説明

半導体素子の駆動回路

【課題】電力変換回路を構成する半導体素子の電圧、電流の利用率を向上させ、装置の小型、低価格化を図る。
【解決手段】電力変換回路を構成する半導体素子1aをオン・オフ制御するとともに、これに過電圧が印加されたときは定電圧ダイオード4aを用いて過電圧保護を行なうゲート駆動回路において、定電圧ダイオード4aの定電圧レベルを電力変換回路を構成する直流コンデンサの直流電圧よりも低く設定するとともに、この定電圧ダイオード4aと直列に定電圧ダイオード4bと電流制限コンデンサ13との並列回路を接続し、半導体素子1aの過電圧保護を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、IGBT等の半導体素子を用いた半導体素子の駆動回路、特に半導体素子の過電圧保護が可能な半導体素子の駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に、ごく一般的な半導体電力変換装置の例(1相分)を示す。
これは、ダイオード2a,2bが逆並列接続された半導体素子(図ではIGBT)1a,1bを直列に接続し、半導体素子1a,1bを交互にオン・オフさせることで、直流コンデンサ6に蓄えられたエネルギー(直流電力)を交流電力として端子7に出力し、端子7からの交流電力を直流電力に変換して直流コンデンサ6に供給するインバータを示す。半導体素子1a,1bにはそれぞれ半導体素子を駆動するゲート駆動回路3a,3bが接続され、このゲート駆動回路は、図示されない制御装置によって演算されたオン・オフ信号に基づき、半導体素子1a,1bをオンまたはオフに制御するゲート信号を出力する。
【0003】
例えば特許文献1に開示された従来例と同様な半導体素子の駆動回路(ゲート駆動回路)の例を、図5に示す。
同図のゲート駆動回路は、半導体素子1aのコレクタ・ゲート間に、定電圧ダイオード4aとダイオード5との直列回路からなる過電圧保護回路、ドライブ回路9、正側電源10、負側電源11、制御信号入力端子12などを備えている。この回路で、図示されない半導体電力変換装置の制御装置から、制御信号入力端子12にオン信号またはオフ信号が入力されると、ドライブ回路9から半導体素子1aへ正側電源10の正電圧または負側電源11の負電圧が印加され、正電圧の場合は半導体素子1aはオン、負電圧の場合は半導体素子1aはオフされる。
【0004】
ここで、半導体素子1aに印加される電圧が定電圧ダイオード4aの定電圧レベル(いわゆる降伏電圧またはツェナー電圧)以上になると、定電圧ダイオード4aとダイオード5を経由してゲート電流Igが流れる。これは、半導体素子1aをオン状態からオフ状態に移行させるときに、図4の直流コンデンサ6に対し、直流コンデンサ6→半導体素子1a→半導体素子1b→直流コンデンサ6の経路の配線インダクタンスや電流減少率によって決まる電圧が重畳され、場合によっては半導体素子1aに耐圧以上の電圧(過電圧)が印加されることになり、半導体素子1aが故障するおそれがある。このため、過電圧になったときは定電圧ダイオード4aおよびダイオード5を介してゲート電流を流すことで、ゲート電圧が動作しきい値レベル以下となるような電流でゆっくりとオフさせることにより、半導体素子1aに過大な電圧が印加されないよう保護する。
【0005】
【特許文献1】特開平07−170654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、半導体素子には図6に符号Rで示すような安全動作領域があり、この領域内で使用することになっている。特に図6(b),(c)のような特性を持つ半導体素子の場合、その定電圧レベルをV1にすると、Ic1以上の電流レベルではV1までの耐圧がないため、半導体素子の破壊を引き起こす可能性がある。また、定電圧レベルをV2にすると、V1までの耐圧特性を利用することができない。このため、半導体素子の使用電圧、電流を低減する対策を必要としコストアップ、大型化の要因となる。
【0007】
したがって、この発明の課題は、半導体素子の電圧、電流の利用率を向上させ、装置の小型、低価格化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、請求項1の発明では、電力変換回路を構成しオン・オフ制御される半導体素子に過電圧が印加されたときは、その過電圧保護を行なう半導体素子の駆動回路において、
定電圧レベルが、前記電力変換回路を構成する直流コンデンサの直流電圧よりも低く設定された第1の定電圧ダイオードと、この第1の定電圧ダイオードと直列に第2の定電圧ダイオードと電流制限コンデンサとの並列回路との直列回路を、前記半導体素子の制御端子と主電流が流れる一端子との間に接続し、半導体素子の過電圧保護を可能にしたことを特徴とする。
上述した半導体素子の駆動回路は、例えば上記半導体素子がIGBTである場合、制御端子はゲートであり、主電流が流れる一端子はコレクタであって、これらゲート・コレクタ間に上記回路が構成されて過電圧からIGBTが保護される。
【0009】
上記請求項1の発明においては、前記電流制限コンデンサの充電電流経路は前記半導体素子の制御端子と上記主電流が流れる別の一端子との間を通り、放電電流経路は前記半導体素子の制御端子と上記主電流が流れる別の一端子との間を通らないようにする(請求項2の発明)。
上述した半導体素子の駆動回路は、例えば上記半導体素子がIGBTである場合、制御端子はゲートであり、主電流が流れる別の一端子はエミッタであって、これらゲート―エミッタ間に電流制限用コンデンサの充電電流が流れる一方、電流制限用コンデンサの放電電流はこの端子間以外に流れる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、半導体素子の動作領域を超えないような過電圧保護を可能にしたので、半導体素子の電圧、電流の利用率が向上され、装置の小型、低価格化を図ることが可能となる利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1はこの発明の実施の形態を示す回路図である。図1からも明らかなように、図5に示す半導体素子の駆動回路(以下、ゲート駆動回路と称する)に対し、定電圧ダイオード4b、電流制限コンデンサ13、放電用抵抗14および放電用ダイオード15などを付加して構成される。
その動作について、以下に説明する。いま、半導体素子1aがオン状態で電流を流しているときに、図示されない制御装置から制御信号入力端子12にオフ信号が入力されると、ゲート電流Igが負となって半導体素子1aをオフしようとする。このとき、半導体素子1aのコレクタ―エミッタ間を流れる電流が減少して行き、この電流減少率と、直流コンデンサ6→半導体素子1a→半導体素子1b→直流コンデンサ6の経路の配線インダクタンス成分によってきまる電圧が、直流コンデンサ6の電圧に重畳されて半導体素子1aに印加される。
【0012】
この半導体素子1aに印加されるコレクタ―エミッタ間電圧(素子電圧)Vceが定電圧ダイオード4aの定電圧レベルV2に達すると、素子電圧Vceの上昇率と電流制限コンデンサ13によってきまる電流Ig1が、電流制限コンデンサ13およびダイオード5を経て半導体素子1aのゲートに流れ出し、素子電圧Vceの電圧上昇率が抑制される。さらに、素子電圧が上昇し、定電圧ダイオード4a,4bできまる定電圧レベルV1に達すると、Ig1よりも大きな電流Ig2が定電圧ダイオード4a,4bおよびダイオード5を経て、半導体素子1aのゲートに流れ素子電圧Vceの電圧上昇率が抑制される。こうして、半導体素子1aをゆっくりとオフさせることが可能となり、過電圧保護が可能となる。
【0013】
図1の動作波形を図2に示す。
ここで、定電圧ダイオード4aの定電圧レベルV2を、直流コンデンサ6の直流電圧Edc以上に設定すると、素子電圧Vceの最大値は変化するが、定電圧ダイオード4aの動作遅れ等により、図3のように、電流が減少し始めるEdc付近では変化なく安全動作領域Rを超えてしまう可能性があるので、定電圧ダイオード4aの定電圧レベルV2は、直流コンデンサ6の直流電圧Edc以下とする必要がある。こうすることにより、図2のように半導体素子1aの特性を十分利用したオフ状態への移行が可能となり、半導体素子1aの電圧、電流の利用率を向上させることができる。従って、4bの定電圧レベルはV1−V2ということになる。
【0014】
上記電流制限コンデンサ13は、半導体素子1aがオフされるときに充電され、オン状態に移行するとき定電圧ダイオード4a→半導体素子1a→放電用抵抗14→放電用ダイオード15のルートで放電される。つまり、半導体素子1aがオン状態に移行するときに、電流制限コンデンサ13の放電ルートは半導体素子1aのゲートを通らないので、オン状態に移行する際にスイッチング時間が延びるなど、半導体素子のスイッチングには悪影響を及ぼすことがないという利点が得られる。
【0015】
なお、上述した説明は半導体素子1aの動作についてのみ説明したが、半導体素子1bの動作についても同様である。
また本発明は上述したIGBTに限定されるものではなく、高電圧・大電流をスイッチングする半導体素子に適用することが可能である等、実用上多大なる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態を示す回路図。
【図2】図1で半導体素子が安全動作領域内で動作する場合の説明図。
【図3】図1で半導体素子が安全動作領域外で動作する場合の説明図。
【図4】インバータの一般的な例を示す回路図。
【図5】ゲート駆動回路の従来例を示す回路図。
【図6】半導体素子の安全動作領域を説明する説明図。
【符号の説明】
【0017】
1a,1b…半導体素子(IGBT)、2a,2b,5…ダイオード、3a,3b…ゲート駆動回路、4a,4b…定電圧ダイオード、6…直流コンデンサ、7…端子、9…ドライブ回路、10…正側電源、11…負側電源、12…制御信号入力端子、13…電流制限コンデンサ、14…放電用抵抗、15…放電用ダイオード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換回路を構成しオン・オフ制御される半導体素子に過電圧が印加されたときは、その過電圧保護を行なう半導体素子の駆動回路において、
定電圧レベルが、前記電力変換回路を構成する直流コンデンサの直流電圧よりも低く設定された第1の定電圧ダイオードと、この第1の定電圧ダイオードと直列に第2の定電圧ダイオードと電流制限コンデンサとの並列回路との直列回路を、前記半導体素子の制御端子と主電流が流れる一端子との間に接続し、半導体素子の過電圧保護を可能にしたことを特徴とする半導体素子の駆動回路。
【請求項2】
前記電流制限コンデンサの充電電流経路は前記半導体素子の制御端子と上記主電流が流れる別の一端子との間を通り、放電電流経路は前記半導体素子の制御端子と上記主電流が流れる別の一端子との間を通らないことを特徴とする請求項1に記載の半導体素子の駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−124643(P2010−124643A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297929(P2008−297929)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】