033】
図2(E)及び(F)を参照して、n層形成工程(ステップS102)を説明する。n層形成工程においては、空洞含有層11上に、空洞11dを閉じるn型GaN膜(n層12)を形成する。
【0034】
まず、低温n型GaN膜成長工程(ステップS102a)において、空洞含有層11上に、相対的に低温、たとえば995℃〜1005℃、実施例においては雰囲気温度を1000℃として、厚さ1μmにn型GaN膜を成膜する。成膜においては、たとえばTMGを流量45μmol/min、NHを流量5.5LM、及びドーパントガスとしてSiHを86.6ccmで供給した。
【0035】
図2(E)は、低温n型GaN膜形成後の断面を示す。低温n型GaN膜成長工程においては、比較的横方向成長の弱い条件でn型GaN膜を形成し、空洞11dの開口率を下げる一方で、空洞11d内部のGaN結晶の分解、脱離を十分に行わせ、後の成長基板剥離工程(ステップS106)で成長基板10をスムーズに剥離するのに十分な大きさの空洞11dを形成する。低温n型GaN膜形成後の開口率を測定したところ、19%であった。
【0036】
なお、ステップS102aは、次のステップS102bに比べ横方向成長は弱いが、開口率を小さくする必要はあるため、空洞含有層形成工程における第2ステップ層11b成膜時よりも横方向成長優位の条件であることが強いことが好ましい。
【0037】
図2(F)を参照する。相対的に低温でn型GaN膜を成長させた後、高温n型GaN膜成長工程(横方向成長促進工程)(ステップS102b)においては、材料ガスを供給したままで、n型GaN膜の成長温度を上昇させる。ステップS102bにおいては、相対的に高温、たとえば1010℃〜1030℃、実施例においては雰囲気温度を1020℃として、厚さ5μmにn型GaN膜を成膜する。材料ガス及びその供給量は、ステップS102aの低温n型GaN膜成長工程と等しい。
【0038】
図2(F)は、高温n型GaN膜形成後の断面を示す。高温n型GaN膜成長工程(横方向成長促進工程)においては、横方向成長の強い条件でn型GaN膜を形成し、形成されるn型GaN膜によって、空洞11dを閉じる。
【0039】
実施例による半導体素子の製造方法においては、低温n型GaN膜成長工程(ステップS102a)と高温n型GaN膜成長工程(ステップS102b)とを含む工程によって、空洞11dを閉じるn型GaN膜(n層12)が形成される。空洞11dを閉じはじめる低温n型GaN膜成長工程では、相対的に横方向成長の弱い条件でn型GaN膜を成膜し、空洞11dを十分な大きさに形成する。
【0040】
高温n型GaN膜成長工程(横方向成長促進工程)においては、相対的に横方向成長の強い条件でn型GaN膜を形成する。横方向成長が優位であるため、空洞11dの開口部からの抜けガスが強くなっても、開口部を早い段階で閉じることができる。このため、空洞11d高さ、及び、n層12厚さの増大を抑止することができる。したがって、n層形成工程(ステップS102)の時間短縮に加え、たとえば研磨によりn層12の平坦化を行う表面処理工程(ステップS107)の時間短縮も実現することができる。
【0041】
なお、実施例においては、低温n型GaN膜成長工程において形成するn型GaN膜の厚さを1μm(空洞11dの開口率が19%となる膜厚)としたが、膜厚はこれに限られない。開口率が5%以上40%以下の範囲内のいずれかの値となる時点まで、相対的に横方向成長の弱い条件でn型GaN膜を成膜し、その後成長条件を変更することができる。開口率が5%未満となる時点まで、成長条件の変更を遅らせた場合、空洞11dの高さが高くなり、効果が不十分となることがある。開口率が40%を超える時点で高温n型GaN膜成長工程(横方向成長促進工程)に移行した場合、空洞11dが十分な大きさに形成されないことがある。開口率が5%〜40%の範囲まで減少した時点で成長条件を変更することで、上述の効果を十分に奏することが可能である。また、低温n型GaN膜成長工程を省き、高温n型GaN膜成長工程に移ると、十分な大きさの空洞11dが形成される前に、開口部が塞がれるため、成長基板剥離工程(ステップS106)で成長基板10をスムーズに剥離するのが困難となる場合がある。
【0042】
更に、実施例においては、高温n型GaN膜成長工程(横方向成長促進工程)において形成するn型GaN膜の厚さを5μmとしたが、膜厚はこれに限られない。また、空洞11dの開口率が0%になるまで、たとえば1010℃〜1030℃でn型GaN膜を形成すればよく、開口率が0%となった後は、成長温度を上下させてもかまわない。更に、実施例においては、成長温度を上げることで横方向成長を促進させたが、たとえばNHの供給量を増加させて横方向成長を促すことも可能である。この場合、たとえば成長温度を1000℃、TMGの流量を45μmol/min、NHの流量を6.5LM、ドーパントガスSiHの供給量を86.6ccmとして、n型GaN膜の成膜を行い、ステップS102bの横方向成長促進工程とすることができる。
【0043】
図3(A)を参照する。n層形成工程(ステップS102)の後、活性層(発光層)形成工程(ステップS103)に進み、n層12上に、活性層(発光層)13を形成する。
【0044】
活性層(発光層)形成工程においては、まず雰囲気温度を760℃とし、TMGを流量3.6μmol/min、トリメチルインジウム(TMI)を流量3.6μmol/min、NHを流量4.4LMで供給して、GaN/InGaN(各2nm)のペアを30ペア形成することにより、歪み緩和層(図示せず)を形成する。なお、TMG及びTMIの流量は1μmol/min〜10μmol/minの範囲で変更可能である。この場合、In組成が20%程度となるようにTMIとTMGの流量を同時に変更する。またNHの流量は3.3LM〜5.5LMの範囲で変更することができる。また、GaNに代えてInGaNを形成することとしてもよい。この場合、x<yを満たすように流量を調整する。更に、歪緩和層の膜厚は、GaN/InGaNの各層の膜厚やペア数を変更することにより50nm〜300nmの範囲で変更可能である。また、歪緩和層には、Siを最大5E17atom/cmドープしてもよい。
【0045】
次に、雰囲気温度を730℃とし、TMGを流量3.6μmol/min、TMIを流量10μmol/min、NHを流量4.4LMで供給して、GaN障壁層/InGaN井戸層(各14nm/2nm)からなるペアを5ペア形成することにより、多重量子井戸構造の活性層(発光層)13を形成する。TMG及びTMIの流量は1μmol/min〜10μmol/minの範囲で変更可能である。この場合、Inの組成比を示すyの値が0.35程度となるようにTMIとTMGの流量を同時に変更する。またNHの流量は3.3LM〜5.5LMの範囲で変更することができる。更に、活性層(発光層)13には、Siを最大5E17atom/cmドープしてもよい。
【0046】
続いて、p層形成工程(ステップS104)に進み、活性層(発光層)13上に、p層14を形成する。
【0047】
p層形成工程においては、まず雰囲気温度を870℃とし、TMGを流量8.1μmol/minで、トリメチルアルミニウム(TMA)を流量7.6μmol/minで、NHを流量4.4LMで、更にドーパントガスとしてCP2Mg(bis-cyclopentadienyl Mg)を供給することにより、Mgが1E20atom/cmドープされた膜厚40nm程度のp型AlGaN層(図示せず)を形成する。TMGの流量は4μmol/min〜20μmol/minの範囲で変更可能である。この場合、Alの組成が20%程度となるようにTMGとTMAの流量を同時に変更する。またNHの流量は3.3LM〜5.5LMの範囲で変更することができる。更に、p型AlGaN層の膜厚は20nm〜60nmの範囲で変更可能である。
【0048】
次に、雰囲気温度を870℃とし、TMGを流量18μmol/minで、NHを流量4.4LMで、更にドーパントガスとしてCP2Mgを供給することにより、Mgが1E20atom/cmドープされた膜厚200nm程度のp層14を形成する。TMGの流量は8μmol/min〜36μmol/minの範囲で変更可能である。またNHの流量は3.3LM〜5.5LMの範囲で変更することができる。更に、p層14の膜厚は100nm〜300nmの範囲で変更可能である。
【0049】
約900℃の窒素雰囲気下で約1分間の熱処理を行うことにより、p層14を活性化させる。
【0050】
図3(B)及び(C)を参照して、支持基板接着工程(ステップS105)について説明する。
【0051】
図3(B)を参照する。真空蒸着法等により、p層14上にPt層(10Å)およびAg層(3000Å)をこの順に堆積し、電極層15を形成する。Pt層によりp層14との間でオーミック接触が確保され、Ag層により高反射率が確保される。続いて、Ti層(1000Å)、Pt層(2000Å)及びAu層(2000Å)をこの順に堆積し、電極層15上に、接着層16を形成する。接着層16は、後述する支持基板20との接着部を構成する。
【0052】
図3(C)を参照する。成長基板10に代えて半導体エピタキシャル層(n層12、活性層13、及びp層14)を支持するための支持基板20を準備する。支持基板20としては、たとえばSi単結晶基板を用いることができる。支持基板20上には、Pt層、Ti層、Ni層、Au層、AuSn層がこの順に積層された接着層21が真空蒸着法等により形成される。続いて、接着層21と接着層16とを密着させ、真空または窒素雰囲気中で熱圧着することにより、半導体エピタキシャル層のp層14側に支持基板20を貼り付ける。なお、支持基板20は、接着層21上にCu等の金属膜をめっき成長させることにより形成されるものであってもよい。
【0053】
図3(D)を参照する。成長基板剥離工程(ステップS106)においては、空洞11dが形成されている位置を境界として、成長基板10を半導体エピタキシャル層(活性層13)から分離する。成長基板10は、空洞含有層11内部にほぼ均一に分布した幅数μm程度の柱状構造体11cを介して半導体エピタキシャル層(n層12)に接合しているので、この接続部に対して外部から僅かな力を加えることにより、たとえば空洞含有層11を起点として成長基板10を容易に剥離することができる。一例として、成長基板10に軽い衝撃を与えることにより、剥離を行うことが可能である。また、超音波等を用いてウエハに振動を与えることにより、成長基板10を剥離することもできる。更に、空洞含有層11内部の空洞11dに液体を浸透させ、これを加熱することにより生じる水蒸気圧を利用して、成長基板10を剥離することもできる。また、ウエハを酸やアルカリ溶液に浸漬して空洞11d内部にエッチャントを浸透させることにより、柱状構造体11cのエッチングを行い、成長基板10を剥離することも可能である。更に、LLO法を補助的に使用して成長基板10を剥離することとしてもよい。
【0054】
なお、支持基板接着工程(ステップS105)が終了した段階で、支持基板20の応力等によって成長基板10が、空洞11dが形成されている位置を境界として、自然剥離していても実質上問題はない。したがって、支持基板接着工程が実施された後、支持基板20の応力によって自然剥離が生じるように空洞含有層11の機械強度を調整しておくことで、成長基板剥離工程(ステップS106)は省略することが可能である。
【0055】
図3(E)を参照し、表面処理工程(ステップS107)について説明する。表面処理工程においては、成長基板10を剥離することによって表出した面を塩酸処理することにより、空洞含有層11に付着した金属Gaを除去するとともに、n層12表面を露出、研磨し、所定厚さにn層12を平坦化させる。成長基板剥離工程で、ウエハを酸やアルカリに浸漬して空洞11d内部にエッチャントを浸透させた場合、金属Gaはそのとき除去されるが、除去されずに残った場合は、本工程であらためて除去される。なお、エッチャントとしては、塩酸に限らず、GaN膜をエッチングすることが可能なものであればよく、たとえば、リン酸、硫酸、KOH、NaOH等を使用することができる。エッチャントとしてKOH等を用いることにより、n層12表面には、マイクロコーンと呼ばれるGaN結晶構造に由来する六角錐状の突起が多数形成され、これが光取り出し効率の向上に寄与する。また、表面処理はウェットエッチングに限らずArプラズマや塩素系プラズマを用いたドライエッチングによって実施してもよい。
【0056】
図3(F)を参照し、電極形成工程(ステップS108)について説明する。表面処理が施されたn層12表面に、真空蒸着法等によりTi層及びAl層を順次堆積し、更にボンディング性向上のため、最表面にTi層/Au層を堆積することによって、n電極30を形成する。電極材料としてはTi層/Al層のほか、Al層/Rh層、Al層/Ir層、Al層/Pt層、Al層/Pd層等を用いることができる。
【0057】
電極形成工程に続いて、チップ分離工程(ステップS109)を行う。チップ分離工程においては、n電極30が形成された支持基板20付き半導体エピタキシャル層を、個別のチップに分離する。この工程は、まず、半導体エピタキシャル層表面に各チップ間に溝を設けるようにしたパターンをレジストによりパターニングする。次に、反応性イオンエッチングを用いて半導体エピタキシャル層表面から電極層15に達する深さまで溝を形成する。その後、支持基板20等をダイシングし、各チップに分離する。また、レーザスクライブ等の技術を用いてもよい。以上の各工程を経ることにより、半導体素子が製造される。
【0058】
実施例による半導体素子の製造方法は、n層形成工程(ステップS102)が、低温n型GaN膜成長工程(ステップS102a)と高温n型GaN膜成長工程(ステップS102b)とを含む点に特徴を有する。実施例による半導体素子の製造方法によれば、空洞11dを、高さを抑えながら、成長基板10をスムーズに剥離可能な大きさに形成することができる。空洞11d高さ、及び、n層12厚さの増大を抑止することができ、n層形成工程(ステップS102)、及び、表面処理工程(ステップS107)、ひいては半導体素子の製造に要する時間を短縮することが可能である。
【0059】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0060】
半導体素子一般、たとえば光半導体素子の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 成長基板
11 空洞含有層
11a 下地層
11b 繰り返し層
11b 第1ステップ層
11b 第2ステップ層
11c 柱状構造体
11d 空洞
12 n層
13 活性層(発光層)
14 p層
15 電極層
16 接着層
20 支持基板
21 接着層
30 n電極
50 成長基板
51 空洞含有層
52 n層
53 空洞
54 GaN結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)成長基板上に、III族窒化物系化合物半導体から構成され、空洞を備える空洞含有層を形成する工程と、
(b)前記空洞含有層上に、n型のIII族窒化物系化合物半導体から構成され、前記空洞を閉じるn層を形成する工程と、
(c)前記n層上に、III族窒化物系化合物半導体から構成される活性層を形成する工程と、
(d)前記活性層上に、p型のIII族窒化物系化合物半導体から構成されるp層を形成する工程と、
(e)前記p層上方に、支持基板を接着する工程と、
(f)前記空洞が形成されている位置を境界として、前記成長基板を剥離する工程と、
(g)前記n層を平坦化する工程と
を有し、
前記工程(b)は、
(b1)相対的に横方向成長の弱い条件で前記n層の一部を形成する工程と、
(b2)相対的に横方向成長の強い条件で前記n層の他の一部を形成する工程と
を含む半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記空洞の開口率が5%〜40%の範囲内のいずれかの値となった時点で、前記工程(b1)から前記工程(b2)に移行する請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記工程(b2)において前記n層を形成する温度は、前記工程(b1)において前記n層を形成する温度よりも高い請求項1または2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b1)においては、995℃〜1005℃の範囲内の温度で、前記n層を形成し、前記工程(b2)においては、1010℃〜1030℃の範囲内の温度で、前記n層を形成する請求項3に記載の半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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