説明

半田付け方法及び半導体装置の製造方法

【課題】鉛フリー半田を用いた半田付けにおいて、ボイドの発生を抑制しつつ、フラックスを用いることなく半田の濡れ性を良好なものにして半田付けを行うことができる半田付け方法、及び半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】回路基板と半導体素子の半田付けは、第1雰囲気ガスによって容器内の圧力を大気圧より大きい一次加圧圧力まで加圧し、次に、一次加圧圧力による加圧を維持した状態で半田を溶融温度以上の高溶融温度まで加熱して半田を溶融させる。次に、容器内の圧力を一次加圧圧力に維持した状態で半田の温度を高溶融温度で一定時間保持し、半田の温度を高溶融温度に維持した状態で容器内を真空状態にする。半田の温度を溶融温度以上とした状態で第2雰囲気ガスによって容器内を真空状態から一次加圧圧力より大きい二次加圧圧力まで加圧する。その後、半田の温度を溶融温度未満の温度まで下げて回路基板と半導体素子とを半田付けする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板に半導体素子を鉛フリー半田によって半田付けする半田付け方法、及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス基板の一面に配線層が形成されるとともに他面に金属層が形成されてなる回路基板を用いた半導体装置が知られている。この半導体装置は、例えば、回路基板の配線層上に、MOSFETやIGBT等の半導体素子を半田付けすることにより製造される。
【0003】
ところで、半導体素子の半田付けでは、半田を溶融させて凝固させるまでの過程において、半田層の中にボイドが発生する場合がある。回路基板と半導体素子とを接合する半田層の中に多くのボイドが発生すると、ボイドの存在によって半田層における電気や熱の抵抗が高くなってしまう。さらに、1つのボイドが大きいと半導体素子が発する電気や熱が当該大きなボイドを迂回して回路基板側に流れることになるため、大きなボイドの周縁部に位置する半導体素子の部位には局所的な高温領域(ホットスポット)が生じ、半導体素子の破壊に繋がる虞がある。
【0004】
そこで、半田層の中にボイドが発生することを抑制するための提案がなされている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1では、密閉可能な容器内に、回路基板と半導体素子との間に鉛フリー半田を介在させた半田付け対象物を収容するとともに、容器内に還元性ガスを供給し、容器内の圧力を大気圧(常圧)以上の圧力まで加圧した状態で半田付けを行うことを提案している。この半田付け方法において、加圧状態は、半田の溶融開始から当該半田が凝固するまでの半田溶融域において維持される。
【特許文献1】特開2007−180447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の半田付け方法でも半田層の中にボイドが発生してしまうことが本発明者の実験によって確認されている。
また、近年では、環境への対応から半導体素子の半田付けに鉛フリー半田を用いることが多くなっている。鉛フリー半田は、溶融温度が通常の半田に比較して高いことや、半田付け時の濡れ性が悪いという特性を有する材料である。半田付け時の濡れ性が悪いと、半田が半導体素子の接合領域全体にわたって濡れ広がらずに、半導体素子の接合領域と回路基板との間に半田が存在しない半田未付着部分が生じてしまうことになる。MOSEFTやIGBT等の比較的大型の半導体素子を用いる場合には、この半田未付着部分による損失が大きな問題となる。
【0006】
鉛フリー半田の濡れ性を改善する方法として、フラックスを用いることが考えられる。ところが、フラックスを用いると半田付けを行った後に、フラックスの洗浄工程が必要となり、半田付けの工程数が増加してしまうという新たな問題が発生する。
【0007】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、鉛フリー半田を用いた半田付けにおいて、ボイドの発生を抑制しつつ、フラックスを用いることなく半田の濡れ性を良好なものにして半田付けを行うことができる半田付け方法、及び半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の半田付け方法は回路基板と半導体素子との間に鉛フリー半田を介在させた半田付け対象物を容器内に収容して該容器内を還元性ガスを含む第1雰囲気ガスで満たした後、前記第1雰囲気ガスによって前記容器内を大気圧より大きい一次加圧圧力に加圧し、前記容器内の圧力を前記一次加圧圧力に維持した状態で前記半田を該半田の溶融温度以上の高溶融温度まで加熱して前記半田を溶融させ、前記容器内の圧力を前記一次加圧圧力に維持した状態で前記半田の温度を前記高溶融温度で一定時間保持し、前記半田の温度を前記高溶融温度に維持した状態で前記容器内を減圧して真空状態にし、前記半田の温度を前記溶融温度以上とした状態で、不活性ガスを含む第2雰囲気ガスによって前記容器内を前記真空状態から前記一次加圧圧力より大きい二次加圧圧力まで加圧し、その後、前記容器内の圧力を前記二次加圧圧力に維持した状態で前記半田の温度を前記溶融温度未満の温度まで下げて前記半田を凝固させ、前記回路基板と前記半導体素子との半田付けを行うことを要旨とする。
【0009】
また、請求項5に記載の発明は、回路基板に半導体素子を鉛フリー半田によって半田付けしてなる半導体装置の製造方法であって、回路基板と半導体素子との間に鉛フリー半田を介在させた半田付け対象物が収容された容器内を還元性ガスを含む第1雰囲気ガスで満たした後、前記第1雰囲気ガスによって前記容器内を大気圧より大きい一次加圧圧力に加圧し、前記容器内の圧力を前記一次加圧圧力に維持した状態で前記半田を該半田の溶融温度以上の高溶融温度まで加熱して前記半田を溶融させ、前記容器内の圧力を前記一次加圧圧力に維持した状態で前記半田の温度を前記高溶融温度で一定時間保持し、前記半田の温度を前記高溶融温度に維持した状態で前記容器内を減圧して真空状態にし、前記半田の温度を前記溶融温度以上とした状態で、不活性ガスを含む第2雰囲気ガスによって前記容器内を前記真空状態から前記一次加圧圧力より大きい二次加圧圧力まで加圧し、その後、前記容器内の圧力を前記二次加圧圧力に維持した状態で前記半田の温度を前記溶融温度未満の温度まで下げて前記半田を凝固させ、前記回路基板と前記半導体素子との半田付けを行うことを要旨とする。
【0010】
請求項1及び請求項5に記載の発明によれば、容器内を大気圧より大きい一次加圧圧力まで加圧した状態で半田を溶融させるため、溶融した半田の界面周囲には大気圧より大きい一次加圧圧力にある第1雰囲気ガスが存在することになる。また、半田はその溶融温度よりも高い温度である高溶融温度にまで加熱されて溶融状態が維持されている。このため、半田の濡れ性を良好なものにすることができる。これは、溶融温度よりも高い温度にまで加熱されて表面張力が低下している溶融状態の半田の界面が周囲に存在する第1雰囲気ガスにより外側方向へ強く引っ張られることによるものであると考えられる。さらに、本発明では、半田の温度を高溶融温度に維持した状態で容器内の真空引きを行うことで、溶融半田層に存在する比較的大きなボイドを、該溶融半田層より外部に抜き出すことができる。そして、真空引きに連続して容器内を一次加圧圧力より大きい二次加圧圧力まで加圧することにより、真空引きによって抜き出せなかった溶融半田層中の微小ボイドを押し潰すことができる。その結果、鉛フリー半田を用いても、ボイドの発生を効果的に抑制するとともに、フラックスを用いることなく半田の濡れ性を良好なものとすることができる。
【0011】
また、前記容器内の圧力を前記真空状態から前記二次加圧圧力にする加圧は、前記半田の加熱を停止して前記半田が降温状態にある間に行われるとしてもよい。これによれば、容器内を真空引きする間に半田の加熱が停止され、半田の温度が下がり始めた状態において容器内を二次加圧圧力にする加圧が行われるので、半田付けに係る時間を短くすることができる。
【0012】
また、前記高溶融温度は前記半田の溶融温度よりも50℃以上高い温度であってもよい。そして、前記第1雰囲気ガスは不活性ガスである窒素と還元性ガスである水素との混合ガスであり、前記第1雰囲気ガス中の前記水素の割合は前記窒素よりも少ないとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉛フリー半田を用いた半田付けにおいて、ボイドの発生を抑制しつつ、フラックスを用いることなく半田の濡れ性を良好なものにして半田付けを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図6にしたがって説明する。
図1及び図2は、半導体装置としての半導体モジュール10を示している。半導体モジュール10は、四角板状をなす回路基板11と、この回路基板11に半田付けされる四角板状の半導体素子12、及び四角板状の基台13とから構成されている。回路基板11は、セラミックス基板14の両面に金属板15,16を接合して構成されている。セラミックス基板14は、例えば、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ケイ素などにより形成されている。また、金属板15は、配線層として機能し、例えば、アルミニウム(純アルミニウム及びアルミニウム合金)や銅などで形成されている。半導体素子12は、金属板15に半田付けされている。図2の符号「H」は、半田層を示している。この半田層Hは、四角シート状の半田シート33(図3参照)によって形成され、半田シート33は、錫を主成分として鉛以外の金属との合金からなる鉛フリー半田によって形成されている。
【0015】
半導体素子12は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor )やダイオードからなり、回路基板11(金属板15)には複数(本実施形態では4つ)の半導体素子12が半田付けされている。また、金属板16は、セラミックス基板14と基台13とを接合する接合層として機能し、例えば、アルミニウムや銅などで形成されている。なお、基台13は半導体素子を冷却する冷却器(ヒートシンク)である。
【0016】
図3は、半田付けに用いる半田付け装置HKの構成を概略的に示している。半田付け装置HKは、回路基板11(金属板15)に半導体素子12を半田付けするための装置として構成されている。また、本実施形態の半田付け装置HKは、図5に示すように、6枚の回路基板11で構成される半導体モジュール(半導体装置)100の半田付けを行う装置として構成されている。このため、半導体モジュール100には、24個の半導体素子12が半田付けされるようになっている。
【0017】
半田付け装置HKは、密閉可能な容器(チャンバ)17を備え、この容器17は開口部18aを有する箱型の本体部材18と、この本体部材18の開口部18aを開放及び閉鎖する蓋部材19とから構成されている。本体部材18内には、半導体モジュール100を位置決めし、支持する支持台20が設置されている。また、本体部材18には、蓋部材19の装着部位にパッキン21が配設されている。
【0018】
蓋部材19は、本体部材18の開口部18aを閉鎖可能な大きさで形成されており、本体部材18に蓋部材19を装着することにより容器17内には密閉空間Sが形成されるようになっている。また、蓋部材19において、密閉空間Sと対向する部位は、非磁性かつ電気的絶縁材で形成されている。本実施形態では、電気的絶縁材としてガラスが用いられており、蓋部材19にはガラス板22が組み付けられている。
【0019】
また、本体部材18には、容器17内に還元性ガス(本実施形態では水素(H))を供給するための還元性ガス供給部23が接続されている。還元性ガス供給部23は、配管23aと、この配管23aの開閉バルブ23bと、減圧弁23cと、水素タンク23dとを備えている。減圧弁23cは、開閉バルブ23bを介して導入した水素タンク23dからの水素ガスの圧力を一定圧にし、容器17内に供給するようになっている。
【0020】
また、本体部材18には、容器17内に不活性ガス(本実施形態では窒素(N))を供給するための不活性ガス供給部24が接続されている。不活性ガス供給部24は、配管24aと、この配管24aの開閉バルブ24bと、窒素タンク24cとを備えている。
【0021】
また、本体部材18には、容器17内を真空引きするための真空部25が接続されている。真空部25は、配管25aと、この配管25aの開閉バルブ25bと、真空ポンプ25cとを備えている。また、本体部材18には、容器17内に充満したガスを外部に排出するためのガス排出部26が接続されている。ガス排出部26は、配管26aと、この配管26aの開閉バルブ26bと、絞り弁26cとを備えている。
【0022】
そして、容器17内のガスは、絞り弁26cによって排出量が調整され、外部に排出される。半田付け装置HKは、還元性ガス供給部23、不活性ガス供給部24、真空部25及びガス排出部26を備えることにより、密閉空間S内の圧力を調整可能な構成とされており、容器17内は圧力調整によって加圧されたり、減圧されたりする。
【0023】
また、本体部材18には、容器17内において温度を計測する温度センサ(例えば、熱電対など)27が設置されている。本実施形態において温度センサ27は、半導体素子12と金属板15の接合部位(半田付けを行う部位)の温度を計測し得るように容器17内に設置されている。
【0024】
半田付け装置HKの上部(蓋部材19の上部)には、高周波加熱コイル28が設置されている。本実施形態において高周波加熱コイル28は、図5に示すように、6枚の回路基板11に各別に対応するように6つの高周波加熱コイル28が各回路基板11の上側に配置されている。本実施形態の高周波加熱コイル28は、1枚の回路基板11を覆う大きさに形成されている。また、図3に示すように、各高周波加熱コイル28は、渦巻き状(角形の渦巻き状)に形成されており、平面的に展開されている。また、各高周波加熱コイル28は、蓋部材19(ガラス板22の装着部位)に対向するように配置されている。また、各高周波加熱コイル28は、半田付け装置HKが備える高周波発生装置29に電気的に接続されているとともに、容器17内に設置された温度センサ27の計測結果に基づき、所定の温度に制御されるようになっている。また、各高周波加熱コイル28には、コイル内部に冷却水を通すための冷却路30が形成されているとともに、半田付け装置HKが備える冷却水タンク31に接続されている。
【0025】
図4は、半田付けを行う際に使用する治具32を示している。治具32は、回路基板11を構成するセラミックス基板14と同一の大きさをなす平板状に形成されている。治具32は、例えば、グラファイトやセラミックスなどの材料で形成されている。治具32は、図3に示すように、半田付け時において回路基板11上に半田シート33と、半導体素子12とを位置決めするために使用される。このため、治具32には、回路基板11における半導体素子12の接合部位に対応する部位に位置決め用の貫通孔34が形成されている。貫通孔34は、半導体素子12及び半田シート33のサイズに応じた大きさで形成されている。そして、本実施形態においては、回路基板11上に複数個(4つ)の半導体素子12が接合されるので、治具32には複数個(4つ)の貫通孔34が形成されている。
【0026】
次に、前述した半田付け装置HKを用いて半導体素子12の半田付けを行う方法について説明する。なお、図3に示す半田付け装置HKを用いて半田付けを行う場合には、回路基板11に基台13を予め接合しておく。
【0027】
半田付けを行う際には、最初に、本体部材18から蓋部材19を外し、開口部18aを開放する。そして、図3に示すように本体部材18の支持台20に、回路基板11が接合された基台13を置き、この基台13を位置決めする。次に、各回路基板11(セラミックス基板14)上に治具32を置き、治具32の各貫通孔34内に、鉛フリー半田よりなる半田シート33と半導体素子12を配置する。すなわち、回路基板11と半導体素子12との間に半田シート33を介在させた半田付け対象部を容器17内に収容する。
【0028】
次に、蓋部材19を本体部材18に取り付け、開口部18aを閉鎖し、容器17内に密閉空間Sを形成する。密閉空間S内に半田付け対象物を収容した状態(図3に示す)において、各高周波加熱コイル28は、半田付け対象物の上方に配置されるとともに、各高周波加熱コイル28と半田付け対象物との間には蓋部材19に組み付けられたガラス板22が配置される。
【0029】
次に、容器17内のガス置換を行う。まず、真空部25を操作して容器17内を真空引きするとともに、不活性ガス供給部24を操作して容器17内に窒素を供給し、密閉空間S内を不活性ガスで充満させる。この真空引きと窒素の供給を数回繰り返す。
【0030】
次に、不活性ガス供給部24及び還元性ガス供給部23を操作して容器17内に窒素及び水素を供給し、水素(還元性ガス)と窒素(不活性ガス)との混合ガスによって、すなわち、第1雰囲気ガスによって、容器17内を大気圧より大きい一次加圧圧力まで加圧するとともに、その一次加圧圧力を維持する(一次加圧工程)。なお、第1雰囲気ガスは、還元性ガスである水素が、第1雰囲気ガスの全体容量に対して5〜10%の割合で含まれているのが好ましい。すなわち、第1雰囲気ガス中の水素の割合は窒素よりも少なくなっている。また、一次加圧圧力は、半田の濡れ性を良好にするために大気圧より大きい圧力に設定されればよく、例えば、0.16Mpaに設定される。
【0031】
次に、容器17内が還元性ガスを含む第1雰囲気ガスによって一次加圧圧力に加圧された状態で、高周波発生装置29を作動させ、各高周波加熱コイル28に高周波電流を流して、各高周波加熱コイル28によって半田シート33を加熱する(加熱工程)。すると、半田シート33は、加圧状態の中で温度が半田の溶融温度以上の温度になることにより溶融する。そして、半田シート33は、温度センサ27の計測結果に基づき、半田シート33の溶融温度(例えば、221°C)より高い温度である高溶融温度まで加熱される。なお、この高溶融温度は、半田の溶融温度より50°C以上高い温度に設定されるのが好ましく、50〜80°C高い温度に設定されるのが特に好ましい。この実施形態では、半田の濡れ性を良好とするために、高溶融温度を半田の溶融温度より60°C以上高い温度に設定している。
【0032】
次に、温度センサ27の計測結果に基づき、高周波発生装置29によって高周波加熱コイル28を制御して、半田の温度を高溶融温度に一定時間保持し、半田を溶融させた状態で、真空部25を操作して容器17内を真空引きして減圧し、容器17内を真空状態にする(真空工程)。この真空引きは、容器17内の圧力が0.0005〜0.01MPa(低真空)以下となるまで行われるのが好ましい。
【0033】
そして、容器17内が低真空以下の圧力となった後に、高周波発生装置29を停止させて半田の加熱を停止する。すると、高溶融温度にある半田の温度が徐々に低下して、半田の降温が開始する。
【0034】
そして、降温状態にある半田が溶融温度以上にあるうちに不活性ガス供給部24を操作して容器17内に窒素からなる(不活性ガスを含む)第2雰囲気ガスが供給され、該第2雰囲気ガスによって容器17内の圧力を真空状態から一次加圧圧力より大きい二次加圧圧力まで加圧する。この二次加圧圧力は、溶融した半田が凝固するまで維持される(二次加圧工程)。よって、半田の凝固は、半田が不活性ガスを含む第2雰囲気ガスによって二次加圧圧力で加圧された状態で行われる。
【0035】
そして、溶融した半田は、溶融温度未満に冷却されることによって凝固し、金属板15と半導体素子12とを接合する。金属板15と半導体素子12とが接合することで半導体モジュール100が完成する。そして、蓋部材19を本体部材18から取り出し、治具32を外した後に容器17内から半導体モジュール100を取り出す。なお、半導体モジュール100を容器17から取り出す際、容器17内のガスはガス排出部26を介して大気開放される。
【0036】
以下、本実施形態の半田付けにおいて加熱時及び冷却時に容器17内の内部雰囲気を調整する態様を、図6に示す実験例を用いて説明する。
実験例で用いた半導体モジュール10の各寸法は、以下のとおりである。
【0037】
セラミックス基板14は、窒化アルミニウムからなり、30mm×30mmの四角形で、厚み0.635mmである。金属板15,16は、純アルミニウム(例えば、工業用純アルミニウムである1000系アルミニウム)からなり、27mm×27mmの四角形で、厚み0.4mmである。半導体素子12は、厚み0.35mmである。半田シート33は、Sn(錫)−Cu(銅)−Ni(ニッケル)−P(リン)系の鉛フリー半田からなり、四角形であるとともに厚み0.1mm〜0.2mmである。
【0038】
実験例では、図6のグラフに示すように容器17内の圧力及び温度を変遷(調整)させている。なお、図6のグラフにおける実線によって容器17内の圧力の変遷を示し、破線によって半田の温度の変遷を示している。
【0039】
まず、容器17内の真空引きと窒素の供給を数回繰り返し、容器17内のガス置換を行う。次に、一次加圧工程を行い、第1雰囲気ガス(窒素+水素)によって容器17内を、大気圧より大きい一次加圧圧力(0.16MPa)まで加圧するとともに、一次加圧圧力に加圧した状態を維持する。
【0040】
次に、容器17内を一定の一次加圧圧力に保った状態で、加熱工程を行い、半田シート33を溶融温度よりも高い高溶融温度(301°C)になるまで加熱し、溶融した半田の温度を高溶融温度に維持する。次に、溶融した半田の温度が高溶融温度に維持された状態で、真空工程を行い、容器17内の圧力を0.0005MPa(低真空)以下まで減圧させる。
【0041】
容器17内の圧力が低真空以下に維持された状態で、高周波発生装置29による加熱を停止する。すると、半田温度の低下が始まる。そして、半田の温度が溶融温度以上の状態で、二次加圧工程を開始し、第2雰囲気ガス(窒素)によって容器17内を一次加圧圧力より大きい二次加圧圧力(0.2MPa)まで加圧し、その加圧状態を維持する。そして、加圧状態を維持しながら半田を凝固させる。図6のグラフの横には、実験例で半田付けした場合の半導体素子12の裏面側(接合面側)を示したX線写真を掲載している。X線写真では、最も色が濃くなっている部分が半田層Hである。このX線写真によれば、半田層Hの四つの角部にまで半田層Hが延びており、ボイドについてもほとんど確認できなかった。
【0042】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の半田付け方法においては、容器17内を大気圧より大きい一次加圧圧力まで加圧した状態で、半田シート33を溶融温度以上の高溶融温度まで加熱して溶融させているので、半田の濡れ性を良好なものとすることができる。これは、溶融温度よりも高い温度にまで加熱されて表面張力が低下している溶融状態の半田の界面が周囲に存在する第1雰囲気ガスにより外側方向へ強く引っ張られることによるものであると考えられる。したがって、半田層Hは半導体素子12の四つの角部にまで延びており、すなわち、半田が半導体素子12の接合領域全体にわたって濡れ広がっており、半導体素子12の接合領域と回路基板11との間に半田層Hが存在しない半田未付着部分が生じてしまうことを防止することができる。
【0043】
さらに、半田の温度を高溶融温度に維持した状態で、容器17内を真空引きしている。このため、溶融半田層に存在する比較的大きなボイドを溶融半田層から引き抜くことができる。そして、真空引きに連続して容器17内を一次加圧圧力よりも大きい二次加圧圧力まで加圧することで溶融半田層に残る微小ボイドを押し潰すことができる。その結果として、鉛フリー半田を用いてもボイドの発生を抑制することができ、さらに、フラックスを用いることなく半田の濡れ性を良好なものとすることができる。そして、フラックスを用いないため、フラックスの洗浄工程も必要とせず、半田付け作業を簡単に行うことができる。
【0044】
(2)容器17内の圧力を真空状態から二次加圧圧力にする加圧は、半田の加熱を停止して半田が降温状態にある間に行われる。このため、容器17内を真空引きする間に半田の加熱が停止され、半田の温度が下がり始めた状態において容器17内を二次加圧圧力にする加圧が行われるので、半田付けに係る時間を短くすることができる。
【0045】
(3)容器17内を一次加圧圧力まで加圧する工程を行う際、一次加圧圧力の値は一定に保たれる。このため、例えば、一次加圧圧力を漸増させて加圧する場合に比して、二次加圧圧力まで加圧する工程において、その二次加圧圧力を低くすることができる。
【0046】
(4)容器17内を一次加圧圧力まで加圧するための第1雰囲気ガスは、窒素と水素との混合ガスであるため、還元性ガスである水素によって溶融した半田が酸化することを防ぐことができ、濡れ性の改善に寄与することができる。さらに、第1雰囲気ガス中の水素の割合は窒素よりも少ないため、水素の割合を窒素より多くする場合に比して第1雰囲気ガスに係るコストを抑えることができる。
【0047】
(5)容器17内を一次加圧圧力まで加圧する工程は、半田シート33を加熱する前から開始される。このため、半田が溶融温度に達する前に、容器17内を一次加圧圧力まで加圧した状態にすることができる。
【0048】
(6)高溶融温度は、鉛フリー半田の溶融温度より50°C以上高い温度に設定されているため、半田の濡れ性を良好なものとすることができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0049】
○ 実施形態では、一次加圧工程において、第1雰囲気ガスを窒素と水素との混合ガスとしたが、第1雰囲気ガスを水素のみとしてもよい。
○ 実施形態では、二次加圧工程において、第2雰囲気ガスを窒素としたが、第2雰囲気ガスを窒素と水素との混合ガスとしてもよい。
【0050】
○ 実施形態では、一次加圧工程において容器内の一次加圧圧力を一定に保つようにしたが、一次加圧圧力を漸増させてもよい。
○ 実施形態では、溶融した半田の温度が下がる最中に、二次加圧圧力による加圧を開始したが、溶融した半田の温度が高溶融温度にあるうちから二次加圧圧力による加圧を開始してもよい。
【0051】
○ 還元性ガスは、水素を含むガスに限らず、ホルムアルデヒドを含むなど他の組成のガスであっても良い。
○ 実施形態では、高周波加熱コイル28による高周波誘導加熱により加熱を行っているが、加熱の方法は変更しても良い。例えば、容器17内にヒータを設けて加熱してもよい。
【0052】
○ 半田付けされる半田付け対象物としては、基台13を接合していない状態の回路基板11でも良い。この場合、本実施形態の容器17内には、回路基板11と半導体素子12からなる半導体装置が収容されて半田付けされることとなる。また、半田付け対象物(半導体モジュール100)を6個の回路基板11で構成したが、回路基板11の数は変更しても良い。
【0053】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(1)前記高溶融温度は、前記半田の溶融温度より50〜80℃高い温度である請求項3に記載の半田付け方法。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】半導体モジュールの平面図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】半田付け装置の縦断面図。
【図4】治具の平面図。
【図5】半導体モジュールと高周波加熱コイルの配置を示す模式図。
【図6】実験例における圧力及び温度の変遷を示すグラフとX線写真。
【符号の説明】
【0055】
10,100…半導体装置としての半導体モジュール、11…回路基板、12…半導体素子、17…容器、33…鉛フリー半田としての半田シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板と半導体素子との間に鉛フリー半田を介在させた半田付け対象物を容器内に収容して該容器内を還元性ガスを含む第1雰囲気ガスで満たした後、前記第1雰囲気ガスによって前記容器内を大気圧より大きい一次加圧圧力に加圧し、
前記容器内の圧力を前記一次加圧圧力に維持した状態で前記半田を該半田の溶融温度以上の高溶融温度まで加熱して前記半田を溶融させ、
前記容器内の圧力を前記一次加圧圧力に維持した状態で前記半田の温度を前記高溶融温度で一定時間保持し、
前記半田の温度を前記高溶融温度に維持した状態で前記容器内を減圧して真空状態にし、
前記半田の温度を前記溶融温度以上とした状態で、不活性ガスを含む第2雰囲気ガスによって前記容器内を前記真空状態から前記一次加圧圧力より大きい二次加圧圧力まで加圧し、
その後、前記容器内の圧力を前記二次加圧圧力に維持した状態で前記半田の温度を前記溶融温度未満の温度まで下げて前記半田を凝固させ、前記回路基板と前記半導体素子との半田付けを行うことを特徴とする半田付け方法。
【請求項2】
前記容器内の圧力を前記真空状態から前記二次加圧圧力にする加圧は、前記半田の加熱を停止して前記半田が降温状態にある間に行われる請求項1に記載の半田付け方法。
【請求項3】
前記高溶融温度は前記半田の溶融温度よりも50℃以上高い温度である請求項1又は請求項2に記載の半田付け方法。
【請求項4】
前記第1雰囲気ガスは不活性ガスである窒素と還元性ガスである水素との混合ガスであり、前記第1雰囲気ガス中の前記水素の割合は前記窒素よりも少ない請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の半田付け方法。
【請求項5】
回路基板に半導体素子を鉛フリー半田によって半田付けしてなる半導体装置の製造方法であって、
回路基板と半導体素子との間に鉛フリー半田を介在させた半田付け対象物が収容された容器内を還元性ガスを含む第1雰囲気ガスで満たした後、前記第1雰囲気ガスによって前記容器内を大気圧より大きい一次加圧圧力に加圧し、前記容器内の圧力を前記一次加圧圧力に維持した状態で前記半田を該半田の溶融温度以上の高溶融温度まで加熱して前記半田を溶融させ、前記容器内の圧力を前記一次加圧圧力に維持した状態で前記半田の温度を前記高溶融温度で一定時間保持し、前記半田の温度を前記高溶融温度に維持した状態で前記容器内を減圧して真空状態にし、前記半田の温度を前記溶融温度以上とした状態で、不活性ガスを含む第2雰囲気ガスによって前記容器内を前記真空状態から前記一次加圧圧力より大きい二次加圧圧力まで加圧し、その後、前記容器内の圧力を前記二次加圧圧力に維持した状態で前記半田の温度を前記溶融温度未満の温度まで下げて前記半田を凝固させ、前記回路基板と前記半導体素子との半田付けを行うことを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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