説明

半結晶および/または加水分解なブロックとエラストマーブロックと非晶質ブロックとを有するトリブロックコポリマーの製造方法

【課題】半結晶および/または加水分解性ブロックとエラストマーブロックと非晶質ブロックとからなる一連の単位を有するブロックコポリマーの製造方法と、その非晶質マトリクスの衝撃改質剤としての使用。
【解決手段】(a)半結晶および/または加水分解性ポリマーの末端エチレン基に下記式(II)に対応するアルコキシアミンを1,2−付加する段階、(b)(a)段階で得られた媒体にエラストマーブロックの一種以上の前駆体モノマーを添加して半結晶および/または加水分解性ブロック−b−エラストマーブロックジブロックコポリマーを得る段階、(c)(b)段階で得られた媒体に非晶質ブロックの一種以上の前駆体モノマーを添加して半結晶および/または加水分解性ブロック−b−エラストマーブロック−b−非晶質ブロックトリブロックコポリマーを得る段階からなる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半結晶および/または加水分解なブロックとエラストマーブロックと非晶質ブロックとを有するトリブロックコポリマーを特定のアルコキシアミンを用いた制御されたラジカル重合(polymerisation radicaire controlee)によって製造する方法に関するものである。
本発明のトリブロックコポリマーは非常に高い引張強度を有する材料を必要とする分野に特に適しており、特に、脆い非晶質ポリマーから成るマトリクスの衝撃改質剤として用いることができる。
ブロックの一つが加水分解性の場合、本発明のコポリマーはナノ多孔質フィルムの成膜または防汚塗料成分として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、半結晶ブロックとエラストマーブロックと非晶質ブロックとを有するブロックコポリマーは基本的にイオン重合、例えばアニオン重合またはカチオン重合で製造されてきた。
非特許文献1(Balsamo et al.,Macromolecular Chemistry and Physics 1996, 197, 1159_1169)には、ポリスチレン−b−ポリブタジエンジブロックコポリマーの鎖末端をジフェニルエチレンで変性した後にスチレン、ブタジエンを逐次重合し、最後にe−カプロラクトンをアニオン重合してポリスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリ(e−カプロラクトン)トリブロックコポリマーを製造することが記載されている。
【0003】
非特許文献2(Abetz et al.,Macromolecules 2001, 34, 8720_8729)にはポリスチレン−b−ポリ(エチレン−alt−プロピレン)−b−ポリエチレン(PS−b−PEP−b−PE)ブロックコポリマーの合成方法が記載されている。ここで、PEは半結晶ブロックを表し、PSは非晶質ブロックを表し、PEPはエラストマーブロックを表す。この合成方法ではスチレンとイソプレンと1,4−ブタジエンとを逐次アニオン重合した後にポリイソプレンブロックとポリブタジエンブロックとを部分水素化して上記トリブロックコポリマーが得られる。
【0004】
非特許文献3(Faust et Kwon,Journal of Macromolecular Science, Part A : Pure and Applied Chemistry 2004, 42, 385_401)にはポリ(α−メチルスチレン)−b−ポリイソブチレン−b−ポリピバラクトンブロックコポリマーの合成が記載されている。ここで、ポリ(α−メチルスチレン)によって非晶質性が与えられ、ポリイソブチレンによってエラストマー性が与えられ、ポリピバラクトンによって半結晶性が与えられる。この合成は方法ではα−メチルスチレンとイソブチレンとを逐次カチオン重合した後にポリ(α−メチルスチレン)−b−ポリイソブチレンジブロックコポリマーの鎖末端を化学的に変性し、その後にピバラクトンをアニオン重合する。
【0005】
非特許文献4(Bates et al.,Macromolecules 2001, 34, 6994_7008)にはスチレン、イソプレンおよびエチレンオキシドのアニオン重合とを組合た逐次プロセスでポリスチレン−b−ポリイソプレン−b−ポリエチレンオキシドトリブロックコポリマーを合成する方法が記載されている。
【0006】
非特許文献5(Hillmyer,Chemical Materials 2006, 18, 1719_1721)にはエラストマーポリイソプレンブロックと非晶質ポリスチレンブロックと生分解性ポリ(乳酸)ブロックとを有するポリ(乳酸)−b−ポリイソプレン−b−ポリスチレンブロックコポリマーが記載されている。このコポリマーはスチレンとイソプレンとをアニオン重合し、乳酸をトリエチルアルミニウムの存在下で配位挿入重合して合成される。
【0007】
イオン(カチオンおよび/またはアニオン)重合をベースにしたこれらの種々のプロセスには溶媒中の痕跡量の不純物、特に痕跡量の水に極めて敏感であるという意味で、いくつかの欠点がある。さらに、これらのプロセスでは広範囲のモノマーの重合反応を制御することができない。
下記式の末端によって活性化されたポリカプロラクトン(TEMPOとよばれる)をマクロ開始剤として用いた制御されたラジカル重合技術を用いることを述べている著者もいる:
【0008】
【化1】

【0009】
角括弧はTEMPO末端がポリカプロラクトンに結合する場所を示す。
この活性化されたポリカプロラクトン(PCL−TEMPO)はリビングポリマーとして用いてスチレンを重合してポリカプロラクトン−b−ポリスチレンジブロックコポリマーを構成する。TEMPOニトロオキシドによるn−ブチルアクリレートの重合の制御を反応媒体へのアスコルビン酸の制御された添加でしか行うことができないので、PCL−TEMPOからポリカプロラクトン−b−ポリ(n−ブチルアクリレート)ジブロックコポリマーを合成することは制限される。
【0010】
非特許文献6(Macromolecules, 1999, 32, 8356-8362)には下記段階を有するジブロックポリ(ブタジエン)−b−ポリ(スチレン)の製造方法が記載されている:
a)ブタジエンをsec-ブチルリチウムとアニオン重合する段階、
b)ポリブタジエン-Liを下記式のアルコキシアミンと反応させる段階:
【0011】

この段階の終わりに下記ポリマーが得られる:
【0012】

【0013】
c)上記段階で得られたリビングポリマーをスチレンとリビングラジカル重合する段階、この段階の終わりに下記ポリマーがえられる:

【0014】
この文献には半結晶および/または加水分解なブロックとエラストマーブロックと非晶質ブロックとを有するコポリマーの製造方法は記載がない。
【0015】
特許文献1(フランス特許第FR 2789991号公報)、特許文献2(国際特許第WO 00/71501号公報)、特許文献3(欧州特許第EP 1526138号公報)、特許文献4(フランス特許第FR 2866026号公報)には加水分解なアルコキシルアミンと、このアルコキシルアミンから(コ)ポリマーを製造する方法が記載されている。しかし、この文献には半結晶および/または加水分解なブロックとエラストマーブロックと非晶質ブロックとを有するコポリマーの製造方法は記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】フランス特許第FR 2789991号公報
【特許文献2】国際特許第WO 00/71501号公報
【特許文献3】欧州特許第EP 1526138号公報
【特許文献4】フランス特許第FR 2866026号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Balsamo et al. (Macromolecular Chemistry and Physics 1996, 197, 1159_1169)
【非特許文献2】Abetz et al. (Macromolecules 2001, 34, 8720_8729)
【非特許文献3】Faust et Kwon (Journal of Macromolecular Science, Part A : Pure and Applied Chemistry 2004, 42, 385_401)
【非特許文献4】Bates et al. (Macromolecules 2001, 34, 6994_7008)
【非特許文献5】Hillmyer (Chemical Materials 2006, 18, 1719_1721)
【非特許文献6】Macromolecules, 1999, 32, 8356-8362
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、各ブロックの重合を制御でき、しかも、イオン重合や上記定義のTEMPO型の開始剤を用いるラジカル重合の操作条件のような困難な操作条件を必要としない(半結晶および/または加水分解なブロック)−b−(エラストマーブロック)−b−(非晶質ブロック)トリブロックコポリマーの製造方法に対するニーズがある。このニーズは以下に説明する本発明によって満たされる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の対象は、下記の段階を含む、半結晶および/または加水分解ブロック、エラストマーブロックおよび非晶質ブロックを含むトリブロックコポリマーの製造方法にある:
(a)半結晶および/または加水分解なポリマーの末端エチレン基に下記式(I)に対応するアルコキシアミンを1,2−付加する段階:
【化2】

【0020】
(ここで、
1とR3は炭素原子数が1〜3の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、
2は水素原子、Li、NaまたはKのようなアルカリ金属、NH4+、NBu4+またはNHBu3+のようなアンモニウムイオン、炭素原子数が1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基、またはフェニル基を表す)
(b)半結晶および/または加水分解なブロック−b−エラストマーブロックのジブロックコポリマーを得るのに十分な時間、(a)段階で得られた媒体を一種または複数のエラストマーブロックの前駆体モノマーと接触させる段階、
(c)半結晶および/または加水分解なブロック−b−エラストマーブロック−b−非晶質ブロックのトリブロックコポリマーを得るのに十分な時間、(b)段階で得られた媒体を一種または複数の非晶質ブロックの前駆体モノマーと接触させる段階。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明の前に「エラストマーブロックの前駆体モノマー」および「非晶質ブロックの前駆体モノマー」とは重合後にそれぞれエラストマーブロックおよび非晶質ブロックの反復単位を構成するモノマーを意味するということを明確にしておく。また、Etはエチル基を意味し、Buはブチル基を意味し、種々の異性体で存在することができることを明確にしておく。
本発明方法は下記の点が特に新規である:
(1)半結晶および/または加水分解なポリマーのエチレン基にアルコキシアミンを1,2−付加して半結晶および/または加水分解なブロックを構成する点、
(2)アルコキシアミンからの基によって活性化された半結晶および/または加水分解なポリマーの制御されたラジカル重合を再開し、この重合の再開によってエラストマーブロックが共有結合した半結晶および/または加水分解なブロックを得る点、
(3)アルコキシアミンからの基によって活性化された一端を有するエラストマーブロックを含む半結晶および/または加水分解なブロック−b−エラストマーブロックのジブロックコポリマーの制御されたラジカル重合を再開する点、
(4)重合段階の制御特性の点。
【0022】
以下に、特定の実施例を用いて反応方法を説明する。
本発明方法の(a)段階では、半結晶および/または加水分解なポリマーを式(I)のアルコキシアミンと接触させる。このアルコキシアミンは1,2−付加反応に従ってポリマーのエチレン基と反応する。
半結晶および/または加水分解なポリマーは下記にすることができる:
(1)非加水分解性の半結晶ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンオキシドおよびポリアミド、
(2)加水分解可能な半結晶ポリマー、例えばポリカプロラクトン、L−ポリラクチドおよびポリ(L−ラクチド−コ−グリコール酸)コポリマーのような例えば重縮合反応で得られるポリマー、
(3)加水分解な非半結晶ポリマー、例えばDL−ポリラクチドおよびポリ(DL−ラクチド−コ−グリコール酸)コポリマー。
【0023】
「ポリラクチド」とはポリ−L−ラクチドおよびポリ−DL−ラクチドを意味する。これらのポリマーは予め製造するか、メーカーから購入できる。
「加水分解なポリマー」とは水性媒体中で加水分解によってその反復単位に分裂させることができるポリマーを意味する。加水分解はポリマーの特性に応じて酸性または塩基性の媒体中で行うことができる。
【0024】
末端エチレン基が上記ポリマーの一部を成さない場合、本発明方法は出発材料の半結晶および/または加水分解なポリマーの末端に末端エチレン基を導入するための官能化段階とよばれる段階を(a)段階の前に含むことができる。
例えば、−OH末端を有する出発材料の半結晶ポリマー、例えばω−ヒドロキシル化ポリカプロラクトンを使用する場合には、このポリマーを−OH末端との反応によってエチレン基を導入することができる化合物と反応させる必要がある。この化合物は酸、活性化エステルまたはハロゲン化アクリロイル、例えば塩化アクリロイルの中から選択できる。この場合、導入されるエチレン基はアクリレート基である。
【0025】
塩化アクリロイルを化合物として用いる反応法は以下にすることができる:
【化3】

【0026】
本発明では(半結晶および/または加水分解なブロックを構成するための)エチレン基を含む半結晶および/または加水分解なポリマーを上記定義のアルコキシアミンと接触させて下記反応方法に従って1,2−付加機構によりそれと反応させる:
【0027】
【化4】

【0028】
以下、上記のニトロオキシド末端を「SG1」とよぶことにする。
アルコキシアミンは一般に半結晶および/または加水分解なポリマーの重量に対して0.5〜80重量%の比率で導入され、数平均分子量Mnは1000〜100,000g.mol-1、好ましくは5000〜50,000g.mol-1の範囲内にすることができる。
【0029】
本発明で使用可能なアルコキシアミンは下記式(II)に対応するアルコキシアミンである:
【0030】
【化5】

【0031】
このアルコキシアミンは以下「MAMA−SG1」とよぶことにする。
SG1末端によって活性化された半結晶および/または加水分解なポリマーはリビングポリマーを構成し、エラストマーブロックの前駆体である一種または複数のモノマーの重合による第2ブロックの制御された合成を行うためのベースの役目をする。
エラストマーブロックの前駆体である(b)段階で導入されるモノマーは、アルキルアクリレート、例えばn−ブチルアクリレート、およびジエン、例えばイソプレンおよびブタジエンの中から選択することができる。
【0032】
(a)段階の最後に、得られたリビング半結晶および/または加水分解なポリマーからの重合を再開させるために、(b)段階でエラストマーブロックを構成するモノマーの他下記式に対応する制御剤とこの制御剤用の溶媒とを含む溶液を添加するのが有利である:
【0033】
【化6】

【0034】
溶媒はtert-ブチルベンゼン(t−BuBz)またはクロロベンゼンにすることができ、この溶媒はトランスファー反応には関与しない。
(b)段階の最後に下記式の基によってエラストマーブロックの末端が活性化された(半結晶および/または加水分解なブロック)−b−エラストマーブロックのジブロックコポリマーが得られる:
【0035】
【化7】

【0036】
角括弧はこの基がエラストマーブロックの末端に結合する場所を示す。
(半結晶および/または加水分解なブロック)−b−エラストマーブロックのジブロックコポリマーは上記の活性化末端によって一種または複数の非晶質ブロックの前駆体モノマーの重合による第3ブロックの制御された合成のベースの役目をする。
(c)段階で導入される非晶質ブロックの前駆体モノマーはアルキルメタクリレート、例えばメチルメタクリレート、スチレン、アクリル酸、アルキルメタクリルアミドまたは酢酸ビニルの中から選択することができる。
【0037】
(a)、(b)、(c)段階は一般に不活性ガス雰囲気、例えば窒素雰囲気下で、例えば反応系へ窒素を吹き込んで行うことができる。
(a)、(b)、(c)段階は20〜180℃、好ましくは40〜130℃の範囲の温度で行われる。
本発明方法は(a)、(b)、(c)の各段階の後に、(a)段階の最後にリビングポリマーを単離する段階、(b)段階のジブロックコポリマーを単離する段階、および、(c)段階のトリブロックコポリマーを単離する段階、例えば沈殿および濾過によって分離する段階を含むことができる。
【0038】
本発明方法は特に下記トリブロックコポリマーの製造に適している:
(1)半結晶ブロックがポリカプロラクトンブロックで、
(2)エラストマーブロックがポリ(n−ブチルアクリレート)ブロックで、
(3)非晶質ブロックがポリ(メチルメタクリレート)ブロックである。
構造的観点からは、本発明方法を用いることで(半結晶および/または加水分解なブロック)−b−(エラストマーブロック)−b−(非晶質ブロック)のトリブロックコポリマーを得ることができる。このコポリマーは非晶質ブロックに結合した下記式を有する末端基を有する:
【0039】
【化8】

【0040】
従って、本発明の第2の対象は本発明方法で得られるトリブロックコポリマーにある。
このトリブロックコポリマーは、半結晶および/または加水分解なブロックとエラストマーブロックと非晶質ブロックとからなる単位を有するので、脆性のあるポリマーのマトリクス(例えば、非晶質、熱硬化性または半結晶のポリマーマトリクス)のための衝撃改質剤としての高い潜在能力を有する。トリブロックコポリマーは上記マトリクスの重量に対して25〜50重量%の比率で導入できる。このトリブロックコポリマーはコア−クラウン型のナノ粒子の形で自己集合し、半結晶のコアと、エラストマーのクラウン(コポリマーが受ける応力を消散できる)と、非晶質ポリマーのクラウンを有することができる。マトリクスが非晶質ポリマーから成る場合は、非晶質クラウンを用いてナノ粒子と変性非晶質マトリクスとを相溶化させることができる。
【0041】
本発明のトリブロックコポリマーはポリマーマトリクス(非晶質、熱硬化性または半結晶にすることができる)の衝撃特性および/または耐衝撃性および/または機械強度を向上させるのに用いることができる。本発明の一つの実施例のポリマーマトリクスは非晶質ポリマーから成る。
ポリマーマトリクスはエポキシ、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデンまたはポリカーボネートにすることができる。
【0042】
特に、非晶質ポリスチレンまたはポリメチルメタクリレートブロックを含む本発明のトリブロックコポリマーでは、ポリスチレン、ポリエチレンオキシド、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデンまたはポリカーボネートから成るマトリクス中で衝撃改質剤の役目をすることができる。
従って、本発明は、非晶質、熱硬化性または半結晶ポリマー、例えばポリメチルメタクリレートのような非晶質ポリマーから成るマトリクスと、上記定義のトリブロックコポリマーとを含む複合材料にも関するものである。
【0043】
第1ブロックが半結晶で、しかも加水分解性である場合には、このブロックがキャビティを形成する能力を用いることもでき、このブロックの加水分解性を利用して生じる孔を利用する多くの用途が考えられる。すなわち、このコポリマーをナノ多孔性膜の形膜に用いることができ、必要に応じて、加水分解性コアの加水分解性を利用してナノ粒子を含むフィルムに孔を形成することもできる。
また、このコポリマーは防汚塗料の分野、特に船舶分野の防汚塗料の成分として利用することができる。簡単にいうと、このコポリマーの円筒形ナノ構造を利用して、加水分解性ブロックの分解後に塗装層が「方形波」構造になって保護表面を超疎水性とし、水およびその中に存在する微生物が船の側面に付着するのを防止することができる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(a)ポリカプロラクトンアクリレートの調製
三口丸底フラスコ中でω−ヒドロキシル化ポリカプロラクトンをジクロロメタン([OH]=10-2mol.l-1)中に溶かす。さらに、シリンジを用いて25当量の塩化アクリロイルを添加する。混合物を室温および不活性雰囲気下に攪拌して週末中放置する(反応時間は60時間以上)。続いて、ジクロロメタンを真空蒸発させるとポリマーが油の形で生じる。テトラヒドロフラン(THF)に再び溶かし、、低温メタノールからアクリレート基を末端に含むポリカプロラクトンを沈殿させ、ポリカプロラクトンをガラスろ過器で濾過し、メタノールで洗浄し、最後に真空ラインで数時間乾燥する。最終ポリマーは白色粉末である。この合成方法に従った官能化収率(1H NMRで測定)は100%である。反応時間は塩化アクリロイルの当量数を増やすか、媒体中のポリマー濃度を上げることで最適化できる。100当量の塩化アクリロイルを用いることで100%の官能化収率を20時間で達成できた。同様に、OH官能基の濃度を2.5×10-2mol.l-1まで上げると、反応で用いた溶媒の量を減らした後の反応は20時間で完了する。
得られるポリマーは下記式(III)に対応する:
【0045】
【化9】

【0046】
nは反復単位の数に対応し、88である。
NMR分析の結果は以下の通り:
【0047】
【化10】

【0048】
(b)ポリカプロラクトンアクリレートへのMAMA−SG1の1,2−付加
式(III)の末端アクリレート基を含むポリカプロラクトンをRotaflo栓を備えたシュレンク管に導入する。THFで調製した下記式(II)のMAMA−SG1の溶液を上記の式(III)のポリカプロラクトンに導入する(アクリレート官能基の最適濃度は0.05mol.l-1):
【0049】
【化11】

【0050】
MAMA−SG1を含むTHFで調製したポリカプロラクトン(III)の懸濁液を30分間、窒素を吹き込んで脱酸素する。シュレンク管を100℃の油浴にさらに1時間浸漬する。媒体は100℃で急速に均質化する(溶融することでポリマーの溶解性が良くなる)。シュレンク管を冷却後、一口丸底フラスコに、シュレンク管の洗浄に用いるTHFと一緒に反応媒体を移す。SG1鎖末端を損傷しないように、媒体を30℃の最高温度で真空蒸発してわずかに再濃縮する。続いて、低温メタノールから沈殿したポリマーを濾過し、メタノールで洗浄する。最後に、白色粉末に対応するポリマーを真空ラインで乾燥する。
このポリマーは下記式に対応する:
【0051】
【化12】

【0052】
以下、このポリマーをPCL−SG1とよぶことにする。
このリビング特性(100%)を下記論文に記載の方法に従って31P NMRおよびEPRで測定した。
【非特許文献7】Bertinet. al., e-polymer、2003、No.2
【非特許文献8】Bertin et al., Macromolecules、2002、35、3790-3791
【0053】
NMR分析の結果は以下の通り:
【0054】
【化13】

【0055】
31P NMR(CDCl3)(ppm)
24.43ppmできピーク(ジアステレオ異性体が主成分、85%)
24.15ppmでのピーク(ジアステレオ異性体がマイナー成分、15%)
【0056】
(c)PCL−SG1を用いて開始したn−ブチルアクリレートの重合
n−ブチルアクリレートを入れた三口丸底フラスコにマクロ重合開始剤PCL−SG1を導入する。tert-ブチルベンゼン(t−BuBz)およびt−BuBzで調製したSG1溶液(マクロ重合開始剤に対して10mol%のSG1に対応)を三口丸底フラスコに添加する。反応系に20分間窒素を吹き込んで脱酸素した後、120℃に加熱する(温度ランプ20分間)。2時間30分の反応後に加熱を止めることによって反応を停止し、丸底フラスコを氷水浴中に浸漬する。媒体を真空下で最大限再濃縮した後、低温メタノールから直接沈殿させる。こうしてPCL−b−PBAジブロックコポリマーの沈殿物が得られる。続いて、コポリマーを濾過し、メタノールで洗浄し、真空ラインで乾燥する。Mn(PCL)=10,000g.mol-1およびMn(PBA)=20,000g.mol-1のジブロックコポリマーの外観は粘着性でわずかに半透明の固体である。
得られたコポリマーは下記式に対応する:
【0057】
【化14】

【0058】
このコポリマーを以下、PCL−b−PBA−SG1とよぶことにする。
この段階は完全に制御され、リビング性があり、下記(1)〜(4)が満たされる:
(1)1n(M0/M)は時間(t)に対して線形である(M0はt0でのコポリマーのモル質量、Mは時間tでのコポリマーのモル質量)、
(2)Mnは線形に変化し、変換率とともに増加する、
(3)PCL−b−PBA−SG1コポリマーのPI(多分散度指数)は出発材料として用いた市販のPCLのPIに等しい(これはPIが増加しないことを意味する)、
(4)コポリマーの鎖末端でのSG1の%(換言すればリビング鎖量)は85%以上である。
【0059】
NMR結果は以下の通り:
【化15】

【0060】
31P NMR(CDCl3)(ppm)
24.7ppmに大きなピーク
24.23ppmに大きなピーク。
【0061】
(d)PCL−b−PBA−SG1コポリマーを用いたメチルメタクリレートの重合
三口丸底フラスコにPCL−b−PBA−SG1コポリマー、メチルメタクリレート(所望の理論的モル質量は450,000g.mol-1である)およびt−BuBzを導入する。反応系に20分間窒素を吹き込んで脱酸素した後、100℃に加熱する(温度勾配15分間)。1時間反応させた後に反応を停止する。媒体をTHFに希釈した後、低温メタノールから沈殿させる。得られたポリマーをガラス濾過器で濾過し、メタノールで洗浄し、真空ラインで乾燥する。得られたターポリマーはフィラメント状の白色固体の外観である。
【0062】
【化16】

【0063】
n、xおよびyは括弧に入れた反復単位の数に対応する。
NMR結果は以下の通り:
【化17】

【0064】
[表1]は上記プロセスで得られた3つのサンプルを示す:
(1)PCL(ポリカプロラクトンブロックに対応)、
(2)PBA(ポリ(n−ブチルアクリレート)ブロックに対応)、
(3)PMMA(ポリ(メチルメタクリレート)ブロックに対応)、
(4)PI(多分散度指数に対応)
【0065】
【表1】

【0066】
この[表1]から、本発明方法は制御された特性を有し、本発明方法ではPI=1.7を有するポリカプロラクトンから始まる多分散度指数は増加しないことがわかる。
上記コポリマーはポリメチルメタクリレートの機械強度の改良に極めて有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の段階を含む、半結晶および/または加水分解なブロックとエラストマーブロックと非晶質ブロックとを含むトリブロックコポリマーの製造方法:
(a)半結晶および/または加水分解なポリマーの末端エチレン基に下記式(I)に対応するアルコキシアミンを1,2−付加する段階:
【化1】

(ここで、
1とR3は炭素原子数が1〜3の直鎖または分岐鎖のアルキル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、
2は水素原子、Li、NaまたはKのようなアルカリ金属、NH4+、NBu4+またはNHBu3+のようなアンモニウムイオン、炭素原子数が1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはフェニル基を表す)
(b)半結晶および/または加水分解ブロック−b−エラストマーブロックジブロックコポリマーを得るのに十分な時間、(a)段階で得られた媒体をエラストマーブロックの一種または複数の前駆体モノマーと接触させる段階、
(c)半結晶および/または加水分解ブロック−b−エラストマーブロック−b−非晶質ブロックトリブロックコポリマ一種または複数の前駆体モノマーと接触させる段階。
【請求項2】
上記の末端エチレン基を有する半結晶および/または加水分解なポリマーがポリカプロラクトン、ポリラクチド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンオキシドおよびポリアミドの中から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
半結晶および/または加水分解なポリマー(出発材料の半結晶および/または加水分解なポリマー)を官能化して、末端エチレン基を導入する段階を(a)段階の前にさらに有する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
出発材料の半結晶および/または加水分解なポリマーがω−ヒドロキシル化ポリカプロラクトンである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
(a)段階で用いるアルコキシアミンが下記式(II)に対応する請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法:
【化2】

【請求項6】
(a)段階で導入されるアルコキシアミンの比率が半結晶および/または加水分解なポリマーの重量に対して0.5〜80重量%である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(b)段階で導入されるエラストマーブロックの前駆体モノマーがアルキルアクリレートまたはジエンの中から選択される請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(b)段階で、エラストマーブロックを構成するためのモノマーの他に、下記式に対応する制御剤とこの制御剤の溶媒とを含む溶液をさらに添加する請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法:
【化3】

【請求項9】
(c)段階で導入される非晶質ブロックの前駆体モノマーがアルキルメタクリレート、スチレン、アクリル酸、アルキルメタクリルアミドまたは酢酸ビニルの中から選択される請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
半結晶および/または加水分解なブロックがポリカプロラクトンブロックであり、エラストマーブロックがポリ(n−ブチルアクリレート)ブロックであり、非晶質ブロックがポリ(メチルメタクリレート)ブロックである請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法で得られたトリブロックコポリマー。
【請求項12】
非晶質、熱硬化性または半結晶ポリマーから成るマトリクスのための衝撃改質剤としての請求項11に記載のコポリマーの使用。
【請求項13】
非晶質、熱硬化性または半結晶ポリマーから成るマトリクスと、請求項11に記載のトリブロックコポリマーとを含む複合材料。
【請求項14】
非晶質、熱硬化性または半結晶ポリマーから成るマトリクスが非晶質ポリマーから成る請求項13に記載の複合材料。
【請求項15】
マトリクスがポリメチルメタクリレートから成る請求項13または14に記載の複合材料。
【請求項16】
請求項11に記載のコポリマーのナノ多孔性フィルムの成膜での使用。
【請求項17】
請求項11に記載のコポリマーの防汚塗料成分としての使用。
【請求項18】
ポリマーマトリクスの衝撃特性および/または耐衝撃特性および/または機械強度特性を向上させるための請求項11に記載のコポリマーの使用。

【公表番号】特表2010−504388(P2010−504388A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528714(P2009−528714)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059913
【国際公開番号】WO2008/034849
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】