説明

半担持型脱水素触媒

アルキル芳香族炭化水素からアルケニル芳香族炭化水素を生じさせる脱水素に有用な触媒および使用方法を開示する。この触媒は鉄化合物を30から90重量パーセント、アルカリ金属化合物を1から50重量パーセントおよびアルミナ化合物を少なくとも5重量パーセント含有して成る。

【発明の詳細な説明】
【関連出願に対する相互参照】
【0001】
適用無し
【技術分野】
【0002】
本発明は一般に炭化水素の変換で用いる触媒に関する。
【背景技術】
【0003】
炭化水素に接触脱水素を受けさせる時に様々な触媒組成物が用いられることは当該技術分野で良く知られている。アルキル芳香族炭化水素からアルケニル芳香族炭化水素を生じさせる脱水素、例えばエチルベンゼンからスチレンを生じさせる脱水素などでは、より高い変換率、選択率および向上した安定性を示す触媒が絶え間なく開発されている。
【0004】
スチレンの製造で用いられるエチルベンゼン用触媒に関して現在産業的に通例行われていることは、鉄/カリウム(Fe/K)活性相を有するバルク金属酸化物触媒を1種以上の助触媒、例えばセリウムなどと一緒に用いることである。また、さらなる助長、活性化または安定化をもたらす目的で他の成分を当該脱水素触媒に添加することも可能である。
【0005】
一般に触媒の失活が起こって変換率、選択率または両方が低下する傾向があり得、それらの各々によって結果として好ましくない工程効率損失が起こる可能性がある。脱水素触媒が起こす失活には様々な理由が存在し得る。それらには触媒表面の詰まり、例えばコークスまたはタールなどによる詰まり(これは炭化と呼ばれ得る)、触媒構造の物理的破壊および助触媒の損失、例えばアルカリ金属化合物が当該触媒から物理的に失われること、または当該触媒内のカリウムが凝集を起こすことなどが含まれ得る。用いられる触媒および様々な操作パラメーターに応じて、そのような機構の中の1つ以上が働き得る。
【0006】
当該触媒を蒸気で処理して加熱すること(デコーキングと呼ばれる)で触媒表面の炭化を処置することは可能であるが、そのような再生操作によって触媒構造が物理的破壊を起こす可能性がある。カリウムは高温、特に蒸気による高温によって移動する可能性がある。蒸気によるデコーキング工程ではカリウムの移動および損失が問題になる可能性があり、そのような問題は触媒構造の物理的破壊がいくらかでも起こると更に悪化し得る。
【0007】
脱水素触媒の触媒寿命はしばしば反応槽を横切る圧力降下に左右される。圧力降下の度合が大きくなると収率および所望生成物への変換率の両方が低下する。当該触媒が物理的劣化を起こすと典型的に反応槽を横切る圧力降下が増大する。その理由で当該触媒が示す物理的一体性が非常に重要である。酸化鉄を含有する脱水素触媒はこれらの物理的一体性を低下させる工程条件下で実質的な変化を起こす可能性がある。例えばエチルベンゼンからスチレンを生じさせる脱水素では、当該触媒を水素および蒸気に高温(例えば500℃から700℃)で接触させているが、そのような条件下では、スチレン製造用触媒の好適な鉄源であるFeが還元を受けてFeになる可能性がある。そのような還元が起こると酸化鉄の格子構造が変化する結果として触媒構造の物理的一体性が低くなり、それによって、接触する水の温度が100℃未満であっても劣化が起こり易くなる。そのように水と接触することによって起こる劣化は、触媒本体(例えばペレットまたは顆粒)が柔らかくなりそして/または膨潤しそして/または亀裂を起こすことで特徴づけられる。その触媒と接触する水の形態は液体または湿った状態の気体、例えば高湿度の空気などであり得る。本明細書における用語“高湿度”は相対湿度が約50%以上であることを指す。
【0008】
脱水素触媒の活性は経時的に低下する。その触媒は最終的に交換または再生を受けさせる必要がある点にまで失活するであろう。それは交換中の生産損失および/または触媒再生に伴う出費が理由で費用のかかることであり得る。触媒の安定性をいくらかでも高くすることができれば触媒の寿命が長くなり、それによって、その触媒を用いた工程の経済性が向上するであろう。
【0009】
前記を鑑み、触媒の安定性を向上させることができれば、これは好ましいことであり、それによって、触媒の寿命が長くなり、デコーキング操作による劣化に対する抵抗が向上し、反応槽を横切る圧力降下を最小限に保つに役立ち、かつそれが高湿度環境に耐える能力が向上するであろう。
【発明の概要】
【0010】
本発明の態様は一般に鉄化合物を30から90重量パーセント、アルカリ金属化合物を1から50重量パーセントおよびアルミナ化合物を少なくとも5重量パーセント含有して成る触媒を包含する。前記鉄化合物は酸化鉄を含有して成っていてもよく、カリウムフェライトであってもよい。
【0011】
前記アルミナ化合物はアルミナ、金属修飾アルミナおよび金属のアルミン酸塩から成る群より選択可能である。本触媒のアルミナ化合物含有量は少なくとも10重量パーセントであってもよい。
【0012】
前記アルカリ金属化合物はアルカリ金属の酸化物、硝酸塩、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩およびこれらの組み合わせから成る群より選択可能であり、ナトリウムまたはカリウム化合物を含有して成っていてもよい。このアルカリ金属化合物はカリウムフェライトであってもよい。
【0013】
本触媒に更にセリウム化合物も0.5から25.0重量パーセント含有させてもよい。本触媒に更に貴金属化合物も0.1ppmから1000ppm含有させてもよい。本触媒に更に下記:アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マンガン、コバルト、銅、バナジウムおよびこれらの組み合わせから成る群より選択した元素の中の少なくとも1種の源も0.1重量パーセントから10.0重量パーセント含有させてもよい。
【0014】
本発明の1つの態様は、アルキル芳香族炭化水素からアルケニル芳香族炭化水素を生じさせる脱水素方法である。この方法は、鉄化合物を10から90重量パーセント、アルカリ金属化合物を1から50重量パーセントおよびアルミナ化合物を少なくとも5重量パーセント含有して成る脱水素触媒を脱水素反応槽に供給することを包含する。アルキル芳香族炭化水素を含有して成る炭化水素原料および蒸気を前記脱水素反応槽に供給する。前記炭化水素原料および蒸気と前記脱水素触媒の接触を前記反応槽内で前記アルキル芳香族炭化水素の少なくとも一部が脱水素を受けてアルケニル芳香族炭化水素が生じるに有効な条件下で起こさせる。生成物であるアルケニル芳香族炭化水素を前記脱水素反応槽から回収する。
【0015】
前記原料中のアルキル芳香族炭化水素にはエチルベンゼンが含まれ得そして前記生成物のアルケニル芳香族炭化水素にはスチレンが含まれ得る。前記脱水素触媒中のアルミナ化合物はアルミナ、金属修飾アルミナおよび金属のアルミン酸塩から成る群より選択可能である。前記鉄化合物は酸化鉄であってもよくそして前記アルカリ金属化合物はカリウム化合物であってもよい。前記脱水素触媒に更にカリウムフェライトも含有させてもよい。前記脱水素触媒にセリウム化合物を0.5から25.0重量パーセント含有させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、バッチ2で生じさせた触媒を用いてEBをスチレンに変化させた時のスチレン選択率をEB変換率と対比させて示すグラフである。
【図2】図2は、バッチ5で生じさせた触媒を用いてEBをスチレンに変化させた時のスチレン選択率をEB変換率と対比させて示すグラフである。
【詳細な説明】
【0017】
性能がより高くなり、稼働時間がより長くなりかつ炭化水素に対する蒸気の比率をより低くできるように、向上した物性を示す触媒を生じさせるための研究を行った。本発明の研究方法は、活性種が安定になりかつ物性が向上するように担体材料、例えばアルミナ、金属修飾アルミナまたは金属修飾アルミン酸塩などを伝統的な混合金属酸化物配合物に添加することを伴う。アルミナを約25%含有することに加えてFe/K/Ce材料を含有する一連の触媒を調製した。このような研究方法を用いて良好な表面積と間隙率を有する触媒を調製した。X線回折データにより、出発材料である酸化鉄からカリウムフェライト相が生じることが分かる。一般に、フェライト相が脱水素反応の活性種であると見なされている。そのような触媒配合物にアルミナを添加するとフェライト相の生成が助長されることを見いだした。
【0018】
本発明の態様は一般に鉄化合物を30から90重量パーセント、アルカリ金属化合物を1から50重量パーセントおよびアルミナ化合物を少なくとも5重量パーセント含有して成る触媒を包含する。前記鉄化合物は酸化鉄を含有して成っていてもよく、カリウムフェライトであってもよい。前記アルミナ化合物はアルミナ、金属修飾アルミナおよび金属のアルミン酸塩から成る群より選択可能である。
【0019】
前記アルカリ金属化合物はアルカリ金属の酸化物、硝酸塩、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩およびこれらの組み合わせから成る群より選択可能であり、ナトリウムまたはカリウム化合物を含有して成っていてもよい。このアルカリ金属化合物はカリウムフェライトであってもよい。
【0020】
本触媒に更にセリウム化合物も0.5から25.0重量パーセント含有させてもよい。本触媒に更に貴金属化合物も0.1ppmから1000ppm含有させてもよい。本触媒に更に下記:アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マンガン、コバルト、銅、バナジウムおよびこれらの組み合わせから成る群より選択した元素の中の少なくとも1種の源も0.1重量パーセントから10.0重量パーセント含有させてもよい。
【0021】
本発明の1つの態様は、アルキル芳香族炭化水素からアルケニル芳香族炭化水素を生じさせる脱水素方法である。この方法は、鉄化合物を10から90重量パーセント、アルカリ金属化合物を1から50重量パーセントおよびアルミナ化合物を少なくとも5重量パーセント含有して成る脱水素触媒を脱水素反応槽に供給することを包含する。アルキル芳香族炭化水素を含有して成る炭化水素原料および蒸気を前記脱水素反応槽に供給する。前記炭化水素原料および蒸気と前記脱水素触媒の接触を前記反応槽内で前記アルキル芳香族炭化水素の少なくとも一部が脱水素を受けてアルケニル芳香族炭化水素が生じるに有効な条件下で起こさせる。生成物であるアルケニル芳香族炭化水素を前記脱水素反応槽から回収する。
【0022】
前記原料中のアルキル芳香族炭化水素にはエチルベンゼンが含まれ得そして前記生成物のアルケニル芳香族炭化水素にはスチレンが含まれ得る。前記脱水素触媒中のアルミナ化合物はアルミナ、金属修飾アルミナおよび金属のアルミン酸塩から成る群より選択可能である。前記鉄化合物は酸化鉄であってもよくそして前記アルカリ金属化合物はカリウム化
合物であってもよい。前記脱水素触媒に更にカリウムフェライトも含有させてもよい。前記脱水素触媒にセリウム化合物を0.5から25.0重量パーセント含有させてもよい。
【0023】
表面積、間隙率および孔直径が少しでも変化するとスチレン用触媒であるバルク混合金属酸化物が大きな影響を受ける可能性がある。例えば、孔直径を大きくしかつカリウムの安定性を高くすることができれば当該触媒にデコーキングを受けさせる必要性が低下し得る。デコーキング操作の必要性が低下するとカリウムの移動および損失度合が低くなる可能性がある。デコーキングの必要性が低下するとまた蒸気を装置に供給する必要性も低くなることでエネルギーコストも低くなる可能性がある。
【0024】
そのような物性は、使用する反応体を添加する順および種類によって大きな影響を受ける可能性がある(それが金属酸化物であるか或は孔形成剤であるかに拘わらず)。触媒バッチ1および2の調製をカリウムの添加を最終段階として行うことで実施した。次のシリーズのバッチ3および4では、単一段階調製を用いてカリウム化合物を含有させる代替方法を探求した。バッチ5では、酸化アルミニウムの代わりに酸化マグネシウムアルミニウムを用いた。KとFeが相互作用する結果としてカリウムモノフェライト相が完成触媒に存在すると緑色になるが、これらの調製でそれの存在が抑制されることはなかった。
【0025】
出発材料である酸化鉄に関して異なる2種類の任意選択を探求した。伝統的に用いられている赤色酸化鉄であるFeがバッチ1およびバッチ3で用いた基質であり、そして黄色酸化鉄であるFeO(OH)をバッチ2、4および5で用いた。黄色酸化鉄は焼成後により小さい結晶子を形成する傾向がありかつ他の無機基質とより容易に反応する。試験バッチ1では合成ヘマタイトである赤色酸化鉄を用いそして試験バッチ2ではレピドクロサイトである黄色酸化鉄を用いた。合成針鉄鉱の焼成で生じさせた合成ヘマタイトはしばしばエチルベンゼンからスチレンを生じさせる変換に触媒作用を及ぼす目的で用いられる、と言うのは、その材料はしばしば最も高い純度(>98%のFe)を有するからである。この実験では試験を受けさせなかったが、また、他の酸化鉄を本発明に従って用いることも可能であり、それらには、これらに限定するものでないが、黒色酸化鉄、例えばマグネタイトなど、褐色酸化鉄、例えば磁赤鉄鉱などおよび他の黄色酸化鉄、例えば針鉄鉱などが含まれ得る。バッチ2および4で試験した1−5ミクロンのアルミナの表面積は2.7m/gであった。
【実施例】
【0026】
バッチ1および2 - 多段階調製の例
多段階工程では、触媒材料が約100gの小バッチを手で調製した。材料を混合した後にDI水を添加することで、Carver Hydraulic Pressを用いてペレットまたはタイルに成形するに適したペーストを生じさせた。材料のリストを表1に示す。触媒のFe、K、Ce、Al、CaおよびMo成分のモル比率を同じにする。強度の目的で添加するセメントの使用量を各場合とも同じにした。また、グラファイト、メチルセルロースおよびステアリン酸も押出し加工助剤および孔形成剤として添加した。
【0027】
【表1】

【0028】
触媒を生じさせた後、密封型容器に入れて、それらに熟成を20℃から30℃で一晩受けさせた後、乾燥を115℃で受けさせた。次に、その触媒に焼成を775℃の最大温度で受けさせた後、4時間保持した。バッチ1および2のより詳細な説明は下記である。
【0029】
バッチ1の調製では、赤色酸化鉄(36g)、炭酸セリウム(11g)、炭酸カルシウム(6g)、1−5ミクロンの酸化アルミニウム(23g)、酸化モリブデン(1g)、メチルセルロース−25cP(0.5g)、ステアリン酸(0.75g)、グラファイト(0.75g)およびセメント(4g)を乾式混合することを通して調製を実施した。配合表を表2に示す。これらの反応体を一緒に添加して充分に混合した。脱イオン水をその混合物が最終的に充分に湿って大きな塊になるほどの量で加えた。次に、炭酸カリウム(19g)を加えた後の混合物を反応させると濃厚になった。調製した触媒を約2グラムの量で13mmのダイスの中に入れた後、4,000−5,000psigをかけることでペレットを生じさせた。10から15個のペレットを一度に作成し、セラミック製皿に入れて一晩乾燥させた。残りの触媒をジップトップ式プラスチックバッグに入れた後、平らになるまで手で圧縮した。セラミック製皿の重量を測定して、その重量を記録した。次に、そのセラミック製皿に手で圧縮した触媒を約10グラム加えた後、重量を記録した。次に、残りの手で圧縮した触媒を細かく砕いた後、セラミック製皿に入れて一晩乾燥させた。約24時間後に触媒をオーブンに入れて115℃で約2時間乾燥させた。次に、その触媒の重量を測定して、その重量を記録した。次に、その乾燥させた触媒に焼成を下記の温度上昇手順に従って受けさせた:350℃に1時間、600℃に1時間そして次に775℃になるまで10℃/分の上昇速度で上昇させて4時間保持した。このサイクルが完了した時点でオーブンを115℃に戻して、最終的に触媒を取り出した。この焼成を受けさせた触媒の重量を測定して、その重量を記録した。
【0030】
【表2】

【0031】
バッチ2の調製を赤色酸化鉄の代わりに黄色酸化鉄(40g)を等モル量で用いる以外はバッチ1と同じ様式で実施した。
【0032】
調製中に添加した水の量を各調製毎に記録した。また、乾燥後および焼成後の触媒の外観も記録した。バッチ1および2に関するそのような観察を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
あらゆる触媒が焼成を実施した後に高い破砕強度を示した(定性的)。手で作成したペレットを試験した結果、破砕強度は60psi以上であった。
【0035】
BET表面積およびHg貫入データを各触媒毎に記録した。要約を表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
1回目の触媒調製の目的は、アルミナが25重量%のFe/K/Ce脱水素触媒が実現可能であるか否かおよびそのアルミナがフェライト相を形成するか否かを測定することにあった。焼成後の触媒は1−4m/gの最終的表面積、0.1mL/g以上の間隙率および許容される破砕強度、例えば60psi以上の破砕強度を示すべきである。
【0038】
バッチ1および2の両方とも炭酸カリウムを他の材料に添加した時期はそれらを混合して湿らせた後のみであった。その塩基性の炭酸カリウムは酸性の酸化鉄と反応することから、酸性材料と塩基性材料を混合する順は重要であり得る。
【0039】
BET表面積データの取得では窒素を用い、そのデータを表4に示す。その値はスチレン用触媒として許容される範囲内である。
【0040】
表4にまたHg貫入データも示す。その値は13mmのペレットを粉砕して得た値であることから、そのデータは有用ではあり得るが、必ずしも商業的グレードの押出し加工品にとって正確な値ではない。大きな孔(0.1ミクロン以上)と高い間隙率(0.2mL/g以上)を有する触媒が示す拡散抑制は低いことから、それらは向上した性能を示す可能性がある。表4に示したHg貫入データにより、初期の触媒配合物は高い間隙率(細孔容積)を示すことに加えて大きな平均孔直径(面積に対する)を有することが分かる。
【0041】
バッチ1および2のx線回折(XRD)データは、これらの配合物はかなり類似していることを示している。酸化アルミニウムおよび酸化セリウムは卓越してはいるが、酸化鉄ではない。鉄はモノフェライト(KFeO)、低級ポリフェライト(KFe)またはアルカリ/アルミニウム/鉄混合酸化物として観察された。バッチ1にはモノフェライトおよびポリフェライト相が有意な量で見られた。バッチ2はバッチ1と同様ではあったが、モノフェライト濃度が低くかつポリフェライト濃度が高かった。
【0042】
バッチ3および4 - 単一段階調製の例
本明細書に示す如きバッチ配合の全部で同じ材料比を用いた。各材料の酸化物が最も高い結合価を示すと仮定して焼成後の重量パーセントから下記を得た:酸化鉄(38.6%)、炭酸カリウム(20.4%)、酸化カルシウム(3.6%)、酸化セリウム(7.4%)、酸化アルミニウム(24.7%)、酸化モリブデン(1.07%)およびアルミン酸カルシウムセメント(4.3%)。材料のリストを表1に示す。
【0043】
バッチ3の調製では、赤色酸化鉄(36g)、炭酸セリウム(11g)、炭酸カリウム(19g)、炭酸カルシウム(6g)、酸化アルミニウム(1−5ミクロン、23g)、酸化モリブデン(1g)、メチルセルロース−25cP(0.5g)、ステアリン酸(0.75g)、グラファイト(0.75g)およびセメント(4g)を乾式混合することを
通して調製を実施した。これらの反応体を一緒に添加して充分に混合した。脱イオン水を加えた後の混合物を反応させると濃厚になった。調製した触媒を約2グラムの量で13mmのダイスに加えた後、4,000−5,000PSIをかけることでペレットを生じさせた。10個のペレットおよび1個の2.5cm x 2.5cmタイルを一度に作成し、セラミック製皿に入れて20℃から30℃で一晩乾燥させた。残りの触媒をジップトップ式プラスチックバッグに入れた後、平らになるまで手で圧縮した。セラミック製皿の重量を測定して、その重量を記録した。次に、そのセラミック製皿に手で圧縮した触媒を約10グラム加えた後、重量を記録した。次に、残りの手で圧縮した触媒を細かく砕いた後、セラミック製皿に入れて一晩乾燥させた。約24時間後に触媒をオーブンに入れて115℃で約2時間乾燥させた。次に、その触媒の重量を測定して、その重量を記録した。次に、その乾燥させた触媒に焼成を下記の温度上昇手順に従って受けさせた:350℃に1時間、600℃に1時間そして次に775℃になるまで10℃/分の上昇速度で上昇させた後に4時間保持した。このサイクルが完了した時点でオーブンを115℃に戻し、最終的に触媒を取り出すまでその温度に保持した。この焼成を受けさせた触媒の重量を測定して、その重量を記録した。
【0044】
バッチ4の調製を赤色酸化鉄の代わりに黄色酸化鉄(40g)を等モル量で用いる以外はバッチ3と同じ様式で実施した。
【0045】
触媒は全部が焼成を実施した後に定性的に良好な破砕強度を示すように思われた。これらの触媒をBET表面積およびHg貫入に関して分析した。手で作成したペレットを試験した結果、破砕強度は60psi以上であった。
【0046】
観察および結果
バッチ1および2に示した触媒の調製では、炭酸カリウムを除く材料の全部を湿式混合しそしてこの混合段階が終了した時点で炭酸カリウムを個別に添加することで調製を実施した。バッチ3および4では、炭酸カリウムを他の材料と一緒に混合段階で添加した。
【0047】
調製中に添加した水の量を各調製毎に記録した。また、乾燥後および焼成後の触媒の外観も記録した。バッチ3および4に関するそのような観察を表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
前記代替調製法を用いて生じさせた触媒の色は結果としてカリウムを最終段階で添加した最初の配合物に比べて緑の色合いが弱くかつ褐色の色合いが強かった。バッチ1および2は緑がかった色合いを示したが、これはカリウムモノフェライトが生じたことによるものであった。褐色の色は一般にKに対するFeの含有量がより高いポリフェライト相が存在することを示している。艶消しが観察されたことは、遊離炭酸カリウムが表面に存在している可能性が高いことによるものであろう。
【0050】
【表6】

【0051】
BET表面積およびHg貫入による細孔容積および直径はスチレン用触媒にとって重要な物性値である。バッチ3および4に関するデータを表6に示す。そのBET表面積は好ましく低く、1−3m/gである。黄色酸化鉄配合物の方が若干高い表面積を示す傾向がある。焼成後の触媒は1−4m/gの最終的表面積、0.1mL/g以上の間隙率および許容される破砕強度、例えば60psi以上の破砕強度を示すべきである。
【0052】
バッチ3および4の配合はバッチ1および2の単一段階変法であった。バッチ1および3では赤色酸化鉄を用いそしてバッチ2および4では黄色酸化鉄を用いた。単一段階方法で赤色酸化鉄を用いると若干低い細孔容積を有する触媒がもたらされたが、黄色酸化鉄を用いたバッチでは有意な差がなかった。
【0053】
バッチ5 -酸化マグネシウムアルミニウム含有触媒の例(酸化アルミニウムの代わりに酸化マグネシウムアルミニウムを用いる以外はバッチ2と同じ)
バッチ5の調製では、黄色酸化鉄、炭酸セリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウムアルミニウム、酸化モリブデン、メチルセルロース(25cP)、グラファイトおよびセメントを乾式混合することを通して調製を実施した。これらの反応体を混合装置に加えて、2時間混ぜ合わせた。脱イオン水をその混合物が最終的に大きな塊になるほどの量で加えた。次に、炭酸カリウムを加えた後、その混ぜ合わせた混合物を反応させそして充分に混ざるまで混ぜ合わせた。その混ぜ合わせた混合物を押出し加工機に移した後、押出し加工を3メートルトンの圧力下で実施した。その押出し加工品をプラスチックバッグに入れて、20℃から30℃で一晩硬化させた。約24時間後に触媒をオーブンに入れて、115℃で約24時間乾燥させた。次に、その乾燥させた触媒に焼成を下記の温度上昇手順に従って受けさせた:350℃に1時間、600℃に1時間そして次に775℃になるまで10℃/分の上昇速度で上昇させた後に4時間保持した。このサイクルが完了した時点でオーブンを115℃に戻して、最終的に触媒を取り出すまでその温度に保持した。
【0054】
その調製した触媒のBET表面積および細孔容積および細孔直径を分析した。以下の表7に、バッチ5の触媒に関して得たデータを示す。
【0055】
【表7】

【0056】
黄色酸化鉄と酸化アルミニウムを用いて調製を実施したバッチ2で生じさせた触媒にエチルベンゼンからスチレンを生じさせる脱水素に関する分析を等温ベンチスケール反応槽内で反応槽の条件を変えて受けさせた。エチルベンゼンに対する蒸気の比率を7から9の範囲にしそして温度を590℃から630℃の範囲にした。LHSVを3時−1に保持しそしてEB/HOの分圧を700にした。反応槽の圧力を1350ミリバールに設定した。図1は、バッチ2で生じさせた触媒を用いた時のスチレン選択率をEBがスチレンに変化したEB変換率と対比させて示したグラフである。図1のデータにより、バッチ2の触媒はエチルベンゼンからスチレンを生じさせる脱水素で使用可能であることが分かる。
【0057】
黄色酸化鉄と酸化マグネシウムアルミニウムを用いて調製を実施したバッチ5で生じさせた触媒にエチルベンゼンからスチレンを生じさせる脱水素に関する分析を等温ベンチスケール反応槽内で反応槽の条件を変えて受けさせた。エチルベンゼンに対する蒸気の比率を7から9の範囲にしそして温度を590℃から630℃の範囲にした。LHSVを3時−1に保持しそしてEB/HOの分圧を700にした。反応槽の圧力を1350ミリバールに設定した。図2は、バッチ5で生じさせた触媒を用いた時のスチレン選択率をEBがスチレンに変化したEB変換率と対比させて示したグラフである。図2のデータにより、バッチ5の触媒はエチルベンゼンからスチレンを生じさせる脱水素で使用可能であることが分かる。
【0058】
アルミナ化合物を脱水素触媒組成物にこの触媒の強度および耐久性が向上するに有意な量で添加することができる。これらの材料が鉄およびカリウムと相互作用することで酸化鉄の焼結および還元が抑制されかつカリウムが安定化されて移動する速度が遅くなり得る。そのようなアルミナ化合物はアルミナ、金属修飾アルミナおよび金属のアルミン酸塩またはこれらの組み合わせから成る群より選択可能である。その触媒に入れるアルミナ化合物の含有量は完成触媒の少なくとも5重量%であってもよく、10重量%、20重量%、40重量%、60重量%または80重量%以下の範囲であってもよい。
【0059】
金属修飾アルミナ化合物には、金属または金属の酸化物による修飾を受けたアルミナが含まれ得る。それらには、非限定例として、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、重炭酸塩およびこれらの組み合わせまたは他の化合物の物理的混合物、共沈混合物、湿り開始添加物および化学蒸着物が含まれ得る。
【0060】
そのような金属には、非限定例として、アルカリ金属、アルカリ土類、ランタニド、遷移金属、Ga、In、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi、および前記とアルミナの組み合わせが含まれ得る。金属のアルミン酸塩には、非限定例として、アルミナの混合金属酸化物(ベータアルミナを包含)、スピネル、ペロブスカイトおよびこれらの組み合わせが含まれ得る。
【0061】
さらなる非限定例には、下記の様々な組成物およびモル比が含まれる:Al、MgAlO、Mg/Al、Li/Al、Na/Al、K/Al、Fe/K/Al、Al−KCO、Al2O/Al(OH)、Mn−Al酸化物、Na−Mn−Al酸化物、K−Mn−Al酸化物、Al−CuO、Al−ZnOおよびこれらの組み合わせ。
【0062】
そのような成分を様々な組成物に入れる材料として用いる前にそれらに焼成を高温で受けさせておいてもよい。
【0063】
用語“活性”は、標準的組の条件下で反応1時間毎に工程中に用いる触媒の重量当たりに生じた生成物の重量(例えば生成物のグラム/触媒1グラム/時間)を指す。
【0064】
用語“アルキル”は、単結合炭素と水素原子のみで構成されている官能基または側鎖、
例えばメチルまたはエチル基などを指す。
【0065】
用語“失活した触媒”は、触媒の活性が特定の工程でもはや有効でないほど失われた触媒を指す。そのような有効性は個々の工程パラメーターに左右される。
【0066】
本明細書で“本発明”を言及する場合、文脈に応じて、ある場合には、そのような言及の全部がある特定の態様のみを指し得る。他の場合には、そのような言及は本請求項の中の必ずしも全部ではないが1項以上に示した主題事項を指し得る。前記は本発明の態様、変法および例を意図したものであるが、それらは、通常の当業者が本特許の情報を入手可能な情報および技術と組み合わせた時に本発明を作成して使用することができるように含めるものであり、本発明をそのような個々の態様、変法および例のみに限定するものでない。本発明の他のさらなる態様、変法および例を本発明の基本的範囲から逸脱することなく考案することができ、それらの範囲を以下の請求項で決定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒であって、
鉄化合物を30から90重量パーセント、
アルカリ金属化合物を1から50重量パーセント、および
アルミナ化合物を少なくとも5重量パーセント、
含有して成る触媒。
【請求項2】
前記鉄化合物が酸化鉄を含んで成る請求項1記載の触媒。
【請求項3】
前記鉄化合物がカリウムフェライトを含んで成る請求項1記載の触媒。
【請求項4】
前記アルカリ金属化合物がアルカリ金属の酸化物、硝酸塩、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩およびこれらの組み合わせから成る群より選択される請求項1記載の触媒。
【請求項5】
前記アルカリ金属化合物がナトリウムまたはカリウム化合物を含んで成る請求項1記載の触媒。
【請求項6】
前記アルカリ金属化合物がカリウムフェライトを含んで成る請求項1記載の触媒。
【請求項7】
前記アルミナ化合物がアルミナ、金属修飾アルミナおよび金属のアルミン酸塩から成る群より選択される請求項1記載の触媒。
【請求項8】
アルミナ化合物を少なくとも10重量パーセント含有して成る請求項1記載の触媒。
【請求項9】
アルミナ化合物を少なくとも20重量パーセント含有して成る請求項1記載の触媒。
【請求項10】
更にセリウム化合物も0.5から25.0重量パーセント含有して成る請求項1記載の触媒。
【請求項11】
更に貴金属化合物も0.1ppmから1000ppm含有して成る請求項1記載の触媒。
【請求項12】
更に下記:アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マンガン、コバルト、銅、バナジウムおよびこれらの組み合わせから成る群より選択される元素の中の少なくとも1種の源も0.1重量パーセントから10.0重量パーセント含有して成る請求項1記載の触媒。
【請求項13】
アルキル芳香族炭化水素および蒸気から本質的に成る炭化水素供給材料流れの成分に脱水素を炭化水素反応ゾーン内で受けさせるための非酸化的脱水素触媒であって、
酸化鉄を10から90重量パーセント、
カリウム化合物を1.0から50重量パーセント、
セリウム化合物を0.5から12.0重量パーセント、および
アルミナ化合物を少なくとも5重量パーセント、
含有して成る触媒。
【請求項14】
前記アルミナ化合物がアルミナ、金属修飾アルミナおよび金属のアルミン酸塩から成る群より選択される請求項13記載の触媒。
【請求項15】
アルキル芳香族炭化水素からアルケニル芳香族炭化水素を生じさせる脱水素方法であって、
鉄化合物を10から90重量パーセント、アルカリ金属化合物を1から50重量パーセントおよびアルミナ化合物を少なくとも5重量パーセント含有して成る脱水素触媒を脱水素反応槽に供給し、
アルキル芳香族炭化水素を含有して成る炭化水素原料および蒸気を前記脱水素反応槽に供給して、
前記炭化水素原料および蒸気と前記脱水素触媒の接触を前記反応槽内で前記アルキル芳香族炭化水素の少なくとも一部が脱水素を受けてアルケニル芳香族炭化水素が生じるに有効な条件下で起こさせ、そして
生成物であるアルケニル芳香族炭化水素を前記脱水素反応槽から回収する、
ことを含んで成る方法。
【請求項16】
前記原料中の前記アルキル芳香族炭化水素にエチルベンゼンが含まれそして前記生成物のアルケニル芳香族炭化水素にスチレンが含まれる請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記脱水素触媒中の前記アルミナ化合物がアルミナ、金属修飾アルミナおよび金属のアルミン酸塩から成る群より選択される請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記鉄化合物が酸化鉄である請求項15記載の方法。
【請求項19】
前記アルカリ金属化合物がカリウム化合物である請求項15記載の方法。
【請求項20】
前記脱水素触媒が更にカリウムフェライトも含有して成る請求項15記載の方法。
【請求項21】
前記脱水素触媒が更にセリウム化合物も0.5から25.0重量パーセント含有して成る請求項15記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−504045(P2012−504045A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529351(P2011−529351)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/058789
【国際公開番号】WO2010/039709
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(391024559)フイナ・テクノロジー・インコーポレーテツド (98)
【氏名又は名称原語表記】FINA TECHNOLOGY, INCORPORATED
【Fターム(参考)】