説明

半導体製造装置用燐分離装置

【課題】 半導体製造装置の排ガス中に含まれる燐を安全な形態として完全に除去可能な半導体製造装置用燐分離装置の提供。
【解決手段】 内部を半導体製造装置の排ガスが通るカラム11と、銅線材及びニッケル多孔質材からなり、カラム11内に充填されて排ガスと接触する充填材19と、カラム11内を燐の析出固化温度以上の温度まで加熱する電気抵抗式加熱炉17とから構成された半導体製造装置用燐分離装置9を、半導体製造装置の排ガス流路5aの下流側に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置から排出される排ガス中から燐を安全な形態で分離除去する半導体製造装置用燐分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体単結晶膜の製造に気相成長法が多く用いられている。主たる気相成長法には、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)や水素化物気相成長法(HVPE法)がある。例えばIII−V族化合物半導体の有機金属化学気相成長法では、加熱した単結晶基板上にIII族とV族の有機金属ガスを流し、水素化物気相成長法では、加熱した単結晶基板上にIII族の塩の蒸気とV族の水素化物を流し、それぞれ目的とする組成の化合物半導体単結晶膜をエピタキシャル成長させる。
【0003】
これらの気相成長法では、通常、キャリアガスの水素とともにV族原料を過剰に流す。このため、半導体製造装置の排ガス中には、未反応のV族原料、V族原料の分解生成物及び水素が多量に含まれている。V族原料としてアルシンやホスフィン等が用いられる場合には、V族原料の分解生成物には砒素(As)や燐(P)が含まれている。
【0004】
排ガス中のV族原料としてのアルシンやホスフィン及びその分解生成物は有害物質であり、燐は発火性を有するので、排ガスを除害塔に通し、V族原料及びその分解生成物を排ガス中から除去した後、排ガスを大気放散する。除害塔では、一般に、金属酸化物、金属水酸化物や塩基性金属炭酸塩が除害剤として使われており、除害剤が排ガス中のV族原料及びその分解生成物と接触し、接触したV族原料及びその分解生成物を安全な物質に化学変化させて排ガス中から除去する。例えば、水酸化第二銅を反応主成分とする除害剤と砒素又は燐を含む排ガスとを接触させて、排ガス中から砒素や燐を除去する(特許文献1を参照)。
【0005】
しかし、除害塔はV族原料であるアルシンやホスフィン等の除去に対して有効であるが、分解生成物である砒素や燐に対しては、取り扱いが容易で安全な形態での除去が難しい。すなわち、砒素や燐が除害剤の表面や除害塔内部に固着し、堆積してしまうためアルシンやホスフィン等の除去能力が早期に低下するといった課題がある。そこで、特許文献1では、排ガスをフィルタに通し、フィルタによってミスト状又は粉末状の砒素や燐を捕集した後、水酸化第二銅を反応主成分とする除害剤に排ガスを接触させる方法が提唱されている。
【0006】
多くの場合、分解生成物である燐は排ガス中で黄燐の形態をとっているため大気と接触して自然発火する危険性を有する。このため、フィルタや除害剤を交換する際、発火防止に細心の注意を払う必要があり、作業が煩雑化する。この問題に対処するため、半導体製造装置から除害塔に至る排ガス流路において、排ガス中から黄燐を安全に除去する技術が検討されている。
【0007】
かかる技術の一つとして、ホスフィンを燐蒸気に分解するために十分に高い温度まで排ガスを加熱した後、100℃より高く加熱された酸化カルシウムを収容する反応器中に排ガスを通し、反応器中の酸化カルシウムに酸素及び/又は空気を導入して燐酸カルシウムを生成させる除害方法が提唱されている(特許文献2を参照)。
【0008】
あるいは、トラップ装置内に設けられたオイル分散装置で発生させた低温オイルミストによって排ガス中の燐をオイルに析出固化して捕集し、そのオイルから燐固化物を燐固化物除去フィルタで分離除去し、再び、トラップ装置において燐析出捕集用オイルとして使用し、燐を排ガス中から除去する半導体製造装置用燐トラップ装置が提唱されている(特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開平10−99636号公報
【特許文献2】特開平7−759号公報
【特許文献3】特開2003−135926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2の除害方法には、以下の問題が存在する。通常、III−V族化合物半導体製造装置の排ガスは水素を含むため、反応器中の酸化カルシウムに酸素や空気を導入することには爆発の危険性が伴う。爆発の危険性を排除するために、酸素や空気の導入を行わないこととすると、酸化カルシウム、燐および酸素の反応生成物であるリン酸カルシウム(Ca(PO32、Ca227、Ca2(PO42など)が生成し難くなるため、燐の効率的な除去ができなくなる。
【0010】
特許文献3の半導体製造装置用燐トラップ装置には、以下の問題が存在する。半導体製造装置の排ガス中の黄燐は高い粘性を有するので、燐固化物除去フィルタが目詰まりしやすい。また、オイル中の燐固化物が黄燐であるので、燐固化物除去フィルタに捕集された黄燐を移送する際、黄燐が自然発火する危険性を完全に拭い去ることができない。
本発明は、上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、半導体製造装置の排ガス中から燐を安全な形態として完全に除去できる半導体製造装置用燐分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、その課題を解決するために以下のような構成をとる。請求項1の発明に係る半導体製造装置用燐分離装置は、半導体製造装置の排ガスが内部を通るカラムと、銅、ニッケル、コバルト又はカドミウムの線材と銅、ニッケル、コバルト又はカドミウムの多孔質材の少なくとも一方からなり、カラム内に充填されて排ガスと接触する充填材と、カラム内を燐の析出固化温度以上の温度まで加熱する加熱手段とを有する。
【0012】
請求項1の発明によると、カラム内が燐の析出固化温度以上の温度まで加熱され、カラム内で排ガス中の燐が燐蒸気となり、燐蒸気がカラム内の充填材と接触して反応し、燐化物が生成し、排ガス中から燐が分離される。
燐蒸気と反応して燐化物を生成しやすい金属には、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム)や遷移金属(チタニウム、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム)がある。アルカリ土類金属を充填材とし、アルカリ土類金属と燐蒸気とを反応させ、燐化物を生成させると、生成した燐化物が大気中の水分と迅速に反応し、有害なホスフィンを発生する。また、遷移金属を充填材として用いる場合、遷移金属表面には緻密な酸化皮膜が形成されているため、遷移金属と燐蒸気との反応が阻害される。
【0013】
しかし、遷移金属のうち銅又はニッケルを充填材とすると、その金属表面に形成されているCu2OやNiO等の酸化皮膜が排ガス中の水素によって容易に還元され、銅やニッケルの反応活性な金属表面が露出する。露出した銅やニッケルの金属表面では排ガス中の燐蒸気との反応でその金属表面に燐化銅や燐化ニッケルが生成し、排ガス中から燐が燐化物として分離される。燐化銅にはCu3P及びCuP2があるが、燐化物として排ガス中から分離される燐化銅は、主にCu3Pである。また、燐化ニッケルにはNi2P、Ni52、Ni73、Ni54、NiP2、NiP及び、Ni125があるが、燐化物として排ガス中から分離される燐化ニッケルは、主にNi2Pである。Cu3PやNi2Pは燐化銅や燐化ニッケルの中でも低級燐化物であり、大気中で分解せず、塩酸や硝酸に対しても溶解しないので、排ガス中から分離される燐は安全な形態となっている。
【0014】
遷移金属のうちコバルトは原産国の政情に影響を受ける形で価格変動が大きく価格も高いが、コバルトを充填材とすることもできる。コバルトを充填材とした場合、金属表面に形成されたCoOを主とする酸化皮膜は水素によって容易に還元され、反応活性なコバルトの金属表面が露出し、露出したコバルトの金属表面では排ガス中の燐蒸気との反応で燐化コバルトが生成し、排ガス中から燐が分離される。
【0015】
遷移金属のうちカドミウムは労働安全基準法における特定化学物質であるので取り扱いに注意を要するが、カドミウムを充填材とすることもできる。カドミウムを充填材とした場合、金属表面に形成されたCdOを主とする酸化皮膜は水素によって容易に還元され、反応活性なカドミウムの金属表面が露出し、露出したカドミウムの金属表面では排ガス中の燐蒸気との反応で燐化カドミウムが生成し、排ガス中から燐が分離される。
【0016】
充填材を線材とすることにより排ガスと適度な接触が得られると同時に、排ガスが絡み合った線材同士の隙間をスムーズに通過するため、充填材に目詰まりが生じることを抑制できる。線材の直径は特に制限しないが、細径の線材を用いた方が排ガス中の燐と充填材との反応率が高まる。しかし、線材が細径化するとコストが高くなる。したがって、費用対効果を考慮しつつ線材の直径を選定する。例えば、直径が0.1〜1mmの銅線を充填材とすれば、最適な費用対効果が図られる。また、線材の長さは特に限定しないが、短いチップ状の線材を用いるとカラム内における充填材の充填率と排ガス中の燐蒸気との接触面積が大きくなり燐分離能力は向上するが、充填材に目詰まりが生じやすい。一方、長い線材を用いると充填材をウール状の塊にでき交換作業が容易なものとなる。充填率及び排ガス中の燐蒸気との接触面積と交換作業の簡便性を総合的に考慮して、適切な線材の長さを選定する。
【0017】
多孔質材は一般的に大きな比表面積を有する一体成形物であるため交換作業が容易で、かつ、排ガス中の燐蒸気と充填材との接触面積が大きく、燐化物が多孔質材内部の孔表面にまで生成し、排ガス中から燐を効率的に除去できる。しかし、多孔質材の孔径が小さすぎると、燐化物によって多孔質材の孔が塞がれやすくなるためカラム内の圧力が上昇し、半導体製造条件が不安定になる。したがって、多孔質材の一例としてニッケルカドミウム電池の電極や空気清浄機のフィルタに用いられるニッケル発泡金属を用いる場合、比表面積が500〜1000m2/m3であることが好ましい。なお、比表面積が500〜1000m2/m3の多孔質材の孔径を単位長さ当たりのセル数で表示すると2〜3個/cmとなる。
【0018】
充填材を線材及び多孔質材の組み合わせとした場合、目詰まりの抑制と高い燐分離効率を合わせて得られる。線材と多孔質材の組み合わせ方法には特に制限を設けない。
また、多孔質材として排ガス中に微粒子捕集に適した孔径を有するものを採用することで、一般的に燐分離装置の後段に設置される微粒子除去フィルタの代替とすることも可能である。さらに、孔径の異なる数種類の多孔質材を重ね合わせて使用することで、燐分離と微粒子除去の双方の効果を高めることが可能である。
【0019】
加熱手段は、排ガス中の燐を燐蒸気とするために、カラム内を燐の析出固化温度以上の温度まで加熱可能であれば足りる。カラム内が燐の析出固化温度以上の温度であれば、燐蒸気が充填材と大きな反応速度で反応するが、カラム内が燐の析出固化温度未満であると、燐が排ガス中から析出固化し充填材との反応速度が遅くなるとともに、黄燐が充填材の表面に付着したまま残留することが考えられ、燐を安全な形態で分離できない。加熱手段として、抵抗加熱式電気炉が安価で温度制御も簡便なために最適であるが、充填材の昇温、降温を迅速に行う場合は赤外線集光加熱式電気炉が適している。
【0020】
請求項2の発明に係る半導体製造装置用燐分離装置は、請求項1記載の半導体製造装置用燐分離装置であって、多孔質材が多孔率98%以上を有する発泡金属である。
請求項2の発明によると、多孔質材には、主として焼結金属と発泡金属があるが、焼結金属は粉末を焼結して形成するのに対し、発泡金属は発泡ポリウレタンに導電処理を施した後、メッキし、次に焼成することでポリウレタンを燃焼除去することで形成する。したがって、発泡金属の多孔率は98%と高く半導体製造装置用燐分離装置の充填材として適している。
【0021】
請求項3の発明に係る半導体製造装置用燐分離装置は、請求項1又は請求項2に記載の半導体製造装置用燐分離装置であって、カラムの排ガス入口側に線材、出口側に多孔質材を充填している。
請求項3の発明によると、先ず線材で排ガス中の大部分の燐を分離し、次の多孔質材で線材では分離しきれなかった微量の燐を多孔質材の目詰まりを抑えながら分離できるので、燐の分離効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、上記のような半導体製造装置用燐分離装置であるので、半導体製造装置の排ガス中から燐を安全な形態として完全に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態を図1及び図2を参照しつつ説明する。図1は本発明に係る半導体製造装置用燐分離装置を備える半導体製造装置の排ガス流路の構成図、図2は本発明に係る半導体製造装置用燐分離装置の断面図である。
図1に示す半導体製造装置1は反応炉3を有し、アルシンとホスフィンをV族原料として化合物半導体単結晶膜を製造可能に構成されている。
【0024】
排ガス流路5aが半導体製造装置1の反応炉3から半導体製造装置用燐分離装置9まで接続されており、反応炉3と半導体製造装置用燐分離装置9との間に真空ポンプ7が設置されている。排ガス流路5a及び真空ポンプ7は加熱装置(図示せず)を有し、排ガス流路5a内及び真空ポンプ7内が燐の析出固化温度以上の温度に加熱維持されている。なお、燐の析出固化温度は、排ガスの圧力や組成によって変化するが、通常は80〜90℃程度である。
【0025】
図2に示すように、半導体製造装置用燐分離装置9はカラム11、充填材19及び電気抵抗式加熱炉17を有する。
カラム11は、透明石英製円筒のハウジング13と、ハウジング13の両端に着脱可能に装着されたステンレス鋼製のフランジ15a、15bとを有する。下端側のフランジ15aが上流側の排ガス流路5aに接続されてカラム11の排ガス入口をなし、上端側のフランジ15bが下流側の排ガス流路5bに接続されてカラム11の排ガス出口をなしている。ハウジング13とフランジ15a、15bとの間には耐熱性を有するフッ素ゴム製のパッキンが装着されている。カラム11のサイズは、排ガス中の燐の量、充填材19の量、カラム11の加熱温度に応じて、最適値を選定する。
【0026】
充填材19がカラム11内に充填されており、充填材19は銅線19aとニッケル多孔質材19bとからなる。銅線19aがフランジ15a側に充填され、ニッケル多孔質材19bがフランジ15b側に充填されている。銅線19aとして、例えば、安価な銅線スクラップを用いることができ、その直径は0.1〜1mm、長さは1〜10mで、屈曲後カラム11に挿入可能な大きさに圧縮成型したものである。ニッケル多孔質材19bとして、例えば、住友電気工業株式会社製のセルメット(登録商標)を用いることができ、その比表面積は500〜1000m2/m3である。
【0027】
電気抵抗式加熱炉17が加熱手段をなし、ハウジング13の外周を覆っており、電気抵抗式加熱炉17を開くことによりカラム11内の充填材19をハウジング13越しに観察可能に構成されている。電気抵抗式加熱炉17によって、カラム11内が燐の析出固化温度以上であり400℃以下の温度に加熱維持されている。なお、カラム11内の温度が高くなるとカラム11内を流れる排ガスの流速が早くなるので、カラム11内の温度の上限は、カラム11内における排ガスの流速及び充填材19と燐の反応速度を考慮して定められ、排ガス中の燐が充填材19と反応せずにカラム11から下流に流れることを防止できる温度とされている。また、電気抵抗式加熱炉17によって、フランジ15a、15bが燐の析出固化温度以上であって200℃以下の温度に維持されており、フランジ15a、15bの温度がハウジング13とフランジ15a、15bとの間のパッキンの耐熱温度以下となっている。フランジ15a、15bの温度を制御するためには、フランジ15a、15bを伝熱媒体を流通させることが可能な構造とし、温度制御した伝熱媒体を循環させる。
【0028】
排ガス流路5bが半導体製造装置用燐分離装置9から微粒子除去フィルタ21を通って除害塔23に接続されている。排ガス流路5bは加熱装置(図示せず)を有し、排ガス流路5b内がV族原料の析出固化温度以上の温度であり、且つ、V族原料の露点以上の温度に加熱維持されている。
除害塔23は内部に金属酸化物、金属水酸化物や塩基性金属炭酸塩からなる除害剤を有し、排ガス中のV族原料を除去可能に構成されている。
排ガス流路5cが除害塔23から大気放散設備(図示せず)まで接続されている。
【0029】
次に、作用について説明する。
まず、排ガス中からの燐の分離について説明する。
半導体製造装置1の反応炉3に、アルシン及びホスフィンのV族原料がキャリアガスの水素とともに供給される。真空ポンプ7が排ガスを反応炉3から排ガス流路5aに吸引する。排ガス中に、未反応のアルシンとホスフィン、分解生成物である砒素と燐、及び、水素が含まれており、排ガス中の燐の主成分は黄燐である。
【0030】
排ガス流路5a内及び真空ポンプ7内は燐の析出固化温度以上の温度となっているので、排ガス流路5aに吸引された排ガス中の燐は燐蒸気となり、燐が排ガス流路5a内及び真空ポンプ7内に固着、堆積することは防止されている。
排ガスが排ガス流路5aからフランジ15aを通って半導体製造装置用燐分離装置9のカラム11内に流入する。カラム11の排ガス入口であるフランジ15aは燐の析出固化温度以上であるので、燐がフランジ15aにおいて析出固化することが防止されている。
【0031】
カラム11内は燐の析出固化温度以上の温度であるので、カラム11内で排ガス中の燐は燐蒸気となっている。カラム11内に流入した排ガスは、まず、充填材19の銅線19aの間を通過する。銅線19a表面にCu2Oの酸化皮膜が形成されていても、Cu2Oは排ガス中の水素によって還元されて、銅線19aの反応活性な金属表面が排ガス中に露出した状態となっている。排ガス中の燐が銅線19aと接触して反応し、主にCu3Pからなる燐化銅が銅線19aの表面に生成し、排ガス中から燐が分離される。銅線19aを圧縮成型した充填材19には十分な隙間が存在するので、排ガスは銅線19aと反応しなかった燐とともに銅線19a同士の間を通ってニッケル多孔質材19bまで流れる。
【0032】
ニッケル多孔質材19bの表面に薄いNiOの酸化皮膜が形成されているが、NiOは排ガス中の水素によって容易に還元されて、ニッケル多孔質材19bの反応活性な金属表面が排ガス中に露出した状態となっている。銅線19aと反応せず排ガス中に残存する燐がニッケル多孔質材19bと接触して反応し、主にNi2Pからなる燐化ニッケルがニッケル多孔質材19bの孔表面に生成し、排ガス中に残存していた燐が排ガス中から分離される。銅線19a及びニッケル多孔質材19bによって燐を分離された排ガスはカラム11の排ガス出口であるフランジ15bを通って排ガス流路5bに流れる。
【0033】
カラム11内の温度は、カラム11内における排ガスの流速及び充填材19と燐の反応速度を考慮して定められ、排ガス中の燐が充填材19と反応せずにカラム11から下流に流れることを防止できる温度に制御しているので、排ガス中の燐はすべて銅線19a又はニッケル多孔質材19bと反応し分離される。したがって、フランジ15bを通って排ガス流路5bに流れる排ガス中に燐は含まれていない。
【0034】
排ガス流路5bに流れた排ガスは、微粒子除去フィルタ21を通って除害塔23に流れる。排ガス流路5b及び微粒子除去フィルタ21内は、V族原料の分解生成物である燐の析出固化温度以上の温度であり、且つ、V族原料の露点以上の温度となっているので、排ガス中の未反応のホスフィンが排ガス流路5b内及び微粒子除去フィルタ21において析出固化したり凝縮したりすることはない。また、排ガス中から燐が既に分離されているので、排ガス流路5b内及び微粒子除去フィルタ21に燐が固着、堆積することもない。
排ガスが微粒子除去フィルタ21を通ると、原料の反応生成物や分解生成物である微粒子は捕集分離される。
【0035】
微粒子除去フィルタ21を通った排ガスは除害塔23に流入し、排ガス中からホスフィンが除害塔23の除害剤によって除去される。したがって、除害塔23を通った排ガス中にホスフィンは含まれていない。また、排ガス中から燐が既に分離されているので、除害塔23内に燐が固着、堆積することもない。
除害塔23を通った排ガスは排ガス流路5cに流れ、大気放散設備から大気放散される。大気放散される排ガス中から、有害なホスフィン、砒素及び燐が除去されているので、環境に負荷を与えない。
【0036】
次に、半導体製造装置用燐分離装置9のメンテナンスについて説明する。
銅線19aが燐と反応すると金属光沢を有する褐色から銀色に変化し、ニッケル多孔質材19bが燐と反応すると金属光沢を有する銀色から灰色に変化する。したがって、電気抵抗式加熱炉17を開き、透明石英製のハウジング13越しにカラム11内の銅線19a及びニッケル多孔質材19bの表面の色を観察することによって、充填材19の交換時期を判断できる。
【0037】
銅線19a及びニッケル多孔質材19bを交換する際は、大気中でハウジング13からフランジ15a、15bを取り外し、使用済みの銅線19a及びニッケル多孔質材19bを取り出す。そして、新たな銅線19a及びニッケル多孔質材19bを充填してからフランジ15a、15bを取り付ける。
使用済みの銅線19a及びニッケル多孔質材19bとともに取り出される燐は、大気中で安全な形態のCu3PやNi2Pである。したがって、充填材19の交換を大気中で行っても、使用済みの銅線19a及びニッケル多孔質材19bが自然発火するおそれはなく、充填材19の交換作業が安全且つ容易なものとなる。
【0038】
排ガス流路5a及び真空ポンプ7内には燐が固着したり堆積したりせず、半導体製造装置用燐分離装置9内で充填材19と反応した燐は安全な形態のCu3PやNi2Pとなっており、排ガス流路5bから下流側には燐が流れないので、排ガス流路5a、真空ポンプ7、半導体製造装置用燐分離装置9、排ガス流路5b、微粒子除去フィルタ21及び除害塔23を大気開放してメンテナンスしても、黄燐の自然発火という問題がない。したがって、これらの各機器のメンテナンス作業が安全且つ容易なものとなる。
【0039】
なお、本実施の形態において、カラム11のハウジング13が透明石英製であり、黄燐とハウジング13が反応することが防止されているが、代わりに、強固な酸化皮膜を表面に有するステンレス鋼によってハウジング13を形成し、300℃未満の高温条件下で用いることが可能である。しかし、この場合はハウジング13の外側から銅線19a及びニッケル多孔質材19bの色の変化を観察できないだけでなく、赤外線集光加熱式電気炉を用いて赤外線を充填材19に直接照射することができなくなる。
また、フランジ15a、15bを燐の析出固化温度以上であって200℃以下の温度に維持しているが、電気抵抗式加熱炉17の輻射が大きくフランジ15a、15bの温度が200℃を超えてしまう場合には、ハウジング13の長さを長くするか、電気抵抗式加熱炉17の長さを短くすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る半導体製造装置用燐分離装置を備える半導体製造装置の排ガス流路の構成図である。
【図2】本発明に係る半導体製造装置用燐分離装置の断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 半導体製造装置
3 反応炉
5a、5b、5c 排ガス流路
7 真空ポンプ
9 半導体製造装置用燐分離装置
11 カラム
13 ハウジング
15a、15b フランジ
17 電気抵抗式加熱炉
19 充填材
19a 銅線
19b ニッケル多孔質材
21 微粒子除去フィルタ
23 除害塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造装置の排ガスが内部を通るカラムと、
銅、ニッケル、コバルト又はカドミウムの線材と銅、ニッケル、コバルト又はカドミウムの多孔質材の少なくとも一方からなり、カラム内に充填されて排ガスと接触する充填材と、
カラム内を燐の析出固化温度以上の温度まで加熱する加熱手段とを有することを特徴とする半導体製造装置用燐分離装置。
【請求項2】
多孔質材が多孔率98%以上を有する発泡金属であることを特徴とする請求項1記載の半導体製造装置用燐分離装置。
【請求項3】
カラムの排ガス入口側に線材、出口側に多孔質材を充填したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体製造装置用燐分離装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−110467(P2006−110467A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300410(P2004−300410)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】