説明

半導電性芳香族アミド酸組成物及びそれを用いた半導電性無端管状ポリイミドフイルムの製造方法

【課題】本発明は、従来の半導電性ポリイミドフィルムに比べ電気抵抗率の均質性に優れた高品位の半導電性ポリイミドフィルム、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】2種以上の芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを重縮合反応して得られる芳香族アミド酸オリゴマー、導電性カーボンブラック、及び有機極性溶媒を含有してなる半導電性芳香族アミド酸組成物及びその製造方法、並びに該芳香族アミド酸組成物を回転成形して、100℃〜190℃程度の温度で加熱処理することを特徴とする半導電性無端管状ポリイミドフイルムの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導電性芳香族アミド酸組成物及びそれを用いた半導電性の無端管状ポリイミドフイルムの製造方法に関する。また、該製造方法により得られる半導電性の無端管状ポリイミドフイルムは、例えば電子写真方式の中間転写ベルトとして使用される。
【背景技術】
【0002】
管状ポリイミドフイルムに導電性カーボンブラックを混合分散して半導電性を付与したものが、複写機、プリンター、ファクシミリ、印刷機用の中間転写ベルトとして使用されている。
【0003】
この半導電性管状ポリイミドフイルムの成形原料は、ポリイミドのポリマ前駆体である高分子量(数平均分子量は通常10000〜30000程度)のポリアミド酸(或いはポリアミック酸)溶液が用いられている。
【0004】
半導電性管状ポリイミドフイルムの成形方法としては、上記の成形原料と導電性カーボンブラックを含む組成物を用いて一旦フラット状のフイルムに成形した後このフイルムの両端を繋いで管状に加工する方法や、遠心注型によって一挙に無端の管状フイルムに成形する方法などが知られている。また、この遠心注型を実質的無遠心力下で成形する方法も、例えば本願出願人による特許文献1に記載されている。
【0005】
上記のポリアミド酸溶液は、具体的には例えば、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等の点対称位置に酸無水物基を結合する芳香族テトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ジアミンとの等モル量を、有機極性溶媒中でイミド化しない程度の低温で重縮合反応させて製造されている。
【0006】
しかし、上記の成形方法で得られるポリアミド酸溶液にはポットライフがあるため、保存により徐々に部分的ゲル化が起こり易いという欠点がある。このゲル化は、温度が高い程進行し易いが低温でも経時的に進行し、ゲル化が極微量あっても最終物であるポリイミドフイルムの物性に悪影響を与えることは勿論、平面性の悪化も招いてしまう。これが、導電性カーボンブラックを混合した該フイルムにあっては、電気抵抗のバラツキの増大にまで及んでしまう。
【0007】
また、ポリアミド酸樹脂は有機極性溶媒に対する溶解性に限度があり、高濃度化ができない(溶液中の不揮発分濃度としてせいぜい25重量%まで)という欠点もある。低濃度ポリアミド酸溶液では、一度により厚いフイルムを成形することが困難であることと、多くの該溶媒を必要とするとともにその蒸発除去に多くの時間を必要とする。
【0008】
ところで、前記のポリアミド酸溶液からのポリイミドフイルム成形に対して、新たな原料組成物を用いた成形方法が特許文献2に記載されている。これは、点対称性の例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に替えて、非対称性の芳香族テトラカルボン酸(具体的には2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸又はそのエステルを主成分(60モル%以上)とする芳香族テトラカルボン酸成分)と芳香族ジアミン成分(例えば4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを主成分とする)との等モルを
混合したモノマを主とする溶液組成物を用いる成形方法である。そして、特許文献2には、該溶液組成物をガラス板に塗布流延して加熱(80〜350℃の間で階段的に昇温)してフラットフイルム成形に供する方法、銀粉、銅粉、カーボンブラック等を混合して耐熱導電ペーストに供する方法が開示されている。
【0009】
しかし、上記の特許文献2には、出発原料(モノマ)を一旦アミド酸オリゴマーに変換した後ポリイミドフイルムに成形する方法について一切開示はない。しかも、上記の成形方法で得られる半導電性ポリイミドフイルムは、近年高い精度が求められるトナー複写機の中間転写ベルト等に用いる場合、電気抵抗等の特性において更なる改善の余地がある。
【特許文献1】特開2000−263568号公報
【特許文献2】特開平10−182820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、従来の半導電性ポリイミドフィルムに比べ、電気抵抗率の均質性に優れた高品位の半導電性ポリイミドフィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミンを加熱処理して、実質的に一部を重縮合させ一旦芳香族アミド酸オリゴマー(数平均分子量が1000〜7000程度の芳香族アミド酸)を含む混合溶液とし、これに導電性カーボンブラックを混合した後、回転成形し続いてイミド化処理することにより、均質な電気抵抗率を有する半導電性ポリイミドフィルムが得られることを見出した。この知見に基づいてさらに発展させることにより本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の半導電性芳香族アミド酸組成物、それを用いた半導電性無端管状ポリイミドフイルム及びその製造方法を提供する。
【0013】
項1. 2種以上の芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミンとの略等モル量を重縮合反応して得られる芳香族アミド酸オリゴマー、カーボンブラック、及び有機極性溶媒を含有してなる半導電性芳香族アミド酸組成物。
【0014】
項2. 前記芳香族アミド酸オリゴマーが、2種以上の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの略等モル量を有機極性溶媒中80℃程度以下の温度で重縮合反応して得られる芳香族アミド酸オリゴマーである項1に記載の半導電性芳香族アミド酸組成物。
【0015】
項3. 2種以上の芳香族テトラカルボン酸二無水物が、非対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物15〜55モル%と対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物85〜45モル%とからなる混合物である項2に記載の半導電性芳香族アミド酸組成物。
【0016】
項4. 前記芳香族アミド酸オリゴマーが、2種以上の芳香族テトラカルボン酸ジエステルと芳香族ジアミンとの略等モル量を有機極性溶媒中90〜120℃程度の温度で重縮合反
応して得られる芳香族アミド酸オリゴマーである項1に記載の半導電性芳香族アミド酸組成物。
【0017】
項5. 2種以上の芳香族テトラカルボン酸ジエステルが、非対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステル15〜55モル%と対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステル85〜45モル%とからなる混合物である項4に記載の半導電性芳香族アミド酸組成物。
【0018】
項6. 前記芳香族アミド酸オリゴマーの数平均分子量が1000〜7000程度である項1〜5のいずれかに記載の半導電性芳香族アミド酸組成物。
【0019】
項7. カーボンブラックの配合量が、芳香族テトラカルボン酸成分と有機ジアミンの合計量100重量部に対し、3〜30重量部程度である項1〜6のいずれかに記載の半導電性芳香族アミド酸組成物。
【0020】
項8. 項1〜7のいずれかに記載の半導電性芳香族アミド酸組成物を回転成形し、加熱処理することを特徴とする半導電性無端管状ポリイミドフイルムの製造方法。
【0021】
項9. 項8に記載の製造方法により製造される、電子写真方式の中間転写ベルトに用いられる半導電性無端管状ポリイミドフイルム。
【0022】
項10. 表面電気抵抗率の対数換算値の標準偏差が0.2以内であり、体積電気抵抗率
の対数換算値の標準偏差が0.2以内であり、表面電気抵抗率の対数換算値と裏面電気抵抗
率の対数換算値との差が0.4以内である項9に記載の半導電性無端管状芳香族ポリイミド
フイルム。
【0023】
項11. 有機極性溶媒中で2種以上の芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミンとの略等モル量を一部縮重合反応して芳香族アミド酸オリゴマー(数平均分子量1000〜7000程度の芳香族アミド酸)溶液とし、これと導電性カーボンブラック粉体とを均一混合することを特徴とする半導電性芳香族アミド酸組成物の製造方法。
【0024】
以下、本発明を詳述する。
【0025】
本発明の半導電性無端管状ポリイミドフイルム(以下、「半導電性管状PIフィルム」とも呼ぶ)は、芳香族アミド酸オリゴマー、導電性カーボンブラック(以下、「CB」とも呼ぶ)及び極性有機溶剤を含む半導電性芳香族アミド酸組成物を、回転成形してイミド化処理することにより製造される。
I.半導電性芳香族アミド酸組成物
本発明の半導電性芳香族アミド酸組成物は、有機極性溶媒中で、2種以上の芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミンとの略等モル量を、一部縮重合反応して芳香族アミド酸オリゴマー(数平均分子量1000〜7000程度の芳香族アミド酸)溶液とし、これと導電性カーボンブラック粉体とを均一混合して調製される。
(1)芳香族テトラカルボン酸成分
成形原料である2種以上の芳香族テトラカルボン酸成分としては、非対称性芳香族テトラカルボン酸誘導体の少なくとも1種と対称性芳香族テトラカルボン酸誘導体の少なくとも1種との混合物が用いられる。
【0026】
非対称性芳香族テトラカルボン酸誘導体
本発明において非対称性芳香族テトラカルボン酸誘導体としては、非対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物又は非対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステル(ハーフエステル)が挙げられる。
【0027】
ここで、非対称性芳香族テトラカルボン酸とは、単環若しくは多環の芳香環(ベンゼン核、ナフタレン核、ビフェニル核、アントラセン核等)に4個のカルボキシル基が点対象でない位置に結合した化合物、或いは2個の単環芳香環(ベンゼン核等)が−CO−、−CH2−、−SO2−等の基又は単結合で架橋された化合物に4個のカルボキシル基が点対象でない位置に結合した化合物が挙げられる。
【0028】
非対称性芳香族テトラカルボン酸の具体例としては、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0029】
本発明で用いられる非対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、上記の非対称性芳香族テトラカルボン酸の二無水物が挙げることができ、具体的には上記の非対称性芳香族テトラカルボン酸において芳香環上の隣接するカルボキシル基同士で2個の酸無水物を形成している化合物が挙げられる。中でも、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が好ましく、特に2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましく使用される。
【0030】
本発明で用いられる非対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステル(ハーフエステル)としては、上記の非対称性芳香族テトラカルボン酸のジエステル(ハーフエステル)を挙げることができ、具体的には、上記非対称性芳香族テトラカルボン酸の4個のカルボキシル基のうち2個のカルボキシル基がエステル化されており、かつ芳香環上の隣接する2個のカルボキシル基の一方がエステル化された化合物が挙げられる。
【0031】
上記非対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステルにおける2個のエステルとしては、ジ低級アルキルエステル、好ましくはジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル等のジC1-3アルキルエステル(特に、ジメチルエステル)が挙げられる。
【0032】
上記対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステルのうち、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチルエステル、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジエチルエステルが好ましく、特に、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチルエステルが好ましく使用される。
【0033】
なお、上記対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステルは、市販又は公知の方法により製造することができる。例えば、対応する対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物1に対し、対応するアルコール(低級アルコール、好ましくはC1-3アルコール等)2(モル比)
を反応させる等の公知の方法により容易に製造することができる。これにより、原料の酸無水物がアルコールと反応して開環して、芳香環上の隣接する炭素上にそれぞれエステル基とカルボキシル基を有するジエステル(ハーフエステル)が製造される。
【0034】
対称性芳香族テトラカルボン酸誘導体
本発明において対称性芳香族テトラカルボン酸誘導体としては、対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物又は対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステル(ハーフエステル)が挙げられる。
【0035】
ここで、対称性芳香族テトラカルボン酸とは、単環若しくは多環の芳香環(ベンゼン核、ナフタレン核、ビフェニル核、アントラセン核等)に4個のカルボキシル基が点対称な位置に結合した化合物、或いは2個の単環芳香環(ベンゼン核等)が−CO−、−O−、−CH2−、−SO2−等の基又は単結合で架橋された化合物に4個のカルボキシル基が点対称な位置に結合した化合物が挙げられる。
【0036】
対称性芳香族テトラカルボン酸の具体例としては、1,2,4,5−ベンゼンテトラカ
ルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0037】
本発明で用いられる対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、上記対称性芳香族テトラカルボン酸の二無水物を挙げることができ、具体的には上記の対称性芳香族テトラカルボン酸において隣接するカルボキシル基同士で2個の酸無水物を形成する化合物が挙げられる。中でも1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましく、特に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましく使用される。これは得られるフイルムの強度形成上等の点で好ましく作用するからである。
【0038】
本発明で用いられる対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステル(ハーフエステル)としては、上記の非対称性芳香族テトラカルボン酸のジエステル(ハーフエステル)を挙げることができ、具体的には、上記対称性芳香族テトラカルボン酸の4個のカルボキシル基のうち2個のカルボキシル基がエステル化されており、かつ芳香環上の隣接する2個のカルボキシル基の一方がエステル化された化合物が挙げられる。
【0039】
上記対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステルにおける2個のエステルとしては、ジ低級アルキルエステル、好ましくはジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル等のC1-3アルキルエステル(特に、ジメチルエステル)が挙げられる。
【0040】
上記対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステルのうち、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチルエステル、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジエチルエステル、2,3,5,6−ベンゼンテトラカルボン酸ジメチルエステルが好ましく、特に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチルエステル、が好ましく使用される。
【0041】
なお、上記対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステルは、市販又は公知の方法により製造することができる。例えば、対応する対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物1に対し、対応するアルコール(低級アルコール、好ましくはC1-3アルコール等)2(モル比)
を反応させて容易に製造することができる。これにより、原料の酸無水物がアルコールと反応して開環して、芳香環上の隣接する炭素上にそれぞれエステル基とカルボキシル基を有するジエステル(ハーフエステル)が製造される。
【0042】
混合比
非対称性及び対称性の芳香族テトラカルボン酸誘導体の混合比は、非対称性芳香族テトラカルボン酸誘導体が15〜55モル%(好ましくは20〜50モル%)程度であり、対称性芳香族テトラカルボン酸誘導体が85〜45モル%(好ましくは80〜50モル%)程度で特定される。特に、非対称性及テトラカルボン酸二無水物を20〜50モル%程度、対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物を80〜50モル%程度用いるのが好適である。
【0043】
なお、前記の対称性及び非対称性の芳香族テトラカルボン酸成分を配合することを必須とするのは、次の理由による。対称性の芳香族テトラカルボン酸誘導体のみでは、ポリイミドフイルムが結晶性を発現するため加熱処理中に被膜が粉化してしまいフイルム化することが出来ない。一方、非対称性の芳香族テトラカルボン酸誘導体のみでは、無端管状PIフイルムとして成形はされるが、得られた該フイルムの降伏強度と弾性率が弱く、回転ベルトとして使用した場合、駆動での応答性が悪いだけでなく、初期の段階でベルト伸び
が発生してしまうなどの問題がある。
【0044】
これに対し、上記混合比からなる芳香族テトラカルボン酸誘導体を使用すると、極めて高い製膜性(成形性)が可能であり、しかも高い降伏強度と弾性率を有する半導電性の無端管状PIフイルムが得られる。
【0045】
また、非対称性芳香族テトラカルボン酸誘導体を添加することによりポリアミド酸分子が曲がって、フレキシブル性が生まれると考えられる。
【0046】
そして、前記の対称性と非対称性の芳香族テトラカルボン酸誘導体の共存効果は、両者が前記に示した混合比の場合に最も有効に発揮される。
(2)芳香族ジアミン
芳香族ジアミンとしては、1つの芳香環上に2個のアミノ基を有する化合物、又は2つ以上の芳香環(ベンゼン核等)が−O−、−S−、−CO−、−CH2−、−SO−、−
SO2−等の基若しくは単結合で架橋された2個のアミノ基を有する化合物が挙げられる
。具体的には、例えば、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’―ジアミノジフェニルエーテル、4,4’―ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’―ジアミノジフェニルカルボニル、4,4’―ジアミノジフェニルメタン、1,4―ビス(4―アミノフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。中でも、4,4’―ジアミノジフェニルエーテルが特に好ましい。これらの芳香族ジアミンを用いることにより、反応がより円滑に進行すると共に、より強靭かつ高い耐熱性のフイルムを製造することができるからである。
(3)有機極性溶媒
用いる有機極性溶媒としては、非プロトン系有機極性溶媒が好ましく、例えばN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と呼ぶ。)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が使用される。これらのうちの1種又は2種以上の混合溶媒であってもよい。特に、NMPが好ましい。有機極性溶媒の使用量は、原料の芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミンの合計量100重量部に対し、100〜300重量部程度(好ましくは、150〜250重量部程度)になるよう
に決めればよい。製造される芳香族アミド酸オリゴマーは、上記有機極性溶媒に比較的溶解しやすい為、使用する溶媒の量を極力低減できるというメリットがある。
(4)芳香族アミド酸オリゴマー溶液の調製
上記の2種以上の混合芳香族テトラカルボン酸成分及び有機ジアミン成分を有機極性溶媒中で一部を縮重合反応して、芳香族アミド酸オリゴマー(数平均分子量1000〜7000程度)を調製する方法を、以下例示する。
【0047】
第1の芳香族アミド酸オリゴマーの調製方法として、2種以上の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの略等モル量を有機極性溶媒中80℃程度以下の温度で重縮合反応することにより、芳香族アミド酸オリゴマー(数平均分子量1000〜7000程度)を製造することができる。
【0048】
具体的には、非対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物15〜55モル%(好ましくは20〜50モル%)程度と対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物85〜45モル%(好ましくは80〜50モル%)程度とからなる混合物を縮重合反応に供する。有機極性溶媒は、上述のものが採用され、特にNMPが好ましい。
【0049】
反応温度を80℃程度以下としたのは、芳香族アミド酸オリゴマーを形成するときにイミド化反応が起こるのを抑制するためである。より好ましい反応温度は30〜70℃である。反応温度が80℃を越えると、イミド化反応によってポリイミドが形成され易くなる
ので好ましくない。反応時間は、反応温度等により変化するが、通常数時間〜72時間程度である。なお、芳香族アミド酸オリゴマーの分子量の調節は、公知のいずれの方法を用いても構わない。例えば、芳香族テトラカルボン酸成分/芳香族ジアミンのモル比を0.5〜0.95で重合して所定の分子量の芳香族アミド酸オリゴマーを形成した後で、必要に応じて芳香族テトラカルボン酸成分/芳香族ジアミンが略等モルになるように芳香族テトラカルボン酸成分を添加する方法(特公平1−22290号公報参照)や、芳香族テトラカルボン酸成分/芳香族ジアミンを略等モルで反応するに際して、水のような高分子量化を抑制する化合物を所定量共存させる方法(特公平2−3820号公報参照)等により、好適に行うことができる。
【0050】
第2の芳香族アミド酸オリゴマーの調製方法として、2種以上の芳香族テトラカルボン酸ジエステルと芳香族ジアミンとの略等モル量を、有機極性溶媒中90〜120℃程度の温度
で縮重合反応することにより、芳香族アミド酸オリゴマー(数平均分子量1000〜7000程度)を製造することができる。
【0051】
具体的には、非対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステル15〜55モル%(好ましくは20〜50モル%)程度と対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステル85〜45モル%(好ましくは80〜50モル%)程度とからなる混合物を縮重合反応に供する。有機極性溶媒は、上述のものが採用され、特にNMPが好ましい。
【0052】
所望の分子量を有する芳香族アミド酸オリゴマーを調整するためには、その反応温度と反応時間が密接に関連する。加熱温度は、通常90〜120℃程度であればよいが、反応温度
が高温域にある場合は、イミド体の生成量(イミド化率)や高分子量化を抑えるために反応時間を短くするのが好ましい。また、加熱処理は、所定温度まで徐々に昇温していき、所定温度で1〜3時間程度反応させて、その後冷却すればよい。例えば、1時間〜4時間程度かけて90〜120℃程度に昇温し、同温度で30分〜2時間程度反応させて冷却すればよい。
【0053】
上記第1及び第2の調製方法において、略等モル量とは、所定のオリゴマー程度の芳香族アミド酸を調製でき、ひいては目的とする半導電性管状PIフィルムが得られる反応比を意味する。なお、両成分を有機極性溶媒に均一に溶解させる場合に、必要に応じ加熱(例えば、40〜70℃程度)してもよい。
【0054】
上記第1及び第2の調製方法により芳香族アミド酸オリゴマー溶液が調製されるが、その数平均分子量(Mn)は、1000〜7000程度(好ましくは3000〜7000程度)に調製される。この範囲に特定する意義は、数平均分子量が1000以下(すなわち、モノマー、バイマー程度)では導電特性への効果が得られないからであり(例えば、比較例1)、数平均分子量が7000以上ではオリゴマーの溶解度が極度に低下するため溶液がゲル化するなどして使用できなくなってしまうからである(例えば、比較例3を参照)。なお、数平均分子量は、例えば、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0055】
本発明の数平均分子量(Mn)が1000〜7000程度に調製された芳香族アミド酸オリゴマーは、通常は重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)が2以下である。
【0056】
この加熱処理により製造される芳香族アミド酸オリゴマー溶液は、主成分は芳香族アミド酸オリゴマーであるが、その一部がさらに反応が進行したイミド化されたもの等を含有していてもよい。しかし、芳香族アミド酸オリゴマー中のイミド体の生成率(イミド化率)は、30%以下、好ましくは25%以下、特に20%以下であることが好ましい。なお、副生するイミド体の生成量(イミド化率)は、例えば、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0057】
また、芳香族アミド酸オリゴマー溶液中の不揮発分濃度を、30〜45重量%程度の高い濃度に調製することができる。このように高い不揮発分濃度に調製できるのは、高分子量化していないオリゴマーであるために溶媒に溶解しやすいからである。そのため、容易に膜厚のあるフィルムを製造することができ、使用する溶媒の量が少ないためコストが抑えられ溶媒の蒸発除去が簡便になる。なお、本明細書で用いる「不揮発分濃度」とは、実施例1に記載の方法により測定された濃度を意味する。
(5)半導電性芳香族アミド酸組成物の調製
かくして得られる芳香族アミド酸オリゴマー溶液は、導電性CB粉体と均一に混合されて、半導電性芳香族アミド組成物が調製される。
【0058】
電気抵抗特性付与のためにCB粉体が使用される理由は、他の一般に知られている金属や金属酸化物の導電材と比較して)調製されたモノマ混合溶液との混合分散性と安定性(混合分散後の経時変化)に優れ、且つ重縮合反応への悪影響がないことによる。
【0059】
このCB粉体は、その製造原料(天然ガス、アセチレンガス、コ−ルタ−ル等)と製造条件(燃焼条件)とによって種々の物性(電気抵抗、揮発分、比表面積、粒径、PH値、DBP吸油量等)を有したものがある。可能なかぎり少量の混合分散でもって、所望する電気抵抗がバラツクこともなく、安定して得られ易いものを選ぶのが良い。
【0060】
この導電性CB粉体は、通常平均粒子径が15〜65nm程度であり、特にトナー複写機、カラー複写機、電子写真方式等の中間転写用ベルト用フィルム用途に用いる場合、平均粒子径20〜40nm程度のものが好適である。
【0061】
例えば、チャンネルブラック、酸化処理したファーネスブラック等が挙げられる。具体的には、デグサ社製のスペシャルブラック4(PH3、揮発分14%、粒子径25nm)やスペシ
ャルブラック5(PH3、揮発分15%、粒子径20nm)などが例示される。
【0062】
CB粉体を芳香族アミド酸オリゴマー溶液に混合する方法は、CB粉体が芳香族アミド酸オリゴマー溶液中に均一に混合、分散される方法であれば特に制限はない。例えば、ボールミル、サンドミル、超音波ミル等が用いられる。
【0063】
添加されるCB粉体の量は、芳香族アミド酸オリゴマーの原料である芳香族テトラカルボン酸成分と有機ジアミンの合計量100重量部に対し、3〜30重量部程度(好ましくは10〜25重量部程度)用いるのが好ましい。
【0064】
ここでCB粉体を上記の範囲で用いるのは、フィルムに半導電領域にある体積抵抗率(VR)及び表面抵抗率(SR)を付与するためである。なお、下限が3重量部程度以上で
あるのは十分な導電性を得るためにはこの程度の量が必要であるためであり、上限が30重量部程度以下であるのは、より低い抵抗を発現するとともに、成形性を維持しフイルム自身の物性の低下を防ぐためである。
【0065】
半導電性芳香族アミド酸組成物における不揮発分濃度は、30〜45重量%程度であり、該不揮発分中のCB粉体の濃度は3〜25重量%程度(好ましくは10〜20重量%程度)、芳香
族アミド酸オリゴマー由来の不揮発分の濃度は75〜97重量%程度(好ましくは80〜90重量%程度)含有する。
【0066】
なお、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で、上記組成物中にイミダゾール系化合物(2-メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2-メチル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール)、界面活性剤(フッ素系
界面活性剤等)等の添加剤を加えてもよい。
【0067】
かくしてCB粉体が均一に分散された成形用の半導電性芳香族アミド酸組成物が製造される。
II.半導電性無端管状ポリイミドフイルム
次に、前記調製された半導電性芳香族アミド酸組成物を使った半導電性無端管状ポリイミドフイルムの成形手段について説明する。
【0068】
この成形手段は、回転ドラムを使う回転成形方法が採用される。まず半導電性芳香族アミド酸組成物を回転ドラムの内面に注入し、内面全体に均一に流延する。
【0069】
注入・流延の方法は、例えば停止している回転ドラムに、最終フイルム厚さを得るに相当する量の半導電性芳香族アミド酸組成物を注入した後、遠心力が働く速度にまで徐々に回転速度を上げる。遠心力でもって内面全体に均一に流延する。或いは注入・流延は遠心力を使わなくてもできる。例えば、横長のスリット状のノズルを回転ドラム内面に配置し、該ドラムをゆっくりと回転しつつ、(その回転速度よりも速い速度で)該ノズルも回転する。そして成形用の半導電性芳香族アミド酸組成物を該ノズルから該ドラム内面に向って全体に均一に噴射する方法である。
【0070】
尚、いずれの方法も回転ドラムは、内面が鏡面仕上げされ、両端縁には、液モレ防止のためのバリヤーが周設される。該ドラムは、回転ローラ上に載置し、該ローラの回転により間接的に回転が行われる。
【0071】
また加熱は、該ドラムの周囲に例えば遠赤外線ヒータ等の熱源が配置され外側からの間接加熱が行われる。また該ドラムの大きさは、所望する半導電管状PIフイルムの大きさにより決まる。
【0072】
加熱は、ドラム内面を徐々に昇温し、まず100〜190℃程度、好ましくは110℃〜130℃程度に到達せしめる(第1加熱段階)。昇温速度は、例えば、1〜2℃/min程度であればよい。上記の温度で1〜2時間維持し、およそ半分以上の溶剤を揮発させて自己支持性のある管状フイルムを成形する。イミド化を行うためには280℃以上の温度まで達する必要が
あるが、最初からこのような高温で加熱するとポリイミドが高い結晶化を発現し、CBの分散状態に影響を与えるだけでなく、強靭な被膜が形成されないなどの問題がある。そのため、第1加熱段階として、せいぜい上限温度を190℃程度に押え、この温度で重縮合反
応を終了させて強靭な管状PIフイルムを得る。
【0073】
この段階が終了したら次に第2段階加熱としてイミド化を完結するため加熱を行うが、その温度は280〜400℃程度(好ましくは300〜380℃程度)である。この場合も、第1段階加熱温度から一挙にこの温度に到達するのではなく、徐々に昇温して、その温度に達するようにするのが良い。
【0074】
なお、第2段階加熱は、無端管状フイルムを回転ドラムの内面に付着したまま行っても良いし、第1加熱段階を終わったら、回転ドラムから無端管状フイルムを剥離し、取出して別途イミド化のための加熱手段に供して、280〜400℃に加熱してもよい。このイミド化の所用時間は、通常約2〜3時間程度である。従って、第1及び第2加熱段階の全工程の所要時間は、通常4〜7時間程度となる。
【0075】
かくして本発明の半導電性無端管状PIフイルムが製造される。このフィルムの厚みは特に限定はないが、通常50〜150μm程度、好ましくは60〜120μm程度である。特に、電子写真方式の中間転写ベルトとして用いる場合は、75〜100μm程度が好ましい。
【0076】
このフィルムの半導電性は、体積抵抗率(Ω・cm)(以下、「VR」と呼ぶ。)と表面抵抗率(Ω/□)(以下、「SR」と呼ぶ。)との両立によって決まる電気抵抗特性で
あり、この特性は、CB粉体の混合分散により付与される。そしてこの抵抗率の範囲は、基本的には該CB粉体の混合量によって自由に変えられる。本発明のフィルムにおける抵抗率の範囲としては、VR:102〜1014、SR:103〜1015であり、好ましい範囲としては、VR:106〜1013、SR:107〜1014が例示できる。これらの抵抗率の範囲は、上述のCB粉体の配合量を採用することにより容易に達成することができる。なお、本発明のフィルム中におけるCBの含有量は、通常3〜25重量%程度、好ましくは10
〜20重量%程度となる。
【0077】
本発明の半導電性PIフィルムは、極めて均質な電気抵抗率を有している。すなわち、本発明の半導電性PIフィルムは、表面抵抗率SR及び体積抵抗率VRの対数換算値のバラツキが小さいという特徴を有し、それぞれフィルム内全測定点の対数換算値の標準偏差が0.2以内、好ましくは、0.15以内である。また、フィルム表面と裏面の表面抵抗率(対
数換算値)の差が小さいという特徴を有し、その差は0.4以内、好ましくは0.2以内である。さらに、表面抵抗率の対数換算値LogSRから体積抵抗率の対数換算値LogVRを引いた値が、1.0〜3.0、好ましくは1.3〜3.0と高い値に維持できるという特徴を備えている。
【0078】
本発明のPIフィルムが上記の優れた電気的特性を有するのは、該フィルムの製造工程で、「芳香族アミド酸オリゴマー」とCB粉体とが混合された半導電性芳香族アミド酸組成物を採用しているためであると考えられる。すなわち、該組成物ではCB粉体が芳香族アミド酸オリゴマー中に均一に分散しているが、フィルム製造工程においてその均一分散性を保持したま高分子量化することができるため、本発明のPIフィルムには優れた特性が付与されたと考えられる。
【0079】
本発明のPIフィルムはその優れた電気抵抗特性等の機能によって、その用途は多岐にわたる。例えば、帯電特性を必要とする重要な用途として、カラー複写機、トナー複写機、電子写真方式等の中間転写ベルト等が挙げられる。該ベルトとして必要な半導電性(抵抗率)は、例えばVR109〜1012、SR1010〜1013であり、本発明の半導電性無
端管状PIフィルムを好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0080】
本発明の半導電性ポリイミドフィルムは、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを重縮合して得られる所定の芳香族アミド酸オリゴマーを成形原料として用いているため、均質な電気抵抗率を有している。すなわち、本発明の半導電性ポリイミドフィルムは、表面抵抗率及び体積抵抗率のバラツキが小さい、またフィルム表面と裏面の表面抵抗率(対数換算値)の差が小さい、さらに表面抵抗率の対数換算値LogSRから体積抵抗
率の対数換算値LogVRを引いた値を高い値(1.0〜3.0)に維持できるという優れた特性を
備えている。すなわち、例えば転写ベルト等として使用した場合、電荷の徐電、帯電を適切に行うことができ、優れた画像処理が可能となる。
【0081】
このようにして得られる本発明の半導電性ポリイミドフィルムは、カラー複写機用等の中間転写ベルトとしてより好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0082】
次に本発明を、比較例と共に実施例によって更に詳述する。
【0083】
実施例1
2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチルエステル(1モルの2,3,3',4'−ビフ
ェニルテトラカルボン酸テトラカルボン酸二無水物と2モルのメチルアルコールとの反応
物でジエステル)358.0g(1.0モル)と3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチルエステル(1モルの3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸テトラカルボン酸二無水物
と2モルのメチルアルコールとの反応物でジエステル)358.0(1.0モル)と4,4'−ジアミ
ノジフェニルエーテル400g(2モル)とを1674gのNMP溶媒の中に60℃で混合し均一に溶解
し、続いて100℃まで1hrかけて昇温、100℃にて1hr加熱後冷却した。この溶液は不揮発
分濃度32.9重量%で、数平均分子量2000のオリゴマー状の溶液となっていた。以下これを「オリゴマー混合溶液A」と呼ぶ。
【0084】
このオリゴマー混合溶液A1000gに、カーボンブラック(CB)粉体(PH3、粒径23nm
)71.7gとNMP142.5g添加し、ボールミル機で充分に混合分散し最後に脱泡した。これを成形用半導電性オリゴマー溶液とした。該半導電性オリゴマー溶液中の不揮発分濃度は、33.0重量%であり、該不揮発分中のCB濃度は17.89重量%であった。
【0085】
そして該溶液から109gを採取し、回転ドラム内に注入し、次の条件で各々成形した。
【0086】
回転ドラム・・・内径175mm、幅540mmの内面鏡面仕上げの金属ドラムが2本の回転ロー
ラー上に載置され、該ローラーの回転とともに回転する状態に配置した。
【0087】
加熱温度・・・該ドラムの外側面に遠赤外線ヒータを配置し、該ドラムの内面m温度が120℃に制御されるようにした。
【0088】
まず回転ドラムを回転した状態で109gの該溶液をドラム内面に均一に塗布し、加熱を開始した。加熱は2℃/minで昇温して120℃に達して、その温度で90分間その回転を維持しつつ加熱した。
【0089】
回転、加熱が終了した後、冷却せずそのまま回転ドラムを離脱して熱風滞留式オーブン中に静置してイミド化のための加熱を開始した。この加熱も徐々に昇温しつつ320℃に達
した。そしてこの温度で30分間加熱したら常温に冷却して該ドラム内面に形成された半導電性管状PIフィルムを剥離し取り出した。なお、該フィルムの厚さは90μmであった。
【0090】
なお、本明細書における「不揮発分濃度」とは次のように算出された値である。試料(半導電性オリゴマー溶液等)を金属カップ等の耐熱性容器で精秤しこの時の試料の重量をAgとする。試料を入れた耐熱性容器を電気オーブンに入れて、120℃×12分、180℃×12
分、260℃×30分、及び300℃×30分で順次昇温しながら加熱、乾燥し、得られる固形分の重量(不揮発分重量)をBgとする。同一試料について5個のサンプルのA及びBの値を測
定し(n=5)、次式(I)にあてはめて不揮発分濃度を求めた。その5個のサンプルの平均値を、本発明における不揮発分濃度として採用した。
【0091】
不揮発分濃度=B/A×100(%) (I)
比較例1
実施例1と同一の量比でカルボン酸ジメチルエステルとジアミノジフェニルエーテルを混合し、60℃で溶解した溶液をそのまま冷却した。この溶液は不揮発分濃度32.9 重量%
で、実質モノマ状態の溶液となっていた。以下これを「モノマ溶液A」と呼ぶ。
【0092】
このモノマ溶液A1000gにCB粉体(PH3、粒径23nm)31.0gとNMP60.0
g添加し、ボールミル機で充分に混合分散し最後に脱泡した。これを成形用半導電性モノ
マ溶液とした。該半導電性オリゴマー溶液中の不揮発分の濃度は、33.0重量%であり、該不揮発分中のCB濃度は8.61重量%であった。
【0093】
そして該溶液から109gを採取し、以下、実施例1と同様に加熱成形し半導電性管状PIフィルムを剥離し取り出した。なお、該フィルムの厚さは92μmであった。
【0094】
実施例2
2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチルエステル(1モルの2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸テトラカルボン酸二無水物と2モルのメチルアルコールとの反応
物でジエステル)143.2g(0.4モル)と3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチルエステル(1モルの3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸テトラカルボン酸二無水物
と2モルのメチルアルコールとの反応物でジエステル)572.8(1.6モル)と4,4'−ジアミ
ノジフェニルエーテル400g(2モル)とを1674gのNMP溶媒の中に60℃で混合し均一に溶解
し、続いて110℃まで1hrかけて昇温、110℃にて1hr加熱後冷却した。この溶液は不揮発
分濃度32.9重量%で、数平均分子量4000のオリゴマー状の溶液となっていた。以下これを「オリゴマー混合溶液B」と呼ぶ。
【0095】
このオリゴマー混合溶液B1000gに、CB粉体(PH3、粒径23nm)78.9gとNMP157.1gを添加し、ボールミル機で充分に混合分散し最後に脱泡した。これを成形用半導電性オリゴマー溶液とした。該半導電性オリゴマー溶液中の不揮発分の濃度は、33.0重量%であり、該不揮発分中のCB濃度は19.34重量%であった。
【0096】
そして該溶液から109gを採取し、回転ドラム内に注入し、以下、実施例1と同様に加熱成形し半導電性管状PIフィルムを剥離し取り出した。なお、該フィルムの厚さは89μmであった。
【0097】
比較例2
実施例2と同一の量比でカルボン酸ジメチルエステルとジアミノジフェニルエーテルを混合し、60℃で溶解し、続いて85℃まで1hrかけて昇温、85℃にて1hr加熱後冷却した。この溶液は不揮発分濃度32.9重量%で、数平均分子量500のオリゴマー状の溶液となってい
た。以下これを「オリゴマー混合溶液C」と呼ぶ。
【0098】
このオリゴマー溶液C1000gに、CB粉体(PH3、粒径23nm)31.0gとNMP60g添加し
、ボールミル機で充分に混合分散し最後に脱泡した。これを成形用半導電性モノマ溶液とした。該半導電性オリゴマー溶液中の不揮発分の濃度は、33.0重量%であり、該不揮発分中のCB濃度は8.62重量%であった。
【0099】
そして該溶液から109gを採取し、以下、実施例1と同様に加熱成形し半導電性管状PIフィルムを剥離し取り出した。なお、該フィルムの厚さは92μmであった。
【0100】
比較例3
実施例1と同一の量比でカルボン酸ジメチルエステルとジアミノジフェニルエーテルを
混合し、60℃で溶解し、続いて130℃まで1hrかけて昇温、130℃にて1hr加熱後冷却した。しかし、冷却後のこの溶液は濁りの生じたゲル状の固体となり、成形には使用不可であった。
【0101】
このゲルは溶剤で希釈しても再溶解になかった。得られたゲルのイミド化率を測定したところ35%程度イミド化反応が進行していることが確認された。つまり、加熱温度が高くイミド化反応が進行しすぎたことにより溶解度が低下、樹脂分が析出したと考えられる。
【0102】
実験例
上記実施例1〜2、及び比較例1〜3のフィルム製造条件及び得られるフィルムの電気抵抗値の測定結果を表1に示す。表1中の表面抵抗率、体積抵抗率の平均、標準偏差は、
いずれも対数換算値で示される。
[数平均分子量]
数平均分子量はGPC法(溶媒:NMP、ポリエチレンオキサイド換算)により測定した。
[イミド化率]
赤外分光高度計にてイミド基由来の吸収(1780cm-1)とベンゼン環由来の吸収(1510cm-1)の強度の比率により算出した。ベンゼン環の吸収は、前駆体でもイミド化後でも変化しないため、これを対照として用いた。
[表面抵抗率(SR)及び体積抵抗率(VR)の測定]
得られた管状フイルムを長さ400mmにカットしたものをサンプルとして、三菱化学株式会社製の抵抗測定器“ハイレスタIP・URプロ−ブ”を使って、幅方向に等ピッチで3カ所と縦(周)方向に4カ所の合計12ヶ所について各々測定し、全体の平均値で示した。
【0103】
体積抵抗率(VR)は電圧100V印加の下10秒経過後に、表面抵抗率(SR)は電圧500V印加の下10秒経過後に測定した。
【0104】
【表1】

表1によれば、実施例のフィルムでは、比較例に対し、表面抵抗率及び体積抵抗率の標準偏差が非常に小さい、すなわちバラツキが小さいことが分かった。
【0105】
また、実施例のフィルムでは、比較例に対し、フィルム表面側及び裏面側の表面抵抗率(対数換算値)の差が極めて小さく、カラー複写機用の中間転写ベルトとして好ましい特性を有している。
【0106】
さらに、一般に成形中の加熱昇温速度を早くすると、表面抵抗率の対数換算値LogSRか
ら体積抵抗率の対数換算値LogVRを引いた値(Log(SR/VR))が低くなるため、転写ベルト
として使用した場合、電荷の徐電、帯電が適切に行えず、画像不良の原因となる問題があった。しかし、オリゴマー混合溶液を用いることによりこの値を高い値(1.0〜3.0)に維持できることが分かり、これによりフィルムの生産性もさらに向上できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミンとの略等モル量を重縮合反応して得られる芳香族アミド酸オリゴマー、カーボンブラック、及び有機極性溶媒を含有してなる半導電性芳香族アミド酸組成物。
【請求項2】
前記芳香族アミド酸オリゴマーが、2種以上の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの略等モル量を有機極性溶媒中80℃程度以下の温度で重縮合反応して得られる芳香族アミド酸オリゴマーである請求項1に記載の半導電性芳香族アミド酸組成物。
【請求項3】
2種以上の芳香族テトラカルボン酸二無水物が、非対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物15〜55モル%と対称性芳香族テトラカルボン酸二無水物85〜45モル%とからなる混合物である請求項2に記載の半導電性芳香族アミド酸組成物。
【請求項4】
前記芳香族アミド酸オリゴマーが、2種以上の芳香族テトラカルボン酸ジエステルと芳香族ジアミンとの略等モル量を有機極性溶媒中90〜120℃程度の温度で重縮合反応して得ら
れる芳香族アミド酸オリゴマーである請求項1に記載の半導電性芳香族アミド酸組成物。
【請求項5】
2種以上の芳香族テトラカルボン酸ジエステルが、非対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステル15〜55モル%と対称性芳香族テトラカルボン酸ジエステル85〜45モル%とからなる混合物である請求項4に記載の半導電性芳香族アミド酸組成物。
【請求項6】
前記芳香族アミド酸オリゴマーの数平均分子量が1000〜7000程度である請求項1〜5のいずれかに記載の半導電性芳香族アミド酸組成物。
【請求項7】
カーボンブラックの配合量が、芳香族テトラカルボン酸成分と有機ジアミンの合計量100
重量部に対し、3〜30重量部程度である請求項1〜6のいずれかに記載の半導電性芳香族
アミド酸組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の半導電性芳香族アミド酸組成物を回転成形し、加熱処理することを特徴とする半導電性無端管状ポリイミドフイルムの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により製造される、電子写真方式の中間転写ベルトに用いられる半導電性無端管状ポリイミドフイルム。
【請求項10】
表面電気抵抗率の対数換算値の標準偏差が0.2以内であり、体積電気抵抗率の対数換算値
の標準偏差が0.2以内であり、表面電気抵抗率の対数換算値と裏面電気抵抗率の対数換算
値との差が0.4以内である請求項9に記載の半導電性無端管状芳香族ポリイミドフイルム

【請求項11】
有機極性溶媒中で2種以上の芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミンとの略等モル量を一部縮重合反応して芳香族アミド酸オリゴマー溶液とし、これと導電性カーボンブラック粉体とを均一混合することを特徴とする半導電性芳香族アミド酸組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−255002(P2010−255002A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177303(P2010−177303)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【分割の表示】特願2004−59582(P2004−59582)の分割
【原出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】